特許第6207290号(P6207290)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6207290-スプリットレザーおよびその製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207290
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】スプリットレザーおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/02 20060101AFI20170925BHJP
   C14B 7/02 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   B32B9/02
   C14B7/02
【請求項の数】2
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-163964(P2013-163964)
(22)【出願日】2013年8月7日
(65)【公開番号】特開2015-30265(P2015-30265A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 道生
(72)【発明者】
【氏名】石川 英之
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−242900(JP,A)
【文献】 特開昭57−190100(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/061945(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 9/00− 9/06
C14B 1/00−99/00
D06N 1/00− 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床革の表面に目止め層および表皮層が順次積層されたスプリットレザーであって、
床革の密度が0.6〜1.1g/cmであり、
床革の表面に存在する凹部に選択的に、嵩高フィラー含有樹脂が充填され、
目止め層が、厚さが10μm以下であって、目止め層に含まれる樹脂がポリウレタン樹脂からなる層であり、
表皮層が、厚さ30〜70μmであって、表皮層に含まれる樹脂がポリウレタン樹脂およびアクリル樹脂からなる層であり、
嵩高フィラーが、比重0.03〜0.10g/cmの既膨張マイクロカプセルである、ことを特徴とするスプリットレザー。
【請求項2】
密度が0.6〜1.1g/cmである床革の表面に存在する凹部に嵩高フィラー含有樹脂を選択的に充填する工程と、
嵩高フィラー含有樹脂を充填した床革の表面に、目止め層に含まれる樹脂がポリウレタン樹脂からなる厚さが10μm以下の目止め層を積層する工程と、
積層した目止め層をアイロン掛けにより平滑化する工程と、
目止め層に、表皮層に含まれる樹脂がポリウレタン樹脂およびアクリル樹脂からなる厚さが30〜70μmの表皮層を積層する工程と、
を有し、嵩高フィラーが、比重0.03〜0.10g/cmの既膨張マイクロカプセルである、ことを特徴とするスプリットレザーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床革上に銀面調の表皮層を積層してなるスプリットレザー、およびその製造方法に関する。詳しくは、銀付き革のような質感と、高度な耐揉み性を兼ね備えたスプリットレザー、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本革は、高級感のある素材として、衣料、鞄、靴、インテリア資材、車両内装材など様々な分野で用いられている。とりわけ、銀面と呼ばれる表面を有するものは、外観(光沢、シボ、平滑性等)、風合い・触感(柔軟性、弾力性、ふくらみ、ぬめり感等)、折り曲げた際の皺入りなど、特有の質感(いわゆる「革らしさ」)が、消費者に好ましく受け入れられている。
【0003】
本革の原料となる動物の皮は、組織構造の異なる複数の層、具体的には、表皮層と真皮層と皮下組織とから構成されている。このうち、表皮層と皮下組織を取り除いた残りの真皮層が、鞣され、革として利用されている。なお、「鞣し」とは、コラーゲン繊維からなる皮の組織を固定、安定化し、耐久性(耐熱性、耐腐敗性、耐薬品性など)と革らしさを付与する工程であり、鞣していないものを「皮」といい、鞣したものを「革」といって区別している。
【0004】
真皮層は、さらに乳頭層と網状層とに分けることができる。乳頭層は、細いコラーゲン繊維束が緻密に詰まった構造をしている。表皮層を取り除いた後の乳頭層の表面が、銀面と呼ばれる部分であり、その状態が革の価値に大きく影響する。一方、網状層は、太いコラーゲン繊維束が不規則に枝分かれし、三次元的に粗く交絡している。真皮層は、通常、用途に応じて適当な厚さに分割して用いられ、銀面を有する側の皮(主に乳頭層からなる)を鞣して得られるものを銀付き革といい、銀面を有さない、肉面側(皮下組織側)の皮(床皮といい、主に網状層からなる)を鞣して得られるものを床革という。そして、銀付き革の表面に塗装を施して仕上げたものが、高級品として流通している。なお、銀付き革とは、銀面を有し、銀面上に、銀面を活かした各種の仕上げを行った革の総称である。
【0005】
一方、銀付き革と比較して革らしさに劣る床革は、商品価値が低く、安価に入手可能である。この床革の上に、合成樹脂からなる銀面調の表皮層を積層して銀付き革であるかのように仕上げたもの、いわゆるスプリットレザーが、銀付き革の代替品として用いられることがある。
【0006】
床革は、主に、繊維構造の粗い網状層から構成されているため、銀付き革の仕上げ方法をそのまま転用しても、満足のいく製品を得ることはできない。例えば、床革に樹脂液を直に塗付しても、樹脂液が内部に浸透して、柔軟性が損なわれてしまう。
【0007】
そこで、従来品の多くは、「離型紙転写法」と呼ばれる方法により製造されている。この方法では、先ず、銀面のシボに似せた凹凸模様を有する離型紙上に、樹脂液を塗布し、乾燥して表皮層を形成する。次いで、得られた表皮層を、接着剤を介して、床革に貼り合わせる。最後に、離型紙を剥離することにより、銀面調の表皮層と床革とを備えるスプリットレザーを得る。
【0008】
しかしながら、このようにして得られるスプリットレザーは、仕上がりがゴムライクとなり、天然素材を用いながらも、人工的な感じの強いものであった。また、床革の繊維構造の粗さに起因する表面の凹凸が、スプリットレザーの表面に影響を及ぼし、外観、特には平滑性が損なわれるという問題があった。さらに、折り曲げた際の皺入り(表皮層を内面にして折り曲げた際の、表皮層への皺の入り方)が、銀付き革のそれとは大きく異なるという問題があった。具体的には、銀付き革では細かく緻密な皺が入るのに対し、スプリットレザーでは大きく粗い皺が入ってしまう。これは、表皮層が床革に追従しきれないことが原因と考えられる。
【0009】
平滑性の問題を解消させるために表皮層を厚くすることが考えられるが、そうすると皺入りについては、かえって悪くなる傾向にある。
【0010】
このような問題に対し、例えば、特許文献1には、床革とウレタン系樹脂表皮との間に、接着剤を介して、合成樹脂緩衝層、好ましくは湿式樹脂微多孔層からなる緩衝層を有してなるスプリットレザーが記載されている。合成樹脂緩衝層が、床革の表面に存在する微妙な凹凸に対して緩衝作用を発現し、ウレタン系樹脂表皮に影響を及ぼすのを解消することにより、表面平滑性、外観均一性などの外観特性が優れたものとなる。また、合成樹脂緩衝層中に、湿式法により形成される縦長の連続気孔が存在することにより、本革に近似した良好な皺が入りやすくなる旨記載されている。
【0011】
また、特許文献2には、スプリットレザー(本願明細書における「床革」に相当する)からなる基材と、表皮層とを、接着剤を用いて貼り合わせてなるスプリットレザー製品であって、表皮層が、極細繊維から形成された絡合不織布と、その内部に含有された高分子弾性体との複合体からなるスプリットレザー製品が記載されている。絡合不織布が、本革におけるコラーゲン繊維のごとく、物理的強度を補強する作用を発揮することにより、表面外観だけでなく、折り曲げられたときに発生する皺等に基づく感性も、本革に近似させることができる。また、表皮層上に、さらに、銀面調の樹脂層を積層することにより、銀付き革に似た外観を付与することができる旨記載されている。
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載のものは、床革と合成樹脂緩衝層の間と、合成樹脂緩衝層とウレタン系樹脂表皮の間との2箇所に接着剤による層が存在するため、柔軟性が損なわれるという問題があった。また、合成樹脂緩衝層が好ましくは湿式樹脂微多孔層からなるため、耐揉み性等の耐摩耗性が十分でなく、産業資材、例えば、インテリア資材や車両内装材としての使用は困難であった。
【0013】
また、特許文献2に記載のものは、表皮層がいわゆる人工皮革であり、天然素材を用いながらも、その質感が十分に活かされていないものであった。銀面調の樹脂層を積層することにより、外観を銀付き革に近付けることができたとしても、銀付き革の柔軟性を再現することはできなかった。
【0014】
一方、銀付き革の仕上げに倣い、塗装により仕上げたスプリットレザーも知られている。
【0015】
例えば、特許文献3には、床革からなる基層と、基層上に有機フィラーまたは無機フィラーを配合したウレタン塗料を塗装してなる目止め層と、目止め層上にウレタン塗料を塗装してなる塗膜層とを有する、自動車内装品に適した本革材が記載されている。目止め層がウレタン塗料の床革内部への浸透を防止することにより、風合いが良好で、塗膜層との密着性もよく、自動車内装品に求められる耐摩耗性を確保することができる旨記載されている。
【0016】
また、特許文献4には、床革の表面にスタッコ剤を塗布した後、バフ掛けを行うことにより平滑化してなる床革の表面に、ベースコート層、カラーコート層およびトップコート層を設けてなる自動車用シート用皮革が記載されている。ここで、スタッコ剤とは、水性のウレタンバインダーをベースとする目止め剤であり、充填剤としてシリカを含んでなる。床革表面の平滑化が十分でない場合には、スタッコ剤の塗布とバフ掛けの操作を繰り返す。このように処理された床革では、平滑性の改善と適度な毛羽立ちに伴い塗膜層との接着力が増すため、耐摩耗性、強度、触感、美観などに優れた自動車用シート用皮革を得ることができる旨記載されている。
【0017】
しかしながら、いずれも、皺入りの問題に対して解決策を何ら教示してはいない。例えば、特許文献3に記載のものは、平滑性を向上させようとすると目止め層を厚くしなければならず、折り曲げた際に塗膜層が床革に追従できないため大きく粗い皺が入ってしまう。また、特許文献4に記載のものは、スタッコ剤を塗布した後バフすると表面が毛羽立つため平滑性が十分でなく、平滑性を向上させようとすると目止め層を厚くしなければならず、折り曲げた際に塗膜層が床革に追従できないため粗い皺が入ってしまう。またスタッコ剤の塗布とバフ掛けを繰り返すと工程負荷がかかる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平5−345384号公報
【特許文献2】国際公開WO2009/119551号パンフレット
【特許文献3】特開2010−82536号公報
【特許文献4】国際公開WO2011/61945号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたものであり、外観、柔軟性のみならず、折り曲げた際の皺入りまでも銀付き革と酷似し、しかも、産業資材として使用可能な高度な耐揉み性を有するスプリットレザー、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、第1に、
床革の表面に目止め層および表皮層が順次積層されたスプリットレザーであって、
床革の密度が0.6〜1.1g/cmであり、
目止め層が、厚さが10μm以下であって、目止め層に含まれる樹脂がポリウレタン樹脂からなる層であり、
表皮層が、厚さ30〜70μmであって、表皮層に含まれる樹脂がポリウレタン樹脂およびアクリル樹脂からなる層であり、
嵩高フィラーが、比重0.03〜0.10g/cmの既膨張マイクロカプセルである、ことを特徴とするスプリットレザーである。
第2に、
密度が0.6〜1.1g/cmである床革の表面に存在する凹部に嵩高フィラー含有樹脂を選択的に充填する工程と、
床革に目止め層に含まれる樹脂がポリウレタン樹脂からなる厚さが10μm以下の目止め層を積層する工程と、
積層した目止め層をアイロン掛けにより平滑化する工程と、
目止め層に表皮層に含まれる樹脂がポリウレタン樹脂およびアクリル樹脂からなる厚さが30〜70μmの表皮層を積層する工程と、
を有し、嵩高フィラーが、比重0.03〜0.10g/cmの既膨張マイクロカプセルである、ことを特徴とするスプリットレザーの製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、外観、柔軟性のみならず、折り曲げた際の皺入りまでも銀付き革と酷似し、しかも、産業資材として使用可能な高度な耐揉み性を有するスプリットレザー、およびその製造方法を提供することができる。本発明のスプリットレザーは、耐揉み性に優れるため、インテリア資材や車両内装材として、特に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明のスプリットレザーを模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0024】
本発明のスプリットレザーは、密度が0.6〜1.1g/cmである床革と、床革の表面に存在する凹部に選択的に充填された嵩高フィラー含有樹脂と、床革上に積層された、ポリウレタン樹脂からなり厚さが10μm以下である目止め層と、目止め層上に積層されたポリウレタン樹脂からなる表皮層と、を備えてなる。
【0025】
図1を用いて、本発明のスプリットレザー1を説明すると、床革2と、床革2の表面に存在する凹部に選択的に充填された嵩高フィラー含有樹脂3と、床革2上に積層された、ポリウレタン樹脂からなる目止め層4と、目止め層4上に積層されたポリウレタン樹脂からなる表皮層5とを備えている。
以下、本発明のスプリットレザーを構成する部材について、順に説明する。
【0026】
床革
本発明に用いられる床革は特に限定されるものでなく、原料として、例えば、牛、馬、山羊、羊、鹿、カンガルーなどに由来するものを挙げることができる。なかでも、汎用性が高く、面積が大きく、厚さのある牛皮を原料とするものが好ましい。生皮を乾燥したり塩漬けにしたりして腐敗を防いだものを原皮といい、この状態のものが製革工程に供される。
【0027】
製革工程は、大きく、鞣し工程、染色工程、仕上げ工程に分けられ、さらに細かく、次のように分けられる。
鞣し工程;原皮、水漬け・背割り、裏打ち、脱毛・石灰漬け、分割、再石灰漬け、脱灰・酵解、浸酸、鞣し
染色工程;水戻し、水絞り・選別、シェービング、再鞣し、染色・加脂、セッティングアウト、乾燥、味取り、ステーキング(揉み、叩き)、張り乾燥、銀むき
仕上げ工程;バフ掛け、塗装、アイロン掛け・型押し、艶出し
【0028】
個々の工程については改良が進められているものの、技術的におおよそ定まった工程であるといってよく、当業界において公知である。これらは、銀付き革を製造する場合も、床革を製造する場合も、基本的には同じである。もっとも、一部順序が変わったり、省略されたり、あるいは、他の工程に置き換わったりする場合がある。例えば、離型紙転写法による床革・スプリットレザーの製造では、仕上げ工程、特に塗装以降の工程がこれらと異なる点については、前記した通りである。本発明の特徴も、塗装以降の工程にあるといえる。
【0029】
床皮は、鞣し工程における分割により得られる。裏打ち、脱毛・石灰漬けにより、表皮層と皮下組織を取り除いた後、銀面側(主に乳頭層からなる)と肉面側(主に網状層からなる)とに分割する。肉面側の皮が床皮である。必要に応じて、床皮を、さらに厚さ方向に分割してもよい。なお、鞣し工程の後に分割する場合もある。鞣し工程を経たものを「床革」と呼び、鞣していない「床皮」とは区別される。
【0030】
その後、鞣し工程を経て得られた床革は、仕上げ工程に送られる。塗装前のバフ掛けは、床革の表面を削り取ることで、表面を平滑化し、個体差や部位差、傷などの外観品位に影響を及ぼす要素を取り除き、均一化するために行われる。とはいえ、バフ掛けを経た後も、床革の表面には、毛羽と毛羽の間に生じる空間によって形成される凹部が存在する。凹部の深さは10〜200μmである。本発明は、この凹部を埋めて平滑化した後、目止め層を積層し、しかる後に、銀付き革と同様の塗装を施して表皮層を積層することを要旨とするものである。
【0031】
バフ掛けに用いられるサンドペーパーは180〜600番手であることが好ましい。バフ掛けの加工速度は3〜8m/分であることが好ましい。また、バフ掛けは複数回行うことが好ましく、1回目のバフ掛けには粗いサンドペーパーを用い、仕上げのバフ掛けには細かいサンドペーパーを用いることが好ましい。
【0032】
バフ掛けを経た後の床革の厚さは、1.0〜2.0mmであることが好ましく、より好ましくは1.0〜1.4mmである。厚さが1.0mm未満であると、スプリットレザーを製造する際に、床革を構成する繊維間の空隙が失われ、スプリットレザーの柔軟性を得にくくなったり、また、スプリットレザーを折り曲げた際に、スプリットレザーの内径差が小さいために表皮層が床革に追従できず、大きく粗い皺が入ったりする虞がある。
厚さが2.0mmを超えると、スプリットレザーの柔軟性が損なわれたり、また、柔軟性が損なわれることにより、折り曲げた際に表皮層が床革に追従できず、大きく粗い皺が入ったりする虞がある。
【0033】
床革の厚さは、床革を背線に平行方向(タテ)に3等分、背線に垂直方向(ヨコ)に3等分して分割した9点の厚さを測定し、これの平均値を算出して求められる。
【0034】
床革の密度は、0.6〜1.1g/cmであることが求められ、好ましくは0.7〜0.9g/cmである。密度が0.6g/cm未満であると、スプリットレザーの耐久性、特には引張強度、引裂強度が損なわれ、産業資材としての使用に堪えない。密度が1.1g/cmを超えると、スプリットレザーの柔軟性が損なわれ、また、柔軟性が損なわれることにより、折り曲げた際に表皮層が床革に追従できず、大きく粗い皺が入ってしまう。
【0035】
床革表面の凹部に選択的に充填された嵩高フィラー含有樹脂
本発明においては、床革の表面に存在する凹部に、嵩高フィラーを含有する樹脂を選択的に充填することが肝要である。ここで、「嵩高フィラー」とは、樹脂より比重が小さいフィラーのことである。また、「選択的に充填」とは、床革表面の全面ではなく、凹部にのみ、嵩高フィラー含有樹脂を付与することを意味する。嵩高フィラーにより嵩高性を高くした樹脂が、床革表面の凹部にのみ付与されることにより、凹部が隠蔽され、表面が平滑化される。こうして、床革表面に存在していた凹部がスプリットレザーの外観に影響を及ぼすのを解消するとともに、スプリットレザーを折り曲げた際の皺入りが細かく緻密な銀付き革と酷似したものとなる。また、嵩高フィラー含有樹脂の付与量が最小限に抑えられるため、スプリットレザーの柔軟性が損なわれることもない。
【0036】
凹部の充填に用いられる樹脂は特に限定されるものでなく、本革用として一般に用いられている樹脂を適宜選択して用いることができる。具体的には、耐久性の観点からポリウレタン樹脂、柔軟性の観点からポリアクリル樹脂が挙げられる。
【0037】
また、樹脂の形態は、無溶剤系(無溶媒系)、ホットメルト系、溶剤系、水系を問わず、さらには、一液型、二液型を問わず使用可能であり、目的と用途に応じて適宜選択すればよい。なかでも、柔軟性の点から、水系の一液型が好ましい。一液型樹脂は、通常、水に乳化分散(エマルジョンタイプ)または有機溶剤に溶解させた形で市販されているが、環境負荷の観点から、エマルジョンタイプが好ましく用いられる。
【0038】
本発明で用いられる嵩高フィラーは、嵩高フィラーと混合する樹脂よりも比重が小さいフィラーが用いられる。具体的には、既膨張マイクロカプセル、皮革粉などが挙げられる。
【0039】
フィラーの平均粒子径は、10〜150μmであることが好ましく、さらには20〜100μmであることが好ましい。10μm未満の場合、嵩高性に乏しいため、平滑性、柔軟性が損なわれる虞がある。150μmを超える場合、凹部の細部にまで十分にフィラー含有樹脂が行き渡らない虞がある。
フィラーの比重は、0.03〜0.10g/cmであることが好ましい。
フィラーの含有量は、樹脂に対して、固形分換算で10〜20%であることが好ましい。
さらに、フィラー含有樹脂の比重は、0.8〜0.95g/cmであることが好ましい。
【0040】
樹脂は、必要に応じて、樹脂の物性を損なわない範囲内で、ウレタン化触媒、シランカップリング剤、充填剤、チキソ付与剤、粘着付与剤、ワックス、熱安定剤、耐光安定剤、染料、顔料、難燃剤、透湿性向上剤、結晶水含有化合物、吸水剤、吸湿剤、整泡剤、消泡剤、防黴剤、防腐剤、顔料分散剤、ブロッキング防止剤、加水分解防止剤、触媒、架橋剤、平滑剤、艶消し剤、触感向上剤、スリップ向上剤、増粘剤、タック防止剤、レベリング剤などの添加剤を含んでいてもよい。
また、必要に応じて溶媒を含み、液状の樹脂液として使用する。
【0041】
床革表面の凹部に嵩高フィラー含有樹脂を選択的に充填する具体的な方法としては、床革表面の全面に嵩高フィラー含有樹脂液を塗布し、熱処理して床革表面の全面を覆う樹脂層を一旦形成した後、バフ掛けを行い凸部の余分な樹脂を削り取る方法が挙げられる。
【0042】
嵩高フィラーを含有する樹脂液の塗布には、例えば、リバースロールコーター、ロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、ナイフコーター、コンマコーター、などの装置などの装置を特に制限なく用いることができる。なかでも、樹脂液を凹部に塗布し、かつ、余分な樹脂液を掻き取るという点で、リバースロールコーターによる塗布が好ましい。
【0043】
樹脂液の塗布後、必要に応じて熱処理をする。熱処理は、樹脂液中の溶媒を蒸発させ、樹脂を乾燥させたり、樹脂を硬化させたりするために行われる。
【0044】
床革の過剰な水分蒸発を防ぐため、熱処理は、床革自体が80℃以上の温度にならないように行うことが好ましい。そのため、熱処理温度は50〜120℃であることが好ましく、より好ましくは60〜100℃である。熱処理温度が50℃未満であると、乾燥が不十分となって、耐揉み性が損なわれる虞がある。熱処理温度が120℃を超えると、スプリットレザーの柔軟性が損なわれる虞がある。
【0045】
また、熱処理時間は2〜20分間であることが好ましく、より好ましくは2〜10分間である。熱処理時間が2分間未満であると、乾燥が不十分となって、耐揉み性が損なわれる虞がある。熱処理時間が20分間を超えると、床革から水分が過剰に失われることにより、床革が収縮して好ましくない皺が発生したり、スプリットレザーの柔軟性が損なわれたりする虞がある。
【0046】
熱処理した後、樹脂層表面に対しバフ掛けを行い余分な樹脂を削り取る。
本発明において、バフ掛けは、サンドペーパーを用いるバフィングマシンを用いて行うことができる。
バフ掛けに用いられるサンドペーパーは320〜600番手であることが好ましい。バフ掛けの加工速度は3〜8m/分であることが好ましい。
【0047】
ポリウレタン樹脂からなる目止め層
本発明のスプリットレザーは、嵩高フィラー含有樹脂を床革表面の凹部に選択的に充填した後の床革上に、ポリウレタン樹脂からなる目止め層と、ポリウレタン樹脂からなる表皮層とを順に積層してなるものである。本発明の目止め層は、表面をさらに平滑にするとともに、表皮層の形成に用いられるポリウレタン樹脂液が床革内部に浸透するのを防止するために設けられる樹脂層である。ポリウレタン樹脂液の床革内部への浸透が防止されることにより、スプリットレザーの柔軟性を良好に保持することができる。
【0048】
目止め層の厚さは、10μm以下であることが求められ、好ましくは1μm以下である。厚さが10μmを超えると、スプリットレザーの柔軟性が損なわれたり、また、柔軟性が損なわれることにより、折り曲げた際に表皮層が床革に追従できず、大きく粗い皺が入ったりする虞がある。したがって、目止め層は薄く形成することが好ましい。
【0049】
目止め層は、強度の面から、引張強さが6〜10MPa、かつ引張ひずみが300〜500%、かつ100%ひずみ時引張応力が1MPa以下であると好ましい。
引張強さ、引張ひずみ、及び、100%ひずみ時引張応力の測定はJIS K7127に準じ行う。
【0050】
目止め層の形成に用いられるポリウレタン樹脂は特に限定されるものでなく、本革用として一般に用いられているポリウレタン樹脂を適宜選択して用いることができる。後述する表皮層の形成に用いられるポリウレタン樹脂と同様の樹脂が挙げられる。
【0051】
ポリウレタン樹脂には、必要に応じて、ポリウレタン樹脂の物性を損なわない範囲内で、充填剤、平滑剤、他の樹脂分を添加してもよい。また、必要に応じて溶媒を含み、液状のポリウレタン樹脂液として使用する。
【0052】
ポリウレタン樹脂液の塗布は、均一で薄い塗膜の形成が可能であるという理由から、スプレーコーターによる塗布が好ましい。
床革上にポリウレタン樹脂液を塗布し熱処理することにより、床革上に目止め層が積層される。
【0053】
床革の過剰な水分蒸発を防ぐため、熱処理は、床革自体が80℃以上の温度にならないように行うことが好ましい。そのため、熱処理温度は50〜120℃であることが好ましく、より好ましくは60〜100℃である。熱処理温度が50℃未満であると、乾燥が不十分となって、耐揉み性が損なわれる虞がある。熱処理温度が120℃を超えると、スプリットレザーの柔軟性が損なわれる虞がある。
【0054】
また、熱処理時間は2〜20分間であることが好ましく、より好ましくは2〜10分間である。熱処理時間が2分間未満であると、乾燥が不十分となって、耐揉み性が損なわれる虞がある。熱処理時間が20分間を超えると、床革から水分が過剰に失われることにより、床革が収縮して好ましくない皺が発生したり、スプリットレザーの柔軟性が損なわれたりする虞がある。
【0055】
次いで、アイロン掛けを行う。アイロン掛けは、目止め層に熱と圧力を加えることで、表面をより平滑化するために行われる。この平滑化工程により、薄くて平滑な目止め層が形成できる。
アイロン掛けは、平滑なロールにて加熱押厚する装置を用いて行う。アイロン掛けの温度(ロールの温度)は60〜80℃であることが好ましい。圧力は30〜50kg/cmであることが好ましい。加工速度(搬送速度)は5〜10m/分であることが好ましい。
【0056】
ポリウレタン樹脂からなる表皮層
表皮層は、通常、ベースコート層、カラーコート層およびトップコート層からなる。インテリア資材や車両内装材などの産業資材用としては、ポリウレタン仕上げが一般的である。
【0057】
ベースコート層は、層厚さを調整するとともに、色調整を補助するための樹脂層である。
カラーコート層は、色調整を行うための樹脂層である。
トップコート層は、耐揉み性を向上させるための樹脂層である。
なお、表皮層は、必ずしも3つの層から構成されるわけではなく、ある樹脂層が他の樹脂層の役割を兼ねる場合もある。逆に、各樹脂層の間に、さらなる樹脂層が形成される場合もある。
【0058】
表皮層の厚さは、30〜70μmであることが求められ、好ましくは30〜50μmである。厚さが30μm未満であると、縫製時や内装用途で使用時、押圧した際に床革表面の毛羽が表皮層に浮き出て外観が損なわれる虞がある。厚さが70μmを超えると、スプリットレザーの柔軟性が損なわれたり、また、柔軟性が損なわれることにより、折り曲げた際に表皮層が床革に追従できず、大きく粗い皺が入ったりする虞がある。
【0059】
各層の厚さの好ましい範囲は、ベースコート層の厚さが15〜40μmであり、カラーコート層の厚さが5〜20μmであり、トップコート層の厚さが10〜20μmである。
【0060】
表皮層の形成に用いられるポリウレタン樹脂は特に限定されるものでなく、本革用として一般に用いられているポリウレタン樹脂を適宜選択して用いることができる。なかでも、耐久性および耐光性の点からポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が好ましい。また、ベースコート層、カラーコート層で有れば、風合いの観点から、水系の一液型樹脂が好ましく、トップコート層で有れば、耐久性の観点から、水系の二液型樹脂が好ましい。
【0061】
ポリウレタン樹脂は、必要に応じて、ポリウレタン樹脂の物性を損なわない範囲内で、他の樹脂分、充填剤、粘着防止剤、着色剤、艶消し剤、レベリング剤、増粘剤を含むことができる。また、トップコート層では、更に架橋剤、触感向上剤を含むことができる。
また、必要に応じて溶媒を含み、液状のポリウレタン樹脂液として使用する。
【0062】
目止め層上に表皮層を積層するには、まず、ベースコート層形成用のポリウレタン樹脂液を目止め層上に塗布し、熱処理して、ベースコート層を形成する。同様に塗布と熱処理を行い、カラーコート層およびトップコート層をベースコート層上に順次積層する。熱処理の条件は、目止め層を形成する熱処理条件と同様の範囲である。
【0063】
ポリウレタン樹脂液の塗布には、例えば、スプレーコーター、リバースロールコーター、ロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、ナイフコーター、コンマコーター、T−ダイコーターなどの装置などの装置を特に制限なく用いることができる。なかでも、均一で薄い塗膜の形成が可能であるという理由から、リバースロールコーターまたはスプレーコーターによる塗布が好ましい。とりわけ、スプレーコーターによれば極めて薄い塗膜の形成が可能である。
【0064】
本発明のスプリットレザーには、必要に応じて、型押し、ステーキング(揉み、叩き)などを施すことができる。これらは、どのタイミングで行ってもよい。
【0065】
型押しは、表皮層の表面に凹凸模様、特にはシボ模様を付与するために行われる。銀付き革に特有のシボと呼ばれる凹凸模様を付与することにより、スプリットレザーの外観を銀付き革により近付けることができる。また、折り曲げた際に凹部(溝)が皺入りの起点となって、皺が入りやすくなる。凹凸模様はシボ模様に限定されるものではなく、例えば、幾何学模様、石目模様、布目模様、花柄模様、水玉模様、キャラクターなどであってもよく、これによりデザイン性を向上させることができる。型押しには、従来のエンボス装置を制限無く用いることができる。エンボス型は、ロール状のもの(エンボスロール)であっても、平板状のもの(エンボス板)であってもよい。なかでも連続加工性に優れるという観点から、ロール状のもの(エンボスロール)が好ましい。
型押しの温度は60〜80℃であることが好ましい。圧力は100〜250kg/cmであることが好ましい。加工速度は3〜8m/分であることが好ましい。
【0066】
表皮層の表面にシボ模様を付与するとき、凹部の深さ(最大断面高さ:Pt)は90〜140μmであることが好ましく、より好ましくは100〜120μmである。深さが90μm未満であると、スプリットレザーの外観がゴムライクとなったり、折り曲げた際に皺が入りにくくなったりする虞がある。深さが140μmを超えると、折り曲げた際に凹部に沿って大きく粗い皺が入る虞がある。
最大断面高さ:Ptとは、工業製品の表面粗さを表すパラメータのひとつであり、断面曲線における最大高さ(μm)を指す。
なお、他の凹凸模様は、それ単独で付与されることは少なく、シボ模様と組み合わせて付与されることが多い。通常、シボ模様よりも深く明瞭な凹部が付与される。
【0067】
かくして、本発明のスプリットレザーを得ることができる。
本発明のスプリットレザーは、柔軟性に優れたものであり、例えば、BLC値を指標としたとき、2.0〜5.0mmであることが好ましく、より好ましくは3.0〜4.5mmである。ここで、BLC値とは、触感計測機ST300 Leather Softness Tester(MSA ENGINEERING SYSTEMS Ltd.製)を用いて求められる値であり、数値が大きいほど、柔軟性に優れていることを意味する。BLC値が2.0mm未満であると、柔軟性が十分でなく、折り曲げた際に表皮層が床革に追従できず、大きく粗い皺が入る虞がある。BLC値が5.0mmを超えると、過度に柔軟であることにより耐揉み性が損なわれたり、形状保持性が悪く恒常的な歪みが生じたりする虞がある。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。実施例中の「部」は質量基準であるものとする。
各評価項目は、以下の方法に従った。
【0069】
[柔軟性]
150mm四方の大きさの試験片を1枚採取し、ST300 Leather Softness Tester(BLC Leather Technology Center Ltd.製)を用いて、500gの荷重で押し込んだときの歪み測定値(BLC値)を測定し、下記基準に従って判定した。
◎:3.0mm以上
○:2.5mm以上、3.0mm未満
△:2.0mm以上、2.5mm未満
×:2.0mm未満
【0070】
[皺入り]
折り曲げた際の皺入り(表皮層を内面にして手で3秒折り曲げた際の、表皮層への皺の入り方)を下記の基準に従って、評価した。
◎:銀付き革と遜色ない緻密な皺が入る
○:やや緻密な皺が入る
△:大きく粗い皺が入る
×:皺がほとんど入らない
【0071】
[外観]
賦型性、ざらつき感、平滑性を下記の基準に従って、視認にて評価した。
◎:賦型性が良くシボの表現に優れ、表面のざらつき感が無く、平滑性が良い
○:賦型性がやや良くシボが表現され、表面のざらつき感が無く、平滑性が良い、
または、賦型性が良くシボの表現に優れ、表面のざらつき感が若干あり、平滑性がやや悪い
△:賦型性が悪くシボ表現が不良であるが、表面のざらつき感が無く、平滑性が良い
または、賦型性がやや悪いが、表面のざらつき感が若干あり、平滑性がやや悪い
×:賦型性が悪くシボ表現が不良であり、表面のざらつきがあり、平滑性が悪い
【0072】
[耐揉み性]
幅25mm、長さ120mmの大きさでタテ、ヨコ各方向からそれぞれ2枚ずつ試験片を採取する。同一方向の2枚の試験片について、その表面側を内側にして重ね合わせ、スコット型耐もみ摩耗試験機(大栄科学精器製作所製)のつかみ具の間隔を15mmとして試験片を取り付ける。2枚の試験片が互いに開いて分離した状態となるように、つかみ具の間隔を次第に狭め、試験片同士の表面が軽く触れてから荷重をかけて、荷重が9.8Nとなるまでその間隔を狭める。ストロークを40mmとし、120回/分サイクルにて1000回毎に塗膜の状態を確認し、最大6000回までもみ操作を行った。
塗膜剥がれが発生したもみ回数を耐揉み性の評価とした。
【0073】
[実施例1]
(1)床革の調製
原皮として銀面層が取り除かれた成牛皮を用いた。なお、染色は表皮層と同系色になるように行った。
【0074】
(2)バフ掛け
(1)で得られた床革の表面に、バフィングマシン(「機械名ENDLESS BAND BUFFING MACHINE SN180、ALETTI製)を用いて、180番手のサンドペーパーを用いて、回転速度1000rpm、加工速度5m/分で、1回バフ掛けした後、400番手のサンドペーパーを用いて、回転速度1000rpm、加工速度5m/分で、1回バフ掛けした。
得られた床革の厚さは1.2mm、密度は0.8g/cmであった。
【0075】
(3)嵩高フィラー含有樹脂による凹部の充填
[処方1]
1)商品名「Melio Aquabase HF」;900部
(嵩高フィラー含有ポリアクリル樹脂、固形分23.5%、フィラーの種類:既膨張マイクロカプセル、フィラーの平均粒子径50μm、フィラーの比重0.05g/cm
2)商品名「Melio Resin A712」;50部
(ポリアクリル樹脂、固形分19.5%)
3)商品名「Aqualen TOP 2020A」;50部
(ポリウレタン樹脂、固形分30.5%)

原料は、全てクラリアント株式会社製である。
【0076】
処方1に従い、各原料をミキサーにて混合し、充填用塗料を調製した。
塗料における樹脂に対するフィラーの含有量は15%、塗料の全体の比重は、乾燥時に0.85g/cmとなるものであった。
【0077】
(2)で得られた床革の表面に、リバースロールコーター(商品名「JUMBOSTAR−SR」、Ge.Ma.Ta.SpA製)を用いて、充填用塗料を、ウェット塗布量が100g/mになるように塗布し、80℃に調整した乾燥機内に3分間静置して熱処理した。
【0078】
(4)バフ掛け
(3)で得られた床革の表面に、バフィングマシン(「機械名ENDLESS BAND BUFFING MACHINE SN180、ALETTI製)を用いて、400番手のサンドペーパーを用いて、回転速度1000rpm、加工速度5m/分で、1回バフ掛けした。
バフ掛けにより凸部の樹脂は削り取られ、嵩高フィラー含有樹脂が床革表面の凹部に選択的に充填された状態であった。
【0079】
(5)目止め層の形成
[処方2]
1)商品名「Melio Promul 59」;150部
(ポリウレタン樹脂、固形分32.5%)
2)商品名「Aqualen TOP 2020A」;150部
(ポリウレタン樹脂、固形分30.5%)
3)水;750部

原料は、水を除き全てクラリアント株式会社製である。
【0080】
処方2に従い、各原料をミキサーにて混合し、目止め層形成用塗料を調製した。このとき、カップ粘度計NK−2(アネスト岩田株式会社製)を用いて、粘度が18秒になるように、増粘剤で調整した。
【0081】
(4)で得られた床革の表面に、スプレーコーター(商品名「TU ROT.3400/1.41」、BARNINI Srl製)を用いて、目止め層形成用塗料を、ウェット塗布量が30g/mなるよう塗布し、100℃に調整した乾燥機内に3分間静置して熱処理した。
【0082】
なお、目止め層の引張強さは8.5MPa、引張ひずみは426%、100%ひずみ時引張応力は0.6MPaであった。測定は、JIS K7127に準じ、目止め層形成用塗料から作成したフィルム(厚さ30μm)を試験片とし、試験片の形状と寸法は試験片タイプ2を用い、幅を25mm、チャック間を50mm、試験速度を100mm/分にして行った。
【0083】
(6)アイロン掛け
(5)で得られた目止め層の表面に、エンボス機(商品名「KOMBIPRESS−1800NE」、BERGI ofb s.p.a製)を用いて、70℃、圧力:40kgf/m、加工速度:7m/分で、アイロン掛けを行い、目止め層の表面を平滑にした。得られた目止め層の厚さは、0.5μmであった。
【0084】
(7)ベースコート層の形成
[処方3]
1)商品名「Melio Promul 59」;50部
(ポリウレタン樹脂、固形分32.5%)
2)商品名「Aqualen TOP 2020A」;150部
(ポリウレタン樹脂、固形分30.5%)
3)商品名「EUDERM Black B−N」;150部
(顔料、固形分23%)
4)商品名「Melio Mattpaste C」;140部
(艶消し剤、固形分26%)
5)商品名「Melio Ground BG」;80部
(タック防止剤、固形分23.5%)
6)商品名「Melio Wax 178」;30部
(タック防止剤、固形分20%)
7)商品名「Relca Wax Top B」;40部
(ワックス、固形分15%)
8)商品名「Aqualen Top D−2019」;70部
(艶消し剤、固形分24%)
9)商品名「Melio 03−F−95」;300部
(ポリウレタン樹脂、固形分34%)
10)商品名「Melio 02−W−53」;100部
(アクリル樹脂、固形分35%)
11)商品名「Melio LV−03」;30部
(レベリング剤、固形分10%)
12)商品名「Melio WF−5238」;10部
(触感向上剤、固形分50%)
13)水;100部

原料は、水を除き全てクラリアント株式会社製である。
【0085】
処方3に従い、各原料をミキサーにて混合し、ベースコート層形成用塗料を調製した。このとき、カップ粘度計NK−2(アネスト岩田株式会社製)を用いて、粘度が50秒になるように、増粘剤で調整した。
【0086】
(6)で得られた目止め層の表面に、リバースロールコーター(商品名「JUMBOSTAR−SR」、Ge.Ma.Ta.SpA製)を用いて、ベースコート層形成用塗料を、ウェット塗布量が100g/mになるように塗布し、100℃に調整した乾燥機内に3分間静置して熱処理した。ベースコート層の厚さは、28μmであった。
【0087】
(8)型押し
(7)で得られた中間製品に対し、エンボス機(商品名「KOMBIPRESS−1800NE」、BERGI ofb s.p.a製)を用いて、ロール温度90℃、圧力150kgf/m、加工速度5m/分の条件で、型押しを行い、シボ模様を付与した。
シボ模様の深さ(最大断面高さ)を測定した結果、114μmであった。
【0088】
(9)カラーコート層の形成
[処方4]
1)商品名「Melio Promul 59」;50部
(ポリウレタン樹脂、固形分32.5%)
2)商品名「Aqualen TOP 2020A」;70部
(ポリウレタン樹脂、固形分30.5%)
3)商品名「EUDERM Black B−N」;150部
(顔料、固形分23%)
4)商品名「Melio Mattpaste C」;140部
(艶消し剤、固形分26%)
5)商品名「Melio Ground BG」;50部
(タック防止剤、固形分23.5%)
6)商品名「Relca Wax Top B」;30部
(ワックス、固形分15%)
7)商品名「Aqualen Top D−2019」;100部
(艶消し剤、固形分24%)
8)商品名「Melio 03−F−95」;300部
(ポリウレタン樹脂、固形分34%)
9)商品名「Melio 02−W−53」;100部
(アクリル樹脂、固形分35%)
10)商品名「Melio LV−03」;30部
(レベリング剤、固形分10%)
11)商品名「Melio WF−5238」;10部
(触感向上剤、固形分50%)
12)水;200部

原料は、水を除き全てクラリアント株式会社製である。
【0089】
処方4に従い、各原料をミキサーにて混合し、カラーコート層形成用塗料を調製した。このとき、カップ粘度計NK−2(アネスト岩田株式会社製)を用いて、粘度が25秒になるように、増粘剤で調整した。
【0090】
(8)の工程を経た中間製品の表面に、スプレーコーター(商品名「TU ROT.3400/1.41」、BARNINI Srl製)を用いて、カラーコート層形成用塗料を、ウェット塗布量が25g/mとなるよう塗布し、80℃に調整した乾燥機内に3分間静置して熱処理した。
カラーコート層の厚さは、7.5μmであった。
【0091】
(10)トップコート層の形成
[処方5]
1)商品名「Aqualen Top D−2019」;150部
(艶消し剤、固形分24%)
2)商品名「Aqualen TOP 2007A」;80部
(ポリウレタン樹脂、固形分20%)
3)商品名「EUDERM Black B−N」;20部
(顔料、固形分23%)
7)商品名「Melio 09−L−37」;100部
(ポリウレタン樹脂、固形分32%)
8)商品名「Melio WF−5241」;30部
(触感向上剤、固形分30%)
9)商品名「Melio WF−5238」;70部
(触感向上剤、固形分50%)
10)商品名「Aqualen Top DP−2100」;300部
(ポリウレタン樹脂、固形分27.5%)
11)商品名「Melio WF−5227A」;20部
(触感向上剤、固形分44%)
12)商品名「Melio LV−03」;30部
(レベリング剤、固形分10%)
13)水;150部

原料は、水を除き全てクラリアント株式会社製である。
【0092】
処方5に従い、各原料をミキサーにて混合し、トップコート層形成用塗料を調製した。このとき、カップ粘度計NK−2(アネスト岩田株式会社製)を用いて、粘度が25秒になるように、増粘剤で調整した。
【0093】
(9)で得られた中間製品の表面に、スプレーコーター(商品名「TU ROT.3400/1.41」、BARNINI Srl製)を用いて、トップコート層形成用塗料を、ウェット塗布量が1回目、2回目とも25g/mとなるよう塗布し、各80℃に調整した乾燥機内に3分間静置して熱処理した。
トップコート層の厚さは、15.5μmであった。
表皮層全体の厚さは、50.5μmであった。
かくして、実施例1のスプリットレザーを得た。
なお、得られたスプリットレザーのシボ模様の深さ(最大断面高さ)を測定した結果、111μmであった。
【0094】
実施例2、比較例1〜2は、バフ掛け、目止め層の形成、および、アイロン掛けを表1に基づいて行った以外は、全て実施例1と同様にして、スプリットレザーを得た。
実施例および比較例にて得られたスプリットレザーのシボ模様深さおよび前述した評価項目の評価結果を表1に示す。
【0095】
【表1】
【符号の説明】
【0096】
1 … スプリットレザー
2 … 床革
3 … 嵩高フィラー含有樹脂
4 … 目止め層
5 … 表皮層
図1