(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Zが、置換ビピリジニル基、非置換ビピリジニル基、置換ターピリジニル基、非置換ターピリジニル基、置換フェナントロリニル基、非置換フェナントロリニル基、置換ピラジニル基、及び非置換ピラジニル基からなる群から選ばれるリガンドを含む、請求項2に記載の官能化ジエン系エラストマー。
−[−Y−Z]基が、6−(2,2’;6’,2”−ターピリジン−4’−イルスルファニル)ヘキシル−1−スルファニル、2,2’;6’,2”−ターピリジン−4’−イルスルファニル、及び4−(2,2’;6’,2”−ターピリジン−4’−イル)フェニルメチルスルファニルからなる群から選ばれる、請求項2に記載の官能化ジエン系エラストマー。
【発明を実施するための形態】
【0009】
少なくとも一つの共役ジエンモノマー及び所望により少なくとも一つのビニル芳香族モノマーを含むモノマーから誘導されたポリマー主鎖;及び主鎖に結合した官能基(該官能基は金属イオンと錯化できる多座配位子を含んでいる)を含む官能化エラストマーを開示する。
【0010】
さらに、少なくとも一つの共役ジエンモノマー及び所望により少なくとも一つのビニル芳香族モノマーを含むモノマーから誘導されたポリマー主鎖;及び主鎖に結合した官能基(該官能基は金属イオンと錯化できる多座配位子を含んでいる)を含む官能化エラストマー;及び金属イオンを含むゴム組成物も開示する。
【0011】
さらに、少なくとも一つの共役ジエンモノマー及び所望により少なくとも一つのビニル芳香族モノマーを含むモノマーから誘導されたポリマー主鎖;及び主鎖に結合した官能基(該官能基は金属イオンと錯化できる多座配位子を含んでいる)を含む官能化エラストマー;及びカプセル化金属塩を含むゴム組成物も開示する。
【0012】
さらに、該ゴム組成物を含む空気入りタイヤも開示する。
一態様において、官能化エラストマーは、構造I:
【0014】
[式中、Xは、少なくとも一つの共役ジエンモノマー及び所望により少なくとも一つのビニル芳香族モノマーを含むモノマーから誘導されたポリマーであり;Zは、金属イオンと錯化できる多座配位子を含む官能基であり;YはXとZの両方に結合した二価の基であり;そしてnはXに結合された−[−Y−Z]基の数である]を有する。
【0015】
一態様において、ポリマーXは、少なくとも一つの炭素炭素二重結合を含むジエン系エラストマーである。本明細書中で使用されている“オレフィン性不飽和を含有するゴム又はエラストマー”又は“ジエン系エラストマー”という語句は等価であり、天然ゴム及びその各種未加工形及び再生形、並びに各種合成ゴムのどちらも含むものとする。本発明の記載において、“ゴム”及び“エラストマー”という用語は、別段の規定のない限り互換的に使用されうる。“ゴム組成物”、“配合ゴム”及び“ゴムコンパウンド”という用語は、各種成分及び材料とブレンド又は混合されているゴムのことを言うのに互換的に使用され、そのような用語はゴム混合又はゴム配合分野の当業者には周知である。代表的な合成ゴムは、ブタジエン及びその同族体及び誘導体、例えばメチルブタジエン(すなわちイソプレン)、ジメチルブタジエン及びペンタジエンのホモ重合生成物、並びにブタジエン又はその同族体もしくは誘導体とその他の不飽和モノマーとから形成されるようなコポリマーである。後者に含まれるものとしては、アセチレン、例えばビニルアセチレン;オレフィン、例えばイソブチレン(イソプレンと共重合してブチルゴムを形成する);ビニル化合物、例えばアクリル酸、アクリロニトリル(ブタジエンと重合してNBRを形成する)、メタクリル酸及びスチレン(後者の化合物はブタジエンと重合してSBRを形成する)のほか、ビニルエステル及び各種不飽和アルデヒド、ケトン及びエーテル、例えばアクロレイン、メチルイソプロペニルケトン及びビニルエチルエーテルなどが挙げられる。合成ゴムの具体例は、ネオプレン(ポリクロロプレン)、ポリブタジエン(シス−1,4−ポリブタジエンを含む)、ポリイソプレン(シス−1,4−ポリイソプレンを含む)、ブチルゴム、ハロブチルゴム、例えばクロロブチルゴム又はブロモブチルゴム、スチレン/イソプレン/ブタジエンゴム、1,3−ブタジエン又はイソプレンとスチレン、アクリロニトリル及びメチルメタクリレートなどのモノマーとのコポリマー、並びにエチレン/プロピレンターポリマー(エチレン/プロピレン/ジエンモノマー(EPDM)としても知られる)、特にエチレン/プロピレン/ジシクロペンタジエンターポリマーなどである。使用できるゴムの追加例は、アルコキシ−シリル末端官能化溶液重合ポリマー(SBR、PBR、IBR及びSIBR)、ケイ素結合及びスズ結合星状枝分れポリマーなどである。ポリマーXとして使用するのに好適なゴム又はエラストマーはポリイソプレン(天然又は合成)、ポリブタジエン及びSBRである。
【0016】
一態様において、ポリマーXは、約20〜約28パーセントの結合スチレンという比較的従来的なスチレン含有量を有する乳化重合由来スチレン/ブタジエン(E−SBR)でありうる。又は用途によっては、中程度〜比較的高い結合スチレン含有量、すなわち約30〜約45パーセントの結合スチレン含有量を有するE−SBRでありうる。
【0017】
乳化重合調製E−SBRとは、スチレンと1,3−ブタジエンが水性エマルジョンとして共重合されることを意味する。そのようなことは当業者には周知である。結合スチレン含有量は、例えば、約5〜約50パーセントの間で変動しうる。一側面において、E−SBRは、アクリロニトリルも含有してE−SBARとしてターポリマーゴムを形成することもできる。その場合、ターポリマー中に例えば約2〜約30重量パーセントの量の結合アクリロニトリルが含有される。
【0018】
約2〜約40重量パーセントの結合アクリロニトリルをコポリマー中に含有する乳化重合調製スチレン/ブタジエン/アクリロニトリルコポリマーゴムも、本発明でポリマーXとして使用するためのジエン系ゴムとして想定されている。
【0019】
ポリマーXとして使用するのに適切な溶液重合調製SBR(S−SBR)は、典型的には、約5〜約50、好ましくは約9〜約36パーセントの範囲の結合スチレン含有量を有する。S−SBRは、例えば、有機炭化水素溶媒の存在下、有機リチウム触媒作用によって都合よく調製できる。
【0020】
一態様において、シス1,4−ポリブタジエンゴム(BR)がポリマーXとして使用されうる。そのようなBRは、例えば、1,3−ブタジエンの有機溶液重合によって調製できる。BRは、例えば、少なくとも90パーセントのシス1,4−含有量を有することによって都合よく特徴付けできる。
【0021】
本明細書中で使用され、従来の慣例に従う用語“phr”は、“100重量部のゴム、又はエラストマーあたりの各材料の重量部”を意味する。
一態様において、金属イオンと錯化できる多座配位子を含む官能基Zは、置換又は非置換ビピリジニル基、置換又は非置換ターピリジニル基、置換又は非置換フェナントロリニル基、及び置換又は非置換ピラジニル基などであるが、これらに限定されない。
【0022】
一態様において、金属イオンと錯化できる多座配位子を含む官能基Zは、置換又は非置換ビピリジニル基、置換又は非置換ターピリジニル基、置換又は非置換フェナントロリニル基、又は置換又は非置換ピラジニル基からなる群から選ばれる。
【0023】
一態様において、金属イオンと錯化できる多座配位子を含む官能基Zは、式IIの置換又は非置換ターピリジニル基、又は式IIIもしくはIVの置換又は非置換ビピリジニル基である。
【0025】
式中、R
1は、式IにおいてZからYへの連結を形成し、R
1は共有結合、C2〜C8直鎖アルキレン、アリーレン、アルキル置換アリーレン、アリール置換アルキレン、チオアルキレン又はチオアリーレンであり、R
2は、水素、C2〜C6直鎖アルキル、及びC2〜C6分枝アルキルからなる群から独立に選ばれる。
【0026】
一態様において、多座配位子を含む官能基Zは、置換又は非置換2,2’;6’,2”−ターピリジニル基である。
一態様において、多座配位子を含む官能基Zは、置換又は非置換2,2’−ビピリジニル基である。
【0027】
一態様において、−[−Y−Z]基は、6−(2,2’;6’,2”−ターピリジン−4’−イルスルファニル)ヘキシル−1−スルファニル、2,2’;6’,2”−ターピリジン−4’−イルスルファニル、及び4−(2,2’;6’,2”−ターピリジン−4’−イル)フェニルメチルスルファニルからなる群から選ばれる。
【0028】
Yは、X及びZの両方に結合した二価の基である。一態様において、Yは硫黄又は酸素である。一態様において、Yは硫黄である。
Xに結合された−[−Y−Z]基の数nは、所定のコポリマー分子において約2〜約30の範囲である。
【0029】
“金属イオンと錯化できる”とは、式Iの官能化エラストマーの一部として、官能基Zが金属イオンと錯体構造を形成できることを意味し、そのような金属イオンは、例えば官能化エラストマーをゴム組成物に混合中に金属塩を添加することによって存在できる。適切な金属イオンは、配位子(リガンド)と錯化することが知られている亜鉛イオン、銅イオン、鉄イオン、ニッケルイオン、ルテニウムイオンなどであるが、これらに限定されない。官能基Zと金属イオンとの錯化は、単一の官能基Zと金属イオン間の錯体として、又は2個以上の官能基Zと金属イオン間の配位錯体として存在しうる。
図1に、硫黄連結(2)を通じてリガンドとしてのターピリジン基(3)で官能化されたエラストマー(1)(波線で示す)間のそのような配位錯体が概略的に示されている。金属イオンM(4)の添加により、金属イオンM(4)と官能化エラストマーの二つのリガンド基(3)との間で配位錯体(5)が形成されることが示されている。
【0030】
官能化エラストマーは様々な方法によって製造できる。一態様において、官能化エラストマーは、ポリマーXを、金属イオンと錯化できる多座配位子を含む官能基Zで官能化することによって製造できる。各種エラストマーを官能化するための便利な方法はチオール−エン反応で、この反応中エラストマー中に存在するアルケン部分はチオールとの反応によってチオエーテルに変換される。この反応は、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、及びポリイソプレンゴム中に存在するビニル基で好適に進行する。エラストマーの官能化を可能にするには、−[−Y−Z]基(Yは硫黄)を、チオールHS−ZとエラストマーXのビニル基との反応を通じてエラストマーXに連結し、式I(Yは硫黄)のチオエーテルを形成させればよい。エラストマーに関連するチオール−エン反応の更なる詳細は、米国特許第6,365,668号及び7,847,019号を参照することによって見出すことができ、前記特許のいずれもその全体を引用によって本明細書に援用する。
【0031】
官能化エラストマーを製造するための方法の一つのステップは、少なくとも一つの炭素炭素二重結合を含むエラストマーを第一のポリマーXとして得ることである。
方法の第二のステップは、金属イオンと錯化できる多座配位子を含む官能基Z及び第一のポリマーの炭素炭素二重結合と反応できる官能基Yを含む官能化剤を得ることである。
【0032】
方法の第三のステップは、第一のポリマーXを官能化剤と反応させて、官能化エラストマーを形成させることである。官能化剤と第一のポリマーとの反応中、官能基Zは、官能基Yと第一のポリマーの不飽和炭素炭素結合との反応を通じて第一のポリマーに連結される。
【0033】
一態様において、官能化剤を、適切な溶媒中、フリーラジカル開始剤の存在下、当該技術分野で公知のチオール−エン反応によって第一のポリマーと反応させる。例えば、Macromolecules 2008,41,9946−9947参照。一態様において、フリーラジカル開始剤は、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド及びアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)からなる群から選ばれる。
【0034】
官能化エラストマーのほかに、ゴム組成物は金属イオンも含む。何らかの理論に束縛されるつもりはないが、官能化エラストマーの存在下で、金属イオンは、
図1に例示し本明細書中で前述したのと類似の様式で官能化エラストマーと錯化できる。
図1では、金属イオンMは、ゴム組成物への金属塩の添加を通じて、官能化エラストマーと自由に会合することが示されている。別の態様においては、錯化は
図2に示すようなものでありうる。
図2に示されているように、金属イオンM(4)は表面(7)上に配置され、リガンド(3)と錯体(6)を形成している。表面7は、例えば、金属製タイヤコード、金属ナノ粒子、金属化充填剤、例えば金属化カーボンブラック又は金属化シリカ、又は金属化短繊維の表面でありうる。
図1又は2に描かれているような金属イオンと官能化エラストマーの相互作用は、例えばゴム組成物のモジュラスの増大、充填剤との改良された相互作用、又はゴム組成物の補強剤に対する改良された接着をもたらすことができる。
【0035】
一態様において、金属イオンは、ゴム組成物中にカプセル化金属イオンとして存在してもよい。カプセル化金属イオンの配置は、例えば、
図3及び4に示された態様に例示されている。
【0036】
図3は、ランフラットタイヤ101、そのトレッド102、ビード部103、サイドウォール又はサイドウォール部104、伸長不能の(inextensible)ワイヤビードコア105、ゴムチェーファー106、ゴムトウガード(toeguard)107、ゴム組成物インナーライナー108、トレッド102部分の下にあるベルト構造109、カーカスプライ110、カーカスプライ折り返し(turnup)111、ゴム状サイドウォールインサート112及びアペックス113の部分断面図を示す。サイドウォールインサート112は、各ビード部からトレッドの端部に放射状に、通常補強ベルト構造109の直下まで伸びることができる。
【0037】
図4に示されているようなカプセル化金属イオン118は、ランフラットタイヤ101のサイドウォールインサート112中に分散されて提供されている。カプセル化金属イオン118は、マイクロカプセル122を定義(規定)するコーティング材料によってカプセル化された金属イオン120を含む。カプセル化金属イオン118を含有するゴム状サイドウォールインサート112は、一般的に当業者に公知の手段及び方法によって形成(formulate)することができる。
【0038】
マイクロカプセルのコーティング材料は、多数のその材料又は混合物から選ぶことができる。例えば、コーティングは、パラフィンなどのワックス、フェノールホルムアルデヒド又はユリアホルムアルデヒドのような樹脂、カーボンピッチ、Kraton(登録商標)のような熱可塑性エラストマー、及びシンジオタクチックポリブタジエン、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンオキシド、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸及び誘導体、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリオルトエステル、ポリビニルピロリドン、又はポリプロピレン(PP)のような熱可塑性樹脂を含みうる。一態様においてコーティング材料はポリプロピレンである。別の態様においてコーティング材料はパラフィンである。さらに別の態様においてコーティング材料はユリアホルムアルデヒドである。
【0039】
カプセル化金属イオンは、以下でさらに説明するように、ゴム状ポリマーと共に加工されて最終的にゴムコンパウンド、例えばタイヤ101に使用するのに適切なゴム状サイドウォールインサート112を提供するので、選ばれるコーティング材料は、加工温度に耐えることができなければならない。そのような加工は、例えば、混合、カレンダリング、押出、及び硬化(又は加硫)ステップを含みうる。それらの加工ステップの中では、加硫がカプセル化金属イオンのコーティング材料が遭遇する最も高い温度を含み、例えばタイヤ101に使用されるゴム組成物の特徴にもよるが、約120℃〜約180℃になるであろう。
【0040】
そのためには、マイクロカプセル122のコーティング材料は、硬化を含むゴムコンパウンドの加工中にそれが遭遇する温度では熱的に安定であるように選ばれるが、そのような加工温度より高いであろう所望の動作温度では熱的に不安定であるように選ばれる。特に、ランフラットタイヤ101が経験する空気抜け(deflation)事象中、インサート112は、高温だけでなく高い機械的応力にも暴露される。この機械的応力と高温の組合せは、コーティング材料を破裂させ、金属イオンを放出させる放出機構(すなわち熱−機械的放出)として動作する。従って、空気抜けしたランフラット事象中に経験する温度は、加工中にカプセル化金属イオンが経験する温度と同様かもしれないが、ランフラット事象中に加えられる機械的応力は、加工中に経験するそれよりおそらくかなり高い。コーティング材料がランフラット事象中に経験する応力条件下で熱的に不安定になる動作温度を本明細書では放出温度と呼ぶ。従って、マイクロカプセル122のコーティング材料は、加工ステップ中はコーティング材料の溶融又は軟化を通じて起こり得るような金属イオン120の放出を防止するように、そしてまた、例えばタイヤ112に使用されているゴム組成物の放出温度では溶融又は軟化及び機械的応力による破裂などを通じて金属イオン120を放出するように選ばれる。この放出は、金属イオン120が、周囲のゴムとの反応によって官能化エラストマーと相互作用することを可能にする。このようにして、ゴムコンパウンドのその領域は、例えばコンパウンドの剛化(stiffening)によって補強できる。
図3及び4に示されている態様では、そのようなインサート112の剛化は、従ってタイヤ101の空気抜け事象中のサイドウォール104を支持する。使用されるコーティング材料の種類にもよるが、コーティング材料が熱的に不安定になる点は、その融点よりむしろそのガラス転移温度によって定義することができる。
【0041】
既に述べたように、放出温度はカプセル化金属イオンのコーティング材料が遭遇する加工温度より高いであろう。そのような放出温度は一般的にタイヤの特徴に応じて変動する。一例において、乗用車用タイヤのインサートコンパウンドは、ランフラット事象中に200℃までの温度を経験しうる。しかしながら、ランフラット事象中に経験される極限温度より多少低い放出温度を使用するのが望ましいであろう。それは、低い温度での金属イオンの放出と、その結果の金属イオンと官能化エラストマーとの相互作用を可能にして、タイヤが望ましくないほど高い温度に暴露されるのを避けるためである。このようにして、空気抜け事象中のランフラットタイヤ101によって得られる走行距離は、金属イオンの放出によるインサート112の剛化のために増大する。
【0042】
マイクロカプセルのコーティング厚も、カプセル化金属イオンが混合などの加工の厳しさに耐えるのに十分な耐久性を提供せねばならないが、空気抜け事象中に経験する機械的応力中の破裂も可能にしなければならない。従って、一例において、コーティング厚は約18nm〜約6000nmの厚さである。また、マイクロカプセルの直径も広く変動しうるが、一般的に約1ミクロン〜約2000ミクロンでありうる。一態様において、直径は約10ミクロン〜約150ミクロンである。
【0043】
マイクロカプセル化技術は当業者には公知である。それに向けて、カプセル化金属イオンは様々な方法で製造できる。プロセスの一つの特徴は、金属イオンを完全に包み込むマイクロカプセルを形成し、前述のタイプ及びサイズのマイクロカプセルを提供することである。一例において、マイクロカプセルは、合成樹脂材料で形成され、界面重合、現場重合などのような周知の重合法によって製造できる。別の例では、カプセル化金属イオンは、金属イオン、溶融コーティング材料、及び所望により界面活性剤又は分散剤などのその他の助剤を含有する混合物を、回転テーブルなどの急速に回転する装置上の冷却塔の中で流動させ、高遠心力のために外側に移動させることによって製造できる。直径は端部で大きいので、粒子は分離し、凝集塊の生成が避けられる。回転装置の端部から投げ飛ばされた後、粒子又はカプセル化金属イオンは個々に外に飛び出し、その過程で冷却され、その結果コーティングが固化する。
【0044】
スプレー乾燥、流動床コーティング、乳化又は懸濁法及び沈殿などのその他のプロセスも、カプセル化金属イオンを製造するために考慮される。
例えば、ランフラットタイヤの空気抜け事象中にカプセル化金属イオンの放出温度に達すると、金属イオンはマイクロカプセルから放出され、官能化エラストマーを含む周囲のゴム組成物に暴露される。
【0045】
金属イオンは、一般的に、官能化エラストマーと錯化するのに足る量でゴム組成物に添加される。ゴム組成物中に存在する官能化エラストマーの量及びエラストマー分子中のリガンド基の数に応じて、必要な金属イオンの量は当業者によって容易に決定できる。所望の効果に応じて、金属イオンの化学量論量より過剰の又は少ない量の金属イオンが使用されてもよい。
【0046】
一態様において、金属イオンは、二価銅、二価鉄、二価コバルト、二価ニッケル、二価亜鉛及び二価ルテニウム、すなわちCu
2+、Fe
2+、Co
2+、Ni
2+、Zn
2+及びRu
2+などである。
【0047】
一態様において、金属イオンはゴム組成物に金属塩として添加される。一態様において、金属イオンはゴム組成物に、FeSO
4・7H
2O、FeCl
2、NiCl
2、RuCl
3、ステアリン酸コバルト、ステアリン酸亜鉛など含む金属塩として添加される。
【0048】
一態様において、金属イオンは、ゴム組成物中に、当該技術分野で知られているような金属製タイヤコード、例えばスチールタイヤコードの表面上に配置された金属イオンとして存在する。そのようなスチールコードは、例えばタイヤの補強スチールベルトに使用できる。適切なスチールタイヤコードは、例えば、真鍮、銅、又はコバルトで処理された表面を有しうる。ワイヤコート又はスキムコートとしてのゴム組成物は金属製コードの表面に接触する。ゴム組成物の金属製タイヤコードへの十分な接着はタイヤの性能において重要である。官能化エラストマーと、金属製タイヤコードの表面上に配置された金属イオンとの相互作用は、ゴム組成物の金属製タイヤコードに対する接着を増強しうる。
【0049】
一態様において、金属イオンはゴム組成物に金属化短繊維の表面上に配置された金属として添加される。適切な短繊維は、ゴム組成物に通常使用されている0.1〜10mmの範囲の長さを有するものを含む。様々な態様において、金属化短繊維は、金属化ポリビスベンゾオキサゾール繊維、金属化ポリアラミド繊維、金属化ガラス繊維、金属化カーボンファイバー、金属化ポリアミド繊維、金属化セルロース繊維、金属化ポリエステル繊維、金属化レーヨン繊維、及び金属化ポリケトン繊維でありうる。適切な金属化短繊維は、米国特許公開第2010/0319827号(引用によってその全体を本明細書に援用する)に開示されているものを含む。金属化短繊維は、ゴム組成物中に、所望の効果、例えば補強効果又はモジュラスの増強を付与するのに足る量で存在する。一態様において、金属化短繊維は、1〜100phrの範囲の量で存在する。
【0050】
一態様において、金属イオンは金属ナノ粒子の形態で添加される。適切なナノ粒子は、カリフォルニア州ロサンゼルスのAmerican Elements社から入手できる粒径範囲10〜100nmの銅ナノ粒子を含む。
【0051】
一態様において、金属イオンはゴム組成物に金属化カーボンブラックの表面上に配置された金属として添加される。適切な金属化カーボンブラックは、例えば米国特許第6,017,980号(引用によってその全体を本明細書に援用する)に開示されているような、炭素相と金属含有種相の凝集体を含む。一態様において、金属化カーボンブラックは、1〜100phrの範囲の量で存在する。
【0052】
一態様において、金属イオンはゴム組成物に金属化シリカの表面上に配置された金属として添加される。適切な金属化シリカは、例えば米国特許第7,943,693号(引用によってその全体を本明細書に援用する)に開示されているような、その表面上に配置された金属を有するシリカを含む。一態様において、金属化シリカは、1〜100phrの範囲の量で存在する。
【0053】
ゴム組成物は、所望により、官能化エラストマー及び金属イオンに加えて、オレフィン性不飽和を含有する一つ又は複数のゴム又はエラストマーを含んでいてもよい。“オレフィン性不飽和を含有するゴム又はエラストマー”又は“ジエン系エラストマー”という語句は、天然ゴム及びその各種未加工形及び再生形、並びに各種合成ゴムのどちらも含むものとする。本発明の記載において、“ゴム”及び“エラストマー”という用語は、別段の規定のない限り互換的に使用されうる。“ゴム組成物”、“配合ゴム”及び“ゴムコンパウンド”という用語は、各種成分及び材料とブレンド又は混合されているゴムのことを言うのに互換的に使用され、そのような用語はゴム混合又はゴム配合分野の当業者には周知である。代表的な合成ポリマーは、ブタジエン及びその同族体及び誘導体、例えばメチルブタジエン、ジメチルブタジエン及びペンタジエンのホモ重合生成物、並びにブタジエン又はその同族体もしくは誘導体とその他の不飽和モノマーとから形成されるようなコポリマーである。後者に含まれるものとしては、アセチレン、例えばビニルアセチレン;オレフィン、例えばイソブチレン(イソプレンと共重合してブチルゴムを形成する);ビニル化合物、例えばアクリル酸、アクリロニトリル(ブタジエンと重合してNBRを形成する)、メタクリル酸及びスチレン(後者の化合物はブタジエンと重合してSBRを形成する)のほか、ビニルエステル及び各種不飽和アルデヒド、ケトン及びエーテル、例えばアクロレイン、メチルイソプロペニルケトン及びビニルエチルエーテルなどが挙げられる。合成ゴムの具体例は、ネオプレン(ポリクロロプレン)、ポリブタジエン(シス−1,4−ポリブタジエンを含む)、ポリイソプレン(シス−1,4−ポリイソプレンを含む)、ブチルゴム、ハロブチルゴム、例えばクロロブチルゴム又はブロモブチルゴム、スチレン/イソプレン/ブタジエンゴム、1,3−ブタジエン又はイソプレンとスチレン、アクリロニトリル及びメチルメタクリレートなどのモノマーとのコポリマー、並びにエチレン/プロピレンターポリマー(エチレン/プロピレン/ジエンモノマー(EPDM)としても知られる)、特にエチレン/プロピレン/ジシクロペンタジエンターポリマーなどである。使用できるゴムの追加例は、アルコキシ−シリル末端官能化溶液重合ポリマー(SBR、PBR、IBR及びSIBR)、ケイ素結合及びスズ結合星状枝分れポリマーなどである。好適なゴム又はエラストマーはポリイソプレン(天然又は合成)、ポリブタジエン及びSBRである。
【0054】
一側面において、少なくとも一つの追加ゴムは、好ましくはジエン系ゴムの少なくとも二つである。例えば、シス1,4−ポリイソプレンゴム(天然又は合成、ただし天然が好適)、3,4−ポリイソプレンゴム、スチレン/イソプレン/ブタジエンゴム、乳化重合及び溶液重合由来スチレン/ブタジエンゴム、シス1,4−ポリブタジエンゴム及び乳化重合調製ブタジエン/アクリロニトリルコポリマーなどの二つ以上のゴムの組合せが好適である。
【0055】
本発明の一側面において、約20〜約28パーセントの結合スチレンという比較的従来的なスチレン含有量を有する乳化重合由来スチレン/ブタジエン(E−SBR)が使用されうる。又は用途によっては、中程度〜比較的高い結合スチレン含有量、すなわち約30〜約45パーセントの結合スチレン含有量を有するE−SBRが使用されうる。
【0056】
乳化重合調製E−SBRとは、スチレンと1,3−ブタジエンが水性エマルジョンとして共重合されることを意味する。そのようなことは当業者には周知である。結合スチレン含有量は、例えば、約5〜約50パーセントの間で変動しうる。一側面において、E−SBRは、アクリロニトリルも含有してE−SBARとしてターポリマーゴムを形成することもできる。その場合、ターポリマー中に例えば約2〜約30重量パーセントの量の結合アクリロニトリルが含有される。
【0057】
約2〜約40重量パーセントの結合アクリロニトリルをコポリマー中に含有する乳化重合調製スチレン/ブタジエン/アクリロニトリルコポリマーゴムも、本発明で使用するためのジエン系ゴムとして想定されている。
【0058】
溶液重合調製SBR(S−SBR)は、典型的には、約5〜約50、好ましくは約9〜約36パーセントの範囲の結合スチレン含有量を有する。S−SBRは、例えば、有機炭化水素溶媒の存在下、有機リチウム触媒作用によって都合よく調製できる。
【0059】
一態様において、シス1,4−ポリブタジエンゴム(BR)が使用されうる。そのようなBRは、例えば、1,3−ブタジエンの有機溶液重合によって調製できる。BRは、例えば、少なくとも90パーセントのシス1,4−含有量を有することによって都合よく特徴付けできる。
【0060】
シス1,4−ポリイソプレン及びシス1,4−ポリイソプレン天然ゴムは、ゴム分野の当業者には周知である。
本明細書中で使用され、従来の慣例に従う用語“phr”は、“100重量部のゴム、又はエラストマーあたりの各材料の重量部”を意味する。
【0061】
ゴム組成物は70phrまでのプロセス油も含みうる。プロセス油は、典型的にはエラストマーを増量するために使用される増量油(extending oil)としてゴム組成物中に含まれうる。プロセス油は、ゴム配合中に直接オイルを添加することによってゴム組成物中に含めることもできる。使用されるプロセス油は、エラストマー中に存在する増量油及び配合中に添加されるプロセス油の両方を含みうる。適切なプロセス油は、当該技術分野で知られている各種油、例えば芳香族油、パラフィン系油、ナフテン系油、植物油、及び低PCA油、例えばMES、TDAE、SRAE及び重ナフテン系油などである。適切な低PCA油は、IP346法による測定で多環芳香族含有量が3重量パーセント未満のものなどである。IP346法の手順は、英国石油学会(Institute of Petroleum)出版の
Standard Methods for Analysis & Testing of Petroleum and Related Products and British Standard 2000 Parts、2003年、第62版に見出すことができる。
【0062】
ゴム組成物は約10〜約150phrのシリカを含みうる。別の態様では、20〜80phrのシリカが使用されうる。
ゴムコンパウンドに使用できる一般的に用いられるケイ質顔料は、従来型の焼成(pyrogenic)及び沈降ケイ質顔料(シリカ)を含む。一態様においては沈降シリカが使用される。本発明で使用される従来型ケイ質顔料は、例えば、ケイ酸ナトリウムなどの可溶性ケイ酸塩の酸性化によって得られるような沈降シリカである。
【0063】
そのような従来型シリカは、例えば、窒素ガスを用いて測定されたBET表面積を有することによって特徴付けできる。一態様において、BET表面積は、1グラムあたり約40〜約600平方メートルの範囲でありうる。別の態様において、BET表面積は、1グラムあたり約80〜約300平方メートルの範囲でありうる。表面積を測定するBET法は、
Journal of the American Chemical Society、第60巻、304ページ(1930)に記載されている。
【0064】
従来型シリカは、約100〜約400、あるいは約150〜約300の範囲のジブチルフタレート(DBP)吸収値を有することによって特徴付けすることもできる。
従来型シリカは、電子顕微鏡による測定で例えば0.01〜0.05ミクロンの範囲の平均極限粒径を有すると予想できるが、シリカ粒子は、さらに小さい、又はおそらくは大きいサイズであってもよい。
【0065】
様々な市販シリカが使用できる。例えば、本明細書における単なる例として及び制限なしに挙げると、PPG Industries社から商標Hi−Sil、規格210、243などとして市販されているシリカ;Rhodia社から例えば規格Z1165MP及びZ165GRとして入手できるシリカ;及びDegussa AG社から例えば規格VN2及びVN3などとして入手できるシリカなどである。
【0066】
一般的に使用されるカーボンブラックが従来型充填剤として10〜150phrの範囲の量で使用できる。別の態様では20〜80phrのカーボンブラックが使用できる。そのようなカーボンブラックの代表例は、N110、N121、N134、N220、N231、N234、N242、N293、N299、N315、N326、N330、N332、N339、N343、N347、N351、N358、N375、N539、N550、N582、N630、N642、N650、N683、N754、N762、N765、N774、N787、N907、N908、N990及びN991などである。これらのカーボンブラックは、9〜145g/kgの範囲のヨウ素吸収及び34〜150cm
3/100gの範囲のDBP数を有している。
【0067】
他の充填剤もゴム組成物に使用できる。例えば、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)などの粒状充填剤、米国特許第6,242,534号;6,207,757号;6,133,364号;6,372,857号;5,395,891号;又は6,127,488号(これらに限定されない)に開示されているような架橋粒状ポリマーゲル、及び米国特許第5,672,639号(これに限定されない)に開示されているような可塑化デンプン複合充填剤などであるが、これらに限定されない。そのようなその他の充填剤は1〜30phrの範囲の量で使用されうる。
【0068】
一態様において、ゴム組成物は従来型の硫黄含有有機ケイ素化合物を含有しうる。適切な硫黄含有有機ケイ素化合物の例は、式:
Q−Alk−S
q−Alk−Q V
の化合物で、式中、Qは、
【0070】
からなる群から選ばれ、式中、R
3は1〜4個の炭素原子のアルキル基、シクロヘキシル又はフェニルであり;R
4は1〜8個の炭素原子のアルコキシ、又は5〜8個の炭素原子のシクロアルコキシであり;Alkは1〜18個の炭素原子の二価炭化水素であり、qは2〜8の整数である。
【0071】
一態様において、硫黄含有有機ケイ素化合物は、3,3’−ビス(トリメトキシ又はトリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィドである。一態様において、硫黄含有有機ケイ素化合物は、3,3’−ビス(トリトリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド及び/又は3,3’−ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドである。従って、式Vに関して、Qは、
【0073】
でありうる。式中、R
4は2〜4個の炭素原子、あるいは2個の炭素原子のアルコキシであり;Alkは2〜4個の炭素原子、あるいは3個の炭素原子の二価炭化水素であり;qは2〜5、あるいは2又は4の整数である。
【0074】
別の態様において、適切な硫黄含有有機ケイ素化合物は、米国特許第6,608,125号に開示されている化合物を含む。一態様において、硫黄含有有機ケイ素化合物は、Momentive Performance Materials社からNXT(登録商標)として市販されている3−(オクタノイルチオ)−1−プロピルトリエトキシシラン、CH
3(CH
2)
6C(=O)−S−CH
2CH
2CH
2Si(OCH
2CH
3)
3を含む。
【0075】
別の態様において、適切な硫黄含有有機ケイ素化合物は、米国特許公開第2003/0130535号に開示されているものを含む。一態様において、硫黄含有有機ケイ素化合物はDegussa社製Si−363である。
【0076】
ゴム組成物中の硫黄含有有機ケイ素化合物の量は、使用されるその他の添加剤の量によって変動する。一般的に言えば、該化合物の量は0.5〜20phrの範囲であろう。一態様において、その量は1〜10phrの範囲であろう。
【0077】
当業者であれば、ゴム組成物は、ゴム配合分野で一般的に知られている方法によって配合されるであろうことは容易に分かるはずである。例えば、様々な硫黄加硫可能成分ゴムを、一般的に使用されている様々な添加剤材料、例えば、硫黄供与体、硬化補助剤、例えば活性化剤及び遅延剤及び加工添加剤、例えばオイル、粘着付与樹脂を含む樹脂及び可塑剤、充填剤、顔料、脂肪酸、酸化亜鉛、ワックス、抗酸化剤及びオゾン劣化防止剤及びしゃく解剤などと混合する。当業者には分かる通り、硫黄加硫可能(sulfur vulcanizable)材料及び硫黄加硫(sulfur-vulcanized)材料(ゴム)の意図する使用に応じて、上記添加剤は選択され、従来量で一般的に使用される。硫黄供与体の代表例は、元素硫黄(遊離硫黄)、アミンジスルフィド、ポリマー性ポリスルフィド及び硫黄オレフィン付加物などである。一態様において、硫黄加硫剤は元素硫黄である。硫黄加硫剤は、0.5〜8phrの範囲、あるいは1.5〜6phrの範囲の量で使用されうる。粘着付与樹脂の典型的な量は、使用される場合、約0.5〜約10phr、通常約1〜約5phrを含む。加工助剤の典型的な量は約1〜約50phrを含む。抗酸化剤の典型的な量は約1〜約5phrを含む。代表的抗酸化剤は、例えばジフェニル−p−フェニレンジアミン及びその他、例えば
The Vanderbilt Rubber Handbook(1978),344〜346ページに開示されているものであろう。オゾン劣化防止剤の典型的な量は約1〜約5phrを含む。脂肪酸の典型的な量は、使用される場合、ステアリン酸などでありうるが、約0.5〜約3phrを含む。酸化亜鉛の典型的な量は約0.1〜約5phrを含む。官能化エラストマーとの錯化を避けるために少ない量の酸化亜鉛が使用されうる。ワックスの典型的な量は約1〜約5phrを含む。微晶質ワックスが使用されることが多い。しゃく解剤の典型的な量は約0.1〜約1phrを含む。典型的なしゃく解剤は、例えば、ペンタクロロチオフェノール及びジベンズアミドジフェニルジスルフィドであろう。
【0078】
促進剤は、加硫に要する時間及び/又は温度を制御するため、及び加硫物の性質を改良するために使用される。一態様において、単一促進剤系、すなわち一次促進剤が使用されうる。一次促進剤(一つ又は複数)は、約0.5〜約4、あるいは約0.8〜約1.5phrの範囲の総量で使用されうる。別の態様では、活性化及び加硫物の性質を改良するために、一次及び二次促進剤の組合せが使用されうる。その場合、二次促進剤は少量、例えば約0.05〜約3phrの量で使用される。これらの促進剤の組合せは、最終性質に対して相乗効果をもたらすことが期待され、いずれかの促進剤を単独で使用して製造されたものよりも多少良好である。さらに、標準的な加工温度には影響されないが、通常の加硫温度で満足のいく硬化をもたらす遅延作用促進剤を使用することもできる。加硫遅延剤も使用できる。本発明に使用されうる適切なタイプの促進剤は、アミン、ジスルフィド、グアニジン、チオウレア、チアゾール、チウラム、スルフェンアミド、ジチオカルバメート及びキサンテートである。一態様において、一次促進剤はスルフェンアミドである。二次促進剤を使用する場合、二次促進剤は、グアニジン、ジチオカルバメート又はチウラム化合物であろう。
【0079】
ゴム組成物の混合は、ゴム混合分野の当業者に公知の方法によって達成できる。例えば、成分は典型的には少なくとも二つの段階、すなわち、少なくとも一つのノンプロダクティブ段階とそれに続くプロダクティブ混合段階で混合される。硫黄加硫剤を含む最終硬化剤は典型的には最終段階で混合される。この段階は従来、“プロダクティブ”混合段階と呼ばれ、そこでは混合が典型的にはその前のノンプロダクティブ混合段階(一つ又は複数)の混合温度より低い温度、又は極限温度で行われる。“ノンプロダクティブ”及び“プロダクティブ”混合段階という用語は、ゴム混合分野の当業者には周知である。ゴム組成物は、熱機械的混合ステップに付されてもよい。熱機械的混合ステップは、一般的に、ミキサー又は押出機内で、140℃〜190℃のゴム温度を生ずるために適切な時間の機械的作業を含む。熱機械的作業の適切な時間は、運転条件、並びに成分の容量及び性質に応じて変動する。例えば、熱機械的作業は1〜20分であろう。
【0080】
当該ゴム組成物は、当該技術分野で知られているようなタイヤの様々なゴム部品に組み込むことができる。例えば、ゴム部品は、トレッド(トレッドキャップ及びトレッドベースを含む)、サイドウォール、アペックス、チェーファー、サイドウォールインサート、ワイヤコート又はインナーライナーでありうる。
【0081】
本発明の空気入りタイヤは、レース用タイヤ、乗用車用タイヤ、航空機用タイヤ、農業用、土工機械用、オフロード用、トラック用タイヤなどでありうる。一態様において、タイヤは乗用車又はトラック用タイヤである。タイヤはラジアルでもバイアスでもよい。
【0082】
本発明の空気入りタイヤの加硫は、一般的に約100℃〜200℃の範囲の従来温度で実施される。一態様において、加硫は約110℃〜180℃の範囲の温度で実施される。成形機又は金型内での加熱、過熱蒸気又は熱風での加熱といった通常の加硫プロセスのいずれも使用できる。そのようなタイヤは、当業者に公知の、そして容易に明らかな様々な方法によって構築、成形(shaped)、成型(molded)及び硬化できる。
【0083】
本発明を以下の非制限的実施例によってさらに説明する。
【実施例】
【0084】
実施例1.
本実施例では、チオール−エン反応を実証するために、2−メルカプトナフタレンによるスチレン−ブタジエンゴムの官能化を示す。
【0085】
チオール−エン反応におけるスチレン−ブタジエンゴムの反応性及び反応条件を試験するために、モデルチオールといくつかの反応を行った。選ばれたチオールは、Aldrich社製の2−メルカプトナフタレンであった。
【0086】
使用されたスチレン−ブタジエンゴムの性質を表1にまとめた。
図5にエラストマーの
1H−NMRスペクトルを示す。
【0087】
【表1】
【0088】
2−メルカプトナフタレン官能化ゴムの合成
このコンパウンドを、1回は反応開始剤としてAIBNを用い、1回はアシルホスフィンオキシド光開始剤(ルシリンTPO)を用いて2回合成した。
【0089】
AIBNで開始される反応の場合、1gのSBRを50mlの乾燥THF中に溶解し、1.40gの2−メルカプトナフタレン及び0.14gのAIBNを加えた。溶液をアルゴン流下で2時間脱ガスした後、75℃に予熱された油浴に入れた。反応をその温度で14.5時間撹拌した。
【0090】
光開始剤で開始される反応の場合、1gのSBR、1.40gの2−メルカプトナフタレン及び0.3gのルシリンTPOの混合物をアルゴン流下で2時間脱ガスし、その後、UVランプ(320〜380nm)下に14.5時間置いた。
【0091】
生成物中に遊離チオールが存在しないことを確実にするために、両反応混合物ともTHFに対して2日間透析した。その後、溶媒を蒸発させ、生成物を真空下で乾燥させた。
図6に、2−メルカプトナフタレンとの反応前(1)及び反応後(2)のエラストマーのUV可視スペクトル及び純チオールのスペクトル(3)を示す。この場合、光開始剤が使用された。
図7に、AIBNで開始された反応に関する同じスペクトルを示す。すなわち、2−メルカプトナフタリンとの反応前(1)及び反応後(2)のエラストマーのUV可視スペクトル及び純チオールのスペクトル(3)である。
【0092】
図8に、エラストマーの反応前(1)、及び、AIBN(2)及びルシリン(3)の存在下でのチオールとの反応後の
1H−NMRスペクトルを示す。非官能化ゴムの
1H−NMRスペクトルと比べると、ポリマーの類似反応後、芳香族プロトンに関するシグナルの増大及びビニル基に関する減少が見られ、SBRは2−メルカプトナフタレンでうまく官能化されたことが確認された。
図9に示されているSBR(1)、AIBN(2)の存在下及びルシリン(3)の存在下で官能化されたSBRのGPC測定(THF中)によれば、生成物は大して架橋されていないことが確認された。
図9に見られるように、特にAIBN開始生成物(2)の曲線はほとんど架橋されていない(小さい肩)ことを示しているので、ビニルプロトンのシグナルの減少は官能化に帰することができる。
【0093】
実施例2.
本実施例では、スチレン−ブタジエンゴムの6−(2,2’;6’,2”−ターピリジン−4’−イルスルファニル)ヘキサン−1−チオール(式VI)による官能化を示す。
【0094】
【化5】
【0095】
6−(2,2’;6’,2”−ターピリジン−4’−イルスルファニル)ヘキサン−1−チオールの合成
式VIのターピリジンは、文献手順[U.S.Schubert,C.Eschbaumer,O.Hien,P.R.Andres,Tetrahedron Lett.2001,42,4705;U.S.Schubert,S.Schmatloch,A.A.Precup,Designed Monomers and Polymers 2002,5,211]を用いて4段階で得た。各段階の収率及び分析結果は次の通りであった。
【0096】
段階1:
1,5−ビス−(2’−ピリジル)−1,3,5−トリカルボニルペンタン
エチルピコリネートを、テトラヒドロフラン中、NaHの存在下で、アセトンと反応させた。反応混合物は8時間還流した。
収率:41% 黄色結晶
1H−NMR(CDCl
3/300MHz):δ[ppm]: 2.10 (s, 4H); 7.24 (s, CDCl3); 7.40-7.44 (m, 2H); 7.84-7.95 (m, 4H); 8.76-8.77 (m, 2H)
段階2:
2,6−ビス−(2’−ピリジル)−4−ピリドン
段階1の生成物を48時間還流しながら酢酸アンモニウムと反応させた。
収率:67% 薄桃色結晶
1H−NMR(CDCl
3/300MHz):δ[ppm]: 6.77 (s, 2H); 7.24 (s, CDCl3); 7.36-7.38 (m, 2H); 7.77-7.86 (m, 4H); 8.64-8.66 (m, 2H)
段階3:
4’−クロロ−2,2’;6’,2”−ターピリジン
段階2の生成物を24時間還流しながら塩化ホスホリル中で五塩化カリウムと反応させた。
収率:55% 薄紫色
1H−NMR(CDCl
3/300MHz):δ[ppm]: 7.24 (s, CDCl3); 7.80-7.86 (m, 2H); 8.46 (s, 2H); 8.55 (t, 2H); 8.58 (t, 2H); 8.66-8.69 (m, 2H)
段階4:
6−(2,2’;6’,2”−ターピリジン−4’−イルスルファニル)ヘキサン−1−チオール
段階3の生成物を、ジメチルスルホキシド中、水酸化カリウムの存在下で、1,6−ヘキサンジチオールと反応させた。
収率:35% 無色結晶
1H−NMR(CDCl
3/300MHz):δ[ppm]:1.32-1.63 (m, 4H), 1.79-1.88 (m, 4H), 3.63 (q, 2H), 4.7 (t, 2H), 7.24 (s, CDCl3); 7.27-7.32 (m, 2H); 7.78-7.84 (m, 2H); 7.96 (s, 2H); 8.56-8.65 (m, 4H)
実施例1のスチレンブタジエンゴムを、実施例1の手順に従って、2−メルカプトナフタレンの代わりに6−(2,2’;6’,2”−ターピリジン−4’−イルスルファニル)ヘキサン−1−チオールで官能化した。
【0097】
図10に、非官能化エラストマー(1)の
1H−NMRを、ターピリジンリガンドで官能化されたゴム(2)及びターピリジン(3)と比較して示す。
図10に見られるように、少量のリガンドがエラストマーのビニル基と反応した。リガンドの水素に属する8〜9ppm間の官能化ゴムのスペクトル(2)の芳香族領域に非常に小さいシグナルが観察でき、官能化の成功を示している。
図11に、SBR(1)及び官能化SBR(2)のGPCグラフを示す。
図11に見られるように、GPC測定で分子量に本質的に何の変化も観察できなかったので、ビニルプロトンの減少は官能化に帰することができる。
【0098】
実施例3.
本実施例では、スチレン−ブタジエンゴムの4’−メルカプト−2,2’:6’,2”−ターピリジン(式VII)による官能化を示す。
【0099】
【化6】
【0100】
4’−メルカプト−2,2’:6’,2”−ターピリジンの合成
式VIIのターピリジンは、実施例2に示された4段階の手順を用い、段階4を以下のように変更して得た。段階3の4’−クロロ−2,2’;6’,2”−ターピリジン生成物を、ジメチルホルムアミド(DMF)中、水酸化カリウムの存在下で、硫化水素ナトリウム(NaSH)と反応させた。
収率:88%
実施例1のスチレンブタジエンゴムを、実施例1の手順に従って、2−メルカプトナフタレンの代わりに4’−メルカプト−2,2’:6,2”−ターピリジンで官能化した。
【0101】
図12に、非官能化エラストマー(1)の
1H−NMRを、ターピリジンリガンドで官能化されたゴム(2)と比較して示す。
図12に見られるように、少量のリガンドがエラストマーのビニル基と反応した。リガンドの水素に属する8〜9ppm間の官能化ゴムのスペクトル(2)の芳香族領域に非常に小さいシグナルが観察でき、官能化の成功を示している。
【0102】
実施例4.
本実施例では、スチレン−ブタジエンゴムの4’−(4−メルカプトメチルフェニル)−2,2’:6,2”−ターピリジン(式VIII)による官能化を示す。
【0103】
【化7】
【0104】
4’−(4−メルカプトメチルフェニル)−2,2’:6,2”−ターピリジンの合成
式VIIIのターピリジンは、
図13に示されている合成経路に従って得た。
段階1:
4’−メチルフェニル−2,2’:6,2”−ターピリジン
[X.J.Zhang,D.Li,X.P.Zhou,New J.Chem.2006,30,706]
4.6g(0.115mol)のNaOHを、6.4g(0.05mol)のp−トリルアルデヒド及び12.8g(0.10mol)の2−アセチルピリジンと、黄色粉末が得られるまで乳鉢で混合した。該粉末を、35gの酢酸アンモニア(過剰)及び90mlの酢酸(100%)が入っているフラスコに移した。混合物を還流下で3時間加熱した。その後、50mlのエタノールと68mlの水を加えた。赤色溶液を冷却すると生成物が結晶化した。これをエタノールから2回再結晶化した。
収率:65% 淡黄色結晶
1H−NMR(CDCl
3/300MHz): δ[ppm]: 2.41 (s, 3H); 7.29-7.37 (m, 4H); 7.81 (d, 2H); 7,87 (td, 2H); 8.66 (d, 2H); 8.71-8,73 (m, 4H)
段階2:
4’−(4−ブロモメチルフェニル)−2,2’:6,2”−ターピリジン
7.07gの4’−メチルフェニル−2,2’:6,2”−ターピリジン、0.28gのAIBN及び4.67gのN−ブロモコハク酸イミドを70mlのベンゼンに溶解し、還流下で6時間加熱した。得られた懸濁液を熱ろ過し、コハク酸イミドを除去した。ろ液の溶媒を蒸発させ、得られた固体を2:1のエタノール/アセトンから再結晶化した。
収率:60% 暗黄色結晶
1H−NMR(CDCl
3/300MHz):δ [ppm]: 4.55 (s, 2H); 7.33-7.38 (m, 2H); 7.52 (d, 2H); 7,85-7.92 (m, 4H); 8.66 (td, 2H); 8.71-8,73 (m, 4H)
段階3:
4’−(4−イソチオウロニウムブロミドメチルフェニル)−2,2’:6,2”−ターピリジン
この段階は文献手順[G.C.Zhou,Harruna,II,Macromolecules 2005,38,4114]に従って実施した。
収率:75%
段階4:
4’−(4−メルカプトメチルフェニル)−2,2’:6,2”−ターピリジン
この段階は文献手順[G.C.Zhou,Harruna,II,Macromolecules 2005,38,4114]に従って実施した。
収率:95%
1H−NMR(CDCl
3/300MHz):δ[ppm]: 3.69 (s, 2H); 7.28-7.38 (m, 4H); 7.81-7.88 (m, 4H); 8.61-8.70 (m, 6H)
実施例1のスチレンブタジエンゴムを、実施例1の手順に従って、2−メルカプトナフタレンの代わりに4’−(4−メルカプトメチルフェニル)−2,2’:6,2”−ターピリジンで官能化した。
【0105】
図14に、ターピリジンリガンドで官能化されたゴム(2)及びターピリジン(1)の
1H−NMRを示す。
図14に見られるように、少量のリガンドがエラストマーのビニル基と反応した。リガンドの水素に属する8〜9ppm間の官能化ゴムのスペクトル(2)の芳香族領域に非常に小さいシグナルが観察でき、官能化の成功を示している。
【0106】
実施例5.
本実施例では、官能化エラストマーへの鉄塩の添加効果を示す。実施例4の官能化エラストマー0.4gを小バイアル中の4mlのTHFに添加することによってゴムセメントを製造した。このゴムセメントに0.02gのFeSO
4・7H
2Oを合わせ、バイアルを7時間振盪した。ゴムセメント/金属塩混合物を目視検査したところ、無色のゴムセメントと比べ、紫色を呈していた。
【0107】
ゴムセメント/金属塩及びゴムセメントのUV可視スペクトルを
図15に示す。
図15に見られるように、ゴムセメント/金属塩のスペクトル(2)は、約571nmに吸光度のピークを示し、官能化エラストマーのターピリジン部分とFe
2+イオンとの間で配位錯体の形成を示している。ゴムセメントのスペクトル(1)はそのようなピークを示していない。
【0108】
実施例6.
本実施例では、官能化エラストマーへのルテニウム塩の添加効果を示す。実施例4の官能化エラストマー0.03gを小バイアル中の5mlのTHF及び0.25mlのMeOHに添加することによってゴムセメントを製造した。このゴムセメントに0.02gのRuCl
3を合わせ、バイアルを65℃に20時間加熱し、振盪した。ゴムセメント/金属塩混合物を目視検査したところ、無色のゴムセメントと比べ、暗赤色を呈していた。
【0109】
ゴムセメント/金属塩及びゴムセメントのUV可視スペクトルを
図16に示す。
図16に見られるように、ゴムセメント/金属塩のスペクトル(2)は、約490nmに吸光度のピークを示し、官能化エラストマーのターピリジン部分とRu
2+イオンとの間で配位錯体の形成を示していた。ゴムセメントのスペクトル(1)はそのようなピークを示していない。