(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記位相シフト層形成工程おいて、前記電力密度を可変制御することによって、平面視した前記位相シフト層と前記透明基板との境界部分において、前記位相シフト層の厚みが、前記一定の厚みで形成された部分から減少する距離と、前記一定の厚みで形成された部分との比を可変制御することを特徴とする請求項1記載の位相シフトマスクの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面を参照しながら、本発明の実施形態及び実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態及び実施例に限定されるものではない。
また、以下の図面を使用した説明において、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【0018】
(位相シフトマスク)
図1は、本実施形態の位相シフトマスクを示す要部拡大断面図である。
本実施形態の位相シフトマスク10は、
図1に示すように、ガラス基板(透明基板)11の一面(一主面)11a側に重ねて設けられ、180°の位相差をもたせることが可能な位相シフト層12単層からなる位相シフトパターン12aを有するものとされ、例えばFPD用ガラス基板に対するパターニング用マスクとして構成される。後述するように、当該マスクを用いたガラス基板のパターニングには、露光光にi線、h線及びg線の複合波長が用いられる。
【0019】
位相シフトマスク10は、露光パターンの形成された露光領域において、平面視してガラス基板11が露出する部分Cと、形成された位相シフトパターン12aとの境界部分B1において、位相シフトパターン12aの厚みが一定値T12とされる均一厚さ領域B1aと、この厚みの一定値T12から減少する傾斜領域B1bとを有する。
【0020】
ガラス基板11としては、透明性及び光学的等方性に優れた材料が用いられ、例えば、石英ガラス基板を用いることができる。ガラス基板11の大きさは特に制限されず、当該マスクを用いて露光する基板(例えばFPD用基板、半導体基板)に応じて適宜選定される。本実施形態では、一例として、径寸法100mm程度の基板や、一辺50〜100mm程度から、一辺300mm以上の矩形基板に適用可能であり、更に、縦450mm、横550mm、厚み8mmの石英基板や、最大辺寸法1000mm以上で、厚み10mm以上の基板も用いることができる。
【0021】
また、ガラス基板11の表面を研磨することで、ガラス基板11のフラットネスを低減するようにしてもよい。ガラス基板11のフラットネスは、例えば、20μm以下とすることができる。これにより、マスクの焦点深度が深くなり、微細かつ高精度なパターン形成に大きく貢献することが可能となる。さらにフラットネスは10μm以下など、小さい方が好ましい。
【0022】
位相シフト層12は、Cr(クロム)を主成分とするものであり、具体的には、Cr単体、並びにCrの酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、炭化窒化物及び酸化炭化窒化物から選択される1つで構成することができ、また、これらの中から選択される2種以上を積層して構成することもできる。
【0023】
位相シフト層12は、300nm以上500nm以下の波長領域の何れかの光(例えば、波長365nmのi線、波長405nmのh線、波長436nmのg線)に対して略180°の位相差をもたせることが可能な厚さ(例えば、90〜170nm)で形成される。位相シフト層12は、例えば、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、レーザ蒸着法、ALD法等により成膜できるが、そのなかでもDCスパッタリングが高効率にて低欠陥の膜を形成できるので好ましい。
【0024】
位相シフトパターン12aは、均一厚さ領域B1aにおける厚さT12が、この境界部分B1以外における位相シフトパターン12aの厚さと等しくされるとともに、この厚さT12は、g線に対応した光強度がゼロになる厚さTg(例えば、145.0nm)に対応した値とされている。また、光強度がゼロになる厚さはh線、i線に対応する厚さTh(例えば、133nm)、Ti(例えば、120nm)であってもよい。あるいは、位相シフト層12の厚さT12はTgよりも大きな値とし、Tg,Th,Tiに対応する厚さを傾斜領域B1bに位置するようにすることもできる。さらには、Thよりも大きな値で、Tgより小さい値とし、Th、Tiに対応する厚さを有してもよいし、Tiよりも大きな値とし、傾斜領域にTiに対応する厚さを有してもよい。
【0025】
位相シフトパターン12aは、傾斜領域B1bにおいて厚さが変化する傾斜面12sを有する。具体的には、例えば、傾斜領域B1bの幅方向が、位相シフトパターン12aの厚さT12の端部12tから厚さゼロでガラス基板11が露出する部分Cとの端部12uまでとされ、厚さが減少する向きにその幅寸法が設定される。
【0026】
具体的には、傾斜領域B1bにおいて、位相シフトパターン12aの厚さT12に対する厚みの減少する距離B1bの比が、
−3≦B1b/T12≦3
となるように設定されている。ここで、傾斜領域B1bにおいて厚みの減少する距離B1bとは、平面視した傾斜面12sの幅寸法、言い換えると、平面視した傾斜領域の幅寸法B1bである。
この距離B1bは、
図1において、位相シフトパターン12aの厚さT12の端部12tから厚さゼロの端部12uまでとされ、均一厚さ領域B1aからガラス基板11が露出する部分Cに向かう方向を正とし、位相シフトパターン12aの厚さT12の端部12tからガラス基板11が露出する部分Cと反対側に向かう場合を負とする。なお、
図1においては、端部12tから右側に向かう場合を正とし、左側に向かう場合を負とする。
上記は膜厚がTg、または、Th、さらにはTiに対応した場合、およびその中間の膜厚に対応した場合でも同様である。
【0027】
このような位相シフトマスク10によれば、上記波長領域の光、特にg線(436nm)、h線(405nm)、i線(365nm)を含む複合波長を露光光として用いることで、位相の反転作用により光強度が最小となるようにパターン輪郭を形成して、露光パターンをより鮮明にすることができる。しかも、これらのブロードな複合波長の光に対していずれの波長でも位相シフト効果を得ることができる。これにより、パターン精度が大幅に向上し、微細かつ高精度なパターン形成が可能となる。
【0028】
位相シフト層は例えば、酸化窒化炭化クロム系材料で形成することができ、上記位相シフト層の厚みは、i線、h線またはg線に対して略180°の位相差をもたせる厚みをパターン輪郭形状に沿って形成することができる。本位相シフト層の厚みは、各波長同時に、すべての膜厚を有するものでもよいし、複合した波長に対する膜厚を有してもよいし、単波長に対する厚さを有してもよい。ここで「略180°」とは、180°又は180°近傍を意味し、例えば、180°±10°以下、または、180°±5°以下である。この位相シフトマスクによれば、上記波長領域の光を用いることで位相シフト効果に基づくパターン精度の向上を図ることができ、微細かつ高精度なパターン形成が可能となる。これにより、高画質のフラットパネルディスプレイを製造することができる。
【0029】
位相シフトパターン12aの傾斜領域B1bにおける傾斜面12sの断面形状は、後段の位相シフトマスクの製造方法において述べるが、位相シフト層形成工程において、成膜を行う際の投入電力の電力密度を可変制御することによって、自在に制御できる。例えば、スパッタリング電力の電力密度を大きくすることによって、傾斜面12sの傾斜角度がガラス基板11の一面11aに対して小さくなる。また、電力密度を小さくすることによって、傾斜面12sの傾斜角度がガラス基板11の一面11aに対して大きくなる、即ち垂直面に近づく。これによって、位相シフトパターン12aの傾斜領域B1bにおける傾斜面12sを、適切な傾斜角度にすることができる。
【0030】
本実施形態の位相シフトマスクは、例えばFPD用ガラス基板に対するパターニング用マスクとして構成することができる。後述するように、当該マスクを用いたガラス基板のパターニングには、露光光にi線、h線及びg線の複合波長が用いられる。
【0031】
(位相シフトマスクの製造方法:第一実施形態)
以下、本実施形態の位相シフトマスク10を製造する位相シフトマスクの製造方法について説明する。
図2は、本実施形態に係る位相シフトマスクの製造方法を模式的に示す工程図である。
本実施形態の位相シフトマスク10は、
図2(J)に示すように、露光領域の外側に当たる周辺部に位置合わせ用のアライメントマークを有し、このアライメントマークが遮光層14aで形成されている。
図2に記載の例では、アライメントマーク用として遮光層の例が記載されているが、遮光層でなく、半透過層、具体的には位相シフト層であってもよい。
【0032】
まず、
図2(a)に示すように、ガラス基板11上にCrを主成分とする遮光層13を形成する。次に、
図2(b)に示すように、遮光層13の上にフォトレジスト層14を形成する。フォトレジスト層14は、ポジ型でもよいしネガ型でもよい。続いて、
図2(c)に示すように、フォトレジスト層14を露光及び現像することで、遮光層13の上にレジストパターン14aが形成される。レジストパターン14aは、遮光層13のエッチングマスクとして機能し、遮光層13のエッチングパターンに応じて適宜形状が定められる。
図2(c)では、ガラス基板11の周縁の所定範囲内にわたって遮光層13を残存させるべく、レジストパターン14aを形成した例を示す。フォトレジスト層14としては、液状レジストが用いられる。
【0033】
続いて、
図2(d)に示すように、このレジストパターン14a越しに第1エッチング液を用いて遮光層13をウェットエッチングする。第1エッチング液としては、硝酸セリウム第2アンモニウムを含むエッチング液を用いることができ、例えば、硝酸や過塩素酸等の酸を含有する硝酸セリウム第2アンモニウムを用いることが好ましい。
【0034】
これにより、ガラス基板11上に所定形状にパターニングされた遮光層13aが形成される。遮光層13aのパターニング後、
図2(e)に示すように、レジストパターン14aは除去される。レジストパターン14aの除去には、例えば、水酸化ナトリウム水溶液を用いることができる。
【0035】
次に、位相シフト層12を形成する(位相シフト層形成工程)。位相シフト層12は、
図2(f)に示すように、ガラス基板11の上に遮光層13aを被覆するように形成される。位相シフト層12は、例えば、酸化窒化炭化クロム系材料からなり、DCスパッタリング法で成膜される。この場合、プロセスガスとして、窒化性ガス及び酸化性ガスの混合ガス、又は、不活性ガス、窒化性ガス及び酸化性ガスの混合ガスを用いることができる。成膜圧力は、例えば、0.1Pa〜0.5Paとすることができる。不活性性ガスとしては、ハロゲン、特にアルゴンを適用することができる。
【0036】
酸化性ガスには、CO、CO
2、NO、N
2O、NO
2、O
2等が含まれる。窒化性ガスには、NO、N
2O、NO
2、N
2等が含まれる。不活性ガスとしては、Ar、He、Xe等が用いられるが、典型的には、Arが用いられる。なお、上記混合ガスに、CH
4等の炭化性ガスがさらに含まれてもよい。
【0037】
位相シフト層12の厚みT12は、傾斜領域B1bにおいて、300nm以上500nm以下の波長領域にあるg線とh線とi線の中でいずれかに対して180°の位相差をもたせることが可能な厚みとされる。180°の位相差が付与された光は、位相が反転することで、位相シフト層12を透過する光との間の干渉作用によって、当該光の強度が打ち消される。このような位相シフト効果により、光強度が最小(例えばゼロ)となる領域が形成されるため露光パターンが鮮明となり、微細パターンを高精度に形成することが可能となる。
【0038】
本実施形態では、上記波長領域の光は、i線(波長365nm)、h線(波長405nm)及びg線(波長436nm)の複合光(多色光)であり、目的とする波長の光に対して180°の位相差を付与し得る厚みで位相シフト層12が形成される。上記目的とする波長の光はi線、h線及びg線のうち何れかがよいが、これら以外の波長領域の光でもよい。位相を反転するべき光が短波長であるほど微細なパターンを形成することができる。
位相シフト層12の膜厚は、透明基板10の面内において露光領域内で境界部分B1以外では少なくとも均一であることが好ましい。
【0039】
位相シフト層12の反射率は、例えば、40%以下とする。これにより、当該位相シフトマスクを用いた被処理基板(フラットパネル基板又は半導体基板)のパターニング時にゴーストパターンを形成し難くして良好なパターン精度を確保することができる。
位相シフト層12の透過率及び反射率は、成膜時のガス条件によって任意に調整することができる。上述した混合ガス条件によれば、i線に関して1%以上20%以下の透過率、及び40%以下の反射率を得ることができる。透過率は0.5%以上であってもよい。
【0040】
本実施形態では、位相シフト層12の成膜条件として、DCスパッタリング法で成膜する際の、スパッタリング電力の電力密度(W/cm
2)を可変制御することで、傾斜領域B1bの形状を任意に形成することができる。例えば、位相シフト層12の成膜時におけるスパッタリング電力の電力密度を調節することで、位相シフト層12におけるエッチング状態を制御して、傾斜面12sのガラス基板11の一面11aに対する傾斜角度を設定する。
【0041】
スパッタリング電力の電力密度と、位相シフト層12の傾斜面12sの傾斜角度との関係は、この電力密度を低くするほど、傾斜面12sが位相シフト層12の厚み方向に沿った垂直面に近づく。一方、スパッタリング電力の電力密度を高くするほど、傾斜面12sがガラス基板11の一面11aに沿った水平面に近づく。こうしたスパッタリング電力の電力密度を可変制御することによって、位相シフト層12の傾斜面12sの形状、例えば傾斜角度を任意の角度にすることが可能になる。
【0042】
例えば、位相シフト層形成工程おいて、DCスパッタリング法で成膜する際の、スパッタリング電力の電力密度の範囲は、0.1(W/cm
2)以上、9.0(W/cm
2)以下となるように制御される。より好適には、1.5(W/cm
2)以上、7.6(W/cm
2)以下となるように制御される。さらに好適には、2.5(W/cm
2)以上、5.5(W/cm
2)以下となるように制御される。
【0043】
また、位相シフト層形成工程において、位相シフト層12の厚みが、一定の厚みT12で形成された部分から減少する距離と、一定の厚みT12で形成された部分との比に対する、スパッタリング電力の電力密度との比が、−0.2以上、0.5以下の範囲から選択されることが好ましい。
位相シフト層形成工程おいて、スパッタリング電力の電力密度を可変制御することによって、平面視した位相シフト層12とガラス基板11との境界部分において、位相シフト層12の厚みが、一定の厚みT12で形成された部分から減少する距離と、一定の厚みT12で形成された部分との比を可変制御することができる。
【0044】
なお、本実施形態では、位相シフト層12の成膜方法としてDCスパッタリング法を用いているが、それ以外にも、例えば、ACスパッタリング法やRFスパッタリング法を用いてもよい。この場合、位相シフト層12の傾斜面12sの制御は、ACスパッタリング法やRFスパッタリング法におけるスパッタリング電力の電力密度を可変制御することによって実現できる。
【0045】
さらに、位相シフト層12の成膜条件として、雰囲気ガス中における酸化性ガスの流量比を設定することで、傾斜領域B1bの形状を設定する。
位相シフト層12の成膜時における酸化性ガスの流量を調節することで、位相シフト層12におけるエッチング状態を制御して傾斜面12sの形状を設定する。
【0046】
位相シフト層12の成膜雰囲気としての成膜ガスが、不活性ガス、窒化性ガスと酸化性ガスとを含み、酸化性ガスのトータルガス流量への流量比が3.68%〜14.69%の範囲から選択されてなるとともに、酸化性ガスの流量比を減らすことで、位相シフトパターン12aの厚さT12に対する厚みの減少する距離B1bの比
B1b/T12
を小さくして、傾斜面12sの傾斜を大きくするとともに、酸化性ガスの流量比を増やすことで、この比の値を大きくする。
【0047】
酸化性ガスの流量比によって、傾斜面12sの傾斜状態をコントロールして、g線(436nm)、h線(405nm)、i線(365nm)を含む複合波長を露光光として用いた際に、位相の反転作用により光強度が最小となるようにパターン輪郭を形成して、露光パターンをより鮮明にする厚さとなるように境界部分B1の傾斜領域B1bの厚さ変化をエッチング後に設定可能とすることができる。
【0048】
例を挙げると、成膜圧力は、0.4Paとし、スパッタ成膜時の混合ガスの流量比をAr:N
2:CO
2=71:120:13.3、71:120:22.3、および71:120:32.9を選択することができるが、前記に示すように酸化性ガスの全体に対する比率が3.68〜14.69%に入っていればよい。これにより、傾斜領域の膜厚が上記の波長範囲の複合波長の光においてg線、h線、i線の各々に対して光強度がゼロになる厚さを少なくともひとつを有し、上記の波長範囲の複合波長を同時に露光に使用することができる。
【0049】
続いて、
図2(g)に示すように、位相シフト層12の上にフォトレジスト層14が形成される。次に、
図2(h)に示すように、フォトレジスト層14を露光及び現像することで、位相シフト層12の上にレジストパターン14aが形成される。レジストパターン14aは、位相シフト層12のエッチングマスクとして機能し、位相シフト層12のエッチングパターンに応じて適宜形状が定められる。
【0050】
続いて、位相シフト層12が所定のパターン形状にエッチングされる。これにより、
図2(i)に示すように、ガラス基板11上に所定形状にパターニングされた位相シフトパターン12aおよびガラス基板11の露出した領域C(
図1参照)が形成される。位相シフトパターン12aのパターニング後、
図2(j)に示すように、レジストパターン14aは除去される。レジストパターン14aの除去には、例えば、水酸化ナトリウム水溶液を用いることができる。
【0051】
以上のように、本実施形態では、位相シフト層12を形成する工程(位相シフト層形成工程)において、スパッタリング電力の電力密度を可変制御することで、傾斜領域B1bの形状を任意に形成することができる。例えば、位相シフト層12の成膜時におけるスパッタリング電力の電力密度を調節することで、位相シフト層12におけるエッチング状態を制御して、傾斜面12sのガラス基板11の一面11aに対する傾斜角度を設定できる。これによって、i線、h線、g線の複合波長の光において光強度がゼロになる厚さに対応する少なくともの一つの距離、すなわち位相シフトパターン12aの線幅、つまりマスクの線幅をより正確に設定することができる。これにより、より高精細化したウェット処理によるマスク製造が可能となる。
【0052】
以下、本実施形態に係る位相シフトマスク10を用いたフラットパネルディスプレイの製造方法の一例について説明する。
【0053】
まず、絶縁層及び配線層が形成されたガラス基板の表面に、フォトレジスト層を形成する。フォトレジスト層の形成には、例えばスピンコータが用いられる。フォトレジスト層は加熱(ベーキング)処理を施された後、位相シフトマスク10を用いた露光処理が施される。露光工程では、フォトレジスト層に近接して位相シフトマスク10が配置される。そして、位相シフトマスク10を介して300nm以上500nm以下のg線(436nm)、h線(405nm)、i線(365nm)を含む複合波長をガラス基板の表面に照射する。本実施形態では、上記複合波長の光に、g線、h線及びi線の複合光が用いられる。これにより、位相シフトマスク10のマスクパターンに対応した露光パターンがフォトレジスト層に転写される。
【0054】
本実施形態によれば、位相シフトマスク10は、300nm以上500nm以下の波長領域の複合光に対して180°の位相差をもたせることが可能な位相シフト層12を少なくとも一つ有する。したがって、上記製造方法によれば、上記波長領域の光を用いることで位相シフト効果に基づくパターン精度の向上を図ることができ、さらに焦点深度を深くすることができ、微細かつ高精度なパターン形成が可能となる。これにより、高画質のフラットパネルディスプレイを製造することができる。
【0055】
位相シフト層のパターンプロファイルを制御する具体的な実施例を表1(条件1)、および表2(条件2)に示す。表1では酸素供給源となるCO
2濃度を22.3scom、表2では酸素供給源となるCO
2濃度を16.3scomとし、電力密度を段階的に変化させた。表1,2において、流量比とは、二酸化炭素流量/(Arガス流量+N
2ガス流量+CO
2流量)×100の値である。また、距離/膜厚とは、(平面視した傾斜面12sの幅B1b)/(位相シフト層12の厚さT12)の値である。
【0058】
また、これら表1(条件1),表2(条件2)に基づいた、電力密度と距離/膜厚との関係を
図6のグラフに示す。表1、2に示すように酸化性ガスの流量比が本出願に記載されている比率内にて、投入電力量を適宜制御することによってパターンプロファイル形状を制御することが可能となる。
【0059】
そして、表1における電力密度3.76W/cm
2時におけるh線位相差180°の位相シフトマスクを用いてフラットパネルディスプレイに該当するパターン形成の検討を行った。
本発明者らの上記実験によれば、当該位相シフト層を有しないマスクを用いて露光した場合、目標とする線幅(2±0.5μm)に対して30%以上のパターン幅のずれが生じていたが、本実施形態の位相シフトマスク10を用いて露光した場合、7%程度のずれに抑えられることが確認された。
【0060】
(位相シフトマスクの製造方法:第二実施形態)
以下では、本発明に係る位相シフトマスクの製造方法の第二実施形態について、図面に基づいて説明する。
図3は、本実施形態に係る位相シフトマスクを示す模式断面図であり、
図4は、本実施形態に係る位相シフトマスクの製造方法を模式的に示す工程図であり、図において、20は位相シフトマスクである。なお、
図3、
図4において、
図1、
図2と対応する部分については同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0061】
本実施形態の位相シフトマスク20は、
図3に示すように、ガラス基板(透明基板)11の一面(一主面)11a側に設けられ、180°の位相差をもたせることが可能な位相シフトパターン12aが上側に位置し、その下側に遮光パターン13aが位置するいわゆる上置き型の位相シフトマスクとされる。
【0062】
位相シフトマスク20は、
図3および
図4(l)に示すように、露光パターンの形成された露光領域において、平面視してガラス基板10が露出する部分Cと位相シフトパターン12aとの境界部分B1と、位相シフトパターン12aの下側に遮光パターン13aが形成された遮光領域B3とを有する。遮光領域B3において、位相シフトパターン12aの厚みが一定値T12とされるとともに、平面視して、この露光パターンとなる遮光領域B3を囲むように位相シフトパターン12a単層とされる境界部分B1が位置している。境界部分B1では、遮光領域B3側に均一厚さ領域B1aが位置し、ガラス基板11が露出する部分C側に傾斜領域B1bが位置している。
【0063】
本実施形態に係る位相シフトマスクの製造方法においては、まず、
図4(a)に示すように、ガラス基板11上に遮光層13が形成される。
【0064】
次に、
図4(b)に示すように、遮光層13の上にフォトレジスト層14が形成される。続いて、
図4(c)(d)に示すように、フォトレジスト層14を露光及び現像することで、領域14pを除去して遮光層13の上にレジストパターン14aが形成される。レジストパターン14aは、遮光層13のエッチングマスクとして機能し、遮光層13のエッチングパターンに応じて適宜形状が定められる。
【0065】
続いて、
図4(e)に示すように、遮光層13がエッチングにより所定のパターン形状にパターニングされる。これにより、ガラス基板11上に所定形状の遮光パターン13aが形成される。遮光層13のエッチング工程においては、ウェットエッチング法又はドライエッチング法が適用可能であるが、特にガラス基板11が大型である場合、ウェットエッチング法を採用することによって低コストにて均一にパターン形成を行うことが実現可能となる。
【0066】
遮光層13のエッチング液は適宜選択可能であり、遮光層13がクロム系材料である場合、例えば、硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸の水溶液を用いることができる。このエッチング液は、ガラス基板11との選択比が高いため、遮光層13のパターニング時にガラス基板11を保護することができる。一方、遮光層13が金属シリサイド系材料で構成される場合、エッチング液としては、例えば、フッ化水素アンモニウムを用いることができる。
遮光パターン13aの形成後、
図4(f)に示すように、レジストパターン14aは除去される。レジストパターン14aの除去には、例えば、水酸化ナトリウム水溶液を用いることができる。
【0067】
次に、
図4(g)に示すように、位相シフト層12を形成する。位相シフト層12は、ガラス基板11のほぼ全面で遮光パターン13aを被覆するように形成される。
位相シフト層12の成膜方法としては、DCスパッタリング法を採用することによって、膜厚均一性に優れた成膜が可能である。なお、DCスパッタリング法に限られず、ACスパッタリング法やRFスパッタリング法が適用されてもよい。
位相シフト層12は、クロム系材料で構成される。特に本実施形態では、位相シフト層13は、例えば、窒化酸化炭化クロムで構成される。クロム系材料によれば、特に大型の基板上において良好なパターニング性を得ることができる。
【0068】
位相シフト層11の成膜においては、上述した第一実施形態における成膜条件と同様に、位相シフト層12の成膜条件として、DCスパッタリング法で成膜する際の、スパッタリング電力の電力密度(W/cm
2)を可変制御することで、傾斜領域B1b(
図1参照)の形状を任意に形成することができる。例えば、位相シフト層12の成膜時におけるスパッタリング電力の電力密度を調節することで、位相シフト層12におけるエッチング状態を制御して、傾斜面12sのガラス基板11の一面11aに対する傾斜角度を設定する。
【0069】
スパッタリング電力の電力密度と、位相シフト層12の傾斜面12sの傾斜角度との関係は、この電力密度を低くするほど、傾斜面12sが位相シフト層12の厚み方向に沿った垂直面に近づく。一方、スパッタリング電力の電力密度を高くするほど、傾斜面12sがガラス基板11の一面11aに沿った水平面に近づく。こうしたスパッタリング電力の電力密度を可変制御することによって、位相シフト層12の傾斜面12sの形状、例えば傾斜角度を任意の角度にすることが可能になる。
【0070】
例えば、位相シフト層形成工程おいて、DCスパッタリング法で成膜する際の、スパッタリング電力の電力密度の範囲は、0.1(W/cm
2)以上、9.0(W/cm
2)以下となるように制御される。
【0071】
また、位相シフト層12の成膜においては、酸化性ガス(二酸化炭素ガス)の雰囲気ガス中における流量比を設定することで、エッチング工程における位相シフト層12のエッチングレートを制御し、傾斜面12sの傾斜状態をコントロールする。
【0072】
続いて、
図4(h)に示すように、位相シフト層12の上にフォトレジスト層14が形成される。次に、
図4(i)に示すように、フォトレジスト層14を露光及び現像(フォトレジスト層14p)することで、
図4(j)に示すように、位相シフト層12の上にレジストパターン14aが形成される。レジストパターン14aは、位相シフト層12のエッチングマスクとして機能し、位相シフト層12のエッチングパターンに応じて適宜形状が定められる。
【0073】
続いて、
図4(k)に示すように、位相シフト層12が所定のパターン形状にエッチングされる。これにより、ガラス基板11上に所定形状の位相シフトパターン12aおよびガラス基板11の露出した領域Cが形成される。位相シフト層12のエッチング工程は、ウェットエッチング法又はドライエッチング法が適用可能であり、特にガラス基板11が大型である場合、ウェットエッチング法を採用することによって低コストにて均一にパターン形成が実現可能となる。位相シフト層12のエッチング液は、適宜選択可能であり、本実施形態では、硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸の水溶液を用いることができる。このエッチング液は、ガラス基板11との選択比が高いため、位相シフト層12のパターニング時にガラス基板11を保護することができる。
【0074】
位相シフトパターン12aの形成後、レジストパターン14aは除去され、
図4(l)に示すように、本実施形態に係る位相シフトマスク20が製造される。レジストパターン14aの除去には、例えば、水酸化ナトリウム水溶液を用いることができる。
【0075】
なお、
図4には、ガラス基板の上に遮光層13のパターンを形成した後に、位相シフト層12を成膜、パターン形成する例を示しているが、ガラス基板11の上に位相シフト層を形成し、その後にNi、Co、Fe、Ti、Si、Al、Nb、Mo、W及びHfから選択された少なくとも1種の金属を主成分とするエッチングストップ層を形成し、さらにその上に遮光層を形成し、その後、各層を順次パターニングして位相シフトパターンを形成することでも良好である。
【0076】
本実施形態によれば、位相シフト層12を形成する工程(位相シフト層形成工程)において、スパッタリング電力の電力密度を可変制御することで、傾斜領域B1bの形状を任意に形成することができる。例えば、位相シフト層12の成膜時におけるスパッタリング電力の電力密度を調節することで、位相シフト層12におけるエッチング状態を制御して、傾斜面12sのガラス基板11の一面11aに対する傾斜角度を設定できる。これによって、i線、h線、g線の複合波長の光において光強度がゼロになる厚さに対応する複数点の距離、すなわち位相シフトパターン12aの線幅、つまりマスクの線幅をより正確に設定することができる。これにより、複合波長においても各波長に対応した厚み箇所を遮光領域B3形状(パターン輪郭)に沿った所定の範囲に位置させて高精細なエッジ強調型の位相シフトマスク20を製造できる。
【0077】
以上、本発明の実施形態について説明したが、勿論、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。例えば、スパッタリング電力の電力密度の可変制御による境界部分B1における傾斜面12sの傾斜状態に関しては、位相シフト層12の形成時におけるスパッタリング電力の電力密度を制御することにより、
図1のように、傾斜面12sが最も傾斜の緩い最も寝た
図1の状態から、
図3になるにつれて傾斜面12sが立ち上がって傾斜がきつくなるとともに、
図5に示す例では、傾斜面12sの傾斜が逆向きになり、ガラス基板11の露出する領域Cとの端部12uが均一厚さの端部12tよりもガラス基板11の露出する領域Cととは逆側に位置するようにえぐれている状態までを設定することができる。この
図5に示す例では、厚みの減少する距離B1bがマイナスとなり、位相シフトパターン12aの厚さT12に対する比の値が負となるため、−3≦B1b/T11≦0となるように設定できる。
【0078】
また、複数のスパッタリング電力の電力密度条件で積層させても良好であるし、その場合には、各層毎に要求されるパターンプロファイルに従い、設定することが可能である。その場合には、最表面層の電力密度が下がるように設定しても良いし、下層から徐々に電力密度を下げても良いし、最表面層のみ、下層より電力密度を下げても良い。また、最表面層の電力密度を若干、上昇させるように下層から電力密度を徐々に上昇させてもよいし、最表面層のみ上げてもよい。前記によってパターンプロファイルを適宜調整可能となる。
【0079】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。