【実施例】
【0033】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明をより一層詳述する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
<実施例1>
(Al−Si合金の調製)
A1−12.6%Si合金を真空中にて580℃で5分間加熱処理を行った。その後、25℃まで冷却した。
【0035】
(正極の作製)
正極活物質として、炭素被覆リン酸鉄リチウム100重量部、導電材としてアセチレンブラック6.8重量部、結着剤として水分散バインダである固形分濃度40wt.%のアクリル系共重合体3重量部(固形分として)、添加剤として、A1−12.6%Si合金を正極活物質に対して0.5質量%、ならびに、分散剤として、水溶液中の固形分濃度2wt.%のカルボキシメチルセルロース2重量部(固形分として)とを含有する正極用合材を用意し、この正極用合材を、溶媒であるイオン交換水20gに分散して、スラリーを調製した。
このスラリーを、集電体である厚み20μmのアルミニウム箔に塗布し(塗工量;70g/m
2)、70℃で10分間乾燥させた後、所定の電極密度(1.80g/cc)になるまでプレス処理により加圧し、正極1を作製した。
【0036】
(評価セルの作製)
正極1を作用極に用いた3極式評価セルを作製した。対極及び参照極にはリチウム金属を用いた。電解液には、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートとの混合溶媒(体積比で2:5:3)にLiPF
6を1.3mol/L溶解させた非水電解液を用い、セパレータには、微多孔質ポリエチレン膜を用いた。外装体には、ポリプロピレンブロックを加工した樹脂製容器を用い、作用極、対極及び参照極に設けた各端子の開放端部が外部露出するように電極群を収納封口した。
【0037】
(電池試験)
上記電池を用いて、充放電特性の評価を行った。充放電試験は0.1Cで4.2Vまで充電し、0.1Cで2.0Vまで放電させた。このときの充電容量、放電容量、充電容量と放電容量の差である不可逆容量、充電容量に対する放電容量の割合である効率について調査した。
【0038】
<実施例2>
添加剤としてA1−12.6%Si合金を正極活物質に対して1.5質量%とした以外は実施例1と同様に正極2を作製した。次いで、当該正極2を試験極としたこと以外は実施例1と同様の評価セルを作製し、実施例1と同様の電池試験を実施した。
【0039】
<実施例3>
添加剤としてA1−12.6%Si合金を正極活物質に対して3.0質量%とした以外は実施例1と同様に正極3を作製した。次いで、当該正極3を試験極としたこと以外は実施例1と同様の評価セルを作製し、実施例1と同様の電池試験を実施した。
【0040】
<実施例4>
添加剤としてA1−12.6%Si合金を正極活物質に対して10.0質量%とした以外は実施例1と同様に正極4を作製した。次いで、当該正極4を試験極としたこと以外は実施例1と同様の評価セルを作製し、実施例1と同様の電池試験を実施した。
【0041】
<比較例1>
正極活物質として、炭素被覆リン酸鉄リチウム100重量部、導電材としてアセチレンブラック6.8重量部、結着剤として水分散バインダである固形分濃度40質量%のアクリル系共重合体3重量部(固形分として)、ならびに、分散剤として、水溶液中の固形分濃度2質量%のカルボキシメチルセルロース2重量部(固形分として)とを含有する正極用合材を用意し、この正極用合材を、溶媒であるイオン交換水20gに分散して、スラリーを調製した。
このスラリーを、集電体である厚み20μmのアルミニウム箔に塗布し(塗工量;70g/m
2)、70℃で10分間乾燥させた後、所定の電極密度(1.80g/cc)になるまでプレス処理により加圧し、正極5を作製した。
正極5を試験極としたこと以外は実施例1と同様の評価セルを作製し、実施例1と同様の電池試験を実施した。
【0042】
正極1〜正極5の初回充放電容量、正極不可逆容量、充電容量に対する放電容量の割合である効率を表1に示す。また、正極1〜正極5の充放電曲線を
図2に示す。なお、
図2中、「Potential」は電位を示し、「Capasity」は容量を示している。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示す結果から明らかなように、正極1〜正極4は、正極5に比べて、充電容量と不可逆容量が大きく、さらに、放電容量は同等であるため、低い効率(53.4%〜92.0%)である。このような性能が得られる要因は、
図2に示すように、4V(対Li)付近に、A1−Si合金に由来する酸化反応が生じるためと考えられる。
また、表1に示すように、Al−Si合金の添加量が多いほど、初回充電容量と不可逆容量が大きくなり、効率を低くすることができる。
【0045】
次に、Al−Si合金中のSi含有量による効果を確認するため、Si含有量(Si濃度)を夫々変化させて試験を行った。
【0046】
<実施例5>
(Al−Si合金の調製)
A1−0.5%Si合金を真空中にて350℃で1時間加熱処理を行った。その後、25℃まで冷却した。
【0047】
正極活物質として、炭素被覆リン酸鉄リチウム100重量部、導電材としてアセチレンブラック6.8重量部、結着剤として水分散バインダである固形分濃度40wt.%のアクリル系共重合体3重量部(固形分として)、添加剤として、A1−0.5%Si合金10質量%、ならびに、分散剤として、水溶液中の固形分濃度2wt.%のカルボキシメチルセルロース2重量部(固形分として)とを含有する正極用合材を用意し、この正極用合材を、溶媒であるイオン交換水20gに分散して、スラリーを調製した。
このスラリーを、集電体である厚み20μmのアルミニウム箔に塗布し(塗工量;70g/m
2)、70℃で10分間乾燥させた後、所定の電極密度(1.80g/cc)になるまでプレス処理により加圧し、正極6を作製した。次いで、当該正極6を試験極としたこと以外は実施例1と同様の評価セルを作製し、実施例1と同様の電池試験を実施した。
【0048】
<実施例6>
Al−Si合金中のSi含有量をAl−2.4%Siとした以外は実施例1と同様に正極7を作製した。次いで、当該正極7を試験極としたこと以外は実施例1と同様の評価セルを作製し、実施例1と同様の電池試験を実施した。
【0049】
<実施例7>
Al−Si合金中のSi含有量をAl−4.8%Siとした以外は実施例1と同様に正極8を作製した。次いで、当該正極8を試験極としたこと以外は実施例1と同様の評価セルを作製し、実施例1と同様の電池試験を実施した。
【0050】
<実施例8>
Al−Si合金中のSi含有量をAl−8.0%Siとした以外は実施例1と同様に正極9を作製した。次いで、当該正極9を試験極としたこと以外は実施例1と同様の評価セルを作製し、実施例1と同様の電池試験を実施した。
【0051】
<比較例2>
Al−Si合金中のSi含有量をAl−0.4%Siとした以外は実施例1と同様に正極10を作製した。次いで、当該正極10を試験極としたこと以外は実施例1と同様の評価セルを作製し、実施例1と同様の電池試験を実施した。
【0052】
正極4、正極6〜正極10の充放電容量、正極不可逆容量、効率を表2に示す。また、正極4、正極6〜正極10の充放電曲線を
図3に示す。なお、
図3中、「Potential」は電位を示し、「Capasity」は容量を示している。
【0053】
【表2】
【0054】
表2に示す結果から明らかなように、正極4と正極6〜正極9は、正極10に比べて、初回充電容量と不可逆容量が大きく、さらに、初回放電容量は同等であるため、低い効率(53.4%〜98.1%)である。このような性能が得られる要因は、
図3に示すように、4V(対Li)付近に、A1−Si合金に由来する不可逆な反応が生じるためと考えられる。
【0055】
このようにして、Al−Si合金の添加量やSi含有量を調整することにより、正極の不可逆容量を容易に制御することが可能になる。このため、グラファイト負極や、高容量ではあるが効率の低い金属・酸化物・合金系負極に対して、適正量のA1−Si合金を添加した正極を使用することにより、負極の不可逆容量と同等の不可逆容量を有する正極を容易に得ることができる。したがって、負極の不可逆容量による電池の容量低下を抑制し、高エネルギー密度の非水電解質二次電池を得ることができる。
【0056】
以上説明したように、本実施の形態によれば、少なくともリチウムの吸蔵放出が可能な活物質を含む正極が、添加剤として、Al−Si合金などの少なくともアルミニウム(Al)とケイ素(Si)とを含む合金を含有するようにしたため、正極の不可逆容量を容易に制御でき、その結果、非水電解質二次電池の高エネルギー密度化に好適な不可逆容量を有する正極を容易に得ることができる。
例えば、公知の方法により正極活物質をリン酸鉄リチウム、負極活物質を炭素とし10Ahの非水電解質二次電池を作製する場合、負極の不可逆容量は1.5Ahである。これに対し、本発明の正極7を用いた場合負極の不可逆容量は約1.5Ahである。つまり、本発明によれば正極と負極の不可逆容量は略同一であり、高容量の非水電解質二次電池を得ることが可能である。
この構成は、前述した特許文献1と比べて、高電圧充電を行う必要がないため、電解液の分解、ガス発生、活物質の劣化などを抑制することができ、また、特許文献2および3と比べて、正極表面上などにリチウム金属膜を蒸着する必要がないため、金属膜の劣化や金属膜形成のための設備追加などが不要である。また、特許文献4と比べて、専用セルが不要であるなどの効果も得られる。
【0057】
さらに、本構成では、Al−Si合金のSi含有量が0.5質量%以上であるため、十分な正極不可逆容量を得ることができる。
また、正極活物質層が、導電材と結着剤を含むため、電子の伝導性と活物質やAl−Si合金などの固着性を確保することができる。
また、本実施形態では、正極活物質中に正極活物質とは別にAl−Si合金を添加した例を示したが、アルミニウム(Al)とケイ素(Si)とを含む合金を添加しても同様の効果を得ることが可能である。
また、本実施例において正極活物質に炭素被覆リン酸鉄リチウムを用いた例を示したが、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)のリチウム金属化合物を用いても同様の効果を得ることが可能である。