(54)【発明の名称】担持処理装置の洗浄方法、当該洗浄方法による洗浄工程を有する不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法とその触媒、ならびに不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸の製造方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記無機物において、その形状が、リング状、ペレット状、不定形からなる群より選ばれる少なくとも1種の形状であり、かつ、任意の2端の最長距離dが1mm≦d≦30mmである、請求項1に記載の洗浄方法。
プロピレン、イソブチレン、t−ブチルアルコールおよびメチル−t−ブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種の化合物を原料とし、分子状酸素の存在下で接触気相酸化して対応する不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を製造する方法であって、請求項4に記載の触媒の製造方法により触媒を得て、得られた触媒を固定床反応器に充填して用いることを特徴とする不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、触媒の製造工程における生産性の向上、得られる触媒の物性や性能の安定性に関して、更なる改善が望まれている。
【0006】
工業規模で不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸を製造するには、通常、1つの反応器につき数トンから数十トンという大量の触媒が必要である。
【0007】
前記触媒の製造においては、触媒活性成分を担体に担持する担持処理により製造するのが一般的である。担持処理装置を用いて触媒を製造する場合、通常、担持処理を行う駆動する容器部分(以下、「パン」と記すこともある)へ粉粒状の触媒活性成分を供給する。
【0008】
しかし、前記したとおり大量の触媒を製造するためには、繰り返し担持処理を行う必要があり、担持処理時間あるいは担持処理回数の増加と共にパン内への触媒活性成分の固着・堆積量が増加する。また、特許文献4に記載されているような連続での担持処理を行った場合でも、大量の触媒を製造する上では長時間の担持処理が必要となり、担持処理時間の増加と共にパン内への触媒活性成分の固着・堆積量が増加する。
【0009】
その為、一定毎の担持処理後にパン内を洗浄処理する必要があるが、洗浄処理しなかったりあるいは洗浄処理が不十分であれば、パン内に固着した触媒活性成分の塊が剥がれ落ちて製品に混入してしまい、その結果、得られる触媒の粒径、機械的強度、嵩密度といった触媒物性の悪化のみならず活性や目的生成物の選択性といった触媒性能低下の要因にもなる。
【0010】
また、パン内への触媒活性成分の固着は非常に強固であるため、作業員による手作業の水洗では多大な時間を要し、触媒の生産性低下に繋がるという問題があるばかりか、作業員の肉体的、精神的苦痛も大きい。さらに、多量の廃水が発生するため環境にも好ましくなく、それら廃水を処理するためにも多大な労力やエネルギーを費やすこととなる。
【0011】
かくして、本発明の目的は、上記問題を解決する効率の良い担持処理装置の洗浄方法および当該洗浄処理工程を有する触媒物性や触媒性能に変化が少ない再現性に優れた触媒の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、かかる課題を解決するべく、プロピレン、イソブチレン、t−ブチルアルコールおよびメチル−t−ブチルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物の含有ガスを分子状酸素または分子状酸素含有ガスの存在下で接触気相酸化することにより、対応する不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸を製造するための触媒の製造工程における担持処理装置の洗浄方法について鋭意検討を行った結果、担持処理装置のパン内に無機物を投入して運転することでパン内を洗浄処理する、すなわち、パン内を無機物で物理的に洗浄処理することで、廃水を低減できるとともに担持処理した後のパン内に固着した触媒活性成分を簡易除去でき、生産効率を高めることが可能であることを見出し、本発明に至った。
【0013】
さらに、担持処理装置の洗浄方法として前記洗浄方法を用いることで、触媒物性および触媒性能の変化が少ない安定した触媒が製造できることも見出し、本発明に至った。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、プロピレン、イソブチレン、t−ブチルアルコールおよびメチル−t−ブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種の化合物を原料とし、分子状酸素の存在下で接触気相酸化して対応する不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸を製造するための触媒の製造に用いられる担持処理装置の洗浄において、廃水量を低減できるとともに固着した触媒活性成分を簡易除去でき、触媒の生産効率を高めることが可能である。
【0015】
また、担持処理装置の洗浄方法として当該洗浄方法を用いることで、触媒物性および触媒性能の変化が少ない安定した触媒が製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明の範囲は以下の説明内容には制限されず、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0017】
本発明における担持処理装置の洗浄方法においては、担持処理装置のパン内に無機物を投入して運転することでパン内を洗浄処理する、すなわち、担持処理した後の触媒活性成分の固着したパン内を無機物により物理的に洗浄処理すればよい。パン内に無機物を投入して運転することで、無機物質の自重と回転により固着した触媒活性成分を効率的に削ぎ落とし、除去することができる。
【0018】
また、無機物での洗浄処理は、担持処理を一定の期間行った後に洗浄処理すればよく、例えば、担持処理を行った累計時間として24時間以内、好ましくは12時間以内、より好ましくは8時間以内に1回以上、洗浄処理すればよい。
【0019】
本願発明に使用できる無機物の材質としては特に限定はなく、銅、鉄、ステンレス等の金属製や、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、チタニア、マグネシア、ムライト、ステアタイト、コージェライト、シリカ−マグネシア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ゼオライト等のセラミックス製からなるものが使用できるが、好ましくは金属製のものであり、特に好ましくはステンレス製(SUS製)が使用できる。
【0020】
本願発明に使用できる無機物の形状としては特に限定はなく、球状、星形状、リング状、タブレット状、ペレット状、不定形からなる群より選ばれる少なくとも1種の形状のものが使用できるが、好ましくは、リング状、ペレット状、不定形のものである。また、その形状としては、任意の2端の最長距離dが1mm≦d≦30mmであり、好ましくは2mm≦d≦15mm、より好ましくは2mm≦d≦10mmである。ここで、任意の2端の最長距離とは、当該無機物の投影図における最も直線距離が長くなる2点間の距離のことである。すなわち、球状であれば直径に相当し、リング状あるいはペレット状であれば、側面の投影図(四角形)の対角線に相当する。
【0021】
本願発明に使用できる担持処理装置としては、従来公知の装置を使用することができ、例えば、特許文献1に記載の遠心流動コーティング装置、特許文献3に記載の転動造粒機、特表2004−515337号公報に記載のロッキングミキサーなどを挙げることができる。中でも、装置規模や取り扱いの容易さの面から転動造粒機が好適である。
【0022】
無機物で洗浄処理する条件等は、洗浄処理効果さえあれば特に限定されるものではないが、例えば、転動造粒機の場合、水平面に対するパン中心軸の角度として30°〜60°に傾斜させたパン内に前記無機物をパン容量の20〜90%、好ましくは50〜90%投入し、5〜30rpm、好ましくは5〜20rpmの回転数で5〜60分間、好ましくは10〜30分間運転すればよい。なお、ここでパン容量とは、パンを一定の傾斜角度をつけて用いる場合、その傾けたパン内に入る水の容積に等しい。また、パンの傾斜角度を変えることで洗浄する箇所をある程度調整することができる。
【0023】
触媒活性成分が強固に固着している場合には、パンの回転数を上げるおよび/またはパン容量の5〜50%の水または湯を投入することで、より高い洗浄効果を得ることができる。洗浄処理終了後は無機物と剥がれた触媒活性成分をパンから排出するが、無機物は繰り返し使用してもよい。その場合、無機物と剥がれた触媒活性成分とを篩いや網などを用いて分離してもよく、その方法については特に限定されない。
【0024】
本発明における触媒活性成分を担体に担持してなる不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒としては、モリブデン、ビスマスおよび鉄を含有する触媒活性成分として、下記一般式(1)で表わされる複合酸化物が好適に用いられる。
Mo
12Bi
aFe
bA
cB
dC
eD
fO
x (1)
(ここで、Moはモリブデン、Biはビスマス、Feは鉄、Aはコバルトおよびニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、Bはアルカリ金属、アルカリ土類金属およびタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、Cはタングステン、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウムおよびチタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、Dはリン、テルル、アンチモン、スズ、セリウム、鉛、ニオブ、マンガン、砒素、ホウ素および亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、Oは酸素であり、a、b、c、d、e、fおよびxはそれぞれBi、Fe、A、B、C、DおよびOの原子比を表し、0<a≦10、0<b≦20、2≦c≦20、0≦d≦10、0≦e≦30、0≦f≦4であり、xはそれぞれの元素の酸化状態によって定まる数値である。)
【0025】
本発明における触媒活性成分を担体に担持してなる不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法としては、前記した洗浄方法により担持処理装置を洗浄する工程を有することを除けば、公知の不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸製造用触媒の調製に一般に用いられている方法に準じて製造することができる。
【0026】
具体的には、前記一般式(1)で表わされる触媒成分の原料として、各成分元素の酸化物、水酸化物、アンモニウム塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩などの塩類やそれらの水溶液、ゾルなど、あるいは、複数の元素を含む化合物などを、例えば、水に混合して水溶液あるいは水性スラリー(以下、「出発原料混合液」と記すこともある)とする。
次に必要に応じて、得られた出発原料混合液を加熱や減圧など各種方法により乾燥させて触媒活性成分前駆体とする。加熱により乾燥させて触媒活性成分前駆体を得る方法としては、例えば、出発原料混合液を濃縮、蒸発乾固してケーキ状の触媒活性成分前駆体を得る方法や、スプレードライヤー、ドラムドライヤー、ロータリーキルン等を用いて粉末状の触媒前駆体を得る方法、箱型乾燥機、トンネル型乾燥機等を用いて気流中で加熱してブロック状またはフレーク状の触媒活性成分前駆体を得る方法などがある。
【0027】
また、一旦、出発原料混合液を濃縮、蒸発乾固して得られたケーキ状の固形物をさらに箱型乾燥機、トンネル型乾燥機等を用いて気流中で加熱処理してブロック状またはフレーク状の触媒活性成分前駆体を得る方法も採用できる。1次乾燥工程において、減圧により乾燥させて固体状の触媒活性成分前駆体を得る方法としては、例えば、真空乾燥機を用いて、ブロック状または粉末状の触媒活性成分前駆体を得る方法などを挙げることができる。
【0028】
また、前記1次乾燥工程により得られた固形物を、引き続き焼成してこれを触媒活性成分前駆体とすることもできる。得られた触媒活性成分前駆体は、必要に応じて適当な粒度の粉体を得るための粉砕工程や分級工程を経て、続く担持工程に送られる。なお、上記触媒活性成分前駆体の粉体粒度は、特に限定されないが、良好な担持性を維持するために0.1〜500μmの範囲、好ましくは10〜300μmの範囲である。
【0029】
触媒活性成分前駆体を担持させる担体としては、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、チタニア、マグネシア、ステアタイト、コージェライト、シリカ−マグネシア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ゼオライト等が挙げられる。その形状についても特に制限はなく、球状、リング状、ペレット状、不定形など公知の形状のものが使用できる。
【0030】
担持処理工程においては、従来より公知の方法で行うことができ、例えば、一定量の担体および一定量の触媒活性成分の粉粒物を担持処理装置内へ一括して仕込み、担持処理し、その都度得られた触媒を装置より取り出すといったバッチ方式や特許文献4の記載のように連続的に担持処理を行う方式などが挙げられる。
【0031】
また、担持状態を向上させるために、担持補助剤やバインダーなどを用いることができる。具体例としては、エチレングリコール、グリセリン、プロピオン酸、マレイン酸、ベンジルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコールまたはフェノール類の有機化合物や水、硝酸、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウムなどが挙げられる。これら担持補助剤は、担持する前の担体に予め噴霧や含浸によって供給してしてもよいし、担持処理中にパン内に噴霧あるいは吹き付けるなどして供給してもよく、両者を組み合わせてもよい。また、触媒の機械的強度を向上させる目的で無機質繊維や、触媒に適度な細孔を形成させる目的で気孔形成剤などを添加してもよい。前記無機質繊維としては、特に制限はなく、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維、鉱物繊維、炭素繊維などを使用することができ、添加方法についても、出発混合液に添加や、触媒活性成分前駆体と無機質繊維とを粉粒状態で混合するなど、触媒活性成分中に均一に分散あるいは含有されるようにし得るものであれば、いずれの方法を用いてもよい。前記気孔形成剤としては、特に制限はなく、でんぷん、セルロース、尿素、ポリビニルアルコール、メラミンシアヌレートなどを使用することができる。さらには、担持補助剤やバインダーなどに分散あるいは溶解させ、共に用いることも可能である。
【0032】
ここで、前記のとおり、担持処理装置への触媒活性成分の固着の面から、担持処理を一定期間行った後には、担持処理装置の洗浄を行えばよい。必ずしもバッチ処理毎や短い時間間隔で当該洗浄工程を行う必要性はなく、担持処理を行った累計時間として20時間以内、好ましくは10時間以内、より好ましくは7時間以内に1回以上の間隔で前記した洗浄処理すればよい。
【0033】
前記担持工程で得られた担持体は、必要に応じて続く焼成工程に送られる。焼成温度としては350℃〜600℃、好ましくは400℃〜550℃、更に好ましくは420℃〜500℃、焼成時間としては好ましくは1〜10時間である。焼成雰囲気としては、酸化雰囲気であればよいが、分子状酸素含有ガス雰囲気が好ましく、特に、分子状酸素含有ガス流通下に焼成工程を行うのが好ましい。分子状酸素含有ガスとしては空気が好適に用いられる。また、焼成工程前に一旦乾燥してもよく、前記したように予め焼成した触媒成分
の粉粒物を担持に用いる場合は、必ずしも焼成する必要はなく乾燥のみでもよい。なお、焼成工程に用いる焼成炉としては特に制限はなく、一般的に使用される箱型焼成炉あるいはトンネル型焼成炉等を用いればよい。
【0034】
なお、必要に応じて前記担持工程後もしくは前記焼成工程後に篩工程を設けても良い。担持工程後に篩い分けを行う場合、篩い分けられた所望の担持率あるいは粒径に満たない担持体については、前記担持工程にリサイクルしても、所望の担持率あるいは粒径になるように別途担持処理しても良い。篩装置としては特に限定はなく、例えば、網篩い、パンチングメタル、比重選別機、ローラー式選別機などを用いることができ、2つ以上の装置を組み合わせても良い。
【0035】
本発明におけるプロピレン、イソブチレンまたはタ―シャリーブチルアルコールを分子状酸素を用いて接触気相酸化して不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸を製造するのに用いられる反応器については、固定床反応器である限り特に制限はないが、固定床多管式反応器が好ましい。反応管の内径は通常15〜50mm、より好ましくは20〜40mm、さらに好ましくは22〜38mmである。
【0036】
固定床多管式反応器の各反応管には、必ずしも単一の触媒を充填する必要はなく、公知である複数種の触媒をそれぞれ層(以下、「反応帯」と記することがある)をなすように充填することも可能である。例えば、担持率の異なる触媒を原料ガス入口側から出口側に向かって担持率が高くなるように充填する方法や、触媒の一部を不活性担体等で希釈する方法、あるいはこれらを組み合わせる方法を採用してもよい。この時、反応帯の数は、反応条件や反応器の規模により適宜決定されるが、反応帯の数が多すぎると触媒の充填作業が煩雑になるなどの問題が発生するため、工業的には2〜6程度までが望ましい。
【0037】
本発明における反応条件には特に制限はなく、この種の反応に一般に用いられている条件であればいずれも実施することが可能である。例えば、原料ガスとして1〜15容量%好ましくは4〜12容量%のプロピレン、イソブチレンまたはタ―シャリーブチルアルコール、0.5〜25容量%、好ましくは2〜20容量%の分子状酸素、0〜30容量%、好ましくは0〜25容量%の水蒸気、残部が窒素などの不活性ガスからなる混合ガスを250〜450℃の温度範囲で0.1〜1.0MPaの圧力下、300〜5,000Hr−1(標準状態)の空間速度で触媒に接触させればよい。
【0038】
反応原料ガスとしてのグレードについては特に制限はなく、例えば、原料としてプロピレンを用いる場合、ポリマーグレードやケミカルグレードのプロピレンなどを用いることができる。また、プロパンの酸化脱水素反応によって得られるプロピレン含有の混合ガスも使用可能であり、この混合ガスに必要に応じ、空気または酸素などを添加して使用することもできる。
【0039】
[実施例]
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。なお、以下では、便宜上、「質量部」を単に「部」、と記すことがある。また、実施例および比較例における転化率、選択率および収率は、次式によって求めた。
転化率[mol%]
=(反応した出発原料のmol数)/(供給した出発原料のmol数)×100
選択率[mol%]
=(生成した不飽和アルデヒドおよび生成した不飽和カルボン酸の合計mol数)/(反応した出発原料のmol数)×100
収率[mol%]
=(生成した不飽和アルデヒドおよび生成した不飽和カルボン酸の合計mol数)/(供給した出発原料のmol数)×100
[触媒の嵩比重]
100mlメスシリンダーに触媒を充填し、ゴム製のクッション材の上でその容量に変化がなくなるまでタッピングした際の、メスシリンダー内に充填された触媒の容量と質量から嵩比重(g/ml)を求めた。
【0040】
[触媒の機械的強度測定]
内径25mm、長さ5000mmのステンレス製反応管を鉛直方向に設置し、該反応管の下端を厚さ1mmのステンレス製受け板で塞ぐ。約50gの触媒を該反応管の上端から反応管内に落下させた後、反応管下端のステンレス製受け板を外し、反応管から触媒を静かに抜き出す。抜き出した触媒を目開き5mmの篩で篩い、篩上に残った触媒の質量を計量した。
触媒の機械的強度[質量%]
=篩上に残った触媒の質量/反応管上端から落下させた触媒の質量×100
【0041】
[参考例1]
蒸留水3800部にパラモリブデン酸アンモニウム1000部および硝酸カリウム2.4部および20質量%シリカゾル425部を溶解した(A液)。また、蒸留水600部に60重量%硝酸50部を添加し、硝酸ビスマス275部、硝酸コバルト824部、硝酸鉄267部および硝酸ニッケル288部を溶解した(B液)。調製したA液にB液を添加し、1時間攪拌し続けてスラリーを得た。得られたスラリーを加熱攪拌してケーキ状の固形物とし、得られた固形物を空気雰囲気下220℃で約3時間乾燥し、乾燥物を得た。得られた乾燥物を500μm以下に粉砕し、触媒活性成分前駆体の粉体を得た。直径1.3m、堰高さ400mm、傾斜角度45°とした転動造粒機へ平均粒径4.0mmのシリカ−アルミナ球形担体約55kgを仕込んだ。回転数15rpmで回転させながら、結合剤として20質量%の硝酸アンモニウム水溶液を噴霧しながら触媒成分前駆体粉体を0.35m
3/hの供給量で連続投入した。この条件下で約5時間に渡り連続的に担持処理を行った。得られた担持体は比重選別機を用いて選別した後、空気雰囲気下470℃で約6時間焼成して触媒1を得た。この触媒1の担持率は約110質量%、歩留まりは約93質量%であり、酸素を除く金属元素組成は次のとおりであった。また、触媒1の物性を表1に示す。
【0042】
触媒1:Mo
12Bi
1.2Co
6.0Ni
2.1Fe
1.4Si
3.0K
0.05
なお、担持率および歩留りは、下記式により求めた。
担持率[質量%]
=(得られた触媒の質量−用いた担体の質量)/用いた担体の質量×100
歩留り[質量%]
=得られた担持体の質量/(用いた触媒活性成分の質量+用いた担体の質量)×100
【0043】
[反応器]
全長3000m、内径25mmのステンレス製反応管およびこれを覆う熱媒体を流すためのシェルからなる反応器を鉛直方向に用意し、反応管の上部から得られた触媒1を落下させ、層長が2750mmとなるように充填した。
【0044】
[酸化反応]
前記反応器の下部より、プロピレン7.5容量%、酸素14容量%、水蒸気6容量%、残部が窒素等の不活性ガス成分からなる混合ガスを空間速度1900hr
−1(標準状態)で導入し、熱媒体温度を315℃にてプロピレン酸化反応を行った。その結果を表2に示す。
【0045】
[比較例1]
参考例1において、触媒活性成分の担持に使用した転動造粒機のパン内壁面および底部(ここで、パン内壁面とは水平面に対するパン中心軸の角度が90°の時のパン内壁部分を指し、パン底部とは水平面に対するパン中心軸の角度が90°の時のパン底部分を指す)には、触媒活性成分が、最大約2mmの厚さで固着しており、パン内の金属光沢は殆ど確認することができず、パン底部よりも内壁面の固着の方がより強固であった。この固着物が存在する転動造粒機の洗浄処理を人力による水洗処理を行った。具体的には、パン内全体に水を噴霧して固着物を湿らせた後、タワシ等で擦って削り取る。その後、さらに水を噴霧して洗い流し、最後に布等でパン内の水分を拭き取る。人力での水洗処理では、強固に固着した触媒活性成分を削り取るのに2人で2hを費やして、約100Lの廃水が発生した。水洗処理後の転動造粒機には、触媒成分の固着はほとんど無く、パン内壁面および底部の金属光沢が確認できる状態であった。
【0046】
続いて、水洗処理後の転動造粒機を使用して、参考例1と同条件で担持処理を行い、触媒2を得た。この際、転動造粒機のパン内壁面および底部に固着した触媒活性成分が剥がれて、製品に混入することは無く、参考例1と持処理状態は変わらなかった。
【0047】
得られた触媒2の担持率は約103質量%、歩留まりは約93質量%であった。触媒2の物性を表1に示す。また得られた触媒2を参考例1と同様に反応器に充填し、同条件で酸化反応を行った。その結果を表2に示す。
【0048】
[実施例1]
参考例1において、触媒活性成分の担持に使用した転動造粒機に、ステンレス製のリング(外径7.0mm、内径6.0mm、粒長8.0mm)を100L仕込み、回転数15rpmで30分間回転し転動造粒機の洗浄処理を行った。
上記洗浄処理終了後に洗浄処理前の状態と比較すると、転動造粒機のパン内壁面および底部に固着した触媒活性成分が剥がれ落ちて、パン内壁面および底部の金属光沢が確認できた。洗浄処理後はステンレス製のリングと、剥がれた触媒活性成分を排出した。
【0049】
続いて、洗浄処理後の転動造粒機を使用して、参考例1と同条件で担持処理を行い、触媒3を得た。この際、転動造粒機のパン内壁面および底部に固着した触媒活性成分が剥がれて、製品に混入することは無く、参考例1と担持処理状態は変わらなかった。また、従来の水洗で洗浄処理した比較例1に対し、洗浄処理時間を75%短縮できた為、転動造粒機の稼働時間を延ばすことができ、生産量が約20%増加した。得られた触媒3の担持率は約113質量%、歩留まりは92質量%であった。触媒3の物性を表1に示す。また、得られた触媒3を参考例1と同様に反応器に充填し、同条件で酸化反応を行った。その結果を表2に示す。
【0050】
[実施例2]
実施例1において、転動造粒機の洗浄処理条件を8.0mmφのセラミックス担体を100L仕込み、回転時間を60分間に変更した以外は同様に調製し、触媒4を得た。また、従来の水洗で洗浄処理した比較例1に対し、洗浄処理時間を50%短縮できた為、転動造粒機の稼働時間を延ばすことができ、生産量が約14%増加した。得られた触媒4の担持率は約106質量%、歩留まりは約93質量%であった。触媒4の物性を表1に示す。また得られた触媒4を参考例1と同様に反応器に充填し、同条件で酸化反応を行った。その結果を表2に示す。
【0051】
[比較例2]
比較例1において、転動造粒機の水洗による洗浄処理を2名で30分間行ったこと以外は同様に実施し、触媒5を得た。30分間の洗浄では、転動造粒機に固着した触媒活性成分を十分に除去することができず、また、約70Lの廃水が発生した。その後、担持処理を開始したところ、予め投入したシリカ−アルミナ球形担体によって担持処理開始直後から転動造粒機のパン内壁面や底部に固着した触媒活性成分が剥がれ落ち、担体ではなく剥がれ落ちた触媒活性成分の塊を核として触媒活性成分のみで担持が進行する核無し(担体なし)が多く発生し、歩留りが著しく低下した。また、得られた触媒においては、剥がれ落ちた触媒活性成分が付着し触媒表面が凹凸であった。そのため、充填の際に空壁が生じて嵩比重が低下し、機械的強度も低い結果であった。洗浄時間を短縮した為、転動造粒機の稼働時間を延ばすことができたが、歩留りが低く、稼働時間が延びた割には生産効率は向上しなかった。得られた触媒5の担持率は約101質量%、歩留まりは約82質量%であった。触媒5の物性を表1に示す。また得られた触媒5を参考例1と同様に反応器に充填し、同条件で酸化反応を行った。その結果を表2に示す。核無しが多く存在する為、逐次反応が進行し、アクロレインとアクリル酸の選択率が低い結果となった。