特許第6207915号(P6207915)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6207915
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 53/00 20060101AFI20170925BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20170925BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20170925BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20170925BHJP
   C08F 297/00 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   C08L53/00
   C08L101/02
   C08L63/00 A
   C08J3/20 ZCER
   C08J3/20CEZ
   C08F297/00
【請求項の数】3
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2013-151027(P2013-151027)
(22)【出願日】2013年7月19日
(65)【公開番号】特開2015-21077(P2015-21077A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2016年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000505
【氏名又は名称】アロン化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】古田 円
(72)【発明者】
【氏名】白木 雅典
(72)【発明者】
【氏名】松本 悠
【審査官】 横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−112756(JP,A)
【文献】 特開2011−245633(JP,A)
【文献】 特開2003−327780(JP,A)
【文献】 特開2012−193237(JP,A)
【文献】 特許第6087297(JP,B2)
【文献】 特開2012−221834(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
C08F 297/00
C08J 3/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル単量体からなるハードセグメント2個と、アクリル単量体からなるソフトセグメント1個とから構成されるトリブロック共重合体である(メタ)アクリルエラストマー(成分A)と、融点が100〜350℃であり、エポキシ基と反応可能な官能基を有し、芳香族ポリエステル及び/又はポリアミドである熱可塑性樹脂(成分B)を、10/90〜90/10の質量比(成分A/成分B)で含有してなり、さらに、テトラヒドロフランへの溶解性を有し、1分子中に平均2個以上のエポキシ基を有する相溶化剤(成分C)を、成分Aと成分Bの合計量100質量部に対して0.1〜30質量部含有してなり、成分Aと成分Bとが共連続型のマクロ相分離構造を有する、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法であって、成分A、成分B及び成分Cを含む原料を、成分Bの融点+60℃以下の温度で、共連続型のマクロ相分離構造になるまで混練する工程を含む、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法
【請求項2】
(メタ)アクリルエラストマー(成分A)が、動的粘弾性測定によって決定されるガラス転移温度が20〜200℃であり、(メタ)アクリル単量体からなるハードセグメント2個と、ガラス転移温度が−100〜19℃であり、アクリル単量体からなるソフトセグメント1個とから構成されるトリブロック共重合体である、請求項1記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法
【請求項3】
さらに、成分Aと成分Bの合計量100質量部に対して0.01〜10質量部のエステル交換触媒(成分D)を、成分A、成分B及び成分Cとともに混練する、請求項1又は2記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気電子用部品、自動車用部品、シール材、パッキン、制振部材、チューブ等に用いられる熱可塑性エラストマー組成物、及び該熱可塑性エラストマー組成物を加熱成形して得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、柔軟性、耐熱性、接着性、クリック感、リサイクル性に優れるキーパッド用熱可塑性エラストマー組成物として、(メタ)アクリル系重合体ブロック(a)と(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)を含有するブロック共重合体(A)((a)と(b)は異なる)を必須成分とすることを特徴とするキーパッド用熱可塑性エラストマー組成物が開示されており、ナイロン、PBT、PET、PC等の極性樹脂を併用しても良いことが開示されているが、得られる組成物のモルフォロジーについては記載も示唆もなく、モルフォロジーのもたらす効果についても知られていない。
【0003】
特許文献2には、耐熱分解性に優れ、高温でも良好なゴム弾性を示す耐熱性に優れた熱可塑性エラストマー(ブロック共重合体)の提供を課題として、熱可塑性樹脂及び(a)(メタ)アクリル系重合体ブロックと(b)アクリル系重合体ブロックとからなるブロック共重合体(A)を含有し、これらを動的に処理してなる組成物が開示されており、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の極性の高い樹脂を併用すると耐衝撃性が向上することが示唆されているが、得られる組成物のモルフォロジーについては記載も示唆もなく、モルフォロジーのもたらす効果についても知られていない。
【0004】
特許文献3には、成形加工性、リサイクル性、柔軟性、ゴム的性質、耐熱性、耐油性、耐候性、透明性、基材との密着性等に優れる樹脂組成物からなる成形体の提供を課題として、メタアクリル系重合体ブロック(a)及びアクリル系重合体ブロック(b)からなるアクリル系ブロック共重合体(A)及び、熱可塑性樹脂(B)、熱可塑性エラストマー(C)、ゴム(D)、及び熱硬化性樹脂(E)からなる群より選択される少なくとも1種を含む樹脂組成物が開示されているが、得られる組成物のモルフォロジーについては記載も示唆もなく、モルフォロジーのもたらす効果についても知られていない。
【0005】
特許文献4には、表面硬度に優れ、好ましい態様においては剛性に優れた樹脂組成物の提供を課題として、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、アクリル系樹脂(B)1〜200質量部、グリシジル基、酸無水物基、カルボキシル基から選択された少なくとも1種類以上の官能基を有する化合物である相溶化剤(C)0.1〜100質量部を配合してなる樹脂組成物が開示されているが、組成物のモルフォロジーについては記載も示唆もなく、モルフォロジーのもたらす効果についても知られていない。
【0006】
特許文献5には、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位を50質量%以上有するメタクリル系樹脂(A)からなる連続相と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック(a)30〜65質量%及び共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック(b)70〜35質量%を有するブロック共重合体(B)を含んでなる分散相とを含有し、分散相にはブロック共重合体(B)からなる海相とメタクリル系樹脂(A)からなる島相との海島構造を成したものが含まれており、連続相と分散相内の島相とを構成するメタクリル系樹脂(A)の合計100質量部に対して、分散相内の海相を構成するブロック共重合体(B)が1〜80質量部である、メタクリル系樹脂組成物が記載されており、該ドメイン構造を有する組成物は著しく耐衝撃性能が向上したことが開示されているが、共連続構造については記載も示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−35637号公報
【特許文献2】特開2006−124724号公報
【特許文献3】特開2009−79119号公報
【特許文献4】特開2007−92038号公報
【特許文献5】特開2009−227998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アクリル系ブロック共重合体と、極性を有する熱可塑性樹脂を併用することができることは知られており、両者が相分離して海島構造をとる場合の効果については知られているが、共連続構造となる場合やその効果については具体的には知られてはいない。
【0009】
本発明の課題は、耐酸性、耐湿性及び成形性に優れ、耐熱性、特に高温時にも弾性を保持し、耐熱老化性に優れた熱可塑性エラストマー組成物及び該組成物を用いて得られる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、(メタ)アクリル単量体からなるハードセグメント2個と、アクリル単量体からなるソフトセグメント1個とから構成されるトリブロック共重合体である(メタ)アクリルエラストマー(成分A)と、融点が100〜350℃であり、エポキシ基と反応可能な官能基を有し、芳香族ポリエステル及び/又はポリアミドである熱可塑性樹脂(成分B)を、10/90〜90/10の質量比(成分A/成分B)で含有してなり、さらに、テトラヒドロフランへの溶解性を有し、1分子中に平均2個以上のエポキシ基を有する相溶化剤(成分C)を、成分Aと成分Bの合計量100質量部に対して0.1〜30質量部含有してなり、成分Aと成分Bとが共連続型のマクロ相分離構造を有する、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法であって、成分A、成分B及び成分Cを含む原料を、成分Bの融点+60℃以下の温度で、共連続型のマクロ相分離構造になるまで混練する工程を含む、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成形体の材料として、耐酸性、耐湿性及び成形性に優れ、高温時にも弾性を保持し、耐熱老化性のいずれにも優れるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例4で得られた成形体の断面の拡大写真である。
図2】比較例16で得られた成形体の断面の拡大写真である。
図3】実施例4、比較例16、比較例3で得られた熱可塑性エラストマー組成物の貯蔵弾性率の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、(メタ)アクリルエラストマー(成分A)と、エポキシ基と反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂(成分B)と、テトラヒドロフランへの溶解性を有し、1分子中に平均2個以上のエポキシ基を有する相溶化剤(成分C)を含有し、成分Aと成分Bとが共連続型のマクロ相分離構造を有するものである。
【0014】
本発明の組成物における成分Aと成分Bの質量比は、以下のとおりである。成分Aと成分Bの密度が同程度である場合、それらの質量比が1/1に近いほうが、共連続型のマクロ相分離構造が得られやすく、質量比(成分A/成分B)が10/90未満であると、成分Bの連続相中に成分Aが分散した海島構造になりやすくなるため、柔軟性が劣るものとなりやすい。また、質量比(成分A/成分B)が90/10を超えると、成分Aの連続相中に成分Bが分散した海島構造になりやすくなるため、耐熱性が劣るものとなりやすい。これらの観点から、本発明の組成物における成分Aと成分Bの質量比(成分A/成分B)は、10/90〜90/10であり、15/85〜80/20が好ましく、18/82〜60/40がより好ましく、20/80〜50/50がさらに好ましい。
【0015】
成分Aと成分Bの合計量は、熱可塑性エラストマー組成物中、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。
【0016】
(メタ)アクリルエラストマー(成分A)は、2種以上の(メタ)アクリル単量体、及び必要に応じてその他共重合可能なビニル単量体を構成成分とすることが好ましく、重合反応で高分子量化することにより得られる。
【0017】
(メタ)アクリル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等が挙げられる。なお、本明細書において、添え字のないアルキル基名は、特に記載のない限り、n-、iso-、sec-、tert-等の異性体を含み、(メタ)アクリルと示される場合、メタクリル及びアクリルの両者を意味する。
【0018】
(メタ)アクリル単量体の量は、構成成分中、20質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。
【0019】
その他共重合可能なビニル単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、無水マレイン酸等が挙げられ、これらの中では、スチレン、α−メチルスチレン及びエチレンが好ましく、これらのビニル単量体は、本発明の目的を損なわない範囲(好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下)で併用されていてもよい。
【0020】
(メタ)アクリルエラストマーを得るための単量体の重合方法として、例えば、ラジカル重合法、リビングアニオン重合法、リビングラジカル重合法等が挙げられる。また、重合の形態として、例えば、溶液重合法、エマルジョン重合法、懸濁重合法、塊状重合法等が挙げられる。
【0021】
成分Aは、ハードセグメントとソフトセグメントとから構成されるブロック共重合体であることが好ましく、ハードセグメントを構成するブロックを2個以上、及びソフトセグメントを構成するブロックを1個以上、備えるブロック共重合体であることがより好ましく、ソフトセグメントを構成するブロック1個の両側に、ハードセグメントを構成するブロック2個を備えるトリブロック共重合体であることがさらに好ましい。トリブロック共重合体の割合は、成分A中、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。また、成分Aはトリブロック共重合体以外にジブロック共重合体及びマルチブロック共重合体を含んでいてもよい。
【0022】
成分Aが熱可塑性エラストマーとしての特性を発現するためには、室温以上のガラス転移温度を有するハードセグメントを有していることが好ましい。
【0023】
ハードセグメントを構成するブロックのガラス転移温度は、組成物の常用温度領域での強靭性を保つ観点から、20〜200℃が好ましく、30〜180℃がより好ましく、50〜150℃がさらに好ましい。ハードセグメントを構成するブロックのガラス転移温度が低すぎると得られる組成物が耐熱性の不足するものとなる場合があり、ガラス転移温度が200℃を超えるブロックは原料の入手が難しい。
【0024】
ハードセグメントを構成するビニル単量体は、(メタ)アクリル単量体の1種又は2種以上であることが好ましい。かかる(メタ)アクリル単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等が挙げられる。これらの中では、経済性の観点から、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル及びメタアクリル酸ブチルが好ましく、メタアクリル酸メチルがより好ましい。
【0025】
ハードセグメントを構成するビニル単量体には、上記(メタ)アクリル単量体が含まれていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない範囲(好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下)で、他の単量体が含まれていてもよい。また、重合反応で高分子量化することによりハードセグメントとすることもできる。
【0026】
共重合可能なビニル単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、α−オレフィン、スチレン、α‐メチルスチレン、アクリロニトリル、パラヒドロキシスチレン、ビニルアルコール、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタアクリルアミド、メチルビニルエーテル、ビニルベンゾエート、マレイン酸、N-シクロヘキシルマレイミド等が挙げられ、これらの中では、スチレン、α−メチルスチレン及びエチレンが好ましい。
【0027】
ソフトセグメントを構成するブロックのガラス転移温度は、-100〜19℃が好ましく、-80〜10℃がより好ましく、-70〜0℃がさらに好ましい。ソフトセグメントを構成するブロックのガラス転移温度が高すぎると得られる組成物が柔軟性の不足するものとなる場合があり、ガラス転移温度が-100℃より低いブロックは原料の入手が難しい。
【0028】
ソフトセグメントを構成するビニル単量体は、アクリル単量体の1種又は2種以上であることが好ましい。かかるアクリル単量体としては、エステル交換触媒との反応性が高い点で、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシエチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェニルエチル等が好ましい。
【0029】
また、ソフトセグメントのガラス転移温度が19℃以下となるためのソフトセグメントを構成するアクリル単量体としては、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸エチルヘキシル、アクリル酸n−へプチル、アクリル酸n−オクチル及びアクリル酸フェニルエチルからなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましく、上記のハードセグメントと相溶し難く、相分離構造となりやすい観点から、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸n-へプチル及びアクリル酸n-オクチルからなる群より選ばれた少なくとも1種がより好ましく、アクリル酸n-ブチルがさらに好ましい。
【0030】
ソフトセグメントを構成するビニル単量体には、上記アクリル単量体が含まれていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない範囲(好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下)で、他の単量体が含まれていてもよい。
【0031】
高分子のガラス転移温度を測定する方法としては、示差走査熱量測定(DSC)、動的粘弾性測定、熱膨張測定(TMA)などが知られているが、本発明では、ハードセグメントとソフトセグメントの両方を含むブロック共重合体において、ハードセグメントとソフトセグメントの両方の値を正確に測定することができ、さらに共連続構造の確認も可能な方法として一般的なのが動的粘弾性測定であり、温度を変えて粘弾性測定を行い、誘電正接Tanδのピークからガラス転移温度を決定する方法が知られている。従って、本発明におけるハードセグメントとソフトセグメントのガラス転移温度には、動的粘弾性測定により測定されたガラス転移温度を用いる。
【0032】
成分Aにおけるハードセグメントとソフトセグメントの質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)は、成分Aに適度な柔軟性を付与する観点から、10/90〜70/30が好ましく、15/85〜60/40がより好ましい。
【0033】
成分Aとして利用可能な市販品としては、(株)クラレ製のクラリティ、アルケマ製のナノストレングス、(株)カネカ製のナブスター等が挙げられる。
【0034】
成分Aの重量平均分子量は、引張強度等の機械的物性の観点から2万以上が好ましく、3万以上がより好ましく、4万以上がさらに好ましい。また、取り扱いが容易であり、射出成形等の成形体の製造にも適した溶融粘度を維持する観点から、100万以下が好ましく、80万以下がより好ましく、70万以下がさらに好ましい。これらの観点から、成分Aの重量平均分子量は2万〜100万が好ましく、3万〜80万がより好ましく、4万〜70万がさらに好ましい。
【0035】
また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との関係では、Mw/Mnで、1〜5が好ましく、1.1〜3がより好ましい。
【0036】
本発明において、成分Aは、エステル交換触媒やラジカル重合開始剤等により、原料段階の成分Aの重合平均分子量よりも高分子量化されたものであってもよい。その場合の重量平均分子量の分布は幅広いものや多峰性(2個以上のピークを有する)の分布となるが、上記重量平均分子量は、全体を平均した分子量とする。
【0037】
成分AのA硬さは、組成物の柔軟性の観点から、5〜90が好ましく、10〜80がより好ましい。なお、A硬さとは、JIS K 6253に規定されたデュロメータタイプA硬さを意味する。デュロメータタイプA硬さが90を超える場合は、測定精度が下がるため、デュロメータタイプD硬さを併用して比較することも行われるが、A硬さの値が大きいものの方がより硬いという相対比較の目的であればA硬さで評価しても差し支えない。
【0038】
成分Aの流動開始温度は、組成物の耐熱性の観点から、80℃以上が好ましく、組成物の熱可塑性(流動性)の観点から、220℃以下が好ましい。これらの観点から、成分Aの流動開始温度は、80〜220℃が好ましく、100〜200℃がより好ましい。
【0039】
成分Bは、エポキシ基と反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂であり、成分Aと相分離を起こすためには結晶性であることが好ましく、耐熱性を付与する観点から、融点が高い結晶性の熱可塑性樹脂であることが好ましい。これらの観点から、熱可塑性樹脂の融点は、100℃以上であり、好ましくは180℃以上、より好ましくは200℃以上である。また、350℃以下であり、好ましくは300℃以下、より好ましくは280℃以下である。熱可塑性樹脂の融点は、100〜350℃であり、好ましくは180〜300℃、より好ましくは200〜280℃である。結晶性の熱可塑性樹脂とは、示差走査熱量分析計(DSC)において融点が観測される熱可塑性樹脂のことをいうのが一般的であり、融点の値はDSCを用いるが、多くのものがガラス転移温度も有しており、ガラス転移温度についてはDSCでも測定可能であるものの、動的粘弾性測定の方がより精密な値を得ることができる。
【0040】
本発明において、エポキシ基と反応可能な官能基としては、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、アミド基、アミノ基等が挙げられ、成分Bとしての熱可塑性樹脂は、これらの官能基の1種又は2種以上を熱可塑性樹脂の主鎖又は側鎖に有する。
【0041】
エポキシ基と反応可能な官能基を有していない熱可塑性樹脂は、相溶化剤である成分Cと反応しないため、成分Aへの分散が悪く、柔軟性及び耐熱性が良好な熱可塑性エラストマーを得ることができない。
【0042】
成分Aと共連続相分離構造を作りやすいという点で成分Bの融点は、成分Aの流動開始温度より20℃以上高いことが好ましく、30℃以上高いことがより好ましく、40℃以上高いことがさらに好ましい。
【0043】
成分Bの具体例としては、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン12、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリメタクリルスチレン(MS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、ポリアセタール樹脂(POM)、ノリル樹脂(PPO)、ポリ塩化ビニル(PVC)等の重合体が挙げられるが、耐熱性(高い融点)及び成分Aとの非相溶性の観点から、芳香族ポリエステル及び/又はポリアミドが好ましい。芳香族ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が好ましく、ポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン6,6等が好ましい。これらの中の複数を併用することも好ましいが、より好ましいのは、ポリエチレンテレフタレート及び/又はポリブチレンテレフタレートである。
【0044】
成分Bがポリエステルの場合、分子末端の官能基としては、水酸基とカルボキシル基が存在する。本発明において成分Bとして用いられるポリエステルの分子末端の水酸基、及びカルボキシル基のそれぞれの存在量は特に限定されるものではなく一般的なものを用いることができるが、例えば、成分Bがポリエステルである場合、カルボキシル基の量の指標である酸価は、0.1〜100ミリ当量/kgが好ましい。より具体的には、酸価は、0.1ミリ当量/kg以上が好ましく、1ミリ当量/kg以上がより好ましく、3ミリ当量/kg以上がさらに好ましく、5ミリ当量/kg以上がさらに好ましい。また、100ミリ当量/kg以下が好ましく、80ミリ当量/kg以下がより好ましく、70ミリ当量/kg以下がさらに好ましく、60ミリ当量/kg以下がさらに好ましい。なお、ポリエステル樹脂の酸価は、十分に乾燥させた試料200mgを熱ベンジルアルコール10mlに溶解させ、溶液を冷却後、クロロホルム10ml及びフェノールレッドを加えて、1/25規定の酒精カリ溶液(KOHのメタノール溶液)で滴定して測定する。また、ポリエステルの水酸基価は、ポリエステルのヒドロキシル末端基とカルボキシル末端基の和である末端基濃度を測定し、そこから酸価(カルボキシル末端基濃度)を差し引くことによって算出する。末端基濃度は、ポリエステルのヒドロキシル末端にコハク酸を結合させ、コハク酸由来のカルボキシル末端基とポリエステル自体が持つカルボキシル基の総和(=全酸価)として測定する。水酸基価=全酸価−酸価により算出する。
【0045】
また、成分Bがポリアミドの場合、分子末端官能基は、一般的にカルボキシル基とアミノ基である。本発明において成分Bとして用いられるポリアミドの分子末端のカルボキシル基とアミノ基のそれぞれの存在量は特に限定されるものではなく一般的なものを用いることができるが、成分Bがポリアミドである場合、末端アミノ基濃度は、10〜200μmol/gが好ましい。より具体的には、末端アミノ基濃度は、10μmol/g以上が好ましく、15μmol/g以上がより好ましく、20μmol/g以上がさらに好ましく、30μmol/g以上がさらに好ましい。また、200μmol/g以下が好ましく、190μmol/g以下がより好ましく、180μmol/g以下がさらに好ましく、170μmol/g以下がさらに好ましい。なお、末端アミノ基濃度及び末端カルボキシル基濃度は、1H-NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値から求める。
【0046】
成分Aと成分Bとが共連続型のマクロ相分離構造を有するためには、まず成分Aと成分Bとが相分離構造を有することが必須であり、そのためには成分Aと成分Bとがあまり強く相溶しないことが好ましい。
【0047】
互いに相溶せず、溶融粘度が同程度の2成分を混合すると相分離を起こすことは知られているが、多くの相分離構造は海島構造となるのが普通である。濃度の高い成分が連続相(海相)、濃度の低い成分が分散相(島相)の海島構造をとりやすい傾向がある一方で、溶融粘度の低い成分が海相になりやすく、高い成分が島相になりやすい傾向もある他、分子の極性や分子量、分子鎖の分岐構造等、分離構造に影響するパラメータは多い。
【0048】
一方、一般的に成分Aと成分Bとの混合系では相溶性が高い方が組成物の耐熱性や強度が上がる傾向がある。
【0049】
そこで、本発明では、成分A、Bに加えて、特定の相溶化剤(成分C)を配合し、その種類や量を調節することで、従来では予想できなかったほど広いバランス範囲で共連続構造を発現させることができ、かつ相分離を起こすが組成物の耐熱性や強度も優れるエラストマー組成物を実現することができる。
【0050】
なお、成分Aと成分Bとが共連続型のマクロ相分離構造を形成するためには、成分Aと成分Bとの溶融粘度が同一又は近い値を有していることが好ましく、具体的にはJIS K 7210に準拠して230℃及び2.16kg荷重の条件で測定したメルトフローレートの値で、成分Aが1〜40g/10min、成分Bが5〜50g/10minであることが好ましい。この範囲内であれば、成分Aと成分Bの溶融粘度は、必ずしも同一である必要はなく、成分A、B及び成分Cの質量比や、化学組成、混練条件等の調整によって共連続構造が発現する。
【0051】
相溶化剤(成分C)の種類によって、成分A及び成分Bのそれぞれに対する親和性が異なることから、相溶化剤の化学構造は共連続相分離構造の発現に大きな影響を与える。本発明では、テトラヒドロフランへの溶解性を有し、1分子中に平均2個以上のエポキシ基を有する相溶化剤を配合することによって、成分A及び成分Bが共連続型のマクロ相分離構造を形成させるためのバランス条件をかなり広くすることができる。
【0052】
成分Cを構成する単量体単位には、2つの態様、即ち
第一の態様:SP値が17.5〜25.0である単量体単位(単量体単位c1)を50質量%以上含む単量体単位、及び
第二の態様:(メタ)アクリルモノマー、スチレン及びスチレン誘導体からなる群より選ばれた少なくとも1種の単量体単位(単量体単位c2)を50質量%以上含む単量体単位(単量体単位c2が2種以上の単量体単位からなる場合は、その総量が50質量%以上であることを意味する)
があり、単量体単位c1とc2は成分Aとの親和性が良好である点で共通している。なお、第一の態様と第二の態様は、便宜上区分したものであり、両者に共通した単量体もある。即ち、SP値が17.5〜25.0である、(メタ)アクリルモノマー、スチレン及びスチレン誘導体はいずれの態様にも該当する。
【0053】
第一の態様において、単量体単位c1を特定するためのSP値は、Solubility Parameterとして広く知られている。本発明におけるSP値(δ)は以下の推算式により求める。
【0054】
VanKrevelenの推算式
[VanKrevelen]Solubilityparameter:δ
δ=(Ecoh/V)0.5
Ecoh=ΣEcoh,i
単位 : (J/cm3)0.5
推算に必要な物性値
V:構成繰り返し単位(CRU)のモル体積[cm3/mol]
原子団寄与法で計算される物理量
Ecoh:Hoftyzer&VanKrevelenのモル凝集エネルギー[J/mol]
原子団パラメータ
Ecoh,i:i番目のモル凝集エネルギーに対する原子団パラメータ[J/mol]
【0055】
SP値が17.5〜25.0である単量体単位(カッコ内数値はSP値)としては、スチレン(18.82)、α−メチルスチレン(19.55)、メタクリル酸メチル(18.54)、アクリル酸n−ブチル(18.12)、アクリル酸エチル(18.83)、アクリル酸メチル(19.13)、アクリル酸メトキシエチル(19.43)、酢酸ビニル(19.13)等が挙げられる。
【0056】
なお、例えば、エチレンやプロピレン等のSP値が17.5未満のオレフィンは、本発明における成分Cの主要な単量体単位としてはふさわしくないものである。SP値が17.5未満のオレフィン(カッコ内数値はSP値)としては、エチレン(16.00)、プロピレン(17.04)等が挙げられる。
【0057】
単量体単位c1のSP値は、成分Aとの親和性の観点から、17.5以上であり、好ましくは17.8以上、より好ましくは18.0以上である。また、25.0以下であり、好ましくは23.0以下、より好ましくは22.0以下であり、さらに好ましくは21.0以下であり、さらに好ましくは20.0以下である。これらの観点から、単量体単位c1のSP値は、17.5〜25.0であり、好ましくは17.8〜23.0であり、より好ましくは18.0〜22.0であり、さらに好ましくは18.0〜21.0であり、さらに好ましくは18.0〜20.0である。
【0058】
単量体単位c1の割合が、成分Cの単量体単位中、50質量%以上であると、成分Aとの親和性が向上し、成分A中に成分Bをより良好に分散させることができる。単量体単位c1の割合は60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上がより好ましい。
【0059】
本発明においては、SP値の特定が難しい単量体単位でも、(メタ)アクリルモノマー、スチレン及びスチレン誘導体であれば、成分Cの主要な単量体単位として使用可能である。
【0060】
そこで、成分Cの単量体単位の第二の態様は、(メタ)アクリルモノマー、スチレン及びスチレン誘導体からなる群より選ばれた少なくとも1種の単量体単位(単量体単位c2)を含むものである。
【0061】
単量体単位c2として好適な(メタ)アクリルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等が例示され、これらのなかでは、成分Aとの親和性の観点から、(メタ)アクリル酸のアルキル(炭素数1〜6)エステル及び(メタ)アクリル酸グリシジルが好ましい。(メタ)アクリル酸グリシジル等は水素結合が強いためSP値の特定が難しいが、成分Aとの親和性が大きく、単量体単位c2として好ましいものである。
【0062】
スチレン誘導体とは、スチレンのアルファ位、オルト位、メタ位又はパラ位が炭素数1〜4の低級アルキル基、炭素数1〜4の低級アルコキシ基、カルボキシル基、ハロゲン原子等の置換基で置換された化合物を意味する。該置換基の分子量(原子量)は60以下が好ましく、50以下がより好ましく、40以下がさらに好ましい。スチレン誘導体の具体例としては、α−メチルスチレン、p−クロロスチレン等が挙げられる。
【0063】
ただし、SP値が特定される単量体単位c2、即ち(メタ)アクリルモノマー、スチレン及びスチレン誘導体のなかで、SP値が、第一の態様の単量体単位c1に求められるSP値を外れるもの、即ちSP値が17.5未満のもの及び25.0を超えるものは、成分Aとの親和性が小さく、第二の態様においても、単量体単位c2から除かれる。例えば、単量体単位のSP値が17.5未満であるものとしては、炭素数が8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリルモノマーのアルキルエステル等が挙げられる。
【0064】
単量体単位c2の割合が、成分Cの単量体単位中、50質量%以上であると、成分Aとの親和性が向上し、成分A中に成分Bをより良好に分散させることができる。単量体単位c2の割合は60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上がより好ましい。
【0065】
以降、本明細書において、成分Cとは、特に記載のない限り、単量体単位c1を含む第一の態様の成分C及び単量体単位c2を含む第二の態様の成分Cの両者に該当する。
【0066】
成分Cを構成する単量体単位は、(メタ)アクリルモノマーを10〜90質量%含み、スチレン又はスチレン誘導体を10〜90質量%含むものであることが好ましい。(メタ)アクリルモノマーを15〜80質量%(さらに好ましくは20〜70質量%)含み、スチレン又はスチレン誘導体を20〜85質量%(さらに好ましくは30〜80質量%)含むものであることがより好ましい。このような成分Cは、成分Aとの親和性が大きい(メタ)アクリルモノマーと、成分Bとの親和性が大きいスチレン又はスチレン誘導体とを構成単位として有するので、AB両成分の相溶化剤として効果的に作用できるため好ましい。
【0067】
成分Cは、テトラヒドロフラン(THF)への溶解性を有することが必要であり、ビニル共重合体であることが好ましい。THFへの溶解性を有しないビニル共重合体(例えばアクリルゲル)は、成分Aとの親和性が不足し、成分A中と成分Bの共連続相分離構造を良好に発現させにくい。THFへの溶解性を有するとは、具体的には25℃におけるTHFへの溶解度が5質量%以上であることを意味する。該溶解度が10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましい。
【0068】
成分Cは、1分子中に平均2個以上、好ましくは2.5〜20個、より好ましくは3〜10個のエポキシ基を有する。平均エポキシ基数が2個未満であると、成分Bとの反応性が低くなり相溶化剤しての機能を果たさない。その結果、成分Bの分散安定性が低下し、課題を解決できない。すなわち、柔軟性及び耐熱性が優れる成形体を与えることができ、かつ、該成形体が優れた柔軟性及び耐熱性を発揮するための成形温度依存性が小さい組成物が得られない。
【0069】
成分Cのエポキシ価は、相溶化剤としての効果の観点から、0.5〜5meq/gが好ましく、0.7〜3meq/gがより好ましい。さらに好ましくは共連続構造が表れ易い点で1.8〜2.8meq/gである。
【0070】
成分Cとして利用可能な市販品としては、東亞合成(株)製のアルフォンUGシリーズ、日油(株)製のマープルーフGシリーズ、BASF製のジョンクリルADRシリーズ等が挙げられる。
【0071】
成分Cは、成分Aや成分Bへの適度の親和性を保つ必要があるが、成分Cの重量平均分子量が10万を超えると、成分Aへの相溶性が低下し、共連続相分離構造が発現し難くなる。また、1000未満であると、成分Aへの相溶性が高くなりすぎるため、やはり共連続相分離構造が発現し難くなる。これらの観点から、成分Cの重量平均分子量は、1000以上が好ましく、3000以上がより好ましく、5000以上がさらに好ましい。また、10万以下が好ましく、8万以下がより好ましく、6万以下がさらに好ましい。成分Cの重量平均分子量は、1000〜10万が好ましく、3000〜8万がより好ましく、5000〜6万がさらに好ましい。
【0072】
成分Cの数平均分子量は、上記と同様に成分A中への成分Bの分散安定性の観点から、500〜5万が好ましく、1000〜4万がより好ましく、2000〜3万がさらに好ましい。
【0073】
成分Cの好適な含有量は、成分A、B、Cの各々の化学組成や分子量のバランスの影響を受ける。さらに、成分Cは、化学的に成分Aと成分Bとの相溶性を上げる他に、成分A及び/又は成分Bの粘度を上昇させる効果もあるため、単純なパラメータ計算では予測が難しいが、成分Aと成分Bの合計量100質量部に対して、成分Cの含有量が0.1質量部以上であると、安定した相分離構造を発現させることができ、また得られる樹脂組成物の耐熱性が高くなるため好ましく、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上である。また、成分Cが多すぎると、耐熱老化性が低下するため、成分Cの含有量は、成分Aと成分Bの合計量100質量部に対して、30質量部以下であり、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。これらの観点から、成分Cの含有量は、成分Aと成分Bの合計量100質量部に対して、0.1〜30質量部であり、好ましくは0.2〜20質量部、より好ましくは0.3〜10質量部である。
【0074】
また、本発明では、さらに、エステル交換触媒(成分D)を併用すると成分Aの分岐度や分子量が向上して成分Aの溶融粘度が高くなる他、極性にも影響する結果、共連続構造が発現しやすくなるので好ましい。
【0075】
エステル化触媒としては、一般的なポリエステル重合触媒を使用することができる。かかる触媒としては、例えば、三酸化アンチモン等のアンチモン系触媒、ブチル錫、オクチル錫、スタノキサン等の錫系触媒、チタン系アミネート、チタンアルコキシド等のチタン系触媒、ジルコニウム系アセチルアセトネート、ジルコニウムアルコキシド等のジルコニウム系触媒が挙げられ。これらの中では、チタン系触媒及びジルコニウム系触媒が好ましく、チタン系触媒がより好ましい。
【0076】
チタン系触媒の具体例としては、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラオクチルチタネート等のチタンアルコキシド、チタンアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテート、リン酸チタン化合物、チタンオクチレングリコレート、チタンエチルアセトアセテート等の有機溶剤可溶のキレート化合物、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、チタントリブタノールアミネート、チタンジエタノールアミネート、チタンアミノエチルアミノエタノレート等の水溶性のキレート化合物等を挙げることができ、この中で好ましいのは水溶性のキレート化合物であり、より好ましくはチタンアルカノールアミネートである
【0077】
成分Dの含有量は、成分Aと成分Bの合計量100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましい。また、エステル交換触媒の含有量は、成分Aの架橋により得られる組成物の熱可塑性が低下するのを抑制する観点から、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。成分Dの含有量は、成分Aと成分Bの合計量100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましく、0.1〜5質量部がより好ましい。
【0078】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分Bの官能基と成分Cのエポキシ基との反応を促進させるための触媒(成分E)として、脂肪族カルボン酸金属塩等を含有していてもよい。脂肪族カルボン酸金属塩としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等が挙げられる。触媒は、例えば、成分Aと成分Bの分子量のバランスを向上させる目的等で用いることができるが、触媒の配合によって成分Bと成分Cとの架橋反応が、成分Aと成分Bとの相分離構造の形成に先駆けて進むと、先に成分Bが硬い粒子となって、成分Aの海の中に分散してしまい、海島型の相分離構造をとりやすくなるため、反応触媒を添加する場合は、成分Aと成分Bの合計量100質量部に対して、10質量部以下にすることが好ましい。
【0079】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、加熱条件下での本発明の組成物の特性の変化が抑制される観点から、熱安定剤を含有していてもよい。
【0080】
熱安定剤としては、リン含有化合物、ヒドラジド化合物、有機イオウ系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等が挙げられるが、その他エステル交換触媒(成分D)とキレート形成する等して該触媒の活性を低減させる化合物も利用可能である。本発明では、熱可塑性エラストマーの熱老化に対する耐性が格段に向上するため、使用条件の自由度がより大きくなる観点から、リン含有化合物及びヒドラジド化合物が好ましい。これらは、併用されていてもよい。熱安定剤の含有量は、成分Aと成分Bの合計量100質量部に対して、0.01〜15質量部が好ましく、0.05〜10質量部がより好ましい。なお、熱老化は主に2つの現象を含み、1つ目は熱分解で生成する低分子量成分の割合増大に起因する強度の低下であり、2つ目は熱分解で生成するフリーラジカル等の活性点の架橋形成に起因する伸び率の低下である。
【0081】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、アクリルゴム、シリコーン変性のアクリルゴム、ブチルゴム、シリコーン変性のブチルゴム等の架橋ゴム、アクリルゴム−g−メチルメタクリレート、MAS(アクリルゴム−g−メチルメタクリレート/スチレン)、MBS(ブタジエンゴム−g−メチルメタクリレート/スチレン)等のグラフト共重合体、アクリル系以外のブロック共重合体、例えばポリエステル系ブロック共重合体等を含有していてもよい。
【0082】
その他添加剤としては、重金属不活性化剤、脂肪酸エステル等の滑剤;ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾエート化合物やヒンダードフェノール系化合物等の光安定剤;カルボジイミド化合物やオキサゾリン化合物等の加水分解防止剤;フタル酸エステル系化合物、ポリエステル化合物、(メタ)アクリルオリゴマー、プロセスオイル等の可塑剤;重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム等の無機系発泡剤;ニトロ化合物、アゾ化合物、スルホニルヒドラジド等の有機系発泡剤;カーボンブラック、炭酸カルシウム、タルク、ガラス繊維等の充填剤;テトラブロモフェノール、ポリリン酸アンモニウム、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等の難燃剤;シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤や酸変性ポリオレフィン樹脂等の相溶化剤;そのほか顔料や染料等が挙げられる。
【0083】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、少なくとも、(メタ)アクリルエラストマー(成分A)、熱可塑性樹脂(成分B)及び相溶化剤(成分C)、さらに必要に応じて、エステル交換触媒(成分D)、触媒(成分E)、熱安定剤、その他添加剤等を含有する原料成分を、押出機又はニーダーにより加熱混練する方法により得ることが好ましい。
【0084】
エステル交換触媒を使用して(メタ)アクリルエラストマー(成分A)の高分子量化を図る場合、熱安定剤を併用して組成物の特性がより安定化されたものとすることが好ましいが、熱安定剤の添加時期は、成分Aの高分子量化がなされた後(例えば180〜350℃の混練温度において、熱安定剤以外の原料が0.5〜30分程度混練された後)とすることが好ましい。熱安定剤の添加時期が早すぎると成分Aの高分子量化が不十分となる場合がある。
【0085】
押出機としては、例えば、単軸押出機、平行スクリュー二軸押出機、コニカルスクリュー二軸押出機等が挙げられる。本発明では、混合能力が優れる(得られる混合物が分散性の良好なものとなる)観点から、二軸押出機が好ましく、同方向回転二軸押出機がより好ましい。
【0086】
押出機の吐出部分に装着されるダイは、任意のものを選択できるが、例えば、ペレットの生産に適するストランドダイ、シートやフィルムの生産に適するTダイ等のほか、パイプダイ、異形押出ダイ等が挙げられる。
【0087】
また、押出機は、空気開放部分や減圧装置につながるガス抜き用のベントを備えていてもよいし、複数の原料投入口を供えていてもよい。
【0088】
ニーダーとは、温度制御が可能なバッチ式ミキサーを意味し、バンバリーミキサー、ブラベンダープラストグラフ、ラボプラストミル等が挙げられる。
【0089】
各成分は、押出機又はニーダーに、一括で投入しても、別々に投入しても、また、分割して投入してもよい。ただし、熱安定剤の投入については前記の通りである。
【0090】
加熱混練の温度は、成分Bの融点未満であっても不可能ではなく、温度は低い方が混合系の粘度が高くなってせんだん力がかかりやすい傾向がある。また、350℃を超えると、成分Aの(メタ)アクリル成分が熱分解し、得られる組成物の機械的物性が低下する。これらの観点から、加熱混練の好ましい温度は、成分Bの融点−10℃の温度を下限とし、上限は350℃以下である。
【0091】
ただし、本発明で用いる、成分A、成分B及び成分Cを含む組成物では、加熱混練の条件によって海島構造と共連続構造のいずれの相分離構造にもなり得る場合がある。混練強度が高い、すなわちより低温で、長時間混練すると共連続構造となりやすく、より高温で短時間の混練では海島構造になりやすい傾向があり、組成や混練装置の特性も影響するので一概にパラメータで規定することは難しいが、加熱混練の温度は、成分Bの融点+60℃以下の温度であることが好ましく、成分Bの融点+40℃以下の温度であることがより好ましい。また、加熱混練のより好ましい下限温度は成分Bの融点であり、さらに好ましくは成分Bの融点+10℃である。
【0092】
加熱混練時間は、加熱温度や各成分の種類、濃度等に依存するため、一概には決定できないが、得られた熱可塑性エラストマー組成物の相分離構造を確認して適宜決定することが好ましい。押出機を用いる場合の代表的な加熱混合時間は、例えば、0.5〜20分間、好ましくは0.7〜15分間である。
【0093】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、成分A及び成分Bが共連続型のマクロ相分離構造が発現していることは、視覚的には例えば電子顕微鏡観察等により観察することができる。また、成分A又はBのいずれかを選択的に溶解する溶剤を用いて一方を除去する等の方法により、よりはっきりと分離構造を観察することができ、溶解分と溶解残分との化学分析により、相分離した各層の組成を化学分析して確認することもできる。例えばブロック共重合体のハードセグメントとソフトセグメントとが互いに凝集して層構造を形成している様子等の分子レベルの相分離構造をミクロ相分離と呼び、その構造は数ナノメートルから数十ナノメートル程度のものであるので、観察には高倍率の電子顕微鏡が必須であるが、本発明の規定する相分離構造は、例えば、連続相を形成するものが繊維状の形態であればその相の幅が0.1〜100μm程度であり、光学顕微鏡でも観察可能なレベルであって、このような大きさのレベルの相分離構造をマクロ相分離構造と呼ぶ。
【0094】
また、共連続構造が発現していることは動的粘弾性測定によっても知ることができる。成分Aと成分Bとが相分離していても海島構造となっている場合、動的粘弾性は連続相(海相)の粘弾性特性に近い特性を示し、島相の熱的挙動(ガラス転移温度等)の影響は表れにくくなる。本発明において成分Aはソフトセグメントのガラス転移温度が−100〜19℃と低温のエラストマーであり、成分Bが融点100〜300℃の熱可塑性樹脂であることを考えると、比較的柔らかい成分Aが連続相となり、成分A単独の場合の粘弾性特性と同様に、温度が成分Aのソフトセグメントのガラス転移温度を上回ると急激に弾性率が小さくなり、ハードセグメントのガラス転移温度を上回ると変形が激しくなるという粘弾性挙動を示す場合が多く、実用的は柔らかすぎることになってしまう。ブレンド系では、硬度を保つために、より硬い成分Bの濃度を増やすという対処が考えられるが、海島構造のままで成分Bの濃度を上げた場合、硬度はさほど上がらない一方で、引張強度等の機械的特性が大きく低下してしまうという問題がある。
【0095】
成分Bが連続相となる海島分離構造の場合でも同様に、成分Bのガラス転移温度以下ではエラストマーとは呼べないほど硬いものになるので、どちらも広い温度範囲でエラストマーとして用いるには扱いにくいものになると考えられる。しかし、成分AとBとが共連続分離構造をとっている場合には、温度がエラストマーのソフトセグメントのガラス転移温度を超えても急激な軟化がなく、高温まで適度な弾性を保つことができる点が異なる。成分AとBとが均一に相溶して分離のない系では粘弾性挙動は成分AとBとの中間的な特性になるが、それゆえに、成分Aのソフトセグメントのガラス転移温度を上回ると急激に柔らかくなる点は海島構造の場合と同じであり、共連続構造のような優れた特性は発現しない。
【0096】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の用途としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0097】
〔自動車分野のブーツ・カバー類、エンジン回りのホース・カバー類〕
・車体回り
ドアーラッチ、コントロールケーブルカバー、ブーツ、エンブレム、シャーシ・ステアリング周り、フューエルホース、
等速ジョイントブーツ、ピニオン&ラックブーツ、ストラットサスペンションブーツ、ボールジョイント用ブッシュ、ダストシール、ブレーキホース、
【0098】
・エンジン回り
エアーダクトホース、エアーダクト、エアーインテークホース、エンジンコントロール系バキュームホース、インタークーラーホース、フューエルラインカバー、各種防振・制振材、ラジエータホース、ヒーターホース、オイルクーラーホース、パワーステアリングホース、各種ガスケット類、エンジンアンダーフード、エンジンルームカバー等の各種カバー・ケース類
【0099】
〔電線・ケーブルの被覆材〕
・電子・民生機器用電線
コンピュータ・OA機器・テレビ・VTR等の電線被覆
・通信ケーブル
通信用電線・光ファイバー用被覆材料
・絶縁電線・通信ケーブル・機器用電線・自動車用ワイヤハーネス
【0100】
〔ホース・チューブ・ベルト・防音防振シート等の工業用品〕
空・油圧ホース(チューブ)、高圧ホース(チューブ)、燃料ホース(チューブ)、コンベアベルト、V・丸ベルト、タイミングベルト、クッショングリップ、フレックスハンマー、消音ギア、フレキシブルカップリング、ガソリンタンクシート、ガスケット、パッキン、シール材、Oリング、ダイヤフラム、カールコード、アキュムレータ内装、搬送ローラ、圧縮スプリング、マンドレル、牽引ロープジャケット
【0101】
〔スポーツ用品〕
ゴルフボール表皮、スキー靴・登山靴カフ、スポーツシューズ本底
【0102】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を、常法に従って、適宜加熱成形することにより、成形体が得られる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物を加熱成形して得られる成形体の用途は、特に限定されるものではなく一般的なスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、アクリル系エラストマーやポリエステル系エラストマー等が用いられる分野に用いることができる。
【0103】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を成形して得られる成形体は、耐熱性が優れるため、例えば100℃以上(設計によっては120℃以上、150℃以上等)の耐熱性を必要とする用途にも好適に使用することができる。
【0104】
加熱成形時の温度は、組成物の流動性及びそれに起因する成形加工性の観点から、180℃以上が好ましく、組成物中の成分Aの(メタ)アクリル成分の熱分解を防止する観点から、350℃以下が好ましい。これらの観点から、加熱成形時の温度は、180〜350℃が好ましく、200〜320℃がより好ましい。
【0105】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いた成形体の製造に用いられる装置には、組成物を溶融成形することができる任意の成形機を用いることができる。例えば、ニーダー、押出成形機、射出成形機、プレス成形機、ブロー成形機、ミキシングロール等が挙げられる。
【0106】
本発明の成形体は、上記熱可塑性エラストマー組成物を加熱成形して得られるが、柔軟性の指標となる成形体のA硬さは20〜100が好ましく、30〜85がより好ましい。
【実施例】
【0107】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0108】
〔相溶化剤C3の製造〕
オイルジャケットを備えた容量1リットルの加圧式攪拌槽型反応器のオイルジャケット温度を200℃に保った。一方、スチレン74質量部、グリシジルメタクリレート20質量部、アクリル酸n−ブチル6質量部、キシレン15質量部及び重合開始剤としてジターシャリーブチルパーオキサイド(DTBP)0.5質量部からなる単量体混合液を原料タンクに仕込んだ。一定の供給速度(48g/分、滞留時間:12分)で原料タンクから反応器に連続供給し、反応器の内容液質量が約580gで一定になるように反応液を反応器の出口から連続的に抜き出した。その時の反応器内温は、約210℃に保たれた。
反応器内部の温度が安定してから36分経過した後から、抜き出した反応液を減圧度30kPa、温度250℃に保った薄膜蒸発機により連続的に揮発成分除去処理して、揮発成分をほとんど含まない共重合体C3を回収した。180分かけて約7kgの相溶化剤C3を回収した。
【0109】
〔相溶化剤C1、C2の製造〕
表3−1に示す組成の単量体、キシレン15質量部、及びDTBP0.3質量部からなる単量体混合液を用いた以外は、相溶化剤C3と同じ方法にて、相溶化剤C1、C2を製造した。
【0110】
実施例1〜19及び比較例1〜16
260℃(ただし、実施例19は230℃、比較例16は290℃)に加熱されたバッチ式ニーダー(ブラベンダー社製プラストグラフEC50型)に表6〜9に示す組成比(質量部)で原料成分を、100r/minの回転数で溶融混練した。混練時間15分で、溶融状態の混練物を全量取り出し、室温で冷却して、組成物を得た。
【0111】
使用した樹脂原料の詳細を表1〜5に示す。
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【0114】
【表3】
【0115】
【表4】
【0116】
【表5】
【0117】
なお、表1〜4に記載の各原料成分の物性は以下の方法により測定した。原料のシート作製は、後述の組成物のプレスシート作製と同様の方法で行った。ただしプレス温度は原料に応じて加減した(予め少量の原料を昇温して目視で流動を認めた温度を把握した)。
【0118】
〔A硬さ〕
JIS K 6253に準拠して測定する。
【0119】
〔重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)〕
ゲルパーミエーションクロマトグラフ(以下、GPCともいう)より、溶剤としてTHFを使用し、ポリスチレン換算から求める。
【0120】
〔ガラス転移温度(Tg)及び融点〕
動的粘弾性測定装置(ティーエーインスツルメント(株)製のRSAIII)を使用し、−100〜280℃の温度範囲、5℃/分の昇温速度、周波数10Hzの条件で試験片を加熱した際に測定される、損失正接(Tanδ)のピーク温度をガラス転移温度(Tg)とする。また、試験片の溶融のために弾性率測定が不能になった温度を融点(Tm)とする。試験片としては、厚さ2mm、幅12.5mm、長さ30mmのものを使用する。
複数のブロック(ソフトセグメントとハードセグメント)を有するエラストマーでは、普通、複数の損失正接のピークが観測されるが、この場合低温側のピークがソフトセグメントに由来するものであり、高温側のピークがハードセグメントに由来するものである。
【0121】
〔流動開始温度〕
プレスシートより幅12mm×長さ30mmの短冊状のテストピースを裁断し、動的粘弾性測定装置(TAインスツルメント社 RSA-II型)のトーションモード(10gf負荷)、周波数 10Hz、昇温速度 5℃/min、温度 0〜280℃の設定で各サンプルの粘弾性特性を測定する。
得られた貯蔵弾性率の変曲点、もしくは測定不能になる温度を流動開始温度とする。なお、ガラス転移温度付近においても貯蔵弾性率の変曲点は現れるが、流動はしないため、流動開始温度には相当しない。
【0122】
〔溶融粘度〕
JIS K 7210に準拠して、230℃及び2.16kg荷重の条件で、メルトフローレートの値を測定する。
【0123】
〔1分子当たりの平均エポキシ基数(Fn)〕
下記の式から算出する。
平均エポキシ基の個数(Fn)=a×b/100c
上記の式においてa、b及びcはそれぞれ以下のとおりである。
a:共重合体に含まれるエポキシ基を有するビニル単量体単位の割合(質量%)
b:共重合体の数平均分子量
c:エポキシ基を有するビニル単量体の分子量
【0124】
〔エポキシ価〕
試料1g中に含まれるエポキシ基のミリ当量数(試料1kg中に含まれるエポキシ基の当量数)であり、JISK7236のエポキシ指数に相当するものである。
【0125】
実施例及び比較例で得られた組成物を、230℃に加熱した熱プレス機(東邦(株)製50t熱プレス)にて2mm厚×20cm×20cmの型枠を用いて、5分間加熱プレス、次いで5分間冷却プレスを施し、プレスシートを作製した。実施例4で得られた成形体(プレスシート)の断面の拡大写真を図1に、比較例16で得られた成形体(プレスシート)の断面の拡大写真を図2に示す。
【0126】
プレスシートを用い、以下の特性を評価した。結果を表6〜9に示す。
【0127】
(1) 共連続相分離構造の確認
プレスシートをカッターナイフで切断し、その表面を25℃のアセトンに5分間浸漬した後、60℃のセーフティーオーブンで30分間乾燥する。乾燥後、切断面を、走査型電子顕微鏡(キーエンス社製電子顕微鏡VB−9800)を用いて1000倍の倍率で表面写真を撮影する。
【0128】
組成物中の(メタ)アクリルエラストマー(成分A)が相分離している場合は、アセトン処理によって(メタ)アクリルエラストマー成分だけが溶出し、熱可塑性樹脂(成分B)が残留する。そのため、成分Aの占めていた部分が空洞となり、残留した成分Bの形状と合せて観察することによって共連続のマクロ相分離構造を有していたと判断できる。成分Bが粒として残留する場合は、成分Bを島相とする海島構造であると判断できる。一方、相分離構造をしていない場合には上記のような分離構造が観察できない。共連続相分離構造が観察された場合は「○」、海島相分離構造が観察された場合は「△」、相分離構造が観察されなかった場合は「×」と評価とする。
【0129】
(2) 柔軟性
<曲げ弾性率>
JIS K 7171に準拠して測定する。1200MPa未満が好ましい。
<A硬さ>
以下の条件を変更した以外は、JIS K 6253Aに準拠して測定する。
測定時間:針が試料に接触してから1秒後
荷重:5kg
【0130】
(3) 成形性
<メルトマスフローレイト(MFR)>
ASTM D 1238に準拠して、260℃及び49N荷重の条件で、測定する。「>100」は100g/10minを超えることを意味する。0.1g/10min以上が好ましい。
【0131】
(4) 耐熱老化性
<引張強度保持率>
JIS K 6257に準拠して測定する。
即ち、23℃環境下で24時間静置した試料と、150℃環境下で1000時間静置した試料の引張強度をJIS K 6251に準拠して測定し、下記式より引張強度保持率を算出する。80%以上が好ましい。
【0132】
【数1】
【0133】
(5) 耐酸性
<引張強度保持率>
30質量%濃度の塩酸に試料を浸漬し、23℃環境下にて168時間静置した後、耐熱老化性の評価と同様にして、引張強度保持率を測定する。80%以上が好ましい。
【0134】
(6) 耐湿性
<引張強度保持率>
プレッシャークッカー試験機内に130℃、80%RH環境下にて168時間試験片を静置した後、耐熱老化性の評価と同様にして、引張強度保持率を測定する。80%以上が好ましい。
【0135】
【表6】
【0136】
【表7】
【0137】
【表8】
【0138】
【表9】
【0139】
以上の結果より、実施例1〜19では、いずれも、所望の柔軟性及び成形性を持ちつつ、耐熱老化性、耐酸性及び耐湿性に優れていることが分かる。これに対し、比較例2、3、5、6、9では耐熱老化性に劣っている。
【0140】
実施例1と比較例1では、同じ成分A、B、Cを用いているが、比較例1では成分Bが過剰に配合されており、相分離構造が異なるため、耐熱老化性に違いが生じている。
実施例5と比較例2も同様に、同じ成分A、B、Cを用いているが、比較例2では成分Aが過剰に配合されており、相分離構造が異なるため、耐熱老化性に違いが生じており、さらに柔軟性も損なわれている。
【0141】
実施例4、比較例3、比較例16の成形体について、以下の方法により測定した温度(T)と貯蔵弾性率(G’)の関係を図3のグラフに示す。
【0142】
<貯蔵弾性率の測定>
動的粘弾性測定装置(ティーエーインスツルメント(株)製のARES-RDS)を使用し、−100〜280℃の温度範囲、5℃/分の昇温速度、周波数10Hzの条件で試験片を加熱し、貯蔵弾性率(G‘)を測定する。
【0143】
温度を上げたときの貯蔵弾性率の測定結果は、成分Bを含まないので成分Aだけの場合に対応するc(比較例3)の曲線は、ソフトセグメントのTgとハードセグメントのTgに対応して2段階に貯蔵弾性率が急降下する、常識的な挙動を示したのに対して、成分Bを含み、海島構造を有する場合に対応するb(比較例16)の曲線は、島相である成分Bの影響により、曲線cよりも貯蔵弾性率が高い傾向を示すものの、成分Bの影響は限定的であり、海相の成分AのハードセグメントがTgを迎える150℃付近で測定サンプルが急激に伸びてしまい、測定ができなくなったことを示している。一方、成分Aと成分Bとが共連続構造を有する場合に対応する曲線a(実施例4)では、曲線bよりもさらに貯蔵弾性率が大きくなるとともに、成分Bのガラス転移温度である60℃付近で貯蔵弾性率の変化が変曲点を示している。このことは、成分Bが連続相として測定サンプル全体の機械特性に大きな影響を与えていることを示しており、曲線bやcが測定不能となった150℃付近を超えても、成分Bの融点である223℃付近まで高い弾性率を保持していることは著しい効果であると言える。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物から得られる成形体は、電気電子用部品、自動車用部品、シール材、パッキン、制振部材、チューブ等の各種分野に用いることができる。
図1
図2
図3