特許第6207183号(P6207183)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許62071833−ヒドロキシアルカン酸の生産方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207183
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】3−ヒドロキシアルカン酸の生産方法および装置
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/42 20060101AFI20170925BHJP
   C12M 1/00 20060101ALN20170925BHJP
【FI】
   C12P7/42
   !C12M1/00 C
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-50886(P2013-50886)
(22)【出願日】2013年3月13日
(65)【公開番号】特開2014-176317(P2014-176317A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2015年11月26日
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-10995
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100120352
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100128901
【弁理士】
【氏名又は名称】東 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】松下 功
(72)【発明者】
【氏名】坪田 潤
【審査官】 安居 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−179517(JP,A)
【文献】 Appl. Microbiol. Biotechnol., 2012, 96(4), pp.913-920
【文献】 第64回日本生物工学大会講演要旨集、2012年、80頁、2Ia01
【文献】 日本農芸化学会2012年度大会講演要旨集(オンライン)、2012年、2C01p12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
C12M 1/00− 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロモナス属に属する好塩菌を用いた3−ヒドロキシアルカン酸の生産方法であって、
前記好塩菌を育成可能な保水層を備えた多数の保水体を、処理空間中に配置するとともに、前記保水体に前記好塩菌が付着した状態で、前記保水体に上方から前記好塩菌が生育可能な有機物を含有する液体培地処理水を伝わらせて流下させ、
前記処理空間内に酸素含有ガスを導入するとともに、前記処理空間から気体を排出する液体供給工程を行い、
前記保水体の表面部位で、液体中に含まれる有機物から前記保水体に付着する前記好塩菌によりポリ3−ヒドロキシアルカン酸を生産させるポリマー生産工程を行うとともに、
前記保水体の肉厚内部において、前記好塩菌が体内に蓄積したポリ3−ヒドロキシアルカン酸を、前記好塩菌が低分子化して水に可溶化させ、前記好塩菌の体外に排出させる可溶化排出工程を、前記ポリマー生産工程と並行して行い、
前記好塩菌が体外に排出した3−ヒドロキシアルカン酸を回収する回収工程を行う3−ヒドロキシアルカン酸の生産方法。
【請求項2】
前記好塩菌が、ハロモナス・エスピー(Halomonassp.)KM−1株(FERM BP−10995)である、請求項1に記載の3−ヒドロキシアルカン酸の生産方法。
【請求項3】
前記好塩菌が生育可能な有機物を含有する液体は、pH8.8〜11である請求項1または2に記載の3−ヒドロキシアルカン酸の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性プラスチックであるポリヒドロキシアルカノエート(polyhydroxyalkanoates)(PHAs)等の生産する技術に関し、具体的には、3−ヒドロキシブタン(3HB)に代表される3−ヒドロキシアルカン酸(3HA)の生産方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生分解性プラスチックは、微生物などの作用により例えば土壌中に埋めた状態で分解されるため、環境破壊を防止する観点から注目されている。生分解性プラスチックは、通常の難分解性プラスチックよりも価格が高く、性能の点で劣っていたが、これらの欠点についても解消されて実用化の段階に入っており、使用量の増大に合わせて生分解性プラスチックの量産技術が求められている。
【0003】
生分解性プラスチックの一種であるPHAsは、ラルストニア属水素細菌、ラン藻、メタン資化細菌等広範囲の細菌により、ある種の栄養源(窒素やリンなど)が欠乏した条件で生産される。
【0004】
一方、好塩菌は、グルコースなどを主な炭素源とし、ペプトンや酵母エキスを少量含むpH7.5〜8.56の培地で菌体内に著量のPHAsを蓄積することが報告されている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0005】
また、このようなPHAs生産菌として、ハロモナス・エスピー(Halomonassp.)KM−1株(FERM BP−10995)が有効に用いられることが知られている。(特許文献1参照)
【0006】
他方、気液接触を有効に促進し、排水等を微生物処理する技術としてDHS法(Downflow Hanging Sponge 法)が有用であることが知られている。(特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−083204号公報
【特許文献1】特開2012−179517号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Quillaguaman J.; Munoz M.; Mattiasson B.; Hatti−Kaul R. Appl Microbiol Biotechnol 2007 ; 74 ( 5 ) : 981−986
【非特許文献2】Quillaguaman J.; Hashim S.; Bento F.; Mattiasson B.; Hatti−Kaul R. J Appl Microbiol 2005 ; 99 ( 1 ) : 151−157
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように有用なPHAsは、通常、PHAs生産菌が、体内にポリマーとして蓄積することが知られている。そのため、得られたPHAsは、前記PHAs生産菌を回収したのち、その菌体の細胞壁を破壊するなどして、菌体の体外に溶出させ、そのPHAsを回収するという手順を踏まなければ、利用することができないと考えられていた。
【0010】
すなわち、PHAs生産菌が高効率にPHAsを生産したとしても、生産されたPHAsを効率よく回収しなければ、真に効率よく有価物を生産したことにはならず、上記回収工程の煩雑さが、生分解性樹脂の生産効率を向上させることが困難にする要因となっていた。
【0011】
そこで、本発明の目的は、上記実情に鑑み、PHAsを効率よく生産、回収する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
〔構成1〕
上記目的を達成するための3−ヒドロキシアルカン酸の生産方法の特徴構成は、
ハロモナス属に属する好塩菌を用いた3−ヒドロキシアルカン酸の生産方法であって、
前記好塩菌を育成可能な保水層を備えた多数の保水体を、処理空間中に配置するとともに、前記保水体に前記好塩菌が付着した状態で、前記保水体に上方から前記好塩菌が生育可能な有機物を含有する液体を伝わらせて流下させ、
前記処理空間内に酸素含有ガスを導入するとともに、前記処理空間から気体を排出する液体供給工程を行い、
前記保水体の表面部位で、液体中に含まれる有機物から前記保水体に付着する前記好塩菌によりポリ3−ヒドロキシアルカン酸を生産させるポリマー生産工程を行うとともに、
前記保水体の肉厚内部において、前記好塩菌が体内に蓄積したポリ3−ヒドロキシアルカン酸を、前記好塩菌が低分子化して水に可溶化させ、前記好塩菌の体外に排出させる可溶化排出工程を、前記ポリマー生産工程と並行して行い、
前記好塩菌が体外に排出した3−ヒドロキシアルカン酸を回収する回収工程を行う点にある。
【0013】
〔作用効果1〕
前記好塩菌は、PHAsを生産すると、体内に蓄積するが、培養条件によっては、一旦蓄積したPHAsを低分子化して水に可溶化させ、前記好塩菌の体外に排出する。
【0014】
詳述すれば、前記好塩菌は、好気性条件下では、前記ポリマー生産工程を優先的に行うとともに、微好気条件下では、前記可溶化排出工程を優先的に行うことが明らかになった。前記好塩菌が、両工程を交互に行う条件を設定することによって、前記好塩菌に3HAを生産させ、体外に排出させることができるために、前記好塩菌が体外に排出した3HAを回収する回収工程を、前記好塩菌の細胞壁を破壊することなく、連続的に行えることが明らかになった。
【0015】
このようにして、3HAを回収すると、3HAを後で高分子化しなければPHAsを得ることができないという不利があるものの、好塩菌を繰り返し用いることができるようになるので、好塩菌の育成、馴養にかかる工程が必要なくなり、従来、PHAsを直接菌体から抽出していたのに比べて、より短期間で、より効率よくPHAsを生産することができる。
【0016】
このように、好塩菌の育成環境を、好気性条件、微好気性条件に交互に切り替えるには、前記好塩菌を育成可能な保水層を備えた多数の保水体を、処理空間中に配置するとともに、前記保水体に前記好塩菌が付着した状態で、前記保水体に上方から前記好塩菌が生育可能な有機物を含有する液体を伝わらせて流下させ、前記処理空間内に酸素含有ガスを導入するとともに、前記処理空間から気体を排出する液体供給工程を行えるいわゆるDHS法による水処理槽により実現することができる。
【0017】
すなわち、DHS法によると、保水体表面に好塩菌が育成している状態で処理空間内に酸素含有ガスを流通すると、前記処理空間内は、好塩菌が良好に育成する好気性条件に維持される。逆に、前記酸素含有ガスの供給を停止すると、前記処理空間内では、酸素が消費され、低酸素状態になるから、微好気性条件となる。また、保水体上に育成する好塩菌が、大きな膜厚にまで堆積してしまうと、保水体上で堆積した好塩菌の内部に位置する部分では、酸素が行き届かない微好気性条件となる。
【0018】
したがって、DHS法によると、好塩菌の育成環境を、好気性条件、微好気性条件に交互に切り替えることができ、3HAを効率よく生産することができるとともに、PHAsの生産を効率よく行える。
これに対して、上述したようにDHS法の保水体上に大量の菌体が増殖すると、その保水体における内部領域には酸素が行き届きにくい微好気性部分が生じる。この状態の保水体では、表面が好気性条件で、好塩菌がポリマー生産工程を行い、内部では微好気性条件下で、好塩菌が可溶化排出工程を行う条件となり、両者が適度にバランスした状態で、好塩菌の育成サイクルが実現される。すると、一つの処理空間内で、ポリマー生産工程と、可溶化排出工程とを連続的に並行して行えることになり、好塩菌を取り出し、細胞壁を破壊してPHAsを回収し、再び好塩菌を増殖させるという時間と手間のかかる工程を省略しながら、効率よく3HAを生産することができるとともに、PHAsの合成をすることができるようになる。
【0019】
〔構成2〕
なお、前記好塩菌が、ハロモナス・エスピー(Halomonassp.)KM−1株(FERM BP−10995)を用いることができる。
【0020】
すなわち特許文献1に記載の上記好塩菌を用いると、ポリマー生産工程を効率よく行えるから、全体として、3HAを効率よく生産することができるようになる。
【0021】
〔構成3〕
また、前記液体は、pH8.8〜11であることが好ましい。
【0022】
〔作用効果3〕
このような条件下であると、上記好塩菌がより効率よくポリマー生産工程を行えるから、全体として、3HAを効率よく生産することができるようになる。
【発明の効果】
【0036】
したがって、PHAsを生産するための原料となる、3HAを効率よく生産して回収することにより、より安価かつ効果的に生分解性樹脂としてのPHAsを提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の3−ヒドロキシアルカン酸の生産装置の概略図
図2】保水体の概略図
図3参考例による3HB生産性を示す図
図4】実施例による3HB生産性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に、本発明の3HAの生産装置を説明する。なお、以下に好適な実施例を記すが、これら実施例はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0039】
〔3HAの生産装置:DHSリアクター〕
図1に示すように、本発明の3HAの生産装置は、DHSリアクターから構成されている。このDHSリアクターは、架台1上に中空のタンク2を設けてなり、前記中空のタンク2内に処理空間21を形成するとともに、散水部3を設け、該散水部3の下方で、多数の保水体4を前記処理空間21内に上下姿勢に索設する保持部5を設けて構成する。また、前記保持部5に前記保水体4を索設した状態で、前記散水部3より前記保水体4に好塩菌培養用の液体培地を含有する液体を供給する液体供給部6を備え、前記好塩菌により生産された3HAを取出す回収部7を備え、前記処理空間21内にエア供給する給気管8および排気管9を備える。
【0040】
前記タンク2の上部には給水管61を設け、前記好塩菌が生育可能な有機物を含有する液体を貯留するリザーバータンクTから供給ポンプP1により、前記給水管61を通じて前記好塩菌が生育可能な有機物を含有する液体を前記散水部3に移送し、前記保水体4に供給可能に液体供給部6を構成する。また、タンク2の底部には、有孔底板51を設けるとともに、前記有孔底板51の下部には、前記有孔底板51を通過して滴下する液体を集める集水部71を形成し、前記集水部71には排水管72を設けて回収部7を構成する。これにより前記給水管61から供給される液体は、前記保水体4を伝って流下しつつ好塩菌により消費され、好塩菌が3HAを生産、排出して前記液体に含まれた状態で、前記集水部71で集水された後、排水管72を通して排水ポンプP2により、タンク2外に排出される。
なお、タンク2内面やその他のタンク2内の部材には、腐食防止のため、表面にステンレス加工を施すことが望ましい。
【0041】
前記散水部3は、給水管61から供給される液体を受ける皿状部材31を備え、前記皿状部材31は、底面に多数の散水孔32を開設してある。前記皿状部材31はタンク2内の上部に水平姿勢に設けられ、前記散水孔32から均一に前記保水体4に液体を滴下供給可能に構成してある。なお、前記散水部3としては、上記のような皿状部材31のほか、多数の孔を有する管体を旋回させる構造や、多数の孔を開設したシャワ−状のものなど、種々の構造を採用することができる。
【0042】
前記保水体4は、図2(a),(b)に示すように、保形性の高い合成樹脂製の筒状芯材41の内外表面に微生物を付着育成可能な繊維材料または多孔質材料からなる被覆担体層42を形成してあり、前記保水体4は、前記処理空間21内に充填配置された状態で内側に通気路43を形成するとともに、前記通気路43は、前記被覆担体層42に微生物が付着育成された状態で通気自在に開放される。前記筒状芯材41および前記被覆担体層42は、ポリエチレンテレフタラートなどの芳香族ポリエステル系、ポリプロピレン、ポリスチレンなどのポリオレフィン系、炭素繊維から選ばれる少なくとも一種を主材とする材料からなり、前記被覆担体層42は、繊維の太さ10〜2000μm、目付0.005〜0.2g/cm2の織布または不織布、編み地、タオル地もしくは孔径0.01〜2mmの多孔質シートから構成してある。具体的には、前記筒状芯材41は、内寸10〜600mm、の多孔状の樹脂管を20〜100mm長さに切断した形状としてあり、前記被覆担体層42は、前記筒状芯材41にタオル地を被覆して構成してある。また、前記保水体4の多数は、合成樹脂繊維からなる吊下糸4aにより連結して、流下する前記好塩菌が生育可能な有機物を含有する液体が順次保水体に含浸しつつ好塩菌に消費される構成としてある。前記保水体4は、前記好塩菌が育成される状態で、図2(c)に示すように、被覆担体層42(荒いハッチング部分)に増殖した菌体が、保水体表面側の好気部42a(着色部分)で主にPHBを蓄積し、保水体内部側の微好気部42b(影付部分)で蓄積されたPHBが3HBに低分子化され、可溶化するように、増殖の過程で役割分担を果たす。また、保水体全体が微好気性条件下におかれると、前記保水体表面側の好気部42aにおいても、前記ポリマー生産工程と、可溶化排出工程とを連続的に交互に行うことができる。
【0043】
また、図1に示すように、前記タンク2には、前記タンク2内に空気を供給する給気管8を連通させて設けるとともに、前記タンク2内の空気を排気する常開の排気管9を連通させてある。前記給気管8にはエアーポンプP3を用いて通気、通気停止を交互に切り替え可能に構成してあり、前記処理空間21内を、好気、微好気切替自在に構成してある。
【0044】
〔好塩菌〕
本発明で用いる好塩菌は、アミノ酸などの複合有機物を含まず無機塩と単一もしくは複数の単一有機炭素源に初期pH8.8〜11の培地を含有する液体で増殖並びに乾燥菌体重量に対して85重量%以上のPHAsを生産することができる、ハロモナス属に属する微生物が好適に用いられる。
【0045】
当該ハロモナス属に属する好塩菌は、前記液体中で乾燥菌体重量に対して、好ましくは85重量%以上より好ましくは、90%以上のPHAsを生産することができる。
【0046】
当該ハロモナス属に属する好塩菌は、0.2M以上1.0M程度までの塩濃度を適とする好塩性を示す細菌である。当該ハロモナス属に属する好塩菌としては、ペプトンや酵母エキス等の複数の有機炭素・窒素源を培養に必要としないものであり、pHが8.8以上、好ましくは8.8〜11で生育可能なものであって、前記好塩菌が生育可能な有機物を含有する液体中で乾燥菌体重量に対して85重量%以上のPHAsを生産することができるものであれば特に限定されないが、好ましくはハロモナス・エスピー(Halomonassp.) KM−1株である。当該ハロモナス・エスピー KM−1株は、アミノ酸などの複合有機物を含まず無機塩と単一もしくは複数の単一有機炭素源からなり、pHが8.8以上、好ましくは8.8〜11の培地を含有する液体で培養でき、当該培地を含有する液体中で乾燥菌体重量に対して85重量%以上より好ましくは、90%以上のPHAsを生産することを特徴とする。
【0047】
当該ハロモナス・エスピー KM−1株は、平成19年7月10日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERM P−21316として寄託されている。また、この菌株は、現在国際寄託に移管されており、その受託番号はFERM BP−10995である。
【0048】
ハロモナス・エスピー KM−1株以外の当該好塩菌の具体例としては、例えば16SリボゾームRNA配列による分析から、ハロモナス・ニトリトフィルス、ハロモナス・アリメンタリアなどが挙げられる。上述した細菌と同様の性質を有するハロモナス属に属する好塩菌であれば、ハロモナス・ニトリトフィルスや、ハロモナス・エスピー KM−1等に限らず、本発明の好塩菌によるPHAs生産方法を適用できる。
【0049】
〔培地〕
本発明における、好塩菌の培養は、アミノ酸などの複合有機物を含まず無機塩と単一もしくは複数の単一有機炭素源に追加した初期pH8.8〜11の培地を前記好塩菌が生育可能な有機物として含有する液体で行う。
【0050】
当該無機塩としては、リン酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、およびナトリウム、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛、銅、コバルト等の金属塩が挙げられる。ナトリウムを含む培地成分としては、NaCl、NaNO3、NaHCO3等が挙げられる。当該無機塩は複数であってもよく、菌体における窒素源やリン源となるものが含まれることが好ましい。
【0051】
窒素源としては硝酸塩があげられ、リン源としてはリン酸塩があげられる。硝酸塩の代わりに亜硝酸塩や、培養条件を調節してアンモニウム塩などを用いることもできる。リン酸塩の代わりにリン酸一水素塩やリン酸二水素塩を用いることもできる。より好ましい窒素源の例としてはNaNO3があげられ、より好ましいリン酸源の例としては、K2HPO4があげられる。
【0052】
硝酸塩の培地への添加量は、菌体の生育に影響を及ぼすことなく、本発明における乾燥菌体および培地あたりのPHAs生育量の目的が達成される範囲において、設定することができる。具体的には培地100mLあたり、375mg以上とすることができ、より好ましくは500mg以上、更に好ましくは1000mg以上である。
【0053】
リン酸塩の添加量も、菌体の生育に影響を及ぼすことなく、乾燥菌体あたり、および培地あたりのPHAs生育量の目的が達成される範囲において設定することができる。具体的には培地100mLあたり、50〜400mgとすることができ、より好ましくは100〜200mgである。
【0054】
その他の無機塩の濃度は、総量で0.2〜2.5M、好ましくは0.2〜1.0M、より好ましくは0.2〜0.5 M程度である。当該培地のpHは、5以上、菌種により好ましくは8.8以上、特に8.8〜11であればよい。
【0055】
有機炭素源としては、六炭糖(グルコース、フラクトース)、五炭糖(キシロース、アラビノース)、二糖(スクロース)、糖アルコール(マンニトール、ソルビトール)、酢酸、酢酸ナトリウム、エタノール、グリセロール、可溶性デンプン、n−プロパノール、プロピオン酸等が挙げられ、好ましくは、酢酸ナトリウム、エタノール、n−プロパノール、プロピオン酸、グルコース、キシロース、グリセロール、スクロースである。より好ましくは、グリセロール、グルコースである。
【0056】
本発明の方法は、アルカリ条件かつ塩濃度の高い条件の培地で、好塩菌を培養するため、他のバクテリアのコンタミネーションの恐れがほとんどなく、また有機炭素源として安価な木材糖化液や、その残渣、廃グリセロール等を用いて培養が行えるため、低コストでの培養が可能となる。
【0057】
グリセロールを炭素源として用いる際において、培養の時間が約50時間以上と長いときには、培地中のグリセロール濃度が8〜15%と濃くなるほうが望ましく、逆に培養時間が短いときのグリセロール濃度は2〜5%と薄いほうが望ましい。
【0058】
以下で使用する培地としては、表1に示す、SOT改4(Spirulina platensis Medium改)を用いた。
この培地は、Spirulina platensis Medium(国立環境研究所のHP)より、pH調整のために、NaHCO3、Na2CO3の量を調整し、窒素源NaNO3、リン源K2HPO4をそれぞれ従来の4倍に増加させて調整した。下記の培地調整後のpHは、9.4±0.1となり、オートクレーブなどの滅菌操作なしに用いた。培養の際には、これらに炭素源(グルコース)を適宜追加して用いることができる。
【0059】
【表1】
【0060】
〔3HAの生産方法〕
前記好塩菌は、前記保水体に付着した状態で、3HAの生産装置内で培養され、前記好塩菌を育成可能な保水層を備えた多数の保水体を、処理空間中に配置するとともに、前記保水体に前記好塩菌が付着した状態で、前記保水体に上方から前記好塩菌が生育可能な有機物を含有する液体を伝わらせて流下させ、
前記処理空間内に酸素含有ガスを導入するとともに、前記処理空間から気体を排出する液体供給工程を行い、
液体中に含まれる有機物から前記保水体に付着する前記好塩菌によりPHAsを生産させるポリマー生産工程を行うとともに、
前記好塩菌が体内に蓄積したPHAsを、前記好塩菌が低分子化して水に可溶化させ、前記好塩菌の体外に排出させる可溶化排出工程を行い、
前記好塩菌が体外に排出した3HAを回収する回収工程を行う。
【0061】
前記保水体に好塩菌を付着させた状態で、前記保水体に、前記好塩菌が生育可能な有機物を含有する液体を供給すると(液体供給工程)、n−プロパノール、プロピオン酸またはその塩を有機炭素源として、前記好塩菌は、主に3−ヒドロキブタン酸(3HB)と3−ヒドロキシ吉草酸(3HV)からなるPHAsコポリマーを生産できる(ポリマー生産工程)。なお、PHAsコポリマーに含まれる3HVの含有量は、0.5〜13重量%であることが知られている。そして、PHAsコポリマーを生産した好塩菌を微好気性条件下で培養すると、蓄積したPHAsを低分子化して水に可溶化させ、前記好塩菌の体外に排出する(可溶化排出工程)。
【0062】
このようにして生産された3HAを回収すると(回収工程)、前記排水管72より回収された液体には、3HAは、3HB、3HV等が含まれる場合があるが、ここではほぼ全量3HBとして回収することができた。
【0064】
〔参考例〕
DHSリアクターには、外部からエアーポンプP3で空気を導入して、まず好気条件下にする好気運転を行う。好気条件下で、連続して前記好塩菌が生育可能な有機物を含有する液体を上部から供給すると、被覆担体層上では菌体が分裂して増殖し、担体上に菌が固定化される。特に、外側の表面は好気条件が維持され、菌の増殖が著しく高密度化して、菌体内にPHAsが蓄積される。
【0065】
次に、微好気運転を行う。即ち、エアーポンプP3で空気導入を止めて、外部空気との接触を制御する、もしくは、窒素をリアクター内に充満させる。その結果、担体上に固定化された菌全てが、無酸素に近い微好気培養条件になる。3HBの溶出には、3HBが水溶性であることから前記好塩菌が生育可能な有機物を含有する液体を含まない水、もしくは、同じ前記液体を流して溶出させると、連続して3HBを下方から採取可能である。
この方法の場合、3HBを濃縮して採取することが可能で、一定時間採取した後、前記好塩菌が生育可能な有機物を含有する液体を流して再び好気培養を行い菌体内でのPHAsの蓄積を促す交互運転が可能となる。
【0066】
具体的には、図1に示すDHSリアクターとして、空間体積2.8L円筒状で、多数の担体を数珠つなぎにしたものを1条索設して用い、2Lのリザーバータンク(恒温槽から循環で保温36℃)から、供給ポンプP1を用いて送液可能に接続し、排出用ポンプ、エアーポンプP3で構成された装置を用いた。ハロモナス培養用の上記培地(SOT培地pH9.3)に炭素源として20%グルコースを添加した前記好塩菌が生育可能な有機物を含有する液体をリザーバータンクに投入して、ハロモナス菌を接種して、送液用ポンプと排出用ポンプを利用して、リザーバータンクに戻して前記好塩菌が生育可能な有機物を含有する液体が循環するようにした。そして、好気条件(エアーポンプP3で空気導入)で2週間連続運転し菌を担体に固定化した。
前記担体に固定化された菌体に対して、好気運転(好気培養条件)と微好気運転(微好気培養条件)にて培養試験を実施した。前記好塩菌が生育可能な有機物を含有する液体は0.5%グルコースを添加したものを用いた。
DHSリアクターに前記好塩菌が生育可能な有機物を含有する液体を供給し、て、下方から排出用ポンプで回収し、回収された液体を、各20ml(20分)ずつ分画した。微好気運転時は、窒素をリアクターに導入して空気をパージして作成した。3HB濃度は、市販キットを用いて測定した。
図3では、第一画分から第六画分までをDHSリアクターの処理空間内が好気条件となる好気運転を行い、第七画分以降微好気運転とした結果、各画分に含まれる3HBの量の推移を調べたものである。図より、好気条件となる好気運転が継続される期間には、3HB生産量は少ない値で推移したが、好気条件から微好気条件に移行すると濃度の高い3HBが溶出されることが確認された。すなわち、前記液体供給工程と並行して行う前記ポリマー生産工程と、前記液体供給工程を停止して行う前記可溶化排出工程とを交互に行うことにより、より高濃度の3HBを生産できることがわかる。
【0067】
〔実施例〕
参考例同様のDHSリアクターを用い、連続して好気培養で培養を行うと担体の外側の表面は好気条件が維持され、菌の増殖が著しく高密度化して、菌体内にPHAsが蓄積されることが分かった。しかし、この状況で連続培養すると、表面は好気条件であるが、菌が高密度化するに従い、菌層の内部、即ちタオル地に近い層の菌体は、微好気状態になるため、PHAsが菌体内で分解された状態になり、連続的に3HBを採取することが可能であることがわかった。3HB生産量は図4に示すように安定しており、すなわち、前記処理空間内の保水体表面部位でポリマー生産工程を行うとともに、前記保水体の肉厚内部において可溶化排出工程を並行して行うことによっても、好塩菌の培養条件が安定すれば、生産される3HB量がより高くなる条件を設定することにより、実用的な3HB生産が可能であることが示されている。この方法では、濃縮して3HBを採取することはできないが、好気・微好気運転を交互に行なう必要がなく、連続して同一条件で運転が可能である。
【0068】
なお、Halomonas菌では、窒素飢餓にするとPHAsの蓄積が上昇することから、更に、好気条件下において窒素飢餓、硫黄飢餓状態で運転することにより、より効率よく、PHAsの蓄積を促進させることも可能であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
PHAsを生産するための原料となる、3HBを効率よく生産して回収して、より安価かつ効果的にPHAsを提供することができ、生分解性樹脂の生産に用いることができるようになった。
【符号の説明】
【0070】
1 :架台
2 :タンク
21 :処理空間
3 :散水部
31 :皿状部材
32 :散水孔
4 :保水体
4a :吊下糸
41 :筒状芯材
42 :被覆担体層
42a :好気部
42b :嫌気部
43 :通気路
5 :保持部
51 :有孔底板
6 :培地供給部
61 :給水管
7 :回収部
71 :集水部
72 :排水管
8 :給気管
9 :排気管
P1 :供給ポンプ
P1 :給水ポンプ
P3 :エアーポンプ
T :タンク
図1
図2
図3
図4