(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0005】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。
なお、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる特願2010−214531号明細書(2010年9月24日出願)の全体を包含する。また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
1.本発明の概要
免疫疾患の治療においては、Th1/Th2/Th3細胞のバランスにより表現される免疫バランスの是正が、特に重要である。これまでに特定の疾患で、特定のサイトカインやケモカインが上昇することは報告されていたが、いくつかのサイトカイン及びケモカインのパネルで、疾患の特性を判断し、治療薬の投与等を決定する手法はなかった。
従来、この免疫バランスの測定には、細胞内サイトカインをフローサイトメーターにて測定する方法が一般的であった。しかしながら、この方法は生きたリンパ球が必要であり、検査できる範囲はかなり限定されていた。そこで本発明者は、このような免疫バランスを血中のIL−1β,IL−4,IL−5,IL−6,IL−9,IL−10,IL−13,IFN−γ,RANTES,TGF−β1のサイトカイン及びケモカインを測定することにより、Th1/Th2/Th3細胞のバランスの測定を可能とした。これまで、血液中に存在する微量のサイトカイン及びケモカインは、ELISA法により測定されてきたが、手技上測定感度や多項目のサイトカインの測定には相当量の血液が必要である等の理由により、前述のように多項目のサイトカイン及びケモカインを測定するのは非常に困難であった。本発明者は、近年開発されたビーズアレイを用い、血中のIL−1β,IL−4,IL−5,IL−6,IL−9,IL−10,IL−13,IFN−γ,RANTES,TGF−β1のサイトカイン及びケモカインを測定することにより、各患者の免疫のバランスを知り、適切な治療介入が可能となることを見出した。
すなわち、臨床上の疾患治療を、高度臨床検査技術と後述する治療薬(医薬組成物)等で解決可能とした。例えば、アトピー患者では、アレルギーマーチと称されるように、乳児期にアトピー性皮膚炎、次いで幼児期に気管支喘息やアレルギー性鼻炎・結膜炎が出現するといったアレルギーの連鎖現象で、年齢とともにその症状は変化し進行する。そして、気管支喘息などへと重症化することが知られている。最近では、未病先防という言葉に代表されるように、できるだけ早い段階での適切な治療介入により、重症化が阻止できることが分かっている。
なお、上記高度臨床検査技術等は、アレルギーのみならず、癌や自己免疫疾患など、免疫の関与が推察される疾患の治療にも適用可能である。また、アトピー性皮膚炎、花粉症、気管支喘息、癌といったような特定の疾患においては、前述のパネルの中から特定の疾患用の項目(サイトカイン等)を限定したキットでも、治療分類検査に利用可能である。
本発明においては、多項目のサイトカイン等のパネルを用い、キーとなるサイトカインの測定により免疫バランスを明らかにすることを可能とし、さらにはその免疫バランス是正のための治療及び予防薬や治療及び予防方法等も開発した。その結果、各個人の免疫バランスに即した治療方法及び治療手順等を決定することができた。
その結果、Th3マーチ関連疾患の治療等において、未病先防のための検査方法や治療薬等が完成された。Th3マーチとしては、限定はされないが、例えば、
図1に示すような疾患の流れ(つながり)がある。本発明に基づく、このような臨床的判断システムは、免疫バランスの異常に関係すると推察される疾患の治療に大きく貢献するものと考えられる。
2.医薬組成物
本発明のTh3マーチ関連疾患の治療及び/又は予防用医薬組成物は、亜鉛を必須成分とし、より好ましくは亜鉛、カルシウム及びリンを必須成分として含むものであるが、さらに南瓜子及び南蛮毛を含むものであることがさらに好ましい。当該南瓜子(西洋南瓜子:カボチャの成熟種子)及び南蛮毛は、いずれも加熱されたものであることが好ましい。
本発明の医薬組成物において、有効成分としての亜鉛(亜鉛剤)は、亜鉛単体及び各種亜鉛化合物(例えば、亜鉛メチオネート等)や、これらを含む酵母(亜鉛酵母)等の形態で提供されることが好ましい。
本発明の医薬組成物において、有効成分としての亜鉛、カルシウム及びリンの配合比(重量比)は、限定はされないが、例えば、2.5〜3.5:1.5〜2.5:0.5〜1.5(=亜鉛:カルシウム:リン)であることが好ましく、特に好ましくは、同配合比が3:2:1である。また、南瓜子及び南蛮毛は、上記カルシウムと同等の配合比であることが好ましい。
本発明の医薬組成物は、有効成分である亜鉛が、カルシウムとリンの働きで細胞内に取り込まれることにより、細胞内のジンクフィンガー(亜鉛フィンガー)を活性化させる、具体的には、ジンクフィンガーによるDNA修復機能を活性化させるものである(
図2A及び
図2C)。
図2A及び
図2Cに示すように、当該活性化は、IL−13の亢進により確認することができる。本発明の医薬組成物は、ジンクフィンガーを活性化させることにより、例えば、亜鉛トランスポーター(Znt)の遺伝子欠損が原因となって発症する後述のエーラスダンロス症候群について、結果的に当該遺伝子欠損を修復することによって治療等することもできる。
本発明の医薬組成物の治療及び予防対象となるTh3マーチ関連疾患としては、限定はされないが、具体的には、アトピー性皮膚炎、エーラスダンロス症候群、骨ベーチェット病、陽性肢端炎、外耳炎、胃炎、腸炎、喘息、濃皮症、過敏性肺炎、慢性気管炎、花粉症、アレルギー性鼻炎及びアナフィラキシーからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられ、また癌(骨肉腫等)や自己免疫疾患(慢性関節リウマチ等)など、免疫の関与が推察される疾患も挙げられる。
また、本発明の医薬組成物の投与対象となる動物(被験動物)としては、上記各種Th3マーチ関連疾患が発症し得る哺乳動物であればよく、限定はされず、ヒト及び各種非ヒト哺乳動物が挙げられる。非ヒト哺乳動物としては、例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット及びハムスター等が挙げられ、中でも、イヌ、ネコ及びウマ等が好ましく、イヌが特に好ましい。
本発明の医薬組成物は、前述した亜鉛等の有効成分のほかに、さらに薬学的に許容される担体を含む形態で提供されてもよい。「薬学的に許容され得る担体」とは、賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等が挙げられる。そのような担体の1種以上を用いることにより、カプセル剤、注射剤、液剤、懸濁剤、軟膏、乳剤あるいはシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。これらの医薬組成物は、経口あるいは非経口的に投与することができる。経口投与の態様としては、例えば口腔投与、口腔内投与、舌下投与、歯肉塗布、粘膜投与、噴霧投与などが挙げられる。非経口投与のための投与形態としては、常法により処方される注射剤(皮下投与及び静注投与用の注射剤)や、経皮投与(塗布)、経鼻等による粘膜投与及び噴霧投与などが含まれる。注射剤の場合には、生理食塩水又は市販の注射用蒸留水等の薬学的に許容される担体中に溶解または懸濁することにより製造することができる。なお、本発明の医薬組成物の投与においては、限定はされないが、経口投与(具体的には上述の通り)が好ましい。
本発明の医薬組成物中、有効成分としての亜鉛、カルシウム及びリン(南瓜子及び南蛮毛を用いる場合はこれらも含む)の合計含有量(含有割合)については、Th3マーチ関連疾患の治療効果が発揮される程度であれば、特に限定はされないが、例えば、10〜100重量%が好ましく、より好ましくは20〜100重量%、さらに好ましくは50〜100重量%である。
本発明の医薬組成物の生体内への投与量は、限定はされず、Th3マーチ関連疾患の病状、患者の年齢、性別、体重及び病態、治療効果、投与方法、処理時間などにより異なっていてもよく、治療分類検査キットでモニター等しながら又は症候の推移を評価しながら、適宜設定することができる。
本発明の医薬組成物の生体内への投与量については、具体的には、治療として最終的に血清中に亜鉛(Zn)濃度が55μg/mL以上、好ましくは60μg/mL以上、より好ましくは95μg/mL以上、さらに好ましくは、内在型Th3生体反応が0.88%以上の正常値に達し、同時に血清亜鉛濃度が60μg/mL以上となるように、適宜投与計画等(1回あたりの投与量、1日平均あたりの投与回数等)を立てて生体内に投与すればよく、限定はされない。特に、イヌにおいては、血清中に亜鉛(Zn)濃度が85μg/mL以上であることが好ましい。なお、血清中の亜鉛濃度は、正常値の上限を超え中毒症状を回避しながら生体に投与することが望ましい。
特に、治療対象となる哺乳動物がヒトである場合は、本発明の医薬組成物の投与量は、亜鉛についてみたときに、1回の投与において、亜鉛(Zn)換算で1mg/kg体重〜10g/kg体重であることが好ましく、より好ましくは2mg/kg体重〜2g/kg体重、さらに好ましくは2mg/kg体重〜10mg/kg体重である。また、対象となる哺乳動物がイヌ及びネコ等である場合は、本発明の医薬組成物の投与量は、亜鉛についてみたときに、1回の投与において、亜鉛(Zn)換算で1mg/kg体重〜10g/kg体重であることが好ましく、より好ましくは2mg/kg体重〜2g/kg体重、さらに好ましくは2mg/kg体重〜10mg/kg体重である。
なお、本発明は、Th3マーチ関連疾患を治療する医薬(薬剤)を製造するための亜鉛(Zn)、カルシウム及びリン(南瓜子及び南蛮毛を用いる場合はこれらも含む)(下記において、亜鉛等という)の使用を提供するものでもある。また、本発明は、Th3マーチ関連疾患の治療用の亜鉛等を提供するものでもある。さらに、本発明は、亜鉛等を用いること(すなわち亜鉛等を患者に投与すること)を特徴とするTh3マーチ関連疾患の治療方法を提供するものであり、また、Th3マーチ関連疾患を治療するための亜鉛等の使用を提供するものでもある。
3.治療及び予防方法等
本発明の医薬組成物は、前述の通り、Th3マーチ関連疾患の治療及び/又は予防方法に用いることができる。具体的には、被験動物における血中のサイトカイン及び/又はケモカインの濃度を測定し、得られた測定結果を指標として、本発明の医薬組成物の投与を開始、継続、中断又は終了することを特徴とする、Th3マーチ関連疾患の治療及び/又は予防方法が提供される。
ここで、血中濃度を測定するサイトカイン及びケモカインとしては、限定はされないが、TGF−β1、IL−1β、IL−4、IL−5、IL−6、IL−9、IL−10、IL−13、IFN−γ及びRANTESからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく挙げられる。本発明においては、さらに血中の亜鉛濃度も測定することが好ましい。
ここで、各種サイトカイン及びケモカインの定義について、従来公知の内容及び本発明者が見出した内容(※印)を含めて、以下に示す。
・TGF−β1: 免疫細胞や癌細胞が産生し、免疫抑制的に作用する、抗炎症サイトカイン。TGF−β1は、リンパ球(T細胞やB細胞)の増殖・分化を抑制またNK細胞活性を抑制する。その結果、免疫応答、炎症反応、造血が、抑制される。TGF−β1はIL−6あるいはIL−4の存在により、Th17細胞に分化する。
・IL−1β: 単球・マクロファージ、Bリンパ球、内皮細胞、ケラチノサイトなどから産生されるサイトカインで、脳視床下部の温度中枢に作用して、発熱を引き起こす内因性発熱物質でもある。また、Tリンパ球を活性化してIL−2の産生を亢進させるサイトカインである。
・IL−4: 活性化されたCD4T細胞(Th2細胞)、CD8T細胞、マスト細胞、好塩基球、NKT細胞から産生されるサイトカインである。Th2細胞の増殖や分化を促進するサイトカインであり、いわゆる液性免疫を調節する代表的サイトカインである。活性化されたB細胞に作用し、IgMから、IgG1、IgEへのクラススイッチを促進させ、IgG1抗体、IgE抗体の産生を促進する。IFN−γの作用に拮抗し、IgG2へのクラススイッチを抑制する。
※アトピーはTh2優位の疾患であるが、初期の治癒過程にあっては臨床症状の良化とは関連性がなかった。また、そのアレルギー・アトピーにおける量的変化は大きくはなかった。
・IL−5: IL−5はTh2細胞やマスト細胞から産生されるサイトカインで、B細胞の増殖、抗体産生を促進する。また、IL−5は好酸球系前駆細胞に働いて、選択的な好酸球の増殖ならびに分化を引き起こす。
※小児から重症アトピーの患者は皮膚の治癒後、治り際における掻痒症が愁訴として聴取されるが、この原因として挙げられる。
・IL−6: 単球/マクロファージ、血管内皮細胞、線維芽細胞、ケラチノサイトなどから産生される。B細胞や抗体産生細胞を増殖させ、IgG、IgM、IgAを産生させる(抗体産生増強)T細胞の分化や活性化にも関与する。また肝細胞に作用し、CRP、ハプトグロビンなどの急性期蛋白を誘導する。
・IL−9: IL−9はTh9と呼ばれているTヘルパー系細胞から分泌されることが最近、明らかとなった。この細胞は、IL−4やIL−5、IL−13を産生せずに、もっぱらIL−9やIL−10を産生する。新しいT細胞やB細胞、マスト細胞の増殖を促進することが報告されていて、Th9細胞はTGF−βで誘導したTh2細胞からか、またはTGF−βとIL−4による未熟CD4+T細胞から直接分化できる。
※Th9細胞から産生され、ヒトやイヌにおけるアトピー疾患におけるIL−9の産生はアレルギーやアトピーの本態であった。その量的な産生量が高値で、最重症アトピー(皮膚の異常が36%以上の患者)の治癒過程でのバイオパラメータであった。
・IL−10: IL−10は主にTh2細胞から産生され、他にも単球、活性化B細胞、ケラチノサイトなど様々な種類の細胞より産生される。IL−10はTh1細胞からのIFN−γ産生を抑制し、またマクロファージからのIL−1、IL−6、Il−12、TNF−αの産生を抑制する。
・IL−13: IL−13は主にTh2細胞から産生される他、NK細胞、樹状細胞からも産生されるサイトカインで、B細胞の分化・増殖、マクロファージの炎症性サイトカイン産生の抑制しMHCクラスII分子を発現に働く。B細胞に作用し、T細胞依存的増殖、IgEへのクラススイッチを促進する。また単球からの炎症性サイトカイン産生を抑制し、NK細胞からのIFN−γ産生を増強する。
※亜鉛トランスポーター(Znt)と亜鉛フィンガー(Znf)の活性化、PAD(亜鉛酵母含有薬)使用時にZnfが産生するサイトカインである。また、Znt欠損疾患においてZnfが作用することにより、当該疾患が改善されたときに産生されるサイトカインである。
・IFN−γ: CD4T細胞のTh1細胞、CD8T細胞、NK細胞、NKT細胞から産生される:IFN−γは、主に、CD4陽性ヘルパーT細胞(特に、Th1細胞)や、CD8陽性キラーT細胞(CTL)が産生するが、IL−12で活性化されたNK細胞やNKT細胞も、IFN−γを産生する。抗ウイルス効果、NK細胞やCTLやマクロファージの細胞障害活性の増強作用がある。マクロファージによる一酸化窒素(NO)産生を、高める、細胞内寄生菌の殺菌を促進する。MHCクラスII分子の発現を促進する。Th1細胞が産生するIFN−γは、Th2細胞のCD40リガンド発現を抑制し、IgE抗体産生を抑制する。Th1細胞が産生するIFN−γは、ナイーブヘルパーT細胞(Th0細胞)のTh1細胞への分化を促進し、Th2細胞の生成を抑制する。
・RANTES(Regulated upon Activation,Normal T cell Expressed and Secreted):RANTESはTリンパ球、好酸球、マクロファージ、線維芽細胞、気道上皮細胞、メザンギウム細胞,腎尿細管上皮細胞などが遊離する。好酸球遊走活性、接着能増強、好酸球活性酸素産生増強に働く。特にアレルギー性炎症の場におけるT細胞の集積とその作用に深く関わっている。
本発明の治療及び/又は予防方法において、対象となるTh3マーチ関連疾患、投与する被験動物については、前記2.項における説明が同様に適用できる。
本発明の治療及び/又は予防方法では、被験動物における血中の各種サイトカイン及び/又はケモカインの濃度を測定し(「サイトカインパネル検査」ということがある)、その測定結果(すなわち、どのサイトカイン等がどの程度発現亢進又は抑制されているか)に基づいて、当該被験動物の現状の疾患の有無及びその病状(病態)を判定するとともに、Th3マーチとして次に発症すると想定される疾患の種類についても判定する。この判定結果に基づいて、Th1/Th2/Th3細胞のバランスをどのようにとるのがよいかを検討し、前述した本発明の医薬組成物の投与に関して開始、継続、中断又は終了のいずれかを選択する。ここで、投与の開始及び継続には、投与期間や投与量を一定にする又は増減させることも含む。すなわち、本発明の医薬組成物は、Th3マーチ関連疾患の治療及び/又は予防用のものであるが、一般的な薬剤のように投与の開始や継続という使用態様のみではなく、サイトカインパネル検査の結果に応じて投与の中断や終了という態様も選択され得るものである。現状の疾患の治療等とともに将来予想される疾患の予防(未病先防)も併せて行うような場合は、Th1/Th2/Th3細胞のバランスを適度に保持させるため、通常であれば投与を継続するところを敢えて中断又は終了することも必要な場合があるが、結果として、DNA修復能(IL−13で評価)による早期介入(早期治療への介入)が期待でき、Th3マーチ関連疾患の治療等に要する時間や使用する薬剤量等を低減することができる。
なお、サイトカインパネル検査における各サイトカイン等の血中濃度について、健常人値に比較して高値と判断される値の目安を以下に例示する。
TGF−β1: 5ng/ml以上
IL−1β: 1pg/ml以上
IL−4: 2pg/ml以上
IL−5: 2pg/ml以上
IL−6: 10pg/ml以上
IL−9: 30pg/ml以上
IL−10: 1pg/ml以上
IL−13: 2pg/ml以上
IFN−γ: 100pg/ml以上
RANTES: 2000pg/ml以上
本発明においては、上述のように被験動物における血中のサイトカイン及び/又はケモカインの濃度を測定し(さらに血中亜鉛濃度も測定することが好ましい。)、得られた測定結果を指標として、Th3マーチ関連疾患の治療及び/又は予分類を検査する方法、並びにTh3マーチ関連疾患の治療及び/又は予防薬の使用意思を決定する方法も提供される。ここで、治療及び予防分類検査とは、サイトカインパネル検査の結果から、現状どのようなTh3マーチ関連疾患を発症しているか、又は将来どのようなTh3マーチ関連疾患を発症し得ると予想されるかなど、Th3マーチ関連疾患の種類の判定及び予想を行う検査である。また、治療及び/又は予防薬の使用意思決定とは、サイトカインパネル検査の結果から、Th1/Th2/Th3細胞のバランスを適度に保持するために、本発明の医薬組成物を使用する(投与する)必要性や、使用する場合はどの程度の投与量がよいかなどを決定することをいう。
本発明においては、上述のように被験動物における血中のサイトカイン及び/又はケモカインの濃度を測定し(さらに血中亜鉛濃度も測定することが好ましい。)、得られた測定結果を指標として、Th3マーチ関連疾患を診断する(検出する)方法も提供される。具体的には、サイトカインパネル検査の結果から、現状どのようなTh3マーチ関連疾患を発症しているか、又は将来どのようなTh3マーチ関連疾患を発症し得ると予想されるか、さらには現状発症している疾患については病状及び病態について、判定をすることができる。
4.キット
本発明においては、サイトカイン及び/又はケモカインに対する抗体を含む、Th3マーチ関連疾患の治療及び/又は予防分類の検査用キット、Th3マーチ関連疾患の治療及び/又は予防薬の使用意思決定用キット、並びにTh3マーチ関連疾患の診断用キットが提供される。これら各種キットは、それぞれ、前記3.項で説明した各種方法におけるサイトカインパネル検査の実施に用いることができる。
また本発明においては、サイトカイン及び/又はケモカインに対する抗体、並びに前述した本発明の医薬組成物を含む、Th3マーチ関連疾患の治療及び/又は予防用キットも提供される。当該治療及び/又は予防用キットの使用態様としては、当該抗体を用いるサイトカインパネル検査による各種サイトカイン等の血中濃度の測定結果を指標とし、本発明の医薬組成物の被験動物への投与形態を決定して投与等することが好ましい。当該キットをこのように使用する場合、当該キットはTh3マーチ関連疾患の治療及び/又は予防薬として取り扱うこともできる(詳細は前述したTh3マーチ関連疾患の治療及び/又は予防方法における説明が適宜適用できる。)。
本発明のキットにおいて、対象となるTh3マーチ関連疾患、サイトカイン及びケモカインについては、前記2.項及び3.項における説明が同様に適用できる。
本発明のキットにおいては、各種サイトカイン及び/又はケモカインに対する抗体は、例えば、ビーズアレイ等に担持されたものであることが好ましい。ビーズアレイを用いた場合、採取した血液サンプルから一度に多数のサイトカイン等の濃度を簡易に検出できるように、キットをコンパクトな構成とすることができる。また、ビーズアレイを用いる以外に、ELISA、ウエスタンブロット法、イムノクロマト法(金コロイド法)を用いる、又はビーズアレイと併用することもできる。
本発明のキットは、各種サイトカイン及び/又はケモカインに対する抗体以外に他の構成要素を含むこともできる。他の構成要素としては、例えば1次抗体検出用試薬、発色基質、各種バッファー、血漿採取用の各種器機及び容器、抗原抗体反応に使用し得る各種容器、使用マニュアル等が挙げられる。具体的には、本発明のキットが、ビーズアレイ、ELISA、ウエスタンブロット法を利用するキットである場合は、他の構成要素としては、さらに1次抗体検出用試薬、発色基質等を挙げることができる。また、イムノクロマト法(金コロイド法)を利用するキットである場合は、金コロイド標識抗体や各種固相化抗体に加え、ニトロセルロースメンブレンやサンプルパッドやコンジュゲートパッド等を備えたテストスティック等を挙げることができる。
本発明のキットは、構成要素として少なくとも前述した各種サイトカイン及び/又はケモカインに対する抗体を備えているものであればよい。従って、Th3マーチ関連疾患の診断等に用いる構成要素の全てを、当該抗体と共に備えているものであってもよいし、そうでなくてもよく、限定はされない。
5.Znf(亜鉛フィンガー)のDNA修復能をサイトカインカインで置き換えて評価する方法、及び当該評価方法による薬剤の選定方法
DNA修復能を有するZnf(亜鉛フィンガー)の構造を
図15に示した。
図15の構造をサイトカインパネル検査でIL−13を含めて測定するために、サイトカインの産生あるいはアミノ酸の配列との関係を明らかにした(
図16:サイトカインで置換したパターン)。
図16はアトピー性皮膚炎あるいはTh3マーチの疾患に対する薬剤選定を実施する際のサイトカインパネル検査のためのZnfのDNA修復能などの位置関係を示したものである。アトピーに関連したTh2サイトカインであるIL−4は、第263〜287番目のローカスに存在する。次いで、Th1サイトカインであるインターフェロンγ(IFN−γ:ヒト、イヌやネコなどの哺乳類)はC末端である第318〜341番目のローカスに首座の産生部位が存在する。
N末端のIL−4産生部位の中で第264番目にはIL−5(ヒト、イヌやネコなどの哺乳類)の存在あるいはIL−13の存在も指摘された。DNA修復能の首座は、第304〜306番目に位置しており、Znfの活性化のシグナルであるIL−13の首座は、
図16中、第368番目にサイトカイン産生部位が位置している。亜鉛の指Znf/PADの投与時の薬効をはじめとして、各種薬剤の評価をこの関係から評価することが可能となった(実施例参照)。また、このサイトカインパネル検査を駆使することにより薬剤の評価も可能である。
ついで、N末端からC末端までの翻訳時間は約6週間であり、間接的に薬効の発現時間の推定も可能である。ヒトの最重症アトピー性皮膚炎の患者における亜鉛の指Znf/PADの投与期間などの設定も可能となった(別途実施例を参照:IL−13の産生能)。
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0006】
<Th3マーチを利用した早期介入/未病先防>
【表1A】
【表1B】
【表1C】
定義と概説:
Th3マーチは本発明者により初めて明らかにされた。亜鉛細胞サイトカインシグナル伝達を経由するTh3マーチは細胞表面のBMP(骨形成タンパク質)とTGF−β1(新たにTGF−β1/Th3マーチと定義)によって、細胞に伝達されるカルシウムとリン、さらにIFNとIL−13(Znf)により制禦されている。特に、臨床的には年令によって病変のみられる順序が比較的に明瞭であった。Th3マーチは若令から順に、Th1生体反応依存性(骨疾患)、Th2生体反応依存性アトピー(結合組織の異常としての皮膚疾患)、及びTh3生体反応(重篤治癒阻害因子)とマーチした。その後のマーチは骨系あるいは結合組織系で年令と共にマーチする。このときに、臨床的に発病し、イヌ又はヒト若令性関節リウマチ(Th1骨組織系病)、イヌもヒトも3才でアトピー性皮膚炎(Th2結合組織系病)を現し、Th3系疾患に移行する。Th3生体反応性病はTh1生体反応とTh2生体反応が混在したものである。年令の進んだ時に見られるTh3生体反応性病は亜鉛ならびにZntの異常や欠損症(エーラスダンロス症候群(EDS)など)を介することから、Th1又はTh2生体反応性病を重篤化しながら精神障害(双極性障害I型やII型、ヒトの精神遅発障害など)を併発し、例えば最重症アトピー(実施例参照)を誘導する。また、臨床的に骨系では骨ベーチェットから骨肉腫が誘導されることが指摘されている。Th1からTh2にシフトした骨吸収系疾患の例を
図3に示した。
図3は、イヌの関節リウマチでの特徴的骨吸収を調べた結果である。亜鉛細胞サイトカインシグナル伝達を経由するTh3マーチは細胞表面のBMP及びTGF−β1を経路としてマーチする。イヌの遺伝子組換え型インターフェロン−γ(IFN−γ)治療経過と共に骨吸収が優位であったが(IFN−γ投与群)、その一方で骨吸収を調べたところ相互排他的にBAPは増強する臨床的発見をした。その後、治癒がみられると(
図4)骨吸収と骨増生は均衡していた。しかしながら、その後Th3生体反応が増強し、臨床的にはアトピー性皮膚炎を誘導した。
図4では、単純X線所見は、Th1生体反応性疾患である骨吸収像(治療前)とリウマチ炎症による関節炎を示した。また、
図4右図の治療後では、骨吸収と骨増生とが均衡したときの関節の改善像を示した。Th1関節炎を治療したところ(IFN−γ 4MUを関節内に直接投与)、関節周囲の浸潤と関節の炎症による透過性亢進像は著しく改善された。
図4右図の治療後の所見では肘関節における滑車切痕は可視化され、著しい良化改善傾向が観察された(評価:治療前は散歩を嫌っていたが、散歩(5分程度)が可能となった。なお、同種正常犬における標準的散歩時間は30分以内である。)。
【実施例2】
【0007】
<アトピー性皮膚炎に対するサイトカインパネル検査の策定>
1.健常者のサイトカインパネル
健常者と認められる248名に対してサイトカインパネル検査を実施し、測定値が高く再検により臨床的指摘(喫煙(20本/日)や花粉症)を受けた者や高齢者を除いたボランティア63名のサイトカインパネルを、下記表1Dのサイトカインパネルに示した。この表から各疾患(最重症アトピー性皮膚炎)の患者の特徴を、別途患者のサイトカインパネルとした。(なお、イヌ等の動物についても同様なサイトカインパネル検査を実施した。)
【表1D】
2.小児アトピー性皮膚炎のサイトカインパネル治療分類検査の項目
小児アトピー性皮膚炎のTh3マーチにおける評価と治療(早期介入・未病先防)の一元化によるサイトカインパネル検査に必要な検査の項目を下記表2に記載した。
【表2】
3.重症アトピー性皮膚炎のサイトカインパネル治療分類検査の項目
重症アトピー性皮膚炎の亜鉛細胞サイトカインシグナル伝達を利用したTh3マーチにおける評価と治療(早期介入・未病先防)の一元化によるサイトカインパネル検査に必要な検査の項目を下記表3に記載した。
【表3】
4.最重症アトピー性皮膚炎のサイトカインパネル治療分類検査の項目
哺乳類における最重症アトピー性皮膚炎の亜鉛細胞サイトカインシグナル伝達を利用した最も典型的な病態が形成され、臨床的には亜鉛又はZntに依存した精神障害を呈する。この関係はTh3マーチに織り込んでおかない限り、本発明の医薬組成物(「亜鉛の指Znf/PAD」(単に「亜鉛の指Znf」と表記することもある)と称することがある)による治癒は望めない。そこで、Th3マーチにおける評価と治療(早期介入・未病先防)の一元化によるサイトカインパネル検査に必要な検査の項目を検討して下記表4に記載した。なお、本発明の医薬組成物(「亜鉛の指Znf/PAD」)の詳細を表5に示した(以下、本願明細書の各実施例において同様)。
【表4】
【表5】
【実施例3】
【0008】
<亜鉛シグナルTh3アトピー性皮膚炎のサイトカインパネル検査と治癒評価>
(血清中亜鉛濃度/精神遅発障害等、Th9アレルギーアトピー細胞/IL−9、BAP/BMP/TGF−β1を含んで診断や投薬を実施するキット。また、Znf活性化/IL−13を加えた治療評価:他の実施例を参照)
【表6】
検体は9名分の軽度アトピー性皮膚炎の凍結血漿であった。
結果:サイトカインパネル治療分類検査の項目と、Th3マーチを利用した新規亜鉛の指Znf/PADによる診断治療キット使用のための項目を表6に示した。
該当した項目を表中の塗り潰し(赤)で示した。このために最小広告に入れるべきサイトカインパネルの項目は、IL−1b、IL−1ra、IL−2、IL−4、IL−5、IL−17、IL−13とIL−9(治療評価)、FGF、G−CSF、G−CSF、IP−10などであった。本実施例ではこの他の項目を含めて測定したものである。例えば、RANTES、VEGE(以上花粉症関連項目)や27種サイトカインパネルである場合を含むものである。
【実施例4】
【0009】
<Th3マーチ花粉症のTh3マーチまたは花粉症のサイトカインパネル検査と治癒評価>
(哺乳類のTh9アレルギーアトピー細胞/IL−9、BAP/BMP/TGF−β1を含んで診断や投薬を実施するキット。また、Znf活性化/IL−13を加えた治療評価:他の実施例を参照)
【表7】
検体は58名分の花粉症の凍結血漿であった。
結果:(新定義のために実施した)サイトカインパネル治療分類検査の項目と、Th3マーチを利用した新規亜鉛の指Znf/PADによる診断治療キッド使用のための項目を表に示した。
該当した項目を表中の塗り潰し(赤)で示した。このために最小項目に入れるべきサイトカインパネルの項目は、IL−1b、IL−1ra、IL2、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−9、IL−10、IL−12、IL−13、IL−15、IL−17、Eotaxin、FGF、G−CSF、G−CSF、INF−γ、IP−10、MIP−1b、TNF−αなどであった(上記標準サイトカインパネルとは異なる)。また、早期介入療法ではTh1生体反応、インターフェロン−γ、IL−13とIL−9などは治療評価としてサイトカインパネルに含めて診断治療を一括して実施する。本実施例ではこの他の項目を含めて測定したものである。
患者の例:花粉症に罹患した40台後半の男性の患者
【表8】
結果:サイトカインパネルの有用性が確認され、Th3マーチを利用した早期介入薬剤キットの使用が可能となった。また、IL−4の産生もなく、血管障害が強く(VEGF、PANTES)TGF/FGFの異常があり、Th3マーチの抑制期にあることがサイトカインパネルから決定された。呼吸器系の軟骨と結合組織が脆弱化し、潜在的には血管透過性が強調された病態にあり、刺激(花粉)による症状発現(鼻汁など)がよく理解できる治療分類検査であることが証明された。
【実施例5】
【0010】
<イヌのTh2−Th3シフトマーチEDSのサイトカインパネル検査と、本発明の医薬組成物による治癒の評価及びDNA修復能>
イヌのZnt遺伝子欠損病であるEDSのサイトカインパネル検査の確認結果を下記表9に示した。
【表9】
結果:典型的なTh3マーチの症例でアレルギーが強いことが観察された。本発明の医薬組成物で加療され、発毛と被毛の改善がみられた。
Znt又はZnfに影響するFDSのイヌの症例で、FGFも低値で臨床診断も含めEDSとサイトカインパネルで評価が可能であった。
【実施例6】
【0011】
<イヌのTh3マーチ関連疾患としてのEDSのサイトカインパネル検査と、本発明の医薬組成物の治癒の評価及びDNA修復能>
【表10】
結果:やはりアトピーとは鑑別診断された。病態は別途の実施例を参照。
血清亜鉛濃度は低値であったが、臨床症状は改善された。Th9細胞が高く、逆にIP−10が低値な特徴がみられ、症例はTh3マーチにも合致して観察された(別途実施例参照)。
(Th3マーチのうちTh1−Th2マーチは別途実施例で示した。アトピーの治療阻害因子。)
【実施例7】
【0012】
<サイトカインパネル検査のアトピー性皮膚炎に対する有効性>
アトピー性皮膚炎では、Th2よりTh9/IL−9の方がバイオパラメーターとして有用であった。
IL−9/Th9細胞は、いわゆるアレルギーの責任細胞であり、IL−9をIL−4の十倍以上産生し、哺乳類のアトピー・アレルギーの改善と共に低下し、特にアトピーの治療時にはその逆相関性がみられる。IL−9/Th9細胞はアトピーの治療の新規のパラメータになることが分かった。また、最重症アトピーの患者では、血漿中TGF−β1が高く、なおかつTh3生体反応(薬剤を投与されたときのTh細胞のin vivoでの動態のこと)とTh1生体反応が低いときに、その治療効果がみられるときにはIL−9/Th9が抑制される一方で、IL−13(Znf活性)は上昇する。また、哺乳類のアトピーの治癒時にはIL−9/Th9細胞とIL−13(Znf活性)は同様のことが観察され、治癒の首座はIL−9とIL−13であることが初めて明らかにされた。
(最重症アトピー患者における治癒因子とサイトカインパネルによる評価)
臨床的に改善された治療例におけるサイトカインパネル検査の結果を示す(
図5)。
アトピー性皮膚炎の要因であるIL−4/Th2細胞は、治癒過程においては、治療薬によることもあるが、サイトカインパネル上では数値も小さく、臨床症状に連動呼応することはなかった(
図5参照)。しかしながら、寛解(暖解)には結果的にIL−4の値は正常化して、衛生仮説(Th1/Th2比)も改善された。また、Th17(IL−17)、Th22(IL−22)はTh9(IL−9)とは異なり、最重症または重症アトピーの治癒時には、そのパラメータとしては有効ではなかった。さらに、アトピーのバイオパラメーターとして不適切な順に、特異的IgE、トータルIgE量、TARC、TGF−β1であった。
図5の棒グラフは、最重症アトピー(皮膚全体の36%以上の紅斑症と掻痒症)の治療前(0日目)と74日目の治癒像をはさんで、経過日数ごとに、左からIL−1ra(IL−1 レセプターアンタゴニスト),IL−2,IL−4,IL−5,IL−6,IL−7,IL−8,IL−9,IL−10の順で示した。
【実施例8】
【0013】
<最重症アトピー性皮膚炎に対する亜鉛の指Znf/PADの投与効果>
症例は50歳後半の罹患歴おおよそ49年の男性であった。初診時(当該治療開始時)に皮膚紅斑症が皮膚全体の36%以上の最重症アトピー性皮膚炎と仮診断された。抗IgE血症もみられた。治療は、「亜鉛の指Znf/PAD」(単に、亜鉛の指Znfとも表記する)(亜鉛酵母実量として3.1mg/kg又は上限として2g)の経口投与によって実施した。
治療効果の判定は、サイトカインパネル検査又は本願明細書に記載の(本願発明において見出した)評価基準により実施した。その結果を表11に示す。
【表11】
表11(亜鉛の指Znf/PADの投与時におけるアトピー患者のサイトカインパネルに対する臨床効果)から、最重症アトピー性皮膚炎の特徴であるTh1ならびにTh3生体反応が低値で、その一方活性型TGF−β1は27pg/mlと高値であり、最重症アトピー性皮膚炎の特徴がみられた。また、Th2生体反応は治療によって低下するがTh2サイトカインであるIL−4は治療効果と関連性は低いようであるが、主にTh9細胞(アトピー・アレルギー細胞として発見:イヌにあってもその存在を確認)から産生されるIL−9は治療効果と相関して亜鉛の指Znf/PAD投与により抑制された。さらに、亜鉛シグナル伝達を介してDNA修復脳を有するZnfが活性化することにより産生されるIL−13は著しく上昇した(表11)。
IL−4とIL−13はシグナル伝達系にあり、IgEなどの抗体産生を促進するが、最重症アトピー性皮膚炎の治癒仮定ではIL−4とIL−13の関係はなく、IgEが著しく抑制されていた(データを示さず)。IL−13の産生増加における治癒仮定とIgEとの関連性は否定的であり、IL−13の産生はZntならびにZnfの活性化を介して本症例の治癒に関与していた。さらに、ZntならびにZnfは、骨、皮膚などの結合組織の増生と関与し、皮膚症状が改善しているところから、IL−13の産生はDNA修復と関連していることが示された。
上述した治療過程において、手(手の甲)の治療前は皮膚が厚く、ごわごわ触れ(苔せん化)掻きこわしが目立っていた。治療後は皮膚がほぼ正常にもどり、滑らかになり、掻きこわしが消失していた(図示せず)。なお、掻きこわしのあとの色素脱失がみられた。
また、前腕(
図6;左から治療前、治療中、治療後232日目)では、手と同じように、治療前(
図6・左)は皮膚が厚く、ごわごわ硬く触れるが(苔せん化)、治療後(
図6・右)はそれらがなくなり、きめ細かさが見られ、皮膚の赤味(皮膚炎とアトピー炎症)は消失していた。
【実施例9】
【0014】
<イヌのTh2アトピー治癒後Th3マーチを介したエーラスダンロス症候群(EDS)に対する亜鉛の指Znf/PADの投与効果>
(症例)
種類:ミックス
性別:オス
年齢:11才3ヶ月
Th2アトピー性皮膚炎からTh3マーチによってEDSを呈した(
図7参照)。
Th検査やその他でアトピー性皮膚炎を確定した後、標準的治療法で加療したところ、アトピーは寛解した(
図7・左)。その9ヶ月後の頭部と外貌所見を示した。左眼上部の地図状脱毛、典型的な肩甲部下降(下垂)ならびに前肢の開脚が観察された(
図7・右上)。
症状の現れ方:代表的臨床像は、5項目のうち、(3)肘関節の過伸展、(5)皮膚の過伸展がみられ、皮膚の脆弱性(Th1とTh3が低値)の症状がみられた。
アトピーの治療時にはなかったEDSを疑い、単純X線検査を実施したところ(
図8)、結合組織の過伸展が負重の掛かりやすい関節で、検査上骨の異常は無いが多発した脱臼が観察された(
図8・各矢印)。また、サイトカインパネル検査ではEGFが0.5pg/mlと著しく低値であった。サイトカインパネル検査からイヌのEDSと確定された。
治療は亜鉛の指Znf/PAD(亜鉛酵母実量として3.1mg/kg)の経口投与によって実施した。亜鉛の指Znf/PAD投与により、FGEならびにZnf活性(IL−13)は治療前より上昇し、1ヶ月目で目の上の脱毛も改善された。
【実施例10】
【0015】
<イヌの股関節脱臼・心拡大としてTh3マーチを介したEDSに対する亜鉛の指Znf/PADの投与効果>
(症例)
種類:A・コッカー・スパニエル
性別:メス(避妊処置済)
年齢:2才11ヶ月
Th3マーチ:症状の現れ方としては、まず最初に股関節脱臼があり、4ヶ月程度で改善した。その後、心疾患を併発したがEDSの加療とともに心雑音は消失した。さらにその後、骨ベーチェット病(
図9のX線所見を参照)をマーチした。
本症例のEDS代表的臨床像は、5項目のうち、(3)肘関節の過伸展、(4)膝関節の過伸展、(5)皮膚の過伸展と、皮膚の脆弱性(Th1とTh3が低値)、萎関節脱臼がみられた。
治療効果の判定は、血清亜鉛濃度、単純X線検査、サイトカインパネル検査又は本願明細書に記載の(本願発明において見出した)評価基準により実施した。
図9においては、骨吸収(Lacuna skull)が認められた。本症は骨増生と骨吸収が混在するが、骨の非薄化と骨吸収が主に観察された。骨ベーチェットは骨肉腫を誘導し易いものである(ヒト)。
治療は亜鉛の指Znf/PAD(亜鉛酵母実量として3.1mg/kg)の経口投与によって実施した。治療前の血清亜鉛濃度は42ng/mlであったが、亜鉛の指Znf/PAD投与により、亜鉛濃度は50ng/ml台まで回復した。サイトカインパネル検査では、FGFが低値であった(別途サイトカインパネルの実施例を参照)。余剰した過伸展皮膚(
図10・0−day)と、頭蓋骨の肥厚による隆起、その後舌の露呈と眼周囲の脱毛(
図10・9−Mo)の所見、さらに9ヶ月後の所見(
図10・最右図)を、それぞれ示した。若令のこともありTh3マーチ疾患が混在・重複して観察された。なお、結合組織の脆弱性と過伸展は9ヶ月目(9−Mo)でピークに達した。亜鉛の指Znf/PAD投与により、心疾患は改善し、皮膚の状況は著しく改善された(
図10・最右図)。BMPとTGF−β1シグナルリングによる臨床的変遷とも考えられた。
【実施例11】
【0016】
<イヌのTh3マーチを介したEDSに対する亜鉛の指Znf/PADの投与効果>
(症例)
種類:M・ダックス
性別:オス
年齢:5才7ヶ月
本症例のEDS代表的臨床像は、5項目のうち、(1)第1指親指が背屈して前腕につく、(2)第2〜5指が背屈して、指の付け根の関節が90度以上曲がる、(3)肘関節の過伸展、(4)左側膝関節の過伸展、(5)皮膚の過伸展の5項目が該当し、そのほかに、皮膚の脆弱性(Th1とTh3が低値)がみられた。
治療は亜鉛の指Znf/PAD(亜鉛酵母実量として3.1mg/kgまたは上限として2g)の経口投与によって実施した。治療結果等を
図11に示した。亜鉛の指Znf/PADの投与40日で、著しい結合組織の改善により外貌上での肩甲部下降(下垂)が正常化した。EDSの臨床スコアもすべて改善された(
図11)。
【実施例12】
【0017】
<Th3マーチにおける早期介入療法>
イヌの最重症アトピー性皮膚炎(Th検査による評価を含める)とその後にマーチする喘息(慢性気管炎と好酸球性肺炎)の単純X線ならびにCT像(小さなカット図)を、
図12に示した。
図12は、下記実施例12に示す、マーチ肺炎の早期介入(未病先防)の評価としての実施例である(Th3マーチと検査による薬剤選定法による早期介入療法)。
図12では、年令に準じたTh3マーチの過程で喘息(アトピー、慢性気管肺炎/喘息、花粉症/特発性リンパプラズマ性鼻炎CT)を呈し、その悪化過程(
図12・左側から3枚の図)と、早期介入療法実施後の治癒時の単純X線所見(
図12・最右図)を示した。悪化過程を示した図では、進行した重篤化した右肺葉(左側から3番目のカット図)の所見を並記した。矢印部分は好酸球浸潤時の肺野の縮小所見を示した。「亜鉛の指Znf/PAD」の投与により、投与後IL−13(サイトカインパネル検査のI項目でZnf活性化の指標)の値も上昇していた。
【実施例13】
【0018】
<Th2とTh3生体反応のシフトとTh3マーチと慢性気管肺炎/喘息>
(症例)
種類:M・ダックス
性別:オス
年齢:9才
アトピー性皮膚炎については標準的治療法で加療して、39日目で薬剤の離脱が可能であった(
図13、左図:治療前、右図:治療後)。
初診時(アトピー性皮膚炎加療開始時)は、活性型TGF−β1の測定値が10より高く16.8ng/mlであり、同時に軽度な発咳の既往があったため、Th3マーチを想定して単純X線検査を実施した。その際の所見を
図14(左図:治療前、中図:治療中、右図:治療後)に示した。気管を中心に気管支あるいは肺野末梢に血管炎と肺野の縮小が見られ、マーチ慢性気管肺炎/喘息の兆候が見られた。特に、頸部気管は虚脱(TGFによる気管軟骨のリモデリングの継続・遷延化:バルーニング)し、気管のリモデリングを伴う蛇行が描出されていた。同時に左右中葉(心葉)に強いコンソリデーションが散見され、同肺野の炎症の局在がみられた(
図14・左図、矢印部)。
治療薬剤としては、TGFによる気管軟骨のリモデリングを抑制するためにTGFの数値を抑制後「亜鉛の指Znf/PAD」を投与し、マーチ疾患に早期介入療法を適用した。その結果、呼吸器系の異常は皮膚疾患に遅れて発症し、結果的にはアトピーの治療期間より短い治療期間で薬愛の離脱が可能であった。すなわち、早期介入療法(未病先防)では、マーチの後に発生する疾患は、未治療期間がないことになることが示された。この評価はTh生体反応検査あるいはサイトカインパネル検査で行った。
【実施例14】
【0019】
<Th3マーチとアトピーにおける精神的遅発遅延等の改善に対する亜鉛の指Znf/PADの投与効果>
最重症アトピー性皮膚炎の患者は、亜鉛細胞サイトカイン・シグナル伝達/Thマーチの下流でのサイトカインパネルの検査で治療立案が最も容易である疾患であることを明らかにした。特に、個体における治療はTh生体反応検査ならびにサイトカインパネル検査無しでは、治癒の達成されない皮膚病であることを併せて明らかにした。TGF−β1(Th3サイトカイン)とTh3生体反応はシグナル伝達系であるがZntの異常が存在するとTGF−β1の産生がありながら、Th3細胞の活性化に供さないため、Th3生体反応は低下する。血漿活性型TGF−β1が高値で、Th3細胞のTh3生体反応(特に内在型)測定値が低値(1.32%以下)の関係(解離)が観察される。
最重症アトピー性皮膚炎の患者、あるいは20歳代の中等度のアトピー性皮膚炎にあってもTh3生体反応とTh1生体反応が低下している患者に、血漿活性型TGF−β1とTh3生体反応(とくに内在型)測定値の低値(1.32%以下)が観察された。このような症例から、臨床的に亜鉛シグナルの異常から精神遅発障害(Znf/Zntの不活性化、IL−13の低下、血清亜鉛濃度55ng/ml以下で発症)がみられる。血清中亜鉛濃度が10上昇し、65ng/ml以上に回復すると、自律神経緊張異常、うつ様の精神症状、ADLの低下などが改善した。特に、血清中亜鉛濃度と精神遅発障害は高齢者で顕著にみられ、また、Th1依存性皮膚病ではうつ様症状が60%でみられた。「亜鉛の指Znf/PAD」の投与によりZnt(亜鉛トランスポーター)あるいは血清中亜鉛濃度の低下(52以下)による精神的遅発障害もIL−13の上昇により改善された。
【実施例15】
【0020】
<本実施例の概説>
本発明者らは、代表的なTh2アトピーマーチ(atopic march)についての報告(Suzuki Y,Kodama M,Skin barrier−related molecules and pathophysiology of asthma.,Allergol Int.,2011 Mar;60(1):11−5.;Spergel JM.,From atopic dermatitis to asthma:the atopic march.,Ann Allergy Asthma Immunol.,2010 Aug;105(2):99−106.)が明らかにされる以前から、Th2アトピーマーチ(アトピーマーチ、Th2マーチ)の次にみられるTh3マーチがあることを見出した。また、従来、人工的にZinc−Finger(Znf)Nucleasesを核内に挿入したとの報告があるが(Tomoji Mashimo et al.,Generation of Knockout Rats with X−Linked Severe Combined Immunodeficiency(X−SCID)Using Zinc−Finger Nucleases.,PLoS One.,2010 Jan 25;5(1):e8870)、本発明者らは、DNA修復能を有する「亜鉛の指/Znf」(前掲の表5を参照。以下同様。)を発見し、経口投与による臨床的効果ついて示した。
しかしながら、イヌやヒトのアトピーの原因遺伝子(Barros Roque J.,Haplotype sharing excludes canine orthologous Filaggrin locus in atopy in West Highland White Terriers.,Anim Genet.,2009 Oct;40(5):793−4.;Cai SC et al.,Filaggrin Mutations are Associated with Recurrent Skin Infection in Singaporean Chinese Patients with Atopic Dermatitis.,Br J Dermatol.2011 Jul 25.)がTh3マーチを誘導する報告はなく、また、哺乳類のエーラスダンロス症候群(Ehlers−Danlos syndrome(EDS))がTh3マーチに含まれる報告はない。ましてや、EDSが亜鉛の指/Znfで改善すること、さらに経口投与によるアトピーマーチの関連遺伝子の修復まで可能であることの報告はない。
本実施例では、Th3マーチ(Th1,Th2ならびにTh3疾患)が、フィラグリン(Filaggrin)遺伝子(アトピーの原因遺伝子)の欠損あるいは変異によることを初めて明らかにした。併せて、これらのマーチ疾患(Th1疾患:尋常性乾癬など、Th2疾患:アトピー性皮膚炎、Th3疾患:接触性皮膚炎やヒトやイヌなどのEDS)を、亜鉛の指/Znfの経口投与によって、Th3マーチにも関与するフィラグリン遺伝子の欠損または変異したDNAを修復する(FGFとIL−13の誘導を含む)ことにより治療または改善できることを初めて示した。
<実験方法及び材料>
(1)フィラグリン(Filaggrin(FLG))測定用ELISAキット
組織ホモジネート及びその他の体液中におけるフィラグリン(FLG)タンパク質(遺伝子関連フィラグリン)をin vitroにおいて定量的に測定するため、サンドイッチ酵素免疫測定法のキットを用いた。
具体的には、検出強度は波長450nmで測定した。また、FLGに特異的に結合するビオチン結合ポリクローなる抗体を用い、予めFLGの標準サンプルを用いて作成した検量線(
図17)より、フィラグリンの実測定値(ng/ml凍結血漿)を概算した。
(2)亜鉛の指/Znfによるフィラグリン修復能の算出
Th3マーチを有する哺乳類(ヒトとイヌ等)の患者・被験動物のうちアトピー症候群(フィラグリンの発見によりアトピーはアトピー症候群と定義した)の原因遺伝子であるフィラグリン(Filaggrin:FLG)遺伝子に基づくフィラグリンタンパク質が検出されない又は検出量が少ない(フィラグリン遺伝子が欠損または変異している)患者等を選別した(Th3−FLG)。
次いで、フィラグリンの欠損等が確認された患者等(Th3−FLG)に対して、「亜鉛の指/Znf」(前掲の表5を参照。)を投与し、その後のフィラグリンの修復活性を比較した。ここでいうフィラグリン修復能とは、フィラグリンタンパク質の発現量の亢進率をみているわけであるが、これはフィラグリン遺伝子DNAの修復能(修復率)とみなすことができる。
亜鉛の指/Znfによるフィラグリン修復能(% of control)は、下記式に基づいて算出した。
フィラグリン修復能(% of control)=
〔(亜鉛の指/Znf投与後のFLG量(ng/ml))/(亜鉛の指/Znf無投与時のFLG量(ng/ml))〕×100%
(3)亜鉛の指/Znfの投与方法と投与期間
「亜鉛の指・Znf」1カプセル/head/BID POを好ましい投与量の条件とした。投与期間については好ましくは60日から120日間とした。なお、口腔内塗布などの投与方法でも摂取が可能である。
<実施例15−1>
Th3マーチにおけるアトピー原因遺伝子の修復
下記プロフィールのTh3−FLGの患者に対する、亜鉛の指/ZnfによるFLGの修復能と、臨床的効果を確認した。
患者概要(プロフィール):
女性(家事手伝い)、26歳、Th3−FLG患者
アトピー発症は幼稚園児の頃からであり、ステロイドは一切使用していない。
低IgEアトピー患者であり、完全なTh2マーチのうち花粉症疾患を有した。
アトピー罹患歴は19年間である。
フィラグリン修復能:
上記患者に対して、亜鉛の指/Znfを103日間投与した。
亜鉛の指/ZnfによるFLG修復能は116.7%であり、DNA修復が観察された。
臨床的効果:
アトピー罹患期間が19年であるが,比較的紅皮症は軽度であった。この患者は亜鉛細胞系シグナルの異常による免疫抑制性結合織炎を併発していた。
上記のとおり、亜鉛の指/Znf投与期間は103日で、FLG修復は約1.2倍(120%)であった。亜鉛の指/Znfの投与により、
図18に示したように紅皮症は完全に改善した(図中の−Znfは投与前、+Znfは投与後を表す。)。Th1生体反応は依然低下しているが、治療薬剤の離脱が可能であった。
<実施例15−2>
下記プロフィールのTh3−FLGの患者に対する、亜鉛の指/ZnfによるFLGの修復能と、臨床的効果を確認した。
患者概要(プロフィール):
女性(主婦)、49歳、Th3−FLG患者
アトピー発症時期は生後数か月であり、頭に大きな湿疹ができた。その後、幼稚園の時から痒みが常態化した。掻痒症の制御のため軟膏やステロイド軟膏などで対処していた。皮膚の状態が悪化したのは高校生の時で、顔にもステロイド軟膏を塗布していた。高校卒業後に脱ステロイドを実施した。結婚後、一時ステロイドを使用していた時期もあった。高校時代には喘息に罹患しステロイドで恢復するが、その後花粉症を発症した(FLG欠損によるアトピーマーチ)。また、アナフィラキィシーにより、救急搬送されたこともある。皮膚は「おろし金様」を呈し、腕からの採血が困難であった。
低IgEアトピー患者で完全なTh2マーチの六疾患を含んだTh3マーチを有した。また、ラテックスフルーツ症候群にも罹患していた。実子にもアトピーの長女がいる。また、親もアトピー性皮膚炎である。
アトピー罹患歴は42年間である。
FLG修復能:
上記患者に対して、亜鉛の指/Znfを103日間投与した。
亜鉛の指/ZnfによるFLG修復能は200.0%(2倍)であり、DNA修復能が観察された。
臨床的効果:
この患者は26歳のアトピー患者と同様、亜鉛細胞系シグナルの異常による免疫抑制性結合織炎を有しながら、FLA欠損によってみられるアトピーマーチ疾患(喘息など六種類の病気)の既往歴を持っていた。その上に、アナフィラキシーの既往歴もあり、完全なTh3マーチであった。皮膚病変としては脂漏性湿疹、掻破痕、「おろし金様皮膚」を伴う手湿疹が顕著であった。また、ラテックスフルーツ症候群を併発していた。
上記のとおり、亜鉛の指/Znfの投与期間は103日で、FLA修復能は2倍(200%)に達した。亜鉛の指/Znfの投与による手湿疹の改善効果を
図19に示した(図中の−Znfは投与前、+Znfは投与後を表す。)。また、FLG欠損に伴う症候で、重篤な手湿疹に対する当該効果を、より具体的に、下記表に示した。
<実施例15−3>
下記プロフィールのTh3−FLGの患者に対する、亜鉛の指/ZnfによるFLGの修復能と、臨床的効果を確認した。
本実施例は、Th1疾患(乾癬)からTh2マーチ患者の治療例である。
乾癬(psoriasis)では、IFN−γなどのI型サイトカインが多く産生され、浸潤しているTh細胞もTh1優位になっている。一方、乾癬の皮疹部にはTh1だけでなく、Th17あるいはTh22細胞が多数浸潤している。イヌではTh1からTh2疾患にマーチする。FLGが上昇したことによりTh3マーチの過程にあることが明らかとなった。
患者概要(プロフィール):
男性、52歳、Th−FLG患者(Th1疾患:尋常性乾癬/Th3マーチ疾患)
病名は、Th1疾患の尋常性乾癬である。
罹患期間は26年間である。
FLA修復能:
(1)参考例(対照実験)として、上記患者に対して、亜鉛剤(商品名:プロマック)の投与を試みた。なお、プロマック投与前には血漿中活性化TGF−β1が9.3ng/ml(健常者の平均値 1.1ng/ml)と高値であったので、新規サプリメントTgFを投与して、TGF−β1の抑制をした。その後、プロマックを成人にはポラプレジンクとして1回75mgを1日2回、あるいは体重当たり1.6mg/kgのいずれかの投与量を朝食後及び就寝前に経口服用させた。プロマックは61日間投与した。結果的に、プロマックによるFLA修復は認められず、臨床的効果も認められなかった。
(2)他方、上記患者に対して、亜鉛の指/Znfを74日間投与した。
亜鉛の指/Znfによるフィラグリン修復能は751.3%(7.5倍)であり、DNA修復が観察された。
臨床的効果:
上記のとおり、亜鉛剤(プロマック)投与(対照実験)では効果がなかった。このときのフィラグリンは0.9ng/mlであり、フィラグリンの異常が確認されていたため、亜鉛の指/Znfの投与を行った。亜鉛の指/ZnfによるFLAの上昇は7.5倍に達した。このことからTh1疾患は、Th2疾患であるアトピーの原因遺伝子であるフィラグリンに起因する一連の病態を有すること(すなわちTh3マーチであること)が明らかにされた。
本症(尋常性乾癬)は角化亢進を呈する疾患で鱗屑を特徴とする。
図20に示したとおり、亜鉛の指/Znfの投与前の左側図(−Znf)の状態では、一日で可視化出来るほど鱗屑が落ちていた。亜鉛の指/Znfの投与後の右側図(+Znf)の状態では、鱗屑も床に貯まって確認できなくなり、皮膚病変も改善された。
<実施例15−4>
本実施例では、若齢にてアトピーに罹患し、皮膚伸展率でエーラスダンロス症候群(EDS)の確認できた患者又は被験動物(Th3EDS−FLG)に対して、亜鉛の指/Znfを投与し、その臨床的効果を確認した。
患者の選別:
Th3マーチの患者でエーラスダンロス症候群(EDS)有する哺乳類(ヒトとイヌの患者(アトピー症候群から始まりエーラスダンロス症候群を発した患者等)(Th3EDS−FLG)を選別した。
Th3EDS−FLGであることの確定は、アトピー症候群罹患後、皮膚の過伸展(皮膚弛緩症を除外)の有無によって実施した。
EDS皮膚伸展率の測定方法:
EDS皮膚伸展率(% of Skin−extension)は、下記式に基づいて算出した。なお、イヌにおいては皮膚伸展率14.5%以上、ネコにおいては19.5%以上、ヒトにおいては1.0%以上(指関節の一関節以上、あるいは各EDS症候群の診断基準を準用した)で、過伸展があると仮診断した。また、新型EDSは、静脈瘤、斜下、眼疾、関節変形、部分的無歯症、骨発育異常によって選別した。尚、選別に当たってはTh2マーチの疾患の基礎疾患を有する患者とした
EDS皮膚伸展率(% of Skin−extension)=
〔肩甲骨部皮膚伸展長(cm)/身長又は体長(cm)〕×100
亜鉛の指/Znfの投与によるEDS皮膚伸展率の短縮効果の確認:
ヒトもイヌ等もアトピー症候群の罹患歴(動物で2年以上、ヒトにあっては10年以上の患者等を対象とした)を有しながら、皮膚過伸展を含むEDSの各症候群の診断基準に該当した患者等を選別した。
若齢にてアトピーに罹患し皮膚伸展率でEDSの確認できた患者等(Th3EDS−FLG)に対して、亜鉛の指/Znfを投与し、その後の皮膚伸展率%を比較した。
<実施例15−4−1>
下記プロフィールのTh3EDS−FLGと判断されたイヌ(5症例)に対して、亜鉛の指/Znfの投与による臨床的効果を確認した。
イヌ患者概要(プロフィール):
アトピーに罹患し皮膚伸展率でEDSの確認できたイヌTh3EDS−FLGの5症例に対して、亜鉛の指/Znfを投与し(Pre−Znf)、皮膚の伸展の抑制効果を評価した。なお、血漿中IL−4やTh2生体反応の高値な症例では、皮膚伸展率の抑制はみられなかった。
臨床的効果:
亜鉛の指/ZnfによるイヌTh3マーチTh3EDS−FLGに対する皮膚伸展率の短縮効果を確認した。
皮膚の伸展率が高かった症例5例に対して、亜鉛の指/Znfの投与後40日間での効果を確認したところ、
図21に示したとおり(Pre−Znfは投与時、Post−Znfは投与後40日目)、すべての症例で統計的な有意差がみられた(P<0.05)。なお、特に2症例が、亜鉛の指/Znf投与後40日目で、イヌのEDS皮膚伸展率の閾値である14.5%を下回り、正常な皮膚に復した。
<実施例15−4−2>
下記プロフィールのイヌTh3マーチTh3EDS−FLGと判断されたイヌに対して、亜鉛の指/Znfの投与による皮膚伸展率の正常化時の臨床的効果を確認した。
イヌ患者概要(プロフィール):
イヌ(アメリカン・コッカスパニエル)、メス、4才2ヶ月令
幼犬の時から前肢の尺側変位、股関節の亜脱臼などがみられ、1才の時にはアトピー性皮膚炎が発症した。その後、脱ステロイドしたが、1年半前からアトピーの本格的治療を受けるも、皮膚病変が再燃を繰り返していた。皮膚病変はFLG欠損の特徴と考えられる皺のあるサメ肌を呈していた。初診時より約200病日目に皮膚の過伸展を疑い、皮膚伸展率の測定結果(16.5%)からEDSと仮診断された(Th3マーチ症例が確定された)。
臨床的効果:
亜鉛の指/Znfの投与による皮膚伸展率の正常化時の臨床的効果を確認した。
亜鉛の指/Znfを69日間投与した。投与前(−Znf)と投与69日目(+Znf)の頚部腹側の所見を
図22に示した。なお、図の上方は頭側、下方は尾側である。
症例はアトピー性皮膚炎の加療過程で頚部腹側の皮膚弛緩症(タルミ)と脱毛症がみられたものである(
図22左図:−Znf)。一般にイヌのEDSはヒトと同様にFLG欠損でみられるhyperlinearity、頭部頚部と後躯の可動し易い皮膚過伸展病変を伴う。本症例もこれらのすべての特徴的皮膚症状がみられた。次第に症状が収束と再燃を繰り返したので、皮膚伸展率を測定したところ、EDSの基準である14.5%を上回った。そこで、亜鉛の指/Znf 1カプセル/head/BID POの投与を開始した。
亜鉛の指/Znfの投与により、皮膚伸展率は0.61%の改善(過伸展の短縮効果)があり、359加療日にはイヌのEDS皮膚伸展率の閾値である14.5%を下回って9%に達し、皮膚の脱毛は依然観察されたが皮膚過伸展は正常化した。
これまで、EDSは治療方法がない不治の病とされていたが、亜鉛の指/Znfの投与によって初めて治療の効果が認められた。
亜鉛の指/Znfには直接的に症状を改善する作用は低いと考えられるが、本願発明者らにより初めて臨床上でDNA修復能が確認されているため、それによる改善効果であると考えられる。
<実施例15−4−3>
Th2マーチを含むアナフィラキィシーショックで救急搬送され、生死をさまよった経験を有する、下記プロフィールの患者を対象とした。特に、皮膚から歯肉などの粘膜病変、眼科疾患(乱視、網膜剥離)、部分的無歯症をアナフィラキィシーショック後、3年以上の臨床経過を経た患者について、亜鉛の指/Znf等による早期介入治療を実施した。
患者概要(プロフィール):
男性、61歳、ヒトTh3 march−FLG
中学生の頃、校医から乱視と指摘された。高校生のころからは、耳道閉塞感(発症すると5〜6時間継続症状有り)があった。40歳の頃からは十二指腸潰瘍の既往があった。脂漏性湿疹を含むアトピー性皮膚炎に長期に罹患しており、Th2マーチ終期にあるアナフィラキシーショックで救急搬送され意識消失(2007年6月14日)の既往歴がある。このころから、ドライマウスと歯痛が認められ、疼痛のため固形物の摂取も不自由で、歯痛(歯肉炎)に約5年間にわり継続して観察された。新型骨形成不全性EDSの症候である部分性無歯症も指摘された。また、三親等にわたり皮膚湿疹の発症歴(アトピーマーチ)があった。
当該患者は、フィラグリン遺伝子欠損が確認された。なお、フィラグリン遺伝子の欠損によってアトピーマーチと、さらにTh検査などからTh3マーチの患者と確定した。
臨床的効果:
亜鉛の指/Znfを計63日間投与した。
まず、亜鉛の指/Znfを含むステップ療法を30日間適応した。
図23に、上記治療前後におけるデンタルのパノラマ像を示した。投薬10日目頃から固形物の摂取も可能となり、歯痛(歯肉炎)が漸次軽減し、その後消失した。臨床症状改善後のデンタルパノラマエックス線撮影所見、歯肉炎の改善に伴いフローティング・ティース(45日目:垂直骨吸収)も良化した(
図23右下図のPost−treatmentのカット図)。