特許第6207219号(P6207219)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6207219カーボンブラックおよびそれを用いた電池用電極
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207219
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】カーボンブラックおよびそれを用いた電池用電極
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/54 20060101AFI20170925BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20170925BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20170925BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   C09C1/54
   H01M4/96 M
   H01M4/02 Z
   H01M4/62 Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-95119(P2013-95119)
(22)【出願日】2013年4月30日
(65)【公開番号】特開2014-214290(P2014-214290A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】山比羅 守
(72)【発明者】
【氏名】坂下 拓志
(72)【発明者】
【氏名】横田 博
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−112660(JP,A)
【文献】 特開2013−209504(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/120703(WO,A1)
【文献】 特開平04−225074(JP,A)
【文献】 特開平05−234599(JP,A)
【文献】 特開2004−288388(JP,A)
【文献】 特開2005−118671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/48〜1/60
H01M 4/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積が300〜1100m/g、結晶層厚み(Lc)が25〜100Å、かつ凝集粒子の最大径が20μm以下であることを特徴とするアセチレンブラック。
【請求項2】
かさ密度が0.010〜0.030g/cmであることを特徴とする請求項1に記載のアセチレンブラック。
【請求項3】
JIS K 5600−2−5に規定されるツブゲージによる分散度が20μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアセチレンブラック。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のアセチレンブラックを用いた電池用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラックに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池や燃料電池などでカーボンブラックが用いられることが多くなっている。具体的には、リチウムイオン二次電池は正極および負極の導電剤として、燃料電池では触媒の担体として利用される。リチウムイオン二次電池の一般的な構造は、アルミニウム箔に正極活物質と導電剤の溶液を塗工した正極電極と、銅箔に炭素材料などの溶液を塗工した負極電極の間にイオンの移動が可能な多孔質の絶縁フィルムを挟み、全体を電解液で満たすことで構成される。導電剤として用いられるカーボンブラックはその目的(正極活物質の導電性向上)の為、高比表面積、高結晶かつ高分散であることが要求される。燃料電池のセル構造は、ガス流路を施したセパレーターの間にガス拡散層、触媒層、電解質膜を挟んだ構造となっている。この触媒層は触媒金属粒子(白金を用いることが多い。)が担持されたカーボンブラックで構成されており、触媒金属粒子はカーボンブラック表面に高分散で担持されている。ここで、担持とは、カーボンブラック表面に別の粒子が化学結合又は物理結合により付着した状態のことである。水素、酸素等の原料ガスは触媒金属粒子と接触して活性化され水を生成するため、触媒層の触媒金属粒子は高分散で担持されている方が、反応効率が高い。逆に、触媒金属粒子がカーボンブラックに低分散で担持される、すなわち凝集して担持されていると、原料ガスと触媒金属粒子の接触面積が小さくなり、反応効率が低下してしまう。
【0003】
前述の為、カーボンブラックは高比表面積のものが好ましい。当初はファーネスブラックが使用されていたが、ファーネスブラックは結晶性が低く、また原料由来の不純物、例えば硫黄、塩素、カリウム、鉛、ナトリウム、カルシウムなどが数10ppm〜数%オーダーで含まれている場合が多く、これらの不純物は電池性能の低下の原因となっていた。
【0004】
そこで、ファーネスブラックよりも格段に不純物の少ないアセチレンブラックを用いることが考えられるが、通常のアセチレンブラックの比表面積は30〜200m/gであり、高比表面積のファーネスブラック等に比べると担持面積が小さく、触媒金属粒子が凝集して担持され、高分散の状態を担持することができない。したがって、アセチレンブラックの高比表面積化が必要となる。アセチレンブラックの高比表面積化は、アセチレンブラックを500℃以上の温度で空気、酸素等により表面を酸化することによって可能である(特許文献1)。上記の様にして高比表面積化したアセチレンブラックは触媒担体として使用されるが、一部にアセチレンブラック同士が凝集した凝集粒子が存在している。
【0005】
近年の電池製造技術の向上に伴い、薄膜化が進んだ結果、上記の凝集粒子を低減させる要求が出てきている。凝集粒子が存在すると、正極の塗工面あるいは触媒層に凝集粒子による突起が生じ、その周辺に電荷の集中が起こり、電池寿命が短くなる原因となる。アセチレンブラックは、ストラクチャーと呼ばれる一次粒子の結合体が枝状に発達しており、凝集粒子低減にはそのストラクチャー同士の絡み合いをほぐす必要があるが、容易ではなかった。
【0006】
カーボンブラック凝集粒子を低減させる手法として、当該カーボンブラックとイオン交換樹脂を溶媒に混合させてスラリーとし、これを外部剪断機(ビーズミル、ボールミル、3本ロール等)及び内部剪断機(超音波ホモジナイザー、ジェットミル等)を使用した解砕が提案されている(特許文献2)。また、カーボンブラック自体を粉体のまま各種の粉砕装置(ジェットミル、遊星ミル等)で解砕する手法が提案されている(特許文献3、4)。しかし、本用途で使用されるアセチレンブラックは一般のカーボンブラック以上にストラクチャーが発達しているだけでなく、高比表面積を有しているため、後処理による解砕には限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−66759号公報
【特許文献2】特開2005−216661号公報
【特許文献3】特開2005−41967号公報
【特許文献4】特開2006−274189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高比表面積、高結晶かつ低凝集性のカーボンブラックを提供することである.
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)比表面積が300〜1100m/g、結晶層厚み(Lc)が25〜100Å、かつ凝集粒子の最大径が20μm以下であることを特徴とするカーボンブラック。
(2)かさ密度が0.010〜0.030g/cmであることを特徴とする前記(1)に記載のカーボンブラック。
(3)JIS K 5600−2−5に規定されるツブゲージによる分散度が20μm以下であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のカーボンブラック。
(4)前記(1)から(3)のいずれか一項に記載のカーボンブラックを用いた電池用電極。
【発明の効果】
【0010】
本発明のカーボンブラックは、高比表面積かつ高結晶であり電池材料として用いると従来よりも高性能を得ることができる。また凝集粒子が低減されている為、水やアルコール、その他の溶剤に混合した際に高分散が可能であり、また塗工時に特段の配慮無く均一な平面を得ることが出来る。従来よりも薄膜にすることが可能であり、積層数を増やすことができるので、電池性能向上につながる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のカーボンブラックは、比表面積が300〜1100m/gである。300m/g未満では、電極スラリーあるいは触媒の担持工程等で十分に高分散させることができず、所望の性能を得ることができない。1100m/gを超えると、前述の工程において薬液との浸せきが困難であり、所望の性能を得ることができない。また、X線回折により測定された結晶層厚み(Lc)が25〜100Åである。25Å未満では結晶性が不十分で導電性を十分に付与することができない。100Åを超えると一次粒子径が大きくなり過ぎ、高分散を維持することができなくなる。
【0012】
本発明のカーボンブラックは、凝集粒子の最大径が20μm以下である。20μm以上の凝集粒子が存在すると、塗工の際に凝集粒子によって表面平滑性が保てず、凹凸部に電荷の粗密が生じ、電池特性が低下する。
【0013】
また、本発明のカーボンブラックは、好ましくはJIS K 5600−2−5に規定されるツブゲージによる分散度が20μm以下のカーボンブラックである。ツブゲージにより平均的な凝集粒子のサイズを測定できるが、20μm以下が好適である。
【0014】
本発明のカーボンブラックの製造方法は、その一例として、まず反応炉内で原料(アセチレン、ベンゼンなど)を不完全燃焼反応させて高比表面積を有するカーボンブラックを生成させる。この高比表面積を有するカーボンブラックに、水分を含有させた後に、空気、オゾン等の酸化性ガスを用いて酸化処理することにより製造することが出来る。
【0015】
段落(0014)の工程で合成したカーボンブラックは、本発明のカーボンブラック原料粉であり、従来のカーボンブラックと比べ、凝集粒子が低減しているが、残存しているため、ボールミル、振動ミル、ジェットミル等を使用して凝集粒子を低減させる工程が必要である。特に、ジェットミルを用いるとより効果的に凝集粒子の低減することができる。この凝集粒子の低減工程に供する原料粉の物性の内、比表面積およびかさ密度が本発明の特許請求範囲に収まっている必要がある。比表面積が300m/g未満である場合、この処理により比表面積がさらに低くなり、十分な性能を得ることができない。比表面積が1100m/gを超えると、本工程による凝集の低減の効果が不十分となる。結晶相の厚さが25Å未満の場合、解砕により結晶相の厚さが大きく低下し、電池性能が低下する。100Åを超える場合、本工程による凝集の低減の効果が不十分となる。さらに、結晶相の厚さが25〜65Åの範囲の場合、処理後の結晶相の厚さの減少が抑えられるため望ましい。
【実施例】
【0016】
実施例1〜10、比較例1〜6
アセチレンガスと酸素ガスを混合し、カーボンブラック製造炉(炉全長5m、炉直径0.5m)の炉頂に設置されたノズルから噴霧し、アセチレンの熱分解及び燃焼反応を利用してアセチレンブラックを製造した。その後、炉下部に直結されたバグフィルターからアセチレンブラックを捕集した。捕集したアセチレンブラック500gを温度30℃、湿度50%の恒温恒湿装置で、質量が定常状態になるまで含水させた。その後、700℃に加熱された電気炉内に投入し、炉内の圧力を0.1kPaに保ったまま、空気を30L/時で導入して1時間酸化処理を行い、高比表面積、高結晶化および高分散化処理を行った。このアセチレンブラックをジェットミルで粉砕圧0.3MPaの条件で処理を行った。
【0017】
アセチレンブラックの原料粉の物性、原料粉を処理して得られたアセチレンブラック処理粉の物性について、表1及び表2に示す。なお、物性としては下記の項目の物性を測定した。
(1)比表面積:JIS K 6217−2に従い測定した。
(2)かさ密度:JIS K 5101−12−2:2004に従い測定した。
(3)結晶相の厚さ:ブルカー社製X線回折装置D8ADVANCEを行い、得られたアセチレンブラックの15°〜35°のX線回折像を測定し、25°付近のピークから結晶相の厚さ(Lc)を求めた。
(4)凝集粒子径:前処理としてアセチレンブラック0.1gをヘキサメチルリン酸ナトリウム0.5%水溶液10mLに加え、超音波水槽を用い、150Wで3分間の分散処理を行った。その後、フロー式粒子形状測定装置FPIA−3000(マルバーン社製)を用いて測定をした。測定モードはLFP、カウントは定量カウント、対物レンズは10倍としてサンプルの粒子像を撮影し、それをコンピューターで解析をして粒子径を求めた。
(5)ツブゲージ分散度:前処理として、アセチレンブラックを0.1g、ジブチルフタレートを30g、遠心沈降管に入れ、ホモジナイザー(日本精機製BM−2)を用いて、2000rpmで1分間の条件で混合し、JIS K 5600−2−5に従いグラインドゲージ(50μmまたは25μm溝)でツブの粒径を測定した。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】
【0020】
表1から、本発明の実施例により得られたアセチレンブラックは、比表面積が高く、結晶性が高く、かつ凝集粒子径が小さく分散性に優れている。特に、比表面積が300〜800m/gかつ結晶相の厚さが25〜65Åのアセチレンブラックを原料とすることで処理後の比表面積および結晶相の厚さを維持しながら凝集粒子粒を小さくし、分散性を良くすることができる。
【0021】
実施例8〜10、比較例6のアセチレンブラックを用いて電極を作製し、その表面に認められた凝集塊(塗工面に生じた凸部分)の個数を比較した。電極の作成方法を以下に示す。正極材としてリチウム酸コバルトを、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(呉羽化学製、KFポリマー溶液)を用いた。これに分散溶媒としてN−メチルピロリドン(Aldrich製)を添加、混練した正極合剤(スラリー)を作製した。バーコーターを用いて当該正極合剤スラリーをアルミニウム箔に20μmの厚みとなるように塗布後、乾燥して電極を作製した。
【0022】
作製した電極の表面平滑性は、SEMを用いて100μm角の視野を各10視野観察して塗工面に生じた凸の個数により評価した。その結果、実施例8は平均0.5個、実施例9は平均0.7個、実施例10は平均1.3個に対して、比較例6は平均15個であった。
なお、比較例1は比表面積が低すぎる為、比較例3は結晶相厚みが薄過ぎる為、電極に用いるには不適であった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明のカーボンブラックは、電池材料あるいは触媒担体として利用することができる。