特許第6207067号(P6207067)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人土木研究所の特許一覧 ▶ 松江土建株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6207067-藻類増殖抑制方法 図000002
  • 特許6207067-藻類増殖抑制方法 図000003
  • 特許6207067-藻類増殖抑制方法 図000004
  • 特許6207067-藻類増殖抑制方法 図000005
  • 特許6207067-藻類増殖抑制方法 図000006
  • 特許6207067-藻類増殖抑制方法 図000007
  • 特許6207067-藻類増殖抑制方法 図000008
  • 特許6207067-藻類増殖抑制方法 図000009
  • 特許6207067-藻類増殖抑制方法 図000010
  • 特許6207067-藻類増殖抑制方法 図000011
  • 特許6207067-藻類増殖抑制方法 図000012
  • 特許6207067-藻類増殖抑制方法 図000013
  • 特許6207067-藻類増殖抑制方法 図000014
  • 特許6207067-藻類増殖抑制方法 図000015
  • 特許6207067-藻類増殖抑制方法 図000016
  • 特許6207067-藻類増殖抑制方法 図000017
  • 特許6207067-藻類増殖抑制方法 図000018
  • 特許6207067-藻類増殖抑制方法 図000019
  • 特許6207067-藻類増殖抑制方法 図000020
  • 特許6207067-藻類増殖抑制方法 図000021
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207067
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】藻類増殖抑制方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 7/00 20060101AFI20170925BHJP
   C02F 1/74 20060101ALI20170925BHJP
   C02F 3/06 20060101ALI20170925BHJP
   C02F 3/34 20060101ALI20170925BHJP
   E02B 3/00 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   C02F7/00
   C02F1/74 Z
   C02F3/06
   C02F3/34 Z
   E02B3/00
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-202279(P2013-202279)
(22)【出願日】2013年9月27日
(65)【公開番号】特開2015-66492(P2015-66492A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】301031392
【氏名又は名称】国立研究開発法人土木研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】500500446
【氏名又は名称】松江土建株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125298
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 伸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 穣
(72)【発明者】
【氏名】柴山 慶行
(72)【発明者】
【氏名】南山 瑞彦
(72)【発明者】
【氏名】久岡 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】坂本 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】譚 衛華
(72)【発明者】
【氏名】増木 新吾
(72)【発明者】
【氏名】戸島 邦哲
【審査官】 松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−100176(JP,A)
【文献】 特開2010−264384(JP,A)
【文献】 特開2011−101867(JP,A)
【文献】 特開平04−326990(JP,A)
【文献】 特開2005−313064(JP,A)
【文献】 特開2002−263691(JP,A)
【文献】 特開2004−290893(JP,A)
【文献】 特開平11−099389(JP,A)
【文献】 特開2001−340853(JP,A)
【文献】 特開2009−207986(JP,A)
【文献】 特開2013−059705(JP,A)
【文献】 特開2005−288416(JP,A)
【文献】 特開2006−181565(JP,A)
【文献】 特開2005−058954(JP,A)
【文献】 米国特許第04060574(US,A)
【文献】 特開2005−008455(JP,A)
【文献】 特開2007−125529(JP,A)
【文献】 特開平06−099196(JP,A)
【文献】 特開平10−057985(JP,A)
【文献】 特開2012−020275(JP,A)
【文献】 特開2004−249248(JP,A)
【文献】 特開2003−001272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/14− 3/26
C02F 7/00
A01K 61/00−61/65
A01K 61/80−63/10
C02F 11/00−11/20
C02F 1/58− 1/64
C02F 3/02− 3/10
C02F 3/28− 3/34
C02F 1/70− 1/78
E02B 1/00− 3/02
E02B 3/16− 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉鎖水域に発生する藻類の増殖を抑制する藻類増殖抑制方法であって、
表層と前記表層に比べて低温の底層との境界に水温躍層が形成される閉鎖水域の前記底層から吸引される底層水に空気を混合させ、溶存酸素を含む前記底層水としての酸素含有水のみを前記閉鎖水域における前記池底上2m以下の供給位置から前記閉鎖水域の前記底層に供給し、前記池底上1mにおける溶存酸素濃度を15mg/L以上とする酸素供給工程を含むことを特徴とする藻類増殖抑制方法。
【請求項2】
酸素供給工程が、閉鎖水域における池底上1mである底層水のpHを6以上として実施する請求項1に記載の藻類増殖抑制方法。
【請求項3】
閉鎖水域の上流部表層の水面下2〜5mにおいて、河川水が流入する水深を電気伝導度で検知し、当該水深に、前記河川水に含まれる金属類を酸化させる金属酸化微生物を担持可能な担体を収容するとともに、前記河川水を通過させる反応槽を配し、前記反応槽に酸素を含む気体を供給する金属酸化微生物処理工程を含む請求項1から2のいずれかに記載の藻類増殖抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダム貯水池や湖沼などの閉鎖水域における藻類の増殖を抑制する藻類増殖抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
閉鎖水域に藻類が増殖すると、景観が悪くなるほか、腐敗により、悪臭を放ったり、その閉鎖水域を水道水の水源としているような場合には、水道水から異臭味がしたりする問題が生ずる。
【0003】
こうしたことから、閉鎖水域における藻類の増殖を抑制する手法が種々提案されている。
例えば、ダム貯水池内で浅層曝気循環を行い、曝気の気泡により、水温躍層を動的に破壊して、表層の水温を低下させるとともに、藻類を有光層よりも深い位置に引き込むことにより、藻類の異常増殖を抑制する手法が提案されている。しかしながら、このような手法では、十分な効果を挙げていない例が多く見られる。
【0004】
そのため、本発明者らは、これまで藻類の増殖に必要な金属類を酸化させる微生物を自然発生的に担持させることが可能な担体を収容する反応槽と、該反応槽を曝気する曝気手段とを有する処理装置を閉鎖水域の表層に設置する方法を提案している(特許文献1参照)。
この手法は、閉鎖水域の表層に存在する金属類を酸化して沈降させ、これを藻類が利用できなくすることにより、間接的に藻類の増殖を抑制する方法に係り、閉鎖水域の表層に滞在する藻類への栄養源を断つことを想定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−207986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、その後の研究の結果、閉鎖水域の表層に存在する金属類の酸化により、その濃度を低下させることだけでは、藻類の増殖を十分に抑制できないことが分かってきた。
即ち、閉鎖性水域において、水温躍層により表層との水混合が妨げられている底層は、嫌気性になると底泥から金属類が溶出して高濃度に蓄積するが、藻類の中には、夜間に閉鎖水域の底層に沈降していると考えられる生態が確認され、こうした生態では、閉鎖水域の表層で利用できない金属類を閉鎖水域の底層に沈降して利用することが可能となる。
そのため、本発明者らは、閉鎖水域の底層における、藻類が増殖に利用する金属類の濃度を低下させ、これを利用することができないように対策を施すことで、より効果的に藻類の増殖を抑制することができることの知見を得た。
【0007】
本発明は、従来技術における前記諸問題を解決し、閉鎖水域中の藻類の増殖を効果的に抑制可能な藻類増殖抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 閉鎖水域に発生する藻類の増殖を抑制する藻類増殖抑制方法であって、表層と前記表層に比べて低温の底層との境界に水温躍層が形成される閉鎖水域の前記底層から吸引される底層水に空気を混合させ、溶存酸素を含む前記底層水としての酸素含有水のみを前記閉鎖水域における前記池底上2m以下の供給位置から前記閉鎖水域の前記底層に供給し、前記池底上1mにおける溶存酸素濃度を15mg/L以上とする酸素供給工程を含むことを特徴とする藻類増殖抑制方法。
<2> 酸素供給工程が、閉鎖水域における池底上1mである底層水のpHを6以上として実施する前記<1>に記載の藻類増殖抑制方法。
<3> 閉鎖水域の上流部表層の水面下2〜5mにおいて、河川水が流入する水深を電気伝導度で検知し、当該水深に、前記河川水に含まれる金属類を酸化させる金属酸化微生物を担持可能な担体を収容するとともに、前記河川水を通過させる反応槽を配し、前記反応槽に酸素を含む気体を供給する金属酸化微生物処理工程を含む前記<1>から<2>のいずれかに記載の藻類増殖抑制方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来技術における前記諸問題を解決することができ、閉鎖水域中の藻類の増殖を効果的に抑制可能な藻類増殖抑制方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】水温躍層が形成された閉鎖水域の状態を示す説明図である。
図2】本発明に係る藻類増殖抑制方法の一実施形態を示す説明図である。
図3】本発明に係る藻類増殖抑制方法の他の実施形態を示す説明図である。
図4】曝気水深と底層(池底上1m)におけるDO濃度の変化を示すグラフである。
図5図4に示すDO濃度変化期間中の底層の金属類濃度の変化を示すグラフである。
図6図4に示すDO濃度変化期間中の底層におけるpHの経日変化を示すグラフである。
図7図4に示すDO濃度変化期間中のダム貯水池の表層における藻類濃度の経日変化を示すグラフである。
図8図4に示すDO濃度変化期間中のダム貯水池の鉛直方向おける藻類濃度分布の経日変化を示すグラフである。
図9図4に示すDO濃度変化期間中の表層における溶解性の窒素濃度及びリン濃度の経日変化を示すグラフである。
図10図4に示すDO濃度変化期間中の底層における溶解性の窒素濃度及びリン濃度の経日変化を示すグラフである。
図11】曝気水深と底層DO濃度の経日変化を示すグラフである。
図12】底層の溶解性マンガン濃度と表層の藻類濃度の経日変化を示すグラフである。
図13】底層pHの経日変化を示すグラフである。
図14】底層におけるDO濃度と、溶解性マンガン濃度の関係を示すグラフである。
図15】2009年及び2010年での各実験の底層におけるDO濃度と、溶解性マンガン濃度の関係を示すグラフである。
図16】2011年の実験の底層におけるDO濃度と、溶解性マンガン濃度の関係を示すグラフである。
図17】酸素含有水供給機の設置位置から370m上流側で池底水深が20mの地点において、池底上1mにおける、DO濃度と溶解性マンガン濃度の関係を示すグラフである。
図18】最上流部と上流部における水深ごとの水温及び電気伝導度を示す図である。
図19】担体処理装置稼働前後での溶解性マンガン濃度の変化を示すグラフである。
図20】水深ごとの日間における藻類濃度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、閉鎖水域に発生する藻類の増殖を抑制する藻類増殖抑制方法であって、閉鎖水域における池底上2m以下の供給位置から溶存酸素を前記閉鎖水域の底層に供給し、池底上1mにおける溶存酸素濃度を5mg/L以上とする酸素供給工程を含むことを特徴とする。
これにより、前記閉鎖水域に発生する前記藻類の増殖を効果的に抑制することができる。
この仕組みを図1,2を参照しつつ説明する。なお、図1は、水温躍層が形成された閉鎖水域の状態を示す説明図であり、図2は、本発明に係る藻類増殖抑制方法の一実施形態を示す説明図である。
【0012】
図1に示す閉鎖水域1は、堤体2で閉鎖されたダム貯水池をモデルとした水域である。この閉鎖水域1では、一般的に、日射で温められた比較的高温の表層と、それより深い比較的低温の底層との境界に水温躍層が形成され、両層間での水の交換がほぼ行われない状態となる。そのため、前記水温躍層に遮られた前記底層では、前記表層への動きが停滞し、溶存酸素の供給が行われずに消費だけが進行することにより、貧酸素状態となり、底泥中の金属類(FeやMn等)が水中に溶出する。これにより、水中に溶出した前記金属類は、閉鎖水域1の底層中に高濃度に蓄積するとともに、表層に拡散し、前記表層に滞在する藻類の増殖に利用されることとなる。
【0013】
これに対し、本発明に係る藻類増殖抑制方法では、図2に示すように、酸素含有水供給機10を閉鎖水域1の底層に設置し、台船等により、閉鎖水域1上に設置された酸素含有気体供給機11から供給される酸素含有気体を、酸素含有水供給機10内に吸引される底層水と混合させ、酸素含有水供給機10から酸素含有水として、前記溶存酸素を前記底層水中に水温躍層を破壊することなく供給する。なお、本明細書において、酸素含有水とは、酸素が溶存した状態の水を指し示す。
これにより、底層中の溶存酸素濃度(以下、DO濃度という)が上昇し、前記底層水中に溶出した前記金属類を酸化させ、固体状となった金属酸化物(FeやMnO等)を底泥上に沈殿させることができる。河川水中の金属類濃度は、もともと低濃度であり、底層からの金属類の拡散が抑制されるため、前記表層に滞在する前記藻類が前記金属類を利用することができなくなり、前記藻類の増殖が抑制されることとなる。また、前記表層に滞在する前記藻類が、前記底層まで沈降してきた場合であっても、前記底層水中に溶出される前記金属類が、前記金属酸化物として底泥上に沈殿されるため、前記藻類が前記金属類を利用することができず、前記藻類の増殖を抑制することができる。
【0014】
ここで、酸素含有水供給機10から前記酸素含有水を前記底層中に供給する位置を池底上2m以下とすることが肝要である。即ち、前記酸素含有水の供給を前記池底上から2mを超える位置で行った場合、前記底泥の酸素消費速度が大きい場合には、前記金属類の溶出源となる前記底泥近辺での前記DO濃度を高く維持することが困難となり、前記底泥近辺に沈降してきた前記藻類が前記底泥から溶出する前記金属類を利用することができる状態となる。
そのため、酸素含有水供給機10から前記酸素含有水を前記底層中に供給する位置としては、前記池底上2m以下であり、できる限り、前記金属類の溶出源となる前記底泥近辺とすることが好ましい。
また、酸素含有水供給機10を用いた前記酸素含有水の供給は、閉鎖水域1が広大である場合、前記供給位置である限り、閉鎖水域1の水域を複数に分割して、これら各最深部で実施することとしてもよい。
【0015】
前記酸素含有気体としては、特に制限はなく、酸素気体そのもの(純酸素)であっても、空気のように前記酸素気体と他の気体との混合気体であってもよい。
【0016】
前記酸素含有水の供給による、前記底層への酸素供給量としては、前記池底上1mの位置において、前記DO濃度(mg/L)が低下傾向を示すことなく5mg/L以上を確保できることが必要である。前記DO濃度(mg/L)の上限は、理想的に、前記位置での前記酸素含有水の供給実施時における飽和溶存酸素量となる。
【0017】
酸素含有水供給機10としては、必要な前記酸素供給能力が得られる限り、特に制限はなく、公知の酸素含有水供給機を用いることができ、例えば、特許第4378337号公報に記載の気液溶解装置等を用いることができる。
また、酸素含有気体供給機11としても、必要な前記酸素供給能力が得られる限り、特に制限はなく、公知の酸素含有気体供給機を用いることができ、公知のエアコンプレッサ等を用いることができる。
【0018】
閉鎖水域1の前記底層では、前記底泥や底層水中に存在する有機物が酸化されて二酸化炭素が生成され、前記底層のpHが低下する傾向にある。pHの低下は、前記金属類の酸化速度を鈍化させることがある。
こうした観点から、前記酸素供給工程としては、必要に応じて、閉鎖水域1における前記池底上1mである底層水のpHを6以上として実施することが好ましい。
前記pHの調整方法としては、特に制限はないが、pH低下の原因が前記二酸化炭素である場合には、前記酸素含有気体として、空気のように窒素を含む気体を用い、前記窒素中に前記二酸化炭素を脱気させて、これを閉鎖水域1外に排気する方法が好ましい。即ち、この空気を用いた方法によれば、pHの調整と同時に、前記酸素含有水を供給することができ、効率的な実施が可能となる。
【0019】
前記酸素供給工程としては、前記藻類が増殖する以前の春から秋の期間に亘り連続して実施することが好ましい。
【0020】
前記藻類増殖抑制方法としては、前記酸素供給工程のほかに、金属酸化微生物処理工程を含むこととしてもよい。
前記金属酸化微生物処理工程は、河川水が流入する閉鎖水域の上流部表層の水面下2〜5mにおいて、河川水が流入する水深を電気伝導度で検知し、当該水深に、前記河川水に含まれる金属類を酸化させる金属酸化微生物を担持可能な担体を収容するとともに、前記河川水を通過させる反応槽を配し、前記反応槽に酸素を含む気体を供給する工程である。
【0021】
前記河川水が流入する前記閉鎖水域の最上流部では、前記底層に溶存酸素が存在するにも関わらず、堆積した森林由来の有機物が還元力となり、前記池底から前記金属類が溶出することがある。夏季には、前記河川水の水温が、前記閉鎖水域表層の水温よりも低いため、前記河川水は、前記池底を這うように前記閉鎖水域の最上流部に侵入し、溶出した高濃度の前記金属類を連行して前記閉鎖水域の上流部の表層やや下に流入する。
【0022】
これに対して、河川水の流入水深を電気伝導度で検知して、その水深に前記金属酸化微生物処理工程を実施すれば、前記河川水から流入した前記金属類を前記金属酸化微生物により酸化させるとともに、流入河川水の流れに担体から剥離する金属酸化微生物を供給して、堤体までの移流の間に金属類の酸化を進行させて、前記池底に沈殿させることができ、延いては、前記金属類の前記藻類による利用を抑制することができる。
この様子を図3を用いて説明する。なお、図3は、本発明に係る藻類増殖抑制方法の他の実施形態を示す説明図である。
【0023】
図3に示すように、前記金属酸化微生物処理工程を実施する担体処理装置20を閉鎖水域1の上流部に設置する。その設置水深は、最上流部の前記金属類を高濃度に含む底層水を連行した河川水が侵入する水深とし、電気伝導度で検知する。担体処理装置20は、前記金属酸化微生物を担持可能な担体を収容するとともに、前記河川水を通過させる反応槽を有している。また、この反応槽は、前記金属酸化微生物を活性化させるための酸素を導入する曝気手段21に接続されている。
この状態で、閉鎖水域1最上流部の前記金属類を高濃度に含む底層水を連行した河川水を担体処理装置20の反応槽に通過させ、この際、前記金属酸化微生物による酸化反応を進行させる。これにより、前記金属類を直接的に酸化させるとともに、流入する前記河川水に対して、酸化反応により増殖した前記金属酸化微生物が自然に担体から剥離して供給され、堤体2までの移流の間に、前記金属類の酸化を進行させ、前記金属類を前記金属酸化物として前記池底上に沈殿させることができる。
したがって、酸素含有水供給機10及び酸素含有気体供給機11による前記酸素供給工程と並行して、担体処理装置20及び曝気手段21による前記金属酸化微生物処理工程を実施すれば、前記金属類の利用を制限させて、より確実に前記藻類の増殖を抑制することができる。
【0024】
なお、担体処理装置20としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の装置から適宜選択して用いることができ、例えば、特開2009−207986号公報に記載の藻類増殖抑制装置を用いることができる。
また、曝気手段21としても、特に制限はなく、目的に応じて公知の装置から適宜選択して用いることができ、例えば、公知のエアーコンプレッサ等を用いることができる。
以下に、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の技術的思想は、この例に限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
(金属類濃度の低下が藻類濃度に与える影響)
藻類の異常増殖が問題となっている島根県の三瓶ダムを試験場とし、酸素含有水供給装置(松江土建株式会社製)を、台船からダム貯水池内に進水させ、酸素含有気体供給装置から酸素を供給することで、ダム貯水池内に高濃度酸素水を供給した。酸素含有水供給装置を用いた曝気の水深(曝気水深)を、ダム貯水池の最深水深27mに対して、25m(池底上2m)、15m、14mに適宜変更した。
【0026】
図4に、曝気水深と底層(池底上1m)におけるDO濃度の変化を示す。この図4に示すように、DO濃度は、曝気水深が15mのときに、20mg/L程度であったが、曝気水深を25m(池底上2m)に下げると、40mg/Lを超えて上昇し、再び、曝気水深を14mまで上げることによって、20mg/L程度まで低下するように変動した。
なお、このDO濃度は、酸素含有水供給機の設置位置から2mほど横の地点の当該水深において、多項目水質計(Hydrolab社:DS−5X)により測定し、以降の測定でも、同様に測定した。
【0027】
図5に、図4に示すDO濃度変化期間中の底層の金属類濃度の変化を示す。図5中、T−Mnは、底層(池底上1m)の全マンガン濃度を示し、D−Mnは、底層の溶解性マンガン濃度を示し、T−Feは、底層の全鉄濃度を示し、D−Feは、底層の溶解性鉄濃度を示し、以降の図においても、同じ事項を示す。この図5に示すように、溶解性鉄濃度は、高濃度酸素水の供給開始当初から低下する傾向を示し、曝気水深の上下に関わらず、全期間を通じて低い値に保たれた。一方、溶解性マンガン濃度は、高濃度酸素水の供給開始当初では、2,500μg/Lであったが、曝気水深を25m(池底上2m)に下げることによって、ほぼ0μg/Lに低下し、再び曝気水深を上げることによって、3,500μg/Lに上昇した。しかし、2009年の9月16日以降では、曝気水深を25m(池底上2m)に下げても、低い値に抑えることができなかった。
なお、これら全マンガン濃度、溶解性マンガン濃度、全鉄濃度及び溶解性鉄濃度は、次の方法により測定し、以降の測定でも、同様に測定を行った。
即ち、酸素含有水供給機の設置位置から2mほど横の地点の当該水深から試料を採取し、河川水質試験方法(案)(1997年版)に従い、ICP−MS(サーモフィッシャーサイエンティフィック社:X7CT)により測定した。
【0028】
これら溶解性金属類の濃度変化には、DO濃度に応じた酸化還元反応の進行が関係していたと考えられるが、鉄とマンガンでは、その傾向が大きく異なっていた。即ち、図4図5に示すように、鉄では、溶存酸素が存在していれば、低い濃度に保たれていた。一方、マンガンでは、DO濃度が低下すると、底泥からの還元溶出量が大きくなり、酸化反応が進行して濃度を低下させるためには、池底近くで曝気を行い、常に溶存酸素を供給することが必要であった。なお、2009年9月16日以降に、曝気水深が池底上2mであるにも関わらず、溶解性マンガン濃度が低下しなかった理由としては、沈降した藻類(この点については、後述する)からの溶解性マンガンの溶出と、底層のpHが6未満と低いことによる溶解性マンガンの酸化速度の抑制とが考えられる。
図6に、図4に示すDO濃度変化期間中の底層におけるpHの経日変化を示す。この図6に示すように、全期間を通してpHが6未満の低い値であり、このことが、2009年9月16日以降に、沈降藻類から溶出したマンガンを十分に酸化させることができなかった要因のひとつになったものと考えられる。
なお、このpHは、酸素含有水供給機の設置位置から2mほど横の地点の当該水深において、多項目水質計(Hydrolab社:DS−5X)により測定し、以降の測定でも、同様に測定した。
【0029】
図7に、図4に示すDO濃度変化期間中のダム貯水池の表層(水面下0.5m)における藻類濃度の経日変化を示す。ここで、藻類濃度は、ダム貯水水の濁度及び粒子態リン濃度(P−P)として観察している。この図7に示すように、藻類濃度は、底層における溶解性マンガン濃度の変化に対応して変化し、溶解性マンガン濃度の低下期間中に、急激な低下が見られた。
なお、濁度は、酸素含有水供給機の設置位置から2mほど横の地点の当該水深において、多項目水質計(Hydrolab社:DS−5X)により測定した。また、粒子態リン濃度の測定は、藻類に含まれる粒子態リンの濃度を測定することで、間接的に藻類濃度の測定を行うことを目的としたものであり、酸素含有水供給機の設置位置から2mほど横の地点の当該水深から試料を採取し、下水試験方法に従い、栄養塩自動分析装置(TRAACS2000型:ブラン・ルーベ社)により測定した。
【0030】
また、図8に、図4に示すDO濃度変化期間中のダム貯水池の鉛直方向おける藻類濃度分布の経日変化を示す。この図8に示すように、曝気水深を池底から高く設定した2009年7月14日まで、表層付近で高い藻類濃度が確認されたが、曝気水深を25m(池底上2m)に下げた2009年7月15日〜同年8月10日の期間中に、表層の藻類濃度が顕著に低下した。なお、この際、中層及び下層においても、顕著な藻類濃度の増加が確認されなかったことから、表層に集積していた藻類は、池底に沈降したものと考えられる。
【0031】
このような藻類濃度の経日変化に対し、従来、栄養源として藻類増殖の一因と考えられてきた、窒素及びリンの各濃度の測定を併せて行った。
図9に、図4に示すDO濃度変化期間中の表層における溶解性の窒素濃度及びリン濃度の経日変化を示す。また、図10に、図4に示すDO濃度変化期間中の底層における溶解性の窒素濃度及びリン濃度の経日変化を示す。なお、これらの図中、D−N及びD−Pは、溶解性の窒素及びリンを示し、T−N及びT−Pは、全窒素及び全リンを示す。
意外なことに、図9図10で確認されるように、表層、底層の溶解性の窒素濃度及びリン濃度は、期間中、大きく変化しておらず、図7図8に示した藻類濃度の変化との関連性が確認されないことから、溶解性の窒素濃度及びリン濃度が、藻類濃度の変化に与えた影響は、小さいと考えられる。なお、図9図10では、全窒素濃度及び全リン濃度を併せて示しているところ、全窒素濃度及び全リン濃度については、藻類濃度の増減に対応した変化が確認される。これは、測定値が藻類に含まれる窒素及びリンの含有量を含んでいるためである。
なお、溶解性窒素濃度、溶解性リン濃度、全窒素濃度及び全リン濃度は、次の方法により測定した。
即ち、酸素含有水供給機の設置位置から2mほど横の地点の当該水深から試料を採取し、下水試験方法に従い、栄養塩自動分析装置(TRAACS2000型:ブラン・ルーベ社)により測定した。
【0032】
以上、図4図10に示される各測定結果から、底層の溶解性マンガン濃度を低下させることによって、表層における藻類濃度を低減させることができると考えられる。
【0033】
(安定的な溶解性マンガン濃度の低下条件と藻類濃度への影響)
先に行った2009年の実験では、既に表層に増殖していた藻類が沈降したこと、底層のpHが比較的低く溶解性マンガンの酸化速度を低下させたことから、溶解性マンガン濃度を安定的に低下させるには、至らなかった。
このため、2011年の実験では、夏当初(6月上旬)の藻類増殖前から、酸素供給を開始するとともに、底層pHの低下を抑制することとした。底層pHの低下は、有機物酸化等により生成された二酸化炭素が底層水中に蓄積したためと考えられるため、酸素含有水供給装置への供給気体を純酸素から空気に変え、蓄積した二酸化炭素を空気に含まれる窒素ガスによって脱気することにより、底層pHの低下を抑制することとした。
【0034】
図11に、曝気水深と底層DO濃度の経日変化を示す。また、図12に、底層の溶解性マンガン濃度と表層の藻類濃度の経日変化を示す。
これら図11図12に示すように、空気供給曝気を2011年6月から水深23m(池底上4m)で行ったところ、2011年7月19日には、極めて低い底層の溶解性マンガン濃度が達成され、表層の藻類濃度(濁度)も低い値に保持された。2011年7月28日に曝気水深を19mに引き上げたところ、底層のDO濃度が低下し、これに連れて、底層の溶解性マンガン濃度が上昇し、表層の藻類濃度が上昇したが、再び曝気水深を25m(池底上2m)に下げることによって、底層の溶解性マンガン濃度が低下し、これに連れて、表層の藻類濃度も低下した。
溶解性マンガン濃度が低下した期間中の底層におけるpHは、図13の底層pHの経日変化のグラフに示すように、6以上で低下が抑制されており、これにより、曝気水深を下げた場合に、確実に溶解性マンガンが酸化されたと考えられる。
【0035】
以上、図11図13に示される各測定結果から、藻類が増殖する前の早い時期から空気供給曝気を継続的に行うことにより、DO濃度を上昇させるとともに、pHの低下を抑制して、底層の溶解性マンガン濃度を低い値に保ち、これにより、表層の藻類濃度を抑えることが可能であると考えられる。
【0036】
(溶解性マンガン濃度低下のための好適条件)
上記貯水池の溶解性マンガン濃度を低下させる実験は、2009年〜2012年の各年毎に行っている。
ここで、2009年の実験では、底層への酸素供給を、酸素含有水供給装置に純酸素を供給することで行い、2010年、2011年の各実験では、底層への酸素供給を、酸素含有水供給装置に空気を供給することで行っている。また、2009年の実験における純酸素の供給速度は、120m/hとし、2010年、2011年の各実験における空気の供給速度は、120m/hとしている。ここでは、溶解性マンガン濃度低下のための、DO濃度について検討する。
【0037】
図14に、底層におけるDO濃度と、溶解性マンガン濃度の関係を示す。この図14に示されるように、前述の純酸素及び空気の供給条件に基づき、これらを供給すると、底層のDO濃度が上昇し、これに連れて、底層の溶解性マンガン濃度の低下することが確認される。なお、DO濃度の測定は、池底上1m(底層)で行っている。
この様子を更に、図15図16を用いてより詳しく説明する。図15は、2009年及び2010年での各実験の底層におけるDO濃度と、溶解性マンガン濃度の関係を示すグラフであり、図16は、2011年の実験の底層におけるDO濃度と、溶解性マンガン濃度の関係を示すグラフである。各図中、矢印は、曝気条件の変更に伴う測定結果の変遷の流れを示し、一点鎖線を併記した測定線は、池底上2mにおいて曝気したときに得られた測定結果を示す。
これら図15図16に示すように、2009年の純酸素を供給する条件において、底層溶解性マンガン濃度の有意な低下(溶解性マンガン濃度がほぼゼロ)が確認されるDO濃度は、35mg/L以上であり、また、2010年、2011年の空気を供給する条件において、底層溶解性マンガン濃度の有意な低下が確認されるDO濃度は、15mg/L以上であった。
なお、図15の楕円で囲った部分の測定結果では、DO濃度の上昇に対して、有意に底層溶解性マンガン濃度を低下させることができていないが、これは、既に増殖した藻類が沈降したこと、pHの低下によって溶解性マンガン濃度の酸化速度が低下したことに基づくものである。
また、純酸素及び空気を同じ供給速度で供給しても、曝気水深を引き上げた場合には、底層の溶解性マンガン濃度が増加する傾向が確認される。
以上のことから、溶解性マンガン濃度を低い濃度に保つためには、池底上2m以下で曝気し、DO濃度が低下しないように継続的に純酸素や空気を供給する必要がある。
しかし、ここで得られたDO濃度については、酸素含有水供給機の設置水深と溶存酸素供給能力により決定されたものであり、十分条件ではあるが必要条件ではない。このため、酸素含有水供給機の設置位置から370m上流側で池底水深が20mの地点において、池底上1mにおける、より低いDO濃度と溶解性マンガン濃度との関係を求めた。その関係を図17に示すが、溶解性マンガン濃度を低く抑えるためには、DO濃度を5mg/L程度以上とすることが必要であることがわかる。
【0038】
(ダム貯水池最上流部から流入する金属類への対策)
試験場である三瓶ダム貯水池では、流入河川水が最上流部の池底から溶出した金属類を連行して流入するため、藻類増殖の原因となっている。そのため、藻類増殖を効果的に抑制するためには、貯水池の最深部だけでなく、河川水が流入する上流側において、池底を這って侵入する金属類への対策が必要となる。即ち、夏季には、流入河川水の水温が、ダム貯水池表層の水温よりも低いため、流入河川水は、池底を這うようにダム貯水池の最上流部に侵入し、溶出した高濃度の金属類を連行してダム貯水池上流部の水面下2〜5mに流入する。この様子を図18により説明する。水温が約22℃であった河川水は、最上流部で貯水池水とやや混じり合って水温を高め、しかし、貯水池表層よりは低い水温を保ちながら、最上流部池底に侵入する。これは、低水温ほど水の密度が高いためである。そして、侵入河川水は最上流部底泥から溶出した金属類を連行して電気伝導度を高め、上流部において密度が同じである同じ水温の水深に流入する。この水深は、2〜2.5mとなっている。なお、図18は、2011年6月の最上流部と上流部における水深ごとの水温及び電気伝導度を示す図である。
こうしたことから、2011年7月から、河川水が貯水池に流入する上流部における河川水の流入水深を電気伝導度で検知し、これが水深3mであったことからこの水深に担体処理装置(担体:JFEエンジニアリング株式会社製)を設置し、流入する河川水中の金属類濃度を低下させることとした。この担体処理装置は、藻類の増殖に必要な金属類を酸化させる金属酸化微生物(マンガン酸化細菌等)を担持可能な担体が収容された反応槽と、河川水と接触することにより、担体に自然的に発生する金属酸化微生物の金属類酸化を促すために曝気する曝気手段(エアーコンプレッサ)に接続され、曝気した状態で反応槽に河川水を通過させることで、金属酸化微生物により金属類を酸化させるとともに、流入河川水の流れに担体から剥離する金属酸化微生物を供給して、堤体までの移流の間に金属類の酸化を進行させて、その金属酸化物を池底に沈降させる装置である。
【0039】
図19に、担体処理装置稼働前後での溶解性マンガン濃度の変化を示す。この図19に示されるように、担体処理装置稼働後では、それまでに見られていた、ダム貯水池表層(湖心表面下0.5m)における溶解性マンガン濃度の一時的な上昇が確認されなくなり、安定して低い濃度を保つことができた。
即ち、河川水流入に伴い貯水池の池底を這って侵入する溶解性マンガン濃度を低下させることによって、貯水池への溶解性マンガンの負荷を減少させ、表層における溶解性マンガン濃度を効果的に低減させることができた。
以上により、担体処理装置による処理を酸素含有水供給装置による処理と並行して行うことで、藻類増殖の抑制をより確実に行うことができると考えられる。
【0040】
(底層の溶解性マンガン濃度低下により表層の藻類濃度上昇が抑制される原因の推定)
藍藻類であるミクロキスティスの増殖には、Mn錯体が大きな影響を与え、また、Mn錯体を形成する物質が底泥溶出水中に含まれているとの研究報告例がある(Chika Tada etal, The Effect of Manganese Released from Lake Sediment on the Growth of Cyanobacterium Microcystis aeruginosa, Japanese Journal of Water Treatment Biology, 38(2), 95-102, 2002)。三瓶ダムにおいては、底泥から高濃度のMnが溶出するが、これらは錯体を形成していて、藍藻類に利用されやすい形態になっていると考えられる。
【0041】
ここで、日間の藻類濃度の変化を水深ごとに調べたところ、夜間において、底層での藻類濃度が高くなっていることが観測された。図20に、水深ごとの日間における藻類濃度の変化を示す。この図20の測定結果から、有光層である表層に滞在すると考えられてきた藻類は、栄養源である金属類を利用するために、夜間、底層に沈降していることが強く推察される。
以上のことから、底層の溶解性マンガン濃度を低減させることで、表層に溶解性マンガンが拡散することを抑制することができることに加え、底層に沈降してMn錯体を利用していた藻類がこれを利用することができなくなり、結果として、表層の藻類濃度を低減させることができたものと考えられる。
【符号の説明】
【0042】
1 閉鎖水域
2 堤体
10 酸素含有水供給機
11 酸素含有気体供給機
20 担体処理装置
21 曝気手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20