特許第6207375号(P6207375)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207375
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】変速機のパーキング装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 63/34 20060101AFI20170925BHJP
   F16H 59/10 20060101ALI20170925BHJP
   F16H 59/54 20060101ALI20170925BHJP
   F16H 61/22 20060101ALI20170925BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   F16H63/34
   F16H59/10
   F16H59/54
   F16H61/22
   F16H63/50
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-259037(P2013-259037)
(22)【出願日】2013年12月16日
(65)【公開番号】特開2015-113971(P2015-113971A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100111143
【弁理士】
【氏名又は名称】安達 枝里
(72)【発明者】
【氏名】平井 真一
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−286312(JP,A)
【文献】 特開2006−160239(JP,A)
【文献】 特開2011−126474(JP,A)
【文献】 特開2009−166775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 63/34
F16H 59/10
F16H 59/54
F16H 61/22
F16H 63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された変速機の出力軸に配設された機械式パーキングロック機構と、
前記変速機に配設され、該変速機を駆動する走行用モータと、
前記車両の駐車ブレーキ操作レバーの操作力を検知する操作力センサと、
前記車両の駐車状態における前記車両の傾斜と傾斜方向とを検知する勾配センサの検出値に基づいて、前記機械式パーキングロック機構の噛合い方向と勾配を判定する噛合い判定手段と、
前記変速機内部の動力伝達経路の切換制御を行う制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記操作力センサの検出値が所定値以上で且つ、前記勾配センサが所定値以上の勾配と勾配方向を検知すると、前記変速機内部の動力伝達経路を前記出力軸に伝達するように切換えて、前記走行用モータを前記機械式パーキングロック機構の噛合い方向と反対方向に駆動して、前記機械式パーキングロック機構の噛合い力を減少させることを特徴とする変速機のパーキング装置。
【請求項2】
前記勾配センサの検出値が所定値以上で且つ、前記駐車ブレーキ操作レバーの操作力が所定値未満の場合には、前記走行用モータの駆動を禁止するようにしたことを特徴とする請求項1記載の変速機のパーキング装置。
【請求項3】
前記勾配センサの検出値が所定値以上で且つ、前記駐車ブレーキ操作レバーの操作力が所定値未満の場合には、警報装置を作動させるようにしたことを特徴とする請求項2記載の変速機のパーキング装置。
【請求項4】
前記勾配センサの検出値の勾配が所定値未満の場合には、前記走行用モータを駆動しないようにしたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の変速機のパーキング装置。
【請求項5】
前記変速レバーがパークレンジから、パークレンジ以外を選択された時には、走行用モータを停止させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の変速機のパーキング装置。
【請求項6】
前記変速機は、走行用モータは、ハイブリッド車両に搭載された変速機の走行用モータであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の変速機のパーキング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速レバーが駐車位置へ操作されることにより機械的に車輪をロックする変速機のパーキング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車輪の回転に伴って回転されるパーキングロックギヤと、該パーキングロックギヤと噛合って車輪を回転不能にロックする爪付ロックレバーとを有し、該爪付ロックレバーを噛合い位置と、噛合いが不能なアンロック位置との間を移動可能に配設して、ドライバーが変速レバーをパーキングレンジに操作することにより、変速レバーに連結されたシフトケーブルを介して爪付ロックレバーを噛合い位置と噛合いが不能なアンロック位置に操作している。
このような、機械式パーキングロック機構の技術として特許文献1が開示されている。
【0003】
特許文献1によると、シフトレンジを切換える切換バルブを操作可能な切換弁操作手段と、該切換弁操作手段を各シフトレンジに保持するディテント機構と、切換弁操作手段を駆動する駆動モータと、手動操作可能なシフトレンジ選択手段と、該シフトレンジ選択手段の操作位置を検出するシフト位置検出手段と、パーキングレンジから他のシフトレンジに移動する際の切換弁操作手段に作用する引抜き荷重を演算する荷重演算手段と、シフトレンジ選択手段がパーキングレンジから移動する際、荷重演算手段にて演算された荷重に対応するように駆動モータの駆動力を制御するモータ制御手段と、を備えた技術開示がなされている。
【0004】
このようにすることで、レンジ切換に大きな駆動力が必要な場合には、駆動モータを大きな駆動トルクで駆動し、また、小さな駆動トルクで足りる場合には駆動モータを小さな駆動トルクで駆動するので、駆動モータのモータスピードが必要以上に速くなるのが防止され、駆動モータの停止精度が向上する利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−182827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1によると、シフトレンジ選択手段がパーキングレンジから移動する際、荷重演算手段にて演算された荷重に対応するように駆動モータの駆動力を制御している。
即ち、シフトレンジ選択手段をパーキングレンジから他のレンジに移動するために、駆動モータにて強引に引抜くもので、引抜き専用のモータであると共に、モータの駆動力が大きいものが必要となり装置のコストが高くなると共に、装置全体が大きくなり、車両への搭載性が悪くなる不具合を有している。
更に、駐車ブレーキと併用した技術ではないので、シフトレンジ選択手段がパーキングレンジから移動した時に、車両が動き始める場合があり、特に降坂状態で駐車していた時などは、ドライバーの感覚と異なる場合があり、車両運転上好ましくない。
【0007】
本発明はかかる技術的課題に鑑み、勾配のきつい坂道等に駐車しても、容易にパーキングレンジから他のレンジに操作できると共に、パーキングレンジ解放時に車両が動き出さない操作性のよい変速機のパーキング装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するため、車両に搭載された変速機の出力軸に配設された機械式パーキングロック機構と、
前記変速機に配設され、該変速機を駆動する走行用モータと、
前記車両の駐車ブレーキ操作レバーの操作力を検知する操作力センサと、
前記車両の駐車状態における前記車両の傾斜と傾斜方向とを検知する勾配センサの検出値に基づいて、前記機械式パーキングロック機構の噛合い方向と勾配を判定する噛合い判定手段と、
前記変速機内部の動力伝達経路の切換制御を行う制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記操作力センサの検出値が所定値以上で且つ、前記勾配センサが所定値以上の勾配と勾配方向を検知すると、前記変速機内部の動力伝達経路を前記出力軸に伝達するように切換えて、前記走行用モータを前記機械式パーキングロック機構の噛合い方向と反対方向に駆動して、前記機械式パーキングロック機構の噛合い力を減少させることを特徴とする変速機のパーキング装置を提供できる。
【0009】
かかる発明によれば、駐車ブレーキ操作レバーの操作力と、車両のパーキング状態時の路面の傾斜とが所定値以上の場合においても、
走行用モータを機械式パーキングロック機構の噛合い方向と反対方向に駆動することで、
機械式パーキングロック機構の強噛合いが発生しても、変速レバーのパーキングレンジから他のレンジへの操作が容易にできる。
また、強噛合いの弛めるための条件の一つとして、操作力センサの検出値が所定値以上とすることで、モータ駆動により機械式パーキングロック機構が解除されても、駐車ブレーキ力が十分に操作されているので、車両が勝手に降坂する(ずり下がる)現象は避けられる。
【0010】
また本発明において好ましくは、前記勾配センサの検出値が所定値以上で且つ、前記駐車ブレーキ操作レバーの操作力が所定値未満の場合には、前記走行用モータの駆動を禁止するとよい。
【0011】
このような構成にすることにより、駐車ブレーキ操作レバーの操作力が所定値未満の場合には、駐車ブレーキ力が十分ではないため、走行用モータの駆動を禁止することで、車両が勝手に降坂する(ずり下がる)現象を防止できる。
【0012】
また本発明において好ましくは、前記勾配センサの検出値が所定値以上で且つ、前記駐車ブレーキ操作レバーの操作力が所定値未満の場合には、警報装置を作動させるとよい。
【0013】
このような構成にすることにより、機械式パーキングロック機構の強噛合い時、駐車ブレーキ操作レバーの操作力が所定値未満の場合には、走行用モータが作動しない。
その状態で、変速レバーを無理にパークレンジから他のレンジに強引に操作すると、変速レバー取付部、該変速レバーと変速機を連結する索道ケーブル、該索道ケーブルを支持しているブラケット類を破損又は変形させて破損させる可能性がある。
従って、警報装置にて警報を発し、変速レバー及び付属部品の保護を図る。
【0014】
また本発明において好ましくは、前記勾配センサの検出値の勾配が所定値未満の場合には、前記走行用モータを駆動しないようにするとよい。
【0015】
このような構成にすることにより、走行用モータの駆動条件を制限することで、バッテリの消費電力を抑制し、一般走行時における内燃機関の発電に要する負荷を軽減することにより、車両の走行燃費向上を図る。
【0016】
また本発明において好ましくは、前記変速レバーがパークレンジから、パークレンジ以外を選択された時には、走行用モータを停止させるとよい。
【0017】
このような構成にすることにより、パークレンジ以外を選択された時に、走行用モータを停止することで、変速レバーを前進又は後進の何れのレンジに操作されても、変速機が伝達経路の変更を迅速に行えるので、ドライバーの操作フィーリングが向上し、商品性の向上が図れる。
【0018】
また本発明において好ましくは、前記変速機は、走行用モータは、ハイブリッド車両に搭載された変速機の走行用モータであるとよい。
【0019】
このような構成にすることにより、ハイブリッド車両に搭載された変速機の走行用モータを、機械式パーキングロック機構の強噛合いを解除する動力に使用することで、装置のコスト低減とコンパクト化が図れる。
【発明の効果】
【0020】
かかる発明によれば、勾配のきつい坂道等に駐車しても、容易にパーキングレンジから他のレンジに操作できると共に、パーキングレンジ解放時に車両が動き出さない操作性のよい変速機のパーキング装置の提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態における変速機のパーキング装置の概略構成図を示す。
図2】本発明の実施形態における機械式パーキングロック機構の模式図を示す。
図3】駐車ブレーキの概略構成図の一例を示す。
図4】本発明の実施形態における制御装置の制御フロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る実施形態について図面を用いて説明する。
但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、その相対配置などはとくに特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
尚、上下左右は運転席に着座した状態を基準に上下(重力方向)左右(車幅方向)を記載する。
【0023】
図1は本発明が実施される変速機のパーキング装置の概略構成図を示す。
変速機のパーキング装置1は、内燃機関30の後部に取付けられた変速機である機械式自動トランスミッション6(以後、トランスミッション6と略称する)と、トランスミッション6から車両後方に延在したメインシャフト63の端部に配設された駐車ブレーキ8と、ドライバーがトランスミッション6の変速指示を行う変速操作レバー10と、該変速操作レバー10と機械式パーキングロック機構7とを機械的に連結するロックケーブル11と、駐車ブレーキ8を操作する駐車ブレーキ操作レバー81と、該駐車ブレーキ操作レバー81と駐車ブレーキ8とを機械的に連結する駐車ブレーキケーブル82と、該駐車ブレーキケーブル82と駐車ブレーキ8との間に介装され、駐車ブレーキ操作レバー81の操作力を検知する操作力センサであるロードセル15と、車両の駐車状態時の傾斜と傾斜方向(坂道の登り勾配、又は降り勾配の方向)を検知する勾配センサ9と、変速操作レバー10からの変速レンジ信号、ロードセル15からの操作力信号、勾配センサ9からの信号に基づいてトランスミッション6内の変速及びトランスミッション6内に配設されている走行用モータ5を制御する制御装置2と、を備えている。
更に、制御装置2は、勾配センサ9からの信号に基づいて、車両が駐車している状態の道路勾配θと、勾配θの方向を判断する噛合い判定手段22を備えている。
【0024】
トランスミッション6は、内燃機関30の出力軸であるクランクシャフト(図示省略)の後端部に配設され、内燃機関30の動力をトランスミッション6側に伝達・遮断するクラッチ3と、クラッチ3と一体的に連結したドライブシャフト61に配設され電力により駆動してトランスミッション6を駆動力するHEV(ハイブリッド車)用の走行用モータ5と、ドライブシャフト61と歯車によって連結し、動力を伝達するカウンタシャフト62と、該カウンタシャフト62と歯車によって連結すると共に、回転数を変換して出力する出力軸であるメインシャフト63と、メインシャフト63の後部に固着された機械式パーキングロック機構7と、トランスミッション6の上部に装着され、変速レバー10の変速(レンジ)操作に基づいた制御装置2からの信号によりメインシャフト63に装着されている歯車をスラスト方向に移動操作して、メインシャフト63の回転数を変化させるギヤシフトユニット64と、を備えている。
【0025】
メインシャフト63の駆動系下流側は、プロペラシャフト32、デファレンシャル装置34、後車軸36及び後輪38の順にメインシャフト63からの動力が機械的に伝達されるようになっている。
【0026】
図2に機械式パーキングロック機構7の概略構成図を示す。
機械式パーキングロック機構7は、メインシャフト63にキー63aによってメインシャフト63の周方向に回転不能に固定され、外周部に係合用の係合歯71aが等間隔で複数配設されたパーキングロックギヤ71と、トランスミッション6のハウジング(図示省略)に固定された支持軸76に、該支持軸76の周方向に回動可能に軸着した爪付ロックレバー75とを備えている。
【0027】
爪付ロックレバー75は、概略形状が略L字形を成し、係合歯71aと係合する係合爪75bを有したロックレバー部75aと、変速レバー10をPレンジ(パーキングレンジ)に操作すると係合爪75bが係合歯71aと係合するようにコントロールされるロックケーブル11の先端部が連結した、レバー部75cと、ロックレバー部75aをパーキングロックギヤ71側に回動付勢する巻きバネ75dとを備えている。
【0028】
ロックケーブル11は、アウタケーブル11aと、該アウタケーブル11aの内部を軸方向に摺動可能に配設され、先端部がレバー部75cに連結されているインナケーブル11bとで構成されている。
アウタケーブル11aは、クランプ11cによってトランスミッション6のハウジングに固定されている。
従って、変速レバー10がPレンジに操作されると、アウタケーブル11aの端部からインナケーブル11bが突出し、爪付ロックレバー75は、巻きバネ75dの付勢力によって、図2において時計回りに回動してパーキングロックギヤ71の係合歯71aと係合する。
【0029】
一方、変速レバー10がPレンジから他のレンジ(走行又は後退)に変速されると、インナケーブル11bが図2において左側に引かれ、爪付ロックレバー75は、巻きバネ75dの付勢力に抗して、図2において反時計回りに回動して、パーキングロックギヤ71との係合を解除する。
【0030】
駐車ブレーキの一例を図3に示す。
駐車ブレーキ8は、トランスミッション6のメインシャフト63の動力伝達経路下流側の後端部に装着されている。
図3(A)に示すように、メインシャフト63にブレーキドラム83が固着されている。
ブレーキドラム83は筒状の外周壁面を有し、筒状の片側を閉塞する閉塞壁面が一体的に形成されており、該閉塞壁面がメインシャフト63に配設されたフランジ部(図示省略)に締結部材にて固定されている。
メインシャフト63の軸線と、ブレーキドラム83の筒状の軸線は、同軸線上になるように配設されている。
【0031】
ブレーキドラム83の筒状の他側に位置した図示省略のアンカープレートにブレーキキットが取付けられている。
ブレーキキットは、図示省略のアンカープレートに装着され、ブレーキドラム83の筒状部に挿入され、アンカープレートによってブレーキドラム83の筒状部の開口を閉塞するように配設されている。
アンカープレートは、トランスミッション6のハウジングに固定されている。
図3(A)に示すように、ブレーキキットとは、ブレーキドラム83の筒状内部に位置し、アンカープレートに固着された左右一対のアンカーピン87、87に回動可能に軸着された左右一対のブレーキシュウ84a、84bと、アンカーピン87、87の近傍に配設され、該ブレーキシュウ84a、84bをブレーキドラム83の筒状内壁面から離反させるように付勢するリターンスプリング87と、一方のブレーキシュウ84aには、アンカーピン87と反対側端部(図4では上側)にレバーピン88が固定され、該レバーピン88を支軸としてブレーキシューレバー86が揺動自在に配設さえている。
ブレーキシューレバー86のレバーピン88からアンカーピン87側の位置と、他方のブレーキシュウ84bのアンカーピン87の反対側(図4において上側)部分とを連結したシューストラット89が連結されている。
ブレーキシューレバー86の下端(図3において下側)には、駐車ブレーキ操作レバー81の操作によって摺動する駐車ブレーキケーブル82が連結されている。
【0032】
駐車ブレーキ8の作動について説明する。
図3(A)は、駐車ブレーキ8が開放され、駐車ブレーキ力が発生していない状態を示している。
即ち、ブレーキシュウ84a、84bの外周面とブレーキドラム83の内周壁面との間に隙間Sが生じている。
(B)は駐車ブレーキ8が作動(駐車ブレーキ力が発生している)した状態を示す。
ドライバーが駐車ブレーキ操作レバー81を操作すると、駐車ブレーキケーブル82が矢印A方向に引かれる。
駐車ブレーキケーブル82の先端部が連結しているブレーキシュウレバー86は、レバーピン88を中心にしてブレーキシュウレバー86の下端部が時計回りに回動する。
レバーピン88の下側に位置しているシュウストラット89がブレーキシュウ84bを矢印Bの方向に移動して、シュウストラット89がブレーキシュウ84bをブレーキドラム83の内周壁面に強く押圧する。
【0033】
更に、駐車ブレーキ操作レバー81を操作すると、シュウストラット89のブレーキシュウ84aとの連結部に反力が作用して、ブレーキシュウ84aはアンカーピン87を中心にして矢印Cの方向に回動して、ブレーキドラム83の内周壁面に強く当接する。
この状態によって、メインシャフト63に固定されたブレーキドラム83とトランスミッション6のハウジングに固定されたアンカープレートとは一体的に結合した状態になる。
従って、既述の通り、メインシャフト63が固定されることにより、プロペラシャフト32、デファレンシャル装置34、後車軸36及び後輪38が機械的に連結されているので、後輪38は回転がロックされた状態になる。
【0034】
図4に基づいて制御措置2の作動フローを説明する。
ステップS1でスタートする。
ステップS2おいて、制御装置2の噛合い判定手段22は、勾配センサ9からの検知信号に基づいて、車両が駐車している状態の道路勾配θ≧所定値θsと、勾配の方向を判断する。
道路勾配θ<所定値θsの場合は、道路勾配θが小さいので、パーキングロック機構7には強噛合いが発生していないと判断し、Noを選択してステップS3に進む。
ステップS3において、変速レバー10のPレンジから他のレンジへのレンジ変更操作は容易に行えるので、走行用モータ5によるパーキングロック機構7の噛合い方向と反対方向への作動を不作動とする。
【0035】
ステップS9に進んで、通常制御に移行して、走行用モータ5の制御を停止させる。
走行用モータ5の駆動条件を制限することで、車両に搭載しているバッテリ(図示省略)の消費電力を抑制し、一般走行時における内燃機関の発電に要する負荷を軽減することにより、車両の走行燃費向上を図る。
更に、走行用モータ5の制御を停止させることで、Pレンジ以外を選択された時に、走行モータを停止することで、変速レバーを前進又は後進の何れのレンジに操作されても、変速機が伝達経路の変更を迅速に行えるので、ドライバーの操作フィーリングが向上し、商品性の向上が図れる。
ステップS10で終了する。
【0036】
ステップS2において、道路勾配θ≧所定値θsの場合は、車両が駐車している路面の勾配が大きいので、パーキングロック機構7の噛合いを解除した場合に、車両が動き出す可能性があるため、駐車ブレーキ8のブレーキ力を判断する必要がある。
従って、Yesを選択してステップS4に進む。
ステップS4においては、駐車ブレーキ操作レバー81の操作力Fによって、駐車ブレーキ力を判断するものである。
駐車ブレーキ操作レバー81の操作力Fは、操作力センサであるロードセル15の検出値に基づいて制御装置2が判断する。
【0037】
即ち、駐車ブレーキ操作力F<操作力所定値Fsの場合は、車両が停車している路面の勾配(傾斜)が大きく、駐車ブレーキ8のブレーキ力が不十分なので、パーキングロック機構7を解除すると、車両が動き出す可能性があると判断するもので、Noを選択してステップS11に進む。
即ち、走行用モータ5を不作動にしてパーキングロック機構7を解除しないようにするものである。
【0038】
ステップS11では、警報装置21を作動させる。
また、パーキングロック機構7が強噛合いしている状態で、変速レバー10を強引に操作すると、変速レバー10、該変速レバー10の取付部及びロックケーブル11等を破損する可能性があるため、その防止の効果を有している。
【0039】
ステップS12に進み、ドライバーは駐車ブレーキ操作レバー81の操作力Fの増し操作を実施する。
駐車ブレーキ操作レバー81の操作力Fを増し操作を実施するとステップS4に戻る。
ステップS4において、駐車ブレーキ操作力F≧操作力所定値Fsになると、パーキングロック機構7を解除しても、駐車ブレーキ力が十分にあり、車両が動き出す可能性は無いと判断し、ステップS5に進む。
【0040】
ステップS5において、制御装置2は、ステップS2で検出した路面(車体)の勾配θの大きさと、該勾配の傾斜方向から噛合い方向を判断すると、パーキングロック機構7の強噛合いが解除する方向に走行用モータ5を駆動する。
制御装置2は、走行用モータ5を駆動する駆動力を、勾配θの大きさに沿ったマップから電流量を読取り、その電流量で走行用モータ5を駆動制御するものである。
また、走行用モータ5の駆動開始の前に、制御装置2は、ギヤシフトユニット64に対し、トランスミッション6内の変速操作の制御信号を発し、走行用モータ5の駆動力がドライブシャフト61、カウンタシャフト62及びメインシャフト63の順に伝わるように変速制御する。
【0041】
ステップS6において、走行用モータ5の駆動に伴いパーキングロック機構7の強噛合いが弱まる。
ステップS7において、ドライバーは、Pレンジから他のレンジに移動させるための操作レバー10の変速操作を続けているので、パーキングロック機構7の強噛合いが弱まった時点で、操作レバー10はPレンジから他のレンジに容易に操作可能な状態となる。
【0042】
ステップS8において、変速レバー10がPレンジから他のレンジに操作できたか否かを確認する。
ステップS8において、変速レバー=Pレンジの場合、変速レバー10がPレンジから他のレンジに操作できていないと判断し、Noを選択してステップS5に戻り、走行用モータ5の駆動力を大きくするフィードバック制御をする。
ステップS8において、変速レバー≠Pレンジの場合、即ち、変速レバー10がPレンジから他のレンジに操作できたと判断して、ステップS9に進み、制御装置2は通常の制御へ移行する。ステップS10で終了する。
【0043】
このようにすることで、駐車ブレーキ操作レバー10の操作力Fと、車両のパーキング状態時の路面の傾斜θとが所定値以上の場合においても、走行用モータ5を機械式パーキングロック機構の噛合い方向と反対方向に駆動することで、パーキングロック機構7の強噛合いが発生しても、変速レバー10のPレンジから他のレンジへの操作が容易にできる。
また、強噛合いの弛めるための条件の一つとして、ロードセル15(操作力センサ)の検出値Fが所定値Fs以上とすることで、走行用モータ5の駆動によりパーキングロック機構7が解除されても、駐車ブレーキ力Fが十分に操作されているので、車両が勝手に降坂する(ずり下がる)現象は避けられる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
変速レバーが駐車位置へ操作されることにより機械的に車輪をロックする変速機のパーキング装置に適用できる。
【符号の説明】
【0045】
1 変速機のパーキング装置
2 制御装置
3 クラッチ
5 走行用モータ
6 トランスミッション(変速機)
7 パーキングロック機構(機械式パーキングロック機構)
8 駐車ブレーキ
9 勾配センサ
10 変速レバー
11 ロックケーブル
15 ロードセル(操作力センサ)
21 警報装置
22 噛合い判定手段
61 ドライブシャフト
62 カウンタシャフト
63 メインシャフト(出力軸)
64 ギヤシフトユニット
75 爪付ロックレバー
81 駐車ブレーキ操作レバー

図1
図2
図3
図4