特許第6207522号(P6207522)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207522
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】液−液抽出によるバニリンの精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 45/81 20060101AFI20170925BHJP
   C07C 45/80 20060101ALI20170925BHJP
   C07C 47/58 20060101ALI20170925BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20170925BHJP
   A61K 8/35 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   C07C45/81
   C07C45/80
   C07C47/58
   A61Q13/00 101
   A61K8/35
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-546517(P2014-546517)
(86)(22)【出願日】2012年12月13日
(65)【公表番号】特表2015-507615(P2015-507615A)
(43)【公表日】2015年3月12日
(86)【国際出願番号】EP2012075456
(87)【国際公開番号】WO2013087795
(87)【国際公開日】20130620
【審査請求日】2015年11月12日
(31)【優先権主張番号】1161681
(32)【優先日】2011年12月15日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】508079739
【氏名又は名称】ローディア オペレーションズ
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(72)【発明者】
【氏名】ヴィベール, マルティーヌ
(72)【発明者】
【氏名】コニャック, コリン
(72)【発明者】
【氏名】エチェバルネ, アラン
【審査官】 黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第02449364(US,A)
【文献】 特開平11−069990(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第1250083(CN,A)
【文献】 特開昭56−092233(JP,A)
【文献】 特開平02−172940(JP,A)
【文献】 実験化学講座,第5版第4巻,第90−93頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物を含有する、溶媒S1中バニリンまたはバニリングリコシドの溶液で出発して、バニリンおよびバニリングリコシドを精製する方法であって、以下の工程:
a)溶媒S1を水の存在下で蒸発させて、バニリンまたはバニリングリコシドの水溶液を得る工程と、
b)工程a)後に得られた水溶液を溶媒S2と、8を上回り10未満のpHで接触させることによって液/液抽出して、有機相ならびにバニリンまたはバニリングリコシドおよび残留溶媒S2を含む水相を得る工程と、
c)工程b)で得られた前記水相中に含まれるバニリンまたはバニリングリコシドを、4〜7.5のpHで沈殿させる工程と、
d)バニリンまたはバニリングリコシドを単離する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記工程b)が、弱塩基または強塩基を添加する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶媒S2が、溶媒S1と異なるか、または溶媒S1と溶媒S2が同一である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶媒S1が、100℃未満の沸点を有するか、または100℃未満の沸点を有する、水との共沸混合物を形成する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒S1が、酢酸アルキル(酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル)、MEK(メチルエチルケトン)、シクロヘキサンおよびジクロロメタンから選択される、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記溶媒S2の水中最大重量含有量が、70g/lに等しい、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶媒S2が、ジクロロメタン、シクロヘキサン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソアミル、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ブタノール、Rhodiasolv(登録商標)RPDE(アジピン酸ジメチル、コハク酸ジメチルおよびグルタル酸ジメチルの混合物)、またはこれらの溶媒の混合物から選択される、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記溶媒S2が、酢酸イソプロピルである、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記液/液抽出工程が、8.5〜9のpHで行われる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記塩基が水に希釈され、前記塩基が希釈される前記水溶液の重量に対して、5重量%〜30重量%の濃度にされる、請求項〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記工程b)が、溶媒S2の質量とバニリンの質量の質量比0.2〜3で行われる、請求項〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記液/液抽出工程後に得られた前記水相が、残留溶媒S2を除去する工程にかけられる、請求項〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記沈殿工程の間のpHが、5.7〜6.5である、請求項〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記工程d)が、フィルタまたはスピン乾燥器で固体バニリンを回収する少なくとも1つの工程、続いて、水で洗浄する1つまたは複数の工程からなる、請求項〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
工程d)後に、水またはアルコール/水混合物からバニリンを再結晶する工程を含む、請求項〜14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バニリンおよびその誘導体、とりわけ、発酵由来の天然バニリンを精製する方法に関する。本発明の目的上、「バニリン誘導体」という用語は、特にバニリングリコシドを意味する。
【背景技術】
【0002】
バニリンは、香味料および/または芳香剤として多くの利用分野で広く使用されている製品である。したがって、バニリンは、食品及び動物産業で大量に消費されているが、それはまた、他の分野、例えば、製剤業または香料製造業でも用途を有する。結果として、それは、大量生産される製品である。
【0003】
香味料の用途との関連において、使用される製品が「天然製品」と指定されることが益々重要になっている。欧州および米国における規制によれば、これは、その化合物が物理的、酵素的または微生物学的方法によって、および植物または動物起源の材料からだけから得られなければならないことを意味する。
【0004】
したがって、バニリンの精製に関する研究は、天然で、安価であり、かつ再生可能な原料の使用に集中している。この関連において、多くの特許出願が、微生物または酵素によるバニリンの生産に関係している。一般に、適切な前駆体が、微生物または酵素を介してバニリンに変換される。用いられる前駆体のうちで、とりわけ、ユージノールもしくは関連分子(例えば、イソユージノール)、フェルラ酸、クルクミンまたはタイ(Thai)ベンゾイン樹脂を挙げることができる。しかしながら、これらの方法について得られる収率は、一般に非常に低い。
【0005】
これらの方法のすべてのうちで、挙げることができる一例は、特許出願欧州特許第0761817号明細書に記載された発酵方法であり、フェルラ酸で出発して発酵にアミコラトプシス(Amycolatopsis)属の2種の菌株を使用することについて記載している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バニリンおよびその誘導体、とりわけ、天然バニリンを調製する方法を最適化する大きな必要性が依然としてある。
【0007】
したがって、本発明の目的は、バニリンの非常に高い収率、とりわけ、80%を超える、さらには90%を超える収率でバニリンを精製する方法を提供することである。
【0008】
本発明の目的はまた、非常に高い力価、とりわけ、97%を超える、さらには100%に等しい力価でバニリンを得ることを可能にするバニリンを精製する方法を提供することである。
【0009】
本発明の目的はまた、工業的規模で商品化された製品の形態でバニリンまたはその誘導体を得る方法を提供することであり、このようにして得られた製品は、規制の意味の範囲内で天然である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による方法およびそれが実施する工程は、香味料規制番号第1334/2008/ECに準拠して行われる。
【0011】
したがって、本発明は、不純物を含有する、溶媒S1中バニリンまたはバニリン誘導体の溶液で出発して、バニリンおよびその誘導体を精製する方法であって、以下の工程:
a)溶媒S1を水の存在下で蒸発させて、バニリンまたはバニリン誘導体の水溶液を得る工程と、
b)工程a)後に得られた水性溶液を溶媒S2と、8を上回り10未満のpHで接触させることによって液/液抽出して、有機相ならびにバニリンまたはバニリン誘導体および残留溶媒S2を含む水相を得る工程と、
c)工程b)後に得られた水相中に含まれるバニリンまたはその誘導体を、4〜7.5のpHで沈殿させる工程と、
d)バニリンまたはその誘導体を単離する工程と
を含む、方法に関する。
【0012】
本発明の方法は、不純物および溶媒(S1)を含有する、バニリンまたはその誘導体の溶液を精製することにある。これらの不純物のうちで、挙げることができる例には、安息香酸、バニリルアルコールおよびグアイアコール、ならびにそれらの混合物がある。バニリン溶液はまた、他の不純物、特にバニリン酸、フェルラ酸、数個のフェニル基(一般に2個または3個のフェニル基)をもつ主鎖を有する化合物、および他の重質化合物を場合によって含有してもよい。2個のフェニル基を有する前記化合物は、本発明において2量体と呼ばれる。それらは、特に、フェニル基に置換基を有する、ジフェニルメタンおよびその誘導体である。2量体中に存在するフェニル基は、有利には炭素系鎖、またはヘテロ原子、例えば、酸素を有する鎖で隔てられる。フェルラ酸単位を含む特定の2量体は、有利には前記バニリン溶液中に存在する。有利にはバニリン溶液中に存在する2量体は、以下の式:
【化1】
を有する。
【0013】
初期のバニリン溶液(粗バニリン)中の不純物/バニリン重量比は、一般に0.10〜0.35、好ましくは0.15〜0.35である。したがって、本発明の方法は、最終バニリン力価を増加させるためにこれらの不純物を除去することにある。
【0014】
この精製されるバニリン溶液は、「出発バニリン溶液」または「初期バニリン溶液」または「粗バニリン」とも呼ばれる。
【0015】
本発明による方法は、不純バニリン溶液から、高い力価を有して固体形態でバニリンを得ることを可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による方法の有利な実施形態によれば、溶媒S1中バニリンの溶液は、発酵プロセスに由来する。とりわけ挙げることができる発酵方法は、欧州特許第0761817号明細書に記載された方法である。
【0017】
一実施形態によれば、粗バニリンは、フェルラ酸の発酵およびその発酵の安定化の間に形成される不純物を含有するバニリン溶液である。
【0018】
本発明による方法は、バニリン誘導体、例えば、バニリングリコシド、とりわけ、バニラポッドから抽出された天然起源のバニリングリコシドの精製にも適している。
【0019】
本発明による方法は、連続式操作または回分式操作によって行われる。
【0020】
回分式操作によって行われる場合、本発明による方法、特に前記工程a)、工程b)および工程c)は、同じチャンバーで優先的に行われ、このチャンバーは、有利には少なくとも1つの凝縮器が取り付けられている少なくとも1つの蒸留塔を備えている。
【0021】
工程a)水の存在下での溶媒S1の蒸発
本発明の方法は、初期のバニリン溶液またはバニリン誘導体の溶液中に存在する溶媒S1を蒸発させることによって除去することを含む工程a)を含む。本発明による方法によれば、前記蒸発工程は、水の存在下で行われる。好ましくは、溶媒S1は、100℃未満の沸点を有するか、または100℃未満の沸点を有する、水との共沸混合物を形成する。
【0022】
溶媒S1のうちで、挙げることができる例としては、規則により認められた有機溶媒、例えば、酢酸アルキル(酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル)、MEK(メチルエチルケトン)、シクロヘキサンおよびジクロロメタンがある。溶媒S1はまた、水であってもよい。
【0023】
溶媒S1はまた、有機溶媒の混合物、とりわけ、上に挙げられた有機溶媒の混合物、または水と有機溶媒との混合物であってもよい。
【0024】
好ましい実施形態によれば、溶媒S1は酢酸エチルである。
【0025】
好ましくは、初期バニリン溶液中で、バニリンの質量濃度は、前記溶液の全質量に対して10%〜60%、より優先的には10%〜40%、さらにより優先的には10%〜35%である。本発明による工程a)は、溶媒S1を除去して、バニリンの水溶液を得ることにあり、ここで、バニリンの質量濃度は、前記溶液の全質量に対して好ましくは5%〜40%、より好ましくは5%〜35%、さらにより好ましくは5%〜25%である。
【0026】
本発明による方法によれば、蒸発工程a)は、前記蒸発工程の実施の前および/または間に初期バニリン溶液に添加される水の存在下で行われる。
【0027】
好ましい実施形態によれば、工程a)との関連において、粗バニリンの溶媒S1は、水の存在下で、蒸発によって、例えば、蒸留によって、または蒸発器を用いることによって除去され、その結果、バニリンおよび不純物は、最終的には水相中で溶解性または不溶性形態になる。蒸留による蒸発の場合、溶媒S1は、大気圧で、もしくは真空下に、または代替として大気圧で、次いで真空下に蒸留除去され得る。
【0028】
水は、初期バニリン溶液に1回または複数回に分けて添加されてもよい。消費に適する水(例えば、水道の水)を用いることが好ましい。以下に記載されるとおりに、本発明による方法に由来して、消費に適する再生利用水(例えば、洗浄水、または結晶化もしくは沈殿用母液)を用いることも可能である。
【0029】
前記蒸発工程a)の実施の前および/または間に初期バニリン溶液に有利には添加される水の量は、工程a)後に得られる水溶液中のバニリンの質量濃度が、有利には前記溶液の全質量に対して5重量%〜40重量%、非常に有利には5重量%〜35重量%、さらにより有利には5重量%〜25重量%であるような量である。好ましくは、この質量濃度は、10重量%〜15重量%である。前記工程a)後に得られるバニリンの水溶液は、発酵中に形成される不純物、より一般的には蒸発工程にかけられるバニリン溶液中に存在するものを含有する。
【0030】
好ましくは、前記蒸発工程a)は、60〜120℃、非常に優先的には80〜120℃の温度で行われる。
【0031】
工程b)− 液/液抽出
工程a)後、得られたバニリンまたはバニリン誘導体の水溶液は、特定のpH条件下で液/液抽出工程にかけられる。
【0032】
この抽出工程に用いられる溶媒は、以下で溶媒S2と呼ばれる。
【0033】
この工程は、pKa差によってバニリンのある種の不純物を分離するために、制御されたpHで行われる。特に、前記工程b)は、バニリンのpKaよりも高いpKaを有する種によって形成される不純物を抽出するために行われる。これらの種は、例えば、バニリルアルコール、グアイアコール、およびある種の2量体または重質化合物である。前記工程b)による抽出は、全部であっても、一部であってもよい。本発明による方法の前記工程b)によれば、pHは、高収率のバニリンを得るように選択される。したがって、pHは、厳密には8を上回り10未満である。
【0034】
この制御されたpHでの抽出の工程の間に、プロトン化された種が溶媒S2により抽出され、有機層は主に溶媒S2を含む。次いで、バニリンは、バニリン酸塩の形態で水相中に残存する。本発明による方法の残部について、このようにして得られた水相が用いられる、すなわち、前記液−液抽出工程の後の工程は、バニリン酸塩を含む水相を用いて行われる。
【0035】
一実施形態によれば、抽出溶媒S2は、初期バニリン溶液中に存在する溶媒S1と異なる。
【0036】
別の実施形態によれば、溶媒S1と溶媒S2とは同一である。この実施形態は、本発明による方法の前記工程a)によって前記溶媒の単に一部の蒸発を行うこと、および前記液−液抽出工程を行うために非蒸発部分を用いることを特に可能にするので有利である。
【0037】
本発明による方法によれば、溶媒S1および溶媒S2は、優先的には食料品およびその成分の製造に用いられる抽出溶媒に関する指令2009/32/ECおよび指令2010/59/EUに準拠して効力のある規則によって許可された溶媒から選択される。
【0038】
本発明による方法の前記工程b)によれば、抽出溶媒S2は、水中まったくないもしくは非常に低い溶解度から中程度の溶解度を有する。より正確には、前記溶媒S2の水中最大重量含有量は、70g/lに等しい。溶媒S2が有機溶媒であることは言うまでもない。
【0039】
好ましくは、溶媒S2は、水中で低いまたは非常に低い溶解度を有する溶媒であり、すなわち、その水中最大重量含有量は、50g/lに等しく、優先的にはその水中最大重量含有量は、20g/lに等しい。溶媒S2はまた、水不溶性溶媒であってもよい。
【0040】
前記抽出溶媒S2は、有利には200℃未満、優先的には150℃未満の沸点を有する。
【0041】
本発明による方法の前記工程b)の実施に用いられる溶媒S2のうちで、挙げることができる例としては、ジクロロメタン、シクロヘキサン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソアミル、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ブタノール、Rhodiasolv(登録商標)RPDE(アジピン酸ジメチル、コハク酸ジメチルおよびグルタル酸ジメチルの混合物)、またはこれらの溶媒の混合物がある。
【0042】
有利な実施形態によれば、溶媒S2は、消費に適する溶媒から選択される。好ましくは、溶媒S2は、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソアミルおよびメチルイソブチルケトン(MIBK)、およびこれらの混合物からなる群から選択される。さらにより好ましくは、溶媒S2は、酢酸イソプロピルである。
【0043】
上に記載された特定のpH条件を得るために、一実施形態によれば、本発明による方法の工程b)は、塩基の添加を含み、前記塩基は、恐らくは弱塩基または強塩基のいずれかである。有利には、前記塩基は、鉱物塩基、より詳細には水溶性鉱物塩基から選択される。特に、前記塩基は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属重炭酸塩、アルカリ土類金属重炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ土類金属リン酸塩、アルカリ金属リン酸水素塩およびアルカリ土類金属リン酸水素塩、ならびにこれらの混合物からなる群から選択される。非常に有利には、前記塩基は、以下の鉱物塩基、すなわち、NaOH、KOHおよびNaCOから選択される。優先的には、NaOHまたはKOH、より特にはNaOHが、塩基として用いられる。
【0044】
この塩基添加工程は、8を上回り10未満のpHに液−液抽出工程のpHを調整することを可能にする。好ましくは、本発明による方法の工程b)による前記抽出工程は、8.1〜9.5、非常に優先的には8.3〜9.5、さらにより優先的には8.5〜9のpHで行われる。前記工程b)の実施のためのpHの制御は、本発明の方法の実施後に、最適収率を有する高純度バニリンの生成をもたらす。
【0045】
本発明による方法の工程b)によれば、前記塩基のバニリン溶液への添加は、溶媒S2の添加前、または溶媒S2の添加後に行われる。好ましい実施形態によれば、塩基は、バニリン溶液に急速に、好ましくは一度で添加される。
【0046】
本発明の方法の一実施形態によれば、塩基は、溶媒S2を場合によって含有してもよいバニリン溶液に、15℃〜60℃、好ましくは30〜50℃の温度で添加される。
【0047】
本発明の方法の一実施形態によれば、前記工程b)を行うために有利に用いられる塩基は水に希釈され、前記塩基が希釈される前記水溶液に対して5重量%〜30重量%の濃度にされる。
【0048】
本発明による方法によれば、前記工程b)は、有利には0.2〜3、好ましくは0.5〜3、優先的には0.6〜1.2の、溶媒S2の質量とバニリンの質量の質量比で行われる。
【0049】
液−液抽出工程は、好ましくは大気圧、および15〜40℃、優先的には20〜30℃の温度で行われる。好ましくは、前記抽出工程に、冷却工程が先行する。
【0050】
特定の実施形態によれば、塩基は、前記工程a)後に得られるバニリン溶液に15〜60℃、好ましくは30℃〜50℃の温度で添加され、次いで、この温度は、抽出のための溶媒S2を添加する前に優先的には15〜40℃、非常に優先的には20℃〜30℃の温度に低下される。
【0051】
工程b)後、有機相および水相が得られる。
【0052】
有機相は、不純物の一部、とりわけ、グアイアコール、バニリルアルコールおよび2量体、ならびに溶媒S2を含み、一方で水相は、水中バニリン、不純物の残部、例えば、フェルラ酸、バニリン酸、安息香酸および/またはフェルラ酸単位を含む特定の2量体、ならびに残留溶媒S2を含む。優先的には不純物を含まない、有機相に存在する溶媒S2は、有利には前記工程b)の再利用アップストリームである。
【0053】
本発明による方法の回分式操作によれば、次いで、有機相は、優先的には水相を回収するために安定させることによって分離させる。
【0054】
本発明による方法の連続式操作によれば、前記液/液抽出工程は、有利には一連のデカンティングミキサー、または撹拌され、パルス化され、もしくは充填された少なくとも1つの液/液抽出塔を用いることによって行われる。それはまた、静的ミキサー、次いで、有機相と水相とを連続的に分離するための遠心分離機を用いることによって連続的に行われてもよい。
【0055】
本発明による方法の有利な実施形態によれば、液−液抽出工程後に得られる水相は、残留溶媒S2を除去する工程(「ストリッピング」工程)にかけられて、本発明の方法後に得られるバニリンの品質を向上させる。
【0056】
このようなストリッピング工程は、とりわけ、ガス流体(例えば、水蒸気または二窒素、好ましくは二窒素)を注入し、および/または本発明による方法が行われるチャンバーの真空下に置くことによって、温和な条件下で行われる。
【0057】
優先的には、ストリッピング工程は、真空下に行われる。それは、有利には20℃〜50℃の温度で行われる。前記工程の継続時間は、例えば、40〜120分である。
【0058】
工程c)− 沈殿
工程b)後、バニリンまたはバニリン誘導体は、バニリン酸塩の形態で水溶液中に存在する。
【0059】
この溶液は、粗バニリン中に存在する大部分の不純物、特にそのpKaがバニリンのpKa未満である種を含有する。これらの種は、特にフェルラ酸、バニリン酸、安息香酸、およびフェルラ酸単位を含む特定の2量体である。
【0060】
本発明の方法による工程c)は、バニリン酸塩の形態でバニリンを含有する溶液のpHを低下させるために制御されたpHで行われる。pHを低下させることによって、バニリンは沈殿し、不純物は、母液と呼ばれる溶液中に残存する。
【0061】
本発明による方法の工程c)は、4〜7.5のpHで行われる。これらのバニリン沈殿条件は、沈殿工程後に得られる沈殿物中バニリンの適切な収率、および97%の最小限バニリン力価を得ることを可能にする。沈殿工程中のpHは、優先的には5〜7、非常に優先的には5.7〜6.5、さらにより優先的には5.8〜6.3である。
【0062】
本発明の方法による前記沈殿工程は、弱いまたは強い酸水溶液を用いて行われ、これは、本発明による方法の前記工程b)後に得られる前記水相中に導入される。好ましくは、バニリンと反応しない酸が用いられる。酸のうちで、とりわけ、その形成される塩が水溶性である酸を挙げることができる。好ましい実施形態によれば、上述の沈殿工程は、硫酸の存在下で行われる。
【0063】
本発明による方法の一実施形態によれば、前記工程c)は、好ましくは15℃〜40℃、優先的には25℃〜40℃の温度で行われる。有利には、前記沈殿工程は、大気圧で行われる。本発明による方法の前記実施形態によれば、前記工程c)は、前記工程b)後にデカンテーションによって得られる前記水相中へ、水溶液中に存在する酸を添加し、優先的には続いて、水性媒体を冷却し、それからバニリンが沈殿する工程を含む。冷却は、優先的には、温度が有利には20℃以下、優先的には15℃以下、好ましくは5〜15℃の温度に到達するまで行われる。
【0064】
本発明による方法の別の実施形態によれば、前記工程b)から得られる前記バニリン水相への酸の添加は、優先的には50〜95℃、非常に優先的には50〜70℃の温度、および優先的には0.012〜0.085MPa、非常に優先的には0.012〜0.03MPaの圧力で行われ、0〜5℃の温度までの制御された冷却が続く。前記冷却は、有利には0.006MPa〜0.008MPaの圧力への、制御された圧力の低下を伴う。冷却は、有利には内部交換器を用いて、および/または前記工程c)が行われる反応器が備えられているジャケット内の熱交換流体(特に水)の循環によって行われる。
【0065】
工程d)− バニリンの単離
前記工程c)後に沈殿物の形態で得られるバニリンまたはバニリン誘導体は、本発明による方法の工程d)で単離されて、その精製を向上させる。前記工程d)は、有利にはフィルタまたはスピン乾燥器で固体バニリンを回収する少なくとも1つの工程、続いて水で洗浄する1つまたは複数の工程、優先的には続いて少なくとも1つの乾燥工程からなる。
【0066】
前記沈殿工程c)から得られる固体バニリンは、フィルタまたはスピン乾燥器で回収される。残留不純物、とりわけ、硫酸塩を含む鉱物塩を除去するために、水による1回または複数回の洗浄が必要であり得る。
【0067】
次いで、バニリンは、有利には乾燥されて、その既存形態で販売される。それはまた、既知の方法によって粉砕されてもよく、および/または水もしくは水/アルコール混合物から再結晶されてもよい。
【0068】
本発明との関連において行われる洗浄工程および乾燥工程は、当業者に周知である標準的なプロトコルに従って行われる。
【0069】
したがって、一実施形態によれば、本発明の方法は、工程d)後に、水またはアルコール/水混合物からバニリンを再結晶させる工程を含んでもよい。このようにして得られたバニリンは、白色結晶の形態である。
【0070】
本発明との関連において、1つまたは複数の追加の再生利用工程を行うことによって収率をさらに向上させることが可能である。
【0071】
これらの追加の工程は、本発明の方法の間、例えば、抽出、沈殿または洗浄工程の間に得られる様々な流出物を再生利用することを含む。
【0072】
例えば、洗浄水(すなわち、洗浄工程後に回収される水)を再生利用すること、およびそれらをプロセス水として、すなわち、本発明の方法による前記蒸発工程a)の実施前におよび/または添加された水とともに、使用することが可能である。
【0073】
沈殿工程後に得られる母液中に含まれるバニリンの一部を回収することも可能である。この回収は、pHの調整、続いて、溶媒による抽出、または再濃縮および沈殿、または再濃縮および抽出のいずれかによって行われてもよい。
【0074】
抽出工程後に得られる有機相に含まれるバニリンの一部を、洗浄によって、回収することも可能である。
【0075】
以下の実施例は、本発明をさらに例証するが、決して限定するものではない。
【実施例】
【0076】
実施例1:抽出工程がジクロロメタン(DCM)を用いて行われるバニリン精製方法
19.3重量%のバニリン、1.4重量%のバニリルアルコール、6g(0.4重量%)の安息香酸および18.5g(1.1重量%)の他の不純物(とりわけ、グアイアコール、ジフェニルメタン型の2量体およびフェルラ酸単位を有する2量体、ならびに重質化合物)を含有する、1594gの粗バニリン溶液を、蒸留塔および凝縮器を備えたチャンバーに入れた。この溶液中に存在する溶媒は、酢酸エチルであり、粗バニリン溶液の重量残部に相当した。
【0077】
この溶液に860gの水を添加し、次いで、酢酸エチルからなる溶媒を100℃に等しい温度で、大気圧、次いで真空下で蒸留除去し、塔頂留分(head fraction)として回収した(1404g)。最後に、蒸発後にバニリンを含有する溶液に、1800gの水を添加した。このバニリン溶液に、360gに等しい量の水酸化ナトリウム(水中22重量%)を添加し、次いで、8.9に等しいpHを有する溶液を得た。この溶液を34℃に等しい温度で維持し、次いで、それを24℃に冷却させた。
【0078】
次に、200gのジクロロメタン(DCM)を添加し、次いで、抽出工程を24℃で行った。
【0079】
このようにして得た有機相は、主にジクロロメタンを含んだが、6gのバニリンおよび9gの不純物、特にバニリルアルコール、グアイアコール、ジフェニルメタン型の2量体および他の重質化合物も含んだ。
【0080】
次いで、バニリン酸塩の形態のバニリンおよび残留ジクロロメタンを含む水相を、窒素の注入とともに35℃で真空(150mmHg=0.2バール)下に2時間ストリッピングした。
【0081】
次いで、この水相に硫酸(HSO、水中50重量%)を添加して、29℃でpH=6.4を有する溶液を得た。温度を20℃に低下させることによって、次いで、沈殿物を得、これをろ別して、バニリンおよび不純物(特に安息香酸およびフェルラ酸単位を含む特定の2量体)を30g含有する、2750gの母液を回収した。
【0082】
最後に、得られた固体を750gの水で2回洗浄した。
【0083】
このようにして得たバニリンは、98.5%の力価を有し、0.1重量%未満のNaSOを含んだ。
【0084】
ストリームの再循環なしのバニリンの全収率({精製バニリン/粗バニリン溶液中に存在するバニリン}重量比)は85%であった。
【0085】
洗浄水および母液のバニリンの一部の再生利用によって、98%の最終力価とともに、収率は94%であった。
【0086】
実施例2:抽出工程が酢酸イソプロピルを用いて行われるバニリン精製方法
19.4重量%のバニリン、1.4重量%のバニリルアルコール、1重量%の安息香酸および5gの他の不純物(特に、バニリン酸、グアイアコール、ジフェニルメタン型の2量体およびフェルラ酸単位を含む特定の2量体、ならびに重質化合物)を含有する、200gの粗バニリン溶液を、蒸留塔および凝縮器を備えたチャンバー中で用いた。この溶液中に存在する溶媒は、酢酸エチルであり、粗バニリン溶液の重量残部に相当した。
【0087】
この溶液に290gの水を添加し、次いで、酢酸エチルからなる溶媒を100℃に等しい温度で、大気圧において蒸留除去し、塔頂留分として回収した(180g)。このバニリンの水溶液に、40gの水酸化ナトリウム(水中22重量%)を添加し、次いで、8.6に等しいpHの溶液を得た。この溶液を40℃に等しい温度で維持し、次いで、30℃に冷却させた。
【0088】
次に、39gの酢酸イソプロピルを添加し、次いで、抽出工程を30℃で行った。
【0089】
このようにして得た有機相は、主に酢酸イソプロピル含んだが、1.4gのバニリンおよび2gの不純物(特にバニリルアルコール、グアイアコール、2量体および重質化合物)も含んだ。
【0090】
次いで、バニリン酸塩の形態のバニリンおよび残留酢酸イソプロピルを含む水相を、窒素の注入とともに35℃で真空(150mmHg=0.2バール)下に2時間ストリッピングした。次いで、それを約25℃に冷却した。
【0091】
次いで、この水相に硫酸(HSO、水中50重量%)を添加して、25℃で6に等しいpHを有する溶液を得た。次いで、温度を18℃に低下させることによって、沈殿物を得、これをろ別して、2.5gのバニリンおよび6.4gの不純物(特にバニリン酸、安息香酸およびフェルラ酸単位を含む特定の2量体)を含有する、290gの母液を回収した。
【0092】
最後に、得られた固体を200gの水で2回洗浄した。
【0093】
このようにして得たバニリンは、99%の力価を有し、0.1重量%未満のNaSOを含んだ。
【0094】
ストリーム再循環なしのバニリンの全収率は80%であった。
【0095】
洗浄水および母液のバニリンの一部の再生利用によって、99%の最終力価とともに、収率は83%であった。
【0096】
例3(比較):抽出工程がpH=10.5で酢酸イソプロピルを用いて行われるバニリン精製方法
19.4重量%のバニリン、1.4重量%のバニリルアルコール、1重量%の安息香酸および5gの他の不純物(特に、バニリン酸、グアイアコール、ジフェニルメタン型の2量体およびフェルラ酸単位を含む特定の2量体、ならびに重質化合物)を含有する、200gの粗バニリン溶液を、蒸留塔および凝縮器を備えたチャンバー中で用いた。この溶液中に存在する溶媒は、酢酸エチルであり、粗バニリン溶液の重量残部に相当した。
【0097】
この溶液に290gの水を添加し、次いで、酢酸エチルからなる溶媒を100℃に等しい温度で、大気圧において蒸留除去し、塔頂留分として回収した(182g)。このバニリンの水溶液に、10.5に等しいpHを有する溶液が得られるまで22%の水酸化ナトリウムを添加した。この暗橙−茶色の溶液を40℃に等しい温度で維持し、次いで、30℃に冷却させた。
【0098】
次に、39gの酢酸イソプロピルを添加し、次いで、抽出工程を30℃で行った。
【0099】
このようにして得た有機相は、主に酢酸イソプロピルおよび少量の不純物(特にバニリルアルコール、グアイアコール、2量体および他の重質化合物)を含んだ。
【0100】
次いで、バニリン酸塩の形態のバニリンおよび残留酢酸イソプロピルを含む水相を、窒素の注入とともに35℃で真空(150mmHg=0.2バール)下に2時間ストリッピングした。次いで、それを約25℃に冷却した。
【0101】
次いで、この水相に硫酸(HSO、水中50重量%)を添加して、25℃で6に等しいpHを有する溶液を得た。温度を8℃に低下させた後でさえも、沈殿物は得られなかった。バニリン豊富溶液(12.5重量%)の分析は、有機不純物が多く、すなわち、特に、グアイアコール、バニリルアルコール、2量体および他の重質化合物の存在を検出したことを示した。バニリン酸および安息香酸も、得られたバニリン溶液中の不純物のうちに存在した。
【0102】
したがって、酸性化工程は、精製バニリンが単離されることを可能にしなかった。
【0103】
例4(比較):抽出工程がpH=7.5で酢酸イソプロピルを用いて行われるバニリン精製方法
19.4重量%のバニリン、1.4重量%のバニリルアルコール、1重量%の安息香酸および5gの他の不純物(特に、バニリン酸、グアイアコール、ジフェニルメタン型の2量体およびフェルラ酸単位を含む特定の2量体、ならびに重質化合物)を含有する、200gの粗バニリン溶液を、蒸留塔および凝縮器を備えたチャンバー中で用いた。この溶液中に存在する溶媒は、酢酸エチルであり、粗バニリン溶液の重量残部に相当した。
【0104】
この溶液に290gの水を添加し、次いで、酢酸エチルからなる溶媒を100℃に等しい温度で、大気圧において蒸留除去し、塔頂留分として回収した。このバニリンの水溶液に、7.5に等しいpHを有する溶液が得られるまで22%の水酸化ナトリウムを添加した。この溶液を40℃に等しい温度で維持し、次いで、30℃に冷却させた。
【0105】
次に、39gの酢酸イソプロピルを添加し、次いで、抽出工程を30℃で行った。
【0106】
このようにして得た有機相(55g)は、主に酢酸イソプロピルおよび31重量%のバニリン、ならびに不純物(特にバニリルアルコール、グアイアコール、2量体および他の重質化合物)を含んだ。
【0107】
次いで、バニリン酸塩の形態のバニリンおよび残留酢酸イソプロピルを含む水相を、窒素の注入とともに35℃で真空(150mmHg=0.2バール)下に2時間ストリッピングした。次いで、それを約25℃に冷却した。
【0108】
次いで、この水相に硫酸(HSO、水中50重量%)を添加して、25℃で6に等しいpHを有する溶液を得た。
【0109】
温度を18℃に低下させることによって、次いで、沈殿物を得、これをろ別して、安息香酸、バニリン酸および不純物(とりわけ、フェルラ酸単位を含む特定の2量体)を含有する、242gの母液を回収した。
【0110】
最後に、得られた固体を200gの水で2回洗浄した。
【0111】
このようにして得たバニリン(14g)は、98.7%の力価を有した。
【0112】
ストリーム再循環なしのバニリンの全収率({精製バニリン/粗バニリン溶液中に存在するバニリン}重量比)はわずかに35%であった。