特許第6207118号(P6207118)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイティーエフ、リサーチ、ファルマ、ソシエダッド、リミターダ、ウニペルソナルの特許一覧

特許6207118腫瘍病理の危険性を伴う女性における膣萎縮の治療
<>
  • 特許6207118-腫瘍病理の危険性を伴う女性における膣萎縮の治療 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207118
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】腫瘍病理の危険性を伴う女性における膣萎縮の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/565 20060101AFI20170925BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20170925BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20170925BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20170925BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20170925BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   A61K31/565ZMD
   A61K9/06
   A61K47/34
   A61K47/36
   A61K47/38
   A61P15/00
【請求項の数】19
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-521599(P2011-521599)
(86)(22)【出願日】2009年8月7日
(65)【公表番号】特表2011-529951(P2011-529951A)
(43)【公表日】2011年12月15日
(86)【国際出願番号】EP2009060307
(87)【国際公開番号】WO2010015718
(87)【国際公開日】20100211
【審査請求日】2012年7月24日
【審判番号】不服2014-20946(P2014-20946/J1)
【審判請求日】2014年10月16日
(31)【優先権主張番号】P200802384
(32)【優先日】2008年8月7日
(33)【優先権主張国】ES
(73)【特許権者】
【識別番号】514178462
【氏名又は名称】アイティーエフ、リサーチ、ファルマ、ソシエダッド、リミターダ、ウニペルソナル
【氏名又は名称原語表記】ITF RESEARCH PHARMA,S.L.U.
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】アセブロン フェルナンデス、アルバロ
(72)【発明者】
【氏名】ブランコ ロウサメ、ドロレス
(72)【発明者】
【氏名】モスコソ デル プラド、ハイメ
(72)【発明者】
【氏名】ニエト マルゴ、コンセプシオン
【合議体】
【審判長】 村上 騎見高
【審判官】 前田 佳与子
【審判官】 山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−528864(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/021805(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/070067(WO,A1)
【文献】 DESSOLE SALVATORE,EFFICACY OF LOW−DOSE INTRAVAGINAL ESTRIOL ON UROGENITAL AGING IN POSTMENOPAUSAL WOMEN,MENOPAUSE,2004年1月,V11 N1,P49−56
【文献】 Maturitas,1995年,Vol.22,p.227−232
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/565
A61K9/06
A61P15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エストリオールを含んでなり、エストロゲン依存性腫瘍を発症している可能性が高い、またはエストロゲン依存性腫瘍に罹患しているもしくは罹患したことがある女性における泌尿生殖器萎縮の予防および/または治療に用いられる、エストリオール吸収を自己制御する能力を有する膣内投与用医薬処方物であって、
前記女性が、エストロゲン依存性腫瘍に罹患している、もしくは罹患したことがあるか、または遺伝子変異BRCA1またはBRCA2のキャリアであり、
エストリオールが、0.1mg/日以下の量で投与されるものであり、
前記医薬処方物のpHが4.5であり、
前記医薬処方物が、生体接着性ポリマーを含有する粘膜付着性ゲル、クリームゲルまたはクリームであり、
前記生体接着性ポリマーが、ジビニルグリコールで架橋したアクリル酸型ポリマーの少なくとも一つ、およびアリルスクロースまたはペンタエリスリトールのアリルエーテルで架橋したアクリル酸由来のポリマーの少なくとも一つを含有するものであることを特徴とする、膣内投与用医薬処方物。
【請求項2】
前記医薬処方物が、1〜4週間、1日1回の反復投与後に、時間の関数として、500pg/ml×h未満の血漿中エストリオール濃度の曲線下面積を与えるものである、請求項1に記載の膣内投与用医薬処方物。
【請求項3】
前記医薬処方物が、1〜4週間、1日1回の反復投与後に、時間の関数として、300pg/ml×h未満の血漿中エストリオール濃度の曲線下面積を与えるものである、請求項2に記載の膣内投与用医薬処方物。
【請求項4】
前記医薬処方物が、2〜3週間、1日1回の反復投与後に、時間の関数として、150pg/ml×h未満の血漿中エストリオール濃度の曲線下面積を与えるものである、請求項3に記載の膣内投与用医薬処方物。
【請求項5】
前記医薬処方物が、1〜4週間、1日1回の反復投与後、50pg/ml未満の血漿中エストリオールレベルを与えるものである、請求項1に記載の膣内投与用医薬処方物。
【請求項6】
前記医薬処方物が、1〜4週間、1日1回の反復投与後、30pg/ml未満の血漿中エストリオールレベルを与えるものである、請求項5に記載の膣内投与用医薬処方物。
【請求項7】
前記医薬処方物が、膣上皮が萎縮しているときは低いエストリオール吸収を与え、前記処方物の反復投与によって膣萎縮が回復するとほんのわずかなエストリオール吸収を与えるものである、請求項1に記載の膣内投与用医薬処方物。
【請求項8】
前記医薬処方物が、血漿中エストリオール濃度−時間曲線下面積として、膣上皮が萎縮しているときは1000pg/ml×h未満を与え、膣萎縮が回復すると500pg/ml×h未満を与えるものである、請求項7に記載の膣内投与用医薬処方物。
【請求項9】
前記医薬処方物が、血漿中エストリオール濃度−時間曲線下面積として、膣上皮が萎縮しているときは750pg/ml×h未満を与え、膣萎縮が回復すると250pg/ml×h未満を与えるものである、請求項に記載の膣内投与用医薬処方物。
【請求項10】
治療開始から2〜10日後に膣萎縮が回復するものである、請求項7〜9のいずれか一項に記載の膣内投与用医薬処方物。
【請求項11】
遺伝子変異BRCA1またはBRCA2のキャリアである、または乳ガン、子宮内膜ガン、子宮内膜異型増殖症、発ガン前病変、エストロゲン依存性メラノーマ、エストロゲン依存性卵巣ガン、エストロゲン依存性肝腫瘍または筋腫の個人歴がある女性における、あるいは、生物におけるエストロゲン生成を阻害する、またはその作用を妨害する少なくとも1つの薬物による治療中の、エストロゲン依存性腫瘍に罹患している、または罹患したことがある女性における、あるいは、卵巣切除を受けたことがある女性における、エストロゲン欠乏に起因する泌尿生殖器萎縮の予防または治療に用いられる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の膣内投与用医薬処方物。
【請求項12】
前記薬物が、選択的エストロゲン受容体モジュレーター、エストロゲン受容体阻害剤、アロマターゼ阻害剤、または黄体形成ホルモン放出ホルモン類似体である、請求項11に記載の膣内投与用医薬処方物。
【請求項13】
前記医薬処方物が、0.002〜0.07mg/日の量のエストリオール投与を可能にするものである、請求項1〜12のいずれか一項に記載の膣内投与用医薬処方物。
【請求項14】
前記医薬処方物が、0.01〜0.05mg/日の量のエストリオール投与を可能にするものである、請求項13に記載の膣内投与用医薬処方物。
【請求項15】
前記医薬処方物が、ジビニルグリコールで架橋した少なくとも一つのポリアクリル酸型ポリマーからなる生体接着性ポリマーの少なくとも一つ、およびペンタエリスリトールのアリルエーテルで架橋したアクリル酸由来のポリマーからなる生体接着性ポリマーの少なくとも一つを含有するものである、請求項1〜14のいずれか一項に記載の膣内投与用医薬処方物。
【請求項16】
ペンタエリスリトールのアリルエーテルで架橋した前記アクリル酸由来のポリマーが、酢酸エチル中または酢酸エチルとシクロヘキサンとの混合物中で重合されたものであり、かつ4,000〜11,000cPの粘度を有するものである、請求項15に記載の膣内投与用医薬処方物。
【請求項17】
ジビニルグリコールで架橋した前記アクリル酸型ポリマーおよび/またはアリルスクロースまたはペンタエリスリトールのアリルエーテルで架橋したアクリル酸由来の前記ポリマーが、それぞれ、前記処方物の0.05〜5重量%を構成するものである、請求項1、15、または16に記載の膣内投与用医薬処方物。
【請求項18】
ジビニルグリコールで架橋した前記アクリル酸型ポリマーおよび/またはアリルスクロースまたはペンタエリスリトールのアリルエーテルで架橋したアクリル酸由来の前記ポリマーが、それぞれ、前記処方物の0.1〜2重量%を構成するものである、請求項17に記載の膣内投与用医薬処方物。
【請求項19】
ジビニルグリコールで架橋した前記アクリル酸型ポリマーおよび/またはアリルスクロースまたはペンタエリスリトールのアリルエーテルで架橋したアクリル酸由来の前記ポリマーが、それぞれ、前記処方物の0.25〜1.5重量%を構成するものである、請求項18に記載の膣内投与用医薬処方物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エストリオール吸収を自己制御する能力を有する膣内投与用医薬処方物の調製におけるエストリオールの使用に関する。この処方物は、エストロゲン依存性腫瘍を発症する可能性が高い女性における、泌尿生殖器萎縮の予防および/または治療において有用である。
【背景技術】
【0002】
エストロゲンおよび他の女性ホルモンは主に卵巣内で生成され、一生を通じて様々な組織および器官に作用する。これらの器官、中でも特に乳房や子宮の細胞は、エストロゲンおよび他のホルモンの受容体を有する。エストロゲンホルモンは、この受容体に結合し、様々な生理学的または病理学的プロセスを開始することによってその作用を発揮する。他の生理学的機能として、エストロゲンホルモンは、人生の様々な期間(思春期、妊娠期、授乳期、閉経期)において乳房および子宮が受ける発達および変異に関与する。エストロゲンはまた、病理学的プロセスに関与している可能性があり、閉経前および閉経後の女性における一部の悪性腫瘍(例えば、乳ガン、子宮内膜ガン、結腸ガン、メラノーマ)および良性腫瘍(例えば、筋腫、肝細胞腺腫)の成長および発達を刺激する。
【0003】
エストロゲン受容体を発現する腫瘍の医療的処置としては、通常、エストロゲン生成の抑制またはその効果の中和が含まれる。例えば、乳ガンのホルモン療法は、ガン細胞の増殖を刺激するホルモンの作用を阻害する薬物の投与(乳房細胞上でのそれらの挙動を改変する、またはそれらの生成を防止することによる)からなる。この療法は、ホルモン受容体陽性であり、乳ガンであると診断された全女性の60〜70%を占める患者に対して行われる。この種の療法が病気の再発を減らし、生存を引き延ばすことが認められている。病気が進行している患者においては、腫瘍が引き起こす症状を低減し、生活の質を向上させ、転移の寛解をもたらす。この療法は通常、外科手術、放射線療法または化学療法などの他の治療と組み合わせて、アジュバントまたはネオアジュバント療法の形式で使用される。
【0004】
乳ガンのための様々な種類の抗エストロゲン療法を、例として挙げることができる。
【0005】
選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM、以前には「抗エストロゲン薬」と呼ばれていた)は、乳房細胞のエストロゲン受容体を選択的に阻害する。タモキシフェンおよびトレミフェンは、乳ガンの治療で現在使用されている2つのSERMである。ラロキシフェンおよびこのファミリーの他の薬物もまた、この効能に関する治験段階にある。
【0006】
エストロゲン受容体阻害剤(または純エストロゲン拮抗薬)は、前述の受容体と結合してそれらを分解し、エストロゲンがそれら受容体と結合するのを防ぐ。乳ガンの治療に関して認可されているこのサブファミリーに属する第一薬物は、フルベストラントである。
【0007】
アロマターゼ阻害剤(例えば、アナストロゾール、レトロゾールおよびエキセメスタン)は、当該酵素がエストロゲンを生成する体脂肪に作用するのを妨げ、よって、その血中濃度が低下する。
【0008】
黄体形成ホルモン放出ホルモン類似体(LHRH作動薬、例えば、ブセレリンおよびゴセレリン)は、視床下部−下垂体−性腺軸を阻害するエストロゲンおよび他の性ホルモンの濃度を低下させる。この治療の効果は、卵巣が外科的に摘出された場合に生じたであろう効果と同様であり、そして、その効果は投薬を中断した時点で元へ戻せるという利点を有する。卵巣の外科的摘出または放射線療法によるそれらの機能の排除(卵巣切除)は、卵巣での生成を排除することによってエストロゲンレベルの低下を達成するが、これは不可逆的治療であるため、次第に使用されなくなっている。
【0009】
エストロゲンレベルを大幅に低下させると、(乳ガンまたは他のエストロゲン依存性腫瘍に対する)これら抗エストロゲン治療はいずれも、可逆的または不可逆的で確定的または一時的な閉経を引き起こし、これは患者における一連の望ましくない影響の原因となり得る。特にエストロゲン欠乏に起因する泌尿生殖器萎縮を引き起こす可能性があり、これらの治療の通常期間ゆえに何年も長引く可能性がある。この萎縮は深刻であり、患者の生活の質に対して非常に悪影響を及ぼす場合がある。
【0010】
エストロゲン療法が通常はホルモン欠乏に起因する泌尿生殖器萎縮を回復させる上で非常に効果的であるという事実にもかかわらず、エストロゲン依存性腫瘍に対して抗エストロゲン治療を受けている閉経前または閉経後患者におけるその使用は、これら腫瘍の発症を刺激する危険性を伴うため、推奨されない。
【0011】
同じ理由で、エストロゲン依存性腫瘍に罹患している可能性が高い閉経後女性における泌尿生殖器萎縮のエストロゲン療法も推奨されない。
【0012】
エストロゲン欠乏に起因する泌尿生殖器萎縮は、経口ホルモン補充療法を用いた症状の全身治療を必ずしも必要としない。好ましい代替策は、膣内経路によるエストロゲン投与である。しかしながら、局所投与したエストロゲンホルモンは、吸収されて全身に回り、(良性または悪性の)ホルモン依存性腫瘍、特にエストロゲン受容体陽性腫瘍を発症する危険性を高める可能性があるので、この経路は完全に安全ではない。
【0013】
エストリオールは、特に膣内経路による泌尿生殖器萎縮の治療に使用されるエストロゲンの1つである。現在市販されている膣用エストリオール処方物は通常、治療開始から2〜3週間は0.5mg/日(500μg/日)の投与量で、続いて週に2または3回、0.5mgの投与量で投与されるが、危険性が伴うため、エストロゲン依存性腫瘍の治療を受けたことがあるもしくは受けている女性、またはエストロゲン依存性腫瘍を発症する危険性が高い女性におけるそれらの投与は推奨されない。
【0014】
結果として、エストロゲン依存性腫瘍に罹患したことがある、もしくはその治療を受けている、またはエストロゲン依存性腫瘍を発症する危険性が高い女性におけるエストロゲン欠乏に起因する泌尿生殖器萎縮の軽減は、いまだ未解決の問題である。
【発明の概要】
【0015】
本発明者らは、驚くべきことに、いくつかの膣用エストリオール処方物が、エストリオール吸収を自己制御することができるシステムを形成することを見出した。
【0016】
本発明者らは、本発明による処方物による治療を開始すると、膣上皮が萎縮している時にはエストリオール吸収が低く、これは血漿中エストリオール濃度−時間曲線下面積(AUC)で示すと1000pg/ml×h、好ましくは750pg/ml×h未満であることを確認した。これら処方物の反復投与により膣萎縮が回復すると、驚くべきことに、治療開始から数日後(2〜15日後、特に2〜10日後、より特には2〜7日後、更により特には2〜5日後)、エストリオール吸収はほんのわずかであり、曲線下面積は初期のものに対して著しく低下し、500pg/ml×h未満、好ましくは250pg/ml×h未満になるとの事実が生じる。それゆえ、本発明による処方物は、エストロゲン依存性腫瘍を発症する可能性が高い女性、エストロゲン依存性腫瘍に罹患したことのある女性、またはエストロゲン依存性腫瘍の治療中である女性における泌尿生殖器萎縮の治療または予防のために、危険がなくまたは著しく危険性を低減した状態で使用することができる。
【0017】
本発明者らはまた、驚くべきことに、市販の処方物で膣萎縮を治療すると、エストリオールへの全身曝露が治療期間中有意な変化を示さないことを確認したが(最終的には、上皮は富栄養性になったが)、既に述べたように、本発明による処方物で治療することにより全身曝露は治療中かなり低減する。
【0018】
結果として、本発明によるエストリオール処方物を膣内経路により投与することにより、エストロゲン欠乏に起因する泌尿生殖器萎縮を予防および/または治療することができ、同時に、エストロゲン依存性腫瘍の発症を刺激するエストロゲン療法に付随する危険性を全身レベルで防止または非常に有意に低減することができる。
【0019】
従って、本発明の第一の態様は、エストロゲン依存性腫瘍を発症する可能性が高い、またはエストロゲン依存性腫瘍に罹患しているもしくは罹患したことがある女性における、泌尿生殖器萎縮の予防および/または治療のための、エストリオール吸収を自己制御する能力を有する膣内投与用医薬処方物の調製における、エストリオールの使用に関する。
【0020】
換言すれば、本発明は、エストロゲン依存性腫瘍を発症する可能性が高い、またはエストロゲン依存性腫瘍に罹患しているもしくは罹患したことがある女性における、泌尿生殖器萎縮の予防および/または治療に使用されるべき、エストリオール吸収を自己制御する能力を有する、エストリオールを含んでなる膣内投与用医薬処方物に関する。
【0021】
本発明の第二の態様は、エストロゲン依存性腫瘍を発症する可能性が高い、またはエストロゲン依存性腫瘍に罹患しているもしくは罹患しことのある女性において泌尿生殖器萎縮を予防または治療する方法であって、当該ホルモンの吸収を自己制御する能力を有するエストリオール処方物を膣内投与することを含んでなる方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】時間の関数としての血漿中エストリオール濃度。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明において、エストロゲン受容体陽性腫瘍の治療を受けたことがあるもしくは受けている、または確立された危険因子:遺伝的感受性(例えば、エストロゲン依存性ガンの家族歴、遺伝子変異BRCA1またはBRCA2)、発ガン性ホルモンの使用/生成増加(例えば、経口避妊薬、ホルモン補充療法、妊娠)および生活様式(アルコール、タバコ、肥満、食事の脂肪含有量など)に曝されたことがあるもしくは曝されている女性は、エストロゲン依存性腫瘍を発症する可能性が高い女性であると考えられている。
【0024】
エストロゲン依存性腫瘍としては、乳ガン、およびエストロゲン受容体を発現するおよび/またはその発症がエストロゲンによって刺激され得るその他の良性、前悪性または悪性腫瘍病理が挙げられる。
【0025】
特に、遺伝子変異BRCA1またはBRCA2のキャリアである女性、乳ガン、子宮内膜ガン、子宮内膜異型増殖症、発ガン前病変、エストロゲン依存性メラノーマ、エストロゲン依存性卵巣ガン、エストロゲン依存性肝腫瘍または筋腫の治療中であるもしくはその個人歴がある女性は、本発明によるエストリオール吸収を自己制御する処方物による治療から恩恵を受けることができる。
【0026】
「エストリオール吸収」について言及する際は、エストリオールの血漿内への吸収を意味するものと明瞭に理解される。
【0027】
本発明の一つの態様は、エストロゲン依存性腫瘍を発症する可能性が高い女性での泌尿生殖器萎縮の予防および/または治療における、エストリオール吸収を自己制御する前述の処方物の使用に関する。
【0028】
また、本発明によるエストリオール吸収を自己制御する処方物を使用して、エストロゲン依存性腫瘍を発症する可能性が高い女性において、泌尿生殖器萎縮を予防および/または治療する方法に関する。
【0029】
別の態様は、エストロゲン生成を阻害するまたは腫瘍細胞に対するエストロゲンの作用を妨害する任意の療法による治療中の、エストロゲン依存性腫瘍に罹患している、または罹患したことがある女性での泌尿生殖器萎縮の予防および/または治療における、エストリオール吸収を自己制御する前述の処方物の使用に関する。
【0030】
また、本発明によるエストリオール吸収を自己制御する処方物を使用して、エストロゲン生成を阻害するまたは腫瘍細胞に対するエストロゲンの作用を妨害する任意の療法による治療中の、エストロゲン依存性腫瘍に罹患しているまたは罹患したことがある女性において、泌尿生殖器萎縮を予防および/または治療する方法に関する。
【0031】
一つの好ましい態様は、選択的エストロゲン受容体モジュレーターによる治療中のエストロゲン依存性腫瘍、例えばエストロゲン受容体陽性乳ガンを有する女性における前述の処方物の使用に関する。
【0032】
別の好ましい態様は、エストロゲン受容体阻害剤による治療中のエストロゲン依存性腫瘍、例えばエストロゲン受容体陽性乳ガンを有する女性における前述の処方物の使用に関する。
【0033】
別のより好ましい態様は、アロマターゼ阻害剤による治療中の、エストロゲン依存性腫瘍、例えばエストロゲン受容体陽性乳ガンを有する女性における前述の処方物の使用に関する。
【0034】
別の好ましい態様は、黄体形成ホルモン放出ホルモン類似体による治療中の、エストロゲン依存性腫瘍、例えばエストロゲン受容体陽性乳ガンを有する女性における前述の処方物の使用に関する。
【0035】
別の好ましい態様は、卵巣切除を受けたことがある、エストロゲン依存性腫瘍、特にエストロゲン受容体陽性乳ガンを有する女性における前述の処方物の使用に関する。
【0036】
別の態様はまた、エストロゲン療法に付随するホルモン依存性腫瘍を全身レベルで発症する危険性を防止するための方法であって、このホルモンの吸収を自己制御する能力を特徴とするエストリオール処方物を膣内投与することを含んでなる方法に関する。
【0037】
前述のように、本発明の治療方法において有用な医薬処方物は、エストリオール吸収を自己制御するシステムを形成するものである。本発明において、エストリオール吸収を自己制御する能力を有する処方物は、膣粘膜が萎縮している時には低いホルモン吸収、エストリオール血漿ピーク:150pg/ml未満、好ましくは125pg/ml未満を与え、エストリオールの局所作用によって萎縮が回復するとほんのわずかな吸収(基準生理学的値に近い血漿エストリオールピークに示される)を与えるものである。
【0038】
特に、この医薬処方物は膣内投与されると、1〜4週間、より特定的には2〜3週間、1日1回の反復投与後、および投与を続ける場合にはこの期間の後、50pg/ml未満、好ましくは30pg/ml未満、より好ましくは25pg/ml未満、更により好ましくは20pg/ml以下のエストリオール血漿ピークを与える任意のものであり得る。
【0039】
好ましい態様によれば、本発明による医薬処方物は、膣萎縮が回復してから数日間、毎日反復投与した後に、エストリオールへの全身曝露を有意に低減する(時間の関数としての血漿中エストリオール濃度のAUCを用いて数値化)ことが可能な任意のものであり得る。特に、治療開始時、より特定的には治療第1日目には、1000pg/ml×h未満、好ましくは750pg/ml×h未満、より好ましくは600pg/ml×h未満のAUCを付与し、1〜4週間、より特定的には2〜3週間、1日1回の反復投与後、および投与を続ける場合にはこの期間の後には、750pg/ml×h未満、好ましくは500pg/ml×h未満、より好ましくは300pg/ml×h未満、更により好ましくは250pg/ml×h未満のAUCを与える任意のものである。
【0040】
特に好ましい態様において、本発明による医薬処方物は、泌尿生殖器萎縮が回復すると、ごくわずかな全身曝露となる任意のものであり得る。具体的には、1〜4週間、好ましくは2〜3週間、1日1回の反復投与後、および投与を続ける場合にはこの期間の後に、150pg/ml×h以下のAUCを与える任意のものである。
【0041】
医薬処方物は、例えば、固体状(ペッサリー、錠剤など)、半固体状(ゲル、クリームなど)、液状または泡状であり得る。また、医薬処方物は、当業者に既知の賦形剤のいずれかを含有し得る。好ましい実施態様によれば、本発明の医薬処方物は、ゲル、クリームゲルまたはクリームなどの半固体状の処方物である。
【0042】
好ましい態様において、それらは少なくとも一つの生体接着性ポリマー(ゲル化剤および/または増粘剤)と、0.5mg/日未満の投与を可能にするような量のエストリオールとを含有する粘膜付着性ゲル、クリームゲルまたはクリームである。
【0043】
より好ましい態様において、本発明による粘膜付着性処方物は、少なくとも二つの生体接着性ポリマーと、0.3mg/日未満、好ましくは0.1mg/日未満、更により好ましくは0.07〜0.002mg/日の投与を可能にするような量のエストリオールとを含有する。例えば、この処方物は、その0.03重量%以下、好ましくは0.01重量%以下、より好ましくは0.007〜0.0002重量%、更により好ましくは0.005〜0.001重量%の量でエストリオールを含有し得る。
【0044】
本発明による処方物に有用な生体接着性ポリマーは、セルロースポリマー、天然ゴム、アルギン酸ナトリウム、ポリオキシエチレン、アクリルホモポリマーまたはコポリマー、およびこれらの混合物から選択される。
【0045】
セルロースポリマーは、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースから選択され得る。天然ゴムは、例えば、グアーガム、カラヤガム、キサンガンガムおよびビーガムから選択され得る。アクリルポリマーは、好ましくは、ジビニルグリコールで架橋したアクリル酸型ポリマー(商標Noveon AA−1 Polycarbophilで市販されている)およびカルボマー型ポリマー(商標Carbopol で市販されている)として指定された、アリルスクロースまたはアリルペンタエリスリトールで架橋したアクリル酸由来のポリマーから選択される。
【0046】
カルボマーは、様々な種類の高分子架橋アクリル酸系ポリマーを画定するために、米国薬局方−医薬品集(United States Pharmacopeia-National Formulary)(USP−NF)、米国一般名称審議会(United States Adopted Names Council)(USAN)および欧州薬局方(European Pharmacopoeia)を含む多数の機関が採用する一般名称であり、Carbopol(商標)ポリマーとして市販されている。米国特許第2,798,053号、4,267,103号、5,349,030号、4,996,274号、4,509,949号、5,373,044号は、Carbopol(商標)型を含むこれらのポリアクリル酸ポリマーを記載しており、これらの特許文献を参照により本願に援用する。「医薬賦形剤ハンドブック(Handbook of Pharmaceutical Excipients)」(2006)もまた、「カルボマー」の名称を持つCarbopol(商標)型ポリマーを記載しており、このモノグラフも参照により本願に援用する。
【0047】
カルボマー型ポリマーおよびPolycarbophilポリマーは、架橋プロセスによって製造される。架橋度および製造条件に応じて、様々な等級のCarbopolが利用可能である。Carbopol(商標)934 Pは、アリルスクロースで架橋され、溶媒ベンゼン中で重合される。Carbopol(商標)5984 EPは、アリルスクロースで架橋され、酢酸エチルおよびシクロヘキサン中で重合される。Carbopol(商標)71 G、971 P、974 Pは、アリルペンタエリスリトールで架橋され、酢酸エチル中で重合される。Carbopol(商標)980および981は、アリルペンタエリスリトールで架橋され、酢酸エチルとシクロヘキサンとの共溶媒混合物中で重合される。Polycarbophilは、ジビニルグリコールで架橋したポリマーであり、溶媒ベンゼンまたは酢酸エチル中で重合される。酢酸エチル中で作製された全てのポリマーは、1〜3%の水酸化カリウムにより中和される。
【0048】
Carbopol(商標)971 PおよびCarbopol(商標)974 Pは、同様の条件下で同一の方法によって製造されるが、それらの差異は、Carbopol(商標)971 P(USP29/NF24カルボマーホモポリマーA型)の架橋剤レベルがCarbopol(商標)974 P(USP29/NF24カルボマーホモポリマーB型)のものよりも僅かに低い点にある。結果として、Carbopol(商標)971 P NFは、4000〜11000cPの粘度(0.5重量%の粘液中、20rpm、25℃で、Brookfield RTV粘度計において測定、pH7.3〜7.8に中和)を有するが、一方、Carbopol(商標)974 P NFは、29400〜39400cPの粘度(0.5重量%の粘液中、20rpm、25℃で、Brookfield RTV粘度計において測定、pH7.3〜7.8に中和)を有する。同様の理由で、Carbopol(商標)981 NFは、4,000〜10,000cPの粘度(0.5重量%の粘液中、20rpm、25℃で、Brookfield RTV粘度計において測定、pH7.3〜7.8に中和)を有するが、一方、Carbopol(商標)980 NFは、40,000〜60,000cPの粘度(0.5重量%の粘液中、20rpm、25℃で、Brookfield RTV粘度計において測定、pH7.3〜7.8に中和)を有する。
【0049】
更により好ましい態様において、本発明の方法において使用される粘膜付着性処方物は、ペンタエリスリトールのアリルエーテルで架橋したアクリル酸のポリマーから選択される少なくとも1つのカルボマー型ポリマー、ジビニルグリコールで架橋した少なくとも1つのポリアクリル酸、および0.1mg/日以下の投与を可能とするような量のエストリオールを含有する。
【0050】
カルボマー型ポリマーは、好ましくは、その合成に溶媒としてのベンゼンの使用を必要としないもの、例えば、Carbopol(商標)71G NF、Carbopol(商標)971P NF、Carbopol(商標)974P NF、Carbopol(商標)980 NF、Carbopol(商標)981 NFおよびCarbopol(商標)5984 EPから選択される。より好ましくは、カルボマー型ポリマーは、酢酸エチル中または酢酸エチルとシクロヘキサンとの混合物中で重合されるものから選択される。更により好ましくは、カルボマー型ポリマーは、酢酸エチル中または酢酸エチルとシクロヘキサンとの混合物中で重合され、かつ、4,000〜11,000cPの粘度を有するものから選択される。
【0051】
特に好ましい態様において、処方物は、少なくとも二つの生体接着性ポリマー(一方はCarbopol(商標)971P NFおよびCarbopol(商標)981 NFから選択されるカルボマー型ホモポリマーであり、他方はNoveon(商標)AA−1 Polycarbophilである)と、当該処方物の0.03重量%以下の量のエストリオールとを含有する。
【0052】
より好ましい態様において、処方物は、少なくともNoveon(商標)AA−1 PolycarbophilおよびCarbopol(商標)971P NF、ならびに当該処方物の0.03重量%以下の量のエストリオールを含有する。
【0053】
各ポリマーは、膣内投与に適する物理化学的および感覚刺激特性を処方物に与えるのに必要な量で配合される。アクリルポリマーの場合、その量は、処方物の0.05〜5重量%、好ましくは0.1〜2重量%、より好ましくは0.25〜1.5重量%であろう。
【0054】
処方物は更に、医薬的に許容できる他の賦形剤、例えば、保湿剤、湿潤剤、可溶化剤、乳化剤、防腐剤、脂肪または親油性物質などを、当業者に既知の量で含有し得る。
【0055】
前述の処方物は、当業者に既知の方法で調製可能である。
【0056】
本発明の方法において使用される処方物は、好ましくは、膣表面全体を覆う層を形成すると共に、効果的かつ安全な投与計画を得るのに十分な量で投与される。例えば、半固体状処方物の場合、通常は1〜5グラムである。
【0057】
本発明の方法において使用される半固体状処方物を投与するために使用することができる装置は、最新技術において既知の1回投与または単回投与アプリケーターのいずれか、例えば、プランジャーまたはベローズを備えたアプリケーターである。
【0058】
本発明の方法で治療される患者に投与されるべきエストリオールの投与量は、0.5mg/日未満、好ましくは0.3mg/日未満、より好ましくは0.1mg/日未満であろう。
【0059】
本発明の特定の態様において、エストリオールは、エストロゲン依存性腫瘍、具体的にはエストロゲン受容体陽性ガンを発症する可能性が高い女性において、エストロゲン欠乏に起因する泌尿生殖器萎縮の予防および/または治療のために、0.002〜0.07mg/日(2〜70μg/日)、好ましくは0.002〜0.05mg/日(2〜50μg/日)、より好ましくは0.01〜0.05mg/日(10〜50μg/日)、特に好ましくは0.02〜0.05mg/日(20〜50μg/日)の投与量で投与される。
【0060】
別の特定の態様において、エストリオールは、エストロゲン生成を阻害する、または腫瘍細胞に対するエストロゲンの作用を妨害するいずれかの療法による治療中の、エストロゲン依存性腫瘍に罹患したことがあるまたは罹患している女性において、エストロゲン欠乏に起因する泌尿生殖器萎縮の治療のために、0.002〜0.07mg/日(2〜70μg/日)、好ましくは0.002〜0.05mg/日(2〜50μg/日)、より好ましくは0.01〜0.05mg/日(10〜50μg/日)、特に好ましくは0.02〜0.05mg/日(20〜50μg/日)の投与量で投与される。
【0061】
本発明の方法において使用される処方物の高い安全性を考慮すると、膣萎縮の治療または予防は、ホルモン依存性腫瘍の治療または予防と同時に行うことができる。
【0062】
泌尿生殖器萎縮の治療および/または予防の期間ならびに本処方物の投与計画は、患者の状態、治療に対する反応および併用療法に左右されるであろう。例えば、1日に0.002〜0.07mg、好ましくは0.01〜0.05mgの投与量を2または3週間投与し、これに続いて0.002〜0.07mg、好ましくは0.01〜0.05mgの投与量を週に2回、膣粘膜の栄養状態を維持するのに必要な時間、治療を中断することなく投与する。あるいは、1日に0.002〜0.07mg、好ましくは0.01〜0.05mgの投与量を2または3週間投与し、これに続いて0.002〜0.07mg、好ましくは0.01〜0.05mgの投与量を週に2回、数週間、例えば6〜10週間投与し、症状が再び現れるまで治療を中断する。あるいは、本発明の方法において使用される処方物の高い安全性を考慮すると、その投与に続いて、1日1回または週に2回、0.002〜0.07mg、好ましくは0.01〜0.05mgの投与量で、3週間より長い期間または10週間より長い期間、それぞれ投与する。
【実施例】
【0063】
本発明の実施例を以下に記載する。いずれの場合も、特許請求の範囲の解釈を制限するものと考えるべきではない。
【0064】
試験
閉経後の女性における、市販のエストリオール処方物(Ovestinon(商標)クリーム、オルガノン(Organon))と本発明の2つのエストリオール処方物との比較薬物動態および効能
【0065】
説明
分析した処方物は、以下の組成を有するエストリオールT1(0.002% ITFE)およびT2(0.005% ITFE)をベースとする2つの膣用ゲルであった。
【0066】
【表1】
【0067】
これらの処方物を、エストリオールを含まない偽薬処方物および市販の処方物(Ovestinon(商標)クリーム、0.1%エストリオール含有)と比較した。
【0068】
膣萎縮を伴う70名の閉経後女性が試験に参加した。これらの女性患者を無作為に4つの群に分け、3つの群をそれぞれ20名、1つの群を10名とした。
【0069】
これらの女性は、連続21日間、毎日治療を受けた。膣内経路により1日に1gのゲルをB、CおよびD群の各患者に投与し、膣内経路により1日に0.5gのクリームをA群の各患者に投与した。
A群:Ovestinon(参照「R」)で治療 (n=20)
B群:0.005% ITFEで治療 (n=20)
C群:0.002% ITFEで治療 (n=20)
D群:0% ITFE(偽薬「P」)で治療 (n=10)
【0070】
積極的治療を受けていた各群からの12名の患者により形成された女性42名のサブグループ(n=12 A群、n=12 B群、n=12 C群)において薬物動態試験を行った。
【0071】
治療開始前日、患者に婦人科的評価および子宮頸部−膣細胞診を受けさせた。
【0072】
治療1日目、割り当てられた群に対応する処方物を患者全員に膣内投与し、0(投与前)、0.5、1、2、3、4、6、8、12および24時間(投与後)での血液サンプルのみを薬物動態試験の42名のボランティアから採取した。
【0073】
2日目、患者全員に対する投与を繰り返し、42名のボランティアから血液のみを採取した。
【0074】
治療3〜20日目、対応する処方物を、患者全員に毎日膣内投与した。7〜14日目、投与直前の主観的効果および耐容性を評価した。
【0075】
21日目、患者全員が治療の最終投与を受け、0(投与前)、0.5、1、2、3、4、6、8、12および24時間(投与後)での血液サンプルのみを薬物動態試験の42名のボランティアから採取した。投与から12時間後、局所耐容性を評価した。
【0076】
22日目、患者全員に婦人科的評価および子宮頸部−膣細胞診を受けさせ、前述の時間での血液サンプルのみを42名のボランティアから採取した。
【0077】
膣萎縮に対する効果の評価
0日目および22日目の婦人科的評価中に採取した膣塗抹を、細胞診用水溶液(エタノール/メタノール EDTA)で固定し、パパニコロウ技術に従って染色することにより、細胞学的状態の定性的評価ならびに表面細胞(SC)、中間細胞(IC)および傍基底細胞(PC))のカウントを行った。これらは、その後の成熟度指数(MI)および成熟度(MV)の測定において使用されるものである。
【0078】
成熟度(MV)は、成熟度指数(MI)から以下のように計算される=0.2×傍基底細胞の%+0.6×中間細胞の%+1.0×表面細胞の%。
【0079】
定性的および定量的評価(MIおよびMV)のデータを、表I、IIおよびIIIに示す。
【0080】
表I 0日目(基準レベル)および22日目(処方物T1、T2、Rまたは偽薬の投与後)における細胞学的パターン度数
【表2】
【0081】
表II 処方物T1、T2、RおよびP投与後の、0日目および22日目における表面細胞(SC)、中間細胞(IC)および傍基底細胞(PC)のカウント差に基づく成熟度指数(MI)ならびに基準レベルとの差(DSC、DICおよびDPC)
【表3】
【0082】
表III 処方物T1、T2、RおよびP投与後の、0日目および22日目における成熟度(MV)ならびに基準レベルとの差(DMV)
【表4】
【0083】
故に、本発明の治療方法は、膣萎縮を回復させる上で効果的であると結論付けることができる。
【0084】
血漿中エストリオールレベルの評価
42名のボランティア患者から、0、1、21および22日目に、0(投与前)、0.5、1、2、3、4、6、8、12および24時間(投与後)で採取した血液サンプルにおいて、血漿中エストリオール濃度を液体クロマトグラフィ/質量分析法(LC−MS/MS)によって測定した。
【0085】
治療1日目および21日目に得られた血漿中濃度を、表IVおよびVIならびにグラフ1に示す。
【0086】
これらの値から算出した薬物動態パラメーターを表VおよびVIIに示す。
【0087】
表IV 処方物T1、T2およびRの単回投与後の血漿中エストリオールレベル(1日目)
【表5】
【0088】
表V 処方物T1、T2およびRの1日1回投与後のエストリオールの薬物動態パラメーター(±SD)(1日目)
【表6】
【0089】
表VI 処方物T1、T2およびRの毎日投与後の血漿中エストリオールレベル(21日目)
【表7】
BLQL=定量化の下限に満たない(5pg/mL)
【0090】
表VII 処方物T1、T2およびRの毎日投与後のエストリオールの薬物動態パラメーター(±SD)(21日目)
【表8】
【0091】
故に、反復投与後のエストリオールへの全身曝露はごく僅かである(極めて低い)ため、本発明による処方物の安全性プロファイルは非常に好ましいものであると結論付けることができる。加えて、全身曝露は、参照製品を投与した後に生じるものよりも著しく低い。
【0092】
更に、エストリオールへの全身曝露は著しく低いが、本発明の処方物は、0日目と比較して22日目の成熟度を同様に増大させる。これは、膣粘膜における参照製品の効果と同様の効果を示している。
図1