(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207233
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】インクジェットプリントヘッドを洗浄するための方法及び洗浄液、このタイプの洗浄液の使用、インクジェットプリントヘッドを動作させるための方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20170925BHJP
C11D 7/42 20060101ALI20170925BHJP
C11D 17/08 20060101ALI20170925BHJP
C11D 3/386 20060101ALI20170925BHJP
C11D 3/20 20060101ALI20170925BHJP
C11D 3/43 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
B41J2/165 401
C11D7/42
C11D17/08
C11D3/386
C11D3/20
C11D3/43
【請求項の数】13
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-107981(P2013-107981)
(22)【出願日】2013年5月22日
(65)【公開番号】特開2013-241011(P2013-241011A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2016年5月10日
(31)【優先権主張番号】10 2012 208 512.2
(32)【優先日】2012年5月22日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】513267752
【氏名又は名称】オセ プリンティング システムズ ゲーエムベーハー アンド ツェーオー.カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100149294
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 直人
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルター ブレナー
(72)【発明者】
【氏名】アドミール レラ
【審査官】
小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2005/0243152(US,A1)
【文献】
特開2000−319562(JP,A)
【文献】
特開2000−289236(JP,A)
【文献】
特開2001−047639(JP,A)
【文献】
特開2003−191485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/165
C11D 3/20
C11D 3/386
C11D 3/43
C11D 7/42
C11D 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットプリントヘッドを洗浄するための方法において、
少なくとも1種のセルラーゼ又はセルラーゼの触媒活性誘導体を含む第1の洗浄液を提供する工程と、
汚染又は閉塞されたインクジェットプリントヘッドを提供する工程と、
前記第1の洗浄液を使用して前記プリントヘッドを洗浄する工程とを含み、
前記第1の洗浄液が、前記第1の洗浄液を使用して前記プリントヘッドを洗浄した後に、前記プリントヘッドから除去されることを特徴とする方法。
【請求項2】
第2の洗浄液を提供し、前記第2の洗浄液を使用して前記プリントヘッドをすすぐ追加の工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の洗浄液を使用してすすぐ工程が、前記第1の洗浄液を使用して洗浄する工程の後に続くことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の洗浄液が、セルラーゼ又はセルラーゼの触媒活性誘導体を含有しないことを特徴とする、請求項2又は請求項3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記第1の洗浄液を使用して洗浄する工程が、5℃〜60℃の範囲内の温度で実施されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の洗浄液を使用して洗浄する工程が、40℃〜50℃の範囲内の温度で実施されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1種のセルラーゼ又はセルラーゼの触媒活性誘導体が、前記第1の洗浄液が除去されるのと同時に、前記プリントヘッドから除去されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の洗浄液を使用して前記プリントヘッドを洗浄した後、第3の洗浄液を提供し、前記第3の洗浄液を使用して前記プリントヘッドをすすぐ工程を含むことを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の洗浄液が、
− 少なくとも1種の界面活性剤と、
− 蒸留水と、
− イソプロパノールと、
− インクジェットプリントヘッドにおいて蓄積するインクと紙粉との混合物を溶解させるように構成された少なくとも1種のセルラーゼ又はセルラーゼの触媒活性誘導体と、を少なくとも含有することを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の洗浄液が、セルラーゼ又はセルラーゼの触媒活性誘導体以外にいかなる他の酵素も含まないことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の洗浄液が、
洗浄液100重量%に基づいて、
− 55重量%〜95重量%の蒸留水と、
− 3重量%〜30重量%のイソプロパノールと、
− 1.9重量%〜12重量%の界面活性剤と、
− 0.1重量%〜3重量%のセルラーゼと、を含有することを特徴とする、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の洗浄液が、pH調整剤、緩衝剤、錯化剤、保存剤、乳化剤及び湿潤剤、及び追加の溶媒から選択される少なくとも1つの追加の添加剤をさらに含むことを特徴とする、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の洗浄液を使用した洗浄の前又は後に、すすぐ工程がさらに実施されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリントヘッドを洗浄するための方法に関する。本発明はさらに、洗浄液及びこのタイプの洗浄液の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
1つ又は複数のプリントヘッドを備える、インクジェットプリンタとも呼ばれることが多いインクプリンタは、一般に公知であり、例えば、個人用パンフレットを作成するためのトランザクション印刷において使用される。例えば、紙を交換するために又はスタート−ストップ動作において印刷動作が中断される際には、プリントヘッドの出口領域を汚染し、それに伴って個々の出口開口部を閉塞するインク残渣のリスクがある。したがって、このタイプのインクジェットプリンタを使用する際に高い印刷品質を提供するためには、前記プリンタのプリントヘッドは、定期的な間隔で且つプリンタの状態に応じて洗浄されなければならない。特に、しばらくの間使用されていなかったインクジェットプリンタを始動する前に、プリントヘッドのノズルを洗浄することが重要である。
【0003】
本発明は特に、インクジェットプリンタヘッド、特に、紙粉及びインク残渣が蓄積した、このタイプのインクジェットプリンタヘッドを有効に洗浄するための方法に関する。インクと紙粉との混合物によって閉塞されたこのようなインクジェットプリントヘッドノズルが再び完全に機能的になり、インクジェットプリンタにおいて高品質を保証するために、前記ノズルは洗浄されなければならない。この場合において洗浄のために実行可能な様々な事柄がある:
− インクジェット印刷システムからのインクを使用して、プリンタ内部で、プリントヘッド及び/又はその中に備わったノズルをすすぐこと。プリントヘッド、及び、この場合特にプリントヘッドの出口開口部を完全にすすぐことは、「パージング」として一般に公知である。
− すすぎ圧力を上昇させ且つ/又はすすぎ時間を延長して、及びこれらをしないで、標準的な洗浄液を使用してプリンタの内部又は外部でプリントヘッドをすすぐこと。標準的な洗浄液は一般的に、インクジェットプリンタインクの製造者によって提供されている。
− リントフリー布及び標準的な洗浄液を使用して手作業で洗浄すること。
【0004】
米国特許第6164752号には、インクプリントデバイスが記載されており、このデバイスにおいては、プリントヘッドを完全にすすぐために、プリントヘッドは、すすぎ位置に最初に配置され、この位置ですすぎ用キャップ(rinsing cap)が出口ノズルを覆う。次いで、インクは、吸引キャップを介してパルス状の陰圧を印加することによって、ノズルを通じて吸引される。
【0005】
米国特許第7118189号B2には、インクプリントデバイス用のすすぎデバイスが記載されており、このデバイスにおいては、インクは、インク供給ライン内に配置されたインク押し出しバルブ(ink squeezing valve)によってパルス様式でノズルを通じて押し出される。
【0006】
前記方法を使用しても、汚染物質及び閉塞物質をプリントヘッドのノズルから十分に洗浄することができないということが、上述した方法すべてに共通している。紙粉は閉塞物質の安定性を増大させるので、一般にインクと紙粉との混合物からなる閉塞物質を、容易にノズルからすすいで除くことができないことも問題となる。
【0007】
界面活性剤又は同様の洗剤物質を含む従来の洗浄剤は、インクに結合し、したがってインクを一掃することができる。しかし、紙粉とインクとの組合せは、このタイプの洗浄剤を使用して除去することができず、又は十分に除去することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6164752号
【特許文献2】米国特許第7118189号B2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明によって対処される問題は、インクジェットプリンタの閉塞されたノズル、特に、紙粉とインクとの組合せによって生じた閉塞物質を有効に洗浄するというものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、この問題は、請求項1の特徴を有する方法によって、及び/又は請求項6の特徴を有する洗浄液によって、及び/又は請求項10の特徴を有する使用によって、及び/又は請求項14の特徴を有する方法によって解決される。
【0011】
したがって、以下のことが提供される。
− インクジェットプリントヘッドを洗浄するための方法において、少なくとも1種のセルラーゼ又はそれらの触媒活性誘導体を含む第1の洗浄液を提供する工程と、汚染及び/又は閉塞されたインクジェットプリントヘッドを提供する工程と、第1の洗浄液を使用してプリントヘッドを洗浄する工程とを含む方法。本発明はさらに、洗浄液、及びこのタイプの洗浄液の使用に関する。
− 少なくとも1種の界面活性剤と、蒸留水と、イソプロパノールと、インクジェットプリントヘッドに蓄積するインクと紙粉の混合物を溶解させるように構成された少なくとも1種のセルラーゼ又はそれらの触媒活性誘導体とを少なくとも含有する、汚染及び/又は閉塞されたインクジェットプリントヘッドを洗浄するための洗浄液。
− インクジェットプリントヘッドを処理及び/又は洗浄するための、少なくとも1種のセルラーゼ又はそれらの触媒活性誘導体を含む洗浄液の使用。
− インクジェットプリントヘッドを動作させるための方法であって、インクジェットプリントヘッドを提供する工程と、インクジェットプリントヘッドを使用してインクで1つ又は複数の記録媒体を印刷する工程と、少なくとも1種のセルラーゼ又はそれらの触媒活性誘導体を含む第1の洗浄液を提供する工程と、第1の洗浄液を使用してインクジェットプリントヘッドを洗浄する工程とを含む方法。
【0012】
本発明の方法によって、インクジェットプリントヘッドを有効に洗浄することが可能である。プリントヘッドは、特に、(最初に述べた)これまでに使用された方法によって再生することができなかったプリントヘッドでさえ、極めて有効に再生され得る。
【0013】
さらに、本発明の方法によって、プリントヘッドの平均耐用年数を延長させることも可能である。
【0014】
本方法はまた、セルラーゼ又はその触媒活性誘導体を用いない方法と比較すると、洗浄液を節約する。これは、セルラーゼ又はその触媒活性誘導体は、プリントヘッド内の紙堆積物を有効に処理し、溶解させることができ、その結果、後続のさらなる洗浄の間に、残っている残渣も容易に除去することができるためである。本方法を使用して、完全なすすぎがもはや可能でないプリントヘッドを容易に洗浄することも可能であり、その理由は、セルラーゼが紙中のセルロースを分解することによる、セルラーゼ又はその触媒活性誘導体の作用によって、紙閉塞物質が分解されるためである。結果として、相対的に小さい、残っている成分を容易にすすぎ出すことができる。
【0015】
有利な構成及び展開は、追加の従属請求項から、及び図面の図を参照した本説明から明らかとなる。
【0016】
本発明を、図面の1つの図を参照して、以下においてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の方法を使用することができる例示的な印刷システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
添付の概略図は、本発明の理解を促すことを意図したものである。これは、実施形態を示し、本説明とともに、本発明の原理及び概念を説明する役割を果たす。他の実施形態及び述べられる利点の多くは、図面を参照して明らかとなる。図面の各要素は、必ずしも縮尺通りに示されているとは限らない。
【0019】
実施形態の記載
本発明は、インクジェットプリントヘッドを洗浄するための方法に関し、プリントヘッドは、少なくとも1種のセルラーゼ又はそれらの触媒活性誘導体を含む洗浄液を使用して洗浄する間に処理される。したがって、特に紙粉によって少なくとも閉塞されているインクジェットプリントヘッドは、それによって洗浄することができる。
【0020】
セルラーゼ又はその触媒活性誘導体の起源は、この場合、いずれの特定の制限にも支配されず、微生物、例えば、細菌、真菌(例えば糸状菌)、又は一般に公知である他の生物などに由来し得る。セルラーゼは、紙の主成分であるセルロースを、その基本単位のβ−グルコースに分解することができる酵素である。セルラーゼの群は、3つの異なるタイプの酵素、すなわち、エンドグルカナーゼ、エキソグルカナーゼ、及びβ−グルコシダーゼとも呼ばれるセロビアーゼを含み、これらは共同してセルロースの前記分解を実施する。
【0021】
本発明のためには、紙粉中に含まれるセルラーゼは、より小さい断片に、好ましくはより短いセルロース鎖に分解されることが好適である。いくつかの方法では、セルロースがセロビオースに分解されることも好適である。いくつかの他の方法では、セルロースは、β−グルコースに分解されることが好適である。
【0022】
セルラーゼの触媒活性誘導体は、セルラーゼに由来する誘導体、例えば、セルラーゼのアルカリ塩又はアルカリ土類塩などの塩であり、この塩はさらに、反応によって誘導体を形成した後、例えば、紙粉中のセルロース及び同様の物質の分解を触媒することができる。
【0023】
本発明の方法では、セルロースを用いた処理は、セルロースが十分に分解されるのに適切な継続時間にわたって実施されることが好適である。いわゆる処理時間又は洗浄時間は、この場合、例えば、使用されるセルロース又はセルロース若しくはその誘導体の組合せのタイプ、温度、溶液のpH値、及び、必要であれば他の要因に基づく。他の要因は、例えば、紙閉塞物質の密度の目安である、セルラーゼが紙粉を攻撃する可能性、すなわち、紙粉の攻撃可能な表面であり得る。さらに、紙粉上に収集されたインク粒子又は他の流体もこの時間に影響する場合があり、その理由は、これらが洗浄液によって最初に溶解されなければならないためである。
【0024】
処理が、セルラーゼ若しくはその触媒活性誘導体、又はセルラーゼ及び若しくは誘導体の組合せが最適な触媒活性を有する温度で実施されることも好適である。ある特定の実施形態では、処理は、5℃〜60℃の範囲内の温度で実施される。好ましくは、処理は、15℃〜50℃の範囲内の温度で実施される。
【0025】
さらに、処理は、セルロース、その触媒活性誘導体、又はセルラーゼと誘導体との組合せが最適な触媒活性を有するpH値で実施されることが好ましい。この場合、処理は、洗浄剤が接触するプリントヘッドのノズル並びにプリントヘッド及び場合によりプリンタの他の構成要素に有害でないpH値で実施されることが好適である。したがって好ましくは、処理は、5〜9のpH値で実施される。特に好ましくは、処理は、6〜8のpH値で実施される。pH値は、必要であれば、pH調整剤及び/又は緩衝剤によって適切に設定することができる。
【0026】
好適な実施形態では、第2の洗浄液を使用するすすぎ工程も、少なくとも1種のセルラーゼ又はそれらの触媒活性誘導体を含む洗浄液を使用する処理工程に付随する。このすすぎ工程によって、軟化した紙粉がノズルからすすぎ出される。特に好ましくは、第2の洗浄液は、セルラーゼ又はそれらの触媒活性誘導体を含有しない。その理由は、この第2の洗浄液は、紙粉のさらなる処理を実施する必要がまったくないためである。むしろ、第2の洗浄液は、汚染物質を単に洗い流すのに使用される。例えば、プリントヘッド用の標準的な洗浄溶液、水、イソプロパノール、又は水とイソプロパノールとの混合物を、第2の洗浄液として使用することができる。これらの物質は、先の洗浄工程の効力に応じて、界面活性剤と場合により混合することができる。
【0027】
さらに、本発明は、少なくとも1種のセルラーゼ又はそれらの触媒活性誘導体、少なくとも1種の界面活性剤、蒸留水及びイソプロパノールを含むインクジェットプリントヘッド用洗浄液に関する。この場合、蒸留水は、例えば、紙粉を軟化させるため、及びセルラーゼを紙粉に搬送する目的で使用される。さらに、水は、インクの成分を既に溶解していることも可能である。さらに、イソプロパノールは、インク成分を溶解させる。さらに、界面活性剤は、汚染物質、すなわち紙粉及びインク残渣上での水又はイソプロパノールの濡れを改善するのに使用される。特に、本発明の洗浄液は、インクをまったく含まず、また、これがインクジェットプリントヘッドを洗浄するのに使用される前、又はインクジェットプリントヘッドを動作させるのに使用される前に、インクと混合されない。
【0028】
任意の界面活性剤を、それらが汚染物質上での水又はイソプロパノールの十分な濡れを保証する限り、洗浄液用に使用することができる。非イオン性界面活性剤、及び場合により陽イオン性界面活性剤も好適である。界面活性剤の組合せも使用することができる。
【0029】
洗浄剤は、好ましくは、洗浄液100重量%に基づいて、55〜95重量%の蒸留水、3〜30重量%のイソプロパノール、1.9〜12重量%の界面活性剤、及び0.1〜3重量%のセルラーゼを含有する。
【0030】
上述した成分に加えて、追加の添加剤、例えば、pH調整剤、緩衝剤、錯化剤、保存剤、乳化剤、湿潤剤、及び追加の溶媒も洗浄液中に含有され得る。
【0031】
pH調整剤は、セルラーゼ若しくはその触媒活性誘導体又はこれらの組合せにとって理想的なpH値が設定されることを保証する。その例は、一般的な酸及び塩基、例えば、酢酸、クエン酸、塩酸、アンモニア、炭酸水素ナトリウム及び水酸化ナトリウムである。
【0032】
例えば、炭酸塩緩衝液又はリン酸塩緩衝液を、セルラーゼ若しくはその触媒活性誘導体又はこれらの組合せに適したpH値を維持するための緩衝剤として使用することができる。
【0033】
錯化剤は、例えば、インクの成分に結合することができ、この成分は、さもなければ追加の汚染物質と一緒に前記成分の沈殿を引き起こし得る。このタイプの錯化剤には、例えば、EDTA又は様々なクラウンエーテルが含まれる。
【0034】
さらに、乳化剤及び湿潤剤は、界面活性剤の作用機序をさらに増強させることができる。さらに、前記乳化剤及び湿潤剤はまた、汚染物質のある特定の成分が、除去された後に溶液中に残り、閉塞物質に再び付着しないことを保証することができる。
【0035】
例えばプロピレングリコールエーテルは、さらなる溶媒として考慮に入れられる。
【0036】
さらに、洗浄剤は、それらがより長い期間使用可能なままであるように、保存剤も含有することができる。
【0037】
好適な実施形態では、洗浄液は、セルラーゼ又はそれらの触媒活性誘導体に加えていかなる他の酵素も含まない。その理由は、前記酵素は、洗浄剤をより高価にしてしまうためである。さらに、ある特定の実施形態では、閉塞物質が紙粉から主に構成されているなどの場合では、閉塞物質は、セルラーゼによって有効に分解され得るので、追加の酵素を使用することによって、プリントヘッドの洗浄作用のさらなる改善は、まったく実現され得ない。
【0038】
さらに、本発明は、インクジェットプリントヘッドを処理及び/又は洗浄するための、少なくとも1種のセルラーゼ又はそれらの触媒活性誘導体を含む洗浄液の使用に関する。
【0039】
本発明の方法及び洗浄液を使用して、閉塞物質を有する任意のインクジェットプリントヘッドを洗浄することができる。
【0040】
例示的なインクジェット印刷システムにおけるプリントヘッドを
図1に示す。
図1によれば、記録媒体10を印刷するためのインクプリンタは、1つ又は複数のプリントヘッド12を備える。プリントヘッド12は、1つ又は複数のノズルを含み、これを通じてインクの液滴が、例えば、圧電素子を介して水圧を生じさせることによって、必要に応じて記録媒体10に向けて排出される。高性能プリンタでは、前記プリントヘッド12は、通常、記録媒体10の幅全体にわたって固定された様式で配置されており、一方、記録媒体10は、プリントヘッド12の下を通って移動する。
【0041】
プリントヘッド12は、記録媒体10の幅全体にわたって延在し得る。複数のプリントヘッド12は、接続されることによって、いわゆる押さえ棒も形成することができ、次いで、これらのヘッドはそれぞれ、記録媒体10の輸送方向に直角に印刷ラインを形成する。
図1によれば、4つのプリントヘッド12が1本の押さえ棒を形成する。複数の押さえ棒が提供される場合、色(例えば、黄色、マゼンタ、シアンブルー及び黒色;YMCK)を、それぞれの押さえ棒によって印刷することができる。
図1では、すべての押さえ棒は、同じインク供給部に取り付けられており、したがって、印刷は、単一色で実施されるにすぎない。したがって、印刷解像度がより高くなり得、又は1本若しくは2本の押さえ棒を安全性のために提供することができ、次いで、これらのノズルを通じて、インクが、同じ印刷ドット用の平行な押さえ棒のノズルが遮られる際に排出される。
【0042】
プリントヘッド12の数、及び表面積当たりのその中に位置されたノズルの数(及び、場合により、わずかにずれた並列のプリントヘッド)は、プリントヘッド12又はこのタイプの押さえ棒が印刷することのできる解像度を規定する。
【0043】
新鮮なインクが、ポンプ16によって交換式インク貯蔵容器14から引き出され、バッファリング容器(buffering container)18に搬送される。バッファリング容器18内には、空のインク貯蔵容器14が満杯の容器と交換される際でも、インクが印刷プロセスを継続することを可能とするために、常に十分なインクが存在するべきである。
【0044】
ごみ粒子が濾過されるフィルタ20を介して、インクは、追加のポンプ22によって中間インク容器30に必要に応じてポンプ搬送され、この中間容器のインクレベルは、所定レベルに概ね維持される。インクは、この中間インク容器30から分配タンク24を介して、印刷するために個々のプリントヘッド12に後に供給される。
【0045】
チューブ又はホースシステムがインクを搬送するのに使用され、このシステムは、チューブ又はホースから構成されている。公知の接続、例えば、ソケット接続、ねじ込み接続又は形状部品などが、チューブ又はホースを相互接続するのに使用される。取付具、例えば、玉形弁及び仕切弁などが、遮断部材及び制御部材として使用される。次いで、インクは、要求される場合、すなわち、インクレベルがバッファリング容器18又は中間インク容器30内で所定のインクレベルを下回る場合、常に1つのステーションから次のステーションに搬送される。
【0046】
新鮮なインクは、管状インク入口31(中間インク容器30へのフィードチューブ又はホース)を介して中間インク容器30に供給される。インクは、インク出口32を介して必要に応じて中間インク容器30から取り出され、分配タンク24を介してプリントヘッド12に供給される。
【0047】
プリントヘッド12内でキャビテーション(気泡)が形成しないように、インクは、中間インク容器30から連続的に取り出され、脱気デバイス26に供給され、脱気ポンプ28を介して中間インク容器30に送り戻される。したがって、インクは、脱気回路内で連続的に搬送される。このプロセスでは、インクは、脱気デバイス26を通じて流れ、それによって、気体がインクから発散され、すなわち、インクが脱気される。発散したガスは、外に追い出すことができる。
【0048】
脱気デバイス26は、印刷の間だけでなく、印刷が中断している間も、プリントヘッド12を洗浄する間も、アクティブであることが意図されている。
【0049】
さらに、レベルセンサ39が中間インク容器30内に配置されており、このセンサは、インクレベルを測定し、インクの量が少なすぎる場合(インクレベルが制限値を下回る場合)、前記センサは、新鮮なインクがバッファリング容器18を介して中間インク容器30に供給されるように促す。キャビテーションによる印刷品質の低下がないように、中間インク容器30内に十分に脱気されたインクが常に存在しなければならない。
【0050】
中間インク容器30内のインクは過剰圧力下にあり、その結果、インクを十分な圧力でプリントヘッド12に輸送することができる。過剰圧力は、約0バール〜2バールの過剰圧力を発生させることができる圧力ポンプ40を介して発生される。インクが、ノズルの洗浄、脱気、又はプリントヘッド12の充填の目的で、中間インク容器30からプリントヘッド12にポンプ搬送される場合、これは、最大2バールの過剰圧力で行われる。印刷動作自体の間は、中間インク容器30内は大気圧(約0バール)となっている。
【0051】
アイドル状態のとき又は印刷動作の間、プリントヘッド12内のインクそれ自体は、わずかな陰圧下にある。望まれない様式で漏れるインク液滴は印字図形を損なうので、プリントヘッド12又はノズル導管からのインクの漏れ又は意図されない排出は、こうして防止される。このわずかな陰圧は、中間インク容器30内のインクレベルの高さ/レベルがプリントヘッド12内のインクレベル未満であるために生じる。したがって、中間インク容器30は、「背圧タンク」とも呼ばれる。
【0052】
特に、プリントヘッド12内のノズルの出口開口部を洗浄するために、プリントヘッド12は、洗浄位置(図示せず)へと移動され、又は、代わりにプリントヘッド12は、これらの「書き込み位置」付近に残っていることもでき、次いで、保護をもたらしインク用収集盆(collection basin)として作用するキャップ(図示せず)がノズル開口部の上に配置される。次いで、後続のすすぎプロセスにおいて、インクは、ノズル導管を通じて中間インク容器30からすすぎ出される。
【0053】
これは、アイドル状態のとき(ノズルが長期間使用されていない場合)にインクの粘度が上昇するためにノズル導管が閉塞された状態になるのを防止する。この場合、ノズル出口開口部を閉塞又は狭くする、存在する任意の粒子又は固化しつつあるインクの凝集塊がすすぎ出される。
【0054】
インクは、導管の予想される汚染物質を除去するために、ノズル導管から吸引することもでき、又はノズル導管内に押し出すことができる。
【0055】
洗浄のために、プリントヘッドを、本発明の方法を使用して又は本発明の洗浄液を使用して洗浄することができる。一方では、これは、少なくとも1種のセルラーゼ又はそれらの触媒活性誘導体を含み、システム及びプリントヘッドを通ってすすがれる洗浄液によって行うことができる。他方では、プリントヘッドは、例えば、システムから取り出された後、手作業で個々に洗浄することもできる。この場合、プリントヘッドは、少なくとも1種のセルラーゼ又はそれらの触媒活性誘導体を含む洗浄液中に置かれる。あるいは、プリントヘッドは、少なくとも1種のセルラーゼ又はそれらの触媒活性誘導体を含む洗浄液で浸された綿棒を使用して手作業で洗浄することもできる。
【0056】
したがって、本発明は、インクジェットプリントヘッド12を動作させるための方法において、後により詳細に説明される、
インクジェットプリントヘッド12を提供する工程と;
インクジェットプリントヘッド12を使用してインクで1つ又は複数の記録媒体10を印刷する工程と;
少なくとも1種のセルラーゼ又はそれらの触媒活性誘導体を含む第1の洗浄液を提供する工程と;
第1の洗浄液を使用してインクジェットプリントヘッド12を洗浄する工程と
を含む方法も含む。
【0057】
ある特定の実施形態では、インクジェットプリントヘッド12は、前記プリントヘッドが汚染又は閉塞されたとき、洗浄液を使用して洗浄される。インクジェットプリントヘッド12の汚染又は閉塞は、例えば記録媒体10上の印刷品質の低下の場合でも外観によって、又は対応して配置されたセンサなどの適切に配置された汚染及び/若しくは汚れ検出システムを使用して自動的に、インクジェット印刷システム内で特定することができる。洗浄は、インクジェット印刷システム内の複数のインクジェットプリントヘッド12において、好ましくは、個々のインクジェットプリントヘッド12の汚染又は閉塞に応じて、同時に又は異なる時に行うこともできる。
【0058】
したがって、インクジェットプリントヘッド12を動作させるための本発明の方法は、インクジェットプリントヘッド12を洗浄するための本発明の方法を包含し、したがって、インクジェットプリントヘッド12を洗浄するための本方法のすべての好ましい実施形態も包含することができる。
【0059】
すすぎプロセス及び洗浄プロセスは、インク及び/又は少なくとも1種のセルラーゼ若しくはそれらの触媒活性誘導体を含む洗浄液が、衝撃波で、過剰圧力下で出口開口部を備えるノズルを通じて完全にすすがれる場合、特に有効であることが証明された。プリントデバイスは、この目的のためのすすぎ/洗浄デバイスを含む。前記すすぎ/洗浄デバイスは、プログラム制御式制御デバイス41を備え、これは、制御ラインを介して圧力ポンプ40及びレベルセンサ31に一方の側で接続されている。制御デバイス41は、プログラム制御式評価デバイス42及び制御弁43に他方の側で接続されている。さらに、走査デバイス44をプリントヘッド12の領域に配置することができ、この走査デバイスは、ノズル12の出口開口部の汚れを検出し、汚れの程度を評価デバイス42に通知するのに使用される。走査デバイスは、例えば米国特許第6324353号B1から知られている、例えば市販の光走査デバイスである。
【0060】
ノズル12の汚れ並びに同時に予想される流れ障害及び動作不良を検出するために実行可能なさらなる事柄は、記録媒体(紙10)の領域内に追加の走査デバイス45を配置することにある。この追加の走査デバイス45は、印刷文字の印刷品質を検出し、評価デバイス42に通知するように構成されており、次いでこの評価デバイスは、印刷品質からノズル12の汚れの程度を計算する。
【0061】
この光走査デバイス45は、例えば米国特許第6665424号B1に従って設計することができる。1つ又は複数のノズルの破損も、この走査デバイスによって検出することができる。
【0062】
プリンタ内で洗浄する間、セルラーゼ又はその触媒活性誘導体が、後続の印刷の間、システム内にもはや存在しないことも有利であり、その理由は、さもなければ記録媒体が、印刷後に分解される可能性があるためである。この点において、好適な実施形態では、少なくとも1種のセルラーゼ又はそれらの触媒活性誘導体、すなわち第1の洗浄液は、洗浄後かつ印刷前にインクジェットプリントヘッド12内に存在しない。
【0063】
これは、このタイプの実施形態では、第1の洗浄液を使用してプリントヘッド12を洗浄した後、第1の洗浄液はプリントヘッドから除去されることを意味する。特に好ましくは、この場合、少なくとも1種のセルラーゼ又はそれらの触媒活性誘導体も同時にプリントヘッドから除去される。
【0064】
あるいは、少なくとも1種のセルラーゼ又はそれらの触媒活性誘導体は、追加の洗浄液を使用してすすぐことによって後続の印刷の前に除去することができる。この場合、この追加の洗浄液は、第2の洗浄液又は別の第3の洗浄液とすることができる。
【0065】
したがって、洗浄の間、プリントヘッド12が第2の洗浄液で最初にすすがれ、次いで第1の洗浄液を使用して洗浄され、その後、第3の洗浄液が供給され、プリントヘッド12が第3の洗浄液を使用してすすがれることを排除しない。この場合、第3の洗浄液は、第1又は第2の洗浄液として構成することができ、これは、好ましくはセルラーゼ又はその触媒活性誘導体をまったく含まない。
【0066】
さらに、なおさらなるすすぎ工程が、第1の洗浄液を使用して洗浄する前又は後に実施されることは、本発明によって排除されない。
【実施例】
【0067】
セルラーゼを含有する洗浄液を使用して、紙粉及びインク残渣で閉塞されたインクジェットプリントヘッドが洗浄された。このようにして閉塞物質を除去し、プリントヘッドのノズルを洗浄することが可能であった。
【0068】
比較例:
同様に閉塞されたインクジェットプリントヘッドにおいて、実施例1における方法に従って、いかなるセルラーゼも含有しなかった従来の洗浄液によって閉塞物質を除去することは可能でなかった。
【0069】
本発明は、インクジェットプリントヘッドの閉塞したノズル、特に、紙粉及びインク残渣によって汚染されたものが、有効に洗浄される方法を提供する。特に、これまでに使用された方法によって再生することができなかったプリントヘッドでさえ、プリントヘッドを有効に再生することができる。結果として、プリントヘッドの耐用年数が改善される。さらに、このタイプのプリントヘッドの動作は、より費用効果的である。
【0070】
上述した構成及び展開を、適切な場合、何らかの形で組み合わせることができる。本発明のさらに可能な構成、展開及び実施もまた、実施形態に関して上述され又は以下に記載された本発明の特徴の組合せを含むが、これらの組合せは、明示的には述べられていない。特に、当業者は、本発明のそれぞれの基本形式へ、改善又は付加として、個々の態様を追加するであろう。
【符号の説明】
【0071】
10 記録媒体、ペーパーウェブ
12 プリントヘッド
14 インク貯蔵容器
16 ポンプ
18 バッファリング容器
20 フィルタ
22 ポンプ
24 分配タンク
26 脱気デバイス
28 脱気ポンプ
30 中間インク容器
31 インク入口ライン
32 インク出口ライン
39 レベルセンサ
40 圧力ポンプ
41 制御デバイス
42 評価デバイス
43 磁気弁
44 走査デバイス
45 走査デバイス