(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらにNi,Cu,Rh,Pd,Pt,Auの1種以上を総計で0.01原子%以上5.00原子%以下含むことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
金属元素の原子数の総計に対するIn,Ga,Cdの原子数の総計の比を第2元素原子比率とするとき、ワイヤ表面から、当該表面から深さ方向に1nmまでの領域における第2元素原子比率が、ワイヤ表面から深さ方向に1nmから、当該表面から深さ方向に10nmまでの領域における第2元素原子比率の1.1倍以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
金属元素の原子数の総計に対するIn,Ga,Cdの原子数の総計の比を第2元素原子比率とするとき、ワイヤ表面から、当該表面から深さ方向に10nmまでの領域における第2元素原子比率が、ワイヤ表面から深さ方向に20nmから、当該表面から深さ方向に30nmまでの領域における第2元素原子比率の2倍以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
Be,B,Ca,Y,La,Ceの1種以上を総計で0.031原子%以上0.180原子%以下含み、さらにIn,Ga,Cdの1種以上を総計で0.05原子%以上5.00原子%以下含み、残部がAgおよび不可避不純物からなり、金属元素の原子数の総計に対するIn,Ga,Cdの原子数の総計の比を第2元素原子比率とするとき、
(A)ワイヤ表面から、当該表面から深さ方向に1nmまでの領域における第2元素原子比率が、ワイヤ表面から深さ方向に1nmから、当該表面から深さ方向に10nmまでの領域における第2元素原子比率の1.1倍以上であること、および
(B)ワイヤ表面から、当該表面から深さ方向に10nmまでの領域における第2元素原子比率が、ワイヤ表面から深さ方向に20nmから、当該表面から深さ方向に30nmまでの領域における第2元素原子比率の2倍以上であること、
の(A)および(B)の一方または両方を満足することを特徴とする半導体装置用ボンディングワイヤ。
前記ボンディングワイヤのワイヤ軸を含むワイヤ軸に平行な断面におけるワイヤ軸方向の結晶方位を測定した結果、前記ボンディングワイヤのワイヤ軸方向に対して角度差が15度以下である<100>結晶方位の存在比率が、測定領域の面積に対して、ボンディングワイヤのワイヤ軸方向に対して角度差が15度以下である<100>結晶方位を有する領域が占める面積の比率で30%以上100%以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体素子上の電極と外部リードの間を接合する半導体装置用ボンディングワイヤ(以下、ボンディングワイヤ、または単にワイヤという場合がある。)として、線径15〜50μm程度の細線が主として使用されている。ボンディングワイヤの接合方法は超音波併用熱圧着方式が一般的であり、汎用ボンディング装置、ボンディングワイヤをその内部に通して接続するキャピラリ冶具等が用いられる。ボンディングワイヤの接合プロセスは、以下のとおりである。まず、ワイヤ先端をアーク入熱で加熱溶融し、表面張力によりボールを形成した後に、150〜300℃の範囲内で加熱した半導体素子の電極上にこのボール部を圧着接合(以下、ボール接合という)する。次にループを形成した後、外部リード側の電極にワイヤ部を圧着接合(以下、ウェッジ接合という)することで完了する。ボンディングワイヤの接合相手である半導体素子上の電極には、Si基板上にAlを主体とする合金膜を成膜した電極構造、外部リード側の電極にはAgめっき、Pdめっきなどを施した電極構造が用いられることが多い。
【0003】
ボンディングワイヤには、優れたボール形成性、ボール接合性、ウェッジ接合性、ループ形成性などが要求される。これらの要求性能を総合的に満足するボンディングワイヤの材料としてAuが主に用いられてきた。しかし、Auは高価であるため、材料費が安価な他種金属が所望されている。Auに代わる低コストのワイヤ素材として、Cu(銅)が検討されている。Auと比べてCuは酸化されやすいことから、特許文献1では、芯材と被覆層(外周部)の2層ボンディングワイヤとして、芯材にCuを、被覆層にPd(パラジウム)を使用する例が示されている。
【0004】
CuワイヤあるいはPd被覆Cuワイヤは、接合後の硬度が高いため、より硬度の低い材料が要請されている。Auと同等以上の電気伝導性を有し、Cuよりも硬度が低い元素であって、さらに耐酸化性を有している元素としてAg(銀)があげられる。
【0005】
しかしながら、Agを用いたボンディングワイヤ(以下、Agボンディングワイヤという)は、高密度実装において接合信頼性やループの安定性が低いという課題があった。接合信頼性評価は、実際の半導体デバイスの使用環境における接合部寿命を評価する目的で行われる。一般的に接合信頼性評価には高温放置試験、高温高湿試験が用いられる。Agボンディングワイヤは、Auを用いたボンディングワイヤ(以下、Auボンディングワイヤという)に比べて、高温高湿試験におけるボール接合部の寿命が劣ることが課題であった。高密度実装では、小ボール接合が行われることから接合に寄与する面積が小さくなるため接合部の寿命を確保することがより一層困難となる。
【0006】
特許文献2には、Agを主体とするAg−Au−Pd三元合金系ボンディングワイヤが開示されている。当該ボンディングワイヤは連続ダイス伸線前に焼鈍熱処理がされ、連続ダイス伸線後に調質熱処理がされ、窒素雰囲気中でボールボンディングされる。これにより、高温、高湿および高圧下の過酷な使用環境下で使用されても、アルミパッドとの接続信頼性を維持することができるとしている。
【0007】
高温高湿試験は温度が121℃、相対湿度が100%の条件で行うPCT(Pressure Cooker Test)と呼ばれる試験が一般的に用いられる。近年では、さらに厳しい評価方法として温度が130℃、相対湿度が85%の条件で行うHAST(Highly Accelerated temperature and humidity Stress Test)と呼ばれる試験が用いられることが多い。高密度実装用の半導体デバイスは、動作環境を想定した場合、HASTにおいて300時間以上経過後も正常に動作することが求められる。Agボンディングワイヤは、HASTにおいてボール接合部の寿命が問題となっていた。Agボンディングワイヤは、高温高湿環境に曝されることで、ボール接合部において剥離が発生し、電気的な接続が失われて半導体デバイスの故障の原因となる。
【0008】
特許文献3には、In,Ga,Cdの1種以上を総計で0.05〜5原子%含み、残部がAgおよび不可避不純物からなる半導体装置用ボンディングワイヤが開示されている。これにより、高密度実装に要求される接合信頼性を改善することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
隣接するボンディングワイヤの間隔が狭くなる狭ピッチ化が進行している。これに対応するボンディングワイヤへの要求として、細線化、高強度化、ループ制御、接合性の向上等が求められる。半導体実装の高密度化によりループ形状は複雑化している。ループ形状の分類として、ループ高さ、ボンディングのワイヤ長さ(スパン)が指標となる。最新の半導体では、一つのパッケージ内部に、高ループと低ループ、短いスパンと長いスパン等、相反するループ形成を混載させるケースが増えている。
【0011】
高密度実装では、狭ピッチ化に対応するため通常よりも小さなボールを形成して接合(小ボール接合)することが多い。ボンディングワイヤは、小ボール接合の場合でもボール接合部の十分で安定した接合強度が要求される。また、ボール接合のためにボンディングワイヤ先端に形成するFAB(Free Air Ball)形状が良好であることも要求される。
【0012】
多ピン・狭ピッチ化により、一つの半導体装置内にワイヤ長、ループ高さが異なるワイヤ接続が混載することが行われている。ループ高さが低い低ループを形成すると、ボンディング部のネックダメージが発生しやすくなる。また、狭ピッチ化すると、ボール直立部のリーニング不良が発生することがある。リーニング不良とは、ボール接合近傍のワイヤ直立部が倒れて、隣接ワイヤとの間隔が接近する現象である。低ループ特性やリーニング特性を改善するワイヤ材料が求められる。
【0013】
本発明は、Agを主成分とする半導体装置用ボンディングワイヤにおいて、高密度実装に要求される接合信頼性を確保すると同時に、ボール接合部の十分で安定した接合強度を実現し、低ループにおいてもネックダメージを発生させず、リーニング特性が良好であり、FAB形状が良好である半導体装置用ボンディングワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
(1)
Be,B,P,Ca,Y,La,Ceの1種以上を総計で0.031原子%〜0.180原子%含み、さらにIn,Ga,Cdの1種以上を総計で0.05原子%〜5.00原子%含み、残部がAgおよび不可避不純物からなることを特徴とする半導体装置用ボンディングワイヤ。
(2)
さらにNi,Cu,Rh,Pd,Pt,Auの1種以上を総計で0.01原子%〜5.00原子%含むことを特徴とする上記(1)に記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
ここで、Ni,Cu,Rh,Pd,Pt,Auは、前記Agの一部に代えて含まれる。
(3)
金属元素の原子数の総計に対するIn,Ga,Cdの原子数の総計の比を第2元素原子比率とするとき、ワイヤ表面から深さ方向に0nm〜1nmの領域(ワイヤ表層部)における第2元素原子比率が、ワイヤ表面から深さ方向に1nm〜10nmの領域(ワイヤ表層下部)における第2元素原子比率の1.1倍以上であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
(4)
金属元素の原子数の総計に対するIn,Ga,Cdの原子数の総計の比を第2元素原子比率とするとき、ワイヤ表面から深さ方向に0〜10nmの領域(ワイヤ表面部)における第2元素原子比率が、ワイヤ表面から深さ方向に20nm〜30nmの領域(ワイヤ内部)における第2元素原子比率の2倍以上であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
(5)
ワイヤ軸に垂直な断面における平均結晶粒径が0.2μm〜3.5μmであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
(6)
前記ボンディングワイヤのワイヤ軸を含むワイヤ軸に平行な断面におけるワイヤ軸方向の結晶方位を測定した結果、前記ボンディングワイヤのワイヤ軸方向に対して角度差が15度以下である<100>結晶方位の存在比率が、面積率で30%以上100%以下であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
(7)
In,Ga,Cdの1種以上を総計で2.00原子%以下含むことを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【発明の効果】
【0015】
本発明の半導体装置用のAgボンディングワイヤは、Be,B,P,Ca,Y,La,Ceの1種以上を総計で0.031原子%〜0.180原子%含み、さらにIn,Ga,Cdの1種以上を総計で0.05原子%〜5.00原子%含むことにより、ボール部接合界面における金属間化合物層を十分に形成してボール接合部の接合強度を確保することができる。さらに、低ループにおいてもネックダメージを発生させず、リーニング特性が良好であり、FAB形状が良好である半導体装置用ボンディングワイヤとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、Be,B,P,Ca,Y,La,Ceの1種以上(以下「第1元素群」ともいう。)を総計で0.031原子%〜0.180原子%含み、さらにIn,Ga,Cdの1種以上(以下「第2元素群」ともいう。)を総計で0.05原子%〜5.00原子%含み、残部がAgおよび不可避不純物からなることを特徴とする半導体装置用ボンディングワイヤである。なお、本明細書において、成分の含有量(%)は、特に断りのない限り原子%を示す。
【0017】
《第1元素群(Be,B,P,Ca,Y,La,Ce)》
AgボンディングワイヤをAl電極にボール接合したとき、アルミ電極とボール部との接合界面(以下「ボール部接合界面」という。)にはAg−Al金属間化合物が生成される。本発明において、ボール接合部の十分で安定した接合強度を実現するためには、ボール部接合界面に安定した金属間化合物層が形成されていることが必要である。しかし、従来のAgボンディングワイヤを用いた場合、ボール部接合界面の金属間化合物層の生成が不十分であった。
【0018】
そこで、ボンディングワイヤ中にBe,B,P,Ca,Y,La,Ceの1種以上(第1元素群)を総計で0.031原子%以上含有することにより、ボール部接合界面における金属間化合物のカバー率を90%超とすることができることが分かった。その結果、ボール接合部の十分で安定した接合強度が得られる。第1元素群を0.031原子%以上0.180原子%以下の範囲で含有することにより、AgボンディングワイヤをAl電極にボール接合するに際し、初期接合時のAgとAlの親和性が高まり、ボール部接合界面におけるAg−Al金属間化合物生成を促進しているものと推定される。
第1元素群の元素が0.031原子%未満の場合は、Ag−Al金属間化合物が十分に生成されず、十分なボール接合強度が得られない。一方、第1元素群の元素が0.180原子%を超えて含有すると、FAB形状が悪化する。
第1元素群の元素含有量の下限は、好ましくは0.060原子%、さらに好ましくは0.090原子%であるとよい。第1元素群の元素含有量の上限は、好ましくは0.180原子%、さらに好ましくは0.170原子%であるとよい。
【0019】
半導体装置のワイヤ接合において、ループ高さの低い低ループ接合を行うと、ネック部に損傷が発生しやすい。その結果、プル強度が低下する場合があった。第1元素群の元素を0.031原子%以上0.180原子%以下の範囲で含有することにより、低ループ接合においてもネック部の損傷を防止することができ、低ループ接合を安定して行うことも可能となる。ボンディングワイヤにおけるボール部付近の熱影響部(HAZ部)の結晶が微細化し、それによって低ループ接合におけるネック部の損傷が低減したものと推定される。
【0020】
また、ワイヤ接合を狭ピッチ化すると、ボール直立部のリーニング不良が発生することがある。特にAgボンディングワイヤは硬度が低いため、リーニング不良が発生しやすい。第1元素群の元素を0.031原子%以上0.180原子%以下の範囲で含有することにより、狭ピッチ化した場合でもリーニング不良の発生を防止することも可能となる。Agボンディングワイヤに第1元素群を含有することにより、ワイヤの破断強度が増大し、それによってリーニング不良が低減したものと推定される。
【0021】
さらに、第1元素群の元素を0.031原子%以上0.180原子%以下の範囲で含有することにより、FAB形状を改善し、FABの偏芯や異形FABの発生比率を低減することもできる。
【0022】
《第2元素群(In,Ga,Cd)》
AgボンディングワイヤをAl電極にボール接合し、温度が130℃、相対湿度が85%の条件で高温高湿試験(HAST試験)を行ったときに、ボール接合部のシェア強度が初期シェア強度の1/3になるまでの時間をボール接合部寿命として評価している。従来のIn,Ga,Cdを含有しないAgボンディングワイヤでは150時間未満のボール接合部寿命しか得られない。これに対し、本発明者らは、In,Ga,Cdの1種以上(第2元素群)を総計で0.05原子%以上含有することにより、同じHAST試験において300時間以上のボール接合部寿命を得ることができることを見出した。
【0023】
一方、第2元素群の元素を総計で5.00原子%超含有すると、ボンディング工程中のボール接合の際に応力が集中してチップダメージが発生し易くなる。そのため、In,Ga,Cdの1種以上(第2元素群)を総計で5.00原子%以下にするとよい。
第2元素群の元素含有量の下限は、好ましくは0.10原子%、さらに好ましくは0.50原子%であるとよい。第2元素群の元素含有量の上限は、好ましくは3.00原子%、さらに好ましくは2.00原子%であるとよい。
【0024】
《第3元素群(Ni,Cu,Rh,Pd,Pt,Au)》
本発明者らは、さらにNi,Cu,Rh,Pd,Pt,Auの1種以上(以下「第3元素群」ともいう。)を総計で0.01原子%〜5.00原子%含むことでボンディングワイヤの使用寿命をさらに改善できることを見出した。In,Ga,Cdの1種以上(第2元素群)の元素と結合力が強い元素である第3元素群を複合添加することは、経時劣化に対して有効である。
【0025】
従来のボンディングワイヤは、時間の経過にともなって表面に硫黄原子が吸着し、ボール形成性などの性能が低下することがあった。ボンディングワイヤ表面の硫黄原子の吸着を抑制する(すなわち、耐硫化性を向上させること。)ためには、ボンディングワイヤ表面の活性を低下させる手法が有効である。例えば、ボンディングワイヤ表面のAg原子をAgに比べて硫黄との吸着能が低い元素で置換すれば良い。本発明に係るAgボンディングワイヤの表面にはIn,Ga,Cd(第2元素群)が存在することから、これらの元素と結合力の強い元素を添加することでより効率的に耐硫化性を向上させることができる。
【0026】
すなわち、本発明のAgボンディングワイヤは、Ni,Cu,Rh,Pd,Pt,Auの1種以上(第3元素群)を含むことで耐硫化性が向上し、ボンディングワイヤの使用寿命を改善できる。第3元素群元素の含有量が0.01原子%未満の場合は上記の効果が期待できない。第3元素群元素の含有量が5.00原子%超の場合は、ワイヤ表面へのアーク放電による入熱が不安定になり、真球性の高いボールが得られなくなるため実用に適さない。好ましくは、第3元素群元素の含有量が0.5原子%〜3.00原子%であればより高い効果が得られる。これは、アーク放電による入熱のばらつきを、より抑制できるためである。
【0027】
ボンディングワイヤに含まれる元素の含有量分析には、ICP発光分光分析装置等を利用することができる。ボンディングワイヤの表面に酸素や炭素などの元素が吸着している場合には、解析を行う前に表面から2nmの領域をスパッタ等で削ってから含有量を測定しても良い。若しくは、ワイヤ表面を酸洗してから含有量を測定してもよい。
【0028】
《ワイヤ表面合金濃度勾配によるウェッジ接合性改善》
本発明のAgボンディングワイヤは、ボンディングワイヤ表面部(ボンディングワイヤの表面から深さ方向に0〜10nmの領域)のIn,Ga,Cd(第2元素群)の原子数の総計が、その領域での金属元素の原子数の総計に対する比である第2元素原子比率が、ボンディングワイヤ内部(ボンディングワイヤ表面から深さ方向に20nm〜30nmの領域)の第2元素原子比率の2倍以上であると好ましい。これによってウェッジ接合性を改善できる。この第2元素原子比率ついてのボンディングワイヤ表面部と内部の比率の上限は特に限定されるものではないが、4倍であっても問題はない。すなわち、第2元素原子比率は、ある領域の金属元素の原子数の総計に対する、In,Ga,Cd(第2元素群)の原子数の総計の比として定義する。
第2元素原子比率=(In,Ga,Cdの原子数の総計)/(金属元素の原子数の総計)
【0029】
ボンディングワイヤ表面からワイヤの中心軸(ワイヤ軸)に向かう半径方向(以下、深さ方向という。)の含有量分析は、オージェ電子分光分析装置を用いることができる。まず、ボンディングワイヤの表面からスパッタ等で削りながら含有量測定を行い、深さ方向の含有量プロファイルを取得する。含有量プロファイルを取得する対象の元素は、例えばAgと第1〜3元素群で添加した元素とすればよい。ワイヤ表面から深さ方向に対して0〜10nmの領域、20〜30nmの領域(以下、深さ0〜10nm、深さ20〜30nmなどという。)に分けて、各領域におけるそれぞれの元素の平均濃度を求め、各領域におけるそれぞれの元素の濃度とする。
【0030】
ウェッジ接合では、ボンディングワイヤを変形させて接合面積を確保するため、ボンディングワイヤの表面部が軟質であるほど接合面積の確保が容易になり、高い接合強度が得られる。したがって、ボンディングワイヤの内部に対して、ボンディングワイヤの表面部にAgよりも軟質な元素を濃化させる技術が有効である。ここで、ボンディングワイヤの内部をワイヤ表面から深さ20nm〜30nmの領域(ワイヤ内部)、ボンディングワイヤの表面部をワイヤ表面から深さ0〜10nmの領域(ワイヤ表面部)として、以下説明する。
【0031】
ボンディングワイヤ表面部の第2元素原子比率が、ボンディングワイヤ内部の第2元素原子比率の2倍以上であれば、ウェッジ接合部において高い接合強度が得られる。すなわち、深さ0〜10nmの第2元素原子比率をX
0-10nm、深さ20〜30nmの第2元素原子比率をX
20-30nmとすれば、X
0-10nm/X
20-30nm≧2が成立すれば、ウェッジ接合部において高い接合強度が得られる。X
0-10nm/X
20-30nm<2の場合は、上記効果が期待できない。
【0032】
≪ボンディングワイヤの製造方法≫
ボンディングワイヤの製造方法について説明する。ボンディングワイヤは、ダイスを用いて連続的に伸線加工等を行う。この際、200℃〜500℃の中間熱処理と伸線加工を繰返し行い最終線径に至るまで加工を行う。ここで、200℃〜500℃の中間熱処理の回数を3回以上行うことで、ワイヤ表面部の第2元素原子比率を、ワイヤ内部の第2元素原子比率に対して、2倍以上に高くすることができる。好ましくは中間熱処理温度が1回目は200℃〜330℃、2回目は250℃〜400℃、3回目以降は350℃〜500℃の範囲で行うことがより効果的である。これは上記の熱処理によって、添加した元素がボンディングワイヤの表面に拡散するからである。
【0033】
≪ワイヤ結晶粒径改善によるワイヤの繰出し性改善≫
本発明のAgボンディングワイヤはさらに、ワイヤ軸に垂直な断面における平均結晶粒径が0.2μm〜3.5μmであると好ましい。これによってワイヤの繰出し性が改善できる。ここでワイヤ軸とは、ボンディングワイヤの断面中心を通り、長手方向に平行な軸(ワイヤ中心軸ともいう。)である。
【0034】
ワイヤ断面を露出させる方法は、例えば、機械研磨、イオンエッチング法等を利用することができる。平均結晶粒径を求める方法は、例えば後方散乱電子線回折法(EBSD:Electron Backscattered Diffraction)を用いることができる。EBSD法は隣り合う測定点間の結晶方位差を求めることで、結晶粒界を判定することができる。結晶粒界は方位差が15度以上のものを大傾角粒界と定義し、大傾角粒界に囲まれた領域を1つの結晶粒とした。結晶粒径は、専用の解析ソフト(例えば、TSLソリューションズ社製OIM analysis等)によって結晶粒の面積を算出し、その面積を円と仮定したときの直径とした。
【0035】
ボンディングワイヤを接合する際には、ボンディングワイヤをスプールと呼ばれる円柱状の冶具に巻取った状態から少量ずつ繰り出して使用する。繰り出しを行うときにはボンディングワイヤにはワイヤ軸方向に張力がかかるため、ボンディングワイヤが変形して線径が細くなってしまう恐れがある。このような現象を防ぐためには、ワイヤ軸と垂直方向に働くせん断応力に対する強度を確保する必要がある。せん断応力に対する強度を確保する方法としては、ワイヤ軸に垂直な断面における結晶粒径を小さくすることが有効である。
【0036】
本発明において、ボンディングワイヤのワイヤ軸に垂直な断面における平均結晶粒径が0.2μm〜3.5μmであることで高い繰り出し性能が得られる。平均結晶粒径が3.5μm超では、引張応力によりワイヤが局部的に変形してしまうため、上記の効果が得られない。前記平均結晶粒径が0.2μm未満では、ボンディングワイヤが必要以上に硬質化してしまうためキャピラリとの接触部における摩耗が激しくなるため実用に適さない。好ましくは、前記平均結晶粒径が0.4μm〜3.0μmであればより高い効果が得られる。0.5μm〜2.5μmであればさらに好ましい。
【0037】
前述のように、ダイスを用いて連続的に伸線加工等を行うに際し、200℃〜500℃の中間熱処理と伸線加工を繰返し行うことによって最終線径に至るまで加工を行う。ここにおいて、中間熱処理を実施する線径をφ50μm〜φ100μm以上とすることで、ワイヤ軸に垂直な方向の断面における平均結晶粒径を0.2μm〜3.5μmに制御できる。これは、再結晶時の結晶粒成長を制御できる効果によるものである。
【0038】
≪ワイヤ軸方向結晶方位とウェッジ接合性改善≫
ボンディングワイヤのワイヤ軸を含むワイヤ軸に平行な断面(ワイヤ中心断面)の結晶方位を測定したときの測定結果において、ボンディングワイヤのワイヤ軸方向に対して角度差が15度以下である<100>結晶方位の存在比率(以下、<100>存在比率という。)が面積率で、30%以上100%以下であると好ましい。これによりウェッジ接合性をさらに改善できる。
【0039】
ウェッジ接合性に関しては、ボンディングワイヤのワイヤ中心断面において、<100>存在比率を増加させることで接合部の変形が促進でき、高い接合強度が得られる。上記効果を得るためには、<100>存在比率が30%以上を占めればよい。<100>存在比率が30%未満では、接合部の変形が不十分となり、ウェッジ接合部において高い接合強度が得られない。
【0040】
ボンディングワイヤの断面を露出させる方法としては、機械研磨、イオンエッチング法等を利用することができる。ボンディングワイヤの断面の結晶方位はEBSD法を用いて決定することができる。<100>存在比率は、EBSD等を用いた結晶方位の測定領域の面積に対して、ボンディングワイヤのワイヤ軸方向に対して角度差が15度以下である<100>結晶方位を有する領域が占める面積の比率を算出することによって求めることができる。前記測定領域は、ワイヤ中心断面であって、ワイヤ軸方向長さが100μmあればよい。
【0041】
ダイスを用いて連続的に伸線加工等を行うに際し、中間熱処理と伸線加工を繰返し行うことによって最終線径に至るまで加工を行う。ここにおいて、伸線時のワイヤ送り速度を200m/分〜300m/分とし、中間熱処理の温度を200℃〜300℃とすることで<100>存在比率を30%以上に増加させることができる。なお、本技術は中間熱処理を複数回行う場合においても有効である。
【0042】
≪ワイヤ表面合金濃度勾配とキャピラリ使用寿命改善≫
ボンディングワイヤを繰り出す際の摩擦によって、キャピラリの内部が磨耗する。これに対し、ボンディングワイヤの表面の組成を制御し、ボンディングワイヤの表面の強度を低減させることで、キャピラリとボンディングワイヤ間の摩擦力が低減でき、キャピラリの使用寿命を改善できる。ワイヤ表面強度を低減させるには、ワイヤ表面におけるIn、Ga、Cdの少なくとも1つの元素の含有量を多くすればよい。
すなわち、ワイヤ表層部(ボンディングワイヤの表面から深さ0〜1nmの領域)における第2元素原子比率が、ワイヤ表層下部(ボンディングワイヤの表面から深さ1nm〜10nmの領域)における第2元素原子比率の1.1倍以上であるとよい。これにより、キャピラリの使用寿命が改善できる。この第2元素原子比率ついてのボンディングワイヤ表層部と表層下部の比率の上限は特に限定されるものではないが、2倍であっても問題はない。
【0043】
つまり、ワイヤ表層部の第2元素原子比率をX
0-1nm、ワイヤ表層下部における第2元素原子比率をX
1-10nmとすれば、X
0-1nm/X
1-10nm≧1.1であれば、優れたキャピラリの使用寿命が得られる。X
0-1nm/X
1-10nm<1.1の場合は、上記効果が期待できない。
【0044】
伸線加工後のワイヤは最終的に破断伸びが所定の値となるよう最終熱処理を行う。ここで、最終熱処理後に追加熱処理を350℃〜500℃で0.2秒〜0.5秒間実施することで、ワイヤ表層下部の第2元素原子比率に対して、ワイヤ表層部の第2元素原子比率を1.1倍以上にすることが可能である。
【実施例】
【0045】
以下、実施例について詳細に説明する。原材料となるAgは純度が99.9原子%以上で、残部が不可避不純物から構成されるものを用いた。Be,B,P,Ca,Y,La,Ce,Ni,Cu,Rh,Pd,Pt,Au,In,Ga,Cdは、純度が99.9原子%以上で残部が不可避不純物から構成されるものを用いた。
【0046】
表1−1、表1−2に示す成分組成を有するAgボンディングワイヤを製造した。ボンディングワイヤに用いるAg合金は、直径がφ3mm〜φ6mmの円柱型に加工したカーボンるつぼに原料を装填し、高周波炉を用いて、真空中もしくはN
2、Arガス等の不活性雰囲気で1080℃〜1600℃まで加熱して溶解させた。その後、炉冷もしくは空冷を行った。
【0047】
得られたAg合金に対して、引抜加工を行ってφ0.9mm〜φ1.2mmまで加工した後、ダイスを用いて連続的に伸線加工等を行うことによって、φ300μm〜φ600μmのワイヤを作製した。このとき、ワイヤ表面に酸素や硫黄が吸着している場合には、塩酸等による酸洗処理を行った。その後、200℃〜500℃の中間熱処理と伸線加工を繰返し行うことによって最終線径がφ15μm〜φ25μmになるまで加工した。伸線には市販の潤滑液を用い、伸線時のワイヤ送り速度は20m/分〜300m/分とした。中間熱処理はArガス雰囲気中にワイヤを連続的に通した。中間熱処理時のワイヤの送り速度は20m/分〜200m/分とした。
【0048】
ここで、200℃〜500℃の中間熱処理の回数を変更することで、ワイヤ表面から深さ20〜30nmの第2元素原子比率に対して、0〜10nmの領域における第2元素原子比率の比(X
0-10nm/X
20-30nm)を調整した。中間熱処理の回数を増やすほど、X
0-10nm/X
20-30nmを高くすることが可能である。好ましい条件として中間熱処理温度が1回目は200℃〜330℃、2回目は250℃〜400℃、3回目以降は350℃〜500℃の範囲で行った。これらの熱処理によって添加した元素がボンディングワイヤの表面に拡散するものである。
【0049】
また、中間熱処理を実施する線径を振ることで、ワイヤの平均結晶粒径を調整した。好ましい条件として、中間熱処理を実施する線径をφ50μm〜φ100μm以上とすることで、ワイヤ軸に垂直な方向の断面における平均結晶粒径を0.2μm〜3.5μmにした。再結晶時の結晶粒成長を制御できる効果によるものである。
【0050】
さらに、伸線時のワイヤ送り速度と中間熱処理の温度を調整することにより、<100>存在比率を調整した。好ましい条件として、伸線時のワイヤ送り速度を200〜300m/分とし、中間熱処理の温度を200〜300℃とすることで<100>存在比率を30%以上に増加させた。なお、本技術は中間熱処理を複数回行う場合においても有効である。
【0051】
伸線加工後のワイヤは最終的に破断伸びが約9〜15%になるよう最終熱処理を実施した。最終熱処理は中間熱処理と同様の方法で行った。最終熱処理時のワイヤの送り速度は中間熱処理と同様に20m/分〜200m/分とした。最終熱処理温度は200℃〜600℃で熱処理時間は0.2秒〜1.0秒とした。ここで、実施例の一部について、最終熱処理後に追加熱処理を350℃〜500℃で0.2秒〜0.5秒間実施することで、ワイヤ表面から深さ1〜10nm(ワイヤ表層下部)の第2元素原子比率に対して、深さ0〜1nm(ワイヤ表層部)の第2元素原子比率を(X
0-1nm/X
1-10nm)を1.1倍以上に制御した。
【0052】
ボンディングワイヤに含まれる元素の濃度分析は、ICP発光分光分析装置によって行った。ボンディングワイヤの表面に酸素や炭素などの元素が吸着している場合には、解析を行う前に表面から2nmの領域をスパッタ等で削ってから濃度測定を行った。
【0053】
ボンディングワイヤ表面から深さ方向の濃度分析は、オージェ電子分光分析装置によって行った。まず、ボンディングワイヤの表面からスパッタ等で削りながら濃度測定を行い、深さ方向の濃度プロファイルを取得した。例えば、濃度プロファイルを取得する対象の元素はAgと第1〜3元素群で添加した元素とすればよい。ワイヤ表面から深さ0〜1nmの領域(ワイヤ表層部)、1nm〜10nmの領域(ワイヤ表層下部)、0〜10nmの領域(ワイヤ表面部)、20nm〜30nm(ワイヤ内部)の領域に分けて、各領域におけるそれぞれの元素の含有量を決定した。ワイヤ表面を含む領域(この場合ではワイヤ表面から深さ0〜10nmの領域及びワイヤ表面から深さ20〜30nmの領域)をオージェ電子分光分析装置で評価するとき、ワイヤ表面に付着した炭素などの非金属元素も分析される。そのため、分析された全元素を分母として合金元素含有量を算出すると、実際にワイヤの表面付近では、ワイヤ中に含有する合金元素含有量よりも少ない値として評価される。ここでは、ワイヤ表面を含む表面付近(以下、表面付近という。)の合金元素含有量を評価するにあたっては、分母として分析された金属元素のみの総計を用いることとし、非金属元素は分母から排除した。これによって、ワイヤ表面付近の合金元素含有量を誤差なく評価することができる。
【0054】
そして、ワイヤ表面部における金属元素の総計原子数に対するIn,Ga,Cdの第2元素原子比率をX
0-10nm、ワイヤ内部における第2元素原子比率をX
20-30nmとして、その比であるX
0-10nm/X
20-30nmを「表層組成比1」として表2−1、表2−2に示した。また、ワイヤ表層部における金属元素の総計原子数に対するIn,Ga,Cdの中から選ばれた少なくとも1つ以上の元素の第2元素原子比率をX
0-1nm、ワイヤ表層下部における第2元素原子比率をX
1-10nmとして、その比であるX
0-1nm/X
1-10nmを「表層組成比2」として表2−1、表2−2に示した。
【0055】
ワイヤ軸に垂直方向の断面における平均結晶粒径の評価において、ワイヤ断面を露出させる方法は機械研磨によって行った。EBSDを用い、隣り合う測定点間の結晶方位差を求め、方位差が15度以上のものを大傾角粒界と定義し、大傾角粒界に囲まれた領域を1つの結晶粒とした。結晶粒径は、専用の解析ソフトによって面積を算出し、その面積を円と仮定したときの直径として、表2−1、表2−2の「平均結晶粒径」の欄に示した。
【0056】
ワイヤ軸に平行な断面の結晶方位の評価において、ボンディングワイヤの断面を露出させる方法としては、機械研磨を用いた。ボンディングワイヤの断面の結晶方位はEBSD法を用いて評価した。<100>存在比率は、EBSDを用いた結晶方位の測定領域の面積に対して、ボンディングワイヤのワイヤ軸方向に対して角度差が15度以下である<100>結晶方位を有する領域が占める面積の比率を算出することによって求め、表2−1、表2−2の「結晶方位比」の欄に示した。前記測定領域は、ワイヤ軸を含むワイヤ軸に平行な断面であって、長手方向をワイヤ軸方向で100μm以下、短手方向をワイヤ全体(ワイヤ直径と略同じ長さ)とした。
【0057】
ボールボンディング部の各種評価を行うためのサンプルは、一般的な金属フレーム上のSi基板に厚さ1.0μmのAl膜を成膜した電極に、市販のワイヤボンダーを用いてボール接合を行うことによって作製した。ボールはN
2+5%H
2ガスを流量0.4L/min〜0.6L/minで流しながら形成し、ボール径はワイヤ線径に対して1.5倍〜1.6倍の範囲とした。
【0058】
ボールボンディングを行ったときのボール部接合界面(Al電極とボール部との接合界面)におけるAg−Al金属間化合物層の評価方法について説明する。ボール部接合界面に形成される金属間化合物層は、層の厚さが非常に薄いため、そのままでは顕微鏡でも観察が難しい。そこで本発明が採用する評価では、ボールボンディングを行ったサンプルについて180℃×4時間の熱処理を行った。この熱処理によって、ボール部接合界面のうち、金属間化合物層が形成されている部分については当該金属間化合物がさらに成長して光学顕微鏡での評価が可能になる。一方でボール部接合界面のうちでボンディング時に金属間化合物層が形成されていない部分については、熱処理を行っても金属間化合物が新たに形成されることはない。従って、180℃×4時間の熱処理を行っても金属間化合物層の範囲は変化せず、より観察しやすくなるために確実に評価が可能となる。評価については、熱処理を行った後にボンディングワイヤとボール部を酸溶解してボール部接合界面を露出させ、露出したボール部接合界面におけるAg−Al金属間化合物を光学顕微鏡で観察し、画像解析によって金属間化合物形成面積率を求める。ここで金属間化合物形成面積率とは、ボール部接合界面の全面積に対する金属間化合物層の面積が占める比率(%)である。金属間化合物形成面積率が80%以下であれば×(不可)、80%超90%以下であれば△(可)、90%超95%以下であれば○(良)、95%超であれば◎(優)とした。○と◎が合格である。結果を表2−1、表2−2の「金属間化合物層形成性」の欄に示した。
【0059】
低ループ特性については、評価用のリードフレームに、ループ長1mm、ループ高さ60μmで100本ボンディングした。次いで、ボール接合部のネック損傷の有無をSEM(走査型電子顕微鏡)にて評価した。ボール接合部のネック部分に亀裂が生じたり、ネック部分が変形してワイヤが細くなっていたりしている場合、ネック損傷有りとした。100本のうち、ネック損傷有りが3本以上であれば×(不可)、2本は△(可)、1本は○(良)、0本は◎(優)とした。○と◎が合格である。結果を表2−1、表2−2の「低ループ特性」の欄に示した。
【0060】
リーニング評価については、評価用のリードフレームに、ループ長5mm、ループ高さ0.5mmで100本ボンディングした。評価方法として、チップ水平方向からワイヤ直立部を観察し、ボール接合部の中心を通る垂線とワイヤ直立部との間隔が最大であるときの間隔(リーニング間隔)で評価した。リーニング間隔がワイヤ径よりも小さい場合にはリーニングは良好、大きい場合には直立部が傾斜しているためリーニングは不良であると判断した。100本のボンディングしたワイヤを光学顕微鏡で観察し、リーニング不良の本数を数えた。不良が0本を◎(優)、1〜3本を○(良)、4〜5本を△(可)、6本以上を×(不可)とした。○と◎が合格である。結果を表2−1、表2−2の「リーニング特性」の欄に示した。
【0061】
FAB形状については、市販のワイヤボンダーでボンディングワイヤにボール接合用のボール(FAB)を形成し、その状態でSEMを用いてFAB形状を観察した。合計100個のFABを形成して評価を行った。真球状のものを良好、偏芯、異形のものを不良とした。不良が0個を◎(優)、1〜5個を○(良)、6〜10個を△(可)、11個以上を×(不可)とした。○と◎が合格である。結果を表2−1、表2−2の「FAB形状」の欄に示した。
【0062】
接合信頼性評価用のサンプルは、前記ボールボンディングを行った後、市販のエポキシ樹脂によって封止して作製した。高温高湿環境における接合信頼性は、不飽和型プレッシャークッカー試験機を使用し、温度130℃、相対湿度85%の高温高湿環境に暴露した時のボール接合部の接合寿命によって判定した。ボール接合部の接合寿命は100時間毎にボール接合部のシェア試験を実施し、シェア強度の値が初期に得られたシェア強度の1/3となる時間とした。高温高湿試験後のシェア試験は、酸処理によって樹脂を除去して、ボール接合部を露出させてから行った。シェア試験機はDAGE社製の微小強度試験機を用いた。シェア強度の値は無作為に選択したボール接合部の10か所の測定値の平均値を用いた。上記の評価において、接合寿命が300時間未満であれば実用上問題があると判断し×(不可)、300以上500時間未満であれば、実用上問題ないと判断し△(可)、500時間以上であれば特に優れていると判断し○(良)、1000時間以上であれば◎(優)と表記した。結果を表2−1、表2−2の「HAST」の欄に示した。
【0063】
チップダメージ性能の評価は、前記ボールボンディングを行ったサンプルについて、ボール接合部直下のSi基板を光学顕微鏡で観察することによって行った。Si基板に、き裂が見られた場合は不良と判定した。100箇所観察し、不良が1箇所以上あれば実用上問題があると判断し×(不可)、不良が全く発生しなければ特に優れていると判断し○(良)と表記した。結果を表2−1、表2−2の「チップダメージ」の欄に示した。
【0064】
ボンディングワイヤの使用寿命の評価は、ボンディングワイヤを大気雰囲気に一定期間放置した後、接合を行い、良好なボール形成ができているか、ボール接合部およびウェッジ接合部において良好な接合状態が得られているかどうかを評価した。ボール形成の判定は、100個のボールを光学顕微鏡で観察し、真球性の低いボールや表面に凹凸のあるボールが5個以上あれば不良と判定した。ボールの形成条件は、N
2+5%H
2ガスを使用してガス流量0.4〜0.6L/min、ボールの直径はワイヤ線径の1.5〜1.6倍の範囲とした。ボール接合部およびウェッジ接合部において良好な接合状態が得られているかの判定は、市販のワイヤボンダーを用いて1000回の接合を連続的に行って判定した。ボール接合部やウェッジ接合部を光学顕微鏡で観察し、剥離などの不良が3本以上発生した場合は不良と判定した。放置期間が12か月未満で上記のいずれかの不良が発生した場合は実用上問題があると判断し×(不可)、放置期間が12か月経過後18か月未満の間に不良が発生した場合は実用上問題がないと判断し△(可)、放置期間が18か月経過後24か月未満の間に不良が発生した場合は優れていると判断し○(良)、放置期間が24か月経過後も不良が全く発生しなければ特に優れていると判断し◎(優)と表記した。結果を表2−1、表2−2の「使用寿命」の欄に示した。
【0065】
ウェッジ接合性の評価は、Agめっきを施した一般的な金属フレームを用い、市販のワイヤボンダーを用いてウェッジ接合を行い、ウェッジ接合部を観察することで行った。接合条件は一般的に用いられる接合条件を用いた。50本のウェッジ接合部を光学顕微鏡で観察し、接合部においてボンディングワイヤの剥離が5個以上あれば実用上問題があると判断し×(不可)、剥離が3〜4個であれば実用上問題がないと判断し△(可)、剥離が1〜2個であれば優れていると判断し○(良)、不良が全く発生しなければ特に優れていると判断し◎(優)と表記した。結果を表2−1、表2−2の「ウェッジ接合性」の欄に示した。
【0066】
ボンディングワイヤの繰り出し性能の評価は、一般的な接合条件で接合を行った後、ループ部分のボンディングワイヤを走査型顕微鏡で観察し、直径を測定して、接合前のボンディングワイヤに対する直径の減少率を求めることで行った。減少率が80%以下であれば不良と判定した。30本のボンディングワイヤを観察し、不良が5本以上あれば実用上問題があると判断し×(不可)、不良が3〜4本であれば実用上問題がないと判断し△(可)、不良が1〜2本であれば優れていると判断し○(良)、不良が全く発生しなければ特に優れていると判断し◎(優)と表記した。結果を表2−1、表2−2の「ワイヤ繰出し性能」の欄に示した。
【0067】
キャピラリの使用寿命は、使用前後でキャピラリの先端の孔を観察し、キャピラリの先端の孔の磨耗量によって評価した。接合条件は一般的な条件とし、ボンディングワイヤを3000回接合後のキャピラリを観察して、実用上問題がなくても摩耗が確認された場合は△(可)、磨耗がなければ○(良)、さらに10000回接合後のキャピラリを観察して、磨耗がなければ優れていると判断し◎(優)と表記した。結果を表2−1、表2−2の「キャピラリ使用寿命」の欄に示した。
【0068】
【表1-1】
【0069】
【表1-2】
【0070】
【表2-1】
【0071】
【表2-2】
【0072】
表1−1、表1−2、表2−1、表2−2の本発明例No.1〜46が本発明例である。本発明例No.1〜46は、いずれの品質指標においても良好な結果を得ることができた。
【0073】
表1−2、表2−2の比較例No.101〜117が比較例である。また、比較例において評価欄が空欄であるものについては、評価を行っていない。比較例No.101〜103は第1元素群を含有せず、比較例No.111〜113は第1元素群の含有量が本発明の下限を外れ、比較例No.114〜117は第1元素群の含有量が本発明の上限を外れ、いずれも、金属間化合物層形成性、低ループ特性、リーニング特性、FAB形状が不良であった。
【0074】
比較例No.104〜107は第2元素群の含有量が本発明の下限を外れ、HAST成績が不良であった。比較例No.108〜110は第2元素群の含有量が本発明の上限を外れ、チップダメージが不良であった。
本発明は、Agを主成分とする半導体装置用ボンディングワイヤにおいて、ボール接合部の十分で安定した接合強度を実現し、低ループにおいてもネックダメージを発生させず、リーニング特性が良好であり、FAB形状が良好である半導体装置用ボンディングワイヤを提供することを課題とする。
上記課題を解決するため、本発明に係る半導体装置用ボンディングワイヤは、Be,B,P,Ca,Y,La,Ceの1種以上を総計で0.031〜0.180原子%含み、さらにIn,Ga,Cdの1種以上を総計で0.05〜5.00原子%含み、残部がAgおよび不可避不純物からなることを特徴とする。これにより、ボール部接合界面における金属間化合物層を十分に形成してボール接合部の接合強度を確保するとともに、低ループにおいてもネックダメージを発生させず、リーニング特性が良好であり、FAB形状が良好である半導体装置用ボンディングワイヤとすることができる。