(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数のアンテナ素子が送受信する送受信信号の位相をずらす複数の移相器が接続され、送信機からの制御信号に基づいて当該複数の移相器を制御する複数の子機機能部を有する1つの制御装置であって、
シングル通信方式に従った制御信号には、宛先の子機機能部を指定するアドレス及び宛先の子機機能部に実行させる処理内容を示すコマンドが含まれており、
前記複数の子機機能部のそれぞれは、1つの子機機能部に1つの移相器しか割り当てられないシングル通信方式に従った制御信号に含まれるコマンドを処理可能な子機機能部であって、前記複数の移相器のそれぞれに対応して設けられており、
シングル通信方式で動作している送信機から、シングル通信方式に従った制御信号を受信する受信手段と、
シングル通信方式に従った制御信号に含まれるアドレスと前記複数の子機機能部のそれぞれに割り振られたアドレスとを比較することにより、当該複数の子機機能部のうちの当該制御信号の宛先である子機機能部に対して当該制御信号に含まれるコマンドを振り分けて当該コマンドの処理を実行させる処理実行手段とを備え、
前記制御信号に含まれるコマンドを複数の子機機能部に対して振り分けることにより前記送信機への応答信号が複数生成された場合、当該複数の応答信号にて当該送信機に応答する代わりに、当該送信機が正常ではない信号であると認識する応答信号を生成し、生成した当該応答信号により当該送信機に応答すること
を特徴とする制御装置。
複数のアンテナ素子が送受信する送受信信号の位相をずらす複数の移相器が接続され、送信機からの制御信号に基づいて当該複数の移相器を制御する複数の子機機能部を有する1つの制御装置に用いられるプログラムであって、
シングル通信方式に従った制御信号には、宛先の子機機能部を指定するアドレス及び宛先の子機機能部に実行させる処理内容を示すコマンドが含まれており、
前記複数の子機機能部のそれぞれは、1つの子機機能部に1つの移相器しか割り当てられないシングル通信方式に従った制御信号に含まれるコマンドを処理可能な子機機能部であって、前記複数の移相器のそれぞれに対応して設けられており、
シングル通信方式で動作している送信機から、シングル通信方式に従った制御信号を受信する機能と、
シングル通信方式に従った制御信号に含まれるアドレスと前記複数の子機機能部のそれぞれに割り振られたアドレスとを比較することにより、当該複数の子機機能部のうちの当該制御信号の宛先である子機機能部に対して当該制御信号に含まれるコマンドを振り分けて当該コマンドの処理を実行させる機能とを前記制御装置に実現させ、
前記制御信号に含まれるコマンドを複数の子機機能部に対して振り分けることにより前記送信機への応答信号が複数生成された場合、当該複数の応答信号にて当該送信機に応答する代わりに、当該送信機が正常ではない信号であると認識する応答信号を生成し、生成した当該応答信号により当該送信機に応答すること
を特徴とするプログラム。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<アンテナのハードウェア構成>
まず、本実施の形態に係るアンテナ100のハードウェア構成について説明する。
図1は、本実施の形態に係るアンテナ100のハードウェア構成例を示すブロック図である。アンテナ100は、AISG規格による制御命令を発信する装置である親機300と接続されている。この親機300は、例えば、携帯電話基地局における無線機や専用の制御装置などであり、本実施の形態では、処理部120へ制御命令を送信するための送信機ともいえる。そして、アンテナ100は、親機からの制御命令に従ってチルト制御等の処理を行う。
【0011】
アンテナ100は、アレイアンテナ180−1、アレイアンテナ180−2と、移相器110a、移相器110bと、処理部120とを備えている。なお、アレイアンテナ180−1、アレイアンテナ180−2を区別する必要がない場合には、アレイアンテナ180と称する場合がある。また、移相器110a、移相器110bを区別する必要がない場合には、移相器110と称する場合がある。
【0012】
まず、アレイアンテナ180−1は、アンテナ素子181a〜181dを備え、アレイアンテナ180−2は、アンテナ素子182a〜182dを備えている。アンテナ素子181a〜181d、アンテナ素子182a〜182dは、それぞれ一直線上に等間隔で配置されており、異なる周波数帯用のアンテナ素子(例えば、アンテナ素子181a〜181dは高周波数帯用アンテナ素子、アンテナ素子182a〜182dは低周波数帯用アンテナ素子)として用いられる。このように、複数のアンテナ素子はそれぞれのアレイアンテナ180ごとに1つの移相器110に接続される。
図1に示す例では、アンテナ素子181a〜181dは移相器110aに接続され、アンテナ素子182a〜182dは移相器110bに接続される。
【0013】
次に、移相器110は、アレイアンテナ180のそれぞれのアンテナ素子(アンテナ素子181a〜181d、アンテナ素子182a〜182d)に供給される入力信号又はそれぞれのアンテナ素子が受信した出力信号の位相を制御して、アレイアンテナ180の指向性を設定する。付言すると、移相器110は、アンテナ素子181a〜181d、アンテナ素子182a〜182dから送信される電波の位相を変えることで、電波(ビーム)の送信方向及び受信方向(指向性)を水平面から地表方向もしくは天空方向に傾けて、チルト角を設定する。ここで、移相器110は、例えば、中心を同じくする複数の円弧状の導体と、中心から延びてこれらの円弧状の導体と交差する直線状の導体とから構成されている。そして、中心を軸として直線状の導体を回転させることで、円弧状の導体と交差する位置が変化し、信号が伝搬する経路の長さが変わることで、信号の位相(移相量)を変化させる。即ち、このような移相器110では、直線状の導体の回転角によって移相量が設定され、所望のチルト角を実現する。
【0014】
移相器110aは、位置検出部111aとモータ112aとを有しており、移相器110bは、位置検出部111bとモータ112bとを有している。
位置検出部111a、位置検出部111bは、移相量を示す位置として、直線状の導体の回転角を検知する。
モータ112a、モータ112bは、直線状の導体を回転させて、移相量を制御する。
【0015】
次に、処理部120は、親機300からの信号を処理する子機としての機能を備え、通信インタフェース部(以下、通信IF部)130、電源部140、処理装置部150、モータ制御回路161、位置検出補助回路162、切替回路170a、切替回路170bを有している。以下では、モータ制御回路161及び位置検出補助回路162をまとめて、モータ制御/位置検出補助回路160と称する場合がある。また、切替回路170a、切替回路170bをまとめて切替回路170と称する場合がある。
【0016】
通信IF部130は、親機300と処理装置部150との間で信号を仲介する回路である。
電源部140は、処理部120内の各部、各回路に電源を供給する。
【0017】
モータ制御回路161は、半導体素子などの電子部材(電子部品)から構成される回路であって、処理装置部150により制御され、移相器110を制御するための回路である。例えば、モータ制御回路161は、処理装置部150からチルト角を指定する信号を受信した場合、指定したチルト角となる様に移相器110を制御する。
【0018】
位置検出補助回路162は、移相器110から直線状の導体の回転角を示す位置検出信号を受信し、受信した位置検出信号の増幅や検出しやすいように前処理するための回路である。ここで、処理装置部150内のソフトウェアにより位置検出信号の補正等を行う場合には、この位置検出補助回路162を設けなくても良い。
【0019】
切替回路170は、モータ制御回路161及び位置検出補助回路162と制御対象となる移相器110a、移相器110bの信号切り替えを行う。
【0020】
処理装置部150は、AISG規格による通信を処理するためのソフトウェアを実行する。ここで、処理装置部150は、位置検出補助回路162を介して位置検出信号を受信し、移相器110における直線状の導体の回転角を検知する。また、処理装置部150は、親機300からのチルト制御命令に基づいて、移相器110のチルト角を指定する信号を生成し、モータ制御回路161を介して移相器110に送信する。この処理装置部150は、例えば、マイクロプロセッサにより実現されるが、FPGA(Field-Programmable Gate Array)やCPLD(Complex Programmable Logic Device)などのプログラマブルロジックデバイス等でも良い。
【0021】
そして、処理装置部150は、UART(Universal Asynchronous Receiver Transmitter)151、CPU(Central Processing Unit、演算装置)152、RAM(Random Access Memory)153、ROM(Read Only Memory)154、I/O(Input/Output)155a、I/O155bを有している。
【0022】
UART151は、シリアル転送方式のデータとパラレル転送方式のデータとを相互に変換するための集積回路である。RAM153は、CPU152によるソフトウェア等の実行時におけるワークエリアとして用いられる。ROM154は、CPU152により実行されるソフトウェア等を記憶している。そして、CPU152は、ソフトウェア等をROM154からRAM153にロードし実行する。ソフトウェア等が実行されることにより、処理装置部150の各種機能が実現される。
【0023】
I/O155a、I/O155bは、外部から信号を受信したり、外部に信号を送信したりする接続端子である。移相器110における位置検出がポテンショメータの抵抗比率により実現される場合には、I/O155bに加えてA/Dコンバータ(アナログ−デジタル変換回路)も必要となる。
RAM153、ROM154、A/Dコンバータなどは、処理装置部150の外部に設けることとしても良い。
【0024】
また、CPU152によって実行されるソフトウェア等は、予め処理装置部150内に保存されていても良いし、処理装置部150の外部におかれた別の記憶装置(例えば、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)やFlashメモリ)からRAM153にロードしても良い。また、ソフトウェア等は、通信手段を用いて処理装置部150にダウンロードさせてもよい。
【0025】
このような構成にて、アンテナ100は、親機300からのチルト制御命令により移相器110のチルト角を制御する。ここで、AISG規格には、処理部120(子機機能)と移相器110とが1対1で接続される通信方式(以下、シングル通信方式と称する)と、処理部120(子機機能)と移相器110とが1対多で接続される通信方式(Multi-antenna elementary procedures、以下、マルチ通信方式と称する)とが存在する。
本実施の形態では、親機300がシングル通信方式しかサポートしておらず、シングル通信方式を用いることを子機側へ要求する状況下において、処理部120が実行するソフトウェア(即ち、処理装置部150が実行するソフトウェア)により、仮想的に複数の子機機能を設けて、1つの処理部120でありながら複数の子機相当の動作を実現する。
【0026】
図2(a)は、本実施の形態に係るアンテナ100の構成の一例を示す図であり、
図2(b)は、比較例として、シングル通信方式を採用した場合の従来のアンテナ200の構成例を示す図である。
【0027】
図2(a)に示す構成は、
図1に示す構成を簡略化したものであり、アレイアンテナ180を省略している。上述したように、1つの処理部120に対して2つの移相器110が接続される。
一方、
図2(b)に示す比較例の構成では、2つの移相器210(移相器210a、移相器210b)のそれぞれに対応する処理部220(処理部220a、処理部220b)が存在する。つまり、処理部220は移相器210と同じ数必要ということを意味している。各処理部220はそれぞれ、通信IF部230(通信IF部230a、通信IF部230b)、電源部240(電源部240a、電源部240b)、処理装置部250(処理装置部250a、処理装置部250b)、モータ制御/検出補助回路260(モータ制御/検出補助回路260a、モータ制御/検出補助回路260b)を備えている。なお、
図2(b)に示す構成例では、
図2(a)と同様に、アレイアンテナを省略している。
【0028】
ここで、
図1、
図2(a)に示す例では2つの移相器110を示したが、本実施の形態では、1つの処理部120に対して3つ以上の移相器110を接続しても良い。
また、本実施の形態では、制御装置の一例として、処理装置部150を用いている。さらに、処理部120または処理装置部150は、処理装置の一例としての機能を有している。さらに、本実施の形態では、処理部120が、制御装置の一例としての機能を有すると捉えることもできる。
このように、本実施の形態ではシングル通信方式であっても1つの処理部120で制御できるため、アンテナ100の小型化や低コスト化が実現できる。
【0029】
<フレームフォーマットの説明>
次に、本実施の形態において、親機300からアンテナ100に対して送信される信号のフレームフォーマットについて説明する。
図3(a)、(b)は、親機300からアンテナ100に対して送信される信号のフレームフォーマットの一例を説明するための図である。
【0030】
AISG規格では、国際標準化機構(ISO)によって策定されたOSI参照モデルのデータリンク層のプロトコルであるHDLC(High-Level Data Link Control)がベースとなる。
図3(a)は、AISG規格のデータリンク層でのフレームフォーマットを示す図である。図示のように、AISG規格のフレームの領域は、「ヘッダ」、「アドレス」、「フレーム種別」、「コマンドデータ本体」、「CRC」、「フッタ」の種別に分けられる。
【0031】
「ヘッダ」は、フレームの始まりを示すビット列であり、1オクテット(フレームの先頭から1オクテット目)である。「アドレス」は、子機のアドレスであり、1オクテット(フレームの先頭から2オクテット目)である。子機のアドレスは、親機300によって子機ごとに(即ち、移相器110ごとに)付加される。「フレーム種別」は、HDLCに規定されているフレーム種別を示し、1オクテット(フレームの先頭から3オクテット目)である。フレーム種別は、Sフレーム、Uフレーム、Iフレームの3つに分別される。
【0032】
「コマンドデータ本体」は、制御命令が含まれるコマンドのデータであり、データ長は任意(可変長)である。「CRC」は、アドレス、フレーム種別、コマンドデータ本体のビットの伝送誤り検出に用いられ、2オクテットである。付言すると、フレームの全データ長をNオクテットとした場合、CRCはフレームの先頭からN−2〜N−1オクテット目の領域に該当する。「フッタ」は、フレームの終わりを示すビット列であり、1オクテット(フレームの先頭からNオクテット目)である。
【0033】
ここで、AISG規格では、子機ごとに固有のID(以下、ユニークIDと称する)が予め割り当てられており、親機300は、子機のユニークIDを指定してチルト制御等の命令を行う。一般に、ユニークIDは、19オクテットの文字コードで表される文字列である。この先頭2オクテットはメーカ固有のものであり、残り17オクテットが各メーカで一意に定められて、全体としてユニークIDが固有のものとなる。
【0034】
そして、従来技術であるAISGにおいて、親機300は、個々の子機に対してチルト制御等の命令を行うにあたり、ユニークIDを使用してリンクを確立する。したがって、あらかじめ手入力等でユニークIDが既知のものとなっていない場合は、リンクを確立する前に各子機のユニークIDを特定するためのデバイススキャンと呼ばれる処理を行う。デバイススキャンは、接続されている全ての子機に対して行う命令であるブロードキャストの一つであり、
図3(a)で示されるHDLCのUフレーム構造の信号である。
【0035】
コマンドデータ本体の領域には、例えば、各子機に対して「ユニークIDの最後の1ビットが0の場合に応答すること」を要求するコマンドが格納される。また、デバイススキャンはブロードキャストとして送信するため、アドレスとして特殊な値(16進数でFF)を格納して送信される。ブロードキャストとして送られたフレームは、すべての子機がそのフレーム内容を確認し、必要に応じて応答を行うことがAISGにて規定されている。子機はユニークIDに対する条件に合致した場合、親機300に対してユニークIDを含む応答を返す。もし、複数の子機が合致する条件だった場合、デバイススキャンの応答として複数の子機から信号が送信されるため、通信路上で信号が衝突し、通常、親機300は正常な信号を受信することができない。このように、親機300は正常な信号を受信できなかった場合は、その条件下に合致するユニークIDを持つ子機が複数あるものと判断し、親機300は、さらに条件範囲を狭く設定して、例えば、「ユニークIDの最後の2ビットが00の場合に応答すること」を要求するコマンドを格納して、各子機に対して送信する。このように条件を狭めていくことで、最終的に1つの子機のみが該当する条件となった際に、親機300は正しい信号を受信でき、その子機のユニークIDを認識することができる。
【0036】
このように、親機300は、条件範囲を少しずつ狭くして、その条件に当てはまるユニークIDが1つになった際の応答信号をもとに、子機のユニークIDを特定する。子機のユニークIDを特定すると、親機300は、特定したユニークIDに対してアドレスを割り振り、子機にアドレスを通知する。
本実施の形態では、処理装置部150は、それぞれの子機に対応するユニークIDと、親機300から通知されたアドレスとを関連付けて記憶しておき、それぞれの移相器110ごとに子機機能を実現する。
【0037】
次に、親機300は、子機のユニークIDを特定すると、個々の子機のアドレスを指定してチルト制御等の信号を送信する。
図3(b)は、子機のアドレスを指定して制御命令を行う際のフレームを示す図である。ここで、子機のアドレスを指定して制御命令を行う際のフレームは、HDLCのIフレーム構造であり、コマンドデータ本体の領域には、「AISGコマンド種別」、「実データ長」、「実データ」が含まれる。
【0038】
「AISGコマンド種別」には、子機への命令であるコマンドの番号が格納される。この番号には、シングル通信方式のもの、マルチ通信方式のもの、及びシングル通信方式とマルチ通信方式とに共通する方式のものが存在しており、この番号などをもとに通信方式が判別される。例えば、番号33は、シングル通信方式においてチルト角を設定するコマンド(Set Tilt)を示し、番号81は、マルチ通信方式においてチルト角を設定するコマンド(Antenna Set Tilt)を示す。他のコマンドとしては、例えば、移相器110のチルト角を取得して親機300に報告するものや、基地局やアンテナ100の情報を記憶したり親機300に報告したりするものが存在する。また、「実データ長」は、実データの長さを示し、「実データ」には、コマンドのデータ等が格納される。
【0039】
本実施の形態において、例えば、移相器110aのチルト角を設定する場合、親機300は、AISGコマンド種別をシングル通信方式のコマンドである「Set Tilt」にして、設定するチルト角の値を実データに格納する。そして、親機300は、移相器110aに対応する子機に割り振ったアドレスを宛先として、アンテナ100にフレームを送信する。
【0040】
<処理装置部の機能構成>
次に、本実施の形態に係る処理装置部150の機能構成について説明する。
図4は、本実施の形態に係る処理装置部150の機能構成の一例を示すブロック図である。処理装置部150は、親機300からの信号を受信する受信処理部191と、受信した信号のコマンドを実行するコマンド処理部192と、親機300に対して応答を行う応答実行部193とを備える。
【0041】
受信処理部191は、通信IF部130を介して、親機300から信号を受信する。
【0042】
コマンド処理部192は、親機300からコマンドを受信した場合に、それぞれの子機ごとに子機宛のコマンドであるか否か、即ち、複数の移相器110のいずれの移相器110宛のコマンドであるか否かを移相器110ごとに判定する。具体的には、コマンド処理部192は、親機300から受信したフレームのアドレスと各子機に割り振られたアドレスとを順番に比較していき、宛先となる子機が存在するか否かを判定する。そして、コマンドの宛先となる子機が存在すれば、コマンド処理部192は、そのコマンドを実行して、宛先の子機に対するコマンドの処理、即ち、宛先の子機に対応した移相器110に対してコマンドの処理を実行する。また、コマンド処理部192は、コマンドの処理を行ったことを親機300へ応答するための応答信号を生成する。
【0043】
応答実行部193は、コマンド処理部192にて応答信号が生成されると、生成された応答信号を、通信IF部130を介して親機300へ送信する。
ここで、AISG規格では、例えば、上述したように、親機300が移相器110のユニークIDを特定するのにブロードキャストでフレームを送信した場合など、複数の子機が応答する場合がある。この場合、従来の構成では、応答信号が同時に発信されて応答信号同士が衝突するため、一次局(親機)には正常な信号が届かない。例えば、
図2(b)の比較例の構成において、処理装置部250a及び処理装置部250bが応答する場合には、通信IF部230を通過した後に応答信号同士が衝突する。一次局においては、正常ではない信号を受信したことを識別してそれに応じた処理を行うため、このような動作で問題ない。
【0044】
ただし、本実施の形態では、複数の応答信号が生成された場合においても、通信IF部130が1つであるため、複数の信号を同時に送信することができない。すなわち、応答信号同士が実際に衝突しないこととなる。そこで、応答実行部193は、複数の応答信号が生成された場合、親機300において「正常ではない信号」であることを認識できるように処理を行う。具体的には、応答実行部193は、例えば、応答信号のデータを破壊したり、不正な信号と認識される特定のデータや通信規約に反するようなデータを生成したりして、親機300に対して応答を行う。ここでの応答処理は、正常ではない信号であることを親機300が認識可能なものであれば、どのような処理でも良い。
【0045】
本実施の形態では、受信処理部191が受信手段の一例としての機能を有している。また、コマンド処理部192が処理実行手段の一例としての機能を有している。さらに、応答実行部193が応答手段の一例としての機能を有している。なお、処理部120が、制御装置の一例としての機能を有すると捉えた場合には、例えば、通信IF部130が受信手段の一例としての機能を有し、処理装置部150が処理実行手段及び応答手段の一例としての機能を有すると捉えることができる。
【0046】
<処理装置部の処理手順>
次に、本実施の形態に係る処理装置部150の処理手順について説明する。
図5は、本実施の形態に係る処理装置部150の処理手順の一例を示したフローチャートである。
図5に示す処理は繰り返し実行される。
【0047】
受信処理部191は、親機300からのコマンドの受信待ちを行う。ここで、受信処理部191は、親機300から信号を受信し(ステップ101)、信号(コマンド)を受信したか否かを判定する(ステップ102)。コマンドを受信したと判定されなければ(ステップ102でNo)、本処理フローは終了し、受信処理部191は引き続きコマンドの受信待ちを行う。
【0048】
一方、コマンドを受信したと判定された場合(ステップ102でYes)、次に、コマンド処理部192によるコマンド処理が行われる。ここで、コマンド処理部192は、処理部120にて仮想的に動作する有効な子機の数(n)だけ、後述するステップ103〜ステップ107の処理を繰り返し実行する。まず、コマンド処理部192は、有効な子機を1つ選択し、受信した信号が、選択した子機宛の信号であるか否かを判定する(ステップ103)。ここでは、コマンド処理部192は、信号の宛先とされるアドレスが、選択した子機に対して割り振られたアドレスと一致するか否かを判定し、両アドレスが一致するか、ブロードキャストを表すアドレスであれば、選択した子機宛の信号であると判定する。
【0049】
ここで、選択した子機宛の信号ではないと判定された場合(ステップ103でNo)、コマンド処理部192は、次の有効な子機を1つ選択する。
一方、選択した子機宛の信号であると判定された場合(ステップ103でYes)、コマンド処理部192は、そのコマンドの通信方式が、共通方式またはシングル通信方式であるか、マルチ通信方式またはAISG規格にて未定義のものであるかを判定する(ステップ104)。ここで、例えば、子機のユニークIDを特定するためにブロードキャストで送信されるフレームは、共通方式のものと判定される。また、例えば、「Set Tilt」のコマンドは、シングル通信方式と判定される。
【0050】
ステップ104において、コマンドの通信方式が共通方式またはシングル通信方式であると判定された場合、コマンド処理部192は、そのコマンドを実行して、宛先の子機に対してコマンドの処理を行う(ステップ105)。一方、コマンドの通信方式がマルチ通信方式または未定義であると判定された場合、コマンド処理部192は、エラーと判定する(ステップ106)。ステップ105またはステップ106の後、コマンド処理部192は、応答信号を生成する(ステップ107)。ただし、例えば全ての子機に対するリセットコマンドのように、コマンドによっては応答信号を生成せずに終了するものも存在する。そして、ステップ107の後、コマンド処理部192は、まだ選択していない他の子機を1つ選択する。
このようにして、コマンド処理部192は、有効な子機の数(n)だけ、ステップ103〜ステップ107の処理を実行する。そして、全ての子機に対して処理が終了すると、次のステップ108へ移行する。
【0051】
次に、応答実行部193は、コマンド処理部192にて生成された応答信号があるか否かを判定する(ステップ108)。応答信号がないと判定された場合(ステップ108でNo)、本処理フローは終了する。一方、応答信号があると判定された場合(ステップ108でYes)、応答実行部193は、複数の子機が応答したか否か、即ち、複数の応答信号が生成されたか否かを判定する(ステップ109)。
【0052】
ステップ109で、複数の子機が応答していないと判定された場合(ステップ109でNo)、生成された応答信号は1つであり、応答実行部193は、生成された応答信号を、通信IF部130を介して親機300へ送信する(ステップ110)。そして、本処理フローは終了する。一方、複数の子機が応答したと判定された場合(ステップ109でYes)、生成された応答信号は複数であり、応答実行部193は、親機300が正常ではない信号であることを認識するように、生成された応答信号に対して処理を実行する(ステップ111)。そして、ステップ110に移行し、応答実行部193は、ステップ111で処理された応答信号を親機300に送信し、本処理フローは終了する。
【0053】
次に、
図2(b)に示す比較例の構成における処理装置部250の処理について説明する。
図6は、比較例の構成における処理装置部250の処理手順の一例を示したフローチャートである。
図6に示す処理は、それぞれの処理装置部250(処理装置部250a、処理装置部250b)にて繰り返し実行される。
【0054】
処理装置部250は、親機300からのコマンドの受信待ちを行う。ここで、処理装置部250は、親機300から信号を受信し(ステップ201)、信号(コマンド)を受信したか否かを判定する(ステップ202)。コマンドを受信したと判定されなければ(ステップ202でNo)、本処理フローは終了する。
【0055】
一方、コマンドを受信したと判定された場合(ステップ202でYes)、次に、処理装置部250によるコマンド処理が行われる。ここで、処理装置部250は、受信した信号が、自身宛の信号であるか否かを判定する(ステップ203)。ここでは、処理装置部250は、コマンドの宛先とされるアドレスが、自身の子機に割り振られたアドレスと一致するか否かを判定し、両アドレスが一致するか、ブロードキャストを表すアドレスであれば、自身宛の信号であると判定する。
【0056】
自身宛の信号であると判定された場合(ステップ203でYes)、処理装置部250は、そのコマンドの通信方式が共通方式またはシングル通信方式であるか、マルチ通信方式またはAISG規格にて未定義のものであるかを判定する(ステップ204)。コマンドの通信方式が共通方式またはシングル通信方式であると判定された場合、処理装置部250は、そのコマンドを実行する(ステップ205)。一方、コマンドの通信方式がマルチ通信方式または未定義であると判定された場合、処理装置部250は、エラーと判定する(ステップ206)。ステップ205またはステップ206の後、処理装置部250は、応答信号を生成する(ステップ207)。
【0057】
ステップ203で自身宛の信号ではないと判定された場合(ステップ203でNo)、またはステップ207の後、処理装置部250は、生成した応答信号があるか否かを判定する(ステップ208)。ステップ207で応答信号を生成していれば、ステップ208で肯定の判断(Yes)がされ、処理装置部250は、応答信号を親機300へ送信する(ステップ209)。ここで、複数の処理装置部250で応答信号が生成されていれば、親機300への伝送路上で応答信号同士が衝突するため、親機300には正常な信号が届かないこととなる。ステップ209の後、または応答信号がないと判定された場合(ステップ208でNo)、本処理フローは終了する。
【0058】
このように、比較例の構成では、親機300から信号が送信された場合、移相器210ごとに設けられた各処理部220が自身宛の信号か否かを判定して処理を実行する。また、複数の応答信号が生成された場合には、応答信号同士が衝突して親機300には正常な信号が届かない。
一方、本実施の形態では、親機300から信号が送信された場合、
図5に示すように、処理装置部150が子機宛の信号か否かを子機ごとに順番に判定を行い、該当する子機宛の信号であった場合、コマンドを実行するとともに応答信号を生成する。また、応答信号が複数ある場合、処理装置部150は、正常ではない信号であることを認識させるための処理を行い、親機300に応答を行う。このように応答することで、親機300は正常ではない信号を受信することとなり、応答信号同士が実際に衝突する比較例の構成と同等の動作が実現される。
【0059】
以上説明したように、本実施の形態では、親機300がシングル通信方式しかサポートしていない状況下で、1つの処理部120に対して複数の移相器110が接続されて、親機300からの制御命令に従って処理が実行される。本実施の形態に係るアンテナ100を用いることにより、例えば、移相器110に対して1対1で処理部120を割り当てる比較例の構成と比べて、処理部120の数が減り、アンテナ100のコストダウンが実現される。また、アンテナ100の小型化に寄与することとなる。
【0060】
<アンテナ100の他の構成例>
次に、本実施の形態に係るアンテナ100の他の構成例について説明する。
図7(a)〜(c)は、本実施の形態に係るアンテナ100の他の構成例を示した図である。
【0061】
図7(a)に示す構成は、
図2(a)に示す構成と比較して、移相器110と同じ数の通信IF部130(
図7(a)に示す例では、通信IF部130a、通信IF部130b)を設けた構成である。このような構成において、複数の応答信号が生成された場合、応答信号は、宛先とされた子機ごと(即ち、移相器110ごと)の通信IF部130を介して、親機300に送信される。そのため、通信IF部130を通過した後に応答信号同士が実際に衝突することとなる。即ち、処理装置部150は、正常ではない信号であることを親機300に認識させるための処理を行わなくて良いため、
図5のステップ109及びステップ111の処理は不要になる。
【0062】
また、
図7(b)に示す構成は、
図2(a)に示す構成と比較して、切替回路170を設けない代わりに、移相器110と同じ数のモータ制御/位置検出補助回路160(
図7(b)に示す例では、モータ制御/位置検出補助回路160a、モータ制御/位置検出補助回路160b)を設けた構成である。ここで、モータ制御/位置検出補助回路160は複数の移相器110を同時に制御することができない。そのため、
図2(a)に示す構成のように切替回路170を設ける場合には、モータ制御/位置検出補助回路160の制御中に別の子機に対して親機300から制御命令が発行されると、処理装置部150は、そのコマンドを受けられないことを表す「Busy」リターンコードを応答する。そのため、親機300としては、同時に制御命令を発行しないようにするか、「Busy」リターンコードを受けた場合には、1つの制御命令が完了次第、次の制御命令を発行するような処理を行うこととなる。
【0063】
一方、
図7(b)に示す構成のように、モータ制御/位置検出補助回路160を移相器110と同じ数だけ設ける場合、処理部120は、同時に複数の移相器110を制御することができるようになる。このような構成の場合、処理装置部150は、信号の宛先となる移相器110に接続されたモータ制御/位置検出補助回路160に対して、信号を送信する。
【0064】
さらに、
図7(c)に示す構成は、
図7(a)及び
図7(b)に示す構成を組み合わせたものである。即ち、通信IF部130を移相器110と同じ数だけ設けるとともに、切替回路170を設けない代わりにモータ制御/位置検出補助回路160を移相器110と同じ数だけ設けた構成である。このような構成の場合も、
図7(b)の場合と同様に、複数の応答信号が実際に衝突することとなるため、
図5のステップ109及びステップ111の処理は不要になる。
【0065】
なお、本実施の形態では、処理部120に複数の移相器110が接続される構成について説明したが、処理部120に接続される移相器110が1つの場合にも、
図5の処理手順により処理が行われる。即ち、処理部120に接続される移相器110が1つでも2つ以上でも、同じ構成の処理部120を用いれば良い。
【0066】
また、本実施の形態において、アレイアンテナ180の形態は異なる周波数帯用のアンテナ素子を一直線上に配置したものに限らず、例えば同じ周波数帯域の複数のアンテナ素子からなるアレイアンテナを複数、異なる方向に配置してもよい。また、例えば、アンテナ素子181a〜181d、アンテナ素子182a〜182dは、複数のアンテナ素子を有するサブアレイであっても良い。さらに、アレイアンテナ180の指向性を設定する移相器110についても、機械的に線路長を変える移相器や、誘電体を用いたものなど、他の形態の移相器を用いても良い。
【0067】
本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態には限定されない。本発明の精神及び範囲から逸脱することなく様々に変更したり代替態様を採用したりすることが可能なことは、当業者に明らかである。