【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新型電池先端科学基礎研究事業/革新型蓄電池先端科学基礎研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記リチウムマンガンコバルトニッケル複合酸化物(LiNi
1−x−yCo
xMn
yO
2)は、充電電圧が4.5V程度までは比較的優れたサイクル特性を示す。しかしながら、容量及びエネルギー密度をさらに高めるために4.6V以上というさらに高電圧の充電電圧で用いた場合には、結晶格子の収縮が顕著となり、サイクル特性が劣化する。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高容量及び高エネルギー密度を得るために、4.6V以上という高電圧の充電電圧で用いた場合であっても、優れたサイクル特性を有する非水二次電池用正極材料、及び該正極材料を用いた充放電特性に優れた非水二次電池を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、従来は、活物質バルクの劣化が主な課題であると考えられていたが、上記のような不可逆な結晶構造の変化は、活物質バルクよりも活物質表面近傍で特に顕著に発生することを見出した。そして、従来から非水二次電池の正極活物質として用いられている各種の材料について、その表面をAlを含有する材料からなるシェル部で被覆し、且つ、シェル部も含めた活物質全体の最表面から1nmの深さにおける各元素の元素濃度(最表面組成)及び10nmの深さにおける各元素の元素濃度を特定の範囲とすることにより、サイクル特性が改善されて、充放電サイクル時の容量維持率が大きく向上することを見出した。
【0012】
特に、このような正極材料を製造する手法として、特定の複合酸化物粒子に、特定のアルミニウムアルコキシド、ポリオール類及び塩基を用いたゾルゲル法により、Alを含有する材料で被覆する(特に、上記特定の複合酸化物粒子に、上記特定のアルミニウムアルコキシド、ポリオール類及び塩基を用いた加水分解反応及び重縮合反応を起こしてゲル皮膜を形成した後に、ろ過乾燥及び加熱焼成を施す)ことで、Alを含有する材料からなるシェル部(皮膜)を非常に均一に形成することができ、充放電時の抵抗を低減するとともに、結晶構造を安定化させて、優れたサイクル特性を有する正極活物質が得られることを見出した。
【0013】
なお、本発明の非水二次電池を充放電又は高電圧で貯蔵すると、主に電解液の分解生成物からなる皮膜が正極表面に形成されるが、本発明ではその皮膜はシェル部に含まない。本発明では、活物質を被覆および加熱焼成した後のシェル部を含む活物質最表面を表面の基点とする。
【0014】
本発明は、このような知見に基づいて更に研究を重ねた結果、完成されたものである。
即ち、本発明は、以下の非水二次電池用正極材料及びその製造方法、並びに該非水二次電池用正極材料を用いた非水二次電池用正極合剤層、非水二次電池用正極及び非水二次電池を包含する。
項1.コア部及び該コア部を被覆するシェル部を備える非水二次電池用正極材料であって、
前記コア部は、一般式(1):
LiNi
1−x−y−zCo
xMn
yM
zO
2
[式中、MはNi、Co及びMn以外の遷移金属;xは0.2〜0.4;yは0.2〜0.4;zは0〜0.1である。]
で示される組成を有する複合酸化物からなり、
前記シェル部は、A
lを含有する材料からなり
、
該Alを含有する材料は層状岩塩型の結晶構造を有するリチウムアルミニウム酸化物であり、且つ、
表面から1nmの深さにおけるNi、Co、Mn及びAlの原子濃度をそれぞれC
Ni1、C
Co1、C
Mn1及びC
Al1とし、表面から10nmの深さにおけるNi、Co、Mn及びAlの原子濃度をそれぞれC
Ni10、C
Co10、C
Mn10及びC
Al10とした際に、C
Al1と(C
Ni1+C
Co1+C
Mn1+C
Al1)との比:C
Al1/(C
Ni1+C
Co1+C
Mn1+C
Al1)が0.3〜0.6であり、C
Al10と(C
Ni10+C
Co10+C
Mn10+C
Al10)との比:C
Al10/(C
Ni10+C
Co10+C
Mn10+C
Al10)が0.05以下であり、C
Mn1とC
Mn10との比:C
Mn1/C
Mn10が0.4以下である、
非水二次電池用正極材料。
項
2.C
Co1とC
Co10との比:C
Co1/C
Co10が0.8以下である、項
1に記載の非水二次電池用正極材料。
項
3.前記シェル部の含有量が、シェル部を構成する物質の組成がAl
2O
3であるとして換算した場合に、コア部100重量部に対して、0.3〜1.5重量部である、項1
又は2に記載の非水二次電池用正極材料。
項
4.項1〜
3のいずれかに記載の非水二次電池用正極材料の製造方法であって、
(A)一般式(1):
LiNi
1−x−y−zCo
xMn
yM
zO
2
[式中、MはNi、Co及びMn以外の遷移金属;xは0.2〜0.4;yは0.2〜0.4;zは0〜0.1である。]
で示される組成を有する複合酸化物粒子に、炭素数3以上のアルキル基を有するアルミニウムアルコキシド、ポリオール類及び塩基を用いたゾルゲル法により、Alを含有する材料で被覆する工程を備える、製造方法。
項
5.前記炭素数3以上のアルキル基を有するアルミニウムアルコキシドが、アルミニウムイソプロポキシドである、項
4に記載の製造方法。
項
6.前記ポリオール類が、ジプロピレングリコールである、項
4又は
5に記載の製造方法。
項
7.前記塩基が、アンモニアである、項
4〜
6のいずれかに記載の製造方法。
項
8.前記工程(A)が、
(a1)一般式(1):
LiNi
1−x−y−zCo
xMn
yM
zO
2
[式中、MはNi、Co及びMn以外の遷移金属;xは0.2〜0.4;yは0.2〜0.4;zは0〜0.1である。]
で示される組成を有する複合酸化物粒子、炭素数3以上のアルキル基を有するアルミニウムアルコキシド、及びポリオール類を有機溶媒に分散させて分散液を調製する工程、
(a2)前記分散液に塩基及び水を添加し、前記複合酸化物粒子表面にゲル皮膜を形成する工程、及び
(a3)前記ゲル皮膜を形成した酸化物粒子に、ろ過乾燥及び加熱焼成を施す工程を備える、項
6〜
9のいずれかに記載の製造方法。
項
9.項1〜
3のいずれかに記載の非水二次電池用正極材
料を含む非水二次電池用正極合剤層。
項
10.項
9に記載の正極合剤層が、正極集電体の片面又は両面に形成されている、非水二次電池用正極。
項
11.項
10に記載の非水二次電池用正極を備える、非水二次電池。
項
12.4.6V以上の高充電電圧で用いる、項
11に記載の非水二次電池。
項
13.項
11又は
12に記載の非水二次電池を有する機器。
【発明の効果】
【0015】
本発明の正極材料は、特定の複合酸化物粒子の表面をAlを含有する材料からなるシェル部で被覆し、且つ、表面から1nmの深さにおける各元素の元素濃度及び10nmの深さにおける各元素の元素濃度を特定の範囲としたものであり、Alを含有する材料からなるシェル部(皮膜)を非常に均一に形成することができ、充放電時の抵抗を低減するとともに、結晶構造を安定化させていることにより、充放電サイクル時の容量維持率が高い値を示すものである。
【0016】
このため、本発明の正極材料を用いた非水二次電池は、4.6V以上という非常に高い電圧で充電を行っても、充放電サイクル特性の低下を抑えることができ、高容量で、且つ充放電サイクル特性が良好である。本発明の非水二次電池は、このような特性を生かして、電子機器(特に携帯電話やノートパソコン等のポータブル電子機器)、電源システム、乗り物(電気自動車、電動自転車等)等の各種機器の電源用途等に、好ましく用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の非水二次電池用正極材料及びその製造方法、並びに該非水二次電池用正極材料を用いた非水二次電池用正極合剤層、非水二次電池用正極及び非水二次電池について具体的に説明する。
【0019】
1.非水二次電用正極材料
本発明の非水二次電池用正極材料は、非水二次電池用正極活物質である一般式(1):
LiNi
1−x−y−zCo
xMn
yM
zO
2
[式中、MはNi、Co及びMn以外の遷移金属;xは0.2〜0.4;yは0.2〜0.4;zは0〜0.1である。]
で示される組成を有する複合酸化物の表面全体を、アルミニウムを含有する材料からなるシェル部で被覆したものである。
【0020】
また、本発明の非水二次電池用正極材料においては、表面から1nmの深さにおけるNi、Co、Mn及びAlの原子濃度をそれぞれC
Ni1、C
Co1、C
Mn1及びC
Al1とし、表面から10nmの深さにおけるNi、Co、Mn及びAlの原子濃度をそれぞれC
Ni10、C
Co10、C
Mn10及びC
Al10とした際に、C
Al1と(C
Ni1+C
Co1+C
Mn1+C
Al1)との比:C
Al1/(C
Ni1+C
Co1+C
Mn1+C
Al1)が0.3〜0.6であり、C
Al10と(C
Ni10+C
Co10+C
Mn10+C
Al10)との比:C
Al10/(C
Ni10+C
Co10+C
Mn10+C
Al10)が0.05以下であり、C
Mn1とC
Mn10との比:C
Mn1/C
Mn10が0.4以下である。
【0021】
この様な材料を正極材料として用いた非水二次電池は、従来の正極活物質を用いた非水二次電池と比較すると、サイクル特性が向上して、充放電時サイクル時に容量維持率が高い値を示す。この理由については、必ずしも明らかではないが、活物質表面を特定の組成を有する皮膜(シェル部)で非常に均一且つ良好に被覆でき、その結果Li拡散抵抗を過度に増大させない程度にLi脱離を抑制することができ、高電圧で充電した際にも結晶構造を安定化させることができるとともに、該皮膜が抵抗となることを抑制することができ、更には活物質成分の電解液への溶出が抑制されるものと推測される。
【0022】
<コア部>
本発明の非水二次電池用正極材料に用いるコア部としての複合酸化物粒子は、一般式(1):
LiNi
1−x−y−zCo
xMn
yM
zO
2
[式中、MはNi、Co及びMn以外の遷移金属;xは0.2〜0.4;yは0.2〜0.4;zは0〜0.1である。]
で示される組成を有する。
【0023】
このような組成を有する複合酸化物粒子は、通常、層状岩塩型構造を有する。
【0024】
上記複合酸化物粒子中のコバルト(Co)の濃度が低すぎると、4.6V以上という高電圧の充電を施した際に、放電電圧及び放電容量の増加量が少なくなる。一方、コバルト(Co)の濃度が高すぎると、充電時にリチウム(Li)が脱離した時の結晶の安定性が低下し、結果としてサイクル特性が低下する。このため、上記複合酸化物粒子において、上記一般式(1)におけるコバルト(Co)の濃度xは0.2〜0.4、好ましくは0.25〜0.35である。
【0025】
また、上記複合酸化物粒子中のマンガン(Mn)の濃度が低すぎると、結晶構造が不安定になる。一方、マンガン(Mn)の濃度が高すぎると、放電容量が低下する。このため、上記複合酸化物粒子において、上記一般式(1)におけるマンガン(Mn)の濃度yは0.2〜0.4、好ましくは0.25〜0.35である。
【0026】
さらに、上記複合酸化物粒子には、上記したLi、Mn、Co及びNi以外にも、他の金属元素(特に遷移金属元素)を、本発明の効果を損なわない範囲で少量添加してもよい。このような添加元素としては、例えば、Ti、V、Al、Mg、Zr、Zn、Cr、Fe、Cu、Nb、W等が挙げられる。
【0027】
このような複合酸化物粒子としては、具体的には、LiNi
0.33Co
0.33Mn
0.33O
2、LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2、LiNi
0.3Co
0.4Mn
0.3O
2、LiNi
0.5Co
0.3Mn
0.2O
2、LiNi
0.3Co
0.3Mn
0.4O
2等が挙げられ、LiNi
0.33Co
0.33Mn
0.33O
2、LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2、LiNi
0.3Co
0.3Mn
0.4O
2等が好ましく、LiNi
0.33Co
0.33Mn
0.33O
2等がより好ましい。これらの複合酸化物粒子は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組合せて用いてもよい。
【0028】
本発明で使用される複合酸化物粒子の平均粒子径は、正極容量を高めるために正極合剤層の密度を大きくする観点から、0.05〜30μmが好ましく、0.1〜15μmがより好ましい。
【0029】
<シェル部>
本発明では、シェル形成後に加熱してシェル元素と活物質元素が相互に拡散した層を活物質表面近傍に形成する。よって、シェル部を構成する材料としては、活物質と同じ層状岩塩型の結晶構造(LiMO
2型の構造(Mは金属))となって固溶できる材料が好ましい。また、充電時には活物質からLiが脱離するが、高電圧充電では特に活物質の表面近傍で過度にLiが減少し、格子歪が増大して結晶構造が不安定になる。これを抑制するため、表面近傍に形成される相互拡散層(シェル部)には充電時にもLiを脱離しない性質が必要であり、そのためには電気化学的に不活性な成分が存在する必要がある。このような観点から、拡散層にはLiAlO
2が形成されることが望ましく、LiAlO
2を形成するためのシェル材料としてはAlを含有する酸化物が好ましい。
【0030】
また、上記のとおり、シェル部は相互拡散層であるため、シェル部には、コア部を構成するNi、Co及びMn等の元素も含まれるが、シェル部を構成するAlを含有する材料には、これらの元素以外にも、Zr、Mg、Ti、Ga、B、C等の一種又は複数が含まれていてもよい。これらの元素を含む場合の濃度については特に限定的ではないが、Alに対する原子比として、0.005〜0.1程度とすることができる。
【0031】
Alを含有する材料からなるシェル部の厚みは、特に制限されないが、シェル部の含有量が、シェル部を構成する物質の組成がAl
2O
3であるとして換算した場合に、コア部100質量部に対して、0.3〜1.5質量部とすることが好ましく、0.5〜1.0質量部とすることがより好ましい。
【0032】
Alを含有する材料からなるシェル部の被覆量が上記した範囲内にある場合には、複合酸化物粒子の表面をより良好に被覆してよりサイクル特性を向上させることができるとともに、正極活物質表面でのイオンの移動が妨げられることがより少なく、必要な電池反応がより十分に進行する。
【0033】
<正極材料表面近傍の組成>
4.6V程度の高電圧充電時には、正極活物質から約80%のリチウム(Li)が脱離している。そのため、正極活物質の特に表面近傍での結晶構造変化が大きくなり、それがサイクル特性の劣化原因になる。
【0034】
本発明では、後述の製造方法のように、Alを含有する材料からなるシェル部を形成した後に加熱すると、Alを含有する材料からなるシェル部とコア部の複合酸化物粒子の原子とを相互拡散させて、表面近傍に組成変調層を形成することができ、これにより、高電圧充電時の活物質表面(複合酸化物粒子表面)近傍の安定性を高めることができる。
【0035】
この組成変調層のAlは複合酸化物粒子と同じ層状岩塩構造のリチウムアルミニウム酸化物(特にLiAlO
2)となり、コア部を構成するLiNi
1−x−y−zCo
xMn
yM
zO
2や、シェル部に存在し得るLiNiO
2、LiCoO
2、LiMnO
2等と固溶して共存すると考えられる。このリチウムアルミニウム酸化物(特にLiAlO
2)は電気化学的に不活性であり、リチウム(Li)を脱離しないので、高電圧で充電した時であっても、複合酸化物粒子表面近傍の結晶構造を安定化させることができる。一方、組成変調層が厚すぎると、つまり、このリチウムアルミニウム酸化物(特にLiAlO
2)が多すぎると、リチウムアルミニウム酸化物(特にLiAlO
2)は電気化学的に不活性であるため、リチウム(Li)イオン拡散の抵抗となり、充放電できる容量が低下する。このような観点から、リチウムアルミニウム酸化物(特にLiAlO
2)は、最表面近傍には存在することが好ましく、表面から1nmの深さにおけるNi、Co、Mn及びAlの原子濃度をそれぞれC
Ni1、C
Co1、C
Mn1及びC
Al1とし、表面から10nmの深さにおけるNi、Co、Mn及びAlの原子濃度をそれぞれC
Ni10、C
Co10、C
Mn10及びC
Al10とした際に、C
Al1と(C
Ni1+C
Co1+C
Mn1+C
Al1)との比:C
Al1/(C
Ni1+C
Co1+C
Mn1+C
Al1)は0.3〜0.6であり、好ましくは0.31〜0.55である。
【0036】
また、シェル部(Alを含有する材料からなる皮膜)の厚みが厚すぎると、リチウム(Li)の拡散抵抗となるため、C
Al10と(C
Ni10+C
Co10+C
Mn10+C
Al10)との比:C
Al10/(C
Ni10+C
Co10+C
Mn10+C
Al10)は0.05以下であり、好ましくは0.001〜0.05である。
【0037】
さらに、上記の組成変調層中のマンガン(Mn)の原子価は主に3価であるが、充放電によって4価及び2価に変化する不均化反応が進行し、2価のマンガン(Mn)が電解液中に溶出して、複合酸化物粒子の表面構造が劣化するため、組成変調層中(特に本発明の正極材料の最表面近傍)のマンガン(Mn)は少ないほうが劣化を抑制できる。このような観点から、C
Mn1とC
Mn10との比:C
Mn1/C
Mn10は、0.4以下であり、好ましくは0.001〜0.39である。
【0038】
また、4.6V以上という非常に高い電圧になると、充放電に伴いコバルト(Co)の電解液中への溶出も起きる傾向があるため、組成変調層中(特に本発明の正極材料の最表面近傍)のコバルト(Co)は少ないほうが、サイクル特性をより向上させることができる。このため、C
Co1とC
Co10との比:C
Co1/C
Co10は、0.8以下が好ましく、0.6以下がより好ましい。
【0039】
なお、本発明の正極材料の表面近傍の組成は、例えば、STEM−EDX(Scanning Transmission Electron Microscope−Energy Dispersive X−ray Analysis)等によって分析することができる。
【0040】
2.非水二次電用正極材料の製造方法
本発明の非水二次電池用正極材料の製造方法としては、上記した条件を満足するシェル部(Alを含有する材料からなる皮膜)を複合酸化物粒子の表面に形成できる方法であれば特に限定はなく適用できる。
【0041】
例えば、気相法、固相法等も適用できるが、特に、コストや形成される被覆物の均質性を考慮すると、溶液から被覆を形成する溶液法を適用することが好ましい。
【0042】
溶液法の具体的な内容については、特に限定的ではなく、例えば、ゾルゲル法と呼ばれる液相合成反応で形成することができる。
【0043】
ゾルゲル法では、金属アルコキシドや金属塩等を反応前駆体とし、溶液中で加水分解反応及び重縮合反応を起こさせて、金属酸化物が分散したゾルに変化させ、さらに反応を進めてゲルに変化させて乾燥する方法である。
【0044】
複合酸化物粒子に、上記シェル部(皮膜)を形成する場合には、反応前駆体と複合酸化物粒子を予め溶液に分散させ、そこに酸性又は塩基性触媒を加えて反応を起こさせると、複合酸化物粒子表面に金属酸化物の重合体からなるゲル皮膜が形成される。それをろ過乾燥させて、更に焼成すると、皮膜が複合酸化物粒子に強固に接着するとともに、複合酸化物粒子と皮膜の元素とが相互拡散して複合酸化物粒子表面近傍に組成変調層を形成する。この時、加熱前のゲル皮膜はできるだけ均一であることが好ましい。多く被着した部分と少なく被着した部分がある場合、多い部分では焼成時にアルミニウム(Al)が活物質中に拡散しきれずに活物質表面にAl
2O
3の組成で残存すると考えられる。リチウム(Li)イオンはAl
2O
3中をほとんど拡散できないので、充放電時の抵抗が増大して充放電容量が低下する傾向がある。一方少ない部分では、焼成によってアルミニウム(Al)の大部分が複合酸化物粒子内部に拡散してしまい、複合酸化物粒子最表面のアルミニウム(Al)濃度が低くなりすぎて、LiAlO
2による充電時の結晶構造安定化効果が薄まる傾向があるためにサイクル特性が十分に改善されない傾向がある。
【0045】
本発明では、被覆法を種々検討した結果、
(A)一般式(1):
LiNi
1−x−yCo
xMn
yO
2
[式中、xは0.2〜0.4;yは0.2〜0.4である。]
で示される組成を有する複合酸化物粒子に、炭素数3以上のアルキル基を有するアルミニウムアルコキシド、ポリオール類及び塩基を用いたゾルゲル法により、Alを含有する材料で被覆する工程
を備えることにより、複合酸化物粒子表面にAlを含有する材料からなる皮膜(シェル部)を非常に均一な皮膜とすることができ、充放電時の抵抗を低減するとともに、結晶構造を十分安定化させることができることを見出した。
【0046】
この本発明の製造方法は、具体的には、
(a1)一般式(1):
LiNi
1−x−yCo
xMn
yO
2
[式中、xは0.2〜0.4;yは0.2〜0.4である。]
で示される組成を有する複合酸化物粒子、炭素数3以上のアルキル基を有するアルミニウムアルコキシド、及びポリオール類を有機溶媒に分散させて分散液を調製する工程、
(a2)前記分散液に塩基及び水を添加し、前記複合酸化物粒子表面にゲル皮膜を形成する工程、及び
(a3)前記ゲル皮膜を形成した酸化物粒子に、ろ過乾燥及び加熱焼成を施す工程
を備える製造方法とすることが好ましい。
【0048】
<工程(a1)>
工程(a1)では、具体的には、有機溶媒中に上記アルミニウムアルコキシドを溶解させた後、ポリオール類を添加して攪拌し、次いで、上記した複合酸化物粒子を添加して攪拌することが好ましい。
【0049】
工程(A)又は工程(a1)で使用される複合酸化物粒子は、上記したコア部としての複合酸化物粒子と同じものである。
【0050】
工程(a1)において調製する分散液において、複合酸化物粒子の濃度は、特に制限されるわけではないが、均一な分散液が形成される範囲とすればよく、通常は、10〜50質量%が好ましいが、分散液量、分散液中のアルミニウムアルコキシド濃度、及び被覆量によって決定される。
【0051】
炭素数3以上のアルキル基を有するアルミニウムアルコキシドとしては、特に制限されるわけではないが、複合酸化物粒子表面にAlを含有する材料からなる皮膜(シェル部)を非常に均一な皮膜とすることができ、充放電時の抵抗を低減するとともに、結晶構造を十分安定化させることができる観点から、炭素数3以上のアルキル基を有する三官能のアルミニウムアルコキシドが好ましく、置換基がいずれも炭素数3以上のアルキル基である三官能のアルミニウムアルコキシドがより好ましく、アルミニウムイソプロポキシド(Al[OCH(CH
3)
2]
3)、アルミニウム−sec−ブトキシド(Al[OCHCH
3(CH
2CH
3)]
3)、アルミニウム−n−ブトキシド(Al[O(CH
2)
3CH
3]
3)、アルミニウム−tert−ブトキシド(Al[OC(CH
3)
3]
3)等がさらに好ましい。これらのアルミニウムアルコキシドは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組合せて用いてもよい。
【0052】
尚、アルミニウム(Al)に加えて、B、Li、Ni、Co、Mn、Fe、C等の一種又は複数を皮膜(シェル部)中に含ませる場合には、分散液中に、これらの元素を含む化合物(特に、これらの元素を含む前駆体)を分散させればよい。
【0053】
なお、アルミニウムアルコキシドとして、アルミニウムトリエトキシド(Al(OC
2H
5))等の炭素数3以上のアルキル基を有さないアルミニウムアルコキシドを反応前駆体として使用した場合には、C
Al1と(C
Ni1+C
Co1+C
Mn1+C
Al1)との比:C
Al1/(C
Ni1+C
Co1+C
Mn1+C
Al1)が大きくなり、リチウム(Li)イオン拡散の抵抗となるため放電容量が低下する。また、C
Mn1とC
Mn10との比:C
Mn1/C
Mn10が大きくなり、複合酸化物粒子の表面構造が劣化するため、サイクル特性が著しく悪化する。
【0054】
工程(a1)において調製する分散液において、アルミニウムアルコキシドの濃度は、特に制限されるわけではないが、Alを含有する材料による被覆をより均一にし、扱いをより容易にする観点から、0.2〜5質量%が好ましく、1〜3質量%がより好ましい。
【0055】
また、工程(a1)において調製する分散液において、アルミニウムアルコキシドの含有量は、特に制限されるわけではないが、Alを含有する材料の急激な析出を避けて均質な被覆を形成するためには、被覆化合物の濃度が低いことが好ましいが、上記被覆量から決定される範囲が好ましい。
【0056】
有機溶媒としては、上記の複合酸化物粒子及びアルミニウムアルコキシドを分散させることができるものであれば特に制限されないが、最初にアルミニウムアルコキシドを分散させる工程では疎水性有機溶媒が好ましい。具体的には、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素系溶媒;ブタノール、ペンタノール等の炭素数4以上のアルコール類;メチルイソブチルケトン等の総炭素数6以上のケトン等が挙げられ、脂肪族炭化水素類が好ましく、ヘプタンがより好ましい。これらの有機溶媒は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組合せて用いてもよい。
【0057】
ポリオール類としては、ジプロピレングリコール([HOCH
3CHCH
2]
2O)、ジエチレングリコール([HO(CH
2)
2]
2O)、トリエチレングリコール(HO(CH
2)
2O(CH
2)
2O(CH
2)OH)等が挙げられるが、前駆体のアルコキシドと置換して加水分解反応の速度を遅くし、反応の進行をより均一化して、粗大な重合体の生成や未反応物の残留が抑制され、より均一な皮膜が形成され、充放電時の抵抗を低減するとともに、結晶構造を十分安定化させることができる観点から、ジプロピレングリコールが好ましい。これらのポリオール類は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組合せて用いてもよい。
【0058】
また、工程(a1)において調製する分散液において、ポリオール類の含有量は、特に制限されるわけではないが、アルミニウムアルコキシドとして炭素数3以上のアルキル基を有する三官能のアルミニウムアルコキシドを用いた場合には、3個のアルコキシ基を置換するために、アルミニウムアルコキシド:ポリオール類=1:3(モル比)の近傍とすることが好ましい。具体的には、アルミニウムアルコキシド100モルに対して、270〜330モルが好ましく、294〜306モルがより好ましい。
【0059】
ポリオールは、工程(a1)において調製する分散液に加える前に他の溶媒で希釈してもよい。このような溶媒としては、具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜3のアルコール類等が挙げられ、沸点や非極性溶媒との相溶性の観点から、イソプロピルアルコールがより好ましい。これらの溶媒は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組合せて用いてもよい。希釈割合はポリオール類1重量部に対して、アルコール類が1〜2重量部であることが好ましい。
【0060】
<工程(a2)>
塩基としては、特に制限されないが、アンモニア、水酸化ナトリウム、ヒドロオキシルアミン、ピリジン等が挙げられ、安全性や取り扱い易さの観点から、アンモニアが好ましい。これらの塩基は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組合せて用いてもよい。
【0061】
塩基の添加量は、特に制限されないが、加水分解をより進行させやすくし、Alを含有する材料を徐々に析出させて被覆をより均一とするために、塩基:アルミニウムイソプロポキシド=0.01〜1:1(モル比)が好ましい。
【0062】
<工程(a3)>
上記した工程(a2)により複合酸化物粒子表面に、ゲル皮膜を形成することができる。これをろ過乾燥及び加熱焼成を施すことにより、このゲル皮膜を重合体皮膜に変え、複合酸化物粒子表面に、非常に均一な皮膜(シェル部)を形成することができる。また、この焼成により、LiAlO
2に対するLiNiO
2、LiCoO
2、及びLiMnO
2の固溶性の違いによって、本発明の正極材料の最表面には、Mn及びCoの存在量が少なくなると考えられる。
【0063】
ろ過乾燥の方法は特に制限されない。具体的には、工程(a2)により得た分散液を常法によりろ過して分散液から溶媒を除去し、その後乾燥すればよい。
【0064】
乾燥条件は特に限定的ではないが、溶媒の急激な蒸発を避けるために、1.0kPa〜0.1MPa程度の圧力で、10〜200℃程度、好ましくは30〜120℃程度で乾燥させればよい。
【0065】
焼成雰囲気は、大気中等の酸素を含む気体の雰囲気とすることができる。
【0066】
焼成温度は特に限定的ではないが、1.0kPa〜0.1MPa程度の圧力で、200〜1000℃程度、好ましくは400〜600℃程度とすればよい。
【0067】
焼成時間も限定的ではないが、通常10分〜48時間程度とすればよい。
【0068】
この本発明の製造方法により、上記した本発明の正極材料を得ることができる。
【0069】
3.非水二次電池用正極及び正極合剤層
上記した方法で得られる本発明の正極材料は、非水二次電池用の正極活物質として有効に用いることができる。
【0070】
具体的には、特に制限されないが、本発明の正極材料を用いる正極は、正極集電体の片面又は両面に、本発明の正極材料を用いた正極合剤層が形成されていることが好ましい。
【0071】
この正極合剤層は、本発明の正極材料と必要に応じて添加される導電助剤に高分子バインダーを加え、これを有機溶剤に分散させて正極合剤層形成用ペーストを調製し(この場合、高分子バインダーはあらかじめ有機溶剤に溶解又は分散させておいてもよい)、金属箔等からなる正極集電体の表面(片面又は両面)に塗布し、乾燥して正極合剤層を形成し、必要に応じて加工する工程を経て製造することができる。
【0072】
導電助剤としては、通常の非水二次電池と同様に、黒鉛;カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック等);表面に非晶質炭素を生成させた炭素材料等の非晶質炭素材料;繊維状炭素(気相成長炭素繊維、ピッチを紡糸した後に炭化処理して得られる炭素繊維等);カーボンナノチューブ(各種の多層又は単層のカーボンナノチューブ)等を用いることができる。正極の導電助剤としては、前記例示のものを一種単独で用いてもよいし、二種以上を組合せて用いてもよい。
【0073】
正極容量を高めるために正極合剤層の密度を大きくするには、正極活物質である本発明の正極材料の平均粒子径が0.05〜30μmであることが好ましく、導電助剤の平均粒子径が、本発明の正極材料の平均粒子径以下であることが好ましい[すなわち、本発明の正極材料の平均粒子径をRm(nm)、導電助剤の平均粒子径をRg(nm)としたとき、Rg≦Rmであることが好ましい]。
【0074】
高分子バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム等が挙げられる。
【0075】
正極合剤層の組成については、例えば、本発明の正極材料が70〜99質量%程度、高分子バインダーが1〜30質量%程度であることが好ましい。また、導電助剤を使用する場合には、本発明の正極材料が70〜99質量%程度、高分子バインダーが1〜20質量%程度、導電助剤が1〜20質量%程度であることが好ましい。更に、正極合剤層の厚みは、集電体の片面あたり、1〜100μm程度であることが好ましい。
【0076】
正極集電体としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタン又はこれらの合金からなる箔、パンチドメタル、エキスパンドメタル、網等を用い得るが、通常、厚みが10〜30μm程度のアルミニウム箔が好適に用いられる。
【0077】
4.非水二次電池
非水二次電池の構造については特に限定はなく、上記した本発明の正極材料を含む正極を有するものであればよく、その他の構成及び構造については、従来から知られている非水二次電池で採用されている構成及び構造を適用することができる。通常は、正極、負極、セパレータ及び非水電解質を少なくとも有する非水電解質二次電池とすればよい。
【0079】
負極としては、負極活物質や高分子バインダー等を含有する負極合剤層を、負極集電体の片面又は両面に形成した構成のものを使用することができる。
【0080】
負極活物質としては、リチウムイオンをドープ・脱ドープできるものであればよく、例えば、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭等の炭素質材料等が挙げられる。また、リチウム、リチウム含有化合物等も負極活物質として使用することができる。このリチウム含有化合物としては、例えば、錫酸化物、ケイ素酸化物、ニッケル−ケイ素系合金、マグネシウム−ケイ素系合金、タングステン酸化物、リチウム鉄複合酸化物等の他、リチウム−アルミニウム、リチウム−鉛、リチウム−インジウム、リチウム−ガリウム、リチウム−インジウム−ガリウム等のリチウム合金等が挙げられる。これら例示の負極活物質の中には、製造時にはリチウムを含んでいないものもあるが、充電時にはリチウムを含んだ状態になる。
【0081】
負極は、例えば、前記負極活物質と、必要に応じて添加される導電助剤(正極の場合と同様のもの)や前記正極の場合と同様の高分子バインダーとを混合して負極合剤とし、これを溶剤に分散させて負極合剤層形成用ペーストを調製し(高分子バインダーはあらかじめ溶剤に溶解又は分散させておいてから用いてもよい)、この負極合剤層形成用ペーストを負極集電体の表面に塗布し、乾燥して負極合剤層を形成し、必要に応じて加圧成形する工程を経ることによって作製することができる。なお、負極の製造方法は前記例示の方法に限定されず、他の方法を適用してもよい。
【0082】
負極合剤層においては、例えば、負極活物質が70〜99質量%程度であり、高分子バインダーが1〜30質量%程度であることが好ましい。また、導電助剤を使用する場合には、負極活物質が70〜99質量%程度、高分子バインダーが1〜20質量%程度、導電助剤が1〜20質量%程度であることが好ましい。さらに、負極合剤層の厚みは、負極集電体の片面あたり、1〜100μm程度であることが好ましい。
【0083】
負極集電体には、例えば、銅、ステンレス鋼、ニッケル、チタン又はそれらの合金等からなる箔、パンチドメタル、エキスパンドメタル、網等を用い得るが、通常、厚みが5〜30μm程度の銅箔が好適に用いられる。
【0084】
上記した正極と負極は、例えば、セパレータを介在させつつ積層した積層電極体や、さらにこれを渦巻状に巻回した巻回電極体の形で用いられる。
【0085】
セパレータとしては、強度が十分で且つ電解液を多く保持できるものがよく、そのような観点から、厚さが10〜50μmで開口率が30〜70%の、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等の一種又は複数を含む微多孔フィルムや不織布等が好ましい。
【0086】
本発明の非水二次電池において用いる非水電解質としては、通常、非水系の液状電解質(以下、これを「電解液」という)が用いられる。そして、その電解液としては有機溶媒にリチウム塩等の電解質塩を溶解させたものが用いられる。その有機溶媒としては、特に限定されることはないが、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネートなどの鎖状エステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の比誘電率の高い環状エステル;鎖状エステルと環状エステルとの混合溶媒等が挙げられ、特に鎖状エステルを主溶媒とした環状エステルとの混合溶媒が適している。
【0087】
電解液の調製にあたって上記有機溶媒に溶解させる電解質塩としては、例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiSbF
6、LiCF
3SO
3、LiC
4F
9SO
3、LiCF
3CO
2、Li
2C
2F
4(SO
3)
2、LiC
nF
2n+1SO
3(n≧2)、LiN(RfSO
2)(Rf’SO
2)(Rf及びRf’はフルオロアルキル基)、LiC(RfSO
2)
3(Rfはフルオロアルキル基)、LiN(RfOSO
2)
2(Rfはフルオロアルキル基)等を単独又は複数混合して用いることができる。電解液中における電解質塩の濃度は、特に限定されることはないが、0.3mol/L以上が好ましく、0.4mol/L以上がより好ましく、また、1.7mol/L以下が好ましく、1.5mol/L以下がより好ましい。
【0088】
本発明の非水二次電池において、非水電解質としては、前記電解液以外にも、前記電解液をポリマー等からなるゲル化剤でゲル化させたゲル状の電解質や、固体状の電解質等も用いることができる。そのような固体状電解質としては、無機系電解質のほか、有機系電解質等も用いることができる。
【0089】
また、本発明の非水二次電池の形態としては、スチール缶やアルミニウム缶等を外装缶として使用した筒形(角筒形や円筒形等)等が挙げられる。また、金属を蒸着したラミネートフィルムを外装体としたソフトパッケージ電池とすることもできる。
【実施例】
【0090】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。なお、本実施例で使用した含リチウム複合酸化物の平均粒径は、Honeywell社製のレーザー式回折・散乱式粒度分布計「MICROTRAC HRA 9320−X100」によって測定したD50である。
【0091】
実施例1
<正極活物質の被覆処理>
アルミニウムトリイソプロポキシド(ATI)1.25質量%を溶解したヘプタン溶液16g(ATI0.2g)に、予めジプロピレングリコール(DPG)とイソプロピルアルコール(IPA)とを35:65の質量比で混合させた溶媒1gを加えて攪拌し、そこにLiNi
0.33Co
0.33Mn
0.33O
2活物質粉体(平均粒子径10μm)10gを加えて攪拌分散させた。ここで、分散液中のDPGとATI中のAlのモル比は3:1とした。またATIの仕込み量は、形成される皮膜組成をAl
2O
3とした場合の活物質に対する質量比(以下、これを「被覆量」と言うこともある)で0.5質量%とした。
【0092】
次に、加水分解用の水と触媒として、アンモニア水を添加して、加水分解反応と縮重合反応とを起こさせ、活物質表面にゲル皮膜を形成した。加えたアンモニアの量はATIに対してモル比で0.1倍とした。分散液を吸引ろ過して溶媒を除去した後に80℃で真空乾燥した。乾燥品を大気中、500℃で2時間焼成することによって、表面が組成変調層で被覆された活物質粉体を得た。回収したろ液を濃縮して残渣がないこと、すなわちATIが完全に加水分解及び縮重合したことを確認した。
【0093】
<正極の作製>
被覆処理した正極活物質90質量部と、導電助剤(アセチレンブラック,平均粒子径 50nm)5質量部と、高分子バインダー(PVDF,ポリフッ化ビニリデン)5質量部とを混合して正極合剤とし、これをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に分散させて、正極合剤層形成用ペーストを調製した。この正極合剤層形成用ペーストを、厚みが15μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の片面に塗布し、乾燥して正極合剤層を形成し、プレスした後に120℃で乾燥して正極シート材を得た。プレス後の正極合剤層の厚さは40μmとした。この正極シート材を20mm×20mmの面積に打ち抜いて正極とした。
【0094】
<電池の組み立て>
電池の組み立てはアルゴングローブボックスの中で行った。負極にはリチウム金属を用い、セパレータには多孔性のポリプロピレンフィルムを用いた。電池外装体にはアルミラミネートフィルムを用いた。セパレータを介して正極と負極を対向させた積層体を外装体内に装填し、一部を残して外装体の外周を溶着封止した。次に、外装体内にエチレンカーボネートとジエチルカーボ ネートとの体積比3:7の混合溶媒に、LiPF
6を1mol/Lの濃度で溶解させた電解液を200μL注入した。注入後に外装体を完全に溶着封止し、非水二次電池を得た。
【0095】
実施例2
正極活物質の被覆処理において、被覆量を1質量%とした以外は実施例1と同じ方法で、正極活物質の被覆処理、正極の作製及び電池の組み立てを行った。
【0096】
実施例3
正極活物質の被覆処理において、被覆量を1質量%とし、且つ、焼成温度を600℃とした以外は実施例1と同じ方法で、正極活物質の被覆処理、正極の作製及び電池の組み立てを行った。
【0097】
実施例4
正極活物質の被覆処理において、被覆量を1質量%とし、且つ、コア部となる活物質粉体として、LiNi
0.33Co
0.33Mn
0.33O
2活物質粉体(平均粒子径10μm)ではなく、LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2活物質粉体(平均粒子径10μm)を用いた以外は実施例1と同じ方法で、正極活物質の被覆処理、正極の作製及び電池の組み立てを行った。
【0098】
実施例5
正極活物質の被覆処理において、被覆量を1質量%とし、且つ、コア部となる活物質粉体として、LiNi
0.33Co
0.33Mn
0.33O
2活物質粉体(平均粒子径10μm)ではなく、LiNi
0.3Co
0.4Mn
0.3O
2活物質粉体(平均粒子径10μm)を用いた以外は実施例1と同じ方法で、正極活物質の被覆処理、正極の作製及び電池の組み立てを行った。
【0099】
実施例6
正極活物質の被覆処理において、被覆量を1質量%とし、且つ、コア部となる活物質粉体として、LiNi
0.33Co
0.33Mn
0.33O
2活物質粉体(平均粒子径10μm)ではなく、LiNi
0.5Co
0.3Mn
0.2O
2活物質粉体(平均粒子径10μm)を用いた以外は実施例1と同じ方法で、正極活物質の被覆処理、正極の作製及び電池の組み立てを行った。
【0100】
実施例7
正極活物質の被覆処理において、被覆量を1質量%とし、且つ、コア部となる活物質粉体として、LiNi
0.33Co
0.33Mn
0.33O
2活物質粉体(平均粒子径10μm)ではなく、LiNi
0.3Co
0.3Mn
0.4O
2活物質粉体(平均粒子径10μm)を用いた以外は実施例1と同じ方法で、正極活物質の被覆処理、正極の作製及び電池の組み立てを行った。
【0101】
比較例1
正極活物質の被覆処理において、被覆量を1質量%とし、且つ、添加剤として、DPGではなく、エチル3−オキソブタネート(3−オキソ酢酸エチル、EOB)を用いた以外は実施例1と同じ方法で、正極活物質の被覆処理、正極の作製及び電池の組み立てを行った。
【0102】
比較例2
正極活物質の被覆処理において、被覆量を1質量%とし、且つ、反応前駆体として、ATIではなく、アルミニウムトリエトキシド(ATE)を用いた以外は実施例1と同じ方法で、正極活物質の被覆処理、正極の作製及び電池の組み立てを行った。
【0103】
比較例3
正極活物質の被覆処理において、被覆量を1質量%とし、且つ、添加剤であるDPGを用いなかった以外は実施例1と同じ方法で、正極活物質の被覆処理、正極の作製及び電池の組み立てを行った。
【0104】
比較例4
正極活物質の被覆処理において、被覆量を0.25質量%とした以外は実施例1と同じ方法で、正極活物質の被覆処理、正極の作製及び電池の組み立てを行った。
【0105】
比較例5
正極活物質の被覆処理において、被覆量を2質量%とした以外は実施例1と同じ方法で、正極活物質の被覆処理、正極の作製及び電池の組み立てを行った。
【0106】
比較例6
正極活物質の被覆処理において、被覆量を2質量%とし、且つ、焼成温度を600℃とした以外は実施例1と同じ方法で、正極活物質の被覆処理、正極の作製及び電池の組み立てを行った。
【0107】
<正極活物質の組成分析>
被覆処理をした正極活物質の表面近傍の組成をSTEM−EDX法で分析した。樹脂包埋した活物質を研磨して断面を露出させ、これをFIB(Focused Ion Beem)装置を用いて30nmの厚さまで薄膜化して分析試料とした。分析には球面収差補正STEM装置を用いた。加速電圧は200kVとした。STEM観察とEDX分析によっての活物質表面から1nmの深さの箇所と10nmの深さの箇所の組成を分析し、各々の箇所におけるAl、Ni、Co及びMnの原子濃度を算出した。
【0108】
<充放電特性の評価>
(1)初期特性評価
作製した非水二次電池を、20℃で、電池電圧が4.7Vに達するまで0.05C(LiNi
0.33Co
0.33Mn
0.33O
2の理論容量278mAh/gを1Cとする)の定電流で充電し、4.7Vに達した後は定電圧で充電電流が0.005C未満になるまで充電した。その後、0.05Cの定電流で電池電圧が2.5Vになるまで放電した。この一連の操作を1サイクルとして繰り返し、3サイクルまでの充放電特性を測定した。
【0109】
(2)サイクル試験
初期特性を測り終えた電池を、20℃で、電池電圧が4.7Vに達するまで1Cの定電流で充電し、4.7Vに達した後は定電圧で充電電流が0.1C未満になるまで充電した。その後、1Cの定電流で電池電圧が2.5Vになるまで放電した。この一連の操作を1サイクルとして、100サイクルまで充放電を繰り返した。そして、(100サイクル目の放電量/2サイクル目の放電容量)×100(%)を放電容量維持率とした。
【0110】
実施例1〜7及び比較例1〜6の、C
Al1/(C
Ni1+C
Co1+C
Mn1+C
Al1)、C
Al10/(C
Ni10+C
Co10+C
Mn10+C
Al10)、C
Mn1/C
Mn10、C
Co1/C
Co10、初期特性評価での初回放電容量、及びサイクル特性試験での放電容量維持率を表1に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
表1に示すように、本発明の非水二次電池は、いずれも、C
Al1/(C
Ni1+C
Co1+C
Mn1+C
Al1)が0.3〜0.6であり、C
Al10/(C
Ni10+C
Co10+C
Mn10+C
Al10)が0.05以下であり、C
Mn1/C
Mn10が0.4以下であった。また、本発明の非水二次電池は、200mAh/g以上の高い初回放電容量と、75%以上の優れた放電容量維持率を合わせ有していた。
【0113】
なお、実施例2〜3及び比較例1、4〜6において、各厚さにおける全金属元素(ただしLiを除く)の濃度に対する各元素の濃度の比は、表2及び
図1〜6に示すとおりである。
【0114】
【表2】