特許第6207073号(P6207073)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6207073アルミニウム製熱交換器、ヒートシンク付パワーモジュール用基板、及び、アルミニウム製熱交換器の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207073
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】アルミニウム製熱交換器、ヒートシンク付パワーモジュール用基板、及び、アルミニウム製熱交換器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20170925BHJP
   C23C 8/12 20060101ALI20170925BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20170925BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20170925BHJP
   B23K 35/28 20060101ALN20170925BHJP
【FI】
   H01L23/36 C
   C23C8/12
   C22C21/00 J
   C22C21/00 L
   F28F21/08 A
   !B23K35/28 310A
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-246355(P2013-246355)
(22)【出願日】2013年11月28日
(65)【公開番号】特開2014-135479(P2014-135479A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2016年10月13日
(31)【優先権主張番号】特願2012-269692(P2012-269692)
(32)【優先日】2012年12月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000176707
【氏名又は名称】三菱アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100129403
【弁理士】
【氏名又は名称】増井 裕士
(72)【発明者】
【氏名】大井 宗太郎
(72)【発明者】
【氏名】兵庫 靖憲
(72)【発明者】
【氏名】三宅 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】江戸 正和
【審査官】 秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−093020(JP,A)
【文献】 特開2012−061483(JP,A)
【文献】 特開2009−260169(JP,A)
【文献】 特開平04−255254(JP,A)
【文献】 特開2012−055895(JP,A)
【文献】 特開昭63−157000(JP,A)
【文献】 特開2007−067258(JP,A)
【文献】 特開2012−199332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
C22C 21/00
C23C 8/12
F28F 21/08
B23K 35/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外気と接する外面を有するアルミニウム製熱交換器であって、
前記外面の少なくとも一部は、Mn;0.1mass%以上2.5mass%以下を含有するとともに、Bi;0.005mass%以上1.0mass%以下を含むアルミニウム合金で構成され、
前記外面のうち前記アルミニウム合金で構成された領域には、熱酸化処理によって形成された酸化皮膜が設けられており、赤外線領域(波長;1.35μm以上4.0μm以下)の温度25℃における放射率が0.22以上とされていることを特徴とするアルミニウム製熱交換器。
【請求項2】
前記外面の少なくとも一部を構成する前記アルミニウム合金において、Mgが0.1mass%以上2.5mass%以下含有していることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム製熱交換器。
【請求項3】
絶縁層と前記絶縁層の一方の面に形成された回路層とを有するパワーモジュール用基板と、このパワーモジュール用基板に接合されたヒートシンクと、を備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板であって、
前記ヒートシンクが、請求項1又は請求項2に記載されたアルミニウム製熱交換器であることを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載されたアルミニウム製熱交換器の製造方法であって、
前記外面のうち前記アルミニウム合金で構成された領域に酸化皮膜を形成する熱酸化処理工程を実施することを特徴とするアルミニウム製熱交換器の製造方法。
【請求項5】
前記熱酸化処理工程が、前記アルミニウム製熱交換器においてろう付けを実施するろう付け工程であることを特徴とする請求項4に記載のアルミニウム製熱交換器の製造方法。
【請求項6】
前記熱酸化処理工程が、ベーマイト処理であることを特徴とする請求項4に記載のアルミニウム製熱交換器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、外気と接する外面を有するアルミニウム製熱交換器、このアルミニウム製熱交換器を用いたヒートシンク付パワーモジュール用基板、及び、アルミニウム製熱交換器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、前述のアルミニウム製熱交換器は、発熱する電子部品を有する電子機器等に広く用いられている。
例えば、風力発電や電気自動車や電気車両などを制御するために用いられる大電力制御用のパワー半導体素子を搭載した半導体装置においては、AlN(窒化アルミ)などからなるセラミックス基板(絶縁層)の一方の面及び他方の面に回路層及び金属層を形成したパワーモジュール用基板とこのパワーモジュール用基板に接合されたヒートシンクとを備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板が用いられており、ヒートシンクとして、前述のアルミニウム製熱交換器が用いられている。
【0003】
上述のヒートシンク付パワーモジュール用基板としては、例えば、特許文献1に開示されたものが提案されている。特許文献1に記載されたヒートシンク付パワーモジュール用基板は、AlN(窒化アルミ)からなるセラミックス基板の両面にアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属板(回路層及び金属層)が接合されたパワーモジュール用基板と、アルミニウム製熱交換器とが、Al−Si系のろう材を用いたろう付けによって接合されている。そして、このヒートシンク付パワーモジュール用基板の回路層上にパワー半導体素子がはんだ等によって接合され、パワーモジュール(半導体装置)となる。
このように構成されたパワーモジュールにおいては、パワー半導体素子で発生した熱は、パワーモジュール用基板を介してアルミニウム製熱交換器へと伝達され、例えば、液冷式のアルミニウム製熱交換器であれば冷却水によって熱が上記熱交換器から除去されることとなる。
【0004】
ところで、上記冷却水の温度は80℃から100℃と高温化しており、冷却水の冷却にかかる負担は大きくなっている。そのため、上述のアルミニウム製熱交換器においては、熱を外部に向けて効率的に放散し、冷却水の冷却にかかる負担を低減することが求められる。そこで、従来より、放熱特性を向上させた熱交換器用材料が提案されている。
例えば、特許文献2には、基材表面に形成した無電解めっき膜を黒色化処理することによって放熱特性を向上させた黒色膜付基材が提案されている。
また、特許文献3には、マグネシウム又はマグネシウム合金材料の表面に陽極酸化膜を形成することによって放熱特性を向上させた放熱材料が提案されている。
さらに、特許文献4,5には、赤外線ヒータ等に用いられる遠赤外線放射体であって、アルミニウム又はアルミニウム合金材料の表面に陽極酸化膜を形成したものが提案されている。このような遠赤外線放射体においては、放熱特性にも優れることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−093225号公報
【特許文献2】特許第4476736号公報
【特許文献3】特許第4957984号公報
【特許文献4】特許第3195020号公報
【特許文献5】特許第3683776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献2においては、無電解めっき膜を形成した上で黒色処理を実施している。また、特許文献3−5においては、陽極酸化処理を実施して所定厚さの陽極酸化膜を形成していた。
このように、特許文献2−5に記載された発明においては、放熱特性を向上させるために、めっき処理や陽極酸化処理等の特殊な工程を行う必要があり、効率良く熱交換器を製造することができなかった。
【0007】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、放熱特性に優れ、特殊な工程を実施することなく製造することが可能なアルミニウム製熱交換器、このアルミニウム製熱交換器を用いたヒートシンク付パワーモジュール用基板、及び、アルミニウム製熱交換器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討した結果、Mnを含有するとともに、Biを含有するアルミニウム合金においては、めっき処理や陽極酸化処理等の特殊な工程に比べて容易な加熱処理(熱酸化処理)を行うことによって表層にBiが濃縮して厚い酸化皮膜が形成され、赤外線領域における放射率が向上するとの知見を得た。
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明のアルミニウム製熱交換器は、外気に接する外面を有するアルミニウム製熱交換器であって、前記外面の少なくとも一部は、Mn;0.1mass%以上2.5mass%以下を含有するとともに、Bi;0.005mass%以上1.0mass以下を含むアルミニウム合金で構成され、前記外面のうち前記アルミニウム合金で構成された領域には、熱酸化処理によって形成された酸化皮膜が設けられており、赤外線領域(波長;1.35μm以上4.0μm以下)の温度25℃における放射率が0.22以上とされていることを特徴としている。
【0009】
この構成のアルミニウム製熱交換器においては、外気と接する外面の少なくとも一部が、Mn;0.1mass%以上2.5mass%以下を含有するとともに、Bi;0.005mass%以上1.0mass以下を含むアルミニウム合金で構成されているので、加熱処理(熱酸化処理)を行うことでBiが表層に濃縮し、酸化皮膜が厚く形成されることになる。これにより、赤外線領域(波長;1.35μm以上4.0μm以下)の温度25℃における放射率を0.22以上とすることができ、放熱特性を向上させることができる。
【0010】
Biの含有量が0.005mass%未満の場合には、熱酸化処理によって酸化皮膜を十分に厚く形成することができず、放射率の向上を図ることができないおそれがある。一方、Biの含有量が1.0mass%を超える場合には、加工性が低下し、圧延板等を成形することが困難となる。以上のことから、外気と接する外面の少なくとも一部を構成するアルミニウム合金におけるBiの含有量を、Bi;0.005mass%以上1.0mass以下の範囲内に設定している。
また、Mnの含有量が0.1mass%未満の場合には、強度が不十分であって、熱交換器を成形することが困難となるおそれがある。一方、Mnの含有量が2.5mass%を超える場合には、巨大な金属間化合物が生成して圧延性が低下し、熱交換器を成形することが困難となるおそれがある。以上のことから、外気と接する外面の少なくとも一部を構成するアルミニウム合金におけるMnの含有量を0.1mass%以上2.5mass%以下の範囲内に設定している。
【0011】
ここで、前記外面の少なくとも一部を構成する前記アルミニウム合金において、Mgを0.1mass%以上2.5mass%以下の範囲で含有していることが好ましい。
Mgの含有量を0.1mass%以上2.5mass%以下とすることにより、放射率を十分に高くすることができ、放熱特性を確実に向上させることが可能となる。
【0012】
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、絶縁層と前記絶縁層の一方の面に形成された回路層とを有するパワーモジュール用基板と、このパワーモジュール用基板に接合されたヒートシンクと、を備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板であって、 前記ヒートシンクが、上述のアルミニウム製熱交換器であることを特徴としている。
【0013】
この構成のヒートシンク付パワーモジュール用基板によれば、放熱特性に優れたアルミニウム製熱交換器を備えているので、パワー半導体素子等から発生する熱を効率的に放散することが可能となる。よって、信頼性に優れたパワーモジュール(半導体装置)を製造することができる。また、アルミニウム製熱交換器の外面の少なくとも一部における赤外線領域の放射率が0.22以上とされていることから、パワーモジュール用基板若しくは半導体素子との接合等を実施する際に、加熱効率が向上することになる。
【0014】
本発明のアルミニウム製熱交換器の製造方法は、上述のアルミニウム製熱交換器の製造方法であって、前記外面のうち前記アルミニウム合金で構成された領域に酸化皮膜を形成する熱酸化処理工程を実施することを特徴としている。
【0015】
この構成のアルミニウム製熱交換器の製造方法によれば、外気と接する外面の少なくとも一部を、Mn;0.1mass%以上2.5mass%以下を含有するとともに、Bi;0.005mass%以上1.0mass%以下を含み、好ましくはMgが0.1mass%以上2.5mass%以下含有しているアルミニウム合金で構成し、熱酸化処理工程を実施する構成としているので、外面の少なくとも一部に酸化皮膜を厚く形成することができ、赤外線領域(波長;1.35μm以上4.0μm以下)の温度25℃における放射率を0.22以上とすることが可能となる。また、めっき工程や陽極酸化工程等の複雑な工程を行うことなく、熱酸化処理によって厚い酸化皮膜を形成できるので、放熱特性に優れたアルミニウム製熱交換器を、簡単に、かつ、低コストで製造することが可能となる。
【0016】
ここで、前記熱酸化処理工程が、前記アルミニウム製熱交換器に対してろう付けを実施するろう付け工程であることが好ましい。
この場合、前記アルミニウム製熱交換器に対してろう付けを実施するろう付け工程によって、前記外面に酸化皮膜を形成して放射率を向上させることができ、工程を追加することなく、放熱特性に優れたアルミニウム製熱交換器を製造することが可能となる。
なお、上述のろう付け工程は、フィン等をろう付けすることによってアルミニウム製熱交換器を成形する場合であってもよいし、アルミニウム製熱交換器に別部材をろう付けする場合であってもよい。
【0017】
また、前記熱酸化処理工程が、ベーマイト処理であってもよい。
この場合、上述の組成のアルミニウム合金に対してベーマイト処理を施すことにより、厚い酸化皮膜を形成でき、放熱特性に優れたアルミニウム製熱交換器を製造することが可能となる。また、ベーマイト処理は、高温の純水(少量のアンモニアを添加する場合もあり)によってアルミニウム合金の表面に酸化皮膜を形成するものであり、めっき処理や陽極酸化処理等の特殊な工程に比べて容易であることから、アルミニウム製熱交換器を、簡単に、かつ、低コストで製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、放熱特性に優れ、特殊な工程を実施することなく製造することが可能なアルミニウム製熱交換器、このアルミニウム製熱交換器を用いたヒートシンク付パワーモジュール用基板、及び、アルミニウム製熱交換器の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態であるアルミニウム製熱交換器及びヒートシンク付パワーモジュール用基板を備えたパワーモジュールの概略説明図である。
図2】本発明の実施形態であるアルミニウム製熱交換器の概略説明図である。
図3】本発明の実施形態であるアルミニウム製熱交換器及びヒートシンク付パワーモジュール用基板、パワーモジュールの製造方法を示すフロー図である。
図4】本発明の実施形態であるアルミニウム製熱交換器の製造方法を示す説明図である。
図5】本発明の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態であるアルミニウム製熱交換器、ヒートシンク付パワーモジュール用基板及びアルミニウム製熱交換器の製造方法について、添付した図面を参照して説明する。
【0021】
図1に、本発明の実施形態であるアルミニウム製熱交換器40及びヒートシンク付パワーモジュール用基板30を備えたパワーモジュール1を示す。
このパワーモジュール1は、ヒートシンク付パワーモジュール用基板30と、このヒートシンク付パワーモジュール用基板30の一方側(図1において上側)の面にはんだ層2を介して接合された半導体素子(電子部品)3と、を備えている。
ここで、はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。
【0022】
ヒートシンク付パワーモジュール用基板30は、パワーモジュール用基板10を有し、このパワーモジュール用基板10に、ヒートシンクとして本実施形態であるアルミニウム製熱交換器40が接合されている。
パワーモジュール用基板10は、絶縁基板11と、この絶縁基板11の一方の面(図1において上面)に配設された回路層12と、絶縁基板11の他方の面(図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。
【0023】
絶縁基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、例えばAlN(窒化アルミ)、Si(窒化珪素)、Al(アルミナ)等の絶縁性の高いセラミックスで構成され、本実施形態では、AlN(窒化アルミ)で構成されている。また、絶縁基板11の厚さは、0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.635mmに設定されている。
【0024】
回路層12は、絶縁基板11の一方の面に銅又は銅合金からなる銅板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12を構成する銅板として、無酸素銅の圧延板が用いられている。この回路層12には、回路パターンが形成されており、その一方の面(図1において上面)が、半導体素子3が搭載される搭載面とされている。
【0025】
金属層13は、絶縁基板11の他方の面にアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層13を構成するアルミニウム板として、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板が用いられている。
【0026】
アルミニウム製熱交換器(ヒートシンク)40は、前述のパワーモジュール用基板10を冷却するためのものである。
本実施形態であるアルミニウム製熱交換器40は、パワーモジュール用基板10と接合される天板部41と、この天板部41に対向するように配置された底板部45と、天板部41と底板部45との間に介装されたコルゲートフィン46と、を備えており、天板部41と底板部45とコルゲートフィン46とによって、冷却媒体が流通する流路42が画成されている。
【0027】
アルミニウム製熱交換器40のうち外気と接する外面の一部は、Mn;0.1mass%以上2.5mass%以下を含有するとともに、Bi;0.005mass%以上1.0mass%以下を含むアルミニウム合金で構成されており、外面のうち前述のアルミニウム合金で構成された領域には、熱酸化処理によって形成された酸化皮膜43が設けられている。
【0028】
本実施形態では、図2に示すように、天板部41及び底板部45のうち流路42とは反対側を向く外表面に、Mn;0.1mass%以上2.5mass%以下を含有するとともに、Bi;0.005mass%以上1.0mass%以下を含むアルミニウム合金からなる合金層41C、45Cがそれぞれ形成されており、これら合金層41C、45Cの表面に酸化皮膜43が形成されている。なお、本実施形態においては、合金層41C、45Cを構成するアルミニウム合金にMgを含有している。
【0029】
ここで、酸化皮膜43は、その厚さtが400Å以上とされており、酸化皮膜43が形成された面の赤外線領域(波長1.35μm以上4.0μm以下)の放射率が、温度25℃で0.22以上とされている。すなわち、本実施形態においては、通常、アルミニウムの表面に生成する自然酸化皮膜の厚さ150〜350Åよりも、さらに厚く形成されており、放射率が向上されているのである。
【0030】
なお、酸化皮膜43の厚さは、TEMによる断面観察、XPSのデプスプロファイル等によって測定することができる。また、酸化皮膜の厚さが既知の試料を標準サンプルとしてEPMAで表面分析を実施して検量線を作成し、これに基づいて、酸化皮膜43の厚さをEPMAの表面分析で算出してもよい。
放射率は、例えば、次の手順で算出することができる。まず、FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)を用いて反射率を測定し、透過率は0とみなし、吸収率を求める。そして、キルヒホフの法則から、求めた吸収率を放射率とする。
【0031】
このアルミニウム製熱交換器40は、天板部41とコルゲートフィン46、コルゲートフィン46と底板部45が、それぞれろう付けされることによって構成されている。
本実施形態では、図4に示すように、天板部41及び底板部45は、基材層41A、45Aと、基材層41A、45Aよりも融点の低い材料からなる接合層41B、45Bと、接合層41B、45Bとは反対側の面に形成された合金層41C、45Cと、が積層された3層構造のクラッド材で構成されている。
天板部41および底板部45に使用するクラッド材の製造方法は、本発明の実施にあたり特に限定されるものではないが、例えば、次のような方法で製造することができる。
まず、クラッド材の各層に用いるアルミニウム合金を、半連続鋳造により造塊し、必要に応じてそれぞれ380〜580℃で1〜12時間の範囲で行う均質化処理を実施した後、それぞれ所定の厚さまで熱間圧延を行う。その後、各アルミニウム合金材を組み合わせ、熱間圧延により貼り合せを行い、必要な厚さまで冷間圧延を行うことで製造することができる。
本実施形態では、基材層41A,45AがA3003合金(Al−1.1mass%Mn−0.15mass%Cu)で構成され、接合層41B、45BがA4045合金(Al―7.5mass%Si)で構成され、合金層41C、45CがAl−1.0mass%Mn−0.3mass%Mg−0.1mass%Biで構成されている。
【0032】
次に、本実施形態であるアルミニウム製熱交換器40、ヒートシンク付パワーモジュール用基板30、パワーモジュール1の製造方法について、図3のフロー図及び図4図5の説明図を参照して説明する。
まず、本実施形態であるアルミニウム製熱交換器40の製造方法について図3及び図4を参照して説明する。
【0033】
上述したクラッド材とされた天板部41及び底板部45と、コルゲートフィン46を、積層する(クラッド材及びフィン積層工程S01)。このとき、図4に示すように、接合層41B及び接合層45Bが、それぞれコルゲートフィン46側を向くように、天板部41及び底板部45が配設される。なお、天板部41とコルゲートフィン46、底板部45とコルゲートフィン46との間には、例えば、KAlFを主成分とするフラックス(図示なし)が供給される。
【0034】
次に、天板部41、コルゲートフィン46、底板部45を積層方向に加圧(圧力0.01〜3kgf/cm)した状態で、雰囲気加熱炉51内に装入してろう付けする(ろう付け工程S02)。本実施形態では、雰囲気加熱炉51内は窒素ガス雰囲気とされており、加熱温度は580℃以上630℃以下の範囲内に設定している。
これにより、接合層41B、45Bが溶融することで、天板部41とコルゲートフィン46、コルゲートフィン46と底板部45とがろう付けされる。
このとき、天板部41の合金層41C及び底板部45の合金層45Cが熱酸化処理され、合金層41C、45Cの表面に酸化皮膜43が形成される(熱酸化処理工程S03)。
このようにして、本実施形態であるアルミニウム製熱交換器40が製造される。
なお、雰囲気加熱炉51内は、ろう付性を確保するため窒素ガス雰囲気とされているが、その酸素濃度によって熱酸化処理工程S03後に形成される酸化皮膜43の厚さに影響を与える。本実施形態では、一般的なアルミニウムのろう付雰囲気として管理される酸素濃度範囲で必要な酸化皮膜厚さを確保することができ、例えば、雰囲気加熱炉51内の酸素濃度を200ppm以下としてろう付け工程S02及び熱酸化処理工程S03を実施することができる。
また、より厚い酸化皮膜43を得るため、熱酸化処理工程S03以降に酸素濃度の高い雰囲気中で加熱処理する酸化皮膜成長工程を設けることもできる。
【0035】
次に、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板30の製造方法について、図3及び図5を参照して説明する。
まず、回路層12となる銅板と、絶縁基板11とを接合し、回路層12を形成する(回路層形成工程S11)。絶縁基板11の一方の面に、活性ろう材を介して銅板を積層し、いわゆる活性金属ろう付け法によって、銅板と絶縁基板11とを接合する。本実施形態では、Ag−27.4mass%Cu−2.0mass%Tiからなる活性ろう材を用いて、10−3Paの真空中にて、積層方向に加圧(圧力1〜3kgf/cm)し、850℃で10分加熱することによって、絶縁基板11と銅板とを接合している。
【0036】
次に、絶縁基板11の他方の面側に金属層13となるアルミニウム板を接合し、金属層13を形成する(金属層形成工程S12)。
絶縁基板11の他方の面側に、Al−Si系のろう材箔(本実施形態では、Al−7.5mass%Si)を介してアルミニウム板を積層し、10−3Paの真空中にて、積層方向に加圧(圧力1〜3kgf/cm)し、650℃で90分加熱することによって、アルミニウム板と絶縁基板11とを接合する。これにより、パワーモジュール用基板10が製出される。
【0037】
次に、上述のようにして得られたパワーモジュール用基板10とアルミニウム製熱交換器40とを、Al−Si系のろう材箔25(本実施形態では、Al−10質量%Si)を介して積層する(熱交換器積層工程S13)。
そして、パワーモジュール用基板10とアルミニウム製熱交換器40とを積層方向に加圧(圧力0.01〜3kgf/cm)した状態で、雰囲気加熱炉52内に装入してろう付けする(ろう付け工程S14)。本実施形態では、雰囲気加熱炉52内は酸素濃度200ppm以下の窒素ガス雰囲気とされており、加熱温度は580℃以上620℃以下の範囲内に設定している。
このようにして、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板30が製出される。
【0038】
次に、このヒートシンク付パワーモジュール用基板30の回路層12上にはんだ2を介して半導体素子3が積層される(半導体素子積層工程S15)。
そして、雰囲気炉内に装入され、280℃で2分加熱することによって、はんだ付けが実施される(はんだ付け工程S16)。このとき、雰囲気炉の加熱は、赤外線ヒータが用いられる。
このようにして、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板30と半導体素子3とが接合され、パワーモジュール1が製出される。
【0039】
上述のような構成とされた本実施形態であるアルミニウム製熱交換器40によれば、外気と接する天板部41及び底板部45の外表面に、Mn;0.1mass%以上2.5mass%以下を含むとともに、Bi;0.005mass%以上1.0mass%以下を含むアルミニウム合金、具体的には、Al−1.0mass%Mn−0.3mass%Mg−0.1mass%Biからなる合金層41C、45Cが形成されているので、加熱処理(熱酸化処理)を行うことでBiが表層に濃縮し、合金層41C、45Cの表面に酸化皮膜43が厚く形成されることになる。これにより、赤外線領域(波長;1.35μm以上4.0μm以下)の温度25℃における放射率を0.22以上とすることが可能となる。このように放射率を高くすることによって、アルミニウム製熱交換器40の放熱特性を大幅に向上させることができる。さらに、本実施形態では、Mgを含有していることにより、放射率を十分に高くすることができ、放熱特性を確実に向上させることが可能となる。
【0040】
なお、本実施形態では、合金層41C、45CのBiの含有量が0.005mass%以上とされているので、熱酸化処理によって酸化皮膜を十分に厚く形成することができ、放射率を確実に向上させることができる。
また、合金層41C、45CのBiの含有量が1.0mass%以下とされているので、クラッド圧延によってクラッド材からなる天板部41を確実に製出することができる。
【0041】
さらに、本実施形態では、合金層41C、45CのMnの含有量が0.1mass%以上とされているので、プレス成形性が確保される。一方、Mnの含有量が2.5mass%以下とされているので、巨大な金属間化合物の発生を抑制でき、圧延性を確保することができる。また、本実施形態においては、天板部41の基材層41AがA3003合金(Al−1.1mass%Mn−0.15mass%Cu)で構成されており、基材層41Aと合金層41C、45Cとの機械的特性が近似しているので、天板部41を構成するクラッド材を良好に製造することが可能となる。
【0042】
また、本実施形態であるアルミニウム製熱交換器40の製造方法によれば、天板部41の合金層41C及び底板部45の合金層45Cの表面に酸化皮膜43を形成する熱酸化処理工程S03を備えているので、外部に露呈する天板部41の表面に酸化皮膜43を厚く形成することができ、放熱特性に優れたアルミニウム製熱交換器40を、簡単にかつ低コストで製造することが可能となる。
特に、本実施形態においては、天板部41とコルゲートフィン46と底板部45をろう付けするろう付け工程S02によって、天板部41の合金層41C及び底板部45の合金層45Cの表面に酸化皮膜43を形成しており、ろう付け工程S02と熱酸化処理工程S03とを同時に実施していることから、特別な工程を追加することなく、放熱特性に優れたアルミニウム製熱交換器40を製造することが可能となる。
【0043】
さらに、本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板30によれば、上述のように放熱特性に優れたアルミニウム製熱交換器40を備えているので、半導体素子3から発生する熱を効率的に放散することが可能となる。また、アルミニウム製熱交換器40の赤外線領域の放射率が0.22以上とされていることから、パワーモジュール用基板若しくは半導体素子との接合を効率良く実施することが可能となる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態においては、コルゲートフィンを有するアルミニウム製熱交換器を例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、他の構造のアルミニウム製熱交換器であってもよい。
【0045】
また、ろう付け工程S02と熱酸化処理工程S03とを同時に実施するものとして説明したが、これに限定されることはなく、熱酸化処理工程S03を別途実施してもよい。
さらに、熱酸化処理工程S03として、ベーマイト処理を適用してもよい。ここで、ベーマイト処理としては、具体的には、純水による煮沸、高温(温度90〜100℃)の純水の噴射、加熱蒸気(温度110〜400℃)中での処理等を適用することができ、処理時間としては5秒〜10分程度となる。よって、製造条件を調整することにより、天板部や底板部を構成するアルミニウム板の製造時においてインラインで実施することも可能である。なお、純水中に少量のアンモニアを添加することで、処理時間をさらに短縮することが可能となる。
【0046】
さらに、アルミニウム製熱交換器の天板部41及び底板部45の外表面にそれぞれ合金層41C、45Cを設けて、酸化皮膜43を形成するものとして説明したが、これに限定されることはなく、外気と接する外面の少なくとも一部に合金層が設けられ、この合金層に酸化皮膜を形成する構成であればよい。
また、パワーモジュールに用いられた例に挙げて説明したが、本発明のアルミニウム製熱交換器は、パワーモジュール以外の用途に使用されるものであってもよい。
【0047】
また、本実施形態では、パワーモジュール基板10とアルミニウム製熱交換器40を積層し、積層方向に加圧し、加熱することでヒートシンク付パワーモジュール用基板30を製出したが、次のような方法で製造することもできる。
まず、回路層が接合されたセラミックス基板とアルミニウム板とをAl−Si系ろう材を介して積層体を形成する。次に、天板部41とコルゲートフィン46と底板部45をフラックスを介して積層し、前記積層体のアルミニウム板と前記天板部41をAl−Si系ろう材を介して積層したのちに、加圧し、加熱することでヒートシンク付パワーモジュール基板30を製出することができる。
【0048】
本実施形態のヒートシンク付パワーモジュール用基板においては、回路層を銅又は銅合金で構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、アルミニウム又はアルミニウム合金で構成したものであってもよい。
また、銅又は銅合金からなる回路層と絶縁基板とを、活性金属ろう付け法によって接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、DBC法等の他の方法で接合したものであってもよい。
さらに、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属層と絶縁基板とを、ろう付け法によって接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、拡散接合等の他の方法で接合したものであってもよい。
【0049】
また、本実施形態では、金属層を構成するアルミニウム板を純度99.99%の純アルミニウムの圧延板として説明したが、これに限定されることはなく、純度99%のアルミニウム(2Nアルミニウム)であってもよい。
さらに、絶縁層としてAlNからなるセラミックス板を用いたものとして説明したが、これに限定されることはなく、Al、Si等からなるセラミックス板を用いても良い。
【実施例】
【0050】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0051】
(実施例A)
まず、A3003合金の片面に表1に記載の組成を有するアルミニウム合金をクラッドしたクラッド材を圧延によって製出した。次に、製出することができたクラッド材に対して、酸素濃度50ppmの窒素雰囲気下で600℃、3分保持後、酸素濃度200ppmの窒素雰囲気下にて100℃/minの冷却速度にて400℃まで冷却する熱処理を実施し、表面に酸化皮膜を形成した。
得られた試料について、酸化皮膜の厚さを測定した。酸化皮膜の厚さは、酸化皮膜の厚さが既知の試料を標準サンプルとしてEPMA表面分析を実施して検量線を作成し、これに基づいて、EPMAの表面分析によって算出した。
また、得られた試料について、赤外線領域(波長1.35μm以上4.0μm以下)の温度25℃における放射率について測定した。なお、放射率は、FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)を用いて反射率を測定し、透過率は0とみなして吸収率を求め、この吸収率を放射率とした。
結果を表1−3に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
Biの含有量が0.005mass%未満とされた比較例4、比較例6及び比較例7においては、酸化皮膜の厚さが薄く、放射率も不十分であった。
Biの含有量が1.0mass%を超えた比較例3においては、圧延時にクラックが発生し、クラッド材を製造することができなかった。
Mnの含有量が0.1mass%未満とされた比較例1、比較例5及び比較例8では、芯材(A3003合金)との強度差が大きくなり、クラッド材を製造することができなかった。
Mnの含有量が2.5mass%を超えた比較例2では、鋳造時に巨大金属間化合物が生成し、クラッド材を製造することができなかった。
【0056】
一方、Mn;0.1mass%以上2.5mass%以下を含有するとともに、Bi;0.005mass%以上1.0mass以下を含むアルミニウム合金からなる実施例1−62においては、酸化皮膜が400Å以上と厚く形成されており、放射率も0.22以上であった。
また、Mgを含有した実施例13−30及び実施例43−62とMgを含有していない実施例とを比較すると、Mgを添加した方が、放射率が向上することが確認された。
【0057】
(実施例B)
次に、A3003合金の片面に表4に記載の組成を有するアルミニウム合金をクラッドしたクラッド材を圧延によって製出した。そして、製出することができたクラッド材に対して、表4に示すベーマイト処理を施して、表面に酸化皮膜を形成した。
得られた試料について、実施例Aと同様に、酸化皮膜の厚さ、及び、赤外線領域(波長1.35μm以上4.0μm以下)の温度25℃における放射率について測定した。
結果を表4に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
熱酸化処理としてベーマイト処理を適用した場合には、十分な厚さの酸化皮膜が形成され、放射率が向上することが確認された。特に、Mgを1mass%以上添加したものでは、その効果が顕著であった。
【0060】
以上のことから、本発明によれば、放射率が高く、放熱特性に優れたアルミニウム製熱交換器を提供できることが確認された。
【符号の説明】
【0061】
10 パワーモジュール用基板
11 絶縁基板
12 回路層
30 ヒートシンク付パワーモジュール用基板
40 アルミニウム製熱交換器(ヒートシンク)
図1
図2
図3
図4
図5