(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207881
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】光レセプタクルおよびこれを備えた光モジュール
(51)【国際特許分類】
G02B 6/42 20060101AFI20170925BHJP
【FI】
G02B6/42
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-113964(P2013-113964)
(22)【出願日】2013年5月30日
(65)【公開番号】特開2014-232260(P2014-232260A)
(43)【公開日】2014年12月11日
【審査請求日】2016年4月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208765
【氏名又は名称】株式会社エンプラス
(74)【代理人】
【識別番号】100081282
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 俊輔
(74)【代理人】
【識別番号】100085084
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高英
(74)【代理人】
【識別番号】100095326
【弁理士】
【氏名又は名称】畑中 芳実
(74)【代理人】
【識別番号】100115314
【弁理士】
【氏名又は名称】大倉 奈緒子
(74)【代理人】
【識別番号】100117190
【弁理士】
【氏名又は名称】前野 房枝
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 和孝
【審査官】
奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−278285(JP,A)
【文献】
特開昭59−109013(JP,A)
【文献】
特開2012−252308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/26− 6/27
G02B 6/30− 6/34
G02B 6/42− 6/43
H01L 31/00−31/02
H01L 31/08−31/10
H01L 31/18
H01L 51/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバの端部を取り付けるための筒状の光ファイバ取付部と、
受光素子を有する光電変換装置を当接させた状態で取り付けるための筒状の光電変換装置取付部と、
前記光ファイバの端部と前記受光素子とを光学的に結合するためのレンズと
を備えた光レセプタクルにおいて、
前記レンズは、前記光ファイバの端部に対面するとともに前記受光素子側に凹入する凹面からなる第一面と、前記受光素子に対面するとともに前記受光素子側に突出する凸面からなる第二面とを備えており、前記凹面と凸面との組合せが、前記光ファイバが当該レンズの光軸に対して最大14度に傾斜した状態で前記光ファイバ取付部に取り付けられた場合においても、前記光ファイバからの出力光を前記レンズの光軸上における前記受光素子上の所定直径内の領域に集光させるように形成されていること
を特徴とする光レセプタクル。
【請求項2】
請求項1に記載の光レセプタクルと、光ファイバと、光電変換装置と
を備えたことを特徴とする光モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光レセプタクルおよびこれを備えた光モジュールに係り、特に、光ファイバの端部と光電変換装置の受光素子とを光学的に適正に結合するのに好適な光レセプタクルおよびこれを備えた光モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光ファイバを用いた光通信には、光レセプタクルと称される光モジュール部品が用いられており、この光レセプタクルは、筒状のフェルール内に保持された光ファイバの端部がフェルールとともに挿入されて固定され、かつ、光電変換素子を有する光電変換装置が取り付けられるようになっている。そして、このようにして光電変換装置および光ファイバが組み付けられた光レセプタクルは、光電変換素子と光ファイバの端部とを光学的に結合するようになっていた。
【0003】
ここで、
図5は、この種の光レセプタクル1の一例を示したものである(例えば、特許文献1、
図4参照)。この光レセプタクル1は、例えば、PEI(ポリエーテルイミド)、PC(ポリカーボネート)、PES(ポリエーテルサルフォン)、COP(シクロオレフィンポリマー)またはPMMA(ポリメタクリル酸メチル)等の透光性の樹脂材料を射出成形することによって一体的に形成されている。
【0004】
図5に示すように、光レセプタクル1は、長手方向におけるほぼ中央位置に、レンズ2を有しており、このレンズ2は、これの光軸OA方向における光の上流側(
図5における上方)の第一面2aが平面とされ、光の下流側(
図5における下方)の第二面2bが凸面とされた平凸レンズに形成されている。
【0005】
また、
図5に示すように、光レセプタクル1は、レンズ2の径方向における外側位置から光軸OA方向における下流側(
図5における下方)に向かって延在された光電変換装置取付部3を有している。この光電変換装置取付部3は、内周面が光軸OAと同心の円筒形状とされた筒状に形成されている。ただし、
図5に示すように、光電変換装置取付部3には、光電変換装置を接着剤(熱硬化性樹脂等)を用いて光電変換装置取付部3に固定する際に接着剤から発生したガスを外部に逃がすための貫通孔4が穿設されている。
【0006】
さらに、
図5に示すように、光レセプタクル1は、レンズ2の径方向における外側位置から光軸OA方向における光電変換装置取付部3と反対の方向に向かって延在された光ファイバ取付部5を有している。この光ファイバ取付部5は、内周面が光軸OAと同心の略円筒形状とされた筒状に形成されている。
【0007】
次に、
図6は、このような光レセプタクル1を備えた光モジュールの一例として、受信用の光モジュール7を示したものである。
【0008】
すなわち、
図6に示すように、光モジュール7は、光レセプタクル1の光電変換装置取付部3に、光受信機能を備えたCANパッケージ型の光電変換装置8が取り付けられている。より具体的には、
図6に示すように、光電変換装置8は、円板状のステム9と、これに搭載されたフォトディテクタ(PD)等の受光素子10と、この受光素子10を覆うように配置された頂部に窓部を有するキャップ11と、受光素子10の受光結果(光電変換)に応じた電気信号が流れるリード12とによって構成されている。
【0009】
また、
図6に示すように、光モジュール7は、光ファイバ取付部5に、光ファイバ15が、これを保持するフェルール17とともに着脱可能に取り付けられている。
【0010】
このような受信用の光モジュール7においては、送信側のデバイス(半導体レーザLD等)から送信された送信情報を含む光が、光ファイバ15を介して伝送されて、光ファイバ15の端部(端面)15aからレンズ2に向けて出射される。そして、このレンズ2に向けて出射された光は、レンズ2において収束されて光電変換装置8に向けて出射された後に、光電変換装置8の受光素子10によって受光される。このようにして、光ファイバ15の端部15aと受光素子10とが光学的に結合される。
【0011】
この光モジュール7においては、光ファイバ取付部5に対して、フェルール17とともに光ファイバ15が頻繁に着脱して利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−258365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように形成されている光レセプタクル1においては、光ファイバ取付部5とフェルール17とが所定の耐久性と嵌め合い性をもって着脱自在に形成されているが、着脱操作数の増加に伴って両者の接合面が次第に摩耗して行き、光ファイバ15およびフェルール17の光軸が、これらより後流側の光ファイバ取付部5、レンズ2および光電変換装置8の光軸に対して傾斜するいわゆるウイグルが発生してしまう。
【0014】
ここで、このウイグルの発生前後における光モジュール7における光路を
図7により確認する。
【0015】
まず、
図7(a)に示すように、ウイグルの発生がない場合には、レンズ2の光軸に対して光ファイバ15の光軸が同心であり、光ファイバ15の端面15aから出射した光は、光軸上の光から光軸から大きく拡散する光の全部が平凸状に形成されているレンズ2の集光特性によって受光素子10の光軸上の中心部に集光されて結合効率が優れたものとなる。
【0016】
ところが、
図7(b)に示すように、ウイグルが発生すると、レンズ2の光軸に対して光ファイバ15の光軸が傾斜して、光ファイバ15の端面15aから出射した光は、光軸上の光と光軸から小さく拡散する光はレンズ2の集光特性によって受光素子10の光軸上の中心部に集光されるが、光軸から大きく拡散する光(例えば、同図の左側に拡散した光)は平凸状に形成されているレンズ2の集光特性をもってしても受光素子10の光軸上の中心部に集光されない状態となり、結合効率が悪くなり、ひいては光情報の伝達効率が低下するという不都合があった。
【0017】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、ウイグルが発生しても高い結合効率をもって光を集光させて、光ファイバの端部と光電変換装置の受光素子とを光学的に適正に結合することができ、光学特性の優れた光レセプタクルおよびこれを備えた光モジュールを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前述した目的を達成するため、本発明の第1の態様の光レセプタクルは、光ファイバの端部を取り付けるための筒状の光ファイバ取付部と、受光素子を有する光電変換装置を当接させた状態で取り付けるための筒状の光電変換装置取付部と、前記光ファイバの端部と前記受光素子とを光学的に結合するためのレンズとを備えた光レセプタクルにおいて、前記レンズは、前記光ファイバの端部に対面するとともに前記受光素子側に凹入する凹面からなる第一面と、前記受光素子に対面するとともに前記受光素子側に突出する凸面からなる第二面とを備えており、前記凹面と凸面との組合せ
が、前記光ファイバが当該レンズの光軸に対して最大14度に傾斜した状態で前記光ファイバ取付部に取り付けられた場合においても、前記光ファイバからの出力光を前記レンズの光軸上における前記受光素子上の所定直径内の領域に集光させるように形成されていることを特徴とする。
【0019】
そして、この第1の態様の
光レセプタクルによれば、
レンズの光軸に対して光ファイバが最大14度に傾斜した状態で光レセプタクルに取り付けられた場合においても、レンズの第一面の凹面と第二面の凸面との組合せにより、光ファイバからの光を高い結合効率をもって
レンズの光軸上における受光素子上の所定直径内の領域に集光させて、光ファイバの端部と光電変換装置の受光素子とを光学的に適正に結合させることができ、光学特性の優れたものとなる。
【0022】
また、本発明の第1の態様の光モジュールは、第
1の態様の光レセプタクルと
、光ファイバと
、光電変換装置とを備えたことを特徴とする。
【0023】
そして、この第1の態様の光モジュールによれば、
レンズの光軸に対して光ファイバが最大14度に傾斜した状態で光レセプタクルに取り付けられた場合においても、レンズの第一面の凹面と第二面の凸面との組合せにより、光ファイバからの光を高い結合効率をもって
レンズの光軸上における受光素子上の所定直径内の領域に集光させて、光ファイバの端部と光電変換装置の受光素子とを光学的に適正に結合させることができ、光学特性の優れたものとなる。
【発明の効果】
【0024】
このような本発明の光レセプタクルおよびこれを備えた光モジュールによれば、光レセプタクルに対する光ファイバの取付にウイグルが発生しても、高い結合効率をもって光を集光させて、光ファイバの端部と光電変換装置の受光素子とを光学的に適正に結合することができ、光学特性の優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】(a)は本発明に係る光レセプタクルの1実施形態を示す縦断面図、(b)は(a)のレンズの第一面部分の拡大図
【
図2】本発明に係る光モジュールの1実施形態を示す縦断面図
【
図3】本発明に係る光モジュールの1実施形態におけるファイバ光の光路を示す模式図で、(a)は光ファイバの傾きが0度の場合の模式図、(b)は光ファイバが傾斜した場合の模式図
【
図4】本発明に係る光モジュールの1実施形態における、光ファイバの光軸に対する傾きと光結合効率との相関関係についてのシミュレーション結果を示すグラフ
【
図5】(a)は従来の光レセプタクルの構成例を示す縦断面図、(b)は(a)のレンズの第一面部分の拡大図
【
図7】従来の光モジュールにおけるファイバ光の光路を示す模式図で、(a)は光ファイバの傾きが0度の場合の模式図、(b)は光ファイバが傾斜した場合の模式図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について、
図1および
図4を参照して説明する。
【0027】
ただし、従来と基本的な構成が同一もしくはこれに類する箇所については、同一の符号を用いて説明する。
【0028】
図1および
図2に示すように、本実施形態における光レセプタクル20は、従来の光レセプタクル1と同様に、レンズ21、光電変換装置取付部3および光ファイバ取付部5が、透光性の樹脂材料を用いて一体的に形成されることによって構成されている。また、本実施形態における光レセプタクル20は、従来例とは異なり、レンズ21が凹凸レンズに形成されている。
【0029】
更に説明すると、
図5に示した従来の構成においては、レンズ2が、その光軸OA方向における光の上流側(
図5における上方)の第一面2aが平面とされ、光の下流側(
図5における下方)の第二面2bが凸面とされた平凸レンズに形成されている。
【0030】
これに対して、
図1(b)に示すように、本実施形態においては、レンズ2の光軸OA方向における光の上流側(
図1における上方)の第一面21aが受光素子10側に凹入する凹面とされ、光の下流側(
図1における下方)の第二面21bが凸面とされた凹凸レンズに形成されている。更に、これらの凹面と凸面との組合せによってレンズ21の光軸に対して傾斜して取り付けられた光ファイバ15からの出力光を受光素子10上の適正箇所(例えば、光軸上の所定直径内の領域)に集光させるように形成されている。
【0031】
そして、このような本実施形態の光レセプタクル20は、
図2に示すように、光ファイバ取付部5への光ファイバ15の取り付けと、光電変換装置取付部3への光電変換装置8の取り付けとを行うことによって、本実施形態における光モジュール22を構成するようになっている。
【0033】
図3は本実施形態の光レセプタクル20および光モジュール22によるウイグルの発生前後における光路を示すものである。
【0034】
まず、
図3(a)に示すように、ウイグルの発生がない場合には、レンズ21の光軸に対して光ファイバ15の光軸が同心であり、光ファイバ15の端面15aから出射した光は、光軸上の光から光軸より大きく拡散する光の全部が凹凸状に形成されているレンズ21の集光特性によって受光素子10の光軸上の中心部に集光されて結合効率が優れたものとなる。
【0035】
次に、
図3(b)に示すように、ウイグルが発生した場合には、レンズ21の光軸に対して光ファイバ15の光軸が傾斜して、光ファイバ15の端面15aから出射した光は、レンズ21の第一面21aの凹面によって光軸方向に屈折させられる。これにより、光軸上の光と光軸から小さく拡散する光はレンズ21の集光特性によって受光素子10の光軸上の中心部に集光されるとともに、光軸から大きく拡散する光(例えば、同図の左側に拡散した光)であっても凹凸状に形成されているレンズ21の集光特性をもって受光素子10の光軸上の中心部の適正位置に集光されて結合効率が優れたものとなる。
【0036】
次に、
図4により、本実施形態と従来例とにおけるレンズの結合効率を比較して説明する。
【0037】
図4においては、
図3に示す本実施例のレンズ21と
図5に示す従来例のレンズ2とにおいて、一方のレンズ21の第一面21aを凹面とし、他方のレンズ2の第一面2aを平面とする他は全部同一条件として形成し、それぞれの光ファイバの傾き角度と結合効率との相関関係についてのシミュレーションの結果現すトレランスカーブを示している。この
図4における横軸は、レンズ21、2の光軸OAに対する光ファイバの傾き角度であり、縦軸は、受光素子10としてのフォトディテクタの受光面に対する光ファイバの出射光の結合効率(dB)である。また、
図4のシミュレーションにおいては、光ファイバとして、NAが0.14、コア径がΦ0.01mmのものを用いるとともに、フォトディテクタとして、受光面がΦ0.05mmのものを用いた
。
【0038】
本実施例のレンズ21を用いた場合のトレランスカーブ(
図4の実線)によれば、光ファイバの傾き角度が0度の場合から次第に大きくなって、最大傾斜角度の14度に達しても、結合効率は−0.3dB程度の小さな低下に抑えられている。このことは、本実施形態によれば、
図3(b)に示すように、光軸上の光から光軸より大きく拡散する光の全部が凹凸状に形成されているレンズ21の集光特性によって受光素子10の光軸上の中心部に集光されて結合効率が優れたものとなることがわかる。
【0039】
これに対して、従来例のレンズ2を用いた場合のトレランスカーブ(
図4の破線)によれば、光ファイバの傾き角度が0度から6度の範囲においては、本実施例とほぼ同等に変化するが、当該傾き角度が8度を超えると結合効率が大きく低下するものとなっている。特に、最大傾斜角度の14度に達すると、本実施形態の結合効率より−0.4dBも低下している。このことは、従来例によれば、
図7(b)に示すように、光軸より大きく拡散する光(例えば、同図の左側に拡散した光)は平凸状に形成されているレンズ2の集光特性をもってしても受光素子10の光軸上の中心部に集光されない状態となり、結合効率が悪くなることがわかる。
【0040】
したがって、本実施形態によれば、光レセプタクル1に対する光ファイバ15の取付にウイグルが発生しても、高い結合効率をもって光を集光させて、光ファイバ15の端部と光電変換装置8の受光素子10とを光学的に適正に結合することができ、光学特性の優れたものとなることがわかる。
【0041】
なお、本発明は、前述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の特徴を損なわない限度において種々変更することができる。
【0042】
例えば、本発明はシングルモードおよびマルチモードのいずれの光ファイバに対しても適用できる。
【符号の説明】
【0043】
3 光電変換装置取付部
5 光ファイバ取付部
10 受光素子
15 光ファイバ
20 光レセプタクル
21 レンズ
21a 第一面
21b 第二面
22 光モジュール