(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に示される畳は、製造コストが高いだけでなく、畳床の表面にゴム又は樹脂塗着層を形成するのに手間と時間がかかる難点がある。また、特許文献2に示される畳も製造コストが高く、また、使用中にかかる荷重によって畳床に内蔵された炭材が粉化し、畳の表面に浮き出して汚れを生じるなどの問題がある。
【0006】
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、調湿性能、消臭性能などに優れ、しかも製造が容易で且つ安価に製造することができる畳を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため検討を重ねた結果、畳表に接する畳床の最上層に特定のマット状短繊維集合体を配することにより、上記課題を解決できることを見出した。
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とする。
【0008】
[1]畳表(A)と接する畳床(B)の最上層が、密度が0.02g/cm
3以上のマット状の短繊維集合体(f)で構成され、
該短繊維集合体(f)は、マトリックス繊維である羊毛及び中空ポリエステル繊維と、熱接着性繊維とを混綿し、熱処理により熱接着性繊維を溶融させ、その溶融物によりマトリックス繊維の繊維接点を接着させて得られたものであることを特徴とする畳。
[2]上記[1]の畳において、短繊維集合体(f)は、羊毛(x)と中空ポリエステル繊維(y)の質量比(x)/(y)が10/90〜40/60であることを特徴とする畳。
【0009】
[3]上記[1]又は[2]の畳において、短繊維集合体(f)の原料となるマトリックス繊維(m)と熱接着性繊維(n)の質量比(m)/(n)が20/80〜80/20であることを特徴とする畳。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの畳において、畳床(B)は、最上層である短繊維集合体(f)を除く畳床本体が、建材畳床又はわらサンド畳床であることを特徴とする畳。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかの畳において、畳床(B)の最上層である短繊維集合体(f)の厚さが2〜15mmであることを特徴とする畳。
【発明の効果】
【0010】
本発明の畳は、畳床(B)の最上層に設けた短繊維集合体(f)が高度の調湿機能と消臭機能・VOC吸着除去機能を有するため、優れた調湿性能と消臭性能・VOC吸着除去性能を有している。このため、畳内部や室内の湿度を適正なレベルに維持できるとともに、室内で発生する悪臭やVOCを効果的に取り除くことができる。また、短繊維集合体(f)には断熱性能があるため、特に冬場での断熱効果が期待でき、また、短繊維集合体(f)はクッション性が高いため、踏み心地、座り心地や寝心地の良い畳とすることができる。さらに、短繊維集合体(f)にはクッション性と制振作用があるため、床衝撃音の緩和効果、室内で発生する音の吸音効果も得られる。また、本発明の畳は、畳床(B)の最上層に短繊維集合体(f)の層を設けるだけでよいため、製造が容易で且つ安価に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の畳は、畳表Aと接する畳床Bの最上層が、特定の構成・密度を有するマット状の短繊維集合体fで構成されることを特徴とする。
図1は本発明の畳の一実施形態を示す縦断面図であり、畳は芯材となる畳床Bと、この畳床Bの上面全体と側端面の一部又は全部を覆う畳表Aとからなる。
畳表Aの種類は任意であり、例えば、い草などの天然植物素材を敷物状に編んだもの、合成繊維を敷物状に編んだもの、合成樹脂の表面に畳目を型押ししたもの、などが使用できる。調湿性能や消臭性能などの面からは、い草などの天然植物素材を編んだものが最も好ましい。
【0013】
畳床Bの最上層(短繊維集合体f)を除く畳床本体の種類も任意であり、例えば、本畳床(わら床)、建材畳床、わらサンド畳床などを適用できる。
ここで、建材畳床とは、稲わら以外の材料で構成される1層〜数層構造の畳床のことであり、例えば、インシュレーションボード(木質繊維板)又はポリスチレンフォーム板の単層で構成されるもの、本実施形態のようにインシュレーションボードとポリスチレンフォーム板を重ねたもの、上下のインシュレーションボードでポリスチレンフォーム板を挟んだもの、ポリスチレンフォーム板に薄いベニヤ板を張ったもの、MDFやハードボードにポリエチレン発泡シートなどからなる積層シートを重ねたもの、などがある。なお、インシュレーションボードとは、木材チップを圧縮成形して得られる板材である。
また、わらサンド畳床とは、上下の稲わらで他の材料(例えば、インシュレーションボード又は/及びポリスチレンフォーム板)を挟んだ畳床である。
【0014】
本実施形態の最上層(短繊維集合体f)を除く畳床本体は建材畳床であり、この建材畳床は上層側がインシュレーションボードb1(木質繊維板)、下層側がポリスチレンフォーム板b2でそれぞれ構成されている。この建材畳床のなかで、上層側を構成するインシュレーションボードb1は調湿性能に優れ、下層側を構成するポリスチレンフォーム板b2は断熱性能に優れており、この建材畳床は、両材料の性能が複合的に得られる利点がある。
本実施形態において、上記インシュレーションボードb1とポリスチレンフォーム板b2の厚さに特別な制限はないが、上記各性能面と畳全体の厚さからして、通常、インシュレーションボードb1の厚さは10〜15mm程度、ポリスチレンフォーム板b2の厚さは15〜40mm程度が適当である。
【0015】
また、畳床Bは、下記のような置き畳仕様の比較的薄いもの(建材畳床)であってもよい。
・短繊維集合体f(厚さ3mm)−MDF(厚さ5.5mm)−ポリエチレン発泡シート・ポリエチレンフィルムなどを積層させた積層シート(商品名「エサノン」,厚さ3mm)−滑り止め不織布シート(厚さ2mm)
・短繊維集合体f(厚さ3mm)−ハードボード(厚さ2mm)−ポリエチレン発泡シート・ポリエチレンフィルムなどを積層させた積層シート(商品名「エサノン」,厚さ3mm)−滑り止め不織布シート(厚さ2mm)
【0016】
本発明では、畳表Aと接する畳床Bの最上層が、密度が0.02g/cm
3以上のマット状の短繊維集合体fで構成される。この短繊維集合体fは、マトリックス繊維である羊毛及び中空ポリエステル繊維と、熱接着性繊維とを混綿し、熱処理により熱接着性繊維を溶融させ、その溶融物によりマトリックス繊維の繊維接点を接着させて得られたものである。
畳床Bの最上層として設けられた状態での短繊維集合体fは、畳表Aと畳床本体に挟まれることで若干圧縮された状態になる場合があるが、短繊維集合体fの上記密度(0.02g/cm
3以上)は、このように畳の一部として設けられた状態での密度である。
【0017】
畳床Bの最上層を構成する短繊維集合体fの密度が小さすぎると、所望の性能(調湿性能、消臭性能など)を得るために短繊維集合体fの厚さを大きくする必要があるが、この場合には畳床の構成部材として必要な固さが不十分となる。このため畳床Bの最上層を構成する短繊維集合体fの密度は0.02g/cm
3以上とする。また、この観点から短繊維集合体fの好ましい密度は0.06g/cm
3以上である。一方、畳床Bの最上層を構成する短繊維集合体fの密度が大きすぎると、適度な弾力性に乏しくなる。このため、畳床Bの最上層を構成する短繊維集合体fの密度は0.15g/cm
3以下が好ましく、0.12g/cm
3以下がより好ましい。
【0018】
短繊維集合体fにおいて、マトリックス繊維である羊毛と中空ポリエステル繊維の割合は特に制限はないが、上述した羊毛と中空ポリエステル繊維による調湿性能と消臭性能をバランスよく得るという面からは、羊毛と中空ポリエステル繊維の割合を最適化することが好ましく、羊毛xと中空ポリエステル繊維yの質量比x/yは10/90〜40/60程度であることが好ましく、10/90〜30/70程度であることがより好ましい。
【0019】
また、短繊維集合体fにおいて、原料となるマトリックス繊維(羊毛及び中空ポリエステル繊維)と熱接着性繊維の割合も特に制限はないが、マトリックス繊維と熱接着性繊維のそれぞれの機能を十分に発揮させ、所望の性能を有する短繊維集合体fを得るという面からは、マトリックス繊維m(羊毛及び中空ポリエステル繊維)と熱接着性繊維nの質量比m/nは20/80〜80/20であることが好ましく、30/70〜60/40であることがより好ましい。
【0020】
短繊維集合体fを構成する羊毛及び中空ポリエステル繊維の繊維長は、一般に40〜210mm程度が適当である。
また、短繊維集合体fからなる最上層の厚さは、薄すぎると短繊維集合体fの諸性能を十分に発揮させることができず、厚すぎると畳のクッション性が過剰になるので、2〜15mm程度が好ましく、3〜5mm程度がより好ましい。
なお、畳床Bの最下層には、床下からの湿気を遮蔽するための防湿シートb3が設けられている。この防湿シートb3は、例えば、織布で補強されたビニールシートなどで構成される。
通常、畳床Bの上面全体と側端面の一部又は全部を覆う畳表Aの端部は、必要に応じて畳床Bの底面側に折り返され、縫い付けされることで係止される。また、畳表Aの外縁の一部又は全部には、必要に応じて畳縁が縫い付けされる。
【0021】
短繊維集合体fは、マトリックス繊維が羊毛と中空ポリエステル繊維からなり、このうち中空ポリエステル繊維は湿気を高い方から低い方に移動させる作用があり、また、羊毛は湿気を吸放出することにより湿度を調整する作用があることから、高い調湿性能を備えている。このため、畳やその周囲(室内)の湿度が高いときは吸湿し、低いときは放湿することで、畳内部や室内の湿度が自動的に適度なレベルに保たれ、結露も抑えられる。また、この短繊維集合体fには、臭気やVOC(揮発性有機化合物)を吸着できる高い吸着性能があるとともに、吸着された成分(分子)の多くは羊毛により無害な物質に変性させられるため、吸着性能の持続性が高い特徴がある。
【0022】
したがって、本発明では、畳床Bの最上層に、高い調湿機能と消臭機能・VOC吸着除去機能を有する短繊維集合体fの層を設けたことにより、調湿性能と消臭性能・VOC吸着除去性能に優れた畳とすることができ、特に、室内側に近い部分に短繊維集合体fの層を設けることで、室内で発生する悪臭やVOCを吸着しやすく、しかも調湿効果も高められる。また、特に畳表にい草などの天然植物素材を編んだものを用いた場合には、その調湿性能と相俟って畳の調湿性能が効果的に高められ、カビやダニの防止に特に効果がある。
【0023】
さらに、短繊維集合体fには断熱性能もあるので、特に冬場での断熱効果が期待できる。また、従来では畳表Aと畳床Bとの間に薄い不織布が配される場合があるが、このような不織布とは異なり、上記短繊維集合体fはクッション性が高いため、踏み心地、座り心地や寝心地の良い畳とすることができ。さらに、短繊維集合体fにはクッション性と制振作用があるため、床衝撃音の緩和効果、室内で発生する音の吸音効果も得られる。
【0024】
本発明では、畳自体に高度の消臭機能・VOC吸着除去機能を付与し、室内で発生する悪臭やVOC(揮発性有機化合物)を効果的に取り除くことができる。以下に、本発明者らが行った消臭性試験及びVOC吸着試験の結果を示す。
生活臭には、例えば、生ゴミ臭、タバコ臭、排泄臭、体臭・汗臭などがあるが、これらに含まれるニオイ成分は、それぞれ異なる。例えば、生ゴミ臭に含まれる主たるニオイ成分は、硫化水素、メチルメルカプタン、トリメチルアミン、アンモニアであり、タバコ臭に含まれる主たるニオイ成分は、アンモニア、酢酸、アセトアルデヒド、ピリジン、硫化水素であり、排泄臭に含まれる主たるニオイ成分は、アンモニア、酢酸、メチルメルカプタン、硫化水素、インドールであり、体臭・汗臭に含まれる主たるニオイ成分は、アンモニア、酢酸、イソ吉草酸、ノネナールである。
【0025】
本発明者が短繊維集合体fの消臭性能を調査したところ、特に、アンモニア、酢酸、イソ吉草酸、インドールなどのニオイ成分に対しては、非常に高い吸着性能を発揮することが判った。また、他のニオイ成分についても、ある程度の吸着性能を有することが判った。
表1は、本発明の畳に使用する短繊維集合体f(羊毛xと中空ポリエステル繊維yの質量比x/yが25/75、密度が0.10g/cm
3)について、消臭性試験を実施した結果を示している。
【0026】
機器分析は、アンモニア、酢酸、硫化水素、ピリジン、メチルメルカプタン、アセトアルデヒド、トリメチルアミンについては検知管法で、イソ吉草酸、ノネナール、インドールについてはガスクロマトグラフィー法で、それぞれ行った。
試験方法は「(社)繊維評価技術協議会 機器分析実施マニュアル(検知管法、ガスクロマトグラフィー法)」に従い、初期ガス濃度は、アンモニア:100ppm、酢酸:50ppm、硫化水素:4ppm、ピリジン:12ppm、メチルメルカプタン:8ppm、アセトアルデヒド:14ppm、トリメチルアミン:28ppm、イソ吉草酸:約38ppm、ノネナール:約14ppm、インドール:約33ppmとし、測定時間は2時間、試料サイズは検知管法が2.4g、ガスクロマトグラフィー法は1.2gとした。
表1によれば、特に、アンモニア、酢酸、イソ吉草酸、インドールについて、吸着による高い減少率が得られている。
【0028】
次に、表1の消臭性試験で使用した短繊維集合体fを畳床Bの最上層に適用した本発明の畳について、消臭性試験を実施した。試験に供した畳(試料サイズ100cm
2)は、
図1に示す構造を有するとともに、畳表がい草からなるものである。表2に、その試験結果を示す。
試験方法は「(社)繊維評価技術協議会 機器分析実施マニュアル(検知管法)」に従い、初期ガス濃度は、アンモニア:100ppm、酢酸:50ppm、メチルメルカプタン:8ppm、硫化水素:4ppm、ピリジン:12ppm、アセトアルデヒド:14ppm、トリメチルアミン:28ppmとし、測定時間は2時間とした。
【0029】
表2によれば、短繊維集合体fの消臭性能に畳表Aを構成するい草の消臭性能が加わるために、アンモニア、酢酸、ピリジン、アセトアルデヒド、トリメチルアミン、硫化水素について、高い減少率が得られており、メチルメルカプタンについても、ある程度の減少率が得られている。
以上の表1及び表2の試験結果から、本発明の畳は、さきに挙げた生ゴミ臭、タバコ臭、排泄臭、体臭・汗臭などの生活臭を構成する主要なニオイ成分(アンモニア、酢酸、硫化水素、ピリジン、アセトアルデヒド、トリメチルアミン、イソ吉草酸、インドール)を効果的に吸着除去できることが判る。
【0031】
また、建物の高気密化や換気状態の変化に伴い、住宅において、建材や家具、接着剤、塗料などから放散するホルムアルデヒドなどのVOC(揮発性有機化合物)によって体調不良を引き起こすシックハウス症候群が社会問題となっている。これに対して本発明の畳は、畳床Bを構成する短繊維集合体fが優れたVOC吸着除去性能を有する。
本発明の畳に使用する短繊維集合体f(羊毛xと中空ポリエステル繊維yの質量比x/yが25/75、密度が0.10g/cm
3の短繊維集合体)について、ホルムアルデヒド吸着試験を、以下のように実施した。
【0032】
(a)試験方法
試料(短繊維集合体)1gをフラスコ(全容量:360ml)内に吊し入れ、フラスコ壁面に触れないようにした後、シリコン栓で密封した。このフラスコにホルムアルデヒド溶液40μLを試料に触れないように注意しながら注入し、速やかにホルムアルデヒドを気化させた。上記方法でガス状ホルムアルデヒドを均一としたフラスコ容器を複数作成し、恒温槽(25℃)に放置した後、一定時間毎(3分,1時間,3時間,5時間)に恒温槽から取り出し、フラスコ内のホルムアルデヒドを定量した。
対照試験(ブランク)として、試料を入れないフラスコを複数作成し、同様に一定時間毎(1時間,3時間,5時間)に恒温槽から取り出し、フラスコ内のホルムアルデヒドを定量した。
初期濃度は、上記対照試験で作成した直後(0時間)のフラスコ内のホルムアルデヒドを複数(3個)定量し、ばらつきがないことを確認した上で平均値を用いた。
【0033】
(b)ホルムアルデヒドの定量
ホルムアルデヒドは、シルコン栓に装着したガス採取口からフラスコ内部の空気を採取(50mL)し、捕集管(Sep-PaK DNPH;Waters社製)に捕集した。捕集したホルムアルデヒドは、アセトニトリルで溶出し、高速液体クロマトグラフ(HPLC)法で定量した。(準拠した定量方法:有害大気汚染物質測定の実際(環境庁大気保全局大気規制課監修;財団法人日本環境衛生センター発行)第2章第2節〜第4節)
【0034】
(c)ホルムアルデヒドの減少率及び吸着量
ホルムアルデヒドの減少率(%)は、一定時間放置した後に定量した結果[濃度:C
n]を初期濃度[C
0]で除した値とした。
減少率(%)=(C
n/C
0)×100
ホルムアルデヒド吸着量(μg/g)は、初期存在量[W
0]と一定時間放置した後の残存量[W
n]との差を試験に供した試料の重量[w]で除した値とし、試料の単位重量当たりのホルムアルデヒド吸着量とした。
吸着量(μg/g)=[(C
0×V)−(C
n×V)]/w
=(W
0−W
n)/w
ここで 初期存在量[W
0]:初期濃度[C
0(mg/m
3)]にフラスコ内容積(V=0.36L)を乗じた値(単位:μg)
残存量[W
n]:一定時間放置した後に定量した濃度[C
n(mg/m
3)]にフラスコ内容積(V=0.36L)を乗じた値(単位:μg)
【0035】
試験結果を
図2及び
図3に示す。ここで、「サンプル」が試料を用いた試験の結果、「ブランク」が対照試験の結果である。
これらによれば、本発明で使用する短繊維集合体fは優れたVOC吸着除去性能を有していることが判る。したがって、本発明の畳は、短繊維集合体fにより優れたVOC吸着除去性能を有するものである。