(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アニオンは、重合性不飽和基を有するスルホン酸イオン含有化合物およびカルボン酸イオン含有化合物から選ばれる一種であり、前記カチオンは、イミダゾリウムイオン化合物、モルフォリニウムイオン化合物、ピペリジニウムイオン化合物、テトラアルキルアンモニウムイオン化合物、およびテトラアルキルホスホニウムイオン化合物から選ばれる一種である請求項2に記載のトランスデューサ。
前記カチオンは、重合性不飽和基を有するイミダゾリウムイオン化合物、モルフォリニウムイオン化合物、ピペリジニウムイオン化合物、テトラアルキルアンモニウムイオン化合物、およびテトラアルキルホスホニウムイオン化合物から選ばれる一種であり、前記アニオンは、スルホン酸イオン含有化合物およびカルボン酸イオン含有化合物から選ばれる一種である請求項4に記載のトランスデューサ。
【背景技術】
【0002】
トランスデューサとしては、機械エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うアクチュエータ、センサ、発電素子等、あるいは音響エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うスピーカ、マイクロフォン等が知られている。柔軟性が高く、小型で軽量なトランスデューサを構成するためには、誘電体エラストマー等の高分子材料が有用である。
【0003】
例えば、誘電体エラストマーからなる誘電層の厚さ方向両面に、一対の電極を配置して、電歪型アクチュエータを構成することができる。この種のアクチュエータは、電極間に印加する電圧の大小により誘電層を伸長、収縮させることにより、駆動対象部材を駆動する。アクチュエータの出力および変位量は、印加電圧の大きさと、電極間に生じる静電引力の大きさと、により決定される。すなわち、大きな電圧を印加することができ、かつ、電極間に生じる静電引力が大きいほど、アクチュエータの出力および変位量は大きくなる。
【0004】
例えば、シリコーンゴムは、耐絶縁破壊性に優れるが比誘電率が小さい。このため、シリコーンゴムから誘電層を形成した場合には、印加電圧に対する静電引力が小さく、所望の発生力および変位量を得ることは難しい。一方、アクリルゴムやニトリルゴムにおいては、シリコーンゴムよりも比誘電率が大きいが、電気抵抗が小さい。このため、アクリルゴムやニトリルゴムから誘電層を形成した場合には、誘電層が絶縁破壊しやすい。このように、一つの材料により、耐絶縁破壊性に優れ、かつ静電引力が大きい誘電層を実現することは、難しい。
【0005】
これに対して、本発明者は、電気抵抗が大きい誘電層と、該誘電層に積層されるイオン固定層と、を備えるトランスデューサを提案した(特許文献1、2参照)。イオン固定層は、イオン成分が金属酸化物粒子を介してエラストマーに固定化されたエラストマー材料からなる。以下、模式図を用いて、従来のトランスデューサの構成および動作を説明する。
図7に、トランスデューサの電圧印加前の状態における断面模式図を示す。
図8は、同トランスデューサの電圧印加時の状態における断面模式図を示す。
【0006】
図7に示すように、トランスデューサ9は、誘電層90と、イオン固定層としてのカチオン固定層91およびアニオン固定層92と、プラス電極93と、マイナス電極94と、を備えている。
【0007】
カチオン固定層91は、誘電層90の上面に配置されている。プラス電極93は、カチオン固定層91の上面に配置されている。つまり、カチオン固定層91は、誘電層90とプラス電極93との間に介装されている。カチオン固定層91は、エラストマー910と、カチオン固定粒子911と、アニオン成分912と、を有している。カチオン固定粒子911は、カチオン成分が固定化された金属酸化物粒子である。カチオン固定粒子911は、エラストマー910に化学結合されている。
【0008】
同様に、アニオン固定層92は、誘電層90の下面に配置されている。マイナス電極94は、アニオン固定層92の下面に配置されている。つまり、アニオン固定層92は、誘電層90とマイナス電極94との間に介装されている。アニオン固定層92は、エラストマー920と、アニオン固定粒子921と、カチオン成分922と、を有している。アニオン固定粒子921は、アニオン成分が固定化された金属酸化物粒子である。アニオン固定粒子921は、エラストマー920に化学結合されている。
【0009】
図8に示すように、プラス電極93とマイナス電極94との間に電圧が印加されると、カチオン固定層91においては、アニオン成分912がプラス電極93側へ移動する。一方、カチオン固定粒子911は、エラストマー910に結合されている。このため、カチオン成分は、ほとんど移動しない。同様に、アニオン固定層92においては、カチオン成分922がマイナス電極94側へ移動する。一方、アニオン固定粒子921は、エラストマー920に結合されている。このため、アニオン成分は、ほとんど移動しない。また、誘電層90においては、分極により、カチオン固定層91との界面付近にプラス電荷が、アニオン固定層92との界面付近にマイナス電荷が、各々蓄えられる。このように、トランスデューサ9においては、カチオン固定層91、アニオン固定層92、およびこれらと接する誘電層90の界面付近に、多くの電荷が蓄えられる。したがって、プラス電極93およびマイナス電極94から、誘電層90、カチオン固定層91、アニオン固定層92を圧縮するように、大きな静電引力が発生する。これにより、誘電層90、カチオン固定層91、アニオン固定層92は上下方向に圧縮され、その分だけ、
図8中白抜き矢印で示すように、左右方向に伸長する。
【0010】
また、カチオン固定層91におけるカチオン成分は、誘電層90側(プラス電極93と反対方向)に移動しにくい。同様に、アニオン固定層92におけるアニオン成分は、誘電層10側(マイナス電極94と反対方向)に移動しにくい。このため、カチオン固定層91およびアニオン固定層92から誘電層90へ、イオン成分が移動するおそれは小さい。したがって、誘電層90の電気抵抗は低下しにくく、高い耐絶縁破壊性を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のイオン成分共重合ポリマー材料およびトランスデューサの実施形態について説明する。なお、本発明のイオン成分共重合ポリマー材料およびトランスデューサは、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0022】
<イオン成分共重合ポリマー材料>
本発明のイオン成分共重合ポリマー材料は、(メタ)アクリル酸エステルと、(メタ)アクリル酸と、イオン液体と、を共重合して得られる共重合体を架橋してなる。
【0023】
(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルを意味する。(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル等が挙げられる。なかでも、ガラス転移点が低いという理由から、炭素数4〜8のアルキル基を有するものが望ましい。
【0024】
(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸を意味する。(メタ)アクリル酸は、共重合体を架橋させる役割を果たす。(メタ)アクリル酸の配合量は、共重合体の骨格を形成する原料全体を100質量%とした場合の、1質量%以上10質量%以下であることが望ましい。(メタ)アクリル酸の配合量が1質量%未満の場合、架橋構造が充分に形成されず、得られるポリマー材料の伸縮性が低下する。反対に(メタ)アクリル酸の配合量が10質量%を超えると、得られるポリマー材料の弾性率が大きくなる。
【0025】
イオン液体としては、本発明のイオン成分共重合ポリマー材料の用途に応じて、適宜選択すればよい。本発明のイオン成分共重合ポリマー材料において、イオン液体のカチオンおよびアニオンの一方はポリマーに共重合され、他方は対イオンとして含まれる。例えば、アニオンをポリマーに共重合する場合、重合性不飽和基を有するスルホン酸イオン含有化合物およびカルボン酸イオン含有化合物から選ばれるアニオンと、イミダゾリウムイオン化合物、モルフォリニウムイオン化合物、ピペリジニウムイオン化合物、テトラアルキルアンモニウムイオン化合物、およびテトラアルキルホスホニウムイオン化合物から選ばれるカチオンと、からなるイオン液体が好適である。より具体的には、アクリル酸イオン、メタクリル酸イオン、ビニルスルホン酸イオン、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸イオン等から選ばれるアニオンと、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムイオン等のイミダゾリウムイオン、モルフォリニウムイオン、ピペリジニウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、テトラアルキルホスホニウムイオンから選ばれるカチオンと、からなるイオン液体が好適である。また、カチオンをポリマーに共重合する場合、重合性不飽和基を有するイミダゾリウムイオン化合物、モルフォリニウムイオン化合物、ピペリジニウムイオン化合物、テトラアルキルアンモニウムイオン化合物、およびテトラアルキルホスホニウムイオン化合物から選ばれるカチオンと、スルホン酸イオン含有化合物およびカルボン酸イオン含有化合物から選ばれるアニオンと、からなるイオン液体が好適である。より具体的には、1−メチル−3−ビニルイミダゾリウムイオン、1−エチル−3−ビニルイミダゾリウムイオン、1−プロピル−3−ビニルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−ビニルイミダゾリウムイオン等のイミダゾリウムイオン、モルフォリニウムイオン、ピペリジニウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、テトラアルキルホスホニウムイオンから選ばれるカチオンと、ベンゼンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、酢酸イオン等から選ばれるアニオンと、からなるイオン液体が好適である。
【0026】
例えば、本発明のイオン成分共重合ポリマー材料を、トランスデューサの構成部材として用いる場合、イオン対間の相互作用エネルギーが、イオン液体を選択する一つの指標になる。大きな静電引力を発生させるという観点から、例えば、アニオンをポリマーに共重合する場合、イオン対間の相互作用エネルギーが79kcal/mol以上98kcal/mol以下イオン液体を採用することが望ましい。また、カチオンをポリマーに共重合する場合、イオン対間の相互作用エネルギーが76kcal/mol以上92kcal/mol以下イオン液体を採用することが望ましい。
【0027】
本明細書においては、イオン液体のイオン対間の相互作用エネルギーを、汎用量子化学計算プログラム「Gaussian09」およびグラフィカルインターフェイス「GaussView5.0」を用いて、次のようにして算出した。まず、密度汎関数理論(DFT)に基づくB3LYP法により、カチオンのみ、アニオンのみ、これら両方からなる構造体、の各々について、分子の最安定構造エネルギーを計算した。次に、次式(1)により、分子の最安定構造エネルギーの差を求め、得られた値を単位変換して、イオン対間の相互作用エネルギーを算出した。
(カチオンの分子の最安定構造エネルギー+アニオンの分子の最安定構造エネルギー)−(構造体の分子の最安定構造エネルギー)・・・(1)
イオン液体の配合量は、共重合体の骨格を形成する原料全体を100質量%とした場合の、5質量%以上20質量%以下であることが望ましい。イオン液体の配合量が5質量%未満の場合、静電引力の増加効果が充分に得られない。反対にイオン液体の配合量が20質量%を超えると、ポリマー材料のガラス転移点が高くなり、吸湿しやすくなる。よって、当該ポリマー材料をトランスデューサの構成部材として用いると、トランスデューサの性能の低下を招く。
【0028】
共重合体は、上述した(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、イオン液体に加えて、さらにアクリロニトリルが共重合されたものでもよい。アクリロニトリルが加わることにより、ポリマー材料の比誘電率が大きくなる。このため、当該ポリマー材料をトランスデューサの構成部材として用いると、トランスデューサの発生力が大きくなる。アクリルニトリルの配合量は、共重合体の骨格を形成する原料全体を100質量%とした場合の、5質量%以上45質量%以下であることが望ましい。アクリルニトリルの配合量が5質量%未満の場合、比誘電率の増加効果を充分に得られない。反対に、アクリルニトリルの配合量が45質量%を超えると、ポリマー材料のガラス転移点が高くなり、弾性率が大きくなる。
【0029】
<イオン成分共重合ポリマー材料の製造方法>
本発明のイオン成分共重合ポリマー材料は、(メタ)アクリル酸エステルと、(メタ)アクリル酸と、イオン液体と、必要に応じて配合されるアクリロニトリルと、を共重合して得られる共重合体を、架橋して製造される。共重合するには、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の公知の方法を用いることができる。なかでも、乳化重合は、共重合体の分子量を大きくできることから、好適である。
【0030】
乳化重合の場合、重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素等の過酸化物を用いればよい。また、乳化剤としては、公知の界面活性剤を用いればよいが、なかでも非イオン性界面活性剤を用いることが望ましい。例えば、イオン性界面活性剤を用いると、得られるイオン成分共重合ポリマー材料中に、界面活性剤由来のイオン成分が残留する。このイオン成分共重合ポリマー材料からイオン固定層を形成し、当該イオン固定層を誘電層と積層させてトランスデューサを構成した場合、イオン固定層中のイオン成分が、誘電層に移動してしまう。その結果、誘電層の電気抵抗が低下して、絶縁破壊を招くおそれがある。このため、イオン成分共重合ポリマー材料中に界面活性剤由来のイオン成分を残留させないという観点から、非イオン性界面活性剤を用いることが望ましい。非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル等が挙げられる。
【0031】
また、共重合体を基材の表面にブラシ状に成長させてもよい(ポリマーブラシ)。ブラシの形成は、重合開始点を有するラジカル重合開始剤を基材の表面に固定した後、ニトロキシドラジカル重合、原子移動ラジカル重合、可逆的付加開裂連鎖移動重合等を用いて行えばよい。
【0032】
得られた共重合体を架橋する際に用いる架橋剤、架橋促進剤、架橋助剤については、(メタ)アクリル酸のカルボキシル基と反応可能な化合物から適宜選択すればよい。例えば、アミノ基、アクリロイル基等を有する化合物や有機金属化合物等が挙げられる。また、本発明のポリマー材料は、共重合体の架橋物以外に、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、可塑剤、加工助剤、老化防止剤、軟化剤、着色剤等が挙げられる。
【0033】
<トランスデューサ>
本発明のトランスデューサは、ポリマー製の誘電層と、該誘電層を介して配置される複数の電極と、該誘電層と該電極との間に介装されるイオン固定層と、を備える。イオン固定層は、上記本発明のイオン成分共重合ポリマー材料を含む。以下に、本発明のトランスデューサの三つの実施形態を説明する。
【0034】
[第一実施形態]
図1に、本発明のトランスデューサの第一実施形態の断面模式図を示す。
図1に示すように、トランスデューサ1は、誘電層10と、アニオン固定層20と、一対のプラス電極30aおよびマイナス電極30bと、を備えている。誘電層10は、水素化ニトリルゴム製である。アニオン固定層20は、誘電層10の下面に配置されている。マイナス電極30bは、アニオン固定層20の下面に配置されている。つまり、アニオン固定層20は、誘電層10とマイナス電極30bとの間に介装されている。
【0035】
アニオン固定層20は、アニオン(CH
2=CHCOO
−)がアクリルポリマーに共重合されたアニオン共重合ポリマー材料からなる。アニオン共重合ポリマー材料は、アニオンと対になるカチオンとして、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオンを含んでいる。アニオン共重合ポリマー材料は、乳化重合により得られた共重合体から薄膜状に製造されている。アニオン固定層20は、本発明のイオン固定層の概念に含まれる。
【0036】
アニオン固定層20においては、隣接するマイナス電極30bの極性と同じ電荷を持つアニオンが、アクリルポリマーに固定されている。したがって、一対の電極30a、30b間に電圧を印加すると、フリーのイオン成分(カチオン)は、電極30b方向へ移動するが、アクリルポリマーに固定されたアニオンは、ほとんど移動しない。つまり、アニオン固定層中20のアニオンは、誘電層10へ移動しにくい。したがって、誘電層10の電気抵抗を低下させることなく、一対の電極30a、30b間に大きな静電引力を発生させることができる。また、アニオン固定層20においては、アニオンが、金属酸化物粒子を介してではなく、直接アクリルポリマーに固定化されている。つまり、アニオン固定層20は、金属酸化物粒子を含まない。このため、アニオン固定層20は、柔軟である。したがって、トランスデューサ1によると、実用的な電圧範囲において、大きな変位量を得ることができる。
【0037】
[第二実施形態]
図2に、本発明のトランスデューサの第二実施形態の断面模式図を示す。
図2中、
図1と対応する部材については同じ符号で示す。
図2に示すように、トランスデューサ1は、誘電層10と、アニオン固定層20と、カチオン固定層21と、一対のプラス電極30aおよびマイナス電極30bと、を備えている。本実施形態のトランスデューサの構成は、カチオン固定層21を備えている点を除いて、第一実施形態のトランスデューサの構成と同じである。カチオン固定層21は、誘電層10の上面に配置されている。プラス電極30aは、カチオン固定層21の上面に配置されている。つまり、カチオン固定層21は、誘電層10とプラスス電極30aとの間に介装されている。
【0038】
カチオン固定層21は、カチオン(1−メチル−3−ビニルイミダゾリウムイオン)がアクリルポリマーに共重合されたカチオン共重合ポリマー材料からなる。カチオン共重合ポリマー材料は、カチオンと対になるアニオンとして、ベンゼンスルホン酸イオン(C
6H
5SO
3−)を含んでいる。カチオン共重合ポリマー材料は、乳化重合により得られた共重合体から薄膜状に製造されている。カチオン固定層21は、本発明のイオン固定層の概念に含まれる。
【0039】
カチオン固定層21においては、隣接するプラス電極30aの極性と同じ電荷を持つカチオンが、アクリルポリマーに固定されている。したがって、一対の電極30a、30b間に電圧を印加すると、フリーのイオン成分(アニオン)は、電極30a方向へ移動するが、アクリルポリマーに固定されたカチオンは、ほとんど移動しない。つまり、カチオン固定層中21のカチオンは、誘電層10へ移動しにくい。したがって、アニオン固定層20およびカチオン固定層21を誘電層10に積層させることにより、誘電層10の電気抵抗を低下させることなく、一対の電極30a、30b間に大きな静電引力を発生させることができる。また、カチオン固定層21においては、カチオンが、金属酸化物粒子を介してではなく、直接アクリルポリマーに固定化されている。つまり、カチオン固定層21は、アニオン固定層20と同様に、金属酸化物粒子を含まない。このため、カチオン固定層21は、柔軟である。したがって、トランスデューサ1によると、実用的な電圧範囲において、大きな変位量を得ることができる。
【0040】
[第三実施形態]
本実施形態のトランスデューサと、第二実施形態のトランスデューサと、の相違点は、アニオン固定層のアニオン共重合ポリマー材料およびカチオン固定層のカチオン共重合ポリマー材料が、乳化重合により得られた共重合体から製造されているのではなく、ブラシ状に成長させた共重合体から製造されている点である。ここでは、相違点についてのみ説明する。
【0041】
図3に、本発明のトランスデューサの第三実施形態の断面模式図を示す。
図3中、
図2と対応する部材については同じ符号で示す。
図3に示すように、トランスデューサ1は、誘電層10と、アニオン固定層20と、カチオン固定層21と、一対のプラス電極30aおよびマイナス電極30bと、を備えている。
【0042】
アニオン固定層20は、アニオン(CH
2=CHCOO
−)がアクリルポリマーに共重合されたアニオン共重合ポリマー材料からなる。アニオン共重合ポリマー材料は、アニオンと対になるカチオンとして、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオンを含んでいる。アニオン共重合ポリマー材料は、誘電層10の上面に、共重合体を上方に伸びるブラシ状に成長させて、製造されている。
【0043】
カチオン固定層21は、カチオン(1−メチル−3−ビニルイミダゾリウムイオン)がアクリルポリマーに共重合されたカチオン共重合ポリマー材料からなる。カチオン共重合ポリマー材料は、カチオンと対になるアニオンとして、ベンゼンスルホン酸イオン(C
6H
5SO
3−)を含んでいる。カチオン共重合ポリマー材料は、誘電層10の下面に、共重合体を下方に伸びるブラシ状に成長させて、製造されている。
【0044】
[イオン固定層]
柔軟性を向上させて印加電圧に対して変形しやすくするという観点から、イオン固定層の弾性率は、3MPa以下であるとよい。イオン固定層は、誘電層の厚さ方向両面のうちの少なくとも一方に積層される。例えば、第一実施形態のように、誘電層の厚さ方向一面のみにイオン固定層を積層して、トランスデューサを構成すればよい。あるいは、第二、第三実施形態のように、誘電層の厚さ方向両面にイオン固定層を積層して、トランスデューサを構成すればよい。誘電層の厚さ方向両面において電荷の供給を均一化するという観点から、第二、第三実施形態が望ましい。また、本発明のトランスデューサは、複数の誘電層を備えていてもよい。すなわち、誘電層と電極とを交互に積層させた積層構造を有していてもよい。この場合、少なくとも一つの誘電層−電極間に、イオン固定層を介装させればよい。
【0045】
イオン固定層は、本発明のイオン成分共重合ポリマー材料からなる薄膜の形態でも、ポリマーブラシの形態でもよい。後者の場合、イオン固定層が配置される側の誘電層の表面、あるいはイオン固定層が配置される側の電極の表面に、本発明のイオン成分共重合ポリマー材料を構成する共重合体を、ブラシ状に成長させればよい。イオン液体のカチオンおよびアニオンのうちの共重合されないイオン成分は、イオン成分共重合ポリマー材料中に、対イオンとして含まれる。
【0046】
イオン固定層は、本発明のイオン成分共重合ポリマー材料に加えて、エラストマーを含んでいてもよい。エラストマーは、架橋ゴムおよび熱可塑性エラストマーを含む。例えば、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、イソプレンゴム、天然ゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体等が好適である。また、エポキシ化天然ゴム、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム(XH−NBR)等のように、官能基を導入するなどして変性したエラストマーを用いてもよい。
【0047】
[誘電層]
誘電層は、ポリマー製である。「ポリマー製」とは、誘電層のベース材料が、ポリマー、すなわち樹脂またはエラストマーであることを意味する。よって、誘電層は、ポリマー以外に、添加成分を含んでいても構わない。誘電層のベース材料としては、伸縮性に優れるエラストマーが好適である。エラストマーは、架橋ゴムおよび熱可塑性エラストマーを含む。例えば、EPDM、イソプレンゴム、天然ゴム、フッ素ゴム、NBR、H−NBR、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体等が好適である。また、エポキシ化天然ゴム、XH−NBR等のように、官能基を導入するなどして変性したエラストマーを用いてもよい。
【0048】
添加成分としては、絶縁性が高い無機フィラー等が挙げられる。無機フィラーを配合することにより、誘電層の体積抵抗率を大きくすることができる。無機フィラーとしては、例えば、シリカ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム、炭酸カルシウム、クレー、焼成クレー、タルク等が挙げられる。これらの一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いればよい。例えば、後述する官能基の数が多く、比較的安価であるという理由から、シリカが好適である。また、シリカ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウムについては、有機金属化合物の加水分解反応(ゾルゲル法)により製造したものを用いてもよい。
【0049】
電子の流れを遮断して、より絶縁性を高くするためには、ポリマーと無機フィラーとが、化学結合されていることが望ましい。こうするためには、ポリマーおよび無機フィラーの両方が、互いに反応可能な官能基を有することが望ましい。官能基としては、水酸基(−OH)、カルボキシル基(−COOH)、無水マレイン酸基等が挙げられる。例えば、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム等のように、官能基を導入するなどして変性したエラストマーが好適である。また、無機フィラーにおいては、製造方法により、あるいは製造後に表面処理を施すことにより、官能基を導入したり、官能基の数を増加させることができる。官能基の数が多いほど、ポリマーと無機フィラーとの反応性が向上する。
【0050】
無機フィラーの配合割合は、誘電層の体積抵抗率等を考慮して、決定すればよい。例えば、ポリマーの100質量部に対して、5質量部以上50質量部以下とすることが望ましい。5質量部未満であると、電気抵抗を大きくする効果が小さい。反対に、50質量部を超えると、誘電層が硬くなり、柔軟性が損なわれるおそれがある。
【0051】
誘電層の厚さは、成膜精度を確保して膜の欠陥を低減するという観点から、5μm以上であることが望ましい。一方、誘電層の厚さが大きくなると、駆動に大きな電圧が必要になりコスト高になる。このため、誘電層の厚さは、50μm以下であることが望ましい。
【0052】
[電極]
本発明のトランスデューサにおいて、複数の電極は、誘電層およびイオン固定層に追従して変形可能であることが望ましい。このような電極は、バインダーおよび導電材を用いて形成することができる。伸縮しても電気抵抗が増加しにくい電極を形成するという観点から、バインダーとしては、エラストマーが好適である。エラストマーとしては、シリコーンゴム、NBR、EPDM、天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリルゴム、ウレタンゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン等の架橋ゴム、およびスチレン系、オレフィン系、塩ビ系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアミド系等の熱可塑性エラストマーが挙げられる。また、エポキシ基変性アクリルゴム、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム等のように、官能基を導入するなどして変性したエラストマーを用いてもよい。
【0053】
導電材の種類は、特に限定されない。カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン等の導電性炭素粉末、銀、金、銅、ニッケル、ロジウム、パラジウム、クロム、チタン、白金、鉄、およびこれらの合金等の金属粉末等から、適宜選択すればよい。また、銀被覆銅粉末など、金属で被覆された粒子からなる粉末を用いてもよい。これらの一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いればよい。
【0054】
電極は、バインダーおよび導電材に加えて、必要に応じて分散剤、補強剤、可塑剤、老化防止剤、着色剤等の添加剤を含んでいてもよい。例えば、バインダーとしてエラストマーを用いる場合、当該エラストマー分のポリマーを溶剤に溶解したポリマー溶液に、導電材、必要に応じて添加剤を添加して、攪拌、混合することにより、導電塗料を調製することができる。調製した導電塗料を、誘電層あるいはイオン固定層の一面に直接塗布することにより、電極を形成すればよい。あるいは、離型性フィルムに導電塗料を塗布して電極を形成し、形成した電極を、誘電層あるいはイオン固定層の一面に転写してもよい。
【0055】
導電塗料の塗布方法としては、既に公知の種々の方法を採用することができる。例えば、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、パッド印刷、リソグラフィー等の印刷法の他、ディップ法、スプレー法、バーコート法等が挙げられる。例えば、印刷法を採用すると、塗布する部分と塗布しない部分との塗り分けを、容易に行うことができる。また、大きな面積、細線、複雑な形状の印刷も容易である。印刷法の中でも、高粘度の塗料が使用でき、塗膜厚さの調整が容易であるという理由から、スクリーン印刷法が好適である。
【0056】
[製造方法]
本発明のトランスデューサは、以下の方法により製造することができる。第一の製造方法としては、まず、誘電層を、エラストマーの架橋前ポリマー等の原料を所定の溶剤中に溶解した溶液を基材上に塗布し、塗膜を加熱して架橋させることにより製造する。次に、本発明のイオン成分共重合ポリマー材料を含むイオン固定層を製造する。そして、誘電層とイオン固定層とを積層して、積層体を製造する。最後に、積層体の厚さ方向両面に電極を形成する。
【0057】
第二の方法としては、まず、所定の原料から、誘電層を製造するための未架橋の予備成形体を製造する。次に、本発明のイオン成分共重合ポリマー材料を製造するための共重合体を製造する。そして、金型中に、未架橋の予備成形体と、必要に応じてエラストマーの架橋前ポリマーをブレンドした共重合体と、を積層し、プレス架橋することにより積層体を製造する。最後に、積層体の厚さ方向両面に電極を形成する。
【0058】
第三の方法としては、まず、誘電層および電極を製造する。次に、誘電層または電極の表面に、本発明のイオン成分共重合ポリマー材料を構成する共重合体をブラシ状に成長させる。ブラシの形成は、重合開始点を有するラジカル重合開始剤を基材の表面に固定した後、ニトロキシドラジカル重合、原子移動ラジカル重合、可逆的付加開裂連鎖移動重合等を用いて行えばよい。その後、誘電層と電極とを、形成されたイオン固定層を挟むようにして積層すればよい。
【実施例】
【0059】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0060】
<イオン成分共重合ポリマー材料の製造>
[アニオン共重合ポリマー材料]
アニオンがポリマーに共重合されたアニオン共重合ポリマー材料を二種類製造した。
【0061】
(1)実施例A
まず、精製水167gおよび非イオン性界面活性剤2g(三洋化成工業(株)製「ナロアクティー(登録商標)CL−120」)を三つ口フラスコに入れ、羽根付き撹拌機で撹拌した。そこへ、アクリル酸ブチル80g、アクリル酸5g、およびイオン液体15gを加えて、アルゴンバブリングを30分間行った。それから、過硫酸アンモニウム0.1gを加えて70℃に昇温し、4時間撹拌することにより乳化重合を行った。得られた液を室温まで放冷した後、金網でろ過した。ろ液を精製水、アセトンで洗浄し、60℃で5時間、減圧乾燥を行って共重合体を得た。イオン液体としては、アクリル酸イオン(CH
2=CHCOO
−)と、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオンと、からなるイオン液体を使用した。当該イオン液体のイオン対間の相互作用エネルギーは、96kcal/molである。共重合の反応式を次式(2)に示す。
【化1】
【0062】
得られた共重合体をエタノールに溶解したポリマー溶液に、架橋剤としてテトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタンを添加して、混合液を調製した。架橋剤は、共重合体の100質量部に対して5質量部添加した。調製した混合液を基材上に塗布し、乾燥させた後、150℃で60分間加熱することにより架橋して、厚さ5μmの薄膜状のアニオン共重合ポリマー材料を製造した。
【0063】
(2)実施例B
まず、精製水167gおよび非イオン性界面活性剤2g(同上)を三つ口フラスコに入れ、羽根付き撹拌機で撹拌した。そこへ、アクリル酸ブチル80g、アクリロニトリル10g、アクリル酸5g、および実施例Aと同じイオン液体5gを加えて、アルゴンバブリングを30分間行った。それから、過硫酸アンモニウム0.3gを加えて75℃に昇温し、5時間撹拌することにより乳化重合を行った。得られた液を室温まで放冷した後、メタノール、ヘキサン、精製水で洗浄し、60℃で5時間、減圧乾燥を行って共重合体を得た。共重合の反応式を次式(3)に示す。
【化2】
【0064】
得られた共重合体をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解したポリマー溶液に、架橋剤としてテトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタンを添加して、混合液を調製した。架橋剤は、共重合体の100質量部に対して5質量部添加した。調製した混合液を基材上に塗布し、乾燥させた後、150℃で60分間加熱することにより架橋して、厚さ5μmの薄膜状のアニオン共重合ポリマー材料を製造した。
【0065】
[カチオン共重合ポリマー材料]
カチオンがポリマーに共重合されたカチオン共重合ポリマー材料を一種類製造した。
【0066】
(1)実施例C
まず、精製水167gおよび非イオン性界面活性剤2g(同上)を三つ口フラスコに入れ、羽根付き撹拌機で撹拌した。そこへ、アクリル酸ブチル80g、アクリル酸5g、およびイオン液体15gを加えて、アルゴンバブリングを30分間行った。それから、過硫酸アンモニウム0.1gを加えて70℃に昇温し、4時間撹拌することにより乳化重合を行った。得られた液を室温まで放冷した後、金網でろ過した。ろ液を精製水、アセトンで洗浄し、60℃で5時間、減圧乾燥を行って共重合体を得た。イオン液体としては、1−メチル−3−ビニルイミダゾリウムイオンと、ベンゼンスルホン酸イオン(C
6H
5SO
3−)と、からなるイオン液体を使用した。当該イオン液体のイオン対間の相互作用エネルギーは、88kcal/molである。共重合の反応式を次式(4)に示す。
【化3】
【0067】
得られた共重合体をDMFに溶解したポリマー溶液に、架橋剤としてテトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタンを添加して、混合液を調製した。架橋剤は、共重合体の100質量部に対して5質量部添加した。調製した混合液を基材上に塗布し、乾燥させた後、150℃で60分間加熱することにより架橋して、厚さ5μmの薄膜状のカチオン共重合ポリマー材料を製造した。
【0068】
<アクチュエータの製造>
誘電層と表側ポリマー層、裏側ポリマー層とを積層して三層の積層体を作製し、積層体の厚さ方向両面に電極を形成して、アクチュエータを製造した。
【0069】
[誘電層]
次のようにして、誘電層を製造した。まず、有機金属化合物のテトラi−プロポキシチタン0.01molに、アセチルアセトン0.02molを加えてキレート化した。このキレート化物に、イソプロピルアルコール(IPA)0.083mol、メチルエチルケトン(MEK)0.139mol、および水0.04molを添加して、TiO
2粒子のゾルを得た。得られたゾルを、40℃下で2時間静置して、エージング処理した。製造したゾルを、TiO
2ゾルと称す。
【0070】
TiO
2ゾルの製造において、テトラi−プロポキシチタンのキレート化物に、ジルコニウムアルコキシドの0.005molにアセチルアセトン0.01molを加えてキレート化したキレート化物を添加した。その後、IPA、MEK、および水を添加して、TiO
2/ZrO
2複合粒子のゾルを得た。得られたゾルを、40℃下で2時間静置して、エージング処理した。製造したゾルを、TiO
2/ZrO
2ゾルと称す。
【0071】
次に、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム(ランクセス社製「テルバン(登録商標)XT8889」)を、アセチルアセトンに溶解して、固形分濃度が12質量%のポリマー溶液を調製した。調製したポリマー溶液100質量部に、TiO
2ゾル20.57質量部およびTiO
2/ZrO
2ゾル14.35質量部を混合し、さらに架橋剤として、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタンのアセチルアセトン溶液(濃度20質量%)を3質量部添加して、混合液を調製した。調製した混合液を基材上に塗布し、乾燥させた後、150℃で約60分間加熱して、誘電層を得た。誘電層の厚さは5μmである。
【0072】
[実施例1のアクチュエータ]
誘電層の厚さ方向一面に、表側ポリマー層として、実施例Cのカチオン共重合ポリマー材料を配置し、誘電層の厚さ方向他面に、裏側ポリマー層として、実施例Aのアニオン共重合ポリマー材料を配置して、三層の積層体を作製した。また、アクリルゴムポリマー溶液にカーボンブラックを混合、分散させて導電塗料を調製した。そして、導電塗料を、作製した積層体の厚さ方向両面(表側ポリマー層および裏側ポリマー層の表面)にスクリーン印刷して、電極を形成した。このようにして、実施例1のアクチュエータを製造した。実施例1のアクチュエータの表側ポリマー層(カチオン固定層)、裏側ポリマー層(アニオン固定層)は、本発明のイオン固定層の概念に含まれる。実施例1のアクチュエータは、本発明のトランスデューサの概念に含まれる。
【0073】
[比較例1のアクチュエータ]
誘電層の厚さ方向一面に、表側ポリマー層として、カチオン固定粒子を含有するカチオン固定層を配置し、誘電層の厚さ方向他面に、裏側ポリマー層として、アニオン固定粒子を含有するアニオン固定層を配置して、三層の積層体を作製した。そして、積層体の厚さ方向両面に、実施例1と同様に電極を形成した。このようにして、比較例1のアクチュエータを製造した。
【0074】
(1)カチオン固定層の製造
まず、有機金属化合物のテトラi−プロポキシチタン0.01molに、アセチルアセトン0.02molを加えてキレート化した。次に、得られたキレート化物に、実施例Cのカチオン共重合ポリマー材料の製造に使用したイオン液体(1−メチル−3−ビニルイミダゾリウムイオンと、ベンゼンスルホン酸イオン(C
6H
5SO
3−)と、からなるイオン液体、上記式(4)参照)2.71mmol、IPA5ml(0.083mol)、MEK10ml(0.139mol)、および水0.04molを添加して、カチオンが固定されたTiO
2粒子(カチオン固定粒子)、およびアニオンを含むゾルを得た。そして、得られたゾルを、40℃下で2時間静置して、エージング処理した。
【0075】
次に、エージング後のゾル20質量部と、誘電層の製造に用いた、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴムをアセチルアセトンに溶解したポリマー溶液100質量部と、を混合し、さらに架橋剤として、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタンのアセチルアセトン溶液(濃度20質量%)を5質量部添加して、混合液を調製した。そして、調製した混合液を基材上に塗布し、乾燥させた後、150℃で約60分間加熱して、カチオン固定層を得た。カチオン固定層の厚さは5μmである。
【0076】
(2)アニオン固定層の製造
イオン液体の種類を、実施例Aのアニオン共重合ポリマー材料の製造に使用したイオン液体(アクリル酸イオン(CH
2=CHCOO
−)と、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオンと、からなるイオン液体、上記式(2)参照)に変更した以外は、上記カチオン固定層と同様にして、アニオン固定層を製造した。製造過程で得られたゾルは、アニオンが固定されたTiO
2粒子(アニオン固定粒子)、およびカチオンを含む。
【0077】
[比較例2のアクチュエータ]
誘電層に積層される表側ポリマー層、裏側ポリマー層として、イオン成分を含まないポリマー層を配置して、三層の積層体を作製した。そして、積層体の厚さ方向両面に、実施例1と同様に電極を形成した。このようにして、比較例2のアクチュエータを製造した。イオン成分を含まないポリマー層は、次のように製造した。
【0078】
まず、精製水100gおよび非イオン性界面活性剤1g(同上)を三つ口フラスコに入れ、羽根付き撹拌機で撹拌した。そこへ、アクリル酸ブチル95g、アクリル酸5g、および過硫酸アンモニウム0.1gを加えて、アルゴンバブリングを30分間行った。それから、70℃に昇温し、5時間撹拌することにより乳化重合を行った。得られた液を室温まで放冷した後、メタノール、ヘキサンで洗浄し、60℃で5時間、減圧乾燥を行った。さらに、精製水で洗浄し、再度、60℃で5時間、減圧乾燥を行うことにより、共重合体を得た。得られた共重合体をアセチルアセトンとエタノールとの混合溶媒(アセチルアセトン:エタノール=90:10(質量%))に溶解したポリマー溶液に、架橋剤としてテトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタンを添加して、混合液を調製した。架橋剤は、共重合体の100質量部に対して5質量部添加した。調製した混合液を基材上に塗布し、乾燥させた後、150℃で60分間加熱することにより架橋して、厚さ5μmの薄膜状のポリマー層を製造した。
【0079】
表1に、製造したアクチュエータにおける積層体の構成、各層の弾性率、および800Vの電圧印加時の変位率を示す。弾性率については、JIS K6254:2010に準じて引張試験を行い、25%歪みの静的せん断弾性率を測定した。測定には、短冊状1号形の試験片を用い、引張速度は100mm/minとした。変位率の測定方法については、後述する。
【表1】
【0080】
表1に示すように、実施例1のアクチュエータを構成する表側ポリマー層および裏側ポリマー層は、金属酸化物粒子(カチオン固定粒子、アニオン固定粒子)を含まない。したがって、実施例1のアクチュエータを構成する表側ポリマー層および裏側ポリマー層の弾性率は、比較例1のアクチュエータを構成する表側ポリマー層および裏側ポリマー層の弾性率と比較して、小さいことが確認された。
【0081】
<アクチュエータの評価>
作製した三種類のアクチュエータについて、印加電圧に対する変位率を測定した。まず、測定装置および測定方法について説明する。
図4に、測定装置に取り付けられた実施例1のアクチュエータの表側正面図を示す。
図5に、
図4のV−V断面図を示す。
【0082】
図4、
図5に示すように、アクチュエータ5の上端は、測定装置における上側チャック52により把持されている。アクチュエータ5の下端は、下側チャック53により把持されている。上側チャック52の上方には、ロードセル(図略)が配置されている。
【0083】
アクチュエータ5は、積層体50と一対の電極51a、51bとからなる。積層体50は、自然状態で、縦30mm、横20mm、厚さ15μmの矩形板状を呈している。積層体50は、誘電層500と、表側ポリマー層501と、裏側ポリマー層502と、からなる。表側ポリマー層501は、誘電層500の表面の全体を覆うように、配置されている。同様に、裏側ポリマー層502は、誘電層500の裏面の全体を覆うように、配置されている。電極51a、51bは、積層体50を挟んで表裏方向に対向するよう配置されている。電極51a、51bは、自然状態で、各々、縦29mm、横15mm、厚さ5μmの矩形板状を呈している。電極51a、51bは、上下方向に1mmずれた状態で配置されている。つまり、電極51a、51bは、積層体50を介して、縦28mm、横15mmの範囲で重なっている。電極51aの下端には、配線(図略)が接続されている。同様に、電極51bの上端には、配線(図略)が接続されている。電極51a、51bは、各々の配線を介して、電源(図略)に接続されている。電圧印加時には、電極51aがプラス極、電極51bがマイナス極になる。
【0084】
アクチュエータ5を、上下方向に25%延伸した状態で90秒静置する。それから、電極51a、51b間に電圧を印加する。すると、電極51a、51b間に静電引力が生じて、積層体50を圧縮する。これにより、積層体50の厚さは薄くなり、延伸方向(上下方向)に伸長する。積層体50の伸長により、上下方向の延伸力は減少する。電圧印加時に減少した延伸力を、ロードセルにより測定して、発生力とした。そして、測定された発生力と、積層体50の弾性率と、に基づいて、次式(5)により変位率を算出した。
変位率(%)=発生力(MPa)/弾性率(MPa)×1/2×100・・・(5)
次に、測定結果を説明する。
図6に、各アクチュエータにおける電圧と変位率との関係を示す。
図6に示すように、同じ電圧値で比較した場合、実施例1のアクチュエータの方が、比較例1、2のアクチュエータよりも、変位率が大きくなった。前出表1に示すように、例えば印加電圧800Vの時の変位率は、実施例1のアクチュエータでは8.6%、比較例1のアクチュエータでは6%であった。以上より、本発明のイオン成分共重合ポリマーからなるイオン固定層を誘電層に積層することにより、より大きな変位量が得られることが確認された。