(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
架橋剤と反応する構成単位を有する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[A]を主成分とし、該エマルション[A]の固形分100質量部に対して、架橋助剤として機能する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[B]を、固形分換算で0.6質量部以上の量で含み、更に、これらのエマルションと共に架橋剤[C]を含んでなり、
前記架橋剤[C]は、少なくとも、水に溶解又は分散するヒドラジド系化合物を含み、
前記(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[A]は、(メタ)アクリレート系モノマー由来の構成単位(a1)を主成分とし、且つ、官能基としてカルボキシ基又は水酸基を有する官能基含有不飽和モノマー由来の構成単位(a2)を0.5〜3.0質量%の範囲内で含み、前記架橋剤[C]に含まれる水に溶解又は分散するヒドラジド系化合物との反応性を有するエチレン性不飽和モノマー由来の構成単位(a3)を0.1〜1.0質量%の範囲内で含んでなるエマルションであり、
前記(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[B]は、(メタ)アクリレート系モノマー由来の構成単位(b1)を15〜60質量%の範囲内で含み、カルボキシ基含有不飽和モノマー由来の構成単位(b2)を20〜50質量%の範囲内で含み、前記架橋剤[C]に含まれる水に溶解又は分散するヒドラジド系化合物との反応性を有するエチレン性不飽和モノマー由来の構成単位(b3)を20〜45質量%の範囲内で含んでなり、且つ、pH=6.5〜7.5での粒径分布解析結果にて計測不可となる、中和にて水に溶解するエマルションであり、
前記架橋剤[C]は、少なくとも、前記エマルション[A]の前記構成単位(a3)及び前記エマルション[B]の前記構成単位(b3)と架橋可能であることを特徴とする再剥離性の水性粘着剤組成物。
前記架橋剤[C]が、前記エマルション[A]の固形分100質量部に対して、0.05〜0.5質量部の範囲内で含まれている請求項1に記載の再剥離性の水性粘着剤組成物。
前記構成単位(a3)及び前記構成単位(b3)を形成する由来のモノマーが、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド及びN,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドからなる群から選択される少なくともいずれかを含む請求項1又は2に記載の再剥離性の水性粘着剤組成物。
前記架橋剤[C]として、更に、前記構成単位(a2)及び前記構成単位(b2)と架橋可能な、分子中に2個以上のオキサゾリン基を有するオキサゾリン系化合物、或いは、金属キレート化合物の少なくともいずれかを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の再剥離性の水性粘着剤組成物。
更に、前記エマルション[A]の固形分100質量部に対して、非フタル酸系可塑剤[D]を0.5〜5質量部の範囲内で含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の再剥離性の水性粘着剤組成物。
前記エマルション[A]及び前記エマルション[B]の平均粒子径が、いずれも100〜900nmである請求項1〜6のいずれか1項に記載の再剥離性の水性粘着剤組成物。
基材シートの少なくとも一方の面に、請求項1〜7のいずれか1項に記載の再剥離性の水性粘着剤組成物からなる粘着剤層が形成されていることを特徴とする再剥離性粘着シート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、発明を実施するための好ましい形態を挙げて本発明を更に詳しく説明する。なお、本発明の特許請求の範囲及び明細書における「(メタ)アクリル」という用語は、「アクリル」及び「メタクリル」の双方を意味し、また、「(メタ)アクリレート」という用語は、「アクリレート」及び「メタクリレート」の双方を意味する。
【0014】
[水性粘着剤組成物]
本発明者らは、先に述べた従来技術の課題に対し、基材への密着性と、再剥離性とを両立させ、しかも、特に気温が低い場合でもエイジングを行う必要がなく、一液型にすることも可能な、従来になかった水性粘着剤組成物の実現について鋭意検討した。その結果、架橋剤と反応する構成単位を有する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[A]を主成分とし、これに、架橋助剤として機能する特有の構成のエマルション[B]を特定の量で配合し、且つ、架橋剤[C]として水に溶解又は分散するヒドラジド系化合物を利用することで、本発明の顕著な効果が得られることを見出して本発明に至った。より詳細には、エマルション[B]の共重合体が、カルボキシ基含有エチレン性不飽和モノマー由来の構成単位(b2)を20〜50質量%の範囲内で含み、架橋剤[C]との反応性を有するエチレン性不飽和モノマー由来の構成単位(b3)を20〜45質量%の範囲内で含む構成の、中和にて水に溶解するエマルション、具体的には、pH=6.5〜7.5での粒径分布解析結果にて計測不可となる性状を示す、該特有の共重合体のエマルション[B]を、エマルション[A]に対して特定量で使用することが有効であることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明の再剥離性の水性粘着剤組成物は、架橋剤と反応する構成単位を有する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[A]を主成分とし、該エマルション[A]の固形分100質量部に対して、(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[B]を固形分換算で0.6質量部以上含み、これらのエマルションと共に、水に溶解又は分散するヒドラジド系化合物を含む架橋剤[C]を含んでなることを特徴とし、この結果、本発明の顕著な効果を発揮できるものとなる。本発明者らは、本発明の構成によって、本発明の顕著な効果が得られた理由について、下記のように考えている。
【0016】
まず、本発明の組成物は、架橋剤[C]に、水に安定で且つ架橋速度の速いヒドラジド系化合物を使用したことで、従来のエポキシ系やカルボジイミド系の架橋剤を用いた場合と異なり、エイジングレスであり、利便性の高い一液型の組成物にすることが可能になる。更に、本発明の組成物では、下記のように、ヒドラジド系化合物と架橋する異なる構造の2種のエマルションを使用しているため、良好な粘着性と再剥離性との両立が実現できる水性の粘着剤組成物の提供が可能になったものと推論される。主成分であるエマルション[A]に比べ、使用量の少ないエマルション[B]は、親水性を示すカルボキシ基含有不飽和モノマー由来の構成単位(b2)と、上記架橋剤[C]との反応性を示す構成単位(b3)とを、いずれも十分な量で有する、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の、中和することで水に溶解するエマルションである(pH=6.5〜7.5で粒子径が測定できない状態になる水溶解性)。一方の主成分であるエマルション[A]は、その構造中に、官能基含有不飽和モノマー由来の構成単位(a2)と、架橋剤[C]との反応性を有するエチレン性不飽和モノマー由来の構成単位(a3)を、上記エマルション[B]と比べて少ない量で含む、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体のエマルションである。
【0017】
この結果、エマルション[B]における共重合体の十分な量の構成単位(b3)と、架橋剤[C]を構成する水に溶解又は分散するヒドラジド系化合物が架橋してネットワークが形成され、形成されたネットワークの中に、主成分であるエマルション[A]の共重合体が入り込み、その状態でエマルション[A]の共重合体の構成単位(a3)が、架橋剤[C]と架橋すると考えられる。本発明の組成物では、このように、架橋剤[C]とエマルション[B]により形成されたネットワークを介してエマルション[A]を構成する共重合体同士が架橋して適度に高分子量化するため、架橋剤[C]として、架橋速度の速いヒドラジド系化合物を使用しているにもかかわらず、良好な粘着性と再剥離性との両立が実現できたものと考えている。すなわち、基材シートの一方の面に、上記した構成を有する本発明の組成物を用い、乾燥させて粘着剤層を形成すると、上記したネットワークの中にエマルション[A]の共重合体が存在する状態になることで、急速な架橋であっても、初期及び経時における安定した粘着性と、良好な再剥離性が達成できたものと推定される。本発明者らの検討によれば、水溶性の共重合体によっては、本発明の顕著な効果は得られず、本発明の顕著な効果は、本発明で規定する構造的特徴を有する、中和にて水に溶解する特有の共重合体のエマルション[B]を併用したことで初めて実現する。本発明では、上記した特有の構造を有する共重合体のエマルション[B]によって得られる作用を、「架橋助剤として機能する」と表現している。
【0018】
また、本発明を構成する架橋剤[C]が、水中では架橋しない安定なヒドラジド系化合物であることで、上記したように、水中で、エマルション[B]が溶解し水分散していても架橋せず安定して存在できるようになり、この結果、架橋剤を含有した一液型の組成物とした場合に、長期間安定して優れた性能を発揮できるものになったと考えられる。
【0019】
本発明では、エマルション[A]を主成分とするが、ここで、「主成分」とは、本発明の再剥離性の水性粘着剤組成物中に占めるエマルション[A]の割合が、併用するエマルション[B]、架橋剤[C]のいずれの割合よりも多いことを意味する。エマルション[A]の割合が少なく、主成分とならないと、十分な粘着性能が得られない。以下、各構成成分について詳細に説明する。
【0020】
<主成分であるエマルション[A]>
エマルション[A]は、(メタ)アクリレート系モノマー由来の構成単位(a1)を主成分とし、且つ、官能基含有不飽和モノマー由来の構成単位(a2)を0.5〜3.0質量%の範囲内で含み、架橋剤[C]を構成する水に安定なヒドラジド系化合物との反応性を有するエチレン性不飽和モノマー由来の構成単位(a3)を0.1〜1.0質量%の範囲内で含んで構成された(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルションである。本発明者らの検討によれば、エマルション[A]を構成する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体の構造中に占める構成単位(a2)の割合が0.5〜3.0質量%の範囲内で、且つ、構成単位(a3)の割合を0.1〜1.0質量%の範囲内である場合に、後述する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[B]を併用したことによる効果が、安定して得られる。本発明で規定した、「構成単位(a1)を主成分とする」とは、エマルション[A]を構成する、いずれの構成単位の割合よりも多いことを意味する。
【0021】
〔構成単位(a1)〕
エマルション[A]を構成する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体における構成単位(a1)は、(メタ)アクリレート系モノマーに由来する。(メタ)アクリレート系
モノマーは、官能基を有さない、例えば、以下のものが挙げられる。炭素数1〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリレート系モノマーである、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tertブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート(別名:ラウリル(メタ)アクリレート)、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、芳香族環或いはシクロアルキル基を有する(メタ)アクリレート系モノマーである、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、アルコキシ基を有する(メタ)アクリレート系モノマーである、2−メトキシエチルアクリレート及びエチルカルビトールアクリレート等が挙げられる。これらの群より選ばれた少なくとも1種以上使用することができるが、特に、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートを使用することが好ましい。
【0022】
〔構成単位(a2)〕
エマルション[A]を構成する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体における構成単位(a2)は、官能基含有不飽和モノマーに由来するものである。官能基含有不飽和モノマーとしては、例えば、カルボキシ基、水酸基等の官能基を有する不飽和モノマーを挙げることができる。具体的には、官能基としてカルボキシ基を有する不飽和モノマーである、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、及び、マレイン酸、イタコン酸の炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖を有するアルコールとのハーフエステル等が挙げられる。また、官能基として水酸基を有する不飽和モノマーである、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート及びポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。エマルション[A]を構成する構成単位(a2)は、例えば、上記したモノマー群より選択される1種以上の官能基含有不飽和モノマーに由来するものである。
【0023】
〔構成単位(a3)〕
エマルション[A]を構成する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体における構成単位(a3)は、後述する架橋剤[C]に含まれる水に溶解又は分散するヒドラジド系化合物との反応性を有する、エチレン性不飽和モノマーに由来するものである。構成単位(a3)を有することで、主成分である(メタ)アクリル酸系エステル共重合体は、後述する架橋剤[C]と反応するものとなる。このようなエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、アミド基含有モノマーを挙げることができる。アミド基含有モノマーとしては、例えば、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド及びN,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。構成単位(a3)は、上記した群より選択される1種以上のモノマーに由来するものであればいずれのものでもよいが、より好ましくは、ダイアセトン(メタ)アクリルアミドに由来するものであることが好ましい。
【0024】
(重合方法)
上記した特有の構成単位(a1)〜(a3)を有する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[A]は、一般的な乳化重合により合成することができる。本発明者らの検討によれば、中でも、水、乳化剤及び重合開始剤の存在下、上記した(a1)〜(a3)の各構成単位を形成するための、(メタ)アクリレート系モノマー、官能基含有モノマー、エチレン性不飽和モノマーの、各原料モノマーと共に、乳化重合することにより合成することが特に好ましい。
【0025】
〔乳化剤〕
上記乳化剤としては、特に制限はないが、アニオン性、ノニオン性及び反応性の乳化剤(界面活性剤)を適宜に選択して使用することができる。具体的には、アニオン性乳化剤としては、オレイン酸カリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル及びポリオキシエチレンアルキルアリルエーテルリン酸エステル等が挙げられる。
【0026】
また、ノニオン性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0027】
反応性乳化剤としては、例えば、種々の分子量(EO付加モル数の異なる)のポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクルリロイルオキシエチレンスルホン酸アンモニウム、ポリオキシエチレングリコールのモノマレイン酸エステル及びその誘導体、(メタ)アクリロイルポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル等が挙げられる。以上の、アニオン性、ノニオン性及び反応性の乳化剤の群より選択される1種以上を適宜に使用することができる。
【0028】
これらの乳化剤の使用量は、原料モノマー成分の総量100質量部に対して、0.4〜10.0質量部程度で使用することが好ましく、より好ましくは、0.5〜6.0質量部の範囲内で使用する。本発明者らの検討によれば、乳化剤の使用量が上記した範囲にあることによって、乳化重合した際に、凝固物を生じることなく、本発明を構成する共重合体のエマルション[A]が、適切な粒子径で得られ、後述する本発明を構成する共重合体のエマルション[B]との混和性もよくなるため、好ましい。
【0029】
〔重合調整剤〕
乳化重合する際に、必要に応じて重合度を調整するため、重合調整剤として、連鎖移動剤や重合禁止剤を使用することができる。連鎖移動剤としては、例えば、n−ドデシルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、n−ブチルメルカプタン、トリクロロメルカプタン及びイソプロピルアルコール等が挙げられる。重合禁止剤としては、例えばヒドロキノンモノメチルエーテル等が挙げられる。そして、これらの群より選択される1種以上を適宜に使用することができる。
【0030】
〔重合開始剤〕
乳化重合する際に用いる重合開始剤としては、通常の乳化重合に用いる重合開始剤を適宜に使用することができる。具体的には、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素、パーオキシエステル類の過酸化物や、アゾビス系重合開始剤が挙げられる。これらの群より選ばれる水溶性の重合開始剤が好ましい。また、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、重亜硫酸ナトリウム、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ナトリウム等の還元剤と、前記した過酸化物とを併用して使用することができる。重合開始剤の使用量は、原料モノマー成分の総量100質量部に対して、通常、0.02〜3.0質量部程度である。好ましくは、0.05〜1.0質量部である。
【0031】
〔中和剤〕
また、重合したエマルション[A]は、本発明の再剥離性の水性粘着剤組成物を作製する際に、適度なpHに中和されてもよい。この際に使用する中和剤としては、塩基性の有機化合物及び塩基性の無機化合物の何れであってもよい。例えば、トリメチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン及び2−アミノメチルプロパノール等の有機アミンや、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物や、アンモニア等が挙げられ、その他の公知の中和剤も使用することができる。なお、これら中和剤は、エマルションを得るための乳化重合反応中に使用することも可能である。
【0032】
(物性)
以上のようにして得られる本発明を構成する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[A]は、該共重合体のガラス転移温度(以下、Tgと称す)が、−50℃以下であることが好ましい。より好ましくは−55℃以下である。(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のTgが−50℃を超えると粘着力と再剥離性のバランスを取ることが困難な場合がある。なお、本発明における共重合体のTgは、日本エマルジョン工業会規格「合成樹脂エマルジョンの皮膜と硬さ表示方法(107−1996)」に記載された各ホモポリマーのTg値を使用して計算式から求めた。
【0033】
本発明を構成する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[A]は、その酸価が16mgKOH/g以下であることが好ましい。より好ましくは、8mgKOH/g以下である。上述した構成単位(a2)の割合を、0.5〜3.0質量%とすることで、酸価を16mgKOH/g以下の(メタ)アクリル酸系エステル共重合体を容易に得ることができる。上記酸価が16mgKOH/gを超えると、基材密着性が悪くなる場合がある。
【0034】
また、本発明の再剥離性の水性粘着剤組成物を調製する際における本発明を構成するエマルション[A]は、そのpHが8〜9程度であることが好ましい。また、エマルション[A]は、その平均粒子径が100〜900nm程度であることが好ましく、より好ましくは、150〜350nm程度である。また、エマルション[A]は、その25℃における粘度が200mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは、100mPa・s以下である。本発明者らの検討によれば、エマルション[A]の物性値が上記を満たすものであると、併用するエマルション[B]との相溶性により優れたものとなるため好ましい。なお、平均粒子径は、レーザー光散乱方式の粒度分布測定装置によって測定した。
【0035】
<(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[B]>
本発明の再剥離性の水性粘着剤組成物は、上記したエマルション[A]を主成分とし、該エマルション[A]の固形分100質量部に対して、架橋助剤として機能する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[B]を、固形分換算で0.6質量部以上の量で含有することを特徴とする。先に述べたように、本発明の顕著な効果は、このエマルション[B]を構成する共重合体における特有の構造によって初めて達成される。
【0036】
本発明を構成するエマルション[B]は、(メタ)アクリレート系モノマー由来の構成単位(b1)を15〜60質量%の範囲内で、カルボキシ基含有不飽和モノマー由来の構成単位(b2)を20〜50質量%の範囲内で、且つ、後述する架橋剤[C]との反応性を有するエチレン性不飽和モノマー由来の構成単位(b3)を20〜45質量%の範囲内で含んで構成される(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルションである。本発明を構成するエマルション[B]は、pH=6.5〜7.5にて粒径分布解析結果は計測不可となる、すなわち、粒径が認められなくなる、中和にて水に溶解する性状のエマルションであることを特徴とする。このように、本発明を特徴づけるエマルション[B]は、高酸価で、且つ、前記架橋剤[C]との反応性基を多く含む水溶解型の(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルションである。前記したように、本発明を構成するエマルション[B]は、上記した構成単位を特定量有する共重合体であるため、架橋助剤として機能する。このため、本発明の組成物は、先述したエマルション[A]に、エマルション[A]を構成する共重合体の架橋助剤として機能するエマルション[B]を併
用したことで、架橋剤[C]として、水の中で安定、且つ、架橋速度の速いヒドラジド系化合物を使用でき、1液にしてこのような架橋剤が入っているにもかかわらず、長期間にわたり安定した溶液を得ることができ、且つ、塗膜形成後にエイジングレスで、初期及び経時での粘着性に優れ、良好な再剥離性を示す粘着剤組成物の提供が可能になる。以下、各構成について詳細に説明する。
【0037】
〔構成単位(b1)〕
エマルション[B]を構成する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体における構成単位(b1)は、(メタ)アクリレート系モノマーに由来する。(メタ)アクリレート系モノマーは、先に、エマルション[A]における共重合体の構成単位(a1)で説明したものをいずれも使用することができる。このため、説明を省略する。
【0038】
エマルション[B]を構成する共重合体中に占める構成単位(b1)の割合は、十分な粘着性能及び再剥離性を得る目的から、15〜60質量%の範囲内とする。より好ましくは、15〜40質量%である。
【0039】
〔構成単位(b2)〕
エマルション[B]を構成する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体における構成単位(b2)は、カルボキシ基含有不飽和モノマーに由来するものである。カルボキシ基含有不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、及び、マレイン酸、イタコン酸の炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖を有するアルコールとのハーフエステル等が挙げられ、いずれも使用することができる。
【0040】
上記構成単位(b2)の割合は、20〜50質量%の範囲内であり、その量は比較的多い。先述したように、本発明の顕著な効果が得られた理由は、(b2)を上記のように構成したことにある。構成単位(b2)の割合が上記の範囲内でないと、乳化重合反応が困難になること、及び本発明で規定する、「pH=6.5〜7.5での粒径分布解析結果にて計測不可」、すなわち、中和した際に、エマルション[B]の粒径が測定できない程度の水への溶解性を意味する、「中和にて水に溶解するエマルション」という要件を満たすことができなくなる。より好ましくは、30〜45質量%である。
【0041】
〔構成単位(b3)〕
エマルション[B]を構成する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体における構成単位(b3)は、水に溶解又は分散するヒドラジド系化合物を含む架橋剤[C]との反応性を有するエチレン性不飽和モノマーに由来するものである。構成単位(b3)の形成に使用するエチレン性不飽和モノマーとしては、先にエマルション[A]の共重合体の構成単位(a3)で説明したものを同様に使用できる。このため、説明を省略する。
【0042】
本発明の顕著な効果を得るために重要なことは、エマルション[B]を構成する共重合体中に占める構成単位(b2)の割合が、本発明で規定した20〜50質量%の範囲内になるようにしたことに加え、エマルション[B]の共重合体中に占める構成単位(b3)の割合を20〜45質量%の範囲内、好ましくは30〜40質量%の範囲内となるようにしたことにある。本発明者らの検討によれば、先述したように、上記したように構成したことで、架橋剤[C]と、エマルション[B]の共重合体によってネットワークが形成され、そのネットワーク中にエマルション[A]を構成する共重合体が入り込むように存在して、共重合体が架橋して分子量が増大するので、形成される粘着剤層は、初期及び経時において十分な粘着性を示し、再剥離性に優れたものとなる。
【0043】
〔その他の構成単位〕
上記したように、エマルション[B]を構成する、上記した(b1)〜(b3)の構成単位を有することを必須とする(メタ)アクリル酸系エステル共重合体は、その構成単位として、更に、架橋性モノマーであるトリメチロールプロパントリアクリレート等の多官能アクリレートに由来するものを含むものであってもよい。その使用量は、本発明の所期の目的の範囲内であれば特に限定されないが、上記した(b1)〜(b3)の構成単位の総量100質量部に対して、0.1〜3.0質量部の範囲内で、より好ましくは0.5〜2.0であることが好ましい。
【0044】
(重合方法)
上記した構成単位(b1)〜(b3)を含む架橋助剤として機能する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[B]は、エマルション[A]と同様、一般的な乳化重合により合成することができる。その方法については、先にエマルション[A]で説明したのと同様であるため、説明を省略する。また、使用できる、乳化剤、重合開始剤、中和剤についても同じものを使用することができるため、説明を省略する。
【0045】
(物性)
上記した特有の構成を有し、使用することで本発明の顕著な効果をもたらす(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[B]は、その構造的な特徴から、pH=6.5〜7.5での粒径分布解析結果にて計測不可となり、中和にて水に溶解するものである。すなわち、エマルション[B]を構成する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体は、前記したように、構成単位(b2)としてカルボキシ基を多く含む構成であるため、中和してpHを6.5〜7.5程度にすると水に溶解し、白濁したエマルションの状態から透明な溶液のような状態になる性状を示す。そのため、粒径分布を測定しようとしても計測することができない。なお、粒径分布解析は、平均粒子径の測定と同様に、レーザー光散乱方式の粒度分布測定装置によって測定した。
【0046】
エマルション[B]を構成する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体は、そのTgが10〜130℃であることが好ましい。(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のTgが130℃を超えると、水溶性モノマーの比率が高すぎて、乳化安定性が悪くなる場合があるので好ましくなく、一方、10℃より低いと水に対して溶解し辛くなる場合がある。
【0047】
上記のようにして得られる本発明を構成するエマルション[B]のpHは、3〜6程度となる。エマルション[B]は、この状態で測定した場合の平均粒子径が、エマルション[A]の共重合体と同様、100〜900nm程度のものであることが好ましく、より好ましくは、130〜200nm程度である。また、エマルション[B]は、その25℃における粘度が50mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは、10mPa・s以下である。エマルション[B]の物性値が上記を満たすものであると、先述したエマルション[A]との相溶性により優れたものとなる。
【0048】
(使用量)
上記したエマルション[B]は、前記したように架橋助剤として機能するものであり、本発明者らの検討によれば、その効果を得るためには、エマルション[A]の固形分100質量部に対して、固形分換算で0.6質量部以上の量で含むことを要する。なお、エマルション[B]の使用量の上限については、本発明の範囲内であれば特に規定する必要はないが、0.6〜2.0質量部程度であれば十分である。多くなり過ぎると、得られる水性粘着剤組成物の粘度が高くなり過ぎて、塗工が困難になる傾向がある。
【0049】
<架橋剤[C]>
本発明の再剥離性の水性粘着剤組成物は、先述した主成分であるエマルション[A]に併用して本発明を特徴づけるエマルション[B]を含有してなり、更に、前記エマルション[A]の前記構成単位(a3)及び前記エマルション[B]の前記構成単位(b3)と架橋可能で、且つ、水に溶解又は分散するヒドラジド系化合物を架橋剤[C]として含んでいる。先に述べたように、このように構成したことで本発明の顕著な効果が得られる。以下、架橋剤[C]について説明する。
【0050】
上記したように、架橋剤[C]は、水に溶解又は分散するヒドラジド系化合物を含むことを要する。先に述べたように、再剥離性の粘着剤組成物には、従来、エポキシ系やカルボジイミド系の架橋剤(硬化剤)が使用されていた。また、先に述べたように、例えば、エポキシ系の架橋剤は、エマルション中で水やカルボキシ基と反応してしまうため、架橋剤を後添加しなくてはならず、一液型の粘着剤組成物とすることはできなかった。また、エポキシ系やカルボジイミド系の架橋剤を使用した場合、添加後の架橋進行に伴い液安定性に劣り、且つ、架橋の進行が遅いため塗膜形成後にエイジング(養生)期間を設ける必要があった。また、エイジングは温度による影響を受けやすいという問題もあり、養生を行う環境も考慮にいれなければならない。一方、ヒドラジド系の架橋剤は、水の中では安定に存在できるので一液型の粘着剤組成物とすることが可能であり、塗膜形成の際は架橋の進行が速いため、塗膜形成後にエイジング期間を設ける必要もないといった利点がある。しかし、架橋速度が速いため、架橋後のポリマーの分子量を調整することが難しいという問題があった。
【0051】
これに対し、本発明では、架橋剤[C]として使用するヒドラジド系化合物と、主成分であるエマルション[A]とともに、エマルション[B]を併用し、このエマルション[B]を構成する共重合体を、カルボキシ基含有不飽和モノマー由来の構成単位(b2)と、架橋剤[C]であるヒドラジド系化合物との反応性を有する構成単位(b3)とを高い割合で有する特定の構造を有するものとした。この結果、前記したように、エマルション[B]を構成する共重合体と架橋剤[C]であるヒドラジド系化合物とが架橋し、ネットワークを形成することで、架橋の進行が速いヒドラジド系の架橋剤を使用しているにもかかわらず、エマルション[A]を構成する共重合体同士の架橋を適宜に抑制することができるようにした。このように、本発明の再剥離性の水性粘着剤組成物では、ヒドラジド系の架橋剤を用い、且つ、架橋助剤として機能するエマルション[B]を併用したことで、優れた再剥離性の効果が得られ、配合の時点でエマルションに架橋剤を添加した、利便性の高い1液型の粘着剤組成物とすることができる。
【0052】
上記ヒドラジド系化合物としては、本発明の範囲内であれば、従来公知のものを使用することができる。具体的には、例えば、アジピン酸ジヒドラジドや、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等を用いることができる。中でも本発明で規定する(a3)や(b3)として好適なダイアセトン(メタ)アクリルアミドと容易に反応するアジピン酸ジヒドラジドが好ましい。このような架橋剤[C]は、エマルション[A]の固形分100質量部に対して、0.05〜0.5質量部の範囲内で、より好ましくは、0.1〜0.3質量部の範囲内で含有させることが好ましい。
【0053】
また、本発明を構成する架橋剤[C]は、本発明の所期の目的の範囲内であれば、上記したヒドラジド系化合物に加えて、更に、エマルション[A]の構成単位(a2)及びエマルション[B]の構成単位(b2)と架橋可能な、分子中に2個以上のオキサゾリン基を有するオキサゾリン系化合物、或いは、金属キレート化合物の少なくともいずれかを含むことができる。これらの化合物は、カルボキシ基含有不飽和モノマー由来の構成単位と反応性を有するものであり、本発明で必須としているヒドラジド系化合物は、各エマルションのエチレン性不飽和モノマー由来の構成単位と反応性を有するため、これらを併用することで、より架橋性と再剥離性に優れた粘着剤組成物とすることができる。上記した化合物の使用量としては、例えば、エマルション[A]の固形分100質量部に対して、0.05〜2.0質量部の範囲内で使用することが好ましい。
【0054】
<非フタル酸系可塑剤[D]>
本発明の再剥離性の水性粘着剤組成物は、更に、前記エマルション[A]の固形分100質量部に対して、非フタル酸系可塑剤[D]を0.5〜5質量部の範囲内で含むことができる。上記可塑剤としては、例えば、オレイン酸エステル、アジピン酸エステル、コハク酸エステル、マレイン酸エステル、フマル酸エステル、クエン酸エステル等の脂肪酸エステル類、ジプロピレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエート等の安息香酸エステル類等が挙げられる。これらの可塑剤は、1種類又は2種類以上組み合わせて使用することが可能であり、更に、その他の公知の可塑剤も使用することができる。上記した可塑剤の中でも、特に、アジピン酸ジブトキシエトキシエチルが好ましい。
【0055】
<その他の成分>
本発明の再剥離性の水性粘着剤組成物は、更に、濡れ剤を使用することができる。濡れ剤とは、基材表面を濡れやすくする作用を有するものである。例えば、アニオン性界面活性剤であるニューコール291M(日本乳化剤社製、ジアルキルサクシネートスルホン酸ナトリウム塩:固形分70%)等が挙げられる。その使用量としては、前記エマルション[A]の固形分100質量部に対して、0.4〜1.0質量部程度であることが好ましい。
【0056】
以上、本発明の再剥離性の水性粘着剤組成物は、主成分である、架橋剤であるヒドラジド系化合物と反応する構成単位を有する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[A]に、高酸価で且つヒドラジド系化合物との反応性基を多く含む、(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[B]を含み、架橋剤[C]として水の中で安定に存在できるヒドラジド系化合物を使用する。このため、塗工直前に架橋剤(硬化剤)を混合する必要がない1液型の組成物にすることができ、また、ヒドラジド系化合物を使用しているので、養生期間を必要としないエイジングレスなものとなり、製造時の時間短縮、管理コストの削減などに寄与できる。
【0057】
[再剥離性粘着シート]
本発明の再剥離性粘着シートは、基材シートの少なくとも一方の面に、上記した本発明の再剥離性の水性粘着剤組成物からなる粘着剤層が形成されていることを特徴とする。先に述べたように、本発明の再剥離性の水性粘着剤組成物は1液型の組成物にでき、塗膜形成後にエイジングを必要としないため、簡便に、粘着性及び再剥離性に優れた粘着剤層を得ることができる。また、本発明の再剥離性粘着シートは、初期及び経時での粘着力に優れ、また、再剥離性に優れたものである。
【0058】
上記基材シートとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセテート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂からなる群から選択されるいずれかの樹脂製のフィルムや、ポリオレフィン系樹脂等により製造される合成紙、金属蒸着体、上質紙、コート紙、グラシン紙、感熱紙等の紙基材、及びこれらの紙基材にポリエチレン等の熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙等が挙げられる。これらの基材の一方に、剥離処理やエンボス処理等の加工がしてあっても問題はない。基材シートの厚さは10〜100μmが適当である。
【0059】
本発明の再剥離性粘着シートは、通常使用されている塗布装置、例えば、ロール塗布装置等を用いて塗工し、乾燥し、必要に応じて加熱架橋させる方法等により得ることができる。また、本発明の再剥離性粘着シートを製造する場合、本発明の再剥離性の水性粘着剤組成物の塗布量は、例えば、10〜50μm程度であることが好ましい。
【実施例】
【0060】
次に、使用した構成材料についての合成例、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、文中「部」又は「%」とあるのは質量基準である。
【0061】
<合成例1:エマルション[A]の製造例>
構成単位(a1)を形成するための由来のモノマーである2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)を99.0部と、構成単位(a2)を形成するための由来のモノマーであるアクリル酸(AAc)0.7部と、構成単位(a3)を形成するための由来のモノマーであるダイアセトンアクリルアマイド(DAAM)0.3部を秤量して混合し、単量体混合物とした。そして、該混合物100部に、アニオン乳化剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(商品名:ラテムルE−118B、花王社製)を2部、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩(商品名:ニューコール707SF、日本乳化剤社製)を2部、及びポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル(商品名:プライサーフA−208B、第一工業製薬社製)を0.5部と、イオン交換水51部を混合して乳化し、単量体混合物の乳化物を調製した。
【0062】
次に、温度計、撹拌機、滴下装置、還流冷却管及び窒素導入管を備えた反応装置に、イオン交換水34部、及びポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩(商品名:ニューコール707SF、日本乳化剤社製)を0.04部秤量し、窒素を封入して内温を60℃まで昇温させた。その温度に保ちながら、10%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液1部、及び10%濃度の無水重亜硫酸ソーダ水溶液1部を添加し、直ちに、先に調製した単量体混合物の乳化物を、連続的に3時間滴下して乳化重合した。また、これと並行して5%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液2部、及び5%濃度の無水重亜硫酸ソーダ水溶液3部を滴下した。滴下終了後、80℃で3時間熟成し、その後室温まで冷却した後、アンモニア水を添加して中和した。その後、イオン交換水を加えて濃度を調製し、固形分51.9%の、アクリル酸エステル共重合体のエマルション(A−1)を得た。得られたエマルションA−1は、pHが8.7で、平均粒子径が350nmであり、粘度が70mPa・s/25℃であった。
【0063】
<合成例2〜6:エマルション[B]の製造例>
モノマーとして、構成単位(b2)を形成するための由来のモノマーであるメタクリル酸(MAAc)と、構成単位(b1)を形成するための由来のモノマーであるエチルアクリレート(EA)と、構成単位(b3)を形成するための由来のモノマーであるダイアセトンアクリルアマイド(DAAM)と、架橋性モノマーとして多官能アクリレートであるトリメチロールプロパントリアクリレート(TMP)とを、それぞれ表1に示した配合で用い、秤量して混合し単量体混合物とした。そして、該混合物100部に、アニオン乳化剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(商品名:ラテムルE−118B、花王社製)を3.5部、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩(商品名:ニューコール707SF、日本乳化剤社製)を3部、イオン交換水200部を混合して乳化し、単量体混合物の乳化物を調製した。
【0064】
次に、温度計、撹拌機、滴下装置、還流冷却管及び窒素導入管を備えた反応装置に、イオン交換水130部、及びポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩(商品名:ニューコール707SF、日本乳化剤社製)を0.15部秤量し、窒素を封入して内温を80℃まで昇温させた。その温度に保ちながら、5%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液1.0部を添加し、直ちに、先に調製した単量体混合物の乳化物を、連続的に2時間滴下して乳化重合した。また、これと並行して5%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液2部を滴下した。滴下終了後、80℃で2時間熟成し、その後室温まで冷却した後、イオン交換水を加え濃度を調製することで、固形分25%程度のアクリル酸エステル共重合体のエマルション(B−1〜B−5)の溶液を得た。
【0065】
表1に、得られた各エマルション[B]の性状を示した。表1に示したように、エマルションB−1〜B−3は、本発明で規定する構成要件を満足する配合のものである。エマルションB−4とエマルションB−5は、本発明で規定する構成要件を満足するものではない。具体的には、エマルションB−4は、エマルション[B]の構成単位(b3)を形成するための由来のモノマーであるDAAMが、本発明で規定する値よりも多く、また、エマルションB−5は、DAAMを使用せずに合成したエマルションである。
【0066】
【0067】
[実施例1]
エマルション[A]としてA−1を100部(固形分)、エマルション[B]としてB−1を0.75部(固形分)、架橋剤[C]としてアジピン酸ジヒドラジド(ADH)を0.3部(固形分)配合し、更に、濡れ剤として、アニオン性界面活性剤であるニューコール291M(商品名、日本乳化剤社製、ジアルキルサクシネートスルホン酸ナトリウム塩:固形分70%)を、A−1の100部(固形分)に対して0.4部(固形分)混合した。そして、水で調整して、固形分46.0%、粘度3800mPa・s(B型粘度計)、pH8.5の再剥離性の水性粘着剤組成物を調製した。
【0068】
[実施例2〜7、比較例1〜8]
表2に示す種類及び配合量(固形分比)で、エマルション[A]、エマルション[B]及び架橋剤[C]、可塑剤[D]を配合し、更に、濡れ剤として、アニオン性界面活性剤であるニューコール291M(日本乳化剤社製、ジアルキルサクシネートスルホン酸ナトリウム塩:固形分70%)をエマルション[A]の100部(固形分)に対して0.4部(固形分)混合した。そして、水で調整して、固形分46.0%の各水性粘着剤組成物を調製した。
【0069】
[評価]
上記で得た実施例及び比較例の各水性粘着剤組成物を用いて、評価用試料を作製し、粘着力、保持力及び再剥離性を測定し、以下のようにして評価した。
(評価用の粘着シートの調製)
実施例及び比較例で調製した水性粘着剤組成物を、乾燥後の厚さが17μmになるように剥離性シート上に塗布し、100℃で90秒間乾燥後、市販の感熱紙に転写して、23℃50%RHの雰囲気で1日間放置し、評価用の粘着シートを得た。
【0070】
(1.初期粘着力・経時粘着力)
評価用の粘着シートを、JIS Z−0237の180°引き剥がし、粘着力測定に準じて測定した。具体的には、再剥離用粘着シートを幅25mmに切断し、ステンレス鋼(SUS)板、ポリエチレン(PE)板及びKライナー紙(段ボールシートの表裏に使用される原紙)にそれぞれ貼り付け、2kgのローラーで1往復圧着した。初期粘着力は、上記のローラーで圧着直後に引き剥がし速度300mm/分にて、粘着シートを引き剥がして測定した。また、経時粘着力は、上記ローラーで圧着した後、23℃50%RH(相対湿度)で24時間放置した後、引き剥がし速度300mm/分にて、粘着シートを引き剥がして測定した。得られた結果を表2に示した。
【0071】
(2.保持力)
評価用の粘着シートを、JIS Z−0273に準じて、幅25mm長さ50mmに切断した試験片を、接着面積が25mm×25mmになるように、研磨し清浄にしたSUS304板に貼り付け、2kgの圧着ロールで1往復させ圧着させた。その後、23℃50%RH中に30分間放置して、40℃の雰囲気中で1kgの荷重をかけ、落下するまでの時間(秒数)を測定した。すなわち、より秒数が大きいものほど保持力に優れていることを示している。得られた結果を表2に示した。
【0072】
(3.再剥離性)
評価用の粘着シートを、幅25mmに切断し、ステンレス鋼(SUS)板、ポリエチレン(PE)板及びKライナー紙にそれぞれ貼り付け、23℃50%RHの雰囲気に7日間放置した。その後、5m/分の速度で120°方向に手で剥離して、剥離状態を目視にて観察し、以下の基準により評価した。○、△を合格とし、×を不合格とした。得られた結果を表2に示した。
【0073】
<評価基準>
○:糊残りや紙破れなく、きれいに剥離できる。
△:糊残りや紙破れが若干あるが、実用上問題のないレベル。
×:糊残りや紙破れが多く、実用不可。
【0074】
(4.初期・経時粘度)
実施例及び比較例でそれぞれ調製した再剥離性の水性粘着剤組成物を用い、BM型粘度計(東京計器社製)でNo4、60回転、25℃にて測定した。また、経時の粘度は、40℃条件下に、7日及び14日放置した後、同様の条件にて測定した。得られた結果を表2に示した。
【0075】
【0076】
【0077】
表2−1に示したように、本発明で規定する要件を満たす実施例の組成物では、経時の増粘を生じることなく、初期及び経時に安定した粘着力を示し、更に、該組成物で粘着剤層を形成した評価用の粘着シートにおいて、再剥離性及び保持力のいずれにおいても優れた結果を示すことを確認した。一方、表2−2に示したように、エマルション[B]の使用量が本発明で規定する要件を満たしていない比較例1〜3の組成物では、該組成物で粘着剤層を形成した評価用の粘着シートにおいて、実施例の場合と比較して、再剥離性と保持力が不十分であり、比較例4の組成物では、該組成物で粘着剤層を形成した評価用の粘着シートにおいて、再剥離性が不十分であり、いずれも実用に足るものではなかった。これは、比較例1〜4の組成物は、いずれも、架橋助剤として機能するエマルション[B]の量が不足しているため、架橋剤[C]とエマルション[B]の構成単位(b3)との架橋が足りず、十分なネットワークの形成がされなかったため、その粘着シートにおいて、十分な再剥離性及び保持力を得ることができなかったと考えられる。また、エマルション[B]中の構成単位(b3)の割合が、本発明で規定するよりも多い構成の比較例5、6の組成物では、形成した粘着剤層における再剥離性が不十分であった。この理由は、比較例5、6の組成物では、エマルション[B]中の構成単位(b3)の割合が多過ぎるため、架橋剤[C]との間での架橋密度が高すぎて皮膜全体が硬くなってしまい、転写の際に基材との密着が十分でなかったことで、再剥離性を得ることができなかったためと考えられる。また、エマルション[B]を構成する共重合体が構成単位(b3)を含まず、且つ、架橋剤[C]にヒドラジド系化合物を使用せず、エポキシ系やカルボジイミド系の架橋剤を使用した従来品の比較例7及び比較例8では、再剥離性はよいものの、実施例の場合と比較して、溶液が経時で増粘又はゲル化し、且つ保持力が劣っていた。
【課題】環境対応性に優れ、エイジングレスで、利便性の高い一液型にもできる、初期の粘着力は勿論、経時の粘着力に問題がなく、良好な再剥離性を示す粘着剤層の形成を可能にできる水性粘着剤組成物の提供。
【解決手段】架橋剤と反応する構成単位を有する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[A]を主成分とし、該エマルション[A]の固形分100質量部に対して、架橋助剤として機能する、pH=6.5〜7.5での粒径分布解析結果にて計測不可となる、中和にて水に溶解する特有の構造を有する(メタ)アクリル酸系エステル共重合体のエマルション[B]を、固形分換算で0.6質量部以上の量で含み、更に、架橋剤[C]として、水に溶解又は分散するヒドラジド系化合物を含む再剥離性の水性粘着剤組成物。