特許第6207401号(P6207401)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207401
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】プレフィルドシリンジ用シリンジ
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/315 20060101AFI20170925BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   A61M5/315 512
   A61L31/10
【請求項の数】3
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2013-556502(P2013-556502)
(86)(22)【出願日】2013年1月31日
(86)【国際出願番号】JP2013052250
(87)【国際公開番号】WO2013115331
(87)【国際公開日】20130808
【審査請求日】2015年12月7日
(31)【優先権主張番号】特願2012-18878(P2012-18878)
(32)【優先日】2012年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】石井 直樹
【審査官】 久島 弘太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−108310(JP,A)
【文献】 特開2004−008509(JP,A)
【文献】 特表2009−508542(JP,A)
【文献】 特表2001−508480(JP,A)
【文献】 国際公開第98/046659(WO,A1)
【文献】 Zheng Zhang et al.,Superlow Fouling Sulfobetaine and CarboxybetainePolymers on Glass Slides,Langmuir,2006年,Vol. 22,10072-10077
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
A61L 31/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端にガスケットが取り付けられたプランジャと、
前記プランジャを内部で摺動可能に収容するシリンジ外筒と、を有するプレフィルドシリンジ用シリンジであって、
前記シリンジ外筒の内壁および前記ガスケットの表面が双極性イオンを有するポリマーにより表面修飾され
前記シリンジ外筒の内壁上に表面修飾される双極性イオンを有するポリマーの分子鎖長を分子鎖長(a)とし、前記ガスケット表面のうち前記ガスケットの先端に位置する加圧面上に表面修飾される双極性イオンを有するポリマーの分子鎖長を分子鎖長(b)とし、および前記ガスケット表面のうち前記シリンジ外筒の内壁と接するガスケット側面上に表面修飾される双極性イオンを有するポリマーの分子鎖長を分子鎖長(c)とした場合、
前記分子鎖長(a)、(b)、(c)は、下記式:
【数1】

を満たす、プレフィルドシリンジ用シリンジ。
【請求項2】
前記双極性イオンを有するポリマーは以下の化学式(1)〜(4):
【化1】
「上記式中、X、Y、およびZは、それぞれ独立であり、前記Xは、水素原子またはメチル基であって、前記Yは−C(O)O−、または−C(O)NH−であり、前記Zは、−OH基、−SH基、または−Si(OR)であり、ここでRは、水素原子、メチル基、エチル基からなる群から選択される少なくとも一つの基であり、
重合度であるlおよびkはそれぞれ独立であって、lは、1〜18の整数であり、kは、1〜100,000の整数であり、
前記Rは、下記一般式1で示されるベタイン基である:
【化2】
上記一般式1中において、AおよびAはそれぞれ独立であって、
が第4級アンモニウムイオン(−(R)−N(R(R)−)であり、この際、当該Rは炭素数1〜6個のアルキレン基であり、当該Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜6個のアルキル基であり、当該Rは連結基と結合する単結合の結合手であり、
がカルボン酸イオン(−COO)、リン酸イオン(−OPO2−)、硫酸イオン(−OSO)、およびスルホン酸イオン(−SO)からなる群から選択される一つであり、
Lは炭素数1〜6のアルキレン基である。」
【化3】
「上記式中、X、X、Y、およびYはそれぞれ独立であり、前記Xおよび前記Xは、水素原子またはメチル基であって、前記Yおよび前記Yは、−C(O)O−、または−C(O)NH−であり、
重合度であるn1およびn2はそれぞれ独立であって、n1は、1〜100,000の整数であり、n2は、1〜100,000の整数であり、
また、前記RおよびRは、それぞれ独立して、上記一般式1で示されるベタイン基である。」
【化4】
「上記式中、XおよびYはそれぞれ独立であり、前記Xは、水素原子またはメチル基であって、前記Yは、−C(O)O−、または−C(O)NH−であり、
重合度であるn1は、1〜100,000の整数であり、
また、前記Rは、上記一般式1で示されるベタイン基である。」
【化5】
「上記式中、X、Y、およびZはそれぞれ独立であり、前記Xは、水素原子またはメチル基であって、前記Yは−C(O)O−、または−C(O)NH−であり、前記Zは、−OH基、−SH基、または−Si(OR)であり、ここでRは、水素原子、メチル基、エチル基からなる群から選択される少なくとも一つの基であり、
重合度であるaおよびcは、それぞれ独立であって、aは1〜100,000の整数であり、cは1〜18の整数であり、
また、Rは、上記一般式1で示されるベタイン基である」
からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1に記載のプレフィルドシリンジ用シリンジ。
【請求項3】
前記一般式1は、下記化学式(A):
【化6】
または下記化学式(B):
【化7】
のいずれかである、請求項に記載のプレフィルドシリンジ用シリンジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレフィルドシリンジ用シリンジに関する。
【背景技術】
【0002】
プレフィルドシリンジは、薬剤充填済み注射器をいい、先端にノズルを備え、かつ基端には開口部を備えるシリンジ外筒と、当該シリンジ外筒の内周面を液密に摺動可能な押子であるプランジャとから構成されており、当該ノズルの先端はシール材で封口され、使用時に当該シール材を開口し、かつプランジャを押して薬剤を注出させる構造である。また、シリンジ外筒の内周面を液密かつ摺動可能にするためには、プランジャの先端に取り付けられたガスケットの径はシリンジ外筒の内径より大きく設計され、かつシリコンオイルなどの潤滑材をシリンジ外筒の内周面やガスケットの表面に塗布されている。
【0003】
一般に、アンプルやバイアル入りの注射薬を患者に投与する際には、一旦シリンジで薬液を吸引しなければならないが、日本薬学会によれば、プレフィルドシリンジの場合、この操作が省略されることによって、「医療現場における業務の効率化」、「薬液の取違え・誤投与などの医療事故防止」、「異物混入・細菌汚染のリスクの軽減」が期待できるとされている。しかし、プレフィルドシリンジの製品化にあたり、薬液の安定性やプラスチック容器による保存性などの検討が重要となるとされている。
【0004】
なかでも、プランジャがシリンジ外筒の内周面を液密かつ摺動自在にするために使用されている潤滑剤が、シリンジ内に充填されている薬液に溶解や拡散することにより薬液の安定性が損なわれるという問題がある。すなわち、例えば潤滑剤としてシリコンオイルを使用した場合、シリンジ内部の薬液に溶け込んだシリコンオイルが、低分子の薬剤に吸着することにより製剤の長期安定性へ悪影響を及ぼす虞がある。
【0005】
かかる問題点を解決する技術としては、特開2005−27831号が挙げられる。当該特開2005−27831号では、一端側にノズルが設けられたシリンジ本体と、他端側からシリンジ本体内部に挿入されたプランジャと、当該シリンジ本体内部において液体を貯留すると共に、プランジャからの押圧力により内容積が縮小されることで前記ノズル側から前記液体を吐出する液貯留器とを備えるプレフィルドシリンジであって、シリンジ本体内部には第一の係合部が形成され、プランジャには、シリンジ本体内部における当該プランジャの移動方向で前記第一の係合部と係合する第二の係合部が形成されている構成とするプレフィルドシリンジが開示されている。当該特開2005−27831号のプレフィルドシリンジでは、袋状のフィルムシート体である薬液貯留器(バッグ50)内に薬液が密封されているため、薬剤への異物混入が回避できるとされている。
【0006】
また、薬剤への異物混入を回避するその他の技術としては、特開2006−167110号が挙げられる。当該特開2006−167110号では、フッ素系樹脂、ケイ素系樹脂、ウレタン系樹脂、および微粒子を含む分散液を、シリンジ用外筒やガスケット表面に塗布して被膜層を形成したシリンジが開示されている。特開2006−167110号のシリンジでは、フッ素系樹脂およびケイ素系樹脂が摺動性を付与する成分として、ウレタン系樹脂が柔軟性を付与する成分として作用するために、薬剤への異物混入が回避でき、かつ安定して高い摺動性を備えたシリンジであるとされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
確かに、上記特開2005−27831号のプレフィルドシリンジは、図1および図7でも示すように、薬液がバッグ50内に密封されているため、シリンジ外筒の内周面やガスケットの表面に塗布されている潤滑剤が薬液に溶け込む問題点は解決されるが、バッグによる薬液の保存性、すなわち薬液とバッグとの関係の問題が新たに生じるため、当該特開2005−27831号の発明は、潤滑剤が薬液に溶け込むという問題点を根本的に解決するものではない。また例えば、特開2005−27831号の図1に示す形態では、シリンジ本体の内部にプランジャと噛合するラチェット爪が複数個規則的に配置形成されているため、万が一術者などが誤ってプランジャを牽引した場合、バッグが当該爪により破損して内部から薬液が漏れだす虞があり、薬液の安定性やプラスチック容器による保存性に不安が残る。さらに、仮にバッグの破損の問題を無視したとしても、当該実施形態ではシリンジ本体の内部にラチェット爪である突起が形成されているため、どうしても突起がある分、摺動性の面では特開2006−167110号のシリンジより一歩劣る。
【0008】
また、上記特開2006−167110号のシリンジ用外筒の内周面やガスケットの表面は、フッ素系樹脂、ケイ素系樹脂、ウレタン系樹脂、および微粒子を含む組成物からなる被覆層を備えているため、当該微粒子に起因する粗面構造からの点接触効果と、それぞれの樹脂の特性からの摺動性および柔軟性とはある程度期待できるものの、実際はまだ摺動性が不十分である。また、当該特開2006−167110号の表面が粗面構造であるため、どうしても薬液と直接接触する部分の表面積が高くなり、薬剤が粗面に吸着しやすくなるという問題が生じる。
【0009】
そこで、本発明は、長期間低分子の薬剤吸着やタンパク吸着が極めて起こりにくいプレフィルドシリンジ用シリンジを提供することを目的とする。本発明の他の目的としてはシリコンオイルをコートした場合よりも高い摺動性が得られ、円滑な操作が可能なプレフィルドシリンジ用シリンジを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、先端にガスケットが取り付けられたプランジャと、前記プランジャを内部で摺動可能に収容するシリンジ外筒と、を有するプレフィルドシリンジ用シリンジであって、前記シリンジ外筒の内壁が双極性イオンを有するポリマーにより表面修飾されたことを特徴とする、プレフィルドシリンジ用シリンジにより上記目的を達成する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明のプレフィルドシリンジ用シリンジの一例を示す模式図である。
図2図2は、本発明のプレフィルドシリンジ用シリンジの他の一例を示す模式図である。
図3図3は、本発明のガスケットの一例の正面図である。
図4図4は、図3の本発明のガスケットの平面図である。
図5図5は、図3の本発明のガスケットの断面図である。
図6図6は、図3の本発明のガスケットの底面図である。
図7図7は、本発明に係る双極性イオンを有するポリマーが表面修飾された一態様を示す模式図である。
図8図8は、本発明に係る双極性イオンを有するポリマーが表面修飾された一態様を示す模式図である。
図9図9は、本発明に係る双極性イオンを有するポリマーが表面修飾された一態様を示す模式図である。
【0012】
(発明の効果)
本発明のプレフィルドシリンジ用シリンジは、薬液と接触する部位に双極性イオンを有するブラシ状のポリマーを表面に固定化されているため、シリンジ内部に潤滑剤が溶け込むことなく、長期間低分子の薬剤吸着やタンパク吸着を抑制・防止することができる。
【0013】
本発明のプレフィルドシリンジ用シリンジのガスケット側面に双極性イオンを有するポリマーが固定化されているため、シリコンオイルをコートした場合よりも高い摺動性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の詳細を次に説明する。さらに、本出願は、2012年1月31日に出願された日本国特許出願番号2012−018878号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。
【0015】
本発明の第一は、先端にガスケットが取り付けられたプランジャと、前記プランジャを内部で摺動可能に収容するシリンジ外筒と、を有するプレフィルドシリンジ用シリンジであって、前記シリンジ外筒の内壁が双極性イオンを有するポリマーにより表面修飾されたことを特徴とする、プレフィルドシリンジ用シリンジである。
【0016】
これにより、シリンジ内の長期間低分子の薬剤吸着やタンパク吸着を抑制・防止することができる。
【0017】
本発明のプレフィルドシリンジ用シリンジは、薬液と接触する部位、特にシリンジ外筒の内壁に双極性イオンを有するブラシ状のポリマーを表面に固定化されているため、シリンジ内部に潤滑剤が溶け込むことなく、長期間低分子の薬剤吸着やタンパク吸着を抑制・防止することができる。
【0018】
また、本発明に係るプレフィルドシリンジ用シリンジにおいて、前記ガスケットの表面が双極性イオンを有するポリマーにより表面修飾されていることが好ましい。
【0019】
これにより、本発明のプレフィルドシリンジ用シリンジのガスケットの加圧面だけでなく側面にも双極性イオンを有するポリマーが固定化されるため、シリコンオイルをコートした場合よりも高い摺動性が得られる。
【0020】
そのため、本発明に係るプレフィルドシリンジ用シリンジにおいて、前記ガスケットの表面および前記シリンジ外筒の内壁が双極性イオンを有するポリマーにより表面修飾されたことがより好ましい。
【0021】
これにより、シリンジ内の長期間低分子の薬剤吸着やタンパク吸着を抑制・防止できるだけでなく、シリコンオイルをコートした場合よりも高い摺動性が得られる。
【0022】
本発明に係るプレフィルドシリンジ用シリンジは特に制限されることなく、公知のシリンジの構造であれば本発明に適用することができる。本発明に係るプレフィルドシリンジ用シリンジの構成の例を、以下図面を用いて説明する。図1に示すように、シリンジ1は、注射針取付部であるノズル23が先端に設けられたシリンジ外筒2と、当該シリンジ外筒2内で摺動し得るガスケット3と、ガスケット3に装着され、ガスケット3を移動操作するプランジャ4とを備えている。また、必要により図2に示すシリンジ外筒のノズル23を封止する封止部材18や、注射針(図示せず)を取り付けてもよい。以下、各構成要素の好ましい例について説明する。
【0023】
シリンジ外筒2は、底部21を有する有底筒状の部材で構成され、この底部21の中央部には、外筒2の胴部より縮径した縮径部22が一体的に形成されている。この縮径部22には、例えば、薬液投与用、採血用等の針管のハブ、各種コネクタ、チューブ、カテーテル等(図示せず)が嵌合、装着されて使用される。
【0024】
このシリンジ外筒2には、当該シリンジ外筒2の内周面とガスケット3とで囲まれる部分に薬液を貯留する貯留空間24が形成され、この貯留空間24は、縮径部22のノズル23と連通している。そのため、ガスケット3をノズル23方向に押し出すことにより貯留空間24中の薬液は、シリンジ外筒2内部からノズル23を通って外部に吐出される。また、貯留空間24内には、予め所望の薬液を貯留することができる。
【0025】
さらに、シリンジ外筒2の基端外周には、板状のフランジ25が一体的に形成されていることが好ましい。プランジャ4をシリンジ外筒2に対し相対的に移動操作する際などには、このフランジ25に指を掛けて操作を行うことができる。
【0026】
このシリンジ外筒2は、好ましくは透明(無色透明)、有色透明または半透明の樹脂で構成され、貯留空間24の視認性が確保されている。
【0027】
本発明に係るシリンジ外筒2の構成材料としては、特に限定されず、例えば、石英ガラス、ポリエチレンテレフタレート、共重合ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタアクリレート、ポリメタアクリル酸等のアクリル樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ナイロン等のポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレンナフタレート、環状ポリオレフィン(例えば、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12.5.17.10]−3−ドデセン共重合体等)、ポリスチレン、ポリメチルペンテン、ポリカーボネート、ポリスルホンなどが挙げられるが、中でもポリプロピレン、環状ポリオレフィンが好ましい。
【0028】
シリンジ外筒2の構成材料として、上記材料を使用すると、本発明に係る双極性イオンを有するポリマーにより表面修飾した際の耐剥離性の観点で好ましい。
【0029】
シリンジ外筒2内には、ガスケット3が収納(設置)されている。このガスケット3は、嵌入部(中空部)31を有し、この嵌入部31には、プランジャ4のヘッド部43が嵌合する。
【0030】
ガスケット3は、略円柱状の部材で構成され、その外周部には、シリンジ外筒2の内周面26に向かって突出する2つのリング状の凸部32が長手方向に所定間隔おいて形成されている。すなわち、図1では、軸に対して対称なテーパー状の円筒体の底面同士を接続した略円柱状の部材を1ユニットとして2個接続したものである。また、図1では当該ユニットを2つ接続しているが、複数個の軸に対して対称なテーパー状の円筒体の底面同士を接続した略円柱状の部材を接続して、蛇腹状にしてもよい。また、図1に示すような蛇腹構造のガスケット3は、軸方向の力に対して、凹部33が内側に変形することにより、軸方向の長さが収縮される。これらの凸部32がシリンジ外筒2の内周面26に対し密着しつつ摺動することで、液密性をより確実に保持するとともに、摺動性の向上が図れる。
【0031】
本発明に係るガスケット3の他の実施形態としては、図3〜6に示すように、ガスケット3の先端側と、後端側とに環状リブが設けられているものでもよい。図3は、当該ガスケット3の正面図であり、図4は、図3の当該ガスケット3の平面図であり、図5は、図3の当該ガスケット3の断面図であり、図6図3の当該ガスケット3の底面図である。具体的には、ガスケット3のコア部51は、ほぼ同一外径に延びるガスケット本体部55と、ガスケット本体部55の先端側に設けられ先端側に向かってテーパー状に縮径するガスケットテーパー部56と、ガスケット本体部55の基端から先端側に向かって内部に設けられたプランジャ取付部54と、ガスケット本体部55の先端部側面に設けられた先端側環状リブ7aと、ガスケット本体部55の後端部側面に設けられた後端側環状リブ7bを備えている。また、前記先端側環状リブ7a,7bは、シリンジ外筒2内径より若干大きく作製されているため、シリンジ外筒2内で圧縮変形するものとなっている。また、図において環状リブは、2つ設けられているが、3つ以上設けられていてもよい。
【0032】
このようなガスケット3には、ガスケット3をシリンジ外筒2内で長手方向に移動操作するプランジャ4が連結されている。
【0033】
本発明に係るガスケット3の構成材料としては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、シリコーンゴムのような各種ゴム材料や、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、オレフィン系、スチレン系等の各種熱可塑性エラストマー等が挙げられるが、中でも天然ゴム、ブチルゴム、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0034】
ガスケット3の構成材料として、上記材料を使用すると、本発明に係る双極性イオンを有するポリマーにより表面修飾した際に、より摺動性が向上し円滑な操作が可能になる観点で好ましい。
【0035】
本発明に係るプランジャ4は、主に、横断面が十文字状をなす部材で構成され、その先端側には、板部材41が一体的に形成されている。また、プランジャ4の基端には、板状(円盤状)のフランジ42が一体的に形成されている。このフランジ42に指等を掛けてプランジャ4を操作する。
【0036】
また、プランジャ4の先端部には、ガスケット3の嵌入部31に挿入、嵌合されるきのこ状のヘッド部(連結部)43が形成されている。なお、プランジャ4のガスケット3に対する固定方法は、嵌合に代わり、例えば、カシメ、融着、接着剤による接着、螺合等の方法が挙げられる。図1では、嵌合によりガスケット3とプランジャ4とを接続しており、図2ではネジ式で螺合して接続している。より詳細には、図5、6において、プランジャ取付部54は、ガスケット本体部55の内部において基端から先端部付近まで延びる略円柱状の凹部となっており、凹部側面には、プランジャの先端部に形成された螺合部と螺合可能な螺合部58が設けられている。凹部の先端面は、ほぼ平坦に形成されている。
【0037】
本発明に係るプランジャ4の構成材料としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリアミド(例えば、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン12)が挙げられるが、ポリプロピレンが最も好ましい。
【0038】
本発明に係るプレフィルドシリンジ用シリンジに使用できる薬液としては、血液、ブドウ糖等の糖質注射液、塩化ナトリウムや乳酸カリウム等の電解質補正用注射液、ビタミン剤、ワクチン、抗生物質注射液、造影剤、ステロイド剤、蛋白質分解酵素阻害剤、脂肪乳剤、抗癌剤、麻酔薬、覚せい剤、麻薬のような各種薬液、あるいは、蒸留水、消毒薬、流動食、アルコール等の液体などが挙げられる。
【0039】
本発明に係るシリンジ外筒の内壁は、双極性イオンを有するポリマーにより表面修飾されており、好ましくは当該ポリマーによりシリンジ外筒の内壁およびガスケットの表面に表面修飾されている。すなわち、本発明に係る前記シリンジ外筒の内壁の表面および/または前記ガスケットの表面に、双極性イオンを有するポリマーが直接または間接的に化学結合で固定化されている。オリゴエチレングリコール鎖で表面修飾された表面はタンパク質吸着をほぼ完全に防止することができると解されており(Ostuni, E., Chapman, R.G., Holmlin, R.E., Takayama, S.,Whitesides, G.M.: A Survey of Structure−Property Relationship of Surfaces that Resist the Adsorption of Protein. Langmuir (2001), 17(18), 5605−5620))、その理由としては、溶液中でのオリゴエチレングリコール鎖中のエーテル部への水素結合による水和、およびオリゴエチレングリコール鎖が昆布のようにふらふら漂っていることによる立体的斥力の寄与(排除体積効果)でタンパク質の吸着を阻害していると考えられている。したがって、本発明では、上記の2つの効果に加えて、さらにイオン性の水和を期待することができ、より高いタンパク非吸着能、薬剤非吸着能を有する双極性イオンを有するポリマーを表面修飾するものであり、これにより長期間低分子の薬剤吸着やタンパク吸着をより起こりにくくする。その上本発明では、ガスケット部にも双極性イオンを有するポリマーを表面修飾することで、シリコンオイルを塗布した場合に比べて、より高い摺動性を備え円滑な操作が可能なプレフィルドシリンジ用シリンジを提供することができる。さらに、双極性イオンを有するポリマーの種類や表面密度をより厳密にコントロールすることで、長期間低分子の薬剤吸着やタンパク吸着がより起こりにくく、かつ高い摺動性を備えたプレフィルドシリンジ用シリンジを提供することが可能となる。
【0040】
本発明に係る双極性イオンを有するポリマーは、アニオン性イオンとカチオン性イオンとが隣接しない位置で共存するベタイン構造を備えたポリマーであれば良く(アニオン性イオンとカチオン性イオンとを共存して備えるため双極性イオンと称している。)、当該ベタイン構造としては、アニオン性イオン部分とカチオン性部分が連結基を介して化学結合していることが好ましい。前記アニオン性イオン部分としては、例えば、カルボン酸イオン(−COO)、硫酸イオン(−OSO)、スルホン酸イオン(−SO)が挙げられ、前記カチオン性イオン部分としては、例えば、第4級アンモニウムイオン(−N(R)(R:Rは炭素数1〜6個のアルキレン基であり、Rはそれぞれ独立して水素原子以外の置換基であり、好ましくは、炭素数1〜6個のアルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基である)が挙げられる。また、連結基としては炭素数1〜6個のアルキレン基が好ましい。
【0041】
また、本発明に係る双極性イオンを有するポリマーは、以下の化学式(1)〜(4)のからなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0042】
【化1-1】
【0043】
「上記式中、X、Y、およびZは、それぞれ独立であり、前記Xは、水素原子またはメチル基であることが好ましく、前記Yは−C(O)O−、または−C(O)NH−であることが好ましく、前記Zは、−OH基、−SH基、または−Si(OR)であることが好ましく、ここでRは、水素原子、メチル基、およびエチル基からなる群から選択される少なくとも一つの基が好ましく、前記Xは、メチル基であることがより好ましく、前記Yは−C(O)O−であることがより好ましく、前記Zは、−SH基であることが好ましく、ここでRは、ベタイン基であることが好ましく、当該ベタイン基は以下の一般式1であることが好ましく、
【0044】
【化1-2】
【0045】
上記一般式1中において、AおよびAはそれぞれ独立であって、
が第4級アンモニウムイオン(−(R)−N(R(R)−)であることが好ましく、この際、当該Rは炭素数1〜6個のアルキレン基であり、当該Rはそれぞれ独立して、炭素数1〜6個のアルキル基であり、当該Rは連結基と結合する単結合の結合手であり、
がカルボン酸イオン(−COO)、リン酸イオン(−OPO2−)、硫酸イオン(−OSO)、およびスルホン酸イオン(−SO)からなる群から選択される一つであることが好ましく、
Lは炭素数1〜6のアルキレン基であることが好ましく、
重合度であるkおよびlはそれぞれ独立であって、
kは、1〜100,000の整数が好ましく、1,000〜35,000の整数がより好ましく、lは、1〜18の整数が好ましく、6〜12の整数がより好ましく、
前記Rは、スルホベタイン基またはカルボキシベタイン基であることがより好ましく、下記化学式(A):
【0046】
【化2】
【0047】
または下記化学式(B):
【0048】
【化3】
【0049】
のいずれかであることが特に好ましい。」
【0050】
【化4】
【0051】
「上記式中、X、X、Y、およびYはそれぞれ独立であり、前記Xおよび前記Xは、水素原子またはメチル基であって、前記Yおよび前記Yは、−C(O)O−、または−C(O)NH−であり、
重合度であるn1およびn2はそれぞれ独立であって、n1は、1〜100,000の整数が好ましく、1,000〜35,000の整数がより好ましく、
n2は、1〜100,000の整数が好ましく、1,000〜35,000の整数がより好ましく、
また、前記RおよびRは、ベタイン基であることが好ましく、当該ベタイン基は上記一般式1であることがより好ましく、スルホベタイン基またはカルボキシベタイン基であることがさらに好ましく、下記化学式(A):
【0052】
【化5】
【0053】
または下記化学式(B):
【0054】
【化6】
【0055】
のいずれかであることが特に好ましい。」
【0056】
【化7】
【0057】
「上記式中、XおよびYはそれぞれ独立であり、前記Xは、水素原子またはメチル基であって、前記Yは、−C(O)O−、または−C(O)NH−であり、
重合度であるn1は、1〜100,000の整数が好ましく、1,000〜35,000の整数がより好ましく、
また、前記R3は、ベタイン基であることが好ましく、当該ベタイン基は上記一般式1であることがより好ましく、スルホベタイン基またはカルボキシベタイン基であることがさらに好ましく、下記化学式(A):
【0058】
【化8】
【0059】
または下記化学式(B):
【0060】
【化9】
【0061】
のいずれかであることが特に好ましい。」
【0062】
【化10】
【0063】
「上記式中、X、Y、およびZはそれぞれ独立であり、前記Xは、水素原子またはメチル基であることが好ましく、前記Yは−C(O)O−、または−C(O)NH−であることが好ましく、前記Zは、−OH基、−SH基、または−Si(OR)であることが好ましく、ここでRは、水素原子、メチル基、エチル基からなる群から選択される少なくとも一つの基であることが好ましく、
前記Xはメチル基であることが好ましく、前記Yは−C(O)O−であることが好ましく、前記Zは、−SH基であることが好ましく、
ここでRはベタイン基であることが好ましく、当該ベタイン基は上記一般式1であることがより好ましく、スルホベタイン基またはカルボキシベタイン基であることがさらに好ましく
重合度であるaおよびcは、それぞれ独立であって、1〜100,000の整数が好ましく、1,000〜35,000の整数がより好ましく、また、Rは、下記化学式(A):
【0064】
【化11】
【0065】
または下記化学式(B):
【0066】
【化12】
【0067】
のいずれかであることが特に好ましい。」
なお、本発明に係る炭素数1〜6個のアルキレン基としては、メチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、sec−ブチレン、tert−ブチレン、ペンチレン、iso−ペンチレン、へキシレンなどが挙げられる。本発明に係る炭素数1〜6個のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−イソプロピルプロピル基等が挙げられる。
【0068】
本発明に係る双極性イオンを有するポリマーは、化学式(1)および化学式(4)で示される双極性イオンを有するポリマーがより好ましく、末端にカルボキシル基が結合したカルボキシベタインがさらに好ましい。特にカルボキシベタインが好ましい理由としては、他のベタインと比べて水のクラスター構造を破壊しにくく、よりマイルドな水和が起きていることにより、さらに良好なタンパク非吸着性、ならびに薬剤非吸着性を実現することが可能であることによる。
【0069】
本発明における「シリンジ外筒の内壁表面(および/またはガスケット表面)が、双極性イオンを有するポリマーにより表面修飾されている」ということは、シリンジ外筒の内壁表面(および/またはガスケット表面)に、上記化学式(1)〜(4)に記載のポリマーが、当該表面に直接または後述するプライマー層に直接化学結合または固定化されており、実質的に上記化学式(1)〜(4)に記載のポリマー残基が(および/またはガスケット表面)に存在していることをいう。また、前記ガスケット表面とは、ガスケット表面のうちガスケットの先端に位置する加圧面と、ガスケット表面のうち前記シリンジ外筒の内壁と接するガスケット側面と、をいう。
【0070】
そのため、上記化学式(1)においては、当該ポリマー末端のZがガスケットの表面やシリンジ外筒の内壁表面に直接または後述するプライマー層に直接化学結合される部位であり、上記化学式(2)および(3)においては、カテコール構造のベンゼン環に結合したOH基のいずれか1つが化学結合される部位であり、4つ全てのOH基がシリンジ外筒の内壁表面に直接または後述するプライマー層に直接化学結合されていることが好ましい。また、上記化学式(4)においては、当該ポリマー末端のZ基が化学結合される部位である。
【0071】
これにより、溶液中において運動性のあるポリマー鎖をガスケットの表面および/またはシリンジ外筒の内壁表面に固定化することができるため、立体的反発により薬剤吸着やタンパク吸着を抑制・防止することができるだけでなく、本発明のポリマーにおける双極性イオンを薬液と接触する表面に局在化できるため、当該双極性イオンがプロトンのアクセプター性の官能基として作用することも可能になり(分子間水素結合)、タンパク吸着を効果的に抑制・防止できると考えられる。
【0072】
本発明に係る双極性イオンを有するポリマーの分子量(数平均分子量)は、200〜2,000,000であることが好ましく、20,000〜1,000,000がより好ましく、200,000〜800,000が特に好ましい。
【0073】
双極性イオンを有するポリマーの分子量が20,000〜80,000の範囲であると低分子の薬剤吸着やタンパク吸着の観点で好ましい。
【0074】
また、双極性イオンを有するポリマーの分子量が200,000〜800,000の範囲であると高い摺動性、円滑な操作性の観点で好ましい。
【0075】
尚、数平均分子量の測定方法は、GPC、光散乱法、粘度測定法、質量分析法(TOFMASSなど)が挙げられ、本発明に係る双極性イオンを有するポリマーは、GPC(装置名:Waters 2695 Separation Module)により数平均分子量を測定している。
【0076】
本発明に係る双極性イオンを有するポリマーが、シリンジ外筒の内壁表面やガスケットの表面に固定化する場合、ガスケットの表面またはシリンジ外筒の内壁表面に当該ポリマーを直接固定化、または間接的に固定化してもよく、間接的に固定する場合、ガスケットの表面および/またはシリンジ外筒の内壁表面にプライマー層を形成してもよい。
【0077】
本発明に係るプライマー層としては、使用するガスケットの材料およびシリンジ外筒の材料に応じて適宜選択されるものであるが、カップリング剤、ポリリシン溶液、Ti薄膜、シリコン薄膜、およびAu薄膜をガスケットの表面および/またはシリンジ外筒の内壁表面に被覆したものが好ましい。
【0078】
前記Ti薄膜、TiO薄膜、シリコン薄膜、酸化シリコン薄膜、およびAu薄膜を、ガスケットの表面および/またはシリンジ外筒の内壁表面に形成する方法としては、いかなる方法でも良いが、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、分子ビームエピタキシー(MBE)法などの物理気相成長法あるいはプラズマ重合などの化学気相蒸着(CVD)法、電気めっき法、無電解めっき法等によって行うことができる。また、カップリング剤を使用する場合は、溶液プロセスによる成膜により行われる。すなわち、当該カップリング剤を溶解させることができる溶媒中に溶解させ、その溶液を用いて成膜する方法をさす。具体的には、キャスト法、ブレードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、スプレーコーティング法、ディッピング(浸漬)コーティング法、ビードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法、インクジェット法、スピンコート法、ラングミュア−ブロジェット(Langmuir−Blodgett)(LB)法などの通常の方法を用いることができる。
【0079】
また、必要によりプライマー層を形成する前に、公知の前処理を行ってもよく、特にガスケットの材料およびシリンジ外筒の材料として合成樹脂を採用する場合は、その表面をプラズマ処理及びDUV(DeepUV、遠赤外)照射処理してもよい。
【0080】
当該プライマー層の厚さは、0.001〜1μmが好ましく、0.002〜0.2μmがより好ましい。
【0081】
プライマー層の厚さが0.002〜0.2μmの範囲であると耐剥離性の観点で好ましい。
【0082】
本発明に係る双極性イオンを有するポリマーにより表面修飾されたシリンジ外筒の内壁と水との接触角は、例えば0〜90°が好ましく、0〜30°がより好ましい。
【0083】
接触角が0〜30°の範囲であれば、親水性表面となりタンパク質の吸着を抑制・防止する観点で好ましい。
【0084】
本発明に係る双極性イオンを有するポリマーにより表面修飾されたガスケットの先端に位置する加圧面と水との接触角は、例えば0〜90°が好ましく、0〜30°がより好ましい。
【0085】
接触角が0〜30°の範囲であれば、親水性表面となりタンパク質の吸着を抑制・防止する観点で好ましい。
【0086】
本発明に係る双極性イオンを有するポリマーにより表面修飾されたシリンジ外筒の内壁と接するガスケット側面と水との接触角は、例えば0〜90°が好ましく、0〜30°がより好ましい。
【0087】
接触角が0〜30°の範囲であれば、親水性表面となりタンパク質の吸着を抑制・防止する観点で好ましい。
【0088】
本発明の接触角の測定は、公知の方法や装置を使用することができ、本発明では協和界面科学株式会社製の接触角計(DM301)を使用して測定している。
【0089】
本発明に係る双極性イオンを有するポリマーの単位面積当たり表面修飾の量(密度)は、修飾する箇所によって適宜選択されるものであり、シリンジ外筒の内壁上に表面修飾される場合は、単位面積当たり双極性イオンを有するポリマー密度が、0.5μg〜5mg/cmであることが好ましく、1μg〜100μg/cmであることがより好ましい。
【0090】
シリンジ外筒の内壁は、プレフィルドシリンジ用シリンジでは薬液の薬剤やタンパク質などの吸着を抑制・防止するものであり、かつガスケットと直接接するためガスケットの摺動性にも影響が生じるためポリマー密度が、2μg〜50μg/cmであることが好ましい。
【0091】
また、ガスケット表面のうちガスケットの先端に位置する加圧面上に表面修飾される場合は、単位面積当たり双極性イオンを有するポリマー密度が、0.5μg〜5mg/cmであることが好ましく、1μg〜100μg/cmであることがより好ましい。
【0092】
ガスケット表面のうちガスケットの先端に位置する加圧面は、シリンジ外筒の内壁と接触しないため、主に薬液の薬剤やタンパク質などの吸着を抑制・防止するものであるため、ポリマー密度が、2μg〜50μg/cmであることが好ましい。
【0093】
さらに、ガスケット表面のうち前記シリンジ外筒の内壁と接するガスケット側面上に表面修飾される場合は、単位面積当たり双極性イオンを有するポリマー密度が、0.5μg〜100mg/cmであることが好ましく、10μg〜50mg/cmであることがより好ましい。
【0094】
ガスケット側面は、主に薬液との接触がなく、主にシリンジ外筒の内壁と直接接する箇所であるため、シリンジ外筒に対するガスケットの摺動性にも影響が生じるためポリマー密度が、50μg〜25mg/cmであることが好ましい。
【0095】
本発明に係る双極性イオンを有するポリマーは、「前記シリンジ外筒の内壁上に表面修飾される双極性イオンを有するポリマーの分子鎖長(a)」≦「前記ガスケット表面のうち前記ガスケットの先端に位置する加圧面上に表面修飾される双極性イオンを有するポリマーの分子鎖長(b)」≦「前記ガスケット表面のうち前記シリンジ外筒の内壁と接するガスケット側面上に表面修飾される双極性イオンを有するポリマーの分子鎖長(c)」の順の長さであることが好ましい。
【0096】
本発明に係る双極性イオンを有するポリマーにおいて、前記分子鎖長(a)、(b)、(c)が、下記式:
【0097】
【数1】
【0098】
で示されるが、特に(a)=(b)<(c)を満たす場合、タンパク非吸着、薬剤非吸着と摺動性向上の両立の観点で最も好ましい。
【0099】
以下、本発明に係るプレフィルドシリンジ用シリンジの好ましい実施形態を表面修飾方法と併せて説明する。公知の方法でそれぞれ製造しておいたシリンジ外筒、プランジャ、ガスケットを用意する。
【0100】
図1図2、および図5において、シリンジ外筒の内壁上に表面修飾される双極性イオンを有するポリマーの分子鎖長(a)、ガスケット表面のうち前記ガスケットの先端に位置する加圧面上に表面修飾される双極性イオンを有するポリマーの分子鎖長(b)、前記ガスケット表面のうち前記シリンジ外筒の内壁と接するガスケット側面上に表面修飾される双極性イオンを有するポリマーの分子鎖長(c)の関係を示している。
【0101】
(シリンジ外筒の第1の好ましい表面修飾方法)
シリンジ外筒がガラス製の場合は、NaOH溶液に1晩浸漬し蒸留水で洗浄した後、UV照射を行い、エタノールおよび蒸留水で洗浄し、窒素ガスで乾燥した後、公知のシランカップリング剤(例えば、下記の化学式(5)を含むエタノール溶液)をシリンジ外筒の内壁に塗布する。次いで減圧下で所定温度(100℃)にシランカップリング剤を塗布したシリンジ外筒を加熱する。さらに、CuBr、2,2’‐ビピリジン、および下記の化学式(6)のSBMA、または下記の化学式(7)のCBMAを水とメタノール溶媒に添加した溶液をシリンジ外筒の内壁に塗布して原子移動ラジカル重合を行う。
【0102】
【化13】
【0103】
【化14】
【0104】
【化15】
【0105】
当該シリンジ外筒が合成樹脂の場合は、シランカップリング剤(例えば、上記の化学式(5)を含むエタノール溶液)を塗布する前に、表面をプラズマ処理する以外は前記の工程と同様である。
【0106】
かかる操作により、図7で示す双極性イオンを有するポリマー(化学式(1))により表面修飾されたシリンジ外筒を製造することができる。かかる製造方法を詳細に示す参考文献としては、Zheng Zhang, et.al., Surperlow Fouling Sulfobetaine and Carboxybetaine Polymers on Glass Slides. Langmuir (2006), 22, 10072−10077が参照される。
【0107】
(シリンジ外筒の第2の好ましい表面修飾方法)
下記の反応式(1)および(2)で得られた化学式(2)および/または化学式(3)の双極性イオンを有するポリマーを溶媒(水およびTHF)に添加した溶液を調製した後、CVD法により内壁が酸化チタン薄膜(20μm)で被覆されたシリンジ外筒の当該内壁に当該溶液を塗布して乾燥することで、図8で示すDOPA末端の双極性イオンを有するポリマー(化学式(2、3))でコートすることにより表面修飾(固定化)されたシリンジ外筒を製造することができる(図8参照)。
【0108】
【化16】
【0109】
【化17】
【0110】
【化18】
【0111】
【化19】
【0112】
なお、上記反応式(1)および(2)において、NHSはN−ヒドロキシスクシンイミド、TBDMSはt−ブチル クロロジメチルシラン、DCCはジシクロヘキシルカルボジイミド、TBAFはテトラブチルアンモニウムフルオライド、DIEAはN,N−ジイソプロピルエチルアミンの略語である。
【0113】
かかる製造方法を詳細に示す参考文献としては、Langmuir 2005,21,640−646,TiO (20nm) by physical vapor deposition using reactive magnetron sputtering(PSI,Villigen,Switzerland)が参照される。
【0114】
(ガスケットの第1の好ましい表面修飾方法)
NaOH溶液にガスケットを1晩浸漬し蒸留水で洗浄した後、UV照射を行い、エタノールおよび蒸留水で洗浄、窒素ガスで乾燥し、ガスケット表面をプラズマ処理した後、公知のシランカップリング剤(例えば、上記の化学式(5)を含むエタノール溶液)をガスケット表面に塗布する。次いで減圧下で所定温度(100℃)にシランカップリング剤を塗布したガスケットを加熱する。さらに、CuBr、2,2’−ビピリジン、および上記の化学式(6)のSBMA、または上記の化学式(7)のCBMAを水とメタノール溶媒に添加した溶液をガスケットの表面に塗布して原子移動ラジカル重合を行う。かかる操作により、図7で示す双極性イオンを有するポリマー(化学式(1))により表面修飾されたガスケットを製造することができる。かかる製造方法を詳細に示す文献としては、上記と同様である。
【0115】
(ガスケットの第2の好ましい表面修飾方法)
上記の反応式(1)および(2)で得られた化学式(2)および/または化学式(3)の双極性イオンを有するポリマーを溶媒(水およびTHF)に添加した溶液を調製した後、CVD法により表面が酸化チタン薄膜で被覆されたガスケットの表面に当該溶液を塗布して乾燥することで、図8で示す双極性イオンを有するポリマー(化学式(2、3))により表面修飾されたガスケットを製造することができる。かかる製造方法を詳細に示す文献としては、上記と同様である。
【0116】
(ガスケットの第3の好ましい表面修飾方法)
下記化学式(8)のω−メルカプトウンデシル−ブロモイソブチレートを溶媒(エタノール)に添加した溶液を調製した後、CVD法により表面が金薄膜で被覆されたガスケットの当該表面に当該溶液を塗布して乾燥した後CuBr、2,2’−ビピリジン、および上記の化学式(6)のSBMA、または上記の化学式(7)のCBMAを水とメタノール溶媒に添加した溶液をガスケットの表面に塗布して原子移動ラジカル重合を行う。
【0117】
【化20】
【0118】
かかる操作により、図9で示す双極性イオンを有するポリマー(化学式(4))により表面修飾されたガスケットを製造することができる。かかる製造方法を詳細に示す文献としては、Zheng Zhang, et.al., Blood compatibility of surfaces with superlow protein adsorption. Biomaterials 29(2008),4285−4291が参照される。
【0119】
また、本発明の範囲には、上記3つの参考文献を全て包含するものである。
【0120】
本発明に係るプレフィルドシリンジ用シリンジにおいて、前記分子鎖長(a)、(b)、(c)は、下記式:
【0121】
【数2】
【0122】
を満たすことが好ましく、特に(a)=(b)<(c)を満たす場合、タンパク非吸着、薬剤非吸着と摺動性向上の両立の観点で最も好ましい。このように、本発明に係るプレフィルドシリンジ用シリンジにおいて、シリンジ外筒内壁表面と、ガスケットの加圧面と、ガスケット側面とに、異なる鎖長の双極性イオンを有するポリマーを表面修飾する方法としては、シリンジ外筒内壁表面(a)とガスケット(b)、(c)は別々に処理を行う。具体的には、シリンジ外筒の内壁表面(a)の鎖長は均一で良いため、必要によりシリンジ外筒の内壁表面を酸で洗浄またはプラズマ処理などの前処理を行った後、所望の表面処理する双極性イオンを有するポリマーによって上述した方法で適宜金属薄膜を形成し、双極性イオンを有するポリマーを表面処理する。また、ガスケット側面()とガスケットのテーパー部表面()とで鎖長が同じ場合も、(b)および(c)の鎖長は均一で良いため、同様に必要により前処理を行った後、所望の表面処理する双極性イオンを有するポリマーによって上述した方法で適宜金属薄膜を形成し、双極性イオンを有するポリマーを表面処理する。
【0123】
ガスケット側面()とガスケットのテーパー部表面()とで鎖長を変える方法は、例えば、化学式(2)および(3)のように直接双極性イオンを有するポリマーを表面に固定化する場合は、必要により上記した前処理を行った後、予め鎖長の違うポリマーを用意し、まず、ガスケット側面またはガスケットのテーパー部表面のいずれか一方の面をレジスト樹脂などでマスクして、他方に双極性イオンを有するポリマーを固定化した後、当該マスクを除去して当該鎖長の違うポリマーを固定化する。また、表面からCBMAやSBMAをグラフト重合させる場合にも、同様に、片方をマスクして、順次グラフト重合を行うことでガスケット側面()とガスケットのテーパー部表面()とで鎖長を変えることが可能である。
【0124】
(タンパク質吸着の評価方法)
上記方法で得られた、双極性イオンを有するポリマーが表面修飾されたガスケットおよびシリンジ外筒について、タンパク質吸着の評価方法を以下簡単に説明する。双極性イオンを有するポリマーが表面修飾されたガスケットおよびシリンジ外筒表面にタンパク質吸着がされているか否かは、公知の測定方法、例えば赤外分光法、ESCA、接触角測定、表面プラズモン共鳴角測定など挙げられる。溶液中で当該表面をin situで観測できる観点から表面プラズモン共鳴角測定によりタンパク質吸着を測定することが好ましい。
【0125】
例えば、本発明に係る双極性イオンを有するポリマーが表面修飾されたシリンジ外筒内およびガスケット表面を、リン酸緩衝溶液および蒸留水などで洗浄して乾燥して、当該シリンジ外筒表面の一部およびガスケット表面の一部を所定の大きさに切り出しチップ状断片とする。次いで、当該断片を表面プラズモン共鳴角装置にセットし、フローセルをリン酸緩衝溶液(生理条件など)で満たした後、フィブリノーゲン、リゾチームなどの公知のタンパク質を含む溶液(0.1〜100mg/mL)をアナライトとして流し、共鳴角の変化を観測する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9