特許第6207499号(P6207499)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207499
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】プラズマ放電を発生させる方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20170925BHJP
【FI】
   C23C14/34 T
   C23C14/34 R
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-505524(P2014-505524)
(86)(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公表番号】特表2014-514452(P2014-514452A)
(43)【公表日】2014年6月19日
(86)【国際出願番号】EP2012001414
(87)【国際公開番号】WO2012143087
(87)【国際公開日】20121026
【審査請求日】2015年3月19日
(31)【優先権主張番号】102011018363.9
(32)【優先日】2011年4月20日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】598051691
【氏名又は名称】エリコン・サーフェス・ソリューションズ・アクチェンゲゼルシャフト,トリュープバッハ
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クラスニッツァー,ジークフリート
(72)【発明者】
【氏名】リューム,クルト
【審査官】 塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】 独国特許出願公開第102006017382(DE,A1)
【文献】 特開2007−148540(JP,A)
【文献】 特開2001−140070(JP,A)
【文献】 特開2010−065240(JP,A)
【文献】 特開2005−151612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともいくつかの領域で局所的に0.2A/cm2を上回る放電電流密度のプラズ
マ放電を発生させる方法であって、
・所定の最大電力を有する給電ユニットを提供する工程と、
・それぞれ所定のレーストラックと所定の温度限界とを有する少なくとも2つのマグネトロンスパッタ源を提供する工程であって、前記給電ユニットの最大電力が前記マグネトロンスパッタ源のそれぞれに作用する際には、前記放電電流密度が、0.2A/cm2を上
回るように前記レーストラックが小さく選択される工程と、
・前記給電ユニットを用いて、前記少なくとも2つのマグネトロンスパッタ源のうちの第1マグネトロンスパッタ源中に、第1時間間隔の間、第1電力を給電する工程であって、前記第1電力が十分大きく選択されていて、その結果前記マグネトロンスパッタ源に、少なくとも1つの領域で、局所的に0.2A/cm2を上回る放電電流密度が発生し、かつ
、前記第1時間間隔が十分に短く選択されていて、その結果、前記第1マグネトロンスパッタ源の前記所定の温度限界を上回ることがない、工程と
・前記給電ユニットを用いて、前記マグネトロンスパッタ源のうちの第2マグネトロンスパッタ源中に、第2時間間隔の間、第2電力を給電する工程であって、前記第2電力が十分大きく選択されていて、その結果前記第2マグネトロンスパッタ源に、少なくとも1つの領域で、局所的に0.2A/cm2を上回る放電電流密度が発生し、かつ、前記第2時
間間隔が十分に短く選択されていて、その結果、前記第2マグネトロンスパッタ源の前記所定の温度限界を上回ることがない、工程と
を含む方法において、
前記給電ユニットは、互いにマスタースレーブ構成で接続されている少なくとも2つの発電機を含み、前記双方の時間間隔は完全には重複しない
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
それぞれ所定のレーストラックとそれぞれ所定の温度限界とを有する第3のマグネトロンスパッタ源が提供され、前記給電ユニットの最大電力が前記マグネトロンスパッタ源のうちのそれぞれに作用する際には、前記放電電流密度が0.2A/cm2を上回り、かつ
、スレーブ発電機とマスター発電機との数が、少なくとも前記マグネトロンスパッタ源の数以上である発電機の数になるように、多くのスレーブ発電機を前記給電ユニットが有するように、前記レーストラックが設計されていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記時間間隔は、周期的に反復する間隔を合わせた間隔で、したがって、周期的なパルスを形成することを特徴とする請求項1および2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記マグネトロンスパッタ源の前記ターゲットのうちの少なくとも1つの後方には、回転する磁石システムが設けられていて、前記磁石システムが、移動するレーストラックを発生させ、前記レーストラックの広がりは、前記ターゲット表面よりも小さいが、しかし、前記ターゲット表面の20%を上回ることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロン吹き付けにより、基板をコーティングする方法に関する。
本明細書の枠内では、「スパッタリング(Sputtern)」と「吹き付け(Zerstaeuben)」とを同義の用語として使用する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリングでは、ターゲット(カソード)にイオンが発射され、これにより、ターゲットから材料が削り取られる。プラズマからターゲット表面方向へのイオンの加速は、電界により達成される。マグネトロンスパッタリングでは、ターゲット表面上に磁場が作られる。このようにして、プラズマ中の電子が螺旋軌道上に入れられ、ターゲット表面上を循環する。経路をより長くすることにより、電子と、原子ないしイオンとの衝突の数が著しく多くなり、ターゲット表面上のこの領域におけるイオン化の程度がより高くなる。これにより、この領域直下におけるターゲット上のスパッタリング削り取りが大きくなる。これにより、マグネトロンスパッタリングにおいて典型的である侵食溝が、この上にあるレーストラックにより生じる。この種の侵食溝には、ターゲットの広い領域が実質的に削り取られないという欠点がある。しかし、ターゲットの材料はしばしば高価な材料である。したがって、ターゲット後方にある磁場を作る磁石システムは、図1に図示されているように、腎臓形状のレーストラックになるように設計されている場合がしばしばある。円形カソードの場合には、この磁石システムは、円形カソードの中央軸の周りを回転し、その結果、実質的に、ターゲット材料は同じ形状で削り取られる。しかし、削り取られる材料が、非常にわずかの割合しかイオン化されないという従来のスパッタリングの欠点が残る。
【0003】
本発明は、特に、HIPIMS(HIPIMS=高出力パルスマグネトロンスパッタリング)方法に関する。HIPIMSは、従来のスパッタリングをさらに発展させた方法であって、パルス幅がマイクロ秒〜ミリ秒の範囲で、かつ電力密度が100W/cm以上であるパルス様の放電の作用を利用する方法である。新しいHIPIMS技術では、従来のスパッタリングの大きな欠点、すなわち、スパッタリングされた原子のイオン化が非常にわずかであるという欠点は取り除かれる。したがって、HIPIMS技術により、材料によっては、スパッタリングされた粒子の100%までのイオン化が達成可能であると従来技術では示されている。
【0004】
この場合、ターゲットに作用する放電電力密度を少なくとも短時間の間大きくすることにより、イオン化の程度を高める。イオン化の程度が高くなることにより、層の成長機構を変えることができ、したがって、層特性に影響を与える。とりわけ、これにより固着強度がより高められる。
【0005】
典型的に用いられる平均的な電力密度は、従来のスパッタリングにおいてもHIPIMSにおいても、20W/cmの範囲である。負荷が高い場合には、特種なターゲット冷却装置を用いて、50W/cmにまでなる。これに対応する放電電流密度は、0.2A/cmまでの範囲である。プラズマ物理と電子技術との観点から、電力密度をはるかにより高くし、したがって、放電電流密度をより高くしても問題はない。しかし、実質的には、ターゲット冷却には技術的限界が設定されていることにより、スパッタリングターゲット上で適用可能な平均的な電力は限定されている。このために、HIPIMS方法では、パルス形態でのスパッタ電力がかけられ、この際に、ターゲット上に作用する平均的な電力が原因で過剰温度にならないように、パルス幅は短く選択される。この場合に、ターゲット温度および許容可能な最大ターゲット温度が、ターゲット材料と、その熱伝導性と、その機械的な特性とに非常に強く依存することは明らかである。
【0006】
この場合の欠点は、パルス技術的に、機械のコストが大きくなるという点であるが、この理由は、時間的にも空間的にも、電力をスパッタリング電力パルスに分けることができる発電機を用いなければならないからである。これは、従来の発電機の技術では達成されない。
【0007】
この欠点を回避するために、従来技術では、ターゲットの全サイズに比較して、明らかに小さいレーストラックに移行して、このレーストラックをターゲット表面上で漂わせるということが提案されている。例えば、ワング他(Wang et al)の米国特許第6,413,382号明細書中には、ターゲット表面の20%未満を被覆するマグネトロンになる磁石システムが提案されている。この磁石システムは、ターゲット表面の後方で回転可能に取り付けられていて、その結果、レーストラックが、実質的にターゲット表面全体を網羅することができる。確かに、この方策により発電機を単純化するが、しかし、パルス技術を完全に放棄することはできない。これに応じて、パルス/休止期間の割合は、10%未満に定められる。
【0008】
然るに、この場合の欠点は、これに応じて設計された機器がHIPIMSへの適用にのみ適しているという点である。レーストラックのサイズを大幅に小さくすることにより、スパッタ率は、相応に小さくなる。HIPIMS層と従来のスパッタ層とが交互になりうるべき場合には、従来のスパッタ層に対する従来のスパッタ率も相応に低減されている。
【0009】
ニーベルク他(Nyberg et al)は、国際公開第03006703号パンフレット中で、これに類似の方策を提案している。彼らは、スパッタ領域を縮小することにより、放電電流密度をより大きくすると説明している。局所的なより高い加熱を補うために、スパッタ領域は移動する。さらに、ニーベルク他は、産業分野での応用の場合には、表面の溶融を防ぐために、小さくしたスパッタ領域が、高速でターゲット上を移動せねばならないと説明している。この技術により、全ての従来の発電機を投入することが可能になる。これは、1つのターゲットを、電気的に互いに切り離されている複数の部分に分けることにより可能になりうる。以下で、これらの部分を部分ターゲットと称する。この際に、1つの部分ターゲットは、完全に独立したターゲットであるべきで、とりわけ、電力負荷に関して他の部分ターゲットから隔離されていて複数の等しい部分ターゲットの表面が集まって、全ターゲット表面になる。ある時点で、全電力が、これらの部分ターゲットのうちの1つに集中することにより、現時点で吹き付けされる場所を制御することが可能である。これらの部分のスイッチを入れ、切ることにより、部品を可動にすることなく済ませることが可能になる。
【0010】
ニーベルク他のシステムの欠点は、この種の構造は、従来のマグネトロン・スパッタリング・モードでは作動可能ではないという事実であるが、これは、1つの発電機の電力を、均等に様々な部分に分配することが可能ではない、あるいは、これが技術的に非常にコスト高であるからである。ニーベルク他の方策では、とりわけ、スイッチを入れることができるまたは切ることができる各部分ターゲット上で、固定の侵食溝が生じる点も欠点である。これは、ワング他に記載された回転マグネトロンに比してもターゲットの利用が明らかにより劣悪であることを意味する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、コスト高であるパルス発電機技術を使用せずに、HIPIMS方法を実施することができ、しかも容易に従来のスパッタリングモードに切り替えることができる機器が利用可能であることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、この課題は、1つのターゲットが電気的に絶縁された複数の独立した部分ターゲットに分けられ、それらが、HIPIMSモードで、マスター・スレーブ・ユニットとして構成されている給電ユニットにより給電されることにより達成される。マスタースレーブ構成とは、2つ以上の発電機の出力が並列に接続された構成と理解され、発電機のうちの1つ(マスター)において設定されるべき電力が選択され、これ以外の発電機は、マスターにその設定が追随するように電子的に接続されている。好ましくは、少なくとも、電気的に絶縁された個々の部分ターゲットが存在するよう、多くの数の発電機が、マスタースレーブ構成で接続される。HIPIMSモードでは、個々の部分ターゲットに、その冷却が可能になるような長さだけ電力が伝送される。HIPIMSモードでは、部分ターゲットは、順次スイッチが入れられ、切られる。したがって、マスタースレーブ構成においては、給電ユニットは決して同時に、全ての部分ターゲットに対して、100%の電力を提供するには及ばない。このようにして、コスト効率の良い発電機を配備することができる。従来のスパッタリングが行われる場合には、このマスタースレーブ構成は解散し、各部分ターゲットに対して、それ自身の発電機が利用可能になる。その後、1つの部分ターゲットが、1つの発電機により、独立したスパッタ源として作動されうる。マスタースレーブ構成の解散後、部分ターゲットの数までの発電機が利用可能でない場合、いくつかの部分ターゲットが継続的にスイッチを切られたままになりえ、あるいは、スイッチ切断が交互に行われる。このようにして、HIPIMSモードから従来のスパッタリングモードへ容易に切り替えることが容易に可能になる。
【0013】
好ましくは、部分ターゲットの後方にそれぞれ可動の磁石システムがあり、これらが、各レーストラックが各部分ターゲット上で漂うように設けられている。設備がHIPIMSモードで作動される場合、本発明によれば、部分ターゲットの後方で好ましくは回転する磁石システムが、ある周波数(この周波数は、好ましくはスパッタ源の繰り返し電力パルスの周波数と有理比率を形成しない)で動く。これにより、確実に、均等の材料がターゲット表面から削り取られる。
【0014】
以下に、本発明を詳細に、図面に基づいて例示的により正確に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、従来技術による従来のスパッタ中で投入されるターゲットの表面を、移動するレーストラックと共に示した図である。
図2図2は、電気的に絶縁された複数の部分ターゲットを備えた本発明の第1実施形態を示す図であり、これらの部分ターゲットはそれぞれ1つの移動磁石システムを有し、給電ユニットはマスタースレーブ構成で接続された複数の発電機からなる。
図3図3は、電気的に絶縁された複数の部分ターゲットを備えた本発明の第1実施形態を示す図であり、これらの部分ターゲットはそれぞれ1つの移動磁石システムを有し、給電ユニットはマスタースレーブ構成で接続されていない複数の発電機からなり、その結果、各部分ターゲットには、1つの発電機が割り当てられていて、これにより、独立したスパッタ源として作動可能である。
図4図4は、電力パルスが50ミリ秒間作用した後の、様々なターゲット材料の冷却挙動をシミュレーションした図である。
図5図5は、アーク放電における分光測定を、本発明のプラズマ放電における分光測定と比較して示した図である。
図6図6は、従来のDCスパッタプラズマの放電における分光測定を、本発明のプラズマ放電における分光測定と比較して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の第1実施形態では、図2中に概略図示するように、スパッタ装置をHIPIMSモードで作動させるために、給電ユニット3が、スイッチS1を介して、電圧と電力とを、真空チャンバ4中に配置されたスパッタ源q1に供給する。給電ユニット3は、複数の発電機g1〜g6から構築されていて、これらは、マスタースレーブ構成で接続されている。これは、DC発電機として、パルスDC発電機として設計されていることができる。スパッタ源q1は、マグネトロンスパッタ源として、部分ターゲットを備えて形成されていて、この実施形態の好適な1変形例によれば、スパッタ源q1の部分ターゲットの後方に、可動で好ましくは回転する磁石システムms1が設けられている。適用時には、可動で好ましくは回転する磁石システムms1により、レーストラックが、スパッタ源q1のターゲットのほぼ全面上で動かされる。
【0017】
真空チャンバ4中には、希ガスおよび/または反応ガス(例えば、N、O、C、C)が導かれ、これにより、とりわけ、スパッタ放電用のプラズマを維持することができる。給電ユニット3は、中断されない場合には、q1においてスパッタ源q1の温度限界を上回って存在するスパッタ電力を供給する。しかしこのスパッタ電力は、マグネトロン放電を発生させるのに適していて、この電流密度はマグネトロンのレーストラック面に対して0.2A/cmを上回る。
【0018】
スイッチS2〜S6を介して、電圧と電流とが、真空チャンバ4中に配置されたスパッタ源q2〜q6にかけられる。これらのスパッタ源は、スパッタ源q1と実質的に同じ構造を有している。
【0019】
全体として個々のスパッタ源に向けられる平均的な電力は、温度限界により与えられる値を上回ることはできない。これを達成するために、順次、所定の時間後に、スパッタ源のスイッチを切り、次のスパッタ源のスイッチを入れ、これがパルス列を導く。全てのスパッタ源が作動すると、再び第1スパッタ源のスイッチが入れられ、周期が新たに始まり、こうして周期的な作動が行われる。ターゲットにおいて最大平均電力を維持することができる所望のパルス列が可能である。
【0020】
スパッタ源の後方で動く、好ましくは回転する磁石システムは、ある周波数(この周波数は、好ましくはスパッタ源にかけられる繰り返し電力パルスの周波数と有理比率を形成しない)で動く。これにより、ターゲット表面から、確実に均等の材料が削り取られる。
【0021】
従来のスパッタリングに切り替える場合には、マスタースレーブ構成は放棄される。この場合、各スパッタ源に少なくとも1つの発電機が割り当てられる。対応する構成を図3に示す。発電機の数がスパッタ源の数より多い場合には、余分な数の発電機は、スレーブとして、すでにスパッタ源に割り当てられている発電機に付属することができる。
【0022】
発電機の数がスパッタ源の数より少ない場合には、余分な数のスパッタ源は、利用されないか、あるいは、様々なスパッタ源に順次、周期的に電力休止期間を課されることができ、その結果、電力休止期間の間、ある発電機を休止させる。
【0023】
具体的な実施例では、例えば、2DC発電機(それぞれ20KWのAE ピナクル(Pinacle))が、マスタースレーブ構成で相互接続された。最大スパッタ電力としては、したがって、40kWが利用可能であった。図1に示したようなタイプの、ターゲット径150mmの円形マグネトロンを用いた。時間設定可能な40kWのスパッタ電力のパルスを、ターゲットに接続した。この大きさのターゲットは、平均約5kWがこのターゲットにかけられた際に、温度限界に達する。ターゲット材料に依存する表面温度の時間経過の算出を図4中に示す。上述のマグネトロンを用いる際に、40kWのパルス電力に対して、レーストラック表面に対して600W/cmの電力密度が予想されうる。放電電圧が600Vである場合には、これにより、1.67A/cmの電流密度が達成される。図4の有限要素シミュレーションが示すように、スパッタ電力密度が1000W/cmで、パルス幅が50ミリ秒では、銅またはアルミニウムについては、約50℃〜100℃の温度上昇のみを予想することができ、チタンについては約350℃の温度上昇を予想することができる。しばしば言及した表面の溶融および気化は、シミュレーションにより結論付けられるように、除外することができる。
【0024】
50ミリ秒のパルス幅後に、等しい構造を有するさらなる円形マグネトロンに全電力が給電される。本実施例による構造中では、真空チャンバ6は、等しい構造の円形マグネトロンを複数個含み、これらが、それぞれ順次接続される。300ミリ秒の時間間隔の後で、第1円形マグネトロンが再び接続される。複数の円形マグネトロンは、真空チャンバ中で、円形状で、コーティングされるべき基板が載置されている回転台の周りに配置されていることができる。個々の円形マグネトロンのスイッチを入れるのは、回転台の回転方向とは逆の順序で行うことが可能で、これにより、回転台のより速い回転がシミュレーションされる。
【0025】
ターゲット表面の後方にある磁石システムは、180回/分の頻度で回転する。これは、300ミリ秒毎に生じるパルス繰り返しの場合には、双方の周波数が有理比率を形成しないことを意味する。
【0026】
本発明の構成によれば、短時間(例えば、500マイクロ秒)で、放電電流が非常に上昇し、これが、全パルス幅の間、安定レベルに保たれる。HIPIMS方法において高周波数のパルスが原因で典型的に生じるような不都合な一時的な事象は、本発明による方法においては回避される。これは、本発明の方法では、パルス幅は数ミリ秒であり、一時的な事象は無視されうるからである。
【0027】
本発明の方法の第2の実施例では、上述のシステムに、40kWのパルス電力および10ミリ秒のパルス幅が、10Hzの繰り返し周波数でかけられた。これより、円形マグネトロン毎に4kWの平均電力が生じた。この場合、10個までの円形マグネトロンを、真空チャンバ中に組み入れることができ、これらは全て、上述のマスタースレーブ構成により給電されうる。放電プラズマを分光評価し、アーク蒸発のプラズマと比較した。本実施例では、ターゲットはチタンターゲットであった。図5は、双方のスペクトルを比較して示したものであり、これらの双方のスペクトルは、それぞれ365.35nmのTi(0)の線の強度に正規化されている。双方の放電は、336.12nmおよび368.52nmのTi+について、および、この図中では分解されていない2重線375.93nmと376.132nmのTi+について、強い光放射を示す。これにより、本発明によるスパッタリング方法では、ターゲットから削り取られる材料が、アーク蒸発に匹敵可能なほどに高い程度にイオン化されるという結論が導かれうる。
【0028】
第3実施例によれば、ターゲット材料として、チタン−アルミニウムを用いたが、割合はTiが50at%で、Alが50at%であった。本発明の方法を従来のスパッタリング技術と比較するために、従来のスパッタリングコーティングのプラズマと、本発明の方法のプラズマとを、分光記録し、互いに比較した。従来のスパッタリングコーティングについては、図3に示したような構成を用いた。実験には、2DC発電機のみが利用可能であったので、1つのスパッタ源がそれぞれ1つの発電機により給電され、すなわち、同時に2つのスパッタ源が給電され、所定の時間間隔後に、順次電力がこれ以外の2つのスパッタ源に向けられた。しかるべき比較を図6に示す。双方の場合共に、平均スパッタ電力は4kWであった。スペクトルは、394.4nmおよび396.15nmのAl(0)の線に正規化された。従来のDC放電の場合には、Al+のイオンでは、390.07nmで、Ti+では2重線である375.93nmおよび376.132nmならびに368.52nmおよび336.12nmがほぼ欠如している点が顕著である。本発明の方法では、ターゲットから削り取られる材料のイオン化の程度が高いという結論も可能である。
【0029】
本発明のさらなる実施形態によれば、この方法は、デュアルマグネトロン方法として設計される。この場合、スパッタ電力が、数マイクロ秒の1パルスの間停止して、典型的には20〜60kHzの交互周波数で少なくとも2つのスパッタリングマグネトロン間で交代し、ターゲット表面は交互にカソードまたはアノードになる。ターゲットの熱負荷を上回らないために、マグネトロン対にかけられる電力は、それぞれ、時間的に限定されているが、これは、パルス後にさらなるマグネトロン対に切り替えられることにより行われる。
【0030】
全ての実施例について、円形カソードに基づいて説明を行った。しかし、当業者には、同じ発明の概念が容易に矩形カソードに転用されうることもただちに明らかである。本発明の特別な利点は、例えば40kWの全電力をコーティングチャンバに入れることができる単純なDC発電機を用いることができ、これに基づいて、発電機と個々のスパッタ源との本発明による接続を行うことで、同時に、スパッタ方法の枠内では通常非常に複雑なパルス発電機のみで達成可能であるようなイオン化の程度を達成することができるという点である。本発明の好適な実施形態では、スパッタリングターゲットの後方でそれぞれ、動く磁場システムが設けられていて、これが、レーストラックのターゲット上の移動をもたらすように設けられている。
【0031】
本発明の方法および本発明の機器により、高イオン濃度を導く本発明のスパッタを、低イオン濃度を有する従来のスパッタに容易に切り替えることができる。
【0032】
本明細書の範囲では、少なくともいくつかの領域で局所的に0.2A/cmを上回る放電電流密度のプラズマ放電を発生させる方法が開示されていて、
・所定の最大電力を有する給電ユニットを提供する工程と、
・それぞれ所定のレーストラックと所定の温度限界とを有する少なくとも2つのマグネトロンスパッタ源を提供する工程であって、給電ユニットの最大電力がマグネトロンスパッタ源のそれぞれに作用する際には、放電電流密度が、0.2A/cmを上回るようにレーストラックが小さく設計される工程と、
・給電ユニットを用いて、少なくとも2つのマグネトロンスパッタ源のうちの第1スパッタ源中に、第1時間間隔の間、第1電力を給電する工程であって、第1電力が十分大きく選択されていて、その結果マグネトロンスパッタ源に、少なくとも1つの領域で、局所的に0.2A/cmを上回る放電電流密度が発生し、かつ、第1時間間隔が十分に短く選択されていて、その結果、第1マグネトロンスパッタ源の所定の温度限界を上回ることがない、工程と
・給電ユニットを用いて、マグネトロンスパッタ源のうちの第2スパッタ源中に、第2時間間隔の間、第2電力を給電する工程であって、第2電力が十分大きく選択されていて、その結果第2マグネトロンスパッタ源に、少なくとも1つの領域で、局所的に0.2A/cmを上回る放電電流密度が発生し、かつ、第2時間間隔が十分に短く選択されていて、その結果、第2マグネトロンスパッタ源の所定の温度限界を上回ることがない、工程と
を含む方法において、
給電ユニットは、互いにマスタースレーブ構成で接続されている少なくとも2つの発電機を含み、双方の時間間隔は完全には重複しない
ことを特徴とする方法である。
【0033】
それぞれ所定のレーストラックとそれぞれ所定の温度限界とを有する第3のおよび好ましくはさらなるマグネトロンスパッタ源を提供することができ、この場合に、給電ユニットの最大電力がマグネトロンスパッタ源のうちのそれぞれに作用する際には、放電電流密度が0.2A/cmを上回り、かつ、スレーブ発電機とマスター発電機との数が、少なくとも前記マグネトロンスパッタ源の数以上である発電機の数になるように、多くのスレーブ発電機を給電ユニットが有するように、レーストラックが設計されている。
【0034】
上述の時間間隔は、周期的に繰り返す間隔を合わせた間隔でありえ、したがって、周期的なパルスを形成することができる。
【0035】
マグネトロンスパッタ源のターゲットのうちの少なくとも1つの後方には、可動で好ましくは回転する磁石システムが設けられていることができ、この磁石システムが、移動するレーストラックを発生させ、レーストラックの広がりは、ターゲット表面よりも明らかに小さいが、しかし、ターゲット表面の20%を上回る。
【0036】
2つ以上のマグネトロンスパッタ源と1つの給電ユニットとを備えたマグネトロンスパッタリング設備が開示され、給電ユニットが、少なくもマグネトロンスパッタ源の数に対応する数の発電機と、ある手段とを有し、この手段は、一方では、給電ユニット中に存在する発電機を、1つのマスターと少なくとも1つのスレーブとを有する発電機として構成することができ、このように構成された給電ユニットの電力を、順次グネトロンスパッタ源にかけることができる回路が設けられていて、この手段は、他方では、給電ユニットを、若干数の絶縁した発電機として構成することができ、この回路により、それぞれ少なくとも1つの発電機の電力を、各1つのマグネトロンスパッタ源にもたらすことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6