(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0031】
1. 荷電粒子線装置
まず、本実施形態に係る荷電粒子線装置の構成について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る荷電粒子線装置100の構成を説明するための図である。ここでは、荷電粒子線装置100が透過電子顕微鏡(TEM)である例について説明する。
【0032】
荷電粒子線装置100は、
図1に示すように、試料室2を備えた鏡筒(荷電粒子線装置本体)1と、ガス導入機構部3と、ガス環境調整部4と、ガス供給部6と、排気部7と、コンピューター8と、通信用ユニット9と、を含んで構成されている。
【0033】
荷電粒子線装置100では、試料Sをガス雰囲気において観察を行うことができる。荷電粒子線装置100では、コンピューター8から通信用ユニット9に対して、ガス環境調整部4のガス流入量調整バルブの開閉、ガス導入等の命令を行い、それを受けた通信用ユニット9がガス流入量調整バルブ等の操作を行う。これにより、試料室2内のガスの圧力を制御することができ、試料Sをガス雰囲気で観察することができる。
【0034】
図2は、鏡筒1、ガス導入機構部3、ガス環境調整部4、ガス供給部6、排気部7を説明するための図である。
【0035】
1.1. 鏡筒
鏡筒(荷電粒子線装置本体)1は、
図2に示すように、試料室2と、荷電粒子線源10と、照射レンズ12と、対物レンズ14と、中間レンズ16と、投影レンズ18と、撮像装置19と、を含んで構成されている。
【0036】
荷電粒子線源10は、電子線(荷電粒子線)EBを発生させる。荷電粒子線源10としては、例えば、公知の電子銃を用いることができる。荷電粒子線源10として用いられる電子銃は特に限定されず、例えば熱電子放出型や、熱電界放出型、冷陰極電界放出型などの電子銃を用いることができる。
【0037】
照射レンズ12は、荷電粒子線源10で発生した電子線EBを集束して試料Sに照射するためのレンズである。
【0038】
対物レンズ14は、照射レンズ12の後段に配置されている。対物レンズ14は、試料Sを透過した電子線EBで結像するための初段のレンズである。図示はしないが、対物レンズ14は、例えば、上磁極と下磁極とを備え、上磁極と下磁極との間に試料室2が設けられる。
【0039】
中間レンズ16は、対物レンズ14の後段に配置されている。投影レンズ18は、中間レンズ16の後段に配置されている。中間レンズ16および投影レンズ18は、対物レンズ14によって結像された像をさらに拡大し、撮像装置19上に結像させる。
【0040】
撮像装置19は、結像系(対物レンズ14、中間レンズ16、投影レンズ18)によって結像された電子顕微鏡像を撮像する。撮像装置19は、例えば、2次元的に配置された固体撮像素子を有するCCDカメラを含んで構成されている。撮像装置19は、電子顕微鏡像を撮像し、この電子顕微鏡像の情報を出力する。
【0041】
鏡筒1には、さらに、ビームブランキング装置(図示せず)が設けられていてもよい。ビームブランキング装置は、試料室2内の圧力の制御時など、試料Sに電子線EBを照射しなくないときに、一時的に電子線EBを遮断する。ビームブランキング装置は、例えば、荷電粒子線源10と照射レンズ12との間に配置される。ビームブランキング装置は、荷電粒子線源10から電子線EBを放出したまま、偏向器(図示せず)で電子線EBを曲げることで、電子線EBを遮断する。
【0042】
試料室2には、試料Sが収容される。試料室2において、試料Sは、試料ホルダー22の先端部に設けられた試料保持部23に保持されている。試料ホルダー22は、ゴニオメーター24に装着されている。試料保持部23に保持された試料Sは、ゴニオメーター24によって移動および傾斜が可能となっている。試料ホルダー22の外周にはリング状の溝が切られており、当該溝にはOリング25がはめ込まれている。このOリング25によって試料ホルダー22とゴニオメーター24との間が封止される。
【0043】
試料室2には、ガス導入機構部3によってガスが供給される。これにより、試料Sと供給されたガスとの反応過程(酸化反応、還元反応)をその場で動的に観察する、すなわち、ガス雰囲気におけるその場観察を行うことができる。
【0044】
1.2. ガス導入機構部
図3は、ガス導入機構部3を説明するための図である。
図3は、
図2の一部を拡大したものである。
【0045】
ガス導入機構部3は、ガス容器32と、ガス導入ノズル34と、オリフィス36と、排気管38と、を含んで構成されている。ガス導入機構部3は、移動可能に構成されている(リトラクタブル方式)。例えば、ガス導入機構部3は通常の観察の際には光軸から外れた位置にあり、試料室2にガスを導入する際にはガス導入機構部3を光軸上に移動させて用いる。
図2および
図3では、ガス導入機構部3が光軸上に位置している状態を図示している。
【0046】
ガス容器32は、試料室2を鏡筒1内の他の空間と隔てるための容器である。ガス容器32は、図示の例では、鏡筒1(ゴニオメーター24)に固定された容器保持部29にはめ込まれている。ガス容器32の外周にはリング状の溝が形成されており、当該溝にはOリング33がはめ込まれている。このOリング33によってガス容器32と容器保持部29との間が封止される。
【0047】
ガス容器32には、ガス導入ノズル34によってガスが導入される。ガス導入ノズル3
4は、ガス供給管42に接続されている。ガス導入ノズル34は、ガス供給管42を介して、ガス供給部6(
図2参照)から供給されるガスを試料室2に導入する。
【0048】
ガス容器32の上壁および下壁には、電子線EBを通過させるための電子線通過孔35が設けられている。電子線EBは、ガス容器32の上壁に設けられた電子線通過孔35を通って試料Sに照射される。また、試料Sを透過した電子線EBは、ガス容器32の下壁に設けられた電子線通過孔35を通って結像系(対物レンズ14、中間レンズ16、投影レンズ18)に入射する。
【0049】
オリフィス36は、電子線通過孔35の上部と下部に設けられている。また、ガス容器32の内部には、電子線通過孔35とオリフィス排気管45とを接続する排気管37が設けられている。このような構成により、試料室2内の空間と鏡筒1内の他の空間(荷電粒子線源10や光学系12,14,16,18等が配置された空間)との間を圧力的に隔てる差圧空間をつくることができる。これにより、試料室2内の空間と鏡筒1内の他の空間とを圧力差を保った状態とすることができる。
【0050】
排気管38は、試料室2内を排気するための管である。排気管38は、図示の例では、容器保持部29に接続されている。排気管38は、試料室排気管46に接続されている。
【0051】
図4および
図5は、ガス導入ノズル34を説明するための図である。なお、
図4は、ガス導入ノズル34の先端が第1位置P1に位置している状態を示し、
図5は、ガス導入ノズル34の先端が第2位置P2に位置している状態を示している。
【0052】
ガス導入ノズル34は、先端の孔からガス供給部6から供給されるガスを噴出する。このように試料Sへのガスの供給をノズル方式としたことにより、ガスを狭い領域に吹き付けることができる。したがって、例えば、試料Sの観察希望部分だけにガスを吹き付けることができる。これにより、圧力が高い領域を局所的に実現することができるため、電子線EBの散乱を抑えることができる。すなわち、ガス導入ノズル34を用いてガスを導入することで、例えば試料S近傍の圧力を、試料室2内の他の場所の圧力と比べて、高くすることができる。
【0053】
ガス導入機構部3は、ガス導入ノズル34を移動させるガス導入ノズル駆動部340を含んで構成されている。なお、
図2および
図3では、ガス導入ノズル駆動部340の図示を省略している。
【0054】
ガス導入ノズル駆動部340は、試料Sが保持されている試料保持部23の近傍の第1位置P1と、第1位置P1よりも試料保持部23から離れた第2位置P2との間で、ガス導入ノズル34を移動させる。これにより、例えばその場観察時には、ガス導入ノズル34の位置を第1位置P1にして、試料Sに効果的にガスを吹き付けることができる。また、例えばガスパージ(例えばArガスを用いたパージ)時には、ガス導入ノズル34の位置を第2位置P2にして、試料Sに直接ガスを吹き付けることなく、試料室2の全体をガス(Arガス)で置換することができる。ここで、ガスパージとは、試料室2内にArガス等のガスを供給して試料室2内のガスを置換することをいう。ガス導入ノズル駆動部340は、例えばモーター(図示せず)を含んで構成されており、当該モーターを動作させることによってガス導入ノズル34を移動させる。
【0055】
ガス導入ノズル34には、ガス導入ノズル34を加熱する加熱部342が設けられている。なお、
図2および
図3では、加熱部342の図示を省略している。
図4の例では、加熱部342は、ガス導入ノズル34に設けられた電熱線を含んで構成されている。加熱部342は、電熱線に電流を流すことによってガス導入ノズル34を加熱する。加熱部34
2によってガス導入ノズル34を加熱することにより、試料室2に導入されるガスを加熱することができる。また、例えば荷電粒子線装置100のベーク時に、ガス導入ノズル34もベークすることができる。ここで、ベークとは、荷電粒子線装置100を高真空に保つために、鏡筒1の壁面や構造物を高温加熱して脱ガスすることをいう。図示の例では、ガス供給管42にも同様にガス供給管42を加熱する加熱部344が設けられている。これにより、試料室2に導入されるガスを加熱することができる。また、例えば荷電粒子線装置100のベーク時に、ガス供給管42もベークすることができる。
【0056】
1.3. ガス環境調整部
ガス環境調整部(ガス環境調整装置)4は、
図2に示すように、ガス流入量調整バルブ40と、ガス供給管42と、第1真空計CG1と、排気バルブ44a,44b,44cと、排気管45,46と、第2真空計CG2と、を含んで構成されている。
【0057】
ガス流入量調整バルブ40は、試料室2に供給されるガスの流量を調整する。ガス流入量調整バルブ40は、例えば、開度によってガスの流量を調整することができる可変バルブである。ガス流入量調整バルブ40の開度は、ガス制御部812(
図6参照)によって制御される。ガス流入量調整バルブ40は、ガス供給管42に設けられている。
【0058】
ガス供給管42は、ガス供給部6とガス導入ノズル34とを接続するための管である。ガス供給管42のガス供給部6側にはガス流入量調整バルブ40が設けられ、ガス導入ノズル34側には、第1真空計CG1が設けられている。
【0059】
第1真空計CG1は、ガス供給部6から試料室2に供給されるガスの圧力を測定する。図示の例では、第1真空計CG1は、ガス流入量調整バルブ40とガス導入ノズル34との間のガス供給管42内の圧力を測定する。第1真空計CG1は、例えば、クリスタル真空計である。なお、第1真空計CG1としてその他の真空計を用いてもよい。第1真空計CG1の測定結果は、コンピューター8に送られる。
【0060】
排気バルブ44a,44b,44cは、排気部7の排気系7a,7b,7cを切り替えるためのバルブである。図示の例では、排気部7は、排気能力の異なる3つの排気系7a,7b,7cを有しており、排気バルブ44a,44b,44cによって、試料室2を排気する排気系7a,7b,7cを切り替えることができる。排気バルブ44a,44b,44cは、例えば、全開か全閉のいずれかの状態をとる切り替え弁である。排気バルブ44a,44b,44cの開閉は、ガス制御部812(
図6参照)によって制御される。
【0061】
オリフィス排気管45は、ガス容器32の排気管37と排気装置(図示せず)を接続するための管である。なお、図示はしないが、オリフィス排気管45と排気装置70,71,72とを接続する配管やバルブを設けて、排気部7の排気装置70,71,72を用いてオリフィス36(
図3参照)を排気してもよい。
【0062】
試料室排気管46は、排気バルブ44a,44b,44cとガス容器32の排気管38とを接続するための管である。試料室排気管46には、第2真空計CG2が設けられている。
【0063】
第2真空計CG2は、試料室2から排出されるガスの圧力を測定する。第2真空計CG2は、図示の例では、試料室排気管46内の圧力を測定する。第2真空計CG2は、例えば、クリスタル真空計である。なお、第2真空計CG2としてその他の真空計を用いてもよい。第2真空計CG2の測定結果は、コンピューター8に送られる。
【0064】
ガス環境調整部4は、図示はしないが、ガス供給管42内、オリフィス排気管45内、
および試料室排気管46内等を排気するための排気管や排気装置を有していてもよい。また、ガス導入機構部3内およびガス環境調整部4内の配管42,45,46等を排気装置70,71,72で排気するための配管およびバルブ等が設けられていてもよい。
【0065】
また、ガス環境調整部4は、図示はしないが、さらに、ガス供給管42、排気管45,46内の圧力を測定するための真空計を複数有していてもよい。
【0066】
1.4. ガス供給部
ガス供給部6は、ガス環境調整部4を介して、試料室2にガスを供給する。ガス供給部6は、ガス供給管42に接続されている。ガス供給部6は、様々な種類のガスを試料室2に供給することができる。例えば、ガス供給部6は、試料Sを酸化させるためのガス、試料Sを還元させるためのガス、試料室2やガス供給管42をパージするためのガス等を供給する。ガス供給部6は、例えば、複数のガスボンベと、当該ガスボンベとガス供給管42との接続を切り替えるための切り替え部と、を含んで構成されている。ガス供給部6から供給されるガスの流量は、ガス流入量調整バルブ40によって調整される。
【0067】
1.5. 排気部
排気部7は、ガス環境調整部4を介して、試料室2を排気する。排気部7は、複数(図示の例では3つ)の排気系7a,7b,7cを有している。3つの排気系7a,7b,7cはそれぞれ排気能力が異なっている。なお、図示はしないが、排気部7は、1つの排気系のみを有していてもよいし、4つ以上の排気系を有していてもよい。
【0068】
排気系7aは、排気装置(ターボ分子ポンプ)70と、排気装置(スクロールポンプ)71と、排気バルブ44aに接続された排気管74aと、を含んで構成されている。排気系7aは、排気系7b,7cよりも排気能力が高い。排気系7aは、排気能力が高い排気装置(ターボ分子ポンプ)70を用いることで高い排気能力を実現している。なお、排気装置(スクロールポンプ)71は、補助ポンプとして用いられる。
【0069】
排気系7bは、排気装置(スクロールポンプ)72と、排気バルブ44bに接続された排気管74bと、を含んで構成されている。
【0070】
排気系7cは、排気装置(スクロールポンプ)72と、排気バルブ44cに接続された排気管74cと、を含んで構成されている。
【0071】
排気系7bは、排気系7cよりも排気能力が高い。排気系7bは、排気系7cと同じ排気装置(スクロールポンプ)72を用いているが、排気管74bの径(直径)を排気管74cの径(直径)よりも大きくすることで、排気系7cよりも高い排気能力を実現している。
【0072】
1.6. コンピューター
図6は、コンピューター8を説明するための図である。コンピューター8は、ガス環境調整部4やガス導入機構部3を制御するためのコンピューターである。コンピューター8は、処理部810と、操作部820と、記憶部830と、情報記憶媒体840と、表示部850と、音出力部860と、通信部870と、を含んで構成されている。
【0073】
操作部820は、ユーザーによる操作に応じた操作信号を取得し、処理部810に送る処理を行う。操作部820は、例えば、ボタン、キー、タッチパネル型ディスプレイ、マイクなどである。
【0074】
記憶部830は、処理部810や通信部870などのワーク領域となるもので、その機
能はRAMなどのハードウェアにより実現できる。
【0075】
情報記憶媒体840(コンピューターにより読み取り可能な媒体)は、プログラムやデータなどを格納するものであり、その機能は、光ディスク(CD、DVD等)、光磁気ディスク(MO)、磁気ディスク、ハードディスク、磁気テープ、或いはメモリ(ROM)などのハードウェアにより実現できる。
【0076】
また情報記憶媒体840には、本実施形態の各部(ガス制御部812、表示制御部814)としてコンピューターを機能させるプログラムやデータが記憶される。
【0077】
処理部810は、この情報記憶媒体840に格納されるプログラムや情報記憶媒体840から読み出されたデータなどに基づいて本実施形態の種々の処理を行う。すなわち情報記憶媒体840には、本実施形態の各部としてコンピューター8を機能させるためのプログラム(各部の処理をコンピューターに実行させるためのプログラム)が記憶される。
【0078】
表示部850は、処理部810(表示制御部814)により生成された情報(ガス環境調整部4の稼働情報)を出力するものであり、その機能は、CRTディスプレイ、LCD(液晶ディスプレイ)、OELD(有機ELディスプレイ)、PDP(プラズマディスプレイパネル)、タッチパネル型ディスプレイなどのハードウェアにより実現できる。
【0079】
音出力部860は、処理部810により生成された音を出力するものであり、その機能は、スピーカー、或いはヘッドフォンなどのハードウェアにより実現できる。
【0080】
通信部870は、通信用ユニット9やその他の外部装置(例えばサーバー装置や他の端末機)との間で通信を行うための各種の制御を行うものであり、その機能は、各種プロセッサー又は通信用ASICなどのハードウェアや、プログラムなどにより実現できる。
【0081】
処理部810は、操作部820からの操作信号やプログラムなどに基づいて、各種処理などを行う。この処理部810は記憶部830をワーク領域として各種処理を行う。処理部810の機能は各種プロセッサー(CPU、DSP等)、ASIC(ゲートアレイ等)などのハードウェアや、プログラムにより実現できる。
【0082】
処理部810は、ガス制御部812と、表示制御部814と、を含んで構成されている。
【0083】
(1)ガス制御部
ガス制御部812は、ガス環境調整部4を制御する。具体的には、ガス制御部812は、第1真空計CG1の測定結果と試料室2内の圧力との関係を示す関係式、および試料室2に供給されるガスの種類に応じた第1真空計CG1の測定結果を補正する補正係数に基づいて、試料室2に供給されるガスの目標圧力値を設定し、第1真空計CG1の測定結果が目標圧力値となるようにガス流入量調整バルブ40を制御する。
【0084】
まず、第1真空計CG1の測定結果と試料室2内の圧力との関係を示す関係式(以下、単に「関係式」ともいう)について説明する。
【0085】
図7は、第1真空計CG1の圧力値(測定結果)と第2真空計CG2の圧力値(測定結果)との関係、および試料S近傍(試料室2内)の圧力値(Specimen圧)と第2真空計CG2の圧力値との関係を示すグラフである。
【0086】
図7に示すグラフは、荷電粒子線装置100において、試料室2に窒素ガス(N
2ガス
)を導入したときの第1真空計CG1の測定結果および第2真空計CG2の測定結果から求めたものである。また、試料S近傍の圧力値は、試料ホルダー22に圧力測定用素子を取り付けて試料室2内に導入し、測定を行った結果である。ここでは、試料室2内の圧力値として、この圧力測定用素子の測定結果から得られた試料S近傍の圧力値を用いている。これらの結果に基づいて、関係式a,b,c,dを求めた。
【0087】
関係式aは、排気系7aで試料室2を排気したときの第1真空計CG1の圧力値と第2真空計CG2の圧力値との関係を示す関係式である。関係式bは、排気系7bで試料室2を排気したときの第1真空計CG1の圧力値と第2真空計CG2の圧力値との関係を示す関係式である。関係式cは、排気系7cで試料室2を排気したときの第1真空計CG1の圧力値と第2真空計CG2の圧力値との関係を示す関係式である。関係式dは、試料S近傍の圧力値と第2真空計CG2の圧力値との関係を示す関係式である。
【0088】
図7に示すように、排気系7a,7b,7cによって第1真空計CG1の圧力値と第2真空計CG2の圧力値との関係は変わる。そのため、荷電粒子線装置100では、排気系7a,7b,7cの排気能力に応じて、各排気系7a,7b,7cを用いる圧力範囲P
low,P
middle,P
highを設定している。ここで、圧力範囲P
low,P
middle,P
highは、第2真空計CG2の圧力値Pの範囲である。
【0089】
図7の例では、排気系7aを用いる圧力範囲P
lowは、5.0×10
−3≦P≦1.0×10
0である。排気系7bを用いる圧力範囲P
middleは、1.0×10
0<P≦1.0×10
2である。排気系7cを用いる圧力範囲P
lowは、1.0×10
2<P≦1.0×10
4である。すなわち、荷電粒子線装置100では、第2真空計CG2の圧力値Pが圧力範囲P
lowの場合には、試料室2は排気系7aで排気される。また、第2真空計CG2の圧力値Pが圧力範囲P
middleの場合には、試料室2は排気系7bで排気される。第2真空計CG2の圧力値Pが圧力範囲P
highの場合には、試料室2は排気系7cで排気される。なお、各圧力範囲は、上記の例に限定されず、排気系7a,7b,7cの排気能力に応じて適宜設定することができる。
【0090】
上記のように排気系7a,7b,7cを用いる圧力範囲P
low,P
middle,P
highを設定した場合の、第1真空計CG1の圧力値(測定結果)と第2真空計CG2の圧力値(測定結果)との関係を示す関係式Rを示すグラフを
図8に示す。
図8に示す関係式Rを用いることで、第2真空計CG2の圧力値から第1真空計CG1の圧力値が決まる。このように関係式Rは、第2真空計CG2の圧力値から第1真空計CG1の圧力値を一義的に決定することができる。同様に、関係式Rは、第1真空計CG1の圧力値から第2真空計CG2の圧力値を一義的に決定することができる。
【0091】
また、関係式dを用いることで第2真空計CG2の圧力値から試料S近傍の圧力値(Specimen圧)が決まる。このように関係式dは、第2真空計CG2の圧力値から試料S近傍の圧力値を一義的に決定することができる。同様に、関係式dは、試料S近傍の圧力値から第2真空計CG2の圧力値を一義的に決定することができる。図示の例では、関係式dは、(Specimen圧)=(第2真空計CG2の圧力値)となっている。なお、関係式dは、これに限定されず、実験結果に応じて様々な関数をとることができる。
【0092】
関係式Rおよび関係式dを用いることで、試料S近傍の圧力値から第1真空計CG1の圧力値を決定することができる。したがって、例えば試料S近傍の圧力を所定圧力にしたい場合、関係式Rおよび関係式dを用いて試料室2に供給されるガスの圧力値(目標圧力値)を算出し、第1真空計CG1の測定結果が目標圧力値となるようにガス流入量調整バルブ40を制御することで、試料S近傍の圧力値を所望の圧力値に制御することができる。
【0093】
ここで、目標圧力値とは、試料S近傍(試料室2内)の圧力値を制御するときの目標となる第1真空計CG1の圧力値である。目標圧力値は、例えば試料S近傍を所定圧力に制御する場合に、試料室2近傍と第1真空計CG1の圧力値との関係を示す関係式(例えば関係式R,d)を用いて当該所定圧力から算出することができる。
【0094】
なお、上述した関係式Rおよび関係式dは、試料室2に窒素ガスを導入したときの関係式であり、その他のガス種については、以下で説明する補正係数を用いて関係式Rおよび関係式dから求めた目標圧力値を補正する処理を行うことで制御することができる。
【0095】
次に、試料室2に供給されるガスの種類に応じた第1真空計CG1の測定結果を補正する補正係数について説明する。
【0096】
第1真空計CG1および第2真空計CG2として用いる真空計(例えばクリスタル真空計)の測定感度は、測定雰囲気のガス種(分子量)に依存する。
【0097】
図9は、真空計(クリスタル真空計)の圧力値(表示圧力、測定結果)と基準圧力との関係の一例を示すグラフである。
図9に示す例では、例えば、分子量が小さいガスほど、真空計の測定結果の値は小さくなり、分子量が大きいガスほど、真空計の測定結果の値は大きくなる傾向がある。
【0098】
ここで、
図8に示す関係式Rおよび関係式dは、窒素ガスで得られた関係式であり、窒素ガスと分子量の異なるガスについては、
図9のグラフからわかるように、関係式Rおよび関係式dから得られた目標圧力値をそのまま用いることはできない。したがって、第1真空計CG1の測定結果を補正する補正係数(以下単に「補正係数」ともいう)を用いて、ガス種に応じて補正された目標圧力値を求める処理を行う。これにより、ガスの種類(分子量)が異なる場合でも、試料S近傍の圧力の制御が可能となる。
【0099】
補正係数は、ガス種(分子量)に応じて生じる真空計の測定結果のずれを補正(校正)する係数である。補正係数は、例えば、窒素ガスを基準(窒素ガスの補正係数を1)としている。補正係数は、ガス(分子量)ごとに設定されている。また、補正係数は、1つのガス(分子量)に対して、ガスの圧力範囲ごとに設定されていてもよい。すなわち、補正係数は、1つのガス(分子量)に対して、ガスの圧力範囲に応じて複数設定されていてもよい。また、この圧力範囲は、分子量に応じて設定されていてもよい。
【0100】
また、
図9に示す真空計の圧力値(表示圧力、測定結果)と基準圧力との関係の一例を示すグラフから補正係数を取得してもよい。
【0101】
また、補正係数は、ガスの分子量と真空計の感度との関係を示す関係式から求めてもよい。すなわち、あらかじめガスの分子量と真空計の感度との関係式を取得しておき、ガス種(分子量)に応じてこの関係式から補正係数を求めてもよい。このような関係式を用いることで、様々なガス種に対して、容易に補正係数を取得することができる。
【0102】
また、補正係数は、例えば、
図9に示す真空計の圧力値(表示圧力、測定結果)と基準圧力との関係を示す補正曲線(校正曲線)を再現するための近似式を求めることで得てもよい。
図10は、
図9に示す補正曲線を近似して補正係数を算出した際の近似式(補正係数算出式)から作成したグラフである。
【0103】
図10の例では、150Paを境に2つの領域に分けて近似を行っている。
図10に示すように、
図9に示す真空計の圧力値(表示圧力、測定結果)と基準圧力との関係を示す
補正曲線が再現されており、各種ガスの補正係数が正確に得られていることがわかる。
【0104】
関係式Rおよび関係式dや、ガス種ごとの補正係数、分子量から補正係数を求めるための計算式等は、例えば、記憶部830(
図6参照)に記憶されている。
【0105】
次に、ガス制御部812の具体的な処理について説明する。ガス制御部812は、例えば、ユーザーによって試料S近傍の圧力値、および試料Sに供給されるガス種が設定されると、試料S近傍の圧力値と第2真空計CG2の圧力値との関係を示す関係式dを用いて、設定された試料S近傍の圧力値(目標値)から第2真空計CG2の圧力値を求める。次に、第1真空計CG1の圧力値と第2真空計CG2の圧力値との関係を示す関係式Rを用いて、求めた第2真空計CG2の圧力値から第1真空計CG1の圧力値(目標圧力値)を求める。次に、設定されたガス種に対応する補正係数を用いて、求めた目標圧力値を補正する。ガス制御部812は、第1真空計CG1の値が補正された目標圧力値となるように、ガス流入量調整バルブ40を制御する。
【0106】
ガス制御部812は、例えば、窒素ガスの分子量を起点にして、分子量が28以上の場合と、分子量が28未満の場合と、の2つに対して独立した計算式によって補正係数を求めてもよい。さらに、ガス制御部812は、試料室2の圧力範囲によって補正係数を求めるための計算式を個別に設定してもよい。
【0107】
また、ガス制御部812は、例えば、排気系7a,7b,7cの切り替えを行わずに排気系7aのみを用いる場合には、
図7に示す関係式a,dを用いて、目標圧力値を算出することができる。
【0108】
図11は、第1真空計CG1の圧力値(測定結果)と第2真空計CG2の圧力値(測定結果)の関係の一例を示すグラフである。
図11の例では、窒素ガスの分子量よりも分子量が大きいガス(Ar、O
2)は、同じ入力ガス圧(第1真空計CG1の圧力値)に対して、窒素ガスほど出力(第2真空計CG2の圧力値)が上がっていない。窒素ガスの分子量よりも分子量が小さいガス(CH
4)は、同じ入力ガス圧(第1真空計CG1の圧力値)に対して、窒素ガスよりも出力(第2真空計CG2の圧力値)が上がっている。
【0109】
図11に示すグラフから、圧力範囲ごとに分子量との関係式を求め、補正係数を算出してもよい。
【0110】
ガス制御部812は、さらに、第2真空計CG2の測定結果に基づいて、排気系7a,7b,7cを切り替える処理を行う。ガス制御部812は、排気バルブ44a,44b,44cを制御することにより、排気系7a,7b,7cを切り替える。
【0111】
より具体的には、ガス制御部812は、例えば、第2真空計CG2の圧力値Pが、圧力範囲P
low(5.0×10
−3≦P≦1.0×10
0)の場合に排気系7aを用いて試料室2の排気を行い、圧力範囲P
middle(1.0×10
0<P≦1.0×10
2)の場合に排気系7bを用いて試料室2の排気を行い、圧力範囲P
low(1.0×10
2<P≦1.0×10
4)の場合に排気系7cを用いて試料室2の排気を行うように排気バルブ44a,44b,44cを制御する。なお、各圧力範囲は、上記の例に限定されず、排気系7a,7b,7cの排気能力に応じて適宜設定することができる。
【0112】
(2)表示制御部
表示制御部814(
図6参照)は、表示部850に、ガス環境調整部4の稼働情報を表示させる。具体的には、表示制御部814は、第1真空計CG1および第2真空計CG2の測定結果に基づいて、ガス供給部6から供給されるガスおよび試料室2から排出される
ガスが通る配管42,45,46,74a,74b,74c(
図2参照)内におけるガスの種類の情報、ガスの流れの情報、および当該配管42,45,46,74a,74b,74cに残留する残留ガスの情報の少なくとも1つを表示部850に表示させる制御を行う。
【0113】
図12は、荷電粒子線装置100の制御GUI(Graphical User Interface)画面の一例を示す図である。
【0114】
表示制御部814は、
図12に示す制御GUI画面を生成する。荷電粒子線装置100では、オペレーターは、
図12に示す画面と、操作パネル(操作部820)を駆使してガス環境調整部4を制御して、試料室2にガスの導入を行う。
【0115】
制御GUI画面には、ガス環境調整部4、および荷電粒子線装置本体(鏡筒1)の状態を示す稼働状況表示部852aが表示されている。制御GUI画面には、さらに、ガス環境調整部4を制御するための操作ボタン群852bや、動作内容を表示する動作内容表示部852cが表示されている。
【0116】
図12に示す制御GUI画面は、以下の特徴を有する。
【0117】
ガス環境調整部4は、
図2に示すように、ガス流入量調整バルブ40や、ガス供給管42、真空計CG1,CG2、排気バルブ44a,44b,44c、排気管45,46を含んで構成されている。このガス環境調整部4内のガスの導入状況や排気状況をオペレーターに数値と共に細かく知らせることは重要である。
【0118】
図12に示す制御GUI画面では、ガス環境調整部4内部の配管は排気中、ガス導入中、配管中にガスが溜まった状態(残留ガス)、それ以外の状態に応じて色分け表示がされる。さらに、排気中でも使用する排気系7a,7b,7cに応じて異なる色で表示される。また、異なる排気系7a,7b,7cの排気状態が混在してしまうようなバルブ操作も禁止するなど、安全性も同時に確保してある。
【0119】
また、ガス導入中はガス種に応じて、色を変えて表示することを行っている。これによりオペレーターが一目でガス種が分かる。そして、ガスが流れている方向も配管近くに矢印が図示されるので、ガスの送出方向も併せて確認することができる。また、ガス導入中は、ガス導入ノズル34からガスが送出される様子も描画する。
【0120】
また、配管42,45,46,74a,74b,74cにガスが溜まった状態をガス導入中とは区別して表示することで、過去にどのような種類のガスが導入されたという情報をオペレーターに知らせることができ、排気操作を促すことが可能となる。さらに過去の残留ガスと別の残留ガスがバルブ操作により、混ざりあった場合には残留ガスとは別の色で表示される。
【0121】
表示制御部814は、制御GUI画面(
図12参照)とは別に上記で触れた機能を備えたモニタリングGUI画面も併せて表示させることができる。モニタリングGUI画面は例えば制御GUI画面からいつでも起動することが可能であり、特にガスを導入する場面が最も使用される頻度が高いため、その場合に起動し忘れが無いように希望する試料S近傍の圧力値を設定する画面にランチャー機能を有している。
【0122】
図13は、荷電粒子線装置100のモニタリングGUI画面の一例を示す図である。
【0123】
表示制御部814は、
図13に示すグラフ表示部854aに、第1真空計CG1および
第2真空計CG2の測定結果の推移の情報をグラフ(例えば横軸を時間、縦軸を圧力値としたグラフ)として表示させる。また、表示制御部814は、グラフ表示部854aに表示させる項目を選択するための表示項目選択部854bを表示させる。また、表示制御部814は、グラフ表示部854aの表示の拡大、縮小等を行う記録操作制御部854cを表示させる。
【0124】
真空計や流量計の数値などを長期間に渡り確認、記録できることは、ガス環境調整部4内部で発生する可能性がある真空リークや故障が発生した場合の故障箇所の特定につながる有益な情報となりえる。その他、ガス導入時の真空計の数値の推移や、排気中の数値の推移などをグラフ上で確認できることは、ユーザービリティー性能向上にもつながる。
【0125】
図13に示すモニタリングGUI画面は、以下の特徴を有する。
【0126】
表示項目選択部854bで項目を選択することで、記録対象となる項目を任意に選択することができる。例えば、着目したい項目のみ記録することで、後のデータ選別の作業がスムーズに行うことが可能となる。
【0127】
グラフ表示部854aには、ガス導入時においては、希望する試料S近傍の圧力値と現在値との比較した情報を表示することができる。ガス導入時においては、希望する試料S近傍の圧力値と現在値との比較は、グラフの波形を見比べることである程度の到達予想時刻を知ることが可能であり、非常に有効な情報となりえる。
【0128】
このように、表示制御部814は、
図13に示すように、第1真空計CG1および第2真空計CG2の測定結果の推移の情報を表示部850に表示させる制御を行う。
【0129】
なお、真空計などのデータを外部ソフトウェアにより詳細に分析することも可能であり、モニタリングGUI画面はそのためのデータをコンピューター上に随時に出力している。また、コンピューター上のファイルは同じフォルダーに多数存在すると、見つけたいデータを探しだすことが困難になる。そのため、データ記録を開始する場合には、ファイル名に任意のコメントを付加できる仕組みを導入している。そのため、後にデータを取り出す必要がある場合には、設定したコメントがファイル名に付加してあるものを取り出せば良いので、作業の効率化につながる。
【0130】
表示制御部814は、第1真空計CG1および第2真空計CG2の測定結果から、配管42,46,74a,74b,74c内におけるガスの種類の情報、ガスの流れの情報、および当該配管42,46,74a,74b,74cに残留する残留ガスの情報等を取得しているが、これらの情報を真空計CG1,CG2以外の計測器(図示せず)から得てもよい。
【0131】
2. その場観察方法
2.1. その場観察方法
次に、本実施形態に係るガス雰囲気におけるその場観察方法について説明する。
図14は、本実施形態に係るガス雰囲気におけるその場観察方法の一例を示すフローチャートである。
【0132】
まず、荷電粒子線装置本体(鏡筒1)を起動する(ステップS10)。
【0133】
次に、コンピューター8を起動する(ステップS12)。コンピューター8を起動することにより、例えば、記憶部830からガス観察モードへ移行するための専用レシピが読みだされて、ガス観察モードに移行する。
【0134】
次に、ガス導入機構部3内およびガス環境調整部4内を排気する(ステップS14)。ガス導入機構部3およびガス環境調整部4内の配管42,45,46(
図2参照)等に溜まったガスを専用の排気レシピに基づいて、排気を行う。
【0135】
次に、試料ホルダー22を挿入する(ステップS14)。具体的には、試料Sを試料ホルダー22の試料保持部23に固定し、試料ホルダー22をゴニオメーター24に設けられた鏡筒1内に連通する孔に挿入する(
図2参照)。
【0136】
次に、ガス導入機構部3を光軸に挿入する(ステップS16)。具体的には、ガス容器32の電子線通過孔35を電子線EBが通過できるように、ガス導入機構部3を移動させる。
【0137】
次に、試料室2に導入するガス種および試料S近傍の圧力値を設定する(ステップS18)。ユーザーは、例えば、操作部820を介して、導入するガス種および試料S近傍の圧力値を設定する。この設定されたガス種の情報および試料S近傍の圧力値の情報は、例えば、記憶部830に記憶される。
【0138】
次に、ガス導入ノズル34の位置を調整する(ステップS20)。具体的には、ガス導入ノズル駆動部340を制御して、ガス導入ノズル34の先端部が第1位置P1(
図4参照)に位置するようにガス導入ノズル34を移動させる。これにより、試料Sに効果的にガスを吹き付けることができる。
【0139】
次に、試料S近傍の圧力を制御する(ステップS22)。具体的には、ガス制御部812(
図6参照)が、試料S近傍の圧力が設定された圧力値となるように、ガス環境調整部4を制御する。詳細については後述する。
【0140】
なお、試料S近傍の圧力が設定された圧力値となる間(第1真空計CG1の圧力値が目標圧力値となる間)は、試料Sに電子線EBが照射されないようにビームブランキング装置(図示せず)によって電子線EBを遮断させる。
【0141】
試料S近傍の圧力が設定された圧力値に到達すると(第1真空計CG1の圧力値が目標圧力値に到達すると)、ビームブランキングが解除されて、その場観察が可能となる(ステップS24)。これにより、ガス雰囲気におけるその場観察を行うことができる。
【0142】
2.2. ガス制御部の処理
次に、試料S近傍の圧力を制御するステップS22について説明する。試料S近傍の圧力の制御は、ガス制御部812がガス流入量調整バルブ40および排気バルブ44a,44b,44cを制御することによって行われる。
【0143】
(1)ガス流入量調整バルブの制御
まず、試料S近傍の圧力を制御するステップS22において、ガス制御部812がガス流入量調整バルブ40を制御する処理について説明する。なお、ここでは、目標圧力値の補正を行わない例(すなわち、試料室2に供給されるガスが窒素ガスである例)について説明する。
【0144】
図15は、ガス制御部812のガス流入量調整バルブ40の制御処理の一例を示すフローチャートである。
【0145】
ガス制御部812は、記憶部830に記憶された設定された試料S近傍の圧力値の情報
を取得する(ステップS100)。
【0146】
次に、ガス制御部812は、
図8に示す試料S近傍の圧力値と第2真空計CG2の圧力値との関係を示す関係式dを用いて、設定された試料S近傍の圧力値から第2真空計CG2の圧力値を求める(ステップS102)。
【0147】
次に、ガス制御部812は、
図8に示す第1真空計CG1の圧力値と第2真空計CG2の圧力値との関係を示す関係式Rを用いて、ステップS102で求めた第2真空計CG2の圧力値から第1真空計CG1の圧力値(目標圧力値)を求める(ステップS104)。
【0148】
次に、ガス制御部812は、第1真空計CG1の測定結果が目標圧力値となるようにガス流入量調整バルブ40の開度を制御する(ステップS106)。ガス制御部812は、第1真空計CG1の測定結果に基づいて、ガス流入量調整バルブ40を制御する。ガス流入量調整バルブ40の制御方法は特に限定されず、例えば、PID制御(Proportional Integral Derivative Controller)によって行われてもよい。
【0149】
ガス制御部812は、第1真空計CG1の測定結果に基づいて、第1真空計CG1が目標圧力値に到達したか否かの判定を行う(ステップS108)。
【0150】
第1真空計CG1が目標圧力値に到達していないと判定された場合(ステップS108でNOの場合)、ガス制御部812は、第1真空計CG1の測定結果が目標圧力値となるようにガス流入量調整バルブ40の開度を制御する(ステップS106)。
【0151】
第1真空計CG1が目標圧力値に到達したと判定された場合(ステップS108でYESの場合)、ガス制御部812は、目標圧力値から圧力値を一定に保つためのガス流入量調整バルブ40の開度を計算する(ステップS110)。
【0152】
ガス制御部812は、ステップS110で計算した計算結果に基づいて、ガス流入量調整バルブ40の開度を制御する(ステップS112)。これにより、試料室2に供給されるガスの流量を目標圧力値に保つことができ、試料S近傍の圧力を設定した圧力値にすることができる。
【0153】
例えばユーザーによって操作部820を介してその場観察を終了させる命令が入力されると、ガス制御部812は、処理を終了する。
【0154】
(2)ガス流入量調整バルブの制御の変形例
上述した
図15に示す制御処理では、目標圧力値の補正を行わない例について説明したが、本変形例では、目標圧力値の補正を行う例(すなわち例えば窒素ガス以外のガスを試料室2に供給する例)について説明する。
【0155】
図16は、ガス制御部812のガス流入量調整バルブ40の制御処理の変形例を示すフローチャートである。なお、
図15に示す制御処理と異なる点について説明し、同様の処理については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0156】
本変形例では、
図16に示すように、ガス制御部812は、目標圧力値を求めるステップS104の後に、ガスの種類に応じた第1真空計CG1の測定結果を補正する補正係数で、ステップS104で求めた目標圧力値を補正する(ステップS105)。当該補正係数の情報は、例えば、記憶部830に記憶されており、ガス制御部812は、記憶部830から補正係数の情報を取得する。
【0157】
(3)排気部の制御
次に、試料S近傍の圧力を制御するステップS22において、ガス制御部812が、排気バルブ44a,44b,44cを制御する処理について説明する。
【0158】
図17は、ガス制御部812の排気バルブ44a,44b,44cの制御処理の一例を示すフローチャートである。
【0159】
ガス制御部812は、ガス流入量調整バルブ40を開いてガスの供給を開始する(ステップS200)。本ステップS200は、例えば、
図15に示すステップS106に対応する。
【0160】
ガス制御部812は、第2真空計CG2の測定結果(圧力値P)が5.0×10
−3≦P≦1.0×10
0(圧力範囲P
low)か否かの判定を行う(ステップS202)。
【0161】
第2真空計CG2の測定結果が圧力範囲P
lowであると判定された場合(ステップS202でYESの場合)、ガス制御部812は、
図2に示す排気バルブ44aを開き、排気バルブ44b,44cを閉じて、試料室2を排気系7aで排気する(ステップS204)。
【0162】
第2真空計CG2の測定結果が圧力範囲P
lowでないと判定された場合(ステップS202でNOの場合)、ガス制御部812は、第2真空計CG2の測定結果が1.0×10
−3<P≦1.0×10
2(圧力範囲P
middle)か否かの判定を行う(ステップS206)。
【0163】
第2真空計CG2の測定結果が圧力範囲P
middleであると判定された場合(ステップS206でYESの場合)、ガス制御部812は、
図2に示す排気バルブ44bを開き、排気バルブ44a,44cを閉じて、試料室2を排気系7bで排気する(ステップS208)。
【0164】
第2真空計CG2の測定結果が圧力範囲P
middleでないと判定された場合(ステップS206でNOの場合)、ガス制御部812は、第2真空計CG2の測定結果が1.0×10
2<P≦1.0×10
4(圧力範囲P
high)か否かの判定を行う(ステップS210)。
【0165】
第2真空計CG2の測定結果が圧力範囲P
highであると判定された場合(ステップS210でYESの場合)、ガス制御部812は、
図2に示すガス供給管42を排気するための排気系(図示せず)を制御して、ガス供給管42を排気する(ステップS212)。これにより、例えば、排気系の排気能力が低下することによって、試料室2内にガスが急激に流れて試料室2内の圧力が急激に上昇することを防ぐことができる。次に、ガス制御部812は、排気バルブ44cを開き、排気バルブ44a,44bを閉じて、試料室2を排気系7cで排気する(ステップS214)。
【0166】
第2真空計CG2の測定結果が圧力範囲P
highでないと判定された場合(ステップS210でNOの場合)、および、ステップS204,S208,S214の処理を行った後、ガス制御部812は、例えばユーザーによって操作部820を介してその場観察を終了させる命令が入力されたか否かを判定する(ステップS216)。
【0167】
その場観察を終了させる命令が入力されなかったと判定された場合(ステップS216でNOの場合)、ガス制御部812は、ステップS202に戻って、ステップS204〜
S216の処理を行う。
【0168】
その観察を終了させる命令が入力されたと判定された場合(ステップS216でYESの場合)、ガス制御部812は、処理を終了する。
【0169】
(4)試料室の圧力を下げる処理について
例えば、試料S近傍の圧力値を低いところから段階的に上昇させる場合には、ガス流入量調整バルブ40の開度の制御でスムーズに上昇させることができるが、試料S近傍の圧力値を下げる場合には、ガス供給管42に溜まっているガスを排気してから圧力を調整しなければスムーズに圧力を下げることができない場合がある。以下に試料室2内の圧力を下げる場合の処理の一例について説明する。
図18は、ガス制御部812の試料室2の圧力を下げる処理の一例を示すフローチャートである。
【0170】
ガス制御部812は、第2真空計CG2の現在の圧力値と、設定された試料S近傍の圧力値との関係から排気処理パターンを決定する(ステップS300)。ガス制御部812は、ガス供給管42を排気するための排気装置や排気時間等の条件を決定する。
【0171】
ガス制御部812は、ガス流入量調整バルブ40を閉じて、ガスの試料室2への導入を停止して、試料室2の圧力を下げる(ステップS302)。
【0172】
次に、ガス制御部812は、第2真空計CG2の圧力値が排気処理パターンで決められた値になったか否かの判定を行う(ステップS304)。以降の処理でガス供給管42を排気する処理を行うが、この間は試料室2内の排気が行えないため、試料室2内の圧力が上昇する。これを防ぐために、一度試料室2内を排気する処理を行う。
【0173】
第2真空計CG2の圧力値が排気処理パターンで決められた圧力値になっていない場合(ステップS304でNOの場合)、ガス制御部812は、再度、第2真空計CG2の圧力値が排気処理パターンで決められた値になったか否かの判定を行う。
【0174】
第2真空計CG2の圧力値が排気処理パターンで決められた圧力値になった場合(ステップS304でYESの場合)、ガス制御部812は、第1真空計CG1の最適な圧力値を、第1真空計CG1の現在の圧力値と設定された試料室2の圧力値から求める。ここで第1真空計CG1の最適な圧力値とは、効率よく圧力調整が開始できる圧力値であり、第1真空計CG1を最適な圧力値まで下げれば、その後の圧力調整を効率よく行うことが可能となる。
【0175】
ガス制御部812は、ガス供給管42の排気間隔を排気処理パターンから決定する(ステップS308)。そして、ガス制御部812は、ガス供給管42を排気するための排気装置(図示せず)でガス供給管42を排気する(ステップS310)。
【0176】
次に、ガス制御部812は、第1真空計CG1の圧力値が算出された最適な圧力値になったか否かの判定を行う(ステップS312)。
【0177】
第1真空計CG1の圧力値が算出された最適な圧力値にならなかった場合(ステップS312でNOの場合)、ガス制御部812は、ステップS310に戻って、ガス供給管42を排気する(ステップS310)。
【0178】
第1真空計CG1の圧力値が算出された最適な圧力値になった場合(ステップS312でNOの場合)、ガス制御部812は、排気系7a,7b,7cの圧力値が所定の圧力値まで低下したか否かの判定を行う(ステップS314)。
【0179】
排気系7a,7b,7cの圧力値が所定の圧力値まで低下していない場合(ステップS314でNOの場合)、ガス制御部812は、ステップS314に戻って、排気系7a,7b,7cの圧力値が所定の圧力値まで低下したか否かの判定を行う(ステップS314)。
【0180】
排気系7a,7b,7cの圧力値が所定の圧力値まで低下した場合(ステップS314でYESの場合)、ガス制御部812は、圧力値に応じた排気系7a,7b,7cに切り替える(ステップS316)。
【0181】
そして、ガス制御部812は、上述した試料S近傍の圧力を制御する処理(ステップS22、
図14参照)を行う。
【0182】
3. 特徴
荷電粒子線装置100では、例えば、以下の特徴を有する。
【0183】
荷電粒子線装置100では、ガス制御部812は、第1真空計CG1の測定結果と試料室2内(試料S近傍)の圧力との関係を示す関係式R,d、および試料室2に供給されるガスの種類に応じた第1真空計CG1の測定結果を補正する補正係数に基づいて、試料室2に供給されるガスの目標圧力値を設定し、第1真空計CG1の測定結果が目標圧力値となるようにガス流入量調整バルブ40を制御する。
【0184】
このようなに荷電粒子線装置100では、ガス制御部812が、第1真空計CG1の測定結果と試料室2内の圧力との関係を示す関係式Rから試料室2に供給されるガスの目標圧力値を設定するため、ガス流入量調整バルブ40を制御することで試料室2内の圧力を制御することができる。すなわち、試料室2に導入されるガスの圧力を制御することで試料室2内の圧力を制御することができるため、試料室2内の圧力の制御が容易である。また、荷電粒子線装置100では、例えば、試料室2内の圧力を直接測定しなくても、試料室2内の圧力の制御が可能である。
【0185】
また、ガス制御部812は、ガスの種類に応じた第1真空計CG1の測定結果を補正する補正係数で目標圧力値を補正するため、様々なガス種について、試料室2内の圧力を制御することができる。また、目標圧力値を求める際に、補正係数を用いることで、
図8に示す窒素ガスにおける関係式Rを様々なガス種に適用することができる。
【0186】
したがって、荷電粒子線装置100では、試料室2内のガスの圧力を容易に制御できるため、容易にガス雰囲気におけるその場観察を行うことができる。また、荷電粒子線装置100によれば、このようにガスの圧力を容易に制御できるため、試料室2内の圧力の制御の自動化を図ることができる。
【0187】
荷電粒子線装置100では、排気部7は、複数の排気系7a,7b,7cを有し、複数の排気系7a,7b,7cはそれぞれ排気能力が異なり、ガス制御部812は、第2真空計CG2の測定結果に基づいて、排気系7a,7b,7cを切り替える。そのため、低圧(例えば5.0×10
−3Pa程度)から、高圧(例えば1.0×10
4Pa程度)まで試料室2内の圧力を制御できる範囲を広げることができる。また、
図8に示す関係式Rは、排気系7a,7b,7cに応じた第1真空計CG1の圧力値と第2真空計CG2の圧力値との関係を示している。そのため、排気系7a,7b,7cを切り替えても、ガス流入量調整バルブ40を制御すれば試料室2内の圧力を制御することができるため、試料室2内の圧力の制御は容易である。
【0188】
荷電粒子線装置100では、各排気系7a,7b,7cは、排気装置70,72を有し、各排気装置70,71は、互いに排気能力が異なる。また、各排気系7a,7b,7cは、排気管74a,74b,74cを有し、各排気管74a,74b,74cは、互いに径が異なる。これにより、排気能力の異なる複数の排気系7a,7b,7cを実現することができる。したがって、試料室2内の圧力の制御可能な範囲を広げることができる。
【0189】
荷電粒子線装置100では、ガス供給部6から供給されるガスを試料室2に導入するガス導入ノズル34と、ガス導入ノズル34を移動させるガス導入ノズル駆動部340と、を含む。これにより、ガス導入ノズル34を移動させることができる。
【0190】
また、ガス導入ノズル駆動部340は、試料Sが保持される試料保持部23の近傍の第1位置P1と、第1位置P1よりも試料保持部23から離れた第2位置P2との間で、ガス導入ノズル34を移動させる。これにより、例えばその場観察時には、ガス導入ノズル34の位置を第1位置P1にして、試料Sに効果的にガスを吹き付けることができる(
図4参照)。また、例えばガスパージ時には、ガス導入ノズル34の位置を第2位置P2にして、試料Sに直接ガスを吹き付けることなく、試料室2の全体をガスで置換することができる(
図5参照)。
【0191】
荷電粒子線装置100では、ガス導入ノズル34には、ガス導入ノズル34を加熱する加熱部342が設けられている。これにより、試料室2に導入されるガスを加熱することができる。また、例えばガス導入ノズル34をベークすることができる。
【0192】
荷電粒子線装置100では、表示部850に、ガス環境調整部4の稼働情報を表示させる制御を行う表示制御部814を含む。これにより、ユーザーは、ガス環境調整部4の稼働状況を確認することができる。
【0193】
具体的には、表示制御部814は、例えば、試料室2に供給されるガスおよび試料室2から排出されるガスが通る配管42,45,46,74a,74b,74c内におけるガスの種類の情報、ガスの流れの情報、および当該配管42,45,46,74a,74b,74cに残留する残留ガスの情報の少なくとも1つを表示部850に表示させる制御を行う。これにより、ユーザーは、配管42,45,46,74a,74b,74c内におけるガスの情報を得ることができる。
【0194】
また、表示制御部814は、例えば、第1真空計CG1の測定結果の推移の情報、および第2真空計CG2の測定結果の推移の情報を表示部850に表示させる。これにより、ユーザーは、第1真空計CG1の測定結果の推移の情報および第2真空計CG2の測定結果の推移の情報を確認することができる。
【0195】
上述した実施形態は一例であって、これらに限定されるわけではない。
【0196】
例えば、上述した実施形態では、荷電粒子線装置が透過電子顕微鏡である場合について説明したが、本発明に係る荷電粒子線装置は電子やイオン等の荷電粒子線を用いる装置であれば特に限定されない。本発明に係る荷電粒子線装置は、例えば、走査透過電子顕微鏡(STEM)や走査電子顕微鏡(SEM)等の電子顕微鏡、集束イオンビーム装置(FIB装置)等であってもよい。
【0197】
また、例えば、上述した実施形態では、
図8に示す関係式Rおよび関係式dを用いて、目標圧力値を求める例について説明したが、関係式Rのみで目標圧力値を設定してもよい。
【0198】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。