(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207319
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】真空蒸着装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20170925BHJP
C23C 14/54 20060101ALI20170925BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20170925BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
C23C14/24 U
C23C14/54 F
H05B33/10
H05B33/14 A
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-197643(P2013-197643)
(22)【出願日】2013年9月25日
(65)【公開番号】特開2015-63724(P2015-63724A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2016年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 剛
(72)【発明者】
【氏名】藤本 英志
(72)【発明者】
【氏名】大工 博之
【審査官】
宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/124593(WO,A1)
【文献】
特開2010−159448(JP,A)
【文献】
特開2013−181877(JP,A)
【文献】
特開2011−105962(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/071064(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
C23C 14/54
H01L 51/50
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着材料を蒸発させるるつぼと、当該るつぼからの蒸発材料の流量を調整する流量調整部と、上記るつぼからの蒸発材料を導入する導入管と、当該導入管に導入された蒸発材料を導くとともに導かれた蒸発材料を拡散させる拡散容器と、この拡散容器の内部で拡散された蒸発材料を基板に向けて放出する複数の放出孔と、上記導入管に設けられた流量計測機構と、所定の真空度にされた内部に上記拡散容器および上記基板を配置した真空容器とを備え、上記基板に蒸着を行う真空蒸着装置であって、
上記流量計測機構が、所定の真空度にされた上記導入管に導入された蒸発材料を計測の対象とするものであり、
上記流量計測機構が、上記流量調整部の下流側に設けられた圧力損失バルブと、この圧力損失バルブの上流側および下流側にそれぞれ設けられて上記流量調整部の下流側に位置する複数の圧力センサとを具備し、
上記複数の圧力センサで計測した蒸発材料の圧力から、これらの圧力差を算出し、この圧力差に基づいて上記流量調整部を制御するコントローラを備えたことを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
上記るつぼが複数あるとともに、これら複数のるつぼのうち少なくとも1つが、ドーパントの蒸着材料を蒸発させて蒸発材料とするドーパント用るつぼであり、
上記流量計測機構が、少なくとも、上記ドーパント用るつぼからの蒸発材料を導入する上記導入管に設けられたものであることを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
上記流量調整部と上記圧力損失バルブとの間で、上記導入管に設けられた排出管と、
上記排出管に設けられて上記導入管および上記排出管から蒸発材料を排出する排気用ポンプと、
上記排出管に設けられた排気バルブとを備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の真空蒸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属薄膜、有機材料薄膜、太陽電池やディスプレイパネルなどの金属電極配線、有機EL発光層などの蒸着に用いる真空蒸着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に上記薄膜などは、真空度を10
−4Pa以上の高真空において、蒸着で形成される。これに使用される真空蒸着装置は、例えば特許文献1に示すように、内部が高真空にされ得る真空チャンバと、蒸着材料が収容されるとともに加熱機構を備えたるつぼと、このるつぼの加熱により蒸発した蒸着材料(蒸発材料)が導かれる拡散容器(マニホールド)とを設け、マニホールドの内部に導かれた蒸発材料を当該マニホールドの上部に設けられた複数のノズルから放出させて基板に蒸着させることで、この基板に薄膜を形成する構成とされている。この真空蒸着装置は、マニホールドに対するノズルの設計(配置、大きさ、角度など)を適正化することで、基板回転機構などの可動部分がなくても大面積基板に対して膜厚均一性を得られる、という利点を有している。
【0003】
通常、基板に蒸着する単位時間当たりの蒸発材料の量、つまり蒸着レートは、るつぼの加熱温度で制御される。しかし、るつぼの温度が安定しても、るつぼに収容された蒸着材料の温度は少しずつ上昇するので、蒸着レートを安定させることは難しい。このため、蒸発材料の流路に流量調整バルブを設け、基板の近傍に設けられた膜厚センサからの信号(蒸着レート)に基づいて流量調整バルブの開度を制御することで、蒸着レートを安定させる方法がある(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
ところで、上記膜厚センサには、水晶振動子式のものが広く使用されている。水晶振動子式の膜厚センサは、その水晶振動子の表面に蒸着された蒸着材料の量を計測するものである。しかし、このような膜厚センサは、その水晶振動子の表面に蒸着された蒸着材料の量が700〜800nm程度を超えれば計測誤差が大きくなるので、水晶振動子を新たなものに交換することが必要となる。この交換が必要となるまでの時間、つまり水晶振動子の寿命は、実際の生産ラインで要求される連続稼動時間に比べて短い。このため、水晶振動子式の膜厚センサを実際の生産ラインで使用すれば、寿命切れの水晶振動子を交換するために連続稼動を停止する必要が生ずるので、生産性の低下につながる。
【0005】
一方で、水晶振動子を使用しない真空蒸着装置が特許文献3に開示されている。この特許文献3に開示された真空蒸着装置では、真空容器内に、蒸着材料が収容されるとともに加熱機構を備えたるつぼと、蒸発材料の圧力を計測する1つの圧力センサとが配置され、真空容器内における蒸発材料の流量と蒸着レートとにある一定の相関関係を利用するものである。具体的に説明すると、上記真空蒸着装置は、上記1つの圧力センサで計測された圧力から蒸着レートを算出することで、算出された蒸着レートに基づき、るつぼに備えられた加熱機構による蒸着材料の加熱量を調整するように構成されている。
【0006】
ここで、特許文献3の圧力センサが1つである理由は、基板の周囲において圧力が一定(位置による変動がない)として扱っているためと考えられる。しかし、実際には、るつぼ内の蒸着材料が蒸発材料として真空容器内に放出されると、真空容器内の圧力が変動するので、特許文献3に記載の真空蒸着装置では、蒸着レートを正確に算出することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−330537号公報
【特許文献2】特開2010−242202号公報
【特許文献3】特開2004−91858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献3においては、蒸着材の周辺雰囲気の圧力を測定する1台の圧力センサにより、蒸発粒子の流量を求めている。これは、基板の周囲の圧力変動は少ないとして、基板の周囲の圧力を一定値として扱っているためと考えられるが、実際には蒸発粒子が真空チャンバに放出されると、真空チャンバ中の蒸発粒子量が増大して圧力変動を生じるため、蒸発粒子の流量を計測できているとは言うことができず、正確な蒸着レートで蒸着膜を形成することができず、蒸着膜に求められる特性を得ることができないという問題があった。
【0009】
また1台の圧力センサでは、2種類の蒸着材料による共蒸着により蒸着膜を形成するとき、各蒸着材料の蒸着レートを求めることができないという問題があった。
そこで、本発明は、真空チャンバを大気圧に戻すことなく蒸着レートを連続的に計測でき、生産性の低下を回避できるとともに、蒸発粒子の流量を正確に求めることができ、正確な蒸着レートで蒸着膜を形成できる蒸着装置を提供することを目的としたものである。
【0010】
また本発明は、真空チャンバを大気圧に戻すことなく蒸着レートを連続的に計測でき、生産性の低下を回避できるとともに、2種類の蒸着材料により蒸着膜を形成するとき、各蒸着材料の蒸発粒子の流量を正確に求めることができ、正確な蒸着レートで蒸着膜を形成できる蒸着装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る真空蒸着装置は、蒸着材料を蒸発させるるつぼと、当該るつぼからの蒸発材料の流量を調整する流量調整部と、上記るつぼからの蒸発材料を導入する導入管と、当該導入管に導入された蒸発材料を導くとともに導かれた蒸発材料を拡散させる拡散容器と、この拡散容器の内部で拡散された蒸発材料を基板に向けて放出する複数の放出孔と、上記導入管に設けられた流量計測機構と、所定の真空度にされた内部に上記拡散容器および
上記基板を配置した真空容器とを備え、上記基板に蒸着を行う真空蒸着装置であって、
上記流量計測機構が、所定の真空度にされた上記導入管に導入された蒸発材料を計測の対象とするものであり、
上記流量計測機構が、上記流量調整部の下流側に設けられた圧力損失バルブと、この圧力損失バルブの上流側および下流側にそれぞれ設けられ
て上記流量調整部の下流側に位置する複数の圧力センサとを具備し、
上記複数の圧力センサで計測した蒸発材料の圧力から、これらの圧力差を算出し、この圧力差に基づいて上記流量調整部を制御するコントローラを備えたものである。
【0012】
また、本発明の請求項2に係る真空蒸着装置は、請求項1に記載の真空蒸着装置において、
上記るつぼが複数あるとともに、これら複数のるつぼのうち少なくとも1つが、ドーパントの蒸着材料を蒸発させて蒸発材料とするドーパント用るつぼであり、
上記流量計測機構が、少なくとも、上記ドーパント用るつぼからの蒸発材料を導
入する上記導入管に設けられたものである。
【0013】
さらに、本発明の請求項3に係る真空蒸着装置は、請求項1または2に記載の真空蒸着装置において、
上記流量調整部と
上記圧力損失バルブとの間で、
上記導入管に設けられた排出管と、
上記排出管に設けられて上記導入管および
上記排出管から蒸発材料を排出する排気用ポンプと、
上記排出管に設けられた排気バルブとを備えたものである。
【発明の効果】
【0014】
上記真空蒸着装置によると、流量計測機構により、蒸着レートをより正確に算出可能で、且つ、上記流量計測機構が具備する圧力損失バルブの開度を制御することにより、蒸発材料を所望の圧力損失に容易に調整することができるとともに、蒸着終了後に蒸着レートを速やかに低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例1に係る真空蒸着装置の全体断面図である。
【
図2】同真空蒸着装置に備えられたコントローラの制御ユニットを説明するブロック図である。
【
図3】本発明の実施例2に係る真空蒸着装置の全体断面図である。
【
図4】本発明の実施例3に係る真空蒸着装置の全体断面図である。
【
図5】同真空蒸着装置に備えられたコントローラのドーパント用制御ユニットを説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0016】
以下、本発明の実施例1に係る真空蒸着装置を、図面に基づき説明する。
図1に示すように、この真空蒸着装置1は、蒸着材料Mを蒸発させるるつぼ2と、蒸発した蒸着材料Mである蒸発材料をるつぼ2から導入する導入管3と、この導入管3で導入された蒸発材料を内部に配置された基板Kに導いて所定の真空度(負圧)で蒸着させる真空容器4と、この真空容器4内を所定の真空度(負圧)にする真空容器用ポンプ(図示省略するが真空ポンプである)とを具備する。上記真空容器4内には、導入管3で導入された蒸発材料を拡散させる拡散容器41(マニホールドともいう)と、下側に基板Kを固定した状態で保持する基板ホルダー45とが配置されている。上記拡散容器41は、蒸発材料を拡散させるための内部空間が形成された直方体形状である。また、上記拡散容器41における基板Kの対向面には、拡散させた蒸発容器を放出する放出孔42が全体に多数形成されるとともに、各放出孔42にノズル43が取り付けられている。上記基板ホルダー45に保持された基板Kには、基板Kに生成させる蒸着膜を所望の範囲にするメタルマスク46が設けられている。
【0017】
上記るつぼ2の下流開口には、蒸発材料の流量を制御する流量調整バルブ22(流量調整部の一例である)が接続されている。上記導入管3は、真空容器4外の流量調整バルブ22と真空容器4内の拡散容器41とを接続し、真空容器4の底壁4bを貫通して配置されている。また、上記導入管3には、その内部に導入されている蒸発材料の流量を計測する流量計測機構31が、上記真空容器4外において設けられている。上記真空容器4外には、この流量計測機構31および上記流量調整バルブ22を制御して適切な蒸着を実現するコントローラ5が設けられている。ところで、図示しないが、るつぼ2には蒸着材料Mを加熱して蒸発させるためのヒータ(例えばシースヒータである)が設けられている。また、流量調整バルブ22、導入管3、流量計測機構31、拡散容器41およびノズル43には、図示しないが、内部を通過する蒸発材料が冷却されて付着するのを防ぐためのヒータ(例えばシースヒータである)がそれぞれ設けられている。
【0018】
次に、本発明の要旨である流量計測機構31およびコントローラ5の詳細について説明する。
上記流量計測機構31は、導入管3内に導入されている蒸発材料の圧力を損失させる圧力損失バルブ32と、この圧力損失バルブ32の上流側に設けられた上流側圧力センサ33uと、上記圧力損失バルブ32の下流側に設けられた下流側圧力センサ33lとを具備する。ここで、蒸発材料の流量を算出するには、詳しくは後述するが、当該蒸発材料の圧力差Pdを算出する必要がある。上記圧力センサ33u,33lは、この蒸発材料の圧力差Pdを算出するために、当該蒸発材料の上流側圧力Puおよび下流側圧力Plをそれぞれ計測するためのものである。また、上記圧力センサ33u,33lには、例えば、気体分子による熱伝導を利用する熱伝導式圧力センサが使用される。上記圧力損失バルブ32は、上記圧力センサ33u,33lで計測された圧力から上記蒸発材料の流量を精度よく算出するために、上記圧力差Pdを大きくするためのものである。
【0019】
上記コントローラ5は、制御ユニット50を有する。この制御ユニット50は、
図2に詳しく示すように、上記圧力差Pdを算出する第1減算部51と、この第1減算部51で算出された圧力差Pdから蒸発材料の流量とともに蒸着レートRを算出する蒸着レート演算部53と、この蒸着レート演算部53で算出された蒸着レートRと所望の蒸着レートReとの偏差Dを算出する第2減算部52と、この第2減算部52で算出された偏差Dを0にするように流量調整バルブ22の開度を制御するPI制御部54と、圧力損失バルブ32の開度を制御する圧力損失制御部55とが具備されている。
【0020】
上記第1減算部51は、上記圧力センサ33u,33lで計測された蒸発材料の圧力Pu,Plがそれぞれ入力されるとともに、上流側圧力センサ33uで計測された上流側圧力Puから下流側圧力センサ33lで計測された下流側圧力Plを減じて、上記圧力差Pdを算出する。
【0021】
上記蒸着レート演算部53は、上記圧力差Pdに所定の係数を乗じて蒸着レートRを算出する。具体的に説明すると、上記蒸着レート演算部53は、まず、次の式(1)の通り、導入管3のコンダクタンスCに上記圧力差Pd(つまりPu−Pl)を乗じて、蒸発材料の流量Qを算出する。そして、この蒸発材料の流量Qと蒸着レートRとが比例することを利用し、次の式(2)の通り、算出された蒸発材料の流量Qに比例定数Fを乗じて、蒸着レートRを算出する。これら式(1)および(2)から、次の式(3)の通り、上記所定の係数Gとは、上記コンダクタンスCに上記比例定数Fを乗じたものである。
【0022】
Q=C×(Pu−Pl)・・・(1)
R=F×Q
=G×(Pu−Pl)・・・(2)
なお、G=C×F・・・・・・・・・(3)
ここで、上記所定の係数Gは、キャリブレーションにより、すなわち、既知の蒸着レート(別途膜厚センサで計測される)と上記第1減算部51で算出された上記圧力差Pdとに基づき、予め算出される。
【0023】
上記第2減算部52は、上記所望の蒸着レートReが別途入力されるとともに、この所望の蒸着レートReから上記蒸着レート演算部53で算出された蒸着レートRを減じて、上記偏差Dを算出する。
【0024】
上記PI制御部54は、蒸着時において、上記第2減算部52で算出された偏差Dを0にするように流量調整バルブ22の開度を制御する。また、上記PI制御部54は、蒸着終了時において、すなわち蒸着終了指示を受信すれば、流量調整バルブ22の開度を0(つまり全閉)にする。
【0025】
上記圧力損失制御部55は、蒸着前において、所望のコンダクタンスCeに基づき、圧力損失バルブ32の開度を所定値に制御する。また、上記圧力損失制御部55は、蒸着終了指示が入力されれば、この蒸着終了指示を上記PI制御部54に発信するとともに、圧力損失バルブ32の開度を0(つまり全閉)にする。さらに、上記圧力損失制御部55は、図示しないが、基板回収終了指示が入力されれば、圧力損失バルブ32の開度を100(つまり全開)にする。言い換えれば、蒸着終了時の上記圧力損失制御部55は、圧力損失バルブ32を全閉にすることで、真空容器4内への蒸発材料の流入を防ぐものである。その後の上記圧力損失制御部55は、蒸着膜が生成された基板Kの回収を終了すれば、圧力損失バルブ32を全閉にすることで、導入管3内の蒸発材料を真空容器用ポンプにより速やかに排出するものである。
【0026】
以下、上記真空蒸着装置1の作用について説明する。
まず、るつぼ2に蒸着材料Mを投入し、真空容器4の内部を真空容器用ポンプで所定の真空度(負圧)にしておく。そして、圧力損失制御部55で、所望のコンダクタンスCeに基づき、圧力損失バルブ32の開度を所定値にする。一方で、流量調整バルブ22を閉じて、るつぼ2、流量調整バルブ22、導入管3、流量計測機構31、拡散容器41およびノズル43をヒータで加熱する。るつぼ2内の蒸着材料Mが加熱されると、この蒸着材料Mが蒸発する。その後、流量調整バルブ22を開けることで、そのるつぼ2からの蒸発した蒸着材料M(つまり蒸発材料)は、流量調整バルブ22および導入管3を通過し、拡散容器41に導入される。そして、蒸発材料は、拡散容器41の内部空間で拡散し、ノズル43から基板Kに向けて放出される。放出された蒸発材料により蒸着が行われ、基板Kに蒸着膜を生成していく。
【0027】
この蒸着時において、蒸発材料の上流側圧力Puおよび下流側圧力Plが、それぞれ上流側圧力センサ33uおよび下流側圧力センサ33lで計測される。また、これら圧力Pu,Plから、圧力差Pdが第1減算部51で算出される。さらに、この圧力差Pdから、蒸発材料の流量Qとともに蒸着レートRが蒸着レート演算部53で算出される。また、この蒸着レートRと別途入力された所望の蒸着レートReとから、これらR,Reの偏差Dが第2減算部52で算出される。また、この偏差Dを0にするように、流量調整バルブ22の開度がPI制御部54で制御される。
【0028】
蒸着終了時は、蒸着終了指示を圧力損失制御部55に入力する。すると、圧力損失制御部55は、この蒸着終了指示を上記PI制御部54に発信する。これにより、流量調整バルブ22が全閉にされる。また、蒸着終了指示が入力された圧力損失制御部55は、圧力損失バルブ32の開度を0(つまり全閉)にする。これにより、真空容器4内への蒸発材料の流入が防がれる。その後、蒸着膜が生成された基板Kを真空容器4内から回収し、次いで基板回収終了指示を圧力損失制御部55に入力することで、圧力損失バルブ32の開度を100(つまり全開)にする。これにより、導入管3内の蒸発材料が真空容器4を通過して真空容器用ポンプにより速やかに排出される。
【0029】
このように、上記真空蒸着装置1によると、その流量計測機構31により蒸着レートRを正確に算出可能で、且つ、流量計測機構31が具備する圧力損失バルブ32の開度を制御することにより、蒸発材料を所望の圧力損失に容易に調整することができる。また、蒸着終了後は、導入管3内の蒸発材料が速やかに排出されることにより、蒸着レートRを速やかに低減させることができる。
【実施例2】
【0030】
本実施例2に係る真空蒸着装置1は、上記実施例1に真空蒸着装置1と異なり、共蒸着を行い得るものである。
以下、本実施例2に係る真空蒸着装置1について
図3に基づき説明するが、上記実施例1と異なるるつぼ2の数、導入管3およびコントローラ5に着目して説明するとともに、上記実施例1と同一の構成については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0031】
本実施例2に係る真空蒸着装置1は、るつぼ2が2つ(複数であればよい)である。一方のるつぼ2はホストの蒸着材料MH(主たる蒸着材料)を蒸発させるもの(以下、ホスト用るつぼ2Hという)であり、他方のるつぼ2はドーパントの蒸着材料MD(従たる蒸着材料)を蒸発させるもの(以下、ドーパント用るつぼ2Dという)である。これらるつぼ2の下流開口には、それぞれ流量調整バルブ22が接続されている。
【0032】
本実施例2に係る導入管3は、分岐部37を有する管、つまり分岐管である。この導入管3は、具体的に説明すると、それぞれ流量調整バルブ22に接続される2つ(るつぼ2と同数)の上流開口と、拡散容器41に接続される1つの下流開口とを有する。なお、以下では、導入管3のうち、ホスト用るつぼ2H側の上流開口から分岐部37までをホスト用管部35といい、ドーパント用るつぼ2D側の上流開口から分岐部37までをドーパント用管部36といい、分岐部37から下流開口までを合流管部38という。
【0033】
本実施例2に係る流量計測機構31は、ドーパント用管部36に設けられる。また、ホストの蒸着材料MHはドーパントの蒸着材料MDほど蒸着レートの精密な制御が要求されないので、ホスト用管部35には実施例1で説明した流量計測機構31を設ける必要はない。しかし、ホストの蒸着レートを制御する必要はあるので、ホスト用上流側圧力センサ63uがホスト用管部35に設けられ、ホスト用下流側圧力センサ63lが真空容器4内で基板Kの近傍に設けられる。
【0034】
本実施例2に係るコントローラ5は、ホスト用制御ユニット60と、ドーパント用制御ユニット50とを有する。上記ホスト用制御ユニット60は、ホスト用るつぼ2Hに設けられた流量調整バルブ22を制御してホストの蒸着材料MHの適切な蒸着を実現するものである。また、上記ドーパント用制御ユニット50は、上記実施例1に係る制御ユニット50と同一の構成である。
【0035】
このように、上記真空蒸着装置1によると、実施例1の効果を奏する上に、ドーパントの蒸着レートRを精密に制御し得るので、高精度の共蒸着膜を生成することができる。
【実施例3】
【0036】
本実施例3に係る真空蒸着装置11は、上記実施例2に真空蒸着装置11を、導入管3内の蒸発材料を極めて速やかに排出するように構成したものである。
以下、本実施例3に係る真空蒸着装置11について
図4および
図5に基づき説明するが、上記実施例2と異なる導入管3に着目して説明するとともに、上記実施例2と同一の構成については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0037】
本実施例3に係る導入管3は、
図4に示すように、ドーパント用管部36における流量調整バルブ22と上流側圧力センサ33uとの間に、排気機構71が設けられたものである。
【0038】
図5に示すように、この排気機構71は、ドーパント用管部36(具体的には、流量調整バルブ22と上流側圧力センサ33uとの間)に接続された排気管73と、この排気管73に設けられた排気バルブ72と、上記排気管73の下流開口に設けられた排気用ポンプ74(真空ポンプである)とを具備する。
【0039】
本実施例3に係るドーパント用制御ユニット50は、圧力損失制御部55が、圧力損失バルブ32だけでなく、排気バルブ72および排気用ポンプ74も制御するものである。この圧力損失制御部55は、具体的に説明すると、蒸着終了指示を受信すれば、この蒸着終了指示を上記PI制御部54に発信するとともに、圧力損失バルブ32の開度を0(つまり全閉)および排気バルブ72の開度を100(つまり全開)にし、且つ、排気用ポンプ74を作動させる。これにより、蒸着終了後は、導入管3内の蒸発材料が排気管73を通過して直ちに排出される。
【0040】
このように、上記真空蒸着装置1によると、実施例2の効果を奏する上に、蒸着終了後は、導入管3内の蒸発材料が直ちに排出されることにより、蒸着レートRを極めて速やかに低減させることができる。
【0041】
ところで、上記実施例1〜3では、流量計測機構31の圧力センサ33u,33lが2つとして説明したが、圧力損失バルブ32の上流側および下流側で配置されるのであれば、3つ以上であってもよい。
【0042】
また、上記実施例1〜3では、流量調整部の一例として流量調整バルブ22について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、流量調整部は、るつぼ2の加熱温度を制御して蒸発材料の流量Qを制御するヒータおよびその制御部など、蒸発材料の流量Qを制御するものであればよい。
【符号の説明】
【0043】
M 蒸着材料
K 基板
Pu 上流側圧力
Pl 下流側圧力
Pd 圧力差
R 蒸着レート
D 偏差
1 真空蒸着装置
2 るつぼ
3 導入管
4 真空容器
4b 底壁
5 コントローラ
22 流量調整バルブ
31 流量計測機構
32 圧力損失バルブ
33u 上流側圧力センサ
33l 下流側圧力センサ
38 合流管部
41 拡散容器
42 放出孔
43 ノズル
45 基板ホルダー
46 メタルマスク