特許第6207545号(P6207545)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207545
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】学習記憶能力増強剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/685 20060101AFI20170925BHJP
   A61K 31/683 20060101ALI20170925BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20170925BHJP
   A61K 35/57 20150101ALI20170925BHJP
   A23L 33/12 20160101ALN20170925BHJP
【FI】
   A61K31/685
   A61K31/683
   A61P25/00
   A61K35/57
   !A23L33/12
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-92999(P2015-92999)
(22)【出願日】2015年4月30日
(65)【公開番号】特開2016-210696(P2016-210696A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2016年1月22日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591105801
【氏名又は名称】丸大食品株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三明 清隆
(72)【発明者】
【氏名】琴浦 聡
(72)【発明者】
【氏名】片渕 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】シャミン ホセイン
【審査官】 参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/083827(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/058517(WO,A1)
【文献】 特表2010−518164(JP,A)
【文献】 特開2014−058579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/685
A61K 31/683
A61K 35/57
A61P 25/00
A23L 33/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマローゲンを含む、学習記憶能力増強剤であって、
前記プラズマローゲンが、エタノールアミンプラズマローゲン及びコリンプラズマローゲンを含み、
前記プラズマローゲンの90質量%以上が、エタノールアミンプラズマローゲン及びコリンプラズマローゲンであり、
健常な哺乳動物に対して投与されるように用いられ、健常な学習記憶能力を増強するための学習記憶能力増強剤。
【請求項2】
前記プラズマローゲンが、生体組織から抽出されたプラズマローゲンである、請求項1に記載の学習記憶能力増強剤。
【請求項3】
前記生体組織が、鳥組織である、請求項2に記載の学習記憶能力増強剤。
【請求項4】
前記プラズマローゲンに含有される(エタノールアミンプラズマローゲン:コリンプラズマローゲン)の質量比が、(1:5)〜(5:1)である、請求項1〜3のいずれかに記載の学習記憶能力増強剤。
【請求項5】
経口剤である、請求項1〜4のいずれかに記載の学習記憶能力増強剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマローゲンを含む学習記憶能力増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマローゲンはグリセロリン脂質の1種であり、ヒトにおいては、神経、心血管、免疫系などに多く存在することが知られている。さらに、プラズマローゲンは、細胞核やシナプス間隙にも存在することが知られており、プラズマローゲンは神経活動において広範に機能していることが示唆されている。
【0003】
これまでに、プラズマローゲンの機能として、脳神経細胞新生作用(特許文献1)、抗中枢神経系炎症作用(特許文献2)などが明らかにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2011/083827号
【特許文献2】国際公開第2012/039472号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、プラズマローゲンの新たな用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、驚くべきことに、プラズマローゲンが学習記憶能力増強作用を有することを見出し、さらに研究を重ねることにより本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明は、代表的には以下の項に記載の学習記憶能力増強剤を提供するものである。
[項1]
プラズマローゲンを含む、学習記憶能力増強剤。
[項2]
前記プラズマローゲンが、生体組織から抽出されたプラズマローゲンである、請求項1に記載の学習記憶能力増強剤。
[項3]
前記生体組織が、鳥組織である、請求項2に記載の学習記憶能力増強剤。
[項4]
前記プラズマローゲンが、エタノールアミンプラズマローゲン及びコリンプラズマローゲンを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の学習記憶能力増強剤。
[項5]
前記プラズマローゲンの90質量%以上が、エタノールアミンプラズマローゲン及びコリンプラズマローゲンである、請求項4に記載の学習記憶能力増強剤。
[項6]
前記プラズマローゲンに含有される(エタノールアミンプラズマローゲン:コリンプラズマローゲン)の質量比が、(1:5)〜(5:1)である、請求項4又は5に記載の学習記憶能力増強剤。
[項7]
経口剤である、請求項1〜6のいずれかに記載の学習記憶能力増強剤。
[項8]
健常な哺乳動物に対して投与されるように用いられることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の学習記憶能力増強剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、学習記憶能力を増強させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、鶏ムネ肉から抽出した高純度プラズマローゲン含有物をHPLC−ELSDにより分析して得られたクロマトグラムを示す。図1中、「plPE」はエタノールプラズマローゲンを、「plPC」はコリンプラズマローゲンを、それぞれ示す。
図2図2は、試験例1で行ったモリス水迷路試験の結果を示す。図2中、a)はステージに到達するまでの時間(逃避時間:Escape latency)の平均値を示し、b)はマウスのプール内の移動軌跡を示す。なお、「**」は、p<0.01を示す。
図3図3は、試験例2で行ったLC−MSによる測定結果を示す。なお、「*」は、p<0.05を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明の学習記憶能力増強剤は、プラズマローゲンを含有する。
【0012】
プラズマローゲンとは、通常、グリセロール骨格の1位(sn−1位)にビニルエーテル結合を介した長鎖アルケニル基をもつグリセロリン脂質をいう。以下にプラズマローゲンの一般式を示す。
【0013】
【化1】
【0014】
[式中、R及びRは脂肪族炭化水素基を表す。Rは通常、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり、例えば、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコサニル基等が挙げられる。Rは通常、脂肪酸残基由来の脂肪族炭化水素基であり、例えば、オクタデカジエノイル基、オクタデカトリエノイル基、イコサテトラエノイル基、ドコサテトラエノイル基、ドコサペンタエノイル基、ドコサヘキサエノイル基等が挙げられる。また、式中、Xは極性基を表す。Xは好ましくは、エタノールアミン、コリン、セリン、イノシトール、又はグリセロールである。]
【0015】
特に、上記式中、Xがエタノールアミンであるエタノールアミンプラズマローゲン、及びXがコリンであるコリンプラズマローゲンは、自然界に広く存在するプラズマローゲンである。
【0016】
本発明に用いるプラズマローゲンは、生体組織から抽出されるものが好ましい。生体組織とは、生物におけるプラズマローゲンを含有する組織をいう。プラズマローゲンを抽出するために用いる生物としては、例えば、動物及び微生物が挙げられる。微生物としては嫌気性細菌が好ましく、例えば、腸内細菌のAcidaminococcaceae科の細菌などは特に好ましい。なお、細菌の場合、「生体組織」は細菌そのものである。動物としては、鳥類、哺乳類、魚類、貝類等が好ましい。哺乳類としては、供給安定性及び安全性の観点から家畜や家禽が好ましく、例えば、牛、豚、馬、羊、山羊、鳥類等が挙げられる。哺乳類の場合、プラズマローゲンを含有する組織としては、主に、皮膚、脳、腸、心臓、生殖器等が挙げられ、これらの組織からプラズマローゲンを抽出することができる。また、鳥類としては、鶏、家鴨、鶉、鴨、雉、七面鳥等が挙げられる。入手のし易さ、コスト面、及び口にすることに対する抵抗感等も考慮すると、鶏が特に好ましい。また、鳥組織としては、特に制限されないが、例えば、鳥肉(特に、鳥ムネ肉)、鳥皮、鳥の内臓等が好ましい。なお、1又は複数種の生物の異なる組織を2種以上組み合わせてもよい。
【0017】
本発明では、生体組織から抽出されたプラズマローゲンとして、鳥組織から抽出されたプラズマローゲンを用いることが特に好ましい。中でも、従来から食用とされてきた鳥(食鳥)は、安全性が確認されており、安定供給もし易いため、好適である。中でも、鶏が最適である。
【0018】
生体組織からプラズマローゲンを抽出する方法としては、プラズマローゲンが抽出(及び必要に応じて精製)できる限り特に限定されないが、簡便さ及びコスト等の観点からは、後述する方法により抽出及び精製を行うことが好ましい。また、後述する抽出及び精製の方法は、生体組織に含まれるジアシル型グリセロリン脂質を分解及び除去でき、得られるプラズマローゲンの純度をより一層高めることができるため、好ましい。
【0019】
具体的には、プラズマローゲンの抽出及び精製は、(1)生体組織からプラズマローゲンを抽出する工程、(2)抽出物中のプラズマローゲンを精製する工程(具体的には、中性脂質及び/又はスフィンゴ脂質を除去する工程)、及び(3)抽出物を加水分解処理後、精製する工程(具体的には、ジアシル型グリセロリン脂質を加水分解した後、遊離脂肪酸及びリゾリン脂質を除去する工程)を含む方法で行うことができる。ここで、工程(1)はプラズマローゲンの抽出工程であり、工程(2)及び(3)はプラズマローゲンの精製工程である。よって、工程(2)及び(3)は任意の工程であり、これらの工程はそれぞれ含まれていなくてもよいが、精製により濃縮されたプラズマローゲンを用いる方が好ましいため、これらの工程のうち少なくとも1つが含まれている方が好ましい。特に、工程(1)〜(3)を全て含む方法により抽出及び精製されたプラズマローゲンを含む学習記憶能力増強剤はその効果がより優れるため好ましい。
【0020】
なお、以下、「生体組織から抽出されたプラズマローゲン」を「生体組織抽出プラズマローゲン」と記載することがある。また、「鳥組織から抽出されたプラズマローゲン」を「鳥組織抽出プラズマローゲン」と記載することがある。
【0021】
プラズマローゲンを抽出する際に用いる溶媒としては、水、有機溶媒、又は含水有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ヘキサン等、又はこれらからなる群から選択される少なくとも2種以上の混合溶媒が挙げられる。含水有機溶媒の含水率は特に制限されず、例えば、含水率が10〜90%(v/v)である含水有機溶媒が挙げられる。これらの中でも、エタノール又は含水エタノールが好ましい。また、抽出に供される生体組織は、生であってもよいし、予め何らかの処理がなされたものであってもよい。例えば、予め乾燥処理及び/又は脱油処理がなされたものであってもよい。
【0022】
抽出処理方法としては特に制限されず、例えば、冷浸、温浸等の浸漬法やパーコレーション法等により抽出処理を行うことができる。好ましい例としては、鶏ムネ肉1kgに対して1〜10L、好ましくは1〜6L、より好ましくは2〜4Lのエタノールを加え、30℃以上で60分以上、好ましくは40℃以上で180分以上、静置又は攪拌を行う方法が挙げられる。
【0023】
得られた有機溶媒抽出液は、濃縮乾固した後、加水分解処理工程に供されることが好ましい。濃縮乾固は公知の方法によって行うことができ、例えば、エバポレーターを用いて行うことができる。このようにして得られた有機溶媒抽出物(有機溶媒抽出乾固物)には、プラズマローゲン等の脂質が濃縮されて含まれている。
【0024】
さらに、当該有機溶媒抽出乾固物を、例えば、アセトンで遠心処理後、沈殿を回収し、さらにヘキサン及びアセトンを混合した溶媒(ヘキサン/アセトン混合溶媒)で遠心処理後、液層を回収することが好ましい。限定的な解釈を望むものではないが、アセトンで遠心処理後、沈殿を回収することで中性脂質を除去することができ、ヘキサン/アセトン混合溶媒で遠心処理後、液層を回収することでスフィンゴ脂質を除去することができる。
【0025】
このようにして得られた液層を濃縮乾固することによって、リン脂質濃縮乾固物が得られる。当該リン脂質濃縮乾固物を加水分解処理工程に供し、ジアシル型グリセロリン脂質を加水分解することで、プラズマローゲンを好ましく濃縮することができる。
【0026】
加水分解処理としては、例えば、ホスホリパーゼA1(PLA1)による処理が挙げられる。PLA1は、ジアシル型グリセロリン脂質において、sn−1位の脂肪酸とグリセリン骨格との間のエステル結合を特異的に加水分解する。加水分解されたジアシル型グリセロリン脂質は、遊離脂肪酸及びリゾリン脂質へと分解される。一方、プラズマローゲンは、sn−1位がビニルエーテル結合であるため、PLA1の作用を受けない。そのため、PLA1で処理することにより、プラズマローゲンを分解することなく、ジアシル型グリセロリン脂質を特異的に分解することができる。プラズマローゲンと共存しているジアシル型グリセロリン脂質をPLA1によりリゾ体へと変換し、遊離脂肪酸及びリゾリン脂質を除去することにより、プラズマローゲンを精製することができる。遊離脂肪酸及びリゾリン脂質の除去は、例えば、アセトン及びヘキサンを用いた分配により行うことができる。
【0027】
PLA1は、上述した作用が得られるものであれば、その由来等は特に制限されない。例えば、Aspergillus orizae由来のPLA1が挙げられる。また、PLA1は市販品を用いてもよく、例えば、三菱化学フーズ株式会社等から購入することができる。また、PLA1の使用量は、加水分解処理に供される有機溶媒抽出乾固物量に応じて適宜設定することができる。例えば、有機溶媒抽出乾固物1mgあたり、0.2〜200unit程度、好ましくは2〜200unit程度とすることができる。なお、1unitは、1分間あたり1μmolの基質(ジアシル型グリセロリン脂質)を変化させる量(1μmol/min)を意味する。
【0028】
また、使用するバッファーも使用するPLA1の種類に応じて適宜設定することができる。バッファーとしては、例えば、0.1Mクエン酸+HClバッファー(pH4.5)などが挙げられる。バッファーの使用量は、酵素反応を進行させることができる量であれば特に制限されない。例えば、有機溶媒抽出乾固物1gあたり、1〜30mL程度、好ましくは5〜15mL程度とすることができる。なお、PLA1は、有機溶媒抽出乾固物にバッファーを加えて溶解させた後に加えればよい。
【0029】
さらに、反応条件も適宜設定することができ、好ましくは50℃で攪拌しながら、1〜2時間反応させる。
【0030】
なお、PLA1には失活処理を施してもよい。例えば、加水分解反応後、温度を70℃程度まで上昇させることにより、PLA1の失活処理を行うことができる。
【0031】
上記した方法により、ジアシル型グリセロリン脂質が分解された処理液(加水分解処理液)を得ることができる。当該加水分解処理液に、例えば、2〜3倍量程度のヘキサンを加え、遠心処理後、上層(ヘキサン層)を回収することで、酵素バッファー及び酵素タンパク質を除去することができる(酵素バッファー及び酵素タンパク質は下層の水層に溶解し、ヘキサン層には含まれない。)。
【0032】
さらに、プラズマローゲンは、ヘキサンには溶解するが、アセトンに対しては難溶性であるため、これらの溶媒及び水を適宜組み合わせて分配を行い、さらに水又は水溶液により溶液分配することにより、リゾリン脂質を除去してプラズマローゲンを得ることができる。即ち、アセトンによりリン脂質以外の中性脂質を除去することができ、液−液分配によりプラズマローゲンとリゾリン脂質を分離することができる。
【0033】
なお、以上の記載から解るように、上記工程(1)〜(3)をより具体的に記載すると、例えば、以下のようになる。
(1)生体組織をエタノール又は含水エタノールで抽出処理する工程、
(2)工程(1)で得られた抽出物をアセトンで遠心処理後、沈殿を回収し、さらにヘキサン/アセトン混合溶媒で遠心処理後、液層を回収する工程、及び
(3)工程(2)で回収した液をホスホリパーゼA1(PLA1)により処理する工程(さらに、必要に応じて、アセトン及びヘキサンを用いた分配により、遊離脂肪酸及びリゾリン脂質を除去する工程)。
【0034】
上記の方法により抽出及び精製された生体組織抽出プラズマローゲンは、本発明の学習記憶能力増強剤の有効成分として好ましく用いることができる。また、プラズマローゲンを含有する生体組織から抽出された組成物(即ち、プラズマローゲン含有生体組織抽出物)も、本発明の学習記憶能力増強剤の有効成分として好ましく用いることができる。
【0035】
生体組織抽出プラズマローゲンは、主にエタノールアミンプラズマローゲン及び/又はコリンプラズマローゲンを含む。特に制限されないが、生体組織抽出プラズマローゲンは、エタノールアミンプラズマローゲン及びコリンプラズマローゲンの含有量が、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以上であることがよりさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。
【0036】
また、特に制限されないが、生体組織抽出プラズマローゲンにおける、エタノールアミンプラズマローゲン及びコリンプラズマローゲンの質量比(エタノールアミンプラズマローゲン:コリンプラズマローゲン)は、(1:5)〜(1:0)であることが好ましく、(1:5)〜(1:0.01)であることがより好ましく、(1:5)〜(5:1)であることがさらに好ましく、(1:3)〜(3:1)であることがよりさらに好ましく、(1:2)〜(2:1)であることがいっそう好ましく、(1:1.5)〜(1.5:1)であることが特に好ましい。
【0037】
なお、脳に存在する主要なプラズマローゲンはエタノールアミンプラズマローゲンであり、コリンプラズマローゲンは脳内にほとんど存在しないことが知られている。そのため、コリンプラズマローゲンを含む生体組織抽出プラズマローゲンが、学習記憶能力の増強に好ましく用いることができるのは、全く意外なことであるといえる。
【0038】
また、上記した、エタノールアミンプラズマローゲン及びコリンプラズマローゲンの含有量及び質量比は、例えば、生体組織抽出プラズマローゲンを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で解析することにより算出ことができる。具体的には、HPLCにおいて、蒸発光散乱検出(ELSD:Evaporative Light Scattering Detector)により(即ち、HPLC−ELSDにより)、クロマトグラムを得、当該クロマトグラムにおけるエタノールアミンプラズマローゲン及びコリンプラズマローゲンを示すピーク面積がクロマトグラム全体のピーク面積の何%にあたるかを算出することで含有量を算出することができる。また、当該クロマトグラムにおけるエタノールアミンプラズマローゲン及びコリンプラズマローゲンを示すそれぞれのピーク面積の比を求めることで質量比を求めることができる。ELSDでは、類似した構造を有する物質であれば同様のエリアレスポンスを示すためである。なお、コリン型は電気的に中性である一方、エタノールアミン型はリン酸のマイナス電荷を有し弱酸性であることから、例えば、溶媒として酢酸及びトリエチルアミンを用いて酸性脂質をチャージさせて分析することが好ましい。チャージすることで、より同様のエリアレスポンスを示し得るからである。
【0039】
また、例えば、LC−MS等によりエタノールアミンプラズマローゲン及びコリンプラズマローゲンの量を定量し、含有量及び質量比を算出こともできる。
【0040】
本発明の学習記憶能力増強剤は、食品分野において好ましく用いることができる。例えば、本発明の学習記憶能力増強剤は、飲食品、食品添加剤等として用いることができる。
【0041】
本発明の学習記憶能力増強剤を飲食品として用いる場合、当該飲食品は、プラズマローゲン、及び食品衛生学上許容される基剤、担体、添加剤、その他飲食品として利用される成分や材料等が適宜配合されたものである。このような飲食品としては、例えば、プラズマローゲンを含む、加工食品、飲料、健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、栄養補助食品(サプリメント)、病者用食品(病院食、病人食、介護食等)などの食品組成物を挙げることができる。
【0042】
また、特に制限されるものではないが、当該飲食品に含まれるプラズマローゲンが、家畜や家禽等の組織から抽出されたものである場合には、例えば、当該プラズマローゲンが配合されたハンバーグ、ミートボール、ウインナー、鳥そぼろ、鳥皮チップス等の加工食肉製品、及び加工された肉食品を含む健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、栄養補助食品(サプリメント)、病者用食品等であることが好ましい。
【0043】
また、プラズマローゲンを、例えば、粉末状にするなどして、飲料類(ジュース類等)、菓子類(例えば、ガム、チョコレート、キャンディー、ビスケット、クッキー、おかき、煎餅、プリン、杏仁豆腐等)、パン類、スープ類(粉末スープ等を含む)、加工食品等の各種飲食品に配合したものであってもよい。
【0044】
なお、本発明の学習記憶能力増強剤を、健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、栄養補助食品(サプリメント)として用いる場合、これらを継続的に摂取し易くするようにするために、例えば、顆粒、カプセル、錠剤(チュアブル錠等を含む)、飲料(ドリンク剤)などの形態とすることが好ましい。中でも、摂取の簡便さの観点から、カプセル又は錠剤の形態とすることがより好ましい。顆粒、カプセル、錠剤等の形態は、薬学的及び/又は食品衛生学的に許容される担体等を用いて、常法に従って適宜調製することができる。
【0045】
本発明の学習記憶能力増強剤を飲食品として用いる場合、当該飲食品におけるプラズマローゲンの配合量は、学習記憶能力増強作用が発揮される量であれば特に制限されないが、飲食品全量を基準として、0.0005〜100質量%程度であることが好ましく、0.005〜90質量%程度がより好ましく、0.05〜80質量%程度であることがさらに好ましい。
【0046】
本発明の学習記憶能力増強剤を飲食品として用いる場合、当該飲食品は、学習記憶能力の増強のために好ましく用いることができる。換言すると、当該飲食品は、学習記憶能力増強用の飲食品、好ましくは、学習記憶能力増強用の、健康食品、栄養機能食品、特定保健用食品等として用いることができる。また、当該飲食品の摂取量、摂取期間や摂取対象、当該飲食品に含まれるプラズマローゲンの測定方法については特に制限されない。
【0047】
摂取量は、摂取対象の年齢、摂取対象の健康状態、その他の条件等によって適宜設定することができ、例えば、成人に対する一日あたりの摂取量が、1〜1000mg程度、好ましくは10〜100mg程度となる量を目安とすることができる。また、摂取間隔については、例えば上記した量を摂取する場合、1日1回摂取してもよいし、複数回(好ましくは2〜3回)に分けて摂取してもよい。
【0048】
本発明の学習記憶能力増強剤を食品添加剤として用いる場合、当該食品添加剤は、プラズマローゲンそのものであってもよいし、プラズマローゲン及び食品衛生学上許容される基剤、担体、添加剤や、その他食品添加剤として利用され得る成分や材料等が適宜配合された食品添加物用組成物であってもよい。
【0049】
食品添加剤の形態としては特に制限されず、例えば、液状、粉末状、フレーク状、顆粒状、ペースト状などのものが挙げられる。具体的には、調味料(例えば、醤油、ソース、ケチャップ、ドレッシング等)、フレーク(ふりかけ)、焼肉のたれ、スパイス、ルーペースト(例えば、カレールーペースト等)などを例示することができる。このような食品添加剤は、常法に従って適宜調製することができる。
【0050】
本発明の学習記憶能力増強剤を食品添加剤として用いる場合、当該食品添加剤におけるプラズマローゲンの配合量は、学習記憶能力増強作用が発揮される量であれば特に制限されないが、食品添加剤全量を基準として、0.0005〜100質量%程度であることが好ましく、0.005〜90質量%程度がより好ましく、0.05〜80質量%程度であることがさらに好ましい。
【0051】
なお、本発明の学習記憶能力増強剤を食品添加剤として用いる場合、当該食品添加剤は、当該食品添加剤が添加された食品を食べることにより摂取される。なお、当該食品添加剤の食品への添加は、食品の調理中又は製造中に行ってもよいし、調理又は製造済みの食品を食べる直前又は食べながら行ってもよい。
【0052】
上記した飲食品及び食品添加剤は、学習記憶能力の増強のために好ましく用いることができる。特に、学習記憶能力増強用の、健康食品、栄養機能食品、特定保健用食品等の飲食品や、学習記憶能力増強作用を食品に付与するための食品添加剤として好ましく用いることができる。
【0053】
また、本発明は、上記した学習能力増強剤を対象に摂取させる工程を含む、学習記憶を増強させる方法も提供する。
【0054】
摂取させる対象としては、哺乳動物であれば特に制限されず、ヒトのみならず、非ヒト哺乳動物も含まれる。中でも、健常な哺乳動物に対して摂取させることが好ましい。なお、本明細書において「健常な」とは、学習記憶能力が低下するような疾患、例えば、認知症(アルツハイマー病、パーキンソン病等)などの疾患に罹患していないことを意味する。また、健常なヒトに対して学習能力増強剤を摂取させる場合、これは、いわゆる医療行為を指向するものではない。例えば、食事指導を謳った講習会やサロンなどで学習能力増強を所望する人などに薦めたり、パッケージなどに学習能力の増強を所望する人に訴求する文章やイラスト等を表示したりすることなどが挙げられる。
【0055】
このように、本発明の学習記憶増強剤を上記した対象に摂取させることにより、当該対象の学習記憶を増強させることができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0057】
生体組織抽出プラズマローゲンの調製
鳥組織である鶏ムネ肉を常法に従って採取し、約8mmのミンチへチョッピングし、微生物制御のために加熱工程を経た後、これをチルド冷凍保存した。その後、常法により凍結乾燥を行い、グラインダー処理により粉砕し、乾燥鶏ムネ肉粉末を得た。なお、乾燥鶏ムネ肉粉末は、抽出に使用するまでは脱酸素剤と共に密封保存した。
【0058】
<有機溶媒抽出工程>
工程(1)
上述の方法により得られた乾燥鶏ムネ肉粉末1kgにエタノール4Lを加えて12時間、40℃で攪拌・静置した後、抽出液を固形物と分離した。固形物には再度エタノール2.5Lを加えて上記と同様の操作を行い、得られた抽出液を合わせて濾紙で濾過した後、減圧乾燥して濃縮された抽出乾固物を得た。
【0059】
工程(2)
工程(1)で得られた抽出乾固物に水8mLを加えて攪拌及び遠心し、上層を除去することにより沈殿を回収した。当該沈殿に、アセトン200mLを加えて攪拌及び4℃で遠心し、沈殿を回収した。当該沈殿にさらにヘキサン/アセトン(7:3)混合溶媒100mLを加えて攪拌及び遠心し、液層(プラズマローゲン含有画分)を回収した。液層は速やかにロータリーエバポレーターで濃縮乾固して、濃縮乾固体物20gを得た。なお、遠心は、3000rpm×10分で行い、アセトン単一及びヘキサン/アセトン混合溶媒を用いた操作は4℃で、その他の操作は15℃で行った。
【0060】
工程(3)
工程(2)で得られたプラズマローゲン含有画分20gを、ホスホリパーゼA1(三菱化学フーズ株式会社製)溶液400mL(10mg/mL 0.1クエン酸−HClバッファー)中に分散させ、窒素ガス充填下50℃で2時間攪拌した。その後、冷却し、2倍容量のヘキサンを加えて2回攪拌、分配し、ヘキサン層を回収して濃縮乾固した。さらに、当該乾固物にアセトン60mLを加えて撹拌及び遠心し、沈殿を回収する操作を2回繰り返した。さらに、当該沈殿にヘキサン/アセトン(7:3)混合溶媒60mLを加えて攪拌及び遠心し、液層(高純度プラズマローゲン含有画分)を回収した。当該液層に、ヘキサン198mLとアセトン222mL(即ち、合計でヘキサン/アセトン(1:1)となる)を加えて分液漏斗に移し、水72mLを加えて攪拌及び分配した。下層(アセトン層)を除去し、上層(ヘキサン層)にアセトン/水(5:3)192mLを加えて、攪拌及び分配した。上層(ヘキサン層)を回収し、速やかに減圧乾燥して鶏ムネ肉由来高純度プラズマローゲン含有物を得た。
【0061】
<鶏ムネ肉由来高純度プラズマローゲン含有物の純度の検討>
上述の方法により得られた鶏ムネ肉由来高純度プラズマローゲン含有物をHPLCにより解析し、クロマトグラムを得た。HPLCの解析条件を以下に示す。
【0062】
[HPLC解析条件]
・機器:Shimadzu LC−10AD
・カラム:LiChrospher Diol 100(250−4、Merk社製)(プレカラムなし)
・溶媒;A液:ヘキサン/2−プロパノール/酢酸(87:17:1、v/v)、B液:2−プロパノール/水/酢酸(85:14:1、v/v)+0.2% トリエチルアミン
・グラジエント条件:
【0063】
【表1】
【0064】
・流速:1.0mL/min
・検出:ELSD蒸発光散乱検出器(島津製作所社製)
【0065】
HPLC−ELSDにより分析して得られたクロマトグラムを図1に示す。鶏ムネ肉由来高純度プラズマローゲン含有物に含まれるプラズマローゲンは、エタノールアミンプラズマローゲン(plPE)及びコリンプラズマローゲン(plPC)の混合物であることが分った。検出された全ピーク面積を100%としたとき、プラズマローゲンの面積比率は約94.6%であり、エタノールアミンプラズマローゲンが約47.9%、コリンプラズマローゲンが約46.7%であった。従って、鶏ムネ肉由来高純度プラズマローゲン含有物には、約94.6質量%のプラズマローゲンが含まれることが分かった。なお、プラズマローゲンのピーク位置は、例えば、予め標品を分析することにより知ることができる。
【0066】
以下の試験例では、上記の方法により得られた鶏ムネ肉由来高純度プラズマローゲン含有物を生体組織抽出プラズマローゲンとして使用した。
【0067】
生体組織抽出プラズマローゲンの学習記憶能力増強作用の検討
<飼料の調製>
実際に使用するマウスの飼料として、AIN−93M(米国国立栄養研究所により1993年に発表されたマウス・ラットの栄養研究用標準飼料)を購入した(以下、「通常飼料」と記載する。)。また、特別注文により、生体組織抽出プラズマローゲンを0.1質量%含有するAIN−93M(以下、「0.1%Pls含有飼料」と記載する。)も購入した(いずれもオリエンタル酵母株式会社製)。
【0068】
<試験例1:モリス水迷路試験>
8週齢の健康なC57BJ6雄マウス14匹を日本エスエルシー株式会社から購入し、プラズマローゲン投与群(n=7)及びコントロール群(n=7)に群分けした。プラズマローゲン投与群には0.1%Pls含有飼料を、コントロール群には通常飼料を、それぞれ6週間自由摂取させて飼育した。なお、飼育中、水は自由摂取とした。
【0069】
飼育後、各群7匹のマウスについて、モリス水迷路試験を行った。当該試験の概要は次の通りである。試験前日にマウスをランダムにプール内に入れ、十分に水に慣れさせた。その翌日、直径120cmの円形プールの任意の箇所の水底に直径10cmの円柱状のアクリル製ステージを設置し、ステージ上における水深が2cmとなるように水を入れた後、マウスをプール内の所定の箇所に入れ、ステージに到達するまでの時間(逃避時間:Escape latency)を測定した。試験は1匹につき計4回の試行を行い、各試行の間隔は40分とした。なお、試行を繰り返すことにより、マウスはステージの位置を学習・記憶するため、逃避時間が短くなる。
【0070】
モリス水迷路試験の結果を図2に示す。試験の結果、4回目の試行において、プラズマローゲン投与群はコントロール群と比較して、逃避時間が有意に減少することが確認された。なお、モリス水迷路試験は、海馬依存性の学習能力を評価するための試験であり、学習記憶能力の評価に最も良く用いられる手法のひとつである。よって、当該試験結果から、健常マウスにプラズマローゲンを投与することにより、海馬依存性の学習能力が増強されること(即ち、プラズマローゲンが海馬依存性の学習記憶能力の増強作用を有すること)が分かった。さらに、プラズマローゲンを経口投与することにより、健常マウスの海馬依存性の学習能力が増強されることが分かった。
【0071】
<試験例2:海馬に含まれるプラズマローゲン量の測定>
試験例1の試験後のプラズマローゲン投与群及びコントロール群のマウス各1匹を心腔内から生理食塩水で灌流した後、開頭して海馬を取り出し、常法に従って脂質を抽出し、液体クロマトグラフ質量分析計(LC−MS)により、海馬に含まれるプラズマローゲン量を測定した。LC−MSによる測定結果を図3に示す。
【0072】
図3から明らかなように、プラズマローゲン投与群はコントロール群と比較して、海馬における相対的プラズマローゲン量が有意に増加していることが確認された。
図1
図2
図3