特許第6207866号(P6207866)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207866
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】液封入式防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 13/10 20060101AFI20170925BHJP
   F16F 13/26 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   F16F13/10 G
   F16F13/26 B
   F16F13/26 D
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-81801(P2013-81801)
(22)【出願日】2013年4月10日
(65)【公開番号】特開2014-202346(P2014-202346A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2016年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】特許業務法人しんめいセンチュリー
(72)【発明者】
【氏名】木場 洋人
(72)【発明者】
【氏名】古澤 紀光
【審査官】 熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−252815(JP,A)
【文献】 特開2006−022962(JP,A)
【文献】 特開2009−108880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 11/00−13/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1取付部材と、筒状の第2取付部材と、前記第2取付部材と前記第1取付部材とを連結すると共にゴム状弾性体から構成される防振基体と、前記防振基体との間に液体封入室を形成すると共にゴム状弾性体から構成されるダイヤフラムと、前記液体封入室を複数の液室に仕切る仕切壁と、前記複数の液室間を連通させるオリフィスとを備える液封入式防振装置において、
前記第2取付部材に周縁が連結されると共に前記ダイヤフラムと軸方向に所定の間隔をあけて前記ダイヤフラムの軸方向外側に配置されるハウジングと、
前記ハウジングに一端が気密に固着されると共に他端側が前記ダイヤフラムの所定部に気密に固着され、前記ダイヤフラム及び前記ハウジングと共に調圧空気室を構成する筒状の中間部材と、
前記調圧空気室の一部を構成する前記ダイヤフラムに一端が固着されると共に他端側が前記防振基体側に延設される弁棒と、
前記弁棒の所定部に固着される弁体と、
前記仕切壁の厚さ方向に貫通形成されると共に前記弁体によって開閉可能とされる開口部と、
前記開口部を閉鎖する方向に前記弁体を付勢する付勢部材と、を備え、
前記調圧空気室は、前記調圧空気室を減圧または大気開放する空気圧調整装置が接続され、
前記弁体は、前記ダイヤフラムと前記仕切壁との間に位置し、前記調圧空気室の減圧により前記開口部を開放し、
前記調圧空気室の大気開放により前記弁体が前記開口部を閉じた状態で、前記中間部材と前記弁体との間に隙間があることを特徴とする液封入式防振装置。
【請求項2】
前記仕切壁は、厚さ方向に貫通形成される弁棒支持部を備え、
前記弁棒は、他端側が、前記弁棒支持部に挿通支持されると共に前記防振基体側に突出することを特徴とする請求項1記載の液封入式防振装置。
【請求項3】
前記付勢部材は、前記弁棒支持部に挿通支持され前記防振基体側に突出する前記弁棒の他端側に配設されることを特徴とする請求項2記載の液封入式防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液封入式防振装置に関し、特にサイズを小さくできる液封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両では、振動発生源となるエンジンと振動を受ける車体との間に、車体側への振動の伝達を抑制するために防振装置が設けられる。このような防振装置として、例えば特許文献1に開示される液封入式防振装置が知られている。図6を参照して、特許文献1に開示される従来の液封入式防振装置について説明する。図6は従来の液封入式防振装置901の軸方向断面図である。
【0003】
図6に示すように液封入式防振装置901は、車両のエンジン等のパワーユニット(図示せず)に結合される第1取付部材902と、車体フレーム側(図示せず)に結合される筒状の第2取付部材903とがゴム状弾性体から構成される防振基体904で連結され、第2取付部材903に周縁部が固着されたダイヤフラム905によって防振基体904との間に液体封入室Lが形成される。液体封入室Lには、水やエチレングリコール等の非圧縮液体(以下「液体」と称す)が封入される。仕切壁906及びオリフィス部材907によって液体封入室Lが複数の液室L1,L2に仕切られ、その複数の液室L1,L2がオリフィス907aで連通される。
【0004】
仕切壁906の略中心に、液室L1,L2間を連通する開口部908が貫通形成され、ダイヤフラム905の略中心にゴム膜で弁体909が形成される。弁体909を開口部908の周囲の仕切壁906に押し付けると開口部908が閉塞される一方、弁体909を軸方向に移動させて仕切壁906から引き離すと開口部908が開放される。弁体909の軸方向移動は、ダイヤフラム905とハウジング910との間に設けられた空気式アクチュエータ911によって行われる。なお、ハウジング910は、ハウジング910内を大気開放するための透孔910aが外周に貫通形成されている。
【0005】
空気式アクチュエータ911は、ゴム状弾性体からハット状に形成されるゴム状部材912と、ゴム状部材912の略中央部に加硫接着されるハット状の出力金具913と、ゴム状部材912の外周縁部に加硫接着される環状の圧入金具914とを備え、圧入金具914の下端部に、ゴム状部材9123と一体形成されたシールリップ915が被着される。圧入金具914がハウジング910の内周縁部に圧入固定され、下端部がシールリップ915を介してハウジング910の底部に密着されると、ハウジング910の底部とダイヤフラム905との間に、ゴム状部材912によって気密にされた調圧空気室Rが形成される。
【0006】
調圧空気室Rには、負圧源916又は大気中のいずれかと接続されるように流路を切り換える切換弁917が接続される。調圧空気室R内の出力金具913とハウジング910との間に、軸方向上側(仕切壁906側)に出力金具913を付勢するコイルスプリング918が配置される。
【0007】
切換弁917によって負圧源916との接続が遮断され調圧空気室R内が大気開放されると、コイルスプリング918によって出力金具913が仕切壁906側に付勢され、ゴム状部材912の中央部912aによって弁体909が仕切壁906へ押し付けられる。これにより開口部908が弁体909によって閉塞される。この状態では、開口部908を通じて液体が流動できなくなり、液体はオリフィス907aを通じて液室L1,L2間を流動する。
【0008】
一方、切換弁917によって調圧空気室Rが負圧源916と接続されると、調圧空気室R内が減圧される。そうすると吸引力が発生し、コイルスプリング918の付勢力に抗してゴム状部材912が軸方向下側に収縮される。その結果、ゴム状部材912の中央部912aが弁体909を仕切壁906側へ押し付ける力を喪失する。これにより開口部908が弁体909によって開放される。その結果、液室L1,L2間の仕切りが解除されるので、液体封入室Lは実質的に一つの液体室となる。そうすると、防振基体904の弾性変形に基づく液体封入室Lの圧力変動が、ダイヤフラム905の弾性変形に基づき吸収される。
【0009】
液封入式防振装置901は、車両の走行状態に応じて切換弁917が切り換えられるように設定される。例えば、切換弁917によって、車両の走行中は調圧空気室Rが大気中と接続され、アイドリング中には調圧空気室Rが負圧源916と接続されるように設定される。車両の走行中は開口部908が閉塞されるので、エンジンシェイク等の低振動数の大振幅振動が液封入式防振装置901に入力されると、液室L1,L2間の相対的な圧力変動によってオリフィス907aを通じた液体流動が生じ、オリフィス907aを流動する液体の共振作用に基づいて防振効果(高減衰効果)が発揮される。一方、アイドリング中は開口部908が開放されるので、アイドリング振動等の中振動数の中振幅振動が液封入式防振装置901に入力されると、防振基体904の弾性変形に基づく液体封入室Lの圧力変動が、ダイヤフラム905の弾性変形に基づき吸収される。よって、防振基体904の低動ばね特性に基づく振動絶縁効果が発揮される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−121811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら上述した技術では、ダイヤフラムと別部材のゴム状部材によってハウジングとダイヤフラムとの間に調圧空気室が形成されるので、ハウジングとダイヤフラムとの間に調圧空気室を収容する大きな空間を要する。そのため、液封入式防振装置のサイズ(特に上下方向長さ)が大きくなるという問題点があった。
【0012】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、サイズを小さくできる液封入式防振装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0013】
この目的を達成するために請求項1記載の液封入式防振装置によれば、第1取付部材と筒状の第2取付部材とがゴム状弾性体から構成される防振基体により連結され、ゴム状弾性体から構成されるダイヤフラムによって防振基体との間に液体封入室が形成される。仕切壁によって液体封入室が複数の液室に仕切られ、複数の液室間がオリフィスにより連通される。ハウジングは、周縁が第2取付部材に連結され、ダイヤフラムと軸方向に所定の間隔をあけてダイヤフラムの軸方向外側に配置される。
【0014】
中間部材の一端がハウジングに気密に固着され、他端側がダイヤフラムの所定部に気密に固着される。その中間部材は、ダイヤフラム及びハウジングと共に調圧空気室を構成する。調圧空気室の一部を構成するダイヤフラムに弁棒の一端が固着され、弁棒の他端側が防振基体側に延設される。弁棒の所定部に弁体が固着され、その弁体によって開閉可能とされる開口部が、仕切壁の厚さ方向に貫通形成される。調圧空気室は、調圧空気室を減圧または大気開放する空気圧調整装置が接続される。
【0015】
空気圧調整装置により調圧空気室内が減圧されると、調圧空気室の一部を構成するダイヤフラムが弾性変形して、仕切壁から離れる方向に移動する。それに伴い、弁棒および弁体が仕切壁から離れる方向に移動するので、開口部が開放される。付勢部材は開口部を閉鎖する方向に弁体を付勢するので、調圧空気室の大気開放により、調圧空気室の一部を構成するダイヤフラムが弾性変形して仕切壁に近づく方向に移動すると、弁棒および弁体が仕切壁に向かって移動し、弁体によって開口部が閉塞される。
【0016】
このように中間部材をダイヤフラムの所定部に気密に固着し、ダイヤフラムの一部を利用して調圧空気室を形成する。よって、ダイヤフラムとは別部材のゴム状部材によって調圧空気室を形成する場合と比較して、調圧空気室の収容空間を小さくできる。その結果、ハウジングとダイヤフラムとの間隔を小さくできるので、液封入式防振装置のサイズ(特に上下方向長さ)を小さくできる効果がある。
【0017】
また、弁体はダイヤフラムと仕切壁との間に位置する。弁体によって開口部が開放されている場合、防振基体側の液室の圧力がダイヤフラム側の液室より大きくなると、開口部を通じた液体流動が生じるが、弁体はダイヤフラム側に位置するので、この液体流動によって弁体が開口部側に移動することを防止できる。その結果、開口部を通じた流体流動に弁体が悪影響を及ぼすことを防止できる。これにより、意図に反して開口部を通じた流体流動が阻害されることを防止でき、防振基体の低動ばね特性に基づく振動絶縁効果を安定して発揮できる効果がある。
【0018】
請求項2記載の液封入式防振装置によれば、仕切壁は開口部の内側に弁棒支持部が配置され、弁棒は、他端側が、弁棒支持部に貫設されると共に防振基体側に突出する。その結果、弁棒は一端がダイヤフラムに、他端側が弁棒支持部に支持されるので、弁棒および弁体が揺動することを防止できる。よって、請求項1の効果に加え、弁体による開口部の開閉動作を安定に行うことができる効果がある。
【0019】
請求項3記載の液封入式防振装置によれば、弁棒支持部に挿通支持され防振基体側に突出する弁棒の他端側に付勢部材が配設される。その付勢部材は、開口部を閉鎖する方向に弁体を付勢するので、空気圧調整装置により調圧空気室内が減圧されると、付勢部材の付勢力に抗して弁棒および弁体が仕切壁側へ移動され、弁体により開口部が閉塞される。一方、空気圧調整装置により調圧空気室内が大気開放されると、付勢部材の付勢力により弁棒および弁体がダイヤフラム側へ移動され、弁体により開口部が開放される。
【0020】
このように、付勢部材により開口部が閉塞される方向に弁体が付勢されるので、空気圧調整装置により調圧空気室内を大気開放することで開口部を閉塞させることができる。空気圧調整装置に減圧・加圧の両方の機能をもたせなくて良いので、請求項2の効果に加え、空気圧調整装置の構成を簡略化できる効果がある。
【0021】
また、仕切壁から防振基体側に突出する弁棒に付勢部材が設けられるので、中間部材、ダイヤフラム、弁棒、弁体、仕切壁および付勢部材を、組み立てられた一つの部品として扱うことができる。そのため、付勢部材がダイヤフラムとハウジングとの間に設けられる場合と比較して、液封入式防振装置を組み立てるときの作業性を向上できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1実施の形態における液封入式防振装置の軸方向断面図である。
図2】液封入式防振装置の拡大断面図である。
図3】第2実施の形態における液封入式防振装置の拡大断面図である。
図4】第3実施の形態における液封入式防振装置の拡大断面図である。
図5】第4実施の形態における液封入式防振装置の拡大断面図である。
図6】従来の液封入式防振装置の軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1は本発明の第1実施の形態における液封入式防振装置1の軸方向断面図である。図1に示すように液封入式防振装置1は、自動車のエンジン等のパワーユニット(図示せず)に取り付けられる第1取付部材2と、ブラケット(図示せず)を介してパワーユニットの下方の車体フレーム(図示せず)に取り付けられる筒状の第2取付部材3と、第1取付部材2及び第2取付部材3とを連結すると共にゴム状弾性体から構成される防振基体4とを備えている。
【0024】
なお、図1には、自動車に装着する前の液封入式防振装置1の単体の状態が図示される。本実施の形態では、パワーユニットの分担支持荷重が、軸中心を通る軸線O方向(図1上下方向)に入力される。従って、装着状態では、防振基体4の弾性変形によって第1取付部材2と第2取付部材3とが軸方向で互いに近接する方向に変位する。以下の説明では、特に断りのない限り、上下方向は図1における軸線Oの上下方向をいう。
【0025】
図1に示すように、第1取付部材2は主に金属材料等の剛性材料により形成され、上面にボルト孔2aが設けられる。ボルト孔2aに、パワーユニットのブラケットに取り付けられたボルト(図示せず)が締結固定されることで、第1取付部材2が振動発生源に取り付けられる。第2取付部材3は、主に金属材料等の剛性材料により筒状に形成され、ブラケット等を介して車体フレーム側(図示せず)に取り付けられる。
【0026】
防振基体4は円錐台状に形成され、上端部が第1取付部材2の外周面に、下端部が第2取付部材3の上側内周面にそれぞれ加硫接着される。防振基体4の下面側には上窄まりの中空部が形成され、防振基体4の下端部には、第2取付部材3の内周面を覆うゴム膜4aが段部4bに連設される。第2取付部材3は、上端部に筒状のブラケット部材5が外嵌され、ブラケット部材5の上端部にストッパゴム6が被着される。
【0027】
第2取付部材3の下端部には、カップ状に形成されたハウジング7が設けられる。ハウジング7は、ゴム膜4aを介して周縁部が第2取付部材3によってかしめ固定されている。ハウジング7は、底部から軸方向上側に隆起する筒状の筒部7aが中央部に形成される。筒部7aの上端に中央底部7bが連設され、中央底部7bを貫通してエアポート8が設けられる。エアポート8は空気管路43(後述する)が接続される部位である。筒部7aは、合成樹脂製や金属製等の硬質材で円筒状に形成された中央部材15に圧入され、中間部材15に気密に固着される。
【0028】
第2取付部材3の内側のハウジング7と防振基体4との間には、ダイヤフラム10と、合成樹脂製や金属製等の硬質材により構成される仕切体20とが取り付けられる。ダイヤフラム10は、軸方向に弛みをもった薄肉の弾性ゴム膜によって軸方向視して全体として略円板状に形成される。ダイヤフラム10は、軸方向視して円環状に形成される部分球状の本体部11と、本体部11の径方向内側に位置し中間部材15の上方に位置する略円形状の中央部12と、中央部12と本体部11との間に位置し中間部材15の上端部に加硫接着される環状部13とを備え、それらがゴム状弾性体から一体に形成される。ダイヤフラム10の外周部分には、円環状の固定金具14が加硫接着されている。
【0029】
ダイヤフラム10の環状部13は中間部材15に加硫接着されることで、中間部材15と気密に固着される。その結果、ハウジング7とダイヤフラム10との間に、ハウジング7(中間底部7b)、中間部材15及び中央部12によって囲繞された調圧空気室Rが形成される。
【0030】
仕切体20は、上端部が段部4bに当接しゴム膜4aの内側に保持される筒部材21と、薄肉の円盤状に形成される仕切壁22とを備えている。仕切体20は、第2取付部材3に絞り加工が施されることにより、筒部材21の外周がゴム膜4aによって挟圧固定される。また、筒部材21はダイヤフラム10と軸方向に重ね合わされると共に、筒部材21とダイヤフラム10との合わせ面間に、固定金具14に形成されたシールゴム層が配置される。よって、ハウジング7のフランジ状の周縁部と筒部材21との間に固定金具14を挟み込みつつ筒部材21を段部4bに押圧し、第2取付部材3の下端部をかしめ固定することにより、第2取付部材3の下端部の開口が、ダイヤフラム10によって液密にされる。
【0031】
ダイヤフラム10と防振基体4との間に、外部空間に対して密閉された液体封入室Lが形成される。液体封入室Lは水やエチレングリコール等の非圧縮性液体(液体)が封入される。液体封入室Lは、仕切体20に設けられた仕切壁22により、防振基体4と仕切壁22との間の第1液室L1と、仕切壁22とダイヤフラム10との間の第2液室L2とに仕切られる。筒部材21の外周面とゴム膜4aの内周面との間に、第1液室L1と第2液室L2とを連通するオリフィス23が形成される。オリフィス23は、エンジンシェイク等に相当する10Hz前後の低振動数の振動に対して、オリフィス23を流動する液体の共振作用により有効な防振効果(高減衰効果)が発揮されるようにチューニングされる。
【0032】
仕切壁22は、板厚方向に貫通する円形状の開口部24が中央に形成される。開口部24の内側の仕切壁22と同一面上に、円形状の弁棒支持部25が配置される。弁棒支持部25は、互いに隙間をあけて弁棒支持部25から放射状に配置される連結部(図示せず)を介して開口部24の周縁に連結支持される。弁棒支持部25は、厚さ方向に貫通し弁棒27(後述する)が貫通される弁棒貫通孔26が形成されている。
【0033】
なお、開口部24は、第1液室L1と第2液室L2とを仕切るものではないので、防振すべき振動の入力時に開口部24を通じて流動する液体の共振作用による悪影響が発生しないように、開口面積は十分に大きく、且つ、厚さ方向の寸法は小さく設定されている。
【0034】
弁棒27は、開口部24を開閉する弁体28を操作するために軸方向に沿って配置される棒状の部材であり、一端がダイヤフラム10の中央部12に加硫接着され、他端側が弁棒支持部25に貫通形成された弁棒貫通孔26に挿通支持される。弁棒27は、弁棒貫通孔26に挿通されることで弁棒支持部25に貫設され、他端側が防振基体4側に突出する。
【0035】
弁体28は、開口部24を開閉するために弁棒27に固定される円板状の部材であり、仕切壁22とダイヤフラム10との間に配置される。弁棒27の軸方向の移動に伴って仕切壁22とダイヤフラム10との間を軸方向に移動し、弁棒27が防振基体4側に移動すると、仕切壁22のダイヤフラム10側の面に弁体28が押し当てられて開口部24を閉塞し、弁棒27がハウジング7側に移動すると、仕切壁22から弁体28が離れて開口部24が開放される。
【0036】
弁棒27は、第1液室L1内に位置する他端側の先端にストッパ部29が設けられる。ストッパ部29は、軸方向に沿って昇降する弁棒27が弁棒貫通孔26から抜けてしまうのを防止するための部材であり、弁棒貫通孔26の内径より大径に形成される。また、ストッパ部29は、液体の流動抵抗となり難いようにサイズが小さく設定される。具体的には、ストッパ部29は、軸方向視における外縁が、軸方向視における弁棒支持部25の外縁と同一もしくは弁棒支持部25の外縁の内側に位置するように設定される。これにより、ストッパ部29によって液体の流動を妨げ難くできると共に、流動する液体によってストッパ部29が受ける軸方向の荷重で弁棒27が昇降してしまう不具合(意図せずに弁体28が開閉する不具合)を防止できる。
【0037】
弁棒支持部25とストッパ部29との間には、弁棒支持部25とストッパ部29とを離隔させる方向に付勢するコイルスプリング30が配設される。コイルスプリング30は、弁棒支持部25に形成された係止部25aに一端が係止され、他端がストッパ部29に固定される。コイルスプリング30によって弁棒支持部25とストッパ部29とが離隔させる方向に付勢されることで、弁体28は開口部24を閉塞する方向に付勢される。
【0038】
なお、コイルスプリング30の付勢力は、開口部24を通じて弁体28に及ぼされる振動入力時の第1液室L1の正圧に抗して、弁体28(シール部31)を開口部24の周囲に押し付けて開口部24を閉塞状態に保持し得るだけの十分な大きさに設定される。
【0039】
弁体28は、弁体28の仕切壁22との対向面に、シート状のゴム状弾性体からなるシール部31が設けられる。弁体28を仕切壁22に押し付けたときにシール部31が弾性変形することにより開口部24を液密に閉塞できると共に、仕切壁22に衝突するときのショック感を抑制できる。また、弁棒支持部25とストッパ部29とが互いに対向する対向面には、ゴム状弾性体からなる緩衝部32,33がそれぞれ配置される。緩衝部32,33によって、弁棒支持部25とストッパ部29とが衝突したときの衝撃を緩衝できる。
【0040】
以上のように構成される液封入式防振装置1は、例えば、以下のようにして製造できる。まず、弁体28が固着された弁棒27、中間部材15及び固定金具14を成形型(図示せず)に設置し、ダイヤフラム10と一体に加硫接着する。次いで、仕切壁22に形成された弁棒貫通孔26に弁棒27を挿通し、仕切壁22から突出させた弁棒27にコイルスプリング30及びストッパ部29を装着する。これにより、仕切体20を一部品化できる。次に、中間部材15にハウジング7の筒部7aを圧入して、中間部材15をハウジング7に気密に固着する。
【0041】
第1取付部材2及び第2取付部材3に防振基体4及びゴム膜4aを加硫接着した後、第2取付部材3の下端部の開口から、液体を第2取付部材3内に満たす。第2取付部材3の下端部の開口から仕切体20を挿入した後、第2取付部材3の下端側に絞り加工を施し、第2取付部材3を縮径すると共に、固定金具14及びハウジング7の周縁部を重ね合わせ、第2取付部材3の下端部によってかしめ固定する。第2取付部材3の上端部にブラケット部材5を外嵌し、ブラケット部材5の上端部にストッパゴム6を被着することにより、液封入式防振装置1を得ることができる。
【0042】
図1に示すように、液封入式防振装置1の外部に空気圧調整装置40が配設される。空気圧調整装置40は、エアポート8を通じて外部から調圧空気室Rの圧力を制御するための装置である。本実施の形態では、空気圧調整装置40は、エアポート8に接続される空気管路43と、空気管路43に接続される負圧源41及び切換弁42とを有している。切換弁42は、電磁弁等により構成され、負圧源41又は大気中と調圧空気室Rとの連通を択一的に切り換えられる。負圧源41は、例えば自動車のインテーク側の吸圧器系統やアキュームレータ等が採用される。
【0043】
なお、空気圧調整装置40は、負圧源41が調圧空気室Rに接続されたときに調圧空気室Rに及ぼされる負圧駆動力が、コイルスプリング30による付勢力よりも大きな力でダイヤフラム10の中央部12を軸方向下側に変位できるように設定されている。このようにして、ダイヤフラム10の中央部12の弾性変形を利用した空気式アクチュエータの駆動力が確保される。
【0044】
切換弁42は、制御装置(図示せず)と接続される。制御装置は、自動車に備え付けの各種センサから自動車の走行速度やエンジン回転数、変速段の選択位置、スロットル開度など、自動車の状態を表す各種情報が入力される。制御装置は、入力された各種情報に基づいて切換弁42を作動させる。本実施の形態においては、切換弁42によって、車両の走行中は調圧空気室Rが大気中と接続され、アイドリング中には調圧空気室Rが負圧源41と接続されるように設定される。
【0045】
次に図1及び図2を参照して、液封入式防振装置1の動作について説明する。図2は、切換弁42によって調圧空気室Rが負圧源41に接続されたときの液封入式防振装置1の拡大断面図である。なお、図2では、液封入式防振装置1の上部側(防振基体4側)の図示および空気圧調整装置40の図示を省略している(図3から図5において同じ)。
【0046】
図1に示すように、切換弁42によって空気管路43が大気中に接続されると、調圧空気室Rが大気開放される。そうすると、コイルスプリング30の付勢力によって弁体28(シール部31)が開口部24の周囲に押し付けられ、開口部24が閉塞される。開口部24が閉塞されると、車両の走行中にエンジンシェイク等の低振動数の大振幅振動が液封入式防振装置1に入力された場合には、第1液室L1及び第2液室L2間の相対的な圧力変動によってオリフィス23を通じた液体流動が生じる。これにより、オリフィス23を流動する液体の共振作用に基づいて防振効果(高減衰効果)が発揮される。
【0047】
一方、図2に示すように、切換弁42によって空気管路43を介して調圧空気室Rが負圧源41に接続されると、調圧空気室Rが減圧されるので、吸引力が生じてダイヤフラム10の中央部12が軸方向下側に伸張される。その結果、コイルスプリング30の付勢力に抗してコイルスプリング30が圧縮され、弁棒27が下降される。弁棒27の下降に伴い弁体28が仕切壁22から離れるので、開口部24が開放される。
【0048】
これにより、第1液室L1と第2液室L2との仕切りが解除されて、第1液室L1及び第2液室L2が実質的に一つの液体封入室Lとなる。その結果、防振基体4の弾性変形に基づく液体封入室Lの圧力変動が、ダイヤフラム10の弾性変形に基づき吸収される。そのため、車両のアイドリング中にアイドリング振動等の中振動数の中振幅振動が液封入式防振装置1に入力されると、防振基体4の低動ばね特性に基づく振動絶縁効果が発揮される。
【0049】
液封入式防振装置1は、弁体28を軸方向に移動させるための駆動力を発生する調圧空気室Rが、ダイヤフラム10の中央部12に中間部材15を加硫接着し、ダイヤフラム10の一部を利用することでハウジング7とダイヤフラム10との間に形成される。よって、従来のように、ダイヤフラムとは別部材のゴム状部材を配置して調圧空気室を形成する場合と比較して、調圧空気室Rの収容空間を小さくできる。その結果、ハウジング7とダイヤフラム10との間隔を小さくできるので、液封入式防振装置1のサイズ(特に上下方向長さ)を小さくできる。
【0050】
また、中間部材15で仕切られることで調圧空気室Rがブラケット7の中央部に配設されるので、ハウジング7の底部に透孔(図示せず)を設けることで、ハウジング7内の空気室を大気開放することができる。ハウジング7に透孔を設けずに、空気室を気密室にすることは当然可能である。
【0051】
中間部材15で仕切られることで形成される調圧空気室Rの内容積を小さくできるので、ダイヤフラム10の中間部12を伸張させるために要する空気の変化量を少なくできる。そのため、切換弁42の切り換えによって動作する空気式アクチュエータ(ダイヤフラム10の中央部12)の応答速度を上げることができる。よって、車両の状態に応じてきめ細かく液封入式防振装置1を制御できる。
【0052】
また、弁体28は、ダイヤフラム10と仕切壁22との間に配置されるので、防振基体4の低動ばね特性に基づく振動絶縁効果を安定して発揮できる。即ち、本実施の形態とは異なり、防振基体4と仕切板22との間に弁体28が位置する場合には、弁体28によって開口部24が開放された状態で第1液室L1の圧力が第2液室L2より大きくなって開口部24を通じた液体流動が生じると、意図に反して開口部24が弁体28によって閉塞される(開口部24の開口面積が狭くなる)おそれがある。開口部24の開口面積が狭くなると、振動の入力時に開口部24を通じて流動する液体の共振作用による悪影響が生じるおそれがある。
【0053】
これに対し本実施の形態によれば、弁体28はダイヤフラム10側に位置するので、弁体28によって開口部24が開放されている場合、第1液室L1の圧力が第2液室L2より大きくなって開口部24を通じた液体流動が生じたときに、この液体流動によって弁体28が開口部24を閉塞することを防止できる。これにより、意図に反して開口部24の開口面積が狭くなることを防止することができ、防振基体4の低動ばね特性に基づく振動絶縁効果を安定して発揮できる。
【0054】
また、仕切壁22は開口部24の内側に弁棒支持部25が配置され、弁棒27は、他端側が弁棒支持部25に貫設されると共に防振基体4側に突出する。その結果、弁棒27は一端がダイヤフラム10の中央部12に、他端側が弁棒支持部25に支持される。弁棒27の両端が支持されるので、弁棒27及び弁体28が揺動することを防止できる。弁棒27の軸方向移動をスムーズに行うことができ、弁体28による開口部24の開閉動作を安定に行うことができる。
【0055】
また、弁棒支持部25に挿通支持され防振基体4側に突出する弁棒27の他端側にコイルスプリング30が配設され、コイルスプリング30は、開口部24を閉鎖する方向に弁体28を付勢する。これにより空気圧調整装置40によって調圧空気室Rが大気開放されると、コイルスプリング30の付勢力により弁棒27及び弁体28がダイヤフラム10側へ移動され、弁体28により開口部24が開放される。一方、空気圧調整装置40により調圧空気室R内が減圧されると、コイルスプリング30の付勢力に抗して弁棒27及び弁体28が仕切壁22側へ移動され、弁体28により開口部24が閉塞される。
【0056】
このようにコイルスプリング30により開口部24が閉塞される方向に弁体28が付勢されているので、空気圧調整装置40に調圧空気室Rを減圧および加圧する機能をもたせずに、調圧空気室Rを減圧する機能だけをもたせれば良い。よって、空気圧調整装置40の構成を簡略化できる。
【0057】
また、仕切壁22から防振基体4側に突出する弁棒27にコイルスプリング30が設けられるので、中間部材15及び弁棒27にダイヤフラム10を加硫接着した後、それを仕切壁22に組付けるときにコイルスプリング30を装着できる。これにより、中間部材15、ダイヤフラム10、弁棒27、弁体28、仕切壁22及びコイルスプリング30を組み立てられた一つの部品(仕切体20)として扱うことができる。そのため、コイルスプリング30が組み付けられた仕切体20を第2取付部材3の内側に挿入した後、ハウジング7を第2取付部材3に固定することで液封入式防振装置1を容易に製造できる。
【0058】
これに対し、コイルスプリング30がダイヤフラム10とハウジング7との間に設けられる場合には、筒部7aに中間部材15を圧入するときにコイルスプリング30を装着しなければならず、液封入式防振装置1を組み立てるときの作業性が低下するおそれがある。本実施の形態によれば、これを防止することができ、液封入式防振装置1の組立作業性を向上できる。
【0059】
また、中間部材15がダイヤフラム10と加硫接着されることで、中間部材15の端部がゴム状弾性体からなる環状部13で覆われる。環状部13は、正面視における弁体28の外縁の内側に位置するので、弁体28が中間部材15の端部の位置まで下降した場合に、弁体28と中間部材15との間に環状部13が介在させることができる。よって、弁体28と中間部材15との衝突の衝撃を緩衝できるので、ショック感を低減できる。
【0060】
次に図3を参照して第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では、コイルスプリング30が弁棒支持部25とストッパ部29との間に配置される場合について説明した。これに対し第2実施の形態では、コイルスプリング130が中間部材115と弁体128との間に配置される場合について説明する。なお、第2実施の形態において、第1実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図3は第2実施の形態における液封入式防振装置101の拡大断面図である。
【0061】
図3に示すように液封入式防振装置101は、ハウジング7の中央部に設けられた筒部7aに、筒状の中間部材115が外嵌され、中間部材115の下端部が気密に固着される。また、ハウジング7と防振基体4との間に、ゴム状弾性体から構成されるダイヤフラム110と、合成樹脂製や金属製等の硬質材から構成される仕切体120とが取り付けられる。
【0062】
ダイヤフラム110は、軸方向視して円環状に形成されると共に中間部材115の上部外周面に内縁が加硫接着される部分球状の本体部111と、本体部111の径方向内側に位置し中間部材115の上部内周面に加硫接着される略円形状の中央部112とを備えている。ダイヤフラム110の外周部分には、円環状の固定金具14が加硫接着される。ダイヤフラム110の中央部112が中間部材115に加硫接着されることで、ハウジング7とダイヤフラム110との間に、ハウジング7(中間底部7b)、中間部材115及び中央部112によって囲繞された調圧空気室Rが形成される。
【0063】
仕切体120は、上端部が段部4bに当接しゴム膜4aの内側に保持される筒部材121と、薄肉の円盤状に形成される仕切壁122とを備えている。筒部材121の外周面とゴム膜4aの内周面との間に、第1液室L1と第2液室L2とを連通するオリフィス123が形成される。
【0064】
仕切壁122は、板厚方向に貫通する円形状の開口部124が中央に形成され、開口部124の内側に弁棒支持部125が配置される。弁棒支持部125は、放射状に配置される連結部(図示せず)を介して開口部124の周縁に連結支持される。弁棒支持部125は、厚さ方向に貫通し弁棒127が貫通される弁棒貫通孔126が形成される。
【0065】
弁棒127は一端がダイヤフラム110の中央部112に加硫接着され、他端側が弁棒貫通孔126に挿通支持される。弁棒支持部125に貫設され防振基体4側に突出する弁棒127の先端にストッパ部129が配設される。弁体128は、弁棒127に固定され仕切壁122とダイヤフラム110との間に配置される。弁棒127の軸方向の移動に伴って弁体128は開口部124を開閉する。
【0066】
中間部材115の上端部と弁体128との間には、中間部材115と弁体128とを離隔させる方向に付勢するコイルスプリング130が配設される。弁体128は、弁体128の仕切壁122との対向面に、シート状のゴム状弾性体からなるシール部131が設けられる。シール部131によって開口部124を液密に閉塞できると共に、開口部124が弁体128によって閉塞されるときのショック感を抑制できる。
【0067】
弁棒支持部125と対向するストッパ部129の下面には、ゴム状弾性体からなるストッパゴム部132が配置される。また、中間部材115の上端部および弁体128の下面に、ゴム状弾性体からなるストッパゴム部133,134が配置される。ストッパゴム部132,133,134により、これらが衝突するときの衝撃を緩衝できる。
【0068】
以上のように構成される液封入式防振装置101によれば、第1実施の形態における液封入式防振装置1と同様の効果を実現できる。さらに、コイルスプリング130が仕切壁122とダイヤフラム110との間に配置されるので、弁体支持部125とストッパ部129との間にコイルスプリングが配置される場合と比較して、弁体支持部125及びストッパ部129のサイズを小型化できる。弁体支持部125及びストッパ部129にコイルスプリング130を固定する機能をもたせなくて良いからである。
【0069】
この場合、調圧空気室Rが大気開放されると、コイルスプリング130の付勢力によって弁体128(シール部131)が開口部124の周囲に押し付けられ、開口部124が閉塞される。液封入式防振装置101はストッパ部129を小型化できるので、第1液室L1の相対的な圧力変動によってストッパ部129が受ける荷重を減らすことができる。よって、意図せずに弁体128が開口部124から離れてしまう(開口部124が開いてしまう)不具合の発生を防止できる。
【0070】
一方、調圧空気室Rが減圧されると、ダイヤフラム110の中央部112が軸方向下側に伸張され、コイルスプリング130の付勢力に抗して弁棒127が下降される。弁棒127の下降に伴い弁体128が仕切壁122から離れるので、開口部124が開放される。液封入式防振装置101は弁体支持部125を小型化できるので、弁体支持部125が開口部124を流通する液体に与える影響を軽減できる。その結果、開口部124が開放されるときの防振基体4の低動ばね特性を安定して確保できる。
【0071】
次に図4を参照して第3実施の形態について説明する。第1実施の形態および第2実施の形態では、弁棒支持部25,125が配置される場合について説明した。これに対し第3実施の形態では、弁棒支持部およびストッパ部が省略される場合について説明する。なお、第3実施の形態において、第1実施の形態および第2実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図4は第3実施の形態における液封入式防振装置201の拡大断面図である。
【0072】
図4に示すように液封入式防振装置201の仕切体220は、上端部が段部4bに当接しゴム膜4aの内側に保持される筒部材221と、薄肉の円盤状に形成される仕切壁222とを備え、筒部材221の外周面とゴム膜4aの内周面との間に第1液室L1と第2液室L2とを連通するオリフィス223が形成される。
【0073】
仕切壁222は、板厚方向に貫通する円形状の開口部224が中央に形成される。その開口部224を開閉する弁体128が、仕切壁222とダイヤフラム110との間に配置される。弁体128は、ダイヤフラム110の中央部112に一端が加硫接着される弁棒227の他端部に固着されている。
【0074】
以上のように構成される液封入式防振装置201によれば、第1実施の形態および第2実施の形態における液封入式防振装置1,101と同様の効果を実現できる。さらに、ストッパ部が省略されているので、弁体128によって開口部224が閉塞された状態では、第1液室L1の相対的な圧力変動の影響をストッパ部が受けることを皆無にできる。その結果、意図せずに弁体128が開口部224から離れてしまう(開口部224が開いてしまう)不具合の発生を防止できる。
【0075】
一方、開口部124が開放された状態では、弁体支持部およびストッパ部が省略されているので、弁体支持部およびストッパ部が、開口部124を流通する液体に与える影響を皆無にできる。よって、開口部124が開放されるときの防振基体4の低動ばね特性を安定して確保できる。
【0076】
次に図5を参照して第4実施の形態について説明する。第1実施の形態から第3実施の形態では、コイルスプリング30,130が液体封入室Lの内部に配置される場合について説明した。これに対し第4実施の形態では、コイルスプリング331が液体封入室Lの外部に配置される場合について説明する。なお、第4実施の形態において、第1実施の形態および第2実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図5は第4実施の形態における液封入式防振装置301の拡大断面図である。
【0077】
液封入式防振装置301は、第2取付部材3の下端部に、カップ状に形成されたハウジング307が設けられる。ハウジング307は、底部から軸方向上側に隆起する筒状の筒部307aがハウジング307の中央部に形成される。筒部307aの上端に中央底部307bが連設され、中央底部307bを貫通してエアポート8が設けられる。筒部307aは、合成樹脂製や金属製等の硬質材で円筒状に形成された中央部材315に圧入され、中間部材315に気密に固着される。
【0078】
ダイヤフラム310は、軸方向視して円環状に形成されると共に中間部材315の上部に加硫接着される部分球状の本体部311と、本体部311の径方向内側に位置し中間部材315の上部内周面に加硫接着される略円形状の中央部312と、中間部312及び本体部311と一体に加硫成形されると共に中間部材315の上端部に加硫接着される円環部313とを備えている。ダイヤフラム310の中央部312が中間部材315に加硫接着されることで、ハウジング307とダイヤフラム310との間に、ハウジング307(中間底部307b)、中間部材315及び中央部312によって囲繞された調圧空気室Rが形成される。
【0079】
調圧空気室R内にコイルスプリング330が圧縮された状態で配設される。コイルスプリング330は、中央底部307bに設けられた係止部307cに一端が係止され、他端が、調圧空気室R内に配設された円板状の支持部材331に係止される。支持部材331は、弁棒127の下端部に固着される。これにより、調圧空気室Rが大気開放された場合には、コイルスプリング330の付勢力によって弁棒127は軸方向上側に付勢され、それに伴い開口部124は弁体128によって閉塞される。
【0080】
以上のように構成される液封入式防振装置301によれば、第1実施の形態および第2実施の形態における液封入式防振装置1,101と同様の効果を実現できる。また、コイルスプリング330が液体封入部Lの外部に配設されるので、コイルスプリング330が液体の影響を受けて劣化等が生じ易くなることを防止できる。さらに、コイルスプリング330が調圧空気室Rの内側に配設されているので、コイルスプリング330がダイヤフラム310の本体部311等の可動部材と干渉することを防止できる。その結果、コイルスプリング330によって液封入式防振装置301の防振作用が損なわれたり、コイルスプリング330と干渉した可動部材が損傷し易くなることを防止できる。
【0081】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0082】
また、上記の各実施形態は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、それぞれ、他の実施形態が有する構成の一部または複数部分を、その実施形態に追加し或いはその実施形態の構成の一部または複数部分と交換等することにより、その実施形態を変形して構成するようにしても良い。例えば、第4実施の形態で説明したコイルスプリング330の配置構造を、第3実施の形態で説明したコイルスプリング130の配置構造に代えて、第3実施の形態における液封入式防振装置201に適用する(コイルスプリング130を調圧空気室R内に配置する)ことは当然可能である。
【0083】
上記各実施の形態では、空気圧調整装置40が負圧源41を備え、切換弁42の切り換えによって調圧空気室Rに負圧を導入する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、負圧および正圧の両方を発生できる機構を備える空気圧調整装置を採用することは可能である。この場合には、弁体28,128を開口部24,124,224側に付勢するコイルスプリング30,130,330を省略できる。空気圧調整装置によって調圧空気室Rに負圧および正圧を導入することにより、弁棒27,127,227を操作して弁体28,128によって開口部24,124,224を開閉できるからである。
【0084】
上記各実施の形態では、空気圧調整装置40が負圧源41を備え、切換弁42の切り換えによって調圧空気室Rに負圧を導入する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、調圧空気室Rに正圧が導入されるような空気圧調整装置を採用することは可能である。この場合には、弁体28,128を開口部24,124,224と離隔させるように付勢するコイルスプリングを設ける。これにより、調圧空気室Rに正圧を導入すれば、弁体28,128によって開口部24,124,224を閉塞できる。
【0085】
上記各実施の形態では、コイルスプリング30,130,330によって弁体28,128に付勢力を加える場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。開口部24,124,224を開放する又は閉塞するための付勢力を作用させることができれば、コイルスプリング以外の他の付勢部材を採用することは当然可能である。
【0086】
上記各実施の形態では、液体封入室Lが第1液室L1及び第2液室L2に仕切られ、その間をオリフィス23,123,223で連通する所謂シングルオリフィスタイプの液封入式防振装置について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、液体封入室Lが第1液室(主液室)、第2液室(副液室)及び第3液室(中間液室)に仕切られ、それらが2種のオリフィスで連通される所謂ダブルオリフィスタイプの液封入式防振装置に適用することは当然可能である。
【符号の説明】
【0087】
1,101,201,301 液封入式防振装置
2 第1取付部材
3 第2取付部材
4 防振基体
7 ハウジンング
10,110,310 ダイヤフラム
15,115,315 中間部材
22,122,222 仕切壁
23,123,223 オリフィス
24,124,224 開口部
25,125 弁棒支持部
27,127,227 弁棒
28,128 弁体
30,130,330 コイルスプリング(付勢部材)
40 空気圧調整装置
L 液体封入室
L1 第1液室(液室)
L2 第2液室(液室)
R 調圧空気室
図1
図2
図3
図4
図5
図6