(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207783
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】抗原特異的T細胞の増殖のための方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0783 20100101AFI20170925BHJP
C12N 5/0784 20100101ALI20170925BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20170925BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20170925BHJP
【FI】
C12N5/0783
C12N5/0784
C12N5/078
!C12N15/00 A
【請求項の数】14
【外国語出願】
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-49576(P2017-49576)
(22)【出願日】2017年3月15日
(62)【分割の表示】特願2014-504319(P2014-504319)の分割
【原出願日】2012年4月12日
(65)【公開番号】特開2017-127314(P2017-127314A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2017年3月15日
(31)【優先権主張番号】61/474,904
(32)【優先日】2011年4月13日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512112873
【氏名又は名称】イミュニカム・エイビイ
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】カールソン−パラ,アレックス
(72)【発明者】
【氏名】ワルグレン,アンナ−カリン
(72)【発明者】
【氏名】アンデション,ベント
【審査官】
小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−521406(JP,A)
【文献】
J. Immunother., 2010, Vol.33, No.6, p.648-658
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍を有する患者に投与するために好適な遺伝子改変型抗原特異的CD4+および/またはCD8+T細胞のプライミングのためのin vitro法であって、治療される患者に由来する腫瘍抗原受容体発現標的T細胞、成熟樹状細胞、ならびに抗原提示細胞(APC)上のMHCクラスIおよび/またはMHCクラスII抗原に感作したリンパ球を抗CD3抗体の存在下で共培養することを含み、そして前記感作リンパ球は、第2の健常ドナーからの抹消血単核細胞(PMBCs)と、第1の健常ドナーからの非増殖APCsを培養することによって得られる、方法。
【請求項2】
前記腫瘍抗原受容体は、T細胞受容体(TCR)およびキメラ抗原受容体(CAR)から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記非増殖抗原提示細胞は、PBMCおよび単球由来樹状細胞からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記成熟樹状細胞は、まず、単球をGM−CSFおよびIL−4を含む組成物中で1〜7日間培養して未熟樹状細胞を得ること、次に、少なくとも12時間培養することで前記未熟樹状細胞を成熟樹状細胞とすることができる第2の組成物を加えることによって得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の組成物は、TNFα、IL−1β、インターフェロンγ、インターフェロンαまたはインターフェロンβ、およびTLR3リガンドを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の組成物は、TNFα、インターフェロンγ、TLR3リガンドおよび/またはTLR4リガンド、ならびにTLR7アゴニストおよび/またはTLR8アゴニストを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記TLR3リガンドはポリ−I:Cであり、かつ、前記TLR8アゴニストはR848である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞は4〜20日間培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
外因性IL−2、IL−7、IL−15、抗IL−4および/またはIL−21が細胞培養に加えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記プライミングされた抗原特異的CD4+および/またはCD8+T細胞は、前記細胞を新たな樹状細胞、および新たな感作同種異系リンパ球とともに抗CD3抗体の存在下で培養することにより再刺激される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記プライミングされた抗原特異的CD4+および/またはCD8+T細胞は、前記細胞を新たな樹状細胞、新たな感作同種異系リンパ球とともに抗CD3抗体の存在下で培養すること、および外因性IL−2、IL−7、IL−15、抗IL−4および/またはIL−21を前記細胞培養に添加することにより再刺激される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記TLR3リガンドはポリ-I:Cを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項13】
前記非増殖APCsは前記成熟樹状細胞に対して自己である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記非増殖APCsは照射された末梢血単核細胞(PMBCs)である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫学および癌治療の分野、より具体的には、遺伝子改変型抗原特異的T細胞の活性化方法および前記方法により生産される遺伝子改変型T細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
T細胞は腫瘍または感染細胞を認識し、これらの標的細胞を殺傷することによって疾病の発症を防ぐ。しかしながら、特異的T細胞の存在下で発症する癌または慢性感染により示されるように、腫瘍または病原体と免疫系の相互作用は複雑であり、それにより、これらの病原体または腫瘍は明らかにT細胞の監視を逃れることができる。
【0003】
病原性侵入物を実質的に検知するT細胞の能力は、その極めて多様な受容体レパートリーにより付与されるものであり、これにより、T細胞プールは、主要組織適合複合体(MHC)分子によって提示された際に莫大な数のペプチドを認識することが可能となる。それにもかかわらず、T細胞受容体(TCR)を介したシグナル伝達(シグナル1)は、共刺激分子が増殖、生存、および分化に不可欠なシグナル(シグナル2)を提供するので、十分なT細胞の活性化には及ばない。実際に、シグナル2を受け取らずにシグナル1のみを受け取るナイーブT細胞は無力(不応答)となるか、またはアポトーシスを経て死に至る。完全なT細胞の活性化にはシグナル1と2の組込みが必要であり、これらのシグナルの強度はその後のT細胞プールのサイズを定める。さらに、エフェクターT細胞への完全な分化は一般に第3のシグナルに依存し、この第3のシグナルは抗原提示細胞(APC)によって可溶型で供給され、必要とされるエフェクターT細胞のタイプを指示するシグナルを提供する。この「3シグナル」の概念は、ナイーブT細胞の活性化とそれに続くエフェクターT細胞の形成の1つのモデルを表している。さらに、免疫系は多数の多様な共刺激分子を提供し、これらの種々のタイプのシグナル2および3は全て、それら固有のユニークな方法でT細胞応答の質に寄与している。共刺激シグナルおよび可溶型のシグナル3は、生存、細胞周期の進行、発達するエフェクター細胞のタイプ、およびエフェクター細胞またはメモリー細胞のいずれに分化するかなどの、T細胞活性化の特定の側面に働き得る。
【0004】
今般、成熟抗原提示樹状細胞(DC)は、長命のメモリーCD8+T細胞を誘導するためには、CD4+T細胞、NK細胞およびNKT細胞を含む他のリンパ球による「助け」が必要であることが一般に認知されている。この「助け」は成熟DCをさらに分化させ、このプロセスはライセンシングとして知られる。「ヘルパー」シグナルは、DCに対して、共刺激分子のアップレギュレーション、サイトカインの分泌、および数種の抗アポトーシス分子のアップレギュレーションを含む複数の作用を持ち、これらは全て、同族T細胞、特にCD8
+T細胞を最適に活性化するDCの能力を累積的に増強する。さらに、「ヘルパー」リンパ球はまた、T細胞の生存、細胞周期の進行、発達するエフェクター細胞のタイプ、およびエフェクター細胞またはメモリー細胞のいずれに分化するかに直接影響を及ぼす因子を発現または分泌し得る。
【0005】
慢性感染または急速進行性の癌に対抗するための1つの戦略は、宿主において特異的T細胞応答を回復させるためのエフェクターT細胞の移入を含む養子T細胞療法である。望まれる特異性のT細胞を得るための最近の技術開発は、様々な臨床現場で養子T細胞療法を使用することへの関心の高まりを作り出した。養子細胞移入療法とは、ex vivoで活性化および拡大培養された自己腫瘍反応性T細胞の投与である。癌治療における養子細胞移入療法の使用にはいくつかの潜在的利点がある。腫瘍特異的T細胞は、腫瘍の免疫原性特性にかかわらずにex vivoで活性化され、拡大培養して増数することができ、しかも、それらの養子移入の前にT細胞の機能的および表現型的な質を選択することができる。
【0006】
養子移入後、T細胞が定着腫瘍の退縮を引き起こすためには、いくつかの事象が起こらなければならない。より具体的には、T細胞はin vivoで抗原特異的再刺激によって活性化されなければならず、次に、これらのT細胞は有意な腫瘍量の破壊を引き起こし得るレベルまで数を増さなければならなず、抗腫瘍細胞は全ての腫瘍細胞の根絶を完了するまで十分に長い期間生存しなければならない。
【0007】
これまでに、固形腫瘍を有する患者に養子移入するための細胞を選択するために使用された判定基準は、抗腫瘍T細胞の、IFN−γ放出能および共培養時の腫瘍細胞殺傷能であった。しかしながら、今般、これらの判定基準だけではin vivo有効性が予測できないことが明らかである。非特許文献1は、完全なエフェクター特性を獲得し、かつ、in vitroで抗腫瘍反応性の増強を示すCD8
+T細胞は、in vivoにおいて腫瘍退縮の誘発および治癒に効果が低いことを見出した。
【0008】
従来技術による方法は、臨床上適切なレベルの腫瘍特異的細胞傷害性T細胞を得るために1回以上の再刺激を必要とする。例えば、非特許文献2および非特許文献3が参照され、この場合には、約19%の腫瘍特異的CD8+T細胞レベルを達成するために再刺激1〜2回が必要であった。再刺激はこれらの細胞を低活性とし、アポトーシスに近づける。
【0009】
初代ヒトリンパ球への遺伝子移入により、抗腫瘍特異性を有する操作細胞を与えることができる腫瘍抗原受容体分子の導入が可能となる(非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6)。自己末梢血リンパ球(PBL)は、腫瘍抗原反応性T細胞受容体(TCR)を発現するように改変することができる。Yangら(非特許文献7)は、in vitro形質導入により抗腫瘍T細胞を作出する方法を開示している。彼らは、抗腫瘍T細胞抗原受容体(TCR)を発現するようにCD8
+T細胞の遺伝子改変を行うためにレンチウイルス介在系を用いる。CD8
+T細胞を効果的に拡大培養するために、同種異系末梢血単核細胞(PBMC)由来の照射フィーダー細胞と抗CD3抗体からなる迅速拡大培養(REP)プロトコール(Ridellらの特許文献1;1998)が使用された。しかしながら、たとえin vitroにおけるT細胞の拡大培養に極めて効率的であったとしても、このREPプロトコールが誘導するT細胞は通常、再注入した後の生存能および拡大能が最適には満たないものである(非特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,827,642号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Gattinoni et al., J. Clin. Invest. 115: 1616−1626 (2005)
【非特許文献2】Ho et al., Journal of Immunological Methods, 310(2006), 40−50
【非特許文献3】Gritzapis et al., J. Immunol., 2008; 181; 146−154
【非特許文献4】Vera et al., Curr Gene Ther. 2009; 9: 396−408
【非特許文献5】Sadelain et al., Nat Rev Cancer. 2003; 3: 35−45
【非特許文献6】Murphy et al., Immunity. 2005; 22: 403−414
【非特許文献7】Yang et al., J. Immunother., 2010, vol. 33; 648−658
【非特許文献8】Robbins et al., Journal of Immunology, 2004, 173: 7125−30
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
よって、養子免疫療法に使用するための、再注入後の抗原特異的T細胞の増殖および生存を高める、T細胞集団を調製する方法の大きな必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
概要
本発明は、腫瘍を有する患者への投与に好適な遺伝子改変型の抗原特異的CD4+および/またはCD8+T細胞のプライミングのためのin vitro法に関する。この方法は、治療される患者に由来する抗原受容体発現標的T細胞、樹状細胞、抗CD3抗体、ならびに抗原提示細胞(APC)上のMHCクラスIおよび/またはMHCクラスII抗原に感作したリンパ球を共培養することを含む。
【0014】
本発明はまた、前記方法により得ることができる抗原特異的CD4+および/またはCD8+T細胞およびそれらの使用にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、従来のMLR(=同種感作同種異系リンパ球;ASAL)において、照射した同種異系の末梢血単核細胞(PBMC)上で発現されたMHC抗原に感作したリンパ球は、ASALのプライミングに用いた照射PBMCに対して自己である、共培養した成熟単球由来DC上でのCD70の発現を著しく増強することを示す。
【
図2】
図2は、γ線照射ASALが、ASALのプライミングに用いた照射PBMCに対して自己である、共培養した成熟単球由来DC上のCD70の発現を増強することを示す。
【
図3】
図3は、ASALを、ASALのプライミングに用いた照射PBMCに対して自己である単球由来DCと共培養すると、実質的なIL−12生産が誘導されることを示す。
【
図4】
図4は、ASALを、ASALのプライミングに用いた照射PBMCに対して自己である単球由来DCと共培養すると、実質的なIFN−γ生産が誘導されることを示す。
【
図5】
図5は、ASALを、ASALのプライミングに用いた照射PBMCに対して自己である単球由来DCと共培養すると、実質的なIL−2生産が誘導されることを示す。
【
図6A-C】
図6A−
図6Cは、成熟単球由来DCを、CD4
+、CD8
+またはCD56
+リンパ球を除去したASALと共培養した結果としてのIL−2、IL−12およびIFN−γ生産を示す。
【
図7】
図7は、ASALを、ASALのプライミングに用いた照射PBMCに対して自己である単球由来DCと共培養すると、非感作同種異系CD8
+T細胞の増殖性応答が高まることを示す。
【
図8】
図8は、同種異系CD8
+標的細胞の初回刺激の際に、ASALのプライミングに用いた照射PBMCに対して自己である単球由来DCに照射ASALを添加すると、これらの標的細胞が、初回標的細胞刺激に用いたDCに対して自己であるB細胞で再刺激された場合に、CD27発現同種異系反応性CD8
+標的細胞の数の増加がもたられることを示す。
【
図9】
図9は、同種異系CD8
+標的細胞の初回刺激の際に、ASALのプライミングに用いた照射PBMCに対して自己である照射PBMCに照射ASALを添加すると、これらの標的細胞が、初回標的細胞刺激に用いたDCに対して自己であるB細胞で再刺激された場合に、アポトーシス性(アネキシン−V陽性)標的細胞の数の減少がもたらされることを示す。
【
図10】
図10は、同種異系CD8
+標的細胞の初回刺激の際に、ASALのプライミングに用いた照射PBMCに対して自己である照射単球由来DCに照射ASALを添加すると、これらの同種異系反応性CD8
+標的細胞が、初回標的細胞刺激に用いたDCに対して自己であるB細胞で再刺激された場合に、より強い(6倍の)二次的増殖性応答がもたらされることを示す。
【
図11】
図11は、同種異系CD8
+標的細胞の初回刺激の際に、ASALのプライミングに用いた照射PBMCに対して自己である照射単球由来DCに照射ASALを添加すると、これらの同種異系反応性CD8
+標的細胞が、初回標的細胞刺激に用いたDCに対して自己であるB細胞で再刺激された場合に、IFN−γ生産の実質的増大がもたらされることを示す。
【
図12】
図12は、ASALのプライミングに用いた照射PBMCに対して自己である成熟した単球由来DCに照射ASALを添加すると、抗CD3抗体に対するFc−γ受容体であるCD64を発現するDCの数が増えることを示す。
【
図13】
図13は、CD3+標的T細胞(非トランスフェクト)が成熟DCおよび照射ASALとともに、OKT3(抗CD3抗体)およびIL−2を添加した培地で12日間共培養され拡大されるASALプロトコールが、REPプロトコールで拡大培養されたT細胞に比べて、アポトーシス誘導H
2O
2処理に対する耐性がより高いT細胞を誘導することを示す。
【
図14】
図14は、CD3+標的T細胞(非トランスフェクト)が成熟DCおよび照射ASALとともに、OKT3(抗CD3抗体)およびIL−2を添加した培地で12日間共培養され拡大されるASALプロトコールが、REPプロトコールで拡大培養されたT細胞に比べて、アポトーシス誘導ドキソルビシン処理に対する耐性がより高いT細胞を誘導することを示す。
【
図15】
図15は、CD3+T細胞の、膠芽腫癌細胞で発現されたGD2抗原に対するキメラ抗原受容体(CAR)での効率的レンチウイルストランスフェクションを示す(>40%のトランスフェクト細胞)。
【
図16】
図16は、ASALプロトコールが、標準的なREPプロトコールに比べて、CARでトランスフェクトされたCD3+T細胞の同等の拡大培養を誘導することを示す。
【
図17】
図17は、ASALプロトコールが、REPプロトコールに比べて、CARトランスフェクトCD8+T細胞を優先的に拡大培養することを示す。
【
図18】
図18は、ASALプロトコールが、REPプロトコールに比べて、同等またはより多数の、CD27を発現するCARトランスフェクトCD3+T細胞を誘導することを示す。
【
図19】
図19は、ASALプロトコールが、REPプロトコールで拡大培養されたCARトランスフェクトT細胞の特異的殺傷能と同等の、GD2発現腫瘍細胞の特異的殺傷能を有するCARトランスフェクトT細胞を拡大培養することを示す。無関連のT2細胞を対照標的として用いた。菱形(◆)=REP対GD2陰性標的;四角(■)=ASAL対GD2陰性標的;三角(▲)=REP対GD2発現標的細胞;クロス(×)=ASAL対GD2発現標的。
【
図20】
図20は、CD107a(溶解性顆粒エキソサイトーシスのマーカー)の膜発現によって測定されるCARトランスフェクトT細胞における腫瘍特異的細胞傷害活性が、REPプロトコールで拡大培養されたCARトランスフェクトT細胞に比べて、CARトランスフェクトT細胞がASALプロトコールで拡大培養された場合には、潜在的腫瘍由来抑制因子(IL−10、TNF−βおよび/またはH
2O
2)に対する耐性がより高いことを示す。黒い柱=REPで拡大培養されたT細胞;白い柱=ASALプロトコールで拡大培養されたCARトランスフェクトT細胞。
【
図21】
図21は、相互作用および標的細胞の殺傷後のCARトランスフェクトT細胞の増殖性応答が、REPプロトコールで拡大培養されたCARトランスフェクトT細胞に比べて、より高く、潜在的腫瘍由来抑制因子への曝露に対する耐性がより高いことを示す。A:免疫抑制剤無し;B:IL−10/TGF−β処理;C:H
2O
2処理;D:IL−10/TGF−βおよびH
2O
2処理。
【0016】
定義
本発明を記載する前に、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲およびその等価物によってのみ限定されるので、本明細書で使用する用語は単に特定の実施形態を記載する目的で用いられ、限定を意図するものではないと理解されるべきである。
【0017】
本明細書および添付の特許請求の範囲で用いる場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈がそうではないことを明らかに示さない限り、複数の指示対象を含むことを述べておかなければならない。
【0018】
また、用語「約」は、適切であれば、示された値の+/−2%、好ましくは+/−5%、最も好ましくは数値の+/−10%の偏差を示すために用いられる。
【0019】
本発明に関して、用語「抗原特異的」とは、自己のMHC分子上に提示される短いユニークなペプチド配列の、ユニークなT細胞受容体(TCR)による特異的認識/結合に関する。
【0020】
本発明に関して、用語「プライミング」および「活性化」とは、「ヘルパー」細胞が同時に存在する状態または同時に存在しない状態で抗原提示細胞により刺激されるようになったナイーブ抗原特異的T細胞で起こるプログラムされた活性化プロセスに関する。
【0021】
本発明に関して、用語「レスポンダー細胞」とは、共培養された同種異系PMBCに対して活性化および/または増殖により応答する、限定されるものではないがT細胞、NK細胞およびNKT細胞を含む、種々のリンパ球部分集団に関する。
【0022】
本発明に関して、用語「感作した細胞」とは、共培養された、PBMCを含む、同種異系細胞により予め活性化された、T細胞、NK細胞およびNKT細胞を含む、種々のリンパ球部分集団に関する。
【0023】
本発明に関して、用語「標的細胞」とは、抗CD3抗体などの抗体と組み合わせた同種異系または自己のいずれかのAPCにより刺激されるようになったCD4+またはCD8+T細胞に関する。患者のリンパ球(標的細胞)採取部位は、例えば、末梢血、腫瘍、腫瘍所属リンパ節または骨髄である。
【0024】
本発明に関して、単球由来DCに関して用語「成熟」とは、未熟DCをLPSなどの微生物産物またはTNF−αおよび/もしくはIL−1βなどの炎症性メディエーターで刺激することにより誘導される、限定されるものではないがCD40、CD86、CD83およびCCR7を含む、それらの「成熟マーカー」の発現に関する。
【0025】
未熟DCは、高いエンドサイトーシス活性と低いT細胞活性化能を特徴とする細胞である。未熟DCは、周囲環境をウイルスおよび細菌などの病原体に関して絶えずサンプリングしている。未熟DCは病原体を貪食し、それらのタンパク質を分解して小片とし、成熟時には、MHC分子を用いて、それらの細胞表面にこれらの断片を提示する。同時に、それらは、それらのT細胞活性化能を著しく増強するCD80、CD86、およびCD40など、T細胞の活性化において共受容体として働く細胞表面受容体をアップレギュレートする。それらはまた、樹状細胞を血流を通じて脾臓へ、またはリンパ系を通じてリンパ節へ送る走化性受容体CCR7もアップレギュレートする。ここで、それらは抗原提示細胞として働き、それらは、非抗原特異的共刺激シグナルとともに、病原体に由来する抗原を提示することにより、ヘルパーT細胞およびキラーT細胞ならびにB細胞を活性化する。成熟DCはおそらく、体内を循環し適切なシグナルに応じてDCまたはマクロファージのいずれかに変化することができる白血球細胞である単球から生じる。そして、これらの単球は骨髄中の幹細胞から形成される。単球由来DCはin vitroでは末梢血単球から生成できる。
【0026】
本発明に関して、細胞の「非増殖性」という用語は、細胞分裂による後代形成が不能となった細胞を示すために用いる。この細胞はそれでもなお、刺激に対して応答したり、またはサイトカインなどの細胞産物の生合成および/または分泌を行ったりすることができる。細胞を非増殖性とする方法は当技術分野で公知である。細胞を非増殖性とする好ましい方法は、マイトマイシンCなどの抗増殖薬による処理、またはγ線照射などの照射である。固定または透過処理を施された分裂不能の細胞も、非増殖性細胞の例である。
【0027】
本発明に関して、用語「混合リンパ球反応」、「混合リンパ球培養」、「MLR」、およびMLCは、アロタイプが異なる最低2つの異なるT細胞集団を含む混合物を表すために互換的に用いられる。少なくとも1つの、アロタイプが異なる細胞はリンパ球である。これらの細胞は一定時間一緒に培養されると、好適な条件下でリンパ球が刺激される。MLRの目的の多くは、リンパ球の増殖を誘導するなどの同種異系刺激を提供することであるが、示されない限り、培養中の増殖は必要でない。適切な文脈では、これらの用語はあるいはこのような培養に由来する細胞の混合物を意味する場合もある。
【0028】
本明細書において、用語「治療」とは、治療される個体または細胞の自然経過を変更する試みにおける臨床介入を意味し、予防のため、または臨床病理学の過程で行われる場合もある。望ましい効果としては、疾病の発生または再発の予防、症状の緩和、および疾病の任意の直接的または間接的病理帰結の軽減、転移の防止、疾病進行の減速、病態の改善または軽減、および予後の緩解または改善が含まれる。
【0029】
用語「抗原提示細胞」、または「APC」は、無傷な完全細胞、ならびに好ましくはクラスI MHC分子と会合した1以上の抗原の提示を誘導し得るその他の分子(全て同種異系起源)、および同種異系免疫応答を誘導し得るあらゆるタイプの単核細胞の双方を含む。完全な生細胞をAPCとして使用することが好ましい。好適なAPCの例としては、限定されるものではないが、単球、マクロファージ、DC、単球由来DC、マクロファージ由来DC、B細胞および骨髄性白血病細胞、例えば、細胞株THP−1、U937、HL−60またはCEM−CM3などの完全細胞である。骨髄性白血病細胞は、いわゆる前単球を提供するとされている。
【0030】
用語「癌」、「新生物」および「腫瘍」は互換的に用いられ、本明細書および特許請求の範囲で見られるように、単数形または複数形で、それらを宿主生物にとって病的とする悪性化を受けた細胞を意味する。原発性癌細胞(すなわち、悪性化部位の近傍から得られた細胞)は、十分に確立された技術、特に組織学的検査によって非癌性細胞から容易に識別することができる。本明細書において、癌細胞の定義には、原発性癌細胞だけでなく、癌細胞祖先に由来するいずれの細胞も含まれる。これには転移した癌細胞、ならびに癌細胞に由来するin vitro培養物および細胞株が含まれる。通常固形腫瘍として顕在化するタイプの癌に関して、「臨床上検出可能な」腫瘍とは、例えば、CATスキャン、磁気共鳴画像法(MRI)、X線、超音波または触診などの手法によって、腫瘍塊に基づいて検出可能なものである。本発明に関連する腫瘍/癌の限定されない例としては、癌腫(例えば、乳癌、前立腺癌、肺癌、結腸直腸癌、腎癌、胃癌および膵臓癌)、肉腫(例えば、骨癌および滑膜癌)、神経内分泌腫瘍(例えば、膠芽腫、髄芽細胞腫および神経芽腫)、白血病、リンパ腫および扁平上皮癌(例えば、子宮頸癌、膣癌および口腔癌)がある。さらに、本発明に関連する腫瘍/癌の限定されない例としては、神経膠腫、線維芽細胞腫、神経肉腫、子宮癌、黒色腫、精巣腫瘍、星状細胞腫、異所性ホルモン産生腫瘍、卵巣癌、膀胱癌、ウィルムス腫瘍、血管作用性腸管ペプチド分泌腫瘍、頭頸部扁平上皮細胞癌、食道癌、または転移性癌がある。前立腺癌および乳癌が特に適している。
【0031】
本発明に関して、用語「培養する」とは、様々な種類の培地での細胞または生物のin vitro増殖を意味する。培養増殖された細胞の後代はその親細胞と完全に(形態的、遺伝的、または表現型的に)同一でない場合があると理解される。好適な培養培地は当業者により選択可能であり、このような培地の例としては、RPMI培地またはイーグルの最小必須培地(EMEM)がある。
【0032】
用語「主要組織適合複合体」および「MHC」とは、T細胞に対する抗原提示および迅速な移植片拒絶に必要とされる細胞表面分子をコードする遺伝子の複合体を意味する。ヒトでは、MHC複合体はHLA複合体としても知られている。MHC複合体によりコードされているタンパク質は「MHC分子」として知られ、クラスIおよびクラスII MHC分子に分類される。クラスI MHC分子には、MHCにコードされている鎖がβ2−ミクログロブリンと非共有結合的に会合したものからなる膜ヘテロ二量体タンパク質である。クラスI MHC分子は、ほぼ全ての有核細胞により発現され、CD8+T細胞に対する抗原提示において機能を果たすことが示されている。クラスI分子には、ヒトではHLA−A、−B、および−Cが含まれる。クラスI分子は一般に、8〜10アミノ酸長のペプチドと結合する。クラスII MHC分子もまた、膜ヘテロ二量体タンパク質を含む。
【0033】
クラスII MHCはCD4+T細胞に対する抗原提示に関与することが知られており、ヒトでは、HLA−DP、−DQ、およびDRが含まれる。クラスII分子は一般に、12〜20アミノ酸残基長のペプチドと結合する。用語「MHC拘束」とは、プロセシングを受けた後にのみ抗原の認識が可能となるT細胞の特徴を意味し、結果として生じた抗原ペプチドは自己クラスIまたは自己クラスII MHC分子のいずれかと会合して提示される。
【0034】
用語「ワクチン」、「免疫原」、または「免疫原性組成物」は、ヒトまたは動物被験体に投与された際に一定程度の特異的免疫を付与することができる化合物または組成物を意味するために本明細書で用いられる。本開示に使用する場合、「細胞ワクチン」または「細胞免疫原」とは、所望により不活性化された少なくとも1つの細胞集団を有効成分として含む組成物を意味する。本発明の免疫原、および免疫原性組成物は活性型であるが、これはそれらが宿主の免疫系により少なくとも部分的に媒介される特異的免疫応答(抗腫瘍抗原または抗癌細胞応答など)を刺激し得ることを意味する。この免疫応答は、抗体、免疫反応性細胞(ヘルパー/インデューサーまたは細胞傷害性細胞など)、またはそれらの任意の組合せを含んでよく、好ましくは、その治療が対象とする腫瘍上に存在する抗原に向けられたものである。この応答は、単回用量または多回用量のいずれかの投与によって被験体において惹起または再刺激され得る。
【0035】
化合物または組成物は、a)ナイーブ個体における抗原(腫瘍抗原など)に対する免疫応答の生成;またはb)個体における、その化合物または組成物が投与されなかった場合に生じるものを超える免疫応答の再構築、追加免疫、または維持、のいずれかが可能であれば「免疫原性」である。組成物は、単回用量または多回用量で投与された際にこれらの判定基準のいずれかを達成可能であれば、免疫原性である。
【0036】
説明
本発明は、抗CD3抗体と組み合わせた、樹状細胞(DC)を含む抗原提示細胞による活性化の際に抗原特異的T細胞の増殖および生存の増大を促進するための、同種感作した同種異系リンパ球(ASAL)の生産に関する。
【0037】
本発明は、ヒト健常血液ドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)およびその部分集団を用いたin vitro研究に基づくが、ここで、抗原特異的ヒトCD8+T細胞応答の誘導におけるASALの正の調節の役割が実証された。同種異系in vitroモデルを用いて、ASALの存在下で同種異系反応性CD8+T細胞の増殖および生存を追跡すると、再刺激後の増殖能は5倍を超える増大を示し、アポトーシス細胞死は10%から5%に減少した。
【0038】
抗原特異的ヒトCD4
+およびCD8
+T細胞は、腫瘍抗原受容体をコードする遺伝子の形質導入またはトランスフェクションによってin vitroで作出することができる。本発明は、標的抗原を認識するT細胞受容体(TCR)またはキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように操作された(ウイルス形質導入、トランスフェクション、エレクトロポレーションまたはその他の遺伝物質導入法による)T細胞を含む養子免疫療法に用いるためのT細胞集団を調製し;これらの操作T細胞を、感作した同種異系リンパ球および抗CD3抗体の存在下、DCで活性化し;これらの細胞を培養で拡大し;及び、これらの細胞を患者に再導入する方法に関する。
【0039】
ASALの添加は、抗原提示DC上での共刺激分子CD70の強くアップレギュレートされた発現をもたらし、かつ、T細胞の1型CD4+およびCD8+T細胞への運命決定によく知られた正の影響を持つ2つの因子IL−12およびIFN−γの生産をもたらす。さらに、ASALの添加は、T細胞に関するよく知られた増殖因子IL−2の生産をももたらした。特に、CD70が介在する相互作用は、最近、連続して何回も分裂することで活性化されたT細胞の生存を増進し、それにより、エフェクターT細胞の蓄積に寄与することが示された。
【0040】
より具体的には、本発明は、腫瘍を有する患者への投与に好適な遺伝子改変型の抗原特異的CD4+および/またはCD8+T細胞のプライミングのためのin vitro法に関する。この方法は、治療される患者に由来する腫瘍抗原受容体発現標的T細胞を、DC、抗CD3抗体、ならびに抗原提示細胞(APC)上のMHCクラスIおよび/またはMHCクラスII抗原に感作したリンパ球を共培養することを含み、前記APCは好ましくは前記リンパ球に対して同種異系であり、かつ、前記樹状細胞は好ましくは単球に由来する。抗CD3抗体の添加は、Fc/Fc受容体の相互作用によるそれらの、樹状細胞との結合をもたらし、これにより、抗体アームを有する樹状細胞はCD3発現T細胞と直接相互作用してこれを活性化することができる。
【0041】
標的T細胞は、T細胞受容体(TCR)コード遺伝子で形質転換させることもできるし、あるいはまた興奮性シグナルをT細胞にMHCにより制限を受けない方法で中継することができるキメラ抗原受容体(CAR)の使用によって形質転換させることもできる。従って、細胞内T細胞活性化ドメインと融合した細胞外抗原認識ドメインから構成されるこれらのハイブリッドタンパク質は、それらのヒト白血球抗原の遺伝子型にかかわらず患者に使用することができる。遺伝子の形質転換前に、標的T細胞は、続いての形質転換を最適化するために抗CD3抗体で予め刺激することが好ましい。好適ないずれのCARを本発明に用いてもよい。CARリガンドは腫瘍細胞によって発現されなければならない。好適なCARの選択および調製は当業者に知られている技術上の範囲内である。CARリガンドの限定されない例としては、VEGFR−2(血管内皮増殖因子受容体−2)、Her2/neu、CEA(癌胎児性抗原)、CD19、CD20およびGD2(ガングリオシド抗原)がある。
【0042】
TCRコード遺伝子またはCARコード遺伝子のT細胞への遺伝子形質転換は、トランスフェクションまたは形質導入などの当業者に知られている好適ないずれの方法を用いて行ってもよい(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd ed., vol. 1−3, Cold. Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY参照)。トランスフェクションはウイルスベクターを用いて行うこともできる。ウイルスベクターの限定されない例としては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターが挙げられる。形質導入としては、限定されるものではないが、プラスミドの電気転移、トランスポゾン/トランスポゼース系およびマイクロインジェクションが挙げられる。
【0043】
ASALは、混合白血球反応から得られるレスポンダー細胞であり、次に、樹状細胞および標的細胞とともに、抗CD3抗体を含有する培養培地で培養される。前記ASALはその患者に対して、および、前記樹状細胞に対して自己または同種異系であり得る。前記樹状細胞は治療される患者に対して、および、初回のMLRに誘導されるASALの活性化に用いた刺激細胞に対して自己または同種異系であり得る。前記ASALは、CD4
+T細胞、CD8
+T細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞を含む末梢血リンパ球からなる群から選択される。前記標的細胞はCD4
+および/またはCD8
+T細胞である。
【0044】
本発明の方法では、CD3抗体はトランスフェクトされたT細胞の非特異的刺激剤として働く(前記T細胞は、抗CD3抗体がT細胞上のCD3分子と結合した際に活性化されるようになる)。トランスフェクトされたT細胞と樹状細胞は自己または同種異系である。CD3抗体はまたASALも再刺激するが、これはASALが樹状細胞に対して自己または同種異系であり得ることを意味する。好ましくは、樹状細胞とASALは同種異系である。樹状細胞とASALはまた、必ずしも必要ではないが好ましくは、トランスフェクトされた患者T細胞に対して同種異系(すなわち、健常血液ドナー由来)である。
【0045】
ASALの添加はさらに、高レベルのCD27を発現する標的CD8
+T細胞の集団の富化をもたらす。CD27
+ CD8
+T細胞は、増殖のための抗原由来自己分泌シグナルを提供できることから、おそらく養子免疫療法にとってより有効なCTL(細胞傷害性T細胞)である。このようなヘルパー非依存性CD8+ T細胞は、生存および拡大培養のためにIL−2またはCD4+T細胞の形での外因的助けを必要としないであろう。よって、本発明は、IL−2などの付加的サイトカイン、またはCD4
+T細胞の不在下または低存在下での強い細胞傷害活性に関してプログラムされたCD8
+T細胞集団を被験体に提供することにより、免疫介在性疾患を治療するための方法を提供する。この方法は細胞溶解性の抗原特異的CD8+T細胞のex vivo拡大培養に特に有用であるが、腫瘍特異的CD4
+T細胞の拡大培養にも使用可能である。
【0046】
CD8+Tリンパ球の総数に対するパーセンテージとして表した細胞溶解性抗原特異的CD8+T細胞のパーセンテージは、好ましくは少なくとも約5%、より好ましくは少なくとも約10%、より好ましくは少なくとも約15%、より好ましくは少なくとも約20%、いっそうより好ましくは少なくとも約25%、いっそうより好ましくは少なくとも約30%、最も好ましくは少なくとも約35%である。
【0047】
CD8+およびCD4+T細胞は両方とも効率的な細胞傷害性に必要である。CD8+T細胞は細胞傷害性であるが、CD4+T細胞はIL−2などの成長増殖因子を放出する。CD8+T細胞よりもCD4+T細胞の拡大に有利な拡大培養プロトコールはin vivo抗腫瘍効力を損なうと思われるので、CD8+T細胞の数がCD4+T細胞の数を上回ることが好ましい(Yang et al. Journal of Immunotherapy 2010;33:648)。
【0048】
より具体的には、本発明の方法は、腫瘍を有する患者への投与に好適なTCRまたはCARで形質転換された抗原特異的CD4+および/またはCD8+T細胞のプライミングのためのin vitro法に関し、前記方法は、以下の工程:
a)患者または健常ドナー由来の非増殖抗原提示細胞を、前記抗原提示細胞に対して同種異系である末梢血単核細胞とともに培養する工程、
b)患者または健常ドナー由来の単球を、その単球を成熟DCへ成熟させる組成物中で培養する工程(この組成物はさらに下記に記載される)、および
c)工程a)から得られた、限定されるものではないがCD4
+T細胞、CD8
+T細胞および/またはナチュラルキラー(NK)細胞を含む、同種感作したリンパ球を、工程b)から得られた成熟DCとともに、CD4+T細胞およびCD8+T細胞を含むTCRまたはCARで形質転換された標的細胞を伴って、抗CD3抗体を含有する培養培地中で共培養する工程
を含む。
【0049】
前記単球由来DCは、まず、GM−CSFおよびIL−4を含む組成物中で約2〜7日間、好ましくは約5日間単球を培養して未熟DCを得て、次に、少なくとも約12〜72時間、好ましくは約24〜48時間培養することにより未熟DCを成熟DCとすることができる第2組成物を加えることによって得られる。この第2の組成物は、未熟DCを、CD4+およびCD8+T細胞を活性化するために使用可能な成熟単球由来DCとすることができる成分を含む。一実施形態では、第2の組成物は、TNFα、IL−1β、インターフェロンγ、インターフェロンβおよびTLR3リガンド、例えばポリ−I:C(Mailliard et al., Alpha−type−1 polarized DCs: a novel immunization tool with optimized CTL−inducing activity. Cancer Res. 2004;64:5934−5937)を含む。別の実施形態では、第2の組成物は、インターフェロンγ、TLR3および/もしくはTLR4リガンドならびにTLR7および/もしくはTLR8リガンドならびに/またはTLR9リガンドを含む。TLR3リガンドの限定されない例はポリ−I:Cであり、TLR7/8リガンドの限定されない例はR848であり、TLR9リガンドの限定されない例はCpGである。
【0050】
同種異系リンパ球の感作は、不活性化した抗原提示細胞を、健常ドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)とともに培養することを含む従来の混合白血球反応(MLRまたはMLC混合白血球培養)によって誘導され、この場合、前記抗原提示細胞は前記リンパ球に対して同種異系である。MLRの性能は当業者にはよく知られている(Jordan WJ, Ritter MA. Optimal analysis of composite cytokine responses during alloreactivity. J Immunol Methods 2002;260: 1−14)。MLRでは、2個体からのPBMC(主としてリンパ球)を組織培養において数日間混合する。不適合個体からのリンパ球は互いに刺激し合って有意に増殖するが(例えば、トリチウム化チミジンの取り込みにより測定される)、適合個体からのリンパ球はそうではない。一方向性MLCでは、これらの個体の一方からのリンパ球が、マイトマイシンなどの抗増殖薬または照射によって前処理され、それにより、他の個体からの非処理のリンパ球のみが外来の組織適合抗原に応答して増殖することができる。
【0051】
このMLRに用いられる抗原提示細胞は、PBMCおよび単球由来DCからなる群から選択される。
【0052】
本発明の方法では、これらの細胞(治療される患者由来の腫瘍抗原受容体発現標的T細胞、樹状細胞、抗CD3抗体、ならびに抗原提示細胞(APC)上のMHCクラスIおよび/またはMHCクラスII抗原に感作したリンパ球)は約20日間、好ましくは約4〜20日間、好ましくは約6〜20日間、より好ましくは7〜14日間、最も好ましくは約9〜14日間共培養される。
【0053】
細胞増殖および生存を最適化するために細胞培養に外因性のIL−2、IL−7、IL−15、抗IL−4および/またはIL−21を加えることができる。
【0054】
プライミングされた抗原特異的CD4+および/またはCD8+T細胞を、前記細胞を新たなDC、抗CD3抗体、および前記リンパ球に対して同種異系である非増殖性抗原提示細胞により活性化された新たな感作リンパ球とともに培養すること、および所望により外因性のIL−2、IL−7、IL−15、抗IL−4および/またはIL−21を細胞培養に加えることによって再刺激することもできる。
【0055】
本発明はまた、上記の方法により得ることができる免疫原性組成物、ならびに上記の方法により得ることができる抗原特異的CD4+および/またはCD8+T細胞に関する。
【0056】
抗原特異的CD4+および/またはCD8+T細胞は患者への投与に好適であり、好ましくは、下記の特徴のうち少なくとも1つを有する。
・増殖能
・低レベルのアポトーシスマーカーアネキシン−Vの発現(すなわち、FACS測定により、アネキシン−V陽性染色を示す細胞が40%以下、好ましくは20%以下であるべきである)
・細胞表面におけるCD27および/またはCD28の発現
【0057】
本発明の方法により得ることができる特異的CD4+および/またはCD8+T細胞のさらなる能力は、in vitroにおいて、抗原特異的T細胞に対してMHC適合性である腫瘍細胞または腫瘍負荷抗原提示細胞によって活性化され、かつ/または前記腫瘍細胞または腫瘍負荷抗原提示細胞を殺傷する能力である。本発明の方法により得ることができる特異的CD4+および/またはCD8+T細胞はまた、IL−10、TGF−βおよび/またはH
2O
2などの免疫抑制因子とともに前培養しても、in vitroにおいて関連する腫瘍標的細胞を殺傷する能力を有し、in vitroにおいて関連する腫瘍標的細胞の殺傷の後にも増殖能を有し、ならびにIL−10、TGF−βおよび/またはH
2O
2などの免疫抑制因子とともに前培養しても、in vitroにおいて関連する腫瘍標的細胞の殺傷の後にも増殖能を有する。
【0058】
本発明は、薬剤として使用するためならびに薬剤の製造を目的とした前記抗原特異的CD4+および/またはCD8+T細胞の使用のための、本発明の方法により得られる抗原特異的CD4+および/またはCD8+T細胞に関する。
【0059】
さらに、本発明は、腫瘍の治療に用いるため、またはヒトにおいて抗腫瘍免疫応答を惹起するため、ならびに腫瘍の治療もしくはヒトにおいて抗腫瘍免疫応答の惹起を目的とした薬剤の製造のために、本発明のまたは上記で定義された方法によって得ることができる抗原特異的CD4+および/またはCD8+T細胞の使用に関する。CD4+および/またはCD8+T細胞は初回刺激後あるいはまた再刺激後に投与することができる。一実施形態では、CD4+および/またはCD8+T細胞は、治療用癌ワクチンと組み合わせて投与される。
【0060】
ヒト被験体の治療における養子細胞療法にT細胞集団を使用する方法は、当技術分野の臨床家に知られている。本明細書に記載され、当技術分野で公知の方法に従って調製されたT細胞集団は、このような方法で使用可能である。例えば、例えば、腫瘍浸潤リンパ球をMART−I抗原特異的T細胞とともに使用する養子細胞療法が診療所で試験されている(Powell et al., Blood 105:241−250, 2005)。腎細胞癌を有する患者に照射自己腫瘍細胞の接種が行われた。採取された細胞が抗CD3モノクローナル抗体およびIL−2で二次的な活性化を受けた後、前記患者に再投与された(Chang et al., J. Clinical Oncology 21 :884−890, 2003)。
【0061】
抗原でプライミングしたT細胞は、in vitroにおいてDCにより媒介されるそれらの初期プライミングの際にASALに曝した場合、再刺激時に増殖の増大およびアポトーシスの低減を受ける。よって、ワクチン接種前および/または接種中に養子移入により患者に戻された場合に、ワクチン接種時の二次的T細胞応答を増強するための方法も本発明により企図される。
【0062】
本発明はまた、癌ワクチン療法を改善するための方法も提供する。多くの腫瘍は、免疫系による破壊の標的として働く可能性のある外来抗原を発現する。癌ワクチンは、被験体において、体液成分と細胞成分の両方を含む全身性の腫瘍特異的免疫応答を生成する。この応答は、ワクチン組成物を腫瘍から離れた部位または局在している腫瘍部位に投与することにより、被験体自身の免疫系から惹起される。抗体または免疫細胞は腫瘍抗原に結合し、腫瘍細胞を溶解させる。しかしながら、癌患者のワクチン接種時にT細胞の応答性を増強する必要がなおある。従って、ワクチン接種前または接種時の、高増殖能を有する予め活性化されたアポトーシス耐性腫瘍特異的T細胞の養子移入は、in vivoにおけるワクチンにより媒介される免疫応答を増強する可能性がある。
【0063】
本発明による組成物はまた、治療用癌ワクチンと組み合わせて投与することもできる。このような治療用癌ワクチンの限定されない例としては、ex vivoで増殖させ腫瘍を負荷したDC、サイトカイン産生腫瘍細胞、DNAワクチン接種およびTLR−リガンドを腫瘍抗原と組み合わせて使用するワクチンがある。
【0064】
本発明の方法により得ることができる細胞は、ヒトなどの生物に直接投与して、それらの活性化の際の抗原特異的T細胞の増殖および生存を高めることができる。これらの細胞の投与は、多くの場合、薬学上許容される担体を伴い、細胞を導入して最終的に哺乳類の血液または組織細胞と接触させるために通常使用される任意の経路による。
【0065】
例えば静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、皮下、および腫瘍内経路などの非経口投与に好適な製剤および担体は、酸化防止剤、バッファー、静菌剤、およびその製剤を意図するレシピエントの血液と等張にする溶質を含有し得る水性等張無菌注射溶液、ならびに沈殿防止剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤、および保存剤を含み得る水性および非水性無菌懸濁液を含む。静脈投与が本発明のCD4+および/またはCD8+T細胞の好ましい投与方法である。
【0066】
本発明に関して患者に投与されるCD4+および/またはCD8+T細胞の用量は、患者において免疫応答を増強するために十分なものでなければならない。よって、細胞は腫瘍抗原に対して有効な免疫応答を惹起するため、かつ/または症状および/もしくはその疾患由来の合併症を緩和、軽減、治癒または少なくとも部分的に阻止するために十分な量で患者に投与される。これを遂行するために十分な量は、「治療上有効な用量」として定義される。この用量は、生産される細胞の活性および患者の病態、ならびに治療される患者の体重または表面積によって決定される。癌などの疾患の治療または予防において投与される細胞の有効量を決定するに当たり、医師は疾患の進行および関連するいずれの腫瘍抗原に対する免疫応答の誘導も評価する必要がある。
【0067】
従来技術の方法に比べて本発明にはいくつかの主な利点がある。本発明は、再刺激の必要のない高レベルの腫瘍特異的CD8
+T細胞を提供する。再刺激はこれらの細胞を低活性とし、アポトーシスに近づける。よって、再刺激の必要がなく腫瘍特異的T細胞を効果的に拡大培養する方法が有利である。加えて、細胞を再刺激する必要がなければ、腫瘍特異的T細胞はより短い期間で患者に戻すことができ、コスト効果が上がる。さらに、本発明の方法を使用すれば、極めてコストのかかるプロセスであるサプレッサー細胞の除去または外因性増殖因子の添加の必要も無くなる。腫瘍浸潤リンパ球(lympohocytes)から培養された自己腫瘍特異的T細胞の養子移入は、ヒトにおいて進行性腫瘍の退縮を引き起こすことができるが、ほとんどのヒト腫瘍から確実に培養できるわけではない。従って、多数の血液由来T細胞を腫瘍抗原特異的T細胞受容体をコードする遺伝子を発現するように操作する方法が開発された。キメラ抗原受容体(CAR)の場合、ヒト白血球抗原遺伝子型に関わらずに患者に使用することができる。
【0068】
本発明の方法の拡大培養効力はREPプロトコールと同等であるが、本方法で拡大培養されたASALは、REPにより拡大培養されたT細胞に比べて、in vivoではるかに高い殺傷能を有する。この主な理由は、REPにより生産されたT細胞は、本発明の方法で拡大培養されたT細胞に比べて、腫瘍が作り出す免疫抑制環境に対して耐性が低いということである。さらに、本発明の方法は、REPプロトコールに比べて高率でCD8+T細胞を拡大培養するが、CD4+T細胞の拡大培養に有利なプロトコールは低いin vivo抗腫瘍効力を示すので、このことは有利である。
【0069】
開示された種々の態様および特徴のいずれの組合せも本発明に包含される。
【0070】
本発明を以下の限定されない例によりさらに説明する。
【実施例】
【0071】
実施例1
材料および方法: 同種感作した同種異系リンパ球(ASAL)は、組織培養フラスコ内の血清不含X−VIVO 15培地中で5〜7日間、健常血液ドナー由来のγ線照射PBMCと同種異系ドナー(前記健常血液ドナーに対して)由来の非照射PBMCを1:1の比で共培養することによる標準的な一方向性混合白血球反応(MLR)において生成した。未熟DCの増殖のため、健常血液ドナーから得た末梢血単核細胞(PBMC)を密度勾配(ノルウェー、オスロ、Nycomed社、Lymphoprep)で単離した。単離されたPBMCをAIM−V培地(UK、ペイズリー、Invitrogen社)に再懸濁させ、24ウェルプラスチック培養プレートに2.5×10
6細胞/ウェルで播種し、2時間接着させた。非接着細胞を除去し、残った接着単球を組換えヒトGM−CSFおよびIL−4(UK、アビンドン、R&D Systems社;共に1,000U/mL)を添加したAIM−V培地で4〜6日間培養した。未熟DCの成熟は、インキュベーションの最後の24時間に培養培地にIFN−α(3,000U/mL)、IFN−γ(1,000U/mL)、TNF−α(50ng/mL)、IL−1β(25ng/mL)(全てR&D Systems社製)およびp−I:C(Sigma−Aldrich;20μg/mL)を添加することにより誘導した。
【0072】
FACS分析により測定したところ、成熟DC集団は全て70%を超えるCD83+DCを含有していた。
【0073】
洗浄後、成熟DCを非照射またはγ線照射(25グレイ)ASALとともにX−VIVO 15培地で24時間共培養し、FACSにより分析した。同種異系反応性リンパ球の感作は、刺激細胞としてγ線照射PBMCおよびレスポンダー細胞として非照射PBMCを用いて血清不含培養培地(X−VIVO 15)中で5〜6日間、初回の一方向性MLRを行うことにより実施した。PEコンジュゲート抗ヒトCD70をFACS試験に用いた。
【0074】
結果
図1に示されるように、ASALは、ASALのプライミングに用いた照射PBMCに対して自己である成熟単球由来DC上でのCD70の発現を著しく増強する。
【0075】
図2に示されるように、γ照射ASALも同様に、ASALのプライミングに用いた照射PBMCに対して自己である成熟単球由来DC上でのCD70の発現を増強する。
【0076】
図3、4および5に示されるように、ASALとASALのプライミングに用いた照射PBMCに対して自己である成熟DCの共培養は、IL−12、IFN−γおよびIL−2の実質的な生産を誘導する。
【0077】
実施例2
材料および方法: ASALは、刺激因子として照射同種異系PBMCを用い、7日間の従来のMLRで生成した(実施例1参照)。採取および照射の後に、ASALのバルク集団(「MLR」)またはCD4
+、CD8
+またはCD56
+(NK/NKT)細胞を除去したASALを、成熟同種異系単球由来DC(ASALのプライミングに用いたPBMCに対して自己)とともに共培養した。24時間後に共培養上清を採取し、その後、IL−2、IL−12およびIFN−γ生産に関してアッセイした。
【0078】
結果: IL−2生産は厳格にCD4に依存していることが判明したが(
図6A)、IL−12生産(
図6B)はASALに全く依存しないことが示され、IFN−γ生産(
図6C)は、このASAL集団内で、共培養されて同種プライミングされたCD4
+、CD8
+およびCD56
+(NK/NKT)に部分的に依存することが示された。
【0079】
実施例3
材料および方法: 未熟DCは、単球のプラスチック接着により生成した。単球は、IL−4およびGM−CFSを両方とも1000U/mLで添加したCellGro(登録商標)DC中で7日間培養した。DCの成熟は、インキュベーションの最後の2日間に50ng/mL TNF−α、25ng/mL IL−1β、50ng/mL IFN−γ、3000U/mL IFN−αおよび20μg/mLポリI:Cを加えることによって誘導した。
【0080】
ASALは、X−VIVO 15中で7日間、γ線照射同種異型PBMCと、DCドナーに対する非照射自己PBMCを1:1の比で共培養することによる一方向性混合リンパ球反応で生成した。
【0081】
CD8
+Tリンパ球は、50ng/mL IL−15を添加したX−VIVO 15中で培養された自己PBMCからの陽性選択により、7日間で終濃度0.5×10
6リンパ球/mLで単離された。PBMCを遠心分離し、PBS−0.5%BSA−2M EDTAに終濃度1×10
7/80μLで再懸濁させた。PBMCをCD8
+マイクロビーズ(Miltenyi Biotec社製)とともに4℃で15分間インキュベートし、洗浄し、再懸濁させ、LS MACSカラムにのせた。非標識細胞を洗い流し、CD8
+リンパ球を含有する全流出液を回収した。単離されたCD8
+Tリンパ球を、予温したPBS−1%BSAに1×10
6/mLの濃度となるように再懸濁させ、37℃で10分間、10μΜ CFSE(Molecular Probes Invitrogen社製)で染色した。5mLの氷冷X−VIVO 15培地を加えることによって染色を終了させ、氷上で5分間インキュベートした。細胞を培地で2回洗浄し、終濃度が1×10
6/mLとなるように再懸濁させた。染色されたCD8
+Tリンパ球を、照射および同種感作を行った同種異型PBMCおよび成熟自己DCとともに4:4:1の比で4〜7日間共培養した。培養後、リンパ球を採取し、CD3−APC−H7、CD8−PerCP、CD27−APCおよびアネキシンVで染色した。増殖しているCD8
+Tリンパ球のパーセンテージはフローサイトメトリーにより決定し、総リンパ球に対するパーセンテージとして表した。
【0082】
結果: 結果:
図7に示されるように、照射「同種ヘルパー」(=ASAL)の添加は、CD8
+Tの細胞分裂を著しく高める(低い蛍光強度を有する細胞が多い=ドットプロットにおいて左側にドットが多い)。よって、ASALは、単球由来DCの、同種異系反応性CD8
+T細胞において増殖性応答を誘導する能力を高める。
【0083】
実施例4
材料および方法: 実施例1の材料および方法を参照。
CD8+リンパ球はDC、照射ASAL(前記DCに対して同種異系)を6日間共培養した後に単離し(抗体コーティング磁性ビーズによる陰性選択を使用)、次に、B細胞(初回刺激の際に用いたDCに対して自己)で再刺激し、CD27およびアネキシン−Vの発現に関して染色を行った。続いての分析はFACSにより行った。
【0084】
結果:
図8に示されるように、初回刺激の際にASALを添加すると、CD8
+細胞をB細胞で再刺激した場合のCD27の発現が実質的に増強された。
【0085】
初回刺激の際にASALを添加すると、CD8+細胞をB細胞で再刺激した場合のアネキシン−V(アポトーシスマーカー)の発現が実質的に低減され(
図9参照)、従って、これらのCD8+T細胞はアポトーシス進入耐性が高くなる。
【0086】
実施例5
材料および方法: 実施例4の材料および方法を参照。
B細胞で再刺激する前に、プライミングおよび単離を行ったCD8
+細胞を3H−チミジンでパルス処理した。
【0087】
結果:
図10に示されるように、初回刺激の際にASALを添加すると、再刺激後の同種異系反応性CD8
+細胞の増殖性応答が著しく増強された(3H−チミジンの組み込みにより測定、cpm/分、3日目)。
【0088】
実施例6
材料および方法: 実施例4の材料および方法を参照。
B細胞と予め活性化したCD8
+細胞を2日間共培養した後、培養上清を採取し、従来のELISA(R&D Systems社製)によりIFN−γ生産に関して分析した。
【0089】
結果:
図11は、初回刺激の際にASALを添加すると、再刺激後の同種異系反応性CD8
+細胞によるIFN−γの生産が実質的に増強されたことを示す。
【0090】
実施例7−CARでトランスフェクトされたT細胞の拡大培養
材料および方法:
基本培養培地は、10%ヒト血清、1%ペニシリン(100U/ml)、1%HEPES、0.5%L−グルタミンおよび160μl βメルカプトエタノールを添加したRPMI培地1640からなった。
【0091】
未熟DCは、単球のプラスチック接着により生成した。次に、単球を、IL−4およびGM−CFSを両方とも1000U/mLで添加した基本培養培地で7日間培養した。DCの成熟は、インキュベーションの最後の24時間に20ug/mLポリ−I:C、2.5ug/mL R848および50ng/mL IFN−γを添加することによって誘導した。
【0092】
ASALは、基本培養培地中で7日間、γ線照射PBMCと非照射同種異系PBMCを1:1の比で共培養することによる一方向性混合リンパ球反応で生成した。
【0093】
T細胞のトランスフェクション: まず、単離されたPBMC(5×10(5)/mL)を、DC培地にIL−2(100IU/mL)および抗CD3(OKT3)(50ng/mL)を添加することにより、3日間活性化した。その後、CAR−レンチウイルス(20μL)、Sequa−Brene(1mg/mL)およびIL−2(100IU/mL)を含有する培養培地で4時間インキュベートすることにより、非接着細胞(主として活性化されたT細胞)をGD2(神経芽細胞腫細胞上で発現の高いガングリオシド抗原)に対するCARでトランスフェクトした。洗浄後、細胞を、IL−2(100IU/mL)を添加した培地で5日間培養した。その後、トランスフェクションレベルを、レンチウイルス−CARに対するPE−Aコンジュゲート抗体を用いたフローサイトメトリーにより分析した。
【0094】
T細胞の拡大培養: 洗浄後、続いて、CARでトランスフェクトされたT細胞を、成熟DC+照射ASAL+CARトランスフェクトT細胞(1:4:1比)、IL−2(100IU/mL)およびOKT3(50ng/mL)からなるASALプロトコールか、または3つの異なるドナーに由来する照射同種異系PBMC+CARトランスフェクトT細胞(100:1比)、IL−2(100IU/mL)およびOKT3(50ng/mL)からなる標準的REPプロトコール(Yang et al, Journal of Immunotherapy 2010;33:648)のいずれかを用い、T−25フラスコにて12日間、培養培地中で拡大培養した。長期培養のために、3日目、6日目および9日目に培養培地を除去し、新鮮培地、100IU/mL IL−2および50ng/mL OKT3を補充した。
【0095】
フローサイトメトリー分析: 前記細胞をPBSで2回洗浄し、細胞表面マーカー(CD3、CD4、CD8、CD27 CD64およびCAR(GD2))に対する特異的蛍光団(フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、APC、またはフィコエリトリン(PE))標識抗体(カリフォルニア州、サンディエゴ、BD Biosciences社)を用いることにより、室温で15分間(遮光)で染色した。FACS分析はBD FACS Canto II(USA、BD Biosciences社)で行い、データをBD FACS Canto IIソフトウエアで分析した。
【0096】
アポトーシスアッセイ: アネキシンVアポトーシスアッセイ(BD Biosciences社製)を用い、対照培地での、および続いてアポトーシス誘導剤(H2O2またはドキソルビシン)を24時間加えた培地での種々の拡大培養プロトコールで12日間拡大培養した後のT細胞の生存率を評価した。簡単に述べると、T細胞をPBSで2回洗浄し、結合バッファーに再懸濁させ、次に、アネキシンV−フルオレセインイソチオシアネート(FITC)およびプロピジウムヨージド(PI)とともに室温で15分間インキュベートした後に、洗浄およびフローサイトメトリー分析を行った。
【0097】
腫瘍細胞殺傷の測定: CARでトランスフェクトされ、拡大培養された(12日)T細胞を、丸底96ウェルプレートの各ウェル内で、GD2発現神経芽腫細胞株IMR−3(ルシフェラーゼリポート遺伝子を共発現する)とともに種々のエフェクター:標的細胞比(E:T比)で48時間共培養した。トランスフェクトおよび拡大培養されたT細胞の、関連の腫瘍細胞を溶解させる能力を、ルシフェラーゼ発現アッセイ(Fu et al, PloS 1 , 2010,5,e1 1867)を用いて評価した。関連の細胞生存率(%)は生値の発光量(RLU)として計算し、エフェクターT細胞を用いない場合の標的細胞(IMR−3)から得られたルシフェラーゼ活性に対して正規化した。
【0098】
潜在的腫瘍由来抑制因子に曝されたT細胞による腫瘍細胞の殺傷もまた、エフェクターT細胞上の溶解性顆粒エキソサイトーシスのマーカーである膜結合CD107aに対するコンジュゲート抗体を用いたフローサイトメトリーにより評価した。T細胞を、標的細胞と共培養する前に、IL−10(10ng/mL)およびTGF−β(2.5ng/mL)に4時間、H2O2(25uM)に24時間、またはH2O2(24時間)と組み合わせてIL−10およびTGF−β(両方とも4時間)に曝した。
【0099】
CellTrace(商標)CFSE細胞増殖キット(USA、オレゴン州、Eugene、Invitrogen社)を用い、潜在的腫瘍由来抑制因子に事前曝露した場合としない場合の、標的抗原発現腫瘍細胞の相互作用/殺傷4日後のT細胞の増殖を評価した。T細胞を、標的細胞と共培養する前に、IL−10(10ng/mL)およびTGF−β(2.5ng/mL)に4時間、H2O2(25uM)に24時間、またはH2O2(24時間)と組み合わせてIL−10およびTGF−β(両方とも4時間)に曝した。
【0100】
結果:
図12に示されるように、ASALのプライミングに用いた照射PBMCに対して自己である、照射した成熟単球由来DCに照射ASALを添加すると、CD64(Fc−γR)を発現するDCの数が増える。この受容体は可溶性抗CD3抗体のFc部分を捕捉すると予想される。このような抗CD3「アームを有する」DCは、次に、共培養された自己または同種異系CD3発現T細胞と直接相互作用してそれを活性化し得る。
【0101】
図13は、H
2O
2処理後の生存率を示す。ASALプロトコールは、REPプロトコールで拡大培養されたT細胞に比べてアポトーシス誘導H
2O
2処理に対する耐性が高いT細胞を誘導する。H
2O
2は周知の腫瘍内免疫抑制因子であり、ASALプロトコールはin vivoで腫瘍由来H
2O
2に優れた耐性を有するT細胞を拡大培養すると予想できる。
【0102】
図14は、ドキソルビシン処理後の生存率を示す。ASALプロトコールは、REPプロトコールで拡大培養されたT細胞に比べて、アポトーシス誘導ドキソルビシン処理に対する耐性がより高いT細胞を誘導する。ドキソルビシンは頻用される抗癌薬であるので、ASALプロトコールはin vivoにおいてドキソルビシンとの併用抗癌治療によって誘導されるアポトーシスに対して優れた耐性を有するT細胞を拡大培養すると予想できる。
【0103】
CD3+T細胞は、GD2抗原(膠芽腫癌細胞上で発現される)に対するキメラ抗原受容体(CAR)で効果的にトランスフェクトされる(>40%のトランスフェクト細胞)(
図15参照)。左の図はトランスフェクション前、右の図はトランスフェクション後を示す。右上4分の1内にあるドットは全て、CARでトランスフェクトされたT細胞を表す。
【0104】
ASALプロトコールは、標準的REPプロトコールに比べて、CARトランスフェクトCD3+T細胞の同等の拡大培養を誘導するが(
図16参照)、REPプロトコールに比べて高率でCD8+T細胞を拡大培養する(
図17参照)。CD4+T細胞の拡大培養に有利な拡大培養プロトコールはin vivo抗腫瘍効力を損なうと思われるので(Yang et al. Journal of Immunotherapy 2010;33:648)、この所見は臨床上重要である。
【0105】
さらに、ASALプロトコールは、REPプロトコールに比べて、同等または多数のCD27発現CD3+T細胞を誘導する(
図18参照)。ヒトに養子移入された後のT細胞の存続は再注入されたT細胞上での高レベルのCD27発現と直接的に相関することが示されているので、この所見は臨床上意味がある。CD27
+ CD8
+T細胞は、抗原により駆動される、増殖のための自己分泌シグナルを提供することができることから、養子免疫療法にとっておそらくより有効なCTL(細胞傷害性T細胞)となる。このようなヘルパー非依存性CD8+T細胞は、生存および拡大培養のために、IL−2またはCD4
+T細胞の形での外因的助けを必要としないであろう。
【0106】
図19に示されるように、ASALプロトコールは、REPプロトコールで拡大培養されたCARトランスフェクトT細胞の特異的殺傷能と同等の特異的殺傷能を有するCARトランスフェクトT細胞を拡大培養する。
【0107】
CARトランスフェクトT細胞の腫瘍特異的細胞傷害能(CD107aの膜発現により測定される)は、REPプロトコールで拡大培養されたCARトランスフェクトT細胞に比べて、CARトランスフェクトT細胞がASALプロトコールで拡大培養された場合には、潜在的腫瘍由来抑制因子(IL−10、TNF−βおよび/またはH
2O
2)の曝露に対する耐性が高い(
図20参照)。
【0108】
標的細胞の相互作用および殺傷後のCARトランスフェクトT細胞の増殖性応答は、REPプロトコール(T細胞を拡大培養するために頻用されるプロトコール;Yang et al, Journal of Immunotherapy 2010;33:648参照)で拡大培養されたCARトランスフェクトT細胞に比べて、高く、潜在的腫瘍由来抑制因子に対する耐性が高い。よって、標的細胞の殺傷後、本発明の方法により生成されたT細胞は再刺激され、従って、新たな癌細胞を攻撃および殺傷する。
【0109】
本明細書では特定の実施形態を詳細に開示したが、これは単に説明のために例として示したものであり、以下の添付の特許請求の範囲に関して限定を意図するものではない。特に、特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく本発明に対して様々な置換、変更および改変を行うことができることが本発明者により意図される。