(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207446
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】浄水器用カートリッジおよび浄水器
(51)【国際特許分類】
C02F 1/42 20060101AFI20170925BHJP
C02F 1/28 20060101ALI20170925BHJP
B01J 39/07 20170101ALI20170925BHJP
B01J 39/18 20170101ALI20170925BHJP
【FI】
C02F1/42 A
C02F1/28 G
B01J39/04 120
B01J39/18
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-68072(P2014-68072)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-188829(P2015-188829A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】横田 治雄
【審査官】
河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/158832(WO,A1)
【文献】
特開昭53−019971(JP,A)
【文献】
特開2010−184240(JP,A)
【文献】
特表2003−512171(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/104004(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/42
B01J 39/00 − 49/02
C02F 1/28
C07B 31/00 − 61/00
C07B 63/00 − 63/04
C07C 1/00 − 409/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥状態の、ポーラス型構造またはマクロポーラス型構造を有する弱酸性カチオン交換樹脂を充填した浄水器用カートリッジであって、
前記弱酸性カチオン交換樹脂が乾燥状態から吸水状態に変化する際の体積膨潤率(%)と総交換容量(eq/L−樹脂、Na形体積基準)の積が700(%・eq/L−樹脂、Na形体積基準)以下であり、
前記弱酸性カチオン交換樹脂は、Na形の弱酸性カチオン交換樹脂およびK形の弱酸性カチオン交換樹脂のうち少なくとも一方の弱酸性カチオン交換樹脂である
ことを特徴とする浄水器用カートリッジ。
【請求項2】
乾燥状態の、ポーラス型構造またはマクロポーラス型構造を有する弱酸性カチオン交換樹脂を充填した浄水器用カートリッジであって、
前記弱酸性カチオン交換樹脂が乾燥状態から吸水状態に変化する際の体積膨潤率(%)と総交換容量(eq/L−樹脂、Na形体積基準)の積が700(%・eq/L−樹脂、Na形体積基準)以下であり、
前記弱酸性カチオン交換樹脂として、H形の弱酸性カチオン交換樹脂および塩形の弱酸性カチオン交換樹脂を充填し、
前記乾燥状態における、H形の弱酸性カチオン交換樹脂および塩形の弱酸性カチオン交換樹脂の体積基準の混合割合は、(H形の弱酸性カチオン交換樹脂):(塩形の弱酸性カチオン交換樹脂)=1:9〜9:1である
ことを特徴とする浄水器用カートリッジ。
【請求項3】
前記乾燥状態における弱酸性カチオン交換樹脂の水分含有率は2質量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の浄水器用カートリッジ。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の浄水器用カートリッジを備えたことを特徴とする浄水器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄水器用カートリッジおよび浄水器に関する。
【背景技術】
【0002】
軟水の効能として、(a)お茶やコーヒーの味をまろやかにする、(b)調理器具等のスケール発生を防止する、(c)石鹸の泡立ちが良くなる、(d)グラス等容器へのウォーターマーク発生を抑制する、等がある。このため、従来から、軟化機能を有した浄水器が広く利用されている。
【0003】
水の軟化方法としては、(1)カチオン交換樹脂を用いる方法、(2)NF(
Nano
filtration;ナノろ過)またはRO(
Reverse
Osmosis;逆浸透)膜を用いる方法、(3)アルカリ剤を添加することにより沈澱したものを除去する方法などがある。しかし、これらの中でも、エネルギー効率や装置の維持管理面から、上記(1)のカチオン交換樹脂を用いる方法が優れている。
【0004】
カチオン交換樹脂を用いた浄水器は、一般的にカートリッジ内にカチオン交換樹脂を充填した状態で使用される。カートリッジ内に充填されるカチオン交換樹脂の保存形態は湿潤状態となっている。この「湿潤状態」とは、カートリッジ製造後、乾燥処理を行うことなく、大気中に一定時間、放置して、または大気中に放置することなく、包装したものである。しかし、輸送面や長期保管性を考慮した場合、カートリッジは乾燥状態の方が軽いし、菌の繁殖も抑制できるので望ましい。
【0005】
特許文献1(特開2010−184240号公報)には、乾燥イオン交換樹脂を充填したカートリッジが開示されている。特許文献1の浄水器では、デッドスペースを解消でき細菌繁殖リスクを低減できるため使用者により安全な飲料水を供給できる、としている(段落[0007]〜[0009])。
【0006】
カチオン交換樹脂には、強酸性カチオン交換樹脂と弱酸性カチオン交換樹脂が存在するが、イオン交換容量が大きく長持ちする等の理由から、弱酸性カチオン交換樹脂の使用が有用である。
【0007】
また、カチオン交換樹脂の内部構造として、ゲル型構造、ポーラス型構造、マクロポーラス型構造が知られている。これらの内部構造の中でも、比表面積が大きくイオン交換速度が優れるため、ポーラス型構造、マクロポーラス型構造が有用である。
【0008】
以上より、浄水器用カートリッジには、ポーラス型構造、またはマクロポーラス型構造を有する弱酸性カチオン交換樹脂を使用することが要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−184240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、ポーラス型構造、またはマクロポーラス型構造を有する、乾燥状態の弱酸性カチオン交換樹脂を充填したカートリッジを浄水器に取り付けて使用した場合、水に接触して吸水した際にカチオン交換樹脂が急激に膨潤し、割れて(破砕して)しまうことがあった。このようにカチオン交換樹脂の破砕が起こると、浄水処理時の圧力損失の上昇をもたらすとともに、破砕樹脂が浄水側に流出する恐れがあった。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明者は、ポーラス型構造またはマクロポーラス型構造を有する弱酸性カチオン交換樹脂について検討を行った。この結果、乾燥状態から吸水状態へ変化する時の体積膨潤率と総交換容量の積が特定の数値範囲にある弱酸性カチオン交換樹脂を用いることにより、吸水時におけるカチオン交換樹脂の破砕を防止できることを発見した。従って、本発明は、乾燥状態で浄水器内に充填されたとしても吸水時に、破砕による圧力損失の上昇、浄水水質の悪化を引き起こさない弱酸性カチオン交換樹脂を充填した浄水器用カートリッジおよび浄水器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一実施形態は、
乾燥状態の、ポーラス型構造またはマクロポーラス型構造を有する弱酸性カチオン交換樹脂を充填した浄水器用カートリッジであって、
前記弱酸性カチオン交換樹脂が乾燥状態から吸水状態に変化する際の体積膨潤率(%)と総交換容量(eq/L−樹脂、Na形体積基準)の積が700(%・eq/L−樹脂、Na形体積基準)以下であ
り、
前記弱酸性カチオン交換樹脂は、Na形の弱酸性カチオン交換樹脂およびK形の弱酸性カチオン交換樹脂のうち少なくとも一方の弱酸性カチオン交換樹脂である
ことを特徴とする浄水器用カートリッジに関する。
また別の実施形態は、
乾燥状態の、ポーラス型構造またはマクロポーラス型構造を有する弱酸性カチオン交換樹脂を充填した浄水器用カートリッジであって、
前記弱酸性カチオン交換樹脂が乾燥状態から吸水状態に変化する際の体積膨潤率(%)と総交換容量(eq/L−樹脂、Na形体積基準)の積が700(%・eq/L−樹脂、Na形体積基準)以下であり、
前記弱酸性カチオン交換樹脂として、H形の弱酸性カチオン交換樹脂および塩形の弱酸性カチオン交換樹脂を充填し、
前記乾燥状態における、H形の弱酸性カチオン交換樹脂および塩形の弱酸性カチオン交換樹脂の体積基準の混合割合は、(H形の弱酸性カチオン交換樹脂):(塩形の弱酸性カチオン交換樹脂)=1:9〜9:1である
ことを特徴とする浄水器用カートリッジに関する。
【発明の効果】
【0013】
乾燥状態で浄水器内に充填されたとしても吸水時に、破砕による圧力損失の上昇、および浄水水質の悪化を引き起こさない弱酸性カチオン交換樹脂を充填した浄水器用カートリッジおよび浄水器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一実施形態の浄水器用カートリッジは、乾燥状態の、ポーラス型構造またはマクロポーラス型構造を有する弱酸性カチオン交換樹脂を充填したものである。そして、弱酸性カチオン交換樹脂が乾燥状態から吸水状態に変化する際の体積膨潤率(%)と総交換容量(eq/L−樹脂、Na形体積基準)の積が700(%・eq/L−樹脂、Na形体積基準)以下となっている。ここで、乾燥状態の弱酸性カチオン交換樹脂が吸水状態に変化する際の、該弱酸性カチオン交換樹脂の破砕のし易さは、吸水時のカチオン交換樹脂の膨潤割合と膨潤速度に依存する。
【0015】
この膨潤割合および膨潤速度はそれぞれ、体積膨潤率(%)と総交換容量(eq/L−樹脂、Na形体積基準)によって表すことができる。すなわち、体積膨潤率(%)が大きい時、膨潤割合が大きいことを意味し、総交換容量が大きい時、膨潤速度が大きいことを意味する。従って、この体積膨潤率と総交換容量の積が700以下の弱酸性カチオン交換樹脂とすることによって、吸水時のカチオン交換樹脂の破砕による圧力損失の上昇、および浄水水質の悪化を防止することができる。
【0016】
弱酸性カチオン交換樹脂は、マクロポーラス型構造、またはポーラス型構造を有する。このようにマクロポーラス型構造、またはポーラス型構造を有することによって、比表面積が大きく、イオン交換速度に優れた弱酸性カチオン交換樹脂とすることができる。なお、ゲル型構造と、マクロポーラス型構造およびポーラス型構造とは、下記の方法によって判別することができる。
(1)光を照射したカチオン交換樹脂を光学顕微鏡で見た時に、光が透過するものが「ゲル型構造」、光が透過しないものが「ポーラス型構造」、「マクロポーラス型構造」と判別できる。
(2)窒素ガス等を用いた吸着法(BET法)により測定したカチオン交換樹脂の比表面積や細孔容積の値から、「ゲル型構造」と、「ポーラス型構造」、「マクロポーラス型構造」とを判別できる。一般的には、ゲル型構造を有するカチオン交換樹脂は比表面積や細孔容積が極めて小さく、比表面積は0.1m
2/g未満、細孔容積は0.001〜0.008ml/ml−樹脂となる。また、ポーラス型構造、またはマクロポーラス型構造を有するカチオン交換樹脂は比表面積や細孔容積が比較的、大きく、比表面積は2〜125m
2/g、細孔容積は0.17〜0.50ml/ml−樹脂となる。
【0017】
なお、従来の浄水器用カートリッジは、製造後すぐに、または製造後、一定時間放置した後、特別な乾燥処理(カートリッジ中のイオン交換樹脂の水分を除去する処理)を行うことなく包装したものである。カチオン交換樹脂には水分を保有する能力があるため、製造時点では一定量(35〜60質量%程度)の水分を含んでいる。このように比較的、高い水分含有率を有する点で、本実施形態の、低水分含有率のカチオン交換樹脂が充填された浄水器用カートリッジとは異なる。なお、典型的には、従来の浄水器用カートリッジ中のカチオン交換樹脂の水分含有率は、35〜60質量%となる。
【0018】
本実施形態の弱酸性カチオン交換樹脂の体積膨潤率と総交換容量の積は700(%・eq/L−樹脂、Na形体積基準)以下であれば特に限定されず、例えば、体積膨潤率が0の時、体積膨潤率と総交換容量の積は0となる。体積膨潤率と総交換容量の積は664以下であることが好ましく、567以下であることがより好ましく、100以下であることが更に好ましい。体積膨潤率と総交換容量の積がこれらの範囲内にあることによって、カチオン交換樹脂の膨潤割合と膨潤速度をより低くすることができ、カチオン交換樹脂の破砕による圧力損失の上昇、および浄水水質の悪化をより効果的に防止することができる。また、体積膨潤率と総交換容量の積は1以上であることが好ましい。
【0019】
体積膨潤率と総交換容量の積が700以下となる限り、体積膨潤率および総交換容量のそれぞれの好ましい範囲は特に限定されないが、体積膨潤率は0〜300%が好ましく、総交換容量は1.0〜2.5(eq/L−樹脂、Na形体積基準)が好ましい。
【0020】
本実施形態の浄水器用カートリッジは、乾燥状態のH形の弱酸性カチオン交換樹脂を充填したもの、乾燥状態の塩形の弱酸性カチオン交換樹脂を充填したもの、および乾燥状態のH形の弱酸性カチオン交換樹脂と塩形の弱酸性カチオン交換樹脂を充填したもの、の何れであっても良い。なお、カートリッジ内にH形の弱酸性カチオン交換樹脂のみを充填したものの場合、浄水のpHが酸性側に変動する場合がある。また、カートリッジ内に塩形の弱酸性カチオン交換樹脂のみを充填したものの場合、浄水のpHがアルカリ性側に変動する場合がある。従って、浄水のpH変動が問題となる場合は、カートリッジ内にH形および塩形の弱酸性カチオン交換樹脂を充填することが好ましい。この場合、乾燥状態における、H形および塩形の弱酸性カチオン交換樹脂の体積基準の混合割合は、(H形の弱酸性カチオン交換樹脂):(塩形の弱酸性カチオン交換樹脂)=1:9〜9:1であることが好ましい。混合割合がこれらの範囲内であることによって、浄水を所望のpHに調整することができる。
【0021】
また、弱酸性カチオン交換樹脂の乾燥状態は、製造後のH形および塩形の弱酸性カチオン交換樹脂に対して乾燥処理を行うことにより達成することができる。乾燥処理の方法は特に限定されず、熱乾燥処理、真空乾燥処理等、公知の様々な乾燥処理を行うことができる。熱乾燥処理の条件としては、温度100〜130℃、1〜24時間の条件を挙げることができる。真空乾燥処理の条件としては、圧力20kPa以下、温度60〜80℃、2〜24時間の条件を挙げることができる。
【0022】
好ましくは、弱酸性カチオン交換樹脂を劣化させないような緩和な乾燥処理を行うのが良い。熱負荷を低減できると共に短時間で乾燥を行えるため、真空乾燥処理がより好ましい。
【0023】
乾燥状態のマクロポーラス型構造、またはポーラス型構造を有する弱酸性カチオン交換樹脂の水分含有率は、湿潤状態のものよりも低いものであれば特に限定されないが、好ましくは2質量%以下であるのが良い。
【0024】
塩形の弱酸性カチオン交換樹脂の種類は特に限定されないが、例えば、Na形の弱酸性カチオン交換樹脂、K形の弱酸性カチオン交換樹脂を挙げることができる。
【0025】
マクロポーラス型構造、またはポーラス型構造を有する弱酸性カチオン交換樹脂の母体構造は特に限定されないが例えば、メタクリル系の弱酸性カチオン交換樹脂、アクリル系の弱酸性カチオン交換樹脂とすることができる。H形の弱酸性カチオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト(登録商標、以下、同様) FPC3500、ダウエックス(登録商標、以下、同様) MAC−3(ダウケミカル社製)、ピュロライト(登録商標、以下、同様) C104(ピュロライト社製)、ダイヤイオン(登録商標、以下、同様) WK20(三菱化学社製)、レバチット(登録商標、以下、同様) CNP80(ランクセス社製)などを挙げることができる。
【0026】
また、塩形の弱酸性カチオン交換樹脂は、H形の弱酸性カチオン交換樹脂や公知の弱酸性カチオン交換樹脂に、該塩形に対応する溶液を通液することによって調製することができる。例えば、Na形の弱酸性カチオン交換樹脂とする場合は、H形の弱酸性カチオン交換樹脂にNaOH水溶液を通液することによりNa形の弱酸性カチオン交換樹脂とすることができる。また、例えば、K形の弱酸性カチオン交換樹脂とする場合は、H形の弱酸性カチオン交換樹脂にKOH水溶液を通液することによりK形の弱酸性カチオン交換樹脂とすることができる。
【0027】
浄水器用カートリッジ中には更に粒状活性炭を充填することが好ましい。粒状活性炭により、水中のカチオン成分以外の有機物や残留塩素等を除去して、水の純度を更に向上させることができる。
【0028】
他の実施形態の浄水器は、浄水器用カートリッジを備える。浄水器の形態は特に限定されないが例えば、ハウジングと、ハウジングの上部に設けられた原水入口と、ハウジングの下部に設けられた浄水出口とを有し、ハウジング内に弱酸性カチオン交換樹脂が充填されたものを挙げることができる。浄水器の種類としては特に限定されないが、例えば、ポット型、蛇口直結型、据え置き型、またはアンダーシンク型の浄水器を使用することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0030】
[実施例1]
内径8cm、高さ20cmのカートリッジ内に、乾燥状態にあるマクロポーラス型構造を有するNa形の弱酸性カチオン交換樹脂(商品名「ダウエックス MAC−3」(ダウ・ケミカル社製))を湿潤体積換算で800mL相当充填し、そのカートリッジ内に水道水をSV100BV/hrで10分間、通水を行った。なお、上記の「BV」とは、弱酸性カチオン交換樹脂の湿潤体積に対する、通水時の水の流量倍数を表す。
【0031】
乾燥樹脂の調製は、真空乾燥機にて80℃、真空度8kPa、乾燥時間24時間にて行った。乾燥後の弱酸性カチオン交換樹脂について水分含有率を測定した。水分含有率の測定には、加熱乾燥式水分計MX−50((株)A&D社製)を用い、約5gの質量の試料を秤量した後、試料皿に載せて105℃に加熱した。そして、水分含有率の時間変化が0.005%/min以下となった時点の水分含有率を測定した。その結果、水分含有率は2質量%となった。
【0032】
また、事前に、上記弱酸性カチオン交換樹脂における、乾燥状態から吸水状態に変化する際の体積膨潤率と総交換容量(Na形体積基準)を測定した結果、体積膨潤率は229%、総交換容量(Na形体積基準)は2.20eq/L−樹脂であった。体積膨潤率と総交換容量の積は、504(%・eq/L−樹脂)であった。
【0033】
なお、総交換容量(Na形体積基準)は、以下のようにして測定した。
Na形の弱酸性カチオン交換樹脂の約70ml(湿潤状態)に、HCl水溶液を通水することにより、H形の弱酸性カチオン交換樹脂とする。弱酸性カチオン交換樹脂約60mlを、水分調節装置を用いて水分平衡状態にした後、秤量瓶2個に約1g(総交換容量測定用)と、20g(湿潤体積測定用)を同時にはかり取る。約1gをはかり取った弱酸性カチオン交換樹脂を、少量の水を用いてフラスコAに移した後、NaCl(5g/L)を含むNaOH(4g/L)水溶液200mlを加え、更に水をフラスコAの標線まで加える。約20gをはかり取った弱酸性カチオン交換樹脂をカラムに充填し、40g/LのNaOH水溶液を、10mL/minの流速で200ml通液した後、同流速で純水200mlを通液する。これにより、H形の弱酸性カチオン交換樹脂を、Na形の弱酸性カチオン交換樹脂に変換する。この樹脂をメスシリンダーに入れてタッピング法により湿潤体積を測定する。上記とは別に空試験として、フラスコBにNaClを含むNaOH水溶液200mlを加え、更に水をフラスコBの標線まで加える。フラスコAおよびBをよく振り混ぜ、この操作を時々、繰り返す。フラスコAおよびBからそれぞれ、25mlの溶液をはかり取り、指示薬としてメチルレッド・ブロムクレゾールグリーン混合溶液を3または4滴、加え、50mmol/Lの硫酸水溶液を加えて、溶液の色が灰紫に変色するまで滴定する。上記の測定結果より、下記式(1)に従って、総交換容量Tを計算する。
【0034】
【数1】
【0035】
ただし、上記式(1)において、a:弱酸性カチオン交換樹脂の滴定に要した50mmol/L硫酸水溶液の体積(ml)、b:空試験の滴定に要した50mmol/L硫酸水溶液の体積(ml)、f:50mmol/L硫酸水溶液のファクター、w:総交換容量測定用の弱酸性カチオン交換樹脂の質量(約1g)、w1:湿潤体積測定用の弱酸性カチオン交換樹脂の質量(約20g)、v:弱酸性カチオン交換樹脂(Na形体積基準)の湿潤体積(ml)を表す。
【0036】
また、体積膨潤率は、以下のようにして測定した。まず、約20gをはかり取った乾燥状態(水分含有率2質量%)の弱酸性カチオン交換樹脂をメスシリンダーに入れ、タッピング法により乾燥体積V
dを測定する。次に、この樹脂に純水を100ml注入し十分吸水させて10分間、放置した後、湿潤体積V
wを測定する。体積膨潤率Vを以下の計算式(2)に従って算出する。
【0037】
【数2】
【0038】
なお、本例では、乾燥状態の水分含有率を2質量%としたが、事前の予備実験により乾燥状態の水分含有率が2質量%以下であれば、何れの水分含有率であっても体積膨潤率は同じ値となることを確認している。従って、体積膨潤率Vを測定する際、乾燥状態の水分含有率は2質量%以下であれば、何れの水分含有率であっても良い。
【0039】
[実施例2]
実施例1において、Na形の弱酸性カチオン交換樹脂(ダウエックス MAC−3)を、ポーラス型構造を有する弱酸性カチオン交換樹脂(商品名「C104」(ピュロライト社製))に変更した。その結果、乾燥状態の水分含有率は2質量%となった。これ以外は、実施例1と同様にして、通水および各物性値の測定を行った。体積膨潤率は210%、総交換容量(Na形体積基準)は3.16eq/L−樹脂、体積膨潤率と総交換容量の積は664(%・eq/L−樹脂)であった。
【0040】
[実施例3]
実施例1において、Na形の弱酸性カチオン交換樹脂(ダウエックス MAC−3)を、マクロポーラス型構造を有する弱酸性カチオン交換樹脂(商品名「FPC3500」(ダウ・ケミカル社製))に変更した。その結果、乾燥状態の水分含有率は2質量%となった。これ以外は、実施例1と同様にして、通水および各物性値の測定を行った。体積膨潤率は367%、総交換容量(Na形体積基準)は1.20eq/L−樹脂、体積膨潤率と総交換容量の積は440(%・eq/L−樹脂)であった。
【0041】
[実施例4]
実施例1において、Na形の弱酸性カチオン交換樹脂(ダウエックス MAC−3)を、マクロポーラス型構造を有する弱酸性カチオン交換樹脂(商品名「WK40L」(三菱化学社製))に変更した。その結果、乾燥状態の水分含有率は2質量%となった。これ以外は、実施例1と同様にして、通水および各物性値の測定を行った。体積膨潤率は204%、総交換容量(Na形体積基準)は2.78eq/L−樹脂、体積膨潤率と総交換容量の積は567(%・eq/L−樹脂)であった。
【0042】
[比較例1]
実施例1において、Na形の弱酸性カチオン交換樹脂(ダウエックス MAC−3)を、マクロポーラス型構造を有する弱酸性カチオン交換樹脂(商品名「アンバーライトIRC76」(ダウ・ケミカル社製))に変更した。その結果、乾燥状態の水分含有率は2質量%となった。これ以外は、実施例1と同様にして、通水および各物性値の測定を行った。体積膨潤率は336%、総交換容量(Na形体積基準)は2.44eq/L−樹脂、体積膨潤率と総交換容量の積は820(%・eq/L−樹脂)であった。
【0043】
〈結果〉
実施例1〜4、および比較例1において、通水終了時の圧力損失(差圧)と通水終了後の光学顕微鏡(倍率50倍)観察を行い、差圧上昇率<(最終差圧−同未乾燥品の初期差圧)/同未乾燥品の初期差圧>と破砕率<(計測個数−破砕個数)/(計測個数)>を算出した。各例で使用したカチオン交換樹脂の種類、体積膨潤率と総交換容量の積、および測定結果を表1に示す。なお、「差圧」は、カチオン交換樹脂を充填した浄水カートリッジの流入部及び流出部をそれぞれ分岐させて、差圧計に接続し、その計測値を読み取った。また、カチオン交換樹脂の破砕個数は、光学顕微鏡(倍率50倍)によりカチオン交換樹脂の観察を行い、球形でないものや一部が欠けたものをカウントした。
【0044】
【表1】
【0045】
実施例1、3及び4では、差圧上昇もカチオン交換樹脂の破砕も発生しなかった。実施例2では、差圧上昇率が6%、カチオン交換樹脂の破砕率が4%となったが、カートリッジの使用には支障の無いレベルであった。一方、比較例1では、差圧上昇率が130%、樹脂の破砕率が72%となり、カートリッジの使用が不可能となった。