特許第6207500号(P6207500)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207500
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】眼鏡レンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/113 20150101AFI20170925BHJP
   G02B 1/14 20150101ALI20170925BHJP
   G02C 7/02 20060101ALI20170925BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   G02B1/113
   G02B1/14
   G02C7/02
   C23C14/08 F
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-507715(P2014-507715)
(86)(22)【出願日】2013年3月15日
(86)【国際出願番号】JP2013057505
(87)【国際公開番号】WO2013146382
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2016年3月14日
(31)【優先権主張番号】特願2012-79065(P2012-79065)
(32)【優先日】2012年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】小川 直美
(72)【発明者】
【氏名】田所 信幸
(72)【発明者】
【氏名】足立 誠
(72)【発明者】
【氏名】嘉村 斉
(72)【発明者】
【氏名】小峰 裕子
【審査官】 後藤 亮治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−127681(JP,A)
【文献】 特開2011−013654(JP,A)
【文献】 特開平06−082862(JP,A)
【文献】 特開2002−122820(JP,A)
【文献】 特表2007−525592(JP,A)
【文献】 特開2006−215081(JP,A)
【文献】 Wang, Na等,"Influence of Annealing on the Grain Growth and Thermal Diffusivity of Nanostructured YSZ Thermal Barrier Coating",J. Mater. Sci. Technol.,2006年,第22巻、第6号,第793−797頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/10 − 1/18
G02C 1/00 − 13/00
C23C 14/00 − 14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZrO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成される蒸着膜を有する眼鏡レンズの製造条件決定方法により製造条件を決定すること、および、
決定した製造条件によりZrO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着を行い蒸着膜を成膜すること、
を含み、
前記製造条件決定方法は、
ZrO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着を行い得られる蒸着膜について、所望の耐熱性を得ることができるグレインサイズの閾値を設定すること、
実製造において前記蒸着膜の蒸着に用いる候補蒸着条件を決定すること、
決定した候補蒸着条件下で蒸着を行いテスト蒸着膜を作製すること
製したテスト蒸着膜の平面電子顕微鏡画像を取得すること、
前記平面電子顕微鏡画像における観察により求められるグレインサイズが前記閾値以上のグレインサイズである候補蒸着条件を、実製造における前記蒸着膜の蒸着条件として決定するか、または
前記平面電子顕微鏡画像における観察により求められるグレインサイズが前記閾値以上のグレインサイズである候補蒸着条件に対して耐熱性に影響を及ぼさない条件変更もしくは耐熱性を高める条件変更を加えた蒸着条件を、実製造における前記蒸着膜の蒸着条件として決定すること、
を含む、眼鏡レンズの製造方法。
【請求項2】
前記平面電子顕微鏡画像は、平面TEM像である請求項1に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項3】
前記平面電子顕微鏡画像における観察により求められるグレインサイズはグレインサイズの平均値である請求項1または2に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項4】
前記蒸着膜を、多層反射防止膜を構成する層として形成する請求項1〜3のいずれか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項5】
複数の異なる蒸着条件下でZrO2を主成分とする蒸着源を用いて蒸着を行い形成された複数の蒸着膜について、平面電子顕微鏡画像における観察により求められるグレインサイズと耐熱性との対応関係をデータベース化し、該データベースに基づき前記閾値を設定することを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2012年3月30日出願の日本特願2012−079065号の優先権を主張し、その全記載は、ここに特に開示として援用される。
【技術分野】
【0002】
本発明の一態様は、眼鏡レンズの製造条件決定方法に関するものであり、詳しくは、ZrO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成される蒸着膜を有する眼鏡レンズであって、良好な耐熱性(クラック耐性)を示す眼鏡レンズの提供を可能とする眼鏡レンズの製造条件決定方法に関するものである。
更に本発明の一態様は、上記方法により決定された製造条件を採用することにより、良好な耐熱性(クラック耐性)を示す高品質な眼鏡レンズを製造することができる眼鏡レンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
一般に眼鏡レンズは、レンズ基材により所望の屈折率を実現しつつ、レンズ基材上に各種機能性膜を形成することで各種性能が付与される。そのような機能性膜としては、レンズ表面に反射防止性能を付与する反射防止膜が広く用いられており、中でもZrO2を蒸着源として形成される蒸着膜は、多層反射防止膜を構成する高屈折率層の中でも安価なため、コスト面で有利であるとされている(例えば特開2009−193022号公報、その全記載は、ここに特に開示として援用される、参照)。
【0004】
眼鏡レンズには、様々な環境下に置かれたとしても劣化することのない優れた耐久性を有することが求められる。例えば、眼鏡レンズは入浴中に装用されたり夏場に自動車内に放置されたり、更には屋外で長時間活動する使用者に装用されることがあるため、そのような高温下に置かれた場合にクラックを起こすことなく良好な品質を維持することが望まれるが、ZrO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成される蒸着膜(以下、「ZrO2蒸着膜」ともいう。)を有する眼鏡レンズでは、高温下で当該蒸着膜にクラックが生じることによる光学特性の低下や多層反射防止膜を構成する層間の密着性が低下する現象が発生することがある。
【0005】
眼鏡レンズの製造分野では、経時的な品質低下のない眼鏡レンズを安定供給するために、実製造における製造条件決定に先立ち、候補製造条件により作製した被検サンプルに対して加速耐久性試験を行い、良好な試験結果を示した被検サンプルの製造条件と同様の製造条件を、実製造において採用することが通常である。例えばオーブン加熱による加速耐久性試験にてクラック発生数の少ない被検サンプルを得た製造条件により実製造においてZrO2蒸着膜を成膜すれば、実使用時においても長期間にわたり上記蒸着膜の劣化を起こすことなく優れた耐久性を示す眼鏡レンズを得ることができる。
【0006】
上記加速耐久性試験は、長期にわたり優れた耐久性を示す眼鏡レンズを高い信頼性をもって提供するために必要不可欠なものとなってきているものの、現状では加速耐久性試験をパスする眼鏡レンズを製造するためには、製品眼鏡レンズを製造するための候補蒸着条件を決定し、決定した蒸着条件下でZrO2蒸着膜を成膜して眼鏡レンズを作製し、作製した眼鏡レンズに対して加速耐久性試験を行い、評価基準を満たさない場合には改めて候補蒸着条件の選択からの一連の工程を繰り返すという試行錯誤を経なければならなかった。
【発明の概要】
【0007】
本発明の一態様は、良好な耐熱性(クラック耐性)を示すZrO2蒸着膜を有する眼鏡レンズを製造可能な眼鏡レンズ製造条件を簡便に決定するための手段を提供する。
【0008】
本発明者らは鋭意検討を重ねる中で、平面電子顕微鏡画像にて確認されるグレインサイズが大きいZrO2蒸着膜ほど耐熱性が良好であり高温下でのクラック発生が少ないとの、従来知られていなかった新たな知見を見出し、かかる知見に基づき更なる検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の一態様は、ZrO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成される蒸着膜を有する眼鏡レンズの製造条件決定方法であって、
実製造において前記蒸着膜の蒸着に用いる候補蒸着条件を決定すること、
決定した候補蒸着条件下で蒸着を行いテスト蒸着膜を作製すること、
作製したテスト蒸着膜の平面電子顕微鏡画像を取得し、該平面電子顕微鏡画像において観察されるグレインサイズが大きいほど前記候補条件が良好な耐熱性を示す蒸着膜を成膜可能な蒸着条件であると判定する判定基準により、実製造における前記蒸着膜の蒸着条件を決定すること、
を含む、前記製造条件決定方法、
に関する。
【0010】
一態様では、前記平面電子顕微鏡画像は、平面TEM像である。
【0011】
一態様では、前記判定に用いるグレインサイズはグレインサイズの平均値である。
【0012】
本発明の更なる態様は、
上述の方法により製造条件を決定すること、
決定した製造条件によりZrO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着を行い蒸着膜を成膜すること、
を含む眼鏡レンズの製造方法、
に関する。
【0013】
一態様では、前記蒸着膜を、多層反射防止膜を構成する層として形成する。
【0014】
本発明の一態様によれば、ZrO2蒸着膜の高温下でのクラック発生が抑制された、優れた耐久性を有する眼鏡レンズを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一態様は、ZrO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成される蒸着膜を有する眼鏡レンズの製造条件決定方法に関する。本発明の一態様にかかる製造条件決定方法は、実製造において前記蒸着膜の蒸着に用いる候補蒸着条件を決定すること、決定した候補蒸着条件下で蒸着を行いテスト蒸着膜を作製すること、作製したテスト蒸着膜の平面電子顕微鏡画像を取得し、該平面電子顕微鏡画像において観察されるグレインサイズが大きいほど前記候補条件が良好な耐熱性を示す蒸着膜を成膜可能な蒸着条件であると判定する判定基準により、実製造における前記蒸着膜の蒸着条件を決定すること、を含むものである。かかる製造条件決定方法は、平面電子顕微鏡画像にて観察されるグレインサイズとZrO2蒸着膜との耐熱性が良好に相関するという、本発明者らによる新たな知見に基づき見出されたものである。これにより加速耐久性試験の実施を含む蒸着条件決定のための試行錯誤を経ることなく、良好な耐熱性(クラック耐性)を有するZrO2蒸着膜を含む眼鏡レンズを提供するための製造条件を決定することが可能となる。
以下、本発明の一態様にかかる製造条件決定方法について、更に詳細に説明する。なおTEMとは、透過型電子顕微鏡の略称である。
【0016】
製造条件の決定対象である眼鏡レンズは、ZrO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成される蒸着膜(ZrO2蒸着膜)を有する眼鏡レンズである。なお本発明において主成分とは、蒸着源または蒸着層において最も多くを占める成分であって、通常は全体の50質量%程度〜100質量%、更には90質量%程度〜100質量%を占める成分である。蒸着源においてZrO2が50質量%程度以上含まれれば、形成される蒸着層は高屈折率層として機能し得るものとなり、当該高屈折率層を、例えばSiO2を主成分として形成される低屈折率層と組み合わせることにより、多層反射防止膜を得ることができる。なお蒸着源には、不可避的に混入する微量の不純物が含まれる場合があり、また、主成分の果たす機能を損なわない範囲で他の成分、例えば他の無機物質や蒸着を補助する役割を果たす公知の添加成分が含まれていてもよい。蒸着は、真空蒸着法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法、イオンアシスト法、反応性スパッタリング法等により行うことができ、良好な密着性を得るためにはイオンアシスト法が好ましい。また、イオンアシスト法は、比較的低温での成膜が可能でありプラスチックレンズ基材への適用が好適な点でも好ましい蒸着法である。
【0017】
例えばイオンアシスト法については、蒸着時の真空度、加速電圧、加速電流、アシストガス(イオン化ガス)の流量および混合比、ならびに使用する蒸着源の組成等の蒸着条件により、形成される蒸着膜の物性を制御することができる。そして本発明では、実製造において採用するZrO2蒸着膜の蒸着条件を、多くの試行錯誤を経ることなく以下の工程により決定する。これにより、高温下でのZrO2蒸着膜のクラックの発生が抑制された優れた耐久性を有する眼鏡レンズを製造可能な製造条件(ZrO2蒸着膜の蒸着条件)を容易に見出すことができる。
【0018】
まず第一に、製品レンズを製造するためのZrO2蒸着膜の蒸着条件の候補を決定する。例えば実製造においてイオンアシスト法を用いる際には、上記各種の条件を決定し、その他の蒸着法による場合には、当該蒸着法についての各種条件を決定する。
【0019】
次いで、上記のように決定された蒸着条件下で蒸着を行いテスト蒸着膜(ZrO2蒸着膜)を作製する。テスト蒸着膜は、実製造と同様にレンズ基材またはレンズ基材上の機能性膜表面に形成してもよく、ガラス等のテスト基板上に形成してもよい。TEM観察の容易性の観点からは、ガラス平板上にテスト蒸着膜を作製することが好ましい。
【0020】
上記により作製されたテスト蒸着膜は、平面電子顕微鏡観察に付される。平面顕微鏡観察とは、透過型電子顕微鏡(TEM)、原子間力顕微鏡(AFM)等の電子顕微鏡により観察対象の蒸着膜を厚さ方向に垂直ないし略垂直な方向から観察する手法である。これに対し厚さ方向に平行な方向を観察する手法が断面電子顕微鏡観察であるが、本発明者らの検討によれば、耐熱性(クラック耐性)に違いのあるZrO2蒸着膜間で、断面電子顕微鏡画像には明確な違いは見られなかった。またTEM−EDSによる元素分析によっても耐熱性(クラック耐性)に違いのあるZrO2蒸着膜間で明確な違いは確認されなかった。このように、平面電子顕微鏡観察において特異的にZrO2蒸着膜の耐熱性(クラック耐性)と相関のある分析結果が得られることは、本発明者らにより見出された新たな知見である。なお本発明における平面電子顕微鏡画像の取得は、TEM、AFM等の電子顕微鏡を用いる公知の手法により実施することができる。
【0021】
テスト蒸着膜の平面電子顕微鏡画像は、明視野像として得ることもでき、暗視野像として得ることもできる。グレインの解析の容易性の観点からは、暗視野像として平面電子顕微鏡画像を得ることが好ましい。そして、得られた平面電子顕微鏡画像において濃淡の違いによって粒状ないしクラスター状に確認される1領域を1グレインと認識する。ここでグレインとは、一般的には、単結晶または多結晶の一次粒子、二次粒子等である。各グレインのサイズは、人の手により手動で測定してもよく、解析ソフトを用いて自動で求めてもよい。例えば粒状領域の長径または短径をグレインサイズとすることができる。または、円投影法により求められる円相当径をグレインサイズとすることもできる。製造条件決定の指標とするグレインサイズは、例えば平面電子顕微鏡画像の所定領域におけるグレインの最大サイズ、最小サイズ、または平均値であることができる。後述の実施例で示すように、こうして求められるグレインサイズはZrO2蒸着膜の耐熱性(クラック耐性)と相関し、グレインサイズが大きいものほど高温下でのクラック発生が少ないことが本発明者らによって確認された。したがって本発明では、平面電子顕微鏡画像において観察されるグレインサイズが大きいほど前記候補条件が良好な耐熱性を示す蒸着膜を成膜可能な蒸着条件であると判定する判定基準により、実製造における前記蒸着膜の蒸着条件を決定する。例えば一態様では、2種以上の候補条件の中で、平面電子顕微鏡画像におけるグレインサイズが最も大きな条件を実製造におけるZrO2蒸着膜の蒸着条件として採用するという相対的判定により、実製造条件を決定することができる。または、他の態様では、予備実験を行いZrO2蒸着膜の蒸着条件と高温下クラック発生傾向との対応関係をデータベース化し、データベースに基づき耐熱性良好なZrO2蒸着膜を成膜可能なグレインサイズの閾値(限界値)を設定し、当該閾値以上のグレインサイズを実製造におけるZrO2蒸着膜の蒸着条件として決定することができる。更に他の態様としては、上記相対的判定結果または閾値に基づく判定結果により耐熱性良好なZrO2蒸着膜を形成可能と判定された候補蒸着条件に、耐熱性に影響を及ぼさないか、または耐熱性を高めるような条件変更(例えば真空度の変更)を加えた蒸着条件を、実製造におけるZrO2蒸着膜の蒸着条件として決定することができる。
こうして平面電子顕微鏡画像において観察されるグレインサイズに基づき実製造におけるZrO2蒸着膜の蒸着条件を決定することで、加速耐久性試験を伴う試行錯誤を経ることなく、優れた耐久性を示す眼鏡レンズを得ることができる。
【0022】
更に本発明の一態様によれば、本発明の一態様にかかる製造条件決定方法により製造条件を決定すること、決定した製造条件によりZrO2を主成分とする蒸着源を用いる蒸着を行い蒸着膜を成膜すること、を含む眼鏡レンズの製造方法も提供される。
先に説明したように、本発明の一態様にかかる製造条件決定方法によれば、良好な耐熱性(クラック耐性)を有するZrO2蒸着膜を成膜可能な蒸着条件を決定することができるため、かかる方法により決定された製造条件によってZrO2蒸着膜を成膜することにより、高温下でのZrO2蒸着膜のクラック発生が抑制された、優れた耐久性を有する眼鏡レンズを製造することができる。
【0023】
ZrO2蒸着膜は高屈折率層として機能し得るものであり、単層としてレンズ基材上に成膜してもよく、SiO2を主成分として形成される低屈折率層等の屈折率の異なる層と組み合わせて多層反射防止膜としてレンズ基材上に設けてもよい。当該多層反射防止膜は、導電性酸化物を主成分とする蒸着源を用いる蒸着により形成された一層または二層以上の蒸着膜(以下、「導電性酸化物層」ともいう。)を更に含むこともできる。当該導電性酸化物層を設けることで、レンズ表面への塵や埃の付着を防ぐことができる。上記導電性酸化物としては、眼鏡レンズの透明性を低下させることのないように透明導電性酸化物として知られる酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、およびこれらの複合酸化物を用いることが好ましく、透明性および導電性の観点から特に好ましい導電性酸化物としては、インジウム−スズ酸化物(ITO)を挙げることができる。
【0024】
上記ZrO2蒸着膜またはこれを含む多層反射防止膜は、レンズ基材上に直接形成することができ、またはレンズ基材上に設けられたハードコート層等の機能性膜を介して形成することもできる。本発明の眼鏡レンズの製造方法は、本発明の製造条件決定方法により製造条件(ZrO2蒸着膜の蒸着条件)を決定する点以外は、公知技術を何ら制限なく適用することができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。ただし本発明は、実施例に示す態様に限定されるものではない。なお以下においては、不可避的に混入する可能性のある不純物を除けば記載されている酸化物からなる蒸着源を使用した。以下に示す膜厚は、成膜条件から算出された光学膜厚である。
【0026】
1.候補蒸着条件の決定
蒸着源としてZrO2を用いて、ガラス平板上に下記表1に示す条件でイオンアシスト法により約70nmの膜厚のZrO2蒸着膜を成膜した。
【0027】
【表1】
【0028】
2.平面TEM像における平均グレインサイズの測定
上記1.において条件1による蒸着により作製されたZrO2蒸着膜、条件2による蒸着により作製されたZrO2蒸着膜のそれぞれについて、ZrO2蒸着膜が形成された面の裏面からガラス平板の一部をイオンミリングによるエッチングで削り、ZrO2蒸着膜を約20nm厚まで削ったところでエッチングを終了した。こうして作製した試料を透過型電子顕微鏡に導入し倍率100,000倍で平面TEM像(暗視野像)を取得した。各平面TEM像において、面積50μm×50μmの領域においてグレイン数の計測と各グレインの長径の測定を手動で行い、グレインサイズの平均値を得た。結果を下記表2に示す。
【0029】
【表2】
【0030】
3.耐熱性評価
上記1.と同様の方法でプラスチックレンズ基材(HOYA(株)製商品名アイアス、屈折率1.6、無色レンズ)に成膜したZrO2蒸着膜を、表3に示す炉内温度の加熱炉に2時間配置した後、蛍光灯下でZrO2蒸着膜における長さ数cm以上のクラックの有無を評価した。クラックが確認されたものを×、クラックが確認されなかったものを○として、結果を表3に示す。
【0031】
【表3】
【0032】
以上の結果から、平面TEM像で観察されるグレインのサイズが大きいほど、耐熱性が良好なZrO2蒸着膜であることが確認できる。
【0033】
4.眼鏡レンズの作製
両面が光学的に仕上げられ予めハードコートが施された、物体側表面が凸面、眼球側表面が凹面であるプラスチックレンズ基材(HOYA(株)製商品名アイアス、屈折率1.6、無色レンズ)の凸面側のハードコート表面に、アシストガスとして酸素ガス、または酸素とアルゴンの混合ガスを用いるイオンアシスト法により、下記表4に示す合計8層の蒸着膜を順次形成した。8層目の蒸着膜を形成した後、当該層の上に9層目の膜として撥水層を、フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物である信越化学工業(株)製KY130を蒸着源として、ハロゲン加熱により蒸着を行い形成した。眼鏡レンズは2タイプ(眼鏡レンズ1、2)作製し、眼鏡レンズ1作製時にZrO2蒸着膜の蒸着条件として前記条件1を、眼鏡レンズ2作製時にはZrO2蒸着膜の蒸着条件として前記条件2を採用し、その他の製造条件は同一とした。
【0034】
【表4】
【0035】
5.眼鏡レンズサンプルの耐熱性試験
上記4.で作製した眼鏡レンズを100℃のオーブン内に1時間放置した後、蛍光灯にかざし、目視にてクラックの有無を評価したところ、条件1によりZrO2蒸着膜を作製した眼鏡レンズ1ではZrO2蒸着膜において長さ数cmに及ぶ多数のクラックが確認されたのに対し、条件2によりZrO2蒸着膜を作製した眼鏡レンズ2はクラックの発生がなく、高度な透明性を有するものであった。
【0036】
上記5.の結果から、平面TEM像により観察されるグレインサイズによって耐熱性良好と判定された蒸着条件でZrO2蒸着膜を作製することにより、優れた耐久性を有する眼鏡レンズが得られることが確認できる。従来、このように耐熱性良好なZrO2蒸着膜を成膜可能な蒸着条件を見出すためには、上記5.にて実施したオーブン加熱のような加速耐久性試験の実施と候補条件の選定を繰り返さなければならなかったのに対し、本発明によればテスト蒸着膜の作製と平面TEM像の取得・グレインサイズの測定という簡易な方法により、優れた耐久性を有する眼鏡レンズを製造可能な製造条件を決定することができる。
なお本実施例では、電子顕微鏡としてTEMを用いたが、グレインサイズを形態的に判別可能なAFMの使用も好適である。
【0037】
本発明は、眼鏡レンズの製造分野において有用である。