特許第6207617号(P6207617)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207617
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】静止デトネーション波エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02C 5/02 20060101AFI20170925BHJP
   F23R 7/00 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   F02C5/02
   F23R7/00
【請求項の数】19
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2015-536241(P2015-536241)
(86)(22)【出願日】2013年10月11日
(65)【公表番号】特表2015-531456(P2015-531456A)
(43)【公表日】2015年11月2日
(86)【国際出願番号】IB2013003257
(87)【国際公開番号】WO2014114980
(87)【国際公開日】20140731
【審査請求日】2016年10月4日
(31)【優先権主張番号】61/712,972
(32)【優先日】2012年10月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514285966
【氏名又は名称】キング アブドラ ユニバーシティ オブ サイエンス アンド テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】アスラン カシモブ
【審査官】 山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2003/089773(WO,A1)
【文献】 特開2006−9764(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0150705(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0192630(US,A1)
【文献】 特開2013−44455(JP,A)
【文献】 特表2012−508864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02C 5/02
F23R 7/00
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1タンクに流体接続された第1端部と、デトネーションエンジンに流体接続された第2端部とを有する第1入口と、
第2タンクに流体接続された第1端部と、第1入口の反対でデトネーションエンジンに流体接続された第2端部とを有する第2入口(ここで、第1および第2入口は共通軸で整列されている)と、
第1入口に接続された第1ノズルと、
第2入口に接続された第2ノズルと、
第1入口の第2端部と第2入口の第2端部との間に位置し、共通軸に沿って位置するセパレータと、を備える、デトネーションエンジン。
【請求項2】
デトネーションエンジン中でデトネーションを安定化させるよう構成された障害物をさらに備える、請求項1記載のデトネーションエンジン。
【請求項3】
デトネーションエンジンに回転可能に取り付けられた少なくとも1つのタービンをさらに備える、請求項1記載のデトネーションエンジン。
【請求項4】
少なくとも1つのタービンは、デトネーションエンジン中でデトネーションを安定化させるよう構成された翼を含む、請求項3記載のデトネーションエンジン。
【請求項5】
第1タンクは、酸化剤を受け取るよう構成されている、請求項1記載のデトネーションエンジン。
【請求項6】
第2タンクは、燃料を受け取るよう構成されている、請求項1記載のデトネーションエンジン。
【請求項7】
第1ノズルは、第1入口の第2端部に近接している、請求項1記載のデトネーションエンジン。
【請求項8】
第2ノズルは、第2入口の第2端部に近接している、請求項1記載のデトネーションエンジン。
【請求項9】
第1ノズルは、第1入口内に配設されている、請求項1記載のデトネーションエンジン。
【請求項10】
第2ノズルは、第2入口内に配設されている、請求項1記載のデトネーションエンジン。
【請求項11】
燃料と酸化剤の混合物をデトネーションする方法であって、
第1入口を介してデトネーションエンジンに酸化剤を導入することと、
第2入口を介してデトネーションエンジンに燃料を導入すること、(ここで、第1及び第2入口は共通軸で整列されている)と、
第1ノズルを介して酸化剤を加速することと、
第2ノズルを介して燃料を加速することと、
酸化剤が、セパレータの第1側に向かい、そして共通軸から半径方向外側に向かうようにすることと、
燃料が、第1側の反対側であるセパレータの第2側に向かい、そして共通軸から半径方向外側に向かうようにすることと、
円筒形デトネーション領域内で共通軸から距離を置いて燃料と酸化剤の混合物をデトネーションすることと、を含む、前記方法。
【請求項12】
第1入口は第1端部を第1タンクに流体接続し、第2端部をデトネーションエンジンに流体接続している、請求項11記載の方法。
【請求項13】
第2入口は第1端部を第2タンクに流体接続し、第2端部をデトネーションエンジンに流体接続している、請求項12記載の方法。
【請求項14】
第1ノズルを介して酸化剤を加速することで超音速フローを生成し、第2ノズルを介して燃料を加速することで超音速フローを生成する、請求項11または13記載の方法。
【請求項15】
タービンを介した混合物のデトネーションから生じた燃焼生成物を膨張させて仕事を行うことをさらに含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
燃焼生成物の膨張を阻止するために障害物を設けることをさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項17】
デトネーションエンジンにおける混合物のデトネーションを安定化させることをさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項18】
障害物は、デトネーションエンジン内でデトネーションの安定化を達成するよう構成される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
障害物はタービン翼である、請求項18記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権の主張)
本出願は、2012年10月12日に出願された先行する米国特許仮出願番号第61/712,972号の利益を主張し、その全体を参照により組み込む。
【0002】
(技術分野)
本発明は、静止デトネーション波エンジンに関する。
【背景技術】
【0003】
気体デトネーション波は、各種幾何学的構成内で伝播可能で、これに影響される。円筒形硬質管では、伝播は、大径管中のマルチセルデトネーション、中径管のスピンデトネーション及び/または極小管中のギャロッピングデトネーションの形を取ることができる。各種アスペクト比の矩形断面の流路において、類似のセルまたはギャロッピングモードを達成することもできる。並行する板の間で、板間の隙間が板の横方向スパンよりはるかに小さい場合、板の法線方向の横波が抑制されるため、2次元のセルデトネーションを達成することができる。他の構成は超音速フローで安定化されたデトネーションのもので、デトネーション推進及びデトネーションエンジンの問題に関連することがある。
【0004】
デトネーション燃焼は、燃料と空気の混合気を燃やして化学エネルギーを放出する効率的な方法である。デトネーション燃焼の理論効率は、仕事出力を熱入力で除して演算するが、約49%である。対して、定容燃焼や定圧燃焼等のより伝統的な工程の理論効率はそれぞれ、47%と27%である。デトネーション燃焼の効率強化はその独自の熱放出プロセスに起因するが、そこでは、燃料と空気の混合気の燃焼が従来の燃焼より数万倍速く発生し、これは伝播する火炎前面に依存する。デトネーション燃焼は、効率は高いが制御も難しくなる。例えば、デトネーション燃焼の開始と維持に困難が生じる。しかしながら、近年のエンジン制御技術の前進によりこのような困難を克服できる。
【発明の概要】
【0005】
デトネーションエンジン及び方法が提供される。デトネーションエンジンは安定化された静止デトネーション波を生成することができる。安定化されたデトネーション波によって作られた加熱燃焼生成物の流れは、機械的エネルギーに変換することができる。例えば、デトネーションエンジンは燃焼室を持つことができ、ここでデトネーション波が安定化される。この室は、例えばタービン翼によって部分的に取り囲むことができ、これがデトネーション波の自由な膨張を制限する障害物となって、安定化された定在波の形成を支援する。
【0006】
ある態様において、デトネーションエンジンは第1タンクに流体接続される第1端部と、デトネーションエンジンに流体接続される第2端部とを有する第1入口と、第2タンクに流体接続される第1端部と、第1入口の反対でデトネーションエンジンに流体接続される第2端部とを有する第2入口とを備えることができる。第1及び第2入口は共通軸に整列させることができる。デトネーションエンジンはさらに、第1入口に接続された第1ノズルと、第2入口に接続された第2ノズルと、第1入口の第2端部と第2入口の第2端部との間に位置するセパレータとをさらに備えることができる。第1入口、第2入口、及びセパレータは、共通軸に沿って位置することができる。
【0007】
ある実施形態では、デトネーションエンジンは、デトネーションエンジン内でのデトネーションを安定化させるために構成された障害物を備えることができる。デトネーションエンジンは、デトネーションエンジンに回転可能に取り付けた1つ以上のタービンを備えることができる。タービンはさらに、デトネーションエンジン内でのデトネーションを安定化させるよう構成された翼を備えることができる。第1タンクは、酸化剤を受けるよう構成することができる。第2タンクは、燃料を受けるよう構成することができる。第1ノズルは、第1入口の第2端部に近接することができる。第2ノズルは第2入口の第2端部に近接することができる。第1ノズルは、第1入口内に配設することができる。第2ノズルは、第2入口内に配設することができる。
【0008】
別の態様において、燃料と酸化剤の混合物をデトネーションさせる方法は、第1入口を介してデトネーションエンジンに酸化剤を導入することと、第2入口を介してデトネーションエンジンに燃料を導入すること、(ここで、第1及び第2入口は共通軸に整列させることができる。)と、燃料と酸化剤の混合物を円筒形デトネーション領域内の共通軸から離れた地点でデトネーションすることとを含むことができる。方法は、第1ノズルを介して酸化剤を加速することと、第2ノズルを介して燃料を加速することとを含むことができる。方法は、酸化剤が、セパレータの第1側に向かい、そして共通軸から半径方向外向きに向かうようにすることと、燃料が、セパレータの、第1側の反対である第2側に向かい、そして共通軸から半径方向外向きに向かうようにすることとを含むことができる。
【0009】
ある実施形態において、第1入口は第1タンクに流体接続された第1端部と、デトネーションエンジンに流体接続された第2端部とを有することができる。第2入口は、第2タンクに流体接続された第1端部と、デトネーションエンジンに流体接続された第2端部とを有することができる。第1及び第2入口は共通軸に整列させることができる。第1ノズルを介して酸化剤を加速することで超音速フローを生成し、第2ノズルを介して燃料を加速することで超音速フローを生成することができる。方法は、タービンを介して混合物をデトネーションすることから生じる燃焼生成物を膨張させ、仕事を生成することを含むことができる。方法は、混合物をデトネーションすることから生じる燃焼生成物の膨張を阻止する障害物を設けることを含むことができる。方法は、デトネーションエンジンの混合物のデトネーションを安定化させることを含むことができる。障害物は、デトネーションエンジン内でデトネーションの安定化を達成するよう構成することができる。例えば、障害物は、燃焼生成物の運動エネルギーを機械的エネルギーに変換することができるタービン翼とすることができる。
その他の態様、実施形態及び特徴は、以下の説明、図面、請求の範囲から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、デトネーションエンジンの断面図である。
図2図2は、円筒形デトネーション領域の例を示すデトネーションエンジンの断面図である。
図3図3は、圧力で表現したデトネーション中の定在波のシミュレーションである。
図4図4は、温度で表現したデトネーション中の定在波のシミュレーションである。
図5図5は、半径方向膨張フローの静止デトネーションの幾何学を示す。
図6図6は、断熱膨張及びデトネーション衝撃波の位置速度曲線を示す。
図7図7a)から図7i)は、マッハ数による流入フローの関数としてのデトネーションの半径を示す。
図8図8は、例示的定常デトネーションプロフィールを示す。
図9図9は、初期フローの関数として例示的デトネーションの半径を示す。
図10図10は、E及びQの関数としての最小デトネーション半径を示す。
図11図11は、矩形波様定常解として開始するデトネーションの崩壊を示す。
図12図12は、非矩形波様定常解として開始するデトネーションの膨張を示す。
図13図13は、膨張デトネーションの安定化を示す。
図14図14は、障害物が存在する場合のデトネーション波の開始を示す。
図15図15は、反応帯の詳細な構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実験エンジンにおいて静止デトネーション波を達成するのは困難だが、計算モデルの利用により、成功の可能性が劇的に改善する。例えば、インタラクティブなアプローチにより、研究者は、一連のプロトタイプを建造することなく、計算モデルによって効果的な幾何形状および境界条件を特定することができる。計算モデルでは、保存法則、化学反応メカニズム、安定性を考慮しなければならない。デトネーション波は、衝撃波とその後の反応帯としてモデル化できる。計算を単純化し、計算時間を短縮するため、デトネーション波は気体の分子量が変化しない完全流体としてモデル化することができる。エネルギー追加は、単一ステップの化学反応で起こると想定することができる。計算をさらに単純化するため、熱伝導と粘度効果を無視することができる。静止デトネーション波の安定した存在を検証するため、その結果としての2次元の反応オイラー方程式系は、例えば並列コンピュータクラスタで効率的に解くことができる。
【0012】
デトネーションエンジンでは、反応混合気の超音速フローはラバールノズルを出て、例えばマッハディスクを形成することができる。マッハディスクのガス圧縮により、下流に化学反応を開始し、ディスクから距離を置いたところに反応帯を形成するようにする。このフロー構成に関する初期の実験的研究の1つが[10]に報告されているが、著者は、定在衝撃‐反応‐帯コンプレックスを達成することができている。この構成はデトネーションのものに類似するが、マッハディスクは化学反応の有無に拘らずそのようなフロー中に安定して存在することができるため、デトネーションというより、衝撃誘起燃焼と呼ぶ方がより適切であろう。反応帯がマッハディスクの存在及び特性において果たす役割の範囲は、我々の知る限り、詳細には検討されていないようである。
【0013】
混合気の超音速流は、燃料と酸化剤を、例えば収束‐発散ノズルを介して試験流路に押し込む高圧供給タンクの助けで生成することができる。フローと共に、およびこれに抗して流れるデトネーションを研究し、流路のフロー境界層がデトネーション速度に与える効果を調査した。[21]に、流路幾何形状のバリエーションによる安定性を、水素‐空気の多段階動力学によるモデルを用いて数値的に考慮した。彼らは、流路断面のバリエーションを用いて流路中のデトネーション波を安定化することができると結論づけている。
【0014】
デトネーションはまた、鈍頭体による超音速フロー中で安定化することもできる。このような構成において、デトネーションは反応性気体の超音速流中のウェッジ上で安定化することができる。化学反応はウェッジノーズの下流に距離をおいて始まり、ウェッジに取り付けた衝撃構造に影響を与えることができる。ラバールノズルのマッハディスク下流の反応の場合同様、この構成における衝撃は化学反応がなくとも存在できる、すなわち、衝撃誘起燃焼である。
デトネーションは、軸方向でその位置を固定しながら方位方向で回転可能とすることで、超音速フロー中で安定化することができる。このような構成で、連続的スピンデトネーションを達成することができる。超音速エア流は、2つの同軸円筒の間の薄い隙間に入り、燃料と混合することができる。燃料は、例えば内筒から噴射されることができる。混合気は、周方向に伝播する回転デトネーション波中で連続して燃焼することができる。この構成を、パルス・デトネーションエンジンの代替えとして、例えばデトネーションエンジンで用いることができる。
【0015】
以下に詳しく述べるように、単一ステップアレニウス反応モデルによる完全気体反応に関する圧縮性オイラー方程式を用いて、中央ソースから半径方向に発出する超音速フローに定在する定常状態デトネーションの存在を見つけることができる。混合気の停滞エンタルピーのような流入条件と、定常デトネーション解の存在及び構造における流入マッハ数は、デトネーション波の安定性において役割を果たすことができる。パラメータにより、解を持たないことや、1つまたは2つの定常状態問題の解をもつことができる。2つの定常解が共存する場合、解の一方は比較的小さいデトネーション半径に対応し、他方は大きい半径に対応することができる。これら2種類の解は、明示的に異なる構造を持つことができる。小径解は、定常平面状ZND解の長さの約100倍の大きな誘起帯を持つ矩形波様構造を持つことができる。これに対して、大径解は明確な誘起帯を持たない。
【0016】
さらに、定常状態解の安定性は決定可能で、デトネーションのダイナミクスは、例えば2次元の反応オイラー方程式を数値的に総合することで演算できる。初期条件として、以下では矩形波様および正規定常解の両方を考慮する。数十の定常半反応期のタイムスケールにおける高速崩壊と、数百の同じ時間単位のスケールにおける低速膨張を得ることができる。大径解は、非常にゆっくり膨張するデトネーションをもたらすことができ、ここで、あらゆる重大な膨張が起きる前に迅速にセル構造が形成される。これら膨張デトネーションは、定常状態デトネーション半径の下流に小さい硬質障害物を置くことで安定化することができ、ソース中央から一定の距離を置いて安定したセルデトネーションが確立される。
【0017】
気体の非反応断熱フローに当初、障害物を置くことによる障害物によるデトネーション開始は、数値的に決定することもできる。例えば、障害物周囲に形成される弧状衝撃波はすぐにデトネーションに変わり、膨張を開始することができる。同じ障害物で、開始ケースにおいて同じ最終デトネーション構造を得ることができる。
【0018】
ある実施形態は、燃焼可能混合気の超音速流を含むことができる。超音速流は、円形ソースから半径方向に流れ、下流のデトネーション燃焼を経ることができる。このフローは、混合気の外部ソースによって2つの平行する板の間を案内され、中央からのインフローとなることができる。ソースからの出口における高速フロー条件は、例えばノズルを介した急速膨張によって生成することができる。この実施形態のデトネーションは、衝撃波の存在が化学反応の存在に依存するため、自己持続波となることができる。化学反応がないと、フローの単なる断熱膨張が起こることがある。
【0019】
支配型反応オイラー方程式により、ソースから有限距離離れて定在する自己持続デトネーションのある定常状態解を出すことができる。このような解の性質は、混合気の特性や流入条件等、問題の各種パラメータの役割を検討することで明らかにすることができる。2次元シミュレーションを用いて、デトネーションの非線形ダイナミクス、例えばその安定性を調査することができる。デトネーションは一般に不安定であり、不安定性は、セル形成の形だけでなく、デトネーション前面の全体的な半径方向収縮および膨張の形でも現れる。膨張は、例えば、フロー下流に硬質障害物をいくつか置くことによって防止することができる。
【0020】
化学反応がない場合、ある半径を持つ円形ソースから発出する理想的な燃焼ガスの2次元の半径方向に対称な超音速フローは断熱であり、超音速でもあるため、膨張中、フロー速度及びマッハ数は増大する一方、圧力、温度、及び密度はすべて距離と共に減少する。これらの特徴は、以下に示すように気体動力学の方程式から確立できる。例えば、ZND理論の枠組み内で分析を用いて、断熱性の半径方向に膨張するフローにおいて定常の半径方向に対称なデトネーション波が存在できる条件を決定することができる。例えば2次元反応オイラー方程式と単一ステップアレニウス動力学の数値的解を用いて、2次元の摂動に対するこのような定常構造の安定性を示すことができる。
【0021】
半径方向膨張フローの静止デトネーションの模式的幾何形状を図5に示す。中央ソースは半径rを有し、ここから、圧力p、密度ρ、及び流速uより与えられる初期フロー条件で反応気体が発出する。超音速膨張中、ある距離rにおいてフローが加速するため、フロー条件は、静止デトネーション波構造をrの下流に確立できるようなものとすることができる。デトネーション衝撃の前面における状態はρ、p、uであり、衝撃直後の状態はρ、p、uである。静止デトネーションについては、その速度Dはuと同じでなければならない。衝撃後、
【数1】
の音速線にあり、流速はローカル音速
【数2】
に等しい。
【0022】
以下に述べるように、このような静止デトネーション構造は、広範囲な条件で存在可能である。さらに、同一流入条件で複数の解の共存が可能である。
ソースから発出する気体の温度が充分に低い場合、それが膨張中に低下するため、ソースからのフローは断熱と考えられ、反応は無視できる。デトネーション半径rはアプリオリに未知だが、例えば上流状態をランキン・ユゴニオ条件とデトネーション衝撃の下流のフロー条件に一致させることによって決定できる。このようなデトネーション構造の重要な要素は、衝撃後のソニックポイントの存在である。衝撃直後の流速は音速以下で、衝撃から充分離れた生成物のフローは超音速であるため、ソースから一定の距離、
【数3】
で、流速は音のローカル速度と等しくなる。
【0023】
気体デトネーションの速度は通常、毎秒数キロメートルのオーダーで、このようなデトネーションを固定距離で保つため、フローの初期エネルギーを十分高くすることができる。静止デトネーションを確立するために必要な初期フローの総エネルギーは推定可能である。摩擦損失がないと想定して、フローの総エンタルピー、
【数4】
は保存量である。ここで、Tはフローの温度、uは流速、Wは混合気のモル質量、Rは一般ガス定数である。断熱膨張中、フロー温度は下がり得るため、流速が上がり得る。フローの位置エネルギーすべてが運動エネルギーに変換されても、フローは
【数5】
より速くならない。一方、デトネーション速度は下限を有し、これは推定可能である。収束デトネーションの半径が反応帯の大きさよりはるかに大きいと想定すると、デトネーション曲率効果は無視でき、デトネーション速度は
【数6】
として近似でき、ここでTはデトネーション衝撃前の周囲温度である。そのため、デトネーション速度は常に
【数7】
より大きくなる。デトネーションを固定距離に保つには、周囲フローはデトネーション速度まで加速しなければならず、そのため初期フローエネルギーの条件はH>Q(γ2-1)と書くことができる。
【0024】
反応オイラー方程式
2次元圧縮性反応理想気体は、質量、運動量、エネルギーの保存および化学反応の方程式からなる反応オイラー方程式系によって記述すると想定でき、
【数8】
ここで、ω(p, ρ, λ)は反応速度であり、次による速度で反応物質⇒生成物形式の簡易モデルで記述すると想定でき、
【数9】
ここで、Eは活性化エネルギー、ρは密度、pは圧力、kは反応速度定数、λは反応進行変数である。反応物質の質量分率は1―λ、生成物の質量分率はλで、λ=0は新鮮な混合気、λ=1は完全燃焼気体に相当する。状態の方程式は以下で与えられ、
【数10】
γは比熱の一定比である。そのため、(4)の総エネルギーは
【数11】
と定義される。
【0025】
衝撃条件
ランキン・ユゴニオ跳躍条件は次の通りで、
【数12】
Dは衝撃速度の法線成分、un は流速の法線成分である。通常通り、衝撃自体は非反応性であるため、(11)は、問題なく満足される。定常状態デトネーションについては、デトネーション速度は周囲流速と等しく、すなわちD=u1であり、実験室基準でデトネーションが静止するようにする。円形定常状態解については、フローは衝撃面に対して垂直であるため、理想気体ではランキン・ユゴニオ条件は次のように書くことができる。
【数13】
ここでρ1、u1、 p1、ρ2、u2、p2 はそれぞれ、衝撃前および衝撃後の密度、速度、圧力である。これらの方程式から、衝撃後状態は衝撃前状態の観点から明示的に書くことができる。
【0026】
下記に述べるように、定常状態系はuとλについて2つのODE(常微分方程式)、総エネルギーと質量については2つの保存則にまとめることができる。反応速度が上流フローでゼロと想定すると、流速のみのランキン・ユゴニオ条件を用いることができ、これは非常に簡易な形を取る。
【数14】
ここで、
【数15】
はソースの総エネルギーであり、定常状態ではフローに従って保存される。
【0027】
無次元方程式とパラメータの選択
デトネーションが定数パラメータの静止状態に伝播する問題において、当然ながら、変数を一定状態または衝撃後状態に対して縮尺する。デトネーションは、非均一媒質で静止または伝播可能であるため、スケールに関する最良の選択は直ちに明らかではない。基準圧pa、基準密度ρa、温度Ta =Wpa/ρa、速度
【数16】
を選択することができる。これらは1atmおよび300Kに対応すると取ることができる。一般に、このような基準状態の特定の選択から独立し、以下に説明する長さやタイムスケールを選ぶことで、支配方程式はその形を保持することができる。
残るスケールは長さスケールで、これには半反応帯長さl1/2を選択することができ、上記基準状態に伝播する面状デトネーションでは、タイムスケールt1/2 =l1/2/uaである。反応パラメータQ、E、及びγのある組について、これらスケールを設定することが速度定数を次の積分で固定することになり、
ここで、
【数17】
ただし、
【数18】
である。
そのため、以下の計算では、長さとタイムスケールは、p=1、ρ=1、T=1の無次元上流状態に基づくQ、E、γの値に依存して変化するkによって決定することができる。
【0028】
定常状態半径方向対称解
定常半径方向対称ケースでは、運動方程式が次のようになる。
【数19】
これらの方程式は、uとλについてODEにまとめられ、
【数20】
ただし、質量とエンタルピーは保存量である。
【数21】
ここで、
【数22】
はローカル音速、rは半径座標、Mは質量フラックスである。以下の計算において、方程式20および21は3つの方程式の自律系に書き換えることができ、ここで未知数はτでパラメータ化する。
【数23】
この系と、質量とエンタルピーの2つの保存則(方程式22および23)は、ソースおよび遠距離の境界条件と衝撃条件(方程式15)と共に静止デトネーション構造を完全に決定する。ソースとデトネーション衝撃との間にあたる周囲状態は断熱膨張である。定常状態方程式は、流速について例えば1つの代数方程式にまとめることができる。
【数24】
ここで、r0はソースの半径、u0はソースの流速である。
【0029】
方程式(20)の形式は、フローにu=cのソニックポイントの可能性と、同ポイントで方程式(20)の分子をゼロに設定することによる正規化の可能性があり、解の存在条件を与えることができる。原則として、解の手順では、ある流入条件について全体構造を見つける必要がある。しかしながら、衝撃位置もソニックポイント位置も直接計算することはできない。後者の決定には反復手順が必要である。
ソニックポイントはサドルポイントであるため、テイラー級数膨張のようにソニックポイント近傍で解を見つけるには数値的により堅牢である。そこで、そこから離れて、正規数値的方法による積分を続ける。ソニックポイント位置は明示的に未知であり得る。境界条件をソースに固定すると、方程式(24)の系はソニックポイントで1つの推測パラメータを持つ。これはソニックポイントの半径
【数25】
、デトネーション半径rs、またはソニックポイントの反応進行変数値
【数26】
であり得る。ソースの境界条件を満足させるため、これらパラメータの1つ、例えば
【数27】
をスキャンすることができる。
【0030】
アルゴリズムを図示するため、ソース半径がr0、ソースのフローの圧力がp0、密度がρ0、超音速流速がu0>c0とする。ソースのフローがわかれば、HとMを計算でき、領域全体に保存される。Hは固定されているため、ソニックポイントの半径
【数28】
について、(24)(a)の分子をゼロに設定し、
【数29】
を用いることにより、
【数30】
の関数として式を書くことができる。
【数31】
ここで反応速度と音速は、以下の式を介して
【数32】
にのみ依存する。
【数33】
【0031】
【数34】
の値は、このアルゴリズムの推測パラメータであり得る。これを、例えば0と1の間でスキャンすることで、ソースの初期条件を満たすことができる。このプロセスで
【数35】
が見つかったら、Hが既知であるため、あるポイントまで方程式(24)の系を積分することができ、混合気は新鮮なλ(τs)=0となる。このポイントは、反応帯の始まりを画定することができ、それは衝撃後状態である。従って、ジャンピングの半径はrs=r(τs)で与えられる。次に、ジャンピング条件(15)を適用することで、方程式(25)の評価により、衝撃前の状態と全ての断熱プロフィールとを容易に入手することができる。
【0032】
定常状態デトネーションの解は、ソースの初期パラメータの一定範囲についてのみ存在する場合がある。別の視点からスキャン手順を考えると、Hは固定と想定することができる。そしてソニックポイント、
【数36】
の反応進行変数の値の範囲について方程式(24)を解くと、デトネーション半径
【数37】
における衝撃後流速に依存することになる。この関数は単調減少し、凸である。方程式(25)および(15)を用いて断熱膨張について同じ依存性を算出することができる。後者の曲線も凸で単調減少するが、これは、1つの追加パラメータ、ソースの初期流速
【数38】
を含む。u0を調節すると、断熱曲線
【数39】
は、デトネーション曲線
【数40】
に関してシフト可能である。初期流速の一部の値で曲線が交差し、解の存在を暗示する。これらの曲線は2つまで交差するポイントを有することができ、これはソースの特定のフローについて多数の定常状態解を存在させることになる。交差するポイントがないことは、この問題に対する定常解がないことを意味する。
【0033】
図6に3つの条件を示す。断熱膨張とデトネーション衝撃波の位置・速度曲線を示すが、ここで曲線
【数41】
は2つの交点(a)、1つの交点(b)、交点なし(c)を有する。混合気のパラメータは、γ=1.2;E=40;Q=30;H=1.3Hmin;r0=50となるよう選択している。図6では、(a)M0=4.40、(b)M0=4.0、(c)M0=4.67である。
上記の重要な結果は、特定の混合気のデトネーション半径は、フローの総エンタルピーの値と初期流速の値という2つのパラメータにのみ依存できるということである。これらパラメータの一部の値で解は存在せず、他の値では1つあるいは2つの解が存在する可能性がある。
【0034】
定常状態解の存在と構造
解がいつ存在するか、また、存在する場合、デトネーションはどこに位置するかを特定することが重要であり得る。ソースにおける混合気の特性と流入条件は、定常状態解の構造に役割を果たすことができる。
図7は、流入フローの関数としてのデトネーションの半径をマッハ数で示す。デトネーション半径は、各種E、Q、γについてソースフローのマッハ数M0の関数として与えられる。ソース半径はr0=50、停滞エンタルピーH=1.3Hmin=1.3Q(γ2−1)である。図7は、流入フローマッハ数がソースの固定半径と停滞エンタルピーの固定値でデトネーション半径にどのように影響できるかを示す。これらの図は、活性化エネルギーE、熱放出Q、比熱比γが果たす役割も示す。これらの図においては、比較的小径と比較的大径の存在が典型的である。γ=1.2の場合、静止解を達成するため、増加するQにはより大きい値のM0が必要になる。同時に、Qが10から30に変化すると、上半径は大きさが9000以上から約1000までというオーダーで減少する。これは、流入フローのマッハ数が充分大きいことを示し、反応帯の大きさよりほぼ1000倍以上大きい半径のデトネーションが可能である。増加するγは、デトネーションの上半径を反応帯と同じように約1000倍に減らすだけでなく、流入フローのマッハ数をγ=1.2も、約3から5から1から3へと大きく減らすという興味深い効果を有する。活性化エネルギーの効果も非単調で、活性化エネルギーが増えると、デトネーション半径がまず増加してから減少することがあり得る。興味深いケースを、E=30の図7(d)に示す。ソースマッハ数が1でも、下半径が約rs=100、上が約3000という2つの解が存在する。
【0035】
混合気エンタルピーHが小さい場合、即ち、Hmin=Q(γ2−1)の最小値に近い場合、フローを無限まで高速にスピードアップするには、エネルギーが不十分である。そのため、rs(M0)曲線のトップブランチはないが、ボトムブランチはまだある。一方、Hが非常に高い場合、トップブランチは実行可能だがボトムブランチは消滅し、その理由は、対応する半径がソース半径より小さくなるためである。これらが、図7で図形の一部のボトムブランチが存在しない理由である。
図7に示す上及び下の解に対応する定常状態解の構造を検討すると興味深い。図8に、下解(左欄)と同様フロー条件での上解(右欄)に対応するp、u、T、および1−Mのプロフィールをプロットする。いずれの場合も、解は矩形波形状のものである。
【0036】
左欄は、2つのブランチが存在する場合のrs−M曲線の下ブランチの矩形波デトネーションに対応する。左欄のパラメータは、γ=1.2、Q=10、E=30、r0=50、ρ0=1、p0=1.40、u0=1.30、M0=1.0、H=2.1Hminである。右欄については、上ブランチのみ存在する。右欄のパラメータは、γ=1.4、Q=10、E=30、r0=50、ρ0=1、p0=2.70、u0=3.90、M0=2.0、H=1.75Hminである。
左に示す解の明らかな特徴は、やや長い反応帯を持つ矩形波様構造である。圧力、温度、速度、マッハ数のプロフィールは、薄いエネルギー放出領域まで、衝撃後ほぼ一定状態を表すように見える。約30長さ単位延びる誘起帯がある。その後、エネルギーすべてが数長さ単位の距離に渡って放出可能である。反対に、上解の構造は誘起帯がなく、反応帯は数長さ単位のみ鋭角に広がる。これら2つのケースの混合気の特性は同じであるが、流入条件は別に選択し、起点からほぼ同じ距離にデトネーションを置くようになっている。従って、同じ混合気では、同じ半径で2つの非常に異なる静止デトネーションが存在できるよう、流入条件を修正することが可能である。これらの安定性は、このようなデトネーションが存在するか否かにおいて決定的な要因である。
【0037】
前述の計算では、流入エンタルピーを固定し、混合気パラメータの役割と流入マッハ数を調べた。ある混合気について、流入エンタルピーと流入マッハ数がデトネーション半径に与える影響を下記に述べる。結果を図9に示す。
図9は、初期フローマッハ数の関数としてのデトネーション半径を、停滞エンタルピーHの異なる値について示す。混合気パラメータは、γ=1.3、Q=10、E=30である。ソースの半径はr0=50である。混合気エンタルピーを上げることで、上解はデトネーション半径の下値に近づくことができる。下解の半径も、Hが増加するにつれて減少できる。この結果は、フローのエンタルピーが高くなるほど、フローの定常デトネーションを確立するのに必要な速度まで加速することが容易になるという期待に一致する。
【0038】
あるM0 でデトネーション解が存在するQ―Eパラメータスペースの領域は特定可能である。図10に、γ=1.2及びγ=1.4における2つの異なる流入マッハ数、M0=1及びM0=2について、QとEの関数としてのデトネーションの最小半径を示す。上の図はγ=1.2に、下の図はγ=1.4に対応する。左の図はM0=1に、右の図は、M0=2に対応する。ソースの半径はr0=50で、H=1.3Hminである。これらの図で興味深い特徴は、大きなγについて、解の存在範囲がはるかに広くなり、最小半径がγ=1.2のケースよりはるかに小さくなることである。
収束デトネーションの半径は、ソースでのフローと混合気パラメータとに依存することがあり得る。依存を発見するため、これらパラメータの範囲について、全ての方程式(24)系を解くことができる。この問題を解く前に、分析的推定を行うことができる。例えば、静止デトネーションについて、あるポイントでの流速はデトネーション速度に等しく、すなわち、uCJ=Dでなければならない。デトネーション半径が大きい場合、デトネーション速度は、例えば次のチャップマン・ジュゲ公式によって推定することができる。
【数42】
ここで、Tはデトネーション衝撃直前の温度である。エンタルピーが固定されている限り、断熱膨張の周囲温度は、流速のみの関数であり、
【数43】
従って、デトネーション衝撃位置における断熱流速について以下の方程式を書くことができる。
【数44】
この方程式はuCJに関して解くことができ、その解と方程式(25)は初期流速に対するデトネーション半径の依存、すなわちrS(u0)が与えられる。この関数は単調に減少し、ソースでのフローが速いほど、チャップマン・ジュゲ速度D CJにより早く到達する。この推定は、rs−M0 曲線のトップブランチのほぼ正確な記述を与えることができる。
【0039】
2次元シミュレーション
定常状態解は問題の幅広いパラメータについて存在するが、その安定性を理解することが重要になり得る。気体デトネーションは多次元摂動に対して不安定なことが多い。しかしながら、現在の構成の2つの要素は本書に明示する役割、すなわち、デトネーション衝撃の上流の非均一フローとデトネーション衝撃の曲率を果たすことができる。
以下の単純な論理に基づき、我々の構成におけるデトネーションは、実際、長手方向の摂動に対しても常に不安定でなければならないと結論する人がいるかもしれない。中心から距離を置いて静止する定常半径方向対称デトネーションを考え、これがソースに向かって内側に小距離摂動すると想像する。すると、摂動後の上流フローは摂動前より遅いためと、デトネーションは上流のフローに対して一定速度で伝播する傾向があるため、摂動衝撃は内向きに移動を続け、これは不安定性を暗示する。外向きに摂動するデトネーション衝撃という逆の状況では、摂動衝撃の上流のフローは摂動前より速い。そのため、デトネーションが上流状態に対して一定速度で伝搬する傾向があるのと同じ理由から、摂動衝撃は膨張を続け、これも不安定性を暗示する。
【0040】
しかしながら、これら単純な論理は、デトネーション動力学において役割を果たすことのできる2つの重要な効果を無視している。デトネーション速度に対する曲率の効果と、デトネーションセルの形成につながる横方向の不安定性である。曲率が増加すると、デトネーション速度が下がることができる。そのため、デトネーション衝撃が、例えば内向きに摂動する場合、その定常状態速度は下がる。このような減少は、上流フローの速度低下を補償するのに十分であり得る。そのため、デトネーションが内向きに摂動すると、新しい定常状態が可能である。曲率効果が上流速度減少効果に勝る場合、摂動は実際に減少して、デトネーション安定性をもたらすことができる。
【0041】
曲率効果は、デトネーション半径が大きい時に弱くなり得る。さらに重要なことは、2次元不安定性が始まり、高度に重要な多次元ダイナミクスが生じ、ここではセル構造が支配的役割を果たすようになる。以下に述べるように、デトネーションの2次元展開は、矩形波様及び正規デトネーション構造に対応する定常状態解と共に開始することができる。半径方向対称解は全てのケースで不安定だが、不安定性の性質が2種類の定常解で異なる。崩壊および膨張の両方の解が見つかるが、不安定性のタイムスケールにより両者には重要な違いがあり、崩壊ケースの方が膨張ケースよりはるかに小さい。
膨張デトネーションは、ソニックポイント後に中央から距離を置いて複数の障害物を置くことによって安定化できる。さらに、障害物安定化デトネーションは、障害物によって邪魔された超音速フローによって開始することができる。障害物は弧状衝撃波を生じさせることができ、ここでデトネーションが開始され、個々の障害物からのデトネーション前面を、中央ソースを包囲する単一前面に連結することによって自身を確立することができる。
【0042】
2次元シミュレーションのため、テイラーやカジモフ、スチュワートの開発したようなソルバーを利用することができる。ソルバーは有限体積法を用いることができ、ここでフラックスを、例えば5次のWENOアルゴリズムによって計算することができ、時間積分は、例えば3次のTVDルンゲ・クッタ方法によって行うことができる。空間ドメインは、定常デトネーションの半反応長あたり少なくとも20グリッドポイントの分解能の均一な正方メッシュとして離散化できる。CFL数は、0.5でよい。例えばゴーストセル方法を用いて分散並列アーキテクチャ用にコードを設計できる。ソースで流入境界条件を設定でき、ドメイン端で、変数の外挿によって流出条件を設定できる。障害物は絶対剛体と想定し、その境界は、例えば埋め込み境界法を用いて処理できる。
【0043】
定常状態円形デトネーションの不安定性
定常状態解の不安定性を理解するため、図8及び図11に示すように2つのケースを分析することができる。図11は、図8に示す矩形波様定常解として始まるデトネーションの崩壊を示す。(a)から(c)のスナップショットの回数はそれぞれ、t=1、10、及び40である。ドメインサイズは600×600、グリッドポイントの数は1280 x 1280で、半反応帯あたり64ポイントに対応する。デトネーションの初期半径は約150である。t=40の短時間では、半径は約100に減少した。図を注意深く見ると、実際、波は2次元不安定性を経て、デトネーションセルが表れることがわかる。しなしながら、このセルは弱く、衝撃波の円形形状を明らかに変更しない。崩壊中の衝撃圧はt=0で約1.1から、t=40で2.3に増加した。ダイナミクスは実質的に半径方向対称のままである。
【0044】
上記で考えた崩壊ケースに対して、図12は膨張デトネーションを示す。非矩形波様定常解(図8のような)として開始するデトネーションの膨張を図12に示す。(a)から(c)のスナップショットの回数はそれぞれ、t=0、150、及び400である。ドメインサイズは600×600、グリッドポイントの数は5120 z 5120 で、定常状態解の半反応帯あたり20ポイントに対応する。初期条件は図8(右欄)の通りである。デトネーションの初期半径は崩壊ケースとほぼ同じだが、デトネーション反応帯構造は非常に異なり、リード衝撃後に鋭い圧力低下があり、誘起帯は見えない。この特定ケースの2次元不安定性はかなり強く、強いセルデトネーションがすぐに開始する。前記崩壊ケースに比べてこのケースの非常に重要な違いは、膨張が非常にゆっくりな点である。デトネーションがその初期半径の二倍に膨張するまで約400時間単位かかる。このゆっくりした膨張は、反応生成物の膨張フローの速度を落とすため衝撃のフロー下流に障害物を置くことにより膨張を防止することが可能かもしれないことを示す。
図13は、半径10の3つの障害物による図12の膨張デトネーションの安定化を示す。(a)から(c)のスナップショットの回数はそれぞれ、t=10、50、及び700である。ドメインサイズは600×600、グリッドポイントの数は2500 x 2500で、定常状態解の半反応帯あたり10ポイントに対応する。
【0045】
障害物によるデトネーションの安定化
前の区間での膨張デトネーションが実際に安定化されるかどうか見るために、定常状態音速線のすぐ下流のフローに複数の障害物を置くことができる。例えば、障害物の数、大きさ、形状により、複数の可能性が生じる。しかしながら重要なのは、膨張を防止するには少数の障害物で充分ということである。障害物の前に形成される弧状衝撃波は生成物フローの速度を落とすことが可能で、デトネーション衝撃はソースと障害物の間の領域で安定化されたままでいることができる。その結果生じるデトネーション波の精密な位置および形状は、障害物の選択及び混合気の詳細、並びにソースの条件に依存し得る。
例として、図13(a)では、障害物周囲に小さい弧状衝撃波の成長が形成され、図13(c)では大きな三角形の弧状衝撃波が形成され、反応帯下流に静止して、静止デトネーションの安定化支援を提供することができる。同じ半径に3つ以上の障害物を均等な間隔を置いて用いることで、この特定のケースでは、波の崩壊につながることがある。解が崩壊するか安定化するかは、現象において役割を果たす複数のパラメータに鋭敏に依存することがある。
【0046】
デトネーションの開始
2次元シミュレーションの初期条件として、計算はすべて定常状態解を取ることができる。このような計算は、ある定常状態解の安定性特性の理解を提供することができる。不安定な定常状態解は、例えばこのようなデトネーションは、定常状態解に行くことなく、不安定なケースでは、パルスやセルデトネーションに続くソースによって開始されるため、達成することが難しい。そのため、半径方向流出の静止デトネーションの開始が重要になり得る。このようなフローが剛体障害物に遭遇した後、例えばソースからの非反応超音速フローからのデトネーション開始によって、これを行う別の手段を実現することができる。
【0047】
上述と同じ障害物を、初期は非反応性で断熱性であるフローに置くことができる。図14は、図13と同じ種類および位置の3つの障害物によるデトネーション開始を示す。図が対応する回数は、(a) −t=10、(b) −t=50、(c) −t=100、(d) −t=200、(e) −t=500、(f) −t=1500である。ドメインサイズは600×600、グリッドポイントの数は2500 x 2500である。弧状衝撃波は、図14(a)に示すように障害物の前面で形成できる。迅速にデトネーションを開始することで、障害物による波の安定化を容易にする。しかしながら、しばらくの間、図14(b)のようにこれらデトネーション波は互いに分離して独立した構造を形成する。そのすぐ後、図14(c)から(e)のように、別個のデトネーション前面が合流して再形成され、図13に示す最終構造と同じになる。
図15は、図11から図13の反応帯の詳細な構造を示す。図15(a) −崩壊t=10−は図11(c)のケースに相当する。図15(b) −膨張t=150−は図12(b)のケースに相当する。図15(c) −障害物により安定化したデトネーションt=700−は図13(c)のケースに相当する。
【0048】
例示デトネーションエンジン100は、エンジンへの酸化剤搬送のための第1入口135と、エンジンへの燃料搬送のための第2入口140とを備えることができる。第1入口135は、酸化剤を含む第1タンク(図示せず)に流体接続でき、第2入口140は、燃料を含む第2タンク(図示せず)に流体接続できる。ある例では、第1および第2入口(135、140)を図1に示すようなエンジンの対向する側に位置決めることができる。その結果、流体および酸化剤は共通軸145に沿って対向する方向でエンジン100に搬送することができる。第1入口135は第1ノズル105を備えることができ、第2入口140は第2ノズル110を備えることができる。酸化剤が第1ノズル105を流れる時、エンジン100内で超音速フローを得ることができる。同様に、燃料が第2ノズル110を流れる時、エンジン100内で超音速フローを得ることができる。
例示のデトネーションエンジン100は、第1および第2入口(135、140)の間で、共通軸145に沿って位置するセパレータ115を含むことができる。セパレータ115の第1側は、酸化剤の第1フローを共通軸145から半径方向外向きに拡散することができる。同様に、セパレータ115の第2側は、燃料の第2フローを共通軸145から半径方向外向きに拡散することができる。第1および第2フローが共通軸145から半径方向外向きに進むと、フローはやがてセパレータ115の外周を越えて進む。この点で、第1および第2フローは混合を始める。フローの混合は、一定の時間および距離を越えて起こり、混合されたフローは共通軸145から外向きに移動するにつれ、より均一になる。十分混合されると、混合気のデトネーションが起こることができる。
【0049】
デトネーションは、広範囲の初期圧力条件下で開始できるが、急冷を避けるため、一般に一定の温度と、化学組成範囲を保持しなければならない。気体デトネーションの衝撃では、1000Kのオーダーの温度と30から40バールの圧力が一般的だが、デトネーション生成物では2500から3000Kおよび20から30バールが一般的である。これらパラメータの好適な範囲は、特定の設計条件と所望の結果に依存することがある。デトネーションエンジン100の幾何形状により、デトネーションに適した条件は、共通軸145から一定の距離を置いてのみ存在する。その結果、デトネーションは、図2に示すように、円筒形状を有するデトネーション領域205内で発生することができる。デトネーション領域205は静止デトネーション波を含むことになる。
【0050】
典型的なデトネーション領域は、薄い衝撃の後に反応帯を伴うことができ、この範囲は、混合気の組成と燃焼条件に強く依存することがある。反応帯は一般に、1ミリメートルの小数から数ミリメートル以上になることがある。このように速い燃焼は、装置の大きさがこれらスケールを有意に超える場合、燃焼プロセスにおける幾何形状および損失要因の効果を最小限にするという意味で有利であり得る。混合気がデトネーション領域205を通過するとデトネーションが起こり、混合気が燃焼生成物に変換されると熱が放出される。高温の燃焼生成物がデトネーション領域205および共通軸145から半径方向外向きに進み続け、タービン120を通過し、これを回転させることにより、有益な仕事がなされる。燃焼生成物がタービンを通過すると、燃焼生成物からエネルギーが抽出でき、これらの温度と圧力が下がることになる。
【0051】
タービン120は、エンジンから独立して自由に回転するよう構成することができる。ある例では、タービンは、図1に示すように第1および第2入口(135、140)にそれぞれ取り付けた第1および第2ベアリング(125、130)に取り付けることができる。あるいは、タービン120は、1つのベアリング、または2つ以上のベアリング上で回転することができる。別の例では、タービン120は、エンジン100に非一体とすることができる。例えば、自動車用途で一般的なように、タービン120はエンジン100から延びる排気管に取り付けることができる。タービン120を示し、説明したが、これに限定されず、温度と圧力を上げて燃焼生成物から仕事を生成するためのあらゆる類似構成品で代替することができる。
【0052】
静止デトネーション波を達成するには、酸化剤と燃料を、結果として生じるデトネーション波の速度に等しい速度で、デトネーション領域205に運ぶことができる。例として、デトネーションエンジン100内に見つかる温度と圧力で2km/secの速度でデトネーション波が伝播する場合、燃料と酸化剤は2km/secの速度でデトネーション領域205に搬送し、デトネーション領域205に静止デトネーション波をもたらさなければならない。ある例では、酸化剤は約2km/secの超音速で第1ノズル105を出て、燃料は約2km/secの超音速で第2ノズル110を出ることができる。
【0053】
図3および図4は、圧力または温度で表現した安定化デトネーション波を示す例示的計算モデルである。これらモデルは、70%ヘリウムで希釈したストイキ水素・酸素混合気を表す理想気体に関する計算に基づくもので、直径10(定常面状デトネーションの反応帯の厚みの単位)のソースから超音速で発出する。この気体は、最初、化学反応なしに膨張し、デトネーション衝撃に遭遇するまで加速した後、燃焼を開始する。燃焼プロセスは非均一で、2つの図に示すように、メイン衝撃に沿って伝播する横方向衝撃波をもつ特徴的多次元反応帯につながる。図3は、棒グラフで圧力場を示す。ソースからの膨張中、当初は減少する圧力は、デトネーション衝撃をまたいで大きく上昇した後、燃焼済み気体が高速で半径方向に噴出される際に、フローの外側領域で減少する。図4は395K 単位のフロー温度を示す。
【0054】
例示的デトネーションエンジンでは、燃焼生成物は回転翼と相互作用可能である。この相互作用でいくつかの事を達成できる。必要な推力を与えて有益な仕事を生み出すことができる。この相互作用は、半径方向の膨張を減らすことにより、デトネーション反応帯を安定化することができる。デトネーションは、デトネーション衝撃後のフローに障害物を置くことによって安定化できる。この回転翼の安定化効果をシミュレーションするため、ある半径の輪に沿って、多数の小さい剛体円形障害物を置くことができる。これらの障害物は、温度プロットで、障害物から発した渦の筋が見えるところ、言い換えると、渦列の頭に、小さい白い点として明確に見ることができる。ある例示的実施形態では、図と幾何形状の異なる回転翼がエンジン内でこの安定化を達成することができる。このような翼は、デトネーションの運動エネルギーをエンジンの機械的エネルギーに変換する手段と、デトネーションを安定化する手段の両方を提供することができる。障害物の位置は、定常状態円形デトネーション半径に影響するが、デトネーション波はこれら障害物の存在により無制限の膨張が防止される。この幾何形状及びその他の幾何形状で、安定したデトネーション燃焼を達成することができる。
【0055】
1以上の実施形態の詳細が添付の図面と明細書に説明されている。その他の特徴、目的、利点は、明細書、図面、特許請求の範囲から明らかになる。発明の多くの実施形態を説明したが、発明の精神および範囲を逸脱せず、各種修正を行うことができるのが理解される。また、添付の図面は必ずしも一定の縮尺でなく、発明の各種特徴および基本原理をやや簡易な形で表したものであることも理解されなければならない。
(参考文献)
以下のものは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている。
【化1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15