【実施例1】
【0015】
以下、本発明の自動培養装置の第一の実施例を、図面を用いて説明する。
図1は、本実施例の大量継代培養装置の構成を示す正面図である。
図2は、
図1の大量継代培養装置の主要部の斜視図である。大量継代培養装置1は、設置台73の上に載置された恒温培養室10と、設置台73の下の空間に配置された各種の機器類とを有する。
図1では、
図2に示した恒温培養室10の前面のメイン扉71、内側扉72の図示を省略している。一方、
図2では、
図1において設置台73の下の空間に配置されている各種の機器類の図示を省略している。
【0016】
恒温培養室10は、その内部に、第一ステージ培養容器収納空間部20と、第二ステージ培養容器収納空間部30とを有し、これらの空間が、培養に好適な一定の温度・湿度・ガス濃度に保持される。11は空気流路、12は機構系支持手段、13はヒータである。培養に好適な温度は、通常は外気温より高めの37℃近辺に設定される。ヒータ13は通電することにより発熱し、通電および通電中止により恒温培養室10内の温度を調整する。空気流路11は、恒温培養室10の内壁や機構系支持手段12により構成され、ヒータ13により昇温された空気の通り道となる。本実施例では、機構系支持手段12は効率的に昇温された空気を恒温培養室10内に供給するために、複数個の貫通穴を有する構造部材によって構成される。
【0017】
第一ステージ培養容器収納空間部20には、平面状の培養面を有する第一ステージ培養容器21が収納される。第一ステージ培養容器21は、奥行き方向に、複数個収納される場合もある。22は第一ステージ培養容器21に設けられた傾斜角センサ、23は第一ステージ培養機構である。また、第二ステージ培養容器収納空間部30には、平面状の培養面を有する第二ステージ培養容器31(31a〜31n)が、上下すなわち培養面に垂直な方向に複数段収納される。
図1の例では5段の第二ステージ培養容器31が収納されている。32(32a〜32n)は、第二ステージ培養容器の各々に1個ずつ設置された傾斜角センサ、33は複数段の第二ステージ培養容器を駆動する第二ステージ培養機構である。
【0018】
傾斜角センサは、棚の姿勢や振動を検知するものであり、水銀スイッチ、三軸加速度センサなど様々なものが利用可能である。なお、傾斜角センサは第二ステージ培養容器の各々に複数個設けても良いが、高価なので、第二ステージ培養容器の各々に1個ずつ傾斜角センサを、所定の位置に設置することで、装置全体のコストの上昇を抑えつつ、各段の第二ステージ培養容器の姿勢を正確に制御できる。
【0019】
第一ステージ培養容器21と第二ステージ培養容器31は、細胞の導入後は容器を開放しないことが特徴となっている。気相の導入は外界の菌類を通さないフィルタを介して行なわれる。以降、このような培養方法を容器密閉型と称する。また、第一ステージ培養容器21と各第二ステージ培養容器31(31a〜31n)の底板は、各々、大面積平板形状としている。平板を採用したのは、培養中の細胞観察を可能とするためである。
【0020】
図1における傾斜角センサ22および32(以降、傾斜角32を以って代表とする)は、現在の培養容器がどれだけ傾斜しているかを検出する。第一ステージ培養機構23と第二ステージ培養機構33は、前記傾斜角センサ32の情報に基づき、第一ステージ培養容器21と第二ステージ培養容器31の水平を維持するように動作する。水平を維持するための機構については後述する。
【0021】
大量継代培養装置1の、設置台73よりも下側の空間には、第一ステージ培養容器及び第二ステージ培養容器に、培地や酵素、洗浄液などを供給する機能を有する各種の機器類が配置される。41a、41bは冷蔵庫であり、培地や酵素、洗浄液などを冷蔵保管する。42は送液機構であり、前記培地や酵素、洗浄液などを第一ステージ培養容器21や第二ステージ培養容器31に送液チューブを介して供給する。送液機構42はチューブポンプ、弁機構、培地加温手段(いずれも図示せず)などにより構成される。43は気相調整手段であり、湿度、二酸化炭素濃度などを調整した空気を第一ステージ培養容器21や第二ステージ培養容器31に送気チューブを介して供給する。44は廃液タンクであり、使用後の培地や洗浄液などを送液チューブを介して受け入れ保管する。送液チューブや送気チューブは軟質のシリコンやファーメド、C-Flexチューブが用いられる。なお、送液チューブや送気チューブは
図1において図示していない。60は、大量継代培養装置1の全体を制御する統括制御部である。統括制御部60と
図1内の各コンポーネントとは制御ネットワークや無線LANなど(図示せず)により接続される。
【0022】
45は第一ステージ観察手段、46は、第二ステージ観察手段である。これらは細胞の増殖状態を検出し、培養の進行度を判断するための情報を統括制御部60に送る。第一ステージ観察手段45や第二ステージ観察手段46には、例えば位相差顕微鏡やCCDカメラによるマイクロスコープといった光学画像を用いる方法や、電気抵抗変化などによる電気的な方法など、が利用可能である。
【0023】
51は外気導入ファン、52は内気撹拌ファン、53は外気導入口である。これらは恒温培養室10内の温度を調整するために使用される。本実施例では、培養容器の周囲に空気が効率よく循環する様に、第一ステージ培養容器収納空間部20と第二ステージ培養容器収納空間部30との間の通路上部に内気攪拌ファンが配置され、側壁と第二ステージ培養容器収納空間部30との間の通路状に外気導入ファン51が配置されている。個々の構成における詳細な動作については後述する。
【0024】
また、機構系支持手段12を複数個の貫通穴を有する構造部材によって構成することで、昇温された空気を恒温培養室10内に供給できることは上述したが、上記の外気導入ファン51、内気撹拌ファン52、外気導入口53の動作と相まって恒温培養室内の空気の循環が促進され、さらに効率的に培養容器周辺の温度調整が可能となる。
【0025】
図2の斜視図に示したように、恒温培養室10は内部温度の保持と培養容器のセッティングの容易さから、前面のメイン扉71、内側扉72を開放できる形状としている。メイン扉71は断熱効果の高い厚板材で作成され、内側扉72は内部の目視が可能なようにポリプロピレンやアクリルなどの透明樹脂で作成される。内側扉72を設けることで、恒温培養室10内の急激な温度低下などを起こさずに機械動作を目視確認することができる。
【0026】
また、恒温培養室10は設置台73により廃液タンク44より高所に配置する。この配置では、送液チューブ内にフィルタにより無菌確保した大気を導入することにより、廃液の自重を用いて移送することが可能となる。このため廃液用ポンプを省略できるという利点がある。
【0027】
図3は、第二ステージ培養機構33の一構成例の詳細を示す図である。第二ステージ培養機構33は、複数の培養容器保持棚121(121a〜121n)、三個のアクチュエータ122a、122b、122c、三本のプッシュロッド123a、123b、123cを有する。各培養容器保持棚121(121a〜121n)は、各々、第二ステージ培養容器31(31a〜31n)を固定し、一体で動作する。本図では、第二ステージ培養容器31が5層重なった配置を例示している。アクチュエータ122a、122b、122cはそれぞれプッシュロッド123a、123b、123cを鉛直方向に駆動させる。プッシュロッド123a、123b、123cにはそれぞれ支持腕124が培養容器の段数分取り付けられている。支持腕124の一方は、プッシュロッド123a、123b、123cに固定され、アクチュエータ122a、122b、122cの上下動距離と同じ距離だけ上下動する。なお、支持腕の固定位置は上下に微調整可能である。本図では、複数の培養容器保持棚121(121a〜121n)のそれぞれに傾斜角センサ32(32a〜32n)を有しているため、自動培養の開始前に前記傾斜角センサ32の出力を用いて各培養容器保持棚121の水平位置を手動で調整することが可能である。なお、支持腕固定位置を自動調整するための小型アクチュエータを別途装備することも可能である。
【0028】
支持腕124の他方端は、関節機構を介して培養容器保持棚121(121a〜121n)に固定される。
図4に、関節機構の一例を示す。関節機構は培養容器保持棚121の支持部分(123a、123b、123c)の傾きや傾きによるズレを吸収するために設けられたものであり、支持腕124の他方端に連結されたリンク機構1221、1222、球面ジョイント1223、及び培養容器保持棚121の下面に設けられたスライド機構1224、などの組み合わせによって実現される。
【0029】
125は、各培養容器保持棚121の各々に設けられたカメラ保持腕である。各カメラ保持腕125の先端には、第二ステージ観察手段46としてのCCDカメラ(図示せず)および照明手段(図示せず)が取り付けられ、各第二ステージ培養容器31(31a〜31n)の観察を行なう。各培養容器保持棚121の外縁部121Eの上端面には、傾斜角センサ32(32a〜32n)が設置されている。すなわち、傾斜角センサ32は、矩形状の培養容器31(31a〜31n)の平面内の中央には配置されておらず、矩形平面の辺(外縁部)の中央若しくはその近傍に取り付けられている。
【0030】
本発明の対象とする、大きな空間での接着性細胞の培養においては、細胞増殖の環境を維持することが重要である。
本発明による大量継代培養装置1の特徴は、培養中に培養容器保持棚の水平を維持する機能を有し、水平を検出するセンサ(傾斜角センサ)が培養容器保持棚の外縁部の中央若しくはその近傍に配置されること、及び、細胞静着フェイズにおいては機構系の動作を停止することである。これにより、接着性細胞の環境が維持される。
【0031】
まず、
図5を用いて、培養中に培養容器の水平を維持する必要性について説明する。なお、第一ステージ培養容器21と第二ステージ培養容器31の水平維持機構は同様の構成であるので、面積の広い第二ステージ培養容器31を例として以下説明する。
【0032】
図5の(a)において、100は、第二ステージ培養容器31内の細胞に栄養や各種増殖因子を提供する液体である培地である。培地は高価であるため、大量に細胞を培養する場合には出来るだけ少量にすることが求められる。また、培地を減らせば容器の厚さを減らすことができ、限られた空間体積における培養容器の段数を増やすことができるため、装置構成上も有利となる。本発明では、各培養容器の平面形状を大型化することにより、同じ接着面積を得るために必要な上下の培養容器の段数を減らし薄型とすることができ、一度に大量の数の細胞を培養できる自動培養装置を提供することが可能になる。例えば、従来、20〜50段必要であったものを、大面積でかつ薄型化し、5〜6段程度まで減らすことができる。
【0033】
すなわち、本発明では、絶対数としての細胞数を10
9乗個まで培養する大きな培養容器を採用する。このとき、培養容器31としては、平板の培養容器で、一辺が50センチメートルを超えた、かつ、薄型の構造になる。
【0034】
この場合、平置きしたときに、少しでも水平(θ=0)が出ていなければ、培地が偏ることになる。すなわち、
図5の(b)に示したように、第二ステージ培養容器31がわずかでも傾斜すると、乾燥領域102が出現する。乾燥領域102では培地が細胞に行きわたらず、細胞が死滅する恐れが生じる。
【0035】
この傾向は薄型構造に伴い培地量が少なくなる程、また、容器面積が広いほど顕著である。このため、大面積平板構造の培養容器においては、水平を維持することが非常に重要であることがわかる。
【0036】
例えば、培地の深さを2ミリメートルとすると、長さ50センチメートルの培養容器がθ=0.1度傾くだけで、培地深さは0.87ミリメートルずれることになり、培地の量が場所により異なってしまう。薄型構造のため、極端な場合、培地がない部分102が生じる。径が100ミリメートル程度のディッシュであれば、0.2ミリメートル程度であり、これであれば問題にはならないが、長さが長い場合には問題になってくる。一方、平面形が大きな培養容器では、培地の排出、注入で容器を傾けたり、均一な播種のため、容器を揺動させる必要がある。このため、容器を揺動させた後、乾燥領域102が出現しないように、培養容器を水平に保つという課題が重要になる。
【0037】
本発明において、培養中に培養容器を水平に保持する機構に関しては、先に述べた通り、
図3、
図4に示したアクチュエータ(122a、122b、122c)を用いることができる。また、
図3、
図4に示した関節機構付きのアクチュエータは、水平維持以外に、容器の傾斜や容器に対しての周期的な揺動なども単一の機構で行なうことができるため、全体の機構系が単純となり、低価格化が期待できる。したがって、本実施例の機構は、大量継代培養装置の水平維持機構として好適である。
【0038】
次に、本発明における、傾斜角センサ32の取り付け位置に関する概念を、
図6で説明する。なお、簡単のためここでは培養容器保持棚を一本の梁と仮定して、二次元で説明する。122a、122bは第二ステージ培養容器31を駆動するアクチュエータであり、各々、プッシュロッド123a、123b、123cに沿って上下に運動する。32は傾斜角センサが概中央部に取り付けられた場合の予想配置(以降「中央配置」と記載)であり、320は傾斜角センサが中央部から外れて取り付けられた場合の予想配置(以降「端部配置」と記載)である。両端支持された第二ステージ培養容器31には、培養容器の重量等により、その中央部が垂下する撓みが生じる。この場合、中央配置の傾斜角センサ32では撓みによる傾斜の感度は低く、端部配置の傾斜角センサ320においては撓みによる傾斜の感度が大きい。また、撓みによる影響は容器が大面積になるほど大きくなる。すなわち、大量継代培養装置にあっては、中央配置の方が傾斜角検出に関してはノイズが少なく、正確な値に近いと考えられる。端部配置の場合、正確な傾斜角を検出するためには、撓みによる補正情報をあらかじめ記録しておいて、毎回補正をかける方法が考えられる。しかし、一般的に培養容器は使い捨てを前提として樹脂によって作成されることが多い。樹脂製容器は継続荷重によってクリープ現象が生じ、時間と共に撓みが変化する可能性がある。また、中央配置の傾斜角センサ32はアクチュエータ111a、111bの双方から離れているため、アクチュエータ111a、111bの動作時の振動の影響を受けづらいという特徴も併せ持つ。
【0039】
一方、培養容器保持棚を一本の梁と仮定し、その中央部のみで1点支持することも考えられる。この場合、「中央配置」の傾斜角センサ32では撓みによる傾斜の感度は低く、端部配置の傾斜角センサ320においては撓みによる傾斜の感度が大きい。
【0040】
以上より、大量継代培養装置においては、傾斜角センサ32は、培養容器保持棚の中央配置を採用した方が有利となる。特に、培養容器保持棚の平面形状に置いて、その中央部に支持枠が有る場合には、この支持枠に傾斜角センサを設置すれば良い。
【0041】
ところで、各培養容器保持棚すなわち各培養容器は、例えば矩形状の平面形状を有し、培養容器の平面形状の少なくとも約半分の領域をテージ観察手段46で観察可能に構成する必要がある。すなわち、CCDカメラ等の第二ステージ観察手段46による観察の支障にならないようにするために、培養容器保持棚の支持位置は、培養容器保持棚の外縁付近に設置する必要がある。もし、培養容器保持棚をその中央部で支持すると支持部のプッシュロッド等が観察の障害になり適切ではない。従って、各培養容器保持棚に対応してテージ観察手段46が設けられている場合には、培養容器保持棚は外縁付近のみで支持するのが望ましい。従って、
図6の「中央配置」の概念をそのまま採用し、平面形状の中央に傾斜角センサ32を設置することは望ましくない。
【0042】
これを解決するために、本発明では、傾斜角センサ32を平面形状の「辺(外縁)の中央」に配置することに1つの特徴がある。
【0043】
図7(
図7A〜
図7C)は、本発明における、傾斜角センサ32の「培養容器保持棚の外縁の中央配置」の具体的な例を説明する図である。まず、
図7Aの例では、培養容器保持棚121が、3つのアクチュエータ122a、122b、122c(換言すると三本のプッシュロッド123a、123b、123c)で三点支持されている。なお、培養容器保持棚は、平面形状が矩形の中央部が打ち抜かれ、培養容器を保持するための外枠部のみを有する、全体として凹型の外形を有している。3つのアクチュエータ122a、122b、122cは、平面形状が矩形(短辺a、長辺b)の培養容器保持棚121、換言すると、矩形の培養容器31に面する二等辺三角形の各頂点に位置している。すなわち、矩形の一方の長辺の両端近傍に、2つのアクチュエータ122a、122bが位置し、矩形の他方の長辺の中央近傍に他のアクチュエータ122cが位置している。125はカメラ保持腕であり、その先端に第二ステージ観察手段46が装着され、他端は回転軸126に固定されている。第二ステージ観察手段46は、培養容器31の上側若しくは下側から、培養容器31の平面形状の少なくとも約半分の領域を観察可能に構成されている。培養容器保持棚を上記のように三点支持することで、培養容器保持棚を安定的に保持すると共に、第二ステージ観察手段の必要十分な観察領域を確保できる。
【0044】
一方、培養容器保持棚121の外縁部で、かつ、アクチュエータ122cに近接した位置に、1個の傾斜角センサ32が設置されている。換言すると、矩形平面の一方の長辺(外縁部)bの中央若しくはその近傍で、かつ、1つの頂点のアクチュエータ(換言すると支持部分)付近に傾斜角センサ32が設置されている。この位置は、三点支持の1つの頂点の近傍であるものの、矩形の培養容器保持棚121の長辺bの中央、すなわち、「辺(外縁)の中央」配置に相当し、撓みによる傾斜の感度が低い。また、1つのアクチュエータには近接しているものの、他の2つのアクチュエータからは離れており、「辺(外縁)の中央」配置に相当する。そのため、傾斜角センサに近いアクチュエータを駆動した後、残りのアクチュエータを駆動する等の工夫により、全体としては、アクチュエータの動作時の振動の影響を受けにくくすることができるという利点がある。
【0045】
なお、
図7Aに傾斜角センサ32‘として示したように、傾斜角センサを、矩形の培養容器保持棚121の他方の長辺(外縁部)bの中央若しくはその近傍で、かつ、2つの頂点のアクチュエータ122a、122b(換言すると支持部分123a、123b)の中央若しくはその近傍に設置しても良い。この位置は、
図6で述べた中央配置に相当し、保持棚の撓みによる傾斜の感度が低く、また、いずれのアクチュエータからも離れているため、アクチュエータの動作時の振動の影響も受けにくいという利点がある。傾斜角センサを2個設置する場合には、32、32‘の位置に設置するのが良い。
【0046】
次に、
図7Bの例では、125はカメラ保持腕が軸126と共に、矩形の培養容器保持棚121の縁に沿って移動する構成になっている。この例でも、
図7Aの例と同様に、長辺(外縁部)bの中央若しくはその近傍に1個の傾斜角センサ32、傾斜角センサ32‘が設置されている。この例でも、
図7Aの例と同様な効果が得られる。
【0047】
図7A、
図7Bの三点支持の例に代えて、矩形の四隅近傍を支持する四点支持としても良く、その場合も、上記「辺(外縁)の中央」配置に相当する長辺(外縁部)bの中央若しくはその近傍に1個の傾斜角センサ32を設置するのが良い。また、矩形は正方形であっても良く、この場合も、傾斜角センサ32は、「辺(外縁)の中央」配置に相当する外縁部の中央若しくはその近傍に設置される。なお、プッシュロッドの数を4本よりも多くすることも可能であるが、構成が複雑となり、制御が難しくなる難点がある。
【0048】
次に、
図7Cの例では、培養容器保持棚121の平面形状、換言すると各培養容器31の平面形状が六角形であり、長辺(外縁部)の中央若しくはその近傍に1個の傾斜角センサ32、傾斜角センサ32‘が設置されている。この例でも、
図7A、
図7Bの例と同様な効果が得られる。
【0049】
なお、培養容器保持棚の平面形状としては、円やその他の多角形等も考えられ、上記の趣旨に基づき1個の傾斜角センサを設置することが考えられる。しかし、大量継代培養装置1には、矩形(特に長方形)や六角形が適している。
【0050】
図8は、大量継代培養装置1における内部機器を制御するための統括制御部60の構成例を示すブロック図である。
統括制御部60は、データや指示を入力するための入力部61、自動培養装置10の各動作を制御するCPU62、プログラムやパラメータ等を格納したり、一時的にデータや処理結果を格納したり、キャッシュ等の動作を行うための記憶手段やメモリ63、ユーザーインタフェースとして機能する表示部64、外部との通信を制御する通信制御部65、傾斜角センサ32等の入力をもとに各種アクチュエータ122を駆動して培養容器に対する播種タスクを実行する播種タスク制御部66、大量継代培養装置内の環境保持のために滅菌処理、ヒータやファンの駆動、二酸化炭素の供給、水供給等の制御を行う環境保持装置67、冷蔵庫内の環境を制御する冷蔵庫制御68、傾斜角センサ32等の入力をもとに各種アクチュエータ122を駆動して培養容器の培地交換のタスクを実行する培地交換タスク制御部69、培養容器から細胞を取り出すタスクを実行する細胞取出タスク制御部70等を備えている。播種タスク制御部66、培地交換タスク制御部69、及び、細胞取出タスク制御部70は、各々、培養容器の水平姿勢保持機能を備え、正しく培養容器の姿勢を水平に安定して保持すると共に、静着状態判断部を備え、細胞静着までの機械振動を低減させる機能を有する。
【0051】
ところで、大量継代培養装置1の恒温培養室10内は、容器密閉型の培養容器形態であるため、温度環境のみ培養増殖に必要な環境とすれば良い。湿度や気相の炭酸ガス濃度等については、密閉容器の中で確保される。このため、培養環境温度にするために、内部での発熱を外部に拡散させる、あるいは冷却により取り除くことで、温度を一定に保つことができる。
【0052】
図9において、第一ステージ培養機構23や第二ステージ培養機構33は各種アクチュエータのモータ等により駆動されるが、それに伴うブレーキの励磁や駆動モータの駆動に伴う発熱により温度上昇がある場合には、これらの温度上昇した空気はダクト35や36により、空気流路である下部の空間(空気通路)11に集められる。この下部空間11には、大量継代培養装置1の外から外気導入口53、外気導入ファン51、ダクト54により冷気を導入する。この下部空間11において内気撹拌ファン52により空気を攪拌し温度を調整することで、恒温培養室10内を目的とする一定の環境温度に保つ。下部空間11には、図のように温度センサ15を設け、温度をモニタするとともに、ヒータ13の発熱量を一定温度になるように制御系にて制御する。
【0053】
つまり、大きな培養容器を採用することによって生ずる広い培養空間において、熱源(ヒータ13)を恒温培養室10の機構系支持手段のさらに下部に配置し、ブレーキの励磁や駆動モータの駆動により発生した熱は、空気ダクトによって養室本体下部の空間に導くことで、下部空間で温度交換がなされ、その上で温度センサによりヒータの調整が行われるため、全体の温度が安定化できる。
【0054】
次に、
図10Aは、第一の実施例における細胞播種時の第二ステージ培養機構33の統括制御部60の動作(播種タスク制御部66の動作)の一例を示すフローチャートである。なお、本フローチャートは第一ステージ培養機構23においても全く同様に適用される。
【0055】
図10Aにおいて、統括制御部60は、まず、第二ステージ培養機構33により培養容器保持棚を傾け(S01)、培養容器保持棚の各容器に細胞懸濁液を注入する(S02)。細胞懸濁液の注入は、
図1に示した送液機構42および送気機構43を制御することによって行なう。細胞懸濁液の注入後、第二ステージ培養機構33がアクチュエータ122を協調して動作させることによって、培養容器内の細胞懸濁液を充分かきまぜ、細胞が容器内に均一になるようにする(S03)。その後、統括制御部60は、傾斜角センサ32の情報に基づき、第二ステージ培養容器31の水平を維持するように第二ステージ培養機構33を制御する(S04)。すなわち、統括制御部60は、培養容器保持棚の水平姿勢保持部としての機能を備えている。傾斜角センサ32から、培養容器保持棚の姿勢に関する正確な情報が得られるため、培養容器保持棚の姿勢が高い精度で水平に安定して保持される。その後、あらかじめ設定した細胞静着時間(例えば、30分、あるいは、2時間等)だけタイマーをセットし(S06)、第二ステージ培養機構33や振動源となりうる機構系の動作を停止させるようにフラグをセットする(S07)。これにより、ファン、アクチュエータ、送液機構等の機構系の動作は停止する。
【0056】
このように、振動源となりうる機構系の動作を停止させるのは、培養容器が振動を受けることによって細胞が容器内に不均一に播種されることを防止するためである。振動が培養容器に伝わると、振動モードに応じて大きく振動する腹部分と全く振動しない節部分とが培養容器底面に出現する。細胞が浮遊状態の場合、前記の節部分に細胞が集まる可能性があり、培養容器内で細胞密度の高い部分と低い部分とが混在する。細胞密度が高い部分では栄養分の供給不足、コンタクトインヒビジョンによる増殖の停止が起こり易く、また細胞密度が低い部分では、細胞外マトリクスの形成が進まず、やはり増殖が悪くなりやすい。
【0057】
機構系の動作の停止から一定時間経過後、細胞が培養容器底面に静着すれば、ある程度の振動では細胞は剥がれず、振動が細胞に与える影響は小さくなる。そのため、細胞静着時間の経過後(S08)、フラグをリセットし機構系動作禁止状態を解除する(S09)。
【0058】
統括制御部60が細胞の静着を判断する静着状態判断部としての機能を有することで、前記自動培養装置は細胞懸濁液の播種完了時から細胞静着が完了するまでの期間は、振動発生動作を抑制することにより、この間は静止することができ、静着まで機械振動を低減できる効果がある。
【0059】
図10Bは、第一の実施例における細胞播種時の第二ステージ培養機構33の統括制御部60動作(播種タスク制御部66の動作)の他の例を示すフローチャートである。S11〜S15は、
図10AのS01〜S05と同じである。本実施例ではカメラによる細胞観察手段46を備えているため、細胞が静着しているかどうかを、時間の代わりに、目視、または画像認識により判断できる。したがって、S06に相当するステップを省略し、機構系の動作を停止させるようにフラグをセット(S16)した後、細胞観察手段46の出力結果に応じて、機構系動作禁止状態を継続または解除させることが可能である(S17、S18)。
【0060】
なお、
図10A、
図10Bの播種タスク制御部66の動作と同様な動作は、培地交換タスクや出荷時の細胞取出タスクにおいてもなされる。例えば、細胞取出タスクでは、出荷時に、まず、培養容器から古い培地を吸い出し(S21)、酵素を注入し(S22)、培養容器内の細胞懸濁液を充分かきまぜ(S23)、傾斜角センサ32の情報に基づき、培養容器の水平を維持するように第二ステージ培養機構33を制御し(S24)、所定時間放置し(S25)、培養容器を傾け(S26)、酵素を取り出し(S27)、培養容器に新しい培地を入れ(S28)、培養容器内の細胞懸濁液を充分かきまぜ(S29)、傾斜角センサ32の情報に基づき、培養容器の水平を維持するように第二ステージ培養機構33を制御し(S30)、その後培養容器を傾け(S31)、細胞を取出す。この場合も、水平を維持する際には、傾斜角センサ32から正確な情報が得られるため、培養容器保持棚の姿勢が高い精度で水平に安定して保持される。
【0061】
以上述べた通り、本実施例によれば、培養容器を保持する培養容器保持棚に傾斜角センサを設け、棚板の姿勢や運動を把握し、その出力信号により、培養容器保持棚の姿勢を水平に制御することで、水平平置き時に精度良く水平を保つ効果がある。また、傾斜角センサは培養容器の概ね中央に配置されるようにすることで、正しく培養容器の姿勢を検出でき、水平安定に効果がある。
【0062】
特に、培養容器を大面積でかつ薄型化とした場合に、顕著な効果がある。
【0063】
さらにまた、細胞の静着を判断する静着状態判断部を有し、前記自動培養装置は細胞懸濁液の播種完了時から細胞静着が完了するまでの期間は、振動発生動作を抑制することにより、静着までの機械振動を低減できる効果がある。