(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
スロットルバルブの開度が全開または全開に近い所定値以上となったときに気筒に充填される吸気の圧力が正圧とならず、かつノッキングの発生を検知した回数が所定値よりも少ない場合に、排気タービンは回転しているがコンプレッサによる吸気の圧縮に支障が発生しているものと判断する請求項1または2記載の内燃機関の制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、排気ターボ過給機が故障した場合において、その故障の種類を切り分けて特定することを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、排気ターボ過給機が付帯した内燃機関を制御するものであって、気筒に充填される吸気の圧力が目標過給圧
まで上昇せず、かつノッキングの発生を検知した回数が所定値よりも多い場合に、排気タービンの回転
が困難となっているものと判断することを特徴とする内燃機関の制御装置を構成した。排気タービンの回転
が困難となっていると判断した場合には、排気タービンに衝撃を与えるための処理を実行することにより、タービンの固着を解消してタービンを再び回転させることができるようになる可能性がある。
【0008】
また、本発明では、排気ターボ過給機が付帯した内燃機関を制御するものであって、スロットルバルブの開度が全開または全開に近い所定値以上となったときに気筒に充填される吸気の圧力が正圧とならず、かつノッキングの発生を検知した回数が所定値よりも少ない場合に、排気タービンは回転しているがコンプレッサによる吸気の圧縮に支障が発生しているものと判断することを特徴とする内燃機関の制御装置を構成した。
【0009】
仮に、排気タービンとコンプレッサのインペラとを接続するシャフトが折損したことでインペラが回転せず過給できなくなったのだとすると、そのシャフトの折損の際に生じた金属屑が潤滑油に混入している懸念がある。排気ターボ過給機の軸受を潤滑する潤滑油は、クランクシャフトやカムシャフト、タイミングチェーンといった内燃機関の各部要素を潤滑する潤滑油と共通であることから、金属屑が混入した潤滑油が各部に供給されて内燃機関そのものの稼働の妨げとなりかねない。故に、排気タービンは回転しているがコンプレッサによる吸気の圧縮に支障が発生していると判断した場合には、潤滑油を交換するべき旨を運転者の視覚または聴覚に訴えかける態様で報知することが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、排気ターボ過給機が故障した場合において、その故障の種類を切り分けて特定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。本実施形態における内燃機関は、火花点火式の4ストロークエンジンであり、複数の気筒1(
図1には、そのうち一つを図示している)を具備している。各気筒1の吸気ポート近傍には、燃料を噴射するインジェクタ11を設けている。また、各気筒1の燃焼室の天井部に、点火プラグ12を取り付けてある。点火プラグ12は、点火コイルにて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。点火コイルは、半導体スイッチング素子であるイグナイタとともに、コイルケースに一体的に内蔵される。
【0013】
吸気を供給するための吸気通路3は、外部から空気を取り入れて各気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、排気ターボ過給機5のコンプレッサ51、インタクーラ35、電子スロットルバルブ32、サージタンク33、吸気マニホルド34を、上流からこの順序に配置している。
【0014】
排気を排出するための排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を各気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42、排気ターボ過給機5の排気タービン(タービンホイール)52及び排気浄化用の三元触媒41を配置している。加えて、タービン52を迂回する排気バイパス通路43、及びこのバイパス通路43の入口を開閉するバイパス弁であるウェイストゲートバルブ44を設けてある。ウェイストゲートバルブ44は、アクチュエータに制御信号mを入力することで開閉操作することが可能な電動ウェイストゲートバルブであり、そのアクチュエータとしてDCサーボモータを用いている。
【0015】
排気ターボ過給機5は、排気タービン52とコンプレッサのインペラ(コンプレッサホイール)51とをシャフト53を介して同軸で連結し連動するように構成したものである。そして、タービン52及びインペラ51を排気のエネルギを利用して回転駆動し、その回転力を以てコンプレッサにポンプ作用を営ませることにより、吸入空気を加圧圧縮(過給)して気筒1に送り込む。
【0016】
本実施形態の内燃機関には、外部EGR装置2が付帯している。外部EGR装置2は、いわゆる高圧ループEGRを実現するものであり、排気通路4における触媒41の上流側と吸気通路3におけるスロットルバルブ32の下流側とを連通するEGR通路21と、EGR通路21上に設けたEGRクーラ22と、EGR通路21を開閉し当該EGR通路21を流れるEGRガスの流量を制御するEGRバルブ23とを要素とする。EGR通路21の入口は、排気通路4における排気マニホルド42またはその下流の所定箇所に接続している。EGR通路21の出口は、吸気通路3におけるスロットルバルブ32の下流の所定箇所、具体的にはサージタンク33に接続している。
【0017】
本実施形態の内燃機関の制御装置たるECU(Electronic Control Unit)0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。
【0018】
入力インタフェースには、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、クランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するエンジン回転センサから出力されるクランク角信号(N信号)b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ32の開度をアクセル開度(いわば、要求負荷)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、ブレーキペダルの踏込量を検出するセンサから出力されるブレーキ踏量信号d、吸気通路3(特に、サージタンク33)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号e、機関の冷却水温を検出する水温センサから出力される冷却水温信号f、吸気カムシャフトまたは排気カムシャフトの複数のカム角にてカム角センサから出力されるカム角信号(G信号)g、機関のシリンダブロックに設置され気筒1でのノッキングに起因した振動を検出するノックセンサから出力されるノック信号h等が入力される。
【0019】
出力インタフェースからは、点火プラグ12のイグナイタに対して点火信号i、インジェクタ11に対して燃料噴射信号j、スロットルバルブ32に対して開度操作信号k、EGRバルブ23に対して開度操作信号l、ウェイストゲートバルブ44に対して開度操作信号m等を出力する。
【0020】
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒1に充填される吸気量を推算する。そして、それらエンジン回転数及び吸気量等に基づき、要求される燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、要求EGR率(または、EGR量)といった各種運転パラメータを決定する。運転パラメータの決定手法自体は、既知のものを採用することが可能である。ECU0は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、l、mを出力インタフェースを介して印加する。
【0021】
また、ECU0は、いわゆるノックコントロールシステムを実現する。即ち、ノックセンサから出力されるノック信号hを参照して気筒1におけるノッキングの発生の有無を感知し、ノッキングが起こらなくなるまで点火タイミングを遅角させるとともに、ノッキングが起こらない限りにおいて点火タイミングを進角させる。
【0022】
その上で、本実施形態のECU0は、排気ターボ過給機5が故障した場合において、その故障の種類の特定を行う。
【0023】
図2及び
図3に、ECU0が排気ターボ過給機5の自己診断に際して実行する処理の手順例を示す。ECU0は、排気ターボ過給機5の故障を未だ検出しておらず、気筒1に充填される吸気の圧力が目標過給圧に到達しない状況下(ステップS1)で、ノッキングの発生を検知した回数を計数し(ステップS2、S3)、そのノッキング回数が所定値を上回ったとき(ステップS4)、排気タービン52の回転に支障が発生しているものと判断する。
【0024】
排気タービン52が回転しないと、背圧(排気マニホルド42内の排気圧力)が上昇し、気筒1に残留する排気ガスの量が増加する。さすれば、気筒1の燃焼室内の温度が著しく高まり、ノッキングが頻発する。同時に、コンプレッサのインペラ51が回転しないと、吸気が過給されず、吸気圧が上昇しない。
図2に示す処理手順は、以上の事象に鑑みて、タービン52及びインペラ51がともに回転しない態様の故障を検知する。
【0025】
排気タービン52の回転を困難にする要因としては、タービン52とこれを囲繞するタービンハウジング54の内周との隙間に異物が挟まったり、タービン52とインペラ51とを接続するシャフト53が歪んだりすること等が挙げられる。
【0026】
ステップS1に関して、目標過給圧は一般に、そのときの内燃機関の運転領域[エンジン回転数,要求負荷(即ち、アクセル開度、気筒1に充填される吸気量、またはサージタンク33内の吸気圧力)]を基に設定される。ECU0のメモリには予め、運転領域の指標値[エンジン回転数,要求負荷]と目標過給圧との関係を規定したマップデータが格納されている。ECU0は、そのときの運転領域[エンジン回転数,要求負荷]をキーとして当該マップを検索し、目標過給圧を読み出して、これを吸気温・吸気圧信号eによって示される吸気圧力と比較する。
【0027】
排気タービン52の回転に支障が発生していると判断した場合、ECU0は、自己診断処理により検知された故障の種類、即ちタービン52及びインペラ51がともに回転しない旨を示す情報(ダイアグノーシスコード)を、そのときの日時のタイムスタンプ等とともにメモリに書き込んで記憶保持する(ステップS5)。この情報は、事後の検査や修理の作業における異常の原因の究明、及び修繕箇所の特定の助けとなる。
【0028】
加えて、自己診断処理により検知された故障(さらには、その故障の種類)を、運転者の視覚または聴覚に訴えかける態様で報知してもよい(ステップS6)。例えば、車両のコックピット内に設置された警告灯(エンジンチェックランプ)を点灯させたり、ディスプレイに表示させたり、ブザーまたはスピーカから警告音を音声出力させたりする。
【0029】
タービン52がタービンハウジング54に対して固着して回転しないケースでは、タービン52及びタービンハウジング54に衝撃を与えることで固着が解消され、再びタービン52が回り出す可能性がある。そこで、本実施形態のECU0は、排気タービン52の回転に支障が発生していると判断した場合に、タービン52に衝撃を与えるための処理を実行する(ステップS7)。ステップS7では、例えば、ウェイストゲートバルブ44の開閉(特に、全開及び全閉)を短時間で繰り返したり、排気ターボ過給機5が可変ノズルターボである場合にはタービン52の周囲に配設されているノズルベーン(図示せず)の開閉を短時間で繰り返したりする。
【0030】
しかる後、ECU0は、ウェイストゲートバルブ44を強制的に全開または全開に近い開度に保持し(ステップS8)、背圧を少しでも低下させて退避走行可能な状態の維持に努める。ステップS8は、タービン52に衝撃を与える処理ステップS7を所定回数または所定期間実行してもタービン52が回り出さない(換言すれば、ノッキングが再発する)ことを条件として実行してもよく、タービン52が回り出したか否かにかかわらず実行してもよい。
【0031】
さらに、ECU0は、電子スロットルバルブ32の開度に上限を設定して(ステップS9)、運転者がアクセルペダルを強く踏み込んでもスロットルバルブ32が大きく拡開しないようにする。これは、気筒1に充填される吸気量及び燃料噴射量を抑制し、退避走行に最低限必要な程度まで内燃機関の出力を低下させ、ノッキングを沈静化させる意図である。ステップS9もまた、ステップS7を所定回数または所定期間実行してもタービン52が回り出さないことを条件として実行してもよいし、タービン52が回り出したか否かにかかわらず実行してもよい。
【0032】
並びに、本実施形態のECU0は、排気ターボ過給機5の故障を未だ検知しておらず、スロットルバルブ32の開度が全開または全開に近い所定値以上となった状況下(ステップS10)で、ノッキングの発生を検知した回数を計数し(ステップS11、S12)、そのノッキング回数が所定値を下回っており(ステップS13)、かつ気筒1に充填される吸気の圧力が正圧とならない場合(ステップS14)に、排気タービン52は回転しているがコンプレッサによる吸気の圧縮に支障が発生しているものと判断する。
【0033】
排気タービン52が円滑に回転しているとき、背圧の上昇が抑制され、気筒1に残留する排気ガスの量は徒に増加しない。よって、気筒1の燃焼室内の温度が異常に高まる可能性は少なく、ノッキングも頻発しない。だが、同時に、コンプレッサのインペラ51が回転しないと、吸気が過給されず、吸気圧が上昇しない。
図3に示す処理手順は、以上の事象に鑑みて、タービン52は回転するがインペラ51が回転しない態様の故障を検知する。
【0034】
ステップS14にて、ECU0は、吸気温・吸気圧信号eによって示される吸気圧力を大気圧に匹敵する閾値と比較し、吸気圧力が閾値未満であるならば、吸気圧力が正圧でない(負圧である)と判定する。
【0035】
コンプレッサによる過給を困難にする要因としては、タービン52とインペラ51とを接続するシャフト53が破断してインペラ51がタービン52に従動しなくなったり、インペラ51自体は回転するもののインペラ51の羽根が折損して吸入空気を適切に加圧圧縮できなくなったりすること等が挙げられる。
【0036】
排気タービン52は回転するがコンプレッサによる吸気の圧縮に支障が発生していると判断した場合、ECU0は、自己診断処理により検知された故障の種類、即ちタービン52が回転しているにもかかわらず吸気が過給されない旨を示す情報(ダイアグノーシスコード)を、そのときの日時のタイムスタンプ等とともにメモリに書き込んで記憶保持する(ステップS15)。この情報は、事後の検査や修理の作業における異常の原因の究明、及び修繕箇所の特定の助けとなる。
【0037】
加えて、自己診断処理により検知された故障に対応して、排気タービン52は回転するがコンプレッサによる吸気の圧縮に支障が発生しており、潤滑油を交換する必要がある旨を、運転者の視覚または聴覚に訴えかける態様で報知する(ステップS16)。これは、シャフト53の折損により生じた金属屑が潤滑油に混入した可能性があり、その潤滑油が内燃機関の各部に供給されると内燃機関そのものの稼働を妨げかねないことによる。ステップS16では、例えば、車両のコックピット内に設置された警告灯(エンジンチェックランプ)を点灯させたり、ディスプレイに表示させたり、ブザーまたはスピーカから警告音を音声出力させたりする。
【0038】
しかして、ECU0は、ウェイストゲートバルブ44を強制的に全開または全開に近い開度に保持し(ステップS17)、背圧を少しでも低下させて退避走行可能な状態の維持に努める。
【0039】
さらに、ECU0は、電子スロットルバルブ32の開度に上限を設定し(ステップS18)、運転者がアクセルペダルを強く踏み込んでもスロットルバルブ32が大きく拡開しないようにする。
【0040】
本実施形態では、排気ターボ過給機5が付帯した内燃機関を制御するものであって、気筒1に充填される吸気の圧力が目標過給圧に到達せず、かつノッキングの発生を検知した回数が所定値よりも多い場合に、排気タービン52の回転に支障が発生しているものと判断することを特徴とする内燃機関の制御装置0を構成した。
【0041】
並びに、本実施形態では、スロットルバルブ32の開度が全開または全開に近い所定値以上となったときに気筒1に充填される吸気の圧力が正圧とならず、かつノッキングの発生を検知した回数が所定値よりも少ない場合に、排気タービン52は回転しているがコンプレッサによる吸気の圧縮に支障が発生しているものと判断することを特徴とする内燃機関の制御装置0を構成した。
【0042】
本実施形態によれば、排気ターボ過給機5が故障した場合において、その故障の種類を切り分けて特定することが可能となる。
【0043】
その上で、排気タービン52の回転に支障が発生していると判断した場合には、排気タービン52に衝撃を与えるための処理を実行することとしており、固着して回転しないタービン52を再び回転させることができる可能性が高まる。タービン52の回転が復活すれば、背圧が低下してノッキングが沈静化し、退避走行がより容易となる。
【0044】
また、排気タービン52は回転しているがコンプレッサによる吸気の圧縮に支障が発生していると判断した場合には、潤滑油を交換するべき旨を運転者の視覚または聴覚に訴えかける態様で報知するものであるため、潤滑油の早期の交換が促され、金属屑の混入した潤滑油が内燃機関の各部に供給されて各部の故障を誘発することを防止できる。
【0045】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、気筒におけるノッキングの発生を検知する手段は、振動式のノックセンサには限定されない。燃料の燃焼に伴い燃焼室内に発生するイオン電流を検出し、そのイオン電流信号を参照してノッキングの発生を検知するようにしてもよい。
【0046】
その他、各部の具体的構成や処理の手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。