(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記疎水化処理を、前記レンズ端面に露出した偏光ポリビニルアルコールフィルムに、水酸基と反応性を有する官能基を含む疎水化剤を接触させることにより行う、請求項1に記載のアイウエア用偏光レンズの製造方法。
【発明の概要】
【0008】
用語の定義において、本発明および以下の本明細書では、偏光レンズとは、光学設計やレンズ度数の有無は区別せず、2枚のレンズ基材の間に偏光フィルムが配置された(挟み込まれた)メニスカス形状のレンズを意味するものとして使用する。
アイウエアとは、フレームに取り付けられた左右のレンズの少なくとも一方のレンズが、光学的に処方度数を充足する視力補正機能を有するレンズ(眼鏡レンズ)である視力補正用のアイウエア、即ち眼鏡、に加えて、サングラス(ファショングラスも含む)、ゴーグル等の眼鏡以外の各種アイウエアを含む意味で使用する。また、左右のレンズの少なくとも一方が光学的に処方度数を充足する視力補正機能を有するレンズ(眼鏡レンズ)であるサングラスやゴーグルも、アイウエアに包含される。
眼鏡レンズとは、メニスカス形状を有し、フィニシュトレンズ(両面が最終処方面である)またはセミフィニシュトレンズ(片面のみ最終処方面をもつ)であって、レンズ形状がアンカットまたはカット状態のレンズを意味するものとして使用する。
フレームについて、レンズの全周にリム(レンズ枠)が形成されたタイプのフレームをフルリムフレーム、レンズ端面が一部または全部露出しているタイプのフレームをリムレスフレームと定義し、すべてのフレームがこの定義のどちらかに含まれ、ゴーグルも含む意味で使用する。従って、リムバーを有し、レンズ端面に溝を形成し、その溝部にナイロンや合成樹脂、細線等で勘合、レンズ端面を保持するリムロンタイプはリムレスフレームである。更に、スポーツタイプやゴーグルタイプのフレームも上記のレンズ端面の露出状態により、上記定義にて区分して使用する。
【0009】
偏光レンズでは、上述の通り端面に偏光フィルムが露出していると、加工時の染色、ハードコート、研磨処理、洗浄等において、端面から水やアルカリ洗浄液が滲入し偏光フィルムの外周部が溶解し変質してしまう場合がある。同様の現象は、水泳用ゴーグルのようなウォータースポーツに使用されるアイウエアに備えられた偏光レンズにおいても発生し得る。
更に、偏光レンズがフレームに取り付けられた後であっても、フレームがリムレスフレームであると、先に記載したようにリムのない部分で偏光フィルムが露出するため、同様の現象が発生し得る。従って、通常、偏光レンズを備えた眼鏡やサングラスでは、フレームデザインとしてフルリムタイプを選択する。即ち、偏光レンズ用のフレームデザインには、暗黙の制約があった。
【0010】
一方、フルリムタイプのフレームであっても、例えば眼鏡を水中に落下させてしまった場合等には、フレームと偏光レンズ端面とのわずかな隙間から水が滲入し、偏光フィルムの外周部が溶解し変質してしまうことがある。この点に関連し、特許文献3には、偏光レンズの外周部にリング状のシール部材を嵌め込むことが開示されている。ただし偏光レンズ端面とシール部材との密着が不十分な場合には、偏光レンズ端面とシール部材とのわずかな隙間から水が滲入し、偏光フィルムの外周部が溶解し変質してしまう。
【0011】
そこで本発明の目的は、偏光フィルムの変質が抑制された偏光レンズを提供することにある。
【0012】
偏光フィルムとしては、通常、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」とも記載する。)にヨウ素または二色性色素を含浸させたものをフィルム状に成形して一軸方向に延伸したフィルムが使用される。PVAは、透明性、耐熱性、ヨウ素や二色性色素との親和性、延伸時の配向性のいずれもが優れるため、フィルム材料として好ましいからである。本発明および以下の本明細書では、ヨウ素および二色性色素からなる群から選択される色素成分を含み、偏光性を示すポリビニルアルコールフィルムを、「偏光ポリビニルアルコールフィルム」というものとする。
本発明者らは上記目的を達成するために検討を重ねる中で、フィルムを構成するPVAは水酸基を有し親水性が高い樹脂である点に着目した。そして更なる鋭意検討を重ねた結果、偏光ポリビニルアルコールフィルムのレンズ端面に露出する領域を疎水化することにより偏光ポリビニルアルコールフィルムの外周部に水等が滲入することを防ぐことができ、これにより偏光ポリビニルアルコールフィルムの変質を防ぐことが可能になることを新たに見出した。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0013】
本発明の一態様は、
偏光ポリビニルアルコールフィルムが2枚のレンズ基材間に配置された偏光レンズであって、
前記偏光ポリビニルアルコールフィルムは、端面を含む外周部の少なくとも一部の領域に、該領域以外の他の領域より疎水性の高い疎水化領域を有し、
前記疎水化領域が、レンズ端面の少なくとも一部に露出している偏光レンズ、
に関する。
【0014】
一態様では、前記疎水化領域は、前記少なくとも一部の領域において、該領域に含まれるポリビニルアルコールが有する水酸基が、水酸基と反応性を有する官能基と反応することにより形成された領域である。
【0015】
一態様では、前記反応は、架橋反応、脱水反応およびハロゲン化からなる群から選択される反応である。
【0016】
一態様では、前記反応は、ポリビニルアルコールと架橋剤との架橋反応である。更なる一態様では、前記架橋剤はアルデヒドであり、前記架橋反応はアセタール化である。
【0017】
本発明の更なる態様は、フレームおよび該フレームに取り付けられた上記レンズを含むアイウエアに関する。
【0018】
一態様では、上記アイウエアは、眼鏡である。
【0019】
本発明の更なる態様は、
偏光ポリビニルアルコールフィルムが2枚のレンズ基材間に配置され、かつレンズ端面の少なくとも一部に偏光ポリビニルアルコールフィルムを露出した偏光レンズを作製すること、および、
前記レンズ端面に露出した偏光ポリビニルアルコールフィルムに疎水化処理を施すこと、
を含む偏光レンズの製造方法、
に関する。
【0020】
一態様では、前記疎水化処理は、前記レンズ端面に露出した偏光ポリビニルアルコールフィルムに、水酸基と反応性を有する官能基を含む疎水化剤を接触させることにより行われる。
【0021】
一態様では、前記疎水化剤は、ポリビニルアルコールと、架橋反応、脱水反応およびハロゲン化からなる群から選択される反応を起こし得る化合物である。
【0022】
一態様では、前記疎水化剤は、ポリビニルアルコールと架橋反応し得る架橋剤である。更なる一態様では、前記架橋剤はアルデヒドであり、前記架橋反応はアセタール化である。
【0023】
一態様では、上述の偏光レンズの製造方法は、偏光レンズを、後述する注型重合法(キャスティング法)により成形する工程を含む。更なる一態様では、この工程において、成形型内に配置される偏光ポリビニルアルコールフィルムは、曲面状に変形させる曲面加工が施されたものである。
【0024】
一態様では、上述の曲面加工された偏光ポリビニルアルコールフィルムは、105℃以上150℃未満の加熱温度で加熱する加熱処理を施した後、成形型内に配置される。このように曲面加工後に上述の範囲の加熱温度で加熱処理を施すことは、以下の点から好ましい。
注型重合法により作製された偏光レンズにおいては、レンズが変形することにより非点収差(astigmatism)が生じることがある。これは、製造工程中の加熱により、レンズ内部に埋設された偏光フィルムが変形し、この変形の影響を受け、レンズ表面形状が変化することによるものである。非点収差が生じた眼鏡レンズを通して物体を観察する眼鏡装用者は、非点収差に起因する装用感不良(像のぼやけ等)を感じることとなる。そのため、良好な装用感を有する眼鏡レンズを提供するためには、非点収差を防止ないし低減すべきである。
一方、上記一態様にかかる偏光レンズの製造方法では、曲面加工後の偏光フィルムを、成形型内部に配置する前に、105℃以上150℃未満の加熱温度で加熱する。このように加熱することで、曲面加工された偏光フィルムは、成形型内部に配置される前に予め変形(収縮)し、その後の工程では、レンズ表面形状を変形させるような収縮を起こさないか、または収縮の程度は小さいと考えられる。これにより、収差の少ない偏光レンズの提供が可能となる。
【0025】
一態様では、上記製造方法は、曲面加工前の偏光フィルムを湿潤させることを含む。
【0026】
一態様では、上記製造方法では、曲面加工前の偏光フィルムを、加熱下で湿潤させ、次いで冷却した後に曲面加工を行う。
【0027】
一態様では、上記冷却は、湿潤させた偏光フィルムを室温に放置することにより行われる。
【0028】
本発明によれば、外周部の変質が低減ないし防止された、高品質な偏光フィルムを備えた偏光レンズを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の一態様は、
偏光ポリビニルアルコールフィルムが2枚のレンズ基材間に配置された偏光レンズであって、前記偏光ポリビニルアルコールフィルムは、端面を含む外周部の少なくとも一部の領域に、該領域以外の他の領域より疎水性の高い疎水化領域を有し、前記疎水化領域が、レンズ端面の少なくとも一部に露出している偏光レンズ、
に関する。以下、上記偏光レンズについて、更に詳細に説明する。
【0031】
(レンズ基材)
レンズ基材としては、特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂、チオウレタン系樹脂、チオエポキシ系樹脂、メタクリル系樹脂、アリル系樹脂、エピスルフィド系樹脂、ポリカーボネート樹脂等のプラスチック製のレンズ基材を例示することができる。レンズの成形法としては、注型重合法、射出成形法を挙げることができ、注型重合法が好ましい。いずれの成形法でも、レンズ基材間に偏光ポリビニルアルコールフィルム(または後述するように、このフィルムを含む積層フィルム)が挟み込まれるように成形を行う。例えば注型重合法によるレンズの成形では、偏光ポリビニルアルコールフィルムを成形型内に配置した後、レンズ原料液の重合反応を行う。ここで成形型内に配置される偏光フィルムの好ましい態様としては、以下に記載の曲面加工を施した偏光フィルムが挙げられ、曲面加工後に上述の範囲の加熱温度で加熱処理を施した偏光フィルムがより好ましい。
【0032】
(偏光フィルム)
上記偏光レンズは、偏光ポリビニルアルコールフィルムが2枚のレンズ基材間に配置された偏光レンズである。このように、2枚のレンズ基材間に偏光フィルムが挟み込まれ偏光フィルムが埋設されている偏光レンズは、好ましくは、成形型内に偏光フィルムを配置して行われる注型重合法により得ることができる。詳細は後述する。
【0033】
上記偏光レンズに含まれる偏光フィルムは、偏光ポリビニルアルコールフィルムであって、先に記載した通り、通常、ヨウ素または二色性色素を含むポリビニルアルコールフィルムを延伸することにより作製される。なお偏光ポリビニルアルコールフィルムは、このフィルム一層のみで偏光フィルムとして用いてもよく、他の層が積層された多層の積層フィルムとして用いてもよい。多層フィルムを構成可能なフィルムの一例としては、トリアセチルセルロース(TAC)フィルムを挙げることができる。TACフィルムは、保護層として機能し得る。例えばTACフィルムを偏光ポリビニルアルコールフィルムの片面または両面に設けた二層または三層の積層フィルムを、偏光フィルムとして用いることも可能である。以下において、偏光ポリビニルアルコールフィルム、またはこのフィルムを含む積層フィルムを、偏光フィルムと呼ぶことがある。
以上のフィルムは、市販品を用いることができ、または公知の方法で作製することができる。
【0034】
偏光フィルムの厚さは、特に限定されるものではない。好ましくは、後述するフィルムの曲面加工が容易に行われ得る厚さに設定する。例えば、単層または多層構成の偏光フィルムは、厚さ10μm〜500μm程度が好ましい。厚さが10μm以上であれば、剛性が強く、取り扱いが容易であり、500μm以下であれば、フィルムの曲面加工が容易だからである。
【0035】
上記偏光レンズでは、偏光ポリビニルアルコールフィルムは、このフィルムのみで、または上述の通り積層フィルムとして、2枚のレンズ基材間に挟み込まれている。更に、レンズ端面の少なくとも一部に、偏光ポリビニルアルコールフィルムの端面、または端面を含む外周部の少なくとも一部が露出している。通常、このように偏光ポリビニルアルコールフィルムの一部が露出している偏光レンズは、水やアルカリ洗浄液による変質が起こるのに対し、上記偏光レンズでは、露出した領域の少なくとも一部、好ましくは露出した全領域が疎水化されているため、変質を抑制することができる。
【0036】
疎水化処理は、ポリビニルアルコールを疎水化できる処理であれば、何ら制限なく用いることができる。具体的態様の1つは、ポリビニルアルコールに親水性をもたらしている水酸基を、水酸基と反応性を有する官能基と反応させる処理(以下、「処理1」と記載する。)である。これにより、処理された領域は、水酸基含有率が未処理の領域よりも低くなり疎水化される。他の具体的態様としては、撥水剤を偏光ポリビニルアルコールが露出した部分を含むレンズ端面に塗布する処理(以下、「処理2」と記載する。)が挙げられる。
以上の処理1、処理2は、レンズ端面を含む領域に対して行われるため、以下において、「端面処理」とも記載する。以下、各処理について、更に詳細に説明する。
【0037】
処理1による疎水化処理
処理1は、ポリビニルアルコールフィルムを構成するポリビニルアルコールの水酸基を、水酸基と反応性を有する官能基と反応させる処理である。水酸基と反応性を有する官能基を含む化合物(以下、「疎水化剤」と記載する。)をレンズ端面に露出した偏光ポリビニルアルコールフィルムと接触させることにより、ポリビニルアルコールと疎水化剤の官能基とを反応させることができる。例えば、疎水化剤を、溶媒と、必要に応じて反応触媒等の添加剤と混合し溶液(疎水化剤溶液)として、疎水化剤溶液にレンズ端面を浸漬するかレンズ全体を浸漬する方法、疎水化剤溶液を公知の塗布方法によりレンズ端面に塗布する方法等により、レンズ端面に露出したポリビニルアルコールフィルムを疎水化剤と接触させることができる。塗布装置の好ましい一例としては、特許第5149809号に詳述されているコーティング液塗布具を挙げることができる。また、レンズの一部または全体を疎水化剤溶液に浸漬すると疎水化剤溶液の溶媒によりレンズ光学面が変質する可能性がある場合には、レンズ光学面を保護フィルム(アルミ箔等)などでシールした後に浸漬を行うことが好ましい。疎水化剤溶液が水溶液の場合には、通常、シールなしで処理可能である。
【0038】
偏光ポリビニルアルコールフィルムの親水性には水酸基が寄与している。従って、ポリビニルアルコールの水酸基を他の官能基と反応させれば偏光ポリビニルアルコールフィルムを部分的に疎水化することができ、これにより偏光ポリビニルアルコールフィルムのレンズ端面に露出した部分、またはこの部分を含む外周部に疎水化領域を形成することができる。ポリビニルアルコールが有する水酸基と他の官能基との反応の好ましい具体的態様としては、架橋反応、脱水反応、ハロゲン化等を挙げることができる。以下、各反応について更に記載するが、本発明は具体的態様に限定されるものではない。なお脱水反応には、脱水縮合反応も包含されるものとする。また、架橋反応には、脱水縮合反応により架橋構造が形成される態様も包含されるものとする。
【0039】
ポリビニルアルコールは、−[CH
2CH(OH)]n−(nは繰り返し単位数)で表されるポリマーであり、2つの水酸基(−OH)を架橋剤により架橋することで、ポリビニルアルコールの親水性を低下させ疎水化領域を形成することができる。例えば、架橋剤としてホルムアルデヒドHC(=O)Hを用いると、ホルムアルデヒドは2つの水酸基と脱水縮合反応し、ポリビニルアルコールの側鎖に−O−(CH
2)−O−の架橋構造を形成(アセタール化)する。いわゆる合成繊維ビニロンの合成反応として公知の反応である。アセタール化は、ホルムアルデヒドに限らず、アセトアルデヒド、グリオキザール、グルタルアルデヒド等のアルデヒドを用いて行うこともできる。または、メラミン・ホルマリン系樹脂架橋剤、尿素・ホルマリン系樹脂架橋剤、エポキシ系架橋剤等の公知の架橋剤を用いることも可能である。
【0040】
脱水反応としては、アルコールによる脱水(エーテル化)、シラノールによる脱水(シリルエーテル化)、カルボン酸による脱水(エステル化)等を挙げることができる。またハロゲン化は、ハロゲン化水素(例えばHBr)等の公知のハロゲン化剤を用いて行うことができる。
【0041】
以上の反応は、反応としては公知であり、各種反応条件、例えば反応温度、反応時間、疎水化剤の使用量、反応触媒、酸、塩基等の任意に使用される反応試薬や添加剤の使用量等は、公知技術に基づき決定することができる。例えば一例としてアセタール化は、酸触媒の存在下、40〜100℃の液温の疎水化剤(架橋剤)溶液に、10分〜1時間程度、偏光レンズを浸漬することにより行うことができる。酸触媒としては、塩酸、硫酸等が通常使用されるが、特に限定されるものではない。架橋剤によっては塩基触媒存在下で反応が進行する場合もある。また脱水は、通常、酸性条件下で行われる。酸性条件下での疎水化処理が行われた後、任意に、塩基を使用し中和処理を行ってもよい。また逆に、塩基性条件で疎水化処理が行われた後には、任意に、酸を使用し中和処理を行ってもよい。
【0042】
以上の処理1により形成される疎水化領域は、2枚のレンズ基材間に挟み込まれた偏光ポリビニルアルコールフィルムの、レンズ端面に露出した部分のみに形成されていてもよく、疎水化剤溶液の滲入により、露出した部分から所定幅フィルム内部に向かう外周部に形成されていてもよい。フィルムが2枚のレンズ基材に挟まれているため、疎水化剤溶液の滲入をフィルム外周部で留めることができる。レンズ端面に露出している部分が疎水化されていれば、フィルムへの水等の滲入を防ぐことができるため、疎水化領域のフィルム端部からの幅は特に限定されるものではない。
【0043】
処理2による疎水化処理
処理2は、偏光ポリビニルアルコールフィルムが露出した部分を含むレンズ端面に撥水剤を塗布する処理である。撥水剤は、必要に応じて希釈溶媒により希釈し塗布液として用いることができる。処理2によれば、レンズ端面に露出した偏光ポリビニルアルコールフィルムは、撥水性コーティングにより保護され疎水化される。撥水剤の塗布は、レンズ端面の少なくとも偏光ポリビニルアルコールフィルムが露出した部分に行えばよいが、当該部分を含むレンズ端面全面に塗布を行うことも、もちろん可能である。
【0044】
撥水剤としては、公知の撥水剤を何ら制限なく使用することができる。一例としては、含フッ素ポリマーまたは含フッ素ポリマーを形成可能な重合性化合物(モノマー、オリゴマー、プレポリマー等、例えばパーフルオロアルキルアクリラート)を挙げることができる。撥水剤として重合性化合物を用いる場合には、通常、撥水剤塗布液に重合性化合物の種類に応じた重合開始剤を添加し、撥水剤の塗布後、重合性化合物の種類に応じた硬化処理(加熱、光照射等)を行う。また、塗布液に、所望の機能に応じた添加剤を任意に添加することもできる。例えば塗布液に紫外線吸収剤を添加することで、水等により偏光ポリビニルアルコールフィルム外周部が変質することを防止することに加え、レンズ端面が紫外線により劣化することを防ぐ機能も有するコーティングを、レンズ端面に設けることもできる。紫外線吸収剤も含む塗布液は、例えば、特許第5149809号明細書の記載を参照し調製することができる。
【0045】
また、処理2により形成される撥水性コーティングとレンズ端面との密着性向上のために、公知のプライマー(接着層)を、処理2による疎水化処理前に、レンズ端面に設けてもよい。更には、撥水性コーティング上に、アクリル系コーティング等の保護層を設けることも可能である。また、上記保護層は、処理1が施された偏光レンズ端面に設けることもできる。
【0046】
前述の通り、アイウエアのフレームとしては、フルリムタイプのものと、リムレスタイプのものがある。偏光レンズがリムレスフレームに取り付けられたアイウエアでは、偏光レンズ端面がリムのない部分で露出するため、水等の滲入による変質が生じやすい。これに対し、上記の疎水化処理が施されたレンズは、リムによる保護がない状態であっても、疎水化領域が存在することにより、水等の滲入による変質を抑制することができる。
以下、本発明の一態様にかかる偏光レンズがリムレスフレームに取り付けられた眼鏡の具体的態様について、図面を参照し説明する。ただし本発明は、下記具体的態様に限定されるものではない。
【0047】
図1は、本発明の一態様にかかる偏光レンズ1を備えたツーポイントタイプのリムレス眼鏡2の左枠の正面図であり、
図2は
図1に示す偏光レンズ1の端面の状態を説明する斜視図であり、
図3は
図1のA−A’線の断面図である。
【0048】
図1、
図2および
図3において、本発明の一態様にかかる偏光レンズ1が装着されたツーポイントフレームは、一般的な構造のツーポイントフレームである。テンプル(図示せず)およびパッド3により、レンズ光軸と瞳孔中心位置の視野がずれないように眼鏡を顔面(鼻部)および頭部(耳部)で支持する機能を有している。
【0049】
2つのレンズ止め4a,4bは、それぞれレンズを保持し、ブリッジ5および丁番6に連結するための連結部品である。偏光レンズ1の保持は、レンズの光学面の表裏方向から穴を空け、ねじ(図示せず)を介してレンズ止め4a,4bで固着するようになっている。これらレンズ止め4a,4bのレンズ保持側の一方の他端は、それぞれブリッジ5と丁番6に連結されている。ブリッジ5は、左右のレンズを連結する部品である。丁番6は、テンプルを連結するための部品であり、テンプルを開閉する機能も有している。また、フレームの構造は左右対称である。
【0050】
図2に示すように、本発明の一態様にかかる偏光レンズ1は、レンズ内部に偏光フィルム7が挟みこまれた構造となっている。一例として、レンズは注型重合法(キャスティング法)により成形されたジエチレングリコールビスアリルカーボネート製のプラスチックレンズであり、レンズ度数は1.00ジオプトリーである。
【0051】
この偏光レンズ1に使用されている偏光フィルム7は、偏光ポリビニルアルコールフィルムであり、偏光フィルム7の外周部領域(外周端面を含む)には、内部領域71と異なり、ポリビニルアルコールの水酸基が他の官能基と反応した疎水化領域72が形成されている。この疎水化領域72は、上記の反応により内部領域71よりも水酸基含有率が低下しているため、内部領域71より疎水性の高い領域となっている。好ましい一例として、疎水化領域72は、ポリビニルアルコールがアルデヒドによりアセタール化した領域である。また、一態様では、偏光フィルム7は、注型重合法による成形前に、偏光レンズ1の凸面部101の凸面カーブと近似させる曲面加工が施されている。(後述する
図9参照)。
【0052】
更に、偏光レンズ1は、光学面にハードコート、反射防止膜の形成等の表面処理が施され、装用者の選択した眼鏡フレームの所定の玉型形状にカット(縁摺り加工)されている。また、レンズ端面部103で露出している偏光フィルム7の外周部端面102は疎水化処理が施され、レンズ端面部103のその他の部分は、透明で鏡面加工されている。このレンズ端面部103で露出している偏光フィルム7の外周部端面102は、先に記載した疎水化処理(端面処理)が施されている。
【0053】
他の具体的態様として、
図4、
図5、
図6は、一般的なリムロンフレームに本発明の一態様にかかる偏光レンズを装着したリムロン眼鏡8の説明図である。
【0054】
リムロンフレーム9のツーポイントフレームと異なる点は、リムバー10およびレンズ支持部材11から構成されるレンズの保持構造である。
レンズ端面の全周にわたり設けられた勘合溝にはめ込まれたレンズ支持部材11(例えば、ナイロン製糸や金属細線)によりレンズ1を保持し、眉部に位置するリムバー10により支持部材11を係止し、リムバー10により偏光レンズ1を吊下する構造となっている。リムバー10は、レンズの眉部に対応する上方部にリムが形成され、図示しないレンズ支持部材を固定する係止部が配設され、一端はブリッジ51、他端は丁番61に接続されている。
【0055】
図6に示すように、
図1で説明した端面処理された偏光レンズの端面部に、更に、後加工として、溝掘り加工が施され、形成された溝にレンズ支持部材11が勘合されている。偏光レンズ
1内部の偏光フィルム7は、前述のツーポイントタイプのリムレス眼鏡2に含まれる偏光フィルムと同様に疎水化処理がなされているため、外周部領域に、内部領域71より疎水性の高い疎水化領域72を有する。その他、レンズの構成は先に記載した具体的態様と同様である。一例として、本態様では、偏光レンズは、レンズの度数は0.00ジオプトリーで処方値を有さないサングラスタイプの偏光レンズである。
【0056】
以上、本発明の一態様にかかる偏光レンズをリムレスフレームに取り付けた態様について説明したが、本発明の一態様にかかる偏光レンズを、フルリムフレームに取り付けて眼鏡等のアイウエアを作製することも、もちろん可能である。
【0057】
図7は、一般的なフルリムフレームに本発明の一態様にかかる偏光レンズを装着したフルリム眼鏡80の説明図である。フルリム眼鏡80は、フルリムフレーム81に、偏光レンズ1が枠入れされている。フルリム眼鏡80では、偏光レンズ1の端面とフルリムフレーム81との間のわずかな隙間から水等が滲入したとしても、上記の疎水化処理が施されたレンズは、疎水化領域が存在することにより、水等の滲入による変質を抑制することができる。
【0058】
また、本発明の一態様にかかる偏光レンズを備えたアイウエアは、水泳用ゴーグル等のウォータースポーツ用アイウエアとしても好適である。水中での使用時に、偏光レンズの端面とフレームとのわずかな隙間から水が滲入したとしても、上記の通り変質を抑制することができる。また、本発明の一態様にかかる偏光レンズを備えたアイウエアでは、特許文献3に記載されているように偏光レンズの外周部にリング状のシール部材を嵌め込むことも可能である。偏光レンズ端面とシール部材との密着が不十分な場合であっても、上記の疎水化処理が施されたレンズは、疎水化領域が存在することにより、水等の滲入による変質を抑制することができる。
【0059】
(偏光フィルムの曲面加工)
次に、本発明の一態様にかかる偏光レンズの製造方法において好適に実施され得る偏光フィルムの曲面加工について説明する。
【0060】
偏光フィルムを挟み込む2枚のレンズ基材は、一方が物体側の面(凸面)を有し、他方が眼球側の面(凹面)を有する。偏光フィルムを曲面加工した後に成形型内に配置することで、レンズの曲面形状に沿って、偏光フィルムを2枚のレンズ基材間に埋設させることができる。好ましくは、偏光フィルムを上型モールドの成形面形状(凹面形状)に対応させてプレス成形法にて曲面加工する。
例えば、温度調整手段(ヒ−ター、冷却媒体等)と加圧手段とを備え、雄型と雌型とが一対となった成形型(母型)を有するプレス成形装置に、平面シートの偏光フィルムを挟み込んで、押圧して、偏光フィルムを成形型面の形状に曲面加工する。雄型、雌型としては、成形面が球面のものを用いることが好ましい。球面であって複雑な形状でないので、特別なプレス装置を必要とせず、通常のプレス成形装置を使用でき、カービングが容易である。
【0061】
図8(A)は、雄型部の曲面加工台を示す図である。符号110は平面状のフィルム部材、符号160は曲面加工台である。曲面加工台160は、耐熱性を有するセラミック製の加工基台部160aと球面のガラス型である母型部161(161a,161b)とから構成されている。
母型部161の湾曲面の曲率は、製造されるレンズの凸面側屈折面のベースカーブに応じて設定されている。
この雄型の母型部に、偏光ポリビニルアルコールフィルムを長方形形状にカットした平板状のフィルム部材110を載置させ、図示しない雌型の母型部を有するプレス手段で、例えば室温(20〜25℃程度)にてプレスすることで、湾曲面112a、112bの形状を偏光フィルムに転写し、曲面114a、114bを有する偏光フィルムを得ることができる。
【0062】
曲面加工を行う前には、偏光フィルムを湿潤させることが好ましく、これにより、母型部
からの形状転写性が向上する。湿潤処理は、例えば、恒湿高温装置に偏光フィルムを所定時間放置する、水をミスト状にして偏光フィルムに噴霧する、等の方法で行うことができる。湿潤は、50〜90℃程度の加熱雰囲気中で行うことができる。
【0063】
湿潤させた偏光フィルムは、吸水した水の多くがフィルムに保持された状態で曲面加工するために、冷却することが好ましい。例えば、恒湿高温装置から取り出した偏光フィルムを、そのまま室温(20〜25℃程度)に放置することで、偏光フィルムを冷却する。
【0064】
そして、好ましい一態様では、曲面加工された偏光フィルムを105℃以上150℃未満の加熱温度で加熱する。なお曲面加工された偏光フィルムについての加熱温度とは、加熱処理を行う雰囲気の温度をいうものとする。曲面加工された偏光フィルムを、成形型内に配置する前に加熱することにより、偏光フィルムの変形を防ぐことができ、その結果、偏光レンズの表面、特に、物体側表面が変形することを防ぐことができる。ここで、加熱温度を105℃以上とすることで、変形を良好に防ぐことができ、150℃未満とすることで、偏光フィルムに変色や歪みが発生することを防ぐことができる。加熱温度は、好ましくは120℃以上、また好ましくは130℃以下である。上記の加熱処理は、大気中で行うことができる。
【0065】
加熱方法としては、種々の方法が採用できるが、一実施態様では、上記温度に加熱した熱風循環式オーブンに偏光フィルムを載置し、熱風を当て、偏光フィルムが十分に収縮するまで加熱を行う。
そして、
図8(B)に示すようにフィルム部材110を曲面加工したら、好ましくは、ガラス型160とフィルム部材110とを分離せずに、そのまま加熱を行う。すなわち、曲面加工された偏光フィルム(フィルム部材110)を、ガラス型160の曲面161で保持して加熱する。1軸延伸された偏光フィルムは方向によって収縮の程度が異なるので、湾曲面の形状が、設定した形状から変化してしまう場合がある。これに対し、ガラス型160の曲面161で保持すれば、フィルム部材110をガラス型160の曲面161の形状に沿って収縮させることができるので、ガラス型160を用いずに加熱する場合よりも、湾曲面112の曲率や形状をより精度良く成形できる。
【0066】
次に、
図8(C)に示すように、フィルム部材110を、図の破線Kに沿ってカットする。こうして、
図9に断面図を示すように、凸形状を有するように曲面加工された偏光フィルム7を得ることができる。
【0067】
以上説明した曲面加工が施された偏光フィルムを成形型内に配置しキャスティング法によりレンズを成形することにより、2枚のレンズ基材に曲面加工された偏光フィルムが挟み込まれた偏光レンズを得ることができる。この偏光レンズは、通常、表面処理、縁摺り加工の後、前述の疎水化処理が施される。疎水化処理後、枠入れすることで、以上説明した偏光レンズを備えた眼鏡、サングラスを得ることができる。
【0068】
また、他の一態様では、偏光フィルム外周部の変質をより一層抑制するために、疎水化処理後のレンズ端面に、保護部を設けることもできる。そのような保護部を設けた偏光レンズの具体的態様(断面図)を、
図10、
図11に示す。
【0069】
図10、
図11に示す保護部は、偏光レンズ端面の偏光フィルムが露出している部分に形成された溝部にはめ込まれている。
図10に示す保護部301は、溝部302に嵌合する嵌合部を偏光レンズ端面の全周にわたり被覆させた被覆部を備えている。被覆部は、端面の幅と略同じ幅に設けられる。さらに、保護部301は溝部に嵌合されているので、ずれてしまうことがなく、偏光フィルムを確実に覆い、保護することができる。
図10に示すように、保護部301は、偏光レンズの物体側の面および眼球側の面には設けられていないため、眼鏡の外観を損なうことはない。
図11に示す保護部401は、溝部402に嵌合する嵌合部が偏光レンズ端面から突出することなく設けられている。このように嵌合部を設ければ、レンズの外周形状が変わらないので、保護部により眼鏡の外観が変化することがない。
【0070】
保護部の材料としては、アクリル樹脂、チオウレタン系樹脂、チオエポキシ系樹脂、メタクリル系樹脂、アリル系樹脂、エピスルフィド系樹脂、ポリカーボネート樹脂等、レンズ基材に用いることができる材料やシリコーン樹脂を用いることができる。保護部をレンズ基材と同じ材料で構成すれば、レンズ基材と保護部とを一体とすることでき、保護部を目立たなくすることができる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例に基づき更に説明する。ただし本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0072】
[実施例1]
図12に、実施例における偏光レンズの製造フローの説明図を示す。偏光フィルムには、成形型内に配置される前に曲面加工が施される。その詳細は、先に記載した通りである。母型部161の湾曲面の曲率は、製造されるレンズの凸面側屈折面のベースカーブ(6ベース)に応じて設定した。
【0073】
レンズ成形法としては、キャスティング法を用いた。キャスティング法は、
図13に示すように、上型モールド201と、下型モールド202と、上下のモールド間の距離を調整し、レンズ厚を決定するシール部材203とにより形成されるキャビティ204内で、レンズモノマーを重合硬化させた後、離型してレンズを取り出す成形法である。符号205は、バネ等の弾性体からなるクランプ部材であり、上下モールドを挟持して固定する。また、上型モールド201と、下型モールド202、シール部材203、クランプ部材205とでキャビティ204が形成された状態をモールド成形鋳型という。
【0074】
(モールド成形鋳型の組立)
キャスティング法に用いる成形型(モールド成形鋳型)は、以下のように組み付けた。
まず、ガスケット203の偏光フィルム装着部に曲面加工された偏光フィルム7を保持し、偏光フィルム付きのガスケット203を準備した。
次に、ガスケット内で、上型モールド201と下型モールド202との距離が所定のキャビティを形成するように、上型モールド201を、偏光フィルムの凸面側に対向させ配置し、下型モールド202を、偏光フィルム7の凹面側に対向させ配置した。キャビティの形成では、レンズモノマー(レンズ原料液)の重合収縮等の材質特性を考慮し、結果として、レンズ設計に基づく所定のレンズ厚が充足されるように、上下型モールドの間隔を設定した。
【0075】
(モノマーの注入、加熱・硬化、離型)
組み立てた成形型に、レンズモノマーを攪拌、真空脱泡した後に注入した。その後、成形型を加熱炉(大気重合炉)に配置し、加熱炉内で、30℃から120℃まで21時間かけて昇温し、レンズモノマーを加熱硬化させた。
加熱硬化後、成形型を加熱炉より取り出し、ガスケット203を剥離し、上型モールド201および下型モールド202からレンズを離型させて、
図14に示す偏光レンズを得た。離型して取り出されたレンズには、2枚のレンズ基材間に偏光フィルム7が挟み込まれている。得られたレンズは、屈折率1.67、アッベ数32のポリウレタン製レンズ基材に偏光フィルムが挟み込まれた偏光レンズであり、レンズ度数は1.00ディオプターである。
【0076】
(表面処理)
表面処理として、以下の方法により、ハードコートおよび反射防止膜の形成を行った。
有機珪素化合物をマトリック成分としてコロイダルシリカを含んだコーティング液を用いて浸漬法にて、前記偏光レンズ7にハードコート処理を行った。引き上げ速度は、26cm/minとした。塗布後80℃で20分間風乾した後130℃で120分間焼成を行った。このようにして得られた硬化被膜の厚みは約2μmであった。
次に、ハードコート処理を施した偏光レンズ7に、レンズ基材から大気に向かって順に、SiO
2、ZrO
2、SiO
2、ZrO
2、SiO
2の5層からなる反射防止多層膜を真空蒸着法にて形成した。
各層の光学的膜厚は、最初のSiO
2層、次のZrO
2とSiO
2の等価膜層および次のZrO
2層、最上層のSiO
2層がそれぞれλ/4となるように形成した。なお、設計波長λは520nmとした。
【0077】
(縁摺り加工)
次に、上記の表面処理が施された円形形状のレンズを指定された眼鏡フレーム(
図1)の玉型形状に合致するように、玉型加工装置(HOYA製GE−5000)を使用して縁摺り加工を行い、カットレンズを得た。
【0078】
(疎水化処理(端面処理))
縁摺り加工後の偏光レンズ全体を浸漬したホルムアルドヒド水溶液(濃度7質量%)60mlへ32質量%塩酸を12ml添加し、70℃で20分間放置した。ここで任意に、水溶液を撹拌してもよい。塩酸の添加によりアセタール化が開始され、レンズ端面に露出している部分から、ポリビニルアルコールのアセタール化が進行する。
その後、ホルムアルデヒド水溶液から取り出した偏光レンズを水酸化ナトリウム水溶液で中和し、純水で洗浄した。こうして、レンズ端面において、疎水化(アセタール化)された偏光ポリビニルアルコールフィルム端面が露出した領域を有し、その他の領域には透明な研磨加工が施された領域を有する偏光レンズを得た。
【0079】
[比較例1]
疎水化処理を行わなかった点以外、実施例1と同様の工程により、偏光レンズを得た。
【0080】
[実施例2]
レンズモノマーとして、屈折率1.60、アッベ数42の市販のポリウレタン製レンズ基材を形成可能なモノマーを使用した点以外、実施例1と同様の工程により、偏光レンズを得た。
【0081】
[比較例2]
疎水化処理を行わなかった点以外、実施例2と同様の工程により、偏光レンズを得た。
【0082】
(耐水性試験)
水温が90℃に設定された恒温水槽中に、実施例、比較例で作製した偏光レンズを浸漬させ、一定時間ごとにレンズを引き上げて変化を観察した。耐水性が不十分な場合、偏光フィルムが脱色されて変色が生じる。さらに水の滲入が進行すると、偏光フィルムが恒温水槽中に溶け出す。このように水の滲入が観察された場合については、マイクロスコープを使用して、レンズの端縁から中心部に向けて変化した部分の寸法(変質幅)をミリ単位で計測した。結果を表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
表1の結果から、偏光ポリビニルアルコールフィルムのレンズ端面に露出した部分がアセタール化された実施例1、実施例2は、当該部分が疎水化されているため、水の滲入による変質が抑制されていることが確認できる。
また、
図15は、耐水性試験(24時間)後の実施例1で作製した偏光レンズの一部を切り出しデジタルカメラで撮影した写真である。
図16は、耐水性試験(24時間)後の
比較例1で作製した偏光レンズの一部を切り出しデジタルカメラで撮影した写真である。
図15に示すように、実施例1で作製した偏光レンズは、24時間の耐水性試験後も均質である。これに対し
図16に示すように、比較例1で作製した偏光レンズは、24時間の耐水性試験後、レンズ外周部で偏光フィルムが脱色されて変色が生じている。
以上の通り、本発明によれば、レンズ端面に偏光ポリビニルアルコールフィルムが露出している偏光レンズにおいて、露出した部分から水が滲入しフィルムが変質することを防ぐことができる。
【0085】
(枠入れ)
実施例1、実施例2の方法で作製した偏光レンズをツーポイントフレームに組み付けリムレス眼鏡を得た。
尚、レンズがセミフィニシュトレンズの場合は、離型後、凹面をカーブジェネレーターおよび研磨装置にて研削/研磨加工して、凹面を処方度数に合致させて、視力補正用眼鏡レンズとする。
【0086】
曲面加工後の偏光フィルム加熱温度に関する検討
<サンプルレンズ1の作製>
1.偏光フィルムの湿潤処理、曲面加工、その後の加熱処理
市販のPVA製二色染料系の偏光フィルムを、恒湿高温装置内に配置し湿潤処理し、曲面加工開始時の含水率が約4%となるよう湿潤させた。湿潤させた偏光フィルムを、室温(20〜25℃)に2分程度放置した後、
図8に基づき説明した前述の方法により曲面加工した。曲面加工も、同様に室温で行った。
次いで、曲面加工した偏光フィルムを、市販の熱風循環式オーブンを用い、120℃で30分間加熱した。加熱は、曲面加工台(ガラス型)160を用いずに行った。
【0087】
2.注型重合法によるレンズの成形、離型
プラスチックレンズ原料として、m−キシレンジイソシアネートを50.6g、4,8−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン49.4gを混合し、十分に撹拌を行った。
そこに紫外線吸収剤として商標名「SEESORB701」(シプロ化成工業製)を1.2g、内部離型剤として商標名「MR用内部離型剤」(三井化学社製)を0.1g添加し、混合した後、十分に撹拌して、完全に分散または溶解させたプラスチックレンズ原料中に、触媒としてジブチル錫ジクロライドを100ppm添加し、室温で十分に撹拌して均一液とし、その組成物を5mmHgに減圧して攪拌しながら30分間脱気を行い、レンズモノマーを作製した。
上記1.の加熱処理後の偏光フィルムを内部に配置した成形型に、作製したレンズモノマーを注入した。上型モールドおよび下型モールドの表面形状は球面であり、内径は80mm、曲率半径は130.4mmであった。
その後、成形型を加熱炉に配置し、30℃で7時間保持し、その後30〜120℃まで10時間かけて昇温し、加熱硬化を行った。
加熱硬化後、成形型を加熱炉より取り出し、成形型からレンズを離型させて、レンズ(セミフィニッシュレンズ)を得た。このレンズの凹面をカーブジェネレーターおよび研磨装置にて研削/研磨加工することで、処方度数に合致した視力補正用眼鏡レンズを得ることができる。
【0088】
<レンズの光学性能の評価>
離型後のレンズ(円形のアンカットの状態)のレンズ変形を評価するために、以下の項目により、光学性能の評価を行った。尚、目視による検査は、レンズ検査業務3年以上の検査者により実施した。評価結果は表2に示す通りであった。
(1)形状変形
レンズの凸面幾何学中心位置(=光学中心)での最大曲率半径(mm)(Rmax)と最小曲率半径(mm)(Rmin)を曲率半径測定装置「FOCOVISON」(Automation&Robotics社製)で測定した。
最大曲率半径(mm)と最小曲率半径(mm)との曲率差(Rmax−Rmin)をレンズの変形(非点収差)の指標とし、以下の通り評価した。なお、レンズの凸面は球面設計であり、凸面幾何学中心とは、レンズを平面視でみた円の中心を通る垂線とレンズ凸面側との交点である。
曲率差が、0以上3mm未満:○(合格)、3mm以上4mm未満:△(やや変形がみられるが眼鏡装用上、支障なし、4mm以上:×(実用上、支障あり)
【0089】
(2)偏光フィルムの変色
レンズ中の偏光フィルム
7の変色の有無を目視にて確認した。
変色なし:○
色相が変わらない程度の変色が見られる:△
色相が明らかに異なる変色が見られる:×
【0090】
(3)偏光フィルムの歪み
レンズ中の偏光フィルムの歪み(面形状の変形)を目視(レンズ検査業務3年以上の検査者)にて確認した。
全く歪みが見られない:○
レンズの周縁部の一部に歪みが見られるが眼鏡装用上問題なし:△
一見して歪みが見られる:×
【0091】
・総合評価
レンズの変形、偏光フィルムの変色、偏光フィルムの歪みのいずれにも×判定がないものを○、×判定が1つでもあるものを×とした。全ての評価項目が○であるものを◎とした。
【0092】
<サンプルレンズ2〜5および参照レンズ1〜4>
表2に示す条件で、曲面加工した偏光フィルムの加熱を行った点以外は、サンプルレンズ1の作製と同様にして各種サンプルレンズおよび参照レンズを作製した。なお、参照レンズ1では、偏光フィルムを加熱しないで用いた。
【0093】
<サンプルレンズ6、7および参照レンズ5、6>
サンプルレンズ1の作製において、市販のPVA製二色染料系偏光フィルムの代わりに、TAC製保護膜をPVA製二色染料系偏光フィルムの両面に持つ市販の積層偏光フィルム(TAC/PVA)を用い、表2の条件で偏光フィルムの加熱を行った以外はサンプルレンズ1の作製と同様にして各種サンプルレンズおよび参照レンズを作製した。
【0094】
<サンプルレンズ8>
曲面加工に使用した曲面加工台160で偏光フィルムを保持して加熱を行った以外は、サンプルレンズ2の作製と同様にしてレンズを作製した。
【0095】
【表2】
【0096】
表2に示すように、曲面加工した偏光フィルムを105℃で加熱したサンプルレンズ4では、曲率半径差(Rmax−Rmin)は3.5mmであった。また、偏光フィルムを140℃で加熱したサンプルレンズ5および7においては、色相が変わらない程度の変色が見られたが、いずれのサンプルレンズも偏光レンズとして実用上、支障なく使用できるものであった。
また、120℃〜130℃で加熱することで、レンズの変形や偏光フィルムの変色がより少ない、光学性能および外観がより優れたレンズが得られることがわかった。
積層偏光フィルムを使用したサンプルレンズ6、7も同様の結果であったので、PVAフィルムに限らず他のフィルムにおいても、同様の条件で加熱した偏光フィルムを使用することで、レンズの形状変形を抑制できることがわかった。
【0097】
これに対して、参照レンズ1〜3および参照レンズ5では、曲率半径差(Rmax−Rmin)は4mm以上であり、レンズに大きな形状変形が生じている。参照レンズ1〜3および参照レンズ5は、いずれも、加熱温度が105℃未満であり、レンズ基材用の重合可能な組成物注入前の偏光フィルムの収縮が十分でなかったと考えられる。これにより、加熱硬化時に偏光フィルムが収縮し、レンズに変形が生じたと考えられる。
また、参照レンズ4および参照レンズ6では、偏光フィルムを150℃で加熱したため、レンズの変形は抑制できたが、偏光フィルムが変質し、変色が生じた。
【0098】
曲面加工台160を使用しなかったサンプルレンズ1〜7では偏光フィルムの形状にわずかながら歪みが生じたのに対し、曲面加工台160を使用したサンプルレンズ8では歪みが抑制されたより優れた光学性能を有するレンズが得られた。
したがって、曲面加工台160で偏光フィルムを保持して加熱することで、偏光フィルムの形状変形および歪みを好適に抑制でき、より外観の良好なレンズを得られることがわかった。
【0099】
以上の結果から、曲面加工後のレンズを所定温度で加熱することにより、非点収差の原因となるレンズ表面形状の変形の少ない偏光レンズの提供が可能になることが確認された。
【0100】
また、曲面加工された偏光フィルムを、曲面加工に用いた曲面加工台160で保持して加熱することで、偏光フィルムの曲面部161a(
図8参照)の形状が設定した形状から変化することを抑制できる。したがって、より外観の良好な偏光レンズを製造できる。
【0101】
以上説明した曲面加工と、先に詳述した疎水化処理とを組み合わせることで、偏光フィルム外周部の変質もレンズ表面形状の変形も抑制された、きわめて高品質な偏光レンズを得ることができる。