特許第6207735号(P6207735)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6207735-回転アクチュエータ 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207735
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】回転アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/28 20060101AFI20170925BHJP
   H02K 7/116 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   F16H1/28
   H02K7/116
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-524959(P2016-524959)
(86)(22)【出願日】2014年6月2日
(86)【国際出願番号】JP2014064606
(87)【国際公開番号】WO2015186172
(87)【国際公開日】20151210
【審査請求日】2016年10月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】矢口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】小林 清人
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−72358(JP,A)
【文献】 実開昭56−59339(JP,U)
【文献】 特開2012−47325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/28
H02K 7/116
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸線の方向に所定の間隔を開けて相互に固定された第1固定部材および第2固定部材と、
前記第1固定部材を前記中心軸線の方向に貫通し、前記第2固定部材まで軸先端部が延びる回転軸と、
前記第1固定部材と前記回転軸の間に装着され、前記回転軸を前記第1固定部材に対して回転自在に支持する第1軸受けと、
前記第2固定部材と前記回転軸の軸先端部の間に装着され、前記回転軸を前記第2固定部材に対して回転自在に支持する第2軸受けと、
前記回転軸における前記第1固定部材から前記第2固定部材とは反対側に突出する軸後端部に固定したモーターローターと、
前記第1固定部材における前記第2固定部材とは反対側の部位に固定され、前記モーターローターの外周を一定のギャップで取り囲むモーターステーターと、
前記第2固定部材の外周を取り囲む回転出力部材と、
前記第2固定部材と前記回転出力部材の間に装着され、前記回転出力部材を前記第2固定部材に対して回転自在に支持する第3軸受けと、
前記第1固定部材および前記第2固定部材の間に組み込まれ、前記回転軸の回転を減速して前記回転出力部材に伝達する減速機構と
前記回転出力部材を、前記第1固定部材によって、前記中心軸線の方向から回転可能に支持するために、前記回転出力部材と前記第1固定部材の間に装着されたすべり軸受けと
を有している回転アクチュエータ。
【請求項2】
前記すべり軸受けは、前記内歯歯車を取り囲む状態で、前記回転出力部材と前記第1固定部材の間の隙間に摺動可能に装着された摺動リングであり、
前記隙間は、前記摺動リングによってシールされている請求項1に記載の回転アクチュエータ。
【請求項3】
前記減速機構は、
前記回転軸における前記第1、第2固定部材の間に位置する軸部分の外周面に形成した太陽歯車と、
前記第1、第2固定部材の間において、これらの間に架け渡した遊星軸に回転自在に支持され、前記太陽歯車にかみ合っている遊星歯車と、
前記回転出力部材と前記第1固定部材の間に位置し、前記回転出力部材に固定され、前記遊星歯車にかみ合っている内歯歯車と、
を有している請求項1に記載の回転アクチュエータ。
【請求項4】
前記第1固定部材の外周縁部分において、前記第2固定部材とは反対側に突出した円筒部と、
前記円筒部の先端開口を封鎖するエンドカバーと、
を有しており、
前記第1固定部材と前記エンドカバーとで囲まれた空間内に前記モーターローターおよび前記モーターステーターが位置している、
請求項1ないし3のうちのいずれか一つの項に記載の回転アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーターおよび減速機を備えた回転アクチュエータに関し、特に、中心軸線方向の寸法が小さい偏平構造の回転アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
偏平構造の回転アクチュエータは、特許文献1、2において提案されている。これらの文献に記載の回転アクチュエータ(減速機付きモータ)は、偏平なアウターローター型のモーターと、これに隣接配置した偏平な遊星歯車減速機から構成されている。
【0003】
特許文献1においては、モーター回転軸と減速機出力軸とが同軸に配置され、モーター回転軸は一対の転がり軸受けで支持され、減速機出力軸は円筒状の滑り軸受で支持されている。特許文献2においては、モーター回転軸の軸先端部の外周面に遊星歯車減速機の太陽歯車が形成されている。モーター回転軸は一対のボールベアリングで支持され、その減速機側に位置する軸先端部は1個のボールベアリングで支持されている。
【0004】
また、特許文献2においては、回転出力部材である減速機のキャリアが、複数のスラスト軸受けを介して、固定側のモータベースおよびギヤベースに支持されている。これにより、キャリアに加わるスラスト力を固定側の部材で受けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−129374号公報
【特許文献2】特開2012−36910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に示されているように、回転アクチュエータでは、モーターの側において回転軸が中心軸線の方向に隣り合って配置された一対の軸受けによって支持される。回転軸の軸受けの個数を減らすことができれば、モーター部分の中心軸線の方向の寸法を小さくでき、回転アクチュエータの偏平化にとって有利である。
【0007】
また、特許文献2に示されているように、回転出力部材に作用するスラスト力を受けるために、複数のスラスト軸受けが配置される。スラスト力を、小型でコンパクトな軸受け機構によって支持できれば、回転アクチュエータの偏平化にとって有利である。
【0008】
さらに、回転アクチュエータにおいては、減速機から外部にグリースが流出しないように、シール機構が組み込まれる。グリースの流出を、小型でコンパクトなシール機構によって防止できれば、回転アクチュエータの偏平化にとって有利である。
【0009】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、インナーローター型のモーターを用いた偏平な回転アクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の回転アクチュエータは、
中心軸線の方向に所定の間隔を開けた状態で相互に固定された第1固定部材および第2固定部材と、
前記第1、第2固定部材の間に形成された空間と、
前記第1固定部材を前記中心軸線の方向に貫通し、前記第2固定部材まで軸先端部が延びる回転軸と、
前記第1固定部材と前記回転軸の間に装着され、前記回転軸を前記第1固定部材に対して回転自在に支持する第1軸受けと、
前記第2固定部材と前記回転軸の軸先端部の間に装着され、前記回転軸を前記第2固定部材に対して回転自在に支持する第2軸受けと、
前記回転軸における前記第1固定部材から前記第2固定部材とは反対側に突出する軸後端部に固定したモーターローターと、
前記第1固定部材における前記第2固定部材とは反対側の部位に固定され、前記モーターローターの外周を一定のギャップで取り囲むモーターステーターと、
前記第2固定部材の外周を取り囲む回転出力部材と、
前記第2固定部材と前記回転出力部材の間に装着され、前記回転出力部材を前記第2固定部材に対して回転自在に支持する第3軸受けと、
前記第1固定部材および前記第2固定部材の間に組み込まれ、前記回転軸の回転を減速して前記回転出力部材に伝達する減速機構と、
を有していることを特徴としている。
【0011】
本発明の回転アクチュエータでは、第1、第2固定部材が中心軸線方向に所定の間隔を開けて相互に固定され、第1固定部材における第2固定部材とは反対側にモーター構成部品(モーターローター、モーターステーター)が組み付けられ、第1、第2固定部材の間に、減速機構が組み込まれる。相互に固定された第1、第2固定部材の中心部分に通した回転軸は、第1、第2軸受けを介して、これらの第1、第2固定部材によって支持される。回転軸は、中心軸線方向に離れたモーター側の部分と減速機側の部分との2点で支持される。また、第1、第2固定部材は相互に固定されており、回転軸を大きな支持力で支持することができる。よって、モーター側において回転軸を複数個の軸受けを用いて支持する必要がなく、回転アクチュエータの中心軸線方向の寸法を小さくできる。
【0012】
本発明において、前記減速機構としては遊星歯車機構を用いることができる。この場合の減速機構は、
前記回転軸における前記第1、第2固定部材の間に位置する軸部分の外周面に形成した太陽歯車と、
前記第1、第2固定部材の間において、これらの間に架け渡した遊星軸に回転自在に支持され、前記太陽歯車にかみ合っている遊星歯車と、
前記回転出力部材と前記第1固定部材の間に位置し、前記回転出力部材に固定され、前記遊星歯車にかみ合っている内歯歯車と、
を有している。
【0013】
本発明において、回転出力部材に作用するスラスト力を受けるために、前記回転出力部材と前記第1固定部材の間に装着され、前記回転出力部材を、前記第1固定部材に対して、前記中心軸線の方向から回転可能に支持する滑り軸受けを有していることが望ましい。滑り軸受は一般的な転がりスラスト軸受けに比べて小型でコンパクトであるので、回転アクチュエータの偏平化に有利である。
【0014】
この場合、前記すべり軸受けは、前記内歯歯車を取り囲む状態で、前記回転出力部材と前記第1固定部材の間の隙間に摺動可能に装着され、当該隙間をシールしている摺動リングであることが望ましい。
【0015】
摺動リングは、滑り軸受けとして機能すると共にグリースの流出を防止するためのシール機構として機能する。滑り軸受けとシール機構とを別個に配置する場合に比べて、回転アクチュエータの偏平化に有利である。
【0016】
本発明において、前記第1固定部材の外周縁部分に、前記第2固定部材とは反対側に突出した円筒部を形成し、この円筒部の先端開口をエンドカバーで封鎖し、エンドカバーで封鎖された空間内にモーターローターおよびモーターステーターを配置すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明を適用した回転アクチュエータの縦断面図、モーター側の端面図および減速機側の端面図である。
図2図1のII−II線で切断した場合の回転アクチュエータの概略横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した回転アクチュエータの実施の形態を説明する。
【0019】
図1(a)は本実施の形態に係る回転アクチュエータの縦断面図であり、図1(b)はそのモーター側の端面図であり、図1(c)はその減速機側の端面図である。回転アクチュエータ1は、その中心軸線1aの方向において、同軸に隣接配置されたモーター2および減速機3を備えている。また、減速機3に対してモーター2とは反対側に、同軸に配置された円環状の回転出力板4を備えている。
【0020】
モーター2は、インナーローター型のものであり、回転軸5と、この回転軸5の軸後端部5bに同軸に固定したモーターローター6と、モーターローター6の外周を一定のギャップで同心状態に取り囲むモーターステーター7とを備えている。減速機3は遊星歯車減速機であり、回転軸5の外周面に形成した太陽歯車8と、この太陽歯車8を同心状態に取り囲む円環状の内歯歯車9と、太陽歯車8および内歯歯車9の間に配置され、これらの双方にかみ合っている遊星歯車10とを備えている。モーター軸である回転軸5の回転は、減速機3を介して減速され、回転出力板4から出力される。
【0021】
図2は、回転アクチュエータ1を図1(a)のII−II線で切断した場合の概略横断面図である。図1図2を参照して、回転アクチュエータ1の内部構造を詳しく説明する。
【0022】
回転アクチュエータ1は、第1固定部材である第1固定円板11と、第2固定部材である第2固定円板12とを備えている。第1固定円板11は、モーター2と減速機3の間を仕切る円板状の仕切り板部分11aを備えている。また、仕切り板部分11aの外周縁部には、中心軸線1aの方向に沿って減速機3とは反対側に突出しているステーターヨークとして機能する円筒部11bが形成されている。仕切り板部分11aの中心部分には円形の中心貫通穴11cが形成されている。また、仕切り板部分11aには、中心軸線1aを中心として等角度間隔で、第2固定円板12の側に突出するスペーサ用の円柱状突部11dが形成されている。
【0023】
第2固定円板12は、第1固定円板11に比べて小径の円板であり、その中心部分には、第1固定円板11の側に開口した円形の凹部12aが形成されている。第2固定円板12は、第1固定円板11の3箇所の円柱状突部11dの先端面に重ね合わされた状態で、その外側端面12bの側から装着された3本の締結ボルト13によって第1固定円板11に締結固定されている。円柱状突部11dによって、第1、第2固定円板11、12の間には、一定幅の隙間が形成される。
【0024】
一定間隔で締結固定されている第1、第2固定円板11、12の中心部分には、中心軸線1aを回転中心とする回転軸5が通されている。回転軸5は第1固定円板11の中心貫通穴11cを貫通し、その軸先端部5aは第2固定円板12の凹部12a内まで延びている。回転軸5の軸後端部5bの側は、中心貫通穴11cから第2固定円板12とは反対側に突出している。
【0025】
回転軸5の軸後端部5bの外周面と、第1固定円板11の中心貫通穴11cの円形内周面との間には、第1転がり軸受け14が装着されている。回転軸5の軸先端部5aの外周面と、第2固定円板12の凹部12aの円形内周面との間には、第2転がり軸受け15が装着されている。これら第1、第2転がり軸受け14、15を介して、回転軸5は、相互に締結固定されている第1、第2固定円板11、12によって、回転自在の状態で支持されている。
【0026】
次に、モーター2について説明する。回転軸5の軸後端部5bは、第1固定円板11の中心貫通穴11cから第2固定円板12とは反対方向に所定量だけ突出している。この軸後端部5bには、モーターローター6が同軸に固定されている。モーターローター6は、円盤状のローターヨーク6aと、このローターヨーク6aの円形外周面に固定したローターマグネット6bとを備えている。ローターヨーク6aの中心部分には円筒状のボス6cが形成されている。ボス6cの円形貫通穴に回転軸5の軸後端部5bが圧入固定されている。また、ボス6cの外周面に第1転がり軸受け14が装着され、ボス6cを介して、回転軸5の軸後端部5bが回転自在に支持されている。
【0027】
モーターステーター7は、ローターマグネット6bの円形外周面を一定のギャップで半径方向の外側から取り囲む状態に配置されている。モーターステーター7は、第1固定円板11に形成した円筒部11b(ステーターヨーク)と、円筒部11bから一定の角度間隔で半径方向の内側に突出している複数の突極7aと、各突極7aに巻き付けた各相の駆動コイル7bとを備えている。
【0028】
円筒部11bの円環状端面には、円盤状のモーターエンドカバー16が固定されている。第1固定円板11とモーターエンドカバー16とによって囲まれる空間内に、モーターローター6およびモーターステーター7が位置している。
【0029】
次に減速機3について説明する。減速機3の太陽歯車8は、第1、第2固定円板11、12の間に位置する回転軸5の軸部分の外周面に形成されている。太陽歯車8を同心状に取り囲む状態に、第1、第2固定円板11、12の間には、中心軸線1aに平行な方向に3本の遊星軸17が架け渡されている。遊星軸17は、円周方向において、円柱状突部11dの間に位置するように配置されている。各遊星軸17には遊星歯車10が回転自在の状態で支持されている。遊星歯車10の半径方向の外側に、円環状の内歯歯車9が配置されている。内歯歯車9は、第1固定円板11とは反対側に隣接配置されている円環状の回転出力板4に同軸に固定されている。
【0030】
回転出力板4は、第2固定円板12を外周側から取り囲む状態に配置されている。第2固定円板12の円形外周面と回転出力板4の円形内周面との間には、第3転がり軸受け18が装着されている。この第3転がり軸受け18を介して、回転出力板4は、第2固定円板12によって回転自在の状態に支持されている。
【0031】
また、回転出力板4と第1固定円板11との間には、摺動リング19が装着されている。摺動リング19を介して、回転出力板4は中心軸線1aの方向から第1固定円板11によって支持されている。また、摺動リング19は、回転出力板4と第1固定円板11との間の隙間をシールし、グリースが減速機3から外部に流出することを防止している。
【0032】
詳しく説明すると、回転出力板4の外周縁部には、第1固定円板11に面する円環状端面4aが形成されている。円環状端面4aの外周縁からは、第1固定円板11の側に向かって突出する円筒状突起4bが形成されている。第1固定円板11の側には、円環状端面4aに向かって突出している円環状突面11eが形成されている。
【0033】
第1固定円板11の円環状突面11eと、これに対峙する回転出力板4の円環状端面4aとの間において、円筒状突起4bの内側に、矩形断面をした摺動リング19が装着されている。円環状突面11eと円筒状突起4bの間は微少な隙間となっており、この内側の円環状突面11eと円環状端面4aとの間の隙間は、摺動リング19によってシールされている。
【0034】
摺動リング19は、例えば、回転出力板4の側に固定されており、回転出力板4の回転に伴って、第1固定円板11の円環状突面11eに沿って摺動する。したがって、摺動リング19は、第1固定円板11の円環状突面11eとの間の摺動抵抗が可能な限り小さくなるように、低摩擦係数の素材から形成することが望ましい。また、摺動摩耗が少なく耐摩耗性の高い素材から形成することが望ましい。このような低摩擦係数および低摩耗性を有する樹脂あるいはセラミックスを用いることができる。
【0035】
回転アクチュエータ1において、モーター2を回転駆動して回転軸5を高速回転させる。回転軸5の高速回転は、減速機3によって減速され、その出力要素である内歯歯車9が減速回転する。よって、内歯歯車9に固定されている回転出力板4から減速回転が不図示の負荷側に出力される。
【0036】
なお、上記の例では、減速機3として遊星歯車減速機を用いている。減速機3としては、サイクロ減速機(登録商標)、RV減速機等を用いることも可能である。
図1
図2