特許第6207910号(P6207910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6207910絵柄付きチョコレート菓子及びチョコレート菓子の絵柄印刷方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207910
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】絵柄付きチョコレート菓子及びチョコレート菓子の絵柄印刷方法
(51)【国際特許分類】
   A23G 1/00 20060101AFI20170925BHJP
   A23G 1/30 20060101ALI20170925BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20170925BHJP
【FI】
   A23G1/00
   A23L5/00 F
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-150304(P2013-150304)
(22)【出願日】2013年7月19日
(65)【公開番号】特開2015-19618(P2015-19618A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2016年7月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】591264197
【氏名又は名称】OCI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092439
【弁理士】
【氏名又は名称】豊永 博隆
(72)【発明者】
【氏名】奥村 善次
(72)【発明者】
【氏名】横原 千恵子
【審査官】 森井 文緒
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0186121(US,A1)
【文献】 特開2013−192557(JP,A)
【文献】 特開2000−041591(JP,A)
【文献】 特表2004−518431(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/36975(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 1/00
A23L 5/00
DWPI(Thomson Innovation)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に可食性水性インクにより絵柄を印刷したチョコレート菓子において、
チョコレート菓子の表面に印刷用緩衝剤からなる下地緩衝層を被覆し、下地緩衝層の表面に可食性水性インクを付着させて絵柄を印刷するとともに、
上記印刷用緩衝剤がヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)よりなる群から選ばれた水溶性セルロースに、グリセリン、プロピレングリコールよりなる群から選ばれた可塑剤を併せて含有することを特徴とする絵柄付きチョコレート菓子。
【請求項2】
印刷用緩衝剤中の水溶性セルロースの含有量が3〜40重量%であることを特徴とする請求項1に記載の絵柄付きチョコレート菓子。
【請求項3】
表面に可食性水性インクにより絵柄を印刷するチョコレート菓子の印刷方法において、
(A)ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースよりなる群から選ばれた水溶性セルロースに、グリセリン、プロピレングリコールよりなる群から選ばれた可塑剤を併せて含有する印刷用緩衝剤をチョコレート菓子の表面に塗工して下地緩衝層を形成する工程と、
(B)上記下地緩衝層の表面に可食性水性インクを付着させて、当該緩衝層を介してチョコレート菓子の表面に可食性水性インクで絵柄を印刷する工程とからなることを特徴とするチョコレート菓子の絵柄印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絵柄付きチョコレート菓子並びにチョコレート菓子への絵柄印刷方法に関して、油性菓子であるチョコレート菓子の表面に水性インクで絵柄を鮮明に印刷できるものを提供する。
【背景技術】
【0002】
チョコレート菓子に少量多品種の絵柄印刷を行う場合、高速印刷性や絵柄の鮮明性の点からインクジェット印刷が適している。
しかしながら、食品に用いる印刷用インクは可食性の水性インクであることが必要であるが、その一方、チョコレート菓子は油性を帯びているため、チョコレート菓子にインクジェット印刷すると、水性インクの細かい液滴が油性菓子の表面で弾かれてしまい、絵柄がにじんで鮮明な印刷ができないという問題がある。
【0003】
そこで、チョコレート菓子に絵柄を印刷するなどの従来技術を挙げると、次の通りである。
(1)特許文献1
チョコレート菓子にイメージ基体コーティング層を形成し、このコーティング層の上にインクジェット印刷で絵柄を印刷する(請求項1、段落33)。
上記コーティング層は結合剤と食品用白色顔料と糖類を含み(請求項6)、結合剤はセルロース、でんぷん、アラビアガム、デキストリンから選択され(請求項8)、食品用白色顔料は二酸化チタンから選択される(請求項7)。
また、実施例1〜2(段落39〜40)では、コーティング層は、二酸化チタン(白色顔料)を分散したスクロース(糖類)飽和溶液と、でんぷん(コーンスターチ;結合剤)と、アラビアガム(結合剤)と、エタノールと、水と、コーンシロップとからなる。
【0004】
(2)特許文献2
チョコレートなどの可食性基材に水性インクで画像印刷可能にするため、可食性基材の表面に水性の可食性コーティング層を介して、水性の可食性インクを用いてインクジェット印刷などで画像印刷する(請求項1、段落6)。
上記可食性コーティング層は、粉状成分と、結合剤とを含み、或いは、さらに白化剤、乳化剤を含んでも良い(請求項2〜4、段落7〜9、14)。
上記粉状成分は、乳糖、でんぷん、カルシウム粉末のいずれか、又は混合物である。結合剤は、粉糖(炭酸カルシウム、卵殻、貝殻などの粉末)、水飴、ゼラチンのいずれか、又は混合物である。白化剤は二酸化チタンであり、乳化剤はレシチンである(請求項2〜4、段落7〜9、14)。
例えば、チョコレート菓子を作成する実施例1では、可食性コーティング層は、水と、乳糖(粉状成分)と、粉糖(結合剤)と、二酸化チタン(白化剤)と、レシチン(乳化剤)からなる(段落22)。
【0005】
(3)特許文献3
ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性セルロース(段落19)を、外皮を除去したホール状(つまり、丸ごと)のカカオ豆の表面にコーティングし、カカオ豆の亀裂から割れ欠けを起こすことを防止する(請求項1、請求項3、段落8、段落20)。
実施例4〜5では、水90gとヒドロキシプロピルセルロース10gからなるコーティング剤を噴霧によりホール状のカカオ豆にコーティングし、焙煎した後、前処理した当該カカオ豆にチョコレートをコーティングしてチョコレート菓子を製造する(段落41〜48)。
【0006】
上記特許文献1〜3を考察すると、特許文献1ではチョコレート菓子の結合剤にセルロースが使用され、特許文献3ではカカオ豆の割れ欠け防止用に水溶性セルロースが使用される。
そこで、視点を変えて、セルロースをチョコレート菓子などに利用する従来技術をまとめると、次の通りである。
(4)特許文献4
グレーニングと称される、ざらつき感を低減する目的で、パルプ由来のセルロース粉末をチョコレート菓子に含有する(請求項1、段落1)。
セルロースとしては、微結晶セルロース、粉末セルロースなどが挙げられる(段落17)。実施例1にあっては、ココアバターに市販のセルロース粉末を添加している(段落26)。
【0007】
(5)特許文献5
食感を改良するため、バタークリーム、生チョコレートなどの油中水型乳化食品にガティガム及び/又はヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を含有し、或いは、さらに微結晶セルロースを含有する(請求項1〜2)。
微結晶セルロースとしては、カルボキシメチルセルロース塩(ナトリウム、カルシウム)、カラギナン、ペクチン、難消化性デキストリンなどを好適な例として挙げている(段落24)。
【0008】
(6)特許文献6
包餡後の加熱時の保水性能と食感を増すために(要約参照)、肉まん、あんまんなどの包餡食品に水溶性セルロースを含有する(請求項1)。
水溶性セルロースとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロースなどが挙げられる(請求項2)。
【0009】
(7)特許文献7
トランス脂肪酸の体内への吸収を抑制するため、トランス脂肪酸を含む食品に、水溶性セルロースを共存させる(請求項1、要約)。
水溶性セルロースとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルエチルセルロースなどが挙げられる(段落17)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2004−518431号公報
【特許文献2】特開2007−295923号公報
【特許文献3】特開2008−125490号公報
【特許文献4】特開2009−232795号公報
【特許文献5】特開2007−151480号公報
【特許文献6】特開2011−000119号公報
【特許文献7】特表2012−505662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献2は、油性菓子であるチョコレート菓子に水性インクで印刷する際に、菓子表面での水性インクの弾きを防止して絵柄を鮮明に印刷することを目的とするが(段落1、4)、菓子表面のコーティング層を構成する成分の組み合わせが多数あり、最適な組み合わせを選択することは容易でない。
一方、上記特許文献3ではカカオ豆の被覆に水溶性セルロースを使用しており、特許文献4〜7においても各種水溶性セルロースが開示される。
そこで、特許文献3のようなカカオ豆の被覆目的に使用するのではなく、チョコレート菓子への水性インクによる印刷に上記水溶性セルロースを適用することが考えられる。
しかしながら、例えば、水溶性セルロースとして汎用されるカルボキシメチルセルロースの塩溶液をチョコレート表面に塗工しようとしても、弾き現象が起きて均一な塗膜を形成できないため、油性のチョコレート菓子への水性インクによる印刷は容易でないのが実情である。
【0012】
本発明は、油性を属性とするチョコレート菓子の表面に水性インクにより絵柄を鮮明に印刷することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、チョコレート菓子の油性と水性インクの水性との両方にバランス良く親和する成分を選択することで、油性菓子の表面への水性インクの鮮明な印刷を可能にできるのではないかと着想し、水性インクへの親和性が期待できる水溶性セルロース、具体的には、前記特許文献3や特許文献4〜7に列挙されたものを中心に鋭意研究を重ねた。
その結果、各種水溶性セルロースについて、チョコレート表面への塗工性と、当該セルロース含有皮膜への水性インクによる印刷性とのうち、一方を満たすと他方は満たさないという場合が多いが、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースでは、上記両方の特性をバランス良く満たすことを突き止め、本発明を完成した。
【0014】
即ち、本発明1は、表面に可食性水性インクにより絵柄を印刷したチョコレート菓子において、
チョコレート菓子の表面に印刷用緩衝剤からなる下地緩衝層を被覆し、下地緩衝層の表面に可食性水性インクを付着させて絵柄を印刷するとともに、
上記印刷用緩衝剤がヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)よりなる群から選ばれた水溶性セルロースに、グリセリン、プロピレングリコールよりなる群から選ばれた可塑剤を併せて含有することを特徴とする絵柄付きチョコレート菓子である。
【0016】
本発明2は、上記本発明1において、印刷用緩衝剤における水溶性セルロースの含有量が3〜40重量%であることを特徴とする絵柄付きチョコレート菓子である。
【0017】
本発明3は、表面に可食性水性インクにより絵柄を印刷するチョコレート菓子の印刷方法において、
(A)ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースよりなる群から選ばれた水溶性セルロースに、グリセリン、プロピレングリコールよりなる群から選ばれた可塑剤を併せて含有する印刷用緩衝剤をチョコレート菓子の表面に塗工して下地緩衝層を形成する工程と、
(B)上記下地緩衝層の表面に可食性水性インクを付着させて、当該緩衝層を介してチョコレート菓子の表面に可食性水性インクで絵柄を印刷する工程とからなることを特徴とするチョコレート菓子の絵柄印刷方法である。
【発明の効果】
【0018】
水溶性セルロースに、例えば、エチルセルロースを選択すると、親水性より親油性が勝るため、油性のチョコレート表面にはなじんで良好に塗膜形成できるが、当該セルロースで形成した皮膜に水性インクを適用しても弾いて印刷不良となる(後述の評価試験例参照)。
これに対して、本発明では、水溶性セルロースにヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、或いはヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を選択するとともに、グリセリン、或はプロピレングリコールから選ばれた可塑剤を併用するため、チョコレート菓子の油性と水性インクの水性との両方にバランス良く親和することができ、いわばチョコレートの油性と水性インクの水性との良好な緩衝層を形成できる。このため、油性のチョコレート表面に当該セルロースの皮膜(下地層)を塗工形成して、この下地層を介することで、チョコレート菓子に水性インクにより鮮明に絵柄を印刷できる。
【0019】
尚、前記特許文献3のチョコレート菓子では、水溶性セルロースは印刷用の緩衝剤として使用されるのではなく、カカオ豆の亀裂に起因する割れ欠けを防止するために、カカオ豆全体を被覆するコーティング剤として用いられるのであり、課題及び目的の点で特許文献3は本発明とは異なる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、第一に、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)などの特定の水溶性セルロースに、グリセリンなどの特定の可塑剤を併せて含む印刷用緩衝剤からなる下地緩衝層をチョコレート菓子の表面に被覆し、当該緩衝層に可食性水性インクを付着させて絵柄を印刷したチョコレート菓子であり、第二に、チョコレート菓子に上記下地緩衝層を塗工する工程と、当該緩衝層に水性インクで絵柄を印刷する工程とからなるチョコレート菓子の絵柄印刷方法である。
【0021】
本発明1のチョコレート菓子では、菓子表面に印刷用緩衝剤からなる下地緩衝層を被覆し、当該緩衝層の表面に可食性水性インクで絵柄印刷することを特徴とする。
本発明のチョコレート菓子はミルクチョコレート、ホワイトチョコレート、ダークチョコレートなどの種類を問わず、形状、組成なども問わない。
上記印刷用緩衝剤は特定の水溶性セルロースと後述の可塑剤を有効成分とし、水及び/又はアルコールを水性溶媒とする。
本発明の水溶性セルロースは、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)より選ばれ、これらを単用又は併用する。
上記HPC、HPMCは分子量やエーテル化度などを問わず任意のものを使用できる。
個別のセルロースごとの含有量を示すと、印刷用緩衝剤に対するHPCの好ましい含有量は9〜37重量%程度、HPMCの好ましい含有量は4〜12重量%程度であるが、上位概念としての特定の水溶性セルロースの印刷用緩衝剤に対する含有量は、概ね3〜40重量%、好ましくは7〜27重量%である(本発明2参照)。当該水溶性セルロースの含有量が適正範囲より少ないと下地緩衝層の親油性が低下して当該緩衝層をチョコレート菓子の表面に良好に形成できず、また、適正範囲より多いと下地緩衝層の親水性が不足して水性インクによる印刷不良を招く恐れがある。
水性溶媒はアルコールと水の一方を単用しても良いが、両方の混合溶媒が好ましく、アルコールには、可食性の観点から、エタノール、プロピレングリコールなどが挙げられる。
水とアルコールの混合溶媒の場合、例えば、水溶性セルロースにHPMCを選択すると、アルコールに水を10重量%以上添加することが好ましい。
【0022】
上記印刷用緩衝剤には塗膜に柔軟性を具備させるために次の可塑剤を含む。
可塑剤にはグリセリン、プロピレングリコールなどから選択され、特にグリセリンが好ましい。可塑剤の含有量は印刷用緩衝剤の固形分に対して6〜30重量%、好ましくは8〜27重量%である。
【0023】
本発明3は、チョコレート菓子に上記下地緩衝層を塗工した後、この緩衝層に可食性水性インクで絵柄を印刷することを特徴とするチョコレート菓子の絵柄印刷方法である。
先ず、上記特定の水溶性セルロース、並びに上記特定の可塑剤を水性溶媒(水及び/又はアルコール)に溶解したセルロース溶液(即ち、印刷用緩衝剤)を調製し、チョコレート菓子の表面に当該セルロース溶液を塗工し、乾燥して下地緩衝層を形成する。塗工は、例えば、スプレーガンによる噴霧、或いは刷毛による塗布にて行う。乾燥は、例えば、冷風乾燥による。
固形分塗布量は15〜110g/m2、好ましくは30〜70g/m2であり、ごく薄い塗膜であっても水性インクに対して良好な印刷適性を具備できる。


【0024】
次いで、水性インクで上記下地緩衝層に絵柄を印刷するが、水性インクは可食性であることが必須であり、水性インクには、食品衛生法などで許容された色素、着色料を使用し、水及び/又はアルコールからなる水性溶媒、或いはさらに可塑剤などを含有する。
印刷用の水性インクについて具体的に説明すると、赤色、黄色、青色、黒色の4色、又は、赤色、淡赤色、青色、淡青色、黒色、淡黒色、黄色の7色のインクの組み合わせからなり、食品衛生法で食品添加物として認められた天然着色料やタール系色素を中心に、ウコン色素、クチナシ青色素、クチナシ黄色素、アカキャベツ色素、アナトー色素、トウガラシ色素、ベニコウジ色素、コチニール色素、ベニバナ赤色素、ベニバナ黄色素、或いは水溶性のタール系色素などの外、任意のものが使用でき、特段の制約はない。
絵柄印刷した水性インクが下地緩衝層を経てチョコレート菓子にまで浸潤すると、絵柄の鮮明度が低下する恐れがあるため、チョコレート菓子の表面に形成する下地緩衝層は概ね3.5μm以上の厚みに設定することが好ましい。
下地緩衝層に対する水性インクの印刷方式は、インクジェット印刷、スクリーン印刷、パッド印刷など任意の印刷方式を選択でき、高速印刷性と絵柄の鮮明性の見地からインクジェット印刷が好ましい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の印刷用緩衝剤の製造例、製造例で得られた印刷用緩衝剤を用いた絵柄付きチョコレート菓子の実施例、実施例の絵柄付きチョコレート菓子を製造する際のチョコレート表面への下地緩衝層の塗工性の評価試験例、印刷用緩衝剤からなる下地緩衝層へのインクジェット印刷適性の評価試験例を順次説明する。
上記製造例、実施例、試験例の「部」、「%」は基本的に重量基準である。
尚、本発明は下記の製造例、実施例などに拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0026】
《印刷用緩衝剤の製造例》
製造例1〜8のうち、製造例1〜3は水溶性セルロースにヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を単用し、エタノールと水の混合溶媒に溶解した例で、製造例2は製造例1よりHPCの含有量を増した例、製造例3は製造例1より減らした例である。製造例4〜6は同じくヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を単用した例で、製造例5は製造例4よりHPMCの含有量を増した例、製造例6は製造例4より減らした例である。製造例7〜8はHPCとHPMCを併用した例で、製造例7はHPMCよりHPCの混合率が大きい例、製造例8はHPCとHPMCの混合率の差異が余りない例である。
【0027】
また、比較製造例1〜6のうち、比較製造例1〜2は水溶性セルロースにカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(CMC−Na)を使用し、エタノールと水の混合溶媒に溶解した例で、比較製造例1はCMC−Naの含有率が大きい例、比較製造例2はCMC−Naの含有率が小さい例である。比較製造例3は同じく水溶性セルロースにエチルセルロース(EC)を使用した例、比較製造例4は同じくメチルセルロース(MC)を使用した例、比較製造例5は同じくヒドロキシエチルセルロース(HEC)を使用した例である。比較製造例6は水溶性ではないが、セルロースの汎用品としてのセルロース粉末を水及びエタノールの混合溶媒に分散した液を使用した例である。
【0028】
(1)製造例1
水12.3重量%に、95%エタノール73重量%とグリセリン2.4重量%を混合して撹拌した。
次いで、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC、日本曹達(株)製のセルニー SSL)12.3重量%を添加して撹拌・溶解し、印刷用緩衝剤を製造した。
【0029】
(2)製造例2
上記製造例1を基本として、各成分の含有割合を次のように変更した他は、製造例1と同様に処理した。
HPC 20.0重量%
グリセリン 4.0重量%
95%エタノール 65.1重量%
水 10.9重量%
【0030】
(3)製造例3
上記製造例1を基本として、各成分の含有割合を次のように変更した他は、製造例1と同様に処理した。
HPC 6.1重量%
グリセリン 1.2重量%
95%エタノール 79.4重量%
水 13.3重量%
【0031】
(4)製造例4
水12.7重量%に、95%エタノール75.5重量%とグリセリン2.5重量%を混合して撹拌した。
次いで、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC、信越化学工業(株)製のメトローズ SE-06)9.3重量%を添加して撹拌・溶解し、印刷用緩衝剤を製造した。
【0032】
(5)製造例5
上記製造例4を基本として、各成分の含有割合を次のように変更した他は、製造例1と同様に処理した。
HPMC 13.5重量%
グリセリン 3.6重量%
95%エタノール 71.0重量%
水 11.9重量%
【0033】
(6)製造例6
上記製造例4を基本として、各成分の含有割合を次のように変更した他は、製造例1と同様に処理した。
HPMC 3.8重量%
グリセリン 0.8重量%
95%エタノール 81.6重量%
水 13.8重量%
【0034】
(7)製造例7
上記製造例1を基本として、HPCの単用をHPCとHPMCの併用に変更するとともに、各成分の含有割合を次のように変更した他は、製造例1と同様に処理した。尚、HPCは製造例1で記載した商品を、HPMCは製造例4の商品を夫々使用した。
HPC 10.0重量%
HPMC 1.9重量%
グリセリン 2.4重量%
95%エタノール 73.4重量%
水 12.3重量%
【0035】
(8)製造例8
上記製造例7を基本として、各成分の含有割合を次のように変更した他は、製造例7と同じ処理をした。
HPC 3.1重量%
HPMC 3.4重量%
グリセリン 1.5重量%
95%エタノール 78.8重量%
水 13.2重量%
【0036】
(9)比較製造例1
上記製造例1を基本として、水溶性セルロースにCMC−Na(ダイセルファインケム(株)製のCMC ダイセル 1110)を選択するとともに、各成分の含有割合を次のように変更した他は、製造例1と同様に処理した。
CMC−Na 9.3重量%
グリセリン 2.5重量%
95%エタノール 75.5重量%
水 12.7重量%
【0037】
(10)比較製造例2
上記比較製造例1を基本として、各成分の含有割合を次のように変更した他は、比較製造例1と同様に処理した。
CMC−Na 2.4重量%
グリセリン 0.2重量%
95%エタノール 7.4重量%
水 90.0重量%
【0038】
(11)比較製造例3
上記製造例1を基本として、水溶性セルロースにエチルセルロース(EC)(ダウケミカル(株)製のETHOCEL STD 4cps)を選択するとともに、各成分の含有割合を次のように変更した他は、製造例1と同様に処理した。
EC 9.9重量%
グリセリン 1.0重量%
95%エタノール 89.1重量%
【0039】
(12)比較製造例4
上記製造例1を基本として、水溶性セルロースにメチルセルロース(MC)(信越化学工業(株)製のメトローズ SM−4)を選択するとともに、各成分の含有割合を次のように変更した他は、製造例1と同様に処理した。
MC 6.4重量%
グリセリン 1.2重量%
95%エタノール 54.6重量%
水 37.8重量%
【0040】
(13)比較製造例5
上記製造例1を基本として、水溶性セルロースにヒドロキシエチルセルロース(HEC)(ダイセルファインケム(株)製のHEC ダイセル SE400)を選択するとともに、各成分の含有割合を次のように変更した他は、製造例1と同様に処理した。
HEC 4.2重量%
グリセリン 0.4重量%
95%エタノール 4.8重量%
水 90.6重量%
【0041】
(14)比較製造例6
上記製造例1を基本として、セルロースに粉末セルロース(日本製紙(株)製のNPファイバー6MG)を用いて、各成分の含有割合を次のように変更し、セルロース粉末をエタノールと水の混合溶媒に分散した他は、製造例1と同様に処理した。
セルロース粉末 12.3重量%
グリセリン 2.4重量%
95%エタノール 72.7重量%
水 12.6重量%
【0042】
そこで、上記製造例1〜8及び比較製造例1〜6で得られた印刷用緩衝剤を用いて、絵柄付きチョコレート菓子を製造した。
《絵柄付きチョコレート菓子の実施例》
(1)実施例1
先ず、ホワイトチョコレート((株)明治製)を用意し、当該チョコレート5×5cmに、前記製造例1で調製した印刷用緩衝剤0.1gをスプレーガンで塗工し(塗工量は40g/m2)、冷風乾燥して、チョコレート表面の全体に亘り下地緩衝層を形成した。
尚、上記ホワイトチョコレートの成分は、全乳粉、ココアバター、砂糖、植物油脂、脱脂粉乳、レシチン(大豆由来)、香料である。
次いで、インクジェット印刷機((株)マスターマインド製のMMP813BT-F)の印刷テーブル上に、下地緩衝層を被覆したホワイトチョコレート5×5cmを静置し、印刷テーブルを上下調整して、印刷ヘッドとチョコレート表面との距離を適正に微調整した後、可食性水性インクによりチョコレート面に塗工した下地緩衝層上に花柄状の模様をインクジェット印刷して、絵柄付きチョコレート菓子を製造した。
【0043】
前述したように、上記印刷用の水性インクは赤色、黄色、青色、黒色の4色、又は、赤色、淡赤色、青色、淡青色、黒色、淡黒色、黄色の7色の組み合わせからなるが、4色刷りの場合、赤色インクはベニコウジ色素に、グリセリン、グリセリン脂肪酸エステル、アルコール及び水を添加して調製した。他種の各色インクについては、ベニコウジ色素に代えて、各色を出せる適切な色素を前記食品添加物として認められた天然着色料の中から選んで調製した。
【0044】
(2)実施例2〜8及び比較例1〜6
上記実施例1を基本として、製造例1を製造例n(n=2〜8)の印刷用緩衝剤に代えた他は、実施例1と同様に処理して、実施例n(n=2〜8)の絵柄付きチョコレート菓子を製造した。例えば、製造例2の印刷用緩衝剤を使用して実施例2(n=2)の、また、製造例3の印刷用緩衝剤を使用して実施例3(n=3)のチョコレート菓子を夫々製造した。
一方、上記実施例1を基本として、製造例1を比較製造例n(n=1〜6)の印刷用緩衝剤に代えた他は、実施例1と同様に処理して、比較例n(n=1〜6)の絵柄付きチョコレート菓子を製造した。例えば、比較製造例1の印刷用緩衝剤を使用して比較例1(n=1)の、また、比較製造例2の印刷用緩衝剤を使用して比較例2(n=2)のチョコレート菓子を夫々製造した。
但し、比較例1〜2、比較例5では、チョコレート表面に下地緩衝層の塗工を試みたが、油性のチョコレート表面で弾き現象が発生して、均一な下地緩衝層の塗膜を形成できなかったので、絵柄の印刷作業まで至ることなく途中で作業を打ち切った。
【0045】
次いで、上記実施例1〜8及び比較例1〜6で製造した各絵柄付きチョコレート菓子について、チョコレート表面への下地緩衝層の塗工性、並びに下地緩衝層へのインクジェット印刷適性の評価試験例を述べる。
《チョコレート菓子に対する下地緩衝層の塗工性試験例》
上記実施例及び比較例の各絵柄付きチョコレート菓子について、ホワイトチョコレートの表面に製造例又は比較製造例の印刷用緩衝剤をスプレーガンで塗工して下地緩衝層を形成するに際し、形成した塗膜(下地緩衝層)を目視観察して、下記の基準により塗工性の優劣を評価した。
〇:弾き現象は認められず、均一に塗工できた。
×:弾き現象が認められ、塗工不良であった。
【0046】
《チョコレート菓子の下地緩衝層に対するインクジェット印刷適性試験例》
上記実施例及び比較例の各絵柄付きチョコレート菓子について、ホワイトチョコレートに塗工した下地緩衝層上に水性インクにて絵柄をインクジェット印刷し、当該絵柄を目視観察することで、下記の基準により印刷適性の優劣を評価した。
〇:弾き現象は認められず、印刷は良好であった。
△:部分的に弾き現象が認められ、一部に印刷不良があった。
×:弾き現象による滲みがあり、全体に印刷不良であった。
【0047】
下表はその試験結果である。
但し、前述したように、比較例1〜2、比較例5では、チョコレート面に均一に下地緩衝層を塗工できなかったため、絵柄の印刷工程にまで進むことなく途中で作業を打ち切った。従って、下表の「−−」は作業中止により印刷適性試験を行わなかったことを示す。
チョコレート表面への塗工性 印刷適性
実施例1 〇 〇
実施例2 〇 〇
実施例3 〇 〇
実施例4 〇 〇
実施例5 〇 〇
実施例6 〇 〇
実施例7 〇 〇
実施例8 〇 〇
比較例1 × −−
比較例2 × −−
比較例3 〇 ×
比較例4 〇 △
比較例5 × −−
比較例6 〇 ×
【0048】
《塗工性と印刷適性の総合評価》
(1)比較例1〜6の考察
水溶性セルロースとしてカルボキシメチルセルロースのNa塩(CMC−Na)を用いた比較例1〜2では、その含有量の大小を問わず、CMC−Naを含む印刷用緩衝剤をチョコレート表面に塗工しようとしたところ、弾き現象を起こして塗工不良となり、水性インクによる印刷工程まで進めなかった。CMC−Naは親水性であるため、比較例1は勿論、これよりCMC−Naの含有量を低減した比較例2にあっても油性のチョコレート面では弾き現象が起き、塗工できなかったものと推測される。
エチルセルロース(EC)を用いた比較例3では、ECを含む印刷用緩衝剤は油性菓子であるチョコレート面に良好に塗工できたが、その一方、この印刷用緩衝剤からなる下地緩衝層に水性インクでインクジェット印刷をしたところ、弾き現象による滲みが生じて、全体に印刷不良であった。本比較例3のECは上記CMC−Naに比べて親油性が増すため、油性菓子であるチョコレート面には良好に塗工できたが、その親油性ゆえに水性インクを弾いて全体に印刷困難になったものと推測される。
メチルセルロース(MC)を用いた比較例4では、印刷用緩衝剤は油性菓子であるチョコレート面に良好に塗工できた。この印刷用緩衝剤からなる下地緩衝層に水性インクでインクジェット印刷をしたところ、弾き現象が部分的に認められ、印刷不良の部分が生じた。本比較例4のMCは比較例3のECに比べて少し親水性が増す(即ち、メチル基はエチル基に比べて炭素数が少ない分だけ親油性が減少する)ため、水性インクに対してMCはECより親和性があり、全面的な印刷不良から部分的な不良に抑えられたものと推測される。
ヒドロキシエチルセルロース(HEC)を用いた比較例5では、CMC−Naを用いた比較例1〜2と同じく、HECを含む印刷用緩衝剤をチョコレート面に塗工しようとしたところ、弾き現象を起こして塗工不良となり、印刷工程まで進めなかった。本比較例5のHECは、例えば、上記比較例3のECよりヒドロキシル基を有する分だけ親水性が増すため、油性のチョコレート面では弾き現象が起き、塗工できなかったものと推測される。
セルロース粉末の分散液を用いた比較例6では、チョコレート面には良好に塗工できたが、塗工した下地緩衝層への印刷では、水性インクを弾いて全面的な印刷不良となった。
【0049】
以上の点から、水溶性セルロースの特性として、親水性が増すと油性のチョコレート表面への塗工性を具備せずに印刷工程まで進めず、逆に、親油性が増すと塗工性は具備するが、水性インクによる印刷適性を満たすのが困難になることが分かる。
従って、油性のチョコレート表面への塗工性と水性インクによる印刷適性を両立させるには、親水性と親油性のバランスをとる必要があり、しかも、この微妙なバランスが失われると塗工性及び印刷適性の両立を困難にさせることが判断できる。
【0050】
(2)実施例1〜8の考察
水溶性セルロースにヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を用いた実施例1〜3、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を用いた実施例4〜6、HPCとHPMCの混合物を用いた実施例7〜8にあっては、チョコレート表面への塗工性及び水性インクによる印刷適性は共に良好であった。
そこで、実施例1〜3のHPCを上記比較例5のHECとの対比で考察すると、両者共にヒドロキシル基を有する点は共通するが、プロピル基はエチル基に比べて炭素数が多い分だけ親水性が減少するため、HPCはHECより親油性が増し、チョコレート面への塗工が良好になったものと推測される。また、実施例1〜3のHPCを比較例4のMCとの対比で考察すると、比較例4では部分的な印刷不良を呈したが、プロピル基はメチル基に比べて炭素数が多い分だけ親水性は減少するが、末端のヒドロキシル基の存在により親水性の減少を抑制できるため、HPCはMCより親水性が増し、水性インクに対して良好な印刷適性を具備できたものと推測される。
即ち、HPCは親水性と親油性の微妙なバランスにより、油性のチョコレートと水性インクとの両方に親和性を具備できると考えられ、塗工性と印刷適性を円滑に両立できる。
【0051】
実施例4〜6のHPMCにあっても、メチル基を有する分だけHPCより少し親油性に傾くが、油性のチョコレートと水性インクとの両方に親和性を有する点は、HPCと変わらないため、HPCを用いた実施例1〜3と同じく、塗工性と印刷適性を両立できる。
また、HPCとHPMCを併用した実施例7〜8についても、HPC又はHPMCを単用した実施例と同じく、塗工性と印刷適性を両立できる。
一方、実施例1〜3又は実施例4〜6を考察すると、HPC又はHPMCの含有量が少ない実施例3又は実施例6にあっても、含有量が多い実施例2又は実施例5と同様に、塗工性と印刷適性を両立できることが分かる。
また、HPCとHPMCを併用した実施例7〜8を考察すると、HPCとHPMCの含有量(重量%)の差異が余りない場合であっても(実施例8参照)、HPCの含有量をHPMCより顕著に増量した実施例7と同じように、塗工性と印刷適性を両立できることが分かる。