(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207198
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】診断試薬用ラテックス粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20170925BHJP
C08K 3/30 20060101ALI20170925BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/30
C08F2/44 A
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-69660(P2013-69660)
(22)【出願日】2013年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-227557(P2013-227557A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2016年3月23日
(31)【優先権主張番号】特願2012-73347(P2012-73347)
(32)【優先日】2012年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥山 香織
(72)【発明者】
【氏名】大石 和之
【審査官】
久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭60−192262(JP,A)
【文献】
特開昭60−192706(JP,A)
【文献】
特開昭58−198508(JP,A)
【文献】
特開昭59−179609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−3/40
C08F 2/44
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期律表第2族の金属を含有する芳香族ビニル重合体からなる診断試薬用ラテックス粒子であって、前記第2族の金属のラテックス粒子中の含有量が、0.005〜0.05重量%である診断試薬用ラテックス粒子。
【請求項2】
周期律表第2族の金属が、マグネシウムである請求項1に記載の診断試薬用ラテックス粒子。
【請求項3】
診断試薬用ラテックス粒子の平均粒径値が、0.5〜1.0μmである請求項1または2に記載の診断試薬用ラテックス粒子。
【請求項4】
周期律表第2族の金属の硫酸塩、アルカリ金属のリン酸塩及びアルカリ金属の水酸化物の存在下で芳香族ビニル単量体のソープフリー重合を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の診断試薬用ラテックス粒子の製造方法。
【請求項5】
周期律表第2族の金属の硫酸塩、アルカリ金属のリン酸塩及びアルカリ金属の水酸化物を分散媒に溶解させる工程1、分散媒に芳香族ビニル単量体を添加する工程2、重合開始剤の存在下でソープフリー重合を行う工程3、
を含む請求項1〜3のいずれかに記載の診断試薬用ラテックス粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断試薬用ラテックス粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレンラテックス粒子等の芳香族ビニル重合体粒子は、診断試薬用担体として好適に用いられている。診断試薬用担体としてのラテックス粒子は乳化重合により製造される、平均粒径値が0.1〜0.5μmの粒子が一般的に用いられている。より大きな粒径のラテックス粒子を調製する場合、重合時の条件を変更して大粒径化を行う必要がある。例えば、乳化重合時に(1)乳化剤の量を少なくする、(2)重合開始剤の量を少なくする、(3)無機電解質を添加する、などの技術が提案されている。
【0003】
(1)及び(2)の方法は、重合時の安定性が低下して凝集物が発生し、良好な分散性を有するラテックス粒子が得られにくい。また、得られたラテックス粒子の粒度分布が広がる欠点がある。(3)の方法として、例えば特許文献1には無機電解質の存在下での乳化重合により、0.2μm以上の大粒径ラテックス粒子を得る方法が開示されている。また、特許文献2には二価金属硫酸塩の存在下での乳化重合により、1.0〜10μmの単分散ビニル重合体粒子の製造方法が開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1に開示される最大の粒径値は0.3μm程度である。また、特許文献2に開示される1.0μmを超える粒子は沈降速度が大きいため、診断試薬として用いた場合の凝集度合いの測定が困難となり診断試薬用担体として用いることはできない。さらに、特許文献1及び特許文献2の方法は乳化剤を使用する製造方法であるため、重合後に得られたラテックス粒子の表面及びラテックス溶液中に残存する乳化剤が、ラテックス粒子を診断試薬用担体とする際に妨害反応を起こす。
【0005】
例えば、重合時に使用した乳化剤の一部はラテックス粒子表面に吸着または化学結合しているため、ラテックス粒子に抗原または抗体などを感作することが困難になる。また、ラテックス溶液中に遊離して存在する乳化剤は、ラテックス粒子に抗原または抗体などを感作する際にラテックス粒子同士を凝集させてしまうことがある。また、感作ラテックス粒子が得られた場合でも非特異的反応を起こしやすくなる。ラテックス粒子表面及びラテックス溶液中に含まれる乳化剤は、イオン交換法や透析法で除くことは可能だが、これらの工程によってラテックス粒子の安定性が悪くなり診断試薬として使用できなくなる場合がある。
【0006】
その他に熱可塑性樹脂粒子、耐熱性樹脂粒子、トナー材料粒子、紙用組成物用粒子等の工業材料としてのラテックス粒子の製造方法が提案されている。しかし、これらの製造方法は、特許文献1及び特許文献2のように乳化剤を使用している場合が多いこと、診断試薬として用いるには不適当な特殊な組成、官能基または構造を有する粒子の製造方法であること、粒子が分散するラテックス溶液の状態で製造物が得られないこと等から、診断試薬用担体の製造方法としては不適当である。
【0007】
診断試薬用担体としてのラテックス粒子を製造するための方法としては、乳化剤を用いないソープフリー重合法による製造方法がある。特許文献3には原子価が二価の金属の酸化物または水酸化物の存在下で行う、スチレンのソープフリー重合法が開示されている。この方法によれば、平均粒径値が0.1〜1.5μmのラテックス粒子を得ることができるとしている。しかし、特許文献3の方法は重合再現性が悪く、また、重合反応が終了した後、反応系のpHを調整してアルカリ条件下で加熱を行う必要があるなど操作が煩雑である。
【0008】
従来の診断試薬用担体としてのラテックス粒子を大粒径化、例えば0.5〜1.0μmのラテックス粒子を得るためには、以下の条件を満たした製造方法が必要である。即ち、診断試薬用担体に適した素材である芳香族ビニル単量体を重合してラテックス粒子を得る方法であること、乳化剤を用いないソープフリー重合法であること、粒度分布が良好な単分散性を有するラテックス粒子が得られること、良好な重合再現性を有し操作が簡単な方法であることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭59−22904号公報
【特許文献2】特開昭63−254104号公報
【特許文献3】特開昭58−198508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、第2族の金属を粒子中に含有する診断試薬用ラテックス粒子を提供することを目的とする。また本発明はソープフリー重合法を用いた上記診断試薬用ラテックス粒子の製造方法を提供することを目的とする。特に、平均粒径値が0.5〜1.0μmで良好な単分散性を有する上記診断試薬用ラテックス粒子、及び良好な重合再現性を有し操作が簡単な上記診断試薬用ラテックス粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、ラテックス粒子に第2族の金属を含有させることにより、上記課題を解決した。また第2族の金属塩及び特定の塩類を溶解した分散媒中で芳香族ビニル単量体のソープフリー重合を行うことより、上記課題を解決した。即ち、本発明は以下のとおりである。
【0012】
[1]第2族の金属を含有する芳香族ビニル重合体からなる診断試薬用ラテックス粒子であって、前記第2族の金属のラテックス粒子中の含有量が、0.005〜0.05重量%である診断試薬用ラテックス粒子。
[2]第2族の金属が、マグネシウムである[1]に記載の診断試薬用ラテックス粒子。
[3]診断試薬用ラテックス粒子の平均粒径値が、0.5〜1.0μmである[1]または [2]に記載の診断試薬用ラテックス粒子。
[4]第2族の金属の硫酸塩、アルカリ金属のリン酸塩及びアルカリ金属の水酸化物の存在下で芳香族ビニル単量体のソープフリー重合を行うことを特徴とする[1]〜 [3]のいずれかに記載の診断試薬用ラテックス粒子の製造方法。
[5]第2族の金属の硫酸塩、アルカリ金属のリン酸塩及びアルカリ金属の水酸化物を分散媒に溶解させる工程1、分散媒に芳香族ビニル単量体を添加する工程2、重合開始剤の存在下でソープフリー重合を行う工程3、を含む[1]〜 [3]のいずれかに記載の診断試薬用ラテックス粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の診断試薬用ラテックス粒子は、平均粒径値が0.5〜1.0μmの単分散性の診断試薬用ラテックス粒子であり、測定性能に優れたラテックス試薬を調整できる。また、本発明の診断試薬用ラテックス粒子の製造方法によれば、上記の診断試薬用ラテックス粒子を、粒度分布の単分散性を損なうことなく、かつ簡単な操作で再現性よく製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、第2族の金属を含有する芳香族ビニル重合体からなる診断試薬用ラテックス粒子である。第2族の金属とは、周期律表第2族の金属であり、具体的にはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムである。好ましい第2族の金属はマグネシウム、カルシウムであり、より好ましい第2族の金属はマグネシウムである。
【0016】
本発明でいう「ラテックス粒子が第2族の金属を含有する」とは、第2族の金属がラテックス粒子の表面または粒子内部に存在すること、かつ第2族の金属が、通常の診断試薬の製造工程及び使用工程の環境下において遊離、脱離又は剥離しない状態でラテックス粒子表面又は内部に存在することを意味する。
【0017】
本発明の診断試薬用ラテックス粒子は、上記の第2族の金属のラテックス粒子中の含有量が0.005〜0.05重量%である。第2族の金属の含有量が0.005重量%未満の場合、及び第2族の金属の含有量が0.05重量%を超える場合、平均粒径値が0.5〜1.0μmの単分散粒子となりにくく、試薬性能が低下する場合がある。好ましい第2族の金属の含有量は0.007〜0.04重量%である。
【0018】
本発明の診断試薬用ラテックス粒子の平均粒径値は、下限が0.5μm、上限が1.0μmであることが好ましい。平均粒径値が0.5μm未満の場合、及び平均粒径値が1.0μmを越える場合、試薬性能が低下する場合がある。より好ましくは平均粒径値の下限が0.55μm、上限が0.95μmである。
【0019】
本発明の診断試薬用ラテックス粒子は、粒径値の変動係数(CV値)が好ましくは5%以下である。粒径値の変動係数(CV値)は、透過型電子顕微鏡によりラテックス粒子像を撮影し、得られた撮影画像について粒子個数1000個以上を画像解析して求めることができる。
CV値(%)=(標準偏差/平均値)×100
【0020】
本発明の診断試薬用ラテックス粒子は、芳香族ビニル重合体からなる診断試薬用ラテックス粒子であることが好ましい。芳香族ビニル重合体は、芳香族ビニル単量体を重合して得られる重合体であることが好ましい。
【0021】
本発明の診断試薬用ラテックス粒子を構成する芳香族ビニル単量体としては、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、ブロムスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸塩、メチルスチレンスルホン酸塩、エチルスチレンスルホン酸塩等の非架橋性芳香族ビニル単量体、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、ジビニルエチルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルアントラセン等の架橋性芳香族ビニル単量体等が挙げられる。好ましくは非架橋性芳香族ビニル単量体である。より好ましくはスチレン、スチレンスルホン酸塩である。本発明の診断試薬用ラテックス粒子は、上記の二種以上の芳香族ビニル単量体から構成されてもよい。
【0022】
本発明の診断試薬用ラテックス粒子を構成する単量体としては、上記芳香族ビニル単量体と、芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体(以下、「共重合単量体」と記載する場合がある)の共重合体から構成されてもよい。共重合単量体としては、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、及びこれらのエステル類等のアクリル化合物またはメタクリル化合物が挙げられる。共重合単量体は二種類以上を用いてもよい。共重合単量体を用いる場合の好ましい添加量の上限は、芳香族ビニル単量体100重量部に対して20重量部である。20重量部を超える場合、診断試薬として用いた場合の反応性が低下する場合がある。より好ましくは芳香族ビニル単量体のみから構成される場合である。
【0023】
本発明は、上記の「第2族の金属を含有する診断試薬用ラテックス粒子」を製造するための方法を含む(以下、本発明方法ともいう)。本発明方法としては、一種以上の第2族の金属の硫酸塩、一種以上のアルカリ金属のリン酸塩、及び一種以上のアルカリ金属の水酸化物の存在下で芳香族ビニル単量体のソープフリー重合を行う方法である(以下、第2族の金属の硫酸塩、アルカリ金属のリン酸塩、及びアルカリ金属の水酸化物をまとめて単に「塩類」と記載する場合がある)。
【0024】
本発明方法に用いる第2族の金属の硫酸塩は、周期律表第2族元素の硫酸塩であり、具体的には、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、硫酸バリウム等が挙げられる。好ましくは硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、より好ましくは硫酸マグネシウムである。第2族の金属の硫酸塩は二種類以上を用いてもよい。
【0025】
本発明方法に用いるアルカリ金属のリン酸塩としては、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸リチウム、又はこれらの一水素塩及び二水素塩等が挙げられる。好ましくはリン酸カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムである。アルカリ金属のリン酸塩は二種類以上を用いてもよい。
【0026】
本発明方法に用いるアルカリ金属の水酸化物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等が挙げられる。好ましくは水酸化カリウム、水酸化ナトリウムである。アルカリ金属の水酸化物は二種類以上を用いてもよい。
【0027】
上記塩類の総濃度の好ましい下限は0.5mmol/L、上限は50mmol/Lである。0.5mmol/L未満の場合は平均粒径値が小さくなり、50mmol/Lを超える場合は平均粒径値が大きくなり、凝集物が発生しやすくなる。より好ましい下限は1mmol/L、より好ましい上限は20mmol/Lである。
【0028】
本発明方法は、上記塩類の存在下で、上記芳香族ビニル単量体のソープフリー重合を行う製造方法である。本明細書における「ソープフリー重合法」の用語は、本発明の分野で一般的に理解されている意味を有する。すなわち、単量体を重合させる際、単量体が乳化可能な量の界面活性剤等の乳化剤を共存させることなく、単量体に難溶性であり分散媒に易溶性の重合開始剤を用いて行う公知の重合法である。
【0029】
重合開始剤としては、過硫酸塩、過酸化物、アゾ化合物等が挙げられる。過硫酸塩としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。過酸化物としては、過酸化水素、t−ブチルヒドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート等が挙げられる。アゾ化合物としては、2、2’−アゾビス(2−メチルプロパンアミジン)ジヒドロクロライド、2、2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}ジヒドロクロライド、2、2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2、2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)ジヒドロクロライド、2、2’−アゾビス{2−メチル−N−[1、1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2、2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、4、4’−アゾビス−4−シアノ吉草酸、及びこれらの塩類等が挙げられる。特に好ましい重合開始剤は過硫酸塩である。重合開始剤の濃度の好ましい下限は0.1mmol/L、上限は1.0mmol/Lである。0.1mmol/Lより小さい場合は粒径が小さくなり、1.0mmol/Lを超える場合は重合反応が速すぎるために温度制御が困難になる。
【0030】
本発明方法のより好ましい製造方法は、塩類を分散媒に溶解させる工程1、分散媒に芳香族ビニル単量体を添加する工程2、重合開始剤の存在下でソープフリー重合を行う工程3を含む製造方法である。
【0031】
この製造方法では、まず分散媒に上記の塩類を溶解させる(工程1)。好ましい分散媒は、水または水と水溶性有機溶媒の混合溶媒である。より好ましくは水である。塩類の溶解方法としては、塩類を同時に分散媒に添加して溶解させる方法、各塩類を順次添加して溶解させる方法等が挙げられる。より好ましくはアルカリ金属の水酸化物を最後に溶解させる方法である。アルカリ金属の水酸化物を最後に溶解させることにより、第2族の金属の硫酸塩及びアルカリ金属のリン酸塩を析出させることなく溶解できる場合がある。塩類を溶解後、芳香族ビニル単量体を分散媒に添加する(工程2)。添加方法に特に制限はなく、一括添加してもよいし滴下等の方法により逐次添加してもよい。次に上記の重合開始剤を添加し重合開始剤の存在下でソープフリー重合を行う(工程3)。
【0032】
重合反応としては、重合開始剤からフリーラジカルを発生させるための公知の手段を用いることができる。好ましくは加温により重合反応を行う方法である。好ましい重合温度の下限は50℃、上限は90℃である。重合温度が50℃未満の場合、重合反応に長時間を要し粒度分布の単分散性を損なう可能性がある。また重合温度が90℃を超える場合、凝集物が発生する可能性がある。なお上記の工程1〜3を通じて乳化剤の添加は行わない。
【0033】
本発明の診断試薬用ラテックス粒子に、測定対象物質と特異的に反応する公知の抗体、抗原または核酸などの物質を感作させることにより、診断試薬を調製できる。感作方法は公知の物理吸着法または化学結合法等を用いることができる。また必要に応じて公知のブロッキング処理等を行ってもよい。
【0034】
ラテックス粒子に感作させる抗体としては、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体を用いることができる。また、抗体の種類としては、免疫グロブリンやFab、Fab’、F(ab’)2又はFv等の抗体フラグメント等も用いることができる。
【0035】
本発明のラテックス粒子により得られた診断試薬によって測定できる物質は、血液、血清、血漿、尿、髄液、又は細胞若しくは組織破砕液などの生体試料に含まれる、公知の測定対象物質等が挙げられる。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
本発明に用いる塩類の存在下で二種類の芳香族ビニル単量体を用いたソープフリー重合を行った。
温度センサー、撹拌装置、窒素導入管、滴下ロート、還流冷却管を装着した2Lセパラブルフラスコに純水(分散媒)1200gを仕込んだ。分散媒を撹拌しながら、0.1mol/Lの硫酸マグネシウム・7水和物(第2族の金属の硫酸塩:和光純薬製特級)水溶液6mL、0.1mol/Lのリン酸二水素カリウム(アルカリ金属のリン酸塩:和光純薬製特級)水溶液15mL、0.1mol/Lの水酸化カリウム(アルカリ金属の水酸化物:和光純薬製特級)水溶液10mLをこの順に分散媒に添加して溶解した(塩類の総濃度2.52mmol/L)。セパラブルフラスコに窒素ガスを通気した後に昇温を開始し、75℃に達した時点でスチレン(芳香族ビニル単量体:和光純薬製特級)150g 、スチレンスルホン酸ナトリウム(芳香族ビニル単量体:東ソー製)0.20g、及び過硫酸カリウム(重合開始剤:メルク製)0.20gを分散媒に添加し、40時間、75℃で重合反応を行った。
【0037】
ラテックス粒子の平均粒径値及び粒度分布を測定した。得られた重合物(ラテックス粒子を含むラテックス)を回収し、透過型電子顕微鏡(日本電子製JEM1010型)によりラテックス粒子像を撮影した。得られた撮影画像をImage HyperII(デジモ
製)を用いて粒子個数1000個以上を画像解析して、平均粒径値及び粒径値の変動係数(CV値)を測定した。平均粒径値は0.58μm、粒径値のCV値は4.9%であった。CV値が単分散性の指標である5%以下であり、粒度分布が単分散性のラテックス粒子が得られたことが確認できた。用いた塩類の濃度、平均粒径値、粒度分布の変動係数を表1に示す。
【0038】
次にラテックス粒子中の第2族の金属(マグネシウム)の含有量を測定した。得られた重合物(ラテックス粒子を含むラテックス)2mLを遠心処理(8000rpm×10分)し上清を除去した。沈降物に、重合時と同濃度の第2族の金属(0.1mol/Lの硫酸マグネシウム・7水和物)を含む水溶液2mLに再分散した。再び遠心処理し上清を除去した。沈降物に純水2mLを添加して再分散し遠心処理した。純水の添加、再分散及び遠心処理を合計3回繰り返した。沈降物に純水2mLを添加して再分散させた後、分散液全量を95℃で2時間乾固した。乾燥させたラテックス粒子1gを加熱して炭化し、硝酸処理してICP―AES(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)によりマグネシウム含有量(重量%)を求めた(検出限界0.005%)。得られた結果を表1に示す。
【0039】
(実施例2〜4)
実施例1で用いた塩類の濃度を変更した以外は実施例1と同様の操作により重合反応を行い実施例2〜4とした。用いた塩類の濃度、平均粒径値、粒径値のCV値及び第2族の金属の含有量を表1に示す。いずれも平均粒径値が0.58〜0.92μmで粒度分布が単分散性のラテックス粒子が得られた。
【0040】
(比較例1〜7)
実施例2で用いた塩類の全てを用いないまたは一部を用いない以外は実施例2と同様の操作により重合反応を行い比較例1〜4とした。また、実施例4で用いた塩類の一部を用いない以外は実施例4と同様の操作により重合反応を行い比較例5〜7とした。用いた塩類の種類、濃度、平均粒径値及び粒径値のCV値を表1に示す。比較例1は塩類を全く含まない系、比較例2は第2族の金属の硫酸塩及びアルカリ金属のリン酸塩のみを用いた系、比較例3は第2族の金属の硫酸塩及びアルカリ金属の水酸化物のみを用いた系、比較例4はアルカリ金属のリン酸塩及びアルカリ金属の水酸化物のみを用いた系で実施した。また、比較例5は第2族の金属の硫酸塩のみを用いた系、比較例6はアルカリ金属のリン酸塩のみを用いた系、比較例7はアルカリ金属の水酸化物のみを用いた系で実施した。いずれの比較例においても平均粒径値が0.5μm未満と小さく、粒度分布の単分散性が悪かった。また、比較例2及び比較例5では凝集物が発生して、分散したラテックス粒子が得られなかった。また比較例3では、第2族の金属の硫酸塩を用いたにも関わらず、ラテックス粒子中に第2族の金属は検出できなかった。
【0041】
(実施例5及び6)
実施例2で用いた塩類の種類を変更した以外は実施例2と同様の操作により重合反応を行い実施例5及び6とした。用いた塩類の種類、濃度、平均粒径値、粒径値のCV値及び第2族の金属の含有量を表1に示す。実施例5はアルカリ金属のリン酸塩及びアルカリ金属の水酸化物を実施例2から変更して行ったが粒度分布の単分散性が良好なラテックス粒子が得られた。また、実施例6は第2族の金属の硫酸塩を実施例2から変更して行ったが、粒度分布の単分散性が良好なラテックス粒子が得られた。
【0042】
(比較例8〜11)
実施例2で用いた第2族の金属の硫酸塩を、本発明に用いる塩類以外の塩類に変更した以外は実施例2と同様の操作により重合反応を行い比較例8〜11とした。用いた塩類の種類、濃度、平均粒径値、粒径値のCV値及び第2族の金属の含有量を表1に示す。比較例8〜10では平均粒径値が0.5μm未満と小さく、粒度分布の単分散性が悪かった。また、比較例11では凝集物が発生して粒子が分散したラテックス粒子が得られなかった。また比較例9及び比較例10では、第2族の金属の塩を用いたにも関わらず、ラテックス粒子中に2族の金属は検出できなかった。
【0043】
(比較例12〜13)
実施例2と同様の塩類を用いかつ濃度を変更した以外は、実施例2と同様の操作により重合反応を行い、比較例12及び比較例13とした。用いた塩類の種類、濃度、平均粒径値、粒径値のCV値及び第2族の金属の含有量を表1に示す。比較例12及び比較例13ではラテックス粒子中のマグネシウムの含有量が本発明の規定範囲外となり、粒度分布の単分散性が悪かった。
【0044】
(比較例14〜15)
塩類として水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム用いかつ濃度を変更した以外は、実施例2と同様の操作により重合反応を行い、比較例14及び比較例15とした。用いた塩類の種類、濃度、平均粒径値、粒径値のCV値及び第2族の金属の含有量を表1に示す。比較例14及び比較例15では、平均粒径値は0.72〜0.95μmであったが、ラテックス粒子中にマグネシウムは検出できず、粒度分布の単分散性が悪かった。
【0045】
【表1】
【0046】
以上の結果から、平均粒径値が0.5μm〜1.0μmで、粒度分布の単分散性が良好なラテックス粒子を得るためには、粒子中に本発明の規定範囲内の第2族の金属を含有すること、及び本発明に規定する三種類の塩類を用いる必要があることが確認できた。
【0047】
(評価1)
本評価では、同一条件で繰り返し重合を行った際の製造再現性を、得られたラテックス粒子の平均粒径値のバラツキを比較することで確認した。ラテックス粒子が得られなかった比較例2、5、11を除く実施例及び比較例の条件で各10回ずつ重合を行い、実施例1の方法により平均粒径値を測定した。重合反応10回における平均粒径値の平均値(n=10)及び平均粒径値のCV値を表2に示す。実施例では平均粒径値のバラツキ度合いを表すCV値が5%以下と良好であったのに対し、比較例ではCV値が大きく重合再現性が悪かった。
【0048】
【表2】
【0049】
(評価2)
本評価では、実施例1、実施例2、比較例1、比較例4、比較例12及び比較例13で得られたラテックス粒子を診断試薬用担体として用いた場合の評価を行った。
(1)HBs抗原感作ラテックス粒子の調製
HBs抗原2.0mg/mLを溶解した36mmol/Lのリン酸緩衝液(pH6.6)7.5mLに、実施例及び比較例の各ラテックス粒子(固形分10%(W/V))それぞれ1mLを添加し、30℃で60分間攪拌した。この緩衝液に、ウシ血清アルブミン(以下「BSA」)を1.0重量%含有する100mmol/Lのリン酸緩衝液(pH8.0)8.5mLを添加し、30℃で60分間攪拌した。撹拌後、4℃で20分間、18000rpmで遠心分離した。得られた沈殿物に、BSAを0.5重量%含有する100mmol/Lのリン酸緩衝液(pH8.0)20mLを添加した。得られた混合液を30℃で7日間インキュベーションし、HBs抗原感作ラテックス粒子を調製した。これを第1試薬とした。
【0050】
(2)検体希釈用液の調製
BSAを1.0重量%含有する50mmol/Lのリン酸緩衝液(pH7.0)に、平均分子量50万のポリエチレングリコールを、1.0重量%の濃度になるように溶解した。これを第2試薬とした。
【0051】
(3)検量線の作成
0、150、300、600、1200mIU/mLの各濃度のHBs抗体を含むヒト血清を検量線作成用の標準溶液とした。各標準溶液20μLと上記第2試薬120μLを混合して37℃で加温した後、上記第1試薬120μLを添加して撹拌した。第1試薬添加後から1分後及び5分後の750nmにおける吸光度を測定し、両者の吸光度差(ΔAbs)を自動分析装置(日立製作所製自動分析装置7170)で測定した。得られた検量線を
図1に示す。
【0052】
(4)検体測定時の再現性
上記(3)における標準溶液20μLの代わりに、検体20μLを使用した以外は上記(3)と同様に操作し、得られたΔAbsを上記検量線に外挿して、検体中のHBs抗体量を算出した。HBs抗体陽性の血清(陽性検体)10種類を各10回測定した際の測定値の再現性(CV値)を表3に示す。実施例1及び2のラテックス粒子を用いた場合は、CV値が5%以下と良好な再現性を示した。比較例のラテックス粒子を用いた場合は、CV値がそれぞれ6%以上と再現性が悪かった。比較例のラテックス粒子を用いた場合は、標準溶液及び検体の測定は可能であるが、再現性試験におけるCV値が有意に低いことが確認できた。また、他の実施例3〜6のラテックス粒子を用いた場合も、同様にCV値が5%以下と良好な再現性を示した。
【0053】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、平均粒径値が粒径0.5〜1.0μmで単分散性の診断試薬用ラテックス粒子が提供できる。また、本発明方法によれば、特定の塩類を溶解させた分散媒中で芳香族ビニル単量体のソープフリー重合を行うことより、簡単な操作で、粒度分布の単分散性を損なうことなく、かつ再現性よく本発明の診断試薬用ラテックス粒子を製造できる。