特許第6207001号(P6207001)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6207001
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】植物育成促進システム
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/04 20060101AFI20170925BHJP
【FI】
   A01G7/04 A
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-531915(P2017-531915)
(86)(22)【出願日】2017年3月23日
(86)【国際出願番号】JP2017011687
【審査請求日】2017年6月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517203626
【氏名又は名称】eアグリテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143111
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】山元和徳
【審査官】 竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/121895(WO,A1)
【文献】 特開昭63−98319(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3197210(JP,U)
【文献】 特開2002−17164(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0096454(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/04
H02M 7/00−7/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子を発生させる電子発生手段と、植物育成地に電子を放散させる電子放散手段とを含んだ植物育成促進システムであって、
前記植物育成地は、電気的に接地された状態とされ、
前記電子発生手段は、1次側回路に入力される交流電力を高圧に変圧させて2次側回路から出力させる変圧回路を有し、前記2次側回路の第1の端子が前記1次側回路に接続されると共に、前記2次側回路の第2の端子が前記電子放散手段に接続され、前記交流電力の正負の反転周期に応じて、第1の端子が正の電位となっている状態では第2の端子から前記電子放散手段に向かう電流を遮断させ、第1の端子が負の電位となっている状態では第1の端子から前記1次側回路に電流を還流させることにより、
第1の端子が負の電位となっている状態のみに、前記反転周期に応じて周期的に、第2の端子から前記電子放散手段に前記電子が伝達され、
前記電子放散手段は、前記植物育成地に接地される電子放散部を有する電子伝達部を含み、
前記電子伝達部が、長く筋状に延びてなり、
前記電子放散部が、筋状に長く延びて前記植物育成地に連続して接地され、
前記電子のみを前記電子放散部に沿って放散させて、植物の育成を促進させる、
ことを特徴とする植物育成促進システム。
【請求項2】
電子を発生させる電子発生手段と、植物育成地に電子を放散させる電子放散手段とを含んだ植物育成促進システムであって、
前記植物育成地は、電気的に接地された状態とされ、
前記電子発生手段は、1次側回路に入力される交流電力を高圧に変圧させて2次側回路から出力させる変圧回路を有し、前記2次側回路の第1の端子が前記1次側回路に接続されると共に、前記2次側回路の第2の端子が前記電子放散手段に接続され、前記交流電力の正負の反転周期に応じて、第1の端子が正の電位となっている状態では第2の端子から前記電子放散手段に向かう電流を遮断させ、第1の端子が負の電位となっている状態では第1の端子から前記1次側回路に電流を還流させることにより、
第1の端子が負の電位となっている状態のみに、前記反転周期に応じて周期的に、第2の端子から前記電子放散手段に前記電子が伝達され、
前記電子放散手段は、前記植物育成地に接地される電子放散部を有する電子伝達部を含み、
前記電子伝達部が、長く筋状に延びてなり、
前記電子放散部が、前記電子伝達部の複数の箇所に分散して設けられて前記植物育成地に接地され、
前記電子のみを前記電子放散部から分散させて放散させて、植物の育成を促進させる、
ことを特徴とする植物育成促進システム。
【請求項3】
前記電子伝達部は、延びる方向に分割可能とされ、
分割された各々の電子伝達部には、連結手段と、連結解除手段が備えられ、
前記連結手段は、前記電子を伝達させるように、前記分割された各々の電子伝達部を連結可能とさせ、
前記連結解除手段は、解除操作がされた際に、前記分割された各々の電子放散部の連結を解除可能とさせる、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の植物育成促進システム。
【請求項4】
前記電子伝達部が、複数に枝分かれされると共に、枝分かれされた電子伝達部が並んで配設されている、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の植物育成促進システム。
【請求項5】
前記枝分かれされた電子伝達部と交差するように、筋状に第2の電子伝達部が延び、
前記枝分かれされた電子伝達部と第2の電子伝達部とが、前記電子を伝達させる状態とされている、
ことを特徴とする請求項4に記載の植物育成促進システム。
【請求項6】
前記電子発生手段が複数含まれ、その各々が前記電子伝達部の離れた位置に接続されている、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の植物育成促進システム。
【請求項7】
太陽光発電装置と、電力変換手段とを含み、
前記太陽光発電装置により直流電力を発電させ、
前記電力変換手段により前記直流電力を交流電力に変換させ、前記1次側回路に供給される交流電力としている、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の植物育成促進システム。
【請求項8】
電子を発生させる電子発生手段と、植物育成地に電子を放散させる電子放散手段と、太陽光発電装置と、電力変換手段とを含んだ植物育成促進システムであって、
前記植物育成地は、電気的に接地された状態とされ、
前記電子発生手段は、1次側回路に入力される交流電力を高圧に変圧させて2次側回路から出力させる変圧回路を有し、前記2次側回路の第1の端子が前記1次側回路に接続されると共に、前記2次側回路の第2の端子が前記電子放散手段に接続され、前記交流電力の正負の反転周期に応じて、第1の端子が正の電位となっている状態では第2の端子から前記電子放散手段に向かう電流を遮断させ、第1の端子が負の電位となっている状態では第1の端子から前記1次側回路に電流を還流させることにより、
第1の端子が負の電位となっている状態のみに、前記反転周期に応じて周期的に、第2の端子から前記電子放散手段に前記電子が伝達される電子放散手段であって、
前記太陽光発電装置は、直流電力を発電させ、
前記直流電力を前記電力変換手段により交流に変換させた交流電力のみを、1次側回路に入力される交流電力とし、
前記電子放散手段は、前記植物育成地に接地される電子放散部を含み、
前記電子放散部の外縁が環をなすように形成され、前記電子放散部が接地された場所の周りに、環状に前記電子を放散させて植物の育成を促進させる、
ことを特徴とする植物育成促進システム。
【請求項9】
前記植物育成促進システムが、土壌性状検出手段と、記憶手段と、電子放散量調整手段とを含み、
前記土壌性状検出手段は、植物育成地のEC値と土壌温度の少なくともいずれかの土壌性状値を検出させ、
前記記憶手段には、予め育成させる植物に適合される想定土壌性状値の範囲が記憶されていると共に、前記土壌性状値と、電子の放散量とが記憶され、
前記土壌性状値が、前記想定土壌性状値の範囲となるように、前記電子放散量調整手段により、前記電子放散部から放散される電子の放散量を調整させることが可能とされている、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の植物育成促進システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業員に安全であると共に、植物育成地が広い場合にも適用できる植物育成促進システムに関する。具体的には、植物育成地に電子を放散させて、植物の収穫量の増大や品質を向上させることができる植物育成促進システムに関する。より詳細には、商用電源を引き込まなくても適用可能であると共に、植物の種類、育成土壌・季節・気温・日照時間等の植物育成環境に応じて、過去の育成実績を反映させて電子の放散量を調整することができる植物育成促進システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から「雷の多い年は稲が豊作である」といわれている。雷が多く発生すると、空気中に窒素酸化物ができることが要因であるともいわれている。これまでも、植物の成長促進のために植物に電気処理をする複数の技術が開示されている。
【0003】
特許文献1には、茸の菌糸を培養させた茸栽培体に火花放電を発生させて茸の育成を促進させる技術が開示されている。特許文献1のように火花放電を発生させる技術は、作業員が火花放電により危険にさらされるため、放電の対象植物が限定されるだけでなく、育成環境も限定され、広い育成地において適用できないという課題があった。
【0004】
特許文献2には、連作障害の発生を防止することを課題として、作物の育成土壌を挟んで正・負の電極を埋設させ、2つの電極の間に通電をし、植物の連作障害を防止させる技術が開示されている。特許文献2に記載の技術によれば、2つの電極の間に弱直流電流を印加させることにより、土壌中に含まれる植物の育成を阻害する無機塩類を分解してイオン化させ、正イオン・負イオンとなった無機塩類を各々の電極の周辺に集積させている。そして、集積された夫々の無機塩類を除去させている。
【0005】
特許文献2に記載の技術は、作物の育成土壌において、負極と正極との間に直流電流を印加させる技術であり、直流電流を印加させる効果は、負極と正極との間の狭い範囲だけに限定されることになる。また、2つの電極の間に、一方向に向かう直流電流を、数か月間に亘って流し続けると、電気分解の一種である電食により電極が腐食し、電極の交換が必要となるという可能性があった。そのために、広い植物育成地に継続して適用することが困難であるという課題があった。
【0006】
特許文献3には、鉢と地面とを絶縁シートにより電気的に絶縁させておき、鉢に植えた植物の近傍に一方の電極を埋設し、他方の電極を鉢の近傍の地面に埋設させ、鉢に埋設した電極から植物に高電圧を印加させる技術が開示されている。特許文献3の技術においては、直流又は交流が限定されず適用されている。ところが、交流の高電圧によった場合には、正の電極からは植物や機器に有害であるオゾンが発生するため、鉢に植えた植物を育成できないという課題があった。
【0007】
特許文献4には、苗床等で育成される植物に向けて、マイナスイオンを照射して植物の育成を促進させる技術が開示されている。特許文献4に記載の技術は、針電極を負電極とし、複数の開孔部を有する導電性樹脂を正電極とし、負電極から正電極に向けて、極めて弱いコロナ放電を発生させている。これにより、機器にも有害であり且つ植物の成長を阻害するオゾンを発生させることなく、マイナスイオンを大量に発生させることができるとされている。
【0008】
しかし、特許文献4に記載の技術は、マイナスイオンを発生させるマイナスイオンモジュールと、植物との対向間距離を変更可能とする装置が必要とされている。広い植物育成地の全域を覆うようにマイナスイオンモジュールを配設することが困難であるため、広い植物育成地には適用できないという課題があった。
【0009】
特許文献5には、大地と電気的に絶縁されたプランターの土壌に植えた植物の育成を促進させる技術が開示されている。特許文献5に記載の技術は、プランターの土壌に負電極を埋設させ、負電極から印加された直流負電圧を大地に拡散させないようにし、植物に直流負電圧を印加させている。これにより、直流負電圧を植物に集中的に印加することができるとされている。
【0010】
特許文献5に記載の技術によれば、交流電圧を昇圧させてから、整流回路により直流電圧に変換させている。直流電圧に変換させる際には、交流電圧の正弦波波形を平坦に均し、昇圧させた交流電圧を平滑化させている。そのため、整流後に所定の高圧の直流電圧を得るためには、整流前の高電圧を、整流後の電圧よりも高い電圧に変換しておく必要がある。整流の際に電力ロスが発生し効率が悪いために、広い植物育成地に適用が困難であるという課題があった。
【0011】
特許文献6には、電子発生装置により発生させた電子を土壌に放散させて、土壌環境を改善させる技術が開示されている。特許文献6に記載の技術によれば、電子を土壌に放散させることにより、植物の育成を阻害させる大腸菌等が減少すると共に、植物の育成を促進させる好気性細菌が増加するとされている。
【0012】
しかし、特許文献6に記載の棒状とされた電子放電部によっては、広い範囲の植物育成地に電子の効果を効果的に及ぼすことが困難であり、広い範囲に電子を効果的に拡散させることができる植物育成促進システムの技術を提供することが課題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
特許文献1:特開2012−00054号公報
特許文献2:実開平02−57346号公報
特許文献3:特開2006−101771号公報
特許文献4:特開2005−58033号公報
特許文献5:特開2002−17164号公報
特許文献6:実登3197210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで本願の発明者は、作業員に安全であると共に、植物育成地が広い場合にも適用できる植物育成促進システムを提供することを課題とした。具体的には、植物育成地に電子を効果的に放散して、植物の収穫量の増大や品質を向上させることができる植物育成促進システムであり、更には、商用電源を引き込まなくても適用可能であると共に、植物の種類、育成土壌・季節・気温・日照時間等の植物育成環境に応じて、過去の育成実績を反映させて電子の放散量を調整することができる植物育成促進システムを提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の発明の植物育成促進システムは、電子を発生させる電子発生手段と、植物育成地に電子を放散させる電子放散手段とを含んだ植物育成促進システムであって、前記植物育成地は、電気的に接地された状態とされ、前記電子発生手段は、1次側回路に入力される交流電力を高圧に変圧させて2次側回路から出力させる変圧回路を有し、前記2次側回路の第1の端子が前記1次側回路に接続されると共に、前記2次側回路の第2の端子が前記電子放散手段に接続され、前記交流電力の正負の反転周期に応じて、第1の端子が正の電位となっている状態では第2の端子から前記電子放散手段に向かう電流を遮断させ、第1の端子が負の電位となっている状態では第1の端子から前記1次側回路に電流を還流させることにより、第1の端子が負の電位となっている状態のみに、前記反転周期に応じて周期的に、第2の端子から前記電子放散手段に前記電子が伝達され、前記電子放散手段は、前記植物育成地に接地される電子放散部を有する電子伝達部を含み、前記電子伝達部が、長く筋状に延びてなり、前記電子放散部が、筋状に長く延びて前記植物育成地に連続して接地され、前記電子のみを前記電子放散部に沿って放散させて、植物の育成を促進させることを特徴としている。
【0016】
植物育成地が電気的に接地された状態とは、植物育成地が大地と一体をなしている場合に限定されず、大地と絶縁されたプランターの土壌が導電線により大地と接地されている場合を含んでいる。なお、植物育成地の種類・大きさは限定されず、例えば、畑、水田、牧草地であってもよく、植物工場内のプランターであってもよい。
【0017】
電子発生手段は、変圧回路において、2次側回路の第1の端子を1次側回路に接続させて、第1の端子が負の電位となっている状態のみに、第1の端子から1次側回路に電流を還流させて、2次側回路の第2の端子に電子を発生させ、電子放散手段に向けて供給させている。そして、交流電力の反転周期に応じて、第1の端子が負の電位となっている状態のみに、筋状に延びた電子放散部から、その周囲の植物育成地に、方向を限定しないで電子を放散させている。電子発生手段自体は、変圧回路が収容できる大きさであれば足り、大きな装置とならないため、移動させることも容易である。
【0018】
第1の端子が正の電位となるタイミングでは、電子放散手段に向かう電流が遮断されるため、2次側回路に高電圧が発生されても、2次側回路に接続されている電子放散部にはオゾンが発生されない。また、第1の端子自体は1次側回路に接続されているため、第1の端子においてもオゾンは発生されない。第1の端子、第2の端子のいずれの側からも機器にも有害であり且つ植物の成長を阻害するオゾンが発生されない。これにより、広い植物育成地において長期間に亘って電子を放散させることができる。なお、具体的な変圧回路の構成については、後述する実施例において説明する。
【0019】
2次側に発生される交流電力の電圧値・電流値は限定されないが、高電圧・低電流とすると好適である。例えば、商用交流電源を、変圧回路により電圧値を50倍に昇圧させると、電流値が1/50となる。電流値が1/50となることにより、電子伝達部において消耗される電力量は1/2500に低減し、効率的に電子を伝達させることができる。また、第2の端子と電子伝達部との間に、大きな電流制限抵抗を接続させ、電子放散部側における電流の値を小さな値とすることにより、作業員が安全に作業をすることができる。
【0020】
例えば、人体が電流を感知できる最小感知電流値は1mA以上とされていることから、電子放散部における電流の値を1mA以下の小さな電流値としておけば、人体が感知できない程度の小さな電流値となり好適である。また、電子放散部における電圧値は、一般生活環境において発生される静電気と同程度、例えば約3000〜5000Vとするとよい。この電流・電圧の電気条件であれば、作業員が作業中に直接に電子放散部に触れない限り、電流が流れたことを感知することも、静電気程度の痛みを感じることもなく、安全に作業をすることができる。
【0021】
また、放散される電子の量を、植物の育成促進を図ることができる範囲の小さな値とすることにより、小さな電力で電子を発生させることが可能で、作業員に安全な状態で、植物育成地が広い場合においても、経済的に育成促進効果を及ぼすことができるという有利な効果を奏する。
【0022】
電源は商用交流電源に限定されず、直流を変換した交流電力を電源としてもよい。具体的には、インバータ回路といわれる直流を交流に変換させる電力変換手段により、太陽光や風力等の自然エネルギーから取得した直流又は蓄電装置からの直流を交流に変換し、それを電源としてもよい。太陽光発電装置等の自然エネルギーが利用された発電装置によれば、商用電源の供給基地から離れた広い植物育成地であっても、植物育成促進システムの導入が容易となり好適である。また、太陽光発電装置等と蓄電装置を併用してもよいことは勿論のことである。植物を育成させるには太陽光が必要であるため、自然エネルギーを利用した発電装置は太陽光発電装置が好適であるが限定されない。
【0023】
電子伝達部が筋状に延びるとは、直線状に延びて配線される場合に限定されない。例えば、電子伝達部を分岐させてもよく、環状をなすようにしてもよく、並ぶように配線させてもよい。電子伝達部の長さは限定されず、植物育成地の規模に応じて選定されればよい。電子伝達部の長さを、例えば3mとすれば、家庭菜園等の小規模植物育成地において、電子伝達部の配線を絡ませにくい。一方、植物育成地が大規模である場合には、育成面積に応じた長さとし、複数本の電子伝達部を連結させてもよいことは勿論のことである。また、電子伝達部を電子発生手段と分離可能とし、一つの電子発生手段を異なった複数の箇所の電子伝達部に、順に連結・分離をさせるようにして、複数の箇所に所定の時間の間、電子を放散させるようにしてもよい。
【0024】
電子放散部は、筋状に長く伸び、植物育成地に連続して接地されて、電子放散部に沿って、電子放散部の周囲に、広く効果的に電子を拡散させる。従来技術のように、陰極から陽極に向けて電気を流す技術とは異なり、電子は電子放散部から周囲に放散される。植物を育成させる植え付けレイアウト、例えば畝の間隔に応じて、電子放散部を適宜接地させればよい。電子伝達部の一部を電子放散部としないで、その部分を地上に露出させて目印としておけば、電子放散部を引っ掛けないように作業することが容易となる。
【0025】
また、電子放散部を接地させる深さは限定されず、植物の根等に干渉しない深さに埋め込むようにすればよい。植物育成地の表面に接するように、電子放散部を転ばせておいてもよいことは勿論のことである。植え付けレイアウトに適すると共に、農作作業が容易であるように接地させればよい。電子放散部の材質は限定されないが、ステンレス鋼からなるワイヤーとしておけば錆びることがなく、農作作業しない季節には巻き取って収容しておくことにより、長年に亘って繰り返し使用しやすく好適である。
【0026】
本発明の第1の発明によれば、植物育成地が広い場合であっても、効果的に電子を放散させて、植物育成地の植物に電子の効果を及ぼして、植物の育成促進を図ることができるという有利な効果を奏する。また、小さな電力により電子を発生させれば、安全且つ経済的に、継続して土壌に電子を放散させ続けることが可能である。
【0027】
本発明の第2の発明の植物育成促進システムは、電子を発生させる電子発生手段と、植物育成地に電子を放散させる電子放散手段とを含んだ植物育成促進システムであって、前記植物育成地は、電気的に接地された状態とされ、前記電子発生手段は、1次側回路に入力される交流電力を高圧に変圧させて2次側回路から出力させる変圧回路を有し、前記2次側回路の第1の端子が前記1次側回路に接続されると共に、前記2次側回路の第2の端子が前記電子放散手段に接続され、前記交流電力の正負の反転周期に応じて、第1の端子が正の電位となっている状態では第2の端子から前記電子放散手段に向かう電流を遮断させ、第1の端子が負の電位となっている状態では第1の端子から前記1次側回路に電流を還流させることにより、第1の端子が負の電位となっている状態のみに、前記反転周期に応じて周期的に、第2の端子から前記電子放散手段に前記電子が伝達され、前記電子放散手段は、前記植物育成地に接地される電子放散部を有する電子伝達部を含み、前記電子伝達部が、長く筋状に延びてなり、前記電子放散部が、前記電子伝達部の複数の箇所に分散して設けられて前記植物育成地に接地され、前記電子のみを前記電子放散部から分散させて放散させて、植物の育成を促進させることを特徴としている。
【0028】
第2の発明においては、電子伝達部が長く延び、電子放散部が電子伝達部の複数の箇所に分散して設けられて接地され、各々の電子放散部から電子のみを放散させている。電子放散部が分散されているため、電子が各々の電子放散部から広く周囲に放散され、広い植物育成地に均等に電子を放散させることが容易である。また、各々の電子放散部に棒体を付設させておけば、植物が植え付けられている植物育成地や、植物プラントに分散されたプランターに、新たに植物育成促進システムを導入する場合であっても、棒体を挿し込むだけで、簡単に植物育成促進システムを導入することができる。
【0029】
また、長く筋状に延びた電子伝達部の分散した箇所に、電子放散部が設けられているため、電子伝達部をたるませて、電子放散部を設置させる間隔を変えることが可能である。電子放散部の形態は、植物育成地の土壌の性状、植え付けレイアウト等に応じて適宜選択されればよく、軸体、板体であってもよく、電子伝達部の被覆が露出された状態であってもよい。第2の発明によれば、植物の植え付けレイアウト等に適した状態で電子放散部を接地させることが容易であるという有利な効果を奏する。
【0030】
本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明の植物育成促進システムであって、前記電子伝達部は、延びる方向に分割可能とされ、分割された各々の電子伝達部には、連結手段と、連結解除手段が備えられ、前記連結手段は、前記電子を伝達させるように、前記分割された各々の電子伝達部を連結可能とさせ、前記連結解除手段は、解除操作がされた際に、前記分割された各々の電子放散部の連結を解除可能とさせることを特徴としている。
【0031】
ここで、延びる方向とは、線状に繋がって延びる方向に限定されず、分岐部において分岐されて延びる方向を含んでいる。連結手段の一例を示すと、連結手段は、連結部における一方の電子伝達部をなす導電線の端部に雄型プラグを装着させ、他方の電子伝達部をなす導電線の端部に雌型ソケットを装着させたもので、電子を伝達可能に連結させるようにすればよい。連結解除手段としては、雄型プラグと雌型ソケットの端部周面に形成させた雄らせん溝と、円筒体の内面に形成させた雌らせん溝であればよい。
【0032】
雄型プラグと雌型ソケットの端部周面の雄らせん溝に、円筒体の雌らせん溝を螺合させて、連結状態とし、円筒体を軸動させ、螺合を解除させる操作がされた際に、連結が解除される。前記、連結手段よれば、連結及び連結解除とも容易であり好適である。なお、連結手段、連結解除手段とも、前記の例に限定されず、例えば電子伝達部の連結部を、孔を有する板体としておき、重ねた板体の孔にボルトを通してナットを締めて連結させ、連結解除する際にはナットを外してボルトを抜いて、連結を解除するようにしてもよいことは勿論のことである。
【0033】
植物育成地が家庭菜園等のように狭い場合には、電子伝達部を連結部で切り離して、その長さを短くし、電子伝達部の余長が邪魔にならないようにできる。植物育成地が大規模農場等のように広い場合には、電子伝達部を連結部で連結して、その長さを長くして、広い区域に電子を放散可能にすることができる。また、植物育成地の中を移動する作業員、飼育している動物、侵入した野生の動物等が電子伝達部に脚を引っ掛けても、連結解除手段の解除操作がされていない場合には電子伝達部が分断されることがない。第3の発明によれば、植物育成地の広さに適合した適切な長さの電子伝達部が配設できるとともに、電子伝達部が分断されにくく植物育成促進システムの機能が阻害されにくい。
【0034】
本発明の第4の発明は、第1から第3の発明の植物育成促進システムであって、前記電子伝達部が、複数に枝分かれされると共に、枝分かれされた電子伝達部が並んで配設されていることを特徴としている。例えば、複数の畝において植物が育成されている場合に、畝ごとに、畝一本おきごとに、畝が延びる方向に沿って電子伝達部を並べるように接地させれば、畝に沿って効率的に電子を放散させることができる。電子伝達部を並べて接地させることにより、植物育成地が広い場合であっても、植物育成地全体に効果的に電子を放散させることができる。
【0035】
本発明の第5の発明は、第4の発明の植物育成促進システムであって、前記枝分かれされた電子伝達部と交差するように、筋状に第2の電子伝達部が延び、前記枝分かれされた電子伝達部と第2の電子伝達部とが電気的に接続された状態とされていることを特徴としている。枝分かれした電子伝達部が、筋状をなす第2の電子伝達部に電気的に接続され、電子伝達部が植物育成地を囲むようにされている。植物育成地が、牧草地等の広大な植物育成地である場合には、交差する方向の2つの電子伝達部を網状にして、植物育成地の全体に電子の効果が及ぶようにすることができる。第5の発明によれば、植物育成地が広大であっても、全体的に均等に電子を放散させることが容易である。
【0036】
本発明の第6の発明は、第1から第5の発明の植物育成促進システムであって、前記電子発生手段が複数含まれ、その各々が前記電子伝達部の離れた位置に接続されていることを特徴としている。複数の電子発生手段が、電子伝達部の離れた位置に接続されているため、その中間の位置の電子放散部には、両側から電子が伝達され減衰による影響が小さくなり、必要な量の電子を放散することができる。第6の発明によれば、大規模農業に適合した植物育成促進システムとすることができる。
【0037】
本発明の第7の発明は、第1から第6の発明の植物育成促進システムであって、太陽光発電装置と、電力変換手段とを含み、前記太陽光発電装置により直流電力を発電させ、前記電力変換手段により前記直流電力を交流電力に変換させ、前記1次側回路に供給される交流電力としていることを特徴としている。
【0038】
太陽光発電装置により発電させた直流電力を、インバータ回路により交流電力に変換させ、電子発生手段の1次側回路に供給している。太陽光発電装置により発電させた電力だけを電源とすれば、商用電力の供給基地から遠い場合であっても、商用電力を引き込まなくても、植物育成促進システムを導入することができる。
【0039】
本発明の第8の発明の植物育成促進システムは、電子を発生させる電子発生手段と、植物育成地に電子を放散させる電子放散手段と、太陽光発電装置と、電力変換手段とを含んだ植物育成促進システムであって、前記植物育成地は、電気的に接地された状態とされ、前記電子発生手段は、1次側回路に入力される交流電力を高圧に変圧させて2次側回路から出力させる変圧回路を有し、前記2次側回路の第1の端子が前記1次側回路に接続されると共に、前記2次側回路の第2の端子が前記電子放散手段に接続され、前記交流電力の正負の反転周期に応じて、第1の端子が正の電位となっている状態では第2の端子から前記電子放散手段に向かう電流を遮断させ、第1の端子が負の電位となっている状態では第1の端子から前記1次側回路に電流を還流させることにより、第1の端子が負の電位となっている状態のみに、前記反転周期に応じて周期的に、第2の端子から前記電子放散手段に前記電子が伝達される電子放散手段であって、前記太陽光発電装置は、直流電力を発電させ、前記直流電力を前記電力変換手段により交流に変換させた交流電力のみを、前記交流電力とし、前記電子放散手段は、前記植物育成地に接地される電子放散部を含み、前記電子放散部の外縁が環をなすように形成され、前記電子放散部が接地された場所の周りに、環状に前記電子を放散させて植物の育成を促進させることを特徴としている。
【0040】
植物育成促進システムが、外部の商用電源から独立され、外部から交流電力を引き込む導電線が必要でないことにより、電子放散部を固定したままで、植物育成促進システムの周囲において、大型農業機械を走行させて植物の育成促進を図ることが可能となる。植物育成地が広大である場合には、複数の独立した植物育成促進システムを分散させて設ければよい。電子放散部の外縁が環をなすとは、盤を電子放散部としてその周囲を電子放散部としてもよく、筋状の電子放散部を、環状をなすように配設させてもよい。
【0041】
本発明の第9の発明は、第1から第8の発明の前記植物育成促進システムであって、前記植物育成促進システムが、土壌性状検出手段と、記憶手段と、電子放散量調整手段とを含み、前記土壌性状検出手段は、植物育成地のEC値と土壌温度の少なくともいずれかの土壌性状値を検出させ、前記記憶手段には、予め育成させる植物に適合される想定土壌性状値の範囲が記憶されていると共に、前記土壌性状値と、電子の放散量とが記憶され、前記土壌性状値が、前記想定土壌性状値の範囲となるように、前記電子放散量調整手段により、前記電子放散部から放散される電子の放散量を調整させることが可能とされていることを特徴としている。
【0042】
土壌性状検出手段は、EC値と土壌温度の少なくとも一方の土壌性状値を検出できればよい。記憶手段には、予め育成させる植物に適合する想定土壌性状値の範囲を記憶させておき、想定土壌性状値と検出させた土壌性状値とを比較し、検出させた土壌性状値が想定土壌性状値の範囲を外れている場合には、記憶させた電子の放散量を評価し、適正値に収まるように電子の放散量を変化させればよい。
【0043】
植物の育成には、長期間の育成期間が必要であると共に、植物の種類・土壌等に応じて、長期間に亘る育成記録を評価する必要がある。第9の発明によれば、長期間に亘って、記憶・蓄積された電子の放散量と、植物の種類や土壌などに応じた土壌性状値との関係から、適切な電子放散量を把握し、電子の放散量が調整可能とされる。土壌性状値を、過去において豊作とされた時期の想定土壌性状値の範囲とすることにより、より収穫量の向上や品質の向上を図ることができる植物育成促進システムとすることができる。
【0044】
EC値とは、土壌における電気導電率を示す値であり、土壌に含まれる硝酸態窒素濃度に密接な関連性がある値である。硝酸態窒素の濃度を検出させることは困難であるため、簡易に検出することが可能なEC値を検出して、追肥等の育成管理が行われている。電子を植物育成地に放散させると、電子の効果により硝酸態窒素濃度が上昇することが検証されている。土壌性状が植物の種類に適合したEC値の範囲となるように、電子放散量を調整させることにより、窒素肥料の使用量を低減させられると共に、植物が育成される最適な環境とすることができる。
【0045】
また、電子を放散させると、土壌の温度も上昇することが検証されている。この原因は定かではないが、土壌中に生息する好気性細菌の数が増加され、土壌に含まれる肥料の発酵が促された結果、土壌温度の上昇に繋がったと推測される。一般的に、土壌温度が高い方が植物の育成に適しているが、土壌温度もEC値と同様に、植物の種類に応じて適正範囲があると推定される。そのため、土壌温度を検出して、育成させた植物に適合する温度となる範囲で電子を放散させることにより、収穫量の増加、品質の向上が図られる。
【0046】
また、農産物の育成は、土壌の水分含有率、土壌の性質、植物を育成させる季節、日照時間、外気温、湿度、降雨量等の様々な環境条件にも影響を受ける。そのため、同一地域・同一品種であっても、環境条件が違えば、適合するEC値、土壌温度に差異が生じることになる。そこで記憶手段に、豊作となった時期の電子の放散量が再現できるように、放散された電子の量に応じた土壌性状値を検出して記憶させておき、電子の放散量を最適化するように調整可能としている。これにより、電子による育成促進効果を更に高めることができ、収穫量の増加、品質の向上が図られる。
【発明の効果】
【0047】
・第1の発明によれば、植物育成地が広い場合であっても、効果的に電子を放散させて、植物育成地の植物に電子の効果を及ぼして、植物の育成促進を図ることができるという有利な効果を奏する。また、小さな電力により電子を発生させれば、安全且つ経済的に、継続して土壌に電子を放散させ続けることが可能である。
・第2の発明によれば、植物の植え付けレイアウト等に適した状態で電子放散部を接地させることが容易であるという有利な効果を奏する。
・第3の発明によれば、植物育成地の広さに適合した適切な長さの電子伝達部が配設できるとともに、電子伝達部が分断されにくく植物育成促進システムの機能が阻害されにくいという有利な効果を奏する。
・第4の発明によれば、電子伝達部を並べて接地させることにより、植物育成地が広い場合であっても、効果的に植物育成地全体に電子を放散させることができる。
【0048】
・第5の発明によれば、植物育成地が広大であっても、全体的に均等に電子を放散させることが容易である。
・第6の発明によれば、大規模農業に適合した植物育成促進システムとすることができる。
・第7の発明によれば、商用電力の供給基地から遠い場合であっても、商用電力を引き込まなくても、植物育成促進システムを導入することができる。
・第8の発明によれば、電子放散部を固定したままで、植物育成促進システムの周囲において、大型農業機械を使って植物の育成促進を図ることが可能となる。
・第9の発明によれば、土壌性状値を、過去において豊作とされた時期の想定土壌性状値の範囲とすることにより、より収穫量の向上や品質の向上を図ることができる植物育成促進システムとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】植物育成促進システムを説明する説明図(実施例1)。
図2】電子発生手段と電子放散手段を説明する説明図(実施例1)。
図3】植物育成促進システムを説明する説明図(実施例2)。
図4】電子放散手段の変形例を説明する説明図(実施例3)。
図5】太陽光発電装置を含んだ植物育成促進システムを説明する説明図(実施例4)。
図6】電子の放散量が調整可能とされた植物育成促進システムを説明する説明図(実施例5)。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本願の発明者は、低消費電力の電子発生手段を使って、筋状に長く延ばした電子放散部から植物育成地に電子を放散させ、又は分散させて設けた複数の電子放散部から植物育成地に電子を放散させることにより、広い植物育成地であっても安全且つ効果的に植物の育成を促進することができる植物育成促進システムとした。また、植物育成促進システムを独立したものとすることにより、電子放散部を接地させたままでも、その周囲で大型農業機械を使って植物の育成をすることができるようにした。
【0051】
最大消費電力が1W又は2Wに制限された低消費電力の電子発生手段の試験機を使って、広い植物育成地において電子を放散させる実証試験を行ったところ、収穫量の増加だけでなく、糖度・果肉密度の向上といった品質の改善も確認された。以下に、具体的な植物育成促進システムの構成と、実証試験の結果とを併せて説明する。
【実施例1】
【0052】
実施例1では、植物育成地に接地される筋状に長く延びた電子放散部を含んだ植物育成促進システム1を、図1及び図2を参照して説明する。なお、図1(A)図では、埋設された電子放散部を破線で示している。図1(B)図では、電子発生手段と電子放散手段とを、一点鎖線で囲んで示している。図2の各々の図では、電流の流れる方向及び電子の流れる方向を矢印で示している。図2(A)図では、電子が放散されている状態を波線矢印で示している。
【0053】
図1は、植物育成促進システム1を示す説明図である。図1(A)図は、植物育成促進システム1における電子放散部の配線の一例を示している。図1(B)図は、電子発生手段10及び電子放散手段40の構成を示す説明図である。図2は、電子発生手段10において電子が発生される状態を示す説明図である。図2(A)図は、電子放散部43から電子が放散されている状態を示し、図2(B)図は、電子放散部43から電子が放散されていない状態を示している。
【0054】
植物育成促進システム1は、電子を発生させる電子発生手段10と、電子発生手段により発生させた電子を植物育成地に放散させる電子放散手段40とを含んでいる(図1(B)図一点鎖線枠参照)。電子発生手段に電力を供給させる電源60は、電圧値が100Vの商用交流電源とされている。実施例1では、長さ約50m、幅約20m、面積約1000mの植物育成地に適用させた例を説明する。畝100の長さは、約50mとされ、13本の畝が並列に設けられている(図1(A)図では、畝の一部を省略している)。
【0055】
図1を参照して、電子放散手段40の構成を説明する。電子放散手段40は、植物育成地に接地される電子放散部43を有する電子伝達部41を含んでいる。電子放散部43は、複数本に分岐され、夫々の電子放散部が畝の延びる方向に沿って、畝の全長に亘って埋め込まれて植物育成地に接地されている(図1(A)図参照)。電子放散部43が埋め込まれる深さは、畝溝から10cm〜15cmの深さとされている。電子伝達部41の電子放散部以外の部分は、周囲が絶縁被覆54により覆われている(図1(B)図参照)。
【0056】
ここで、図1(B)図を参照して、電子発生手段10の構成を説明する。電子発生手段は、1次側回路に入力される交流電力を高圧に変圧させて2次側回路から出力させる変圧回路20を有している。また過電流が流れた際に機器の損傷を防止する保護回路12(公知の回路構成によればよいため、図に回路構成の一例を示し、説明を省略している)と、電子放散部側の電流を低い電流値に制限させる電流制限抵抗13とを備えている。
【0057】
変圧回路20は、保護回路12を介して電源60と接続される1次側回路21と、高圧交流電力を発生させる2次側回路31から構成される。1次側回路は、図1(B)図において上側から順に、1次側回路の第2の端子24、1次コイル22、1次側回路の第1の端子23が配置される。2次側回路は、同図において上側から順に、2次側回路の第2の端子34、ダイオード36、2次コイル32、2次側回路の第1の端子33が配置される。そして、2次側回路の第1の端子33は、接続点35において1次側回路21と接続され、2次側回路の第2の端子34は電流制限抵抗13を介して電子放散手段40と接続されている。なお、変圧回路のコイル線の巻き方により、極性が逆極性となる場合には、2次側回路の第1の端子と第2の端子を読み替えればよい。
【0058】
1次コイル22と2次コイル32との巻数比は50倍とされ、100Vの商用交流電源から1次側回路21に交流電力が入力されると、2次側回路31には5000Vの高圧交流電力が出力される。2次コイル32と2次側回路の第2の端子34との間にはダイオード36が接続され、電子放散手段40への方向にのみ電子が流れる。2次側回路の第2の端子34と電子放散手段40との間には、抵抗値が10MΩとされた電流制限抵抗13が接続されている。電流制限抵抗13の接続により、電子放散手段40への電流値を、人体が感じることのできる最小感知電流(約1mA)よりも小さい0.2mA〜1mAに制限させておくことにより、作業員の安全が確保される。
【0059】
次に、図2(A)図を参照して、2次側回路の第1の端子33が負の電位のタイミングにおける、変圧回路20における電流の向き及び電子の向きを説明する。ここでは、1次コイル22に流れる電流をI1、電子をe1で示し、2次コイル32に流れる電流をI2、電子をe2で示している。変圧回路20は、1次側回路の第2の端子24から1次側回路の第1の端子23に向けて電流I1が流れると(図2(A)図矢印I1参照)、2次側回路の第2の端子34から2次側回路の第1の端子33に向けて電流I2が流れる(図2(A)図矢印I2参照)。
【0060】
そして、2次側回路の第1の端子33と1次側回路21とが接続されていることにより、第1の端子33が負の電位となるタイミングにおいては、2次側回路に発生した電流I2が1次側回路21に還流される。2次側回路の第1の端子33と1次側回路21との接続点35から電源に向かって電流I1と電流I2とが合流して流れる(図2(A)図矢印I1+I2参照)。
【0061】
なお、電子の流れは電流の向きと逆方向に定義されている。前記の電流の流れを換言すれば、電子e1は、1次側回路の第1の端子23から1次側回路の第2の端子24に向けて流れる(図2(A)図矢印e1参照)。2次側回路31においては、2次側回路の第1の端子33から2次側回路の第2の端子34に向けて、電子e2が流れる(図2(A)図矢印e2参照)。
【0062】
2次側回路に設けられたダイオード36は、2次側回路の第2の端子34から2次側回路の第1の端子33に向かう方向にのみ電流が流れるように整流する。換言すれば、電子e2は、2次側回路の第1の端子33から第2の端子34に向かう方向に流れて電子放散手段40に供給され、電子伝達部41を経て電子放散部43から植物育成地に放散される(図2(A)図矢印e2参照)。
【0063】
図2(B)図を参照して、2次側回路の第1の端子33が正の電位のタイミングにおける、変圧回路20における電流の向き及び電子の向きを簡単に説明する。図2(B)図においては、1次コイル22に流れる電流をI3、電子をe3で示している。交流は、電圧・電流の値が周期的に反転され(図2(A)図矢印I1、図2(B)図矢印I3参照)、換言すれば電子の流れる方向も周期的に反転される(図2(A)図矢印e1、図2(B)図矢印e3参照)。2次側回路31のダイオード36により、2次側回路の第1の端子33が正の電位のタイミングにおいては、2次側回路の第1の端子33から第2の端子34に向かう電流が遮断されるため、換言すれば電子の流れも遮断される。
【0064】
これにより、交流電力の正負の反転周期に応じて、第1の端子33が負の電位となるタイミングのみに、周期的に第2の端子34から電子放散手段40(図1(B)図参照)に電子が伝達される(図2(A)図参照)。また、第1の端子33が正の電位のタイミングにおいては(図2(B)図参照)、2次側回路31に高電圧が発生されても、電子放散手段40に向かう電流が遮断されているため、電子放散部43にはオゾンが発生されない。
【0065】
2次側回路の第1の端子33自体も、1次側回路21に接続されているため、2次側回路の第1の端子33においてもオゾンは発生されない。第1の端子、第2の端子のいずれの側からも、電子発生手段をなす機器に有害であり且つ植物の成長を阻害させるオゾンが発生されないため、広い植物育成地において長期間に亘って電子を放散させることができる。
【0066】
(実証試験1)
実証試験1では、前記の電子放散手段40及び電子発生手段10を使用し、長さ約50m、幅約20m、面積約1000mの植物育成地にて果菜類に属するトマトの育成促進の実証試験を行い、1000本のトマトを植え付け、同一の植え付け条件で、電子放散をした場合と電子をしなかった場合と比較した。以下に詳細な試験条件・試験結果を示している。
【0067】
(試験環境)
実証試験を行った植物育成地は、北緯33.3度、東経131.4度、標高5mの地にある温室栽培所とした。試験期間は、2016年10月1日から同年12月31日の92日間とした。試験期間における温室栽培所外の平均気温は、15.1℃であった(最高気温30.8℃、最低気温−1.3℃)。試験期間における温室栽培所外の降水量は、275.5mm(降水日数:33日)であった。温室栽培所内においては、暖房設備により夜間8〜13℃,昼間20〜25℃の範囲で温室栽培所内の気温が管理されていた。
【0068】
(試験機仕様)
試験機の消費電力は1Wとし、使用電源は商用交流電源100V,60Hzを使用した。1次側交流電力の電圧値は100V、電流値は10mAとした。1次コイルと2次コイルとの巻数比は50倍として、2次側の交流電力の電圧値を5000V、電流値を0.2mAとした。試験期間を通して通電し続け、電力の総使用量は1W×24h×92日=2.28kWhであった。1kWhあたり20円とすると合計で約50円の電気料金であった。
【0069】
電子放散部43は、50mのワイヤーを13本使用し、合計650mとした。また、夫々のワイヤーの配線間隔は、畝にあわせて1.5m間隔とした。ワイヤーの種類は、直径2mmのステンレス鋼製のワイヤーとした。ワイヤーの埋設位置は、畝の全長に沿って、溝底から深さ10〜15cmの位置の深さとした。電子を放散した場合と電子を放散しなかった場合の収穫量等を表1に示す。電子放散をしなかった場合のデータは、試験協力先の農家における直近10年間の記録に基づいた。なお、平均糖度については、温室栽培所内の日照条件の異なる3箇所(東端・中央・西端)で各3個を採取し、平均値を検証した。
【0070】
電子を放散した場合を、電子を放散しなかった場合と比較して、実証試験1の結果を以下の表1に示す。収穫量は重量比で50%増加した。平均糖度は40%向上した。未成熟等による規格外品の発生率が25%から3%に減少した。連作障害による青枯れの発生率は30%〜50%から3%に減少した。その他の病害(ウィルス・細菌等による病害)の発生率も30%から10%に減少した。この実証試験1により、高電圧・微小電流とし、作業者に安全な電気環境とした場合でも、電子のみの放散により、トマトの収穫量を増大させ且つ品質も向上させ、効果的に植物の育成の促進ができることが確認された。
【0071】
[表1]
【0072】
(実証試験2)
実証試験2では、前記の電子放散手段40及び電子発生手段10を使用し、長さ約50m、幅約20m、面積約1000mの植物育成地において、果菜類に属するカボチャの育成促進の実証試験を行った。実証試験2では、1000本のカボチャを植え付け、同一の植え付け条件で、電子放散をした場合と電子を放散しなかった場合と比較した。以下に詳細な試験条件・試験結果を示している。
【0073】
ここで、本実証試験におけるカボチャの栽培方法について簡単に説明する。一般的にカボチャは、1本の親弦から2本の子弦を延ばし、夫々の子弦に2個ずつの実を生らせている。しかし試験協力先の農家においては、夫々の子弦に1個の実が生るようして、地域で定められた高品質の認定規格に適合するカボチャを育成していた。高品質の認定規格に適合する要件は、カボチャの重量が800〜900gの範囲内であって、果肉断面に現れる空洞が少なく果肉密度が高いこととされている。
【0074】
そこで、実証試験2においては、夫々の子弦に2個ずつの実を生らせても、高品質の認定規格に適合するカボチャを育成できるかどうかについて、実証試験を行った。実証試験を行った植物育成地は同一地域・同一季節における2箇所であり、1箇所では電子を放散し、他の1箇所では電子を放散させないでカボチャを育成し比較した。夫々の面積は同じ約1000mであった。
【0075】
(試験環境)
実証試験を行った植物育成地は、北緯31.5度、東経131.0度、標高150mの地にある温室栽培所とした。試験期間は、2016年2月15日から同年3月5日までの20日間とした。試験期間における温室栽培所外の平均気温は、7.6℃(最高気温21.2℃、最低気温−3.0℃)。試験期間における温室栽培所外の降水量は、69.0mm(降水日数:4日)であった。温室栽培所内は、暖房設備により夜間10〜15℃,昼間20〜25℃の範囲となるように温室栽培所内の気温が管理されていた。
【0076】
(試験機仕様)
試験機の消費電力は2Wとし、使用電源は商用交流電源200V,60Hzを使用した。1次側交流電力の電圧値は200V、電流値は10mAとした。1次コイルと2次コイルとの巻数比は25倍として、2次側の交流電力の電圧値を5000V、電流値を0.4mAとした。試験期間を通して通電し続け、電力の総使用量は2W×24h×20日=0.96kWhであった。1kWhあたり20円とすると計約20円の電気料金であった。
【0077】
電子放散部43から電子を放散させた環境は実証試験1と同一である。電子を放散した場合を、電子を放散しなかった場合と比較して、実証試験2の結果を以下の表2に示す。収穫量は、間引きをしなかったため、収穫数が70%増加した。認定規格適合率は70%から97%に向上した。果肉断面の空洞発生率は15%から3%に減少した。未成熟等による規格外品の発生率は20%から4%に減少した。連作障害による青枯れの発生率は20%から3%に減少した。萎れの発生率は20%から5%に減少した。
【0078】
[表2]
【0079】
なお、電子を放散しなかった場合には、間引きをすることが必要であるため、生産個数が大幅に少なくなると共に、カボチャの重量が600g〜1200gの範囲でばらつき、高品質の認定規格に適合するカボチャの選定に手間もかかった。
【0080】
実証試験1及び実証試験2で得られた結果から、本発明によれば、まず、大地と絶縁されていない広い植物育成地において、複数種類の果菜類の分野において、収穫量の増加と共に品質の向上が実証された。また、葉菜類や根菜類も、果菜類と同様な植物育成環境で育成されていることから、果菜類に限定されず、本発明の植物育成促進システムによって、小さな電力により電子を発生させて、効果的に植物育成を促進させることができる。
【0081】
一方、植物自体の育成とは異なり、土壌環境の改善の観点からも試験をしている。以下に、2つの分析試験の結果を示す。
(分析試験1)
分析試験1(2014年に日本食品分析センターにて試験実施)では、電子を土壌に放散させたことによる生息細菌数の変化について分析した。試験機は実証試験1と同一の試験機を使っている。分析試験は、合計20kgの土を採取し、10kgずつに分け、一方にのみ245時間電子を流して、細菌数の変化を分析した。分析対象は、土1gあたりの大腸菌数および好気性細菌数とした。
【0082】
(分析試験2)
分析試験2(2013年に宮崎農業普及センターにて試験実施)では、実証試験1を行った植物育成地における土壌のEC値の変化について分析した。試験機は実証試験1と同一の試験機を使っている。分析試験1及び分析試験2の結果を以下の表3に纏めて示している。
【0083】
[表3]
【0084】
電子を放散した場合を、電子を放散しなかった場合と比較して、表3に示した分析結果から効果を比較した。電子を放散した場合には、植物の育成を促進させる好気性細菌の数が10%増加し、植物の育成を阻害させる大腸菌の数が70%減少した。硝酸態窒素の濃度を示すEC値は0.21から0.46になり2.2倍に向上した。なお、硝酸態窒素の濃度が上昇した理由は、好気性細菌の数の増加により、土壌に撒いた肥料の発酵が促進されたと推測される。また、肥料の発酵に伴い土壌の温度が僅かに上昇したことも計測されている。
【0085】
電子を放散させた土壌中において、植物の育成を促進させる細菌が増加し、植物の育成を阻害させる細菌が減少し、窒素肥料に含まれている硝酸態窒素の濃度が上昇していることから、果菜類に限定しないで、多くの種類の植物の育成を促進させることができると推定された。
【実施例2】
【0086】
実施例2では、電子伝達部の配線の形態が異なる実施例を、図3を参照して説明する。植物育成促進システム2は、電子伝達部42を複数の箇所で分岐させ、分岐させた箇所から電子伝達部の枝部51を延ばし、その先方に棒体をなす電子放散部44を設けている。図3(A)図は、複数のプランターに適用した例を示している。図3(B)図,図3(C)図は広い植物育成地、具体的には畑に適用した例を示している。電子放散手段の構成以外については、実施例1と同様であるため説明を省略している。なお、複数のプランターはそれぞれが電気的に接地された状態とされている。
【0087】
電子放散手段は、筋状に長く延ばした電子伝達部42と電子放散部44とを含んでいる。電子伝達部42は絶縁被覆されたワイヤーとされ、複数の箇所で分岐され枝部51が設けられている。枝部51も絶縁被覆されている。枝部51の先方には、金属棒からなる電子放散部44が形成されている。電子伝達部42は、連結部50で分離できるようにされ、連結可能とされている。
【0088】
図3(A)図を参照して、小規模な植物育成地に適用させた例を説明する。例えば、家庭菜園や観葉植物等の栽培に適用する場合には、各々のプランターに1本ずつ電子放散部44を挿し込めばよい(図3(A)図参照)。既に植物の植え付けが完了しているプランターや、土を掘り起こすことが困難な場合、例えば観葉植物販売店、観葉植物リース店等において樹勢回復させる場合にも、簡単に植物育成促進システム2を導入することができる。
【0089】
次に、図3(B)図,図3(C)図を参照して、大規模な植物育成地、例えば畑に適用させた例を説明する。この場合においては、電子放散部44を畑の畝に間隔をあけて挿し込むだけでよい。電子放散部のレイアウトは、植物の種類に応じて必要とされる電子放散量、植物の植え付けレイアウト、植物育成促進システムの導入時期に応じて適宜選択されればよい。
【0090】
図3(B)図では、畝100と畝100の間に、電子伝達部42を転ばせておき、その両側の畝100に交互に分岐部51を延ばし、両側の畝100に電子放散部44を挿し込んでいる(図3(B)図参照)。図3(C)図に示した中央の畝においては、畝と畝の間に、転ばせた電子伝達部42から、分岐部51を中央の畝だけに延ばし、電子放散部44を挿し込んでいる。図3(B)図の場合と比較して、電子伝達部44の間隔を半分にしているため、電子の放散量が増大されている。
【0091】
また、植物の種類や土壌の性状に応じて放散させる電子の量が多く必要な場合には、電子伝達部42をたるませて電子放散部44を挿し込む間隔を小さくすればよい(図3(C)図の下側の畝を参照)。植物育成促進システムの導入当初においては、植物育成地に放散させる電子の好適な量が特定できるまでは、植物の生育状況を観察しながら、適宜電子放散部44を挿し込む間隔を調整すればよい。
【実施例3】
【0092】
実施例3では、主として電子放散部の配線の形態が異なる例を、図4を参照して簡単に説明する。植物育成促進システム3は、電子放散部45を環状に配線させている(図4(A)図参照)。植物育成促進システム4は、複数の電子発生手段10を備えさせ、向かい合う方向に電子を放散させている(図4(B)図参照)。植物育成促進システム5は、電子放散部46を網状に配線させている(図5(C)図参照)。これらの実施例は、電子放散部の配線の形態、電子発生手段の配置数以外の構成については、実施例1と同様であるため、電子発生手段については説明を省略している。
【0093】
植物育成促進システム3においては、電子伝達部41から延びる電子放散部45が環状とされている。これにより電子放散部45に囲まれた範囲のいずれの位置においても、電子の放散量が偏りにくくなる(図4(A)図参照)。植物育成促進システム4では、植物育成地の両側に、実施例1で示した複数の電子発生手段10,10を配置させ、夫々の電子伝達部41から延びる電子放散部43,43を互い違いに接地させている。
【0094】
電子放散部43の長さが長くなると、電子放散部自体の抵抗によって電子が減衰され、先端部56は基端部55よりも電子の放散量が相対的に減少する。そうすると電子発生手段10からの距離に応じて、電子の放散量に偏りが発生することになる。植物育成促進システム4によれば、植物育成地の両側に配置された各々の電子発生手段10から、向かい合う電子発生手段10に向けて、電子放散部43,43が互い違いに筋状に延びている。電子の発生量が少なくなる電子放散部の先端部56と、電子の発生量が多い基端部55とが交互に並ぶことにより、電子の放散量を偏らせることなく、植物育成地に電子を均等に放散させることができる。
【0095】
植物育成促進システム5は、枝分かれした電子伝達部52に対して、交差する方向に第2の電子伝達部53が接続されている。そうすると電子放散部46を全体として網状の配置とさせることができ、網状に配置された電子伝達部46に囲まれた広い植物育成地に、均等に電子を放散させることができる。これにより、牧草地、果樹園等の広い植物育成地であっても、電子を効果的に放散させて植物の育成を図ることができる。
【実施例4】
【0096】
実施例4では、太陽光発電装置61とインバータ回路62とを含んだ、2つの植物育成促進システムの例を、図5を参照して説明する。筋状に長く延びた電子放散部43から、植物育成地に電子を放散させる植物育成促進システム6を、図5(A)図を参照して説明する。また、商用電源から独立された植物育成促進システム7を、図5(B)図を参照して説明する。なお、図5(A)図は、植物育成地が畑である例を示し、図5(B)図は、植物育成地が水田である例を示している。
【0097】
植物育成促進システム6は、太陽光発電装置61とインバータ回路62と蓄電装置63と電子発生手段10と電子伝達部47と筋状に延びる電子放散手段43とからなつている。太陽光発電装置61により発電させた直流電力を、インバータ回路62により交流電力に変換させ、変圧回路の1次側回路に供給される交流電力としている。
【0098】
また、蓄電装置63には、太陽光発電装置により発電された余剰電力を蓄えるようにさせ、夜間であっても継続して電子を放散させることが可能としている。なお、インバータ回路により変換される交流電源を、商用交流電源の電圧値・周波数に合わせると、電子発生手段の回路に変更を加える必要がないと共に、商用電力を併用することもでき、好適である。
【0099】
次に、導電線を電子放散部とした植物育成促進システム7を、図5(B)図を参照して説明する。植物育成促進システム7は、太陽光発電装置61と蓄電装置63とインバータ回路62と電子発生手段10と電子伝達部48と、外縁49が環をなすように形成された電子放散部とからなつている。水田102には、複数の植物育成促進システム7が、商用電源から独立して設置されている。各々の植物育成促進システム7の間には配線が無いため、大型農業機械を駆動させて、大規模農業を行うことが容易である。大規模な植物育成地としては、水田、畑、牧草地等のほか、樹木の根が周囲に広がり易い果樹園等が好適である。ここでは図を省略しているが、電子放散部を円盤状の導電体とし、その外縁を電子放散部としてもよいことは勿論のことである。
【実施例5】
【0100】
実施例5では、土壌性状に応じて、電子の放散量を調整可能とさせている植物育成促進システム8を、図6を参照して説明する。図6(A)図は、植物育成促進システム全体を示し、図6(B)図は、植物育成促進システムの電子回路の構成を示している。図6の夫々の図においては、理解を容易にするため、土壌性状検出手段等を作動させる電源配線については省略している。
【0101】
植物育成促進システム8は、土壌性状検出手段70と記憶手段71と電子発生手段11と電子伝達部41と電子放散部43とを備えている(図6(A)図参照)。電子放散量調整手段72は、電子発生手段と一体とされている(図6(B)図参照)。土壌性状検出手段70は、植物育成地のEC値を検出させるEC値計測器と、土壌温度を検出させる温度計測器とを有している。EC値計測器及び温度計測器は周知の計測器を使用すればよい。
【0102】
記憶手段71には、予め育成させる植物・土壌に適合させる想定土壌性状値の範囲が記憶されていると共に、土壌性状検出手段により検出させた土壌性状値と、電子の放散量とが記憶される。想定土壌性状値の範囲には、植物の種類、外気温、季節、土質等に応じて、好適な土壌性状値と、その好適な土壌性状地を実現させるために供給させる電子の量が記憶されている。
【0103】
電子放散量調整手段72は、電気信号の送信により抵抗値を変えることができる電流制限抵抗14と、検出させた土壌性状値に応じて電気信号を制御させる電気信号制御部73とを有している。電子の供給量は、電圧値が一定であれば電流値に比例している。そのため、電圧値を一定に保ったまま、電流制限抵抗14の抵抗値を増減させれば、それに伴い電流値も増減され、電子放散部43から放散される電子の放散量も増減することが可能である。
【0104】
より具体的には、電気信号制御部73において、土壌性状値を想定土壌性状値と対比し、土壌性状値が想定土壌性状値よりも高い場合には、電流制限抵抗14の抵抗値を相対的に増加させる電気信号を送信し、植物育成地に放散される電子の放散量を低下させればよい。電子の放散量が低下されれば、それに応じて、EC値や土壌温度は、時間をかけて想定土壌性状値の範囲に収束される。
【0105】
一方、土壌性状値が想定土壌性状値より低い場合には、電流制限抵抗14の抵抗値を相対的に低くし、電子の放散量を増加させればよい。電子放散量調整手段72の作用により、EC値と土壌温度とが想定土壌性状値の範囲内となるように、電子放散量を維持させればよい。なお、その植物育成地における豊作となった時期に記録された土壌性状地を想定土壌性状値として更新すれば、豊作となった時期における土壌性状値の状態が再現しやすい。
【0106】
(その他)
・今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の技術的範囲は、上記した説明に限られず特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0107】
1,2,3,4,5,6,7,8…植物育成促進システム、
10,11…電子発生手段、12…保護回路、13,14…電流制限抵抗、
20…変圧回路、21…1次側回路、22…1次コイル、23…1次側回路の第1の端子、24…1次側回路の第2の端子、
31…2次側回路、32…2次コイル、33…2次側回路の第1の端子、34…2次側回路の第2の端子、35…接続点、36…ダイオード、
40…電子放散手段、41,42,47…電子伝達部、43,44,45,46,48…電子放散部、49…外縁、
50…連結部、51…分岐部、52…枝分かれした電子伝達部、53…第2の電子伝達部、54…絶縁被覆、55…基端部、56…先端部、
60…電源、61…太陽光発電装置、62…インバータ回路、63…蓄電装置、
70…土壌性状検出手段、71…記憶手段、72…電子放散量調整手段、73…電気信号制御部、
100…畝、
102…水田
【要約】
【課題】作業員に安全であると共に、植物育成地が広い場合にも適用できる植物育成促進システムを提供すること。
【解決手段】筋状に長く延ばした電子放散部から、又は分散して設けた複数の電子放散部から電子を植物育成地に放散させ、広い植物育成地において効果的に植物育成を促進することができる植物育成促進システムとした。また、太陽光発電装置により発電された直流電力をインバータ回路により交流電力に変換して電子を発生させれば、商用電源の供給基地から離れた広い植物育成地であっても、植物育成促進システムの導入が容易となり好適である。更に、植物育成地の外的環境・植物の種類等に応じた過去の育成実績を反映させて、電子の放散量を最適化するように調整可能とすれば、より効果的に植物の収穫量・品質の向上を図ることもできる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6