特許第6207310号(P6207310)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友理工株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6207310-ダストカバー 図000002
  • 特許6207310-ダストカバー 図000003
  • 特許6207310-ダストカバー 図000004
  • 特許6207310-ダストカバー 図000005
  • 特許6207310-ダストカバー 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207310
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】ダストカバー
(51)【国際特許分類】
   F16J 3/04 20060101AFI20170925BHJP
   F16J 15/52 20060101ALI20170925BHJP
   F16F 9/38 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   F16J3/04 B
   F16J15/52 Z
   F16F9/38
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-189060(P2013-189060)
(22)【出願日】2013年9月12日
(65)【公開番号】特開2015-55298(P2015-55298A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】松村 浩幸
【審査官】 杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/072958(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/157567(WO,A1)
【文献】 特開2003−004084(JP,A)
【文献】 特開2013−002507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 3/04
F16J 15/52
F16F 9/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周側に凹となる主谷部の複数を連設した蛇腹筒部を有するダストカバーにおいて、
前記主谷部が外周に行くに従って軸方向外側に傾斜する一組の傾斜壁部を備えており、該傾斜壁部の外周部分の傾斜角度が内周部分の傾斜角度よりも小さくされていると共に、該傾斜壁部の該外周部分と該内周部分とが何れも直線的な形状とされていることを特徴とするダストカバー。
【請求項2】
軸方向に隣り合う二つの前記主谷部の間には、該主谷部よりも浅底の凹形状を呈する副谷部が設けられている請求項1に記載のダストカバー。
【請求項3】
前記蛇腹筒部が外周側に行くに従って次第に薄肉とされている請求項1又は2に記載のダストカバー。
【請求項4】
一組の前記傾斜壁部には一方から他方に向かって突出する当接突起が形成されている請求項1〜3の何れか1項に記載のダストカバー。
【請求項5】
前記当接突起が、前記傾斜壁部の前記外周部分に形成されている請求項4に記載のダストカバー。
【請求項6】
前記蛇腹筒部の収縮前の初期状態における前記傾斜壁部の前記内周部分の傾斜角度が35°〜55°とされている請求項1〜の何れか1項に記載のダストカバー。
【請求項7】
前記蛇腹筒部の収縮前の初期状態における前記傾斜壁部の前記外周部分の傾斜角度と前記内周部分の傾斜角度の差が、5°〜30°とされている請求項1〜の何れか1項に記載のダストカバー。
【請求項8】
前記傾斜壁部の前記外周部分と前記内周部分とが、軸方向断面において境界で折れ曲がるように連続している請求項1〜7の何れか一項に記載のダストカバー。
【請求項9】
前記蛇腹筒部の収縮前の初期状態における前記傾斜壁部の前記外周部分の径方向寸法:r2 が、前記内周部分の径方向寸法:r1 に対して、r1 /3≦r2 ≦r1 とされている請求項1〜8の何れか一項に記載のダストカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車のサスペンション機構を構成するショックアブソーバのピストンロッドなどを覆って、砂塵や水などの付着を防止するダストカバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、砂塵や水などといった異物の付着を防止するダストカバーが知られており、例えば、ショックアブソーバに外挿されて、ピストンロッドの突出部分の周囲を覆うことで、ピストンロッドへの異物の付着を防止するため等に用いられている。ダストカバーは、全体として、ゴム弾性体や合成樹脂等で形成された薄肉筒状とされており、外周側に凹となる主谷部の複数を連設した蛇腹筒部を備えることで、ピストンロッドのシリンダからの突出量に応じて軸方向に伸縮可能とされている。例えば、特開2013−2507号公報(特許文献1)に示されているのが、それである。
【0003】
ところで、ダストカバーは、路面からの入力によるショックアブソーバの大きな収縮に追従するために、収縮時の軸方向最小寸法が小さいことが望ましい。ダストカバーの最小寸法を小さくするためには、蛇腹筒部を構成する主谷部の数を少なくして収縮時の長さを小さく設定することが考えられる。また、ダストカバーは、装着状態でピストンロッドの突出部分の全体を充分に覆い得る初期長さが求められることから、蛇腹筒部の長さを確保しながら主谷部の数を少なくしようとすると、各主谷部の傾斜壁部の傾斜角度を大きくして、各主谷部の軸方向幅を大きく確保する必要がある。
【0004】
ところが、主谷部の傾斜壁部の傾斜角度を大きくすると、蛇腹筒部に軸方向の力が及ぼされて収縮される際に、傾斜壁部に及ぼされる圧縮成分が剪断成分に比べて相対的に大きくなることから、傾斜壁部が座屈し易くなって、蛇腹筒部のスムーズな収縮が妨げられるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−2507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、主谷部の数を少なくして収縮時の長さを小さくしつつ、蛇腹筒部のスムーズな収縮変形も実現される、新規な構造のダストカバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0008】
本発明の第一の態様は、外周側に凹となる主谷部の複数を連設した蛇腹筒部を有するダストカバーにおいて、前記主谷部が外周に行くに従って軸方向外側に傾斜する一組の傾斜壁部を備えており、該傾斜壁部の外周部分の傾斜角度が内周部分の傾斜角度よりも小さくされていると共に、該傾斜壁部の該外周部分と該内周部分とが何れも直線的な形状とされていることを、特徴とする。
【0009】
本発明の第一の態様に従う構造とされたダストカバーによれば、収縮前の初期形状において充分な長さが確保されると共に、収縮後の最小長さが効率的に小さくされる。蓋し、傾斜壁部の内周部分の傾斜角度が大きく確保されることで、少ない主谷部によって蛇腹筒部の初期長さが充分に確保されて、収縮後の最小長さを小さくすることができるからである。
【0010】
しかも、蛇腹筒部の収縮が、引っ掛かりや異音を生じることなくスムーズに実現される。即ち、蛇腹筒部の収縮初期には、傾斜角度の小さい傾斜壁部の外周部分が内周部分よりも優先的に変形して軸方向に重なり合うことから、傾斜壁部の外周部分の変形剛性が高められる。その結果、蛇腹筒部の収縮量が大きくなって内周部分が変形する際には、傾斜壁部の実質的な自由長が小さくなっており、傾斜壁部において圧縮成分による座屈が生じ難くなって、歪な変形による収縮作動の阻害が回避される。加えて、蛇腹筒部の収縮初期には、主として外周部分の変形が生じるが、内周部分も変形を生じて傾斜角度が小さくなることから、外周部分の変形が完了して内周部分の変形が支配的になる段階では、内周部分に及ぼされる圧縮成分が小さくなる。これらによって、傾斜壁部の安定した変形が実現されて、蛇腹筒部のスムーズな収縮が実現される。
【0011】
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載のダストカバーにおいて、軸方向に隣り合う二つの前記主谷部の間には、該主谷部よりも浅底の凹形状を呈する副谷部が設けられているものである。
【0012】
第二の態様によれば、副谷部の形成によって蛇腹筒部の軸方向でのストローク量が大きく確保される。特に、副谷部が主谷部よりも浅底とされていることで、主谷部の内周端と副谷部の内周端が径方向のずれた位置に位置せしめられて、軸方向に重なり合うことがないことから、収縮時の最小長さを小さく設定することができる。
【0013】
さらに、蛇腹筒部の収縮初期において、傾斜壁部の外周部分の変形と共に副谷部の変形が生ぜしめられることにより、蛇腹筒部の外周部分の変形剛性がより効率的に高められて、蛇腹筒部の安定した収縮作動がより有利に実現される。
【0014】
本発明の第三の態様は、第一又は第二の態様に記載のダストカバーにおいて、前記蛇腹筒部が外周側に行くに従って次第に薄肉とされているものである。
【0015】
第三の態様によれば、蛇腹筒部の外周部分の変形が内周部分よりも優先的に生ぜしめられ易くなって、蛇腹筒部のスムーズな収縮が安定して実現される。
【0016】
本発明の第四の態様は、第一〜第三の何れか1つの態様に記載されたダストカバーにおいて、一組の前記傾斜壁部には一方から他方に向かって突出する当接突起が形成されているものである。
【0017】
第四の態様によれば、蛇腹筒部の収縮状態において、当接突起が他方の傾斜壁部に当接することで、一組の傾斜壁部の間に密閉空間が形成されるのを防いで、蛇腹筒部が収縮状態から伸長する際に密閉空間の負圧による異音が生じるのを防ぐことができる。
【0018】
特に、傾斜壁部の内周部分の傾斜角度が外周部分の傾斜角度よりも大きくされた本発明構造において、一組の傾斜壁部の間には中間部分に隙間が形成され易く、該隙間が外部空間から密閉されることで異音の原因になるおそれがある。そこで、一組の傾斜壁部の間に当接突起を設けることにより、該隙間が外部空間に連通されて、隙間の圧力低下に起因する伸長時の異音が回避される。
本発明の第五の態様は、第四の態様に記載されたダストカバーにおいて、前記当接突起が、前記傾斜壁部の前記外周部分に形成されているものである。
【0019】
本発明の第の態様は、第一〜第の何れか1つの態様に記載されたダストカバーにおいて、前記蛇腹筒部の収縮前の初期状態における前記傾斜壁部の前記内周部分の傾斜角度が35°〜55°とされているものである。
【0020】
の態様によれば、傾斜壁部の内周部分の傾斜角度が35°以上とされることで、主谷部の軸方向幅寸法が充分に大きくされて、少ない主谷部で蛇腹筒部の長さを充分に確保することができる。一方、傾斜壁部の内周部分の傾斜角度が55°以下とされることで、蛇腹筒部の収縮時に傾斜壁部の内周部分に作用する圧縮成分が大きくなり過ぎるのが防止されて、傾斜壁部の座屈が回避されることで、蛇腹筒部のスムーズな収縮が実現される。
【0021】
本発明のの態様は、第一〜第の何れか1つの態様に記載されたダストカバーにおいて、前記蛇腹筒部の収縮前の初期状態における前記傾斜壁部の前記外周部分の傾斜角度と前記内周部分の傾斜角度の差が5°〜30°とされているものである。
【0022】
の態様によれば、傾斜壁部の外周部分と内周部分の傾斜角度の差が5°以上とされることで、内周部分によって主谷部における軸方向幅寸法を大きく確保しながら、外周部分の優先的な変形によってスムーズな収縮変形を実現することができる。一方、傾斜壁部の外周部分と内周部分の傾斜角度の差が30°以下とされることで、外周部分においても主谷部の軸方向幅寸法を確保することができると共に、内周部分に及ぼされる圧縮成分が剪断成分に対して過大になるのを防ぐことができる。
本発明の第八の態様は、第一〜第七の何れか1つの態様に記載されたダストカバーにおいて、前記傾斜壁部の前記外周部分と前記内周部分とが、軸方向断面において境界で折れ曲がるように連続しているものである。
本発明の第九の態様は、第一〜第八の何れか1つの態様に記載されたダストカバーにおいて、前記蛇腹筒部の収縮前の初期状態における前記傾斜壁部の前記外周部分の径方向寸法:r2 が、前記内周部分の径方向寸法:r1 に対して、r1 /3≦r2 ≦r1 とされているものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、主谷部の傾斜壁部の外周部分が内周部分よりも小さな傾斜角度で形成されていることから、蛇腹筒部の収縮時に傾斜角度の小さい外周部分が優先的に変形して軸方向で重なり合うことにより、蛇腹筒部の外周部分の変形剛性が高められる。これにより、蛇腹筒部の収縮量が大きくなって内周部分が変形する際に、傾斜壁部の実質的な自由長が小さくなって、傾斜壁部の座屈が抑えられることから、蛇腹筒部のスムーズな収縮が実現される。加えて、蛇腹筒部の収縮量が小さい段階で外周部分だけでなく内周部分も変形することから、蛇腹筒部の収縮量が大きくなって内周部分の変形が支配的になる段階では、内周部分に及ぼされる圧縮成分が剪断成分に対して相対的に低減されて、蛇腹筒部が座屈することなくスムーズに収縮する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態としてのダストカバーを示す斜視図。
図2図1に示されたダストカバーの縦断面図であって、左半分が差入溝および屈曲部を周方向に外れた位置における縦断面を示すと共に、右半分が差入溝の周方向中央および屈曲部の頂部の位置における縦断面を示す
図3図1に示されたダストカバーの要部を拡大して示す縦断面図であって、図2のAを拡大して示す図。
図4図1に示されたダストカバーの車両装着状態を示す図。
図5図1に示されたダストカバーにおける蛇腹筒部の要部を拡大して示す縦断面図であって、(a)は初期状態を、(b)は蛇腹筒部が小さく収縮した状態を、(c)は蛇腹筒部が大きく収縮した状態を、それぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
図1,2には、本発明の一実施形態としてのダストカバー10が示されている。ダストカバー10は、全体として薄肉の筒状とされており、合成樹脂やゴム弾性体によって形成されている。本実施形態のダストカバー10は合成樹脂で形成されており、その形成材料は特に限定されるものではないが、例えば、熱可塑性樹脂としてのポリプロピレン(PP)にエチレン・プロピレンゴム(EPDM)を混合して分散化させたものが、耐候性や成形性等に優れることから好適に採用される。尤も、熱可塑性樹脂で形成する場合には、例えばポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂等といった各種の熱可塑性エラストマーが何れも採用され得る。また、ダストカバー10の成形方法としては、ブロー成形が好適に採用されるが、インジェクション成形も採用可能である。
【0027】
また、ダストカバー10は、軸方向の中間部分に蛇腹筒部12を備えている。蛇腹筒部12は、外周側に凹の略横転V字断面で全周に連続する主谷部14の複数が、軸方向上下に連設された構造を有している。この主谷部14は、それぞれが外周側に行くに従って軸方向外側に傾斜するテーパ形状とされた一組の傾斜壁部16,16を備えている。なお、蛇腹筒部12は、外周側に行くに従って次第に薄肉とされている。本実施形態では、ダストカバー10がブロー成形されることによって、かかる肉厚の差が設定されている。
【0028】
さらに、傾斜壁部16には、図3に示すように、当接突起18が形成されている。当接突起18は、傾斜壁部16の傾斜方向に沿って延びる長軸をもった略半長球状の突起であって、一組の傾斜壁部16,16の一方から他方に向かって突出している。本実施形態では、上側の傾斜壁部16に4つの当接突起18,18,18,18が周上で均等に分散配置されていると共に、軸方向で隣り合う主谷部14,14において当接突起18の形成位置が周方向で相対的に45°ずれている。なお、当接突起18は、傾斜壁部16の傾斜方向に沿って長手とされた形状が望ましいが、形状は特に限定されるものではなく、例えば半球形状や直方体形状などの突起も採用され得る。
【0029】
また、軸方向で隣り合う主谷部14,14の間には、外周側に開口する副谷部20が形成されている。副谷部20は、蛇腹筒部12の外周部分に形成されて、外周側に凹の略横転V字断面で全周に連続しており、主谷部14よりも狭幅且つ浅底とされている。
【0030】
そして、主谷部14の外周端の角度と内周端の角度がそれぞれ変化することで、蛇腹筒部12が軸方向に伸縮可能とされている。更に、本実施形態では、副谷部20の内周端の角度が変化することによって、軸方向で伸縮可能な長さの範囲がより大きくされている。また、主谷部14と副谷部20が互いに異なる深さで形成されて、内周端が径方向で互いにずれて位置せしめられていることから、それら谷部14,20の内周端が軸方向で重なり合うのが回避されて、蛇腹筒部12の最収縮状態での軸方向寸法が小さくされている。
【0031】
また、ダストカバー10における蛇腹筒部12の軸方向上方には、係合用筒部22が設けられている。係合用筒部22は、全体として略円筒形状とされていると共に、下端部には外周側に突出する鍔部24が一体で形成されて、蛇腹筒部12の上端に連設されている。
【0032】
さらに、係合用筒部22には、係合溝26が形成されている。係合溝26は、外周面に開口して全周に亘って延びる凹溝であって、軸方向上側の壁部が係合用筒部22の上端部分において外周側に突出する上壁部28で構成されていると共に、軸方向下側の壁部が鍔部24で構成されている。
【0033】
更にまた、係合溝26には、複数の差入溝30が連通されている。差入溝30は、係合用筒部22の外周面に開口して軸方向に延びており、下端がそれぞれ係合溝26に連通されている。
【0034】
さらに、係合溝26内には、乗越突部32が形成されている。この乗越突部32は、係合溝26の周方向両端部において、係合溝26の底面から外周側に突出しており、上壁部28と鍔部24の間で上下に延びている。このような乗越突部32が形成されることにより、係合溝26の両端部が、乗越突部32によって部分的に浅底とされていると共に、乗越突部32で塞がれることなく周方向に開口している。
【0035】
そして、ダストカバー10の係合用筒部22は、図4に示すように、アッパインシュレータ34に取り付けられるようになっている。アッパインシュレータ34は、環状のゴム弾性体であって、下端部に硬質の環状拘束部材36が固着されている。環状拘束部材36は、差入溝30に対応する周上の3箇所が、係合溝26に挿入可能な軸方向視形状および厚さ寸法と、差入溝30に挿入可能な軸方向視形状および周方向寸法とをもって、内周側に突出している。なお、環状拘束部材36は、アッパインシュレータ34の成形時にインサートされたり、後固着されることにより一体的に設けられても良いし、例えば、2色成形等によって予め一体で形成されるようにしても良い。
【0036】
このような構造とされたアッパインシュレータ34に対して、ダストカバー10が取り付けられる。即ち、アッパインシュレータ34の環状拘束部材36の突出部分をダストカバー10の差入溝30に対して周方向で位置決めした状態で、アッパインシュレータ34にダストカバー10の係合用筒部22を内挿する。その後、ダストカバー10をアッパインシュレータ34に対して周方向に相対回転させて、環状拘束部材36の突出部分を差入溝30から係合溝26に差し入れることにより、環状拘束部材36が係合溝26に対して軸方向に係止される。これにより、図4に示すように、ダストカバー10の上端部がアッパインシュレータ34の内周側に組み付けられて支持されるようになっている。
【0037】
また、蛇腹筒部12の下方には、嵌合筒部38が形成されている。嵌合筒部38は、略円筒形状とされており、軸方向の中間部分において内周面に開口する周溝40が形成されている。更に、嵌合筒部38の周上には、複数の屈曲部42が形成されている。屈曲部42は、外周側へ突出して内周側へ開口する山形断面をもって、軸方向に略直線的に延びている。
【0038】
ダストカバー10およびアッパインシュレータ34は、例えば、図4に示すように、自動車のサスペンション機構44に取り付けられる。即ち、ダストカバー10の蛇腹筒部12が、サスペンション機構44を構成するショックアブソーバ46のピストンロッド48を取り囲むように外挿されると共に、アッパインシュレータ34が、ピストンロッド48に取り付けられる図示しないスプリングシート金具に重ね合わされる。更に、コイルスプリング50の上端部がアッパインシュレータ34によって支持されていると共に、アッパインシュレータ34がコイルスプリング50の弾性によってスプリングシート金具に押し付けられている。なお、コイルスプリング50の下端部は、ショックアブソーバ46のシリンダ52に固設されたスプリング受金具54によって支持されている。
【0039】
さらに、シリンダ52の上端部に取り付けられるシリンダキャップ56に設けられた係止爪57が、ダストカバー10の嵌合筒部38に形成された周溝40に対して、嵌合筒部38の開口部から嵌め入れられる。これにより、ダストカバー10は、上端部がアッパインシュレータ34を介してピストンロッド48に取り付けられると共に、下端部がシリンダ52に取り付けられるようになっている。
【0040】
かくの如きサスペンション機構44への装着状態において、ショックアブソーバ46が収縮すると、ダストカバー10の蛇腹筒部12が追従して軸方向に収縮する。一方、ショックアブソーバ46が伸長すると、ダストカバー10の蛇腹筒部12が追従して軸方向に伸長する。これにより、ピストンロッド48のシリンダ52からの突出部分が常にダストカバー10で覆われた状態に保持されるようになっている。
【0041】
本実施形態のダストカバー10は、主谷部14の数が少なくされて、蛇腹筒部12の収縮状態での最小寸法が小さく設定されていると共に、主谷部14の角度が大きく確保されて、蛇腹筒部12の自然長が充分に確保されている。
【0042】
ここにおいて、主谷部14の傾斜壁部16は、図3に示すように、内周部分58の傾斜角度:αよりも外周部分60の傾斜角度:βが小さく(α>β)されている。本実施形態では、内周部分58と外周部分60がそれぞれ軸方向断面が直線的な形状とされており、それら内周部分58と外周部分60が縦断面において境界で折れ曲がるように連続している。なお、ここで言う傾斜角度とは、図3からも明らかなように、軸直角方向に広がる平面に対する傾斜角度を言う。即ち、内周部分58と外周部分60は、何れも略一定のテーパ角度を有するテーパ筒形状とされており、中心軸に対するテーパ角度は、内周部分58(90°−α)よりも外周部分60(90°−β)の方が大きくされている。
【0043】
このような構造とされた傾斜壁部16を有する蛇腹筒部12によれば、収縮前の軸方向寸法が少ない主谷部14によって確保されて、収縮時の最小寸法が小さくされると共に、収縮作動がスムーズに実現されるようになっている。
【0044】
すなわち、図5(a)に示すように、収縮前の蛇腹筒部12では、各主谷部14の傾斜壁部16に傾斜角度の大きい内周部分58が設けられていることで、各主谷部14の軸方向の幅寸法:w(図3参照)が大きくされている。これにより、少ない主谷部14によって蛇腹筒部12の軸方向寸法が大きく確保されている。
【0045】
蛇腹筒部12に軸方向の圧縮力が及ぼされて、蛇腹筒部12が小さく収縮すると、図5(b)に示すように、副谷部20の内周端および外周端の角度が変化して、傾斜角度の小さい主谷部14の外周部分60と副谷部20が変形する。一方、傾斜角度の大きい主谷部14の内周部分58は、蛇腹筒部12の収縮量が小さい場合には、外周部分60に比して変形量が小さく、略初期の形状に保持される。
【0046】
蛇腹筒部12に軸方向の大きな圧縮力が作用して、蛇腹筒部12が大きく収縮する場合には、収縮の初期において、図5(b)に示すように、傾斜角度の小さい主谷部14の外周部分60と副谷部20とが、先ず変形する。次に、図5(c)に示すように、傾斜角度の大きい主谷部14の内周部分58が変形することで、蛇腹筒部12が軸方向に大きく収縮する。
【0047】
このように、蛇腹筒部12の収縮時に、傾斜角度の小さい主谷部14の外周部分60と副谷部20が優先的に変形して、蛇腹筒部12の外周部分(傾斜壁部16の外周部分60および副谷部20)が軸方向に重なり合うことで、傾斜壁部16の外周部分60を含む蛇腹筒部12の外周部分の変形剛性が高められる。これにより、蛇腹筒部12の内周部分が変形する際には、傾斜壁部16の実質的な自由長が小さくなっており、圧縮成分に対する傾斜壁部16の座屈が防止されることから、各主谷部14が整った形状で折り畳まれて、蛇腹筒部12のスムーズな収縮が実現される。
【0048】
しかも、蛇腹筒部12の収縮初期には、蛇腹筒部12の外周部分60,20が主に変形するが、内周部分58も変形して傾斜角度が収縮前よりも小さくなっている(図5(b)参照)。これにより、傾斜壁部16に作用する圧縮成分がより小さくなって、傾斜壁部16の座屈が防止されることで、スムーズな収縮が実現される。
【0049】
なお、上記の如き効果を有利に得るために、内周部分58の傾斜角度:αは、35°≦α≦55°とされることが望ましく、より好適には40°≦α≦50°とされている。これにより、主谷部14の軸方向幅寸法が大きく確保されて、少ない主谷部14によって蛇腹筒部12の長さを充分に確保できると共に、内周部分58に及ぼされる圧縮成分が剪断成分に比して大きくなり過ぎるのを防いで、後述する収縮作動をスムーズに実現することができる。
【0050】
さらに、内周部分58の径方向寸法:r1 に対して、外周部分60の径方向寸法:r2 が、r1 /3≦r2 ≦r1 であることが望ましく、より好適には、r1 /2≦r2 <r1 とされる。これによれば、傾斜角度の大きい内周部分58が大きく確保されることで、主谷部14の軸方向幅寸法が大きく確保されると共に、外周部分60が充分に確保されることで、後述する蛇腹筒部12のスムーズな収縮作動が有効に実現される。
【0051】
更にまた、内周部分58の傾斜角度:αと外周部分60の傾斜角度:βとの差(α−β)は、5°≦α−β≦30°であることが望ましく、より好適には10°≦α−β≦20°とされる。これにより、内周部分58による主谷部14の軸方向幅寸法の確保と、外周部分60による蛇腹筒部12のスムーズな収縮作動とが、何れも有効に実現される。
【0052】
また、傾斜壁部16の内周部分58の傾斜角度:αよりも外周部分60の傾斜角度:βが小さくされていることから、収縮量が最大となるまで蛇腹筒部12が軸方向に圧縮された状態では、一組の傾斜壁部16,16の外周端部が相互に当接すると共に、それら一組の傾斜壁部16,16の中間部分が相互に離隔して隙間が形成される。そこにおいて、傾斜壁部16の外周端部に当接突起18が形成されていることから、一組の傾斜壁部16,16の外周端部が全周に亘って密着するのを防止されて、それら一組の傾斜壁部16,16の中間部分に形成される隙間が、少なくとも当接突起18の周方向両側において外部空間に連通される。これにより、蛇腹筒部12が収縮状態から復元する際に、該隙間の圧力低下が防止されて、異音の発生が回避される。
【0053】
なお、副谷部20を構成する両側壁部の傾斜角度(θ)は、主谷部14の内周部分58の傾斜角度(α)よりも小さく(θ<α)設定されることが望ましく、より好適には、主谷部14の外周部分60の傾斜角度(β)以下(θ≦β)とされる。これにより、副谷部20が優先的に変形し得る。また、副谷部20の厚さ寸法は、内周部分58よりも小さくされることが好ましい。
【0054】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、主谷部14や副谷部20の形成数は特に限定されるものではなく、蛇腹筒部12に要求される軸方向の収縮量等に応じて任意に変更され得る。
【0055】
また、蛇腹筒部12の軸方向寸法を大きく確保し、且つ蛇腹筒部12のスムーズな収縮変形をより有利に実現するためには、副谷部20が形成されることが望ましいが、副谷部20はなくても良く、複数の主谷部14だけが軸方向で連続して設けられていても良い。
【0056】
また、例えば、傾斜壁部における内周部分58と外周部分60の間に中間部分を設けると共に、中間部分の傾斜角度:γをβ<γ<αとなるように設定することで、傾斜壁部が縦断面において多段階に折れ曲がった形状とされていても良い。これによれば、蛇腹筒部の収縮時に、先ず外周部分60が変形し、次に中間部分が変形してから、最後に内周部分58が変形することで、主谷部の軸方向幅を大きく確保しながら、内周部分58の変形時に座屈を効果的に防ぐことができる。
【0057】
さらに、傾斜壁部の全体が湾曲する縦断面形状を有しており、傾斜壁部の内周部分と外周部分が明確な境界を持つことなく、傾斜角度が変化する状態で連続的に設けられていても良い。このことからも明らかなように、傾斜壁部の内周部分と外周部分は、何れも縦断面において直線的な形状には限定されず、部分的または全体的な湾曲形状も採用され得る。
【0058】
また、前記実施形態では、上側の傾斜壁部16にのみ当接突起18が設けられているが、上下両方の傾斜壁部16,16に設けても良いし、下側の傾斜壁部16にのみ設けることもできる。更に、蛇腹筒部12の収縮時の異音を防ぐために、当接突起18を設けた構造が好適であるが、当接突起18は必須ではなく、省略することもできる。
【0059】
また、前記実施形態では、サスペンション用のダストカバー10が例示されているが、自動車の他の部分に用いられる保護カバーにも、本発明は好適に適用され得る。更に、本発明の適用範囲は自動車用のダストカバーに限定されず、例えばロボットアームの関節部分等を保護するためのダストカバー等も、本発明の適用範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0060】
10:ダストカバー、12:蛇腹筒部、14:主谷部、16:傾斜壁部、18:当接突起、20:副谷部、58:内周部分、60:外周部分
図1
図2
図3
図4
図5