(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
立体形状や複雑な形状を有する樹脂成形物は、一般に、射出成形により成形されている。射出成形によれば、所望の形状を有する成形物を大量生産することができる。しかし、高い寸法精度が求められる成形物を射出成形によって製造するには、高い寸法精度を有する高価な金型が必要となる。しかも、射出成形物は、射出成形後の収縮や残留応力によって変形しやすいため、成形物の形状や樹脂材料の特性などに応じて、金型形状を精密に調整する必要がある。射出成形では、不良率が高いため、製品がコスト高になることが多い。さらに、射出成形では、収縮や残留応力があるので、厚みの大きい成形物の成形が困難である。
【0003】
立体形状や複雑な形状を有する成形品を得るために、樹脂材料を押出成形して、平板、丸棒、パイプ、異型品などの各種形状を有する機械加工用素材(「切削加工用素材」と呼ぶことがある)を作製し、該機械加工用素材に切削、穴あけ、切断などの機械加工を施して所望の形状を持つ二次成形物を成形する方法が知られている。機械加工用素材を機械加工する方法は、高価な金型が不要なため、生産量の少ない成形物を比較的低コストで製造できること、成形物の仕様の頻繁な変化に対応できること、寸法精度の高い成形物が得られること、射出成形に適していない複雑な形状や大きな厚みを有する成形物を製造できることなどの利点を有している。
【0004】
しかし、いかなる樹脂材料や押出成形物でも、機械加工用素材に適しているわけではない。機械加工用素材には、例えば、肉厚で機械加工適性に優れること、残留応力が少ないこと、機械加工時に生じる摩擦熱により過度に発熱して変形や変色を起こさないこと、高精度で機械加工できることなど、高度の要求特性を満足することが求められている。
【0005】
高分子素材の機械加工には、一般に、金属材料に用いられている加工方法の大部分がそのまま利用されている。押出成形物であっても、通常のフィルムやシート、チューブなどの薄肉で柔軟性の大きなものは、切削加工などの機械加工に適していない。厚み若しくは直径が大きい平板または丸棒などの形状を有する押出成形物であっても、押出成形時の残留応力が大きすぎる押出成形物は、機械加工時や機械加工後に変形しやすく、寸法精度の高い二次成形物を得ることが困難である。残留応力を低減した押出成形物であっても、切削、穴あけ、切断などの機械加工時に割れやクラックを発生しやすいものは、機械加工用素材に適していない。
【0006】
押出成形によって機械加工に適した特性を有する機械加工用素材を得るには、樹脂材料の選択、押出成形方法などに工夫を凝らす必要がある。そのため、従来より、汎用樹脂やエンジニアリングプラスチックを含有する樹脂材料を用いて、機械加工用素材に適した押出成形物を製造するための押出成形方法について、様々な提案がなされている。
【0007】
例えば、特許文献1には、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネートなどのエンジニアリングプラスチックを含有する樹脂組成物を固化押出成形して、3mm超過の厚みまたは直径を有する機械加工用素材を製造する方法が開示されている。
【0008】
他方、環境にやさしい高分子材料として、分解性プラスチックが注目されており、フィルムやシートなどの押出成形物、ボトルなどのブロー成形物、射出成形物などへの用途展開がなされている。近年では、生分解性プラスチックの機械加工用素材への適用に対する要求も高まっている。
【0009】
ポリ乳酸は、代表的な生分解性プラスチックとして知られており、適度な分解速度を有していることから、用途や使用環境によっては好ましく使用される生分解性プラスチックである。また、ポリ乳酸は、トウモロコシなどの植物由来原料から採取した糖を発酵することで得られる乳酸を重合した高分子材料であることから、燃焼処理しても地球環境内で循環する温暖化効果ガスであるCO
2の排出量を増加させないカーボンオフセット性を有する。
【0010】
ところで、資源制約に対する関心の高まりから、石油(シェールオイル等)やガス(シェールガス等)などの炭化水素資源(本発明においては、単に「石油」ということがある。)を含む地層からの炭化水素資源を回収する坑井掘削を行うために設けられるダウンホール(地下掘削坑。油井またはガス井等の坑井を形成するために設ける孔)については、一層の高深度化と大型化が進んでいる。例えば、地下1,000mを超えるシェール層等に略水平に埋設して形成される水平坑井において、水圧破砕(フラクチャリング)を行う方法が普及している。水圧破砕によって形成した穿孔(フラクチャ)を目止めするボールシーラーや、水圧破砕を実施するためにダウンホールに設置される坑井掘削用のダウンホールツール(以下、単に「ダウンホールツール」ということがある。)であるフラックプラグ、ブリッジプラグ、パッカー、セメントリテイナー等の目止めプラグなどは、ダウンホールの先端近傍の箇所や以前に水圧破砕を行った箇所を目止めして、新たに、または再度の水圧破砕を実施して、穿孔(フラクチャ)を形成した後に、回収または破壊される。したがって、ボールシーラーや、目止めプラグ等のダウンホールツールに備えられる坑井掘削用ダウンホールツール部材(以下、単に「ダウンホールツール部材」ということがある。)には、水圧破砕や敷設に耐える強度(例えば、引張強度)を有するとともに、回収または破壊のコストや容易さが求められる。
【0011】
フラックプラグ、ブリッジプラグ、パッカー、セメントリテイナー等の目止めプラグ(以下、単に「プラグ」ということがある。)は、通常、プラグの芯棒(「マンドレル」ということもある。)の周囲にラバー製の目止め用部材を取り付けてなる構造のものであり、目止めプラグの目止め機構は、芯棒(マンドレル)の引張及び/または圧縮により、ラバーが変形することで目止め作用を発現する(特許文献2、3)。プラグの芯棒(マンドレル)の大きさは、ダウンホールの内径を最大として、周囲にラバー製の目止め用部材を取り付けることができる限り、任意の所定の外径に形成され、多くの場合70〜100mmである。また、プラグの芯棒(マンドレル)は、泥水を通すために多くは中空の形状であり、中空径は多くの場合10〜50mm、典型的には19.1mm(0.75インチ)、25.4mm(1インチ)、31.8mm(1.25インチ)であって、例えば、長さ約1,000mmのパイプ状の形状を主要部とし、両端部には芯棒(マンドレル)の引張及び/または圧縮を行うための治具を係合することができるように拡径部を備える形状等である。プラグの芯棒(マンドレル)の引張及び/または圧縮においては、約1,500〜5,000kgf(約14,700〜49,000N)、多くの場合、約2,000〜4,500kgf(約19,600〜44,100N)の高荷重が芯棒(マンドレル)にかけられ、特に、芯棒(マンドレル)の前記した拡径部(治具との係合部)には、2〜5倍の応力集中があるので、こうした高荷重に耐えられる強度を有する材料を選択する必要がある。
【0012】
水圧破砕の実施後は、目止め用部材を回収したり、開口部を形成するために芯棒(マンドレル)を破壊したりする方法が採用されている。該プラグの芯棒(マンドレル)としては、従来、鋳鉄等の金属が使用されていたので、目止めプラグの回収には高コストを要し、金属製の芯棒(マンドレル)の破壊にも困難さと高コストがあった。プラグの芯棒(マンドレル)としては、エポキシ樹脂複合材料等を使用することも行われるようになってきている。しかし、エポキシ樹脂複合材料等の樹脂複合材料は、強度が十分でないとともに、目止め用部材の回収に高コストを要することは同じであり、芯棒(マンドレル)を破壊した後の樹脂や強化材料(炭素繊維、金属繊維等)は非分解性であるので処理や廃棄が実質的に不可能であるという問題を備えている。
【0013】
また、ボールシーラーについても、従来は、必要に応じてシール性向上のためにゴム被覆したナイロン、フェノール樹脂等の非分解性プラスチックやアルミニウム等の非分解性材料からなり、直径16〜32mmという比較的小さいものが使用されてきた。しかし、近年、ダウンホールの高深度化と大型化に伴い、より大きな直径、例えば直径25〜100mm、または更に大径であって、高荷重に耐える強度を有するボールシーラーへの要求が広がっている。
【0014】
ダウンホールツール部材やボールシーラー(以下、「ダウンホールツール部材等」ということがある。)としては、使用後地上に回収することなく、ダウンホール中に残置しておくことにより崩壊させることが可能であることから、分解性プラスチックの利用が期待されている。具体的には、地下1,000mを超える環境(65℃を超える温度環境等)で十分な強度を有し、所望の形状のダウンホールツール部材等を形成することが可能であるとともに多様な深度環境(すなわち多様な温度環境)において分解可能であるような分解性プラスチック及びその成形物が求められるようになっている。
【0015】
しかしながら、多くは結晶性樹脂である分解性プラスチックを用いて、射出成形や圧縮成形、溶融押出成形等の汎用の樹脂成形方法によって、ダウンホールツール部材等の成形物を製造すると、賦形後(成形後)の熱収縮や結晶化に伴う収縮によりヒケやボイドが発生し、必要な寸法精度が得られなかった。そこで、ダウンホールツール部材等を得るために、分解性プラスチックから固化押出成形によって形成した厚みまたは直径が大きな固化押出成形物を切削等の機械加工する方法が注目されている。
【0016】
代表的な生分解性プラスチックであるポリ乳酸を、石油掘削等の坑井において使用することが知られている。特許文献4には、ポリ乳酸を含有する粘性の抗井処理流体、サンドコントロールスクリーンまたは被覆とともに、ポリ乳酸から形成した坑井内に配置される機械装置またはその部品が開示され、機械装置として、パッカー、ブリッジプラグまたはセメントリテーナー等が例示されている。
【0017】
特許文献4には、さらに、結晶性であるポリ−D−ラクチド(ポリ乳酸)から、射出成形で作製される棒状体の曲げ強度が、40〜140MPaの範囲であること、及び、固化押出により形成される棒状体は、200MPaまでの曲げ強度を有することが記載され、「Biomaterials 17(1996年3月、529〜535)」(非特許文献1)を参照している。非特許文献1には、“固化押出によるポリ乳酸の機械的特性の向上”として、Mv(粘度平均分子量)160,000のポリ−D−ラクチドからなる固化押出によって製造された断面円形の棒状体が記載され、具体的には径4mmの丸棒状体である固化押出成形物の降伏曲げ強度等の機械特性が開示されている。
【0018】
非特許文献1に具体的に開示されている径4mmの丸棒状体である固化押出成形物から、近年のダウンホールの高深度化と大型化に伴って要求される形状と大きさのダウンホールツール部材等を形成することはできない。そして、特許文献4または非特許文献1に開示されるポリ−D−ラクチドから形成した棒状体等の固化押出成形物は、ポリ乳酸のガラス転移温度が55〜60℃とされていることから、前記した地下1,000mを超える環境(65℃を超える温度環境等)で十分な強度を有し、所望の形状のダウンホールツール部材等を形成できるものであるかどうかは不明であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の課題は、切削、穴あけ、切断などの機械加工により所望形状の二次成形品、特に、地下1,000mを超える環境(65℃を超える温度環境等)で十分な強度を有し、所望の形状のダウンホールツール部材等を形成することができる分解性プラスチックの固化押出成形物及びその製造方法並びにその応用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、L−乳酸の比率が高いポリ乳酸を選択することによって、地下1,000mを超える環境(65℃を超える温度環境等)において、特許文献4に開示されるポリ−D−乳酸から形成した固化押出成形物からは予期できない優れた強度を有する固化押出成形物が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0023】
すなわち、本発明によれば、重量平均分子量が100,000〜380,000であり、温度240℃及び剪断速度120sec
-1で測定した溶融粘度が20〜2,000Pa・sであり、かつ、L体比率が80〜100%のポリ−L−乳酸を含有する樹脂材料からなる、10〜500mmの厚みまたは直径を有し、温度66℃における引張強度が5〜100MPaであるポリ−L−乳酸固化押出成形物が提供される。
【0024】
本発明の実施の態様として、樹脂材料が、全量基準で5〜70質量%の充填剤を含有するポリ−L−乳酸組成物である前記のポリ−L−乳酸固化押出成形物が提供される。
【0025】
また本発明によれば、重量平均分子量が100,000〜380,000であり、温度240℃及び剪断速度120sec
-1で測定した溶融粘度が20〜2,000Pa・sであり、かつ、L体比率が80〜100%のポリ−L−乳酸と、全量基準で5〜70質量%の充填剤とを含有する樹脂材料(樹脂材料の全量を100質量%とする。)からなり、10〜500mmの厚みまたは直径を有し、温度66℃における引張強度が5〜200MPaであるポリ−L−乳酸固化押出成形物が提供される。
【0026】
本発明によれば、実施の態様として、以下(1)〜(6)のポリ−L−乳酸固化押出成形物が提供される。
(1)充填剤が、繊維状充填剤である前記のポリ−L−乳酸固化押出成形物。
(2)充填剤が、100以上のアスペクト比を有する前記のポリ−L−乳酸固化押出成形物。
(3)樹脂材料が、前記のポリ−L−乳酸100質量部に対して、重量平均分子量が100,000〜380,000であり、温度240℃及び剪断速度120sec
-1で測定した溶融粘度が20〜2,000Pa・sであり、かつ、D体比率が80〜100%のポリ−D−乳酸40〜200質量部を含有する前記のポリ−L−乳酸固化押出成形物。
(4)前記のポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸が、ステレオコンプレックスを形成している前記のポリ−L−乳酸固化押出成形物。
(5)丸棒、中空または平板の形状を有する前記のポリ−L−乳酸固化押出成形物。
(6)機械加工用素材である前記のポリ−L−乳酸固化押出成形物。
【0027】
さらに、本発明によれば、機械加工用素材である前記のポリ−L−乳酸固化押出成形物を機械加工して形成した直径20〜200mmの坑井掘削用ボールシーラーまたは坑井掘削用ダウンホールツール部材が提供され、更にまた、該坑井掘削用ダウンホールツール部材を備える目止めプラグが提供される。
【0028】
そして、本発明によれば、前記の坑井掘削用ダウンホールツール部材を備える目止めプラグの具体的態様として、以下(i)〜(xiv)の坑井掘削用ダウンホールツール部材を備える目止めプラグが提供される。
(i)前記の坑井掘削用ダウンホールツール部材が、
a.マンドレル、
b.マンドレルの軸方向と直交する外周面上に置かれた1対のリング、並びに、
c.マンドレルの軸方向と直交する外周面上であって、1対のリングの間の位置に置かれたスリップまたはウエッジの一方または両方
からなる群より選ばれる少なくとも一つである前記の目止めプラグ。
(ii)マンドレルが、軸方向に沿う中空部を有する前記の目止めプラグ。
(iii)マンドレルが、マンドレルの直径に対する中空部の外径の比率が0.7以下である前記の目止めプラグ。
(iv)マンドレルと、1対のリングの一方のリングとが一体に形成されている前記の目止めプラグ。
(v)マンドレルの外周面の加工部分の曲率半径が0.5mm以上である前記の目止めプラグ。
(vi)マンドレルの外周面が、金属で保護されている箇所を有する前記の目止めプラグ。
(vii)マンドレルの外周面上に、スリップ及びウエッジを備えない前記の目止めプラグ。
(viii)マンドレルの軸方向と直交する外周面上であって、1対のリングの間の位置に置かれた、少なくとも1つのスリップとウエッジとの組み合わせを備える前記の目止めプラグ。
(ix)スリップとウエッジとの組み合わせを複数備える前記の目止めプラグ。
(x)マンドレルの軸方向と直交する外周面上であって、1対のリングの間の位置に置かれた、少なくとも1つの拡径可能な環状のゴム部材を備える前記の目止めプラグ。
(xi)拡径可能な環状のゴム部材は、マンドレルの軸方向の長さが、マンドレルの長さに対して10〜70%である前記の目止めプラグ。
(xii)マンドレルが、外周面に拡径可能な環状のゴム部材を圧縮状態のまま固定する固定部を有する前記の目止めプラグ。
(xiii)固定部が、溝、段部及びねじ山からなる群より選ばれる少なくとも1つである前記の目止めプラグ。
(xiv)拡径可能な環状のゴム部材を複数備える前記の目止めプラグ。
【0029】
加えて、本発明によれば、下記工程1乃至4;
1)重量平均分子量が150,000〜540,000、温度240℃及び剪断速度120sec
-1で測定した溶融粘度が30〜3,000Pa・s、かつ、L体比率が80〜100%であるポリ−L−乳酸を含有する樹脂材料を、押出機に供給し、押出機のシリンダー温度195〜260℃で溶融混練する工程1;
2)押出機先端の押出ダイから、溶融混練によって溶融した樹脂材料を、押出ダイの溶融樹脂通路と連通しかつ押出成形物の断面形状を有する流路と、冷却手段とを備えたフォーミングダイの流路内に押出する工程2;
3)フォーミングダイの流路内で樹脂材料からなる溶融押出物を冷却して固化させ、次いで、フォーミングダイの先端から固化押出物を外部に押出する工程3;並びに
4)固化押出物を加圧して、フォーミングダイ方向に背圧をかけながら引き取り、その際、加圧によって固化押出物の厚み方向または直径方向への膨張を抑制して、厚みまたは直径が10〜500mmの固化押出成形物を得る工程4;
を含む
10〜500mmの厚みまたは直径を有し、温度66℃における引張強度が5〜100MPaであるポリ−L−乳酸固化押出成形物の製造方法が提供される。
【0030】
所望によっては、本発明によれば、下記工程1’乃至4;
1’)重量平均分子量が150,000〜540,000、温度240℃及び剪断速度120sec
-1で測定した溶融粘度が30〜3,000Pa・s、かつ、L体比率が80〜100%であるポリ−L−乳酸と、全量基準で5〜70質量%の充填剤とを含有する樹脂材料(樹脂材料の全量を100質量%とする。)を、押出機に供給し、押出機のシリンダー温度195〜260℃で溶融混練する工程1’;
2)押出機先端の押出ダイから、溶融混練によって溶融した樹脂材料を、押出ダイの溶融樹脂通路と連通しかつ押出成形物の断面形状を有する流路と、冷却手段とを備えたフォーミングダイの流路内に押出する工程2;
3)フォーミングダイの流路内で樹脂材料からなる溶融押出物を冷却して固化させ、次いで、フォーミングダイの先端から固化押出物を外部に押出する工程3;並びに
4)固化押出物を加圧して、フォーミングダイ方向に背圧をかけながら引き取り、その際、加圧によって固化押出物の厚み方向または直径方向への膨張を抑制して、厚みまたは直径が10〜500mmの固化押出成形物を得る工程4;
を含む
10〜500mmの厚みまたは直径を有し、温度66℃における引張強度が5〜200MPaであるポリ−L−乳酸固化押出成形物の製造方法が提供される。
【0031】
本発明によれば、工程4で得られたポリ−L−乳酸固化押出成形物を、90〜190℃の温度で3〜24時間熱処理する工程5を更に含む前記の製造方法が提供される。
【0032】
更に加えて、本発明によれば、前記の坑井掘削用ボールシーラーを使用して、坑井孔の目止め処理を行った後に坑井掘削用ボールシーラーの一部または全部が分解されることを特徴とする坑井掘削方法、並びに、前記の坑井掘削用ダウンホールツール部材を備える目止めプラグを使用して、坑井孔の目止め処理を行った後に、坑井掘削用ダウンホールツール部材の一部または全部が分解されることを特徴とする坑井掘削方法が提供される。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、重量平均分子量が100,000〜380,000であり、温度240℃及び剪断速度120sec
-1で測定した溶融粘度が20〜2,000Pa・sであり、かつ、L体比率が80〜100%のポリ−L−乳酸を含有する樹脂材料からなる、10〜500mmの厚みまたは直径を有し、温度66℃における引張強度が5〜100MPa、所望によっては5〜200MPaであるポリ−L−乳酸固化押出成形物であることにより、切削、穴あけ、切断などの機械加工により所望形状の二次成形品、特に、目止めプラグに備えられる坑井掘削用ダウンホールツール部材等に成形することが可能である、地下1,000mを超える環境(65℃を超える温度環境等)において十分な強度を有し、所望の形状のダウンホールツール部材等を形成することができる分解性プラスチックの固化押出成形物を提供することができるという効果が奏される。
【発明を実施するための形態】
【0035】
1.ポリ−L−乳酸固化押出成形物
本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物は、重量平均分子量が100,000〜380,000であり、温度240℃及び剪断速度120sec
-1で測定した溶融粘度が20〜2,000Pa・sであり、かつ、L体比率が80〜100%のポリ−L−乳酸を含有する樹脂材料からなる、10〜500mmの厚みまたは直径を有し、温度66℃における引張強度が5〜100MPa、所望によっては5〜200MPaであるポリ−L−乳酸固化押出成形物である。
【0036】
ポリ乳酸は、(式1)−(−O−C
*HCH
3−CO−)− で表される乳酸繰り返し単位を含有するポリマーである。(式1)中の「C
*」で表される炭素原子が不斉炭素原子であるため、前記乳酸繰り返し単位としては、光学異性体であるL体とD体との両方がある。したがって、ポリ乳酸は、乳酸繰り返し単位として、L−乳酸単位のみを含有するポリ−L−乳酸、D−乳酸単位のみを含有するポリ−D−乳酸、及び、L−乳酸単位とD−乳酸単位とを含有するポリ−D,L−乳酸とがある。
【0037】
〔ポリ−L−乳酸〕
本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物に含有されるポリ−L−乳酸は、L体比率が80〜100%、すなわち、繰り返し単位として、L−乳酸単位80〜100%とD−乳酸単位0〜20%(ただし、L−乳酸単位とD−乳酸単位との合計を100%とする。)とを含有するポリ乳酸である(以下、L体比率が80〜100%であるポリ−L−乳酸を、単に「ポリ−L−乳酸」ということがある。)。ポリ−L−乳酸におけるL−乳酸単位の割合は、好ましくは85〜100%、より好ましくは90〜100%、更に好ましくは93〜100%であり、L−乳酸単位の割合が100%であるポリ−L−乳酸であってもよい。ポリ−L−乳酸におけるL−乳酸単位の割合が小さすぎると、固化押出成形物の温度66℃における引張強度が不十分であったり、10〜500mmの厚みまたは直径を有する固化押出成形物を形成することが困難であったり、形成された固化押出成形物が割れたり壊れたりすることがある。
【0038】
本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物に含有されるポリ−L−乳酸中、乳酸繰り返し単位の割合(L−乳酸単位とD−乳酸単位との合計を意味する。)は、通常、50質量%超過、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、最も好ましくは99質量%以上であり、100質量%であってもよい。したがって、本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物を形成するために使用するポリ−L−乳酸は、乳酸繰り返し単位以外の繰り返し単位を、通常50質量%未満、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下、最も好ましくは1質量%以下含有するポリマーであり、乳酸繰り返し単位以外の繰り返し単位を全く含有しなくてもよい。乳酸繰り返し単位の割合が50質量%未満であると、引張強度、強靭性、結晶性、耐熱性などのバランスがとれなかったり、低下したりする傾向を示す。
【0039】
乳酸繰り返し単位以外の繰り返し単位としては、例えば、グリコール酸(または、その2量体であるグリコリド)、シュウ酸エチレン、ラクトン類、トリメチレンカーボネート、1,3−ジオキサン等に由来する繰り返し単位を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0040】
本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物に含有されるポリ−L−乳酸は、高分子量ポリマーであることが好ましい。すなわち、本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物に含有されるポリ−L−乳酸の重量平均分子量は、100,000〜380,000であり、好ましくは120,000〜360,000、より好ましくは140,000〜340,000、更に好ましくは160,000〜320,000、特に好ましくは180,000〜300,000である。さらに、本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物に含有される樹脂材料の温度240℃及び剪断速度120sec
-1で測定した溶融粘度は、20〜2,000Pa・sであり、好ましくは50〜1,800Pa・s、より好ましくは80〜1,600Pa・s、更に好ましくは100〜1,400Pa・s、特に好ましくは120〜1,200Pa・sである。ポリ−L−乳酸の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定する。ポリ−L−乳酸の温度240℃及び剪断速度120sec
-1で測定した溶融粘度は、キャピログラフを用いて測定する。
【0041】
前記の重量平均分子量または溶融粘度の一方または両方が低すぎると、固化押出成形物の可撓性や強靭性が低く、機械加工時に割れが生じたり、固化押出成形物の熱処理(アニーリング)時に割れが発生したりすることがあり、また、溶融押出や固化押出成形が困難である。重量平均分子量または溶融粘度の一方または両方が高すぎると、溶融押出加工時に高い温度に加熱しなければならないため、ポリ−L−乳酸の熱劣化が生じやすくなる。
【0042】
〔樹脂成分〕
本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物に含有される樹脂材料は、ポリ−L−乳酸を少なくとも25質量%以上、好ましくは主成分として含有する樹脂組成物である。主成分とは、樹脂成分におけるポリ−L−乳酸の含有割合が、通常50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であることを意味する。樹脂材料中のポリ−L−乳酸以外のその他の樹脂成分としては、ポリ−L−乳酸以外の熱可塑性樹脂、例えば、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート、変性ポリビニルアルコール、カゼイン、変性澱粉、ポリエチレンテレフタレート共重合体などの他の生分解性樹脂を挙げることができる。樹脂成分におけるポリ−L−乳酸の含有割合が100質量%である樹脂組成物は、特に好ましい。
【0043】
用途によっては、樹脂材料中のポリ−L−乳酸以外のその他の樹脂成分として、ポリ−D−乳酸を含有させることができる。例えば、本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物に含有される樹脂材料がポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸との混合物を含有するものであることにより、樹脂材料がポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸のいずれかのみを含有する場合と比較して、樹脂材料が高融点となり熱安定性が向上したり、結晶性が向上したりすることがある。特に、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを混合すると、それぞれの分子鎖が好適に噛み合ってステレオコンプレックスを形成し(「ステレオコンプレックス型ポリ乳酸」ということもある。)、耐熱性が高まることがあることが知られており、本発明によれば、ポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸が、ステレオコンプレックスを形成しているポリ−L−乳酸固化押出成形物を提供することができる。
【0044】
本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物に含有される樹脂材料が、ポリ−L−乳酸とともに、ポリ−D−乳酸を含有するものである場合、ステレオコンプレックスを形成することによる耐熱性向上等の観点から、ポリ−L−乳酸100質量部に対して、ポリ−D−乳酸40〜200質量部を含有することが好ましく、ポリ−D−乳酸60〜150質量部を含有することがより好ましく、ポリ−D−乳酸80〜125質量部を含有することが更に好ましい。樹脂材料が、ポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸を含有する場合は、樹脂成分におけるポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸の合計の含有割合は、50質量%以上であることが好ましく、特に、ポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸が、ステレオコンプレックスを形成しているポリ−L−乳酸固化押出成形物である場合は、樹脂成分におけるポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸の合計の含有割合は、80質量%以上であることがより好ましく、更に好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上である。
【0045】
ここで、ポリ−D−乳酸とは、先にポリ−L−乳酸について説明したと同様に、D体比率が80〜100%、すなわち、繰り返し単位として、D−乳酸単位80〜100%とL−乳酸単位0〜20%(ただし、D−乳酸単位とL−乳酸単位との合計を100%とする。)とを含有するポリ乳酸を意味する。ポリ−D−乳酸におけるD−乳酸単位の割合は、好ましくは85〜100%、より好ましくは90〜100%、更に好ましくは93〜100%であり、D−乳酸単位の割合が100%であるポリ−D−乳酸であってもよい。ポリ−D−乳酸中、乳酸繰り返し単位の割合(D−乳酸単位とL−乳酸単位との合計を意味する。)は、通常、50質量%超過、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、最も好ましくは99質量%以上であり、100質量%であってもよい。したがって、ポリ−D−乳酸は、乳酸繰り返し単位以外の繰り返し単位を、通常50質量%未満、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下、最も好ましくは1質量%以下含有するポリマーであり、乳酸繰り返し単位以外の繰り返し単位を全く含有しなくてもよい。乳酸繰り返し単位以外の繰り返し単位は、先にポリ−L−乳酸について説明したと同様である。
【0046】
本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物に含有される樹脂材料において、好ましく含有されるポリ−D−乳酸は、重量平均分子量が100,000〜380,000であり、温度240℃及び剪断速度120sec
-1で測定した溶融粘度が20〜2,000Pa・sであり、かつ、D体比率が80〜100%のポリ−D−乳酸である。さらに、ポリ−D−乳酸の重量平均分子量や溶融粘度の更に好ましい範囲については、先にポリ−L−乳酸について説明したと同様である。
【0047】
したがって、本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物としては、樹脂材料が、前記のポリ−L−乳酸100質量部に対して、重量平均分子量が100,000〜380,000であり、温度240℃及び剪断速度120sec
-1で測定した溶融粘度が20〜2,000Pa・sであり、かつ、D体比率が80〜100%のポリ−D−乳酸40〜200質量部を含有するポリ−L−乳酸固化押出成形物とすることができ、特に、前記のポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸が、ステレオコンプレックスを形成しているポリ−L−乳酸固化押出成形物とすることができる。
【0048】
〔充填剤〕
本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物に含有される樹脂材料には、機械的強度や耐熱性の向上を目的に、充填剤を含有させることができる。充填剤としては、繊維状充填剤や、粒状または粉末状充填剤を用いることができるが、繊維状充填剤が好ましい。
【0049】
(繊維状充填剤)
繊維状充填剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維等の無機繊維状物;ステンレス、アルミニウム、チタン、鋼、真鍮等の金属繊維状物;アラミド繊維、ケナフ繊維、ポリアミド、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等の高融点有機質繊維状物質;などが挙げられる。繊維状充填剤としては、長さ(重量平均)が10mm以下、より好ましくは1〜6mm、更に好ましくは1.5〜4mmであり、径が2〜50μm、好ましくは5〜40μm、より好ましくは7〜30μmである短繊維が好ましく、また、無機繊維状物が好ましく使用され、ガラス繊維が特に好ましい。なお、繊維状充填剤の長さ(重量平均繊維長)は、公知の測定方法により、すなわち繊維状充填剤を含有する樹脂材料を、高温(500℃程度)で灰化処理または溶媒抽出処理して樹脂成分を除去し、残留した繊維状充填剤の顕微鏡観察像を画像解析することにより、重量平均の長さを算出するものである。
【0050】
さらに、本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物は、固化押出成形物中に充填剤として、アスペクト比が大きい充填剤、具体的には長繊維に由来する繊維状充填剤を含有することによって、より大きい温度66℃における引張強度を有する固化押出成形物とすることができる。ここで、充填剤のアスペクト比とは、例えば繊維状充填剤については、長さ(重量平均)/径の比率で定義される、それ自体周知の充填剤の特性である。
【0051】
(100以上のアスペクト比を有する充填剤)
すなわち、本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物は、固化押出成形物中に、100以上のアスペクト比を有する充填剤、例えば繊維状充填剤、好ましくは150以上、より好ましくは200以上、更に好ましくは250以上のアスペクト比を有する充填剤を含有することによって、例えば、10〜500mmの厚みまたは直径を有し、温度66℃における引張強度が5〜200MPaであるようなポリ−L−乳酸固化押出成形物とすることができる。100以上のアスペクト比を有する充填剤のアスペクト比の上限は特にないが、充填剤の径が小さすぎるとポリ−L−乳酸固化押出成形物の機械的強度の向上効果が十分でないおそれがあることから、通常1,000未満、多くの場合800未満のアスペクト比である。
【0052】
100以上のアスペクト比を有する充填剤は、本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物中において、100以上のアスペクト比を有するものである限り、それを得る方法は限定されないが、例えば、長繊維を引き取りながら、該長繊維を包み込むようにしてポリ−L−乳酸を含有する樹脂材料をストランド状に押し出した後に、所定長さにカットして製造された繊維状充填剤を含有する樹脂ペレットを使用して、ポリ−L−乳酸固化押出成形物を製造する方法などによることができる。上記した方法によって製造された樹脂ペレットとしては、例えば、径10μmのガラス繊維の長繊維を使用して、長さ3mmのペレットを調製することにより、径10μm長さ(重量平均)約3mmのガラス繊維(繊維状充填剤)を含有するペレット状の樹脂コンパウンドが得られる。このコンパウンドを使用して、後に詳述する固化押出成形方法によってポリ−L−乳酸固化押出成形物を製造することにより、例えば、ポリ−L−乳酸固化押出成形物に含有される繊維状充填剤として、径10μm長さ(重量平均)2.5mm程度の繊維状充填剤、すなわち、アスペクト比200(長さ2000μm/径10μm=200として算出される。)の繊維状充填剤を含有する固化押出成形物を得ることができる。
【0053】
なお、例えば、径10μm長さ3mmのガラス繊維短繊維である繊維状充填剤を従来公知の方法で樹脂材料に配合して溶融混練し、長さ3mmのペレットを調製した後、このペレット状の樹脂コンパウンドを使用して製造したポリ−L−乳酸固化押出成形物に含有される繊維状充填剤は、通常径10μm長さ(重量平均)0.3mm程度の繊維状充填剤、すなわち、アスペクト比30(長さ300μm/径10μm=30として算出される。)程度の繊維状充填剤である。短繊維である繊維状充填剤は、ペレットの調製や固化押出成形の過程において行われる加熱や剪断作用によって、当初の長さが減殺するものと推察される。
【0054】
(粒状または粉末状充填剤)
粒状または粉末状充填剤としては、マイカ、シリカ、タルク、アルミナ、カオリン、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、フェライト、クレー、ガラス粉(ミルドファイバー等)、酸化亜鉛、炭酸ニッケル、酸化鉄、石英粉末、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム等を用いることができる。
【0055】
繊維状充填剤、粒状または粉末状充填剤などの充填剤は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。充填剤は、必要に応じて、集束剤または表面処理剤により処理されていてもよい。集束剤または表面処理剤としては、例えば、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物の官能性化合物が挙げられる。これらの化合物は、充填剤に対して予め表面処理または集束処理を施して用いるか、あるいは樹脂組成物の調製の際に同時に添加してもよい。
【0056】
樹脂材料が充填剤を含有する場合の充填剤の含有割合は、全量基準で5〜70質量%、好ましくは10〜60質量%、より好ましくは15〜50質量%、更に好ましくは20〜40質量%である。充填剤は、ポリ−L−乳酸と溶融混練することができるが、所望により充填剤の濃度が高いポリ−L−乳酸組成物(マスターバッチ)を作製しておき、このマスターバッチをポリ−L−乳酸で希釈して所望の充填剤濃度を有する樹脂材料を調製することもできる。充填剤の均一分散性の観点からは、ポリ−L−乳酸と充填剤とを溶融混練してペレット化した樹脂材料を調製することが好ましい。
【0057】
〔着色剤〕
また、本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物に含有される樹脂材料には、染料や顔料などの着色剤を含有させることができる。着色剤を用いることにより、高級感があり、切削加工等の機械加工がしやすいポリ−L−乳酸固化押出成形物を得ることができる。着色剤としては、耐熱性に優れる点で顔料が好ましい。顔料としては、黄色顔料、赤色顔料、白色顔料、黒色顔料など、合成樹脂の技術分野で用いられている各種色調の顔料を用いることができる。これらの顔料の中でも、カーボンブラックが特に好ましい。カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラックなどを挙げることができる。
【0058】
本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物に含有される樹脂材料が着色剤を含有する場合は、全量基準で0.001〜5質量%の着色剤を含有するポリ−L−乳酸組成物であることが好ましい。着色剤の含有割合は、好ましくは0.01〜3質量%、より好ましくは0.05〜2質量%である。着色剤は、ポリ−L−乳酸と溶融混練することができるが、所望により着色剤の濃度が高いポリ−L−乳酸組成物(マスターバッチ)を作製しておき、このマスターバッチをポリ−L−乳酸で希釈して所望の着色剤濃度を有する樹脂材料を調製することもできる。着色剤の均一分散性の観点からは、ポリ−L−乳酸と着色剤とを溶融混練してペレット化した樹脂材料を調製することが好ましい。
【0059】
〔その他の添加剤〕
本発明で用いる樹脂材料には、前記以外のその他の添加剤として、例えば、衝撃改質剤、樹脂改良剤、炭酸亜鉛、炭酸ニッケルなどの金型腐食防止剤、滑剤、熱硬化性樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ボロンナイトライド等の核剤、難燃剤などを適宜添加することができる。
【0060】
〔温度66℃における引張強度〕
本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物の温度66℃における引張強度(以下、「66℃引張強度」ということがある。)は、5〜100MPaである。66℃引張強度は、好ましくは10〜90MPa、より好ましくは15〜80MPa、更に好ましくは20〜70MPa、特に好ましくは23〜65MPaである。
【0061】
ポリ−L−乳酸固化押出成形物の66℃引張強度の測定は、JIS K7113に準拠して測定し、試験片をオーブン内に静置するなどにより、66℃の温度環境において測定を行う(単位:MPa)。
【0062】
本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物の66℃引張強度が、5〜100MPaであることにより、例えば、地下1,000mを超える高深度の地中においても十分な強度を有する分解性ポリマーの固化押出成形物を提供することができる。
【0063】
さらに、先に説明したように、本発明によれば、重量平均分子量が100,000〜380,000であり、温度240℃及び剪断速度120sec
-1で測定した溶融粘度が20〜2,000Pa・sであり、かつ、L体比率が80〜100%のポリ−L−乳酸と、全量基準で5〜70質量%の充填剤とを含有する樹脂材料(樹脂材料の全量を100質量%とする。)からなり、10〜500mmの厚みまたは直径を有し、温度66℃における引張強度が5〜200MPaであるポリ−L−乳酸固化押出成形物を得ることができ、この固化押出成形物によれば、より高深度の地中においても十分な強度を有する分解性ポリマーの固化押出成形物が提供される。この固化押出成形物の66℃引張強度は、好ましくは20〜190MPa、より好ましくは35〜180MPa、更に好ましくは50〜170MPaである。
【0064】
すなわち、本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物は、フラックプラグ、ブリッジプラグ、パッカー、セメントリテイナー等の目止めプラグの芯棒(マンドレル)等、目止めプラグに備えられる坑井掘削用ダウンホールツール部材などを形成するために、好ましく使用することができるものである。目止めプラグの芯棒(マンドレル)の引張及び/または圧縮においては、約1,500〜5,000kgf(約14,700〜49,000N)、多くの場合約2,000〜4,500kgf(約19,600〜44,100N)の高荷重が芯棒(マンドレル)にかかり、特に、芯棒(マンドレル)の前記した拡径部(治具との係合部)には、2〜5倍の応力集中があるので、約3,000〜25,000kgf(約29,400〜245,000N)、多くの場合は約4,000〜20,000kgf(約39,200〜196,000N)の荷重に、地下1,000mを超える高深度の高温度環境において耐えられる強度が必要である。
【0065】
目止めプラグの芯棒(マンドレル)は、先に述べたように中空の形状であることが多いので、該芯棒(マンドレル)は、前記の高荷重を中空断面の断面積で支えることとなる。本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物の66℃引張強度が5MPa以上であれば、目止めプラグの芯棒(マンドレル)の中空断面の断面積が3,000mm
2程度で約1,531kgf(約15,000N)の荷重に、温度66℃の環境下で耐えることができることを意味する。したがって、本発明の66℃引張強度が5〜100MPa、所望によっては5〜200MPaであるポリ−L−乳酸固化押出成形物は、地下1,000mを超える高深度の高温度環境において、通常の大きさ(断面積)の目止めプラグの芯棒(マンドレル)にかかる応力に十分耐えることができる。なお、実用上は、目止めプラグの芯棒(マンドレル)について、温度66℃で約3,500kgf(約34,300N)の荷重を負荷する引張試験で破断が生じないことが好ましい。また、66℃引張強度が200MPaを超えるポリ−L−乳酸固化押出成形物は、多くの場合、製造することや機械加工することが極めて困難である。
【0066】
本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物は、10〜500mmの厚みまたは直径を有し、厚みまたは直径が、好ましくは15〜300mm、より好ましくは20〜250mm、更に好ましくは25〜200mmである固化押出成形物である。また、本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物の形状としては、丸棒状、平板状、パイプ等の中空品、異形品など種々の形状の固化押出成形物を得ることができるが、固化押出成形とその後の緻密化処理が容易であるとともに、機械加工用素材である固化押出成形物に適することが多い点で、丸棒、中空または平板の形状であることが好ましく、後述する坑井掘削用ダウンホールツール部材、特に目止めプラグの芯棒(マンドレル)や、ボールシーラーを形成するためには丸棒の形状であることがより好ましい。
【0067】
2.ポリ−L−乳酸固化押出成形物の製造方法
本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物は、下記1)〜4)に示す工程1乃至4を含む製造方法によって製造することができる。
1)重量平均分子量が150,000〜540,000、温度240℃及び剪断速度120sec
-1で測定した溶融粘度が30〜3,000Pa・s、かつ、L体比率が80〜100%であるポリ−L−乳酸を含有する樹脂材料を、押出機に供給し、該押出機のシリンダー温度195〜260℃で溶融混練する工程1;
2)該押出機先端の押出ダイから、溶融混練によって溶融した樹脂材料を、該押出ダイの溶融樹脂通路と連通しかつ押出成形物の断面形状を有する流路と、冷却手段とを備えたフォーミングダイの流路内に押出する工程2;
3)該フォーミングダイの流路内で樹脂材料からなる溶融押出物を冷却して固化させ、次いで、該フォーミングダイの先端から固化押出物を外部に押出する工程3;並びに
4)該固化押出物を加圧して、該フォーミングダイ方向に背圧をかけながら引き取り、その際、加圧によって該固化押出物の厚み方向または直径方向への膨張を抑制して、厚みまたは直径が10〜500mmの固化押出成形物を得る工程4;
を含む10〜500mmの厚みまたは直径を有し、温度66℃における引張強度が5〜100MPaであるポリ−L−乳酸固化押出成形物の製造方法。
【0068】
また、本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物は、下記1’)〜4)に示す工程1’乃至4を含む製造方法によって製造することができる。
1’)重量平均分子量が150,000〜540,000、温度240℃及び剪断速度120sec
-1で測定した溶融粘度が30〜3,000Pa・s、かつ、L体比率が80〜100%であるポリ−L−乳酸と、全量基準で5〜70質量%の充填剤とを含有する樹脂材料(樹脂材料の全量を100質量%とする。)を、押出機に供給し、該押出機のシリンダー温度195〜260℃で溶融混練する工程1’;
2)該押出機先端の押出ダイから、溶融混練によって溶融した樹脂材料を、該押出ダイの溶融樹脂通路と連通しかつ押出成形物の断面形状を有する流路と、冷却手段とを備えたフォーミングダイの流路内に押出する工程2;
3)該フォーミングダイの流路内で樹脂材料からなる溶融押出物を冷却して固化させ、次いで、該フォーミングダイの先端から固化押出物を外部に押出する工程3;並びに
4)該固化押出物を加圧して、該フォーミングダイ方向に背圧をかけながら引き取り、その際、加圧によって該固化押出物の厚み方向または直径方向への膨張を抑制して、厚みまたは直径が10〜500mmの固化押出成形物を得る工程4;
を含む10〜500mmの厚みまたは直径を有し、温度66℃における引張強度が5〜200MPaであるポリ−L−乳酸固化押出成形物の製造方法。
【0069】
本発明によれば、ポリ−L−乳酸の重量平均分子量及び溶融粘度、押出機への材料の供給方法、温度や滞留時間等の溶融混練条件や押出条件、冷却条件、固化押出物に負荷する背圧条件や加圧条件、更には後述する熱処理条件等を組み合わせて調整することにより、10〜500mmの厚みまたは直径を有し、温度66℃における引張強度が5〜100MPa、所望により5〜200MPaであるポリ−L−乳酸固化押出成形物を得ることができる。以下に、本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物が丸棒または平板の形状である場合の製造工程について説明する。他の形状のポリ−L−乳酸固化押出成形物についても、同様に製造することが可能である。
【0070】
〔工程1〕
まず、工程1において、重量平均分子量が150,000〜540,000、温度240℃及び剪断速度120sec
-1で測定した溶融粘度が30〜3,000Pa・s、かつ、L体比率が80〜100%であるポリ−L−乳酸を含有する樹脂材料を、押出機に供給する。ポリ−L−乳酸は、工程1〜4を経てポリ−L−乳酸固化押出成形物を得る過程で、通常、重量平均分子量や溶融粘度が低下するので、押出機に供給するポリ−L−乳酸としては、重量平均分子量が、好ましくは180,000〜510,000、より好ましくは210,000〜480,000、更に好ましくは240,000〜450,000、特に好ましくは270,000〜420,000であり、溶融粘度が、好ましくは75〜2,700Pa・s、より好ましくは120〜2,400Pa・s、更に好ましくは150〜2,100Pa・s、特に好ましくは180〜1,800Pa・sであるものを使用すればよい。
【0071】
工程1においては、ポリ−L−乳酸を含有する樹脂材料を、押出機の供給部に取り付けたホッパーに供給してもよいが、好ましくはポリ−L−乳酸を含有する樹脂材料を、定量フィーダーを使用して押出機に供給することもできる。すなわち、定量フィーダーを設置してそのホッパー内に樹脂材料を投入し、該定量フィーダーから押出機の供給部(ホッパー)に樹脂材料を一定速度で供給する。該樹脂材料としては、ペレットを用いることが好ましい。成形前に該樹脂材料を十分に乾燥して除湿しておくことが好ましい。除湿乾燥条件は、特に限定されないが、例えば、ペレットを乾熱雰囲気下に温度45〜120℃で1〜48時間程度保持する方法を採用することが好ましい。
【0072】
続いて工程1において、押出機のシリンダー内で樹脂材料の溶融混練を行う。シリンダー温度は、195〜260℃、好ましくは200〜250℃、より好ましくは205〜240℃に調整する。本発明において、シリンダー温度とは、押出機のシリンダー内における最高温度(シリンダーの実温度または樹脂温度のいずれか高い方の温度をいう。)を意味する。押出機のシリンダーに、固相樹脂輸送部、溶融部、液相樹脂輸送部などに対応して複数の加熱手段が配置されている場合、各加熱手段の温度を前記範囲内で互いに異ならせてもよく、あるいは各加熱手段の温度を同一温度に制御してもよい。
【0073】
〔工程1’〕
また、先に説明したように、工程1に代えて、工程1’すなわち、重量平均分子量が150,000〜540,000、温度240℃及び剪断速度120sec
-1で測定した溶融粘度が30〜3,000Pa・s、かつ、L体比率が80〜100%であるポリ−L−乳酸と、全量基準で5〜70質量%の充填剤とを含有する樹脂材料(樹脂材料の全量を100質量%とする。)を、押出機に供給し、押出機のシリンダー温度195〜260℃で溶融混練する工程1’を行うことができる。
【0074】
〔工程2〕
次に工程2において、押出機先端の押出ダイから、溶融混練によって溶融した樹脂材料を溶融押出する。押出ダイからの溶融樹脂材料は、押出ダイの溶融樹脂通路と連通しかつ押出成形物の断面形状を有する流路と、冷却手段とを備えたフォーミングダイの該流路内に押出する。押出成形物の断面形状とは、押出成形物が平板の場合には、長方形であり、丸棒の場合には、円形である。
【0075】
〔工程3〕
次いで工程3において、フォーミングダイの流路内で樹脂材料からなる溶融押出物を冷却して固化させ、次いで、該フォーミングダイの先端から固化押出物を外部に押出する。押出速度は、通常、5〜50mm/10分、好ましくは10〜40mm/10分である。
【0076】
該工程3において、冷却手段に加えて加熱手段を配置したフォーミングダイを使用し、先ず、加熱手段によって、押出ダイ出口付近の流路内にある溶融押出物を200〜265℃、好ましくは210〜240℃の温度に加熱し、次いで、冷却手段によって、流路内の溶融押出物、特にその表面部分を該ポリ−L−乳酸の結晶化温度未満の温度に冷却して固化させる方法を採用することが好ましい。押出ダイの出口付近の温度を急冷すると、ポリ−L−乳酸の結晶化の進行が遅くなることがある。押出ダイの近傍の温度を前記範囲内にまで加熱した後に冷却することによって、溶融押出物、特にその表面部分の結晶化を促進することができる。押出ダイの出口温度を上記範囲内とすることによっても、押出ダイ出口付近の流路内にある溶融押出物、特にその表面部分の温度を前記範囲内とすることができる。
【0077】
冷却手段によって、押出成形物、特にその表面部分の温度をポリ−L−乳酸の結晶化温度未満の温度にまで冷却して固化させる。ポリ−L−乳酸の結晶化温度(溶融状態からの降温時に検知される結晶化温度)は、通常、105〜125℃程度である。冷却手段の冷却温度は、好ましくは100℃以下、より好ましくは95℃以下である。冷却温度の下限値は、好ましくは30℃、より好ましくは40℃である。工程1または工程1’で使用する樹脂材料がガラス繊維などの充填剤を含有する場合、押出機のシリンダー内での溶融混練によってポリ−L−乳酸の結晶化温度が上昇することがあるが、その場合にも、冷却温度を前記範囲内とすることが好ましい。加熱手段は、加熱源として、例えば、ヒーターを備えている。冷却手段は、例えば、冷媒として冷却水を循環させることができる水冷パイプを備えている。
【0078】
〔工程4〕
工程4において、該固化押出物を加圧して、該フォーミングダイ方向に背圧をかけながら引き取り、その際、加圧によって該固化押出物の厚み方向若しくは直径方向への膨張を抑制して、厚みまたは直径が10〜500mmであるポリ−L−乳酸固化押出成形物を得る。加圧手段としては、例えば、上部ロール群と下部ロール群との組み合わせがある。下部ロール群を台の上に載せ、上部ロール群に荷重をかける方法により固化押出物を加圧することができる。下部ロール群に上部方向への負荷をかけ、上部ロール群に下部方向への負荷をかける方法によって固化押出物を加圧してもよい。
【0079】
フォーミングダイから押出された固化押出物に、該フォーミングダイの吐出口から複数のロールを組み合わせたロール群によって圧力を付加することによって、該固化押出物の厚み方向若しくは直径方向への膨張を抑制するとともに、該フォーミングダイ方向への背圧をかけることができる。適当な負荷手段を併用して、固化押出成形物にフォーミングダイ方向への背圧を加えてもよい。背圧の大きさは、通常、1,500〜8,500kg、好ましくは1,600〜8,000kg、より好ましくは1,800〜7,000kg、更に好ましくは2,000〜6,000kgの範囲であり、固化押出成形物の直径または厚みが大きい場合は、付加する背圧を大きくすることが好ましい。この背圧は、ダイ外圧(流路に掛かる圧力)として測定することができる。
【0080】
この加圧によって、固化押出物の厚み方向若しくは直径方向への膨張を抑制することにより、最終的に得られる固化押出成形物として、温度66℃における引張強度が5〜100MPa、所望によっては5〜200MPaであるポリ−L−乳酸固化押出成形物を製造することができる。加圧後、固化押出成形物は引き取られる。
【0081】
なお、固化押出成形物が丸棒である場合には、上記した上部ロール群と下部ロール群との組み合わせにより加圧する方法のほかに、丸棒状の固化押出成形物の周囲を取り囲むロール群を配置し、該ロール群に中心方向への圧力を付加する方法もある。フォーミングダイから吐出させた固化押出物を加圧する方法は、該フォーミングダイ方向に背圧をかけることができ、加圧によって該固化押出物の厚み方向若しくは直径方向への膨張を抑制して、例えば、最終的に得られる固化押出成形物の厚みまたは直径が10〜500mm、好ましくは15〜300mm、より好ましくは20〜250mmの範囲内となるように調整することができる方法であれば、任意の方法を採用することができる。
【0082】
〔工程5〕
前記工程4で得られたポリ−L−乳酸押出成形物は、90〜190℃の温度で3〜24時間熱処理する工程5を配置してアニーリングすることが好ましい。このアニーリング処理によって、固化押出成形物の残留応力を除き、固化押出成形物自体及び機械加工後の二次成形物に変形などの不都合を生じさせないことができる。熱処理温度は、好ましくは100〜180℃、より好ましくは110〜170℃である。熱処理時間は、好ましくは4〜20時間、より好ましくは5〜15時間である。
【0083】
本発明の製造方法によって製造されるポリ−L−乳酸固化押出成形物は、丸棒、パイプ等の中空、平板、異形品など種々の形状を有することができるが、固化押出成形とその後の緻密化処理が容易であるとともに、機械加工用素材に適することが多い、また、好ましい用途である目止め部材の芯棒(マンドレル)やボールシーラーへの加工が容易である等の観点で、丸棒、中空または平板の形状であることが好ましく、より好ましくは丸棒または中空の形状である。
【0084】
〔機械加工〕
ポリ−L−乳酸固化押出成形物に対して行うことができる機械加工としては、切削、穴あけ、切断、及びこれらの組み合わせが代表的なものである。広義の切削加工法には、切削のほか、穴あけ加工を含めることがある。切削加工法としては、単一刃工具を用いる旋削加工、研削加工、平削加工、中ぐり加工などがある。多数刃を用いる切削加工法としては、フライス加工、穴あけ加工、ねじ切り加工、歯切り加工、型彫加工、やすり加工などがある。本発明では、ドリルなどを用いた穴あけ加工を切削加工と区別することがある。切断加工法としては、刃物(鋸)による切断、砥粒による切断、加熱・融解による切断などがある。この他、研削仕上法、ナイフ状工具を用いる打ち抜き加工やけがき切断などの塑性加工法、レーザー加工などの特殊加工法なども適用することができる。
【0085】
機械加工用素材であるポリ−L−乳酸固化押出成形物が、肉厚の大きな丸棒や平板または中空の形状である場合、機械加工として、一般に、該固化押出成形物を適当な大きさまたは厚みに切断し、切断した固化押出成形物を研削して所望の形状に整え、さらに、必要個所に穴あけ加工を行う。最後に、必要に応じて、仕上げ加工を行う。ただし、機械加工の順序は、これに限定されない。機械加工時に摩擦熱により固化押出成形物が溶融して平滑な面が出にくい場合には、切削面などを冷却しながら機械加工を行うことが望ましい。摩擦熱により固化押出成形物が過度に発熱すると、変形や着色の原因となるので、固化押出成形物または加工面を好ましくは170℃以下、より好ましくは150℃以下の温度に制御することが好ましい。
【0086】
3.機械加工用素材
本発明の10〜500mmの厚みまたは直径を有し、温度66℃における引張強度が5〜100MPa、所望によっては5〜200MPaであるポリ−L−乳酸固化押出成形物は、切削、穴あけ、切断などの機械加工を行うことにより、様々な樹脂部品などの二次成形物に成形するための機械加工用素材とすることができる。二次成形物としては、石油やガス等の炭化水素資源の掘削に使用するダウンホールに使用する諸部材(坑井掘削用ダウンホールツールまたはその部材)が挙げられる。例えば、本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物は、機械加工して、坑井掘削用ダウンホールツールに備えられる坑井掘削用ダウンホールツール部材や坑井掘削用ボールシーラーを形成する機械加工用素材として使用することができる。具体的には、例えば、坑井掘削用ダウンホールツールまたはその部材や、直径20〜200mmの坑井掘削用ボールシーラーを形成するための直径20〜200mmの丸棒や、外径50〜200mmで内径5〜100mmの中空管等である機械加工用素材を得ることができる。また、中空管として内径が均一であって、一部、例えば端部の外径が拡径されている形状の中空管である機械加工用素材を得ることができる。
【0087】
本発明によれば、10〜500mmの厚みまたは直径を有し、温度66℃における引張強度が5〜100MPa、所望によっては5〜200MPaである、機械加工用素材であるポリ−L−乳酸固化押出成形物を切削加工等の機械加工して形成した直径20〜200mmの坑井掘削用ボールシーラーや坑井掘削用ダウンホールツールまたはその部材を得ることができる。
【0088】
また、本発明によれば、10〜500mmの厚みまたは直径を有し、温度66℃における引張強度が5〜100MPa、所望によっては5〜200MPaであるポリ−L−乳酸固化押出成形物から形成した坑井掘削用ダウンホールツールまたはその部材を備える目止めプラグを得ることができる。
【0089】
目止めプラグ、坑井掘削用ダウンホールツール部材及び坑井掘削用ボールシーラーとしては、多様な構造や形式のものが知られている。また、坑井掘削用ボールシーラーは、ボールシーラー単独で目止め材として使用されたり、ボールシートとともに目止めプラグやスリーブシステムに組み込まれて使用されたりすることができ、多様な大きさや構造のものが知られている。
【0090】
4.坑井掘削用ダウンホールツール部材を備える目止めプラグ
本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物を機械加工して形成した坑井掘削用ダウンホールツール部材を備える目止めプラグとしては、好ましくは、前記の坑井掘削用ダウンホールツール部材が、
a.マンドレル(芯棒)、
b.マンドレル(芯棒)の軸方向と直交する外周面上に置かれた1対のリング、並びに、
c.マンドレル(芯棒)の軸方向と直交する外周面上であって、1対のリングの間の位置に置かれたスリップまたはウエッジの一方または両方からなる群より選ばれる少なくとも一つである前記のポリ−L−乳酸固化押出成形物から形成した坑井掘削用ダウンホールツール部材を備える目止めプラグが挙げられる。
【0091】
また、より好ましくは、マンドレルの軸方向と直交する外周面上であって、1対のリングの間の位置に置かれた、少なくとも1つの拡径可能な環状のゴム部材を備える坑井掘削用ダウンホールツール部材を備える目止めプラグが挙げられる。
【0092】
坑井掘削用ダウンホールツール部材を備える目止めプラグについて、
図1の模式図を示して、その構造を具体的に説明する。すなわち、
図1の模式図に示す目止めプラグは、マンドレル(芯棒)1;マンドレル(芯棒)1の軸方向と直交する外周面上に置かれた1対のリング2、2’;マンドレル(芯棒)1の軸方向と直交する外周面上であって、1対のリング2、2’の間の位置に置かれたスリップ3、3’;マンドレル(芯棒)1の軸方向と直交する外周面上であって、1対のリングの間の位置に、前記スリップ3、3’と摺接可能に置かれたウエッジ4、4’;マンドレルの軸方向と直交する外周面上であって、1対のリングの間の位置に置かれた、少なくとも1つの拡径可能な環状のゴム部材5を備える。さらに、マンドレル(芯棒)1の中空部hに、ボールシーラー10と、中心部に円形状の空隙を有する略円環状のボールシート12とが備えられている。
【0093】
図1の模式図に示す目止めプラグにおいて、1対のリング2,2’は、マンドレル(芯棒)1の外周面上においてマンドレル(芯棒)1の軸方向に沿って摺動が可能で、相互の間隔を変更することができるように構成されており、かつ、拡径可能な環状のゴム部材5、及び、スリップ3、3’とウエッジ4、4’との組み合わせの軸方向に沿う端部に、直接または間接的に当接することにより、これらにマンドレル(芯棒)1の軸方向の力を加えることができるように構成されている。拡径可能な環状のゴム部材5は、マンドレル(芯棒)1の軸方向に直交する方向に拡径して、ダウンホールの内壁Hと当接し、目止めプラグとダウンホールとの間の空間を閉塞(シール)し、次いで穿孔やフラクチャリングが遂行されている間、ダウンホールの内壁Hとの当接状態を維持することができ、目止めプラグとダウンホールとのシールを維持する機能を有する。また、ウエッジ4、4’に、マンドレル(芯棒)1の軸方向の力が加えられることにより、スリップ3、3’が、ウエッジ4、4’の斜面の上面を摺動する結果、マンドレル(芯棒)1の軸方向と直交する外方に移動し、ダウンホールの内壁Hに当接して、プラグとダウンホールの内壁Hとの固定を行う。さらに、マンドレル(芯棒)1の中空部hに備えられるボールシーラー10は、いずれもマンドレル(芯棒)1の中空部hの内部においてマンドレル(芯棒)1の軸方向に沿って移動が可能であり、ボールシート12の円形状の空隙にボールシーラー10が当接しまたは離隔することにより、流体の流れ方向を調節することができる。
【0094】
〔マンドレル〕
本発明の目止めプラグに備えられるマンドレル(芯棒)1は、中実のものでもよいが、フラクチャリング初期の流路確保、マンドレル(芯棒)1の重量の軽減、マンドレル(芯棒)1の分解速度のコントロールなどの観点から、マンドレル(芯棒)1が、軸方向に沿う中空部hを有する中空マンドレルであることが好ましい。軸方向に沿う中空部は、マンドレル(芯棒)1を軸方向に沿って貫通してもよいし、マンドレル(芯棒)1を軸方向に沿って貫通しないものでもよい。マンドレル(芯棒)1が軸方向に沿う中空部hを有するものである場合、マンドレル(芯棒)1の断面形状は、マンドレル(芯棒)1の直径(外径)及び中空部hの外径〔マンドレル(芯棒)1の内径に相当する。〕を画成する2つの同心円で形成される円環状である。2つの同心円の径の比率、すなわち、マンドレル(芯棒)1の直径に対する中空部hの外径の比率が0.7以下であることが好ましい。この比率の大小は、中空マンドレルの肉厚の、マンドレル(芯棒)1の直径に対する比率の大小と相反する関係にあるので、その比率の上限値を定めることは、中空マンドレルの肉厚の好ましい下限値を定めることに相当するということができる。中空マンドレルの肉厚が薄すぎると、目止めプラグを坑井孔内に配置したり、坑井孔の閉塞やフラクチャリングを行うときに、中空マンドレルの強度(特に引張強度)が不足して、極端な場合には目止めプラグが損傷することがある。したがって、マンドレル(芯棒)1の直径に対する中空部hの外径の比率は、より好ましくは0.6以下、更に好ましくは0.5以下である。
【0095】
マンドレル(芯棒)1の直径及び/または中空部の外径は、マンドレル(芯棒)1の軸方向に沿って均一でもよいが、軸方向に沿って変化するものでもよい。すなわち、マンドレル(芯棒)1の外径が軸方向に沿って変化することによって、マンドレル(芯棒)1の外周面に凸部、段部や凹部(溝部)などを有するものとしてもよい。また、中空部の外径が軸方向に沿って変化することによって、マンドレル(芯棒)1の内周面に凸部、段部や凹部(溝部)などを有するものとしてもよい。マンドレルの外周面及び/または内周面に有する凸部、段部や凹部(溝部)は、マンドレル(芯棒)1の外周面及び/または内周面に、別部材を取り付けたり固定したりするための部位として利用することができ、マンドレル(芯棒)1が中空部hを有する場合、流体の流れを制御するために使用するボールシーラー10を保持する座面とすることができる。
【0096】
マンドレル(芯棒)1を形成する材料は特に限定されないが、強度等の機械的特性、機械加工の容易性、特にマンドレル(芯棒)1の外周面や内周面に凸部、段部や凹部(溝部)などを形成することの容易性などの観点から、本発明に係るポリ−L−乳酸固化押出成形物を機械加工して形成した坑井掘削用ダウンホールツール部材に該当するものとすることが好ましい。
【0097】
(環状のゴム部材の固定部)
マンドレル(芯棒)1が外周面に有する凸部、段部や凹部(溝部)などは、拡径可能な環状のゴム部材5を固定するための固定部として利用することができる。すなわち、後に詳述するように、本発明の目止めプラグが、マンドレル(芯棒)1の軸方向と直交する外周面上であって、1対のリング2、2’の間の位置に置かれた、少なくとも1つの拡径可能な環状のゴム部材5を備える場合、拡径可能な環状のゴム部材5は、マンドレル(芯棒)1の軸方向に圧縮されることに伴い軸方向と直交する方向に拡径して、坑井孔の内壁Hと当接し、プラグと坑井孔との間の空間を閉塞(シール)する。次いで、フラクチャリングが遂行されている間、プラグと坑井孔とのシールが維持されることが必要なので、拡径可能な環状のゴム部材5を、拡径した状態で、すなわちマンドレル(芯棒)1の軸方向に圧縮された状態で、何らかの手段により保持することが必要である。本発明の目止めプラグに備えられるマンドレル(芯棒)1は、外周面に拡径可能な環状のゴム部材5を圧縮状態のまま固定する固定部を有するものであることが好ましい。この固定部は、先に説明した凸部、段部や凹部(溝部)でもよいし、ねじ部その他の、マンドレル(芯棒)1の外周面に拡径可能な環状のゴム部材5を圧縮状態のまま固定することができる手段を採用することができる。加工や成形の容易さや強度などの観点から、固定部は、溝、段部及びねじ山からなる群より選ばれる少なくとも1つであることがより好ましい。
【0098】
(外周面の加工部分)
マンドレル(芯棒)1の外周面及び/または内周面に有する凸部、段部や凹部(溝部)、更にはねじ部など、マンドレル(芯棒)1の厚み、外径及び内径等が変化する部分(以下、「加工部分」ということがある。)は、目止めプラグを坑井孔内に配置したり、坑井孔の閉塞やフラクチャリングを行ったりするときに、応力集中する箇所である。一般に、加工部分の曲率半径が小さいと、応力集中が大きくなるので、本発明の目止めプラグの強度、特にマンドレル(芯棒)1の強度(特に引張強度)を十分なものとするために、マンドレル(芯棒)1の外周面の加工部分の曲率半径が0.5mm以上であることが好ましく、1.0mm以上であることがより好ましい。
【0099】
(金属保護)
本発明の目止めプラグが備えるマンドレル(芯棒)1は、所望により、外周面の一部を金属で保護されているものとしてもよい。すなわち、マンドレル(芯棒)1の外周面が、金属で保護されている箇所を有するものであることにより、マンドレル(芯棒)1が、例えば、ポリ−L−乳酸固化押出成形物を機械加工して形成した坑井掘削用ダウンホールツール部材に該当する場合、マンドレル(芯棒)1の所望の箇所について、分解性や強度を調整することができ、また、マンドレル(芯棒)1に取り付けたり固定したりしている別部材との結合強度を高めたりすることができるので好ましい。外周面を保護するために使用される金属は、目止めプラグが備えるマンドレル(芯棒)1を形成するために使用される材料やその補強等のために使用されている金属などであり、特に制限されないが、具体的には、アルミニウム、鉄、ニッケルなどが挙げられる。
【0100】
〔1対のリング〕
本発明の目止めプラグに備えられる1対のリング2、2’は、マンドレル(芯棒)1の軸方向と直交する外周面上に置かれた、スリップ3、3’とウエッジ4、4’との組み合わせ、及び、拡径可能な環状のゴム部材5に対して、マンドレル(芯棒)1の軸方向の力を加えるために備えられるものである。すなわち、上記の1対のリング2、2’は、マンドレル(芯棒)1の外周面上においてマンドレル(芯棒)1の軸方向に沿って摺動が可能で、リング相互の間隔を変更することができるように構成されており、かつ、スリップ3、3’とウエッジ4、4’との組み合わせ、及び、拡径可能な環状のゴム部材5の軸方向に沿う端部に、直接または間接的に当接することにより、これらにマンドレル(芯棒)1の軸方向の力を加えることができるように構成されている。
【0101】
1対のリング2、2’の各々のリングの形状や大きさは、上記した機能を果たすことができる限り、特に制限されないが、スリップ3、3’とウエッジ4、4’との組み合わせ、及び、拡径可能な環状のゴム部材5に対して、マンドレル(芯棒)1の軸方向の力を有効に加えることができる観点から、リングのこれらに当接する側の端面を平面状とすることが好ましい。1対のリング2、2’の各々のリングは、マンドレル(芯棒)1の外周面を完全に取り囲む円環状のものが好ましいが、周方向に切れ目や変形箇所を有するものでもよい。また、円環を周方向に分離した形状のものとして、所望により円環を形成するようにしたものでもよい。1対のリング2、2’の各々のリングは、複数のリングを軸方向に隣接して置くことにより、幅広の〔マンドレル(芯棒)1の軸方向の長さが大きい。〕リングとすることもできる。なお、スリップ3、3’とウエッジ4、4’との組み合わせ、及び、拡径可能な環状のゴム部材5に対して、マンドレル(芯棒)1の軸方向の力を有効に加えるのに寄与する部材を含めて、本発明の目止めプラグにおける1対のリング2、2’を形成するリングであるといってもよい。
【0102】
1対のリング2、2’を形成する材料は特に限定されないが、少なくとも一方のリング2、2’を、本発明に係るポリ−L−乳酸固化押出成形物を機械加工して形成した坑井掘削用ダウンホールツール部材に該当するものとすることができる。1対のリング2、2’の両方のリングがポリ−L−乳酸固化押出成形物を機械加工して形成した坑井掘削用ダウンホールツール部材に該当するものである場合、ポリ−L−乳酸固化押出成形物を形成する樹脂材料の樹脂の種類や組成は、同一でもよいし、異なるものでもよい。1対のリング2、2’が、一方がポリ−L−乳酸固化押出成形物を機械加工して形成した坑井掘削用ダウンホールツール部材に該当するものである場合、他方のリングを形成する材料としては、アルミニウム、鉄等の金属や強化樹脂等の複合材を使用することができる。
【0103】
1対のリング2、2’は、同じまたは類似の形状や構造を有するものでもよいし、形状や構造が異なるものでもよい。例えば、1対のリング2、2’の各々のリングは、マンドレル(芯棒)1の軸方向の長さや外径が異なるものでもよい。また例えば、1対のリング2、2’の一方のリングを、所望によりマンドレル(芯棒)1に対して摺動することができない状態に構成することができる。この場合、1対のリング2、2’の他方のリングがマンドレル(芯棒)1の外周面上を摺動して、スリップ3、3’とウエッジ4、4’との組み合わせ、及び、拡径可能な環状のゴム部材5の軸方向に沿う端部に当接する。1対のリング2、2’の一方のリングを、所望によりマンドレル(芯棒)1に対して摺動することができない状態にする構成は、特に制限されないが、例えば、マンドレル(芯棒)1と、1対のリング2、2’の一方のリングとが一体に形成されているものとしたり(この場合は、当該リングは、マンドレル(芯棒)1に対して常時摺動することができない。)、ドッグクラッチ等のクラッチ構造やはめ合い構造を利用するものとしたり(この場合は、マンドレル(芯棒)1に対して摺動する状態と摺動することができない状態とを切り替えることができる。)することができる。マンドレル(芯棒)1と、1対のリング2、2’の一方のリングとが一体に形成されている目止めプラグとしては、それらが一体成形により形成されてなる目止めプラグ、または、本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物を機械加工してマンドレル(芯棒)1と、1対のリング2、2’の一方のリングとを形成した目止めプラグが提供される。
【0104】
更にまた、本発明の目止めプラグは、1対のリング2、2’を複数対備えるものでもよい。この場合、スリップ3、3’とウエッジ4、4’との組み合わせ、及び、拡径可能な環状のゴム部材5の、それぞれの1つ以上を別々にまたは組み合わせて、複数対のリングの間の位置に置かれるようにすることもできる。
【0105】
〔スリップ及びウエッジ〕
本発明の目止めプラグは、所望により、マンドレル(芯棒)1の軸方向と直交する外周面上であって、1対のリング2、2’の間の位置に置かれた、少なくとも1つのスリップ(slip)3、3’とウエッジ(wedge)4、4’との組み合わせを備えるものとすることができる(
図1においては、スリップ3とウエッジ4との組み合わせ、及び、スリップ3’とウエッジ4’との組み合わせとして、複数のスリップとウエッジとの組み合わせを備えている。)。スリップ3、3’とウエッジ4、4’との組み合わせは、プラグと坑井孔との固定を行う手段として、目止めプラグにおいてそれ自体周知のものである。すなわち、従来多くの場合、金属、無機物等により形成されるスリップ3、3’が、複合材等により形成されるウエッジ4、4’の斜面の上面に摺動可能に接触して置かれ、ウエッジ4、4’に、既に説明した方法によりマンドレル(芯棒)1の軸方向の力が加えられることにより、スリップ3、3’がマンドレル(芯棒)1の軸方向と直交する外方に移動し、坑井孔の内壁Hに当接して、プラグと坑井孔の内壁Hとの固定を行う。スリップ3、3’には、プラグと坑井孔との間の空間の閉塞(シール)を一層確実なものとするために、坑井孔の内壁Hとの当接部に、1以上の溝、凸部、粗面(ギザギザ)などを設けてもよい。また、スリップ3、3’は、予めマンドレル(芯棒)1の軸方向に直交する円周方向において所定の数に分割されているものでもよいし、
図1に示すように、軸方向に沿う一端部から他端部に向かい途中で終了する切れ目を有するものでもよい(この場合は、ウエッジ4、4’にマンドレル(芯棒)1の軸方向の力が加えられて、ウエッジ4、4’がスリップ3、3’の下面に進入することにより、スリップ3、3’が、前記の切れ目及びその延長線に沿って割られて分割し、次いで各分割片がマンドレル(芯棒)1の軸方向と直交する外方に移動する。)。
【0106】
本発明の目止めプラグにおいて、スリップ3、3’とウエッジ4、4’との組み合わせは、マンドレル(芯棒)1の軸方向の力を加えることができるように、1対のリング2、2’の間の位置に置かれるものであり、拡径可能な環状のゴム部材5と隣接して置かれるものとすることができる。本発明の目止めプラグは、
図1に示すように、スリップ3、3’とウエッジ4、4’との組み合わせを複数備えるものである場合、拡径可能な環状のゴム部材5を挟むように隣接して置かれてもよいし、その他の配置で置かれてもよい。本発明の目止めプラグが、拡径可能な環状のゴム部材5を複数備えるものである場合は、スリップ3、3’とウエッジ4、4’との組み合わせの配置は、所望により適宜選択することができる。
【0107】
なお、本発明の目止めプラグは、スリップ3、3’とウエッジ4、4’との組み合わせを備えないものとすることもできる。本発明の目止めプラグが、スリップ3、3’及びウエッジ4、4’を備えない場合、拡径可能な環状のゴム部材5は、1対のリング2、2’と当接することによって、マンドレル(芯棒)1の軸方向の力が加えられ拡径する。
【0108】
本発明の目止めプラグがスリップ3、3’とウエッジ4、4’との組み合わせを備える場合、該スリップ3、3’またはウエッジ4、4’の一方または両方を、ポリ−L−乳酸固化押出成形物を機械加工して形成した坑井掘削用ダウンホールツール部材に該当するものとすることができる。また、スリップ3、3’またはウエッジ4、4’の一方または両方を、樹脂材料が、全量基準で5〜70質量%の充填剤を含有するポリ−L−乳酸組成物であるものとしてもよい。
【0109】
〔拡径可能な環状のゴム部材〕
本発明の目止めプラグは、マンドレル(芯棒)1の軸方向と直交する外周面上であって、1対のリング2、2’の間の位置に置かれた、少なくとも1つの拡径可能な環状のゴム部材5を備えるものとすることができる。拡径可能な環状のゴム部材5は、1対のリング2、2’に直接または間接的に当接することにより、マンドレル(芯棒)1の外周面上においてマンドレル(芯棒)1の軸方向の力を伝達され、その結果、マンドレル(芯棒)1の軸方向に圧縮されることに伴いマンドレル(芯棒)1の軸方向に直交する方向に拡径して、坑井孔の内壁Hと当接し、プラグと坑井孔との間の空間を閉塞(シール)するものである。拡径可能な環状のゴム部材5は、次いでフラクチャリングが遂行されている間、坑井孔の内壁Hと当接状態を維持することができ、プラグと坑井孔とのシールを維持する機能を有するものである。
【0110】
拡径可能な環状のゴム部材5は、上記した機能を有するものである限り、その材料、形状及び構造に制限はない。例えば、マンドレル(芯棒)1の軸方向に直交する周方向の断面が逆U字形の形状を有する環状のゴム部材5とすることにより、U字の先端部分がマンドレル(芯棒)1の軸方向に圧縮されるのに伴って逆U字形の頂点部に向かうように拡径することができる。
【0111】
拡径可能な環状のゴム部材5は、拡径したときに坑井孔の内壁Hに当接してプラグと坑井孔との間の空間を閉塞(シール)するとともに、拡径しないときにはプラグと坑井孔との間に空隙が存在するものであることから、拡径可能な環状のゴム部材5は、マンドレル(芯棒)1の軸方向の長さが、マンドレル(芯棒)1の長さに対して、好ましくは10〜70%、より好ましくは15〜65%であり、これにより、本発明の目止めプラグは、十分なシール機能とを有するとともに、シール後には坑井孔とプラグとの固定補助の機能を果たすことができる。
【0112】
本発明の目止めプラグは、拡径可能な環状のゴム部材5を複数備えることができる。この場合、プラグと坑井孔との間の空間を複数の位置で閉塞(シール)することができ、また、坑井孔とプラグとの固定補助の機能をより確実に果たすことができる。なお、本発明の目止めプラグが、拡径可能な環状のゴム部材5を複数備える場合、先に説明した拡径可能な環状のゴム部材5のマンドレル(芯棒)1の軸方向の長さとは、複数の拡径可能な環状のゴム部材5のマンドレル(芯棒)1の軸方向の長さの合計を意味する。本発明の目止めプラグは、拡径可能な環状のゴム部材5を複数備える場合、複数の拡径可能な環状のゴム部材5は、同一の材料、形状または構造を有するものでもよいし、それらが異なるものでもよい。また、複数の拡径可能な環状のゴム部材5を、前記した1対のリング2、2’の間の位置に、隣接してまたは離隔して置かれたものとしてもよいし、複数の1対のリング2、2’の各々の対の間の位置に置かれたものとしてもよい。
【0113】
拡径可能な環状のゴム部材5は、例えば、積層ゴムなど複数のゴム部材から形成される構造のゴム部材であってもよい。また、拡径したときにプラグと坑井孔との間の空間の閉塞(シール)や坑井孔とプラグとの固定補助を一層確実なものとするために、坑井孔の内壁Hとの当接部に、1以上の溝、凸部、粗面(ギザギザ)などを設けてもよい。
【0114】
拡径可能な環状のゴム部材5は、高深度地下の高温高圧の環境下において、フラクチャリングに伴う一層の高圧やフラクチャリング流体との接触によっても、シール機能の喪失が生じないことが求められる。そのために耐熱、耐油及び耐水性に優れたゴム材料が好ましく、例えば、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、アクリルゴム等を使用することができる。さらに、拡径可能な環状のゴム部材5が分解性材料から形成されるものとすることもできる。分解性材料であるゴムとしては、生分解性、加水分解性または更に他の何らかの方法によって化学的に分解することができる分解性のゴムとして、従来知られている材料を使用することができる。例えば、脂肪族ポリエステル系ゴム、天然ゴム、ポリイソプレン、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴム、スチレンゴム(スチレン・ブタジエンゴム等)、アクリルゴム、クロロプレンゴム及びウレタンゴムなどのゴム材料が好ましく挙げられる。また、分解性や崩壊性の観点から、加水分解性を有する官能基(例えば、ウレタン基、エステル基、アミド基、カルボキシル基、水酸基、シリル基、酸無水物、酸ハロゲン化物等)を有するゴム材料も好ましく挙げられる。特に好ましいゴム材料としては、ゴム材料の構造や硬度、架橋度等を調整したり、他の配合剤を選択したりすることによって、分解性や崩壊性の制御を容易に実施することができることから、ウレタンゴムが挙げられる。なお、耐油性・耐熱性・耐水性等に優れていることから、従来、ダウンホールツール用に汎用されるゴム材料であるニトリルゴムや水添ニトリルゴムは、通常、分解性材料には該当しない場合が多い。
【0115】
本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物を機械加工して形成した坑井掘削用ダウンホールツール部材を備える目止めプラグは、マンドレル(芯棒)1、1対のリング2、2’、スリップ3、3’及びウエッジ4、4’からなる群より選ばれる少なくとも一つとして使用することができるが、ポリ−L−乳酸固化押出成形物から形成した坑井掘削用ダウンホールツール部材として特に好ましいのは、該目止めプラグのマンドレル(芯棒)1への使用である。
【0116】
5.その他の二次成形物
本発明の機械加工用素材であるポリ−L−乳酸固化押出成形物は、機械加工を行うことにより、その他の二次成形物に成形することができる。例えば、電気電子分野では、ウエハキャリア、ウエハカセット、スピンチャック、トートビン、ウエハボート、ICチップトレー、ICチップキャリア、IC搬送チューブ、ICテストソケット、バーンインソケット、ピングリッドアレイソケット、クワッドフラットパッケージ、リードレスチップスキャリア、デュアルインラインパッケージ、スモールアウトラインパッケージ、リールパッキング、各種ケース、保存用トレー、搬送装置部品、磁気カードリーダーなどが挙げられる。
【0117】
OA機器分野では、電子写真複写機や静電記録装置などの画像形成装置における各種ロール部材、記録装置用転写ドラム、プリント回路基板カセット、ブッシュ、紙及び紙幣搬送部品、紙送りレール、フォントカートリッジ、インクリボンキャニスター、ガイドピン、トレー、ローラー、ギア、スプロケット、コンピュータ用ハウジング、モデムハウジング、モニターハウジング、CD−ROMハウジング、プリンターハウジング、コネクター、コンピュータスロットなどが挙げられる。
【0118】
通信機分野では、携帯電話部品、ペーガー、各種摺動材などが挙げられる。自動車分野では、内装材、アンダーフード、電子電気機器ハウジング、ガスタンクキャップ、燃料フィルタ、燃料ラインコネクタ、燃料ラインクリップ、燃料タンク、機器ビージル、ドアハンドル、各種部品などが挙げられる。その他の分野では、電線支持体、電波吸収体、床材、パレット、靴底、ブラシ、送風ファン、面状発熱体、ポリスイッチなどが挙げられる。
【0119】
6.坑井掘削方法
本発明によれば、本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物を機械加工して形成した直径20〜200mmの坑井掘削用ボールシーラーを使用して、坑井孔の目止め処理を行った後に坑井掘削用ボールシーラーの一部または全部が分解されることを特徴とする坑井掘削方法、並びに、本発明のポリ−L−乳酸固化押出成形物を機械加工して形成した坑井掘削用ダウンホールツール部材を備える目止めプラグを使用して、坑井孔の目止め処理を行った後に、坑井掘削用ダウンホールツール部材の一部または全部が分解されることを特徴とする坑井掘削方法が提供される。これらの坑井掘削方法によれば、所定の諸区画のフラクチャリングが終了し、または、坑井の掘削が終了して坑井が完成し、石油や天然ガス等の生産を開始するときには、生分解、加水分解または更に他の何らかの方法による化学的な分解によって、ボールシーラーの一部または全部が分解されることにより、該ボールシーラーを容易に除去することができ、また、目止めプラグに備えられるマンドレル、1対のリング、スリップまたはウエッジ等の坑井掘削用ダウンホールツール部材、所望によっては更に坑井掘削用ダウンホールツール部材である拡径可能な環状のゴム部材の一部または全部が分解されることにより、坑井掘削用ダウンホールツール部材、及び、該坑井掘削用ダウンホールツール部材を備える目止めプラグを容易に除去することができる。この結果、本発明の坑井掘削方法によれば、従来、坑井完成後に坑井内に残置されている多数の目止めプラグやボールシーラーを除去、回収したり、破砕、穿孔その他の方法によって、破壊したり、小片化したりするために要していた多くの経費と時間が不要となるので、坑井掘削の経費軽減や工程短縮ができる。
【実施例】
【0120】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。本発明は、実施例に限定されるものではない。物性及び特性の測定方法は、以下に示すとおりである。
【0121】
(1)ポリ−L−乳酸の重量平均分子量
ポリ−L−乳酸の重量平均分子量は、以下の方法で測定した。すなわち、試料(押出機に供給するポリ−L−乳酸またはポリ−L−乳酸固化押出成形物からサンプリングした樹脂材料)10mgを、トリフルオロ酢酸ナトリウムを5mMの濃度で溶解させたヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解させて10mLとした後、メンブレンフィルタ―で濾過して試料溶液を得た。この試料溶液の10μLをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置に注入して、下記条件で分子量を測定した。なお、試料溶液は、溶解後、30分以内にGPC装置に注入した。
<GPC測定条件>
装置: 株式会社島津製作所製 LC−9A
カラム: 昭和電工株式会社製 HFIP−806M 2本(直列接続)
プレカラム: HFIP−LG 1本
カラム温度: 40℃
溶離液: トリフルオロ酢酸ナトリウムを5mMの濃度で溶解させたHFIP溶液
流速: 1mL/分
検出器: 示差屈折率計
分子量較正: 分子量の異なる標準分子量のポリメタクリル酸メチル5種(POLYMER LABORATORIES Ltd.製)を用いて作成した分子量の検量線データを使用。
【0122】
(2)溶融粘度
押出機に供給するポリ−L−乳酸またはポリ−L−乳酸固化押出成形物からサンプリングした小片により、厚み約0.2mmのポリ−L−乳酸の非晶シートを作製したのち、約150℃で5分間加熱して結晶化させた試料を用い、D=0.5mm、L=5mmのノズル装着キャピログラフ〔株式会社東洋精機製作所製キャピロ1A〕を用いて、温度240℃及び剪断速度120sec
-1で試料の溶融粘度を測定した。
【0123】
(3)温度66℃における引張強度
ポリ−L−乳酸固化押出成形物の66℃引張強度の測定は、JIS K7113に準拠し、株式会社島津製作所製の2tオートグラフAG−2000Eを使用して、試験片を温度66℃のオーブン内に静置して、長さ方向の引張に対する最大応力を測定して行った(単位:MPa)。
【0124】
(4)実用確認試験
ポリ−L−乳酸固化押出成形物を機械加工(切削加工)して作製した中空体を目止めプラグのマンドレル(芯棒)として目止めプラグに組み込んで、温度66℃の加熱オーブン内で、3,500kgf(34,300N)で引張試験を行い、マンドレル(芯棒)の破断の有無を確認した。
【0125】
[実施例1]
重量平均分子量290,000、温度240℃及び剪断速度120sec
-1で測定した溶融粘度が560Pa・sで、L体比率が95%であるポリ−L−乳酸のペレットを、温度80℃で6時間保持して除湿乾燥した。除湿乾燥したペレットを、L/D=20の30mmφ単軸押出機のホッパーに供給し、シリンダー温度215℃で溶融混練し、押出ダイ出口温度225℃で、フォーミングダイの流路内に溶融押出し、冷却温度50℃で冷却し固化させた。押出速度は、約20mm/10分であった。
【0126】
フォーミングダイの流路内で固化させた固化押出成形物を、上部ロール群と下部ロール群との間に通して加圧することにより、フォーミングダイ外圧(背圧)3,000kgに調整し、それによって、ポリ−L−乳酸固化押出成形物を緻密化した。次いで、該固化押出成形物を、温度120℃で8時間熱処理して、残留応力を除去した。この方法によって、直径が80mm、長さ1,000mmの丸棒状ポリ−L−乳酸固化押出成形物を得た。この固化押出成形物中のポリ−L−乳酸の重量平均分子量は240,000であり、樹脂材料の溶融粘度は230Pa・sであった。この丸棒から試験片を切り出して、温度66℃における長さ方向の引張に対する最大点応力を測定したところ、25MPa(66℃引張強度)であった。
【0127】
[実施例2]
実施例1で使用したポリ−L−乳酸と、ガラスファイバー(オーエンス・コーニング社製、03JAFT592。径10μm長さ3mm)とを、質量比70:30で溶融混練して調製し、ペレット化した樹脂材料を、温度80℃で6時間保持して除湿乾燥したものを原料として用いたことを除いて、実施例1と同様にして、直径が80mm、長さ1,000mmの丸棒状ポリ−L−乳酸固化押出成形物を得た。固化押出成形物中のポリ−L−乳酸の重量平均分子量は220,000であり、樹脂材料の溶融粘度は440Pa・sであった。この丸棒から試験片を切り出して、66℃引張強度を測定したところ、32MPaであった。
【0128】
[実施例3]
径10μmのガラスファイバー長繊維を引き取りながら、実施例1で使用したポリ−L−乳酸を溶融押出して、ガラスファイバーを被覆し、ポリ−L−乳酸とガラスファイバーとが質量比70:30であるストランドを、長さ3mmにカットしてポリ−L−乳酸を含有する樹脂材料のペレットを調製した。ペレット中に含有されるガラスファイバーは、径10μm長さ(重量平均)2.95mm(アスペクト比295)であった。ペレット化した樹脂材料を、温度80℃で6時間保持して除湿乾燥したものを原料として用いたことを除いて、実施例1と同様にして、直径が80mm、長さ1,000mmの丸棒状ポリ−L−乳酸固化押出成形物を得た。固化押出成形物中のポリ−L−乳酸の重量平均分子量は220,000であり、樹脂材料の溶融粘度は640Pa・sであった。この丸棒から試験片を切り出して、66℃引張強度を測定したところ、75MPaであった。
【0129】
実施例1〜3で得られた丸棒から、片刃のハイスバイトを使用して495回転/分で切削加工を行い、直径76.2mm(3インチ)の坑井掘削用ボールシーラー用のボールを11個作製することができた。
【0130】
また、得られた丸棒から、くり抜き加工及びハイスバイトを使用してフラックプラグ用の中空のマンドレル(芯棒)を作製した。作製したマンドレル(芯棒)を目止めプラグに組み込んで、温度66℃の環境下において、3,500kgf(34,300N)で引張試験を行ったところ、マンドレル(芯棒)の破断は起こらず、目止め機構が発現した。
【0131】
[比較例1]
重量平均分子量260,000、温度240℃及び剪断速度120sec
-1で測定した溶融粘度が380Pa・sで、L体比率が75%であるポリ−L−乳酸のペレットを、温度50℃で24時間乾燥したものを原料として用いたことを除いて、実施例1と同様にして、直径が80mm、長さ1,000mmの丸棒状ポリ−L−乳酸固化押出成形物を得た。固化押出成形物中のポリ−L−乳酸の重量平均分子量は200,000であり、樹脂材料の溶融粘度は180Pa・sであった。この丸棒から試験片を切り出して、66℃引張強度を測定したところ、0.4MPaであった。
【0132】
実施例1〜3から、重量平均分子量が100,000〜380,000であり、温度240℃及び剪断速度120sec
-1で測定した溶融粘度が20〜2,000Pa・sであり、かつ、L体比率が80〜100%のポリ−L−乳酸を含有する樹脂材料からなる、10〜500mmの厚みまたは直径を有し、温度66℃における引張強度が5〜100MPa、所望によっては5〜200MPaであるポリ−L−乳酸固化押出成形物は、優れた機械加工性を有し、切削、穴あけ、切断などの機械加工により二次成形品、特に坑井掘削用ボールシーラーや坑井掘削用ダウンホールツールまたはその部材に成形することが可能であることが分かった。
【0133】
これに対し、重量平均分子量が200,000であり、温度240℃及び剪断速度120sec
-1で測定した溶融粘度が380Pa・sであるものの、L体比率が75%のポリ−L−乳酸を含有する樹脂材料からなる、比較例1のポリ−L−乳酸固化押出成形物は、温度66℃における引張強度が0.4MPaであることから、例えば、坑井掘削用ダウンホールツール部材等の用途に求められる高温度環境下での強度が不足することが分かり、また、切削加工や切断の機械加工により、割れの発生等の不具合が発生するおそれもあることが推察された。