【実施例】
【0025】
以下、本発明の印刷用緩衝剤の製造例、製造例で得られた印刷用緩衝剤を用いた絵柄付きチョコレート菓子の実施例、実施例の絵柄付きチョコレート菓子を製造する際のチョコレート表面への下地緩衝層の塗工性の評価試験例、印刷用緩衝剤からなる下地緩衝層へのインクジェット印刷適性の評価試験例を順次説明する。
上記製造例、実施例、試験例の「部」、「%」は基本的に重量基準である。
尚、本発明は下記の製造例、実施例などに拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0026】
《印刷用緩衝剤の製造例》
製造例1〜8のうち、製造例1〜3は水溶性セルロースにヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を単用し、エタノールと水の混合溶媒に溶解した例で、製造例2は製造例1よりHPCの含有量を増した例、製造例3は製造例1より減らした例である。製造例4〜6は同じくヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を単用した例で、製造例5は製造例4よりHPMCの含有量を増した例、製造例6は製造例4より減らした例である。製造例7〜8はHPCとHPMCを併用した例で、製造例7はHPMCよりHPCの混合率が大きい例、製造例8はHPCとHPMCの混合率の差異が余りない例である。
【0027】
また、比較製造例1〜6のうち、比較製造例1〜2は水溶性セルロースにカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(CMC−Na)を使用し、エタノールと水の混合溶媒に溶解した例で、比較製造例1はCMC−Naの含有率が大きい例、比較製造例2はCMC−Naの含有率が小さい例である。比較製造例3は同じく水溶性セルロースにエチルセルロース(EC)を使用した例、比較製造例4は同じくメチルセルロース(MC)を使用した例、比較製造例5は同じくヒドロキシエチルセルロース(HEC)を使用した例である。比較製造例6は水溶性ではないが、セルロースの汎用品としてのセルロース粉末を水及びエタノールの混合溶媒に分散した液を使用した例である。
【0028】
(1)製造例1
水12.3重量%に、95%エタノール73重量%とグリセリン2.4重量%を混合して撹拌した。
次いで、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC、日本曹達(株)製のセルニー SSL)12.3重量%を添加して撹拌・溶解し、印刷用緩衝剤を製造した。
【0029】
(2)製造例2
上記製造例1を基本として、各成分の含有割合を次のように変更した他は、製造例1と同様に処理した。
HPC 20.0重量%
グリセリン 4.0重量%
95%エタノール 65.1重量%
水 10.9重量%
【0030】
(3)製造例3
上記製造例1を基本として、各成分の含有割合を次のように変更した他は、製造例1と同様に処理した。
HPC 6.1重量%
グリセリン 1.2重量%
95%エタノール 79.4重量%
水 13.3重量%
【0031】
(4)製造例4
水12.7重量%に、95%エタノール75.5重量%とグリセリン2.5重量%を混合して撹拌した。
次いで、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC、信越化学工業(株)製のメトローズ SE-06)9.3重量%を添加して撹拌・溶解し、印刷用緩衝剤を製造した。
【0032】
(5)製造例5
上記製造例4を基本として、各成分の含有割合を次のように変更した他は、製造例1と同様に処理した。
HPMC 13.5重量%
グリセリン 3.6重量%
95%エタノール 71.0重量%
水 11.9重量%
【0033】
(6)製造例6
上記製造例4を基本として、各成分の含有割合を次のように変更した他は、製造例1と同様に処理した。
HPMC 3.8重量%
グリセリン 0.8重量%
95%エタノール 81.6重量%
水 13.8重量%
【0034】
(7)製造例7
上記製造例1を基本として、HPCの単用をHPCとHPMCの併用に変更するとともに、各成分の含有割合を次のように変更した他は、製造例1と同様に処理した。尚、HPCは製造例1で記載した商品を、HPMCは製造例4の商品を夫々使用した。
HPC 10.0重量%
HPMC 1.9重量%
グリセリン 2.4重量%
95%エタノール 73.4重量%
水 12.3重量%
【0035】
(8)製造例8
上記製造例7を基本として、各成分の含有割合を次のように変更した他は、製造例7と同じ処理をした。
HPC 3.1重量%
HPMC 3.4重量%
グリセリン 1.5重量%
95%エタノール 78.8重量%
水 13.2重量%
【0036】
(9)比較製造例1
上記製造例1を基本として、水溶性セルロースにCMC−Na(ダイセルファインケム(株)製のCMC ダイセル 1110)を選択するとともに、各成分の含有割合を次のように変更した他は、製造例1と同様に処理した。
CMC−Na 9.3重量%
グリセリン 2.5重量%
95%エタノール 75.5重量%
水 12.7重量%
【0037】
(10)比較製造例2
上記比較製造例1を基本として、各成分の含有割合を次のように変更した他は、比較製造例1と同様に処理した。
CMC−Na 2.4重量%
グリセリン 0.2重量%
95%エタノール 7.4重量%
水 90.0重量%
【0038】
(11)比較製造例3
上記製造例1を基本として、水溶性セルロースにエチルセルロース(EC)(ダウケミカル(株)製のETHOCEL STD 4cps)を選択するとともに、各成分の含有割合を次のように変更した他は、製造例1と同様に処理した。
EC 9.9重量%
グリセリン 1.0重量%
95%エタノール 89.1重量%
【0039】
(12)比較製造例4
上記製造例1を基本として、水溶性セルロースにメチルセルロース(MC)(信越化学工業(株)製のメトローズ SM−4)を選択するとともに、各成分の含有割合を次のように変更した他は、製造例1と同様に処理した。
MC 6.4重量%
グリセリン 1.2重量%
95%エタノール 54.6重量%
水 37.8重量%
【0040】
(13)比較製造例5
上記製造例1を基本として、水溶性セルロースにヒドロキシエチルセルロース(HEC)(ダイセルファインケム(株)製のHEC ダイセル SE400)を選択するとともに、各成分の含有割合を次のように変更した他は、製造例1と同様に処理した。
HEC 4.2重量%
グリセリン 0.4重量%
95%エタノール 4.8重量%
水 90.6重量%
【0041】
(14)比較製造例6
上記製造例1を基本として、セルロースに粉末セルロース(日本製紙(株)製のNPファイバー6MG)を用いて、各成分の含有割合を次のように変更し、セルロース粉末をエタノールと水の混合溶媒に分散した他は、製造例1と同様に処理した。
セルロース粉末 12.3重量%
グリセリン 2.4重量%
95%エタノール 72.7重量%
水 12.6重量%
【0042】
そこで、上記製造例1〜8及び比較製造例1〜6で得られた印刷用緩衝剤を用いて、絵柄付きチョコレート菓子を製造した。
《絵柄付きチョコレート菓子の実施例》
(1)実施例1
先ず、ホワイトチョコレート((株)明治製)を用意し、当該チョコレート5×5cmに、前記製造例1で調製した印刷用緩衝剤0.1gをスプレーガンで塗工し(塗工量は40g/m2)、冷風乾燥して、チョコレート表面の全体に亘り下地緩衝層を形成した。
尚、上記ホワイトチョコレートの成分は、全乳粉、ココアバター、砂糖、植物油脂、脱脂粉乳、レシチン(大豆由来)、香料である。
次いで、インクジェット印刷機((株)マスターマインド製のMMP813BT-F)の印刷テーブル上に、下地緩衝層を被覆したホワイトチョコレート5×5cmを静置し、印刷テーブルを上下調整して、印刷ヘッドとチョコレート表面との距離を適正に微調整した後、可食性水性インクによりチョコレート面に塗工した下地緩衝層上に花柄状の模様をインクジェット印刷して、絵柄付きチョコレート菓子を製造した。
【0043】
前述したように、上記印刷用の水性インクは赤色、黄色、青色、黒色の4色、又は、赤色、淡赤色、青色、淡青色、黒色、淡黒色、黄色の7色の組み合わせからなるが、4色刷りの場合、赤色インクはベニコウジ色素に、グリセリン、グリセリン脂肪酸エステル、アルコール及び水を添加して調製した。他種の各色インクについては、ベニコウジ色素に代えて、各色を出せる適切な色素を前記食品添加物として認められた天然着色料の中から選んで調製した。
【0044】
(2)実施例2〜8及び比較例1〜6
上記実施例1を基本として、製造例1を製造例n(n=2〜8)の印刷用緩衝剤に代えた他は、実施例1と同様に処理して、実施例n(n=2〜8)の絵柄付きチョコレート菓子を製造した。例えば、製造例2の印刷用緩衝剤を使用して実施例2(n=2)の、また、製造例3の印刷用緩衝剤を使用して実施例3(n=3)のチョコレート菓子を夫々製造した。
一方、上記実施例1を基本として、製造例1を比較製造例n(n=1〜6)の印刷用緩衝剤に代えた他は、実施例1と同様に処理して、比較例n(n=1〜6)の絵柄付きチョコレート菓子を製造した。例えば、比較製造例1の印刷用緩衝剤を使用して比較例1(n=1)の、また、比較製造例2の印刷用緩衝剤を使用して比較例2(n=2)のチョコレート菓子を夫々製造した。
但し、比較例1〜2、比較例5では、チョコレート表面に下地緩衝層の塗工を試みたが、油性のチョコレート表面で弾き現象が発生して、均一な下地緩衝層の塗膜を形成できなかったので、絵柄の印刷作業まで至ることなく途中で作業を打ち切った。
【0045】
次いで、上記実施例1〜8及び比較例1〜6で製造した各絵柄付きチョコレート菓子について、チョコレート表面への下地緩衝層の塗工性、並びに下地緩衝層へのインクジェット印刷適性の評価試験例を述べる。
《チョコレート菓子に対する下地緩衝層の塗工性試験例》
上記実施例及び比較例の各絵柄付きチョコレート菓子について、ホワイトチョコレートの表面に製造例又は比較製造例の印刷用緩衝剤をスプレーガンで塗工して下地緩衝層を形成するに際し、形成した塗膜(下地緩衝層)を目視観察して、下記の基準により塗工性の優劣を評価した。
〇:弾き現象は認められず、均一に塗工できた。
×:弾き現象が認められ、塗工不良であった。
【0046】
《チョコレート菓子の下地緩衝層に対するインクジェット印刷適性試験例》
上記実施例及び比較例の各絵柄付きチョコレート菓子について、ホワイトチョコレートに塗工した下地緩衝層上に水性インクにて絵柄をインクジェット印刷し、当該絵柄を目視観察することで、下記の基準により印刷適性の優劣を評価した。
〇:弾き現象は認められず、印刷は良好であった。
△:部分的に弾き現象が認められ、一部に印刷不良があった。
×:弾き現象による滲みがあり、全体に印刷不良であった。
【0047】
下表はその試験結果である。
但し、前述したように、比較例1〜2、比較例5では、チョコレート面に均一に下地緩衝層を塗工できなかったため、絵柄の印刷工程にまで進むことなく途中で作業を打ち切った。従って、下表の「−−」は作業中止により印刷適性試験を行わなかったことを示す。
チョコレート表面への塗工性 印刷適性
実施例1 〇 〇
実施例2 〇 〇
実施例3 〇 〇
実施例4 〇 〇
実施例5 〇 〇
実施例6 〇 〇
実施例7 〇 〇
実施例8 〇 〇
比較例1 × −−
比較例2 × −−
比較例3 〇 ×
比較例4 〇 △
比較例5 × −−
比較例6 〇 ×
【0048】
《塗工性と印刷適性の総合評価》
(1)比較例1〜6の考察
水溶性セルロースとしてカルボキシメチルセルロースのNa塩(CMC−Na)を用いた比較例1〜2では、その含有量の大小を問わず、CMC−Naを含む印刷用緩衝剤をチョコレート表面に塗工しようとしたところ、弾き現象を起こして塗工不良となり、水性インクによる印刷工程まで進めなかった。CMC−Naは親水性であるため、比較例1は勿論、これよりCMC−Naの含有量を低減した比較例2にあっても油性のチョコレート面では弾き現象が起き、塗工できなかったものと推測される。
エチルセルロース(EC)を用いた比較例3では、ECを含む印刷用緩衝剤は油性菓子であるチョコレート面に良好に塗工できたが、その一方、この印刷用緩衝剤からなる下地緩衝層に水性インクでインクジェット印刷をしたところ、弾き現象による滲みが生じて、全体に印刷不良であった。本比較例3のECは上記CMC−Naに比べて親油性が増すため、油性菓子であるチョコレート面には良好に塗工できたが、その親油性ゆえに水性インクを弾いて全体に印刷困難になったものと推測される。
メチルセルロース(MC)を用いた比較例4では、印刷用緩衝剤は油性菓子であるチョコレート面に良好に塗工できた。この印刷用緩衝剤からなる下地緩衝層に水性インクでインクジェット印刷をしたところ、弾き現象が部分的に認められ、印刷不良の部分が生じた。本比較例4のMCは比較例3のECに比べて少し親水性が増す(即ち、メチル基はエチル基に比べて炭素数が少ない分だけ親油性が減少する)ため、水性インクに対してMCはECより親和性があり、全面的な印刷不良から部分的な不良に抑えられたものと推測される。
ヒドロキシエチルセルロース(HEC)を用いた比較例5では、CMC−Naを用いた比較例1〜2と同じく、HECを含む印刷用緩衝剤をチョコレート面に塗工しようとしたところ、弾き現象を起こして塗工不良となり、印刷工程まで進めなかった。本比較例5のHECは、例えば、上記比較例3のECよりヒドロキシル基を有する分だけ親水性が増すため、油性のチョコレート面では弾き現象が起き、塗工できなかったものと推測される。
セルロース粉末の分散液を用いた比較例6では、チョコレート面には良好に塗工できたが、塗工した下地緩衝層への印刷では、水性インクを弾いて全面的な印刷不良となった。
【0049】
以上の点から、水溶性セルロースの特性として、親水性が増すと油性のチョコレート表面への塗工性を具備せずに印刷工程まで進めず、逆に、親油性が増すと塗工性は具備するが、水性インクによる印刷適性を満たすのが困難になることが分かる。
従って、油性のチョコレート表面への塗工性と水性インクによる印刷適性を両立させるには、親水性と親油性のバランスをとる必要があり、しかも、この微妙なバランスが失われると塗工性及び印刷適性の両立を困難にさせることが判断できる。
【0050】
(2)実施例1〜8の考察
水溶性セルロースにヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を用いた実施例1〜3、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を用いた実施例4〜6、HPCとHPMCの混合物を用いた実施例7〜8にあっては、チョコレート表面への塗工性及び水性インクによる印刷適性は共に良好であった。
そこで、実施例1〜3のHPCを上記比較例5のHECとの対比で考察すると、両者共にヒドロキシル基を有する点は共通するが、プロピル基はエチル基に比べて炭素数が多い分だけ親水性が減少するため、HPCはHECより親油性が増し、チョコレート面への塗工が良好になったものと推測される。また、実施例1〜3のHPCを比較例4のMCとの対比で考察すると、比較例4では部分的な印刷不良を呈したが、プロピル基はメチル基に比べて炭素数が多い分だけ親水性は減少するが、末端のヒドロキシル基の存在により親水性の減少を抑制できるため、HPCはMCより親水性が増し、水性インクに対して良好な印刷適性を具備できたものと推測される。
即ち、HPCは親水性と親油性の微妙なバランスにより、油性のチョコレートと水性インクとの両方に親和性を具備できると考えられ、塗工性と印刷適性を円滑に両立できる。
【0051】
実施例4〜6のHPMCにあっても、メチル基を有する分だけHPCより少し親油性に傾くが、油性のチョコレートと水性インクとの両方に親和性を有する点は、HPCと変わらないため、HPCを用いた実施例1〜3と同じく、塗工性と印刷適性を両立できる。
また、HPCとHPMCを併用した実施例7〜8についても、HPC又はHPMCを単用した実施例と同じく、塗工性と印刷適性を両立できる。
一方、実施例1〜3又は実施例4〜6を考察すると、HPC又はHPMCの含有量が少ない実施例3又は実施例6にあっても、含有量が多い実施例2又は実施例5と同様に、塗工性と印刷適性を両立できることが分かる。
また、HPCとHPMCを併用した実施例7〜8を考察すると、HPCとHPMCの含有量(重量%)の差異が余りない場合であっても(実施例8参照)、HPCの含有量をHPMCより顕著に増量した実施例7と同じように、塗工性と印刷適性を両立できることが分かる。