(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207423
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】軽量耐アルカリ耐火断熱れんが及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/101 20060101AFI20170925BHJP
C04B 38/06 20060101ALI20170925BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
C04B35/101
C04B38/06 D
F27D1/00 N
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-32530(P2014-32530)
(22)【出願日】2014年2月24日
(65)【公開番号】特開2015-157724(P2015-157724A)
(43)【公開日】2015年9月3日
【審査請求日】2016年9月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】391029509
【氏名又は名称】イソライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100083910
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 正緒
(72)【発明者】
【氏名】角村 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 誉道
【審査官】
吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−206764(JP,A)
【文献】
特開2012−254910(JP,A)
【文献】
特開平01−320277(JP,A)
【文献】
特開昭53−039308(JP,A)
【文献】
特開2012−020895(JP,A)
【文献】
特開2013−139368(JP,A)
【文献】
特開2000−063929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/10 − 35/101
C04B 38/00 − 38/10
F27D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ含有量が91〜99.9質量%及びカルシア含有量が0.1〜9質量%であり、アルミナとカルシアの複合酸化物で連結されたアルミナ粒子の骨格部分と該骨格部分の間に存在する空隙部分とで構成され、気孔率が70%以上である軽量耐アルカリ耐火断熱れんがであって、
かさ比重が0.6〜1.2、熱伝導率(350℃)が0.4〜1.0W/(m・K)、及び圧縮強さが1.5〜10MPaであることを特徴とする軽量耐アルカリ耐火断熱れんが。
【請求項2】
アルミナ粉末とカルシアを含む水硬性材料の粉末とを、アルミナが91〜99.9質量%及びカルシアが0.1〜9質量%となるように混合し、更に気孔付与材と水を混合してスラリーとした後、該スラリーを成形し、得られた成形体を乾燥し、大気雰囲気中で焼成する軽量耐アルカリ耐火断熱れんがの製造方法であって、
前記カルシアを含む水硬性材料の粉末としてアルミナセメント又は石膏を用い、前記気孔付与材として発泡ポリスチレン、大鋸屑、又は起泡剤を用いることを特徴とする軽量耐アルカリ耐火断熱れんがの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリガス雰囲気に対して優れた耐久性を有する軽量の耐アルカリ耐火断熱れんが、並びに、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アルミナ−シリカ系やアルミナ系耐火物は耐火性、耐熱性、耐食性に優れているため、主要な耐火材として工業用の各種の加熱炉などに広く使用されている。ただし、シリカはアルカリとの反応性が高いため、侵食されて局部溶融や局部膨張を引き起こしやすく、耐火断熱材として構造破壊を起こしやすいことから、アルカリ雰囲気にさらされる炉用の耐火断熱れんがとしてはシリカを含まないアルミナ系の耐火断熱れんがが専ら使用されている。
【0003】
このようなアルミナ系の耐火断熱れんがの製造方法として、例えば特許文献1には、耐火性のアルミナバブル(中空粒)とアルミナ粉体にガス硬化性樹脂を混ぜ合わせ、プレス成形した後、ガス硬化性樹脂を硬化させる方法が記載されている。しかしながら、この方法では、ガス硬化性樹脂を硬化させるガスを成形体中に通過させる必要があり、また十分な硬さを得るため長い硬化時間を要することから、コストの増加を招くうえ量産化が難しいという問題があった。また、樹脂は使用中の加熱により焼失してしまうため、その後の形状維持が難しいという欠点があった。
【0004】
また、特許文献2には、弱アルカリ性ガスに対して優れた抵抗性を示す耐火物として、Al
2O
3が92〜98重量%、CaOが8〜2重量%の成分組成を有する耐火物が記載されている。この耐火物の製造方法として、Al
2O
3の骨格粒子と、CaOの前駆体となるCaCO
3又はCa(OH)
2の粉体を混合し、水を加えて成形した後、大気雰囲気中にて1400〜1800℃で焼成する方法が開示されている。しかし、この方法では、成形時に粒子同士の結合を得るため十分な外力を加える必要があることから、粒子の充填度が高められてしまう。そのため、製造される耐火物は緻密なものとなり、高気孔率で軽量な耐火物の製造は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−235167号公報
【特許文献2】特許第3230063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年においては、経済性及び環境保全の観点から、燃料使用量の削減による省エネルギー化が求められている。そのため、各種の加熱炉などの断熱材においても軽量で低熱伝導率のものが求められている。しかし、アルカリ雰囲気にさらされる炉の断熱材として使用されているアルミナ系の耐火断熱れんがは、かさ比重が1.6程度と一般雰囲気で使用されている耐火断熱れんがのほぼ2倍近くあるため、更なる軽量化が強く求められている。
【0007】
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたものであり、気孔率を高めることによって軽量化を図ると同時に、低い熱伝導率と優れた強度を有する、軽量の耐アルカリ耐火断熱れんが及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明が提供する第1の軽量耐アルカリ耐火断熱れんがは、アルミナ含有量が91〜99.9質量%及びカルシア含有量が0.1〜9質量%であり、アルミナとカルシアの複合酸化物で連結されたアルミナ粒子の骨格部分と、該骨格部分の間に存在する空隙部分とで構成され、気孔率が70%以上であることを特徴とする。
【0009】
上記本発明が提供する第1の軽量耐アルカリ耐火断熱れんがの製造方法は、アルミナ粉末とカルシアを含む水硬性材料の粉末とを、アルミナが91〜99.9質量%及びカルシアが0.1〜9質量%となるように混合し、更に気孔付与材と水を混合してスラリーとした後、該スラリーを成形し、得られた成形体を乾燥し、焼成することを特徴とする。
【0010】
また、本発明が提供する第2の軽量耐アルカリ耐火断熱れんがは、アルミナ含有量が70〜99.9質量%及びマグネシア含有量が0.1〜30質量%であり、アルミナとマグネシアの複合酸化物で連結されたアルミナ粒子の骨格部分と該骨格部分の間に存在する空隙部分とで構成され、気孔率が70%以上であることを特徴とする。
【0011】
上記本発明が提供する第2の軽量耐アルカリ耐火断熱れんがの製造方法は、アルミナ粉末とマグネシアを含む水硬性材料の粉末とを、アルミナが70〜99.9質量%及びマグネシアが0.1〜30質量%となるように混合し、更に気孔付与材と水を混合してスラリーとした後、該スラリーを成形し、得られた成形体を乾燥し、大気雰囲気中で焼成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低い熱伝導率と優れた強度を有し、しかも気孔率が70%以上で軽量な耐アルカリ耐火断熱れんがを提供することができる。特に本発明の耐アルカリ耐火断熱れんがは、アルカリに対して反応性が低く安定的であることから、リチウムイオン電池電極材の焼成炉に用いる断熱材などとして極めて優れている。また、本発明による軽量耐アルカリ耐火断熱れんがは、その製造方法自体がシンプルであり、量産化のハードルも低いため、実用化が比較的容易である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明による第1の軽量耐アルカリ耐火断熱れんがは、組成的に、91〜99.9質量%以上のアルミナ(Al
2O
3)と、0.1〜9質量%のカルシア(CaO)とからなる。また、従来の耐アルカリ耐火断熱れんがのかさ比重が一般雰囲気で使用されている耐火断熱れんがの約2倍近く(かさ比重1.6程度)あるのに対して、本発明の軽量耐アルカリ耐火断熱れんがは気孔率を70%以上に高めることによって、かさ比重が1.2以下となるように軽量化を計ったものである。
【0014】
本発明の第1の軽量耐アルカリ耐火断熱れんがの組成を上記範囲とする理由は、アルミナが91質量%未満になるか又はカルシアが9質量%を超えると、2Al
2O
3・CaOやAl
2O
3・CaOを生成するようになり、これらの生成に伴って著しい収縮及び深い亀裂を生じるためである。逆に、アルミナが99.9質量%を超えるか又はカルシアが0.1質量%未満になると、結合度合いが低くなるため好ましくない。
【0015】
また、本発明の第1の軽量耐アルカリ耐火断熱れんがは、アルミナ粒子の骨格部分と該骨格部分の間に存在する多くの空隙部分とから構成され、この空隙部分の存在によって気孔率が70%以上に向上している。上記アルミナ粒子の骨格部分は、基本的な骨格をなすアルミナ粒子と、そのアルミナ粒子を互いに連結するようにアルミナ粒子界面に形成されたアルミナとカルシアの複合酸化物6Al
2O
3・CaOとで構成されている。この複合化合物が生成することにより、十分な強度が得られると共にアルカリに対して優れた耐性を発揮する。
【0016】
即ち、本発明の第1の軽量耐アルカリ耐火断熱れんがは、上記の組成と構造を有することによって、かさ比重が0.6〜1.2の範囲と軽量であると同時に、熱伝導率(350℃)が0.4〜1.0W/(m・K)と優れた耐熱性を有している。しかも、圧縮強さが2〜10MPaであり、強度的にも優れている。
【0017】
次に、本発明による第1の軽量耐アルカリ耐火断熱れんがの製造方法について説明する。まず、アルミナ粉末とカルシアを含む水硬性材料の粉末とを、アルミナが91〜99.9質量%及びカルシアが0.1〜9質量%となるように混合し、更に気孔付与材と適量の水を混合してスラリーとする。上記カルシアを含む水硬性材料としては、アルミナセメントや石膏を用いることが好ましい。また、上記気孔付与材としては、発泡ポリスチレン、大鋸屑、起泡剤などを用いることができる。尚、水硬性材料粉末の割合を上記範囲内で増やしていくと、成形体として高強度となるだけでなく、焼成工程での収縮が小さくなり、更に軽量化しやすくなる。
【0018】
上記のごとくスラリーを調整した後、得られたスラリーを所定の形状に成形して乾燥し、大気雰囲気中において焼成することにより、本発明の軽量耐アルカリ耐火断熱れんがを製造することができる。上記焼成の際の温度としては、1300℃未満では結合力が不足してしまい、逆に1650℃を超えると焼成時の変形が大きくなるため、1300〜1650℃の範囲が好ましい。
【0019】
上記のごとく大気雰囲気中で焼成することによって、気孔付与材が焼失すると共に、水硬性材料の水和鉱物とそのまわり存在するアルミナ粒子の一部とが反応して、アルミナ粒子の粒界に耐アルカリ性の優れた6Al
2O
3・CaOが生成される。このアルミナ粒子を互いに連結するようにアルミナ粒子界面に形成されたアルミナとカルシアの複合酸化物6Al
2O
3・CaOにより、構造体として十分な強度が得られると同時にアルカリに対する耐性が優れた軽量耐アルカリ耐火断熱れんがとなる。
【0020】
尚、カルシウムとマグネシウムは元素周期律表において同族の元素に属し、化学的性質が極めて近似している元素である。水硬性材料としてマグネシアセメント等を使用することで、アルミナ粒子界面に同等性質の複合酸化物を形成することも可能である。カルシアをマグネシアに変更した場合、即ち本発明による第2の軽量耐アルカリ耐火断熱れんがは、アルミナの含有率を70〜99.9質量%、マグネシアの含有率を0.1〜30質量%とすることで、上記した第1の軽量耐アルカリ耐火断熱れんがと同等のものが得られる。
【0021】
即ち、本発明の第2の軽量耐アルカリ耐火断熱れんがは、アルミナ粒子の骨格部分と該骨格部分の間に存在する多くの空隙部分とから構成され、この空隙部分の存在によって気孔率が70%以上に向上している。上記アルミナ粒子の骨格部分は、基本的な骨格をなすアルミナ粒子と、そのアルミナ粒子を互いに連結するようにアルミナ粒子界面に形成されたアルミナとマグネシアの複合酸化物Al
2O
3・MgOとで構成されていて、この複合酸化物の生成により十分な強度が得られると共にアルカリに対して優れた耐性を発揮する。
【0022】
また、本発明の第2の軽量耐アルカリ耐火断熱れんがは、上記の組成と構造を有することによって、上記した第2の軽量耐アルカリ耐火断熱れんがと同様に、かさ比重が0.6〜1.2の範囲と軽量であると同時に、熱伝導率(350℃)が0.4〜1.0W/(m・K)と優れた耐熱性を有している。しかも、圧縮強さが1.5〜10MPaであり、強度的にも優れている。尚、マグネシアの含有量が30質量%を超えると、焼成収縮が大幅に増加して焼成物に大きな亀裂が発生しやすくなる。
【0023】
上記製造方法により得られる本発明による第1及び第2の軽量耐アルカリ耐火断熱れんがは、空隙部分を有するため軽量であると同時に、シリカを意図して含まず、従ってアルカリに対して反応性が低く非常に安定的であることから、各種の加熱炉などの断熱材は勿論のこと、リチウムイオン電池電極材の焼成炉用の断熱材として極めて好適である。しかも、製造方法自体はシンプルで容易に実施できるため、量産化しやすく、実用化が比較的容易である。
【実施例】
【0024】
[実施例1]
平均粒径1μmのアルミナ粉末80重量部と、アルミナセメント(アルミナ70重量%グレード)20重量部に対し、気孔付与剤としてのポリスチレンビーズ110リットルと大鋸屑40リットル、及び水38重量部とを加え、万能撹拌機で撹拌混合した。10分程度混練し、得られたスラリーを金型へ流し込んで鋳込み成形した。
【0025】
1日養生した後に金型を外し、得られた成形体を乾燥機で2日間乾燥(40℃で0.5日→50℃で0.5日→80℃で1日)した。乾燥した成形体を焼成炉に入れ、最高温度1450℃にて1時間保持して焼成した。冷却後、砥石による研削加工により、れんが形状に仕上げた。
【0026】
得られた軽量耐アルカリ耐火断熱れんがについて、かさ比重と気孔率をJIS R2614により測定し、熱伝導率(350℃)をJIS R2616に規定の熱線法により測定し、圧縮強さJIS R2615により測定した。その結果、かさ比重は0.7、気孔率は82%、熱伝導率(350℃)は0.5W/(m・K)、及び圧縮強さは3MPaであった。また、アルミナ含有量は98.2質量%及びカルシア含有量が1.5質量%であった。
【0027】
また、耐アルカリ性を評価するため、この軽量耐アルカリ耐火断熱れんが上に3gのLi
2CO
3を直接載せ、1000℃で1時間加熱したが、目立った変化はなく良好な外観を維持していた。一方、従来の一般的なアルミナシリカ系断熱材は、上記と同様の耐アルカリ性試験により膨張破壊を起こした。
【0028】
[実施例2]
平均粒径1μmのアルミナ粉末80重量部と、マグネシアセメント(マグネシア95重量%グレード)20重量部に対し、気孔付与剤としてのポリスチレンビーズ110リットルと大鋸屑40リットル、及び水59重量部とを加え、万能撹拌機で撹拌混合した。10分程度混練し、得られたスラリーを金型へ流し込んで鋳込み成形した。
【0029】
1日養生した後に金型を外し、得られた成形体を乾燥機で2日間乾燥(40℃で0.5日→50℃で0.5日→80℃で1日)した。乾燥した成形体を焼成炉に入れ、最高温度1450℃にて1時間保持して焼成した。冷却後、砥石による研削加工により、れんが形状に仕上げた。
【0030】
得られた軽量耐アルカリ耐火断熱れんがは、上記実施例1と同様に測定したところ、かさ比重は0.6、気孔率は84%であり、熱伝導率(350℃)は0.4W/(m・K)、圧縮強さは1.5MPaであった。また、アルミナ含有量は79.6質量%及びマグネシア含有量は19.4質量%であった。
【0031】
[比較例]
平均粒径1μmのアルミナ粉末50重量部と、マグネシアセメント(マグネシア95重量%グレード)50重量部に対し、気孔付与剤としてポリスチレンビーズ110リットルと大鋸屑40リットル、及び水69重量部とを加え、万能撹拌機で撹拌混合した。10分程度混練し、得られたスラリーを金型へ流し込んで鋳込み成形した。
【0032】
1日養生した後に金型を外し、得られた成形体を乾燥機で2日間乾燥(40℃で0.5日→50℃で0.5日→80℃で1日)した。乾燥した成形体を焼成炉に入れ、最高温度1450℃にて1時間保持して焼成した。冷却後、砥石による研削加工により、れんが形状に仕上げた。
【0033】
得られた軽量耐アルカリ耐火断熱れんがは、異常な変形と大きな亀裂を有するうえ、上記実施例1と同様に測定したところ、かさ比重は1.3及び気孔率は66%であり、焼成収縮率が23%と大きかった。また、アルミナ含有量は49.8質量%及びマグネシア含有量は48.5質量%であった。