(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207507
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質、それを含む脂質粒子、及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20170925BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20170925BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20170925BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20170925BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20170925BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20170925BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20170925BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20170925BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20170925BHJP
A61P 39/02 20060101ALI20170925BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20170925BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
C07K19/00ZNA
C07K14/47
C12N15/00 A
A61K38/17
A61K9/127
A61K47/24
A61P9/00
A61P9/10 101
A61P3/06
A61P9/10
A61P39/02
A61P31/04
A61P25/28
【請求項の数】15
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2014-526485(P2014-526485)
(86)(22)【出願日】2012年8月22日
(65)【公表番号】特表2014-529602(P2014-529602A)
(43)【公表日】2014年11月13日
(86)【国際出願番号】EP2012066301
(87)【国際公開番号】WO2013026860
(87)【国際公開日】20130228
【審査請求日】2015年5月13日
(31)【優先権主張番号】11178746.1
(32)【優先日】2011年8月25日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】バダー,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ファルケンシュタイン,ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】シャンツ,クリスティアン
【審査官】
野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】
特表2011−523857(JP,A)
【文献】
特開2009−118849(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/048961(WO,A1)
【文献】
特表2004−522424(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/042243(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/043835(WO,A1)
【文献】
国際公開第2004/005335(WO,A1)
【文献】
特表2006−507223(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/097587(WO,A1)
【文献】
MARCHESI, M. et al.,"Apolipoprotein A-IMilano/POPC complex attenuates post-ischemic ventricular dysfunction in the isolated rabbit heart.",ATHEROSCLEROSIS,2008年 4月,Vol.197, No.2,P.572-578
【文献】
SIRTORI, C.R. et al.,"High Density Lipoprotein Administration: A New Therapeutic Modality for the Treatment of Cardiovascular Diseases.",CURR. MED. CHEM. - IMMUN., ENDOC. & METAB. AGENTS,2005年 8月 1日,Vol.5, No.4,P.321-333
【文献】
Biophysical Journal,2003年,vol.84,pp.998-1009
【文献】
GRAVERSEN, J.H. et al.,"Trimerization of apolipoprotein A-I retards plasma clearance and preserves antiatherosclerotic properties.",J. CARDIOVASC. PHARMACOL.,2008年 2月,Vol.51, No.2,P.170-177
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号01のアミノ酸配列を有するか、又は配列番号01のアミノ酸配列からなりかつアポリポプロテインA−1の1〜10の保存的アミノ酸置換を含むその変異体であり、最初の4つのアミノ酸残基がPIVNであることを特徴とし、1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルコリン及び1,2−ジパルミトイル−ホスファチジルコリンと脂質粒子を生成する、融合タンパク質。
【請求項2】
請求項1記載の融合タンパク質を含む、脂質粒子。
【請求項3】
− 請求項1記載の融合タンパク質と、
− ホスファチジルコリンと、
− 脂質と
を含む、請求項2記載の脂質粒子。
【請求項4】
− 請求項1記載の融合タンパク質と、
− 第1のホスファチジルコリンと、
− 第2のホスファチジルコリンと
を含むことを特徴とする、請求項2〜3のいずれか一項記載の脂質粒子。
【請求項5】
1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルコリン及び1,2−ジパルミトイル−ホスファチジルコリンを含むことを特徴とする、請求項2〜4のいずれか一項記載の脂質粒子。
【請求項6】
1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルコリンの1,2−ジパルミトイル−ホスファジルコリンに対するモル比が、99:1〜25:75であることを特徴とする、請求項5記載の脂質粒子。
【請求項7】
融合タンパク質が3個の単量体を含む多量体であることを特徴とする、請求項2〜6のいずれか一項記載の脂質粒子。
【請求項8】
キュビリン、スカベンジャー受容体クラスB−1型(SR−BI)、ATP−結合カセット1(ABCA−1)、レシチン−コレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)、コレステリル−エステル転移タンパク質(CETP)、又はリン脂質転移タンパク質(PLTP)からなる群より選択される受容体に結合することを特徴とする、請求項2〜7のいずれか一項記載の脂質粒子。
【請求項9】
脂質粒子中のアポリポプロテイン単量体1個当たりのリン脂質分子の数が、40〜120であることを特徴とする、請求項2〜8のいずれか一項記載の脂質粒子。
【請求項10】
脂質粒子中のアポリポプロテイン単量体1個当たりのリン脂質分子の数が、50〜90であることを特徴とする、請求項9記載の脂質粒子。
【請求項11】
請求項1記載の融合タンパク質又は請求項2〜10のいずれか一項記載の脂質粒子を含む、医薬組成物。
【請求項12】
− 急性冠動脈症候群を有する患者における二次予防のため、あるいは
− アテローム性動脈硬化症の予防又は治療のため、あるいは
− コレステロール逆転送及び/又はプラーク軽減を誘導するため、あるいは
− 対象の血管中の動脈硬化性プラークの清浄/溶解/安定化のため、又は対象の動脈壁から肝臓にコレステロールを再分配するため、あるいは
− 対象における狭窄性弁膜症を予防する又は治療するため、あるいは
− 対象におけるHDL粒子の数を増加させるため、あるいは
− 対象におけるコレステロール逆転送の開始のため、あるいは
− 内毒素の除去のため、あるいは
− 敗血症性ショックの予防のため
− 狭心症の治療のため、あるいは
− 心筋梗塞の治療のため、あるいは
− 不安定狭心症の治療のため、あるいは
− 末梢動脈疾患(PAD)、頸動脈狭窄症、脳動脈狭窄症又は冠状動脈狭窄症のような動脈狭窄症の治療のため、あるいは
− 血管性認知症の治療のため、あるいは
− 一過性黒内障の治療のため
の医薬としての使用のための、請求項11記載の医薬組成物。
【請求項13】
医薬の製造のための、請求項2〜10のいずれか一項記載の脂質粒子の使用。
【請求項14】
− 急性冠動脈症候群を有する患者における二次予防のため、あるいは
− アテローム性動脈硬化症の予防又は治療のため、あるいは
− コレステロール逆転送及び/又はプラーク軽減を誘導するため、あるいは
− 対象の血管中の動脈硬化性プラークの清浄/溶解/安定化のため、又は対象の動脈壁から肝臓にコレステロールを再分配するため、あるいは
− 対象における狭窄性弁膜症を予防する又は治療するため、あるいは
− 対象におけるHDL粒子の数を増加させるため、あるいは
− 対象におけるコレステロール逆転送の開始のため、あるいは
− 内毒素の除去のため、あるいは
− 敗血症性ショックの予防のため
− 狭心症の治療のため、あるいは
− 心筋梗塞の治療のため、あるいは
− 不安定狭心症の治療のため、あるいは
− 末梢動脈疾患(PAD)、頸動脈狭窄症、脳動脈狭窄症又は冠状動脈狭窄症のような動脈狭窄症の治療のため、あるいは
− 血管性認知症の治療のため、あるいは
− 一過性黒内障の治療のため
の医薬の製造のための、請求項2〜10のいずれか一項記載の脂質粒子の使用。
【請求項15】
− コレステロール逆輸送を誘導すること、あるいは
− プラーク軽減を誘導すること、あるいは
− 動脈硬化性プラークを清浄すること、又は溶解すること、又は安定化させること、あるいは
− 動脈壁から肝臓へコレステロールを再分配すること、あるいは
− HDL粒子の数を増加させること、あるいは
− 内毒素の除去
のための、請求項2〜10のいずれか一項記載の脂質粒子を含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポプロテイン及び脂質粒子の分野にある。本明細書において、短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質、この短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質及び2つの異なるホスファチジルコリンを含む脂質粒子、ならびに当該融合タンパク質及び脂質粒子の使用が報告されている。
【0002】
発明の背景
血漿リポプロテインは、血液中の脂質輸送及び代謝を行う可溶性タンパク質−脂質複合体である。リポプロテインのいくつかの主要なクラスが、それらの密度、サイズ、化学組成、及び機能に基づいて識別される。それらの間で、高密度リポプロテイン(HDL)粒子(代替的に高密度脂質粒子として表示される)は、180kDa〜360kDaのそれらの平均分子量において変動するいくつかのサブクラスで構成される。それらの平均的な脂質及びタンパク質含量は、各々50重量%である。ホスファチジルコリン(PC)は総脂質の38%を占め、次いでコレステリルエステルならびに少量の他の極性及び非極性脂質(遊離コレステロールを含む)が続く。主なタンパク質成分はアポリポプロテインA−I(Apo A−I)であり、ヒトHDL中の総タンパク重量の約60%に相当する。
【0003】
HDL粒子及びその主なポリペプチドであるアポリポプロテインA−Iは、コレステロール逆輸送(RCT)に関与する。コレステロール逆輸送において、アポリポプロテインA−Iは、細胞、例えば血管壁の細胞からのコレステロールの排出、脂質の結合、及びレシチン−コレステロール−アセチル−トランスフェラーゼの活性化を増加させて、それにより肝臓による血漿の流れを介したコレステロールの排出をする。これは、細胞膜タンパク質であるATP−結合カセット輸送体−A−I(ABCA−I)の関与する能動輸送プロセスである。
【0004】
アポリポプロテインA−I及びアポリポプロテインに基づく治療法、例えば再構成されたHDL粒子は、1970年代後半及び1980年代前半には既に同定されていた。アポリポプロテインA−I−Milano含有脂質粒子については、臨床的証拠(動脈硬化の患者におけるプラークの著しい減少を意味する)を示すことができた。野生型アポリポプロテインA−Iの二量体型であるアポリポプロテインA−I−Milanoは、アポリポプロテインA−I分子の天然に存在する突然変異体に従って設計された。二量体形成は、ジスルフィド結合の形成を可能にするシステインによるアミノ酸残基173(アルギニン)の交換により可能になる。
【0005】
WO2009/131704では、無機物質を含むコアを含む、コレステロール及び他の分子を隔離するのに適切なナノ構造が報告されている。WO2006/125304では、冠動脈疾患を治療する又は予防するための医薬組成物が報告されている。脂質代謝及び心血管疾患に関連するアポリポプロテインをコードする組成物が、US2002/0142953に報告されている。WO2005/084642では、アポタンパク質−コキレート(cochelate)組成物が報告されている。WO2009/036460では、改変型のヒトアポリポプロテインA−Iポリペプチド及びその使用が報告されている。二量体型及び/又はオリゴマー型のヒトアポリポプロテインA−Iタンパク質変異タンパク質の植物生産が、WO2008/017906に報告されている。WO2007/137400では、弁狭窄の処置のための方法及び化合物が報告されている。WO2006/100567では、帯電したリポプロテイン複合体及びその使用が報告されている。
【0006】
US2002/0156007では、アポリポプロテイン類似体が報告されている。テトラネクチン三量体化ポリペプチドが、US2010/0028995に報告されている。J. Cardiovascular Pharmacol. (51 (2008) 170-177)では、Graversen, J.H., et al.によって、アポリポプロテインA−Iの三量体化が、血漿クリアランスを遅らせ、そして抗アテローム動脈硬化特性を保つことが報告されている。心血管疾患の処置のための新規治療手段である高密度リポプロテイン投与は、Sirtori, C.R., et al. (Curr. Med. Chem. Immunol. Endocrine Metabol. Agents 5 (2005) 321-333)によって報告されている。
【0007】
WO03/097696では、虚血再灌流の処置のための方法及び組成物が報告されている。ナノスケール結合型二重層、使用及び製造の方法が、WO2009/097587に報告されている。WO2007/098122では、黄斑変性症及び関連する眼病状の処置のための方法が報告されている。アポリポプロテイン類似体は、WO02/38609に報告されている。WO2005/041866では、医薬製剤が報告されている。冠不全症候群の治療及び予防のための方法及び投与計画が報告されている。脂質異常症性障害を処置するための遺伝子治療、アポリポプロテインA−Iアゴニストを供給するアプローチ、及びその使用が、WO99/16409に報告されている。WO2008/106660では、単離されたリン脂質−タンパク質粒子が報告されている。アポリポプロテイン(APO A−I)模倣ペプチド/リン脂質複合体を使用する拡張機能障害の予防及び治療のための方法が、WO2010/083611に報告されている。WO2008/156873では、APO A−Iペプチド模倣体が報告されている。封入HDL模倣ペプチドが、WO2008/094905に報告されている。WO98/56906では、三量体化モジュールが報告されている。
【0008】
発明の概要
本明細書では、改善された生産特性を有し、特に副生成物形成の出現がより少ない、短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質が報告される。
【0009】
最初にコードされるアミノ酸残基として、アミノ酸残基プロリン(P)で始まる短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質の画分は、粗大腸菌(E.coli)培養上清中で90%以上であることが見出され、その際N末端メチオニン残基が効率的に除去される。
【0010】
本明細書において報告される一つの態様は、配列番号01のアミノ酸配列又はその変異体(これは、少なくとも70%の配列同一性を有する)を含む、短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質であり、N末端アミノ酸配列として、
ここで、配列番号01は、アミノ酸配列:
【化1】
を有し、
そして変異体は、N末端アミノ酸残基PIVNを有する。
【0011】
本明細書において報告される一つの態様は、本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質を含む脂質粒子である。
【0012】
一つの実施態様において、脂質粒子は、本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質と、リン脂質、リゾリン脂質、ガラクトセレブロシド、ガングリオシド、セレブロシド、グリセリド、脂肪酸、トリグリセリド、ステロイド脂質、コレステロール、コレステロールエステル、又はそれらの類似体もしくは誘導体より選択される1つ以上の脂質とを含む。
【0013】
一つの実施態様において、脂質粒子は、
a)本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質と、
b)ホスファチジルコリンと、
c)さらなる脂質と
を含む。
【0014】
一つの実施態様において、さらなる脂質は、第2のホスファチジルコリンである。
【0015】
一つの実施態様において、脂質粒子は、本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質、2つの異なるホスファチジルコリン、及び界面活性剤から構成されている。
【0016】
一つの実施態様において、ホスファチジルコリン及び第2のホスファチジルコリンは、ホスファチジルコリンのホスホグリセロール骨格にエステル化される1つもしくは2つのカルボン酸部分又はカルボン酸部分誘導体において異なる。
【0017】
一つの実施態様において、ホスファチジルコリンは、POPCであり、そして第2のホスファチジルコリンは、DPPCである。
【0018】
一つの実施態様において、脂質粒子中のPOPCのDPPCに対するモル比は、99:1〜1:99である。一つの実施態様において、脂質粒子中のPOPCのDPPCに対するモル比は、99:1〜10:90である。一つの実施態様において、脂質粒子中のPOPCのDPPCに対するモル比は、99:1〜25:75である。
【0019】
一つの実施態様において、本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質は、POPC及びDPPCと非共有結合的に関連する。
【0020】
一つの実施態様において、本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質は、3個の単量体を含む多量体である。
【0021】
一つの実施態様において、脂質粒子は、0.75重量%未満の界面活性剤を含む。一つの実施態様において、界面活性剤は、糖系界面活性剤、又はポリオキシアルキレン系界面活性剤、又は胆汁酸塩系界面活性剤、又は合成界面活性剤又はそれらの組合せである。一つの実施態様において、界面活性剤は、コール酸である。
【0022】
一つの実施態様において、脂質粒子は、キュビリン、スカベンジャー受容体クラスB−1型(SR−BI)、ATP−結合カセット1(ABCA−1)、レシチン−コレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)、コレステリル−エステル転移タンパク質(CETP)、又はリン脂質転移タンパク質(PLTP)からなる群より選択される受容体に結合することができる。
【0023】
一つの実施態様において、本発明による脂質粒子は、脂質粒子中のアポリポプロテイン単量体1個当たりのリン脂質分子の数は、40〜120であることを特徴とする。一つの実施態様において、脂質粒子中のアポリポプロテイン単量体1個当たりのリン脂質分子の数は、50〜90である。
【0024】
一つの実施態様において、短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質は、組換えで生成される。
【0025】
本明細書において報告される一つの態様は、本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質又は本明細書において報告される脂質粒子を含む、医薬組成物である。
【0026】
本明細書において報告される一つの態様は、医薬としての使用のための、本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質又は本明細書において報告される脂質粒子である。
【0027】
本明細書において報告される一つの態様は、医薬の製造のための、本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質又は本明細書において報告される脂質粒子の使用である。
【0028】
本明細書において報告される一つの態様は、下記のための医薬の製造のための、本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質又は本明細書において報告される脂質粒子の使用である:
− 急性冠動脈症候群を有する患者における二次予防のため、あるいは
− アテローム性動脈硬化症の予防又は治療のためであって、本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質又は本明細書において報告される脂質粒子が、対象においてコレステロール逆転送及び/又はプラーク軽減を誘導するのに十分な量で構成されている、アテローム性動脈硬化症の予防又は治療のため、あるいは
− コレステロール逆転送及び/又はプラーク軽減を誘導するため、あるいは
− 対象の血管中の動脈硬化性プラークの清浄/溶解/安定化のため、又は対象の動脈壁から肝臓にコレステロールを再分配するため、あるいは
− 対象における狭窄性弁膜症を予防する又は治療するため、あるいは
− 対象におけるHDL粒子の数を増加させるため、あるいは
− 対象におけるコレステロール逆転送の開始のため、あるいは
− 内毒素の除去のため、あるいは
− 敗血症性ショックの予防のため
− 狭心症の治療のため、あるいは
− 心筋梗塞の治療のため、あるいは
− 不安定狭心症の治療のため、あるいは
− 末梢動脈疾患(PAD)、頸動脈狭窄症、脳動脈狭窄症又は冠状動脈狭窄症のような動脈狭窄症の治療のため、あるいは
− 血管性認知症の治療のため、あるいは
− 一過性黒内障の治療のため。
【0029】
本明細書において報告される一つの態様は、医薬の製造における、本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質又は本明細書において報告される脂質粒子の使用である。
【0030】
本明細書において報告される一つの態様は、下記のための医薬の製造のための方法である:
− 急性冠動脈症候群を有する患者における二次予防のため、あるいは
− アテローム性動脈硬化症の予防又は治療のためであって、本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質又は本明細書において報告される脂質粒子が、対象においてコレステロール逆転送及び/又はプラーク軽減を誘導するのに十分な量で構成されている、アテローム性動脈硬化症の予防又は治療のため、あるいは
− コレステロール逆転送及び/又はプラーク軽減を誘導するため、あるいは
− 対象の血管中の動脈硬化性プラークの清浄/溶解/安定化のため、又は対象の動脈壁から肝臓にコレステロールを再分配するため、あるいは
− 対象における狭窄性弁膜症を予防する又は治療するため、あるいは
− 対象におけるHDL粒子の数を増加させるため、あるいは
− 対象におけるコレステロール逆転送の開始のため、あるいは
− 内毒素の除去のため、あるいは
− 敗血症性ショックの予防のため
− 狭心症の治療のため、あるいは
− 心筋梗塞の治療のため、あるいは
− 不安定狭心症の治療のため、あるいは
− 末梢動脈疾患(PAD)、頸動脈狭窄症、脳動脈狭窄症又は冠状動脈狭窄症のような動脈狭窄症の治療のため、あるいは
− 血管性認知症の治療のため、あるいは
− 一過性黒内障の治療のため。
【0031】
本明細書において報告される一つの態様は、下記のための方法である:
− 急性冠動脈症候群を有する患者における二次予防、あるいは
− アテローム性動脈硬化症の予防又は治療であって、本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質又は本明細書において報告される脂質粒子が、対象においてコレステロール逆転送及び/又はプラーク軽減を誘導するのに十分な量で構成されている、アテローム性動脈硬化症の予防又は治療、あるいは
− コレステロール逆転送及び/又はプラーク軽減を誘導するため、あるいは
− 対象の血管中の動脈硬化性プラークの清浄/溶解/安定化のため、又は対象の動脈壁から肝臓にコレステロールを再分配するため、あるいは
− 対象における狭窄性弁膜症を予防する又は治療するため、あるいは
− 対象におけるHDL粒子の数を増加させるため、あるいは
− 対象におけるコレステロール逆転送の開始のため、あるいは
− 内毒素の除去のため、あるいは
− 敗血症性ショックの予防のため
− 狭心症の治療のため、あるいは
− 心筋梗塞の治療のため、あるいは
− 不安定狭心症の治療のため、あるいは
− 末梢動脈疾患(PAD)、頸動脈狭窄症、脳動脈狭窄症又は冠状動脈狭窄症のような動脈狭窄症の治療のため、あるいは
− 血管性認知症の治療のため、あるいは
− 一過性黒内障の治療のため。
【0032】
本明細書において報告される一つの態様は、下記の処置において使用するための、本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン-アポリポプロテインA−I融合タンパク質又は本明細書において報告される脂質粒子である:
− 急性冠動脈症候群、又は
− アテローム性動脈硬化症、又は
− 対象の血管中の動脈硬化性プラーク、又は
− 対象における狭窄性弁膜症、又は
− 敗血症性ショック、又は
− 狭心症、又は
− 心筋梗塞、又は
− 不安定狭心症、又は
− 動脈狭窄症、又は
− 末梢動脈疾患(PAD)、又は
− 頸動脈狭窄症、又は
− 脳動脈狭窄症、又は
− 冠状動脈狭窄症、又は
− 血管性認知症、又は
− 一過性黒内障。
【0033】
本明細書において報告される一つの態様は、下記において使用するための、本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン-アポリポプロテインA−I融合タンパク質又は本明細書において報告される脂質粒子である:
− コレステロール逆輸送を誘導すること、あるいは
− プラーク軽減を誘導すること、あるいは
− 動脈硬化性プラークを清浄すること又は溶解させること又は安定化させること、あるいは
− 動脈壁から肝臓へのコレステロールを再分配すること、あるいは
− HDL粒子の数を増加させること、あるいは
− 内毒素を除去すること。
【0034】
本明細書において報告される一つの態様は、急性冠動脈症候群、又はアテローム性動脈硬化症、又は血管中の動脈硬化性プラーク、又は狭窄性弁膜症、又は敗血症性ショック、又は狭心症、又は心筋梗塞、又は不安定狭心症、又は動脈狭窄症、又は末梢動脈疾患(PAD)、又は頸動脈狭窄症、又は脳動脈狭窄症、又は冠状動脈狭窄症、又は血管性認知症、又は一過性黒内障を有する個体を処置する方法であって、有効量の本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質又は本明細書において報告される脂質粒子を個体に投与することを含む、方法である。
【0035】
本明細書において報告される一つの態様は、個体において、コレステロール逆転送を誘導する又はプラーク軽減を誘導する、又は動脈硬化性プラークを清浄するもしくは溶解するもしくは安定化させる、又は動脈壁から肝臓にコレステロールを再分配する、又はHDL粒子の数を増加させる、又は内毒素を除去する方法であって、有効量の本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質又は本明細書において報告される脂質粒子を個体に投与することを含む、コレステロール逆転送を誘導する、又はプラーク軽減を誘導する、又は動脈硬化性プラークを清浄するもしくは溶解するもしくは安定化させる、又は動脈壁から肝臓にコレステロールを再分配する、又はHDL粒子の数を増加させる、又は内毒素を除去するための方法である。
【0036】
一つの実施態様において、非正常な脂質レベルは、体液におけるレベルである。一つの実施態様において、体液は、全血又は血清である。
【0037】
一つの実施態様において、非正常な脂質レベルは、上昇したコレステロールレベルである。
【0038】
一つの実施態様において、脂質含有沈着物は、血管におけるプラークである。
【0039】
一つの実施態様において、疾患は心血管疾患である。
【0040】
本明細書において報告される一つの態様は、非正常な脂質レベル又は身体の構成要素内における脂質含有沈着物を特徴とする疾患又は病状を処置する方法であって、
i)治療有効量の本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質又は本明細書において報告される脂質粒子を、処置又は人工系を必要とする対象に投与すること、及び
ii)場合により、対象の脂質レベル又は脂質含有沈着物の変化についてモニタすることを含む方法である。
【0041】
本明細書において報告される一つの態様は、急性冠動脈症候群の患者における二次予防のための方法であって、それを必要とする対象に、本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質又は本明細書において報告される脂質粒子を投与することを含む方法である。
【0042】
本明細書において報告される一つの態様は、本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質又は本明細書において報告される脂質粒子を含む診断用組成物であって、サンプル又は対象内における融合タンパク質又は脂質粒子の検出を可能にするために、アポリポプロテイン又は脂質粒子が標識されている診断用組成物である。
【0043】
本明細書において報告される一つの態様は、診断のための、本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質又は本明細書において報告される脂質粒子の使用である。
【0044】
本明細書において報告される一つの態様は、非正常な脂質レベル又は脂質含有沈着物の存在を特徴とする疾患又は病状を患う対象の予防又は治療のための、本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質又は本明細書において報告される脂質粒子の使用である。
【0045】
本明細書において報告される一つの態様は、本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質をコードする核酸である。
【0046】
本明細書において報告される一つの態様は、本明細書において報告される核酸を含む細胞である。
【0047】
一つの実施態様において、細胞は、CSPZ-2、K12株294(ATCC 31446)、B、X 1776(ATCC 31537)、W3110(ATCC 273325)、BL21、RM_82、SCS_110、G、XL-1_F-、SE_13009、LA_5709、C 600、CSH_1、TG_1、UT400、及びUT5600のような大腸菌株より選択される。
【0048】
本明細書において報告される一つの態様は、単量体が互いに共有結合的に結合していない、単量体である本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質を3つ含む多量体である。
【0049】
発明の詳細な記載
定義
用語「アポリポプロテイン」は、それぞれ脂質又はリポプロテインの粒子中に含まれるタンパク質を意味する。
【0050】
用語「アポリポプロテインA−I」は、タンパク質−脂質及びタンパク質−タンパク質の相互作用特性を有する両親媒性螺旋状ポリペプチドを意味する。アポリポプロテインA−Iは、肝臓及び小腸によって267個のアミノ酸残基のプレプロ−アポリポプロテインとして合成され、これはプロ−アポリポプロテインとして分泌され、これが切断されて243個のアミノ酸残基を有する成熟ポリペプチドとなる。アポリポプロテインA−Iは、リンカー部分(リンカー部分は、多くの場合プロリンであり、また場合によっては7個の残基で構成される伸長からなる)によって分離されている、各22個のアミノ酸残基からなる6〜8つの異なるアミノ酸反復からなる。例示的なヒトのアポリポプロテインA−Iのアミノ酸配列は、GenPeptデータベースエントリ NM-000039又はデータベースエントリ X00566;GenBank NP-000030.1(gi 4557321)に報告されている。ヒトのアポリポプロテインA−I(配列番号02)には、天然の変異体、例えば、P27H、P27R、P28R、R34L、G50R、L84R、D113E、A-A119D、D127N、K131の欠失、K131M、W132R、E133K、R151C(アミノ酸残基151がArgからCysに変化している、アポリポプロテインA−I-Paris)、E160K、E163G、P167R、L168R、E171V、P189R、R197C(アミノ酸残基173がArgからCysに変化している、アポリポプロテインA−I−Milano)及びE222Kが存在する。また、保存的アミノ酸改変を有する変異体も含まれる。
【0051】
一般に、用語「心血管疾患」は、動脈硬化症、冠状動脈性心疾患、脳血管疾患、大動脈腸骨動脈疾患、虚血性心疾患又は末梢血管疾患のような心臓または血管に関する疾患又は病状を意味する。かかる疾患は、心筋梗塞、脳卒中、狭心症、一過性脳虚血発作、うっ血性心不全、大動脈瘤、大部分は対象の死に至るような疾病の結果として、有害事象の前に発見されない場合がある。
【0052】
用語「コール酸」は、3α、7α、12α−トリヒドロキシ−5β−コラン−24−酸又はその塩、特にナトリウム塩を意味する。
【0053】
互換的に使用することができる、用語「臨界ミセル濃度」及びその省略形「CMC」は、それを超えると個々の界面活性剤分子(単量体)が、自発的にミセル(ミセル、球状、棒状、ラメラ構造等)に凝集する表面活性剤又は界面活性剤の濃度を意味する。
【0054】
用語「保存的アミノ酸改変」は、本発明に係る脂質粒子又はアポリポプロテインの特性に影響を与えたり又は変化させたりしない、アミノ酸配列の改変を意味する。改変は、部位特異的突然変異誘発及びPCR介在性突然変異誘発のような当技術分野において公知である標準的な技術により導入することができる。保存的アミノ酸改変には、あるアミノ酸残基が、類似する側鎖を有するアミノ酸残基で置き換えられているものを含む。類似する側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野において定義されている。これらファミリーには、塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β分岐側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸を含む。したがって、本明細書において「変異体」タンパク質は、最大10まで、一つの実施態様においては、約2〜約5の付加、欠失、及び/又は置換により、「親」タンパク質のアミノ酸配列とはアミノ酸配列が異なる分子を指す。アミノ酸配列改変は、Riechmann, L., et al., Nature 332 (1988) 323-327、及びQueen, C., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989) 10029-10033に記載されているような分子モデリングに基づく突然変異誘発によって実施することができる。
【0055】
異なるアミノ酸配列の相同性及び同一性は、BLOSUM 30、BLOSUM 40、BLOSUM 45、BLOSUM 50、BLOSUM 55、BLOSUM 60、BLOSUM 62、BLOSUM 65、BLOSUM 70、BLOSUM 75、BLOSUM 80、BLOSUM 85又はBLOSUM 90のような周知のアルゴリズムを使用して算出することができる。一つの実施態様において、アルゴリズムは、BLOSUM30である。
【0056】
脂質粒子の形成は、それぞれの転移温度にて、界面活性剤で可溶化した脂質と共にアポリポプロテインをインキュベートすることにより実施することができる。用語「界面活性剤」は、表面活性化学物質を意味する。「界面活性剤」は、一般に、無極性の疎水性部分と極性の親水性部分とを有する両親媒性分子である。用語「双性イオン性界面活性剤」は、全体としてゼロ電荷を有し、かつ同時に少なくとも1つの正に帯電した部分と少なくとも1つの負に帯電した部分とを含む、表面活性化学化合物を意味する。一つの実施態様において、界面活性剤は、糖系界面活性剤、ポリオキシアルキレン系界面活性剤、胆汁酸塩系界面活性剤、合成界面活性剤又はそれらの組合せから選択される。用語「糖系界面活性剤」は、n−オクチル−β−D−グルコピラノシド、n−ノニル−β−D−グルコピラノシド、n−ドデシル−β−D−マルトピラノシド、又は5−シクロヘキシルペンチル−β−D−マルトピラノシド、及びそれらの誘導体から選択される界面活性剤を意味する。用語「胆汁酸塩系界面活性剤」は、コール酸ナトリウム、コール酸カリウム、コール酸リチウム、3−[(3−クロルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−イル−プロパンスルホネート(CHAPS)、3−[(3−クロルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシプロパンスルホネート(CHAPSO)、及びそれらの誘導体から選択される界面活性剤を意味する。用語「ポリオキシアルキレン系界面活性剤」は、Tween 20、Triton X-100、Pluronic F68、及びそれらの誘導体から選択される界面活性剤を意味する。用語「合成界面活性剤」は、Zwittergent 3-6、Zwittergent 3-8、Zwittergent 3-10、Zwittergent 3-12、及びそれらの誘導体から選択される界面活性剤を意味する。
【0057】
剤(agent)、例えば医薬製剤の「有効量」は、ある投薬量で、かつ必要な期間、所望の治療的又は予防的結果を達成するための有効な量を指す。
【0058】
互換的に使用することができる、用語「高密度リポプロテイン粒子」又はその省略形「HDL粒子」は、主なタンパク質性化合物としてアポリポプロテインA−Iを含む脂質−タンパク質−複合体を意味する。
【0059】
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」及び「宿主細胞培養物」は、互換的に使用され、そして外因性の核酸が導入されている細胞を指し、かかる細胞の後代も含む。宿主細胞は、「形質転換体」及び「形質転換細胞」を含み、これらは、継代数にかかわらず、それに由来する一次形質転換細胞及び後代を含む。後代は、核酸含有量において親細胞と完全に同一ではなくてもよく、しかし突然変異を含有していてもよい。最初に形質転換された細胞においてスクリーニング又は選択したのと同じ機能又は生物活性を有する変異体後代も本明細書に含まれる。
【0060】
用語「脂質排出の増加」及びその文法的等価物は、細胞又はプラークからの脂質排出のレベル及び/又は速度の増加、脂質排出の促進、脂質排出の強化、脂質排出の推進、脂質排出のアップレギュレート、脂質排出の改善、及び/又は脂質排出の増強を意味する。一つの実施態様において、脂質排出は、リン脂質、トリグリセリド、コレステロール、及び/又はコレステロールエステルの排出を含む。
【0061】
「個体」又は「対象」は、哺乳類である。哺乳類は、家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ及びウマ)、霊長類(例えば、ヒト及びサルのような非ヒト霊長類)、ウサギ、及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)を含むが、これらに限定されない。特定の態様では、個体又は対象は、ヒトである。
【0062】
用語「DPPC」は、リン脂質1,2−ジ−パルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリンを指し、また1,2−ジパルミトイル−ホスファチジルコリンとも呼ばれる。
【0063】
用語「多量体」は、2個以上の単量体からなる複合体を意味する。多量体は、単量体間の非共有相互作用によって形成される。各単量体は、多量体化ドメインを含む。一つの実施態様において、多量体は、2個又は3個の単量体を含む。別の実施態様において、多量体化ドメインは、各単量体に含まれる個々の多量体化ドメイン間の非共有相互作用を介して相互作用する。用語「多量体化ドメイン」は、2個以上の単量体分子を共有結合又は非共有結合させることができるアミノ酸配列を意味する。多量体化ドメインは、異なるか、類似するか、又は同一のアミノ酸配列の多量体化ドメインと相互作用することができる。一つの実施態様において、多量体化ドメインは、配列番号03のコンセンサスアミノ酸配列と少なくとも68%同一であるアミノ酸配列を有するテトラネクチン三量体化構造エレメント又はその誘導体である。一つの実施態様において、配列番号03の位置50におけるシステイン残基は、異なるアミノ酸残基によって、別の実施態様においては、セリン残基又はトレオニン残基又はメチオニン残基によって置換されている。多量体化ドメインを含むポリペプチドは、同じく多量体化ドメインを含む1つ以上の他のポリペプチドと結合することができる。多量体の形成は、適切な条件下でポリペプチドを混合することにより簡便に開始させることができる。別の実施態様において、多量体化ドメインは、アミノ酸配列のN末端又はC末端から1〜10残基が欠失しているか又は付加されている配列番号03のアミノ酸配列を有する。更なる実施態様において、多量体化ドメインは、アミノ酸配列のN末端から6個又は9個のアミノ酸残基が欠失している配列番号03のアミノ酸配列を有する。更に別の実施態様において、多量体化ドメインは、N末端のアミノ酸残基L又はN末端のアミノ酸残基C及びLが欠失している配列番号03のアミノ酸配列を有する。一つの実施態様において、多量体化ドメインは、テトラネクチン三量体化構造エレメントであり、そして、配列番号03のアミノ酸配列を有する。多量体は、一つの実施態様において、ホモマーである。
【0064】
多量体化ドメインを含む異なるアポリポプロテインを組み合わせて多量体に組み込むこともできるので、多量体は、ホモマーであっても又はヘテロマーであってもよい。一つの実施態様において、多量体は、ホモ三量体である。
【0065】
一つの実施態様によれば、多量体化ドメインは、テトラネクチンから得られる。一つの実施態様において、多量体化ドメインは、配列番号04のアミノ酸配列を有するテトラネクチン三量体化構造エレメントを含む。テトラネクチン三量体化構造エレメントの三量体化作用は、2つの他のテトラネクチン三量体化構造エレメントのコイルドコイル構造と相互作用して三量体を形成するコイルドコイル構造により引き起こされる。テトラネクチン三量体化構造エレメントは、ヒトのテトラネクチン、ウサギのテトラネクチン、マウスのテトラネクチン、又はサメ軟骨のC型レクチンから得ることができる。一つの実施態様において、テトラネクチン三量体化構造エレメントは、配列番号03のコンセンサス配列と少なくとも68%、又は少なくとも75%、又は少なくとも81%、又は少なくとも87%、又は少なくとも92%の同一性を有する配列を含む。
【0066】
用語「非共有相互作用」は、イオン性相互作用力(例えば、塩橋)、非イオン性相互作用力(例えば、水素結合)、又は疎水性相互作用力(例えば、ファンデルワールス(van-der-Waals)力又はπスタッキング相互作用)のような非共有結合力を意味する。
【0067】
参照ポリペプチド配列に対する「アミノ酸配列同一性の割合(%)」は、配列を整列させ、そして必要に応じて、配列同一性の割合の最大化を達成するためにギャップを導入した後の、参照ポリペプチド配列におけるアミノ酸残基と同一である候補配列におけるアミノ酸残基の割合であると定義され、任意の保存的置換は配列同一性の一部として考慮しない。アミノ酸配列同一性の割合を決定するためのアライメントは、当技術分野における技術の範囲内にある様々な方法で、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような公的に利用可能なコンピュータソフトウェアを使用して達成することができる。当業者は、比較される配列の完全長に対して最大のアライメントを達成するために必要とされる任意のアルゴリズムを含む、配列を整列させるための適切なパラメータを決定することができる。しかし、本明細書における目的のために、アミノ酸配列同一性の割合(%)の値は、配列比較コンピュータプログラム ALIGN-2を使用して求められる。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムは、Genentech, Inc.によって開発され、そして、ソースコードは、U.S. Copyright Office, Washington D.C., 20559においてユーザ文書と共に保管されており、そこで米国著作権登録番号TXU510087として登録されている。ALIGN-2プログラムは、Genentech, Inc., South San Francisco, Californiaから公的に入手可能であるか又はソースコードからコンパイルすることもできる。ALIGN-2プログラムは、デジタルUNIX V4.0Dを含むUNIXオペレーティングシステムで使用するためにコンパイルしなければならない。配列比較パラメータは全て、ALIGN-2プログラムによって設定されており、変化しない。
【0068】
アミノ酸配列比較のためにALIGN-2を使用する場合、所与のアミノ酸配列Bに対する所与のアミノ酸配列Aのアミノ酸配列同一性の割合(%)(これは、あるいは、所与のアミノ酸配列Bに対して特定のアミノ酸配列同一性の割合(%)を有する又は含む所与のアミノ酸配列Aと表現することもできる)は、以下のとおり算出される:
100×分数X/Y
[式中、Xは、配列アラインメントプログラムALIGN-2による、そのプログラムのA及びBのアラインメントにおいて同一であると記録されたアミノ酸残基の数であり、そして、Yは、Bにおけるアミノ酸残基の総数である]。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと等しくない場合、Bに対するAのアミノ酸配列同一性の割合(%)が、Aに対するBのアミノ酸配列同一性の割合(%)とは等しくならないことが理解されるであろう。特記のない限り、本明細書において使用されるアミノ酸配列の同一性の割合(%)の値は全て、ALIGN-2コンピュータプログラムを使用して、直前の段落に記載のとおり得られる。
【0069】
用語「医薬組成物」は、それに含有されている活性成分の生物活性が有効になるような形態であり、かつ前記製剤が投与される対象に対して許容し得ないほど毒性である追加成分を含有しない調製物を指す。
【0070】
「薬学的に許容し得る担体」は、対象に対して無毒である、医薬製剤における活性成分以外の成分を指す。薬学的に許容し得る担体は、緩衝液、賦形剤、安定剤又は保存剤を含むが、これらに限定されない。
【0071】
用語「ホスファチジルコリン」は、1つのグリセロール部分、2つのカルボン酸部分、及び1つのホスホコリン部分からなる分子を意味し、該グリセロール部分は、それぞれエステル結合、すなわち、2つのカルボン酸エステル結合及び1つのリン酸エステル結合により他の部分に共有結合し、それによって該リン酸エステル結合は、該グリセロール部分の1−ヒドロキシル基又は3−ヒドロキシル基のいずれかに結合する。用語「カルボン酸部分」は、少なくとも1つのアシル基(R−C(O)O)を含む有機部分を意味する。ホスファチジルコリンは、任意の種類又は起源であってよい。一つの実施態様において、ホスファチジルコリンは、卵ホスファチジルコリン、大豆ホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジラウリルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、1−ミリストイル−2−パルミトイルホスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−ミリストイルホスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−ステアロイルホスファチジルコリン、1−ステアロイル−2−パルミトイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルコリン、1−オレオイル−2−パルミトイルホスファチジルコリン、ならびにこれらの類似体及び誘導体から選択される。
【0072】
本明細書で使用するリン脂質は全て、任意の起源、すなわち(適切な場合には)大豆、乳、卵又はさらにはヒト以外の動物の内臓に由来してよく、それらは、天然由来であっても、又は半合成であっても、又はさらには完全に合成であってもよい。
【0073】
用語「POPC」は、リン脂質1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリンを指し、また1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルコリンとも呼ばれる。
【0074】
本明細書で使用する「処置(treatment)」(及び「処置する(treat)」又は「処置すること(treating)」のような文法上の変形)は、処置される個体の自然経過を変化させようとする臨床的介入を指し、そして、予防のために又は臨床病理の間に行うことができる。処置の望ましい効果は、疾患の発生又は再発の予防、症状の軽減、疾患の任意の直接的又は間接的な病理学的帰結の減少、転移を予防すること、疾患の進行の速度を低下させること、病態の寛解又は緩和、及び緩解又は予後の改善を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施態様において、本発明の抗体は、疾患の発生を遅らせるか又は疾患の進行を緩徐にするために使用される。
【0075】
用語「変異体」は、本明細書に報告されるアポリポプロテイン又はアポリポプロテイン模倣物の変異体も含み、該変異体においては、アポリポプロテイン又はアポリポプロテイン模倣物それぞれのアミノ酸配列は、1つ以上のアミノ酸の置換、付加又は欠失を含む。この改変は、アポリポプロテイン受容体又はアポリポプロテイン転換酵素に対するアポリポプロテインの親和性を増加させる場合も又は減少させる場合もあり、あるいはそれぞれのアポリポプロテインに比べてアポリポプロテイン変異体の安定性を上昇させる場合もあり、あるいはそれぞれのアポリポプロテインに比べて水溶液中のアポリポプロテイン変異体の溶解度を上昇させる場合もあり、あるいはそれぞれのアポリポプロテインに比べて宿主細胞における/宿主細胞によるアポリポプロテイン変異体の組換え体生成を増加させる場合もある。
【0076】
短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質
本明細書において、短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質が報告される。
【0077】
短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質は、N末端で短縮されたヒトテトラネクチン三量体化構造エレメントと野性型ヒトアポリポプロテインA−Iとの融合タンパク質である。ヒトテトラネクチン部分のアミノ酸配列は、最初の9アミノ酸だけ短縮されており、したがって位置10のイソロイシン残基から始まり、そしてN末端アミノ酸残基プロリンだけ拡張される。この短縮の結果として、位置4のスレオニン残基での自然発生のO−グリコシル化部位が欠失されている。テトラネクチン三量体化構造エレメントとヒトアポリポプロテインA−Iの間で、5アミノ酸残基「SLKGS」(配列番号05)が除去された。
【0078】
短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質は、配列番号01のアミノ酸配列を持つことができるか、又は少なくとも70%配列同一性を有するその変異体である。
【0079】
テトラネクチン三量体化構造エレメントは、個々の単量体の各々の間の非共有相互作用により構成される多量体を含む、三量体の短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質の形成を可能にするドメインを提供する。
【0080】
一つの実施態様において、野生型ヒトアポリポプロテインA−Iは、保存的アミノ酸置換を含む変異体であることができる。
【0081】
アポリポプロテインA−Iは、NMR分光法を介して、又はモノクローナルもしくはポリクローナル抗アポリポプロテインA−I抗体の使用によって、酵素的に決定することができる。したがって、本明細書に報告される他の態様は、本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質に特異的に結合するポリクローナル及びモノクローナル抗体である。かかる抗体は、当業者に公知の方法によって得ることができる。また、イムノアッセイにおける使用のための、融合タンパク質、融合タンパク質を含む脂質粒子、及び融合タンパク質又は脂質粒子に結合する抗体の標識は、当業者に公知の方法を用いて実施することができる。
【0082】
一つの実施態様において、野生型ヒトアポリポプロテインA−Iは、1〜10の保存的アミノ酸置換を含む変異体である。
【0083】
このように、一つの実施態様において、短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質は、
【化2】
のアミノ酸配列を有する。
【0084】
配列番号01のアミノ酸配列を有する短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質は、例えば、1つのさらなるN末端アミノ酸を有する融合タンパク質として、より少ない副生成物と共に得られる。これを以下の表に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質が大腸菌中で生成される場合、それは封入体から得られる。
【0087】
脂質粒子
本明細書において、本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質を含む脂質粒子が報告される。
【0088】
一つの実施態様において、脂質粒子は、
a)本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質と、
b)ホスファチジルコリンと、
c)さらなる脂質とを含む。
【0089】
一つの実施態様において、脂質粒子は、本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質、第1のホスファチジルコリン及び第2のホスファチジルコリンを含む。一つの実施態様において、第1のホスファチジルコリン及び第2のホスファチジルコリンは、ホスファチジルコリンのホスホグリセロール骨格にエステル化される1つもしくは2つのカルボン酸部分又はカルボン酸部分誘導体において異なる。一つの実施態様において、第1のホスファチジルコリンは、POPCであり、そして第2のホスファチジルコリンは、DPPCである。
【0090】
一つの実施態様において、脂質粒子中の短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質、ホスファチジルコリン、及びさらなる脂質は、非共有結合的に関連する。
【0091】
脂質の組み合わせの選択は、アポリポプロテインを含む脂質粒子の効力及び肝臓の安全性を決定する。ウサギを用いた脂質粒子を含むDMPCのインビボ試験において、30mg/kgで処理したウサギは、生存しているが重篤な副作用を示し、一方、100mg/kgで処理したウサギは死亡したことが見出された。
【0092】
インビトロの機能テストでは、単一のホスファチジルコリン(例えば、DPPC又はPOPC)を含有する脂質粒子がLCATを活性化することが確認された。
【0093】
また、脂質粒子が異なるリン脂質の組み合わせを含む場合、コレステロール排出がより高いことが示された。以下の表に、インビボのウサギ試験のために調整した脂質組成において異なるリン脂質の組み合わせで得られた結果を示す。
【0094】
【表2】
【0095】
これらの結果はまた、インビボデータにより確認され、全ての組み合わせについてのコレステロール動員を実証した。しかし、単一のホスファチジルコリンDPPCのみ、又はDPPCとスフィンゴミエリン(SM)との組み合わせを含有する脂質粒子について、肝酵素の増加を測定した(
図1)。
【0096】
技術的な観点から、純粋なDPPCを用いた脂質粒子の形成は、純粋なPOPCを用いた形成と比較して、より簡便である。沈殿物形成のリスクが、異なるリン脂質の組み合わせを使用することにより低減される。また、純粋なDPPCは相転移温度が41℃であるので、相転移温度が4℃である純粋なPOPCと比較して、脂質粒子の調製がより容易である。また得られた生成物は、より均質である。これは、タンパク質−脂質組成の決定(タンパク質コンジュゲート分析)も可能にする分析ツールであるSEC−MALLSを介した脂質粒子分析により確認することができる。
図2において、サイズ排除クロマトグラフィー(UV280検出)において分解されたサンプルのクロマトグラムを示す。サンプルの不均質性は、分離されたピーク又は半ば離れたピークが複数発生したことから見ることができる。
【0097】
脂質粒子を生成するために純粋なPOPCが使用される場合の脂質粒子中のアポリポプロテイン単量体1個当たりのPOPC分子の数は、一つの実施態様において40〜85、一つの実施態様において50〜80、及び一つの実施態様において54〜75である。
【0098】
脂質粒子を生成するために純粋なDPPCが使用される場合の脂質粒子中のアポリポプロテイン単量体1個当たりのDPPC分子の数は、一つの実施態様において50〜150、一つの実施態様において65〜135、一つの実施態様において76〜123、及び一つの実施態様において86〜102である。
【0099】
脂質粒子を生成するためにモル比1:3でPOPCとDPPCとの混合物を使用する場合の脂質粒子中のアポリポプロテイン単量体1個当たりのリン脂質分子の数は、一つの実施態様において約50〜約120、一つの実施態様において約65〜約105、及び一つの実施態様において約72〜約96である。
【0100】
脂質粒子を生成するためにモル比1:1でPOPCとDPPCとの混合物を使用する場合の脂質粒子中のアポリポプロテイン単量体1個当たりのリン脂質分子の数は、一つの実施態様において50〜120、一つの実施態様において60〜100、及び一つの実施態様において71〜92である。
【0101】
脂質粒子を生成するためにモル比3:1でPOPCとDPPCとの混合物を使用する場合の脂質粒子中のアポリポプロテイン単量体1個当たりのリン脂質分子の数は、一つの実施態様において50〜90である。一つの実施態様において、該数は、60〜90である。一つの実施態様において、該数は、60〜88である。一つの実施態様において、該数は、60〜80である。
【0102】
アポリポプロテイン及びPOPCを含む脂質粒子の生成の場合、一つの実施態様においてアポリポプロテインのPOPCに対するモル比1:40〜1:100を用い、一つの実施態様においてモル比1:40〜1:80を用い、及び一つの実施態様においてモル比約1:60を用いる。
【0103】
アポリポプロテイン及びDPPCを含む脂質粒子の生成の場合、一つの実施態様においてアポリポプロテインのDPPCに対するモル比1:70〜1:100を用い、一つの実施態様においてモル比1:80〜1:90を用い、及び一つの実施態様においてモル比約1:80を用いる。
【0104】
アポリポプロテイン、POPC及びDPPCを含む脂質粒子の生成の場合、一つの実施態様においてアポリポプロテインのPOPC及びDPPC(ここで、POPCとDPPCとのモル比、1:3)に対するモル比1:60〜1:100を用い、一つの実施態様においてモル比1:70〜1:90を用い、及び一つの実施態様においてモル比約1:80を用いる。
【0105】
アポリポプロテイン、DPPC、及びPOPCを含む脂質粒子の生成の場合、一つの実施態様においてアポリポプロテインのPOPC及びDPPC(ここで、POPCとDPPCとのモル比、1:1)に対するモル比1:60〜1:100を用い、一つの実施態様においてモル比1:60〜1:80を用い、及び一つの実施態様においてモル比約1:70を用いる。
【0106】
アポリポプロテイン、DPPC、及びPOPCを含む脂質粒子の生成の場合、一つの実施態様においてアポリポプロテインのPOPC及びDPPC(ここで、POPCとDPPCは、3:1のモル比である)に対するモル比1:50〜1:100を用いる。一つの実施態様において、モル比1:50〜1:70を用いる。一つの実施態様において、モル比約1:60を用いる。
【0107】
一つの実施態様において、脂質粒子を生成するために脂質の混合物を使用する場合、該混合物は、4℃〜45℃、一つの実施態様において10℃〜38℃、及び一つの実施態様において15℃〜35℃の相転移温度を有する。
【0108】
脂質粒子は、一つの実施態様において脂質粒子1個当たり平均数1〜10個の融合タンパク質分子、一つの実施態様において脂質粒子1個当たり平均数1〜8個の融合タンパク質分子、及び一つの実施態様において脂質粒子1個当たり平均数1〜4個の融合タンパク質分子を含む。
【0109】
一つの実施態様において、脂質粒子は、脂質粒子1個当たり平均数少なくとも1、又は2、又は3、又は4、又は5、又は6、又は7、又は8、又は9、又は10個の融合タンパク質分子を含む。一つの実施態様において、平均数は、1である。
【0110】
一つの実施態様において、脂質粒子は、融合タンパク質に加えて1つ以上のさらなるポリペプチドを含む。
【0111】
非限定的に、脂質粒子は、酵素の補因子として及び/又は脂質、特にコレステロールを取り込むためのキャリアとして機能することができる。
【0112】
1つ以上の界面活性剤が、本明細書に報告される脂質粒子中に存在することができる。かかる界面活性剤は、任意の界面活性剤、すなわち、薬学的に許容し得る界面活性剤又は無毒な濃度の他の界面活性剤、例えば非イオン性又はイオン性界面活性剤等であることができる。非イオン性界面活性剤は、1つ以上のヒドロキシル基を含有する有機化合物のアルキレンオキシド誘導体であることができる。
【0113】
一つの実施態様において、非イオン性界面活性剤は、エトキシル化及び/又はプロポキシル化されたアルコール、あるいはそのエステル化合物又はその混合物から選択される。一つの実施態様において、エステルは、ソルビトールと脂肪酸とのエステル、例えば、ソルビタンモノオレエート又はソルビタンモノパルミテート、油性ショ糖エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレン−ポリプロポキシアルキルエーテル、ブロック重合体及びセチルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油又は硬化ヒマシ油誘導体、及びポリグリセリン脂肪酸エステルから選択される。
【0114】
一つの実施態様において、非イオン性界面活性剤は、Pluronic(登録商標)、Poloxamer(登録商標)、Span(登録商標)、Tween(登録商標)、Polysorbate(登録商標)、Tyloxapol(登録商標)、Emulphor(登録商標)又はCremophor(登録商標)から選択される。
【0115】
イオン性界面活性剤は、胆管剤であることができる。一つの実施態様において、イオン性界面活性剤は、コール酸もしくはデオキシコール酸、又はこれらの塩及び誘導体から、あるいはオレイン酸、リノール酸等のような遊離脂肪酸から選択される。
【0116】
一つの実施態様において、イオン性界面活性剤は、C
10−C
24アルキルアミン又はアルカノールアミンのようなカチオン性脂質、及びカチオン性コレステロールエステルから選択される。
【0117】
一つの実施態様において、脂質粒子は、0.75重量%未満の界面活性剤を含む。
【0118】
一つの実施態様において、脂質粒子は、0.3重量%未満の界面活性剤を含む。
【0119】
一つの実施態様において、界面活性剤は、糖系界面活性剤、ポリオキシアルキレン系界面活性剤、胆汁酸塩系界面活性剤、合成界面活性剤又はこれらの組合せから選択される。一つの実施態様において、界面活性剤はコール酸である。
【0120】
特性:
本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質又は本明細書において報告される脂質粒子は、非正常な脂質レベル、又は血管におけるプラークのような身体の構成要素内における脂質の沈着物を特徴とする疾患又は病状の処置及び/又は診断のために使用することができる。
【0121】
LCATによって触媒されるコレステロールのエステル化を補助する本明細書に報告される脂質粒子の能力を測定するために、エタノール性コレステロール溶液を添加することにより、コレステロールを脂質粒子に組み込むことができる。純粋なPOPCを含有する脂質粒子は、野生型アポリポプロテインA−I又はテトラネクチン−アポリポプロテインA−Iのようなアポリポプロテイン成分とは無関係に、DPPCを含有する複合体よりも優れたLCAT基質である(
図3)。
【0122】
POPCとDPPCとの様々な混合物を含む脂質粒子におけるコレステロールのエステル化の初期速度は、該混合物が単一の純粋なホスファチジルコリンよりも優れたLCAT基質であることを示す。このことは、コレステロールのエステル化の初期速度から分かる(以下の表及び
図4を参照されたい)。
【0123】
【表3】
【0124】
THP−1単球性白血病細胞をホルボールミリスチン酸アセテートに曝露することにより得られ、かつ放射性標識されたコレステロールトレーサがロードされているヒトTHP1細胞のようなマクロファージを、コレステロールアクセプター試験化合物に曝露することができる。
【0125】
アクセプター試験化合物によって誘導される排出速度を、上清中のコレステロール放射活性の、細胞及びその上清中の放射活性の合計に対する比として算出し、そしてアクセプターを含有しない培地に曝露した細胞と比較し、そして線形近似によって分析することができる。主にABCA−1をアップレギュレートし、そしてABCA−1媒介輸送に排出を偏らせることが知られているRXR−LXRアゴニストに曝露された細胞、及び曝露されていない細胞を用いて、並行実験を実施することができる。
【0126】
RXR−LXR脂質粒子で予め処理されない細胞では、脂質付加されていないテトラネクチン−アポリポプロテインA−Iにより得られる排出に比べてコレステロール排出がより増加することが分かる。一連の試験において、排出に対する脂質混合物のほんのわずかな影響を観察することができる(
図5)。RXR−LXRで予め処理された細胞では、脂質付加されていないテトラネクチン−アポリポプロテインA−Iを用いて、コレステロール排出が同等に増加することが分かる。予め処理されていない細胞で観察された増加と比較して、全体的な増加はより多かった。一連の試験において、排出に対する脂質混合物のほんのわずかな影響を観察することができる(
図6)。
【0127】
様々な脂質粒子をウサギにおいてインビボで試験した。脂質粒子を静脈注射として適用し、そして適用後96時間にわたって連続的に血液サンプリングを実施した。肝酵素、コレステロール及びコレステロールエステルの値を測定した。血漿中濃度は、全ての試験脂質粒子について同程度(血漿中濃度の初期分布相に続いて対数線形下落を含む)であった(
図7)。以下の表から分かるとおり、薬物動態パラメータは、全ての試験化合物について類似している。観察された半減期は、およそ1.5日である。
【0128】
【表4】
【0129】
図8から分かるとおり、コレステロールは、血漿中に動員され、そしてエステル化される。テトラネクチン−アポリポプロテインA−Iの濃度が既に減少し始めた後でさえも、血漿コレステロールエステルレベルは上昇し続ける。血漿テトラネクチン−アポリポプロテインレベルが約0.5mg/mL(正常な野性型アポリポプロテインA−Iの約50%)まで減少しても、依然としてコレステロールエステルレベルの増加を検出することができる。
【0130】
テトラネクチン−アポリポプロテインA−Iを含む脂質粒子は、
図1及び9から分かるとおり、ウサギに加えてマウスでも肝酵素を誘導しない。また、静脈適用の2時間後に得られた血漿サンプルにおいて、溶血を測定することはできない(
図10)。
【0131】
したがって、本明細書に報告される態様は、本明細書において報告される短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質又は本明細書において報告される脂質粒子を含む、医薬組成物及び診断用組成物である。
【0132】
本明細書において報告される脂質粒子は、以下の表に示すとおり、脂質付加されていないアポリポプロテイン及び他の脂質粒子に比べて、インビボにおける特性が改善された。
【0133】
【表5】
【0134】
コレステロールが血液中に動員される効率は、アポリポプロテインをインビボで投与した後に、総コレステロール濃度とアポリポプロテイン濃度とのそれぞれの可動域を比較することにより測定することができる。定量的評価については、基準線補正された総コレステロールの濃度−時間曲線下面積(AUC)及びアポリポプロテインの濃度−時間曲線下面積の指数を算出した。
【0135】
本明細書において報告される脂質粒子、特に、配列番号01のテトラネクチン−アポリポプロテインならびにPOPC及びDPPC(モル比3:1)を含む脂質粒子は、増強されたインビボでのコレステロール動員を示す。
【0136】
脂質粒子の形成
本明細書に報告される脂質粒子の形成については、凍結乾燥、凍結融解、界面活性剤可溶化に続いて透析、顕微溶液化、超音波処理、及び均質化のような様々な方法が公知である。
【0137】
例えば、リン脂質と界面活性剤との水性混合物を、精製されたアポリポプロテインと共にインキュベートすることができる。アポリポプロテインは、未変性形態で添加することができる。界面活性剤は、透析又はダイアフィルトレーションによって、後に除去される。短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質を含む脂質粒子の形成は、単量体又は多量体の形態の短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質を、界面活性剤可溶化脂質と共にそれぞれの転移温度においてインキュベートすることにより達成することができる。透析による界面活性剤の除去により、脂質粒子が形成される。アポリポプロテインを含有する脂質粒子の形成のための一般的な方法は、例えば、Jonas, A., Methods Enzymol. 128 (1986) 553-582又はExperimental Lung Res. 6 (1984) 255-270に記載されているようなコール酸法に基づく。透析による界面活性剤の除去により、脂質粒子が形成される。
【0138】
脂質粒子を形成するために考慮しなければならない要点は、i)生物活性についての要件、及びii)脂質粒子の製造可能性に対する技術的要件である。アポリポプロテインを含む脂質粒子の形成については、これら要件は相反する。
【0139】
技術的な視点からは、炭素原子16個以下の鎖を有するカルボン酸部分を含有する飽和リン脂質(例えば、ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、DPPC;ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、DMPC等)が選択される。これとは対照的に、生物学的データからは、炭素原子が少なくとも16個のカルボン酸部分を含有する非飽和リン脂質(例えば、パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、POPC;ステアロイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、SOPC)がより有効であり、そして、肝毒性を有しないと推測することができる。
【0140】
ホスファチジルコリンDPPC及びPOPC、ならびにこれらの混合物を、アポリポプロテインを含有する脂質粒子の形成のために使用することができる。これら例示的なホスファチジルコリンは、1つのカルボン酸部分が異なり、かつホスホグリセロール骨格にエステル化される1つの同一のカルボン酸部分を有する。脂質粒子の製造は、DPPCを使用したときより容易である。対照的に、POPCは、特に、動員されたコレステロールをコレステロールエステルに変換するために必要なレシチンコレステロールアセチルトランスフェラーゼ(LCAT)酵素の活性化のための基質として、インビトロ機能アッセイにおいてより有効である。例えば、POPC及びDPPCのような2種のホスファチジルコリンの混合物を様々なモル比で含む脂質粒子は、ホスファチジルコリンを1種しか含まない脂質粒子に比べて、改善された特性を有することが見出されている(例えば、
図4を参照されたい)。
【0141】
ヒトHDL(HDL=高密度リポプロテイン)粒子に由来する組換え型アポリポプロテイン又は脱脂型アポリポプロテインから脂質粒子を再構成する様々な方法が報告されている。例えば、リン脂質と界面活性剤との水性混合物を、精製されたアポリポプロテインと共にインキュベートする。アポリポプロテインは、未変性形態で添加される。界面活性剤は、透析又はダイアフィルトレーションによって、後に除去される。短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質を含む脂質粒子の形成は、短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質又はその多量体を界面活性剤可溶化脂質と共にそれぞれの転移温度においてインキュベートすることにより達成することができる。透析により界面活性剤の除去により、脂質粒子が形成される。
【0142】
脂質粒子は、沈澱及び/又はクロマトグラフィー工程の組合せによって精製することができる。例えば、過剰な界面活性剤、すなわち、脂質粒子の一部ではない界面活性剤は、疎水性吸着クロマトグラフィー工程で除去することができる。脂質粒子は、界面活性剤を含まない溶液を用いて疎水性吸着材から回収することができる。
【0143】
本発明の理解を助けるために以下の実施例、配列表及び図面を提供し、その真の範囲を添付の特許請求の範囲に記載する。本発明の趣旨から逸脱することなく、記載されている手順を変更できることを理解されたい。
【0144】
配列表の説明
配列番号01 短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパ ク質。
配列番号02 ヒトアポリポプロテインA−I。
配列番号03 ヒトテトラネクチン三量体形成ドメイン。
配列番号04 短縮されたヒトテトラネクチン三量体形成ドメイン.
配列番号05 切断されたペプチド。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【
図1】脂質組成の異なる5つの脂質粒子を用いて実施したウサギのインビボ研究の結果。上:調製したバッチの全てについて、コレステロール動員、ひいては有効性を示すことができた。下:単一のリン脂質としてDPPCの使用により作製された脂質粒子について、肝酵素の増加が認められた。
【
図2】本発明によるPOPC及びアポリポプロテイン(モル比、1:20〜1:160)の脂質粒子のSEC−MALLS分析。
【
図3】LCAT活性に対するDPPC及びPOPCの影響。
【
図4】POPC及び/又はDPPCを含有する脂質粒子におけるコレステロールのエステル化の初速度。
【
図5】RXR−LXRアゴニストで刺激していない細胞における、THP−1に由来する泡沫細胞へのコレステロール排出。
【
図6】RXR−LXRアゴニストを使用してABCA−I経路を活性化した後の、THP−1に由来する泡沫細胞へのコレステロール排出。
【
図7】様々なアポリポプロテイン組成物の時間依存性血漿中濃度。
【
図8】血漿における、コレステロール動員及びエステル化の時間及び濃度経過。
【
図9】100mg/kgの単回静脈内注射(i.v.)後の、マウスにおける本発明によるアポリポプロテインを含む様々な組成物による肝酵素放出の比較。
【
図10】インビボにおけるウサギの研究 − 血漿における自発的溶血。
【
図11】モル比1:20〜1:160で得られたPOPC及びテトラネクチン−アポリポプロテインA−Iの脂質粒子のSEC−MALLS分析。
【
図12a】DMPC(1:100)(ジミリストイルホスファチジルコリン)で脂質付加されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I(a)及びPBS中で脂質付加されなかったテトラネクチン−アポリポプロテインA−I(b)を用いて実施した、ウサギのインビボにおける研究の結果。
【
図12b】DMPC(1:100)(ジミリストイルホスファチジルコリン)で脂質付加されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I(a)及びPBS中で脂質付加されなかったテトラネクチン−アポリポプロテインA−I(b)を用いて実施した、ウサギのインビボにおける研究の結果。
【
図13A】5℃及び40℃で保存した、野生型のアポリポプロテインA−I(A)及び本明細書に報告されるテトラネクチン−アポリポプロテインA−I(B)を含有する脂質粒子のSE−HPLCクロマトグラム。
【
図13B】5℃及び40℃で保存した、野生型のアポリポプロテインA−I(A)及び本明細書に報告されるテトラネクチン−アポリポプロテインA−I(B)を含有する脂質粒子のSE−HPLCクロマトグラム。
【0146】
材料及び方法
サイズ排除HPLC:
クロマトグラフィーは、ASI-100 HPLCシステム(Dionex, Idstein, Germany)においてTosoh Haas TSK 3000 SWXLカラムを用いて実施した。溶出ピークは、UVダイオードアレイ検出器(Dionex)によって280nmでモニタした。濃縮サンプルを1mg/mLになるように溶解させた後、安定したベースラインに達するまで、カラムを緩衝液(200mMのリン酸二水素カリウム及び250mMの塩化カリウムからなる、pH7.0)で洗浄した。分析は、均一濃度条件下において0.5mL/分の流速を使用して30分かけて室温で実施した。クロマトグラムは、Chromeleon(Dionex, Idstein, Germany)を用いて手動で積分した。凝集率(%)は、高分子量形態の曲線下面積(AUC)を単量体ピークのAUCと比較することにより求めた。
【0147】
動的光散乱(DLS):
DLSは、典型的にはサブミクロンサイズ範囲で粒径を測定するための非侵襲性技術である。本発明では、温度制御された石英キュベット(25℃)を備えるZetasizer Nano S装置(Malvern Instruments, Worcestershire, UK)を使用して、1nm〜6μmの粒径範囲をモニタした。後方散乱レーザー光線の強度は、173°の角度で検出した。強度は、粒子拡散速度に依存する割合で変動し、該粒子拡散速度は、粒径によって管理される。したがって、粒径データは、散乱光強度における変動の分析から作成される(Dahneke, B.E. (ed.), Measurement of Suspended Particles by Quasielectric Light Scattering, Wiley Inc. (1983); Pecora, R., Dynamic Light Scattering: Application of Photon Correlation Spectroscopy, Plenum Press (1985))。強度による粒度分布は、DTSソフトウェア(Malvern)の複数ナローモードを使用して算出した。実験は、未希釈のサンプルを用いて行った。
【0148】
SEC−MALLS:
SEC−MALLSは、以下の3つの検出器システムを用いるサイズ排除クロマトグラフィーの組合せである:i)UV検出、ii)屈折率検出、及びiii)光散乱検出。サイズによる分離については、GE Healthcare製のSuperose 6カラム10/300 GLカラムを使用する。方法は、0.4mL/分の流速を適用し、PBS緩衝液(pH7.4)を用いて均一濃度で実行する。3つの検出器システムは、直列に接続する。完全な脂質粒子(タンパク質−脂質粒子)のシグナルは、屈折率検出器によってモニタされ、一方、280nmで測定されるUV吸光度は、タンパク質部分によって誘導されるシグナルを測定する。脂質画分の比率は、完全なシグナルからタンパク質のUVシグナルを単に減じることによって得られる。光散乱の適用により、それぞれの種の分子量の検出、ひいては脂質粒子を完全かつ詳細に説明することが可能になる。
【0149】
界面活性剤の測定:
残留界面活性剤の測定は、蒸発光散乱検出器に連結された逆相クロマトグラフィー(RP−ELSD)によって実施した。カラムとして、Phenomenex(Aschaffenburg, Germany)製のLuna C18 4.6×150mm、5μm、100Åを使用した。10kDaの膜による遠心分離を行った後、90μLのフロースルーをHPLC分離に使用した。溶出は、0.1%(v/v)のトリフルオロ酢酸を含有する74%(v/v)のメタノール溶液を用いて、均一濃度条件下で実施した。カラムの温度は、30℃に設定した。検出は、30℃の噴霧化温度、80℃の蒸発温度、及び1.0L/分のガス流を適用して、蒸発光散乱検出器によって実施した。残留界面活性剤の定量は、0.22μg〜7.5μgコール酸の範囲のコール酸の場合、検量線の確立によって実施した。
【0150】
タンパク質の定量:
タンパク質濃度は、アミノ酸配列に基づいて算出されたモル吸光係数を使用して、280nmにおける光学密度(OD)を測定することにより決定した。
【0151】
組換えDNA技術:
Sambrook, J., et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York(1989)に記載のとおり、標準分析法を用いてDNAを操作した。分子生物学的試薬は、製造業者の指示書に従って使用した。
【0152】
実施例1
大腸菌の発現プラスミドの作製及び説明
短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質を、組換え手段によって調製した。発現した融合タンパク質は、N末端からC末端方向において配列番号01のアミノ酸配列を有する。
【0153】
コード化融合遺伝子は、適切な核酸セグメントの接続によって、公知の組換え方法及び技術により構築される。化学合成によって作製した核酸配列は、DNA配列決定によって確認される。配列番号01の融合タンパク質の生成のための発現プラスミドは、以下のように調製することができる:
【0154】
プラスミド1(1-pBRori-URA3-LACI-SAC)は、大腸菌におけるコア−ストレプトアビジンの発現のための発現プラスミドである。プラスミド1は、プラスミド2(2-pBRori-URA3-LACI-T-反復;EP-B 1 422 237に報告されている)に由来する3142bp長のEcoRI/CelIIベクター断片と、コア−ストレプトアビジンをコードする435bp長のEcoRI/CelII断片とをライゲーションさせることにより作製した。
【0155】
コア−ストレプトアビジン大腸菌発現プラスミドは、以下のエレメントを含む:
− 大腸菌における複製用のベクターpBR322由来の複製開始点(Sutcliffe, G., et al., Quant. Biol. 43 (1979) 77-90による2517〜3160 bp位置に対応する)、
− 大腸菌のpyrF突然変異株(ウラシル栄養要求性)の補完によりプラスミド選択を可能にする、オロチジン−5’−リン酸デカルボキシラーゼ(Rose, M. et al. Gene 29 (1984) 113-124)をコードする出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)のURA3遺伝子、
− 以下を含むコア−ストレプトアビジン発現カセット
− Stueber, D., et al.(上記を参照されたい)による合成リボソーム結合部位を含むT5ハイブリッドプロモーター(Bujard, H., et al. Methods. Enzymol. 155 (1987) 416-433及びStueber, D., et al., Immunol. Methods IV (1990) 121-152によるT5-PN25/03/04ハイブリッドプロモータ)、
− コア−ストレプトアビジン遺伝子、
− 2つのバクテリオファージに由来する転写ターミネーター:λ−T0ターミネーター(Schwarz, E., et al., Nature 272 (1978) 410-414)及びfd−ターミネーター(Beck E. and Zink, B. Gene 1-3 (1981) 35-58)、
− 大腸菌に由来するlacI抑制因子遺伝子(Farabaugh, P.J., Nature 274 (1978) 765-769)。
【0156】
短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質の発現のための最終的な発現プラスミドは、単一の隣接するEcoRI及びCelII制限エンドヌクレアーゼ切断部位を用いてプラスミド1からコア−ストレプトアビジン構造遺伝子を切り取り、そしてEcoRII/CelII制限部位に隣接している融合遺伝子をコードする核酸を、3142 bp長のEcoRI/CelII-1プラズミド断片に挿入することにより、調製することができる。
【0157】
実施例2
テトラネクチン−アポリポプロテインA−Iの発現
本明細書において報告される融合タンパク質の発現のために、大腸菌の栄養要求性(PyrF)の補完により抗生物質を用いずにプラスミド選択を可能にする大腸菌ホスト/ベクター系を使用した(EP 0 972 838及びUS 6,291,245)。
【0158】
大腸菌のK12株CSPZ-2(leuB、proC、trpE、th-1、ΔpyrF)を、発現プラスミドのエレクトロポレーション(電気穿孔)によって、形質転換した。形質転換された大腸菌細胞を、まず、寒天平板上で37℃にて増殖させた。
【0159】
予備発酵のために、約1g/LのL−ロイシン、約1g/LのL−プロリン、及び約1mg/LのチアミンHClを補充したSambrook, et al.(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (1989))によるM9培地を使用した。
【0160】
予備発酵のために、整流装置を備えた1000mL容量のエルレンマイヤーフラスコ中のM9培地300mLに、初代種子バンクアンプルのうちの2mlを接種した。1〜3の光学密度(578nm)が得られるまで、培養を37℃で13時間回転振盪機において実施した。
【0161】
発酵のために、Riesenberg, et al.(Riesenberg, D., et al., J. Biotechnol. 20 (1991) 17-27)によるバッチ培地を使用した:27.6g/Lのグルコース
*H
2O、13.3g/LのKH
2PO
4、4.0g/Lの(NH
4)
2HPO
4、1.7g/Lのクエン酸塩、1.2g/LのMgSO
4*7H
2O、60mg/Lのクエン酸鉄(III)、2.5mg/LのCoCl
2*6H
2O、15mg/LのMnCl
2*4H
2O、1.5mg/LのCuCl
2*2H
2O、3mg/LのH
3BO
3、2.5mg/LのNa
2MoO
4*2H
2O、8mg/LのZn(CH
3COO)
2*2H
2O、8.4mg/LのTitriplex III、1.3mL/LのSynperonic 10%消泡剤。該バッチ培地に、5.4mg/Lのチアミン−HCl、ならびにそれぞれ1.2g/LのL−ロイシン及びL−プロリンを補充した。フィード1溶液は、19.7g/LのMgSO
4*7H
2Oが補充された700g/Lのグルコースを含有していた。pH調節用のアルカリ溶液は、それぞれ50g/LのL−ロイシン及び50g/LのL−プロリンが補充された12.5%(w/v)のNH
3水溶液であった。構成成分は全て、脱イオン水に溶解させた。
【0162】
発酵は、10LのBiostat C DCU3発酵槽(Sartorius, Melsungen, Germany)において実施した。予備発酵からの300mLの接種材料を添加した6.4Lの無菌発酵バッチ培地から出発して、バッチ発酵は、37℃、pH6.9±0.2、500mbar、及び通気速度10L/分で実施した。最初に添加したグルコースが枯渇した後、温度を28℃に変化させ、そして発酵は流加(fed-batch)モードに入った。ここでは、一定に増加する撹拌機速度(10時間以内は550rpm〜1000rpm、16時間以内は1000rpm〜1400rpm)及び通気速度(10時間では10L/分〜16L/分、5時間では16L/分〜20L/分)と組み合わせてフィード1を添加することにより、溶存酸素の相対値(pO2)を50%で維持した(DO-stat、例えば、Shay, L.K., et al., J. Indus. Microbiol. Biotechnol. 2 (1987) 79-85を参照されたい)。およそ8時間培養した後にpHが調節下限(6.70)に達したとき、アルカリ溶液の添加の結果、更なるアミノ酸の供給を得た。組換え型治療用タンパク質の発現を、光学密度70で1mMのIPTGの添加によって誘導した。
【0163】
発酵の最後に、細胞質かつ可溶性の発現したテトラネクチン−アポリポプロテインA−Iを、不溶性タンパク質凝集体、いわゆる封入体に導入するが、これは、収集前に、発酵槽中の全培養培地を50℃に1又は2時間加熱する加熱工程を用いて行う(例えば、EP-B 1 486 571を参照されたい)。その後、発酵槽の内容物を流水式の遠心分離機(13,000rpm、13L/時間)で遠心分離し、そして更に処理するまで、収集したバイオマスを−20℃で保存した。合成した短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質は、不溶性タンパク質凝集体、いわゆる封入体(IB)の形態で、不溶性細胞残屑画分においてのみ見出された。
【0164】
一方はタンパク質発現の誘導前、そして他方はタンパク質発現の誘導後の所定の時点において発酵槽から取り出したサンプルを、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析する。全てのサンプルから、同量の細胞(OD
Target=5)を、5mLのPBS緩衝液に再懸濁させ、そして氷上で超音波処理を介して破壊した。次いで、各100μLの懸濁液を遠心分離し(15,000rpm、5分間)、そして各上清を回収し、別々のバイアルに移す。これは、可溶性の発現した標的タンパク質と不溶性の発現した標的タンパク質とを識別するためである。各上清(=可溶性)画分300μL、及び各ペレット(=不溶性)画分400μLに、SDSサンプル緩衝液(Laemmli, U.K., Nature 227 (1970) 680-685)を添加する。サンプルを振盪下で95℃にて15分間加熱して、サンプル中のタンパク質を全て可溶化しかつ還元する。室温に冷ました後、各サンプル5μLを4〜20%のTGX Criterion Stain Freeポリアクリルアミドゲル(Bio-Rad)に移す。更に、5μLの分子量標準(Precision Plus Protein Standard, Bio-Rad)及び公知の生成物タンパク質濃度(0.1μg/μL)を有する3つの量(0.3μL、0.6μL及び0.9μL)の定量化標準をゲル上に配置する。
【0165】
電気泳動を200Vで60分間行い、その後、ゲルをGelDOC EZ Imager(Bio-Rad)に移し、そしてUV放射を用いて5分間処理した。ゲル画像を、Image Lab解析ソフトウェア(Bio-Rad)を使用して分析した。3つの標準を用いて、線形回帰曲線を係数>0.99を用いて算出し、そこからオリジナルサンプル中の標的タンパク質の濃度を算出した。
【0166】
実施例3
短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質の調製
封入体の調製を、収集した細菌細胞を、Tris緩衝液(0.1M、1mMのMgSO
4を補充、pH7.0)に再懸濁させることによって実施する。デオキシリボヌクレアーゼ(DNAse)を添加した後、900barの圧力でホモジナイズすることによって細胞を破壊する。1.5M NaCl及び60mMのEDTAを含む緩衝液を、ホモジナイズされた細胞懸濁液に添加する。25%(w/v)のHClを用いてpH値を5.0に調整した後、更なる遠心分離工程の後に最終的な封入体スラリーが得られる。スラリーは、更に処理するまで、使い捨て滅菌プラスチック袋中で−20℃にて保存することができる。
【0167】
封入体スラリー(約15kg)を、アルカリ性カリウム塩酸塩溶液で可溶化し、そして深層濾過により清澄化する。あるいは、封入体スラリーをグアニジン塩酸塩溶液(150L、6.7M )で可溶化した。
【0168】
実施例4
短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質のリフォールディング及び脂質付加
a) 一般コール酸法
純粋な結晶質のPOPC又はDPPC(Lipoid, Switzerland)を、コール酸(リン脂質:コール酸のモル比1:1.35)を含有する水性緩衝液(脂質付加緩衝液)に溶解する。混合物を窒素雰囲気下でインキュベートし、透明な溶液が得られるまで、室温(POPC)又は55℃(DPPC)で光から保護する。透明な脂質−コール酸溶液を4℃に冷却するか(POPC)、又は41℃で保存する(DPPC)。短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質を、規定のアポリポプロテイン:リン脂質比で4℃(POPC)又は41℃(DPPC)にて添加する。脂質粒子の形成のために、反応混合物を窒素雰囲気下で4℃(POPC)又は41℃(DPPC)にて一晩インキュベートし、そして光から保護する。最後に、コール酸を、脂質付加緩衝液に対する大規模な透析(4℃/41℃)により除去する。最後に、サンプルを遠心分離して、沈殿した物質を除去する。
【0169】
POPC又はDPPCを含有するコール酸可溶化脂質溶液を、上記のとおり調製することができる。脂質混合物は、望ましい比率で脂質溶液を混合し、次いでそれぞれのTm(Tm=相転移温度)で保存することにより調製する。短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質の脂質粒子形成は、選択された脂質混合物のそれぞれのTm以外、純粋な脂質溶液について記載したとおり実施する。
【0170】
以下の脂質付加緩衝液について試験した:
1. 250mMの塩酸アルギニン、7.5%のスクロースを補充した50mMのリン酸カリウム緩衝液、pH7.5
2. 250mMの塩酸アルギニン、7.5%のスクロース、10mMのメチオニンを補充した50mMのリン酸水素二カリウム緩衝液、pH7.5
3. 140mMのNaCl、10mMのメチオニンを補充した、250mMのトリス−ヒドロキシルアミノメタン(TRIS)、pH7.5
4. 250mMの塩酸アルギニン、7%のトレハロース、10mMのメチオニンを補充した50mMのリン酸水素二カリウム緩衝液、pH7.5。
【0171】
短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質サンプルから形成された脂質粒子の均質性を、分析SECによって評価することができる。全体として、脂質付加緩衝液の選択は、リン脂質の選択と比べてわずかな効果しか有しない。DPPC−脂質粒子は、1つの主ピークとして溶出するが、一方、POPC−脂質粒子は、2つのピークパターンを示す。脂質粒子形成は、脂質付加緩衝液に関係なく実現可能であることが示された。試験した様々な緩衝液の中でも、最も適切な脂質付加緩衝液は、250mMのTris、140mMのNaCl、10mMのメチオニン、pH7.5であると同定された。
【0172】
脂質付加混合物は、規定の量の融合タンパク質を含有しており、そしてそれぞれのリン脂質、例えばPOPCの量は、それに応じて算出される。脂質のモル量の計算は全て、短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質単量体に基づく。
【0173】
SEC−MALLS分析を用いて、脂質粒子の均質性及びそのアポリポプロテイン−リン脂質組成に関するより詳細な情報を得ることができる(タンパク質−コンジュゲート分析)。
図11は、SECで分割されたサンプルの典型的なクロマトグラム(UV280検出)を示す。ここで、1:160サンプルは、3つの分離ピークに分割される。1:80サンプルは、ダブルピークとして示されるとおり、異なるサイズの少なくとも2つの種を含有すると思われた。サンプル1:20から得たピークは、最も均質な生成物を示す。
【0174】
タンパク質コンジュゲート分析により、SECカラムから溶出した各脂質粒子について、タンパク質の総分子量(MWタンパク質)及び脂質成分の総分子量(MW脂質)の計算を可能にした。短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質単量体(32.7kDa)及びPOPC(760Da)の分子量に基づいて、脂質粒子の組成を算出することができた(n タンパク質及びn POPC)。全てのモル比において脂質粒子主ピークでみられるアポリポプロテイン構成要素の分子量は、およそ100kDaであり、これは、脂質粒子1個当たり短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質三量体に相当する。比率n(POPC)/n(タンパク質単量体)から、脂質粒子中の短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質単量体1個当たりのPOPC分子の数を得る。短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質単量体1個当たりのPOPC分子の数は、変動する。タンパク質(%)の値は、脂質付加の程度のパラメータである。脂質粒子中のタンパク質の割合が低ければ低いほど、脂質付加の程度が高い。
【0175】
b) POPC及びDPPC及びコール酸ナトリウムを用いるリフォールディング及び脂質粒子形成のための迅速希釈法
短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質を大腸菌で発現させ、そして実施例1〜3に従って精製する。精製後、250mMのTris、140mMのNaCl、6.7Mのグアニジン塩酸塩を含有する溶液(pH7.4)に対するダイアフィルトレーションによって緩衝液を交換する。タンパク質濃度を約30mg/mLに調整した。
【0176】
2つの別個の脂質原液を調製する。溶液Aは、100mol/LのPOPCを、250mMのTris−HCl、140mMのNaCl、135mMのコール酸ナトリウムを含有する緩衝液(pH7.4)に室温で溶解することにより調製する。溶液Bは、100mol/LのDPPCを、250mMのTris−HCl、135mMのコール酸ナトリウム、pH7.4に41℃で溶解することにより調製する。脂質原液AとBとを3:1の比で混合して、そして室温で2時間インキュベートする。脂質原液混合物384mLを、250mMのTris−HCl、140mMのNaCl、pH7.4の6,365mLに希釈することにより、リフォールディング緩衝液を調製する。この緩衝液を室温で更に24時間撹拌する。
【0177】
リフォールディング及び脂質粒子形成を、短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質750mL(250mMのTris、140mMのNaCl、6.7Mのグアニジン塩酸塩の溶液(pH7.4)を含む)を、リフォールディング緩衝液に添加することにより、開始させる。これにより、グアニジン塩酸塩は1:10に希釈される。常に撹拌しながら、溶液を室温で少なくとも12時間インキュベートする。界面活性剤の除去を、ダイアフィルトレーションによって実施する。
【0178】
c) 変性又は未変性タンパク質から出発する脂質粒子形成
項目a)に報告した方法(第1の方法)は、脂質粒子形成のために未変性アポリポプロテインを必要とするが、一方、項目b)に報告する方法(第2の方法)は、脂質粒子形成のために完全に変性されたアポリポプロテインで出発する。
【0179】
例示的な第1の方法では、6.7Mのグアニジン塩酸塩、50mMのTris、10mMのメチオニン、pH8.0中の変性され短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質を、250mMのTris、140mMのNaCl、10mMのメチオニンからなる緩衝液(pH7.5、タンパク濃度3.46mg/mL)に対して大規模に透析する。次いで、POPCとコール酸との混合物を添加して、溶液中の最終濃度をPOPC6mM及びコール酸8mMにしたとする。これは、短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質単量体1分子当たりPOPC60分子の比率に相当する(60:1)。次いで、界面活性剤をダイアフィルトレーションによって除去する。形成されたタンパク−脂質複合体の分析をSEC−MALLSにより行う。この方法を使用すると、不均一な生成物が形成される。
【0180】
例示的な第2の方法では、6.7Mのグアニジン塩酸塩、50mMのトリス、10mMのメチオニン、pH8.0中の変性され短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質を、脂質付加緩衝液で1:10(v/v)に直接希釈して、タンパク質濃度2.5mg/mLを得る。脂質付加緩衝液は、6mMのコール酸及び4.5mMのPOPCからなっており、これは、脂質のタンパク質に対する比60:1に相当する。この方法を使用すると、均一な生成物が形成される。
【0181】
d) 25%DPPC/75%POPC
脂質粒子形成を、この実施例の項目a)において報告したとおり、以下のパラメータを用いて実施した:
タンパク質: 短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タ ンパク質
脂質付加緩衝液: 250mMのTris−HCl、140mMのNaCl、10mMのメチ オニン、pH7.5
脂質付加: 18℃で
透析: 室温で
試験したモル比: 1:60
【0182】
脂質粒子形成は、簡単であった。以下の表中、SEC結果のまとめを示す(割合は、AUCの積分によって算出した)。
【0183】
【表6】
【0184】
短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質の脂質粒子の形成のために、25%DPPCと75%POPCとの脂質混合物を使用して、均質な生成物を、モル比1:60(タンパク質:リン脂質)で得た。以下の表中、25%DPPC/75%POPC、及び短縮されたテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質(タンパク質のリン脂質に対するモル比1:60)の脂質粒子のタンパク質コンジュゲート分析のまとめを示す。
【0185】
【表7】
【0186】
実施例5
アポリポプロテインの応用
a) LCAT活性に対するDPPC及びPOPCの影響
パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC)又はジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)のいずれかと、組換え野性型アポリポプロテインA−I又はテトラネクチン−アポリポプロテインA−Iのいずれかとを含む脂質粒子を、LCATによるコレステロールのエステル化を支持する能力について試験することができた。
【0187】
トリチウム標識したコレステロール(4%;モルベースでホスファチジルコリン含量に対して)を、エタノール性コレステロール溶液を添加することによって、脂質粒子に組み込む。LCATによって触媒されるコレステロールのエステル化を支持する、結果として生じるタンパク質−脂質複合体の能力を、125μL(10mMのTris、150mMのNaCl、1mMのEDTA、1mMのNaN
3;pH7.4;2mg/mLのHuFAFアルブミン;4mMのβメルカプトエタノール)中の0.2μg/mLの組換え型LCAT酵素(ROAR biochemical)の存在下で、37℃で1時間試験する。クロロホルム:メタノール(2:1)の添加によって反応を停止させ、脂質を抽出する。エステル化の「割合」は、TLC及びシンチレーション計数により、コレステロール−コレステリルエステル分離後に算出する。形成されたエステル中にトレーサの20%未満しか組み込まれていなかったとき、反応速度が実験条件下で一定であるとみなすことができる。例示的データは、XLfitソフトウェア(IDBS)を使用して、Michaelis Mentenの等式に当て嵌める。配列番号01のアミノ酸配列及びさらなるN末端アラニンアミノ酸残基を有するテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質を用いて得られた結果の視覚化のために、
図3を参照されたい。
【0188】
b) LCAT活性に対するDPPC/POPC混合物の影響
組換え型野性型アポリポプロテインA−Iと
3Hコレステロール、DPPC/POPC混合物及びコール酸とをモル比1:4:80:113で混合することにより、界面活性剤としてコール酸を使用して、脂質粒子を調製する。DPPC/POPC混合物は、100%POPC;75%POPC;50%POPC;25%POPCのいずれかを含有していた。
【0189】
透析によりコール酸を除去した後、LCATによって触媒されるコレステロールのエステル化を支持する、結果として生じるタンパク−脂質複合体の能力について試験する。
3Hコレステロール(4%;モルベースでホスファチジルコリン含量に対して)を、エタノール性コレステロール溶液を添加することによって、脂質粒子に組み込む。LCATによって触媒されるコレステロールのエステル化を支持する、結果として生じるタンパク−脂質複合体の能力を、125μL(10mMのTris、150mMのNaCl、1mMのEDTA、1mMのNaN
3;pH7.4;2mg/mLのHuFAFアルブミン;4mMのβメルカプトエタノール)中の0.2μg/mLの組換え型LCAT酵素(ROAR biochemical)の存在下で、37℃で1時間試験する。クロロホルム:メタノール(2:1)の添加によって反応を停止させ、脂質を抽出する。エステル化の「割合」は、TLC及びシンチレーション計数により、コレステロール−コレステリルエステル分離後に算出する。エステルにトレーサの20%未満しか組み込まれていなかったとき、反応速度が実験条件下で一定であるとみなすことができる。例示的データは、XLfitソフトウェア(IDBS)を使用して、Michaelis Mentenの等式に当て嵌め、そして配列番号01のアミノ酸配列及びさらなるN末端アラニンアミノ酸残基を有するテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質について
図4に示す。
【0190】
c) THP−1に由来する泡沫細胞へのコレステロール排出
ヒトTHP−1細胞のようなマクロファージを、ホルボールミリステートアセテートにTHP−1単球性白血病細胞を曝露することにより得ることができる。次いで、
3Hコレステロールトレーサを含有するアセチル化LDLの存在下で、細胞に更なる培養物を添加する。その後、これらモデル泡沫細胞をコレステロールアクセプター試験化合物に4時間〜8時間曝露する(以下を参照されたい)。
【0191】
細胞培養上清を採取し、そして細胞を5%のNP40に溶解させる。排出分率は、細胞と上清とにおける放射活性の合計に対する上清におけるコレステロール放射活性の比率として算出する。アクセプターを含有していない媒体に曝露された細胞からの排出を減じ、そして、線形適合によって排出速度を算出する。排出速度は、参照として細胞から10μg/mLの野性型アポリポプロテインA−Iへの排出を使用して標準化した(相対的な排出速度)。2つの別個の実験において得られた相対的な排出速度を、コレステロールアクセプター濃度の関数としてプロットし、そしてデータをMichaelis Mentenの等式に当て嵌めることができる。
【0192】
ABCA−1輸送体をアップレギュレートし、そしてコレステロール輸送をABCA−1媒介排出に偏らせることが知られているRXR−LXRアゴニストに曝露された細胞を使用して、並行実験を実施することができる。
【0193】
脂質混合物の影響は、配列番号01のアミノ酸配列及びさらなるN末端アラニンアミノ酸残基を有するテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質を用いる一連の試験において僅かしか観察されなかった(
図5に示した例示的データ)。
【0194】
d) インビボ研究
配列番号01のアミノ酸配列及びさらなるN末端アラニンアミノ酸残基を有するテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質を含む、5つの脂質粒子変異体について試験する:
i)POPCのみ
ii)DPPCのみ
iii)POPC:DPPC 3:1
iv)POPC:DPPC 1:1
v)DPPC:SM 9:1。
【0195】
ウサギに、80mg/kgで0.5時間かけて静脈内注射を行い(n=ウサギ3匹/試験化合物)、次いで注射後96時間連続して血液をサンプリングする。
【0196】
ELISA用いるアポリポプロテインレベルの分析:
− 薬物レベル
− 肝酵素、コレステロール、コレステロールエステルの血漿値に対するデータ。
【0197】
血漿濃度は、試験した組成物全てについて非常に類似しており、それほど顕著ではない初期「分布」相に続いて、濃度の対数線形下降を示す(
図7)。以下の表は、配列番号01のアミノ酸配列及びさらなるN末端アラニンアミノ酸残基を有するテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質の薬物動態学的データを示す。
【0198】
【表8】
【0199】
測定した薬物動態学的(PK)パラメータは、試験した化合物全てについて類似している。また、個体間差は低いことが見出された。測定された半減期は約1.5日であり、すなわち、野生型のアポリポプロテインA−Iに比べて増大している。分布容積は、血漿容積(ウサギでは約40mL/kg)に類似している。
【0200】
f) コレステロール動員
血漿中においてコレステロールは動員され、そしてエステル化される。テトラネクチン−アポリポプロテインA−Iが既に減少し始めた後でさえも、血漿コレステロールエステルレベルは上昇し続ける。血漿テトラネクチン−アポリポプロテインA−Iレベルが約0.5mg/mL(正常な野性型アポリポプロテインA−Iの約50%)まで減少しても、コレステロールエステルレベルの増加を、配列番号01のアミノ酸配列及びさらなるN末端アラニンアミノ酸残基を有するテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質について依然として検出することができる(
図8)。
【0201】
g) 肝酵素放出
POPCを含有する、配列番号01のアミノ酸配列及びさらなるN末端アラニンアミノ酸残基を有するテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質を含む脂質粒子は、肝酵素の放出を誘導しない(
図1を参照のこと)。ウサギと同様に、POPC又はPOPC/DPPC混合物を含有するテトラネクチン−アポリポプロテインA−Iの単回i.v.(静脈内注射)は、マウスにおいて安全である。1:3のモル比でDPPC:POPCを含有するアポリポプロテイン組成物は、POPC単独と同等である(
図9)。
【0202】
5つの調製物のいずれにおいても、注射の2時間後まで著しい溶血は観察されない。テトラネクチン−アポリポプロテインA−Iをi.v.適用した2時間後に得られた血漿サンプルにおいて、溶血は測光法で赤色として測定される。全血(0.44%のTriton X-100−最終濃度によって作製した)の100%溶血を、キャリブレーションに使用する(
図10)。
【0203】
h)ヒト臍帯静脈内皮細胞に対するテトラネクチン−アポリポプロテインA−Iの抗炎症作用
5〜10継代培養したHUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)を、それぞれのテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質(配列番号01のアミノ酸配列及びさらなるN末端アラニンアミノ酸残基を有するテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質)調製物中で16時間インキュベートし、そしてTNFαで最後の4時間刺激する。VCAM1表面発現は、FACSによって特異的抗体で検出される。
【0204】
実施例6
脂質粒子の安定性
N末端ヒスチジンタグ及びIgAプロテアーゼ切断部位を含有する野生型のアポリポプロテインA−Iを大腸菌において発現させ、そして、上記の実施例において報告したとおりカラムクロマトグラフィーによって精製することができる。ヒスチジンタグは、IgAプロテアーゼ切断によって除去し、その結果、配列番号02のアミノ酸配列及びさらなるN末端アラニンアミノ酸残基を有するテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質を得る。タンパク質のLipoid S100大豆リン脂質混合物に対する比1:150を使用して、脂質粒子(HDL粒子)を構築する。粒子は、5mMのリン酸ナトリウム及び1%のスクロースを含有する緩衝液(pH値7.3)中で保存する。SE−HPLCにより、10日間の脂質付加及びインキュベートの後、インキュベート時に3つの別個のピークが明らかになった。40℃でインキュベートした後、保持時間10.8分において主なピークを検出することができ(総タンパク量の47%)、これは、5℃で保存したサンプルでは存在しない。前記10.8分のピークは、タンパク質の不安定化により可溶性の高分子量アセンブリが形成されたことを示す。
【0205】
POPC:DPPC混合物(POPC:DPPCの比、3:1)から出発して得られた配列番号01のアミノ酸配列及びさらなるN末端アラニン残基を有するテトラネクチン−アポリポプロテインA−I融合タンパク質を含有するHDL粒子も、5℃及び40℃でインキュベートする。高温におけるインキュベートでは、わずかな程度のプレピーク形成が導かれるが、10.8分での高分子量アセンブリには有意なシフトはみられない(11分で<2%の増加)。これは、野生型のアポリポプロテインA−Iを含有する粒子に比べて、当然、HDL粒子の安定性が改善されたことを示す。
【0206】
実施例7
コレステロール動員
コレステロールが血液へ動員される効率は、アポリポプロテインをインビボで投与した後に、総コレステロール濃度とアポリポプロテイン濃度とのそれぞれの可動域を比較することにより測定することができる。定量的評価については、基準線補正された総コレステロールの濃度−時間曲線下面積(AUC)及びアポリポプロテインの濃度−時間曲線下面積の指数を算出した。
【0207】
この実験では、以下の物質を分析した:
− 大腸菌において発現させ、そして上記の実施例において報告したとおりカラムクロマトグラフィーによって精製した、N末端ヒスチジンタグ及びIgAプロテアーゼ切断部位を含有する野生型のアポリポプロテインA−I; ヒスチジンタグは、IgAプロテアーゼ切断によって除去した;タンパク質のLipoid S100大豆リン脂質混合物に対する比1:150を使用して、脂質粒子(HDL粒子)を構築した、
− アポリポプロテインA−I Milano変異体; タンパク質のPOPCに対する比1:40を使用して、脂質粒子(HDL粒子)を構築した、
− 配列番号02のテトラネクチン−アポリポプロテインA−I; タンパク質のPOPC及びDPPC(POPCとDPPC、比3:1)に対する比1:60を使用して、脂質粒子(HDL粒子)を構築した。
【0208】
3つのHDL粒子をラットに適用した。それぞれのAUC比率について得られた値を、下記の表に示す。
【0209】
【表9】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]