特許第6207730号(P6207730)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6207730直流送電電力変換装置および直流送電電力変換方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207730
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】直流送電電力変換装置および直流送電電力変換方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/797 20060101AFI20170925BHJP
   H02M 7/49 20070101ALI20170925BHJP
   H02M 7/12 20060101ALI20170925BHJP
   H02M 7/219 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   H02M7/797
   H02M7/49
   H02M7/12 B
   H02M7/219
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-521106(P2016-521106)
(86)(22)【出願日】2015年5月19日
(86)【国際出願番号】JP2015064327
(87)【国際公開番号】WO2015178376
(87)【国際公開日】20151126
【審査請求日】2016年6月16日
(31)【優先権主張番号】特願2014-104869(P2014-104869)
(32)【優先日】2014年5月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094916
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 啓吾
(74)【代理人】
【識別番号】100073759
【弁理士】
【氏名又は名称】大岩 増雄
(74)【代理人】
【識別番号】100127672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 憲治
(74)【代理人】
【識別番号】100088199
【弁理士】
【氏名又は名称】竹中 岑生
(72)【発明者】
【氏名】藤井 俊行
(72)【発明者】
【氏名】椋木 香帆
(72)【発明者】
【氏名】森 修
(72)【発明者】
【氏名】玉井 伸三
(72)【発明者】
【氏名】船橋 眞男
(72)【発明者】
【氏名】細川 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】東 耕太郎
【審査官】 坂東 博司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−24392(JP,A)
【文献】 特開2011−182517(JP,A)
【文献】 特開2012−44839(JP,A)
【文献】 特開2013−27260(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0003101(US,A1)
【文献】 特開2013−251933(JP,A)
【文献】 特許第2635660(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/797
H02M 7/12
H02M 7/219
H02M 7/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各相に対応した正側アームと負側アームとが直列接続され、その接続点が各相の交流線に接続されてなる複数のレグ回路を備え、各々の上記レグ回路は正負の直流母線の間に並列接続されて複数相の交流と直流との間で電力変換を行う電力変換器と、上記電力変換器を制御する制御装置とを備え、各々の上記レグ回路を構成する上記正側アームと上記負側アームのそれぞれは、変換器セルの少なくとも一つを直列接続してなり、上記変換器セルは、直列接続された複数の半導体スイッチング素子の直列体と、この直列体に並列接続された直流コンデンサとから構成されている直流送電電力変換装置において、
上記制御装置は、上記正側アームと上記負側アームを構成する各々の上記変換器セルを出力制御するものであって、
各々の上記直流コンデンサの電圧(Vcap)に基づいて上記直流コンデンサに対する電圧制御用の電流指令値(ipref、ipref、ipref)を生成するコンデンサ電圧制御部と、
上記コンデンサ電圧制御部からの上記電流指令値(ipref、ipref、ipref)に基づいて、上記正側アームに流れる電流制御用の正側アーム電圧指令(Vp)と上記負側アームに流れる電流制御用の負側アーム電圧指令(Vp)の内の交流電流制御用の電圧指令(Vpc、Vpc)を生成する電流制御部と、
上記直流母線の間の直流電圧(Vdc)と上記直流母線に流れる直流電流(idc)、および予め設定された制御目標値となる指令値(Vdcref、idcref)に基づいて、上記正側アーム電圧指令(Vp)と上記負側アーム電圧指令(Vp)の内の直流電圧制御用の直流電圧指令(Vdc)を生成する直流制御部とを有し、
上記直流制御部に与える上記指令値(Vdcrefまたはidcref)を、上記直流コンデンサの電圧変動の検出量に応じて補正する直流送電電力変換装置。
【請求項2】
上記直流制御部は、上記直流母線の間の電圧(Vdc)、上記直流コンデンサの合成電圧(ΣVcap)、および上記指令値(Vdcref)に基づいて、上記直流電圧指令(Vdc)の主成分を生成する直流電圧制御部を備えており、
上記直流コンデンサの電圧変動の検出は、上記直流コンデンサの合成電圧(ΣVcap)が予め設定された第1の所定値(ΔVmax)を超えるか、または、上記第1の所定値(ΔVmax)よりも小さく設定された第2の所定値(ΔVmin)よりも小さくなったことにより検出し、
この検出に応じて、上記直流電圧制御部に対して設定された上記指令値(Vdcref)を、上記直流電流(idc)または直流電流制御用の上記指令値(idcref)の極性に応じて、予め設定した固定値(ΔVdcref)分だけ加算または減算することで補正する請求項1に記載の直流送電電力変換装置。
【請求項3】
上記直流制御部は、上記直流母線に流れる直流電流(idc)、および上記指令値(idcref)に基づいて、上記直流電圧指令(Vdc)の一部の成分を生成する直流電流制御部を備えており、
上記直流コンデンサの電圧変動の検出は、上記コンデンサ電圧制御部が生成する上記電流指令値(ipref)が上記コンデンサ電圧制御部に対して予め設定された制限値(iprefmax)を超過したことにより検出し、
この検出に応じて、上記直流電流制御部に設定された上記指令値(idcref)を、上記電流指令値の制限値(iprefmax)の超過分(Δip)と、各相の交流電圧(Vp)、および上記直流電圧(Vdc)とから演算して得られる直流電圧超過成分(Δidc)に基づいて補正する請求項1に記載の直流送電電力変換装置。
【請求項4】
上記直流制御部は、上記直流母線の間の電圧(Vdc)、上記直流コンデンサの合成電圧(ΣVcap)、および上記指令値(Vdcref)に基づいて、上記直流電圧指令(Vdc)の主成分を生成する直流電圧制御部と、上記直流母線に流れる直流電流(idc)、および上記指令値(idcref)に基づいて、上記直流電圧指令(Vdc)の一部の成分を生成する直流電流制御部とを備えており、
上記直流コンデンサの電圧変動の検出は、上記直流コンデンサの合成電圧(ΣVcap)が予め設定された第1の所定値(ΔVmax)を超えるか、または、上記第1の所定値(ΔVmax)よりも小さく設定された第2の所定値(ΔVmin)よりも小さくなったことにより検出し、
この検出に応じて、上記直流電圧制御部に対して設定された上記指令値(Vdcref)を、上記直流電流(idc)または直流電流制御用の上記指令値(idcref)の極性に応じて、予め設定した固定値(ΔVdcref)分だけ加算または減算することで補正するとともに、上記直流電流制御部に設定された上記指令値(idcref)を、上記電流指令値の制限値(iprefmax)の超過分(Δip)と、各相の交流電圧(Vp)、および上記直流電圧(Vdc)とから演算して得られる直流電圧超過成分(Δidc)に基づいて補正する請求項1に記載の直流送電電力変換装置。
【請求項5】
上記直流コンデンサの合成電圧(ΣVcap)が上記第1の所定値(ΔVmax)以下、かつ、上記第2の所定値(ΔVmim)以上を検出した場合には、上記直流電圧制御部における上記指令値(Vdcref)の補正を停止する請求項2または請求項4に記載の直流送電電力変換装置。
【請求項6】
上記直流電流(idc)の大きさが予め設定した所定値以下になったことを検出した場合には、上記直流電流制御部における上記指令値(idcref)の補正を停止する請求項3または請求項4に記載の直流送電電力変換装置。
【請求項7】
上記直流電圧制御部における上記指令値(Vdcref)の補正を停止する場合、補正された指令値から補正前の指令値への変化を緩やかにした請求項5に記載の直流送電電力変換装置。
【請求項8】
上記直流電流制御部における上記指令値(idcref)の補正を停止する場合、上記正側アーム電圧指令(Vp)と上記負側アーム電圧指令(Vp)の直流電圧成分(Vdc)が緩やかに変化するようにした請求項6に記載の直流送電電力変換装置。
【請求項9】
各相に対応した正側アームと負側アームとが直列接続され、その接続点が各相の交流線に接続されてなる複数のレグ回路を備え、各々の上記レグ回路は正負の直流母線の間に並列接続されて複数相の交流と直流との間で電力変換を行う電力変換器と、この電力変換器を制御する制御装置とを備え、各々の上記レグ回路を構成する上記正側アームと上記負側アームのそれぞれは、変換器セルの少なくとも一つを直列接続してなり、上記変換器セルは、直列接続された複数の半導体スイッチング素子の直列体と、この直列体に並列接続された直流コンデンサとから構成されている場合において、
上記制御装置が、上記正側アームと上記負側アームを構成する各々の上記変換器セルを出力制御する際に、
各々の上記直流コンデンサの電圧(Vcap)に基づいて当該直流コンデンサに対する電圧制御用の電流指令値(ipref、ipref、ipref)を生成し、
上記電流指令値(ipref、ipref、ipref)に基づいて、上記正側アームに流れる電流制御用の正側アーム電圧指令(Vp)と上記負側アームに流れる電流制御用の負側アーム電圧指令(Vp)の内の交流電流制御用の電圧指令(Vpc、Vpc)を生成し、
上記直流母線の間の直流電圧(Vdc)と上記直流母線に流れる直流電流(idc)、および予め設定された制御目標値となる指令値(Vdcref、idcref)に基づいて、上記正側アーム電圧指令(Vp)と上記負側アーム電圧指令(Vp)の内の直流電圧制御用の直流電圧指令(Vdc)を生成し、
上記指令値(Vdcrefまたはidcref)を、上記直流コンデンサの電圧変動の検出量に応じて補正する直流送電電力変換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数相の交流と直流との間で電力変換を行う大容量電力変換器を用いた直流送電電力変換装置、および直流送電電力変換方法に係り、特に交流電圧低下が発生した時の運転継続制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大容量電力変換器は、その変換器出力が高電圧または大電流となるため、複数の変換器を直列または並列に多重化して構成されることが多い。変換器を多重化することは、変換器容量を大きくするのみでなく、出力を合成することにより、出力電圧波形に含まれる高調波を低減し、その結果系統に流出する高調波電流を低減することができる。
【0003】
変換器を多重化する方法の1つとして、複数の変換器の出力をカスケード接続したマルチレベル変換器があり、その中の一つにモジュラーマルチレベル変換器がある。このモジュラーマルチレベル変換器の各アームは、複数の変換器セルがカスケード接続されて構成されている。
【0004】
従来のモジュラーマルチレベル変換器の各相の第1アーム、第2アームは、それぞれチョッパセル(変換器セル)とリアクトルとを備える。チョッパセルは2つの半導体スイッチが互いに直列接続され、これに直流コンデンサが並列接続されて構成されている。第1アーム、第2アームは、それぞれ同数のチョッパセルがそれぞれの出力端を介してカスケード接続される。
【0005】
また、従来のモジュラーマルチレベル変換器の各相を制御する場合、各直流コンデンサのコンデンサ電圧を一定に保つことができないと、コンデンサ電圧に過電圧や低電圧を生じて装置の停止に至るという不具合が生じる。このため、コンデンサ電圧指令値に各相の全ての直流コンデンサの電圧値の平均値を追従させる平均値制御や、コンデンサ電圧指令値に各直流コンデンサの電圧値をそれぞれ追従させる個別バランス制御や、さらに第1アーム内の全ての直流コンデンサの電圧値の平均値と第2アーム内の全ての直流コンデンサの電圧値の平均値とを一致させるアームバランス制御などが実施されている。
【0006】
そして、モジュラーマルチレベル変換器外には流出しないでモジュラーマルチレベル変換器内の各相間に流れて循環する循環電流を制御し、また、各相の交流電流を制御するように電圧指令値が演算され、直流出力端子電圧を制御するように直流電圧指令値が演算される(例えば、下記の特許文献1、非特許文献1参照)。
【0007】
また、従来の直流送電電力変換装置では、異なる交流系統間で有効電力を送受電するように、複数の電力変換器を直流連系するとともに、各々の電力変換器(以下、交直変換端子ともいう)には、有効電力制御と直流電圧制御を行うように構成し、交流有効電力を調節する。このとき、有効電力制御と直流電圧制御の最小値を選択し、一つの直流電圧指令を残りの交直変換端子よりも等しいか小さく設定する。
【0008】
交直変換端子の特性は、直流電圧が小さくなると、直流電圧制御の出力が増加して有効電力制御の出力が選択される。これにより、電圧指令の小さい交直変換端子による直流電圧レベルに制御されて他の交直変換端子は有効電力制御動作となる。電圧制御を行っている交直変換端子で交流系統事故が発生し、電力バランスが崩れると、直流電圧が上昇して、残りの交直変換端子の直流電圧制御出力が減少するので、直流電圧制御に切り替わり運転を継続する(例えば、下記の特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−182517号公報
【特許文献2】特許第2635660号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】電気学会論文誌D(産業応用部門誌)Vol.131,No.1,2011(84〜92頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような直流送電電力変換装置にあっては、モジュラーマルチレベル変換器を交直変換端子として構成する場合に、交流系統事故が発生して各々の交直変換端子が直流電圧、有効電力を制御すると、交流系統事故が発生している交直変換端子においては、交流有効電力を自由に制御することができない。その結果、主に交流系統事故が発生している交直変換端子側において、直流コンデンサのコンデンサ電圧を一定に保つことができず、コンデンサ電圧に過電圧や低電圧を生じて装置の停止に至る問題点があった。
【0012】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、安定にコンデンサ電圧を制御できるようにして、運転継続可能な直流送電電力変換装置および直流送電電力変換方法を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に係る直流送電電力変換装置は、各相に対応した正側アームと負側アームとが直列接続され、その接続点が各相の交流線に接続されてなる複数のレグ回路を備え、各々の上記レグ回路は正負の直流母線の間に並列接続されて複数相の交流と直流との間で電力変換を行う電力変換器と、この電力変換器を制御する制御装置とを備え、各々の上記レグ回路を構成する上記正側アームと上記負側アームのそれぞれは、変換器セルの少なくとも一つを直列接続してなり、上記変換器セルは、直列接続された複数の半導体スイッチング素子の直列体と、この直列体に並列接続された直流コンデンサとから構成されている。
そして、上記制御装置は、上記正側アームと上記負側アームを構成する各々の上記変換器セルを出力制御するものであって、
各々の上記直流コンデンサの電圧(Vcap)に基づいて当該直流コンデンサに対する電圧制御用の電流指令値(ipref、ipref、ipref)を生成するコンデンサ電圧制御部と、
上記コンデンサ電圧制御部からの上記電流指令値(ipref、ipref、ipref)に基づいて、上記正側アームに流れる電流制御用の正側アーム電圧指令(Vp)と上記負側アームに流れる電流制御用の負側アーム電圧指令(Vp)の内の交流電流制御用の電圧指令(Vpc、Vpc)を生成する電流制御部と、
上記直流母線の間の直流電圧(Vdc)と上記直流母線に流れる直流電流(idc)、および予め設定された制御目標値となる指令値(Vdcref、idcref)に基づいて、上記正側アーム電圧指令(Vp)と上記負側アーム電圧指令(Vp)の内の直流電圧制御用の直流電圧指令(Vdc)を生成する直流制御部とを有し、
上記直流制御部に与える上記指令値(Vdcrefまたはidcref)を、上記直流コンデンサの電圧変動の検出量に応じて補正する。
【0014】
また、この発明に係る直流送電電力変換方法は、各相に対応した正側アームと負側アームとが直列接続され、その接続点が各相の交流線に接続されてなる複数のレグ回路を備え、各々の上記レグ回路は正負の直流母線の間に並列接続されて複数相の交流と直流との間で電力変換を行う電力変換器と、この電力変換器を制御する制御装置とを備え、各々の上記レグ回路を構成する上記正側アームと上記負側アームのそれぞれは、変換器セルの少なくとも一つを直列接続してなり、上記変換器セルは、直列接続された複数の半導体スイッチング素子の直列体と、この直列体に並列接続された直流コンデンサとから構成されている場合において、以下の方法を採用している。
すなわち、上記制御装置が、上記正側アームと上記負側アームを構成する各々の上記変換器セルを出力制御する際に、
各々の上記直流コンデンサの電圧(Vcap)に基づいて当該直流コンデンサに対する電圧制御用の電流指令値(ipref、ipref、ipref)を生成し、
上記電流指令値(ipref、ipref、ipref)に基づいて、上記正側アームに流れる電流制御用の正側アーム電圧指令(Vp)と上記負側アームに流れる電流制御用の負側アーム電圧指令(Vp)の内の交流電流制御用の電圧指令(Vpc、Vpc)を生成し、
上記直流母線の間の直流電圧(Vdc)と上記直流母線に流れる直流電流(idc)、および予め設定された制御目標値となる指令値(Vdcref、idcref)に基づいて、上記正側アーム電圧指令(Vp)と上記負側アーム電圧指令(Vp)の内の直流電圧制御用の直流電圧指令(Vdc)を生成し、
上記指令値(Vdcrefまたはidcref)を、上記直流コンデンサの電圧変動の検出量に応じて補正する。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、直流コンデンサの電圧変動を検出し、その変動が所定値を超えた場合には直流電圧指令値を増減するようにしているので、交流系統事故が発生した場合でも、直流コンデンサからのエネルギの過剰な流入出を防止することができ、これにより、直流コンデンサの急激な電圧変動を抑制して運転継続できる。その結果、運転継続性能が向上するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明の実施の形態1による直流送電電力変換装置の構成図である。
図2】この発明の実施の形態1による直流送電電力変換装置の変換器セルの構成を示す回路図である。
図3】この発明の実施の形態1による直流送電電力変換装置の変換器セルの別例による構成を示す回路図である。
図4】この発明の実施の形態1による直流送電電力変換装置の制御装置の構成例を示すブロック図である。
図5】この発明の実施の形態2による直流送電電力変換装置の制御装置の構成例を示すブロック図である。
図6】この発明の実施の形態3による直流送電電力変換装置の制御装置の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による直流送電電力変換装置の概略構成図である。
【0018】
この実施の形態1の直流送電電力変換装置は、主回路である電力変換器1と、この電力変換器1を制御する後述の制御装置20とを備える。
【0019】
電力変換器1は、複数相交流(ここでは特に三相交流)と直流との間で電力変換を行うもので、交流側は連系変圧器13を介して交流系統である交流電源14に接続され、直流側はインピーダンス15を介して直流電源16に接続される。なお、この場合の直流電源16としては、直流出力を行う他の電力変換装置が適用される。また、図1の連系変圧器13を用いる代わりに、連系リアクトルを介して交流電源14に接続した構成としても良い。
【0020】
電力変換器1の各相は、正側アーム5と負側アーム6とが直列接続されている。正側アーム5と負側アーム6との接続点である交流端7が各相の交流線に接続されてレグ回路4が構成されている。3相分の各レグ回路4は、正負の直流母線2、3間に並列接続されている。
【0021】
各レグ回路4を構成する正側アーム5と負側アーム6は、複数の変換器セル10を直列接続したセル群5a、6aを有している。各セル群5a、6aと交流端7との間には正側リアクトル9pと負側リアクトル9nとがそれぞれ直列に挿入されている。この場合、正側リアクトル9pと負側リアクトル9nと交流端7とで、3端子のリアクトル8を構成している。
【0022】
なお、正側リアクトル9pと負側リアクトル9nが挿入される位置は、各アーム5、6内のいずれの位置であっても良く、それぞれ複数個であっても良い。それぞれのリアクト値は異なっていても良く、極端には正側または負側だけに挿入することもできる。
また、各セル群5a、6aと交流端7との間に正側リアクトル9pと負側リアクトル9nをそれぞれ挿入する代わりに、各セル群5a、6aに対して個別にトランスを設け、各セル群5a、6aを各トランスの一次巻線を介して互いに直列に接続する一方、各トランスの二次巻線を互いに接続してその一端部を交流端7に接続した構成とすることも可能である(特開平2013−115837号公報参照)。
【0023】
各変換器セル10の構成例を図2に示す。
【0024】
図2に示す変換器セル10は、ハーフブリッジ構成を採用した変換器セル10であり、それぞれダイオード31が逆並列に接続された複数(この場合2個)の半導体スイッチング素子30(以下、単にスイッチング素子と称す)の直列体32と、この直列体32に並列接続され直流電圧を平滑化する直流コンデンサ34とを備える。
【0025】
各スイッチング素子30は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やGCT(Gate Commutated Turn−off thyristor)等の自己消弧型のスイッチング素子から成り、それぞれダイオード31が逆並列に接続されたスイッチ33P、33Nが用いられる。
【0026】
そして、図2に示すように、各変換器セル10は、スイッチ33Nのスイッチング素子30の両端子を出力端とし、各スイッチ33N、33Pのスイッチング素子30をオン・オフさせることにより、出力端から直流コンデンサ34の両端電圧およびゼロ電圧を出力する。
【0027】
各変換器セル10の別例による構成例を図3に示す。
【0028】
図3に示す変換器セル10は、フルブリッジ構成を採用した変換器セル10であり、2つの直列体32を並列接続し、さらに直列体32に並列接続され直流電圧を平滑化する直流コンデンサ34を備えている。各直列体32は、それぞれダイオード31が逆並列に接続された複数(この場合2個)のスイッチング素子30を直列接続して構成される。スイッチング素子30は、IGBTやGCT等の自己消弧型のスイッチング素子から成り、それぞれダイオード31が逆並列に接続されて構成されるスイッチ33P1、33P2、33N1、33N2が用いられる。
【0029】
そして、図3に示すように、変換器セル10は、それぞれの直列体32の中間接続点となるスイッチング素子30の端子を出力端とし、スイッチング素子30をオン・オフさせることにより、この出力端から、直流コンデンサ34の両端の正電圧、負電圧およびゼロ電圧を出力する。
【0030】
なお、変換器セル10は、複数のスイッチング素子30の直列体32と、この直列体32に並列に接続された直流コンデンサ34とから成り、スイッチング動作により直流コンデンサ34の電圧を選択的に出力する構成であれば、図2図3で示した構成に限定されるものではない。
【0031】
図4はこの発明の実施の形態1による直流送電電力変換装置の制御装置の構成例を示すブロック図である。
各相の正側アーム5と負側アーム6に流れる正側アーム電流ipと負側アーム電流ip、各相の交流線に流れる交流電流ip、直流母線2、3間の直流電圧Vdc、直流母線2、3に流れる直流電流idc、および各変換器セル10の直流コンデンサ34に加わるコンデンサ電圧Vcapは、それぞれ図示しない検出器によって検出されて制御装置20に入力される。
【0032】
なお、直流電流idcは、各相の正側アーム5と負側アーム6に流れる電流ip、ipから演算して使用してもよい。同様に、各相の交流電流ipも各相の正側アーム5と負側アーム6に流れる電流ip、ipから演算して使用してもよい。
【0033】
概略的には、制御装置20は、直流電圧制御部21、直流電流制御部22、電流制御部25の各出力を加算器23、26で加算することで、正側アーム5に流れる電流制御用の正側アーム電圧指令Vpと、負側アーム6に流れる電流制御用の負側アーム電圧指令Vpとをそれぞれ生成する。そして、制御装置20は、次段のPWM制御部27においてこれらの正側アーム電圧指令Vpと負側アーム電圧指令Vpとに基づいてゲート信号27aを生成し、このゲート信号27aによって各相の正側アーム5と負側アーム6の各変換器セル10の動作を制御する。
【0034】
具体的には、コンデンサ電圧制御部24は、各変換器セル10の直流コンデンサ34のコンデンサ電圧Vcapを制御するために、検出された各相全ての各変換器セル10のコンデンサ電圧Vcapに基づいて、当該直流コンデンサ34に対する電圧制御用の有効電流指令値ipref、正側アーム電流指令値ipref、負側アーム電流指令値iprefをそれぞれ各相ごとに生成する。
【0035】
電流制御部25は、コンデンサ電圧制御部24から与えられる電流指令値(有効電流指令値ipref、正側アーム電流指令値ipref、負側アーム電流指令値ipref)と、各相で検出された正側アーム電流ip、負側アーム電流ip、および検出された各相の交流電流ipの情報に基づき、各相の正側アーム5と負側アーム6に流れる交流電流制御用の電圧指令Vpc、Vpcを各相ごとに生成する。つまり、PWM制御部27に与えられる各アーム電圧指令Vp、Vpの内、各相の正側アーム5と負側アーム6に流れる交流電流を制御する電圧指令Vpc、Vpcを各相ごとに生成する。
【0036】
直流電圧制御部21は、検出される直流母線2、3間の直流電圧Vdcと、各相全ての各変換器セル10のコンデンサ電圧Vcapと、図示しない上位の制御装置から与えられる直流電圧の制御目標値となる直流電圧指令値Vdcrefとに基づいて、直流電圧制御用の直流電圧指令Vdcの内の主成分を生成して出力する。
【0037】
直流電流制御部22は、検出される直流電流idcと、図示しない上位の制御装置から与えられる直流電流の制御目標値となる直流電流指令値idcrefとに基づいて、直流電圧制御用の直流電圧指令Vdcの内の一部の成分(直流線路のインピーダンス成分)を生成して出力する。
【0038】
直流電圧制御部21及び直流電流制御部22の出力は、加算器23で加算されて直流電圧制御用の直流電圧指令Vdcが生成される。次に、電流制御部25が出力する各相の正側アーム5と負側アーム6の交流電流制御用の電圧指令Vpc、Vpcと、加算器23で得られた直流電圧指令Vdcとが、加算器26で加算されて、正側アーム電圧指令Vpと負側アーム電圧指令Vpが得られる。PWM制御部27は、これらの各電圧指令Vp、Vpに基づいてパルス幅変調制御(PWM制御)によるゲート信号27aを生成することで、各変換器セル10の動作を制御する。
【0039】
なお、上述の直流電圧制御部21、直流電流制御部22、および加算器23が、特許請求の範囲における直流制御部に対応している。
【0040】
次に、この実施の形態1に係る制御装置20における制御動作の詳細について、以下に説明する。
【0041】
正側アーム5のセル群5aが出力する電圧と負側アーム6のセル群6aが出力する電圧には、連系変圧器13の交流端7に印加される交流電圧成分と、直流母線2、3間に出力される直流電圧成分と、正側リアクトル9pと負側リアクトル9nに印加される電圧成分とが含まれている。
【0042】
電力変換器1を構成する全ての変換器セル10のコンデンサ電圧Vcapを合成(加算値または平均値)した合成電圧ΣVcapは、交流電源14から流入する有効電力と直流電源16に流出する直流電力との差電力が、各変換器セル10のスイッチングに伴い直流コンデンサ34へ流れる直流電流に変換されて、各変換器セル10の直流コンデンサ34を充放電することで制御される。したがって、交流電源14に流れる有効電流を制御することで合成電圧ΣVcapを制御できる。
【0043】
上記の合成電圧ΣVcapは、各相のレグ回路4の間の電力融通により制御することができる。すなわち、例えば、各相のレグ回路4の間にいわゆる循環電流を流すことにより電力を融通することで、各相間のアンバランスを解消することができる。
【0044】
この原理に基づき、コンデンサ電圧制御部24は、各変換器セル10の直流コンデンサ34のコンデンサ電圧Vcapを制御するために、各正側アーム5および各負側アーム6の各変換器セル10のコンデンサ電圧Vcapを検出した情報に基づき、交流電源14に流れる有効電流制御用の有効電流指令値ipref、正側アーム5と負側アーム6の電圧制御用の正側アーム電流指令値iprefと負側アーム電流指令値iprefをそれぞれ生成して出力する。
【0045】
電流制御部25は、セル群5a、6aが出力する電圧の交流電圧成分と、正側と負側の各アーム5、6が備える各リアクトル9p、9nに印加される電圧とを制御する。すなわち、電流制御部25は、コンデンサ電圧制御部24から与えられる電流指令値(有効電流指令値ipref、正側アーム電流指令値ipref、負側アーム電流指令値ipref)に対して、各相の交流電流ipおよび各相で検出された正側アーム電流ip、負側アーム電流ipが一致するようにフィードバック制御し、各相の正側アーム5と負側アーム6に流れる交流電流を制御する電圧指令Vpc、Vpcを各相ごとに生成する。
【0046】
直流電圧制御部21は、直流電圧の制御目標値となる直流電圧指令値Vdcrefに対して、検出される直流母線2、3間の直流電圧Vdcが一致するようにフィードバック制御し、直流電圧制御用の直流電圧指令Vdcの内の主成分を生成して出力する。
【0047】
直流電流idcは、直流母線2、3間の電圧と直流電源16の電圧の差電圧がインピーダンス15に印加されることで流れる。この原理に基づき、直流電流制御部22は、直流電流の制御目標値となる直流電流指令値idcrefに対して、検出される直流電流idcが一致するようにフィードバック制御し、直流母線2、3間の直流電圧を制御するための直流電圧指令Vdcの一部の成分(直流線路のインピーダンス成分)を生成する。直流電圧制御部21と直流電流制御部22の出力は、加算器23で加算されることで直流電圧制御用の直流電圧指令Vdcを演算する。
【0048】
次に、次段の加算器26は、電流制御部25が出力する各相の正側アーム5と負側アーム6の交流電流制御用の電圧指令Vpc、Vpcと、加算器23が出力する直流電圧制御用の直流電圧指令Vdcとを加算して、正側アーム電圧指令Vpと負側アーム電圧指令Vpを演算する。そして、PWM制御部27は、各電圧指令Vp、Vpに基づいてパルス幅変調制御(PWM制御)によるゲート信号27aを生成する。
【0049】
ところで、異なる交流系統間で有効電力を送受電するように、複数の電力変換器1を直流連系した構成とすると、直流電源16が他の交直変換端子(以下、第2の交直変換端子と呼ぶ)となる。このとき、例えば、第2の交直変換端子である直流電源16が電力変換器1と制御装置20とを備えた構成であるとした場合、第2の交直変換端子である制御装置20において、直流電流制御部22の出力を制限して零とし、直流電圧制御部21の出力に応じて直流母線2、3間の直流電圧Vdcを制御する場合には、第2の交直変換端子である直流電源16は直流電圧源と等価となる。
【0050】
このとき、図4に示す電力変換器1の制御装置20は、直流電流制御部22の出力を制限して零となるようにし、直流電圧制御部21の出力に応じて直流母線2、3間の直流電圧Vdcを制御するので、図1に示す電力変換器1は直流電圧源と等価な動作となる。
【0051】
これとは逆に、第2の交直変換端子である直流電源16の制御装置20の直流電流制御部22が電流源と等価な動作を行っている場合には、図4に示す電力変換器1の制御装置20は、直流電圧制御部21の出力を制限して零となるようにし、直流電流制御部22の出力に応じて直流母線2、3間の直流電圧Vdcを制御することで、インピーダンス15と直流電源16からなる直流回路に対して電流源と等価な動作を行うようになる。
【0052】
このように、複数の電力変換器1を直流連系した構成とする場合、直流電圧Vdcを制御する交直変換端子が少なくとも一つ存在し、それ以外は直流電流idcを制御する交直変換端子となる。
【0053】
電力変換器1の制御装置20が直流電流制御部22の出力を制限して零とし、直流電圧制御部21の出力に応じて制御している場合、すなわち、図1に示す電力変換器1が直流電圧源と等価な動作を行っている場合において、交流電源14で交流電圧Vpの大きさが低下する系統事故(瞬低)が発生する場合を考える。この場合、交流電力が低下することで、直流電力とのバランスが崩れ、差電力が発生する。この差電力の発生に応じて、各変換器セル10の直流コンデンサ34を充放電することとなる。
【0054】
その際、直流電圧制御部21は、検出される各直流コンデンサ34のコンデンサ電圧Vcapの情報に基づき、各相全ての変換器セル10のコンデンサ電圧Vcapを合成(加算値または平均値)した合成電圧ΣVcapの大きさが、予め設定された第1の所定値ΔVmaxを超過するか、あるいは第2の所定値ΔVmin(<ΔVmax)を下回った場合に、直流電流idcまたはその直流電流指令値idcrefの向きに応じて、直流電圧指令値Vdcrefを予め設定した固定値ΔVdcref分だけ増加または減少させる。
【0055】
この場合、上記の第1の所定値ΔVmaxは、変換器セル10が故障検出となるコンデンサ電圧Vcapの過電圧レベル以下に設定する。また、第2の所定値ΔVminは、変換器セル10が故障検出となるコンデンサ電圧Vcapの低電圧レベル以上に設定するのが好ましい。また、固定値ΔVdcrefは、インピーダンス15の抵抗成分の大きさに応じて設定するのが望ましい。
【0056】
このように、合成電圧ΣVcapの大きさが、予め設定された第1の所定値ΔVmaxを超過して直流電流idcが電力変換器1から直流電源16へ流れ出る方向の場合には、直流電圧指令値Vdcrefを減少して直流電流idcが電力変換器1から流れ出る量を抑制する。これとは逆に、合成電圧ΣVcapの大きさが、予め設定された第2の所定値ΔVminを下回って直流電流idcが直流電源16から電力変換器1に流れ込む方向の場合には、直流電圧指令値Vdcrefを増加して直流電流idcが電力変換器1に流れ込む量を抑制する。
【0057】
この制御により、直流電流idcの大きさを減少させることで直流電力の大きさを減少させる。これにより、系統事故(瞬低)の発生などにより、交流電源14の電圧低下に起因した交流電力低下に伴う、各変換器セル10の直流コンデンサ34の充放電によるコンデンサ電圧Vcapの変動を抑制することができる。
【0058】
すなわち、交流電源14の電圧低下によって電力変換器1の電流容量の制約から送受電可能な交流電力が減少しても、直流電流idcの大きさを減少することで、直流電力の大きさを減少させて、コンデンサ電圧制御部24が出力する有効電流指令値iprefがその制限内に留まり、交流と直流の電力をバランスすることができる。
【0059】
そして、全ての変換器セル10のコンデンサ電圧Vcapを合成(加算値または平均値)した合成電圧ΣVcapの大きさが、第1の所定値ΔVmaxと第2の所定値ΔVminとの間にある場合には、各変換器セル10の直流コンデンサ34の充放電によるコンデンサ電圧Vcapの変動が抑制された状態となっているので、交流系統事故の解消とは直接に関係なく、直流電圧指令値Vdcrefを固定値ΔVdcref分だけ増加または減少させる処理を停止し、元の直流電圧指令値Vdcrefに復帰させる。
【0060】
なお、この停止操作にあたり、Vdcref±ΔVdcrefの値から、Vdcrefへの復帰は、時間の経過に応じて緩やかに変化させるのが望ましい。このようにすれば、交流系統事故時にコンデンサ電圧Vcapの変動を抑制しつつ、コンデンサ電圧Vcapの過電圧や低電圧の検出を防止して運転継続することができる。
【0061】
また、制御装置20の直流電流制御部22は、その出力を制限しているが、その場合、インピーダンス15の抵抗成分の大きさにより生じる直流電圧よりも大きいが、直流電圧指令値ΔVdcrefにより制御される直流電圧変化よりも小さい値に制限するのが望ましい。
【0062】
以上のように、この実施の形態1では、交流電源14で交流電圧Vpの大きさが低下する系統事故(瞬低)が発生するなどして各変換器セル10のコンデンサ電圧Vcapが変動した場合には、そのコンデンサ電圧Vcapの変動に応じて、直流電圧制御部21の直流電圧指令値Vdcrefを制御することで、直流電力の大きさを調整し、交流電源14の電圧低下による交流電力低下時においても、交流電力と直流電力をバランスすることができる。これにより、故障検出をすることなく、コンデンサ電圧制御部24の動作により各変換器セル10のコンデンサ電圧Vcapの変動を抑制して運転継続することが可能となる。
【0063】
実施の形態2.
図5は、この発明の実施の形態2による直流送電電力変換装置の制御装置の構成例を示すブロック図である。
【0064】
この実施の形態2において、電力変換器1の構成は図1で示した上記実施の形態1と同様であるが、制御装置20の構成が上記実施の形態1と異なる。
【0065】
この実施の形態2では、コンデンサ電圧制御部24は、実施の形態1の場合と同様に、各変換器セル10のコンデンサ電圧Vcapを制御するために、検出された各相の全ての各変換器セル10のコンデンサ電圧Vcapの情報に基づき、電流指令値(有効電流指令値ipref、正側アーム電流指令値ipref、負側アーム電流指令値ipref)を生成して電流制御部25に与える。
【0066】
特に、コンデンサ電圧制御部24が出力する有効電流指令値iprefは、各相全ての変換器セル10のコンデンサ電圧Vcapの合成電圧ΣVcapをフィードバック制御するために、交流電源14に流れる有効電流を調整するものであるが、この有効電流指令値iprefは、電力変換器1が流し得る電流値、すなわち電流容量の制限を受ける。
【0067】
このため、有効電流指令値iprefに対しては、その値が所定の範囲に入るような制限値iprefmaxを設けている(リミッタ機能)。そして、この実施の形態2では、コンデンサ電圧制御部24は、制限前後の偏差を有効電流超過成分Δip(=iprefmax−ipref)として求め、これを後述の直流電流演算部28に出力する。
【0068】
電流制御部25は、実施の形態1と同様に、コンデンサ電圧制御部24から与えられる電流指令値(有効電流指令値ipref、正側アーム電流指令値ipref、負側アーム電流指令値ipref)と、検出された各電流ip、ip、ipの情報に基づき、各アーム電圧指令Vp、Vpの内、正側アーム5と負側アーム6に流れる交流電流制御用の電圧指令Vpc、Vpcを各相ごとに生成する。
【0069】
直流電流演算部28は、コンデンサ電圧制御部24から与えられる前述の有効電流超過成分Δip、検出された直流母線2、3間の直流電圧Vdc、および連系変圧器13の交流電源14側もしくは電力変換器1側で検出された各相の交流電圧Vpの情報に基づいて、有効電流超過成分Δipの直流換算値としての直流電流超過成分Δidcを求め、この直流電流超過成分Δidcを直流電流制御部22に出力する。
【0070】
直流電圧制御部21は、実施の形態1の場合と異なり、各変換器セル10のコンデンサ電圧Vcapの検出出力は入力されておらず、直流母線2、3間の直流電圧Vdcの情報のみが入力されている。そして、直流電圧制御部21は、この直流電圧Vdcが、図示しない上位の制御装置から与えられる直流電圧の制御目標値となる直流電圧指令値Vdcrefに一致するようにフィードバック制御し、直流電圧制御用の直流電圧指令Vdcの主成分を生成して出力する。
【0071】
直流電流制御部22は、検出される直流電流idcと、図示しない上位の制御装置から与えられる直流電流の制御目標値となる直流電流指令値idcref、および上述の直流電流演算部28から与えられる直流電流超過成分Δidcの情報に基づいて、直流電圧制御用の直流電圧指令Vdcの内の一部の成分(直流線路のインピーダンス成分)を生成して出力する。
【0072】
以降は実施の形態1の場合と同様、直流電圧制御部21と直流電流制御部22の出力は、加算器23で加算されて直流電圧制御用の直流電圧指令Vdcが生成される。次いで、加算器26で電流制御部25が出力する各相の正側アーム5と負側アーム6の交流電流制用の電圧成分Vpc、Vpcと、加算器23で得られた直流電圧指令Vdcとが加算されて、正側アーム電圧指令Vpと負側アーム電圧指令Vpが得られる。PWM制御部27は、これらの各電圧指令Vp、Vpに基づいてパルス幅変調制御(PWM制御)によるゲート信号27aを生成することで、各変換器セル10の動作が制御される。
【0073】
次に、この実施の形態2に係る制御装置20における制御動作の詳細について、以下に説明する。
【0074】
前述のように、コンデンサ電圧制御部24が出力する有効電流指令値iprefに対しては、それが所定の範囲に入るような制限値iprefmaxを設けている(リミッタ機能)。すなわち、合成電圧ΣVcapのフィードバック制御では、この合成電圧ΣVcapと予め設定された指令値との偏差を増幅して有効電流指令値iprefを得ており、偏差が大きい場合には、有効電流指令値iprefが制限値iprefmaxによる制限を受けるため、制限前後に偏差が生じる。
【0075】
この偏差が生じている場合には、各変換器セル10のコンデンサ電圧Vcapの合成電圧ΣVcapが制御できないことを意味しており、交流電源14からコンデンサ電圧Vcapを維持するために必要な十分な電力を得られないこととなる。これを防止するためには、直流電力を低減するように、つまり直流電流idcの大きさを減少するように動作する。
【0076】
まず、コンデンサ電圧制御部24が生成する有効電流指令値iprefが制限値iprefmaxを越えるような場合、制限前後の偏差を有効電流超過成分Δip(=iprefmax−ipref)として直流電流演算部28に出力する。
【0077】
なお、この場合の有効電力超過分Δipの演算は、三相交流の瞬時値電圧と電流の積和から演算しても良く、あるいは三相交流を直交座標系に変換して同様に電圧と電流の積和から演算しても良い。その際、不平衡時や過渡時に生じる電力Pに含まれる交流電源14の周波数の2倍周波、1倍周波を除去するフィルタを構成するのが望ましい。
【0078】
直流電流演算部28は、コンデンサ電圧制御部24から出力される有効電流超過成分Δipと、検出した交流電圧Vpの大きさとに基づいて有効電力超過分ΔPを演算する。次いで、直流電流演算部28は、有効電力超過分ΔPを直流電圧Vdcで除算することで、有効電流超過成分Δipの直流換算値としての直流電流超過成分Δidcを求める。この演算は、交流電力と直流電力が釣り合う条件から導かれる。そして、この直流電流演算部28で演算された直流電流超過成分Δidcは、直流電流制御部22に与えられる。
【0079】
なお、有効電力超過分ΔPを直流電圧Vdcで除算する場合には、直流電圧Vdcの動作範囲を考慮して除算前の直流電圧Vdcの値を所定値以上に制限し、直流電源16の電圧低下時や直流母線2、3間の短絡故障時には除算により過大なΔidcが演算されないようにするのが望ましい。
【0080】
直流電流制御部22は、直流電流演算部28から与えられる直流電流超過成分Δidc、検出される直流電流idc、および直流電流の制御目標値となる直流電流指令値idcrefの各情報に基づいて、以下の処理を行う。
【0081】
ここで、有効電流超過成分Δipが、交流電源14から電力変換器1へ流入する電力を表す極性である場合、すなわち、直流電流idcが電力変換器1から直流電源16へ流出する電力を表す極性の場合には、直流電流制御部22は、直流電流の制御目標値となる直流電流指令値idcrefから直流電流超過成分Δidcを減算する補正を行う。
【0082】
この場合、交流電源14から電力変換器1へ流入させたい電力は、有効電流指令値iprefの制限により不足するが、直流電流指令値idcrefを直流電流超過成分Δidcだけ減少するようにするので、電力の均衡を保つことができる。
【0083】
一方、有効電流超過成分Δipが、電力変換器1から交流電源14へ流出する電力を表す極性である場合、すなわち、直流電流idcが直流電源16から電力変換器1へ流入する電力を表す極性の場合には、直流電流制御部22は、直流電流の制御目標値となる直流電流指令値idcrefに直流電流超過成分Δidcを加算する補正を行う。
【0084】
この場合、電力変換器1から交流電源14へ流出させたい電力は、有効電流指令値iprefの制限により不足するが、直流電流指令値idcrefを直流電流超過成分Δidcだけ増加するようにするので、電力の均衡を保つことができる。
【0085】
なお、上記のように直流電流超過成分Δidcによって直流電流指令値idcrefを補正する場合には、直流電流超過成分Δidcに関する不感帯を設け、直流電流超過成分Δidcの大きさが所定値以上となったときに動作するようにするのが好ましい。
【0086】
そして、直流電流制御部22は、補正後の直流電流指令値(idcref−Δidc)、または(idcref+Δidc)に対して、検出した直流電流idcが一致するようにフィードバック制御を行い、直流母線2、3間の直流電圧Vdcを制御するように直流電圧指令Vdcの一部の成分を生成して出力する。
【0087】
直流電圧制御部21は、直流母線2、3間の直流電圧Vdcが直流電圧指令値Vdcrefに一致するようにフィードバック制御され、直流母線2、3間の直流電圧Vdcを制御するための直流電圧指令Vdcの一部の成分(直流線路のインピーダンス成分)を生成して出力する。
【0088】
以降は実施の形態1の場合と同様、加算器23は、直流電圧制御部21の出力と直流電流制御部22の出力を加算して、直流電圧制御用の直流電圧指令Vdcを演算する。次いで、次段の加算器26は、電流制御部25が出力する各相の正側アーム5と負側アーム6の交流電流制用の電圧成分Vpc、Vpcと、加算器23で得られた直流電圧制御用の直流電圧指令Vdcとを加算して、正側アーム電圧指令Vpと負側アーム電圧指令Vpを演算する。そして、PWM制御部27は、各電圧指令Vp、Vpに基づいてパルス幅変調制御(PWM制御)によるゲート信号27aを生成する。
【0089】
ところで、異なる交流系統間で有効電力を送受電するように、複数の電力変換器1を直流連系した構成とすると、直流電源16が他の交直変換端子となる。そして、直流で連系された電力変換器1は、直流電圧Vdcを制御する交直変換端子が少なくとも一つ存在し、それ以外は直流電流idcを制御する交直変換端子となる。その場合の詳細は実施の形態1で既に説明しているので、ここでは詳しい説明は省略する。
【0090】
以上のように、この実施の形態2では、コンデンサ電圧制御部24において、全ての変換器セル10のコンデンサ電圧を合成(加算値または平均値)した合成電圧ΣVcapをフィードバック制御するときに、有効電流指令値iprefがリミッタ機能によって制限を受ける場合でも、直流電流制御部22において、直流電流の制御目標値となる直流電流指令値idcrefを直流電流超過成分Δidcでもって補正するように動作するので、交流電力と直流出力の均衡を保つことができ、合成電圧ΣVcapのフィードバック制御が機能するようになる。
【0091】
このため、交流電源14で交流電圧の大きさが低下する系統事故(瞬低)が発生するなどして各変換器セル10のコンデンサ電圧Vcapが変動した場合には、そのコンデンサ電圧Vcapの変動に応じて、合成電圧ΣVcapのフィードバック制御が機能するので、各変換器セル10の直流コンデンサ34のコンデンサ電圧Vcapを安定して維持することができ、直流電流を主として制御する交直変換端子においても、各変換器セル10のコンデンサ電圧Vcapの変動を抑制して故障検出せずに運転継続することができる。
【0092】
実施の形態3.
図6は、この発明の実施の形態3による直流送電電力変換装置の制御装置の構成例を示すブロック図である。
【0093】
この実施の形態3において、電力変換器1の構成は図1で示した上記実施の形態1と同様であるが、制御装置20の構成が上記実施の形態1、2の場合と若干異なっている。
【0094】
この実施の形態3において、直流電圧制御部21と電流制御部25の構成は実施の形態1の場合と同様であり、また、コンデンサ電圧制御部24、直流電流演算部28、加算器23、26、およびPWM制御部27の構成は実施の形態2の場合と同様である。
【0095】
直流電流制御部22は、実施の形態2の場合と異なり、検出される直流電流idcと、直流電流演算部28が演算した直流電流超過成分Δidcとが入力されるのに加えて、検出される各相全ての変換器セル10のコンデンサ電圧Vcapが入力されている。そして、直流電流制御部22は、これらの情報に基づいて直流電圧指令Vdcの一部の成分(直流線路のインピーダンス成分)を出力する。
【0096】
次に、この実施の形態3に係る制御装置20における制御動作の詳細について、以下に説明する。
【0097】
図6の構成において、電力変換器1の制御装置20が直流電流制御部22の出力を制限して零とし、直流電圧制御部21の出力に応じて制御している場合、すなわち、図1に示す構成の電力変換器1が直流電圧源と等価な動作を行っている場合において、交流電源14で交流電圧の大きさが低下する系統事故(瞬低)が発生すると、交流電力が低下することで、直流電力とのバランスが崩れ、差電力が発生する。この差電力の発生に応じて、各変換器セル10の直流コンデンサ34を充放電することとなる。
【0098】
その際、直流電流制御部22は、検出される各直流コンデンサ34のコンデンサ電圧Vcapの情報に基づき、各相全ての変換器セル10のコンデンサ電圧を合成(加算値または平均値)した合成電圧ΣVcapの大きさが、予め設定された第1の所定値ΔVmaxを超過するか、あるいは第2の所定値ΔVmin(<ΔVmax)を下回った場合には、直流電流制御部22を制限してその出力を零としている機能を解除し、直流電流制御部22のフィードバック制御が動作するようにしている。
【0099】
すなわち、このフィードバック制御において、直流電流制御部22は、実施の形態2の場合と同様に、直流電流idcが電力変換器1から直流電源16へ流出する電力を表す極性の場合と、直流電流idcが直流電源16から電力変換器1へ流入する電力を表す極性の場合と応じて、それぞれ直流電流の制御目標値となる直流電流指令値idcrefに対して直流電流超過成分Δidcを減算あるいは加算した補正を行う。
【0100】
そして、直流電流制御部22は、補正後の直流電流指令値(idcref−Δidc)または(idcref+Δidc)に対して、検出した直流電流idcが一致するようにフィードバック制御を行い、直流母線2、3間の直流電圧Vdcを制御するように直流電圧指令Vdcの一部の成分を生成して出力する。
【0101】
その後、補正後の直流電流指令値(idcref−Δidc)または(idcref+Δidc)と、検出した直流電流idcとの偏差の大きさが所定値以下になると、この補正を停止し、直流電流制御部22は、再度、直流電流制御部22の出力を制限して零とするように動作する。
【0102】
なお、上記のように、再度、直流電流制御部22の出力を制限して零にする過程においては、直流電流制御部22の出力を時間の経過とともに緩やかに変化させるようにする、すなわち、上記第1電圧指令Vpと上記第2電圧指令Vpの直流電圧成分Vdcが緩やかに変化するようにするのが望ましい。
【0103】
なお、この実施の形態3において、直流電圧制御部21、電流制御部25、およびPWM制御部27の各動作は実施の形態1と同様であり、また、コンデンサ電圧制御部24および直流電流演算部28の動作は、実施の形態2と同様であるので、ここでは詳しい説明は省略する。
【0104】
以上のように、この実施の形態3では、全ての変換器セル10のコンデンサ電圧を合成(加算値または平均値)したΣVcapの変動に応じて、実施の形態1と同じく、直流電圧制御部21の直流電圧指令値Vdcrefを制御することで直流電力の大きさを減少させることに加えて、直流電流制御部22において、直流電流の制御目標値となる直流電流指令値idcrefを直流電流超過成分Δidcによって補正するようにしたので、直流電圧を主として制御する交直変換端子においても、交流電力と直流電力の均衡を保ち各変換器セル10のコンデンサ電圧Vcapの変動を抑制して、故障検出をすることなく、運転継続することが可能となる。
【0105】
なお、この発明は上記の各実施の形態1〜3の構成のみに限定されるものではなく、この発明の趣旨を逸脱しない範囲において、各実施の形態1〜3の構成の一部に変形を加えたり、構成を一部省略することができ、また、各実施の形態1〜3の構成を適宜組み合わせることが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6