特許第6207859号(P6207859)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207859
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】表面保護剤及び表面保護工法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/71 20060101AFI20170925BHJP
   C09D 183/00 20060101ALI20170925BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20170925BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   C04B41/71
   C09D183/00
   C09D7/12
   B05D7/00 C
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-73822(P2013-73822)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-198639(P2014-198639A)
(43)【公開日】2014年10月23日
【審査請求日】2016年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】501352619
【氏名又は名称】三商株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 満
(72)【発明者】
【氏名】宇治原 成郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聖世
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−067436(JP,A)
【文献】 特開昭63−297488(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/147599(WO,A1)
【文献】 特開平06−220251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/00−41/72
C04B 41/80−41/91
B05D 7/00
C09D 7/12
C09D 183/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面保護成分を含有してなり、多孔質無機材料の表面を有するセメント系構造物に適用される表面保護剤であって、
前記表面保護成分は、シラン化合物からなる第1の表面保護成分と、
脂肪酸又はその塩からなり、前記表面保護剤を前記セメント系構造物の表面に適用した後のイオン交換により固化し得る第2の表面保護成分とを含み、前記脂肪酸の塩は、カリウム塩、ナトリウム塩、又はアンモニウム塩であり、
前記表面保護剤中における前記第2の表面保護成分の含有量が0.5質量%以上であることを特徴とする表面保護剤。
【請求項2】
前記シラン化合物がオクチルトリエトキシシランであることを特徴とする請求項1に記載の表面保護剤。
【請求項3】
前記シラン化合物がオクチルトリエトキシシランであり、前記脂肪酸がミリスチン酸であることを特徴とする請求項1に記載の表面保護剤。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の表面保護剤を用いて前記セメント系構造物の表面を保護する表面保護工法であって、前記表面保護剤を前記セメント系構造物に適用する工程を含むことを特徴とする表面保護工法。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の表面保護剤を用いて前記セメント系構造物の表面を保護する表面保護工法であって、
固化促進剤を前記セメント系構造物に適用する工程と、前記表面保護剤を前記セメント系構造物に適用する工程とを含み、
前記固化促進剤は、前記第2の表面保護成分を固化させるイオンを含有することを特徴とする表面保護工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質無機材料の表面を保護する表面保護剤及び表面保護工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多孔質無機材料の表面を保護する表面保護剤としては、シラン系表面保護剤及びケイ酸塩系表面保護剤が知られている。シラン系表面保護剤は、例えば特許文献1に開示されるように、シラン化合物が加水分解及び脱水縮合されることで保護層を形成する。シラン系表面保護剤により形成された保護層は、シラン化合物の有する疎水性基に基づく撥水性によって多孔質無機材料への水の浸入を抑制する。
【0003】
一方、ケイ酸塩系表面保護剤は、例えば特許文献2に開示されるように、ケイ酸ナトリウム等のアルカリケイ酸塩(水ガラス)がゲル化されることで保護層を形成する。ケイ酸塩系表面保護剤により形成された保護層は、水に不溶なケイ酸系ゲルを含むことで、多孔質無機材料への水、気体等の劣化因子の侵入を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−091167号公報
【特許文献2】特開2011−256066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したようにシラン系表面保護剤により得られる保護層は撥水性を有するため、多孔質無機材料への水の浸入を抑制するという観点では、シラン系表面保護剤がケイ酸塩系表面保護剤よりも有利である。これに対して、ケイ酸塩系表面保護剤は、多孔質無機材料の空隙を物理的に閉塞する効果が得られ易いため、水以外の物質の侵入を抑制するという観点では、ケイ酸塩系表面保護剤がシラン系表面保護剤よりも有利である。
【0006】
ここで、各表面処理剤に含有する成分の特性を踏まえると、シラン化合物及びアルカリケイ酸塩のいずれも含有する表面保護剤によれば、多孔質無機材料への水の浸入を抑制し、かつ多孔質無機材料への水以外の物質の侵入を抑制する効果が得られると考えられる。ところが、シラン化合物とアルカリケイ酸塩とは、相溶性や共存下での安定性に乏しいため、シラン化合物及びアルカリケイ酸塩のいずれも含有する表面保護剤の調製は困難であり、また表面保護剤中において各成分の安定性も得られ難くなる。そこで、シラン系表面保護剤及びケイ酸塩系表面保護剤を個別に多孔質無機材料に適用することも考えられる。この場合、一方の表面保護剤を適用した多孔質無機材料に対して他方の表面保護剤を適用するタイミングについて、例えば一方の表面保護剤の反応速度に応じて設定することになる。こうした反応速度は、表面保護剤を適用する温度等の環境や多孔質無機材料の表面状態に影響される。このため、各表面保護剤を別々に適用する作業は、上記タイミングの設定等によって煩雑になるおそれや、相溶性や共存下での安定性が乏しい成分を同時に適用することで、形成される保護層の物性がばらつくおそれがある。
【0007】
以上のように、シラン化合物及びアルカリケイ酸塩を用いた場合、多孔質無機材料への水分の浸入を抑制し、かつ多孔質無機材料への水以外の物質の侵入を抑制する効果を高めることは困難であった。
【0008】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、多孔質無機材料への水分の浸入を抑制し、かつ多孔質無機材料への水以外の物質の侵入を抑制する効果を高めることの容易な表面保護剤及び表面保護工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、表面保護剤に含有させる成分によって、撥水性という化学的な作用に加えて、多孔質無機材料の空隙を閉塞するという物理的な作用も発揮させることに着目した。そして、本発明者らは、表面保護剤に含有させる表面保護成分として、化学的な作用を発揮するシラン化合物に加えて、脂肪酸又はその塩を含有させることで、物理的作用を発揮させることが可能であることに着目し、上記課題を解決した。
【0010】
上記課題を解決する表面保護剤は、表面保護成分を含有してなり、多孔質無機材料の表面を有するセメント系構造物に適用される表面保護剤であって、前記表面保護成分は、シラン化合物からなる第1の表面保護成分と、脂肪酸又はその塩からなり、前記表面保護剤を前記セメント系構造物の表面に適用した後のイオン交換により固化し得る第2の表面保護成分とを含み、前記脂肪酸の塩は、カリウム塩、ナトリウム塩、又はアンモニウム塩であり、前記表面保護剤中における前記第2の表面保護成分の含有量が0.5質量%以上である
上記表面保護剤では、前記シラン化合物がオクチルトリエトキシシランであることが好ましい。
上記表面保護剤では、前記シラン化合物がオクチルトリエトキシシランであり、前記脂肪酸がミリスチン酸であることが好ましい。
【0011】
上記課題を解決する表面保護工法は、上記表面保護剤を用いて前記セメント系構造物の表面を保護する表面保護工法であって、前記表面保護剤を前記セメント系構造物に適用する工程を含む。
上記表面保護剤を用いて前記セメント系構造物の表面を保護する表面保護工法の一態様としては、固化促進剤を前記セメント系構造物に適用する工程と、前記表面保護剤を前記セメント系構造物に適用する工程とを含み、前記固化促進剤は、前記第2の表面保護成分を固化させるイオンを含有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、多孔質無機材料への水分の浸入を抑制し、かつ多孔質無機材料への水以外の物質の侵入を抑制する効果を高めることが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第2の表面保護成分の含有量と吸水率との関係を示すグラフである。
図2】第2の表面保護成分の含有量と中性化率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、表面保護剤及び表面保護工法の実施形態について説明する。
表面保護剤に含有される表面保護成分は、シラン化合物からなる第1の表面保護成分と、脂肪酸又はその塩からなる第2の表面保護成分とを含む。
【0015】
第1の表面保護成分であるシラン化合物は、加水分解及び脱水縮合されることで、撥水性を有する保護層を形成する。
シラン化合物は、疎水性基と加水分解性基とを有する。疎水性基は、非加水分解性を有し、多孔質無機材料に撥水性を付与する。加水分解性基は、膜の形成や多孔質無機材料への結合に寄与する。
【0016】
シラン化合物としては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物、及び下記一般式(1)で表される化合物の縮合物であるオリゴマーが挙げられる。オリゴマーとしては、例えば2量体から10量体の範囲のものが好適である。
【0017】
Si(OR4−n ・・・(1)
一般式(1)中、Rは、炭素数1〜30のアルキル基、置換アルキル基又はアリール基を示し、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示す。nは1又は2である。nが2の場合、Rは互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。Rは互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0018】
で示されるアルキル基は、分岐鎖を有していてもよいし、環状構造を有していてもよい。
で示される置換アルキル基としては、例えば、ハロゲン化アルキル基及び芳香族置換アルキル基等が挙げられる。ハロゲン化アルキル基としては、例えば、アルキル基のフッ素化物、塩素化物及び臭素化物が挙げられる。芳香族置換アルキル基としては、例えば、ベンジル基及びハロゲン置換ベンジル基が挙げられる。
【0019】
で示されるアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、メシチル基及びナフチル基が挙げられる。Rで示されるアルキル基は、分岐鎖を有していてもよい。
シラン化合物は、一種又は二種以上を用いることができる。
【0020】
表面保護剤中における第1の表面保護成分の含有量は、好ましくは1〜95質量%であり、より好ましくは1〜90質量%である。
第2の表面保護成分である脂肪酸又はその塩は、イオン交換により固化し得るものである。脂肪酸又はその塩としては、例えば炭素数が10〜30のものが好ましい。脂肪酸又はその塩は、飽和であってもよいし、不飽和であってもよい。また、脂肪酸又はその塩は、直鎖であってもよいし、分岐鎖を含んでいてもよい。脂肪酸の塩としては、例えばカリウム塩、ナトリウム塩及びアンモニウム塩が挙げられる。
【0021】
脂肪酸又はその塩は、一種又は二種以上を用いることができる。
表面保護剤中における第2の表面保護成分の含有量は、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上である。表面保護剤中における第2の表面保護成分の含有量は、好ましくは50質量%以下である。
【0022】
第1及び第2の表面保護成分は、溶液又は液滴の状態で表面保護剤中に含有される。すなわち、第1及び第2の表面保護成分は、表面保護剤中において溶媒に溶解された状態、又は液状の分散媒中に液滴として分散された状態(エマルション)で存在する。このように表面保護剤は、第1及び第2の表面保護成分のいずれも溶媒に溶解された溶液、又は、第1及び第2の表面保護成分の少なくとも一方が液滴として分散された分散液とされる。
【0023】
溶媒及び分散媒は、例えば、第1及び第2の表面保護成分の溶解性又は分散安定性に応じて選択することができる。溶媒及び分散媒としては、例えば、水、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、トルエン、キシレン、ヘキサン、イソドデカン、及びケロシンが挙げられる。溶媒及び分散媒は、一種又は二種以上を用いることができる。
【0024】
表面保護剤中には、表面保護成分の溶解性又は分散性を高めるために、各種界面活性剤を含有させてもよい。
表面保護剤には、必要に応じて、例えば、着色剤、緩衝剤、防腐剤、及び消泡剤を含有させることもできる。
【0025】
表面保護剤は、撹拌機又は分散機を用いて調製することができる。
次に、上記表面保護剤の多孔質無機材料への適用について作用とともに説明する。
表面保護剤は、例えば、刷毛、ローラー、又はスプレーを用いる塗布法や含浸法を用いて多孔質無機材料に適用される。表面保護剤は、多孔質無機材料の表面(外面)の一部に適用されてもよいし、全体に適用されてもよい。
【0026】
多孔質無機材料に適用された第1の保護成分は、撥水性を有する保護層を形成する。多孔質無機材料に適用された第2の表面保護成分は、脂肪酸又はその塩の有する炭化水素基をRで表し、多孔質無機材料に存在するイオンをXn+(但し、nは1又は2である)で表した場合、例えば、以下に示す反応式によりイオン交換されることで固化する。
【0027】
n(R−COO)+Xn+ → (R−COO)
第2の表面保護成分から生成した固化物は、金属石鹸である。この固化物が多孔質無機材料の空隙を閉塞することで、多孔質無機材料への水及び水以外の物質の侵入を抑制する。水以外の物質は、例えば、多孔質無機材料や多孔質無機材料を含む材料の劣化因子になり得る物質であって、各種気体や各種液状体が挙げられる。
【0028】
第2の表面保護成分を固化させるイオン、すなわち脂肪酸又はその塩とのイオン交換により金属石鹸を生成させるイオンとしては、例えば、カルシウムイオン(Ca2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、リチウムイオン(Li)、及びバリウムイオン(Ba2+)が挙げられる。
【0029】
上述した表面保護剤の多孔質無機材料への適用に際して、多孔質無機材料に第2の表面保護成分を固化させるイオンが十分に存在しない場合には、固化促進剤を用いることが好ましい。また、多孔質無機材料に第2の表面保護成分を固化させるイオンが存在しない場合は、固化促進剤が用いられる。固化促進剤には、第2の表面保護成分を固化させるイオンが含有される。
【0030】
固化促進剤は、例えば、上記イオンの水酸化物を溶媒に溶解させることで調製される。溶媒としては、例えば、水、アルコール等の水性溶媒が挙げられる。溶媒は、一種又は二種以上を用いることができる。固化促進剤中における上記イオンの含有量は、水酸化物に換算した含有量において、0.1〜30質量%が好ましい。
【0031】
固化促進剤を用いて多孔質無機材料の表面を保護する表面保護工法は、固化促進剤を前記多孔質無機材料に適用する工程と、表面保護剤を多孔質無機材料に適用する工程とを含む。すなわち、固化促進剤は、上記表面保護剤が適用された多孔質無機材料に適用されてもよいし、上記表面保護剤を適用する前の多孔質無機材料に適用されてもよい。さらに、固化促進剤は、表面保護剤と同時に多孔質無機材料に適用されてもよい。
【0032】
固化促進剤は、例えば、刷毛、ローラー、又はスプレーを用いる塗布法や含浸法を用いて多孔質無機材料に適用される。
多孔質無機材料としては、例えば、モルタル、コンクリート等のセメント系材料、セメント系材料と他の無機材料との複合材料、セラミックス、及び各種石材が挙げられる。
【0033】
ここで、鋼材が内部に配置されるセメント系構造物は、大気中の二酸化炭素の侵入により中性化されると、鋼材の腐食を招くことになる。この中性化は、水酸化カルシウムが二酸化炭素と反応し、炭酸カルシウムに変化することが主要因である。この点、セメント系構造物に対して表面保護剤を適用することは、特に有利である。すなわち、セメント系構造物に表面保護剤を適用することで、第2の表面保護成分がセメント系構造物に存在するカルシウムイオンとのイオン交換によって固化される。第2の表面保護成分から生成した固化物により、セメント系構造物の空隙が閉塞されることで、セメント系構造物への二酸化炭素の侵入が抑制される。これにより、セメント系構造物の中性化が抑制されるため、鋼材の腐食を抑制することが可能である。
【0034】
なお、上述した表面保護工法は、多孔質無機材料を含む構造物に適用する以外に、多孔質無機材料を含む製品の製造工程や加工工程においても適用することができる。
以上詳述した本実施形態によれば、次のような効果が発揮される。
【0035】
(1)表面保護剤に含有する表面保護成分は、シラン化合物からなる第1の表面保護成分と、脂肪酸又はその塩からなり、イオン交換により固化し得る第2の表面保護成分とを含む。こうした表面保護剤を多孔質無機材料に適用することで、多孔質無機材料に撥水性を付与することが可能であるとともに、多孔質無機材料の空隙を閉塞することが可能である。従って、本実施形態の表面保護剤によれば、多孔質無機材料への水分の浸入を抑制し、かつ多孔質無機材料への水以外の物質の侵入を抑制する効果を高めることが容易となる。
【0036】
(2)表面保護剤中における第2の表面保護成分の含有量が0.5質量%以上であることが好ましい。この場合、多孔質無機材料への水以外の物質の侵入を抑制する効果を高めることがさらに容易となる。
【0037】
(3)表面保護剤は、セメント系構造物に適用されることが好ましい。この場合、鋼材への水分及びその他の劣化因子を含んだ水溶液の到達が抑制されるとともに、セメント系構造物の中性化が抑制される。すなわち、表面保護剤は、セメント系構造物の長寿命化の用途に好適に用いられる。
【0038】
(4)例えば、多孔質無機材料に第2の表面保護成分を固化させるイオンが十分に存在しない場合には、固化促進剤を多孔質無機材料に適用する工程と、表面保護剤を多孔質無機材料に適用する工程とを含む表面保護工法を実施することが好ましい。固化促進剤は、第2の表面保護成分を固化させるイオンを含有する。この方法によれば、第2の表面保護成分の固化が促進されるため、多孔質無機材料の空隙がさらに閉塞され易くなる。従って、多孔質無機材料への水以外の物質の侵入を抑制する効果を高めることがさらに容易となる。
【0039】
(5)脂肪酸又はその塩は、カルシウムイオン等の二価のイオン1モルに対して2モルのモル比でイオン交換し、固化物を生成する。これに対して、従来のケイ酸塩は、二価のイオン1モルに対して1モル以下のモル比で反応し、固化物を生成する。さらに、脂肪酸又はその塩の分子量は、多くの場合、ケイ酸塩の分子量よりも大きい。すなわち、二価のイオン濃度が同じである場合、脂肪酸又はその塩を用いることで、ケイ酸塩を用いた場合よりも嵩高の生成物を生成させることが容易となる。従って、脂肪酸又はその塩は、多孔質無機材料の空隙を閉塞する閉塞率を容易に高めるという観点で、ケイ酸塩よりも有利である。
【0040】
上記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
(イ)前記表面保護剤において、前記多孔質無機材料としてセメント系構造物に適用される表面保護剤。
【0041】
(ロ)前記表面保護工法において、前記固化促進剤を多孔質無機材料に適用する工程を実施した後に、前記表面保護剤を多孔質無機材料に適用する工程を実施する表面保護工法。
【0042】
(ハ)前記表面保護工法において、前記表面保護剤を前記多孔質無機材料に適用する工程を実施した後に、前記固化促進剤を前記多孔質無機材料に適用する工程を実施する表面保護工法。
【0043】
(ニ)前記表面保護工法において、前記固化促進剤を多孔質無機材料に適用する工程と、前記表面保護剤を多孔質無機材料に適用する工程とを同時に実施する表面保護工法。
(ホ)前記表面保護工法において、前記固化促進剤がカルシウムイオンを含有する表面保護工法。
【実施例】
【0044】
次に、実施例及び比較例を説明する。
<表面保護剤の調製>
参考例1,2、実施例〜5では、第1の表面保護成分及び第2の表面保護成分を表1に示す含有量となるように混合することで表面保護剤を調製した。第1の表面保護成分としては、オクチルトリエトキシシランを用いた。第2の表面保護成分としては、ミリスチン酸を用いた。溶媒としては、エタノール85.5質量%、イソプロピルアルコール4.9質量%、及びノルマルプロピルアルコール9.6質量%の混合溶媒を用いた。
【0045】
比較例1では、第2の表面保護成分を含有させずに溶媒で全量を調整した以外は、参考例1,2、実施例〜5と同様に表面保護剤を調製した。
【0046】
【表1】
<吸水試験>
参考例1の表面保護剤をモルタル片(寸法:40mm×40mm×160mm)の外面全体に刷毛を用いて塗布した後、2週間養生した。次に、このモルタル片の質量(吸水前の質量:M1)を測定した後に、水中に1日間浸漬した。続いて、水中からモルタル片を取り出し、表面の水を拭き取った後に、モルタル片の質量(吸水後の質量:M2)を測定した。
【0047】
M1とM2とを下記式に代入して、1日間の浸漬による吸水率を算出した。
吸水率(%)=(M2−M1)/M1×100
参考例2、実施例〜5及び比較例1の表面保護剤についても、参考例1と同様に吸水率を算出した。
【0048】
各例における吸水率の結果を表1に併記する。
図1は、表面保護剤中における第2の表面保護成分の含有量と吸水率との関係を示す。表1及び図1に示されるように、第2の表面保護成分の含有に伴って吸水率が低下することが分かる。
【0049】
<促進中性化試験>
表2に示される実施例6,7の表面保護剤をモルタル片(寸法:40mm×40mm×160mm、水セメント比:60%)の外面全体に刷毛を用いて塗布した後、2週間養生した。次に、このモルタル片を密閉容器に入れ、容器内の空気を吸引した後に、二酸化炭素を容器内に満たして6日間静置した。これにより、モルタル片の中性化を促進させた。続いて、容器から取り出したモルタル片を長さ方向と直角、かつ端部から約80mmの位置で割裂した断面に、フェノールフタレイン溶液を噴霧した。このときの断面全体の面積(断面全体の面積:A1)と無色の領域の面積(無色の領域の面積:A2)とから、無色の領域の面積率、すなわち中性化された領域の面積率である中性化率を算出した。
【0050】
中性化率(%)=A2/A1×100
比較例1の表面保護剤についても、実施例6,7と同様に中性化率を算出した。また、表面保護剤を適用していないモルタル片をブランクとして中性化率を算出した。
【0051】
各例及びブランクにおける中性化率の結果を表2に示す。
【0052】
【表2】
図2は、表面保護剤中における第2の表面保護成分の含有量と中性化率との関係を円形のプロットで示す。図2中の四角形のプロットは、ブランクの中性化率を示す。
【0053】
表2及び図2に示されるように、第2の表面保護成分の含有に伴って中性化率が低下することが分かる。
図1
図2