【実施例1】
【0016】
図1は、実施例の虚像表示装置の概要を説明する図である。図は、地面に鉛直な断面構成を示す図であり、図のY軸方向が地面に鉛直な方向、図のX軸とZ軸から成る面が地面に平行な面を成す。実施例の虚像表示装置を車載HUDに適用した場合には、観察範囲の上下方向がY軸方向に、左右方向がX軸方向に対応する。
【0017】
虚像表示装置の本体100は、画像投写装置10、光軸変換素子20、発散素子30で構成される。ここで、画像投写装置10から出射された映像光は、光軸変換素子20を透過して、発散素子30に画像を所定の大きさに結像する。このときの発散素子30上に投写された画像の側面のサイズをSv、画像の中心位置を点30oとする。そして、画像投写装置10は、図のように、本体10の底面と平行に設置されており、図中z方向に向かって画像を投写する。
【0018】
画像投写装置10には、例えば、レーザ光をMEMS等の微小ミラーで発散素子30上に2次元走査するものや、LED(Light Emitting Diode)光源をもち、いわゆるDMD(Digital Micromirror Device)と呼ばれる微小ミラーで光強度を変調し、投写レンズで発散素子に結像する小型プロジェクタ装置を適用する。
【0019】
光軸変換素子20は、画像投写装置10からz方向に出射した光を、図中θp方向に折り曲げる機能をもつ。さらに、詳細を後述するが、光軸変換素子20は、図中x軸を回転軸として回転できるようにして、虚像の位置調整をおこなうようにしている。
【0020】
発散素子30は、紙面に平行な方向と垂直な方向で、異なる角度に光を発散し、発散素子30で発散された光は、本体10の外に設置されている光分岐素子50に到達する。
【0021】
光分岐素子50は、所定のパワーを反射し、それ以外のパワーを透過する半透過ミラーとなっている。例えばその材料はガラスやプラスチックで構成され、車両のウィンドシールドであってもよい。また、光分岐素子50は、光を使用者側に反射するよう設置されている。
【0022】
図1に示すように、発散素子30上の点30oを出射した光は、光分岐素子50上の点50oを反射して観察点60に到達する。観察点60から見ると、点30oは、観察点60と点50oを結んだ直線上の点70oと同一に観察される。発散素子30に投写された他の光も同様の光路を通って観察点60に到達する。その結果、観察点60からは、発散素子30上の点30oを中心とした実像が、70oを中心に画像サイズSvと同じサイズIvの虚像70として観察される。
【0023】
このときの光線の角度関係をつぎに述べる。光分岐素子50のx軸を中心とし、z軸からy方向に回転する角度を角度θwとする。同様に観察点60と虚像70の中心の点70oを結ぶ光線の角度をθeとする。例えば、車両に搭載する場合を想定すると、角度θwはウィンドシールドの角度、角度θeは虚像の所定位置に対応する。
【0024】
ここで、虚像の所定位置とは、使用者が運転中にわずらわしさを感じない位置であり、例えば目線を少し下に下げて認知できる位置などである。このように、実施例の虚像表示装置を搭載する装置により、角度θwと角度θeはほとんど決定される。
【0025】
角度θpは、光分岐素子50に対する光の反射の関係より、θp=2×θw−θeとなる必要がある。本実施例の光軸変換素子20は、所定の角度θw、θeに合わせて、画像投写装置10からz軸方向に出射した光を、θp=2×θw−θeの角度に光軸を折り曲げるようになっている。
【0026】
続いて、
図2および
図3を用いて、発散素子30の機能を説明する。
上記のように、発散素子30は、入光した光を紙面に平行な方向と垂直な方向に異なる所定の角度で発散させる機能を持つ特徴がある。これにより、観察者が視認する観察範囲の大きさや形状を調整する。
【0027】
発散素子30は、例えば、
図2に示すように、発散光を矩形形状の方向に出射して発散させる素子や、
図3に示すように、発散光を楕円形状の方向に出射して発散させる素子である。発散素子32および発散素子33は、例えば、図中x方向とy方向が異なる焦点距離を持つマイクロレンズアレイ、フレネル素子、ホログラフィック素子、x方向とy方向の粒子の密度が異なるビーズ拡散板などで実現できる。
【0028】
図4は、
図1の発散素子30から出射される光ビームの指向性を示す図である。横軸には光の発散角度、縦軸には0度で通過する光の強度で正規化した光の強度を示す。
図4は、例えば、発散素子30がマイクロレンズアレイなどで構成される場合にも対応する。発散素子を出射した光の強度は、図のように、発散角度が0度のときに最大となり、発散角度が大きくなると小さくなる特性がある。本実施例では、発散角度ωは、強度が発散角度0度の中心強度に対し、強度が略半分となる角度と定義している。
【0029】
続いて、
図5および
図6を用いて、観察範囲Dと発散素子30の発散角度ωの関係を説明する。図では、観察範囲Dおよび発散角度ωの添え字を、使用者の右目と左目に相当する2個の観察点を結ぶ直線に対して水平な方向についてはh、垂直な方向についてはvとしている。
【0030】
図5は、実施例1の虚像表示装置において、y軸に対して平行な方向の観察範囲のサイズと発散角度の関係を説明する図である。
【0031】
図に示すように、観察点60を中心とした所定範囲を観察範囲Dv、観察点60と虚像70との距離を距離L、虚像の中心の点70oから観察範囲Dvの範囲に広がる発散角度をωv’、発散素子30の点30oを通過する光の発散角度をωvとする。ここでも、発散角度ωv’およびωvは、最大強度から略半分となる強度とする。図は、拡散範囲を示しており、その大きさは2ωv’、2ωvとなる。
【0032】
観察範囲Dv全域で虚像70の中心である点70oを観察するには、虚像の点70oと観察範囲Dvとはつぎの関係を満たすこと必要である。
図より、発散角度ωv’と観察範囲Dvおよび距離Lの関係は、(1)式のように表すことができる。詳しくは、距離Lは、観察点から虚像までの光路長とみなせる。
ωv’=tan
−1(Dv/2/L) (1)
発散角度ωv’=tan
−1(Dv/2/L)であれば、観察範囲Dv全域で虚像70の点70oを観察することが可能になる。
【0033】
さて、発散角度ωv’は、強度が略半分となる角度としているため、観察範囲Dvの両端に入射する光強度も略半分となる。従って、観察範囲Dvの両端から観察される虚像70の輝度も、最大に比べて略半分となる。しかしながら、観察範囲Dvの両端で観察される輝度は、最大に比べて略半分以上あればよく、観察範囲Dvを拡散角度ωvよりも小さい範囲としてもよい。すなわち、ωv’<=tan
−1(Dv/2/L)としてもよい。
【0034】
点70oの発散角ωh’を所定の角度とするには、点70oの共役である点30oの発散角度を調整すればよい。従って、本実施例の発散素子30は、発散角度ωvが、ωv<=tan
−1(Dh/2/L)となっている。
【0035】
同様に、
図6を用いて、観察範囲60の横方向についても説明する。
図6は、実施例1の表示装置の平面図を示し、x軸に対して平行な方向の観察範囲のサイズと発散角度の関係を説明する図である。なお、x軸は使用者の2個の観察点に対して水平な方向を想定している。
【0036】
観察範囲Dhの中には、図に示すように、右目と左目に相当する2個の観察点60r、60lがある。
【0037】
虚像の中心である点70oから図中x−z平面の方向への発散角度をωh’、発散素子30の点30oの発散角度をωhとする。ここでも、発散角度ωh’、ωhは、強度が略半分となる角度とする。図を簡易にするため、虚像70および発散角度ωh’は省略している。
【0038】
観察範囲Dh全域で虚像の中心である点70o(図示せず)を観察するには、虚像の点70oから発散された光が観察範囲Dh全域を通過する必要がある。発散角度ωh’は、観察範囲Dhと距離Lを用いて、ωh’=tan
−1(Dh/2/L)の関係がられる。角度ωv’と同様に、虚像範囲Dhの両端の輝度が略半分以上を確保しながら虚像70を観察するには、ωh’<=tan
−1(Dh/2/L)となればよい。
【0039】
点70oの発散角ωh’を所定の角度とするには、点70oの共役である点30oの発散角度を調整すればよい。すなわち、本実施例の発散素子30は、図中x−z平面の方向の発散角度ωhが、ωh<=tan
−1(Dh/2/L)となっている特徴がある。
【0040】
さて、発散素子30は、上記で説明したように、図中x方向がy方向よりも大きく光を広げる特徴をもっている。発散角度ωhがx方向の所定発散角、発散角度ωvがy方向の発散角度に相当しており、それぞれωh<=tan
−1(Dh/2/L)、ωv<=tan
−1(Dv/2/L)となっている。
【0041】
ここで、観察範囲DvおよびDhの大きさと、観察点60から観察した虚像70の輝度について説明する。
【0042】
一般的に、使用者の頭の動作範囲は、地面に平行な方向よりも垂直な方向が小さい。さらに、地面に水平な方向は観察点が2個あるが、垂直な方向は観察点が1個である。観察範囲Dvは、観察範囲Dhより小さい範囲でも、使用者の動作範囲をカバーできる。
【0043】
さて、虚像の輝度は、発散角度に反比例することがよく知られている。
【0044】
観察範囲全域で虚像を観察するには、観察範囲の範囲以上に光を発散させればよい。しかし、必要範囲上に光を発散させると、観察範囲内の光密度が低下し、虚像の輝度が低下する。
【0045】
虚像の発散角度を観察範囲に合わせて最適化すると、観察範囲内に効率よく光を取り込むことができる。上記のように、虚像の発散角度ωv’、ωh’と観察範囲Dv、Dhは、ほぼ比例関係にある。本発明は、虚像表示装置の設置状態に合わせて、発散素子30の発散角度ωv、ωhを観察範囲Dv、Dhおよび虚像70と観察点60間の距離Lで決定することで、発散角度ωv’、ωh’を最適化し、光の効率を高めている。その結果、高い輝度の虚像が表示できる特徴がある。
【0046】
続いて、光軸変換素子20について詳細に説明する。
光軸変換素子20は、光軸を所定の方向に折り曲げる機能を持ち、例えば、
図7に示す1個のプリズム21、
図8に示すプリズム板22、
図9に示すレンズ23、
図10に示すミラー24などで構成する。
【0047】
本実施例の虚像表示装置を車両などに搭載する場合、使用者の体格によって、虚像70が観察できる適切な観察範囲Dvの位置、角度θeはそれぞれ異なる。従って、観察範囲Dvの位置、角度θeは調整できることが望ましく、つぎに詳細に述べる光軸変換素子20の調整によりおこなう。
【0048】
図11、
図12を用いて、前述の観察範囲Dvおよび角度θeの調整について説明する。
図11は、光軸変換素子20の駆動と光軸の変化の関係を説明する図である。
図11は、
図1の表示装置の光軸変換素子20、発散素子30のみを抽出しており、その他の部品は省略している。また、
図12は、光軸回転素子20と角度θpおよび観察範囲Dvの位置の関係を説明する図である。
【0049】
図11にしめすように、光軸変換素子20が光軸変換素子20aから20bに回転することで、発散素子30に入射する光軸が角度θpaから角度θpbに回転する。発散素子30を通過した光は、角度θpbの方向へ発散角ωvにて進行する。
【0050】
上記したように、観察点から虚像の中心を観察できる角度θeと、本体から光が出射する角度θpは、光分岐素子50の角度θwを用いて、θp=2×θe−θwの関係がある。角度θwが固定であることを想定すると、角度θebに調整するための角度θpbが式より求まる。角度θeaを角度θebに調整するには、角度θpaから角度θpbにすればよい。
【0051】
さらに、角度θpaを角度θpbに変化すると、図のように、光分岐素子50の入射位置も50oaから50obに変化する。そのため、観察点も観察点60aから観察点60bに変化する。発散素子30の発散角度ωvは一定であることを想定すると、観察範囲Dvは、観察点の変化に伴って位置が移動する。
【0052】
このように、光軸回転素子20を回転すると、観察範囲Dvおよび虚像が観察できる角度θeを変化させることができる。本実施例によれば、光軸回転素子20の回転により、観察範囲Dvと角度θeを使用者に合わせて調整できる。
【0053】
ここで、光軸変換素子20は、本体100を小型にする効果もある。以下にその内容を説明する。
光軸変換素子20の代わりに、画像投写装置10の角度を可変しても、角度θpを変化させることができる。
【0054】
画像投写装置10は、所定の画角で画像を投写している。発散素子30で所定の大きさの画像を得るには、画像投写装置10と発散素子30との間に所定の光路長が必要になる。画像投写装置10の角度を変化すると、発散素子30上の画像の位置の変化が大きくなり、発散素子30の大型化が必須となる。発散素子30の大型化に伴い、本体100も大きくなる。
【0055】
一方、本実施例は光軸変換素子20の回転で角度θpを調整しているため、発散素子30上の画像の位置の変化は小さい。それゆえ、発散素子30は小型になり、本体100を小型にする効果が得られる。
【0056】
また、画像投写装置10の実像を形成する際の映像光の入射角が光分岐素子50の方向となるように、光軸変換素子20の光軸の折り曲げ方向で調整するようにしてもよい。特に、画像投写装置10にビーム走査型の投写装置を適用した場合、結像面の面方向でビームの入射角が異なるため、輝度分布が生じてしまう。光軸変換素子20の光軸の折り曲げ方向を面内で入射角の変化を補償するように設定することで、結像面での輝度分布を無くし、照明効率を向上することができる。