(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定の運転パターンにより予め求められた積算摩耗量と推定制動時間との関係、および、積算摩耗量が前記制動部材の使用限界となる推定使用限界時間のデータを記憶する記憶部と、
前記摩耗量積算部により積算された積算摩耗量と、前記記憶部に記憶された積算摩耗量と推定制動時間との関係に基づいて推定制動時間を求める推定制動時間算出部と、
前記推定制動時間算出部により求めた推定制動時間と推定使用限界時間とに基づいて、前記制動部材の使用限界となる使用限界時間を求める寿命算出部と、をさらに備える請求項1又は2に記載の摩耗量演算装置。
所定の運転パターンに基づいて予め求められた積算摩耗量と推定制動時間との関係、および、前記摩耗量積算工程により積算された積算摩耗量に基づいて推定制動時間を求める推定制動時間算出工程と、前記推定制動時間算出工程により求めた推定制動時間と推定使用限界時間とに基づいて、前記制動部材の使用限界となる使用限界時間を求める寿命演算工程と、を更に含む請求項8又は9に記載の摩耗量演算方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の摩耗状態検知装置の場合、温度検知ユニットを新たに設けなければならない。同様に、特許文献2の摩耗状態を診断する装置の場合も、摩耗粉センサを新たに設けなければならない。そのため、センサを設ける分だけ部品点数が増加し、コストが増加してしまう。また、温度検知ユニットや摩耗粉センサのメンテナンスが別途必要となるため、作業者の負担が増加する可能性がある。
この発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、部品点数の増加を抑制しつつ、制動部材の摩耗量を求めることができる摩耗量演算装置、車両、摩耗量演算方法、および、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために以下の構成を採用する。
この発明に係る摩耗量演算装置は、回転体を制動するための制動部材の摩耗量を演算する摩耗量演算装置であって、ブレーキ圧、制動対象の速度、および、制動時間の情報を少なくとも取得する制動情報取得部と、前記制動情報取得部の取得結果に基づいて、前記制動部材の推定摩耗量を算出する摩耗量演算部と、前記摩耗量演算部に算出された前記推定摩耗量を積算して積算摩耗量を求める摩耗量積算部と、を備えている。
このように構成することで、例えば、車両の空制装置の場合には、ブレーキ圧として制動装置を駆動するための空気圧、制動対象の速度として車両の走行速度、および、制動を行っている制動時間を用いて、摩耗量を推定することができる。さらに、推定された摩耗量を積算することができる。そのため、摩耗量を検出するためのセンサを新たに設けることなしに、既設のセンサ類を有効活用して制動部材の使用開始から現在までの摩耗量を推定することができる。その結果、部品点数の増加を抑制しつつ、制動部材の摩耗量を求めることができる。
【0008】
さらに、この発明に係る摩耗量演算装置は、上記摩耗量演算装置における前記摩耗量演算部が、前記ブレーキ圧と前記制動対象の速度とを乗算した乗算結果に基づいて前記推定摩耗量を演算してもよい。
ブレーキ圧が高いほど、制動対象の速度が速いほど、単位時間当たりの制動部材の摩耗量は増加するので、これら速度とブレーキ圧とを乗算することでより正確に摩耗量を推定できる。さらに、速度とブレーキ圧との何れか一つだけを用いて摩耗量を推定する場合よりも、正確に制動部材の摩耗量を推定することができる。
【0009】
さらに、この発明に係る摩耗量演算装置は、上記摩耗量演算装置において、前記摩耗量演算部は、前記制動時間を積算した積算制動時間に応じて変化する係数を、前記乗算結果に乗じるようにしてもよい。
例えば、制動部材の残量が限界近くになると、ブレーキ圧、制動対象の速度、および、制動時間が同条件でも摩耗率が増加する。しかし、制動部材の積算制動時間に応じて変化する係数を、ブレーキ圧と制動対象の速度とを乗算した乗算結果に対して更に乗じることで、経時的な摩耗率の変化分を、演算される摩耗量に含めることができる。
【0010】
さらに、この発明に係る摩耗量演算装置は、上記摩耗量演算装置において、実測された摩耗量に基づいて、修正係数を算出する修正係数算出部を備え、前記摩耗量演算部が、前記修正係数を前記乗算結果に乗じるようにしてもよい。
このようにすることで、実測された摩耗量に基づいて演算される摩耗量を修正することができるため、摩耗量の推定精度を向上することができる。
【0011】
さらに、この発明に係る摩耗量演算装置は、上記摩耗量演算装置において、所定の運転パターンにより予め求められた積算摩耗量と推定制動時間との関係、および、積算摩耗量が前記制動部材の使用限界となる推定使用限界時間のデータを記憶する記憶部と、前記摩耗量積算部により積算された積算摩耗量と、前記記憶部に記憶された積算摩耗量と推定制動時間との関係に基づいて推定制動時間を求める推定制動時間算出部と、前記推定制動時間算出部により求めた推定制動時間と推定使用限界時間とに基づいて、前記制動部材の使用限界となる使用限界時間を求める寿命算出部と、をさらに備えていてもよい。
このように構成することで、所定の運転パターンで予め求められた積算摩耗量と推定制動時間との関係、例えば、マップ、テーブル、数式等に基づいて、摩耗量積算部によって積算された積算摩耗量に対応した制動部材の使用限界時間を求めることができる。そのため、現時点から制動部材が使用限界となるまでの時間を求めることができる。その結果、実際の運転パターンによる制動部材の寿命推定の精度を向上することができる。
【0012】
この発明に係る車両は、上記摩耗量演算装置を備えている。
このようにすることで、車両の制動部材の積算摩耗量を推定して、定期的な目視などの点検を省略することができるため、車両のメンテナンスに掛かる作業者の負担を軽減することができる。
【0013】
この発明に係る摩耗量演算方法は、回転体を制動するための制動部材の摩耗量を演算する摩耗量演算方法であって、ブレーキ圧、制動対象の速度、および、制動時間の情報を少なくとも取得する制動情報取得工程と、前記ブレーキ圧、制動対象の速度、および、制動時間の情報に基づいて、前記制動部材の推定摩耗量を算出する摩耗量演算工程と、算出された前記推定摩耗量を積算して積算摩耗量を求める摩耗量積算工程と、を含んでいる。
【0014】
この発明に係る摩耗量演算方法は、上記摩耗量演算方法の前記摩耗量演算工程において、前記ブレーキ圧と、前記制動対象の速度とを乗算した乗算結果に基づいて推定摩耗量を演算してもよい。
【0015】
この発明に係る摩耗量演算方法は、上記摩耗量演算方法の前記摩耗量演算工程において、前記制動時間を積算した積算制動時間に応じて変化する係数を、前記乗算結果に乗じるようにしてもよい。
【0016】
この発明に係る摩耗量演算方法は、上記摩耗量演算方法において、実測された摩耗量に基づいて、修正係数を算出する修正係数算出工程を更に備え、前記摩耗量演算工程により、前記修正係数を前記乗算結果に乗じるようにしてもよい。
【0017】
この発明に係る摩耗量演算方法は、上記摩耗量演算方法において、所定の運転パターンに基づいて予め求められた積算摩耗量と推定制動時間との関係、および、前記摩耗量積算工程により積算された積算摩耗量に基づいて推定制動時間を求める推定制動時間算出工程と、前記推定制動時間算出工程により求めた推定制動時間と推定使用限界時間とに基づいて、前記制動部材の使用限界となる使用限界時間を求める寿命演算工程と、を更に含んでいてもよい。
【0018】
この発明に係るプログラムは、回転体を制動するための制動部材の摩耗量を演算する摩耗量演算装置として、コンピュータを機能させるプログラムであって、前記コンピュータを、ブレーキ圧、制動対象の速度、および、制動時間の情報を少なくとも取得する制動情報取得部と、前記制動情報取得部の取得結果に基づいて、前記制動部材の推定摩耗量を算出する摩耗量演算部と、前記摩耗量演算部に算出された前記推定摩耗量を積算して積算摩耗量を求める摩耗量積算部と、して機能させる。
【0019】
さらに、この発明に係るプログラムは、上記プログラムにおいて、前記摩耗量演算部が、前記ブレーキ圧と前記制動対象の速度とを乗算した乗算結果に基づいて前記推定摩耗量を演算してもよい。
【0020】
さらに、この発明に係るプログラムは、上記プログラムにおいて、前記摩耗量演算部は、前記制動時間を積算した積算制動時間に応じて変化する係数を、前記乗算結果に乗じるようにしてもよい。
【0021】
さらに、この発明に係るプログラムは、上記プログラムにおいて、前記コンピュータを実測された摩耗量に基づいて、修正係数を算出する修正係数算出部として更に機能させ、前記摩耗量演算部が、前記修正係数を前記乗算結果に乗じるようにしてもよい。
【0022】
さらに、この発明に係るプログラムは、上記プログラムにおいて、前記コンピュータを、所定の運転パターンにより予め求められた積算摩耗量と推定制動時間との関係、および、積算摩耗量が前記制動部材の使用限界となる推定使用限界時間のデータを記憶する記憶部と、前記摩耗量積算部により積算された積算摩耗量と、前記記憶部に記憶された積算摩耗量と推定制動時間との関係に基づいて推定制動時間を求める推定制動時間算出部と、前記推定制動時間算出部により求めた推定制動時間と推定使用限界時間とに基づいて、前記制動部材の使用限界となる使用限界時間を求める寿命算出部と、して更に機能させてもよい。
【発明の効果】
【0023】
この発明に係る摩耗量演算装置、車両、摩耗量演算方法、および、プログラムによれば、部品点数の増加を抑制しつつ、パッドの摩耗量を求めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、この発明の第一実施形態に係る摩耗量演算装置、車両、摩耗量演算方法、および、プログラムについて説明する。
図1は、この発明の実施形態における車両のブレーキ装置の概略構成を示す図である。
図1に示すように、この実施形態のブレーキ装置1は、鉄道車両等の車両100の車輪Sの踏面に摺動部材18を押し当てて制動する、いわゆる踏面ブレーキである。ブレーキ装置1は、シリンダー部2と、リンク部材3と、ケーシング4と、制動部材5と、を備えている。
【0026】
シリンダー部2は、シリンダーケース6とピストン7とを備えている。シリンダー部2には、シリンダーケース6とピストン7との間にシリンダー室8が形成される。このシリンダー室8には、元空気溜めなどから、作動流体である空気がブレーキ弁(図示せず)などを介して供給可能となっている。また、シリンダー室8に供給された空気は、適宜排出可能となっている。シリンダー部2は、シリンダー室8に作動流体が供給された場合に、ピストン7がシリンダーケース6から突出する側に変位する。一方で、シリンダー室8に供給された作動流体が排出されると、リンク部材3等に配された弾性体(図示せず)に押圧されて、ピストン7がシリンダー室8に没入する側に変位する。
【0027】
このシリンダー室8内の圧力(以下、単にブレーキ圧と称する)は、圧力センサ9により監視可能となっている。ここで、
図1において、圧力センサ9によりシリンダー室8の圧力を計測する場合を例示した。しかし、圧力センサ9による計測位置は上記位置に限られない。例えば、圧力センサ9により、シリンダー部2とブレーキ弁(図示せず)との間の配管内部の圧力を計測するようにしてもよい。
【0028】
リンク部材3は、シリンダー部2と、制動部材5とを連係させる部材である。リンク部材3の長手方向の第一端部12は、シリンダー部2のピストンロッド11の端部に回動可能に取り付けられている。リンク部材3の長手方向の第二端部13は、制動部材5のロッド部14に固定されている。リンク部材3は、第一端部12と第二端部13と中央部よりも第二端部13側において、ケーシング4に揺動可能に支持されている。リンク部材3とピストンロッド11との接続、および、リンク部材3とケーシング4との接続は、共にピストン7の出没方向と直交する車軸方向に延びる回動軸15,16を介している。つまり、シリンダー部2のピストンロッド11が出没方向に変位すると、回動軸16周りにリンク部材3が回動して第二端部13が揺動する。
【0029】
ケーシング4は、リンク部材3を収容する。このケーシング4は、台車枠(図示せず)などに固定されている。ケーシング4には、制動部材5のロッド部14が出没するための貫通孔17が形成されている。また、この実施形態におけるケーシング4は、シリンダーケース6と一体に形成されている。
【0030】
制動部材5は、摺動部材18と、支持部材19と、ロッド部14とを備えている。
摺動部材18は、鋳鉄やレジン等の材料からなる。摺動部材18は、車輪Sの踏面に沿って湾曲形成されている。
【0031】
支持部材19は、摺動部材18を支持する部材である。支持部材19は、摺動部材18の摺動面18aとは反対側の面において、その周方向のほぼ全域に渡り摺動部材18と結合されている。また、支持部材19は、摺動部材18とは反対側に、上述したロッド部14の先端が回動可能にピン結合されている。また、支持部材19とケーシング4との間には、支持部材19を安定させるためのリンク部材20が取り付けられている。これにより、制動部材5は、リンク部材3が揺動することで、ロッド部14がケーシング4の貫通孔17から出没する。このロッド部14の出没によって、制動部材5は、摺動部材18が車輪Sの踏面を押圧する位置と、押圧しない位置との間で変位する。
【0032】
図2は、この実施形態における摩耗量演算装置22の概略構成を示すブロック図である。
この実施形態における摩耗量演算装置22は、上述したブレーキ装置1の摺動部材18の摩耗量を演算する装置である。ここで、摺動部材18の摩耗量とは、未使用の状態から、制動により摩耗して減少する厚さのことである。この摺動部材18には、予め摺動部材18を使用可能な限界値(以下、単に使用限界と称する)が設定されている。
【0033】
この実施形態における摩耗量演算装置22は、例えば、車両100に搭載される車両制御装置などのコンピュータからなる。この摩耗量演算装置22は、一編成の車両に対して少なくとも一台設置される。
図2に示すように、摩耗量演算装置22は、上述した圧力センサ9と、車両の走行速度を検出する速度発電機などの車両速度センサ23と、ディスプレイなどの表示装置24と、が接続される入出力インターフェース25を備えている。また、摩耗量演算装置22は、ワークエリア等として利用されるメモリ26を更に備えている。この摩耗量演算装置22は、ハードディスクドライブ装置等の補助記憶装置27と、各種制御処理を行う制御装置28と、を更に備えている。
【0034】
補助記憶装置27は、演算プログラム記憶部29と、データ記憶部30とを備えている。
演算プログラム記憶部29は、制御装置28で実行される演算プログラムを記憶する記憶領域である。演算プログラムは、例えば、ディスク型記憶媒体Dsから記憶/再生装置31を介して補助記憶装置27へ記憶される。ここで、演算プログラムを補助記憶装置27へ記憶させる方法は、上記方法に限られない。演算プログラムは、例えば、通信インターフェース(図示せず)を介して外部の装置から補助記憶装置27へ記憶させるようにしてもよい。
【0035】
データ記憶部30は、それぞれブレーキ装置1が制動動作を行っているときの、圧力センサ9の検出結果、車両速度センサ23の検出結果、および、制動時間の情報を互いに関連付けて記憶する。ここで、制動時間とは、ブレーキ装置1による一回の制動動作を行っている時間である。言い換えれば、連続して制動部材5を車輪Sに押し付けている時間である。
【0036】
さらに、データ記憶部30には、制動時間を積算した積算制動時間に応じて変化する係数が予め記憶されている。
【0037】
データ記憶部30は、制御装置28の演算により求まる各種データを更に記憶する。ここで、制御装置28により求まる各種データのうち、演算プログラムによって一時的に記憶する必要があるものについては、メモリ26に記憶させるようにしてもよい。
【0038】
制御装置28は、各種演算を行うCPU(Central Processing Unit;図示せず)を備えている。制御装置28は、演算プログラムを実行することで実現される複数の機能部として、制動情報取得部32と、摩耗量演算部33と、摩耗量積算部34と、摩耗量判定部36と、タイマー37と、を備えている。
【0039】
制動情報取得部32は、ブレーキ圧、車両速度、および、制動時間の各データを、データ記憶部30から取得する。制動情報取得部32は、ブレーキ圧と車両速度と摩耗量との関係から予め求められる係数と、摺動部材18の使用限界に対応した摩耗量および、推定使用限界時間とのデータを更に取得する。これら制動情報取得部32により取得されたデータは、摩耗量演算部33に入力される。ここで、上述した予め求められる係数は、制動部材5の材質などの特性に応じて異なる係数となる。さらに、この実施形態における係数は、制動時間を積算した積算制動時間に応じて変化する。この係数の変化は、制動時間に応じて変化する摩耗量の変化に対応している。
【0040】
摩耗量演算部33は、制動情報取得部32が取得した各データに基づいて、制動部材5の摺動部材18の推定摩耗量を算出する。ここで、摩耗量演算部33は、上述した一回の制動動作により摩耗した推定摩耗量を算出している。ここで、上述した推定摩耗量は、ブレーキ圧と、車両速度と、後述する係数α(t)とを乗算したものを制動時間で積分して求めることができる。
【0041】
摩耗量積算部34は、摩耗量演算部33により算出された推定摩耗量を積算して積算摩耗量を求める。積算摩耗量のデータは、上記推定摩耗量が算出される都度、上述した補助記憶装置27のデータ記憶部30に上書き記憶される。ここで、積算摩耗量のデータをデータ記憶部30に上書きする一例を説明したが、上書き記憶に限られず、例えば、時刻データなどと関連付けて記憶させるようにしてもよい。
【0042】
摩耗量判定部36は、摩耗量積算部34によって積算された積算摩耗量と、予め設定された積算摩耗量の閾値とを比較する。摩耗量判定部36は、積算摩耗量が閾値よりも大きくなった場合には、例えば、制動部材5の交換フラグを「0」から「1」にする。ここで、制御装置28は、交換フラグが「1」になることで、制動部材5が交換時期である旨を報知するための制御指令を、例えば、表示装置24などに向けて出力する。交換時期である旨の報知方法は、表示装置24によるものに限られない。例えば、警告ランプの点灯や、音声出力等により報知してもよい。
【0043】
タイマー37は、制動時間などをカウントするための時間情報を制動情報取得部32に出力する。
【0044】
この実施形態における摩耗量演算装置22は、上述した各構成を備えている。次に上述した摩耗量演算装置22における摩耗量演算方法について図面を参照しながら説明する。
図3は、この実施形態の摩耗量演算装置22による制御処理のフローチャートである。
図3に示すように、制御装置28の制動情報取得部32は、車両速度、ブレーキ圧、制動時間の各データ、及び、係数を、それぞれ補助記憶装置27のデータ記憶部30から取得する(ステップS01〜S04)。ここで、データの取得順は、上述した順番に限られるものではない。
【0045】
次に、制御装置28の摩耗量演算部33は、上述したブレーキ圧、車両速度、制動時間、及び、係数に基づいて推定摩耗量を算出する(ステップS05)。また、制御装置28の摩耗量積算部34により推定摩耗量を積算して積算摩耗量を求める(ステップS06)。ここで、係数を「α(t)」、ブレーキ圧を「p」、車両速度を「v」とすると、現在までの制動時間を積算した積算制動時間を「T」とすれば、推定摩耗量の積算値である積算摩耗量δは、以下の(1)式を満たす。
【0047】
つまり、推定摩耗量δは、ブレーキ圧pと車両速度vと係数α(t)とを掛け合わせたものを制動時間で積分することで算出することができる。ここで、ブレーキ圧pと車両速度vとを掛け合わせて積分した値は、制動回数が増加するほど大きくなる。そのため、ブレーキ圧pと車両速度vとを掛け合わせて積分した値と、推定摩耗量δとの関係を予めαで整理することで、摩耗量の推定が可能となる。
【0048】
ところで、実際の鉄道車両においてはデジタルデータを用いる場合が多い。この場合は、制動回数を「i」として、i−1回目までの積算摩耗量を「δi−1」とすると、i回目までの推定摩耗量δiは、(2)式で求めることができる。
【0050】
次いで、制御装置28の摩耗量判定部36によって積算摩耗量が閾値よりも大きいか否かを判定する。この判定の結果が、「Yes」(積算摩耗量>閾値)の場合には、制御装置28は、交換時期になったことを報知する制御指令を表示装置24などに出力する。
一方で、摩耗量判定部36による判定の結果が「No」(積算摩耗量≦閾値)の場合には、上記報知を行わず、上述した一連の制御処理を繰り返す。
【0051】
したがって、上述した第一実施形態によれば、ブレーキ圧、車両速度、および、制動時間を用いて、摩耗量を推定することができる。さらに、推定された摩耗量を積算して積算摩耗量を求めることができる。そのため、摺動部材18の摩耗量を検出するためのセンサを新たに設けることなしに、車両100に既設のセンサ類を有効利用して摺動部材18の使用開始から現在までの摩耗量を推定することができる。
【0052】
また、ブレーキ圧が高いほど、制動対象の車両速度が速いほど、単位時間当たりの制動部材5の摩耗量は増加するので、これら車両速度とブレーキ圧とを乗算することでより正確に摩耗量を推定できる。さらに、車両速度とブレーキ圧との何れか一つだけを用いて摩耗量を推定する場合よりも、正確に制動部材5の摩耗量を推定することができる。
【0053】
また、制動部材5の残量が限界近くになるとブレーキ圧、車両速度、および、制動時間が同条件でも摩耗率が増加するが、制動部材の積算制動時間に応じて変化する係数αを、ブレーキ圧と車両速度とを乗算した乗算結果に対して更に乗じることで、経時的な摩耗率の変化分を、演算される推定摩耗量に含めることができる。
【0054】
次に、この発明の第二実施形態に係る摩耗量演算装置、車両、摩耗量演算方法、および、プログラムについて説明する。ここで、この第二実施形態は、上述した第一実施形態で算出した推定摩耗量を、実測した摩耗量に基づいて修正する点でのみ異なる。そのため、第一実施形態と同一部分に同一符号を付して説明するとともに、重複説明を省略する。
【0055】
図4は、この発明の第二実施形態における摩耗量演算装置122の概略構成を示すブロック図である。
図4に示すように、摩耗量演算装置122は、入出力インターフェース25、メモリ26、制御装置28、補助記憶装置27、および、記憶/再生装置31を備えている。
【0056】
入出力インターフェース25には、圧力センサ9、車両速度センサ23、表示装置24が接続されている。加えて、入出力インターフェース25には、マウスやキーボード等からなり、ユーザが手入力によりデータ等を入力可能な手入力装置40が接続されている。この手入力装置40による入力データは、データ記憶部30に記憶される。
【0057】
この第二実施形態の摩耗量演算装置122においては、ユーザによって定期的に計測された摺動部材18の摩耗量(以下、単に実測摩耗量と称する)のデータが入力される。データ記憶部30には、定期的に計測された摺動部材18の実測摩耗量が、測定された時間の情報に関連付けされて記憶されている。ここで、一編成の車両100に搭載された複数の制動部材5の摺動部材18全ての摩耗量を実測する必要はなく、少なくとも一つの代表の制動部材5のみ摺動部材18の摩耗量を実測すればよい。
【0058】
制御装置28は、演算プログラムを実行することで実現される複数の機能部として、制動情報取得部32と、摩耗量演算部33と、摩耗量積算部34と、摩耗量判定部36と、タイマー37と、修正係数算出部41と、を備えている。
【0059】
修正係数算出部41は、摩耗量積算部34により算出される推定摩耗量に基づく積算摩耗量と、データ記憶部30に記憶される実測摩耗量とを比較する。修正係数算出部41は、積算摩耗量と実測摩耗量との差分が、予め設定された閾値よりも大きい場合には、その差分に応じた修正係数を算出する(修正係数算出工程)。修正係数算出部41は、算出した修正係数βを摩耗量演算部33に対して出力する。ここで、予め設定される閾値は、ユーザによって変更できるようにしてもよい。
【0060】
修正係数算出部41は、修正係数算出部41により算出された修正係数βを用いて、以下の(3)式により推定摩耗量を算出する。
【0062】
ここで、使用開始前の制動部材5においては、修正係数βは、「1」とされる。つまり、使用開始前の制動部材5に対しては、実質的に修正係数βによる推定摩耗量δの修正は行われない。
【0063】
したがって、上述した第二実施形態によれば、実測摩耗量に基づいて推定摩耗量を修正することができるため、摩耗量の推定精度を向上することができる。その結果、摺動部材18の実際の摩耗量が使用限界を大きく超えることを防止できるとともに、摺動部材18の残量が使用限界よりも十分に多い状態で無駄に交換されることを防止できる。
【0064】
次に、この発明の第三実施形態に係る摩耗量演算装置、車両、摩耗量演算方法、および、プログラムについて説明する。ここで、この第二実施形態は、制動部材5の使用限界までの時間を求める点でのみ上述した第一実施形態と異なる。そのため、第一実施形態と同一部分に同一符号を付して説明するとともに、重複説明を省略する。
【0065】
図5は、この発明の第三実施形態における摩耗量演算装置222の概略構成を示すブロック図である。
図5に示すように、この実施形態における摩耗量演算装置222は、入出力インターフェース25、メモリ26、制御装置28、補助記憶装置27、および、記憶/再生装置31を備えている。
【0066】
補助記憶装置27のデータ記憶部30は、圧力センサ9の検出結果、車両速度センサ23の検出結果、および、制動時間の情報に加えて、所定の運転パターンにより予め求められた積算摩耗量と推定制動時間との関係を更に記憶している。ここで、積算摩耗量と推定制動時間との関係とは、例えば、積算摩耗量と推定制動時間とのマップ、テーブル、数式などである。さらに、所定の運転パターンとは、実際に車両を運転させる運転パターンである。この運転パターンと、実際の運転とではずれが生じる。積算摩耗量と推定制動時間との関係は、所定の運転パターンによりシミュレーションや試験等により予め求められる。
図6は、所定の運転パターンによる推定制動時間と積算摩耗量とのマップである。
【0067】
データ記憶部30は、摺動部材18の使用限界に対応した積算摩耗量(
図6中の「閾値」)および、推定使用限界時間(言い換えれば、寿命)のデータを予め記憶している。この推定使用限界時間は、所定の運転パターンにより予め求められた積算摩耗量と推定制動時間との関係、および、上述した使用限界に対応した積算摩耗量から予め求めることができる。
【0068】
制御装置28は、演算プログラムを実行することで実現される複数の機能部として、制動情報取得部32と、摩耗量演算部33と、摩耗量積算部34と、摩耗量判定部36と、タイマー37と、推定制動時間算出部42と、寿命算出部43と、を備えている。
【0069】
推定制動時間算出部42は、摩耗量積算部34により積算された積算摩耗量と、データ記憶部30に記憶された積算摩耗量と推定制動時間との関係と、に基づいて、推定制動時間を求める。例えば、
図7に示すように、推定摩耗量δに対応する推定制動時間T’を求める。
【0070】
寿命算出部43は、推定制動時間算出部42により求められた推定制動時間T’と、データ記憶部30に記憶された推定使用限界時間Td’とに基づいて、摺動部材18が使用限界となる使用限界時間Tdを求める。さらに、寿命算出部43は、現在の積算制動時間Tと使用限界時間Tdとの差Td−Tから、残りの使用可能な時間(以下、推定寿命と称する)を算出する。使用限界時間Tdは、推定制動時間T’と推定使用限界時間Td’との比、および、実際の積算制動時間Tに基づいて、推定使用限界時間Td’を修正したものである。
【0071】
推定使用限界時間Td’と推定制動時間T’との比T’/Td’は、摺動部材18の全寿命に対して現在どの程度まで使用されているかを示すものである。つまり、実際の積算制動時間Tを比T’/Td’で除算することで、実際の運転による使用限界時間Tdを求めることができる。
図8は、実際の積算制動時間Tに対応する使用限界時間Tdを示すグラフである。
使用限界時間Tdは、以下の(4)式により算出することができる。
【0073】
ここで、推定制動時間T’と、実際の積算制動時間Tとに基づき推定使用限界時間Td’を修正する場合について説明したが、偏差に基づき修正するようにしてもよい。
【0074】
この実施形態における摩耗量演算装置222は、上述した各構成を備えている。次に、上述した摩耗量演算装置222における摩耗量演算方法について図面を参照しながら説明する。この摩耗量演算方法の説明においては、特に推定寿命の算出処理について説明する。
図9は、この実施形態の摩耗量演算装置222による推定寿命の算出処理のフローチャートである。
【0075】
制御装置28の推定制動時間算出部42は、摩耗量積算部34により積算された積算摩耗量と、データ記憶部30に記憶された所定の運転パターンにより予め求められた積算摩耗量と推定制動時間との関係と、をそれぞれ取得する(ステップS11〜S12)。
推定制動時間算出部42は、更に、取得した各データに基づいて、推定制動時間T’を算出する(ステップS13)。
【0076】
制御装置28の寿命算出部43は、推定制動時間算出部42により求められた推定制動時間T’と、データ記憶部30に記憶された推定使用限界時間Td’とに基づいて、摺動部材18が使用限界となる使用限界時間Tdを求める(ステップS14)。さらに、寿命算出部43は、実際の使用限界時間Tdから積算制動時間を減算して、推定寿命を算出する(ステップS15)。この推定寿命は、例えば、制御装置28によって表示装置24などに向けて出力される。これにより推定寿命の情報がユーザに報知される(ステップS16)。
【0077】
したがって、上述した第三実施形態によれば、所定の運転パターンで予め求められた積算摩耗量と推定制動時間との関係に基づいて、摩耗量積算部34によって積算された積算摩耗量に対応した制動部材5の使用限界時間Tdを求めることができる。そのため、現時点から制動部材5が使用限界となるまでの時間を求めることができる。その結果、実際の運転パターンによる制動部材5の寿命推定の精度を向上することができる。
【0078】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な形状や構成等は一例にすぎず、適宜変更が可能である。
【0079】
例えば、上述した各実施形態においては、ブレーキ装置1が踏面ブレーキの場合を一例に説明した。しかし、ブレーキ装置1は、踏面ブレーキに限られるものではない。例えば、ディスクブレーキやドラムブレーキであってもよい。また、ブレーキ装置1は、作動流体として空気を用いるものに限られず、作動油などを用いた液圧式のブレーキ装置であってもよい。さらに、上述した各実施形態においては、鉄道車両に設けられるブレーキ装置1を一例について説明したが、鉄道車両に限られない。さらに、一編成の各車両100に、それぞれ摩耗量演算装置22,122,222を一つずつ設置してもよい。また、車両のブレーキ装置にも限られず、例えば、工作機械等のブレーキ装置であってもよい。この場合、車両速度に代えて、回転体の回転速度を取得すればよい。
【0080】
また、上述した各実施形態においては、推定摩耗量δを(1)式により求める場合について説明した。しかし、数式に限られるものではなく、例えば、マップやテーブル等を用いて求めるようにしてもよい。また、係数α(t)に加えて、摺動部材18の温度の関数γ(t)を乗算して、温度に応じた摩耗量の変化を加味して推定摩耗量δを求めるようにしてもよい。
【0081】
さらに、上述した第二実施形態においては、修正係数βにより推定摩耗量δを修正する場合を一例に説明した。しかし、この構成に限られるものではない。例えば、ユーザが点検による実測摩耗量に基づいて修正係数βを算出し、手入力装置40から修正係数βを入力するようにしてもよい。また、例えば、摩耗量を実測する頻度が高い場合などにおいては、積算摩耗量と実測摩耗量との関係から係数α(t)自体を修正してもよい。
【0082】
また、上述した第二実施形態で説明した構成と第三実施形態で説明した構成とを組み合わせて用いてもよい。
【0083】
さらに、上述した各実施形態においては、コンピュータ読み取り可能なディスク型記憶媒体Dsを説明した。しかし、記憶媒体は、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、等のディスク型に限られず、半導体メモリ等の記憶媒体を用いてもよい。また、コンピュータプログラムは、通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしてもよい。
【0084】
さらに、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。また、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。