【実施例】
【0031】
図1は、本発明の一実施例に係る建屋及び建屋の消火システムが適用される原子力発電プラントを表す概略構成図である。
【0032】
本実施例の原子炉は、軽水を原子炉冷却材及び中性子減速材として使用し、炉心全体にわたって沸騰しない高温高圧水とし、この高温高圧水を蒸気発生器に送って熱交換により蒸気を発生させ、この蒸気をタービン発電機へ送って発電する加圧水型原子炉(PWR:Pressurized Water Reactor)である。
【0033】
本実施例の加圧水型原子炉を有する原子力発電プラントにおいて、
図1に示すように、原子炉格納容器11は、内部に加圧水型原子炉12及び蒸気発生器13が格納されており、この加圧水型原子炉12と蒸気発生器13とは高温側送給配管14と低温側送給配管15を介して連結されており、高温側送給配管14に加圧器16が設けられ、低温側送給配管15に一次冷却水ポンプ17が設けられている。この場合、減速材及び一次冷却水(冷却材)として軽水を用い、炉心部における一次冷却水の沸騰を抑制するために、一次冷却系統は加圧器16により150〜160気圧程度の高圧状態を維持するように制御している。
【0034】
従って、加圧水型原子炉12にて、燃料(原子燃料)として低濃縮ウランまたはMOXにより一次冷却水として軽水が加熱され、高温の一次冷却水が加圧器16により所定の高圧に維持された状態で、高温側送給配管14を通して蒸気発生器13に送られる。この蒸気発生器13では、高温高圧の一次冷却水と二次冷却水との間で熱交換が行われ、冷やされた一次冷却水は低温側送給配管15を通して加圧水型原子炉12に戻される。
【0035】
蒸気発生器13は、加熱された二次冷却水、つまり、蒸気を送給する配管31を介して蒸気タービン32と連結されており、この配管31に主蒸気隔離弁33が設けられている。蒸気タービン32は、高圧タービン34と低圧タービン35を有すると共に、発電機(発電装置)36が接続されている。また、高圧タービン34と低圧タービン35は、その間に湿分分離加熱器37が設けられており、配管31から分岐した冷却水分岐配管38が湿分分離加熱器37に連結される一方、高圧タービン34と湿分分離加熱器37は低温再熱管39により連結され、湿分分離加熱器37と低圧タービン35は高温再熱管40により連結されている。
【0036】
更に、蒸気タービン32の低圧タービン35は、復水器41を有しており、この復水器41は、配管31からバイパス弁42を有するタービンバイパス配管43が接続されると共に、冷却水(例えば、海水)を給排する取水管44及び排水管45が連結されている。この取水管44は、循環水ポンプ46を有し、排水管45と共に他端部が海中に配置されている。
【0037】
そして、この復水器41は、配管47が接続されており、復水ポンプ48、グランドコンデンサ49、復水脱塩装置50、復水ブースタポンプ51、低圧給水加熱器52が接続されている。また、配管47は、脱気器53が連結されると共に、主給水ポンプ54、高圧給水加熱器55、主給水制御弁56が設けられている。
【0038】
従って、蒸気発生器13にて、高温高圧の一次冷却水と熱交換を行って生成された蒸気は、配管31を通して蒸気タービン32(高圧タービン34から低圧タービン35)に送られ、この蒸気により蒸気タービン32を駆動して発電機36により発電を行う。このとき、蒸気発生器13からの蒸気は、高圧タービン34を駆動した後、湿分分離加熱器37で蒸気に含まれる湿分が除去されると共に加熱されてから低圧タービン35を駆動する。そして、蒸気タービン32を駆動した蒸気は、復水器41で海水を用いて冷却されて復水となり、グランドコンデンサ49、復水脱塩装置50、低圧給水加熱器52、脱気器53、高圧給水加熱器55などを通して蒸気発生器13に戻される。
【0039】
このように構成された本発明の建屋としての原子炉格納容器11は、
図2及び
図3に示すように、地面61を岩盤等の堅固な地盤62まで所定深さだけ掘り下げて凹部63を形成し、この凹部63内に敷設された基礎版64上に立設されている。そして、この原子炉格納容器11は、上述したように、内部に加圧水型原子炉12、蒸気発生器13、加圧器16、一次冷却水ポンプ17などが収容されている。
【0040】
ここで、原子炉格納容器11の基礎構造について説明する。
図4及び
図5に示すように、基礎版64は、下部基礎版65と上部基礎版66と免震装置67とから構成されている。下部基礎版65は、例えば、内部に鉄筋を組み込んだ鉄筋コンクリート構造(RC構造)となっており、凹部63内で、平坦に造成した地盤62上に敷設され、周囲に地面61より高い擁壁68が形成され、その表面(上面)が平坦となるように正方体状または長方体状に建造される。
【0041】
上部基礎版66は、下部基礎版65と同様に、例えば、内部に鉄筋を組み込んだ鉄筋コンクリート構造(RC構造)となっており、凹部63内で、その表面(上面)が擁壁68とほぼ同様の高さとなり、その表面及び裏面(下面)が平坦となるように正方体状または長方体状に建造される。この上部基礎版66は、内部に各種の機器などを収容する空間部69が複数設けられている。
【0042】
免震装置67は、下部基礎版65の上面と上部基礎版66の下面との間に設けられている。この免震装置67は、複数の免震構造体70が水平方向に所定間隔(好ましくは、等間隔)に配置されて構成されている。この免震構造体70は、例えば、円盤状のゴム材と円盤状の鋼板とを交互に積層した多層免震構造を有し、円柱形状をなすものであり、図示しないが、外周面が耐火被覆材により被覆されている。従って、免震構造体70を積層ゴムから構成することで、構造の簡素化を可能とすることができ、外周面を耐火被覆材により被覆することで、耐火性を向上することができる。
【0043】
そして、原子炉格納容器11は、
図2及び
図3に示すように、免震装置67に対する消火装置101が設けられている。
【0044】
即ち、
図6及び
図7に示すように、下部基礎版65は、上面部に免震構造体70を収容するピット71が設けられている。このピット71は、下部基礎版65の上面部から鉛直方向の下方に掘り下げられた円柱形状をなす凹部として形成されている。そして、ピット71は、
図3に示すように、水平方向に所定間隔(好ましくは、等間隔)で複数形成されており、内部に免震構造体70が収容されている。即ち、ピット71は、下部基礎版65上に複数設けられ、1個の免震構造体70が1個のピット71に収容されている。
【0045】
免震構造体70は、円盤状のゴム材と円盤状の鋼板とが交互に積層された多層免震構造体70aの下部に下部ペディスタル70bが設けられ、上部に上部ペディスタル70cが設けられている。そして、多層免震構造体70aは、下部ペディスタル70bがピット71の底面71aに配置(固定)され、上部ペディスタル70cが円柱形状をなす連結部材72を介して上部基礎版66の下面に連結(固定)されている。
【0046】
免震構造体70とピット71は、同心円の円柱形状をなすが、ピット71の内径が免震構造体70の外径より大きく設定されており、免震構造体70の外周面とピット71の内周面71bとの間に空間部(隙間)が確保されている。また、ピット71の深さは、免震構造体70(少なくとも多層免震構造体70a)の高さより大きく設定されている。
【0047】
消火装置101は、ピット71内に消火剤を供給して免震装置67の各免震構造体70を消火する装置である。即ち、消火装置101において、下部基礎版65内に消火剤供給ライン102が埋設されている。この消火剤供給ライン102は、先端部がピット71の外側に埋設されたリング形状をなす消火剤分岐ライン103に接続されており、開閉弁104と逆止弁105が装着されている。消火剤分岐ライン103は、ピット71の外側に配置され、周方向に所定間隔(好ましくは、等間隔)で複数(本実施例では、4個)の噴出ノズル106が装着されている。この各噴出ノズル106は、基端部が消火剤分岐ライン103に接続され、先端部がピット71の内周面71bからピット71内に突出している。
【0048】
この各噴出ノズル106は、ピット71の深さ方向の中間位置より上方に配置され、免震構造体70の上部に向けて消火剤を噴出することができる。なお、この噴出ノズル106の数や位置は上述したものに限定されるものではない。即ち、噴出ノズル106の数は、4個に限らず、3個以下でも5個以上であってもよい。また、噴出ノズル106の位置は、ピット71の上部に限らず、中部でも下部でも底面71aでもよい。そして、噴出ノズル106は、免震構造体70に向けて消火剤を噴出しなくてもよく、消火剤をピット71内に噴出してこのピット71内に消火剤を充填できればよいものである。
【0049】
また、消火装置101において、下部基礎版65内に消火剤排出ライン107が埋設されている。この消火剤排出ライン107は、基端部がピット71の底面71aに接続されており、開閉弁108と逆止弁109が装着されている。
【0050】
本実施例にて、消火装置101を有する原子炉格納容器11は、建屋の消火システムとして機能する。消火剤供給ライン102は、
図2及び
図3に示すように、例えば、所定数の免震構造体70に対して配置される第1消火剤供給ライン102Aと、残りの免震構造体70に対して配置される第2消火剤供給ライン102Bとから構成されている。そして、第1消火剤供給ライン102Aは、開閉弁104Aと逆止弁105Aが装着され、先端部が複数の免震構造体70に接続され、基端部が消防車両111に連結可能となっている。一方、第2消火剤供給ライン102Bは、開閉弁104Bと逆止弁105Bが装着され、先端部が複数の免震構造体70に接続され、基端部が原子炉格納容器11より高所に設置された消火剤貯留タンク112に連結されている。
【0051】
即ち、消火装置101の消火剤供給ライン102(102A,102B)に連結して消火剤を供給可能な消火剤供給源として、消防車両111と原子炉格納容器11より高所に設置される消火剤貯留タンク112が適用される。
【0052】
なお、本実施例の建屋の消火システムにて、消火剤供給ライン102(102A,102B)の配管ルートや消火剤供給源(消防車両111、消火剤貯留タンク112)の連結は、この組み合わせに限定されるものではない。例えば、1個の消火剤供給ライン102を全ての免震構造体70に対して連結し、この消火剤供給ライン102に2つの消火剤供給源として消防車両111と消火剤貯留タンク112を連結してもよい。また、消火剤供給ライン及び消火剤供給源を2系統ではなく、3系統以上設けてもよい。
【0053】
なお、原子炉格納容器11の基礎版64にて、上述したように、上部基礎版66は、内部に複数の空間部69が設けられており、この空間部69内の作業者は、図示しない開口部から下方、つまり、上部基礎版66と下部基礎版65の間にある領域に移動することができ、免震装置67を構成する各免震構造体70に対してメンテナンスを行うことができる。また、空間部69内の作業者は、図示しない開口部から上部基礎版66と下部基礎版65の間にある領域に移動することができ、消火装置101に対してメンテナンスを行うことができる。
【0054】
ここで、本実施例の建屋の消火システムの作動について説明する。
図2及び
図3に示すように、例えば、原子炉格納容器11から油が漏洩し、漏洩した油が免震装置67の免震構造体70に流れて引火することで火災が発生すると、消火システムが作動して消火作業が開始される。
【0055】
免震装置67で火災が発生すると、プラント内の消防車両111が急行し、消防車両111に第1消火剤供給ライン102Aが連結される。一方、第2消火剤供給ライン102Bには高所に設置された消火剤貯留タンク112が連結されている。ここで、各開閉弁104A,104Bを開放することで、消防車両111と消火剤貯留タンク112の消火剤(消火水)が各消火剤供給ライン102A,102Bに供給される。
【0056】
すると、各消火剤供給ライン102A,102Bの消火剤は、
図6及び
図7に示すように、各ピット71の周囲にある消火剤分岐ライン103に送られ、複数の噴出ノズル106からピット71内の免震構造体70に向けて噴出される。そのため、免震構造体70に火災が発生していると、各噴出ノズル106から噴出される消火剤により消火が促進される。また、ピット71は、各噴出ノズル106から噴出される消火剤が貯留されることで、免震構造体70を消火剤により浸漬することができ、免震構造体70の火災が確実に消火される。
【0057】
そして、消火装置101により免震装置67の火災が鎮火すると、各開閉弁104A,104Bを閉止することで、消防車両111と消火剤貯留タンク112から各消火剤供給ライン102A,102Bへの消火剤の供給が停止される。その後、開閉弁108を開放することで、各ピット71に充填されている消火剤(消火水)が各消火剤排出ライン107から外部に排出される。
【0058】
なお、免震装置67での火災の発生時、各開閉弁104A,104Bの開放(閉止)操作は、作業者の手動操作でもよいし、スイッチ操作でもよいし、火災探知機や非常ベル作動に応じた自動操作であってもよい。
【0059】
また、複数の免震構造体70を複数の領域に区画し、区画した各領域に対して消火剤供給ラインを設けた場合、火災が発生した免震構造体70の領域のみに消火剤を供給するようにしてもよい。
【0060】
このように本実施例の建屋にあっては、地盤62上に設けられる下部基礎版65と、下部基礎版65の上方に設けられて原子炉格納容器11が設置される上部基礎版66と、上部基礎版66と下部基礎版65との間に水平方向に所定間隔で複数配置される免震構造体70を有する免震装置67と、下部基礎版65上に設けられて免震構造体70を収容するピット71と、ピット71内に消火剤を供給する消火装置101とを設けている。
【0061】
従って、消火装置101が作動すると、ピット71内に消火剤が供給され、免震装置67の各免震構造体70は、ピット71内で消火剤に浸漬されることとなり、免震構造体70の火災を早期に消火することができ、免震装置67の防災性能の向上を図ることができる。
【0062】
本実施例の建屋では、消火装置101として、下部基礎版65内に埋設される消火剤供給ライン102と、消火剤供給ライン102の消火剤をピット71内に噴出する噴出ノズル106とを設けている。従って、消火剤が消火剤供給ライン102を通して噴出ノズル106に供給されると、この噴出ノズル106は、消火剤をピット71内に噴出することで、このピット71内に消化剤を早期に充填することができ、免震構造体70の火災を早期に消火することができる。また、消火剤供給ライン102が下部基礎版65内に埋設されていることから、消火ホースなどの取りまわしを不要として早期に消火活動を開始することができ、また、建屋間の相対変位による変位量吸収対策を不要とすることができる。
【0063】
本実施例の建屋では、噴出ノズル106をピット71の周方向に沿って複数配置し、免震構造体70に向けて消火剤を噴出する。従って、ピット71の周方向に沿って複数配置された噴出ノズル106から免震構造体70に向けて消火剤が噴出されることで、免震構造体70の火炎に直接消火剤が噴出され、且つ、ピット71内に消化剤が早期に充填されることとなり、免震構造体70の火災を効率良く消火することができる。
【0064】
本実施例の建屋では、噴出ノズル106が免震構造体70の上部に向けて消火剤を噴出する。従って、免震構造体70は、上部に消火剤が付着して下方に流れ落ちることとなり、免震構造体70の火炎を消火剤により直接消火することができ、免震構造体70の火災を効率良く消火することができる。
【0065】
本実施例の建屋では、免震構造体70の下部をピット71の底面71aに配置し、上部を連結部材72を介して上部基礎版66の下面に連結し、ピット71の深さを免震構造体70の高さより大きく設定している。従って、上部基礎版66と下部基礎版65との隙間を適正に確保して免震装置67の円滑な作動を可能とすることができる一方で、免震構造体70をピット71内に充填された消火剤に適正に浸漬することができ、免震構造体70の火災を早期に消火することができる。
【0066】
本実施例の建屋では、ピット71に消火剤排出ライン107を連結し、消火剤排出ライン107に開閉弁108を設けている。従って、免震構造体70の火災が消火されると、開閉弁108を開放することで、ピット71内の消火剤を消火剤排出ライン107から排出することができ、免震構造体70の後処理を早期に行うことができる。
【0067】
本実施例の建屋では、ピット71を下部基礎版65上に複数設け、1個の免震構造体70を1個のピット71に収容している。従って、各免震構造体70の消火を早期に、且つ、容易に行うことができる。
【0068】
本実施例の建屋の消火システムにあっては、消火装置101に消火剤を供給可能な消火剤供給ライン102(102A,102B)を設け、この消火剤供給ライン102に連結可能な消火剤供給源としての消防車両111や原子炉格納容器11より高所に設置される消火剤貯留タンク112を設けている。
【0069】
従って、免震装置67の免震構造体70に火災が発生すると、消火装置101に消火剤供給ライン102を介して消防車両111と消火剤貯留タンク112を連結した後、消火装置101が作動すると、ピット71内に消火剤が供給され、各免震構造体70は、ピット71内で消火剤に浸漬されることとなり、免震構造体70の火災を早期に消火することができ、免震装置67の防災性能の向上を図ることができる。この場合、消火剤供給源を消防車両111や高所にある消火剤貯留タンク112とすることで、消火装置101の消火剤を確実に確保することができ、安全性を向上することができる。
【0070】
なお、上述した実施例では、複数のピット71を下部基礎版65の上面部に設け、1個の免震構造体70を1個のピット71に収容したが、この構成に限定されるものではない。例えば、2個の免震構造体70を1個のピット71に収容するなど、複数個の免震構造体70を1個のピット71に収容してもよい。この場合、全ての免震構造体70を1個のピット71に収容してもよい。
【0071】
また、上述した実施例では、消火剤を水としたが、窒素やハロン、または、泡消火剤などであってもよい。
【0072】
また、上述した実施例では、本発明の建屋を加圧水型原子炉に適用して説明したが、沸騰型原子炉(BWR:Boiling Water Reactor)に適用することもでき、軽水炉であれば、いずれの原子炉に適用してもよい。更に、上述した実施例では、建屋を原子炉格納容器としたが、ビルや塔などの一般的な建築物であってもよい。