(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の希土類リン酸塩粉末は、LnPO
4(Lnは少なくとも1種の希土類元素を表す。以下「Ln」というときには、この意味で用いられる。)で表される希土類リン酸塩からなる粒子の集合体である。以下の説明において、「希土類リン酸塩粉末」というときには、文脈に応じ、希土類リン酸塩からなる粒子の集合体である粉末そのものを指す場合と、該粉末を構成する個々の粒子を指す場合とがある。希土類リン酸塩は一般に高屈折率でかつ高アッベ数を有する材料である。したがって、希土類リン酸塩粉末は、光学レンズ等の光学材料を製造するための原料として好適なものである。なお、本明細書に言うリン酸塩とはオルトリン酸塩のことである。オルトリン酸塩には正塩、リン酸水素塩及びリン酸二水素塩が知られているところ、本発明で用いられる希土類リン酸塩はオルトリン酸の正塩である。
【0013】
LnPO
4で表される希土類リン酸塩における希土類元素には、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuがある。これらのうち、リン酸塩の屈折率及びアッベ数が特に高いことから、Y、La、Gd、Yb及びLuから選択される希土類元素を用いることが好ましい。
【0014】
本発明で用いる希土類リン酸塩は、結晶性のものであってもよく、あるいはアモルファス(非晶質)のものであってもよい。希土類リン酸塩が結晶性のものである場合、その結晶系としては正方晶又は単斜晶であることが光学的な特性が有利になる点から好ましい。
【0015】
希土類元素のリン酸塩については、ゼノタイム構造、モナザイト構造及びラブドフェーン構造の結晶構造が知られている。一般に、リン酸塩中に主としてLu、Yb又はYなどが含まれる場合には、そのリン酸塩は正方晶のゼノタイム構造を取る。主としてGd又はLaなどが含まれる場合には、単斜晶のモナザイト構造を取る。また、希土類元素のリン酸塩が水和物である場合には、六方晶のラブドフェーン構造を取る。希土類元素のリン酸塩を光学レンズに応用する場合、高屈折率であることが重要となることが多いところ、ラブドフェーン構造は水分子を含む影響で他の結晶構造と比較して屈折率が低いなど光学的な特性が不利になることが考えられる。更に水和物である場合、経時安定性に問題がある可能性がある。このような理由から希土類元素のリン酸塩は、その結晶構造が正方晶又は単斜晶であることが好ましい。また希土類元素のリン酸塩は、これらの結晶構造を取る代わりにアモルファスであってもよい。
【0016】
本発明の希土類リン酸塩粉末は、窒素吸着法で測定した比表面積が10m
2/g以上200m
2/g以下のものである。この範囲内の比表面積を有する希土類リン酸塩粒子を用いることで、該粒子が微粒であっても該粒子を高濃度で安定的に分散媒に分散可能であることが、本発明者らの検討の結果判明した。特に、希土類リン酸塩粉末の比表面積が好ましくは20m
2/g以上200m
2/g以下、更に好ましくは30m
2/g以上200m
2/g以下であると、希土類リン酸塩粉末を一層高濃度で一層安定的に高分散させることができる。
【0017】
本発明において前記の比表面積は、例えば島津製作所社製の「フローソーブ
(商標)2300」を用い、窒素吸着法で測定することができる。測定粉末の量は0.3gとし、予備脱気条件は大気圧下、120℃で10分間とした。
【0018】
本発明の希土類リン酸塩粉末が分散媒に高度に分散可能になるためには、希土類リン酸塩粉末の粒子径が重要となる。この観点から本発明者が検討したところ、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積99.99容量%における体積累積粒径D
99.99を特定の範囲に設定することが重要であることが判明した。詳細には、D
99.99を1μm以上100μm以下に設定することが重要である。レーザー回折散乱式粒度分布測定装置は堀場製作所社製のLA920などで測定できる。D
99.99が100μmを超えると、簡便な粉砕により高度にナノ粒子が分散した単分散液を得られることができない。例えば、粗粉砕機と微粉砕機が必要になり、D
99.99の下限値に特に制限はなく、小さければ小さいほど好ましいが、1μm程度にD
99.99が小さくなれば、分散液の透明性を十分に高くすることができる原料粉末となる。これらの観点から、D
99.99は1μm以上100μm以下であることが好ましく、1μm以上80μm以下であることが更に好ましい。
【0019】
なお、本発明において、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積100容量%における体積累積粒径D
100でなく、D
99.99で表した理由は、測定機器の仕様上、D
100の正確な測定が困難であることによるものである。
【0020】
本発明の希土類リン酸塩粉末は外力の作用によって容易に解砕される点にも特徴の一つを有する。この特徴によって、本発明の希土類リン酸塩粉末は、分散媒中に単分散しやすくなる。解砕の程度の尺度として、例えば超音波の照射前後におけるD
99.99の変化の程度を採用した場合、超音波を照射した後のD
99.99の値が、超音波照射前のD
99.99の値に対して0.75以下であることが好ましく、0.70以下であることが好ましく、0.65以下であることが更に好ましい。このような特徴を有する本発明の希土類リン酸塩粉末は、例えば後述する方法によって製造することができる。超音波の照射条件は、22.5kHz、30W及び3分間とする。超音波の照射は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置の循環系に付帯された超音波装置で照射される。
【0021】
本発明の希土類リン酸塩粉末は、その形状として、例えば球状、多面体状、針状などの形状を採用し得る。特に、希土類リン酸塩粒子が球状であると、該粒子を含む分散液から光学レンズを製造する場合に、該光学レンズに複屈折が生じにくくなる点から好ましい。
【0022】
本発明の希土類リン酸塩粉末は、その結晶子径が45nm以下であることが好ましく、30nm以下であることが更に好ましく、10nm以下であることが一層好ましい。結晶子径がこの範囲である希土類リン酸塩粉末は、これを光学材料として用いた場合に複屈折が生じにくくなる。この範囲の結晶子径を有する希土類リン酸塩粉末は、例えば後述する方法によって製造することができる。結晶子径は、粉末X線回折法によって測定される。詳細には、X線回折装置(リガク社製 RINT-TTR III)を用い、試料を専用のガラスホルダーに充填し、50kV−300mAの電圧−電流を印加して発生させたCu Kα線によって、サンプリング角0.02°、走査速度4.0°/minの条件で測定した。測定結果を用いてXRD解析ソフトウエアJADEにより結晶子径を求めた。
【0023】
次に、本発明の希土類リン酸塩粉末の好適な製造工程について説明する。希土類リン酸塩粉末は、1種又は2種以上の希土類元素源を含む水溶液と、リン酸根を含む水溶液とを混合して、1種又は2種以上の希土類リン酸塩の沈殿を生じさせることで得られる。この沈殿は必要に応じて焼成工程に付され、その結晶化度が高められる。また、結晶子径が調整される。
【0024】
希土類元素源を含む水溶液としては、該水溶液中における希土類元素の濃度が、0.01〜1.5mol/リットル、特に0.01〜1mol/リットル、とりわけ0.01〜0.5mol/リットルのものを用いることが好ましい。この水溶液中において希土類元素は三価のイオンの状態になっているか、又は三価のイオンに配位子が配位した錯イオンの状態になっていることが好ましい。希土類元素源を含む水溶液を調製するためには、例えば硝酸水溶液に希土類酸化物(例えばLn
2O
3等)を添加してこれを溶解させればよい。
【0025】
リン酸根を含む水溶液においては、該水溶液中におけるリン酸化学種の合計の濃度を、0.01〜3mol/リットル、特に0.01〜1mol/リットル、とりわけ0.01〜0.5mol/リットルとすることが好ましい。pH調整のために、アルカリ種を添加することもできる。アルカリ種としては、例えばアンモニア、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、エチルアミン、プロピルアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基性化合物を用いることができる。
【0026】
希土類元素源を含む水溶液とリン酸根を含む水溶液は、リン酸イオン/希土類元素イオンのモル比が0.5〜10、特に1〜10、とりわけ1〜5となるように混合することが、効率よく沈殿生成物が得られる点から好ましい。
【0027】
本製造方法においては、希土類元素源を含む水溶液と、リン酸根を含む水溶液との混合を、両者を同時添加して行う。この操作を行うことで、外力の作用によって容易に解砕可能な希土類リン酸塩粉末が得られることが本発明者らの検討の結果判明した。これに対して、両者を同時添加しない場合には、分散媒に高分散可能な希土類リン酸塩粉末が得られる場合はあるものの、該粉末は外力の作用による解砕が容易に生じないものとなる。
【0028】
本製造方法において同時添加とは、一の容器中に、一方の液と他方の液とを同時に添加して両者を混合することを言う。尤も、一方の液と他方の液との添加開始時期及び/又は添加完了時期が完全に一致していることは要せず、装置の性能や操作条件の振れ等に起因して、意図せず不可避的に添加開始時期及び/又は添加完了時期にずれが生じる場合は許容される。したがって、容器中に蓄えられた一方の液に、他方の液を添加する操作、例えば特許文献2の実施例に記載の操作は同時添加とは言わない。
【0029】
希土類元素源を含む水溶液と、リン酸根を含む水溶液とを同時添加する場合には、両者を高剪断条件下に同時添加することが好ましい。高剪断条件下に同時添加することで、外力の作用によって容易に解砕可能な希土類リン酸塩粉末が一層得られやすいという利点がある。
【0030】
希土類元素源を含む水溶液と、リン酸根を含む水溶液とを高剪断条件下に同時添加には、例えば各種ホモジナイザーや、高水圧式湿式ジェットミルを用いることができる。特にホモジナイザー中で両水溶液を同時添加することが、外力の作用によって容易に解砕可能な希土類リン酸塩粉末が一層得られやすいので好ましい。
【0031】
希土類リン酸塩の生成においては、反応によって生成した核粒子の成長を妨げる物質が反応系内に存在しないことが好ましい。そのような物質が反応系に存在すると、生成した核粒子の成長が阻害され、得られる希土類リン酸塩の一次粒子径が過度に小さくなり、比表面積が過度に大きくなってしまうことがある。一次粒子径が過度に小さくなることは、希土類リン酸塩の表面活性が過度に高くなって、意図しない溶解析出反応が起こり、分散液中での安定性が低下する点からも有利とは言ない。生成した核粒子の成長を妨げる物質としては、例えばクエン酸などが挙げられる。クエン酸は、生成した核粒子の表面に吸着して、該粒子がそれ以上大きくなることを阻害する。別の側面として、クエン酸を用いることは、反応後の廃液中のBOD(Biochemical Oxygen Demand)が高くなり、廃液処理を経済的に行えない点から有利ではない。
【0032】
希土類元素源を含む水溶液と、リン酸根を含む水溶液とを混合して得られる反応系のpHは、沈殿生成物の形態へ影響を及ぼす。この理由は次のとおりである。リン酸イオンはpHによって形態が変化する。例えばアンモニアをpH調整剤として用いた場合、pH<4ではH
2PO
4-の存在が支配的になる。pHが4〜8では、H
2PO
4-及びHPO
42-の存在が支配的になる。pH>8ではHPO
42-及びPO
43-の存在が支配的になる。希土類元素イオンとリン酸イオンとの反応において、低pHで生じるH
2PO
4-と希土類元素イオンとの反応ではLnHPO
4が生成しやすい。一方、高pHで生じるPO
43-と希土類元素イオンとの反応ではLnPO
4が生成しやすい(永長久彦著「溶液を反応場とする無機合成」培風館(2000年))。
【0033】
また沈殿生成物は、混合時の温度によっても変化する。この観点から、反応温度は好ましくは20〜100℃である。一般的な傾向として、反応温度が高くなると、結晶性の希土類リン酸塩が得られやすくなり、かつその結晶性が高くなる。結晶性が高い場合には、以下に説明する焼成工程が不要となるので、一層簡便な手法で希土類リン酸塩を得ることができる。
【0034】
以上のようにして希土類リン酸塩が得られたら、これを常法に従い固液分離した後、1回又は複数回水洗する。水洗は、液の導電率が例えば2000μS/cm以下になるまで行うことが好ましい。
【0035】
沈殿生成物がアモルファスである場合、これを結晶性のものにするために焼成を行うことが好ましい。焼成は、大気中等の含酸素雰囲気で行うことができる。その場合の焼成条件は、焼成温度が好ましくは300〜1000℃であり、更に好ましくは400〜1000℃である。この温度範囲を採用することで、目的とする比表面積や結晶子径を有する希土類リン酸塩粉末を容易に得ることができる。焼成温度が過度に高くなると、焼結が進行して粒子の比表面積が低下する傾向にある。焼成時間は、焼成温度がこの範囲内であることを条件として、好ましくは1〜20時間、更に好ましくは1〜10時間である。
【0036】
以上のとおりにして得られた本発明の希土類リン酸塩粉末は、これをこのまま乾燥状態で用いてもよく、あるいは分散媒中に分散させた分散液の状態で用いてもよい。特筆すべきは、先に述べたとおりの比表面積及びD
99.99を有する本発明の希土類リン酸塩粉末は、分散媒への分散性が良好であることである。特に、本発明の希土類リン酸塩粉末は、外力の作用によって解砕されやすいものなので、このことに起因して、希土類リン酸塩粉末が単分散した分散液を容易に得ることができる。また、分散質である希土類リン酸塩粉末を、沈殿を生じることなく高濃度で分散させることができる。例えば、希土類リン酸塩粉末の濃度が好ましくは5〜50質量%という高濃度のものとなる。更に好ましい濃度は5〜40質量%であり、一層好ましい濃度は5〜30質量%であり、更に一層好ましい濃度は5〜20質量%であり、とりわけ好ましい濃度は7〜15質量%である。かかる高濃度の水分散液は、該水分散液の塗布によって例えば光学レンズを製造する場合に、塗布の回数を少なくしても所望の厚みを有する薄膜を形成できる点から有利である。
【0037】
分散液は、希土類リン酸塩を1種含むものであってもよく、必要に応じ2種以上含むものであってもよい。いずれの場合であっても、この分散液は、高屈折率でかつ高アッベ数を有する材料である希土類リン酸塩粉末を含有しているので、かかる材料を含む本発明の水分散液は、光学レンズ等の光学材料を製造するための原料として好適なものである。
【0038】
分散液は、希土類リン酸塩粉末に加え、高屈折率を有する金属酸化物の粉末を更に含んでいてもよい。そのような金属酸化物としては、例えばMg、Ca、Ti、Zn、Zr、Ta、Nb、Ga、Ge、Sn、In、Hf、Y、ランタノイド(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)などの金属の酸化物が挙げられる。これらの金属酸化物は、1種又は2種以上を用いることができる。これらの金属酸化物は、分散液に含まれる固形分としての粒子全体に対して、0.1〜50質量%程度用いることができる。尤も、分散液は、分散媒の種類によらず、希土類リン酸塩粉末以外の固形成分を含んでいないことが望ましい。
【0039】
分散液の分散媒としては、水又は有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、水溶性有機溶媒及び非水溶性有機溶媒の双方を用いることができる。水溶性有機溶媒を用いる場合には、水と混合してなる混合溶媒としても用いることができる。いずれの分散媒を用いた場合でも、分散液は高透明性を有するものとなる。
【0040】
水溶性有機溶媒としては、例えばモノアルコール、多価アルコール、ケトン、エステル、アミン、チオール、ピロリドン系等で水と相溶できる溶媒を用いることができる。一方、非水溶性有機溶媒としては、例えば飽和又は不飽和の炭化水素系化合物やハロゲン化炭化水素とその環状化合物、長鎖のモノアルコールや多価アルコール、及び芳香族系化合物等に代表される水と相溶しない有機溶媒を用いることができる。これらの有機溶媒は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。前記ケトン類としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどが挙げられる。
【0041】
分散液は、長期間保存したときの安定性が高いものであることによっても特徴づけられる。例えば、室温下に1ヶ月間保存しても沈殿が生じない程度の安定性を有している。
【0042】
分散液の安定性を高めるために、該分散液が水性分散液(すなわち分散媒として水、又は水と水溶性有機溶媒との混合溶媒を用いた分散液)の場合には、該水性分散液のpHを酸性側の特定の範囲又はアルカリ性側の特定の範囲に設定することが好ましい。酸性側については、水性分散液のpHを好ましくは1以上5未満に設定し、更に好ましくは2以上5未満、一層好ましくは2以上4以下に設定する。酸性側において水性分散液のpHを1以上に設定することで、希土類リン酸塩が溶解してしまうことを効果的に防止できる。また、pHを5未満に設定することで、希土類リン酸塩粉末を高度に分散させることが容易となる。アルカリ性側については、水性分散液のpHを好ましくは9.1以上14以下に設定し、更に好ましくは9.1以上13.5以下、一層好ましくは9.1以上13以下に設定する。アルカリ性側において水性分散液のpHを9.1以上の設定することで、希土類リン酸塩粉末を高度に分散させることが容易となる。また、pHを14以下に設定することで、希土類リン酸塩が水酸化物イオンと意図せず反応することによる粒子表面の変質を効果的に防止できる。これらのpHは、水性分散液の保存中又は使用時における温度での値のことである。
【0043】
水性分散液のpHを上述の範囲内に調整するためには、水性分散液にpH調整剤を添加すればよい。酸性側で用いられるpH調整剤としては、例えば各種の有機酸や無機酸を用いることができる。有機酸としては例えば酢酸、ギ酸及びプロピオン酸などが挙げられる。無機酸としては、例えばフッ酸、硝酸、塩酸及び硫酸などが挙げられる。これらの有機酸や無機酸は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。アルカリ性側で用いられるpH調整剤としては、各種の水酸化物、アルキルアミン及びアンモニア水等を用いることができる。水酸化物としては例えば水酸化テトラメチルアンモニウム等の水酸化テトラアルキルアンモニウム、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物が挙げられる。アルキルアミンとしては、pH調整のしやすさに応じてモノアルキルアミン、ジアルキルアミン及びトリアルキルアミンのいずれをも用いることができる。アルキルアミンにおけるアルキル基としては、例えば同一の又は異なる、炭素数1〜4の低級アルキル基(メチル基やエチル基等)を用いることができる。これら水酸化物、アルキルアミン及びアンモニア水等は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。以上の各種のpH調整剤の水性分散液への添加量は、水性分散液のpHが上述の範囲となるような量とすればよい。
【0044】
分散媒が非水溶性有機溶媒のみからなる分散液、すなわち油性分散液の場合には、長期間保存したときの安定性を高める観点から、該油性分散液中に分散剤を含有させることが好ましい。分散剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、Si,Ti,Zr,Alなどの各種カップリング剤及びキレート剤等を用いることができる。これらの分散剤は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの分散剤のうち、特にアニオン系界面活性剤、カップリング剤、キレート剤を用いることが、ナノ粒子表面に強固に結合又は配位し分散液の長期安定性の点から好ましい。分散液に占める分散剤の割合は、0.1質量%以上40質量%以下であることが好ましく、1質量%以上30質量%以下であることが更に好ましい。
【0045】
分散液は、可視光の波長領域(400〜800nm)において高透明性であることによっても特徴づけられる。詳細には、可視光の波長領域における透過率が、光路長1cmのセルを用いて測定したとき好ましくは50%以上、更に好ましくは80%以上、一層好ましくは90%以上という高透明性のものである。このように透明性の高い分散液を用いて塗膜を形成すると、乾燥後の塗膜の透明性が極めて高くなる。したがって、分散液は、可視光の波長領域において高屈折率及び低波長分散性を有する透明膜の製造に非常に有用である。可視光の波長領域において高屈折率及び低波長分散性を有する透明膜は、例えばシート状レンズを始めとして、光学レンズの薄型化に寄与する。分散液の透明性は、例えば(株)日立ハイテクノロジー社製の分光光度計U−4000によって測定することができる。
【0046】
分散液は、例えば、希土類リン酸塩粉末と分散媒とを混合してスラリーとなし、ビーズミル等のメディアミルによって湿式粉砕を行うことで製造することができる。使用するビーズとしては、例えばジルコニアビーズやアルミナビーズ等が挙げられる。この場合、水性分散液を調製するときには、各種のpH調整剤をスラリーに添加して粉砕操作を行うことで、希土類リン酸塩粉末を単分散状態に近づけやすくなる。一方、油性分散液を調製するときには、各種の分散剤をスラリーに添加して粉砕操作を行うことで、希土類リン酸塩粉末を単分散状態に近づけやすくなる。
【0047】
前記のpH調整剤としては、液のpHを好ましくは1以上5未満、更に好ましくは2以上5未満、一層好ましくは2以上4以下に調整できるものを用いることが好ましい。そのようなpH調整剤としては、例えば、先に述べた有機酸や無機酸を用いることができる。また、液のpHを好ましくは9.1以上14以下、更に好ましくは9.1以上13.5以下、一層好ましくは9.1以上13以下に調整できるものを用いることが好ましい。そのようなpH調整剤としては、例えば、先に述べた各種の水酸化物を用いることが好ましい。
【0048】
前記のpH調整剤は、これを湿式粉砕時にスラリーに添加することに代えて、湿式粉砕して得られた水性分散液に添加してもよい。pH調整剤を水性分散液に添加する場合、その添加量は、水性分散液のpHが、好ましくは上述の範囲内となるようにする。なお、湿式粉砕によって希土類リン酸塩粒子に新たな表面が生じ、該表面が酸又はアルカリと反応する結果、液のpHが変動することがある。したがって、湿式粉砕時にpH調整剤を添加する場合には、湿式粉砕におけるpHの変動を見越してpH調整剤の添加量を決定することが好ましい。
【0049】
湿式粉砕後、液とビーズとを分離し、更にメンブランフィルターによって粗粒を除去することで、目的とする分散液が得られる。このようにして得られた分散液は無色透明であり、可視光の透過率が高いものである。また、長期間保存しても沈殿の生じない安定なものである。
【0050】
このようにして得られた分散液は、それに含まれる希土類リン酸塩が有する高屈折率及び低波長分散性や、分散液が有する可視光に対する透明性を利用して、各種の光学材料や電子材料に用いることができる。例えば、レンズ等の光学系部品、反射防止膜、赤外線透過膜等に用いることができる。具体的には、分散液を各種の基板、例えば透明基板やレンズ等の表面に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させることで、高透明性、高屈折率及び低波長分散性を有する薄膜を形成することができる。乾燥後の薄膜を、必要に応じて不活性雰囲気下、大気等の酸化性雰囲気下又は弱還元性雰囲気下(例えば爆発限界濃度以下の含水素雰囲気下)に焼成してもよい。この薄膜は、レンズの屈折率を更に高めるために、あるいは薄型レンズそのものとして有用である。更に分散液は、それに含まれる希土類リン酸塩粉末が樹脂中に分散されてなる樹脂レンズの原料としても好適に用いられる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0052】
〔実施例1〕
(1)リン酸ルテチウム粉末及びそれを含む水性分散液の製造
1) ガラス容器に水370gを計量し、80℃に加温した。
2) 1)へ85%硝酸(和光社製)14.4gを添加した。
3) 2)へLu
2O
3(日本イットリウム社製)7.4gを添加し、完全に溶解させ室温(25℃)まで冷却した。
4) 別のガラス容器に水390g、25%リン酸5.3g、25%アンモニア水9.3gを添加した。
5) 3)の溶液と4)の溶液をそれぞれ10mL/minでホモジナイザーへ送液し、ホモジナイザー中に同時添加して混合した。ホモジナイザーの回転数は20000rpmに設定し、反応液のpHは0.9〜1.6であった。
6) 混合終了後、沈殿物をデカンテーション洗浄により、上澄みの導電率が100μS/cm以下になるまで洗浄を行った。
7) 洗浄終了後、減圧濾過で固液分離した。
8) 7)を大気中で120℃×5h乾燥させ、白色粉末を得た。
9) 8)を大気中800℃×5h焼成した。
10) 9)で得られた焼成粉末のXRD測定を行ったところ、正方晶のLuPO
4のピークが確認された。
11) レーザー回折散乱法による粒度分布測定結果と、XRDによる(200)面の結晶子径と、窒素吸着法による比表面積の測定結果を表1にまとめる。粒度分布測定は、超音波の照射前後において行った。超音波装置としては、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(HORIBA製 LA−920)の測定循環系に付帯のインラインの超音波による照射を行った。超音波の照射条件は、上述したとおりである。
12) 水性分散液の調製は次のとおりに行った。50mLの樹脂製容器に、10)で得られたLuPO
4粉末2.0gと、1%テトラメチルアンモニウムハイドライド水溶液23g、0.1mmφジルコニアビーズ100gを入れ、ペイントシェーカーによる粉砕を行った。
13) 固液分離後、0.2μmのメンブランフィルターに通し、粗粒の除去を行った。
14) 13)で得られたスラリーは無色透明であり、λ=650nmの赤色レーザーポインターを照射したところチンダル現象が見られ、粒子が高分散していることを確認した。
15) 14)の液を少量測り取り、200℃で乾燥させたときの固形分濃度は12%であり、ガラス質の透明な固形分が残存していた。
16) 14)の液の透過率を測定したところ、可視光域(λ=400〜800nm)に吸収がないことを確認し、λ=555nmにおける透過率は82%であり、透明性が高いことを確認した。pHは12であった。
17) この液を常温で1ヶ月間保存しても沈殿を生じることがなく、高分散状態を維持したままであった。これらの結果をまとめて表2に示す。
【0053】
〔実施例2〕
本実施例では、油性分散液の調製を行った。
18) 50mLの樹脂製容器に、9)で得られたLuPO
4粒子3.0gと、メチルイソブチルケトン(MIBK)26.4gと、リン酸エステル系アニオン性界面活性剤)と、0.1mmφジルコニアビーズ135gを入れ、ペイントシェーカーによる粉砕を行った。この界面活性剤としては、J.Am.Chem.Soc.,131,16342−16343(2009)に記載のものを用いた。
19) 固液分離後、0.2μmのメンブランフィルターに通し、粗粒の除去を行った。
20) 19)で得られたスラリーは無色透明であり、λ=650nmの赤色レーザーポインターを照射したところチンダル現象が見られ、粒子が高分散していることを確認した。
21) 19)の液を少量測り取り、200℃で乾燥させたときの固形分濃度は11%であり、ガラス質の透明な固形分が残存していた。
22) 19)の液の透過率を測定したところ、可視光域(λ=400〜800nm)に吸収がないことを確認し、λ=555nmにおける透過率は67%であり、透明性が高いことを確認した。
23) この液を常温中、1ヶ月間保存しても沈殿を生じることがなく、高分散状態を維持したままであった。これらの結果をまとめて表2に示す。
【0054】
〔実施例3〕
本実施例では水性分散液の調製を行った。
24) 50mLの樹脂製容器に、9)で得られたLuPO
4粒子2.0gと、純水23gと、酢酸1.2gと、0.1mmφのジルコニアビーズ100gを入れてペイントシェーカーによる粉砕を行った。
25) 固液分離後、0.2μmのメンブランフィルターに通し、粗粒の除去を行った。
26) 25)で得られたスラリーは無色透明であり、λ=650nmの赤色レーザーポインターを照射したところチンダル現象が見られ、粒子が高分散していることを確認した。
27) 25)の液を少量測り取り、200℃で乾燥させたときの固形分濃度は9%であり、ガラス質の透明な固形分が残存していた。
28) 25)の液の透過率を測定したところ、可視光域(λ=400〜800nm)に吸収がないことを確認し、λ=555nmにおける透過率は83%であり、透明性が高いことを確認した。pHは3であった。
29) この液を常温中、1ヶ月間保存しても沈殿を生じることがなく、高分散状態を維持したままであった。これらの結果をまとめて表2に示す。
【0055】
〔比較例1〕
本比較例では油性分散液の調製を行った。
30) 実施例1の9)で得られた粉末を実施例2のアニオン性界面活性剤を添加しない以外は、実施例2と同様にして油性分散液の調製を試みた。しかし、粒子が直ちに沈殿してしまい単分散液を得ることができなかった。
【0056】
〔比較例2〕
本比較例では油性分散液の調製を行った。
31) 実施例1の8)で得られた粉末を大気中1050℃×5h焼成した。
32) 31)で得られた焼成粉末のXRD測定を行ったところ、LuPO
4ピークが確認された。
33) レーザー回折散乱法による粒度分布測定結果とXRDによる結晶子径及び窒素吸着法による比表面積の測定結果を表1にまとめる。粒度分布測定は、超音波の照射前後において行った。超音波装置としては、実施例1と同様のものを用いた。超音波の照射条件も実施例1と同じである。
34) 実施例2と同様にして油性分散液の調製を試みた。しかし、粒子が直ちに沈殿してしまい単分散液を得ることができなかった。
【0057】
〔比較例
3〕
本比較例では水性分散液の調製を行った。
35) 比較例2の31)で得られた粉を用いて、実施例3)と同様にして油性分散液の調製を試みた。しかし、粒子が直ちに沈殿してしまい単分散液を得ることができなかった。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
表1及び表2に示す結果から明らかなとおり、各実施例で用いた希土類リン酸塩粉末から分散液を調製すると、その分散液は透明性が高く、かつ希土類リン酸塩粉末を安定して分散できるものであることが判る。