【実施例1】
【0040】
図1は、本発明の1実施例に係る立体映像化表示装置の構成を示す概念図である。
本実施例の立体映像化表示装置100は、
図1に太枠で示す、2次元映像受信部1、フレーム選択部2、多視点映像信号生成部3、立体映像表示部4で構成される。
また、本発明の立体映像化表示装置100は、
図1に細枠で示すフレーム同期部5を付帯してもよい。さらに、動きベクトル算定部6、奥行き量制御部7、奥行き量指示部8、2D/3D切替部9、立体化領域指定部10を備えることができる。
【0041】
2次元映像受信部1は、通常の2Dテレビ放送における放送波を受信する。受信した2D映像は、画像メモリに格納される。
フレーム選択部2は、画像メモリに格納されたフレーム列から表示対象の映像を記録した基準フレームを選択し、さらに基準フレームに対して適度な時間間隔をおいた参照フレームを選択する。
【0042】
図2は、フレーム選択の概念を説明する図面である。2D映像の動画を形成するフレーム列から基準フレームと参照フレームが所定数nのフレーム差をもって選択される。
基準フレームは、通常の2D映像で表示されるはずのフレームを選択したものである。参照フレームRとして、第i番目の基準フレームBに対してnフレーム分先行した第i−n番目のフレームが選択される。標準フレームBと参照フレームRから画素単位で映像中の部分の移動方向と移動を算出することにより動きベクトルとしての奥行き情報が算出される。
【0043】
フレーム差nは適宜に選択される数で、適当な奥行き知覚を得るために調整することができる。高速で運動する対象物に対してはフレーム差1であっても、適度な奥行き知覚を与えることができ、低速運動するものでも、たとえばフレーム差10など大きな値を選択することにより適度な奥行き知覚を与えることができる。ちなみに、フレーム差0とすれば、左右眼に同じ映像を与えて元の2D映像を視聴させることができる。
なお、基準フレームに先行するフレームから参照フレームを選択するのは、基準フレームを選択したときに直ちに多視点映像信号を生成する演算工程を実行できるようにするためであるが、時間的に余裕があるときには、基準フレームより遅延するフレームから選択してもよい。
【0044】
多視点映像信号生成部3は、選択された基準フレームと参照フレームの映像から各画素領域について奥行き情報を計算し、基準フレームの映像中の部分に対して参照フレームの映像中の対応部分を奥行き情報に合わせて配置して立体化映像となし、これに基づいてたとえばm個の各視点からの立体映像を形成することにより多視点映像信号とし、画像メモリを介して立体映像表示部4に供給する。
フレーム選択部2と多視点映像信号生成部3は、一体の高速演算処理装置で構成することができる。
【0045】
立体映像表示部4は、立体映像表示装置を一つ以上備え、サイドバイサイド映像やL/R映像の3D映像信号を用いて多視点映像を生成する機能を有する。本実施例の立体映像化表示装置100は、インテグラルフォトグラフィ方式、あるいはパララックスバリヤやレンチキュラーレンズなどを用いた裸眼用立体映像表示器4−1を利用して、水平方向に異なる視点から得られるm個の映像をそれぞれの視線の方向に放出するものを視聴者が観察して立体像を得るようにすることができる。
【0046】
裸眼用立体映像表示器4−1によれば、裸眼による長時間の視聴に耐え、より快適な映像鑑賞が可能である。これにより、視聴者の観察位置が表示装置の真正面に無くても、また水平方向に変動しても、正常な立体視が可能になる。また、視聴者の視聴位置または視対象物の動きに合わせた追随運動により異なる映像を得て、運動視差による立体視化がより円滑に行えるようになる。
なお、偏光方式やシャッター方式の立体メガネを用いて左右視差像を見るようにした、より簡便な方式の二眼式立体映像表示器4−2を使用することも可能である。
【0047】
立体映像表示部4が複数の立体映像表示器を備えるときは、視点映像選択部13をさらに備えて、多視点映像信号生成部3が立体映像表示器のそれぞれに対応する左右眼視差映像信号を生成するようにすると共に、その時々に選択された立体映像表示器に対応する左右眼視差映像信号を選択して立体映像表示部4に供給する。
【0048】
図3は、2D映像信号を用いて立体映像化する原理を説明する図面である。
2D映像を両眼で観察するとき、注目点Aが静止していれば、左右眼に同じ画像が供給されるので、観察者と映像の距離に基づいて左右眼の輻輳角θが決まる。
しかし、注目点Aが運動するときに、移動前の位置Aにおける対象物の映像を左眼に与え、所定時間後にたとえば左にずれた図中点線で示す位置A'の映像を右眼に与えると、網膜に写る像の位置に空間的ずれが生じて両眼視差が発生し、両眼で注目点を見込む視線が移動前の対象物を見るときより手前で交差するので、輻輳角θ'は移動前の位置Aを見込むときより大きくなって、対象物が手前側に近づき図中の位置A"にあるように見える。このように、移動前の映像を一方の眼に移動後の映像から算出される視点映像を他方の眼に与えることにより、映像に奥行き感覚が生じて立体化して見えるようになる。
この現象は、静止している対象物に対して撮像装置を移動させた場合にも同等に生じる。
【0049】
また、網膜上に写る対象物の映像が運動するとき、網膜上の対象物と注視点の映像の相対的な速度差に基づいて運動視差が生じる。運動視差により、たとえば高速移動する対象物はより近く、低速移動する対象物はより遠くにあることを認識する。しかし、速度差は相対的であるため奥行き知覚は不安定である。
なお、観察者あるいはカメラが注視点に対して移動して映像を形成する場合は、頭部の回転や眼球の回転などから生まれる注視点の追随運動と網膜上の相対的な速度差の合成が安定的な奥行き知覚を出現させ、奥行き知覚が安定化する。
【0050】
さらに、人の視覚システムは、先験的知識を活用することにより、注視点を中心にそれより近い物は早く移動し遠い物は遅く移動するとして対象を認識したり、先験的知識に反した事象が発生した場合もHollow Face錯視(熟知性要因)により先験事象と矛盾しないように修復して認識することができる。
このように視野の中で物の像が動くとき、視聴者に運動視差に基づく立体感を与えることができる。
【0051】
このように、人が映像から両眼視差により視取る立体感には、安定した奥行き量を感得することができる。
本実施例の立体映像化表示装置は、これら両眼視差や運動視差および先験的知識要因などの機構を加算的に複合することにより、人に適宜な立体感を持たせるようにしたものである。
【0052】
図4と
図5は、左右眼に別々に与える映像中で、被写体が変位する原因を例示する図面である。映像中の対象物の変位は、
図4に示すように、対象物自体の運動に基づく場合があり、また、
図5に示すように、静止する対象物に対してカメラの撮影アングルが変化する場合もある。
【0053】
図6は、動きベクトルに係る説明をする図面である。図では立体映像化の原理を説明するため、変位量を誇張してある。
たとえば、
図6に示すように、近づいてくる列車について、基準フレームに映し出された映像と、基準フレームに対して所定の時間差をもって提供される参照フレームにおける映像をそれぞれ左右眼に視差映像として提示すると、基準フレームと参照フレームとの間で対象物の位置が異なる分だけ輻輳角の異なる静止画像面を観察することになる。このとき異なる輻輳角に応じて、輻輳点に対して奥行き方向に偏差が生じて、対象物の像が浮き出たり引っ込んだりして見える。
【0054】
両眼視で知覚される奥行き量は、基準フレームと参照フレームにおける対象物の水平方向の移動量に比例するから、両フレームにおける対象物の像の間で算定される動きベクトルの水平成分として得られるスカラー量に対応させることができる。
基準フレームと参照フレームの間における対象物の位置を見ると、撮影位置に近い部分では変位量が大きく遠い部分では変位量が小さい。したがって、本方式による両眼視を行ったときに、近い部分の輻輳角が大きく基準面から大きく浮き出す一方、遠い部分の輻輳角は小さく浮き出し量が小さくなり、列車の映像が立体化する。
【0055】
対象物が動く速度が速すぎるときは、基準フレームと参照フレームの時間差を短く取り、遅いときは時間差を大きく取って、奥行き量を調整することが好ましい。このため、画像中の物体の運動速度を評価して、最速の物の速度に合わせて適切な時間間隔を設定したり、速度スカラー量の拡大縮小をしたりできるように構成されている。
さらに、画像表示装置のフレーム周波数に対して対象物の動きが著しく速い場合には、立体表示装置の立体表示能力を逸脱しないように、対象物が映り込んだ画素領域の速度スカラーを削除したり圧縮したりすることが好ましい。
【0056】
本実施例に係る立体映像化表示装置100によれば、通常の2Dテレビ放送映像信号を受信して、画像中で水平方向に動きがある被写体について、擬似的な左右眼視差像を形成して、立体映像表示器4に表示することができる。したがって、視聴者は、通常の2D放送映像において、少なくとも画面中で移動する部分について立体的に感得することにより、臨場感を持った迫力のある映像を鑑賞することができる。
【0057】
なお、この手法による立体化映像表示方式は、従来普通に使用してきた2D放送信号を処理して映像信号を生成するため、映像を提供するテレビ放送システムに何ら変更を必要としない。このため、従来、立体テレビ放送を商業化する上で障害となっていた、高コストの放送局施設の改変や新規開発が必要な立体映像放送手法などの経済的困難や技術的困難を問題とすることなく、視聴者が立体化放送を楽しむことができる。
【0058】
また、本実施例に係る立体映像化表示装置100は、視聴者がより自然な立体映像を視聴できるようにするため、フレーム同期部5を備えてもよい。
フレーム同期部5は、参照フレームをそのままのタイミングで提供するのではなく、nフレーム分遅れた基準フレームと同期させて同じタイミングで提示するように調整する。なお、基準フレームと参照フレームの時間差が僅少で視聴者が観察する立体化映像に大きな違和感が生じない場合でも、それぞれの映像画面を同期化して供給することが好ましい。また、多視点映像の生成プロセスでも処理に時間が必要であるため、遅れを補償するために同期化することが望ましい。
【0059】
本実施例に係る立体映像化表示装置100は、さらにフレキシビリティを向上させてより快適な立体映像を提供するために、奥行き量制御部7と動きベクトル算定部6を備えて、映像の奥行き量を適宜に調整できるようにすることができる。
なお、フレーム同期部5、奥行き量制御部7および動きベクトル算定部6は、フレーム選択部2と多視点映像信号生成部3と共に、一体の高速演算処理装置で構成することができる。
【0060】
奥行き量制御部7は、望ましい奥行き表示に適合するような基準フレームと参照フレームの間のフレーム差nを選択して指定する。
動きベクトル算定部6は、画像中に表示された各要素について基準フレームと参照フレームにおける位置を算出して両フレーム間における移動を追跡し、要素の動きベクトルを算定する。動きベクトルの水平方向成分は、左右眼視差と対応する奥行き情報を生成するものとなり、カメラの水平移動に置き換えることもできる。
【0061】
望みの奥行き量を得るために、動きベクトルの水平成分量を調整することができる。奥行き量は対象物の左右視差に対応し、基準フレームと参照フレームのフレーム差nが決まると、映像中の対象物の運動速度にしたがって変化する。そこで、いったん選択されたフレームについて実際に受信した映像から得られた動きベクトルを評価した結果を奥行き量制御部7にフィードバックし、映像中の移動速度に従って望ましい立体感を与える適当なフレーム差nを選定し直すことができる。
【0062】
立体映像表示部5は、視聴者の瞳孔間距離や視聴者と表示面との距離などと関連して、たとえば画面前方にNcm、画面後方にFcmなど、機器固有の奥行き表示能力を持つ。したがって、この奥行き表示能力に対応して、最大奥行き量と最小奥行き量の間のレンジが(F+N)cmの間に収まるように調整することが必要になる。
【0063】
たとえば、一部の対象が高速運動するため動きベクトルの水平成分のスカラー量が大きすぎるときは、2つのフレームの間のフレーム差nを小さくしたり、移動量を比例配分した映像を形成したりすることにより、飛び出し量が最大になる部分について奥行き量を適度な値にして、立体映像表示部5の奥行き表示レンジに最適化するようにすることが好ましい。
【0064】
さらに、飛びぬけて大きい動きベクトルや小さい動きベクトルが、出力頻度の高い中間値を持つ動きベクトルにおける立体感を過度に抑制することがないよう、ガンマー特性やS字トーンカーブを活用したフィルターなどを用いた非線形圧縮部11を設けてベクトル値の偏差値σまたは2σ、3σから外れるベクトルを非線形的に圧縮したり、奥行き量を0とおいて削除するようにしてもよい。
【0065】
なお、実際の映像では、注視点より遠い物体と近い物体では実際の移動方向が同じであっても網膜に写る映像中の移動方向は反転する現象がある。
図7は、映像中の対象物の移動方向が反転する現象を説明する図面である。
たとえば、左から右に向かって移動するカメラで、長く続く塀の中間に設けた注視点に焦点を合わせて撮影した場合など、注視点より左の部分が視野の中で注視点より左側に移動するのであれば右の部分は右側に移動する。したがって、塀の左右では被写体の動きベクトルは水平方向に向きが反転することになり、スカラーで評価すると正負に分かれた値となる。
【0066】
このような場合にも立体映像表示部5の奥行き表示能力に対応するために、画像中の各要素について動きベクトルを算定して、最多数のスカラー量が存在する範囲に非線形圧縮するまたは切り捨てる処理を行って、水平成分のスカラー量の最大値と最小値の差が(N+F)cmに対応するレンジに収まるように調整する。
【0067】
劇場型娯楽などでは、迫力のある映像として画面の前方に飛び出してくる立体映像が好まれるが、長時間に亘って視聴する通常のテレビ放送や、眼精疲労を嫌う業務用の立体映像では、立体映像の奥行きが画面の後方に現れるように構成することが好ましい。
【0068】
本装置では、日常的にテレビ放送を視聴することを前提として、長時間の視聴に耐える眼に優しいより自然な表現を実現して視聴者の疲労を抑えるため、医療用と同じく後面側奥行きFcmのみを利用するように構成することができる。このため、本実施例の奥行き量制御部7には、用途や目的に合わせて、全ての対象物が画面の後ろ側に表示されるように調整する機能を持たせている。
【0069】
立体視化したときの飛び出し量は、画面中の対象物毎、要素毎に異なり、水平方向移動量に従って決まる。そこで、画面中の要素について動きベクトルの水平成分を算定して最も大きい値を見出し、その部分に対する輻輳角が表示画面表面の輻輳角を越えないように調整する。
【0070】
このため、映像中の最遠景であって輻輳角が最小になる対象を最奥に配置するように、基準フレームと参照フレームを奥行きFcmに対応する分としてdcmだけ水平方向に変位させる。すると、基準フレームと参照フレーム中の各要素は、動きベクトルの水平成分からdcm差し引くことにより、フレームの提示位置が調整された後の輻輳角が決まる。
【0071】
この修正された輻輳角が表示画面表面の輻輳角より大きくなる部分があるときには、この部分が表示面より前方に突出して見える映像となるので、たとえば基準フレームと参照フレームのフレーム差nを按配するなどの方法で最前景の要素の動きベクトルの水平成分を調整する。
このようにして得られた立体化映像は、全ての対象が表示面より後ろに見えて、眼に優しい3次元映像として表示装置に表示される。
【0072】
奥行きマトリックス生成部12は、基準フレーム内の画素領域について上記調整後に得られた動きベクトルの水平成分のスカラーを要素とする奥行きマトリックスを収納する。奥行きマトリックスは、奥行き情報として多視点映像信号生成部3に与えられて、多視点映像信号を形成するときに利用される。
【0073】
なお、奥行き指示部8を備えて、奥行き量制御部7に奥行き量を任意の値に固定する指示をマニュアルで出せるようにしてもよい。奥行き量は、フレームの提示位置の偏差量dcmや、基準フレームと参照フレームのフレーム差nや、動きベクトルの比例配分により、指定することができる。なお、奥行き量のマニュアル指示をするときには、動きベクトル算定部6からフィードバックされる動きベクトルの水平成分スカラー量に基づくリミッター機能だけを働かせて自動調整を行わないようにすることが好ましい。
【0074】
また、2D/3D切替部9を備えて、視聴者が適宜に選択できるようにしてもよい。本実施例に係る立体映像化表示装置100は、2D放送波を捉えて時間的に変化する映像を左右眼視差像として提供することにより3D映像化するものである。そこで、奥行き量制御部7に対して比較する基準フレームと参照フレームのフレーム差をゼロとする指示を与えることにより、立体表示装置の左右眼視差映像として同じ映像を提示して元の2D映像を表示させることができる。なお、フレーム差をゼロとする指示は、フレーム選択部2に直接与えるようにしてもよい。
【0075】
2D/3D切替部9により、視聴者は、好きなときに2D放送と3D映像化放送を選択して鑑賞することができる。2D放送を選択すれば、放送局が提供する元の番組をそのまま視聴することになる。
なお、番組編集で画面が切り替わるときには、2D映像に連続性が無くなるので、基準フレームと参照フレームで同じ被写体が写っておらず、両眼視差映像を形成することができず違和感を与える。このため、カット変り検出器14を備えて、2次元映像受信部1から入力する映像信号出力に基づきカット変わりを監視して、カット変わりを検出したときにはフレーム選択部2に指示を与えて3D映像化を中断するようにすることが好ましい。
【0076】
さらに、本実施例の立体映像化表示装置100は、立体化領域指定部10を備えて、映像中の適宜の領域を限って立体映像化するようにすることができる。
人が観察したい注目部分があるときは、観察目的を乱さないため、それ以外の被写体を立体表示しないようにしたいことがある。このようなときには、立体化領域指定部10を介して動きベクトル算定部6に映像中の立体化する領域を指定して演算対象とする部分を限定することができる。立体化する領域以外の部分は、基準フレームと映像を左右両眼に提示すれば、2D映像のまま観察することになる。